読んだ本のタイトル
獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論
著者:新谷学 氏
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あらすじ・内容
前週刊文春編集局長が、ビジネスモデル構築、ブランディング、差別化戦略、危機管理、働き方までを一挙公開!
獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論
本気のイノベーションへの覚悟は、熱弁をふるうだけでは伝わらない。
理想の未来を語ることは大切だが、それを実際に目に見える形で示してはじめて、真の説得力が生まれる。
小さいこと、すぐできることからでいい。それでこそリーダーの言葉は圧倒的な重みをもって伝わるのだ。
成功するかどうかはやってみなければわからない。私は失敗もたくさんしてきた。わからないからやらないのではなく、わからないからこそやってみる。そこに価値がある。
今こそそれを伝えられるリーダーが必要なのだ。 (本文より)
感想
水道橋博士が読めと記事に書いてたのて読んでみた。
紙媒体の本の売り上げが下がって行く昨今。
週刊文春が日本国内で読まれる週刊誌になるために、著者さんが考えて、観察して業態を変化させ。
長い時間をかけ、手間をかけて書いた記事をいかにして次なる取材の資金を捻出する財源にするのかと書いてあった。
そのキーワードが「スクープ」だった。
今も松本人志さんの件で注目を集めている週刊文春。
稼ぐために書いてるのは確かにそうだし、皆んなこの手の話が大好きなんだなと思ってしまう。
本の中ではベッキーとゲスの極み乙女のゲス不倫。
自民党幹事長だった甘利さんが大臣室で羊羹の入った袋で受け取ったURの収賄。
総理大臣だった菅さんの息子の接待事件。
広島の河合夫妻のウグイス嬢への高額報酬の世間の反応が書いてあり、そういうのが書いてある前半は面白かったが、後半は、、
ちょっと自身との環境が違っていて、著者さんが言いたい事は半分くらいしか拾えてない気がしている。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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備忘録
はじめに
危機の時代である。新型コロナウイルスの影響で、産業全体でデジタル・トランスフォーメーション(DX)が加速し、従来のビジネスモデルが立ち行かなくなっている。週刊文春も例外ではなく、紙の雑誌の売り上げが減少している中で、デジタル化の必要性とそれに伴うリスクが増大している。藤原ヒロシさんとの対談で、オンラインでの収益化に関する道徳的な問題が指摘された。デジタルで稼ぐことが可能であるが、間違えばブランドに大きな傷がつくリスクがある。週刊文春は、スクープに貴賤はないとして、政治や芸能の記事を扱いつつ、収益とブランドのバランスを取ることの重要性を強調している。本書では、未曽有の危機を突破するためのリーダー論を記しており、複雑な事態に直面し続ける経験を基にしている。
第 1章ビジネスモデル構築スクープ D X時代の「稼ぐ仕組み」を作る
稼がなくてはならない。だが、稼ぐことがすべてではない。
ビジネスの現場では、稼ぐ方法について真剣に議論する必要がある。出版業界も例外ではなく、デジタル化の波は止まらない。週刊文春もこの流れの中で、紙の雑誌の売り上げ減少に直面しているが、クオリティの低下ではなく、スクープを追求するスタッフの情熱に支えられている。河井克行・案里のウグイス嬢違法買収疑惑のスクープは、社会に大きな影響を与えたが、それに見合う収益は得られなかった。スクープを獲ることには多大な労力と費用がかかり、売上の減少を見ているだけでは現状を維持できない。しかし、週刊文春は読者からの信頼を得ることができ、それがデジタル化が進む時代における存続の基盤となる。2018年に編集局長に就任してからは、「スクープを獲る」ことから「スクープで稼ぐ」ことに焦点を移し、新しい稼ぎ方の仕組みを模索している。
