小説「バスタード・ソードマン 5」感想・ネタバレ

小説「バスタード・ソードマン 5」感想・ネタバレ

どんな本?

『バスタード・ソードマン5』は、ジェームズ・リッチマン著のファンタジー小説シリーズ第5巻である。物語は、主人公モングレルとその仲間たちが、隣国サングレールからの宣戦布告により戦争に巻き込まれる様子を描いている。モングレルは新人たちと共に補給拠点の兵站部門で仲間を支援する任務を任され、一方、シルバーランクに昇格したライナは“アルテミス”の仲間たちと共に前線へ派遣され、初めての対人戦闘に挑むことになる。 

主要キャラクター
• モングレル:主人公であり、ギルドマンとして活動する中年男性。「いのちだいじに」をモットーとし、仲間を支援する役割を担う。  
• ライナ:“アルテミス”の一員であり、先の遠征で新スキルを獲得しシルバーランクに昇格した若き戦士。初めての対人戦闘に挑む。 

物語の特徴

本作は、戦争という大きな出来事を背景に、キャラクターたちの成長や仲間との絆が深く描かれている。特に、モングレルの現実的な生き方やライナの挑戦が物語に深みを与えている。また、戦闘シーンや戦略的な展開が読者を引き込む要素となっている。 

出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2025年2月28日 
• 判型:B6判/372ページ 
• 定価:1,485円(本体1,350円+税)
• ISBN:9784047382541 

読んだ本のタイトル

バスタード・ソードマン 5
著者:ジェームズ・リッチマン 氏
イラスト:マツセダイチ  氏

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「バスタード・ソードマン 5」感想・ネタバレBookliveで購入gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「バスタード・ソードマン 5」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「バスタード・ソードマン 5」感想・ネタバレ

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あらすじ・内容

戦争勃発!?

夏が終わり肌寒さが増してきた九月のある日、隣国サングレールが宣戦布告をしたという知らせが届いた。サングレール軍を迎え撃つため、レゴールに所属するギルドマンたちにも召集命令が下る。故郷を守り戦果を挙げようと意気込む者が多い中、「いのちだいじに」をモットーとするモングレルは新人たちと共に補給拠点の兵站部門に配属され、仲間を支援する任務を任される。一方、先日の遠征で新スキルを獲得しシルバーランクに昇格したライナは“アルテミス”の仲間たちと共に前線へと派遣され、初めての対人戦闘に挑むことに――!?

バスタード・ソードマン 5

戦争の影とモングレルの選択

戦争とは、権力者の決定によって始まるが、その犠牲となるのは一般の民である。モングレルもまた、過去に戦争を経験し、その理不尽さを痛感していた。彼はハルペリア王国の国民でありながら、敵国サングレールの血を引く混血児であり、その出自のために常に生きづらさを感じていた。どの側につくかを問われる状況に置かれれば、どちらを選んでも苦難が待っている。しかし、戦争の流れに逆らうことはできず、彼はギルドマンとして慎ましく生きながらも戦争に巻き込まれることとなる。

ハルペリア王国とサングレール聖王国の対立が激化し、戦争は避けられない状況となった。ギルドの規定ではシルバー以上のギルドマンは戦闘要員として徴兵され、ブロンズ以下は後方支援に回される。モングレルは意図的にランクをブロンズ3のままに留め、徴兵されることを避けていた。戦争が始まればシルバーは最前線に立つこととなり、命を落とす可能性が高まる。戦争を生き延びるため、慎重に動くことが必要だった。

戦争の準備とギルドマンの動き

戦争が近づくにつれ、軍需物資の買い占めが始まり、食肉の価格が急騰した。モングレルは、ギルドで新たな護衛依頼を探しながら、戦争の影響がどこまで及ぶのかを見極めようとしていた。サングレール軍はハルペリア領内への侵攻を試みており、その進軍ルートはモングレルの予想通りシュトルーベ方面が有力視されていた。地の利を活かし、騎馬戦が不利なハルペリア軍を打ち破ろうとするサングレール軍に対し、ハルペリア側も戦争準備を進めていた。

ギルドマンとして生きるモングレルは、なるべく前線に立つことを避け、兵站部隊としての役割を担うことを決める。補給は戦争の生命線であり、兵士たちの戦闘を支える重要な任務である。だが、補給部隊もまた敵の標的となることが多く、危険を伴うものだった。戦争の影響はギルドの仕事にも及び、戦場へ向かうギルドマンと残る者の選択が求められる。

戦場の現実と戦う者たちの運命

戦争が始まると、モングレルは補給部隊として兵站の警護にあたることとなった。敵の進軍を妨害するため、ハルペリア軍は砦で防衛線を築き、戦術的な持久戦へと持ち込んでいく。モングレルも補給部隊として物資を運搬し、最前線で戦う兵士たちを支えるが、戦争の現場では思いがけない戦闘に巻き込まれることも多かった。

戦場では、サングレール軍の「白い連星」と呼ばれるギフト持ちの戦士ミシェルピエトロと遭遇する。彼らは戦場において名を馳せる実力者であり、モングレルは彼らとの戦いを強いられる。激しい戦闘の末、モングレルはなんとか二人を退けることに成功するが、彼らの実力とギフトの存在に戦慄を覚えることとなった。

終戦と戦後の現実

戦争はハルペリア側の防衛成功によって終結し、サングレール軍は撤退を余儀なくされた。しかし、戦争の終結は突然訪れるものであり、戦った者たちにとっては呆気ないものだった。戦争が終わると、戦場で命を落とした者たちの遺骨が故郷へと送り返される。戦いの勝敗に関わらず、そこには死者たちの無念が残るばかりだった。

モングレルはレゴールへ戻り、戦後のギルドマンたちの動向を見守る。勝利を祝う者、亡くなった仲間の死を悼む者、それぞれの戦争が終わった後の日常があった。ギルドでは戦死した仲間の穴を埋めるため、新たなメンバーを募集する者たちも多かった。戦争が終わったとはいえ、次の戦争の影は既に見え隠れしていた。モングレルは戦争の本質を理解しながらも、これからもギルドマンとして生きていくことを決めるのだった。

感想

物語の前半では、主人公モングレルが戦争に巻き込まれつつも、可能な限り前線を避け、補給や後方支援に徹する姿勢が描かれていた。
戦争の無意味さや、兵士やギルドマンたちの犠牲が強調され、勝利の喜びよりも失われた命の重さが際立つ展開となっていた。
特に、ギルドマンたちの損害や、遺品を受け取る場面は戦争の現実を痛感させた。

中盤以降は、戦争が終わり、レゴールの街に日常が戻る様子が描かれていた。
ギルドマンたちが報酬を受け取り、散財する一方で、モングレルは日々の労働を続け、森での依頼に従事する。
彼は戦争を通じて得た経験を生かし、若手ギルドマンに指導を行うなど、彼なりの生存戦略を示していた。
このあたりでは、彼の実用的な判断力と冷静な視点が際立っており、派手な戦闘よりも生き延びる知恵を大切にする姿勢が強調されていた。

終盤では、次なる戦いの兆しや、新たなギルドマンの成長が描かれ、物語の続きが期待される形で締めくくられた。
戦争は終わったものの、その影響は残り、次なる脅威が迫っていることが示唆されていた。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

プロローグ 戦争とギルドマンの選択

戦争の理不尽さ
戦争は権力者の決定によって引き起こされ、その負担を担うのは兵士や庶民であった。国境線の変更が上層部で決められる一方で、実際に苦しむのは戦場に立つ者たちである。モングレルも過去に従軍経験があり、戦争の理不尽さを痛感していた。

出自による困難
彼はハルペリア王国の民でありながら、敵国サングレール聖王国の血を引く混血児であった。そのため、どちらの陣営においても居場所がなく、戦争が始まればその立場はさらに危うくなった。しかし、故郷が侵略されることには耐えられず、生存を図りつつも愛国心を示さざるを得なかった。

ギルドマンとしての選択
戦争時、ギルドマンはランクによって徴兵の対象が決められた。シルバー以上は前線に立たされ、ブロンズ以下は後方支援に回された。モングレルは戦場で命を落とす危険を理解し、意図的にブロンズ3のままでいた。ランクを上げればどのような命令を受けるかわからず、戦争に巻き込まれる可能性が高まるためであった。

迫り来る戦争
ハルペリアとサングレールの対立は激化し、戦争は避けられないものとなった。モングレルは慎ましい報酬で生計を立てながら、戦争の渦に巻き込まれぬよう行動していた。しかし、どれほど避けようとも戦争の流れは止まらず、戦火の拡大は避けられなかった。

第一話 保存食用の常設依頼

秋の訪れと収穫期
夏の終わりが近づき、秋の収穫期が目前に迫っていた。ハルペリアでは小麦、サングレールではヒマワリが重要な作物であり、それらの収穫が終わる頃に戦争が始まるのが通例であった。特にサングレールではヒマワリの油が経済を支えており、収穫前に戦を仕掛けることはなかった。

戦争の兆しとギルドの動き
モングレルがギルドで依頼を探していると、軍需物資の価値が急上昇していることに気づいた。食肉の買取価格が高騰し、新たなブロンズランク昇格者が増加していた。ギルドの職員も収穫期の護衛依頼に追われ、戦争の準備が進んでいることが明白であった。

モングレルの戦争への距離感
ミレーヌに護衛依頼の予定を尋ねられたモングレルは、まだ決めていないと答えた。過去の例から、今年もトワイス平野が戦場になる可能性が高かった。彼は意図的にブロンズ3に留まり、今回も兵站を担当するつもりであった。

サングレールの侵攻と地形の影響
サングレール軍はシュトルーベ方面からの侵攻が容易であった。山間部の地形は騎馬戦には不向きであり、一方で彼らのサンセットゴートには適していた。モングレルはかつてゲリラ戦を展開して侵攻を妨害していたが、年を重ねるにつれ戦争への関わり方も変化していた。

戦争準備とギルドマンの動き
バロアの森で狩りをしていたモングレルは、ギルド仲間のフリードと出会った。最近、新人が無謀な討伐を行い犠牲者が出たという。クレイジーボアは強力な魔物であり、討伐には適切な武器と技術が必要であった。戦争準備が進む中、食料確保の重要性も増していた。

