どんな本?
ナオ・ブルースは孤児院で育ち、幼馴染との結婚を夢見ていた。しかし、大学受験に失敗し、幼馴染に裏切られたことで自暴自棄となり、軍へ志願する。戦場での死を望んでいたが、持ち前の知略と個性的な部下たちの活躍により、次々と功績を上げてしまう。彼の意図とは裏腹に、出世街道を突き進むこととなるスペースオペラ作品である。
主要キャラクター
ナオ・ブルース:主人公。孤児院育ちであり、幼馴染に裏切られた後、軍に志願した。死に場所を求めたものの、才能と部下たちの支えによって望まぬ出世を遂げることとなる。
物語の特徴
本作は、主人公が望まぬ形で出世していく逆説的な展開が魅力である。個性的なキャラクターたちとの掛け合いや、宇宙を舞台とした壮大なストーリーが読者を引き込む。また、主人公の内面の葛藤と成長が丁寧に描かれており、他のスペースオペラ作品とは一線を画している。
出版情報
• 出版社:TOブックス
• 発売日:2023年10月20日
• ISBN-10:4866999829
• ISBN-13:978-4866999821
読んだ本のタイトル
「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上
著者:のらしろ 氏
イラスト:ジョンディー 氏
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あらすじ・内容
「さすが隊長、名将ロード爆進だねっ!」
理想の最期!……のはずが、部下のお陰(?)で予想外の大出世!
死にたがりな異才士官が巻き起こす下剋上スペースオペラ、開幕!
書き下ろし番外編収録!
『仲間を守ってカッコよく死ぬ』
遅咲きの中二病と彼女を寝取られ自棄になった影響で、新人少尉・ナオはその状況シチュエーションに強烈に憧れていた。
だが、期待とは裏腹に、配属先の首都星域警備隊コーストガードでは切れる頭と部隊の問題児たちのお陰(?)で大活躍してしまう!
絶体絶命の白兵戦では殿しんがり役で殉職するはずが、部下たちが敵を瞬く間に殲滅! つづく宇宙海賊との遭遇戦では、船に一人残っての体当たりを思いつくが敵艦のエンジン故障で鹵獲に成功!
男勝りの鬼副官やメカ狂いと脳筋の女曹長コンビに悩まされつつも、着任一月で昇進&艦長代理就任と異例の出世を果たすことに。
更には、王女様おえらいさんにも気に入られたようで……?
死にたがりな異才士官が巻き起こす下剋上スペースオペラ、開幕!
感想
本作は、絶え間ない宇宙戦争の渦中で生きる青年ナオ・ブルースが、「ここは任せて先に行け!」と叫んで英雄的に死ぬことを夢見ながらも、皮肉な運命によって生き延び、想定外の下剋上を果たしていく物語である。
↑ほんそれな!
ナオは貧しい孤児として育ち、将来を共にすると信じていた恋人に裏切られたことを機に、戦場での死を求めて軍に志願する。しかし、皮肉にも士官養成校へと引き上げられ、意に反してエリート士官としての道を歩むこととなる。卒業後、彼は首都警備隊(コーストガード)に配属されるが、そこで彼の望まぬ活躍が始まる。
初陣では英雄的な最期を迎えるつもりが、部下たちに反抗され、気絶している間に敵が全滅。さらに鹵獲した敵艦を任されることになり、気がつけば艦長代理という立場に。組織の陰謀や王宮の思惑に巻き込まれつつ、彼の「望まぬ」下剋上は続いていく。
望まぬ英雄の皮肉
ナオは「戦場で死にたい」と願っていたにもかかわらず、その場その場で部下たちに阻止され、生き延びてしまう。さらに、彼の指揮下にある部隊は個々の能力が異常に高く、彼の戦闘力の低さを補って余りあるほどの活躍を見せる。この構図が繰り返されることで、彼がどれだけ英雄になりたくなくても、周囲の圧倒的な実力によって結果的に「英雄」にされてしまうという皮肉が生まれる。
また、組織の上層部は彼を使い捨ての駒として扱おうとするが、思惑とは異なり、ナオの地位は徐々に上昇していく。この「意図しない成功」が彼のキャラクター性を強調し、ユーモアと痛快さを生み出している。
組織の歪みと軍閥貴族の腐敗