ビジネスの枠を大きく広げる。
編集局長は、編集長と役員の間に位置するポジションであり、部長と役員の間にあるポジションに近い。この役職は、現場と経営の橋渡しをするが、大きなミスやトラブルがない限り、次の役職にステップアップできる「待機ポスト」と見なされがちである。週刊文春の裏表紙に記される発行人としての私の役割は、雑誌の最終責任者であり、トラブル時にはその責任を負う。しかし、文藝春秋では「雑誌は編集長のもの」という不文律があり、編集局長は雑誌作りにはほとんど関わらない。
現在は「編集局長の時代」と考えており、ビジネスモデルの変革が必要な時期である。編集長は雑誌作りに忙殺されているため、ビジネスモデルを変革する余力は限られているが、編集局長は経営と現場の両方に近い立場で、新たな稼ぎ方の仕組みを考えることができる。これまでの「販売収入」と「広告収入」のビジネスモデルでは持続が難しいため、編集局長としてビジネスの枠を広げ、新たな仕組みを作ることが求められている。
「筋のいいストーリー」が成長戦略につながる。
ビジネスモデルの変革時には、ビジネスの「幹」、すなわちコアコンピタンスを見極めることが重要である。JR東海の例では、新幹線ビジネスがその「幹」とされ、大規模な投資によって成長を遂げた。週刊文春においては、スクープが「幹」であり、スクープを通じて読者の信頼を獲得し、独自の地位を築いている。しかし、経費削減の圧力がある中で、スクープによる収益化の必要性が増している。週刊文春は、スクープ力を磨き、ビジネスに活かすことを戦略としている。デジタル上でのマネタイズはその主要な取り組みであり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)がそのための重要な手段である。戦略実行には、数字よりも筋の良いストーリーが求められ、週刊文春はこのアプローチを追求している。
プラットフォームから、主導権を取り戻せ。
インターネットの普及により、多くの企業がGoogleやAppleなどの巨大プラットフォームに主導権を握られ、高額の利用料や手数料を支払っている。これらのプラットフォームは、自分たちに有利なルールを設け、価格決定権を握っている。しかし、スクープによって、これらのプラットフォームと対等にビジネスを進めることが可能になり、配信料などをお互い納得の上で決めることができるようになっている。週刊文春は、スクープによって巨大プラットフォームだけでなく、他のメディアとも対等な関係を築き、情報をコントロールすることができるようになった。スクープによる「筋のいいストーリー」には圧倒的な価値があり、それによって主導権を握ることができる。
コンテンツを届ける「流通経路」を増やす。
編集長時代からデジタルシフトを進め、週刊文春はさまざまな方法でデジタル上での収益化を図ってきた。ヤフーニュースを通じて無料配信を始め、記事のバラ売りや有料メルマガの開始、ニュースサイト・文春オンラインでの記事配信などを通じて収入を得るようになった。特に、スクープ記事のダイジェスト版を文春オンラインで先出しすることで、ページビューが爆発的に伸び、スクープに対する読者の関心を喚起し、さらに詳細を知りたいという動機で課金して全文を読むようになった。テレビ番組で週刊文春の記事や動画を使用する場合には使用料を取るようになり、これも重要な収益源となっている。デジタルシフトによって、コンテンツを読者に届ける流通経路を増やし、読まれる工夫を重ねることで、「稼げるデジタルシフト」「稼げるDX」を目指している。また、「文春リークス」のような情報提供の仕組みやメールマガジン会員へのアンケートを通じて、読者との直接的な関係を深める取り組みも進めている。
収益構造を変えるには、組織を見直す。