収穫期の護衛と決断
戦争が迫る中、モングレルは収穫期の護衛依頼を決める必要があった。収穫祭の雰囲気を好まなかったが、護衛任務は重要であり慎重に判断しなければならなかった。

第二話 圧撃の名残

秋の訪れと食糧確保
九月になり、収穫とともに獣狩りの本格的なシーズンが到来した。戦争が始まれば食糧の消費は増え、戦うだけで生産しない者が増加する。モングレルはすでに狩りを行っていたが、まだ十分とは言えなかった。

護衛依頼の申し出
ギルドでチャクラムを研いでいると、サリーから護衛依頼が持ちかけられた。彼女の団体〝若木の杖〟が新たな村との交流を求めており、モングレルの影響力を利用したいとのことだった。彼は目的地をルス村に定め、護衛任務を引き受けた。

護衛隊の出発と遭遇
出発当日、モングレルは〝若木の杖〟の副団長ヴァンダールと初対面した。彼は長身で白髪の男であり、近接戦闘を得意としていた。道中、護衛隊はチャージディアと遭遇し、ヴァンダールがその突進を受け止め、圧倒的な力で撃破した。

ヴァンダールの出自と戦争の気配
彼の戦闘スタイルはサングレール軍の歩兵に近かったが、モングレルは深く追及しなかった。戦争の話題が持ち上がる中、サングレールの侵攻が間近に迫っていることは明らかであった。

混血の危険性
モングレルもサングレールの血を引いており、戦時中は自軍内でも差別を受ける可能性が高かった。そのため、ヴァンダールに対し、戦場では単独行動を避けるよう忠告した。

兵站への誘いと却下
モングレルはヴァンダールに兵站への転属を勧めたが、サリーが即座に却下した。ヴァンダールは貴重な戦闘要員であり、簡単に配置換えできる立場ではなかった。モングレルは戦争の不可避な現実を再認識し、その到来に備えるしかなかった。

第三話 ルス村の貴重な蛋白質

ルス村への到着と村人の反応
モングレルたちがルス村に到着すると、村人たちは警戒しつつも受け入れた。ギルドマンはしばしば問題を引き起こすため、村人にとっては正規兵の巡回の方が安心できる存在であった。〝若木の杖〟はまだ村に馴染んでいなかったが、モングレルの説明により、その実力が認識された。ヴァンダールの異質な風貌には若干の警戒が向けられたものの、大きな問題にはならなかった。

収穫の護衛と農作業
村には危険な魔物の姿はなく、収穫期の護衛も負担の大きい仕事ではなかった。そのため、〝若木の杖〟のメンバーは護衛とともに農作業を手伝うことになった。都会出身者が多く、彼らにとって農作業は新鮮な体験であったが、モングレルはその熱意が長続きしないことを予想していた。初心者向けに短い収穫用ナイフが渡され、モングレルが使い方を指導した。ヴァンダールは一度に多くの穂を刈り取れると期待されたが、長時間の作業には不向きであると慎重な態度を取った。

畑での魔物討伐
農作業の合間、モングレルはダートハイドスネークの討伐を依頼された。畑に潜む魔物のため、直接手を出しにくかったが、サリーが魔法で対応すると申し出た。彼は〝灼光〟を発動し、強烈な閃光で蛇を気絶させた後、モングレルが仕留めた。その後、村人が蛇の買い取りを希望し、モングレルは売却を決めた。数日間の護衛期間中も、魔物の出現は少なく、大きな問題は発生しなかった。

収穫祭と村での歓迎
収穫が終わると、村では収穫祭が開催された。〝若木の杖〟のメンバーは魔法や力仕事で村の手伝いを行い、ヴァンダールも建物の修繕に協力して感謝されていた。祭りでは鳥肉の蜂蜜焼きが振る舞われ、モングレルもその味に満足していた。一方で蜂蜜酒も提供されていたが、彼はそれに興味を示さなかった。

蜂の子の試食とサリーの策略
宴の最中、サリーはモングレルに蜂の幼体の味について尋ねた。ヴァンダールの話を聞いて興味を持ったものの、実際に食べることは避けたいと考え、モングレルに試食を頼んだ。銀貨十枚を提示したが、モングレルは七枚で交渉し、蜂の子を口にした。見た目に抵抗を感じつつも、味はまろやかで悪くなかった。サリーはそれを自分の感想として語ることにし、モングレルはその様子を静かに見守った。モモは呆れた目で二人を眺めていた。

第四話 スモークサウナを修繕せよ

ルス村のサウナとその歴史
ルス村には養蜂のほか、村人向けのサウナが存在していた。かつて王都を訪れた村人が本格的なサウナに感銘を受け、村に再現しようとしたものであった。その後、彼の死後も村の施設として活用されていた。モングレルは以前このサウナを利用したことがあり、今回も入ろうと考え、村の顔役に申し出た。

サウナの修繕と利用困難な状況
しかし、サウナは修理中であり、利用は困難な状態であった。以前のオーガ襲撃の影響で応急処置が施されていたが、断熱性が低下し、修繕が必要になっていた。女用の浴場のみが運用されていたものの、利用時間の管理が煩雑であり、ほとんど使われていなかった。

魔法による解決策とバレンシアの役割
モングレルが諦めかけたところに、サリーが話に割って入った。彼は〝若木の杖〟の火属性魔法使いバレンシアを使えば、薪の消費を抑えながらサウナを稼働できると提案した。村人もそれに同意し、運用が決定したが、バレンシア本人の了承は得ておらず、不満を漏らしていた。

ルス村特有のスモークサウナ
ルス村のサウナは、煙突を閉じたまま内部に熱をためるスモークサウナ方式であった。薪を燃やして石を熱し、燻煙によって室内を温めた後、使用前に換気を行う仕組みであり、独特の燻香が特徴であった。バレンシアとミセリナの協力により、火入れと換気がスムーズに行われ、サウナは再び利用可能となった。

第五話 赤く揺れる光の中で

サウナの復活と村人の反応
ルス村の人々にとって、サウナの復活は喜ばしい出来事であった。普段は維持が面倒なため利用者は少なかったが、いざ使えるとなれば話は別であった。村の男たちが酒を抜くまでの間、モングレルたちが先に入ることになった。

混浴の提案とサリーの態度
サリーは当然のように混浴を提案した。モングレルは一瞬戸惑ったが、サウナは一人で入るより誰かと一緒の方が楽しめると考え、受け入れた。しかし、サウナでは服を着ないため、サリーがそれに対応できるか確認したところ、彼は迷いなく準備を整えていた。

サウナでの会話と話題の転換
蒸気を追加しながら、サリーは暇つぶしに面白い話を求めた。モングレルは武器について語ろうとしたが、サリーは突然養蜂箱の話へと切り替えた。養蜂箱の改良によって、蜂蜜だけでなく蜜蝋の生産量が増加し、蠟燭の価格が下がったという情報を伝えた。

戦争と魔法使いの役割
サウナの中で戦争の話題が持ち上がり、戦争が近づくにつれ、油などの消耗品が値上がりしていることが明らかになった。モングレルは、サリーも戦場に出るのではないかと尋ねたが、彼は魔法使いの主な役割は補給や支援であり、前線に立つことは少ないと答えた。

サウナを出て食事へ
サリーはサウナを出ると、食事を求めて村へ戻ることにした。モングレルは蜂の子を勧めたが、サリーは即座に拒否した。その偏食ぶりに呆れつつも、戦場ではそんな贅沢を言っていられないだろうと、モングレルは考えていた。

第六話 穏やかな暗闇

ルス村の兵士とギルドマンの役割
ルス村には養蜂場や実験農場があり、農業技術の向上を目指していた。村には兵士が駐屯していたが、対人戦を主な任務とし、周辺の警戒や魔物退治は収穫期に派遣されるギルドマンの役割であった。彼らは魔物討伐以外の雑務も任されることが多く、今回の依頼もその一環であった。

脱走した馬の回収
村の青年が、柵を飛び越えて逃げた馬を連れ戻してほしいと依頼した。モモは収穫祭を気持ちよく迎えるためにも、早急に解決すべきだと意気込んでいた。

蜂蜜飴と馬の誘導
馬は林の中で草を食べており、こちらを警戒する様子はなかった。モングレルが縄で引こうとしたが、馬は動こうとしなかった。彼は蜂蜜飴を使い、馬の注意を引こうとしたが、飴を持っていたモモが馬に奪われ、一頭だけが得をする形となった。モモは飴を食べられなかった馬を「ラディッシュ」と名付け、なだめながら誘導した。

闇魔法による対処
モングレルが馬を無理に引こうとすると、モモは闇魔法を使い、馬の目を覆った。魔法の効果で馬は落ち着き、抵抗なく移動できるようになった。彼女によれば、この魔法は動物を落ち着かせる効果があり、鳥や牛にも使えるとのことだった。

誤った名前
ラディッシュを柵へ戻し、依頼は無事完了した。モモは飴を食べられなかった馬におやつをあげようとしたが、モングレルは飼い主に任せるべきだと諭した。さらに、勝手に名前をつけるのはよくないと指摘された。後日、依頼人の青年によると、「ラディッシュ」と呼ばれた馬の本当の名は「オルセン」、もう一頭の「キャロット」は「ジョシュア」だった。どちらも完全に間違っていた。

第七話 ヴァンダールの帰り道

護衛任務の終了と帰還
護衛任務を終え、一行はレゴールへ帰還することになった。魔法使いのパーティーと行動したため、火や水の確保が容易で、不便の少ない遠征であった。

ヴァンダールの過去
道中の会話で、ヴァンダールがサングレール軍の工兵として杖の修理を担当していたことが明かされた。彼は戦時中に捕虜となったが、杖職人としての技術を評価され、資金を貯めてハルペリアに帰化したという。現在の暮らしには満足している様子であった。

転々とした人生への思い
ヴァンダールの波乱に満ちた人生に、モングレルは驚きを覚えた。自らの過去を振り返ると、ギルドマンとしての暮らしに定着しつつあったが、それを「居場所」と言い切るには迷いがあった。