物語では、軍のエリート制度や貴族社会の腐敗が顕著に描かれる。ナオが大学に落ちたのも、特権階級の子息たちが枠を独占した結果であった。また、軍内部では無能な上層部が生き延び、実力のある者が「都合の悪い存在」として排除される構図が見て取れる。
ナオの配属先であるコーストガードも、「不要な人材の掃き溜め」とされていたが、実際には優秀な兵士が集まり、上層部の思惑とは逆に強力な戦力へと変貌していく。彼らは軍の枠組みを超えて独自の組織として機能し始め、ナオの存在がその象徴となる。
船の改装と「新たな居場所」
鹵獲した航宙駆逐艦「シュンミン」の改装過程も本作の見どころの一つである。当初はボロボロの船だったが、ナオの部下たちの手により、元豪華客船の設備を流用した異様な艦へと生まれ変わる。これは、ナオがこれまで社会に居場所を持たなかったことと重なり、彼自身の「新たな居場所」を象徴する要素とも言える。
しかし、その船が外部からどう見られるかは考えられておらず、最終的には金色に輝く軍艦もどきになってしまう。このズレがナオの立場と重なり、彼の人生が望まぬ方向へと転がっていく様子が強調されている。
総括
本作の魅力は、何よりも「主人公の望みがことごとく打ち砕かれる」という皮肉な展開にある。ナオは英雄になりたくないのに、周囲の思惑や部下たちの圧倒的な実力によって、否応なく英雄へと祭り上げられていく。その様子がユーモラスかつ爽快に描かれており、読者は彼の苦悩を楽しみながらも、次第に応援したくなるような構成になっている。
また、軍隊内の権力闘争や貴族社会の腐敗がリアルに描かれ、単なるコメディではなく、シリアスな社会批判の要素も含まれている。特に、ナオを英雄に仕立て上げようとする組織の策略と、それに巻き込まれていく彼の姿は、単なる「強くてニューゲーム」的な展開とは一線を画している。
さらに、ナオの部隊員たちの個性が際立っており、戦闘能力の高さだけでなく、彼らの関係性や掛け合いも見どころの一つである。ナオを気絶させて戦場から退場させたり、彼の首を無意識に絞めてしまったりと、ギャグ要素とシリアス要素が絶妙に組み合わさっている。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
第一章 死んでやる
人類の終わらぬ戦争
戦場の拡大と宇宙戦乱の時代
人類は争いを止めることなく、陸・海・空、そして宇宙へと戦場を広げてきた。一時的な平和が訪れることはあったが、それは新たな争いの火種となり、二千年後の現在も戦乱は続いていた。「宇宙戦乱の時代」と呼ばれるこの時代、人々は絶え間ない戦いに明け暮れていた。
絶体絶命の状況
ナオ・ブルースは宇宙空間に浮かぶ航宙駆逐艦の倉庫で、敵の待ち伏せに遭遇した。彼は二週間前にエリート士官養成校を卒業し、コーストガードの小隊長として配属されたばかりであった。上官であるダスティー少佐は撤退する上層部に見捨てられ、無謀な作戦を命じられた。ナオは三十名の部下を率い、海賊の支配する航宙駆逐艦へ突入した。
戦闘の開始
ナオたちの相手は宇宙最大規模の海賊組織「菱山一家」の一派、カーポネ率いる海賊団であった。海賊たちはコーストガードの戦力を見極め、不要な艦を切り捨てて逃走を図ろうとしていた。ナオたちは老朽化した駆逐艦に乗り込んだが、そこでは海賊の待ち伏せが展開されていた。この宙域ではレーザー兵器が使用できず、戦闘は白兵戦へと移行した。パワースーツにバトルアックスを装備した百人以上の海賊が、ナオたち三十名の部隊を迎え撃とうとしていた。
命令無視と部下の反乱
ナオは「ここは任せて先に行け!」という英雄的な最期を遂げようと撤退を命じた。しかし、副官のメーリカ准尉はそれを否定し、さらにナオが抗議しようとした矢先、ケイト曹長に後頭部を殴られ、強引に後方へ引きずられた。メーリカの指示でマリア曹長率いる分隊が前線に立つと、海賊たちは優勢を確信して不敵な笑みを浮かべた。しかし、マリアたちの武器が一斉に火を吹き、瞬く間に海賊を撃破していった。
戦場の熱狂とナオの窮地
ケイト率いる分隊はマリアたちの圧倒的な戦闘力に興奮し、声援を送っていた。しかし、ナオはその流れに乗れず、ケイトに押さえつけられたまま動けなかった。興奮したケイトは無意識のうちにナオの首を絞めてしまい、ナオは抗おうとしたが意識を失い、地面へと崩れ落ちた。
