小説「役目を果たした日陰の勇者は、辺境で自由に生きていきます 2」感想・ネタバレ

小説「役目を果たした日陰の勇者は、辺境で自由に生きていきます 2」感想・ネタバレ

どんな本?

魔王討伐後、勇者パーティーの荷物持ちであったクレイは、辺獄と呼ばれる辺境に移住し、【鑑定】と【模倣】のスキルを駆使して領地開拓の日々を送っていた。一方、王都では王子の実力を証明するための模擬戦が開催され、ひょんなことからクレイは前座の闘技大会に参加することとなる。正体を隠すため仮面をつけて臨むも、次々と勝利を重ね、あっさりと優勝してしまう。さらに、正体を知るはずの王子から試合を挑まれ、表向きの勇者と真の勇者が対決することに。王都での出来事を経て辺獄に戻ったクレイだったが、森に住む獣人族が新たな動きを見せ始める。引退した真の勇者の自由気ままなセカンドライフが続いていく。

主要キャラクター
• クレイ:元勇者パーティーの荷物持ち。魔王討伐後、辺獄に移住し、【鑑定】と【模倣】のスキルを活用して領地開拓を行う。

物語の特徴

本作は、魔王討伐後の元勇者パーティーのメンバーであるクレイが、辺境で自由な生活を送りながらも、王都での闘技大会や獣人族との関わりを通じて新たな冒険や人間関係を築いていく姿を描いている。主人公が表舞台から退いた後のセカンドライフに焦点を当て、スキルを活用した領地開拓や、正体を隠しての闘技大会参加など、独自のストーリー展開が魅力である。

出版情報
• 著者:丘野優
• 出版社:スターツ出版
• レーベル:グラストNOVELS
• 発売日:2024年4月25日
• ISBN:978-4-8137-9326-7

読んだ本のタイトル

役目を果たした日陰の勇者は、辺境で自由に生きていきます 2
著者:丘野優 氏
イラスト: 布施龍太 氏

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あらすじ・内容

王子が率いる勇者パーティーに荷物持ちとして参加していたクレイ。魔王討伐後は辺獄と呼ばれる辺境に移住し、【鑑定】と【模倣】スキルを掛け合わせた規格外の力で思うままに領地開拓する日々を送っていた。
一方、王都では王子の実力を証明するため、模擬戦が開催されることに。ひょんなことから前座の闘技大会に参加することになったクレイは、魔王を倒した張本人だとバレないよう仮面をつけて臨んだものの次々と勝利を重ね、あっさりと優勝してしまう。
「あんまり目立ちたくなかったのに…」
さらに、正体を知っているはずの王子から試合を吹っ掛けられ、表向きの勇者と真の勇者が対決することに!?
久しぶりの王都を満喫して辺獄に戻ったクレイだったが、森に住む獣人族が新たな動きを見せていて…!?
引退した真の勇者の自由気ままなセカンドライフ、継続中!

役目を果たした日陰の勇者は、辺境で自由に生きていきます 2

かつて勇者として戦った主人公クレイは、辺獄の地で静かに暮らしていた。しかし、元仲間である聖女フローラの提案により、王都へ向かうことになる。その目的は、王族の一員である勇者ユークの武闘大会を見届けるためであった。しかし、旅の途中で様々な人物と出会い、思わぬ出来事に巻き込まれていく。

王都に到着すると、勇者ユークが権力闘争の渦中にいることが明らかになった。彼の実力を証明するため、王国主催の模擬戦が企画され、さらにその前座として一般の戦士が戦う闘技大会も開かれることとなった。クレイは賢者テリタスの策略により、この大会に参加させられることになる。

闘技大会の予選は、百人規模のバトルロワイヤル方式で行われた。クレイは戦闘の経験と冷静な判断力を活かし、最小限の動きで勝ち残った。その後の本選では、エルフや騎士、魔術師など多種多様な戦士たちと戦いながら、順調に勝ち進んでいく。中でも旧知の魔術師ヘルガとの再会は、彼の成長を強く実感させるものとなった。彼女はかつて敗北した相手であるクレイと再び剣を交え、その力を試そうとした。

トーナメントは順調に進み、決勝戦の相手は辺獄のエルフ・シャーロットとなった。彼女は精霊術を駆使し、炎と水、そして大地の力を自在に操った。一方のクレイは、巧みな剣技と冷静な判断力で対抗した。戦いは激しさを増し、観客も熱狂したが、最終的にはクレイが勝利を収めた。

本来のメインイベントである勇者ユークとS級冒険者たちの戦いは、あっけなく終わった。ユークは圧倒的な実力を見せつけ、敵を一蹴する。しかし、その戦いの短さにより観客の期待は消化不良となる。そこで、彼は突如として「一般部門の優勝者」との模擬戦を提案する。こうして、クレイとユークの一騎打ちが始まる。

試合は互角に見えたが、ユークの剣技と魔力は圧倒的であった。クレイは防戦を強いられながらも、機を見て反撃し、互いの剣を砕き合う形で試合が終わる。結果は引き分けとされたが、観客の間では「名もなき戦士が勇者に並んだ」として語られ、クレイの存在は静かに広がっていった。

大会が終わり、クレイは王都を去る決意を固める。しかし、その直前にエルフの使者が訪れ、新たな問題を持ち込んできた。それは、エルフの聖樹を救うための旅への同行依頼であった。辺獄を拠点とするクレイは、その提案を受け入れる。そして、彼の静かな生活は、再び冒険へと導かれていくのだった。

感想

クレイが旧知の人物と再会し、成長を感じる場面が多く、物語に奥行きがあった。
特に、彼の実力を知る者たちが驚く様子や、彼自身が自己評価を低くしている点が面白い要素であった。

闘技大会の流れは予想通りではあったが、エルフ関連の話が盛り上がり、物語の広がりを感じさせた。
ただ、試合の決着がややスムーズすぎたため、もっと激しい戦いを見たかったという気持ちも残る。
しかし、全体としては楽しめる内容であり、次巻への期待が高まる一冊であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

第一章  王都への誘い

エルフの変化と勇者の親友

エルフとの交流の深化

エメル村の酒場では、村人がエルフとの遭遇談を語っていた。辺獄のエルフたちは以前と異なり、人間との接触に積極的になっていた。これは、クレイとフローラが黒竜を討伐し、辺獄開拓を申し出たことが影響していた。エルフたちは感謝の念を抱き、村人を魔物から助けることも増えていた。

辺獄開拓の計画
フローラは辺獄開拓の具体的な計画についてクレイに尋ねた。クレイは急ぐつもりはなく、自然と共存しながら開拓を進める方針だった。フローラはその意図を理解しつつも、王都へ向かう予定を優先するよう勧めた。

王都での模擬戦
フローラは王都で開催される勇者ユークの模擬戦についてクレイに伝えた。ユークは王族の一員として政治的な争いに巻き込まれ、敵対派閥から実力を疑われていた。コンラッド公爵はユークの力を試すため、三人のS級冒険者との対決を企画していた。フローラはクレイに「友人として見届けるべき」と助言し、クレイも最終的に王都行きを決めた。

王都行きの準備と同行者
翌日、クレイとフローラは行商人グランツの家を訪れ、その娘リタに王都行きを伝えた。リタは王都への興味を示し、父の許可も得て同行が決定した。その後、村の少年キエザにも声をかけると、彼も強く同行を希望し、旅の一行に加わった。

エルフたちの参加
クレイは辺獄のエルフの集落を訪れ、シャーロットにも王都行きを提案した。彼女は意外にも即座に同意し、世界樹の世話があるものの短期間の不在には問題がないと述べた。その場にいた長老メルヴィルもまた、エルフィラ聖樹国のエルフと話をするため、王都へ同行することを申し出た。クレイはこれを快諾し、一行は一週間後に王都へ向かうこととなった。

第二章  王都

王都フラッタへの到着

王都の活気とエルフの不在

一行は二週間の旅を経て、ついにアルトニア王国の首都・王都フラッタへ到着した。リタは馬車から身を乗り出し、王都の広大な通りや高層の建物、活気ある人々の姿に目を輝かせた。キエザもまた、王都に初めて足を踏み入れたことに興奮し、多種多様な種族の姿を目にしたが、エルフだけは見当たらなかった。