2012年から2020年にかけて、週刊文春の収益構造は大きく変化した。2012年当時は、雑誌の販売収入と広告収入が主な収益源だったが、2020年にはデジタルでの収益化が進み、オンラインでの広告収入や記事のプラットフォームへの配信料、記事のバラ売り収入、有料会員収入、書籍売り上げなど多様な収益源が生まれた。この変化はデジタルシフトの結果であり、特に文春オンラインの広告収入は大きく伸びた。組織の再編もこの変革に貢献し、週刊文春デジタル編集部の独立や週刊文春出版部の創設などが行われた。これにより、週刊文春のコンテンツを多様な形で読者に届け、収益を伸ばすことができるようになった。この成功はワンソースマルチユースによるマネタイズ戦略の成果である。
組織は「横」に連携せよ。
週刊文春編集局では、編集長や部長など複数の役職者がおり、局長は全体の調整や連携を俯瞰している。2012年と2020年の収益を比較すると、デジタルシフトの成果が明らかになる。特に2020年は、オンライン広告収入やバラ売り収入などデジタルでの収益が大きく増加した。組織再編もこの変革に寄与し、週刊文春デジタル編集部や週刊文春出版部の設立などが行われた。森友自殺財務省職員遺書全文公開スクープは、このような組織的連携の成果であり、出版部からの緊急出版や文春オンラインでの先行公開を含む一連の流れで大きな反響を呼んだ。このように、週刊文春、出版部、文春オンラインの連携により、複数のプラットフォームを活用することで、スクープによる収益化を成功させている。
マネジメントは「命令しない」。
編集局長の仕事は戦略を立て、各編集長や部長とコンセンサスを得ることから始まる。2018年に編集局長に就任した際、成長戦略を策定し、その中には文春オンラインの統合や週刊文春出版部の創設などが含まれていた。この戦略実行にあたっては、命令するのではなく、提案し、任せるスタンスを取っている。編集局長は、編集長や部長が持つ高いモチベーションを生かし、編集長自身が考え実行することで良い成果を出せるようサポートする役割を担っている。院政のような上からの管理は避け、現場の自主性を尊重している。さらに、興味深いテーマや人物については提案を行うが、これらの提案に対して現場が異なる意見を持つ場合はスルーしても良いとしている。このように、編集局長は現場の力を信じ、自らの経験をもとに助言を行うことで、組織全体の成長と良質なコンテンツの生産を目指している。
監督ではなく、「 GM」思考で任せる。
編集局長の仕事は主に戦略を立て、チームを組み立てることであり、これはプロ野球のGMに似ている。人事が組織の命運を左右するため、編集局長は情報収集に努め、適材適所に人材を配置する。情報は上下双方から得る必要があり、評価が分かれる人材に対しても先入観を持たずに期待を伝える。実際に期待されていなかった人が大活躍するケースも多い。文春オンラインから「Number Web」への知見移転を例に、適切な人事配置が組織全体の利益につながることを示している。人事においては、広く集めた情報に基づいて慎重に調整し、必要に応じては自ら前に出て責任を取る姿勢が求められる。主役は現場のスタッフであり、編集局長はそれを支える役割を担う。
「数字」から逃げるな。
週刊文春編集局長が就任して始めた取り組みの一つは、決算報告会である。これにより、各部門の収益と課題が明確に共有され、組織全体の意識が変わった。特に大きな変化は、文春オンラインからコンテンツを提供した部門への広告収入の還元を実現したことで、これによって編集長たちは数字に対してより責任を持つようになった。新しいビジネスモデルの導入による社内の不満を解消するためにも、成果のフェアな還元が重要であるとし、これが他の部署にも適用されている。決算報告会では、編集局長が週刊文春編集局の収益目標を掲げ、各編集長と協力して目標達成に向けて取り組んでいる。
〝コンサル名人〟と〝コンプラ奉行〟に対抗する。
週刊文春編集局での成果向上のため、編集局長が時には組織内の「コンサル名人」と「コンプラ奉行」に対抗する壁となることが求められる。これらの人物はコスト削減やコンプライアンスを理由に、創造的な取り組みを阻害する傾向がある。週刊文春では、スクープの重要性やその収益貢献を数字で示すこと、法的な根拠を明確にしてリスク管理を行うことで、これらの障害を克服している。重要なのは、問題が発生した時にその正当性を読者に対して自信を持って説明できるかどうかであり、このような姿勢がコンプライアンスの壁を超える鍵となる。