過去の回想
意識を失う寸前、ナオは三年前の記憶を思い出した。彼は孤児院で育ち、テツリーヌ・ブルース、通称テッちゃんと共に過ごしていた。ナオは彼女と将来を共に歩むと信じていたが、大学入試に失敗すると、テッちゃんは態度を一変させ、「ナオ君とはここでお別れね」と言い放った。彼女は財閥の御曹司ジャイーン・アームの愛人になることを決めていた。
絶望と自殺未遂
ナオは失意のまま街を飛び出し、自殺の名所とされる海岸の断崖に立った。「こんな腐った世界なら滅んでしまえ!」と叫びながら飛び降りようとしたが、どうしても踏み出せなかった。彼は涙を流しながら自らの弱さを嘆いた。
軍への志願
ふと視線を移すと、軍の募集広告が目に入った。アイドルグループの女性たちが軍服姿で「私たちを守れるのはあなたの勇気だけ」と微笑んでいた。ナオは「自分で死ねないなら戦場で死ねばいい」と考え、軍への志願を決意した。
エリート士官養成校への入学
志願の手続きを終えると、ナオは首都星へ送られ、エリート士官養成校に入学することが決まった。彼は財閥関係者の影響で大学入試に落ちたことを知り、テッちゃんもそれを知っていた可能性が高いと悟った。上流階級と庶民の格差を痛感しながら、彼は士官養成校での新たな人生を受け入れた。
士官養成校での苦悩と決意
ナオは卒業後に最前線へ送られることを期待していたが、士官は部下を抱える立場になるため、彼の望む「英雄的な戦死」とは矛盾が生じた。この問題を三年間で解決することを決意した。学業では戦略や補給計画に秀でていたが、実技では低評価を受けた。しかし、仲間の協力によって卒業へと至った。
自己犠牲の答え
ある日、流行していたファンタジーオペラの「ここは任せて先に行け!」というセリフを聞いた瞬間、ナオは自らの答えを見出した。「部下を守る形で殉職する」、これこそが自分の道だと考えた。
卒業と配属
卒業後、ナオは参謀コースに進むはずだったが、貴族の特権によって道を閉ざされた。結果的に首都宙域警備隊、通称「コーストガード」に配属され、航宙フリゲート艦『アッケシ』の第二臨検小隊小隊長となった。この艦は軍の「お荷物」とされた者たちが集まる場所であり、ナオ自身も「持て余された人材」として送り込まれた。
士官としての初任務
『アッケシ』の艦長ダスティー少佐は、第三巡回戦隊の旗艦『マシュウ』からの命令を受け、ナオの部隊を囮にすることを決めた。彼らは海賊の老朽駆逐艦へ突入するよう命じられた。
突入戦闘とナオの無力感
ナオは戦闘で英雄的な最期を迎えるつもりでいたが、部下たちは冷静に敵を撃破し、ナオの思惑を完全に無視した。彼が「ここは任せて先に行け!」と叫んでも、メーリカ准尉に一蹴され、前線から退けられた。戦闘が終わると、部隊は勝利を喜んだが、ナオは何もできなかった。
無念の戦闘終了
興奮したケイトがナオの首を無意識に強く握りしめ、彼は意識を失った。こうしてナオの初陣は、何もできずに終わったのである。
第二章 船をもろうた。
見知らぬ部屋での目覚め
ナオは意識を取り戻し、見知らぬ天井を見上げた。彼はファンタジーノベルの決めゼリフをつぶやき、士官学校時代に熱中した作品を思い出した。幼少期に触れる機会がなかったため、後年になって強烈な中二病に罹患していた経緯があった。身体の異常がないことを確認し、起き上がると、自室とは異なる豪華な船室にいることに気付いた。
ケイトの暴走と部隊の介入
突然、白い物体が勢いよく飛び込んできた。それはパワースーツを着たケイトであり、勢い余ってナオの首を締めた。異常を察知したパワースーツ装備の兵士たちがすぐに駆けつけ、ケイトを引き剥がした。メーリカ准尉も現れ、ケイトを厳しく叱責した。ナオは自身が生きていることを訴えたが、叱責は止まらなかった。一方、ケイトは涙を流しながら彼の無事を喜んでいた。
制圧作業と新たな脅威
ナオはここが突入した航宙駆逐艦の艦長室であり、現在制圧作業中であることを知った。海賊の生存者は三十八名が拘束され、死亡者六十五名は冷凍保管庫に保管されていた。彼が意識を失ってからわずか四、五十分しか経過していなかったことに驚いた。そのとき、艦橋からマリアの叫び声が響き、メーリカとともに駆けつけた。外部監視モニターには、航宙フリゲート艦がゆっくりと接近してくる様子が映し出されていた。