メルヴィルは、エルフの大半がエルフィラ聖樹国に住んでおり、閉鎖的なその国から外に出るのは外交官や商人、あるいは稀な冒険者くらいだと説明した。シャーロットは、辺獄のエルフの長である祖父が外の世界に詳しいことを不思議に思い尋ねたが、メルヴィルは「若い頃に外を経験した」と語った。

宿の確保の難航
王都は第二王子ユークの模擬戦の話題で持ちきりであり、観光客や商人が押し寄せ、宿の空きがなかった。クレイは何軒もの宿を巡ったが、どこも満室だった。フローラは教会の宿舎を借りる案を出したが、それは聖女としての立場を利用することになり、できれば避けたかった。

代案を模索していたクレイは、ある心当たりを思い出し、宿の確保に向かうことを決意した。

最高級宿への訪問
クレイは《ホテル・オクタヴィア》を訪れた。この宿はかつてユークが彼のために用意した王都屈指の高級宿であり、支配人とも顔見知りだった。支配人はクレイを温かく迎え、宿が混雑しているにもかかわらず、部屋を確保すると即答した。

ホテルでは常に何部屋かを予備として空けており、貴族や要人が急に宿泊を希望する事態に備えていた。クレイは、三部屋を確保できるか尋ねたが、支配人は問題なく用意できると請け負い、馬車の預かりも申し出た。

クレイはその厚意に感謝し、フローラたちを迎えに行くことにした。こうして、一行は無事に王都での宿泊先を確保することができた。

豪華すぎる宿泊施設

一行が案内された宿泊施設は、一般的な宿の部屋とは異なり、寝室だけでなく書斎、リビング、会議室まで備わっていた。さらに高級な調度品や絵画が飾られ、保存庫には高級酒まで揃っているという贅沢な空間であった。

フローラやリタ、キエザはその豪華さに圧倒され、特にキエザは柔らかすぎるベッドに戸惑いを見せた。シャーロットはあまりに現実離れした環境にどう反応すればよいのか困惑しており、メルヴィルだけが冷静に「さすがクレイ殿」と感心していた。

クレイは、これが自分の力ではなく、かつての勇者パーティーのリーダー――ユークのおかげであることを説明した。さらに、宿の支配人に過去に感謝される出来事があり、その縁で今回も快く部屋を提供してもらえたのだという。しかし、こうした待遇は例外であり、いつも同じような宿に泊まれるわけではないと念を押した。

その夜、一行は宿で休み、翌日に王都の散策をすることに決めた。

秘密の店《欠けた月》への訪問

夜になり、クレイはフローラからの指示で、とある店へと向かった。王都の外れ、路地裏の奥にひっそりと構える《欠けた月》という店だった。

入口の扉は魔道具であり、選ばれた者のみが入れる仕組みになっていた。クレイが扉をノックすると自動的に開き、彼は店内へと足を踏み入れた。

店内はこぢんまりとしており、カウンター席と数卓のテーブル席があるだけの小さな酒場であった。店主は筋骨隆々の体格を持ち、顔には大きな傷が刻まれた隻眼の男だった。その風貌はまるで戦士のようであり、酒場の主人とは思えぬ雰囲気を放っていた。

クレイは、知人に呼ばれて来たことを伝えると、店主は「今日は貸し切りだが、おそらく招待客なのだろう」と言い、彼を受け入れた。さらに、店主はクレイのことを知らなかったが、彼が勇者パーティーの一員であり、魔王を討伐したことは知っていた。

クレイがウイスキーを注文し、グラスを傾けていると、店の扉が開いた。そこに現れたのは、白髪と紫瞳を持つ少年――勇者パーティーの賢者、テリタスであった。

テリタスとの再会

クレイとテリタスは久々の再会を喜び合い、互いの近況を語り合った。クレイは辺境での自由な生活を満喫しており、テリタスは王立魔術学院での教職に苦労しているという。

話が進むうちに、テリタスがクレイを呼び出した理由が明らかになった。彼は、ユークの模擬戦後の影響を懸念していた。模擬戦でユークが圧倒的な力を見せつけた場合、国民や貴族たちが彼を恐れるようになる可能性があると指摘した。

その不安を和らげるために、クレイに王家主催の闘技大会へ参加し、前座として大暴れしてほしいというのがテリタスの提案であった。クレイが目立てば、ユークの強さが際立ちすぎることを防げるという理屈だった。

クレイは初めは難色を示したが、フローラとテリタスの説得を受け、結局出場することになった。

偽名と仮面での参加

問題は、クレイの素性が知られることであった。彼の名が広まっているわけではないが、ある程度の人間には認識されているため、正体を隠す必要があった。

テリタスは、偽名を使い、仮面をつけて戦うことを提案した。仮面が外されない限り正体はバレず、クレイなら容易にそれを防げるという計算だった。こうして、彼は「グレイ」という偽名で大会に参加することとなった。

武具の問題と買い物計画

翌日は王都を観光しながら、闘技大会用の武具を購入することになった。クレイは自身の《収納》にある装備を使おうと考えたが、フローラに「目立ちすぎる」と却下された。

彼が見た目の普通な鎧として取り出した革鎧は、実際には魔術を完全に無効化するほどの強力な魔道具になっていた。フローラが魔術を試した際、その効果があまりにも強力であることが明らかとなり、こんな装備を身につければ誘拐や追跡者が現れる危険があると警告された。

そのため、クレイは新しい装備を購入することにし、フローラが王都の鍛冶屋を案内することになった。

王都での準備と闘技大会への登録

テリタスは、クレイの闘技大会への登録を裏で手配することを約束した。王立魔術学院の関係者として運営に関与しているため、細かい手続きを省き、スムーズに参加できるようにすると言った。

こうして、クレイは「グレイ」という偽名で仮面をつけ、王都の闘技大会に挑むこととなった。闘技大会の優勝を目指し、ユークの影響を和らげるための戦いが始まるのだった。

王都の賑わい

クレイ、リタ、キエザ、フローラの四人は王都の大通りを歩きながら、その賑わいを楽しんでいた。リタは王都の規模に驚き、フローラが普段の三倍ほどの人手だと説明した。多くの人々が、勇者ユークの模擬戦を一目見ようと訪れていたのである。

キエザは、クレイとフローラが手配した模擬戦の観覧木札を喜びながら、闘技大会の規模にも興味を示した。彼らは大会の予選に数百人が参加することを知り、その規模に圧倒された。クレイはユークの模擬戦について詳しく説明しなかったが、キエザとリタは彼が闘技大会に出場する名もなき戦士だと思い込んでいた。

王都に集まる戦士と魔術師たち

王都には各国から戦士や魔術師が集まっており、通りには特徴的な装いの者たちが多く見受けられた。クレイは西の離島出身の戦士の一族や、キュリオ公国の独立魔術師団を指摘し、彼らが遠方から集まっていることを説明した。

リタは商人として、こうした異国の人々について学ぶ必要性を感じ、真剣な表情になった。クレイは、リタには魔道具作りという強みがあることを伝え、彼女の成長を促した。そして、彼らが向かったのは王都の市場であった。

魔道具店への訪問

彼らはフローラの知人であるクスノの魔道具店を訪れた。店内は埃っぽく、営業しているようには見えなかったが、リタが声を上げると奥から老女が現れた。

クスノはフローラの顔を見て驚き、久しぶりの再会を喜んだ。そして、フローラがリタの作った魔道具を見てもらいたいと頼むと、クスノは興味を示した。

《収納袋》の秘密

リタが魔道具を取り出そうとすると、クスノは彼女が使っている《収納袋》に驚き、フローラを睨んだ。クスノは、リタにその価値を伝えなかったことを問題視し、危険な目に遭う可能性を指摘した。

《収納袋》は非常に貴重な魔道具であり、最低でも金貨百枚、最高級のものなら白金貨が必要な代物であった。しかも、リタの持つものは気配を完全に隠す加工が施されており、軍事物資レベルの価値を持っていた。

驚くリタをよそに、クスノはその出所を尋ねた。フローラが「そこにいるわよ」とクレイを指すと、クスノは疑わしげに彼を見つめた。クレイは、自身が製作したことを認め、魔力を隠蔽していたことを説明すると、クスノは納得したように頷いた。