リーダーの「顔」は、オープンソースである。
編集局長としての私の仕事は、多岐にわたる。政治家、官僚、財界人、メディアや芸能関係者など多様な人々との会合を通じて得た情報を局内にフィードバックし、時には編集長に直接ネタとして提供することもある。この外交活動は私の重要な役割の一つである。また、編集局長は読者に近い立場にいるべきで、読者のニーズと感覚に敏感でなければならないと考えている。外部との関係では、適切な場面で公式な立場として交渉や調整を行う。編集局長の主な仕事は、戦略の立案、編集長とのコンセンサス形成、最適なチームの構想、社内調整、そして編集長を信頼して任せることであり、トラブルが発生した場合には適切に対応し、必要に応じて責任を取ることである。
ど真ん中ブランディング。
編集者や記者は従来、表に出ることなく、記事の内容が全てであるとされてきた。しかし、デジタル化の進展と情報のフラット化により、編集者や記者が顔を出して発信することの重要性が高まっている。透明な存在であるべきという不文律を守りつつ、現代では「広告塔」として顔を出すことが求められている。これは情報の差別化と正確な伝達、週刊文春の理念や作り手を正しく伝えるためである。私は、さまざまなメディアや人々との平等な関係を通じて、週刊文春の「ど真ん中ブランディング」を目指しており、そのバランス感覚は非常に重要である。また、著名な編集長がブランディングに成功している例も多く、私も編集局長として進んで広告塔の役割を担っている。
変革期こそ、わかりやすくメッセージを伝える。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の影響は営業局やメディア事業局など、編集局内に留まらない。これまでの働き方を続けると、収益は半減し、人員削減が避けられない。新型コロナウイルスのワクチン接種が迅速に進んだイスラエルの例から、危機感を共有し、イノベーションによって「平時」から「有事」の意識への切り替えが求められる。P・F・ドラッカーは、イノベーションを成功させるために組織の変革、成果の測定、人事・報酬の特別措置、タブーの理解が必要と指摘している。三井住友フィナンシャルグループの太田純CEOは、経営の変革とイノベーションを進めるために、積極的なメッセージ発信と若手社員からのビジネスプラン募集などを実施している。変革への拒否反応を克服し、イノベーションによって危機を乗り越えるリーダーシップが問われている時代である。
第 2章ブランディングすべてのビジネスに「クレディビリティ」が必要だ
脳みそと心と性器をつかむ。
デジタルシフトを開始したことで、PVや有料会員数が即座に数値化され、収入が決まる過酷な現実に直面した。デジタルの世界では、社会的インパクトと実際の収益、読まれる数は相関しないことが明らかになった。紙の雑誌とデジタルの使い分け、アウトプット先の選択、記事選別の重要性を認識し、過去の記事の有効活用や、記事提供による収益化の重要性が増している。無料で読まれる記事は話題性があり、有料で読まれる記事は読者の強い関心を引く内容であることが分かった。文春オンラインは新書読者との共通点が多く、出版社との連携によるWin-Winの関係構築を目指している。
判断基準は、「正当性」「合理性」「リアリズム」。
週刊文春編集局のデジタルシフトで大きな変革として、文春オンライン編集部を週刊文春編集局内に統合したことが挙げられる。この統合は、文春オンラインのPVが頭打ちになっていた状況と、週刊文春デジタルが方向性に迷いを感じていた問題を解決するために行われた。統合により相乗効果が期待されたが、内部からは激しい抵抗もあった。しかし、「合理性」と「リアリズム」に基づき、最終的には社長の決断により統合が実現し、文春オンラインはPVを大幅に伸ばし、「自走するプラットフォーム」を目指している。
朝令暮改を恐れず、走りながら考える。