衝突作戦の決断
ナオは敵の意図を推測し、駆逐艦を利用して敵艦に突撃させる作戦を立てた。マリアが操艦を担当し、メーリカとともに決行することになった。艦橋モニターには海賊船が合図を送る光信号が映し出されていたが、応答がなかった。ナオは、敵がすでに異変を察知していると判断し、次の一手を考えた。
海賊船の混乱と脱出
海賊船『ブッチャー』では、異常を察知した乗組員たちが混乱に陥っていた。駆逐艦が返答しないうえ、直線的に衝突コースを取っていたため、彼らは急いで回避を試みた。しかし、慌てた操艦によりエンジンに過負荷がかかり、船内の機能が停止。責任者は「総員退艦」を命じ、乗員たちは内火艇や艦載機で脱出を始めた。
ナオたちの決断と再突入
ナオたちは、敵が撤退したと判断し、衝突作戦を中止。慎重に状況を確認するため、駆逐艦を海賊船に並走させた。メーリカとケイトの班が海賊船への突入を担当し、マリアの班は駆逐艦に残ることとなった。海賊の残党が潜んでいる可能性もあったが、ナオは慎重に作戦を進めた。
航宙駆逐艦での待機とスーツの捜索
ナオは艦橋で海賊船の監視を続けていたが、退屈し始めた。そこで、壊れたパワースーツの代わりに生命維持装置付きのスーツを探すことにした。艦長席の下を探ると、封印が古い緊急スーツを発見。使用可能か確認しながら、マリアと雑談しつつ時間を過ごした。
メーリカたちの海賊船突入作戦
メーリカの隊は三手に分かれ、艦橋を目指した。ラーニの隊は後部格納庫から侵入し、ケイトの隊は直接艦橋へ向かった。メーリカ自身は外部ハッチを利用して進入した。艦橋内では警報が鳴り続け、機器の異常が表示されていた。
エンジンの異常と生命維持装置の危機
マリアがシステムを解析すると、エンジンが148%の過負荷状態であり、補助エンジンは燃料切れを起こしていた。ダメコンの発電機を利用し、補助エンジンの燃料を確保。航宙フリゲート艦は最低限の機能を回復した。
航宙駆逐艦の処遇と曳航計画
ナオは捕虜を移送する手段がないため、駆逐艦を曳航する方法を検討した。ワイヤーを六本渡し、二隻を連携。五時間をかけて曳航準備を整え、惑星ルチラリアの監視衛星へ向けて出発した。
監視衛星の発見と第一巡回戦隊の派遣
ルチラリア到達直前、監視衛星がナオたちを発見。正体不明の艦隊と認識され、第一巡回戦隊が急行した。『アカン』と『クッチャロ』が進路を封じ、ナオたちは停船を命じられた。
予想外の臨検を受けることに
第一巡回戦隊の臨検隊が到着。ナオは臨検を受け入れ、捕虜と遺体の処遇を説明。第一巡回戦隊が捕虜を引き取り、ナオたちは監視任務から解放された。
第一機動艦隊の接近
その後、第一機動艦隊が到着。ナオたちは旗艦『ドラゴン』へ移送され、総監へ事情を説明。彼らの活躍が評価され、首都宙域警備隊本部・総務部付きへの異動が決定された。
総務部の新設と英雄の創出
軍上層部は、世論を操作するためナオたちを「英雄」として扱うことを決定。ただし、ダスティー艦長との関連を断つため、ナオたちを独立部隊として扱う処置が取られた。
鹵獲艦の譲渡と新たな任務
王宮からの通達で、鹵獲した航宙フリゲート艦がコーストガードに下賜されることが決定。ナオたちは修理ドックへ回航する任務を受け、正式に航宙駆逐艦の艦長代理に任命された。
勲章の授与と昇進
王女マリー・ゴールドによる勲章授与式が開催され、ナオたちは「英雄に贈るダイヤモンド賞」を受章。ナオ自身は特別な「ダイヤモンド十字賞」を授与され、王女へ忠誠を誓った。
昇進と新たな試練
ナオは中尉に昇進し、鹵獲した駆逐艦「シュンミン」の艦長代理に任命された。しかし、与えられた条件は厳しく、三か月以内に実戦投入可能な状態にするという試練が課せられた。新たな使命を背負いながら、ナオは新たな戦いへと向かっていった。
第三章 俺の船が天婦羅に、天婦羅船になった
王女の言葉と艦名の疑問