レゴール到着と酒の誘い
レゴールへ帰還し、ヴァンダールと酒を飲む約束を交わした。しかし、モモとサリーも加わることになり、落ち着いた飲み会の予定が賑やかな宴会へと変わった。ヴァンダールの苦笑する様子を見ながら、モングレルは彼の今後の苦労を察した。

第八話 墓場の燭台掃除

金欠と軽めの依頼
ルス村での買い物により金欠となったモングレルは、軽めの依頼として燭台掃除を受けた。

燭台の役割と作業
墓地にある燭台は魔除けの役割を果たし、霊体ウィスプを集める効果があった。燭台は高所に設置されており、芯の交換には体力を要した。

ライナとの会話
作業中、ライナと出会い、彼がスケルトン討伐の経験を語った。霊体には魔力を込めた攻撃が有効であり、最近新たな戦闘技術を試していることを話した。

依頼完了と金欠の悩み
燭台掃除を終えたモングレルは、ライナと昼食の約束を交わした。しかし、依頼をこなしても金欠は変わらず、次の仕事を探す必要があった。

第九話  兵站部隊の前哨戦

戦争の到来とギルドマンの動向

レゴールへの帰還と戦争の報せ

収穫の護衛任務に出ていたギルドマンたちが戻り、レゴールの街には活気が戻っていた。しかし、今年は穏やかな冬支度を許さぬ情勢となった。広場では従士が檄を飛ばし、サングレールがハルペリア王国に侵攻を開始することを告げた。標的はブラッドリー男爵領であり、戦場はトワイス平野となる見込みであった。

民衆の間には怒りが渦巻き、志願兵の募集が始まると、多くの者が戦場へ向かう決意を固めた。ハルペリアの民にとって戦争は約七年ぶりであり、故郷を守るため、名声のため、あるいは報酬のために、多くの者が武器を取った。

ギルドマンたちの徴兵と準備
ギルドもまた戦争の影響を受けた。シルバーランク以上のギルドマンは戦闘要員として徴兵され、ブロンズランクの者たちは兵站の警護を任された。ギルドの内部は緊張感に包まれ、普段とは違い、完全武装の者たちが目立つようになった。

モングレルもまた戦争への準備を進めていた。ライナは前線近くの砦への配属が決まり、モングレルは補給部隊としてブラッドリーの積荷を各砦へ運ぶ役割を担うことになった。彼はライナに対し、籠城戦になった際の備えを怠らないよう忠告し、食糧の確保を勧めた。ライナたちのパーティーは遠距離攻撃を主とするため、前線から後方へ下がりつつ戦うことが多いとされ、安全が確保されやすい状況ではあった。

補給部隊への配属
モングレルは補給部隊に配属され、ブラッドリーへの出発を待っていた。彼の班には、最近ブロンズ1へ昇格したウォーレンと、ベイスン出身の若いギルドマンたちが加わっていた。しかし、彼らの中にはサングレールとのハーフであるモングレルに対し、警戒心を抱く者もいた。

彼は彼らを安心させるため、サングレールの讃美歌を下品な替え歌に変えたものを披露し、笑いを誘った。その場は和らぎ、ウォーレンの後押しもあって班内の緊張は次第に解けていった。

積荷作業の開始と兵站部隊の重要性
補給部隊の任務が本格的に始まる前に、ベイスンでの積荷作業が命じられた。若いギルドマンたちは戦場での活躍を期待していたが、モングレルは彼らに対し、兵站任務の重要性を説いた。前線の兵士を支える物資の運搬は過酷な作業であり、怠れば戦況に大きな影響を与える。

こうして、補給部隊の任務が始まった。戦場の厳しさとは異なるが、同じく重要な戦いである。モングレルは替え歌を口ずさみながら、若き仲間たちと共に、最初の試練である積荷作業に取り掛かった。

第十話 兵站部隊の単純重労働

軍需品の集積と積み込み作業
ハルペリア王国はサングレール聖王国の侵攻を察知し、ベイスンに大量の軍需品を備蓄していた。兵士たちが戦闘前に疲弊しないよう、補給部隊が武器や装備を馬車へ積み込む作業を担っていた。単調ながらも重労働であり、新米ギルドマンたちは疲労しつつもモングレルの指導のもと作業を続けた。

街の支援と補給部隊の準備
ベイスンの住民も物資運搬を手伝い、戦争に備えていた。作業場では炊き出しが行われ、ギルドマンたちは粥やスープを口にして休息を取った。翌日、筋肉痛に悩みながらも、彼らはブラッドリーへ向かう準備を整えた。

ブラッドリーへの行軍と補給の重要性
新米ギルドマンたちは重い荷を不満に思っていたが、モングレルは補給部隊の最優先事項は馬車の保護であると説いた。道中の防衛を考え、剣士たちは盾持ちが前衛、ロングソード持ちが後方支援に回る形で配置された。

ブラッドリーでの補給とギルドマンの警戒
到着後、補給物資の積み下ろしは兵士が行い、ギルドマンたちは休息を取ることとなった。モングレルは騎士リベルトの従士クロードと遭遇し、彼から警戒を促された。食事を取る際、ブロンズ3のギルドマンたちが彼に因縁をつけてきたが、クロードの名を利用して追い払った。

前線の状況と戦争の不安
戦場ではすでに戦闘が始まっている可能性があったが、下級ギルドマンには情報が伝わらなかった。モングレルは補給部隊の仕事を全うするほかなく、翌日の任務に備えて休息を取った。

第十一話 対オールト砦の斉射

オールト砦への配属と戦争の準備
アルテミスはレゴール伯爵軍と合流し、サングレールの要塞オールト砦に備えるための拠点に配属された。ライナは騎馬戦に不向きであったため、砦に留まり遠距離攻撃に徹することとなった。

砦の防衛と持久戦の戦略
サングレール軍との戦闘は長期戦が予想され、砦の弓兵が敵を削りながら持久戦に持ち込む方針であった。ライナは将校を狙う役割を与えられ、戦場を見渡しながら射撃の準備を進めた。

砦の機能と水の供給
砦内部では兵士や馬の水を確保するため、水魔法使いが水源を維持していた。ナスターシャを含む魔法使いたちは定期的に水を供給し、砦の戦力維持に貢献していた。

戦端の開始と騎馬部隊の突撃
ハルペリア騎馬部隊が敵陣の側面を突き、混乱を引き起こした。敵軍は砦へ誘導され、一斉射撃の機会を迎えた。ライナは将校を狙い「貫通射」を放つも弾かれ、次の矢で敵の動きを制限することに成功した。

砦からの一斉射撃と戦果
ハルペリア軍の一斉射撃と騎馬部隊の攻撃により、サングレール軍は壊滅的な打撃を受け撤退を始めた。ライナたちは初めての戦場に動揺しながらも、戦争の現実を実感していた。

第十二話 白い連星・ミシェル&ピエトロ

砦への道と悪路の修復
モングレルたち兵站部隊は、ブラッドリーから砦へ向かっていた。道は劣悪で馬車の進行が妨げられ、モングレルはリスドと共に轍の修復作業に取り掛かった。

見知らぬ二人組の出現
作業中、白い修道服を纏った男女が接近してきた。モングレルは彼らがサングレール軍の兵士であると察し、リスドに馬車へ戻るよう指示した。二人は「慈雨の聖女ミシェル」と「蠟翼の審問官ピエトロ」と名乗り、挑発的な態度を見せた。

戦闘の開始と魔法の応酬
モングレルはピエトロと剣を交え、ミシェルが魔法で支援に回った。彼は二人の連携を分析しつつ、迎撃の機会を窺った。ミシェルは〝濁流〟を発動し、轍を水浸しにすることで補給部隊の進軍を妨害した。

サングレールの策略と撤退
ピエトロはギフト〝蠟翼〟を発動し、巨大な翼でモングレルを吹き飛ばした。その隙にミシェルを抱え空へ逃走し、戦闘は終結した。

戦闘の余韻と今後の対策
モングレルは二人の名を記憶し、再び現れる可能性を考えながら轍の修復作業を続けた。今後の戦闘に向けて飛び道具の重要性を痛感し、新たな戦略を思案していた。

第十三話  帰陣と報告

サングレールの白い連星

サングレール聖王国の騎士、ミシェルとピエトロは任務の成功を報告するため、イシドロ神殿長のもとへ戻った。しかし、その報告は不完全なものであった。彼らはハルペリア軍の補給線を狙い、水魔法を用いた轍の破壊を試みたが、想定外の妨害に遭い、わずか一つの轍を破壊したのみで撤退を余儀なくされた。

イシドロ神殿長は二人の失敗に激怒し、具体的な戦闘の再現を命じた。ミシェルとピエトロはその命令に従い、ハルペリア軍にいた強敵との戦闘を再現する。二人による模擬戦は、まるで剣技の演舞のように見えたが、神殿長は彼らの実際の敗走を厳しく指摘した。

撤兵の決断

イシドロ神殿長は、サングレール軍の戦況が悪化していることを考慮し、撤兵を決定した。彼は前線の不利な状況を冷静に分析し、補給線の破壊が成功しなかったことを理由に、これ以上の戦闘は無意味であると判断した。さらに、聖騎士モルセヌスの討死やトゥバリス卿の負傷など、サングレール軍全体の状況が悪化していることも撤兵の根拠となった。

もともとイシドロは今回の侵攻に乗り気ではなく、ハルペリア側の防備が万全であることを知っていた。彼にとって、無益な戦いを続けることは得策ではなく、撤退の判断は必然であった。彼は配下の兵士たちに撤退命令を下し、戦線からの離脱を決定した。

モングレルの報告と休息

一方、モングレルはミシェルとピエトロを退けた後、馬車とともに補給部隊に合流し、砦に到着した。仲間たちは彼の無事を喜び、彼の行動を英雄的に語っていた。しかし、彼自身は無傷であり、大きな戦果を上げたわけではなかった。