魔道具の評価

クスノはリタの魔道具を慎重に鑑定した。結果、どの品も一般的な魔道具よりも質が高く、実用性を考えた工夫が施されていた。特に灯火の魔道具には反射材を使用することで光量を増やす設計がされており、単なる魔術の発動道具ではなく、使用者の利便性を考えた作りになっていた。

クスノは、この品質なら市場価格の倍で売れると評価し、リタの魔道具を全て買い取ることを決めた。提示された金額を見て、リタは驚愕した。

クスノは、今後の安全のために護衛を雇うことを勧め、リタはそれについて考えることにした。

魔道具店の登録

取引が終わった後、クスノはリタに店の入口にある魔道具に触れるよう指示した。これは、登録者のみが出入りできる魔道具であり、今後も取引を続けるための措置だった。

さらに、クスノはクレイにも登録を勧め、彼も了承した。キエザも登録され、これで一行全員が店の出入りを許可された。

こうして、彼らは王都の魔道具市場への第一歩を踏み出したのだった。

エルフたちの王都訪問

王都の往来で、ローブのフードを深く被った二人のエルフが歩いていた。高貴な雰囲気を持つ青年ファルージャと、やや粗野な言葉遣いのイラである。イラは人族の街に足を踏み入れることを不満げに呟いていたが、ファルージャはそれをたしなめた。しかし、彼が水イモリの串焼きの香りに惹かれ、一口食べた途端に人族への否定的な態度を撤回するなど、単純な性格であった。

ファルージャは今回の訪問が、エルフィラのエルフすべての未来を左右する重要なものであると語った。彼はエルフィラを治める五公家の筆頭・ノクト家の当主であり、イラはその守護戦士であったが、主従というよりも友人のような関係であった。

謎の招待

イラは今回の訪問の目的を尋ねたが、ファルージャは「実際に目にするまでは秘密にしておいた方が面白い」と答えた。そして、二人が到着したのは格式高いレストランであった。ファルージャはイラに、この店には自分が招かれたのではなく、招待した側であることを告げる。

店員は魔道具を用いて身元を確認しており、セキュリティが厳重であることがうかがえた。案内された部屋に入ると、そこにいたのは一見普通のエルフに見える老人と少女だった。

ハイエルフとの対面

ファルージャはその場で膝をつき、老人を「メルヴィル様」と呼び、少女を「シャーロット様」と敬った。イラは驚いた。エルフィラの最高位にあるファルージャが膝をつく相手などいないはずだった。しかし、メルヴィルはただの森暮らしに過ぎないと謙遜した。

ファルージャは、五公家の血が濃いために彼らの精霊の気配を理解できると述べ、二人がハイエルフであると断言した。イラは信じられず、ハイエルフは千年前に失われたはずだと反論したが、ファルージャは「秘中の秘」として現存することを説明した。

イラが近づくと、二人の放つ清浄な気配を感じ、納得せざるを得なかった。しかし、メルヴィルは目立ちすぎることを避けるために、その気配を抑えていることを明かした。

エルフの未来を左右する議題

席についた後、ファルージャはメルヴィルに手紙の内容について尋ねた。メルヴィルは、ハイエルフが生まれるには強い魔力が必要であり、それはエルフィラの辺獄のような場所であると語った。

彼の集落ではハイエルフの血統が途切れたことがなく、それは強い魔力の影響によるものではないかという仮説を立てていた。そして、エルフィラのエルフが魔力の濃い土地に住めば、ハイエルフが再び誕生する可能性があるのではないかという提案をした。

ファルージャは土地探しの必要性を述べたが、メルヴィルはすでに彼らの集落が辺獄に存在するため、移住希望者を募ればよいと指摘した。ただし、人族との交流が盛んなため、エルフ至上主義者のような者が入ると問題になるため、適切な人選が必要であるとも述べた。

聖樹の危機と世界樹

さらに、ファルージャはエルフィラの聖樹が枯死の危機にあることを告げた。しかし、メルヴィルは動じず、「延命する手段はある」と述べた。彼の集落には《世界樹》の成木があり、その葉や枝、雫を使えば延命が可能であるという。

しかし、根本的な解決にはならず、聖樹を救うためには伝承にある「ハイエルフの涙」「獣王の息」「魔人の角」が必要であった。これらは極めて希少なものであり、特に魔人の角はもはや入手不可能と思われた。

そこでシャーロットが、辺獄でなら手に入る可能性があると指摘した。メルヴィルは、魔人を探すのは困難だが、取引を持ちかける相手がいると述べた。

人族の協力

メルヴィルは、最近知り合った人族にこの件を相談するつもりであると語った。ファルージャはエルフの秘事を人族に話すことを躊躇ったが、メルヴィルは「他に手段がない」と一蹴した。彼はその人族を信頼しており、秘密を守る者であると断言した。

しかし、その人物は現在王都観光を楽しんでおり、用事が終わるまで待つ必要があるという。そのあまりにも気楽な事情に、ファルージャは複雑な表情を浮かべるしかなかった。

鍛冶屋の訪問

フローラの案内で、クレイたちは王都郊外の鍛冶屋へと向かった。そこは一般の店とは異なり、一見の客を求めていない店であった。フローラが馴染みの鍛冶師ゲルトを呼ぶと、作業場から返事が返ってきた。

店内には生活感のない部屋が広がっていたが、作業場には多くの武具が並んでおり、鍛冶場特有の熱気に包まれていた。ゲルトはフローラの訪問を意外がったが、彼女が用事があるのはクレイとキエザだと伝えると興味を示した。

闘技大会の準備

ゲルトはクレイを観察し、彼が相当な実力者であることを見抜いた。そして、彼が闘技大会に出場することを知ると、目立つ仮面を着けた方がよいと提案した。

フローラもそれに賛同し、仮面を選び始めた。最終的に、クレイは鷹をかたどった仮面を選ぶことになった。ゲルトはその仮面に《一体化》の付与を施し、闘技中に外れないように加工することを約束した。

次に、武具の選定が行われた。クレイは目立たない武具を希望し、安価な魔鉄製の鎧と片手剣を選んだ。ゲルトはそれを調整し、当日までに届けることを約束した。

キエザの武具の新調

キエザも武具を新調することになり、クレイが費用を負担することになった。ゲルトは彼の体格に合った武具を新たに打つことを決め、採寸を行った。

すべての手配が終わり、ゲルトは闘技大会でのクレイの活躍を楽しみにしていると告げた。クレイは「期待に応えられるかはわからないが、最低限の努力はする」と答え、鍛冶屋を後にした。

闘技大会の開会式へ

キエザ、リタ、フローラ、メルヴィルの四人は、人混みの中を進みながら闘技場を目指していた。クレイとシャーロットの姿はなかったが、フローラは開会式と予選だけであることから、観戦できなくても問題ないと考えていた。しかし、リタはクレイの出場を知り、応援することを強く望んでいた。

フローラにとってクレイの優勝は確実なものだったが、リタとキエザは彼の実力を完全には理解しておらず、王都には同等かそれ以上の戦士がいると考えていた。クレイが過去の旅で積んできた経験や、彼の真の実力は二人には知らされていなかった。

クレイの戦いを観戦する新鮮さ

フローラは、クレイを応援する機会がほとんどなかったことに気付いた。過去の旅では、戦いにおいて応援する立場ではなく、共に戦うことが常であった。闘技大会には参加しなかったのかとリタに尋ねられたが、当時は余裕がなく、必要な時のみ参加し、クレイは観戦に回っていた。

勇者パーティーの中で最も適任だったのはユークであり、彼が単騎での戦闘能力に秀でていたため、大会に出場する機会は彼に譲られていた。テリタスも強かったが、魔術師であるため闘技大会向きではなく、そうした場面では自ら辞退していた。フローラにとって、クレイの戦いを観戦するのは新鮮な経験であり、彼が勝ち進むことを願っていた。

特等席の観客席

闘技場に到着した四人は、指定された席に向かった。キエザは、ほとんど最前列に位置する座席の良さに驚き、リタもその価値の高さを認識した。フローラは、伝手で手に入れた木札であることを説明し、細かいことを気にしないよう促した。

