簡単な感想
非行少年達には、認知能力の無さ、発達障害、知的障害がある子が居るらしい。
そんな子は、反省以前の問題がある場合が多い。
読んだ本のタイトル
ケーキの切れない非行少年たち
著者:宮口幸治 氏
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あらすじ・内容
児童精神科医である筆者は、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じなのだ。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドを公開する。
ケーキの切れない非行少年たち
感想
認知能力の無さ、発達障害、知的障害。
反省以前の問題がある場合が多いらしい。
認知出来ないから攻撃的になる。
だから頭が硬い、柔軟な考えが出来ない。
思い込みが激しくなる。
そうなると最初からそうだと決め付ける。
そして、変に自信を持つようになる。
相手のサインを正確に受け取れなくなる。
そして誤解から、暴力振るい行き過ぎれば犯罪になる。
そんな可能性のある特別な支援が必要とされる基準IQ85以下は全体の16%ほどもいるらしい。
学校教育や子育てはこのような子どもに対するより具体的な支援をする必要があると著者さんは言う。
それを此処まで解剖し支援して来た著者さん。
本当に凄い尊敬する。
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宮口幸治 氏の本
その他ノンフィクション
備忘録
はじめに
著者は現在、大学で臨床心理系の講義を担当しているが、もともとは精神科医であり、少年院で法務技官として、また大阪の公立精神科病院で児童精神科医として勤務していた。発達障害や思春期の問題を持つ子どもたちを多く診察し、重大犯罪者の精神鑑定も行ってきた。特に、性的問題行動を抱える少年との出会いが、彼の人生を大きく変えることになり、その少年の治療に認知行動療法を用いたが、知的障害のために効果は限定的だった。その経験から、発達障害を持つ非行少年の問題に深く取り組むようになり、医療少年院での勤務を経て、その問題に特化した支援方法を模索している。
第 1章 「反省以前」の子どもたち
ここに述べられた内容は、2009年から法務省矯正局の職員として勤務している筆者が、特に発達障害・知的障害を持つ非行少年たちが収容される医療少年院の実体験に基づいている。筆者は、非行少年たちの見える世界がどれほど異なるかを、具体的な例を通じて示している。たとえば、Rey複雑図形の模写テストで、一人の少年が歪んだ図を描いたことが、その少年がどれだけ「歪んで」世界を認識しているかを示すエピソードが紹介されている。
また、この文書は、少年院での指導や社会の支援システムが、これらの少年たちの必要とする特別な支援をどう理解し、提供しているかという課題に焦点を当てている。非行への道を進んだ少年たちが、学校や社会生活で直面する困難について、教育と医療の連携の不足が強調されている。筆者は、教育者としての役割を再考し、非行少年たちが再非行を犯す可能性を低減するために、教育者がどのようなアプローチをとるべきかを提案している。
第 2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
非行少年たちの多くは、日常生活での基本的なスキルが不足しており、この問題をケーキの切り分けという簡単なタスクができないことで示されている。彼らは、漢字の読み書きや基本的な数学の計算が困難で、これが彼らの日常生活や学業に大きな障壁となっている。さらに、計画を立てる能力や反省する能力が不足しており、これが非行に繋がる一因となっている。
これらの少年たちは、短期的な利益を追求する傾向があり、その結果、彼らの行動が社会的な問題を引き起こすこともある。彼らの感情表現が限定的であることや、自己認識が欠けていることも、非行へと導く要因の一つとされている。このような背景から、非行少年たちに対するより効果的な教育や支援のアプローチの見直しが求められている。彼らが社会に適応し、再非行を防ぐためには、適切な支援と理解が必要である。
第 3章 非行少年に共通する特徴
非行少年に共通する特徴は、認知機能の弱さ、感情統制の難しさ、柔軟性の欠如、不適切な自己評価、対人スキルの乏しさ、そして身体的不器用さに分類される。これらの特徴は、見たり聞いたりする力が弱いために誤解が生じやすく、感情のコントロールができずにすぐに感情的になる。また、思いつきで行動する傾向があり、自己評価が不適切で、人とのコミュニケーションが苦手である。加えて、力の加減ができないために身体的にも不器用だと言える。これらの特徴を理解し、対策を立てることが非行の予防に繋がる。
感情統制が弱い場合、感情が認知過程に影響を及ぼし、冷静な判断が難しくなる。特に子どもたちは、不快な体験により蓄積されたストレスが、感情を適切に表現できず、不適切な行動へと繋がることがある。ストレスが慢性化すると、さまざまな問題行動に発展する可能性が高まる。非行少年の多くは、感情の表出が苦手であり、小さな不快感が大きな怒りへと変わることも少なくない。これは、自信のなさや他人との対人関係の問題が背景にあることが一因である。