週刊文春編集局に統合された文春オンラインは、PV増加と課金モデル構築の二つの目標を掲げていたが、予想以上にPVが増加したため、課金アプリの開発計画を一時凍結し、PV拡大に全力を注ぐ戦略に転換した。この決断には社内からも批判があったが、リーダーは変化する戦況に適応し、時には撤退する勇気も必要と考え、課金アプリ計画に関する試行錯誤は週刊文春電子版開発に役立った。リーダー論の観点からも、固定した原理に縛られず、状況を的確に判断し、勝利することが重要であると述べている。
社内の軋轢は、数字が癒やしてくれる。
組織の変化に対する抵抗を乗り越えるためには、数字と実績の力で推し進めることが効果的である。週刊文春編集局に統合された文春オンラインは、PV数を大幅に増加させ、社内の抵抗や軋轢を乗り越えた。統合は、週刊文春のスクープ力を活用して短期間で数字を上げることを目的としていた。デジタルシフトの進行により、求められるコンテンツの形態も変化しており、柔軟な対応と進化が必要である。最終的な目的は、週刊文春編集局の拡大ではなく、どのような状況でも変化に対応し続けるための体制を確立することである。
PV中毒になるな。
デジタルメディアの特徴は、情報の受け手が主導権を持ち、自分の好きな時に好きなコンテンツを選べる点にある。これにより、情報提供者間の競争は激化し、PVを巡る争いが激しくなる。過去の写真週刊誌戦争のように、過激な内容で部数を争う状況は、デジタルメディアにおいてもPV増加の追求が同様の方向へ進む恐れがある。しかし、PVを追求する中で、報道倫理を忘れてはならず、適切なテーマ選びと報じ方が求められる。週刊文春や文藝春秋の品位を保ちつつ、収益と社会的責任のバランスを考える必要がある。
「論語と算盤」のバランスをとる。
出版社はかつて、優れた本を作れば売れると信じていたが、現代ではその情熱だけでは読者に本を届けることができない。渋沢栄一が提唱した士魂商才、すなわち武士の精神と商人の才覚を兼ね備えることの重要性が、今の出版業界にも当てはまる。デジタルメディアでは、記事単体で収益化が可能であり、PVを稼ぐためには市場のニーズに合わせたコンテンツが求められるが、過度なマーケティング志向はブランドの価値を損なう恐れがある。一方で、誰も見たことがないような新しいコンテンツの提供が必要であり、スクープ記事はその強力な武器となる。デジタル時代の「論語と算盤」とは、ブランディングとマーケティングのバランスを取ることである。
「クレディビリティ =信頼性」をビジネスに活かす。
デジタル時代における社会の変化の中で、文春リークスへの投稿数や情報の質が向上していることは、週刊文春がどんな権力にも忖度しない姿勢を通じて信頼性を築き上げてきた結果である。週刊文春のスクープが高い評価を受け、多くの人々からの支持が集まっている。デジタルシフトの初期段階では流通経路の多様化を図ったが、収益モデルとして課金モデルへの注目が高まっている。週刊文春も、ヤフーニュースやニコニコチャンネルに頼るだけでなく、独自の課金システムを持つことで、権力に忖度しない報道を支える信頼を基盤に、読者とのつながりを強化すべきである。アメリカの主要新聞が大統領選前に会員数を飛躍的に伸ばした例を参考に、社会的意義を考慮したサービス提供が現代に求められている。
覚悟は「人事」で示す。
週刊文春編集局は「週刊文春電子版」を立ち上げ、デジタル戦略に定額課金モデルを導入し、安定した収益を目指している。週刊文春電子版は2021年3月にスタートし、月額2200円の会員は発売前日の16時から全てのスクープ記事を読むことができる。電子版は広告なしで提供され、アプリ手数料もかからないため、収益効率が良い。立ち上げの急務は、コロナ禍のデジタルシフト加速、事態の急変、流通問題への対応であった。電子版の商品設計は週刊文春の加藤編集長が主導し、文春オンラインの竹田編集長と協力して進められた。この電子版は、読者との双方向のつながりを強化し、より良いものへと育てていくための様々な取り組みが計画されている。社内のデジタルシフトへの取り組みは、エースクラスの記者をデジタル部門へ異動させることで、社内外にその本気度を示している。
第 3章差別化戦略最大の武器は「スクープを獲る」