ナオは王女の発言の意図を考えたが、明確な答えは出なかった。そのとき、マリアが艦長代理という肩書きに違和感を示し、ナオ自身も艦名「シュンミン」に悪意を感じていた。カスミによれば、かつて航宙駆逐艦には季節に関連する名称がつけられていたが、「春雷」や「旋風」とは異なり、「春眠」は戦闘艦の名としては不適切に思えた。
さらに、カスミは船体ナンバー「九九九九」が仮番号のように見えると指摘し、正式なものではない可能性を示唆した。ナオは艦名やナンバーの不吉さを気にしていなかったが、彼女の説明を聞き、軍上層部の悪意を改めて実感した。
本部での辞令と小隊の解散
ナオたちは本部で辞令を受けることになったが、受付でナオのみ別の場所へ案内されることが判明した。メーリカは小隊の解散を示唆し、昇進するメンバーも多く、編成を維持するのが難しくなったことを告げた。
ケイトとマリアは士官への昇進に戸惑い、特にケイトは士官研修が必要と聞いて不満を漏らした。メーリカは、それが形式的なものであり、深刻に考える必要はないと説明した。ナオは彼女たちと別れ、総務部へ向かった。
総務部での再会
ナオが案内された総務部で待っていると、かつて同じ孤児院で育った「マキ姉ちゃん」ことマキ・ブルースと再会した。彼女は総務部の主任に昇進しており、ナオの艦の事務手続きを担当することになっていた。
マキは部下たちを紹介し、「シュンミン」の整備と運航管理に関わることを説明した。同時期にドック入りしたフリゲート艦「ブッチャー」には新たに課が設けられたが、ナオの艦にはそのような措置がなく、待遇の差が明らかだった。ナオは、これが単なる「面倒ごとを押し付けるための配置」であると直感した。
新たな部下と整備計画
ナオは艦の配属メンバーを確認するため会議室に向かった。そこには元の部下たちが待っており、彼ら全員が「シュンミン」に配属されることが決まっていた。マリアは「一緒になれて嬉しい」と無邪気に喜んだが、ナオは「上層部が何を考えているのか」と疑問を抱いた。
メーリカは正式な辞令を読み上げ、ナオに指揮を仰いだ。彼は「まずは艦に戻り、現状を把握すること」が先決と判断し、移動の手配をマキに頼んだ。マキも「事務職員としてしばらく艦に同行する」と決め、ナオたちは再び「シュンミン」へ向かうこととなった。
「シュンミン」の現状とビスマスへの移動
ナオたちが艦に戻ると、船は封印された状態で、内部も冷え切っていた。エンジンが止まっているため、そのままでは動かすこともままならない。カスミは「最低限の整備を施し、首都宙域内を移動できる程度にはするべき」と提案した。
ナオは艦の状態を考慮し、スペースコロニー「ビスマス」へ向かうことを決定した。そこなら設備を借りて応急的な整備ができると判断したためである。全員が同意し、「シュンミン」はビスマスへ向けて航行を開始した。
整備のためのドック探し
ビスマスに到着後、カスミたちは資材や工具を手配し、整備を始めた。一方でナオは本部にいるマキと連絡を取り、「シュンミン」を収容できるドックの手配を進めた。しかし、軍の整備部門は既に一杯で、追加の整備依頼を受け付ける余裕はなかった。
マキは「総務部の伝手を使っても、どの整備施設も空きがない」と嘆き、軍の非協力的な態度に苛立ちを見せた。ナオは「伝手があればいいのか」と尋ね、士官学校時代の友人であるマーク・キャスベルに連絡を取ることを決意した。
マークとの再会と整備の打診
ナオは軍広報部を通じてマークに連絡を取り、事情を説明した。マークは「軍のドックは空いていないが、解体業者の施設なら利用できるかもしれない」と提案した。その施設は、キャスベル工廠の創設者とも関係があり、「千年のハヤブサ」のような特殊な艦を手掛けた実績もあるとのことだった。
ナオは「一級整備の証明書が発行できるか」が問題であると指摘し、マキと相談した。マキは「証明書が出せるなら問題ない」と即答し、ナオはマークに正式に依頼をすることにした。
驚きの事実と「シュンミン」艦長代理の役割
マークはナオが「シュンミン」の艦長代理であると聞き、驚愕した。彼は「少尉が艦長代理を務めるのは異例中の異例」と指摘し、ナオもその状況に納得がいっていなかった。さらに、ナオが「一か月で昇進し、叙勲も受けた」と話すと、マークはさらに驚きを隠せなかった。