メルヴィルは、この席が高額であることを見抜き、フローラに指摘した。彼は辺獄に長く住んでいたが、世の中の価値をよく理解しており、観戦席の重要性を認識していた。リタとキエザにはそのことを知らせる必要がないと考え、二人には余計な負担をかけないよう配慮した。

シャーロットの不在とその理由

フローラは、シャーロットの席が空いていることに気付き、メルヴィルに理由を尋ねた。彼は、シャーロットがクレイと同様に観客席には来られない事情があることを明かした。

シャーロットはクレイのように特別なコネを持っているわけではないため、飛び入り参加は不可能なはずだった。しかし、メルヴィルによると、前日に聖樹国のエルフたちと会合を持ち、その場でハイエルフの力を証明する必要があると求められたという。

聖樹国の信頼を得るための戦い

聖樹国のエルフたちは、突然現れたハイエルフの存在をすぐには信じられなかった。そのため、明確な証明手段として、実力を示す必要があった。会合に出席していたエルフの一人は、聖樹国でも屈指の実力者であり、本国ではほとんど敵なしとされていた。

そのエルフにシャーロットが勝利すれば、ハイエルフの力を証明できると判断された。聖樹国のエルフは、聖樹に誓った言葉には嘘をつけないため、敗北を誓って報告すれば、本国のエルフたちもハイエルフの存在を認めることになると考えられた。

フローラは、この計画が合理的であると納得しつつも、シャーロットが勝てるかどうかを気にした。しかし、メルヴィルはシャーロットが十分に鍛えられており、聖樹国のエルフが相手なら問題はないと断言した。

闘技大会の開会

フローラが安心したところで、開会式が始まる時間が近づいた。メルヴィルは、そろそろ話を切り上げるよう促し、フローラもそれに同意して視線を闘技場へ向けた。

第三章  闘技大会開会

魔王討伐記念闘技大会の開幕

闘技場の喧騒の中、拡声魔道具を通じた声が響き渡り、観客たちの視線がステージへ集まった。大会の正式名称は「魔王討伐記念闘技大会」とされ、その名の通り、魔王討伐の偉業を記念するものであった。門が開かれると、さまざまな装いの戦士や魔術師たちが入場し、参加者たちはそれぞれの目的を胸に戦いに挑むこととなった。

クレイ・アーズもまた、この大会に参加していた。彼はこれまで目立つことを避ける傾向があったが、今回はその必要がないと判断し、堂々と優勝を目標に掲げていた。隣を歩く戦士と軽く言葉を交わしながら、観客たちの期待を受けて歩を進めた。

国王と王族の登場

選手たちが闘技場内に整列すると、王国の君主であるゼルド・ファーガス・アルトニア国王が登場した。彼の隣には王妃アレクサンドラが立ち、その後ろには第一王子アルトンと、勇者ユークの姿があった。王族として公の場に立つユークは、外向けの笑顔を浮かべながらも、心中では面白くないと感じている様子だった。

その視線の先には、アルトンの支援者であるコンラッド公爵が控えていた。彼はユークを討伐の旅へと送り出し、その生還を予想していなかったが、結果としてユークが魔王を討伐し、自身の立場を危うくしてしまった。そこで、彼はユークの実力を公衆の面前で証明させることで、彼の評価を貶めようと目論んでいた。

国王は開会の辞を述べ、魔王が討伐された後も武芸や魔術の価値は失われず、国を守る力が必要であることを強調した。そして、王の宣言とともに、大会の幕が正式に開けた。

シャーロットの出場

クレイが観客席に戻ると、フローラたちが迎えた。だが、シャーロットの席が空いており、メルヴィルが闘技場内を指さした。そこには彼女の魔力が微かに感じられ、どうやら参加者として出場していることが判明した。

フローラとメルヴィルが説明したところによると、シャーロットは聖樹国のエルフたちの求めに応じて大会に参加していた。彼女が出場する理由は、聖樹国の有力者に実力を証明し、ハイエルフの存在を認めさせるためであった。そのために、彼女は聖樹国の強者と戦う必要があった。

クレイは周囲の魔力を確認し、シャーロット以外にも複数のエルフがいることに気付いた。だが、彼らの魔力はシャーロットほどではなく、辺獄のエルフと比べると質が異なっているようだった。メルヴィルもまた、彼らが魔力を隠そうとしている様子に気付き、情報収集のために派遣された者である可能性を示唆した。

予選方式と試合開始

大会の予選方式は、通常のトーナメントではなく、百人ずつのブロックで戦わせ、最後まで生き残った者が本戦に進むという厳しい形式が採用されていた。戦士たちは次々に倒れ、弱者には過酷な試練となった。

出場者たちにはバッジ型の魔道具が配布され、これが破壊されると敗北が確定する仕組みとなっていた。魔道具は高度なもので、おそらくテリタスが作成したものだとクレイは推測した。これにより、試合の公平性が保たれていた。

闘技場では、次々と戦闘が繰り広げられ、観客たちも熱狂した。フローラは、シャーロットの戦いを注視しながら、彼女がこの厳しい戦いをどう乗り越えるかを期待していた。

シャーロットの試合とエルフたちの戦い

シャーロットは、辺獄の森に住むハイエルフであったが、聖樹国のエルフたちの要請により闘技大会に出場することとなった。彼女自身は、長年隠されてきたハイエルフの力を見せることに戸惑いを感じていたが、祖父であるメルヴィルの判断により参戦を決めた。大会のルールが発表され、彼女は慎重に周囲を観察しながら試合開始を待った。

試合が始まると、多くの戦士や魔術師が彼女を狙い、次々と襲いかかってきた。しかし、シャーロットは精霊術と鍛え上げられた細剣を用いて敵を次々と撃退し、戦闘を有利に進めた。最終的に残ったのは彼女を含めた五人であり、その全員がエルフであった。彼らは互いに魔道具を使ってエルフであることを隠していたが、シャーロットにはその違いがわかった。

エルフ同士の決戦

シャーロットと対峙した四人のエルフは、連携を取って彼女を囲い込んだ。彼らは戦略的に攻撃を仕掛け、彼女の逃げ場を封じようとしたが、シャーロットは精霊術を駆使して防御を固め、一人ずつ的確に倒していった。特に最後に残ったエルフはかなりの実力者であったが、彼もまたシャーロットの精霊術に圧倒され、敗北を認めることとなった。こうして、シャーロットは予選を勝ち抜き、本戦への出場を決めた。

クレイの予選と試合戦略

シャーロットの試合が終わった後、クレイの予選が始まった。彼は目立たないように戦うことを決め、最初は周囲の様子を伺いながら慎重に動いた。しかし、ある瞬間に敵の攻撃を受け流したことで一気に注目を集め、次々と挑戦者が向かってくることになった。

仕方なく本気を出したクレイは、できるだけ最小限の動きで敵を倒していき、最終的に最後の一人との戦いに持ち込んだ。相手は若い戦士であり、最後まで勇敢に戦ったが、クレイの技量には遠く及ばなかった。こうして、クレイもまた予選を突破し、本戦への進出を決めた。

祝勝会と本戦への展望

その日の夜、クレイとシャーロットの勝利を祝うために、フローラたちは酒場で祝勝会を開いた。彼らは本戦について話し合いながら、酒を楽しんだ。フローラは、クレイがもっと本気を出すべきだったと指摘し、彼もそれを軽く受け流した。

そこへ、予選で勝ち上がったマズル騎士国の重騎士、ブラガが現れ、フローラの発言を聞いて挑発的に話しかけてきた。しかし、フローラがマズル騎士国の騎士団長ルドアスと知り合いであることが判明すると、ブラガは態度を改め、最終的にはクレイとの力比べを提案した。

腕相撲対決と酒場の熱狂

ブラガの提案により、クレイと彼は腕相撲で力を競うことになった。クレイは最初こそ力を抑えていたが、徐々に本気を出し、圧倒的な筋力でブラガを下した。これにより、ブラガはクレイの実力を認め、彼との本戦での再戦を誓った。

その後、酒場では腕相撲大会が自然と始まり、フローラも参戦して次々と男たちを倒していった。クレイは彼女に賭けていたため、予想以上の利益を得ることとなった。こうして、祝勝会は賑やかに進み、本戦へ向けた新たな戦いの幕開けを感じさせる夜となった。