砦の部隊長に状況を報告すると、敵のギフト持ちの情報を持ち帰ったことが評価され、補給の寸断を防いだ点でも一定の功績を認められた。彼は部隊長に休息の許可を求め、これが承認されたことで、彼と仲間たちはしばらく砦で休息を取ることができることになった。

戦争が長引くかどうかは不透明であったが、モングレルは今後に備え、休めるうちに休むことの重要性を実感していた。

第十四話  終戦と大勢の帰郷

砦での整備と戦争の終結

モングレルの班は砦での休息を取りながら、砦の整備作業に従事していた。補給物資の積み込みや防御施設の補修などの作業を行い、砦の兵士たちとの関係を築いていた。戦時中は味方に信用されることが重要であり、特にギルドマンのような立場の者にとっては、その努力が生存に直結する。戦争の現実は過酷であり、彼らは疲労と共に日々を過ごしていた。

唐突な終戦の知らせ

戦争が続くものと考えていた彼らのもとに、和平が成立したとの報せが届いた。騎馬部隊の従士から伝えられた情報によると、交渉が進められ、ハルペリアとサングレールの間で和睦が結ばれたという。戦争が始まったときと同じく、末端の兵士たちにとっては、その終結もまた唐突なものであった。

砦の兵士たちは、故郷に帰れるという安堵感から一気に気を緩めた。ハルペリアが有利な条件で休戦に持ち込んだという噂も広まり、兵士たちは勝利の雰囲気に包まれていた。しかし、彼らには戦争の本質や裏側の交渉の詳細までは知らされず、ただ与えられた情報を受け入れるしかなかった。

帰還の準備と変わらぬ労働

和平が結ばれたとはいえ、彼らの仕事は終わらなかった。撤収作業として、砦に蓄えられた物資を運び出し、帰還するための準備を進めなければならなかった。労働に明け暮れるギルドマンたちは疲れを滲ませながらも、終戦の事実を受け入れつつあった。

モングレルは町で知り合いと再会し、戦争が終わったことを喜んだ。ライナをはじめ〝アルテミス〟のメンバーは無事であり、彼女たちは砦の防衛任務に徹していたため、大きな危険に晒されることはなかった。モングレルは彼女たちの無事を確認し、戦場での自らの経験について語った。しかし、その裏では、戦争の影が彼らに重くのしかかっていた。

戦死者の帰還

撤収作業の中で、彼らは戦死者の遺骨と遺品を運ぶ任務を命じられた。認識票と共に袋に収められた戦死者たちは、故郷へと戻されることになっていた。三十ほどの袋が用意され、それぞれがハルペリアの兵士たちの亡骸を示していた。彼らは生前の仲間たちの名前を目にし、その死を実感せざるを得なかった。

ウォーレンは、かつての知人であるランディの認識票を見つけ、戦死を知ることとなった。ランディは真面目な性格のギルドマンであり、多くの者に慕われていた。しかし、戦場で命を落とし、今はただの遺骨として帰還するのみであった。

戦争は終わった。しかし、それによってもたらされた傷跡は、すぐに癒えるものではなかった。彼らは戦死者を故郷に送り届けながら、その事実を受け止めるしかなかった。戦争の現実を目の当たりにし、モングレルは改めてその過酷さを噛み締めていた。

戦争とは、結局のところ理不尽なものであり、彼の胸にはただ「戦争はクソだ」という思いが残るばかりであった。

第十五話  人と魔物と男と女

レゴールへの帰還と迎え入れられる空気

モングレルたちがレゴールに帰還した頃には、戦争帰還者への歓迎ムードはすっかり薄れていた。最初に戻ってきた兵士たちは街中で祝福を受けたようだが、今では「おかえり」といった素っ気ない声がかけられる程度であった。戦争の終結がすでに街の日常へと溶け込み、平和が戻った証とも言えたが、それでも帰還した者にとっては少し寂しいものだった。

戦死者の引き渡しとギルドマンの損害

戦死したギルドマンの遺骨は、それぞれの引き取り手に送られた。ギルドには遺言を預ける仕組みがあり、場合によっては遺族ではなくギルド仲間に遺産が分配されることもあった。モングレルは戦死したギルドマンの遺骨を届ける役目を担い、その中には〝大地の盾〟の仲間も含まれていた。

〝大地の盾〟は前線で活躍し、戦果を挙げたものの、三人の戦死者と九人の負傷者を出していた。指揮官によれば、戦術的には適切な対応をしたものの、強敵との遭遇により犠牲は避けられなかったとのことだった。ギルドマンたちは正規兵と同じように戦場へ向かい、自らの意志で国を守るために戦い、そして死んでいった。

戦争の影響とギルドの現状

他のギルドの状況も厳しかった。〝収穫の剣〟は特に負傷者が多く、対人戦に不向きな戦闘スタイルのために苦戦を強いられた。弱小パーティーは特に被害が大きく、仲間を失った者たちが新たなバディを探している状況だった。

その一方で、後衛職のギルドマンはほぼ無傷で帰還した。〝アルテミス〟や〝若木の杖〟は戦場の後方から敵を撃ち、戦果を上げた。特に〝アルテミス〟のシーナは多数の敵兵を討ち取り、その功績により昇級の話が出るほどだった。また、〝若木の杖〟のサリーも光魔法による攪乱で敵軍を混乱させ、味方を大いに助けたという。

近接戦闘職の中でも、ディックバルトや副団長アレクトラの活躍が目立った。彼らの奮戦により〝収穫の剣〟の撤退は最小限の被害に抑えられた。戦場では英雄的な働きをする者がいる一方で、多くの者が戦死し、ギルドは新たな仲間を求めざるを得ない状況となっていた。

酒場での戦後の雰囲気

戦争が終わったとはいえ、街の酒場は兵士やギルドマンたちの戦勝会で賑わっていた。モングレルも戦後の労働を終え、久々に酒場を訪れたが、どこも満員であり、彼の求める静かな空間はなかった。結局、彼は狩人酒場へと足を運び、そこでライナ、ウルリカ、ゴリリアーナと合流した。

ライナの葛藤と戦争の虚しさ

戦果について尋ねると、ライナは五人、ウルリカは二人を討ち取ったと報告した。しかし、彼女たちは誇らしげな様子ではなく、特にライナは戦争そのものに疑問を抱いていた。彼女は戦闘で敵兵を撃ったものの、狩猟のような実感が湧かず、「人を撃つことが無駄に思える」と悩んでいた。

モングレルは彼女の考えを肯定しつつも、戦争における名誉の重要性を説いた。戦争は無意味であり、莫大な資源と時間、そして命が浪費されるが、それでも戦った兵士たちは国を守るために命を懸けたのだと説明した。彼らの努力を否定することなく、その働きを讃えるべきだと諭した。

ライナはその言葉を受け止め、少しずつ納得する様子を見せた。戦争の無意味さを理解しつつも、それに参加し、生き残った者としての役割を受け入れることが、彼女なりの答えとなったようだった。

戦争の終結と新たな戦いの予感

戦争は終わり、平和が戻った。しかし、モングレルは「サングレールはまた攻めてくる」と断言した。戦争は繰り返されるものであり、今回の勝利が次の戦いを完全に防ぐものではない。ライナは彼の言葉に衝撃を受けつつも、「サングレールはクソだ」とぼやいた。それを聞いたウルリカはライナの口調をたしなめつつも、場の雰囲気は和らぎ、三人は酒を楽しむことになった。

モングレルは戦争の勝利を祝う者がいる一方で、戦争そのものが終わったことを祝うことも大切だと考えていた。彼にとって大切なのは、ライナたちのような仲間が無事でいることだった。彼は、彼女たちがこれからも戦場ではなく、狩猟や日常の中で弓を使い続けることを願いながら、戦争の終わりを静かに噛み締めていた。

第十六話  性癖の開示

ギルドマンたちの散財

戦争の支出は国家が負担するため、個々の国民には大きな負担がかからなかった。今回は敵の侵攻による被害も少なく、略奪もなかったため、戦争が終わっても一般市民の生活に大きな変化はなかった。ただし、出兵した者たちには国からまとまった報酬が支給されることになっていた。

その結果、ギルドマンたちは手に入る予定の金をあてにし、まだ支給されていないにも関わらず、贅沢を楽しもうとしていた。特に、色街へ向かう者たちの熱気はすさまじく、酒場では男たちが歓声を上げながら盛り上がっていた。彼らは報酬を受け取る前に先行して遊びに行くことを決め、派手に金を使うつもりであった。

娼館の指南役ディックバルト

ギルドの酒場では、男たちが集まり、どの店に行くべきか話し合っていた。特に中心となっていたのは、今回の戦争で戦果を挙げたディックバルトであった。彼はレゴールの色街に精通しており、各店の情報を把握していることで知られていた。

男たちはディックバルトに相談し、自分に合った店を紹介してもらおうとしていた。彼は銅貨一枚の紹介料を受け取りながら、次々と客に最適な店を伝えていった。彼の知識の広さと経験から、多くの者が彼の助言を信頼し、列を作っていた。

ディックバルトは娼館を巡るために日々高難度の任務をこなし、稼いだ金をすべて色街に費やしていた。彼の生き方は、まさに娼館と共にあるといっても過言ではなかった。

モングレルの無関心

酒場で盛り上がる男たちの中、モングレルは一人で酒を飲んでいた。彼もまた誘いを受けたが、興味を示さなかった。バルガーをはじめとする仲間たちは、彼の冷淡な態度を不思議に思い、なぜ娼館に行かないのか尋ねた。

モングレルは、娼館に金を使う余裕がないと答えた。彼は贅沢な衛生観念を持っており、その維持には金がかかるため、他の者のように色街で散財する余裕はなかった。また、彼の金の使い道は美味い食事と装備の充実にあり、興味の対象が違っていた。

モングレルの女性の好み

バルガーたちはさらに話を進め、モングレルの女性の好みについて尋ねた。彼は特にこだわりはないとしつつ、最低限の条件として「清潔であること」「無駄毛が少ないこと」「太りすぎていないこと」を挙げた。

