小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ」感想・ネタバレ

小説【SAOオルタナティブ】「グルメ・シーカーズ」感想・ネタバレ

Contents
  1. どんな本?
  2. 読んだ本のタイトル
  3. あらすじ・内容
  4. 感想
  5. 備忘録
  6. 同シリーズ
  7. その他フィクション

どんな本?

『ソードアート・オンライン オルタナティブ グルメ・シーカーズ』は、VRMMO《ソードアート・オンライン(SAO)》の世界を舞台に、料理をテーマとしたスピンオフ作品である。ゲーム初心者の姉弟、ユズとヒナは、VRMMOでの料理体験を目的に《SAO》へログインするが、不運にもゲーム内に閉じ込められてしまう。二人は「アインクラッド攻略には興味ありません! 食堂の開業を目指します!」と宣言し、料理スキルを極めることを決意する。同じく料理好きなプレイヤーたちとともに《食の探求団》というパーティーを結成し、美味な食材やレアな調理器具を求めてクエストをこなしたり、現代日本の料理再現に挑戦したりと、料理に特化した日々を過ごす。やがて、屋台をオープンし、創意工夫を凝らしたメニューで攻略プレイヤーたちの胃袋を掴んでいく。本作は、デスゲームという過酷な状況下でありながら、料理を通じて《SAO》の世界を新たな視点で描いており、グルメ要素と冒険が融合した魅力的な物語となっている。

主要キャラクター
• ユズ:姉弟の姉であり、現実世界では大手飲食チェーンの社員。料理への情熱を持ち、ゲーム内でも料理スキルを追求する。
• ヒナ:ユズの弟で、高校生。姉とともに料理スキルを磨き、食堂の開業を目指す。
• ロック:現実世界ではグルメレポーターを務める初老の男性。豊富な知識と経験で《食の探求団》をサポートする。
• チェリー:パート兼業主婦で、スーパーの総菜売り場で働いている。家庭的な料理の腕前を活かし、パーティーに貢献する。

出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2023年11月17日
• 判型:B6判
• ページ数:348ページ
• ISBN:978-4-04-915210-4

また、2024年10月17日には続編となる『ソードアート・オンライン オルタナティブ グルメ・シーカーズ2』が発売され、物語は第二層・第三層へと進展し、さらなるグルメ探求が描かれている。

さらに、2024年9月17日からはコミカライズ版も連載中であり、漫画家・可山コロネ氏が作画を担当している。

読んだ本のタイトル

ソードアート・オンライン  オルタナティブ グルメ・シーカーズ
著者:Y. A 氏
イラスト:長浜めぐみ  氏
原案・監修:川原礫 氏

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あらすじ・内容

《SAO》世界でのまったりグルメ探求ライフを描く、新スピンオフが始動!
「アインクラッド攻略には興味ありません! 食堂の開業を目指します!」
 VRMMOでの料理を体験してみたかっただけなのに、運悪く《ソードアート・オンライン》に閉じ込められてしまったゲーム初心者の姉弟、ユズとヒナ。
 二人が取った選択は――《料理》スキルを極めること!?
 同じく料理好きなプレイヤーとともに《食の探求団》という名のパーティーを結成。
 美味な食材やレアな調理器具が報酬となるクエストをこなしたり、現代日本の料理再現に挑んだり……料理に全振りな日々を過ごし、屋台をオープン。
 創意工夫を凝らしたメニューで、攻略プレイヤーたちの胃袋もわし掴み!
 《SAO》世界でのまったりグルメ探求ライフ、スタート!

ソードアート・オンライン  オルタナティブグルメ・シーカーズ

料理人としての生存戦略
VRMMO《ソードアート・オンライン》の正式サービス開始とともにゲームへログインした安達優月と姉の陽菜は、戦闘ではなく料理スキルを選択し、ゲーム内の食文化の探求を目的とした活動を開始する。
そこに、偶然ゲームに参加した主婦チェリー、グルメレポーターのロックが加わり、彼らは《食の探求団》として生き残るための料理人プレイを本格化させる。

《安達食堂》の再現
優月と陽菜は、亡き両親が営んでいた《安達食堂》の復活を夢見ており、SAOの中で店を開くことを目標とする。
しかし、ゲームがデスゲームと化し、ログアウト不能となったことで、彼らの生存手段としての「料理」が重要な意味を持つことになる。

食材の探求と経営の工夫
食の探求団は、ジャム黒パンの販売から始め、スポーツドリンクや味噌汁、肉料理など次々と新メニューを開発していく。
また、料理スキルの熟練度を上げるための修行を行い、道具のアップグレードにも取り組む。
さらに、レアアイテム《エブリウェア・フードストール》を獲得し、移動式屋台を使った営業を開始することで、より本格的な商売を展開していく。

第二層への進出と新たな挑戦
第一層のボスが撃破され、第二層へと進出した彼らは、新たな食材を求めて商売を広げる。
そんな中、新たな料理人パーティー《グルメギャング団》と遭遇し、競争が始まる。
彼らは食の探求団をライバル視し、料理の頂点を目指していると宣言する。こうして、料理を通じた新たな戦いが幕を開けるのであった。

感想

VRMMOにおける「食」の可能性
本作は、《ソードアート・オンライン》の世界観を活かしながら、従来の攻略中心の物語とは異なり、料理に特化した視点で展開される。GGOのように事件後の話かと思いきや、SAO事件の初期から始まり、攻略組ではなく、あくまで「生活者」としてのプレイヤーたちの物語が描かれているのが新鮮であった。

異色の主人公たち
主人公たちも、これまでのシリーズとは異なる立場のキャラクターたちであった。
従兄弟からSAOの参加権を譲られた姉弟、息子がいない間に何となくゲームに入った主婦、そして取材目的の初老の男性といった、異色の組み合わせが物語に独特の魅力を与えていた。
攻略組とは違う立場でありながら、彼らもまた生き残るために試行錯誤を繰り返し、ゲーム内で自分たちの居場所を作り上げていく。

戦闘ではなく、料理こそが武器
通常のVRMMO作品では、強力な武器やスキルが鍵となるが、本作では「料理こそが最大の武器」となっている点が面白い。
戦闘をせずに生き抜く方法を模索し、素材の探索や料理スキルの熟練度上げ、調理器具のアップグレードなど、経営と技術向上の要素が盛り込まれていた。
特に、レアアイテム《エブリウェア・フードストール》を獲得し、移動式屋台を活用することで、料理の可能性がさらに広がる点は興味深い。

NPCと料理の関係
また、NPCとの関わりも見逃せない要素であった。
ゲーム世界であるにもかかわらず、NPCがプレイヤーの料理を買いに来るという展開は、ただのプログラムではなく、彼らにも「食の楽しみ」が存在するように思わせた。
特に、伝説の料理人ダルトーとのエピソードは印象的で、彼の認めた料理人にしか譲られない屋台という設定が、職人のこだわりを感じさせるものとなっていた。

第二層の新たな展開に期待
第一層での商売が軌道に乗り、第二層への進出が始まると、物語はさらに広がりを見せる。
新たな食材の発見、調理技術の向上、そしてライバル《グルメギャング団》との対決と、次なる展開が気になる終わり方であった。
戦闘をしない主人公たちが、どのようにSAOの世界で生き抜いていくのか、今後の展開に期待したい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

プロローグ 新店「安達食堂」

夕暮れのアルゲードと食の探求団

アルゲードの町は、五十層の夕日が消え、闇に包まれつつあった。町の大通りでは、討伐や仕事を終えたプレイヤーたちが次々と宿や飲食店へと向かっていた。彼は最前線には及ばぬものの、高レベルのプレイヤーとしての自負があり、武具だけでなく食事にも資金を投じる余裕があった。この日は、いつもと異なり、メイン通りの高級レストランではなく、最近耳にした新店へ向かうことを決めていた。その店は、NPCではなく料理スキルを持つプレイヤーたちによって経営される「食の探求団」のレストランであった。彼らは攻略には興味を示さず、新食材や調理器具を探求し、料理の試行錯誤を重ねていた。彼はかつて、彼らが移動式屋台を運営していた頃からその料理を何度も楽しんでいた。

安達食堂の佇まいと店の雰囲気

目的のレストランへとたどり着くと、そこはファンタジー風の古びた酒場のような佇まいであった。建物は古びていたが、修繕が行き届き、店先は清潔に保たれていた。店名は「安達食堂」と掲げられ、異世界の雰囲気にはそぐわないが、そこには店主の強いこだわりが感じられた。中に入ると、活気に満ちた店内では、多くのプレイヤーがそれぞれの食事を楽しんでいた。料理を肴に乾杯する者、スイーツを楽しむ者、さまざまな客層が集い、その多様なメニューの豊富さが際立っていた。

食の探求団のメンバーとの再会

カウンター席へ案内したのは、かつて移動屋台でも顔馴染みであったヒナであった。店の厨房には、彼女の弟でありリーダーのユズ、リーゼント姿の初老の料理人ロック、スイーツを担当するチェリーが揃っていた。彼らはそれぞれ得意分野を持ち、この店を支えていた。彼はメニューを開き、その安価な価格設定に驚く。パーティーメンバーが訪れた高級レストランとは対照的に、ここではリーズナブルな価格で多彩な料理が提供されていた。

懐かしき味と食文化の工夫

彼はまず、エールと角煮、卵焼きを注文した。卵焼きは甘めで、砂糖ではなくサツマイモ由来の水飴で甘さを出していた。角煮は長時間煮込まれ、箸でほぐれるほど柔らかく、甘じょっぱいタレと脂身の旨味が絶妙に絡んでいた。彼はその味わいに故郷の食卓を思い出し、エールを飲み干しながらその余韻を楽しんだ。エールはホップの代わりにハーブを使用したもので、古代のグルートエールに似た香りを持っていた。

ミックスフライ定食の魅力

彼は次に、ミックスフライ定食を注文した。トンカツとは異なる薄切り肉のフライ、ワカサギに似た小魚のフライ、白身魚やイカのフライが並び、それぞれが絶妙な揚げ加減で仕上げられていた。手作りのソースが用意され、フライだけでなく、キャベツにもたっぷりとかけられた。特に小魚のフライは、苦みを活かした味わいとなっており、和食の要素も取り入れられていた。食後には、定食についてきた漬物や梅干しを味わい、まるで現実の定食屋にいるような感覚に浸った。