コンラッド公爵の召集と三人のS級冒険者

コンラッド公爵邸に召集されたのは、S級冒険者のシモン・バジャック、ラルド、ベルナルドの三人であった。公爵は彼らに、勇者ユークを公の場で打ち負かすよう依頼した。ユークの実績に疑念を抱く公爵は、彼が魔王討伐を果たしていないと考え、それを証明するために三人のS級冒険者を集めたのである。

ラルドはこの依頼に乗り気であり、自信に満ちた態度で公爵に応じた。彼は《破壊のラルド》と呼ばれる剛腕の戦士で、巨大な大剣を振るい、あらゆるものを破壊することで知られていた。一方、ベルナルドは金銭を優先し、戦いそのものには関心を示さなかった。彼は《影のベルナルド》と呼ばれる暗殺者であり、諜報活動に長けた冒険者であった。

コンラッド公爵の計画とユークへの疑念

公爵は、ユークの魔王討伐は虚偽であると確信していた。魔王が単独で討たれるはずがないと考え、彼が持ち帰った首も四天王のものであり、真の魔王のものではないと主張した。そのため、公爵はユークの実力を白日の下に晒すことで、自らの政治的立場を守ろうとしていた。

ラルドはその計画に賛同し、三人のS級冒険者が協力すれば、ユークが本物の勇者かどうかなどすぐに分かると豪語した。公爵も彼の言葉に頷いたが、内心では完全に安心しているわけではなかった。ベルナルドは金銭さえ確保できれば問題ないという姿勢を崩さず、公爵は彼に十分な報酬を約束した。

ベルナルドの闘技大会出場と特別枠の確保

ベルナルドは、闘技大会にも興味を示していた。特に賢者テリタスが製作した隠匿系の魔道具を賞品として狙っていた。しかし、彼はすでに公爵の計画に関与しているため、通常の予選を突破する機会を失っていた。

そこで公爵は、ある予選試合で発生した自爆事件を利用することを提案した。その試合では、魔術師の暴走によってほぼ全員が戦闘不能となり、勝者が決まらなかった。公爵は、その空席にベルナルドをねじ込むことで、彼の本戦出場を確定させようとした。

ベルナルドはこの提案を受け入れ、三位入賞を目指すことにした。彼が欲していた魔道具は三位の賞品であり、それを確実に手に入れるため、決勝進出は避けるべきだと公爵も助言した。

シモンの正体と戦いへの執着

最後に、公爵はシモンに対して何か望みがあるかを尋ねた。ラルドやベルナルドがそれぞれ報酬や利益を求めていたのに対し、シモンはただユークと戦いたいとだけ答えた。その意図を公爵は測りかねていたが、彼の決意を尊重した。

しかし、シモンには公爵が知り得ない秘密があった。彼は表向き《頑健のシモン》と呼ばれるS級冒険者であったが、実際には魔王に仕える四天王の一人であり、魔人であった。彼は魔王の忠実な部下であったが、今やその主は存在しない。魔族を統べていた魔王の力が完全に消えたことを感じ取ったシモンは、ただ戦う理由を求めていたのだった。

その戦いの相手として、彼が選んだのが勇者ユークであった。彼はユークの力を試し、そして自らの運命を見極めるために戦うことを決意していた。公爵の計画や政治的思惑は、シモンにとって取るに足らないものであり、ただ戦いの瞬間を待ち望んでいたのだった。

第四章  本戦当日

闘技大会本戦の開幕と組み合わせの決定

本戦出場者は八人に決定していたが、最後の一枠にはまだ不確定な部分があった。クレイとシャーロットは控え室に向かい、そこに貼り出されたトーナメント表を確認した。二人は決勝まで進まなければ対戦しない配置になっていたため、初戦でのつぶし合いは避けられた。クレイは、賢者テリタスが作った魔道具を入手するため、三位入賞を目指すつもりであった。

シャーロットの初戦の相手は、予選を勝ち抜いた魔術師オーレルであり、実力者と評される相手であった。一方、クレイの対戦相手はヘルガという女性であった。彼女はキュリオ公国の元独立魔術師団団長であり、その実力は折り紙つきであった。

ヘルガとの再会と彼女の過去

ヘルガはクレイに辞退を勧めたが、彼はそれを拒否した。彼女はかつて魔王討伐の旅の中でクレイと出会っていたが、彼が仮面をつけていたため、初めは彼の正体に気づかなかった。しかし、話をするうちに彼女の中で疑念が生じていた。

キュリオ公国は魔術に特化した国であり、独立魔術師団はその中でも特に優れた魔術師のみが所属できる集団であった。ヘルガが団長を務めていたことは、それだけの才能と実力を持っていた証であった。だが彼女はすでにその地位を退いていた。その理由について尋ねると、彼女は「後進に道を譲った」と答えたが、詳細は語らなかった。

イラとの出会いとエルフの誇り

控え室にはシャーロットの知人であるイラという男がいた。彼はエルフィラ聖樹国のエルフであり、今回の本戦に出場していた。イラはシャーロットに敬意を示していたが、彼女と戦うことになっても遠慮はしないと宣言した。シャーロットはその覚悟を受け入れつつも、戦いの場で本気を出せるかを不安に思っていた。

クレイは彼女に安心するように伝えた。実際のところ、闘技場の結界は賢者テリタスの魔道具によるものであったが、それだけでは不十分と判断され、フローラが追加で強化を施していた。

本戦第一試合――イラ対ブラガ

本戦第一試合は、エルフの魔術師イラとマズル騎士国の重騎士ブラガの対戦となった。試合開始の合図と同時にイラは魔術矢を放ったが、ブラガはそれをほぼ無傷で受け止めた。マズルの重騎士は、通常の魔術をものともしない強靭な防御力を持っていた。しかし、イラは単なる魔術師ではなかった。

彼は細剣を抜き、魔術と剣術を組み合わせた戦闘を展開した。ブラガはその動きに対応できず、次第に追い詰められていった。最終的にイラは細剣をブラガの首筋に突きつけ、彼を降参させた。こうして第一試合はイラの勝利で幕を閉じた。

シャーロットの試合と圧倒的な勝利

第二試合では、シャーロットが南方の魔術師と対戦した。対戦相手も優れた魔術師ではあったが、シャーロットの魔術には遠く及ばなかった。彼女は短時間で決着をつけ、観客を驚愕させた。その圧倒的な実力に、会場からは賞賛の声が上がった。

クレイとヘルガの対決

第三試合では、クレイとヘルガが対戦することとなった。闘技場で向かい合う二人の間には、ただならぬ緊張感が漂っていた。ヘルガは鎧を身にまといながらも、大振りの杖を持ち、魔術と武術の両方に精通していることを示していた。

彼女は開口一番、クレイに向かって「クレイ」と本名を呼んだ。仮面をつけていても、彼女には隠し通せなかったのである。彼女は、勇者パーティーの一員であったはずのクレイの名が魔王討伐の記録に残っていないことを不審に思っていた。そして、彼女自身がかつて交わした約束を持ち出し、ついに戦いの時が来たと告げた。

クレイは、その言葉に小さく笑った。彼は観客に聞こえない結界の中で、ヘルガと本気の戦いを繰り広げることになると悟った。かつての仲間と交わした約束――それが今、実現しようとしていた。

勇者一行との出会いと敗北

ヘルガはかつてキュリオ公国の独立魔術師団団長を務めていた。ある時、魔王軍四天王の討伐を目的とする勇者ユーク一行が、共闘を求めてキュリオ公国を訪れた。しかし、キュリオ公をはじめ多くの者は懐疑的であった。四天王は、公国軍が全軍を挙げても一進一退の攻防を繰り広げる強敵であり、それをたった四人で討伐すると主張する勇者一行の言葉は、現実離れした妄言に思われた。

ヘルガもまた同様の考えを抱き、彼らの実力を試すために、独立魔術師団全員との模擬戦を提案した。しかし、結果は惨敗であった。ヘルガを含めた百名以上の団員は、勇者ユーク、聖女フローラ、賢者テリタス、そして名も知られていない一人の青年――クレイによって完膚なきまでに打ち倒された。