この答えに対し、仲間たちは物足りなさを感じ、もっと具体的な好みを聞き出そうとした。だが、モングレルはそれ以上の条件を挙げず、特に強いこだわりがないことを示した。彼にとっては、外見よりも基本的な清潔感のほうが重要だった。

バルガーたちは彼の答えに納得できず、「もっと変わった趣味があるのではないか」と期待していた。しかし、モングレルは淡々とした態度を崩さず、特に話を広げることもなかった。

ギルドの日常の回帰

男たちはモングレルの女性観を面白がりながらも、酒場での会話を楽しんでいた。こうしたやりとりができること自体、レゴールの街が平和を取り戻した証であった。

モングレルは、戦争が終わり、ギルドの日常が戻ってきたことを実感していた。彼はひとり、戦争の影響で入手困難になっていたウイスキーの供給が再開されることを願いながら、酒を飲み続けた。

バルガーたちは最後までモングレルの女性の好みを面白がり、勝手に噂を作り始めた。彼らは「熟女好き」「足裏フェチ」「男でもいける」といった噂を適当に混ぜ込みながら笑い合っていた。モングレルはそれを呆れながら聞き流しつつ、ギルドの活気が戻ったことを改めて実感していた。

第十七話  コーン畑は俺が守る

戦争から戻ったレゴールの変化

レゴールに到着した頃には、帰還者を迎える雰囲気はすでに薄れていた。戦争直後は盛大な歓迎があったかもしれないが、今では街の人々も日常を取り戻し、帰還者に対しても落ち着いた態度を取っていた。戦争が終わったことを実感する一方で、少し寂しさを感じる者もいた。しかし、平和が戻った証であり、それ自体は喜ぶべきことだった。

戦死者の帰還とギルドの対応

戦場で命を落とした者たちの遺骨は、それぞれの引き取り先へと送られた。ギルドでは所属メンバーの遺言を管理しており、遺族ではなく仲間に遺産を託すケースも少なくなかった。血縁よりもギルドの絆を優先する者も多く、戦死者の遺骨は時にギルド仲間のもとへ届けられることもあった。

「大地の盾」は今回の戦争で大きな被害を受け、三人が戦死し、九人が負傷。そのうち二人は戦線を退くこととなった。正規軍と同じ戦術を駆使するこのパーティーは、軍の運用に適しており重用されていた。しかし、彼ら自身も戦いを誇りとし、自らの意思で戦場に立っていた。単なる駒ではなく、国を守るために戦い、そして命を落とした者たちであった。

アレックスは戦死した仲間の遺品整理や新規メンバー募集の必要性を語った。戦果を挙げたことで「大地の盾」には新たに加入を希望する者が増えるだろうが、それでも失われた戦力の穴を埋めるのは容易ではなかった。

各パーティーの被害と戦果

「収穫の剣」も似たような損害を受けており、特に怪我人が多かった。彼らは対人戦に不向きであったため、戦況が厳しくなると早めに撤退したことで、壊滅的な被害は免れた。しかし、戦力を大幅に失った弱小パーティーは多く、新たな仲間を求める者たちも増えていた。

一方、「アルテミス」と「若木の杖」はほぼ無傷で帰還した。彼らは弓や魔法を駆使する後衛であり、前線に出ることが少なかったため被害が少なかった。ただし、後衛の活躍も大きく、「アルテミス」のシーナは多くの敵兵を討ち、その武勇が広まっていた。彼女の戦果を評価し、ゴールドランクの昇級の噂も出ていた。また、「若木の杖」のサリーは光魔法で敵の視界を奪い、戦況を有利に導いた。

近接戦闘を得意とするゴールドランクの活躍も際立っていた。ディックバルトは戦場で敵を圧倒し、味方が押される中で奮戦した。また、副団長のアレクトラも派手に暴れ、「収穫の剣」が被害を抑えて撤退できたのは、この二人の存在が大きかった。

戦いの余韻とモングレルの思い

戦果を挙げても、仲間の死の悲しみは消えない。モングレルは、名誉や勝利の喜びよりも、戦争で失われた命の重さを考えていた。彼はアレックスに励ましの言葉をかけたが、戦争の現実は厳しいものであった。

仕事を終えたモングレルは酒場へ向かったが、どこも戦勝会で賑わっており満席だった。勝利を祝う者たちの姿を見て、彼は静かに戦争を振り返る場所を探した。最終的に、比較的落ち着いた狩人酒場に辿り着き、そこにはライナ、ウルリカ、ゴリリアーナがいた。

ライナの疑問と戦争の意味

ライナは戦場での戦果を報告しながらも、人を撃つことに虚しさを感じていた。獣や魔物は狩った後に利用できるが、人間は違う。戦場で敵を倒しても、何の意味があるのかと彼女は疑問を抱いていた。

モングレルはライナの気持ちを理解しつつも、戦争とはそういうものだと説明した。兵士たちは国を守るために戦い、敵兵を倒すことが名誉とされる。しかし、それを虚しいと感じるのも間違いではない。ただし、戦場で命を懸けた者たちの名誉まで否定することはできない。彼はライナに、自分の戦果を誇ることも大切だと諭した。

戦争の終わりと新たな戦いの兆し

戦争は終わり、平和が訪れた。しかし、モングレルは「サングレールが再び攻めてくる」と確信していた。ライナはその言葉に驚いたが、彼の考えに同意するしかなかった。歴史が繰り返すように、戦争もまたいつか再開されるだろう。

終戦を祝うため、モングレルはライナたちに酒を奢ることにした。戦争はクソなものだが、それでも生きて帰ってきたことは祝うべきだ。彼は、ライナや仲間たちにはこれからも人ではなく、獣や魔物を狩る生活を続けてほしいと願っていた。

第十八話  嗜好の検証

戦争後の停滞と再開される作業

戦争に駆り出されていた影響で、レゴール拡張地区の工事や産業の多くが停滞していた。特に冬に向けた伐採作業が大幅に遅れており、暖房用や建材用のバロア材が不足していた。モングレルは今後、伐採作業の警備に従事することが増えると予測したが、討伐の方が好みであったため、単調な警備任務には飽きていた。

ギルドでの依頼と討伐の望み

モングレルはギルドでミレーヌと話しながら、より刺激的な仕事を求めていた。しかし、大型の魔物の目撃情報はなく、討伐依頼もほとんどなかった。モングレルは追跡能力に欠けており、目標なしに魔物を探すのは困難だった。

ウルリカとの合流と搬入任務

そんな中、ウルリカが現れ、一緒にバロアの森北部第三作業小屋への搬入任務を提案した。元々はゴリリアーナと行く予定だったが、都合が合わずモングレルに声をかけたという。搬入とは、物資を山小屋へ届ける仕事であり、ついでに周辺の安全確保や掃討も含まれる。モングレルはこの提案を快諾し、ウルリカとともに任務に向かうことになった。

森への道中と罠の危険性

馬車で北部まで移動し、そこから徒歩で作業小屋を目指した。モングレルはウルリカの三倍以上の荷物を担ぎながら進んだが、その重さは問題ではなかった。効率を重視し、魔物との戦闘は極力避ける方針で進んでいった。

森の道中には数多くの罠が仕掛けられており、クレイジーボアが捕まっている様子も見られた。罠が安全とは限らず、魔物が暴れて脱出する可能性もあるため、無暗に近づかず、慎重に迂回して進んだ。

過去の密猟者と一年の変化

道中、ウルリカは一年前にモングレルと初めてバロアの森に入ったことを思い出した。その際に捕らえられた密猟者のリーダーが、最近犯罪奴隷から解放され、再びギルドマンとしてやり直しているという話をモングレルは伝えた。ウルリカはその変化に驚きつつ、彼の今後を気にかけた。

野営とライナの話題

一日目の行程を終えた二人は、森の中で野営することになった。大荷物を背負ったままの移動は困難であり、無理をせず焚き火を囲んで休息を取ることにした。

ウルリカはモングレルにライナのことをどう思っているのか尋ねた。モングレルはライナを異性というよりも、自分の子供か親戚のように感じていると答えた。ウルリカはそれを笑いながら否定したが、モングレル自身もライナに対して恋愛感情を抱くことは想像し難かった。

結婚観と生き方

話題はモングレル自身の結婚観に及んだ。彼は結婚する気は全くなく、将来設計も面倒だと語った。また、自身がサングレールとのハーフであるため、子供が生きづらくなることを避けたいという思いもあった。ウルリカはその理由に戸惑ったが、モングレルは気にするなと軽く流した。

モングレルにとって、価値観の違う相手と生活することは苦痛であり、結婚よりも喫茶店を開く方が優先だった。さらに、土地に縛られるのも嫌であり、自由に動ける状態を維持することを望んでいた。

夜の静寂と明日への備え

ウルリカは疲れからか足をパタパタさせていた。明日はさらに歩くことになるため、モングレルは彼女に早めに眠るよう促した。魔物除けの香を焚きながら、ウルリカは静かに寝息を立て始めた。モングレルもまた、遅れて眠りについた。

第十九話  出張!  悶絶強制マッサージ

北部第三作業小屋への道中

翌朝、モングレルとウルリカは北部第三作業小屋に向けて出発した。奥地へ進むにつれ、目印も少なくなり道が不明瞭になったが、ウルリカの的確な進路判断のおかげで迷うことなく進んだ。道中、モングレルは新型のスクリューキャップ式水筒を使っていたが、ウルリカはその構造よりも「水が揺れて音が鳴る」点を指摘し、討伐時には不向きだと話した。モングレルは、自身の追跡能力の低さがこうした細かい要因にも関係しているのではと考えた。

道中の小競り合いと到着

途中、二体のゴブリンが現れたが、ウルリカが素早く矢を放ち、難なく討伐した。その他には、マレットラビットが雑草をすり潰している姿を見かける程度で、大きな脅威はなかった。道のりは長かったが、夕暮れ前には無事に北部第三作業小屋へと到着した。

作業小屋の整備

小屋に着いた二人は、視界があるうちに内部の掃除を始めた。幸いにも人や魔物に荒らされた形跡はなく、比較的良好な状態が保たれていた。とはいえ、道具の劣化は避けられず、箒などの備品が傷んでいることに気づいたため、ギルドへの報告を決めた。掃除の後、虫除けの香を焚いて害虫を追い出し、破損した壁の隙間には松脂のような樹脂を塗り込んだ。