驚愕の味噌汁と店の可能性

最も彼を驚かせたのは、スープではなく味噌汁が提供されたことであった。味噌の製造には一年半もの試行錯誤があり、その成果がここで味わえたのである。疲れた体に染み渡る味噌汁を飲みながら、彼はこの店の料理の再現度に感嘆した。味噌汁はおかわり自由であり、定食を頼む客の多くが味噌汁を注文していた。

安達食堂の未来と探求の意志

食の探求団のメンバーたちは、店舗の拡大には関心を持たず、現状維持を望んでいた。彼らにとって、この店は亡き両親が経営していた「安達食堂」を再現することが目的であり、急成長よりも着実な経営を重視していた。彼らは、食材探しや調理法の研究に全力を注ぎながら、日々の営業を楽しんでいた。店はすでに評判を呼び、攻略組のプレイヤーたちの間でも噂になりつつあった。

日々の積み重ねと新たな挑戦

営業を終えた食の探求団のメンバーは、今日の成果を語り合いながら賄いを楽しんでいた。彼らにとって、この店は単なる商売の場ではなく、夢を叶えた場所であった。ユズとヒナにとっては、親の店を取り戻したという達成感があり、彼らの探求はこれからも続く。翌日、彼はこの店の魅力をパーティーメンバーに語ったところ、「今夜、みんなで行くぞ!」という流れになり、再び足を運ぶこととなった。

第一話 ログイン、超初心者二人

VRMMOへの初挑戦

優月と姉の陽菜は、世界初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》の正式サービス開始に伴い、幸運にも最初の一万人のプレイヤーとしてゲームに参加する機会を得た。本来は従兄たちが当選していたが、都合により彼らが代わりにプレイすることになった。普段ゲームをしない二人にとって、この体験は特別なものであり、学校のクラスメイトたちからも羨望の眼差しを向けられていた。

《はじまりの街》の探索

ゲームを開始した二人は、百層からなる浮遊城《アインクラッド》の第一層にある《はじまりの街》へと降り立った。そこには、ヨーロッパの中世を思わせる街並みが広がり、多くのプレイヤーが興味津々に散策していた。彼らの目的は戦闘ではなく、食文化の調査であった。《ソードアート・オンライン》ではプレイヤー自身が体を動かして戦うため、魔法は存在しない。しかし、戦闘だけでなく、鍛冶や農業、音楽、料理など様々な活動が可能であり、二人はその中でも特に料理に関心を持っていた。

青空市場での食文化調査

市場へ向かった二人は、NPCの商人たちが営む食料品店を巡り、異世界の食材を観察した。並んでいるのは、見たことのない野菜や果物、モンスターの肉、香辛料などであった。特にカエルのような脚の肉や、鮮度が気になる川魚が目を引いた。彼らはまず、ヒョウタン型の果物を購入し、その味を試した。苦みと酸味が強く、日本で品種改良された果物とは異なっていたが、加工すればスイーツ作りに適している可能性があると陽菜は分析した。

串焼きの試食と食材の保存方法

次に、二人は香辛料がたっぷりまぶされた串焼きを購入した。肉は筋張っており、若干の獣臭があったが、スパイスによって風味が整えられていた。この世界には冷蔵庫が存在しないため、肉は干し肉や塩漬けが基本となっているようだった。彼らは、食材の保存技術がどの程度発展しているのか興味を持ち、今後の調査課題とした。

料理スキルの選択と武器の売却

市場を巡った後、二人はゲーム内のスキル選択画面を開き、迷うことなく《料理》を選択した。戦闘系のスキルは一切取らず、調理に専念することを決めた。スキル熟練度はゼロであったが、経験を積めば上達する可能性があった。彼らは料理に必要な調理器具を揃えるため、初期装備の武器を売却し、資金を確保することにした。ゲーム名は《ソードアート・オンライン》であったが、剣を振るうのは他のプレイヤーたちに任せ、二人はゲーム内で料理の可能性を追求することを決意した。

第二話 料理してみる姉と弟

料理スキルの習得と初めての調理

優月と陽菜は、料理スキルを習得し、最低限の食材と調理器具を揃えたものの、資金が不足していたため武器を売却していた。広場の一角で早速調理を始めることにし、まずは安価なモンスター肉を試すことにした。筋張っている可能性が高いため、薄切りにして調理することを決め、購入したまな板をベンチに置き、キッチンナイフで食材をカットした。スキルによる自動調理に違和感を覚えつつも、《ネギ塩肉》を完成させ、炭火で焼くことに成功した。

ポトフの調理と味の検証

次に、鍋を使った料理に挑戦した。見覚えのある野菜と、プレイヤーがよく食べるという干し肉を煮込み、ポトフを作ることを試みた。干し肉から塩気とスパイスが抽出され、スープの味は予想以上に本格的な仕上がりとなった。しかし、干し肉自体はスープに旨味を奪われてしまい、単体では物足りない味になっていた。長時間煮込めば肉は柔らかくなるかもしれないが、圧力鍋のような設備が必要であることを感じた。

料理スキルの意義とゲーム内経済への適応

調理の過程で、ゲーム内での料理の仕組みが現実と大きく異なることを実感したが、味の再現度は高かった。陽菜はこの体験を会社に報告し、今後もデータ収集を名目にゲームを続けられるよう画策していた。一方で、所持金が少なくなったため、今後の資金調達手段を模索し始めた。このゲームでは料理を売ることができるため、戦闘をせずとも生計を立てられる可能性があった。

ログアウト不能の異常事態

陽菜が報告のためにログアウトしようとしたところ、メニューにログアウトボタンが存在しないことに気づいた。二人は何度もメニューを確認したが、ログアウトする手段は見当たらなかった。ナーヴギアの仕様を考えると、外部から電源を切られるか、機器を外されることでしかゲームを終了できないが、二人暮らしであるため自力での脱出は不可能であった。従兄たちが状況に気づいてくれることを期待しつつも、不安が募っていった。

強制転移と《茅場晶彦》の宣告

突然、青い光に包まれ、視界が白くなった後、二人は《はじまりの街》の中央広場へと転送された。そこには同じく困惑する多数のプレイヤーが集まっており、空中に巨大な赤いローブを纏った人物が姿を現した。その人物は《ソードアート・オンライン》の開発者、茅場晶彦であった。彼は、このゲームからログアウトする方法は存在せず、クリアするまで脱出不可能であると宣言した。

死のゲームへの変貌

茅場は、ナーヴギアが外部から強制的に外されると、装着者の脳を焼く仕組みになっていると告げた。すでに213名のプレイヤーが死亡しており、現実世界ではこの事件が大々的に報道されていた。さらに、ゲーム内でHPが0になると、現実世界でも死ぬことになると説明された。二人は、あまりに非現実的な話に困惑しながらも、これが単なるイベントではないことを徐々に理解していった。

プレイヤーの姿の変化と現実の再認識

茅場は、最後にすべてのプレイヤーに《手鏡》を配布した。手鏡を手に取った瞬間、二人の体は白い光に包まれ、アバターが現実の姿へと変化した。周囲のプレイヤーたちも同様に、自分本来の姿へと戻されていた。茅場は、これが「ゲームではなく現実である」ということを理解させるための演出であった。

ゲーム内での生活への不安

現実の姿へと戻されたことで、二人は改めてこの世界に閉じ込められた事実を突きつけられた。優月は、翌日には友人にゲームの感想を伝える約束をしており、アルバイトの予定もあったが、連絡を取る手段がないことに絶望した。陽菜も、仕事の都合で長期の休みが取れない状況だったため、混乱していた。こうして、二人は望まぬ形で《ソードアート・オンライン》という命懸けのゲームに囚われることとなった。

第三話 姉と弟は相談をする

ログアウト不能への反応と冷静な判断

中央広場では、茅場晶彦の宣言を受け、多くのプレイヤーが絶望し、運営に助けを求める声が飛び交っていた。しかし、優月と陽菜は騒ぎに加わらず、広場の端で今後の方針を話し合っていた。二人は過去に両親を不慮の事故で失っており、突発的な困難にも冷静に対処する習慣が身についていた。これまでどんな困難にも相談し合いながら乗り越えてきたため、今回も状況を受け入れ、今できることを考え始めた。

今後の生存方針と生活手段の模索

ログアウトができないという現実を認めた上で、陽菜は政府や運営会社が対応してくれるはずだと考えていた。しかし、救出の時期は不明であり、それまでの生活をどうするか決める必要があった。優月は、戦闘の必要がない料理スキルに目をつけ、この世界での生存手段として活用することを提案した。ゲームをクリアすることは二人には無理な挑戦であり、戦闘経験のない彼らが前線に出ることは現実的ではなかった。陽菜もその意見に賛同し、まずはこの世界での生活に順応することを優先することにした。

経済的な問題とゲーム内での収入源

ゲームの中でも金銭が必要であり、所持金が尽きれば生活が厳しくなることは明白であった。戦闘を避ける以上、別の手段で資金を確保しなければならなかった。優月は、プレイヤー同士での取引が可能なことに着目し、料理を販売することで資金を得る案を考えた。陽菜も同意し、無理に戦うよりも料理スキルを活かした方が効率的だと判断した。彼らにとって、ゲームをクリアすることよりも、この世界で安全に生活を維持することが優先であった。

「安達食堂」の再現という新たな目標

二人は、両親が経営していた『安達食堂』を再開することを長年の夢としていた。このゲームの中でも、その夢を実現できるのではないかと考えた。現実の調理技術を向上させることは難しいが、飲食店経営の経験を積むことは有意義であると判断した。接客や経営の流れを実際に体験することで、将来に活かせる知識を得られると考え、店舗の開業を目指すことに決めた。

ゲームの信頼性への疑問と自分たちの選択

茅場晶彦の言葉を信じる保証はなく、百階層を攻略すればログアウトできるという話が真実であるかも不明であった。さらに、次の瞬間、ゲームが強制終了し、命を失う可能性も考えられた。こうした不確実な状況の中で、二人は現実世界と同様に、自分たちができることをするという結論に至った。戦うことなく生きる手段を見つけ、たとえゲーム内であっても、自分たちの好きなことをして生きていくことを選択した。

第四話 似た者同士、全員浮いてる

食材調査と経営戦略の検討

優月と陽菜は、はじまりの街で食材や料理の調査を進めることにした。どのような料理が作れるのか、そしてどのような料理なら商売になるのかを見極める必要があった。単に美味しいものを作るだけでなく、需要に合った料理を提供しなければ飲食店経営は成り立たない。二人は早速行動を開始し、中央広場を後にしようとした。