書くべきことはリスクを取ってでも書く。
編集長時代に「文春砲」と呼ばれるようになったが、この言葉をあまり好ましく思っていない。週刊文春は、加藤編集長の下で正統派のスクープを連発し、さらに週刊文春電子版のスタートなど、DXを推進し成長を続けている。スクープは本気で狙い、コストをかけ、リスクを取ることが条件である。週刊文春は、どんな強敵にも屈せず、リスクを恐れずにスクープを追求している。これにより、競争相手が参入しにくい「競争相手の参入への障壁」を構築している。ファクトの裏付けをしっかりと行い、訴訟リスクを回避することが重要である。社会には、真実を追求しリスクを恐れないメディアが必要であると強調している。
リーダーには、「言葉の重み」が必要である。
「親しき仲にもスキャンダル」という言葉は、週刊文春の姿勢を示す。これは、どんなに親しい関係でも、書くべきことがあれば遠慮なく書くという意味であり、これを貫くことが週刊文春のブランドを守ることにつながる。作詞家の秋元康は、週刊文春が芸能事務所の影響を受けずに独立した報道をする姿勢を「まるで話が通じない」と評したが、これは褒め言葉と受け止めている。物わかりの悪いメディアが社会に必要であるという視点を持ち、リーダーとしての言葉に重みを持つことの重要性を説いている。リーダーは口に出したことに責任を持ち、部下や社会との信頼関係を築くことが必要だと強調している。
報じるべき事実があれば報じる。
文春リークスは、平均して一日に100件以上の情報が寄せられ、多岐にわたる内容で数多くのスクープにつながっている。情報提供者は週刊文春への信頼を持ち、重要な情報を提供してくる。これにより、関連情報が集まり、記事の続報につながることが多い。例えば、舛添要一の都知事時代のスキャンダルも、週刊文春への情報提供がきっかけであり、一連の報道は第七弾まで続いた。情報提供者からは金銭を要求する者もいるが、週刊文春は原則として情報を買うことはなく、記事につながった場合は常識の範囲で謝礼を支払うにとどめている。文春リークスは、報じるべき事実があれば報じるという基準のもと、情報提供者と週刊文春との間でうまく機能している。
「正義感」ではなく「好奇心」。
週刊文春のスクープは政治家や官僚の辞職、タレントの活動自粛などを引き起こすが、その目的は単にファクトを示すことにあり、独善的な正義の実現を目指しているわけではない。スクープの原点は「人間は面白い」という好奇心であり、人間の立派な面だけでなく、愚かで情けない面も描くことにある。甘利大臣の現金受領や黒川元検事長の賭け麻雀など、予想外の事実を報じることによって、読者に新たな発見や興味を提供する。週刊文春、そして文藝春秋は、創業者である菊池寛のDNAを受け継ぎ、人間の多面性に焦点を当てた報道を行っている。スクープには社会正義を追求する情熱も必要だが、編集局長としてはより広い視野でメディアとしての役割を考え、「愛される雑誌」を目指している。週刊文春は政治や芸能のスクープだけでなく、実用記事や連載など多様なコンテンツを提供し、和田誠さんのイラストを表紙に使うことで幅広い読者に親しまれている。
価値ある情報はタダじゃない。
スクープには「意義がある/意義がない」「売れる/売れない」という二つの評価軸が存在する。理想は意義もあり売れるスクープだが、週刊文春ではスクープ一本ごとに採算を取るわけではなく、社会的インパクトの大きさと売上は必ずしも一致しない。例えば、河井克行・案里の違法買収疑惑や菅首相長男の官僚接待のスクープは、社会的意義は大きいが、売れ行きが伸び悩むこともある。スクープ取材には手間と暇、そして大きなコストがかかり、ファクトを徹底的に究明するためには、専門業者に依頼して音声データを復元するなどの努力が必要である。インターネットの普及により多くの人がニュースを無料で読むようになったが、価値のある情報にはコストがかかっており、権力に忖度しない調査報道を続けていくためには、資金が不可欠である。そのため、読者に対してスクープの背後にあるコストと努力を理解してもらい、支援を求めることも編集局長の重要な役割である。