ナオは「詳細は船で話そう」と提案し、マークを「シュンミン」へ案内することを決めた。正式な許可を取る必要もなく、艦長代理の権限で彼を招くことが可能だった。
こうして、ナオは整備の問題を解決しつつ、自身の立場を改めて認識することとなった。
すったもんだの配属
ダイヤモンド王国の期末の慌ただしさ
ダイヤモンド王国では、会計年度の締めくくりが近づくと、企業や役所は期末処理で忙しくなる。この慌ただしさは、卒業を迎える学生たちにも影響を及ぼし、各学校では卒業式の準備に追われていた。しかし、その中で進路が決まらないまま卒業を迎えようとしている者はごく少数だった。
その一人が ナオ・ブルース である。彼が卒業するのは軍のエリート士官を養成する特別な学校であり、通常ならば卒業生は自動的に宇宙軍に配属される。しかし、彼の配属先は未だに決まらず、彼自身ではなく、彼を取り巻く大人たちが対応に追われていた。宇宙軍の人事局では、第一・第二両艦隊の人事参謀と連携しながら彼の配属先を探していたが、どの部隊からも受け入れを拒否される事態となっていた。
軍の派閥とブルース候補生の受け入れ問題
この国の軍では、士官養成校を卒業した者は、成績や性格に基づいて二つの主要派閥のどちらかに配属されるのが通例だった。一つは 知将派閥 で、参謀や軍政などの内勤を務める者たちが属する。もう一つは 闘将派閥 で、前線部隊のエリート士官を輩出する集団である。通常、卒業生はこの二派閥のいずれかに振り分けられ、それぞれのキャリアに沿ってローテーションを組まれる。
しかし、ブルース候補生の特異な資質が問題を生んだ。彼は知将向きの能力を持ちながらも、その派閥に属する資格を持たなかった。知将派閥は貴族や軍高官の子弟が独占しており、ブルース候補生のような平民出身者は受け入れられない。かといって、闘将派閥に回されるには、彼はあまりに実戦向きでなかった。こうして、彼は どの派閥にも受け入れられない という異例の事態に陥った。
軍の各部門では、すでに派閥同士の攻撃材料とされることを恐れ、候補生の受け入れに慎重になっていた。知将派閥はブルース候補生の出自を理由に拒み、闘将派閥は彼の戦闘適性のなさを理由に拒んだ。その結果、軍全体で彼の扱いに困ることになった。
人事局長ドードンの介入
この問題が解決しないまま時間が過ぎる中、 宇宙軍人事局長ドードン少将 が事態を把握した。彼は国王派の人間であり、軍内の貴族の影響力を排除しようとしている改革派の一員だった。軍の既存の慣習が人材育成を妨げていることを問題視しており、今回の件もその象徴と捉えていた。
ブルース候補生の成績を確認したドードンは、「補給部門に回せばすぐにでも成果を出せる」と考えた。しかし、補給部門は貴族たちの利権が絡む重要な部署であり、彼の配属は多くの者にとって脅威となった。ブルース候補生は、学内の机上演習において 独自の補給フォーマットを作成し、軍の中抜き行為を露呈させる結果を出していた。そのため、彼を補給部門に配属させると軍内部の不正が暴かれる可能性があった。貴族たちはこれを恐れ、強硬に反対した。
一方で、闘将派閥も彼を受け入れたくなかった。彼は実戦向きではなく、数値分析に優れた人材だったため、 現場に配属すれば部隊の足手まといになる ことが明白だった。こうして、両派閥とも彼を押し付け合う形となり、どの部隊も受け入れを拒否する異常事態が続いていた。
ブルース候補生の行き先と国王の介入
宇宙軍本部で行われた会議では、第一・第二両艦隊の人事参謀と総務部長が集まり、ブルース候補生の処遇について協議された。しかし、いずれの派閥も態度を変えず、会議は膠着状態に陥った。
ドードン少将はこれを打破するため、「軍本部の資材統括部門に回す」と提案した。これにより貴族たちは危機感を抱き、慌てて異論を唱えた。補給に近い部署へ彼を配属すれば、軍の不正が明らかになる恐れがあるからである。ドードンはこの反応を見て、軍ではなく 首都宙域警備隊(コーストガード)へ出向させる 案を出した。これは、宇宙軍の利権とは直接関係しないが、軍人としてのキャリアを積む道が開かれる選択肢だった。