新たな仲間との出会い

その時、ふくよかで優しげな雰囲気の女性が声をかけてきた。彼女は《星野桜子》という主婦で、ゲーム内では《チェリー》と名乗っていた。VRMMORPGの経験はほとんどなく、初心者の仲間を探していたという。彼女は攻略に参加するつもりはなく、料理ならできそうだと考えていた。スーパーの惣菜売り場で働く経験を活かし、ゲーム内での調理に興味を持ったため、二人に同行したいと申し出た。優月と陽菜は彼女の申し出を受け入れ、共に食材調査を行うことになった。

ゲーム内での飲食とチェリーの決意

チェリーはログインして以来、何も食べていなかった。ダイエット中だったことと、ゲームの仕組みに慣れていなかったため、食事を後回しにしていたという。しかし、ログアウト不能になったことで、彼女の考えは変わった。ゲーム内ではどれだけ食べても太ることはなく、現実世界では病院で点滴管理されている可能性が高い。これなら安心して食事を楽しめると考え、たくさん食べて痩せるという独自の発想に至った。

資金不足とチェリーの申し出

優月と陽菜は、調理や買い食いをしたため所持金がほとんど残っていなかった。安価な店を探そうとしていたが、チェリーが自分の分だけでなく二人の分も奢ると申し出た。彼女はゲーム内通貨の《コル》の存在すら知らなかったが、二人はその厚意を受けることにした。新たな仲間との出会いは心強く、資金難の状況も一時的に解決できた。これを機に、二人はより早く料理で収入を得る方法を確立しようと決意した。

ゲーム内での生活方針の確立

他のプレイヤーたちは依然として混乱し、攻略に向けた話し合いをしていたが、優月たちは既に自分たちの方針を固めていた。戦闘に向いていない以上、無理に前線に出るよりも、料理を極め、この世界で生き抜く手段を確立することが重要だった。周囲からは異端視されていたが、彼らにとっては最も合理的な選択であった。こうして、三人は食事を求め、はじまりの街へと歩みを進めていった。

第五話 四人目の仲間は、ちょっと見た目が怖かった

飲食店の選択

優月たちは、はじまりの街の飲食店が集まるエリアに到着した。店の外観はファンタジー風であり、どの店もメニュー表を掲示していなかったため、どんな料理が提供されているのか分かりづらかった。チェリーが高級そうなレストランを見つけたが、奢ってもらうにしても遠慮があったため、庶民的な雰囲気の地元食堂を選ぶことにした。

店内に入ると、年季の入った家具や軋む床が目についた。懐かしさを覚える雰囲気の中、優月たちは店主であるNPCのおばさんにメニューを尋ね、最も安いスープと黒パンのセットを注文した。その際、店内に別の客がいることに気づいた。

謎のプレイヤーとの遭遇

店の奥には、五十代半ばほどの長身の男性が座っていた。ロマンスグレーのリーゼントが特徴的な彼は、熱心にメモを取っていた。ゲーム経験者らしき風貌ではあったが、実際は初心者であり、中央広場では誰にも相手にされなかったという。彼は《荒川巌》という名のグルメレポーターで、ゲーム内での食事を記録することを目的としていた。ゲームでは《ロック》という名前を使っていたが、別名を名乗ることには慣れていない様子であった。

ロックは優月たちと同様に攻略には参加せず、料理を通じて生き抜くつもりであった。彼の考えに共感した優月たちは、新たな仲間として受け入れることにした。

ゲーム内の最安食とその評価

料理が運ばれてくると、スープと黒パンの質は値段相応であった。スープはほとんど味がなく、肉の欠片が入っているかどうかは運次第であった。ロックはこの食事を「最低ランク」と評価し、詳細なメモを取っていた。彼は、リアルのグルメレポートと同様に、ゲーム内の食事を記録し続けることを決意していた。

チェリーもまた、ログアウトできない状況を前向きに捉え、ゲーム内での食事を楽しむつもりでいた。彼女は普段、スーパーの惣菜売り場で働いていたが、偶然息子のナーヴギアを使ってしまい、このゲームに閉じ込められてしまったという。パート先や家族への影響を心配しながらも、ここでの生活を模索するしかなかった。

それぞれの事情と新たな決意

ロックとチェリーがそれぞれの事情を語る中、優月たちも自身の境遇を明かした。両親を亡くしていること、親戚たちが心配しているだろうことを伝えると、チェリーは申し訳なさそうな表情を浮かべた。しかし、優月はすでにその事実を受け入れており、むしろ姉と共にログインしていたことを幸運だと感じていた。

四人は、ログアウトできる日が来るまで、このゲーム世界でできることを探しながら生き抜くことを決意した。それは、攻略に参加するのではなく、料理と食を追求するという道であった。

第六話 安達姉弟の事情

安達食堂の記憶

ロックは優月と陽菜の姓が「安達」であることに気づくと、過去に取材した有名な食堂「安達食堂」の話を持ち出した。彼の仕事はグルメレポーターであり、かつてその店を取材した経験があったという。安達食堂は地元で評判の店であり、店主夫妻の事故による突然の閉店を惜しむ声が多かったと語った。

優月は、両親の働く姿や店の活気を思い出した。食堂は、煮魚や焼き魚、カレーライス、洋食から和食まで幅広い料理を提供し、家族経営ながらも繁盛していた。彼と陽菜も幼い頃から手伝いをしており、常連客との交流を楽しんでいた。父は料理の腕が確かで、優月はその背中を見ながら調理の技術を学んでいた。一方の陽菜は接客や経理に向いており、二人で将来の店を継ぐことを考えていた。

両親の事故と食堂の閉店

しかし、五年前のある日、両親が結婚記念日に出かけたまま帰らぬ人となった。警察の連絡で病院の霊安室へ行き、初めて対面した両親の亡骸は傷も少なく、まるで眠っているようだった。優月と陽菜は実感が湧かず、涙を流すこともできなかった。ただ、その後の手続きや親戚たちの助けを借りながら、両親を見送ることに専念するしかなかった。

葬儀を終えた後、二人は安達食堂の鍵を閉め、ビルのオーナーに返却した。その瞬間、堪えていた感情が溢れ、二人は声を上げて泣いた。店の閉鎖は、両親との思い出が消えてしまうことと同じ意味を持っていた。

再開への決意

店を再開するには、当時の二人には経験も資金も足りなかった。両親の死後、店を維持するのは困難であり、最終的にビルオーナーが他の希望者へ貸し出すことになった。しかし、優月と陽菜は「いつか必ず安達食堂を再建する」と心に決めていた。

そのために、優月は調理師専門学校に進学することを決意し、陽菜は飲食業の経営を学ぶために大学へ進んだ。資金面では、両親の事故が飲酒運転によるものだったため、高額な賠償金と保険金が支払われ、生活には困らなかった。優月は飲食店でアルバイトをしながら技術を磨き、陽菜は大学卒業後、大手飲食チェーンに就職し、経験を積んでいた。

新たな道を探して

チェリーは二人の話を聞いて涙ぐみながら「偉い」と称賛した。一方、食堂のNPCはただ無表情に店の入り口を見つめていた。プレイヤーではない彼女の動きは、まるで人形のように感じられた。

なぜこの話をすることになったのかは分からなかったが、二人はこのゲームにログインするまでの経緯を振り返りながら、ここでの生き方を模索し始めた。

第七話 ログイン前夜

運命の日の前日

閉店した店舗と再開の可能性

十一月に入り寒さが増す中、優月は高校の授業が終わるとアルバイト先の喫茶店「藤井珈琲」へ向かって自転車を走らせた。その道中、かつて両親が営んでいた「安達食堂」の跡地である雑居ビル一階のステーキハウスが閉店したことに気づく。店の入り口には「今日で閉店します」との張り紙があり、オーナーの初老の男性が現れた。

オーナーによると、店主は家賃を三か月滞納し、ついには夜逃げをしてしまったという。「安達食堂」が閉店してからこの場所に入った店舗は四軒目だったが、どの店も長続きしなかった。オーナーは、もし優月と陽菜が店を再開するなら、この場所に戻ってほしいと願っていた。優月も、その可能性を考えながら喫茶店へ向かった。

夕食と新メニューの試食

アルバイトを終えて帰宅すると、陽菜がカレーを作っていた。実際には彼女の勤務先で試作され、不採用になったレトルトカレーを温めただけだったが、その香りは悪くなかった。食事をしながら、陽菜は会社がカレーのリニューアルを進めていることを話した。カレーは競争が激しく、新たな味を生み出すのは容易ではなかった。

優月は試食し、安達食堂のカレーと比較しながら意見を述べたが、「何かが足りない」と感じた。陽菜も「何百回も試作しているが、決め手となる味に至っていない」と嘆いた。二人は、料理の難しさを改めて実感しながら夕食を終えた。

VRMMOへの期待と仕事としてのログイン

食後、陽菜はソードアート・オンライン(SAO)のログインについて話し始めた。彼女の勤務先では、VRMMOを飲食業の宣伝に活用できないか検討しており、上司の指示で実際にゲーム内の食事を体験し、報告することになったという。しかも、その活動は「仕事」として認められ、休日手当も支給されるという好条件だった。

さらに、SAOのログイン権を持っていた従兄たちが、彼女たちの恋人が抽選に漏れたことで機嫌を損ね、ゲームの権利を譲ることになったため、優月と陽菜はこの機会を得ることになった。優月は「羨ましい」と思いながらも、ゲームを利用した宣伝戦略に興味を持った。

運命のログイン

SAOは剣技を駆使して攻略するゲームだったが、二人の関心は主に「ゲーム内でどのような料理ができるのか」という点にあった。特に、料理スキルの仕組みや、どんな調味料や食材が使えるのかを知ることが目的だった。優月はこの日のためにアルバイトを休み、友人たちにもゲームの感想を伝える約束をしていた。

しかし、二日後の十一月六日、二人がゲームにログインすると、SAOはデスゲーム化し、ログアウト不能の状態に陥った。それは、誰もが予想し得なかった運命の瞬間であった。

第八話 正式結成、ゆるゆるパーティ結成

料理人パーティーの結成

戦わずに生き延びる方法


四人は自己紹介を終え、薄い野菜スープと黒パンの定食を食べながら、このゲーム内で生き延びる方法について話し合った。モンスターと戦わずに生活するためには、それぞれの共通点である「料理」を活かしてお金を稼ぐしかないと結論づけた。初期装備を売却して最低限の調理器具を手に入れたため、簡単な料理ならば作ることができる状態であった。