特にヘルガは、名の知れた三人ではなく、無名の青年クレイに敗北を喫した。魔術を放てばかき消され、剣を振るえば完璧にいなされる。彼女はキュリオ公国において最強と称される魔術師であったが、その力はまるで通用しなかった。悔しさを噛みしめながら、ヘルガはクレイに力比べをすることを約束した。しかし、この敗北が独立魔術師団の名声を失墜させることはなかった。むしろ、勇者一行を四天王のもとへ送り届けた功績が評価され、公国の誇りとして称えられた。

団長辞任と鍛錬の旅

ヘルガは戦いの後、自らの未熟さを痛感し、団長の座を退く決断を下した。キュリオ公や団員たちは彼女の決断を惜しんだが、ヘルガは納得がいかなかった。せめて、クレイに一矢報いるほどの力を手に入れたいと考えた彼女は、各地を巡り、魔王軍との戦いに身を投じる日々を送った。

しかし、そうした生活を続けるうちに、魔王討伐の報せが届いた。誰が、どのようにして魔王を倒したのかを知りたくなったヘルガは、情報を集めた。やがて勇者一行が帰国していると知り、かつての約束を果たすために闘技大会に出場した。そして、彼女の前には仮面をつけた男――クレイがいた。

再会と決戦の幕開け

ヘルガはクレイの正体に確信を持てずにいた。しかし、彼の動きや魔力の波長から、過去に出会った青年と同一人物であると確信し、「クレイ」と本名を呼んだ。クレイは一度はとぼけようとしたが、ヘルガの真剣な眼差しに「覚えている」と認めた。

そして、決戦の火蓋が切られた。開始の合図と同時にヘルガは、極限まで鍛え上げた独自の身体強化魔術を発動させた。通常の術式ではなく、自らの限界を見極めながら局所的に強化する高度な技法であった。しかし、それを見たクレイは「相手が悪かったな」と呟くと、自身も身体強化を発動させた。

クレイの技術はさらに洗練されており、バランスを完全に保ちながら、かつての勇者パーティーの戦いを支えた力を発揮した。ヘルガの魔術刃による攻撃は、彼の周囲に展開された圧縮防御魔術によって防がれた。さらに、クレイの斬撃はヘルガの結界を次々と切り裂いた。

ヘルガは戦法を変え、空中に多数の魔術武具を生成して一斉に放った。しかし、クレイはそれすらも難なく捌き、ついにはヘルガの魔力が尽きた。彼女は膝をつき、息を荒げながら「降参だよ。私の負けだ」と敗北を認めた。

新たな強敵――ベルナルドの登場

試合を終えたクレイは、本戦出場者専用のテラス席に戻った。そこでは、ブラガとイラが次の試合を見守っていた。シャーロットはすでに次の試合に向かっていたが、クレイは第四試合が予想よりも早く終了していたことに驚いた。

ブラガによれば、その試合はほぼ瞬時に決着がついたという。勝者はベルナルドという男で、コンラッド公爵の推薦で本戦に出場したS級冒険者だった。彼の戦闘は異質であり、開始直後にその姿を視認できなくなり、次の瞬間には対戦相手が膝をついて敗北していたという。

クレイはベルナルドの戦いぶりを見ていなかったため、その実力を掴むことはできなかった。しかし、次の第六試合では彼と直接対戦することになる。遠くからクレイを見つめるベルナルドは、不気味なほど穏やかな笑顔を浮かべ、手を軽く上げていた。

クレイはそんな彼を見据え、静かに思った。「所詮は闘技大会か。殺し合いではないし、気楽に挑むとするか」

シャーロットとイラの対話

シャーロットとイラは、闘技場に向かう途中で言葉を交わした。イラはシャーロットの試合を観戦し、その実力を試すような態度を取った。彼は、シャーロットが本気を出していないのではないかと推測し、自身もまた本気で戦っていなかったことを示唆した。

イラは、闘技場を覆う結界がどの程度の強度を持つのか不安視していた。本気で戦えば壊れる可能性があると考えていたが、シャーロットはそれを否定した。その結界はクレイの知人であるフローラが構築したものであり、並の攻撃では破壊できないと確信していた。

イラは、それでも本気を出せば予測不能な事態が起こるかもしれないと警告したが、シャーロットは問題ないと判断し、試合に臨んだ。

シャーロットとイラの戦い

闘技場で対峙した二人は、お互いに認識阻害を施していた。これにより、観客からは普通の人族に見えていたが、戦いが激化すれば維持は難しくなるとシャーロットは考えた。

イラはエルフィラの守護戦士であり、その実力は国の中でも屈指のものだった。彼は序盤から魔力を込めた細剣で攻撃を仕掛けたが、シャーロットは結界を展開し、それを防いだ。

イラはすぐに精霊術を用いて自身の身体と武器を強化し、攻撃の速度と威力を飛躍的に向上させた。シャーロットはそれを見極めながら、一瞬の隙を突いて軽傷を負わせたが、精霊術による強化が施されていたため、致命傷には至らなかった。

戦いは細剣同士の高速の応酬へと移行し、イラの猛攻をシャーロットが最小限の動きで回避する展開となった。イラの精霊術は出力こそ高かったが、その負担もまた大きく、戦闘が長引くにつれて彼の体力は急速に消耗していった。

決着とシャーロットの勝利

シャーロットは、戦闘の流れを見極め、精霊術の負担によって疲弊したイラに対し、高位精霊サラマンダーを召喚した。高位精霊は極めて強大な存在であり、通常のエルフですら容易に扱えない力を持つ。

イラは水と氷の精霊を召喚し、防御を固めたが、シャーロットの指示で放たれた火炎の攻撃により、その防御は一瞬で崩壊した。火炎旋風が結界内部を満たし、しばらくして収まった時、イラは全身を煤で覆われ、魔力を使い果たしていた。

イラはすでに戦闘不能となっており、シャーロットの勝利が確定した。

戦いの余韻と今後の展開

控え室に戻ったイラは、シャーロットの実力に感嘆した。特に高位精霊を自在に操れることに驚き、彼女がハイエルフであることを認めた。

また、イラはエルフィラへ戻るのではなく、ファルージャと共に辺獄の視察へ行く予定であることを明かした。目的はエルフィラのハイエルフ復活であり、それが実現すればエルフィラのエルフたちは大いに喜ぶだろうと考えていた。

その後、イラはクレイにも関心を持ち、彼の住居について尋ねた。クレイが辺獄を開拓し、そこに住んでいると知ると、イラは信じられないという反応を示した。エルフには森に結界を張る技術があるが、人族にはそれがないため、辺獄のような魔境で生きることは通常不可能だからである。

シャーロットは、クレイの実力をよく理解しており、彼が普通の人族ではないことを説明した。イラは、次の試合でシャーロットが優勝すると予想していたが、シャーロット自身はクレイを甘く見ておらず、決勝戦では厳しい戦いになると考えていた。

その後、クレイは次の試合に向けて準備を開始し、シャーロットとイラに見送られながら、闘技場へと向かった。

ベルナルドとの対話

試合前、グレイは対戦相手であるベルナルドと闘技場へ向かう途中で言葉を交わした。ベルナルドは自らの職業について語り、彼が公には知られていないものの、貴族や大商人に認知されている影の仕事を専門とする冒険者であることを明かした。そのため、彼の名を一般の者が知らなくても不思議ではなかった。

グレイは、ベルナルドの気配の消し方に感心した。自身の師であるフローラやテリタスは隠密技術を持たず、ユークは目立つことを好む性格だったため、グレイは魔術を使った隠密しか習得していなかった。ベルナルドの技術は異なる体系のものであり、学びたいと考えたが、簡単に習得できるものではないとも理解していた。

ベルナルドは、試合でわざと負けたいと申し出た。彼は優勝ではなく、三位入賞の賞品である《古き隠者のローブ》を望んでおり、三位決定戦で勝利するためにあえて敗北を選びたかった。グレイは八百長を疑い、それを阻止しようとしたが、ベルナルドは試合の流れを装い適当に敗北する計画を立てていた。

グレイはこれを否定し、本気で戦うよう促した。ベルナルドが迷う素振りを見せると、グレイは「もしも自分が三位決定戦に進んだ場合、そのローブを彼に譲る」と約束した。この提案を受け入れたベルナルドは、真剣に戦うことを決意した。