また、融通が利かないことも問題行動を引き起こす要因の一つである。固定観念が強く、柔軟な思考ができないため、問題の解決策として不適切な行動を選択することがある。これには、発達障害や知的障害など、個々の認知機能の問題が関与していることが考えられる。
非行少年には、これらの感情や認知の問題に対処し、適切な行動を選択できるよう支援を提供することが重要である。
非行少年たちの融通が利かないことに関する洞察は、日本版BADs(遂行機能障害症候群の行動評価)という神経心理学検査を通じて得られた。この検査は、計画を立て効果的に実行する能力、すなわち遂行機能を評価するものである。非行少年たちがBADs検査で示した行動は、融通が利かず頭が硬いことを明らかにした。特定の課題に対して柔軟な解決策を見出すことができず、直接的な方法のみを試み、最適な解決策には気づかないことが多い。
学校においても融通が利かない子どもたちは、解決案が限られており、同じ失敗を繰り返す傾向がある。このような子どもたちは、他者とのコミュニケーションにおいても困難を抱え、対人関係でトラブルを生じやすい。認知機能の弱さが、相手の表情や意図を正確に読み取ることができず、対人スキルが乏しいことに繋がる。
非行少年の自己評価が不適切である場合、自分の行動や性格を客観的に評価することが難しく、これが非行行動へと繋がる。正しい自己評価は、他者との適切な関係性の中でのみ育まれるため、非行少年はしばしば自分の行動や性格について誤った評価を持つことがある。これにより、対人関係における誤解やトラブルが生じやすくなる。
非行少年たちが非行に走る一因として、対人スキルの欠如が挙げられる。彼らは勉強や人との会話が苦手であり、友人とのコミュニケーションが取れないため、友人からの認知や受け入れを得るために、しばしば非行行動に出る。特に、悪友からの悪影響を断れずに非行を強化するケースが多い。また、第3次産業が主流となる現代社会では、対人スキルの重要性が増しており、そのスキルがないと就職活動においても不利になる。
一方で、SNSの普及により直接的なコミュニケーションの機会が減少しているため、対人スキルが低下する傾向にある。これは異性との関係で顕著に現れる場合があり、デートの誘いや関係の進展に必要な対人スキルが不足しているため、誤解を招く行動に出ることがある。これが性的な問題行動につながることもある。
このような背景のもと、非行少年は、イジメ被害などから逃れるために、さらなる問題行動を引き起こすことが多い。したがって、非行少年の行動は、彼らが抱える多くの社会的、心理的問題の表れであると考えられる。
第 4章 気づかれない子どもたち
教育現場ではさまざまな困難を抱える子どもたちがいる。これらの子どもたちは発達の遅れや行動の問題、親の育児問題など複合的な課題を持つことが多い。小学校時代から行動や学習の問題が見られるが、多くの場合、これらの問題は少年院に送られる少年たちの初期特徴と似ている。小学2年生頃からこれらの兆候が見え始め、適切な支援がないと問題行動は深刻化する。
多くの子どもたちが、学校や家庭で適切な理解や支援を受けず、社会から忘れられがちである。成人しても、これらの子どもたちは社会での適応が困難で、しばしば非行に走ることがある。学校や社会でこれらの子どもたちの問題に早期に気付き、適切な対応をすることが重要である。
第 5章 忘れられた人々
多くの人々は、軽度知的障害者や境界知能を持つ人たちが普段の生活で目立たず、大きな問題を抱えていることを理解できないことがある。これらの人々は日常生活で特に問題がなく、時には要求の高い仕事を任されるが、困難な状況に直面すると適切に対応できないため、社会的な課題を抱える。そのため、しばしば「理解できない人々」と見なされることがある。
知的障害の定義は時間と共に変化しており、過去にはIQ85未満が知的障害とされた時代もあった。現在ではIQ70未満と定義されており、これにより認識される知的障害者の割合は全体の約2%になる。しかし、軽度の知的障害や境界知能を持つ人々は、支援が必要な状況にも関わらず、支援を受けることが少ない。
これらの人々は、特に法的な状況や刑務所での扱いにおいても不利な立場に置かれがちである。知的障害が原因で非行に走ることもあり、適切な支援がなければ、社会的な問題行動を引き起こす可能性が高くなる。支援者や社会は、これらの人々が抱える困難に対して適切な理解と支援を提供することが重要である。
第 6章 褒める教育だけでは問題は解決しない
学校で行われる支援についての問題点が批判されている。具体的には、「褒める」ことを中心に置いた教育が常套手段とされているが、それが本当に子どもたちの根本的な問題を解決しているわけではないと指摘されている。褒める教育は一時的な改善をもたらすかもしれないが、問題の根本解決には至らないことが多い。
また、学校での支援が教科教育に重点を置きがちであり、社会的スキルや対人関係の教育が十分に行われていないとの問題が浮き彫りにされている。さらに、自尊感情が低いとされる子どもたちに対するアプローチも、その表現が陳腐化しており、現実的な支援へとつながっていない状況が指摘されている。
教育支援の現場で使われる「褒める」「話を聞いてあげる」などの方法が、その場の問題を和らげる一時的な解決策に過ぎず、子どもたちが抱える深い問題や自己肯定感を真に高める方法としては機能していないことが、教育コンサルタントの経験から語られている。