ロックは、元々料理人を目指していた過去を持ち、料理を通じてこの世界を楽しむことを決めた。チェリーもお菓子作りが得意であり、料理人パーティーに加わることにした。こうして四人は、戦闘ではなく料理を中心に活動する方針を固めた。

安達食堂の再建計画

話し合いの中で、優月はゲーム内で両親の食堂「安達食堂」を再建することを提案した。ロックはそのアイデアを歓迎し、ゲーム内での成功を記事にしたいと考えた。チェリーもスイーツ担当として参加し、レストランとして店を開くことが最終目標となった。

しかし、店を開くためには莫大な資金が必要であり、まずは料理スキルを上げ、利益の出る料理を作ることが先決であった。現時点では食材や調味料の調達から始める必要があり、当面の目標は利益率の高い料理を開発し、小規模で販売することに決まった。

資金調達と料理スキルの向上

四人はまず料理スキルを取得し、料理の熟練度を上げることを最優先とした。料理の知識があっても、スキルレベルが低ければ失敗が増え、食材が無駄になるからである。そのため、まずは簡単な料理から始め、確実に利益を出しながらスキルを上げる方針を決めた。

また、食材の調達方法についても検討し、最初は町の店で購入するが、将来的にはフィールドで採取したり、モンスターからドロップする食材を活用する可能性も視野に入れた。姉の陽菜は、モンスターを狩って食材を得ることも考え始めていたが、当面は料理の販売を優先することになった。

宿泊場所と資金管理

料理を作るだけでなく、ゲーム内での生活費の確保も重要な課題であった。宿泊費を節約するために野宿の可能性も考えられたが、料理人としての衛生面を考え、最低限の宿代は確保する方針となった。また、食材購入費とのバランスを考えながら資金をやりくりする必要があった。

ロックは、料理が自分たちにとっての「武器」であり、調理器具こそが最優先すべき装備だと考えた。そこで四人は、戦闘用の武器を売却し、その資金で調理器具や食材を揃えることに決めた。

装備売却と調理器具の購入

四人は、武器を売却するために店へ向かった。戦わないことを決めた以上、武器を持っていても意味がないと考えたためである。その代わり、キッチンナイフなどの調理器具を揃え、本格的に料理人として活動する準備を整えることにした。

こうして、料理人として生きる道を選んだ四人は、資金を確保し、食材を仕入れ、スキルを磨きながら店の開業を目指すことになった。まずは、安くて簡単に作れる料理を考え、販売することで資金を貯めることが当面の課題となった。

第九話 スタートダッシュで、俺たちはジャムを煮る

料理人プレイヤーの挑戦

ジャム黒パン販売計画


四人は武器を売却して得た資金で食材を購入し、料理の販売を開始することを決めた。陽菜は、モンスター討伐を終えて空腹になったプレイヤーたちをターゲットにし、街の入り口で料理を販売する作戦を立てた。彼らの限られた資金で購入可能であり、なおかつ満足感を得られる食べ物が必要だった。

市場での食材調達

陽菜は青空市場で安価な果物を大量に購入することを決めた。それらは見た目が悪く、酸味や苦みが強いものばかりだったが、砂糖と煮詰めればジャムとして利用できると判断した。しかし、砂糖の価格が高く、予算を圧迫する状況となった。ロックとチェリーは、若者の挑戦を見守る大人として、資金の使い方を容認し、購入を許可した。

ジャム作りの開始

市場で仕入れた果物と砂糖を使い、ジャムを作ることになった。チェリーはお菓子作りの知識を活かし、果物の種類ごとにジャムを作る方法を指導した。砂糖を加えて果物から水分を抜き、煮詰める作業を行い、レモンのような柑橘類の果汁を加えて仕上げることで、甘さと酸味のバランスが取れたジャムが完成した。

ジャム黒パンの販売準備

ジャムが完成すると、次に黒パンを購入し、ジャムを挟んで販売する計画を立てた。陽菜は、ジャムの甘い香りを漂わせてプレイヤーたちの食欲を刺激し、疲れた体に甘いものを提供することで売上を伸ばすことを狙った。黒パンは一個1コルと安価であり、プレイヤーたちの節約志向にも合致していた。

販売開始と成功

日が暮れ、モンスター討伐を終えたプレイヤーたちが街へ戻り始めると、四人は積極的に呼び込みを開始した。ジャム黒パンの種類をアピールし、疲れたプレイヤーたちに甘いものの魅力を伝えた。最初の客が美味しそうに食べると、それを見た他のプレイヤーも次々に購入し、次第に評判が広がった。

完売と収益の確保

ジャム黒パンの売上は順調に伸び、作ったジャムは一日で完売した。販売を通じてまとまった資金を得ることに成功し、次の活動資金を確保できた。こうして四人は、料理を生業としてこのゲーム内で生き抜くための第一歩を踏み出したのである。

第十話 お婆ちゃんの知恵、大根水飴

ジャム黒パンの利益問題

利益の少なさに気づく


ジャム黒パンの販売を終え、四人は節約のため風呂なしの四人部屋に宿泊することにした。しかし、陽菜が所持金を確認すると、ほとんど利益が出ていないことが判明した。翌日の仕入れ代金は確保できたものの、今後の事業拡大には資金が不足する状況であった。ジャム作りに必要な砂糖の価格が高く、値上げをすれば客が離れる可能性があるため、コスト削減が求められた。

水飴の活用

ロックは、ジャムの製造コストを下げるために水飴を作る方法を提案した。彼は事前に宿へ向かう途中で《ワイルドスポニアの実》という大根のような根菜と、《イクチオイドの芋》というサツマイモに似た芋を購入しており、それらを利用して水飴を作る計画を立てた。デンプンを抽出し、アミラーゼの作用で糖に変換することで、砂糖の使用量を抑えたジャムの製造が可能となった。

水飴の製造と成功

四人は夜の宿屋で水飴作りに挑戦した。デンプンを取り出し、大根の搾り汁と混ぜて糖化させた後、煮詰めて水飴を完成させた。若干の大根風味が残るものの、ジャムに混ぜれば違和感はなく、砂糖の使用量を減らすことで大幅なコスト削減が実現した。これにより、ジャム黒パンの価格を維持したまま利益を確保することが可能となった。

廃材を活用した新メニュー

ロックはさらに、水飴作りで残った芋と大根を再利用し、《芋餅》と《大根餅》を作ることを提案した。少量の小麦粉、ネギ、塩を加えて練り、フライパンで炙ることで食感の良い焼き餅が完成した。翌日から、ジャム黒パンとともにこれらを販売することに決定した。

販売の成功と常連客の増加

夕方、プレイヤーたちが街に戻ると、ジャム黒パンは昨日と同様によく売れた。さらに、興味を持ったプレイヤーが芋餅と大根餅を試食し、その素朴な味と手軽さから新たな人気商品となった。数日もすると、街の入り口での販売は定着し、常連客が増え、食事目的だけでなく休憩として訪れるプレイヤーも現れた。

新たな挑戦:ピザとコーラ

プレイヤーの一人であるクラインは、放課後に菓子パンやカップ麺を食べる学生時代の思い出を語り、ピザとコーラの提供を要望した。陽菜はピザの再現は可能だと考えたが、チーズの入手やピザソースの調合が課題となった。一方、コーラは水、スパイス、レモンを煮詰めて作ることが可能だが、炭酸水の調達が問題であった。四人は新たな料理を開発する決意を固め、食材探しと料理スキルの熟練度上げに励むことを決めた。

第十一話 不思議食材【ルーレット・ベリー】

新たな果物とジャム作り

ルーレット・ベリーの発見と購入


ジャム黒パンの販売が順調に進む中、露天商のNPCと親しくなったことで、彼は特別な果物を安価で提供してくれるようになった。その日、彼が勧めたのは《ルーレット・ベリー》というピンク色の小粒の果物であった。名前に「ルーレット」とついている理由は不明だったが、安価で大量に仕入れられることから購入を決めた。しかし、試食してみると、粒ごとに味が異なり、極端な苦味、強烈な酸味、驚くほどの甘さ、しょっぱさ、さらには漢方のような風味まで混在していた。

ジャムの試作と販売開始

ルーレット・ベリーの特性を活かし、新たなジャムを作成することにした。ジャムにすれば味が均一化されると考え、『本日の限定品』として販売を開始した。これまでの実績が信頼を生み、客たちは興味を示して購入していった。しかし、彼らが口にすると、それぞれ異なる反応を示し、ジャムの味が食べる人によって違うことが判明した。甘いものを期待していた客が苦味や辛味に驚き、不満の声を上げる場面もあった。

予想外のバフ効果

問題が発生したため返金を検討していたところ、一部の客が《幸運判定ボーナス》のバフを得ていることが判明した。しかし、全員に付与されるわけではなく、特定の条件下でのみ発動することが明らかになった。実験の結果、甘いルーレット・ベリーのジャムを食べた者のみにバフが付与されるという仕組みであった。バフの発動条件が運任せであることや、効果時間が短いことから、実用性には疑問が残ったが、それでもギャンブル的な楽しさから多くの客が購入を希望した。

新たな果物《スラギッシュ・カラント》

ルーレット・ベリーの販売が終わると、あるプレイヤーが見慣れない果物を持ち込み、ジャムにしてほしいと依頼してきた。その果物《スラギッシュ・カラント》は黒くて小さく、酸味と甘味のバランスが絶妙であった。ジャムにすると後味がすっきりし、黒パンとの相性も良く、大きな可能性を感じさせた。しかし、このジャムを食べた客たちが口々に「体が重い」と訴え、HPバーには敏捷度が下がるデバフが表示されていた。これにより、スラギッシュ・カラントのジャムには移動速度を低下させる特殊効果があることが判明した。

ジャム作りの新たな展開

ジャム黒パンの販売が続く中、プレイヤーたちの間で「ジャム作りといえば彼ら」という認識が広まり、珍しい果物を持ち込む者が増えた。さらに、ジャムを瓶詰めにして販売する新たな収益モデルも生まれ、少しずつ資金を蓄えることに成功した。こうして、四人の料理人パーティーは新たな食材の発見と研究を重ねながら、着実に成長していった。