貴族たちは仕方なくこの案を受け入れ、ブルース候補生の配属は エリート養成校出身者として初めてのコーストガードへの出向 という前例のない形で決定された。彼の存在を自らの派閥に入れたくないが、どこにも行かせないこともできないという 貴族たちの思惑が交錯した結果 である。
異例の決定と未来への影響
こうして、長らく決まらなかったブルース候補生の配属先が コーストガード出向 という形で決着した。この決定により、軍のエリート養成校出身者が宇宙軍以外の組織に送られる前例が生まれ、今後の人事制度にも影響を及ぼす可能性があった。
貴族たちは これで問題が片付いた と思っていたが、後にブルース候補生がコーストガードで数々の事件を引き起こし、彼らの腐敗を暴く存在になることは、この時点では誰も予想していなかった。
メーリカ姉さんの昔話
海賊船への突入作戦
メーリカ曹長は部下たちに指示を出し、海賊船への突入を開始した。今回は第一機動艦隊が直々に関与する作戦であり、隊員たちは士気が高かった。首都宙域の外縁で大物海賊の取引があるとの情報を得たコーストガードは、首都警察と連携し、作戦を決行することとなった。現場に到着すると、海賊船が複数存在しており、第一機動艦隊は即座に制圧行動に移った。
メーリカの分隊は内火艇で指定された海賊船に乗り込み、侵入口の確保を担当した。激しい戦闘の末、船内への侵入経路を確保すると、次々と味方の兵士を送り込み、海賊船は徐々に制圧されていった。戦闘が収束し、船内の静けさが戻ると、部下たちは緊張を解いたが、メーリカは気を緩めることなく警戒を続けた。
海賊船内の隠し部屋と突発的な襲撃
戦闘が終わり、メーリカは部下たちと談笑していたが、その時、ケイトの叫び声が響いた。突如、隠し扉が開き、中から一人の男が飛び出してメーリカに襲いかかった。彼女は間一髪で身をかわし、持っていたバトルアックスで反撃し、一撃で相手を倒した。
部下たちはその鮮やかな動きに感嘆の声を上げた。メーリカの戦闘技術は、洗練された武術とは異なり、喧嘩慣れした独特のものであった。彼女は敵の隠し部屋を確認するため、その中へと足を踏み入れた。
そこには、乱暴を受けた女性たちと数体の死体が転がっていた。明らかに貴族の接待の場であり、何者かがこの情報をリークしたことで海賊たちは窮地に陥ったのだと推察された。ケイトが外からメーリカを呼び、倒した男の身元を調べると、彼は貴族であることが判明した。ケイトはメーリカの立場を心配したが、彼女は「自分の仕事をしただけだ」と言い放ち、それ以上気にする様子はなかった。
メーリカの過去とスラムでの生存
メーリカは、目の前の光景に幼少期の記憶を重ねた。彼女は ダイン星系の資源惑星 で育ったが、そこは過酷な環境だった。労働者とその家族が多く住むこの星では、ギャンブルや酒、暴力が蔓延し、アウトローによる支配が続いていた。スラムの治安は悪化し、暴力と殺人が日常茶飯事となっていた。
幼い頃のメーリカは、ある日、男たちに襲われ、倉庫へ連れ込まれた。そこには同じように捕らえられた少女たちがいた。貴族が「人狩り」と称して乱暴を繰り返し、殺害するという狂気の遊びが行われていた。メーリカは絶望的な状況の中、隠し持っていたナイフを貴族に投げつけた。貴族は避けたものの、偶然にも頸動脈をかすめ、大量の出血を引き起こした。
混乱の隙にメーリカは他の少女と共に逃亡し、宇宙港へ向かった。密航を試みたところ、コーストガードの ブルース調査官 に発見された。彼は自身も孤児院出身であったため、メーリカの境遇に同情し、コーストガードの保護下に置いた。こうして、彼女は就学隊員として働き始め、優れた適性を発揮して第一機動艦隊の下士官にまで上り詰めた。
貴族殺害の余波と異動
貴族を殺したことで、メーリカは面倒ごとに巻き込まれる覚悟をしていた。彼女は現場責任者としてすべてを報告書にまとめたが、数日後、彼女を含めた作戦参加者全員に 昇進と異動の辞令 が下された。事件は 「海賊に捕らえられた貴族が殺害された」 という形で処理され、メーリカたちには口止めとしての昇進が与えられた。
新たな配属先は 王都から最も遠い第三巡回戦隊 であった。この決定により、上層部の意図は明白となり、メーリカたちは事件について 以後一切口にしない ことを誓った。これは、ナオ・ブルースが彼女の上司として着任する 数年前の出来事 であった。