子どもの知能を測定するWISC検査についての問題点が指摘されている。この検査は、平均的なIQ値をもとに知能を評価するものであり、全体の数値が平均に近い場合、特に問題がないとみなされることが多い。しかし、実際には、検査結果の中で特定の能力のみが低いというケースがしばしばあり、言語理解や聞く力、ワーキングメモリなど、特定の弱点を持つ子どもたちが見逃されてしまう。
また、この検査は子どもの知能の全体像を把握するためのものではなく、限られた領域の能力のみを測定するため、「ザル検査」と呼ばれている。社会で必要とされる柔軟性や対人コミュニケーション能力など、WISC検査で測られない能力も多く存在する。このため、IQが90以上であっても実際には様々な課題を抱えている子どもたちが、「知的には問題ない」と判断され、必要な支援を受けられない状況が発生している。
「知的には問題ない」という評価は、実際には子どもが直面している多様な課題や支援の必要性を見落とす原因となっており、教育や医療現場での誤解や誤診を生じさせるリスクがある。このような状況は、子どもたちにとってさらなる困難を引き起こすことにもなりかねない。
第 7章 ではどうすれば? 1日 5分で日本を変える
非行少年が少年院に滞在している間に見せる変化とその要因が記述されている。入院当初、多くの少年は反抗的または被害者意識を持ち、問題行動を露呈しているが、約8ヶ月後には、自己の過ちを理解し、自らを改善しようとする姿勢が見られるようになる。これらの変化は、自己認識の向上や家族への感謝、将来の目標設定、信頼できる人々との出会いなどから触発される。
非行少年たちが示す変化の原因としては、家族や被害者の視点への共感、信頼関係の構築、社会的スキルの向上、学業の進歩、責任ある役割を担う機会、集中力の向上などが挙げられる。これらの体験は、彼らが自己への気づきを得て、自己評価を高める助けとなっている。さらに、集団生活の中での経験や教育が、自己規範に基づいた行動変容を促している。
教育者は、これらの体験を通じて少年たちが持つ可能性の場を最大化し、自ら気づく機会を提供することが重要である。このプロセスは、学校教育においても同様であり、教育的介入が子どもたちの内面からの変化を促すことにつながる。
認知機能の重要性に着目した新しい治療教育が提案されている。特に、学習の困難が認知機能の弱さに起因することがあるため、その強化を目的とする。例として、小学3年生の男児が計算や漢字の学習で困難を抱えているケースが挙げられている。この困難は、ワーキングメモリと呼ばれる一時的情報保持機能の低下に関連していると分析されている。
具体的な支援方法として、「コグトレ」という認知機能強化トレーニングが紹介されている。このトレーニングは、記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断といった認知機能を向上させるための様々な活動を含んでいる。学校の現場では、朝の会や帰りの会の短い時間を利用して、コグトレを実施することが推奨されている。これにより、教育カリキュラムの中で認知機能の支援を行うことが可能とされている。
また、教材としては、身近な物を利用した簡易的な方法が提案されている。これにより、低コストで認知機能のトレーニングを実施できるとされている。
脳機能の障害と犯罪行為との関連について研究されている。特に前頭葉の機能障害が反社会的行動に関連しているとされ、凶悪犯罪者の中には神経学的損傷が確認されている事例が多い。著名な例としては、フィニアス・ゲイジの事例やチャールズ・ホイットマンなどが挙げられ、これらの事例では脳の損傷が人格変化や暴力的衝動に直結している可能性が示唆されている。
研究によれば、前頭葉機能の障害は殺人や性犯罪などの犯罪行為にも影響を与えることがあり、これらの行為には複数の脳領域の機能低下が関与していることが報告されている。また、脳機能の障害が犯罪行為への誘因になることもあるため、認知機能トレーニングなどを通じて再犯率を下げることが可能であると考えられている。
さらに、児童虐待の被害者も反社会的行動をとるリスクが高まるため、これらの児童に対しても認知機能トレーニングが有効である可能性がある。性犯罪者に関しても、認知機能のトレーニングを併用することで、治療効果を高めることが期待されている。これらのトレーニングを通じて、犯罪者を健全な納税者に変えることが、経済的な意味でも大きな効果をもたらすとされている。
おわりに
本書を書くきっかけは、山本譲司の『獄窓記』を読んだことである。この中で描かれた受刑者たちの実態が、筆者が勤務していた医療少年院の非行少年たちと似ていたため、早期の支援の必要性を感じた。また、岡本茂樹の『反省させると犯罪者になります』という書籍も影響を与えており、さらに発達障害や知的障害を抱えた少年たちに焦点を当てた書籍が必要だと考えた。知的障害に関しては、教育現場での関心が低く、定義すら知らない教師も多い現状がある。このため、本書を通じて、知的なハンディを持つ人々への支援に繋がればと願っている。また、コグトレ研究会を立ち上げ、研修会を行っており、興味のある方は参加してほしい。最後に、出版に協力してくれた新潮社と編集者に感謝の意を表している。
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