第十二話 ようやく戦闘指南を受ける

パーティー結成とリーダー選び

ソードフォーとの交流


ジャム黒パンの販売を続ける中、《ソードフォー》という戦闘のエキスパート集団と知り合い、親しくなった。彼らのリーダーであるケインは、清潔感があり、人当たりの良い若い男性で、初心者である食の探求団にも親切だった。ある日、彼からパーティーのリーダーは誰なのかと尋ねられたが、実は正式なパーティーすら組んでいなかったことに気づいた。

リーダー選びとパーティー名の決定

正式なパーティーを作るにあたり、リーダーを決める必要があった。しかし、ロック、チェリー、ヒナの三人は皆、リーダー役を避けたがり、最終的に年少者である優月が押し付けられる形で決まった。さらに、パーティー名が必要だという提案を受け、《食の探求団》と名付けることとなった。これにより、ようやく正式なパーティーとして活動を開始することになった。

戦闘未経験の現実

ソードフォーのメンバーから、戦闘経験について尋ねられたが、優月たちは料理スキルの熟練度上げを最優先としており、一度もモンスターと戦ったことがなかった。さらに、初期装備すら売却していたことが判明し、ケインたちは呆れるも、戦闘の重要性を説いた。彼らの助言を受け、優月たちはついに戦闘スキルの習得を決意した。

初めての戦闘訓練

翌日、ソードフォーの指導のもと、最弱モンスター《フレンジー・ボア》と戦うことになった。しかし、いざモンスターと対峙すると優月は恐怖で動けず、攻撃をためらってしまう。そんな彼を救ったのはヒナであり、一撃でモンスターを倒してしまった。さらにロックも順調に討伐を進め、二人が攻撃の要であることが明確になった。

戦闘スタイルの確立

優月は試行錯誤の末、敏捷力に全振りすることを決意し、サポート役としての立ち回りを意識するようになった。戦闘に慣れると、徐々に青イノシシを一撃で倒せるようになり、経験値を積んでいった。ソードフォーの助言もあり、ヒナとロックが前衛、優月がバックアップという戦闘スタイルが確立された。

チェリーの戦闘適性の欠如

一方、チェリーは戦闘に苦戦し、アッキーの助けを借りてようやく一匹を倒すのが精一杯であった。そのため、彼女は実戦には不向きと判断され、いざという時の「切り札」として扱われることになった。こうして食の探求団は、戦闘にも対応できるようになり、今後の食材調達の選択肢を広げることに成功した。

第十三話 テコ入れでクリームを手に入れる

競争激化と新メニュー開発

売り上げの低下


ジャム黒パンの販売が軌道に乗った矢先、同じような商品を売るライバルが次々と現れ、客の奪い合いが始まった。安売り競争の影響で利益が減少し、新たに開発した青イノシシ肉サンドも決定打とはならず、客足の回復には繋がらなかった。市場が飽和し、価格競争に巻き込まれつつある状況を打開するため、さらなる工夫が求められた。

ジャム黒パンの強化策

ヒナは新メニューの開発ではなく、既存のジャム黒パンを強化する方向で改善を図るべきだと提案した。ジャムの増量や木の実のトッピングが候補に挙がったが、もう一工夫が必要だった。そんな折、ケインが「クリーム」を手に入れるクエストの存在を教えてくれた。ジャム黒パンにクリームを加えれば、他の店と差別化できる可能性があると考えた食の探求団は、このクエストへの挑戦を決意した。

クエスト《逆襲の雌牛》への挑戦

ホルンカの村へ向かい、クリームを得るためのクエスト《逆襲の雌牛》を受注した。内容は行方不明の仔牛を探し出すという単純なものだったが、問題は母牛を連れて行かなければならないことだった。母牛の機嫌を損ねないよう定期的に岩塩を与えながら進むという制約があり、慎重に行動する必要があった。

母牛の逆襲と戦闘の展開

森の中で巨大蜂《フォレスト・ワスプ》に襲われながらも、ヒナとロックが順調に撃破し、ついに仔牛を発見した。しかし、そこには仔牛を奪おうとするコボルドたちの姿があった。戦闘になりかけた瞬間、突如として母牛が突進し、最も強そうなコボルドを吹き飛ばしてしまった。ケインが戦闘を止めた理由が、ここで明らかになったのだった。残る二匹のコボルドは、食の探求団のメンバーで無事に討伐することができた。

クリームの入手と新メニューの試作

クエスト報酬としてクリームを手に入れた食の探求団は、さっそく試作を開始した。ジャム黒パンにクリームをのせ、砕いた木の実やフルーツをトッピングすることで、豪華なデザートメニュー《ダブルジャムクリーム黒パン、木の実フルーツのせ》が完成した。試食したケインたちはその美味しさを絶賛し、この新メニューを売り出すことが決定された。

市場への再参入と差別化戦略

三日間のクエスト挑戦を終えて街に戻ると、ライバルたちが増え、市場はさらに競争が激化していた。しかし、食の探求団は価格競争には加わらず、ジャムの種類を増やし、クリームを使った高級メニューを提供することで差別化を図った。「数量限定」「特別メニュー」という付加価値をつけたことで、客の関心を惹きつけることに成功し、売上は急速に回復した。

クリームの安定供給戦略

クリームの供給が限られているため、客自身にクエストでクリームを持参させることで、仕入れを効率化する戦略が取られた。クリームを持ち込めば割引価格でスイーツが購入できるというシステムが好評を博し、クエストに挑戦するプレイヤーが増加した。こうして食の探求団は、価格競争に巻き込まれることなく、自らのブランドを確立することに成功した。

食の探求団の成長

市場の競争が激化する中、ヒナの経営戦略が功を奏し、食の探求団はジャム黒パンの老舗ブランドとして確固たる地位を築いた。料理を中心に活動するパーティーとしての方向性も明確になり、今後の新メニュー開発に向けた展望が開けたのだった。

第十四話 水と塩だけのスープ(潮汁)を作ってみる

新メニュー開発と料理スキルの向上

順調な商売と競争への対応


ジャム黒パンの販売は引き続き好調であったが、ライバルの増加により市場競争が激化した。食の探求団はお客の飽きを防ぐため、常に新しい工夫を取り入れるよう努めた。ヒナの発案で、定期的な対策会議が開かれ、新メニュー開発や差別化戦略が話し合われた。彼女のリーダーシップにより、単なる競争ではなく、常に一歩先を行く姿勢が保たれていた。

料理スキルの熟練度向上の必要性

ロックは、新メニュー開発以上に料理スキルの熟練度向上が重要だと提案した。料理スキルが一定値に達すると《Mod》が選択でき、料理の効率が向上する。すでにいくつかの《Mod》を取得していたが、さらなる強化が必要であった。日々の料理で自然と熟練度は上がっていたものの、より効率的にスキルを向上させる方法を模索することになった。

潮汁による熟練度稼ぎ

ロックは、食材をほとんど使わずに料理スキルを鍛える方法として、潮汁(塩と水のみのスープ)を繰り返し作る案を提案した。料理の基本である塩加減を学ぶと同時に、スキル熟練度を効果的に向上させることが目的であった。最初の試みでは塩分濃度の調整が難しく、しょっぱすぎたり薄すぎたりする問題が続いたが、試行錯誤の末、理想的な塩梅を見つけることができた。

料理スキル熟練度の向上と新たなModの取得

潮汁の試作を続けた結果、全員の料理スキル熟練度が100を超え、新たな《Mod》が解放された。その中には《塩梅》という塩加減に影響を与えるものがあり、味付けの失敗を防ぐ効果が期待できた。この《Mod》の取得により、今後の料理の安定性が向上し、味のブレが少なくなることが確信された。

スポーツドリンクの開発と販売

潮汁の試作を続ける中で、ヒナはその応用としてスポーツドリンクの開発を思いついた。水と塩に水飴と柑橘系果汁を加えたところ、現実世界のスポーツドリンクに近い味わいの飲み物が完成した。戦闘で疲労するプレイヤーにとって最適な補給飲料となる可能性があり、すぐに販売が開始された。空き瓶を持参すれば安く購入できる仕組みを導入したことで、リピーターが増え、新たな収益源となった。

新メニューによる市場の拡大

スポーツドリンクは、ジャム黒パンと並ぶ新たな人気商品となった。プレイヤーたちの健康管理にも寄与し、特に戦闘後のプレイヤーたちに需要が高まった。こうして食の探求団は、ただの料理販売にとどまらず、ゲーム内における食文化の発展に貢献する存在へと成長していった。

第十五話 (フレンジー・ボアー)のパンチェッタ

新メニュー開発と青イノシシ肉の活用

肉料理への挑戦


食の探求団は、これまでジャム黒パンや芋餅などの軽食を中心に販売していたが、新たな試みとして肉料理に着手することにした。最も手に入りやすい食材である青イノシシの肉を活用し、食べ応えのあるメニューを開発する方針を決定した。しかし、この肉は硬く、筋が多く、獣臭さが強いため、そのまま焼くだけでは美味しくならなかった。そこで、調理方法に工夫を凝らすことが求められた。

青イノシシ肉の加工とパンチェッタの試作

チェリーは、青イノシシの肉をパンチェッタに加工することを提案した。パンチェッタは塩漬けして熟成させることで、旨味を引き出し、保存性を高めることができる。塩を使うため、潮汁作りで得た《塩梅》のModを活かせる可能性もあった。まずは普通の塩を使って試作し、ハーブや香辛料を工夫しながら加工を進めた。三日間の熟成を経て、無事にパンチェッタの製造に成功したが、一部の肉は失敗し、異臭を放つものもあった。

新メニューの開発と調理器具の充実

パンチェッタの成功を受け、さらに活用方法を模索した。まずはポトフを試作し、野菜と煮込むことでパンチェッタの旨味がスープに溶け込み、滋味深い一品が完成した。その他にも、パンチェッタと野菜の炒め物、カリカリに焼いたパンチェッタのサラダ、ジャガイモとの炒め物、ニンニクを効かせたパスタなど、次々と新メニューが生まれた。これらの料理を提供するため、調理器具も充実させ、テーブル型コンロや大鍋を活用するようになった。

食事需要への本格参入

ジャム黒パンの売り上げは安定していたものの、軽食だけでは市場の拡大が難しかった。そこで、食事としての需要を取り込むため、パンチェッタを活用した料理を前面に押し出した。呼び込みを強化し、ポトフや炒め物などのメニューをアピールした結果、戦闘を終えたプレイヤーたちが食事を求めて立ち寄るようになった。特に野菜不足を意識するプレイヤーたちには、栄養バランスを考えたメニューが好評を博した。

今後の課題と展望

新メニューの成功により、売り上げは向上したものの、立ち食い形式では一部のプレイヤーに敬遠される可能性があった。そこで、今後は簡易的なテーブルや椅子を用意し、より快適に食事を楽しめる環境を整えることが検討された。こうして食の探求団は、軽食販売から本格的な食事提供へと一歩踏み出し、新たな市場を切り開いていくことになった。

第十六話 まるでマジックアイテム!偏屈な職人が作るハンドミルサーを手に入れろ!