夕暮れ前の狩猟

作業を終えたウルリカは、日没までの短い時間で狩りに出ることを提案した。モングレルは気乗りしなかったが、夕食のために渋々同行することにした。ウルリカはスキル〝弱点看破〟を使用し、鳥の存在を確認したが、発動時に光を放つためか、獲物に気づかれ、矢を放つ前に逃げられてしまった。狩猟の失敗を受け、二人は作業小屋へと戻った。

簡素な夕食と雑談

暖炉に薪をくべ、干し肉を炙って食事を済ませることにした。モングレルはボア肉が好みであり、翌日はクレイジーボアを狩りたいと話した。夕食をとりながら、ウルリカはモングレルの身体能力の高さについて触れ、砦にいた兵士の中でも彼ほどの力持ちはいなかったと驚いた。モングレルは軽く受け流しつつ、自分の力には絶対の自信を持っていた。

ウルリカへのマッサージ

長時間の歩行で脚に疲れが溜まったウルリカに対し、モングレルは簡単なマッサージを申し出た。彼は過去にマッサージの技術を習ったことがあり、実践経験もあったため、ウルリカに施術を始めた。最初は驚いていたウルリカだったが、次第にその効果を実感し、痛みと心地よさの狭間で声を漏らしていた。

思わぬ効果とモングレルの才能

マッサージが終わると、ウルリカは急いで外へ駆け出していった。モングレルは、その反応を見てデトックス効果が早くも出たのではないかと考え、マッサージ店を開けば儲かるかもしれないと独りごちた。自身の隠れた才能に驚きつつ、手のひらのツボを押しながら満足げに頷いた。

第二十話  森のおやつと水場の哨戒

朝のマッサージ騒動

翌朝、ウルリカは不機嫌そうな表情でモングレルを睨んでいた。昨夜のマッサージが痛みを伴うものであったことに不満を抱いていたようだ。しかし、効果自体は確かであったため、彼女は最終的に施術の価値を認めた。モングレルは、今後も施術を希望するなら料金を取ると告げ、ウルリカは渋々ながらも了承した。こうして、彼は新たな小さな収入源を得ることとなった。

作業小屋周辺の整備

モングレルとウルリカは、作業小屋周辺の環境整備を開始した。ウルリカは索敵と水場の確認を担当し、モングレルは雑草刈りや薪の調達を引き受けた。彼はバスタードソードを巧みに使い、周囲の草や枝を刈り取った。特にバロア材は成長速度が異常に早く、一ヶ月で年輪が一つ増えるほどであり、定期的な伐採が必要であった。

マレットラビットとの遭遇

作業の最中、モングレルは下草の中でマレットラビットを発見した。その愛らしい姿に一瞬心を奪われたが、ウルリカが即座に矢を放ち、命中させた。マレットラビットは即死し、モングレルは動揺しつつも、それを狩猟の成果として受け入れた。その後、毛皮は売却し、肉は朝食として焼いて食べた。

水場の調査

ウルリカの報告によると、水場には真新しい足跡と泥の跡が残されており、近くにクレイジーボアがいる可能性があった。二人は痕跡をたどりながら水場へと向かい、周囲の様子を観察した。ウルリカはフィールドサインを読み取り、過去にディアやボアがこの付近を利用していたことを突き止めた。しかし、最近の活動は少なく、大型魔物の存在は確認されなかった。

サイクロプスとの遭遇

より確実に魔物を誘き寄せるため、モングレルは大声を出し、木を叩いて威嚇した。すると、茂みの奥から巨大な一つ目の魔物——サイクロプスが現れた。しかし、その個体は異常に痩せ細っており、目も濁っていた。明らかに飢えによる衰弱が見られ、もはや狩りをする力も残っていないようだった。ウルリカは矢を放ち、あっさりと仕留めた。

サイクロプスの処理

モングレルは死体の処理を担当し、ウルリカは回収可能な部位を選別した。サイクロプスの目玉は価値があったものの、腐敗の危険があるため、早急に処理する必要があった。この水場周辺では、以前からサイクロプスが狩りを行っていた可能性があり、その影響で他の魔物が減っているのかもしれなかった。二人は作業を終え、小屋へと戻ることにした。

第二十一話  モングレルの簡単近接技講座

作業小屋への道のり

翌朝、モングレルとウルリカは北部第三作業小屋へ向けて出発した。道は次第に人の手が入らなくなり、目印も少なくなっていったが、ウルリカは迷うことなく先を進んでいた。途中、モングレルは最近導入したスクリューキャップ式の水筒について語った。これは従来のものとは異なり、水漏れしない利便性を持つものの、討伐時に音が鳴るため、ウルリカはあまり好ましく思っていなかった。

道中の小競り合いと作業小屋の到着

移動中、二人はゴブリンの襲撃を受けたが、ウルリカが素早く矢を放ち、即座に撃退した。また、遠目にマレットラビットが穂をすり潰している様子を観察するなど、比較的穏やかな道のりであった。目的地である作業小屋に到着したのは夕暮れ前で、幸運にも明るいうちに着くことができた。小屋は荒らされておらず、掃除を済ませた後、隙間を塞ぐ作業を行った。

狩猟の試みと失敗

日没までに時間があったため、ウルリカは狩猟を提案し、二人は周囲を探索した。彼女はスキルを発動し、生き物の弱点を把握しながら狙いを定めたが、獲物となる鳥に察知されてしまい、矢は外れた。夜も更け、狩りは諦めることとなった。

夕食と雑談

小屋に戻った二人は、暖炉で干し肉を炙り、スープを温めながら食事をとった。ウルリカはモングレルの身体能力の高さを指摘し、彼が他の兵士よりも圧倒的な力を持っていることを再認識した。彼は自分の力が突出していることを意識しつつも、隠して生活するのは難しいと感じていた。

ウルリカへのマッサージ

ウルリカは荷物を担いだ影響で脚に疲労が溜まっていたため、モングレルがマッサージを申し出た。彼の経験則に基づく施術は的確であったが、かなり痛みを伴うものであった。ウルリカは悲鳴を上げながらも効果を実感し、最終的には体が軽くなったことを認めた。施術後、彼女は慌ただしく外へ出て行った。モングレルは、自分のマッサージ技術が意外と有用であることに気付き、新たな可能性を見出した。

第二十二話  新商品大発見

北部第三作業小屋への道中

翌朝、モングレルとウルリカは北部第三作業小屋を目指し、薄暗いうちに出発した。進むにつれ道は不明瞭となり、人の手が加えられた目印も少なくなったが、ウルリカは迷うことなく先を進んでいた。道中、モングレルはスクリューキャップ式の水筒について説明したが、ウルリカは水が揺れる音が魔物に気づかれる原因になるとして、この種の水筒を好まなかった。

途中、ゴブリン二体に遭遇したが、ウルリカが素早く矢を放ち、即座に討伐した。さらに、マレットラビットが雑草をすり潰す姿を遠目に観察するなど、特に大きな脅威もなく旅を続けた。

作業小屋の到着と準備

目的地である北部第三作業小屋に到着したのは夕暮れ前であった。小屋は荒らされておらず、内部の掃除と虫除けの作業を行い、隙間風を防ぐための修繕も施した。備え付けの箒が古くなっていたため、後日ギルドへ報告することを決めた。

狩猟の試みと失敗

日没まで時間があったため、ウルリカが狩猟を提案し、二人は小屋の周辺を探索することになった。ウルリカはスキルを発動し、暗闇の中で生き物の弱点を探したが、獲物となる鳥に察知され、狩りは失敗に終わった。

夜の食事と会話

小屋へ戻った二人は、暖炉で干し肉を炙り、スープを温めながら食事をとった。ウルリカはモングレルの身体能力の高さを指摘し、彼が他の兵士よりも力に優れていることを改めて確認した。モングレル自身も、自身の強化を隠して生活することの難しさを感じていた。

ウルリカへのマッサージ

ウルリカは荷物を担いだ影響で脚に疲労が溜まっていたため、モングレルがマッサージを施すことになった。経験則に基づく彼の施術は効果的ではあったが、痛みを伴うものであり、ウルリカは悲鳴を上げつつもその効果を実感した。施術後、彼女は慌てて小屋を飛び出していった。モングレルは自分のマッサージ技術が意外と実用的であることに気づき、新たな可能性を見出した。

第二十三話  メレンゲマフィンの尖りすぎたツノ

新商品の泡立て器とメレンゲ菓子の開発

ケンは新しく導入した泡立て器を活用し、メレンゲ菓子の製作を始めた。メレンゲは鶏卵の白身を泡立てて作る菓子であり、焼き上げたり冷やしたりと多様な活用法がある。ハルペリアでは衛生面の問題から生のメレンゲは使用されず、加熱されたものが一般的であった。

モングレルはケンの店を訪れ、たんぽぽ茶とともにメレンゲクッキーを試食した。軽やかな食感と柑橘の風味が特徴で、なかなかの出来栄えであった。

新たな客との出会い

その時、新たな客が店に入ってきた。男は長身で、鋭い目を持ちつつも親しみやすい雰囲気を漂わせていた。馬の匂いがすることから、モングレルは彼を兵士と推測した。男はオウルと名乗り、斥候としてレゴールに派遣されていたという。

オウルはミルク入りの紅茶とメレンゲマフィンを注文した。メレンゲマフィンは、焼き上げたメレンゲの層が特徴的で、柑橘の香りが漂う一品であった。オウルはその味に驚き、王都の菓子にも劣らぬ本格的な味わいだと評価した。

ケンの独特な接客

しかし、ケンは王都の菓子と比較されたことに不満を抱き、オウルの舌が未熟であると指摘した。その高慢な態度にモングレルは困惑しつつも、場を和ませようとした。オウルは戸惑いながらも店の味を称賛し、愛馬のために菓子を持ち帰ることを希望した。

ケンは最初渋ったものの、最終的には砂糖菓子を提供した。オウルは価格の安さに驚きつつ、店を後にした。その姿を見送りながら、モングレルはケンの接客態度が店の発展に悪影響を及ぼしていることを改めて実感した。