リーダーは自虐的になるな。
スクープの力は週刊文春にとって大きな恩恵をもたらしており、その結果、スクープを狙いたいという人が増えていることがわかる。週刊文春編集部や文春オンライン編集部で働きたいと考える新卒や他の報道機関からの転職希望者がいる一方で、辞めたいと考える人は少ない。これは組織のビジョンが明確であり、スクープ取材に必要な役割分担と協力関係が整っているためだ。記者たちは高いモチベーションを持ち、リーダーの覚悟と戦う姿勢が組織の自信となっている。リーダーは自虐的な発言を避け、仕事に誇りを持つことで成果を上げ、困難に立ち向かうことが求められる。
「メディアの論理」は通用しない。
これまでのメディアは、取材プロセスを明らかにせず、問題が指摘されても決まり文句で対応してきたが、インターネットの時代にはそれでは不十分である。炎上を避け、信頼性を保つためには、記事の背景や取材の意図を丁寧に説明する必要がある。例えば、お笑いコンビEXITの兼近大樹さんの過去の逮捕を報じた際には、編集長自らが記事の意図を説明し、炎上後には兼近さんも理解を示したことで事態は収束した。また、女優の能年玲奈さん(現・のん)の記事では、裁判を経ても社会的な意義を持つスクープとして位置づけられ、公正取引委員会の指針示すきっかけにもなった。これらの例から、メディアは説明責任を果たし、読者や社会との信頼関係を築くことが重要であることがわかる。
第 4章危機管理週刊文春流 炎上から組織を守る五つの要諦
スクープによる炎上は、リーダーにとって大きな試練となる。編集長時代に最も炎上したのは、小室哲哉さんの不倫疑惑報道であった。この炎上を経験して、週刊文春の評判リスクが高まっていることを痛感した。しかし、炎上中も次のスクープを放つなど、逃げずに現場に対峙し続けた。また、スクープについての説明会を開催するなど、週刊文春の立場や考え方を積極的に説明した。炎上は一時的なもので、その中には愉快犯もいるが、最終的には冷静な視点を持つ大多数がいることを学んだ。さらに、炎上を恐れず、リスクを恐れずに記事を出し続けることの重要性を説いている。リーダーは危機に際しても堂々と前を向き、組織を鼓舞する姿勢が求められる。また、炎上した際には「逃げる」「隠す」「ウソをつく」ことなく、説明責任を果たすことが大切である。リーダーが最優先すべきは組織やプロジェクトの根幹にかかわる信頼や価値を守ることであり、最悪の事態を想定し、常に準備を怠らないことが重要である。
第 5章事業展開異業種間コラボ成功のための極意
新しい価値を創出するためには、賛成多数の意見からは生まれないという考えのもと、週刊文春は様々な分野でブランディングを強化してきた。BEAMSとのコラボレーションを始めとする様々なプロジェクトは、週刊文春の強力なブランド力を異業種にも活かし、新しい挑戦を可能にしている。また、スウェットシャツの販売や映画『ミッドナイトスワン』の限定版ボックスの製作など、週刊文春らしい面白がりの精神と本物を大事にする姿勢が、異なる業界やファン層にも新鮮な驚きを提供している。これらの活動は、週刊文春のブランドを一層豊かにし、新たなコラボレーションの可能性を拡げている。
また、週刊文春WOMANの創刊や特別なイベントから生まれた書籍など、週刊文春編集部は新たな読者層を開拓し、多様な形でのメディア展開を進めている。これらの取り組みは、週刊文春の新たなビジネスモデルとして成功を収め、ファンクラブビジネスやイベント、グッズ販売など、様々な形での収益化を実現している。
「Number」ブランドの更なる磨き上げとして、スポーツイベントやトークイベントの開催、スポーツウェアの販売など、スポーツ総合誌としてのブランド力を生かしたビジネス展開を模索している。これらは、デジタル時代においても「モノ」の価値を高め、持続可能なビジネスモデルの構築を目指している。
週刊文春や「Number」などのブランド力を活かしたこれらの活動は、新たな市場のニーズを捉え、読者やファンに新しい価値を提供することで、メディアの可能性を広げている。
第 6章組織と個人縦割りの垣根を越える編集力