ハンドミルサーの探索と職人への交渉

野外販売の拡大と店舗探し


はじまりの街の入り口や中央広場では、野外で調理した料理を販売するプレイヤーが増えていた。多くの者が店舗を借りる余裕がなく、仕方なく野外販売を選択していた。探せば格安の物件もあったが、いずれも事故物件のようで誰も手を出せなかった。食の探求団は、小さなテーブルや椅子を設置し、看板を掲げることで簡易的な店舗の雰囲気を演出していた。現時点では公道での販売に対する制約はなく、ゲーム内の治安維持兵も特に介入してこなかった。

料理販売の成長と設備の補充

プレイヤーの数が増えるにつれ、販売の需要も高まり、必要な調理器具や食器が不足し始めた。閉店後、食の探求団は調理器具を補充するため商業区画へ向かった。高品質な調理器具を眺めながら、限られた予算の中で何を優先すべきか議論した。現段階では、手持ちの道具を活用しながら料理のレパートリーを増やすことが最優先とされた。

謎の売り切れ商品と新たなクエスト

調理器具店を訪れた際、いつも売り切れとなっている棚の存在に気がついた。そこに近づくと《!》マークが浮かび、新たなクエストが発生した。店員によると、棚には本来《ハンドミルサー》が置かれているはずだったが、ある職人がこの店への納品を拒否しているため入荷していないという。その職人は《生活鍛冶師》を名乗り、武器の製造を拒絶する人物だった。店で販売されていた戦闘用にも使えるキッチンナイフが原因で、納品契約を打ち切ったとのことだった。

職人への交渉を決意

ハンドミルサーは、ジュースやスムージーの作成、野菜の刻み、肉や魚のミンチ化など、多くの料理に応用できる便利な道具であった。特に食の探求団にとっては、料理の幅を広げる重要なアイテムとなるため、どうしても手に入れる必要があった。店員によると、これまで多くの者が職人を訪ねたものの、誰一人として成功していないとのことだった。しかし、店員は職人の居場所をあっさりと教えてくれたことから、単に訪れるだけでは入手できず、特定の条件を満たさなければならない可能性が高いと推測された。

クエスト攻略への準備

食の探求団は、攻略のヒントを得るためにアルゴの攻略本を確認したが、ハンドミルサーに関する情報は載っていなかった。どうやら攻略に直接関係のないアイテムのクエストは記録されていないらしい。だが、彼らにとっては極めて重要なアイテムであり、どうにかして手に入れる必要があった。そのため、翌日はお店を休業し、職人の家を訪れることを決定した。こうして、食の探求団は新たな挑戦に向けて動き出したのである。

第十七話 料理系クエスト開始!

ハンドミルサーの獲得と新メニューの開発

職人のもとを訪ねる


食の探求団は、店員から聞いた職人の家を訪れるため、早朝に街を出発した。住宅地の狭い路地を抜けると、目当ての《生活鍛冶ブンセン》という看板が見つかった。店の前に客の姿はなく、これまで誰もハンドミルサーを購入できなかったことがうかがえた。食の探求団は、職人に直接交渉し、何としてもハンドミルサーを手に入れようと意気込んでいた。

偏屈な職人との対面

工房の扉を開けると、初老の職人が金床で鎌を鍛えていた。彼は作業に集中し、食の探求団には目もくれなかった。しばらく待つと、職人は手ぬぐいで汗を拭き、ようやく彼らに気づいた。そして、武器を作らないことを強調し、武器を求めに来たのかと怒鳴った。食の探求団は武器ではなく、ハンドミルサーが欲しいと説明し、職人の誤解を解こうとした。

クエストの開始と料理の試練

職人はハンドミルサーの製造には技術が必要で、適当に扱う者には売るつもりがないと述べた。そのため、食の探求団に対し、ハンドミルサーを用いて彼を唸らせる料理を作ることを求めた。クエストの条件は戦闘ではなく、料理で証明することだった。彼らにとっては、まさに最適な挑戦であった。

最初の料理:フレンジー・ボアのミートボール入りポトフ

まず優月が挑戦し、フレンジー・ボアの肉をハンドミルサーでミンチにした。そこに塩、ハーブ、炒めたタマネギ、パン粉、卵を加え、ミートボールを作成。これを野菜とともに煮込み、《フレンジー・ボアのミートボール入りポトフ》を完成させた。職人は黙々と料理を食べ、合格と判断したが、もう一品作るよう求めた。

二品目:自家製水ギョウザ

次に姉が挑戦し、小麦粉を練って作った皮でミンチ肉と野菜を包み、水ギョウザを調理した。焼きギョウザよりも失敗しにくいことを考慮し、スープ仕立てにした。味付けは醬油や味噌がないため、塩やスパイスで代用した。職人はこの料理にも満足したが、さらにもう一品作るよう指示した。

三品目:カボチャのポタージュスープ

ロックが三品目として、カボチャとタマネギを煮込み、ハンドミルサーで攪拌し、牛乳を加えた《カボチャのポタージュスープ》を提供した。シンプルながらも、ミルサーの性能を活かした一品であった。しかし、職人はまだ納得せず、四品目を求めた。

最後の一品:スムージーとジュース

チェリーが最後の料理として、ハンドミルサーを使ってフルーツスムージーと野菜ジュースを作成した。牛乳やクリームを加えたスムージーや、栄養豊富な青汁も用意し、職人に提供した。職人はすべての料理を飲み干し、ついに合格を言い渡した。食の探求団の人数分のハンドミルサーを購入できることになり、無事にクエストをクリアした。

新メニューの開発と販売戦略

ハンドミルサーの購入費用は高額であったが、これにより料理の幅が大きく広がった。彼らは早速、この新たな調理器具を活用し、翌日から新メニューの販売を開始した。朝の時間帯にフルーツジュースや青汁、スムージーを販売し、街を出る前のプレイヤーをターゲットにした。朝食を取らない者でも気軽に飲める商品であり、売り上げは順調に伸びた。

調理器具の価値と今後の展望

ハンドミルサーは、ミンチ肉の作成、スムージーの攪拌、食材の粉砕など、多様な用途に対応できた。食の探求団はこれを活かし、さらに新しい料理を開発していくことを決意した。料理の販売だけでなく、調理に関わる情報も他のプレイヤーに共有し、より多くの人々が料理の楽しさを知るきっかけを作ることを目指した。

第十八話 料理人プレイでも愛用の刃物は必要だ

キッチンナイフの更新と料理の進化

調理器具の品質と料理の味


食の探求団は、調理スキルの熟練度と使用する調理器具の品質が、料理の味に大きく影響することを実感していた。特にキッチンナイフの切れ味は重要であり、現在使用している最も安価なナイフでは、食材の切り口が粗くなってしまうことが問題となっていた。料理の売り上げが安定してきたため、高品質なキッチンナイフの購入を決意し、ハンドミルサークエストで知り合った鍛冶師ブンセンの工房を訪れた。

ブンセンの工房での買い物

工房では、高品質な調理器具が販売されており、特にキッチンナイフに優れたものが揃っていた。しかし、その価格は高額であり、食の探求団の財政を管理する姉は慎重な姿勢を崩さなかった。それでも、料理の質を向上させるため、試しに一本だけ《インサイシヴ・キッチンナイフ》を購入することを決定した。ブンセンが作ったこのナイフは、美しい仕上がりと抜群の切れ味を誇り、まさに料理人にとって理想的な道具であった。

新しいキッチンナイフの効果

翌日、新しいキッチンナイフを使って調理した料理は、明らかに味が向上していた。ケインたちもその違いに気づき、料理のクオリティが上がったことを認めた。さらに、ケインはこのキッチンナイフが武器としても使えるのではないかと指摘したが、食の探求団はあくまで料理のために使用することを決めた。戦闘に使われた刃物で調理をすることに対する抵抗感や、店の評判を守るための判断であった。

ナイフの強化と食材の確保

より良い料理を作るため、ナイフの強化を検討した。ゲームの仕様上、武器を強化すると性能が向上するため、キッチンナイフも《鋭さ》や《正確さ》を向上させれば、食材をより適切にカットできるのではないかと考えた。しかし、強化には素材と費用が必要であり、それをどう確保するかが課題となった。最終的に、戦闘よりも料理を活かして資金を稼ぐことを選び、新メニューの開発に取り組むことになった。

青イノシシ狩りと新メニュー開発

新しい料理のため、まずは青イノシシの肉を確保する必要があった。食の探求団は街の外に出て、青イノシシ狩りを行った。戦闘には慣れてきていたが、レベルが低いため、より強いモンスターを狩るのは困難であった。そのため、より良い武器を手に入れるか、戦闘を避ける方法を模索する必要があった。そこでチェリーが提案したのは、武器強化に必要な素材を料理と交換するというアイデアであった。

しゃぶしゃぶの販売と成功

青イノシシの肉を活かした新メニューとして、《フレンジー・ボア肉のしゃぶしゃぶ》を考案した。しゃぶしゃぶは調理の手間が少なく、客単価も高いため、効率的に利益を上げることができる。さらに、鍋料理のシメとして《担々麺風パスタ》も提供し、追加の売り上げを狙った。結果として、しゃぶしゃぶとシメのセットは予想以上に人気を博し、多くのプレイヤーが注文した。

料理を軸にした戦略の確立

食の探求団は、新メニューの成功により、戦闘を最小限に抑えつつ資金を確保する方法を確立した。武器の強化は必要ではあるが、戦闘よりも料理を通じた収益の方が効率的であると判断し、今後も料理のクオリティ向上を最優先する方針を決定した。インサイシヴ・キッチンナイフのさらなる強化を目指しつつ、新しい料理の開発にも積極的に取り組んでいくこととなった。