ケンの課題

モングレルは、ケンが接客よりも菓子作りに専念すべきではないかと考えた。店員たちも同様の意見を持っているようであったが、ケンは客への菓子の解説を重視し、自らの態度を改めるつもりはないようであった。モングレルは内心でため息をつきながら、ケンの接客が改善される日は来るのかと考えた。

第二十四話  森の成功例と失敗例

秋の恵みと初心者ギルドマンの危険

秋になると、アイアンランクの初心者ギルドマンたちがバロアの森に集まり、森の恵みを拾いに来ていた。この季節は森の実りが豊富であり、比較的安全な浅い場所でも収穫が可能であった。しかし、初心者たちは森の危険を正しく理解しておらず、より多くの収穫を求めて深入りする者も多かった。その結果、脂の乗った魔物たちの餌食になることも珍しくなかった。

樹上に逃れた新米ギルドマン

森の奥から助けを求める声が聞こえた。モングレルが向かうと、クレイジーボアが一本のバロアの木の根元で暴れていた。木の上には十五歳ほどの瘦せた少年がしがみつき、半泣きの状態で助けを求めていた。装備はほぼ平服に近く、初心者であることは明らかであった。彼はクレイジーボアに追われ、木の上に避難していたが、降りることができずにいた。

モングレルはクレイジーボアを自らの獲物とすることを条件に、助けることを約束した。バスタードソードを構え、ボアが突進してくるのを待ち受ける。ボアは勢いよく突進してきたが、モングレルはバスタードソードの突きを完璧に合わせ、頭部を貫いた。クレイジーボアはその場で絶命し、戦闘はあっという間に終わった。

新米ギルドマンとの交流

助けられた少年はヒースと名乗り、ネクタールから来た新米ギルドマンであった。モングレルは彼に、バロアの森の危険性を再認識するよう忠告した。幸いにも木登りの技術があったために命を繋ぐことができたが、これは単なる幸運に過ぎなかった。

モングレルはヒースに、クレイジーボアの解体を見学させ、手伝うことで肉や毛皮を分けてやることを提案した。ヒースは喜び、その場で解体作業を学びながら、ギルドマンとしての経験を積むこととなった。

バロアの森の現実

しかし、全ての初心者がヒースのように幸運とは限らなかった。森を歩いていると、地面に蹄跡が続いており、その先には黒髪の少女の死体が横たわっていた。彼女の認識票はアイアン 1で、腹部には二つの深い刺し傷があった。チャージディアの角で貫かれ、運ばれてここに遺棄されたようであった。

モングレルは少女の遺品と認識票を回収し、簡易的な埋葬を施した。虫に集られる前に穴を掘って埋めるが、アンデッド化を防ぐために首と背骨を折る処置も行った。最後に、月の神ヒドロアへの祈りとして小さな布切れを燃やし、簡素な墓標を立てた。

繰り返される悲劇

バロアの森は決して人間に優しくない場所であった。地元民ですら慎重に避ける危険地帯に、金を求める初心者ギルドマンが無警戒に踏み込む。その結果として、こうした悲劇が後を絶たなかった。モングレルは幾度となく認識票をギルドへ届けてきたが、この光景には何度遭遇しても慣れることはなかった。

若い命を無駄にしないために、より強く警告すべきだと考えつつも、簡単に止められるものではなかった。秋の恵みの誘惑は、それほど強いものであった。

第二十五話  第四回熟成生ハムと飴玉猥談バトル

生ハムを求める交渉

モングレルはクレイジーボアの後ろ足の肉が最も美味であると考えていたが、秋のジビエの豊富さゆえに飽きが来ていた。そのため、彼は新しい食べ方を模索し、マーゴットという偏屈な老女に生ハムを作ってもらおうと試みた。しかし、マーゴットはモングレルを気に入らず、彼の頼みを断った。どれほど金を積もうとも、彼女は頑として受け入れなかった。

マーゴットはモングレルの話し方が亡き夫を思い出させると語り、彼を「若者の面をしたジジイ」と評した。モングレルは怒りを覚えつつも、これ以上交渉するのは無駄だと判断し、諦めて店を出ようとした。

チャックへの特別待遇

その時、チャックという男が店にやってきた。彼はマーゴットの好物であるピクルスを手土産に持参しており、そのおかげで彼女の対応は一変した。マーゴットはチャックを歓迎し、彼に生ハムを一本まるごと譲るという大盤振る舞いを見せた。

モングレルはこの光景に激怒した。彼がどれだけ頼み込んでも断られた生ハムを、チャックは何の苦労もなく手に入れたのである。納得のいかないモングレルは、チャックに対して怒りを募らせ、ギルドへと向かった。

ギルドでの宣戦布告

ギルドに着いたモングレルは、チャックが生ハムを得たことを公に訴えた。しかし、周囲の反応は冷ややかであり、誰も彼の怒りに同調しなかった。むしろ「チャックだから仕方ない」といった様子で受け流された。

モングレルはさらに憤慨し、チャックに勝負を挑んだ。賭けの内容は、モングレルが勝てばチャックの生ハムを三切れもらい、チャックが勝てばハーブ味の飴を三個渡すというものだった。チャックは一瞬迷ったものの、飴の魅力に負け、勝負を受けることとなった。

猥談バトルの開幕

ギルド内は一気に活気づき、伝統の猥談バトルが始まることになった。審判は毎度のごとくディックバルトが務め、参加者たちはスケベな話題を競い合った。チャックは新しい娼館の情報を披露し、客の投げる硬貨に応じて踊り子が脱ぐという制度を紹介した。この情報はギルド内に大きな衝撃を与え、ディックバルトによる「有効」判定が下された。

モングレルは不利な状況に追い込まれたかに見えたが、彼は「男以外のスケベ情報」も知っていると宣言し、口内の性感帯に関する知識を披露した。この一撃はギルド内にさらなる動揺をもたらし、ディックバルトからの「有効」判定を獲得した。さらに、追加攻撃として「訓練によってより快感を得られる」との情報を投じ、チャックを完全に沈めた。

勝利と生ハムの確保

最終的にディックバルトはモングレルの勝利を宣言し、チャックは敗北を認めた。モングレルは約束通り生ハムを三切れ手に入れ、それをライナとウルリカに分けることにした。ウルリカは遠慮し、飴を受け取るにとどまったが、ライナは酒のつまみとして喜んで生ハムを受け取った。

今回の戦いを経て、モングレルは生ハムを手に入れることには成功したものの、それはほんのわずかな量であった。それでも、彼は美味いものは適量を楽しむのが最も良いと考え、満足げにエールを飲み干した。

第二十六話  ナイトオウルの来訪

戦後の日常と新たな菓子屋

戦争が終わり、レゴールの街には平穏が戻っていた。敵の侵攻による被害は最小限に抑えられ、戦時中に準備していた備えも多くが不要となった。この誤算はむしろ喜ばしいものであり、修正作業も前向きなものとなっていた。

また、街の外れには新たに菓子屋ができ、その味の良さから貴族街の店が危機感を抱くほどの評判を得ていた。店主のケンは王都出身の菓子職人であり、その腕前は確かであった。貴族街の職人にとっては競争相手となる存在だが、美味ければどこであろうと構わないというのが一般の認識だった。

突然の来訪者

ウィレムが仕事をしていると、家令のアーマルコが来客を告げた。訪問者はナイトオウル・モント・クリストル侯爵であり、しかも馬に乗って現れたという。突然の訪問にウィレムは慌てたが、すでに扉の向こうに控えていると知り、逃げる暇もなく対面することとなった。

ナイトオウルは二メートルを超える長身で、鍛え上げられた肉体を持つ男である。貴族でありながら実戦経験も豊富で、鋭い眼光を持つ彼の姿は、ウィレムとは対照的であった。

再会と近況報告

ナイトオウルは騎馬部隊の訓練を終え、レゴールへと立ち寄ったという。レゴールの街道整備を評価しつつ、ウィレムが仕事と菓子に没頭していることを咎めた。彼は「力を抜ける時は抜け」との考えを持ち、ウィレムにも休息を取るよう勧めた。

その後、戦時中にウィレムの軍勢を支援した「月下の死神」についての話題が出た。ナイトオウルが派遣した可能性が高かったが、彼はそれを明言せず、あくまで曖昧に受け流した。しかし、ウィレムは彼の意図を察し、感謝の意を伝えた。

王都の情勢と貴族社会の問題

王都の現状について、ナイトオウルは特に変化はないと語った。レゴールへの反感を持つ者は減ったが、商売人に対する警戒感は依然として強いという。ウィレムはその状況に困惑しつつも、どうしようもないと嘆いたが、ナイトオウルは「伯爵になったのだから堂々としていろ」と助言した。

また、ウィレムは自身が貴族としての立場に未だ慣れず、見合い話を避け続けていることを打ち明けた。ナイトオウルはそんな彼を「軟弱な胃袋」と揶揄しつつ、もっと自信を持てと叱責した。

突然の縁談話

本題に入ると、ナイトオウルは思いがけない話を切り出した。それは、彼の妹ステイシーとの結婚を考えてほしいというものだった。

ウィレムは驚愕した。ステイシーは以前、彼の次兄と婚約していたが、その兄が亡くなったことで「呪われた令嬢」との噂が立っていた。そのため、彼女は未だに婚約相手を持たずにいたのだった。

ナイトオウルによれば、ステイシーは最近ウィレムに興味を持ち始めているという。その理由は、彼女の親衛騎士ブリジットがウィレムのことを高く評価しており、その話を聞くうちに関心を抱くようになったのだという。

困惑するウィレム

ウィレムは混乱した。兄の死の影響を考えれば、彼女にまた不幸な噂がつく可能性もある。しかし、ナイトオウルは「お前が彼女を幸せにすれば、そんな噂は払拭できる」と断言した。

動揺するウィレムは、いきなり結婚を決めるのは無理だとし、とりあえずお茶会を開くことを提案した。ナイトオウルはその答えを受け入れたものの、ウィレムの緊張ぶりには呆れた様子だった。