週刊文春は連載や単行本の編集において、プロデューサーとして一気通貫で作業を行う新しい体制を取り入れた。これにより、池上彰の連載や落合博満、桑田佳祐に関する連載など、深い関係性を通じて質の高いコンテンツを生み出すことが可能になった。また、週刊文春編集局は、雑誌、書籍、オンライン、イベント、グッズ製作といった多岐にわたるアウトプットを自在に操り、読者ファースト、コンテンツファーストの姿勢で新たな価値を提供している。さらに、編集者としての「好き」を追求することの重要性が強調され、自由な発想と情熱に基づいたコンテンツ作りが奨励されている。
文春オンラインの「文春将棋」シリーズのように、「好き」から生まれたコンテンツが人気を集め、週刊文春のブランドとしての価値を高めている。このような環境は、才能を活かせる場を求める転職希望者にとっても魅力的である。編集者としての経験や「好き」を追求する姿勢は、あらゆる仕事での成功につながり、週刊文春編集局を「稼げる組織」として最適化している。
また、調査報道の現状として、アメリカではNPOが、イギリスやオランダではオシントや有料会員モデルが健闘していることが示され、読者との関係深化のための様々な試みが紹介された。週刊文春も、読者とのより深い関係を築き、「私たちのメディア」としての認識を持ってもらうために、電子版の育成などに取り組んでいる。
第 7章働き方ワーク・イズ・ライフ
文藝春秋に入社して以来、主に雑誌の編集に従事してきた著者は、40代で文春新書編集部へ異動した際、社内外から様々な反応を受けた。異動は必ずしもポジティブに受け止められなかったが、著者は仕事に対する誇りと愛、そして変化に適応する重要性を説く。JR東海の名誉会長葛西敬之の「ワーク・イズ・ライフ」の言葉を引用し、仕事を通じて人生が豊かになることを強調する。
著者は、仕事において重要なのは、自分の仕事に誇りと愛を持つこと、改善の見込みがあるか、そして同志がいるかの三つの点であると指摘する。また、メディア業界の変化に対応するためには、変化に適応できる者が生き残ると述べ、週刊文春編集局がそのような環境であることを誇りに思っている。
仕事の面白さは、予想もしていなかったところにあるとし、経験を通じて自分の適性や個性を理解し、試行錯誤の結果、自分の知らない自分に出会う楽しさがあると説く。また、仕事への情熱と共に、時代の変化を見逃さず、常に前向きに取り組む姿勢が重要であると強調する。
著者自身の経験を基に、仕事と人生に対する深い洞察を提供し、読者に対して、仕事を通じて自己実現を図り、変化を恐れずにチャレンジすることの大切さを伝える。文藝春秋という組織の懐の深さと、そこでの経験が著者にとっての誇りであり、その精神を後世に引き継ぐことが著者の願いである。
おわりに
本書の執筆終了間際、著者は中部嘉人社長から月刊文藝春秋の編集長職を依頼された。著者はこれまで週刊文春編集局長として、「スクープを獲る」ことから「スクープで稼ぐ」ことへの転換、および新しい収益モデルの構築を使命としてきた。著者はこの異動が自身の使命を放棄することにはならないと考えている。なぜなら、本書の内容は週刊文春編集局やナンバー編集局のメンバーと共有され、彼らの意見も反映されているため、一つの指針として残るからである。
週刊文春編集局長としての三年間は、トライアンドエラーを重ねながら、進むべき方向性を見出し、その結果を本書にまとめてきた。月刊文藝春秋は、2022年12月に創刊100周年を迎える。著者は、スクープだけではなく、「どうすれば良いか」を伝えるメディアの必要性を感じており、月刊文藝春秋の編集長として新たな使命に挑むことにやりがいを感じている。
著者は、スクープに注目されがちな週刊文春とは異なり、月刊文藝春秋で良識を重んじるバランスの取れたジャーナリズムを目指す。この新たな職務に対して、武者震いを感じていると述べている。また、文藝春秋をテーマにした本を作成してくれた光文社ノンフィクション編集長への感謝の意を表している。
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