第十九話 カレーは黄色くないとね

カレーパンの販売と新たな課題

カレーパンの販売開始


フライパンで焼き上げたカレーパンは、香ばしいカレーの匂いで多くの客を引き寄せた。昨日、紫色のカレーを酷評していたケインたちも、新たな料理には期待を寄せており、戦闘後の空腹に抗えず購入した。パンの中にカレーを包むことで色の問題を隠し、食べやすくした結果、客の反応は良好であった。しかし、食べ進めるうちに紫色のカレーが見えてしまい、食欲を削がれる者もいた。カレーの味は好評だったが、やはり色の問題が解決しない限り、大ヒットには至らなかった。

黄色いカレーの調合試行

黄色いカレーを作るための試行錯誤が続けられた。試作したカレーは色が改善されつつあったが、味が損なわれるという新たな問題が浮上した。ケインたちに協力を仰ぎ、食材や調味料についての情報を集めることにした。その過程で、新たなメニュー「カレー粥」が考案された。フライドオニオンのアクセントが加わり、味は申し分なかったが、やはり紫色という問題が大きく、売れる気配はなかった。

着色料の探索と《エディブル・カラーピグメント》

カレーの色を変えずに着色できるアイテムの探索が始まった。ケインの仲間たちも協力し、料理に使える着色料の情報を集めた。その結果、《エディブル・カラーピグメント》というアイテムの存在が判明した。これは天然の花弁から調合できる食用着色料で、デモニッシュ・サンフラワーという花の花弁から作られることがわかった。黄色いカレーの実現に必要な素材として、食の探求団はその採取を決意した。

デモニッシュ・サンフラワーの採取戦闘

デモニッシュ・サンフラワーの花弁を求め、ケインたちの協力を得ながら危険な沼地を越えた。道中、大型のカエルとの戦闘を経験し、食材としての可能性も探った。そして、目的の花を発見したが、それは単なる植物ではなく、モンスターであった。予想外の戦闘となったものの、鍛えた武器とチームワークにより、無事に撃破し、花弁の採取に成功した。

《エディブル・カラーピグメント》の作成と問題点

花弁を持ち帰り、《エディブル・カラーピグメント》の作成が試みられた。調合スキルを取得し、店主の助言を受けながら作業を進めると、黄色い着色料が完成した。さっそくカレーに投入したところ、紫色のルーは確かに黄色くなった。しかし、仕上がったカレーは理想的なカレーの黄色ではなく、レモンのような明るい色合いで、さらに光を受けると蛍光色に発光するという予想外の現象が発生した。

蛍光カレーの販売と失敗

翌日、黄色くなったカレーを販売してみたものの、予想どおり客の反応は鈍かった。紫色のカレーよりは受け入れられたものの、発光するカレーは不気味に映り、夜になるとさらに奇妙さが際立った。鍋の中で光るルーを見た客は注文をためらい、結果として売れ行きは伸び悩んだ。改良の余地はあったが、完全な成功とは言えなかった。

スイーツへの転用と新たな展開

カレーに適さなかった《エディブル・カラーピグメント》は、チェリーと姉によってスイーツの着色に利用されることになった。ゼリーに活用すると、その発光特性がかえって魅力となり、鮮やかなデザートとして受け入れられた。スイーツとしての新たな活路を見出し、結果的に食の探求団の活動の幅を広げることとなった。カレーの色の問題は未解決のままだったが、次なる挑戦へ向けて、新たな可能性が開かれた。

第二十話 しかし、黄色いカレーはあきらめられない

新たな商機とトールバーナへの移動

トールバーナへの移動と販売開始


ソードアート・オンラインに閉じ込められてから時間が経ち、プレイヤーたちは次第にこの世界での生活に適応しつつあった。食の探求団も例外ではなく、野外の屋台ながら安定した収益を得るまでになっていた。はじまりの街からトールバーナへの移動を決断したのは、モンスターを討伐して収入を得る上位層から中間層のプレイヤーがこの町に集まってきたためである。彼らは購買力があり、新メニューへの関心も高く、高価な料理でも試しに購入する余裕があった。

商売の拡大を図るため、宿泊先の安宿で就寝前の会議が開かれた。議題は、店舗を持たない現状の不便さと、今後の展望についてであった。屋台での調理は食材や調理器具の出し入れが手間となり、準備に時間を要する。そのため、移動式の屋台の必要性が議論されたが、具体的な情報はまだ不足していた。翌日以降、トールバーナで情報を集めることが決まり、改めて商売の基盤を固めることとなった。

謎の老人客の出現

トールバーナでの販売を続ける中、ある夕方、一人の老人が店を訪れた。彼はプレイヤーではなく、明らかにNPCであったが、料理を購入し、静かに食べて去っていった。NPCがプレイヤーの店で買い物をするという前例がなく、食の探求団のメンバーは困惑した。この老人の来店は翌日も続き、異なる料理を提供しても変わらず完食し、礼を述べて去っていった。

NPCがプレイヤーの店を訪れること自体が異例であり、これが何らかのクエストの伏線である可能性が考えられた。ケインたちの助言を受け、老人の行動を慎重に観察することになった。

老人の正体とブンセンの関係

三度目の来店時、老人はユズが使用する《インサイシヴ・キッチンナイフ》について質問した。このナイフははじまりの街の鍛冶職人ブンセンの工房で購入したものであり、老人はその工房の前代の主を知っていた。かつての料理人であったことを明かし、静かに去っていった。

この情報をもとに、食の探求団はブンセンに老人のことを尋ねることで、何らかのクエストが発生するのではないかと考えた。はじまりの街への移動には時間がかかるため、目先の売り上げよりもクエストの成果を優先する決断を下した。しかし、移動を開始しようとした矢先、予想外の人物と遭遇することとなる。

ブンセンとの再会

トールバーナの入り口で食の探求団を待っていたのは、はじまりの街で鍛冶工房を営むブンセンであった。彼の登場により、わざわざ戻らずとも老人について直接話を聞く機会が得られることになった。ここから、食の探求団は新たな展開へと進んでいくこととなる。

第二十一話 屋台型アイテムの噂

トールバーナへの移動と商売の展開

トールバーナでの営業開始


ソードアート・オンラインに閉じ込められてから時間が経ち、多くのプレイヤーがこの世界での生活に適応していた。食の探求団もまた、料理を作り販売することで安定した収益を得るようになっていた。新たな商機を求め、彼らは第一層の迷宮区に近い《トールバーナの町》へ移動し、そこでの営業を開始した。

この移動の背景には、ケインたち戦闘系プレイヤーの多くがトールバーナに拠点を移していたことがある。彼らは購買力が高く、新メニューにも興味を示すため、商売相手として理想的であった。彼らに料理を提供することで、効率よく資金を貯め、将来的な店舗購入へとつなげる狙いがあった。

営業の課題と対策

営業が軌道に乗る中、食の探求団は野外での調理の手間に悩まされていた。ストレージから毎日調理器具や食材を出し入れする手間は大きく、今後メニューが増えれば負担はさらに増加することが予想された。

この問題を解決するため、彼らは移動式の屋台の導入を検討し始めた。固定店舗は高額であり、プレイヤーの多くが上層へ移動する可能性を考えるとリスクが高い。そのため、簡易な調理場を備えた屋台があれば、営業の効率を向上させることができると考えた。翌日以降、トールバーナで情報を集めることを決定した。

謎の老人の来訪

営業二日目の夕方、食の探求団の屋台に一人の老人が訪れた。彼はプレイヤーではなく、NPCであった。NPCがプレイヤーの店で買い物をするのは珍しく、彼らは驚きながらも料理を提供した。老人は代金を支払い、静かに食事を終えると、再訪を告げて去っていった。

この出来事を受け、彼らはNPCがプレイヤーの料理を購入することが何らかのクエストの発端ではないかと推測した。ケインたちの助言を受け、翌日以降、この老人の行動を注意深く観察することにした。

老人の正体と料理人としての過去

三度目の訪問時、老人はユズが使用する《インサイシヴ・キッチンナイフ》について尋ねた。このナイフは、はじまりの街の鍛冶職人ブンセンの工房で購入したものであった。老人はブンセンの師匠であるレンギットを知っており、かつて料理人であったことを明かした。

この情報を得た食の探求団は、老人が料理関連のクエストに関わるNPCである可能性が高いと判断した。ブンセンに話を聞けば、クエストの手がかりが得られるかもしれないと考え、はじまりの街へ戻ることを決断した。

予期せぬ再会

出発の準備を整え、トールバーナの入り口へ向かったところ、思わぬ人物と遭遇した。それは、はじまりの街で工房を営むブンセンであった。彼との再会により、食の探求団はクエストの核心に迫ることとなる。

第二十二話 レアアイテムを求めて

トールバーナへの工房移転

ブンセンの決断

ブンセンは、自らの工房をトールバーナに移転させる決断を下した。彼の調理器具は料理人プレイヤーの間で高評価を得ていたが、熱心な料理人たちはすでにトールバーナへ拠点を移していたため、はじまりの街では需要が減少していた。そのため、弟弟子と工房を交換し、トールバーナで新たに商売を始めることにしたのである。

食の探求団は、ちょうどはじまりの街へ戻ろうとしていたが、偶然にもトールバーナの入口でブンセンと鉢合わせた。彼の移転は、彼らにとっても予想外の展開であった。

新たな工房と試作品の試食

ブンセンの新しい工房は、トールバーナの東外れにある緑豊かな区域にあった。規模は小さいながらも、新しく清潔で設備が整っており、すぐにでも仕事を始められる環境であった。

工房に到着すると、ブンセンは空腹を訴え、新しい料理の試食を求めた。食の探求団は予定外の出来事に戸惑ったが、試作していた《肉ジャム》を提供することにした。これは豚肉ではなく、青イノシシの肉を使用したリエットで、長時間煮込んだ後に脂で封をして保存性を高めたものである。ブンセンはその味を高く評価し、引っ越し祝いにふさわしい料理だと称賛した。

伝説の料理人ダルトー

試食の後、食の探求団はブンセンに、トールバーナに住む謎の老人について尋ねた。すると、ブンセンの頭上に《!》が表示され、彼らは新たなクエストの発端に気づいた。

老人の名はダルトーであり、かつて伝説の料理人と呼ばれていた男であった。彼は店舗を持たず、移動式の屋台《エブリウェア・フードストール》のみで高い評価を得ていたという。この屋台は貴重なマジックアイテムであり、彼が引退する際、多くの料理人が譲渡を求めたものの、未だ誰にも譲られていなかった。

食の探求団は、現在最も必要としている移動式屋台を手に入れるため、ダルトーとの接触を急ぐことを決めた。

ダルトーの尾行と屋台街の発見

その日の営業を急遽再開し、ダルトーの来店を待つことにした。彼は予想通り現れ、いつものように料理を注文し、無言で食べ終えると去っていった。食の探求団はこの機を逃さず、店を素早く片付け、彼の尾行を開始した。

ダルトーはトールバーナの住宅地を抜け、さらに奥まった裏道へと進んだ。そこには意外な光景が広がっていた。小さな広場に十数台の屋台が集まり、営業していたのである。

この屋台街の店主たちは、皆ダルトーの屋台を譲り受けたいと願う料理人であった。しかし、彼を満足させる料理を作ることができず、未だに誰も《エブリウェア・フードストール》を譲られていなかった。食の探求団は、このクエストの難易度を改めて認識しながらも、最初にクリアする意欲を高めた。

ダルトーの試練

食の探求団はダルトーの家を特定し、直接訪問した。彼は食の探求団がここまで辿り着いたことを評価し、自らの屋台を譲る条件を提示した。それは、「彼を唸らせる料理を作ること」であった。

ただし、現時点で完璧な料理である必要はなく、将来の成長が期待できる料理であれば認めるとも述べた。食の探求団は、伝説の料理人に評価される料理を作るという大きな挑戦を前にし、覚悟を決めた。

第二十三話 クエスト達成のため、とにかく料理を作りまくれ!