グレイ対ベルナルドの試合

試合開始の合図が響いたが、両者はすぐに動かなかった。グレイは後の先を狙い、ベルナルドは様子を見ながらゆっくりと動いた。ベルナルドは、グレイが戦闘態勢に入った途端に空気が変わったことに驚き、それが単なる集中の問題ではなく、本質的に別の存在に変化したように感じられると評した。

やがてベルナルドは動き、驚異的な速度でグレイに接近し、短剣を振るった。グレイはそれを弾いたが、ベルナルドは密着した距離を保ち、短剣を自在に操って攻め続けた。この近接戦の不利を覆すため、グレイは《円風》という魔術を使用し、強力な風圧でベルナルドを後退させた。

距離が開いたベルナルドは次の手として《分身》を発動させた。この魔術は影の魔力を利用し、自らの複数の分身を作り出す技術であった。通常の分身魔術よりも高度に洗練されており、十体以上の分身が本体と見分けがつかないほど精巧に再現されていた。

グレイは状況を打破するため、独自に魔術を展開し、同じ《分身》を作り出した。グレイの分身は本家であるベルナルドのものより練度が低く、実体化している部分に差があったが、それでも十分に応戦可能であった。さらに、グレイは剣術の技量で優位に立ち、次第にベルナルドを追い詰めていった。

すべての分身を蹴散らし、ベルナルドを囲んだグレイは、最後の選択を迫った。ベルナルドはしばらくの間、逆転の策を探していたが、最終的に剣を収め、降参を宣言した。司会がグレイの勝利を告げ、試合は幕を閉じた。

三位決定戦と次の試合への準備

グレイとベルナルドの試合後、短い休憩を挟み、三位決定戦が行われた。対戦相手はイラであり、試合は大いに盛り上がった。イラとベルナルドの実力は拮抗していたが、最終的にベルナルドが勝利し、望んでいた《古き隠者のローブ》を手に入れた。イラは精霊術の負担が大きく、完全に回復できなかったことが敗因となった。

その後、控え室ではグレイとシャーロットが次の決勝戦について話していた。二人は互いに対戦相手としての意識を持ちつつも、穏やかな態度を保っていた。ヘルガは彼らの落ち着きぶりに疑問を抱いたが、グレイとシャーロットは「試合ではしっかり戦う」と答えた。

呼び出しの声がかかり、二人は闘技場へと向かった。

決勝戦の開始

決勝戦が始まると、司会は大々的な紹介を行い、観客を煽った。シャーロットはその美貌と精霊術の実力で称賛を浴び、観客の期待を一身に受けた。一方、グレイは仮面を被った謎の戦士として紹介され、不気味な存在として扱われた。

観客の反応はシャーロットに対する応援が多く、グレイに対しては疑念の声もあった。彼が試合中ほぼ無傷で勝ち進んできたことに対し、不正を疑う者もいた。

司会の長い演説が終わると、グレイとシャーロットは互いに武器を構え、対峙した。グレイは剣、シャーロットは細剣を手にしていた。

そして、ついに決勝戦の開始が告げられた。

シャーロットの精霊術とグレイの攻勢

試合開始の合図とともに、シャーロットは精霊術を発動させた。彼女の周囲にはノームとウンディーネの精霊の気配が纏わりつき、戦いの準備が整っていた。グレイは精霊術について詳しくはなかったが、辺獄で学んだ知識から、その特性をある程度理解していた。彼女の戦い方を知らない以上、グレイは攻勢に出ることを選び、直接攻撃を仕掛けた。

シャーロットはノームの力を使い、岩の壁を瞬時に出現させ、グレイの攻撃を防いだ。精霊術は魔術よりも詠唱が短く、直接自然の力を操るため、非常に強力であった。壁の強度は高く、グレイの剣を弾き返した。続いて、ウンディーネの力で無数の水の矢を放ち、グレイを追い詰めた。それらの矢は直進するのではなく、標的を追尾する性質を持ち、避けるだけでは対処できなかったため、グレイは剣で切り払いながら応戦した。

その間にシャーロットはさらに強力な精霊術を発動し、ノームとサラマンダーの力を合わせて火炎を纏った巨大な岩を出現させた。結界内の温度は急激に上昇し、闘技場全体が熱気に包まれた。しかし、シャーロット自身には影響がなく、彼女は涼しい顔で術を完成させた。

決着の瞬間

火炎の岩がグレイに向かって落下した。闘技場外に出れば失格となるため、彼には逃げ場がなかった。グレイは剣に魔力を込め、一閃のもとに岩を真っ二つに切断した。崩れ落ちる岩の影に紛れ、彼は素早くシャーロットとの距離を詰めた。シャーロットは予想外の展開により一瞬の隙を作ってしまい、気づいた時にはすでにグレイの剣の切っ先が彼女の首元へと向けられていた。

シャーロットはこれ以上の攻撃ではグレイに有効打を与えられないと判断し、降参を選択した。司会がそれを確認し、試合の終了を宣言すると、闘技場には優勝者決定の歓声が響き渡った。

試合後の祝杯シャーロットの精霊術とグレイの攻勢

試合開始の合図とともに、シャーロットは精霊術を発動させた。彼女の周囲にはノームとウンディーネの精霊の気配が纏わりつき、戦いの準備が整っていた。グレイは精霊術について詳しくはなかったが、辺獄で学んだ知識から、その特性をある程度理解していた。彼女の戦い方を知らない以上、グレイは攻勢に出ることを選び、直接攻撃を仕掛けた。

シャーロットはノームの力を使い、岩の壁を瞬時に出現させ、グレイの攻撃を防いだ。精霊術は魔術よりも詠唱が短く、直接自然の力を操るため、非常に強力であった。壁の強度は高く、グレイの剣を弾き返した。続いて、ウンディーネの力で無数の水の矢を放ち、グレイを追い詰めた。それらの矢は直進するのではなく、標的を追尾する性質を持ち、避けるだけでは対処できなかったため、グレイは剣で切り払いながら応戦した。

その間にシャーロットはさらに強力な精霊術を発動し、ノームとサラマンダーの力を合わせて火炎を纏った巨大な岩を出現させた。結界内の温度は急激に上昇し、闘技場全体が熱気に包まれた。しかし、シャーロット自身には影響がなく、彼女は涼しい顔で術を完成させた。

決着の瞬間

火炎の岩がグレイに向かって落下した。闘技場外に出れば失格となるため、彼には逃げ場がなかった。グレイは剣に魔力を込め、一閃のもとに岩を真っ二つに切断した。崩れ落ちる岩の影に紛れ、彼は素早くシャーロットとの距離を詰めた。シャーロットは予想外の展開により一瞬の隙を作ってしまい、気づいた時にはすでにグレイの剣の切っ先が彼女の首元へと向けられていた。

シャーロットはこれ以上の攻撃ではグレイに有効打を与えられないと判断し、降参を選択した。司会がそれを確認し、試合の終了を宣言すると、闘技場には優勝者決定の歓声が響き渡った。

試合後の祝杯

試合後、グレイはテリタスやフローラとともに酒場《欠けた月》で祝杯を交わしていた。テリタスは今回の戦いについて、魔王討伐に比べれば遥かに楽であったと評したが、グレイは強化魔術や強力な攻撃を封じて戦ったため、それなりに苦戦したと振り返った。フローラもまた、彼が本気を出せば対戦相手に甚大な被害が出ていたことを指摘し、適度な調整が必要だったと述べた。

次の日、グレイはユークとの試合に臨む予定であった。フローラとテリタスは、ユークとの戦いでは遠慮なく本気を出すべきだと助言したが、グレイは自身が新たな脅威として国に認識されることを懸念していた。テリタスはそれを楽観的に捉え、ユークに対応を任せれば問題ないと考えていた。

フローラは酒の勢いで軽口を叩いていたが、グレイはそれを聞き流した。懐かしい仲間たちとの会話を楽しみつつ、彼は翌日の試合を前に気を引き締めていた。

試合後、グレイはテリタスやフローラとともに酒場《欠けた月》で祝杯を交わしていた。テリタスは今回の戦いについて、魔王討伐に比べれば遥かに楽であったと評したが、グレイは強化魔術や強力な攻撃を封じて戦ったため、それなりに苦戦したと振り返った。フローラもまた、彼が本気を出せば対戦相手に甚大な被害が出ていたことを指摘し、適度な調整が必要だったと述べた。