王室(一部)の長い一日
王宮の朝と陛下への報告
ダイヤモンド王国の王宮では、陛下の寝室に侍従が朝の挨拶に向かうのが日課であった。この日は陛下が第三王妃のもとに御渡りする予定であったが、前夜遅くまで執務をしていたため、急遽予定を変更して一人で朝を迎えていた。侍従が陛下の身支度を手伝っていると、侍従長が寝室を訪れた。
「第三王女殿下よりご連絡が入りました」
その報告は、王女殿下率いる広域刑事警察機構設立準備室が、大海賊の拠点を制圧したというものであった。しかも王女殿下自ら軍とともに出陣しており、制圧の指揮を執っていたという。陛下は「あの跳ねっ返りめ」と呟きつつも、内心では娘を案じ、遅くまで執務に取り組んでいた。その王女殿下から無事の連絡があったことで安堵したものの、監査室から急ぎの応援要請が入っていることを知ると、陛下は事態の深刻さを察し、慎重に対応するよう侍従長に指示を出した。
監査室長の訪問と緊急報告
朝食後、陛下は通常より早く執務室に入り、決裁業務を進めていた。午前九時、監査室長が面会を求め、侍従長以外の者を退出させたうえで、昨夜の報告について詳しく伝えた。報告を聞くにつれ、陛下の表情は険しくなった。
「これでいいか、室長」
「ありがとうございます」
「で、ここまでして、何があった」
監査室長は、海賊拠点に関与していた人物のリストとともに、海賊が人身売買ではなく、生きた人間からの臓器摘出を行っていたという衝撃的な事実を報告した。陛下は沈痛な面持ちでこれを聞き、事態の深刻さを認識した。
軍上層部の招集と会議の開始
午前九時四十五分、陛下は宇宙軍長官、宇宙軍人事局長、宇宙軍警察長を執務室に招集し、監査室長を交えた会議を開始した。
「海賊どもは人身売買ではなく、生きた人間の臓器を売買していたというのか」
人事局長のドードン少将が声を上げた。監査室長はこれを肯定し、「心臓を摘出された少年が確認され、その直後に息を引き取った」と報告した。執務室内は沈黙に包まれた。
「軍が関与しているというのは本当か」
「はい、王女殿下が証拠を確認しております」
そこから長時間の会議が始まり、軍の関与の深さと、それが貴族層にまで及んでいることが判明した。汚職の規模が想像以上であったため、全員が一時的に言葉を失った。
新たな証拠と軍の腐敗の露見
午後二時、監査官から監査室長に追加の報告が届き、そこには軍の大物の名前が並ぶリストが含まれていた。これを受け、午後二時三十分に改めて会議が開かれた。
「ちょっと待て、これほどまでとは……」
宇宙軍長官はあまりの事態に衝撃を受けていた。軍の上層部にまで汚職が蔓延し、海賊と通じていた事実が明るみに出たことで、軍の信頼は大きく揺らいだ。
「ここまで汚染されていれば、軍による海賊討伐は不可能だな」
宇宙軍傘下のコーストガードすら信用できない状況に、参加者全員が頭を抱えた。午後三時には対策を議論し始めたものの、貴族層との軋轢を避けつつ軍の汚染を一掃する手段を見つけるのは容易ではなかった。
貴族の反発を避ける策の模索
午後九時、最初の決定として、リストに名前がある者の職権停止と身柄確保を貴族層を刺激しないように行うことが決まった。しかし、この措置に対し貴族が騒ぎ立てることは避けられなかった。
「どうやっても貴族連中は騒ぎますね」
ここでドードン少将が一案を出した。
「陛下、貴族の目を逸らせば、身柄の確保までは可能かもしれません」
「どういうことだ」
「殿下の準備室を正式な国の官庁とし、殿下を大臣格として就任させるのです。殿下の行動はすでに貴族層にも注目されており、彼らの関心をそちらに向ければ、逮捕劇を進めやすくなります」
「しかし、官庁の発足には時間がかかるぞ」
「ですから、期限を設けた発足計画を広く周知するのです」
しかし、この案はすでに公表済みであり、新たな目くらましにはならなかった。結局、対策は翌朝まで持ち越され、会議が終了したのは午前二時を過ぎていた。
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