ダルトーの試練と料理人たちの挑戦

試行錯誤の料理選定


ダルトーは《エブリウェア・フードストール》を譲る条件として、彼を感動させる料理を提供するよう求めた。しかし、一度の試みで合格しなくてもよく、何度でも挑戦できるという曖昧な条件であった。食の探求団は屋台が集まる広場に戻り、どのような料理を作るべきかを話し合った。

料理の種類が限られている中で、すでに提供した料理を再び出すことはできないため、新メニューの開発が必要だった。そこで、それぞれが異なる料理を考案し、一人一品の試作を行うことになった。

新たな料理の試作

最初に完成したのは、姉が作った《カリカリに炒めた自家製パンチェッタと茹で卵のサラダ》であった。ドレッシングの代わりにハーブ塩を使用し、シンプルながらも素材の味を活かした一品であった。次に、チェリーが《ケバブサンドモドキ》を作り、薄切りのパンチェッタを焼いたものをトルティーヤで包み、クリームとハーブで作ったソースを添えた。

ロックは、ミンチにしたフレンジー・ボアの肉とタマネギを生地に包み、蒸して仕上げた《塩豚まん》を作った。蒸し器を開けると、湯気とともに香ばしい匂いが立ち込め、美味しそうな仕上がりとなった。最後に優月は、青イノシシの肉を果汁に漬け込んで柔らかくし、焼き上げた《ワイルドポークステーキ》を用意した。

こうして準備が整い、彼らは再びダルトーの家を訪れ、料理を提供した。

ダルトーの評価と更なる挑戦

ダルトーは料理を素早く平らげたものの、まだ満足はしていないと告げた。失格ではないが、さらなる努力が必要であるという評価であった。食の探求団は広場に戻り、次にどんな料理を作るかを再び話し合った。

この時、屋台の店主の一人が「ダルトーの合格をもらうのは難しい」と忠告してきた。彼は何度も挑戦したが、成功しなかったという。しかし、この発言こそが、食の探求団が正しい道を進んでいる証拠であると確信させた。

更なる料理の開発

彼らは、ダルトーを満足させるため、さらに四品の料理を作ることにした。優月はカエルの肉を唐揚げ風に仕上げた《鶏の塩唐揚げ風》を用意し、姉は青イノシシの肉を使用した《肉シュウマイ》を作った。ロックは《フレンジー・ボアの肉と野菜の串焼き》を完成させ、チェリーはクレープ生地にジャムやクリームを包んだデザートを考案した。

さらに、ゼリーを追加し、計十品の料理を用意した。彼らは再びダルトーの家を訪れ、料理を差し出した。

試練の突破と《エブリウェア・フードストール》の獲得

ダルトーは料理を食べ終え、ようやく満足した様子を見せた。そして、彼らの成長の可能性を評価し、《エブリウェア・フードストール》を譲ることを決定した。ついに、食の探求団は貴重な移動式屋台を手に入れることに成功した。

このアイテムはストレージに収納でき、展開時には調理器具や食材をそのままの状態で維持できるという利便性を持っていた。ダルトーは、自らが現役時代にこの屋台と共に旅をしながら料理を作り続けていたことを語り、食の探求団にも屋台を活かした商売を期待していることを伝えた。

料理人たちの動揺と広場の変化

食の探求団が《エブリウェア・フードストール》を手に入れたことで、広場で屋台を開いていた料理人たちは姿を消した。彼らは、ダルトーから屋台を譲ってもらうことが不可能になったと悟り、新たな拠点を探しに行ったのである。広場は急に静かになり、寂寥感が漂っていた。

しかし、食の探求団にとっては、ここからが本当の始まりであった。翌日、彼らはトールバーナの中央広場に《エブリウェア・フードストール》を展開し、本格的な屋台営業を開始した。

攻略集団との邂逅

ちょうどその頃、第一層のボス攻略会議が開かれるという情報が広まり、トールバーナには多くのプレイヤーが集まり始めた。屋台で料理を売っていると、攻略集団のメンバーが次々と訪れ、食事を注文していった。

その中には、特に印象的な三人がいた。一人は、筋骨隆々のスキンヘッドの男で、彼の存在感は圧倒的であった。もう一人は、青い長髪をなびかせた美しい騎士のような青年で、周囲の注目を集めていた。そして、最後の一人は、サボテンのような髪型をした男で、仲間たちに気前よく軽食を振る舞っていた。彼はリーダー格の人物のように見え、会話の中で攻略会議の重要性を語っていた。

謎の黒髪の少年

さらに、屋台の前を通り過ぎた一人の黒髪の少年が、食の探求団の目を引いた。彼は他の攻略集団とは異なり、どこか只者ではない雰囲気を漂わせていた。姉やチェリーも同様の印象を受け、その少年の姿が視界から消えるまで目が離せなかった。

攻略会議の開始と屋台の活気

四時を過ぎると、攻略会議が始まり、多くのプレイヤーが会議の行方を見守っていた。会議前には軽食や飲み物がよく売れ、食の探求団の屋台にも注文が相次いだ。

屋台を訪れた攻略集団のメンバーは、それぞれに異なる食事の選択をしながら、これからの戦いに備えていた。ある者はしっかりと夕食をとり、ある者は軽食だけで済ませていた。その中でも、攻略会議が荒れることを予測している者もおり、戦いの前の緊張感が漂っていた。

新たな展開への期待

攻略会議が始まると、屋台の客足は落ち着いたが、食の探求団は、今後のボス討伐や新たな層への進出に備えて、新しい料理の開発を続けることを決意した。

トールバーナでの成功は、彼らにとっての第一歩に過ぎない。今後、より多くのプレイヤーに料理を提供し、アインクラッドでの商売を広げていくことが、彼らの新たな目標となった。

第二十四話 第二層への道、そして謎の料理人パーティー

料理人プレイヤーの進化と新たな挑戦

《エブリウェア・フードストール》の活用と売上の向上


食の探求団は、《エブリウェア・フードストール》を用いた営業に慣れ、メニューの充実と売上の向上を実現した。貴重なマジックアイテムの利便性を活かし、塩角煮まんやおかずクレープなどの新メニューを追加しながら、トールバーナでの商売を軌道に乗せた。他の料理人プレイヤーたちも羨望の眼差しを向ける中、常連客の増加によって店の知名度も上がっていった。

第一層フロアボスの攻略と新たな旅路

ある日、第一層のフロアボスが攻略されたという報せが届いた。これにより、すべてのプレイヤーが第二層へと移動できるようになり、食の探求団も新たな食材を求めて第二層への進出を決めた。特に、第二層では新たな調味料や魚介類の入手を期待していた。

準備を整えた後、彼らははじまりの街へ戻り、中央広場の転移門を使って第二層の主街区《ウルバス》へと移動した。道中では持ち前の商売精神を発揮し、プレイヤーたちに瓶ジャムや肉ジャムを売りながら資金を蓄えた。

ウルバスでの新たな商機

ウルバスに到着した食の探求団は、新たな食材と調理器具を求めて探索を開始する前に、すぐさま料理の販売を開始した。転移門の周辺には第一層から移動してきたプレイヤーが多数集まっており、この人の流れを利用して知名度を上げることが目的であった。

彼らは《祝!第一層突破記念》として、すべての料理を半額で提供する戦略を打ち出し、多くのプレイヤーに食の探求団の存在を知らしめた。派手な屋台と目立つ新メニューが功を奏し、短時間で全ての料理が完売した。

牛肉と新たな料理の可能性

ウルバスでは牛のモンスターが多く生息しており、牛肉を使用した料理が開発できるという情報を得た。牛肉の入手によって、ステーキ、シュラスコ、ローストビーフ、さらには本格的なハンバーグなどが作れるようになると考えた食の探求団は、新たなメニュー開発への意欲を高めた。

また、牛のモンスターが存在するということは、生クリームやチーズの入手も可能になると予想され、スイーツのレパートリーが広がることに期待を寄せた。これにより、ピザやデザート類の充実を図る計画を立てた。

謎の四人組《グルメギャング団》の登場

ウルバスの夜の街を歩いていた食の探求団は、突如として四人組の男性たちに進路を塞がれた。彼らは全員がコックコートを着込み、さらに武具を装備しており、異様な雰囲気を放っていた。リーダー格の男は《カポネ》と名乗り、仲間の《ルチアーノ》《トニー》《ゴッティ》と共に新たな料理人パーティー《グルメギャング団》を結成したことを宣言した。

彼らは、食の探求団をライバル視し、料理人プレイの頂点を目指すことを誓った。そして、近いうちに食の探求団を追い抜くと豪語し、その場を立ち去った。

新たな競争と料理の探求

突然の宣戦布告に戸惑いつつも、食の探求団はこれまで通り、自分たちのペースで料理人プレイを続けることを決意した。料理の優劣をどう判断するかは不明だが、彼らにとっては美味しい料理を作り、多くのプレイヤーに提供することが最優先であった。

ウルバスでの商売と新たな料理の開発を進めながら、食の探求団は次の目標へと向かって歩みを進めていった。

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