次の日、グレイはユークとの試合に臨む予定であった。フローラとテリタスは、ユークとの戦いでは遠慮なく本気を出すべきだと助言したが、グレイは自身が新たな脅威として国に認識されることを懸念していた。テリタスはそれを楽観的に捉え、ユークに対応を任せれば問題ないと考えていた。

フローラは酒の勢いで軽口を叩いていたが、グレイはそれを聞き流した。懐かしい仲間たちとの会話を楽しみつつ、彼は翌日の試合を前に気を引き締めていた。

第五章  勇者と荷物持ち

勇者の天覧試合

ユークの天覧試合の日が訪れた。観客たちは、勇者ユークが S級冒険者三人を相手にどのように戦うのかについて、様々な憶測を交わしていた。グレイとシャーロットは、仲間たちとともに観客席で試合を見守ることにした。フローラは結界の設営を終え、試合の行方についてグレイと意見を交わしていた。グレイはユークの勝利を確信しており、フローラも同意していた。シャーロットはユークの実力を直接見たことがなく、どれほどの強さなのかを推し量れずにいた。

ユークが入場すると、観客席から大きな歓声が湧き上がった。続いて S級冒険者三人も姿を現した。その中には、前日の試合で戦ったベルナルドの姿もあった。彼らもまた実力者であったが、グレイはユークに敵う相手ではないと判断していた。

試合の開始と圧倒的な実力差

試合が開始されると、S級冒険者たちは一斉にユークへと襲いかかった。彼らの動きは速く、個々の実力も高かったが、ユークはわずか一振りで彼らの武器を砕き、その戦意を喪失させた。最後まで抵抗した者もいたが、ユークは剣の平で軽く打ち飛ばし、結界に激突させた。衝撃で結界に罅が入り、フローラは修復の必要性を嘆いていた。

観客席では、S級冒険者がユークの初撃を耐えたことに驚きの声が上がっていた。フローラも、もし四天王が相手であれば少しは対抗できたかもしれないと推測したが、それでもユークの圧倒的な力の前では太刀打ちできないと結論づけた。

試合の終了後、司会がユークの勝利を宣言すると、観客席から歓声が湧き上がった。しかし、その直後、ユークが新たな提案を持ちかけた。それは、闘技大会の優勝者であるグレイとの模擬戦だった。

勇者ユークからの挑戦

ユークの提案により、会場は静まり返ったが、すぐに興奮に包まれた。勇者と闘技大会優勝者の戦いという好カードが実現することに、観客たちは大いに期待を寄せていた。

フローラはグレイの背中を軽く叩き、戦いに向かうよう促した。グレイはユークの名前を傷つけるのは気が引けると冗談めかして答えたが、フローラはほどほどに戦うよう助言した。

グレイは仮面を被り、司会へ合図を送った。観客の視線が彼へと集まり、大会運営の職員が拡声魔道具を手渡してきた。注目を浴びることは本意ではなかったが、グレイは覚悟を決め、ユークの挑戦を受けることを宣言した。

ユークもまた、魔法契約によって試合の結果を受け入れると誓い、どんな戦いになろうとも後悔しない姿勢を示した。このやり取りにより、会場の熱気は最高潮に達した。

決戦の開始

試合が始まると、ユークとグレイは同時に地面を蹴り、剣を交えた。衝突の衝撃で結界が揺れ、大きな音が鳴り響いた。ユークは余裕の表情を見せながら、次々と剣撃を繰り出し、グレイを圧倒した。グレイは防戦一方となりながらも、間隙を突いて爆炎の魔術を放った。しかし、ユークは剣を振るい、魔術の起点を正確に断ち切ることで、炎を一瞬で消滅させた。

ユークは冷静に、グレイがこの技術を知っていることを指摘しながら、さらに追い詰めていった。グレイはユークに対抗するため、自らが学んだすべての技術を駆使し、剣術・魔術・法術を組み合わせた攻撃を展開した。ユークはそれに対し、喜びを感じているようだった。

両者が全力を出し切った瞬間、強烈な衝撃が闘技場を包み込んだ。結界が崩壊し、周囲に閃光と衝撃波が広がった。

試合の決着と新たな評価

結界の崩壊と同時に、闘技場の視界が遮られたが、光が収まると、そこには剣を失った二人の姿があった。ユークの剣は破壊され、グレイの剣もまた砕けていた。グレイは剣が壊れるように意図的に魔力を注ぎ、互いに無傷のまま決着を迎えられるように調整していた。

司会はこの状況を見て、試合の結果を「引き分け」と宣言した。観客たちは驚きながらも、この結果に納得し、大きな歓声を上げた。テリタスはこの試合を通じて、国が「勇者だけが絶対の力を持つ」という印象を与えるのではなく、市井にもそれと並び立つ力が存在し得ることを示せたと評価した。

この一戦を終えたことで、ユークの政敵であったコンラッド公爵は完全に失脚した。ユークは公爵の息子を自身の派閥に引き込み、彼に証拠を集めさせていたのだ。その結果、公爵家は厳しい処分を受けたが、息子の尽力もあり、完全な滅亡は免れた。

王都を去る決断

大会が終わり、王都は次第に落ち着きを取り戻していった。グレイとフローラは辺獄に戻る準備を整えていた。フローラは教会の仕事を終え、一定の自由を得ることに成功した。グレイもまた、王都に用事はなくなったため、出発を決めた。

その時、シャーロットとメルヴィルが訪れ、ある依頼を持ちかけた。エルフィラ聖樹国の指導者であるファルージャと、守護戦士のイラが同行し、辺獄へ向かう馬車に乗せてほしいという内容だった。彼らの目的は、聖樹を救うために必要な「ハイエルフの涙」「獣王の息」「魔人の角」を手に入れることであった。

辺獄にはそれらの素材を得る可能性があるが、獣人や魔人との交渉が必要であり、場合によっては戦闘が避けられない状況であった。メルヴィルは、辺獄におけるこれらの種族が極めて強力であるため、無闇に争えば壊滅的な事態を招く可能性があると説明した。グレイは即答を避け、慎重に対応する意向を示したが、最終的には協力を決意した。

こうして、グレイたちは王都を後にし、新たな目的地へと向かうこととなった。

獣人たちの戦い

辺獄の奥地で、獣人たちは双頭の熊のような巨大な魔物と戦っていた。彼らは様々な武具を手にしていたが、その中でも特に目立っていたのは、大斧を持つ獅子の獣人アメリアであった。戦況が激しくなる中、仲間の獣人たちは撤退を進言したが、アメリアは自らが最後まで戦うことを宣言し、単独で魔物に立ち向かった。

魔物はこれまでの攻撃をものともせずに立ちはだかっていたが、アメリアはそれを前にしても動じなかった。彼女は勢いよく跳び上がると、大斧を振り下ろし、魔物の頭部を切り裂いた。魔物の外皮は鉄すらも弾くほどの強度を誇っていたが、アメリアの武器には《気》と呼ばれる力が込められており、その刃は容易に魔物の肉を切り裂いた。

勝利と異変の察知

アメリアの一撃により、巨大な魔物は地面に崩れ落ちた。獣人たちは歓声を上げ、戦いの勝利を喜んだ。アメリアも満足していたが、その直後、彼女は周囲に違和感を覚えた。

彼女が目を向けると、遠くに何者かの気配があった。それはエルフのものだった。獣人たちはエルフを貧弱な存在と見なす傾向にあったが、アメリアは彼らを軽視しなかった。エルフは精霊術や魔術を駆使し、獣人たちとも互角に戦えるほどの力を持つ。特に族長一族は別格であり、アメリアの父や祖父は彼らと争わぬよう厳命していた。

エルフとの関係と今後の動向

近年、エルフたちはほとんど集落から出てこなかったが、最近になって森で見かけることが増えていた。何らかの変化があったと考えられるが、その理由は不明であった。獣人たちとエルフは明確な敵対関係にはなかったものの、縄張り争いによる緩やかな対立が続いていた。

アメリアは、この状況が悪化すれば全面戦争に発展する可能性もあると考えた。事態が深刻になる前に、エルフとの関係を見直し、交渉を試みるべきではないかと判断した。こうして彼女は、エルフたちとの接触を試みることを決意した。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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