彼にとって、女性と向き合うことは何よりも苦手なことである。しかし、避けてばかりもいられない。

王都の女性はどんな菓子を好むのか──ウィレムの思考は、すでにそこに向かっていた。

第二十七話  衣祭りで服選び

即席昆布茶の試作

モングレルはヤツデコンブを二センチ角ほどに切り、陶器のカップに入れた。そこに塩をひとつまみ加え、さらに好みで追加する。そして熱湯を注ぎ、しばらく待つことで昆布茶が完成した。この味は塩気が効いており、スープに近いが、彼にとってはお茶の感覚に近かった。

梅干しがあれば梅昆布茶として完成するはずだが、梅がないため代用を考えたものの、適当なものは思い浮かばなかった。結局、個人的にこの味で満足しているため、改良の必要はないと考えた。ただし、この昆布茶が売れるかどうかは別の話であり、以前湖で作った昆布だしも、〝アルテミス〟では評価が分かれていた。特有の海藻の風味が受け入れられなかったため、文化の違いによるものと結論づけた。無理に広める必要もないため、自分が楽しめればそれで良いと考えていた。

宿の女将からの頼まれごと

昆布茶を飲みながら休憩していたところ、宿の女将から声をかけられた。今日は「衣祭り」の日であり、広場には古着が集まっているという。モングレルに対し、宿で使用するベッドシーツを買いに行ってほしいと頼んできた。

シーツの買い出しにはそこそこ重量があるため、忙しい女将に代わってモングレルが引き受けることとなった。宿の世話になっている以上、こういった手伝いはよく引き受けている。特に彼の部屋は私物が多く、半ば賃貸のようになっているため、こうした頼まれごとには協力する姿勢を取っていた。

衣祭りの様子

広場に向かうと、例年よりも衣祭りが賑わっていた。数年前までは地味な印象があったが、交易の活発化に伴い、流通する衣類の種類も増えていた。布地やボタン、飾り糸などの衣類用品が売られており、特に女性向けの服売り場は活気に満ちていた。

この祭りは「月の神ヒドロア」を讃えるものであり、神が常に新しい衣を纏うことにちなんで、古着を交換し合う行事であった。初日には貴族が使用していた高級な服も売られるため、華やかな雰囲気に包まれていたが、翌日には一般的な古着市へと移行する。

モモとライナとの再会

シーツを買う前に市場を見て回っていると、モモとライナに遭遇した。二人は服を探しており、モモはローブの下に着るシャツの素材を、ライナは実用的な服を求めていた。

モモは「ライナに似合う服を選ぶ」と言い出し、モングレルにも意見を求めた。ライナは実用性を重視する一方で、モモはデザイン性を優先し、意見が衝突していた。試着したマトリョーシカのようなクロークはライナが気に入ったが、モモは納得していなかった。

その後、モングレルが防寒性を考慮せず選んだ服を提案すると、ライナは即決で購入を決めた。白い長袖で露出がやや多いが、質の良い生地で作られており、彼女は「普段着たことがない服」として興味を示した。

シーツの購入と祭りの賑わい

ライナの買い物が終わった後、三人はベッド用のシーツを探すことにした。広場には十分な在庫があり、清潔なものを選んで購入した。ただし、価格は予想以上に高く、改めて布地の価値を実感することとなった。

今年の衣祭りは例年よりも活気があり、多くの人が服や布地を求めて賑わっていた。モングレルにとっては特別興味のある行事ではなかったが、こうして仲間と買い物をする時間は悪くないと感じていた。

第二十八話  宿屋に響くケダモノの嬌声

部屋の片付けと来客の準備

モングレルは宿の部屋を片付けていた。普段から整理整頓はしていたが、この日は来客の予定があったため、特に念入りに行った。ケイオス卿絡みのアイテムを見られるわけにはいかず、また、客が落ち着ける環境を整えるためでもあった。

宿の娘ジュリアが騒ぎながら客の到着を知らせた。宿という場所柄、来客はフロントを通さなければならず、今回は事前に伝えてあったため問題はなかった。しばらくするとドアをノックする音が聞こえ、モングレルは迎え入れた。

ウルリカの訪問とマッサージ

来客はウルリカだった。彼女は緊張した面持ちで部屋に入り、持参した金をモングレルに渡した。以前、任務で同行した際にマッサージを受けたことがあり、それが気に入った彼女は再び施術を求めてきたのである。

モングレルはまず、用意していたタンポポコーヒーを勧めた。ウルリカは苦味に顔をしかめながらも、すべて飲み干した。その後、彼女は上着を脱ぎ、薄着の状態でベッドに横たわった。モングレルは脚や背中を中心にマッサージを施し、時折ウルリカの悲鳴が部屋に響いた。

彼のマッサージは素人ながらも、それなりに効果があるようで、ウルリカは痛みに悶えつつも満足した様子だった。会話の中で、ライナが衣祭りで購入した新しい服について話題に上がった。モングレルが選んだ服は、ライナに似合っていたらしく、ウルリカも興味を持った。しかし、自身の体型との相性を考え、少し不安を抱いていた。

マッサージが終わると、ウルリカは疲れた様子でベッドに横たわった。彼女の言動が妙に色気を含んでいたため、モングレルは呆れつつも手拭いを投げつけ、早く服を着るよう促した。

ライナの来訪と未遂のマッサージ

ウルリカの口コミが広まったのか、数日後にライナが宿を訪れた。彼女もマッサージを受けたいと申し出たが、モングレルは「男にしか施術しない」と断った。しかし、ライナは「ウルリカにはやったのだから」と食い下がり、モングレルは仕方なく施術を受け入れることにした。

ライナは上着を脱ぎ、先日購入した白いトップス姿になった。モングレルは「都会の子のように見える」と評価し、ライナも満更ではない様子だった。しかし、実際にマッサージを始めると、ライナの身体は全く凝っておらず、むしろくすぐったがるばかりで、施術にならなかった。

結局、モングレルはマッサージを断念し、ライナを〝アルテミス〟へ返却することにした。彼女にはまだ必要のない施術だったという結論に至った。

ディックバルトの依頼と異様な展開

しばらくして、宿の女将が街でモングレルのマッサージの話を広めた影響で、新たな客が現れた。その客は、ディックバルトであった。

彼は「二時間コースで頼む」と言いながら部屋に入った。モングレルはマッサージの施術内容を説明し、普通の施術であることを強調したが、ディックバルトの態度はどこか含みを持っていた。彼は「お前は男の人体を知り尽くしている」と妙な言葉を残し、施術を受ける姿勢を整えた。

モングレルがマッサージを開始すると、ディックバルトは異様なまでに声を上げ、まるで別の意味での施術を受けているかのように振る舞った。彼の言動は次第に激しさを増し、部屋中に響き渡った。モングレルは途中で施術を中止したかったが、最後までやり遂げるほかなかった。

施術後、ディックバルトは満足した表情で代金を渡し、少し多めに色をつけて去っていった。

マッサージ業の終焉

数日後、ウルリカが再び訪れ、マッサージを頼もうとした。しかし、モングレルは「もう二度とマッサージはやらない」と宣言した。ディックバルトの施術があまりにも衝撃的だったため、彼は副業を完全に放棄する決断を下したのである。

第二十九話  近所にいる世界一位の男

薪割りの仕事

冬の訪れが近づき、モングレルは薪割りの仕事を請け負っていた。例年なら魔物狩りで忙しくなる季節だが、戦争の影響で秋が短く感じられた。今年は徴兵前の夏の方が忙しかったほどである。冬を迎えるには膨大な薪が必要となるため、ギルドでは大量の薪を用意していた。

この日、ギルドの修練場近くでの薪割り作業が割り当てられた。エレナに案内されると、そこには通常の1.4倍ほどの長さの薪が山積みになっていた。これは製材所の新人が切り方を誤り、通常の薪として使いにくくなったため、ギルドが安価で買い取ったものだった。しかし、長すぎるせいで薪として扱うのが困難であり、誰も作業を引き受けようとしなかった。

報酬が安すぎるためギルドマンも興味を示さず、エレナは困っていた。だが、その報酬額を決めたのがミレーヌであると聞いたモングレルは、「なら適正価格だ」と納得し、作業を開始することにした。

薪割り作業と修練場の様子

修練場ではギルドの新人たちが訓練に励んでいた。その活気を横目に、モングレルは長い薪を次々と割っていった。長さがあるため通常の薪割りより少し手間がかかるものの、彼の腕力では特に苦労することもなかった。

ハルペリアは戦争に勝利した可能性が高く、防衛戦での被害も少なかったため、国内は高揚感に包まれていた。戦争の影響で修練場の利用者は増え、若者たちは兵士になることを目指して鍛錬に励んでいた。モングレルは、戦争の影響を受けた若者たちの熱意を感じながら、黙々と薪を割り続けた。

ウォーレンの申し出

薪を割っていると、ウォーレンが声をかけてきた。彼も修練場で訓練をしていた一人で、戦後は特に熱心に鍛錬を積んでいる様子だった。彼はモングレルに稽古をつけてほしいと頼んだが、モングレルは「薪割りで忙しい」と断った。しかし、ウォーレンは作業を手伝うことを条件に申し出を受け入れさせた。

ウォーレンが薪の運搬を担当することで、モングレルは作業に集中でき、通常よりも早く薪割りを終えることができた。しかし、ウォーレンは重労働の影響で汗だくになっていた。それでも彼は疲れを感じさせず、「シルバーランクに上がる」と意気込み、木剣を手に稽古を求めた。

剣の稽古

モングレルはウォーレンの申し出を受け入れ、稽古をつけることにした。ウォーレンはバスタードソードの木剣を使っており、成長した体格に合わせて武器を変えていた。しかし、彼はロングソードの使用を目指しており、バスタードソードを使うつもりはないと語った。

稽古は、ウォーレンが攻撃を仕掛け、それをモングレルが受ける形で進められた。攻撃の精度が低ければ弾き、良ければ適切に防御するというシンプルな訓練だった。ウォーレンは疲れが出始めると攻撃が雑になり、防御が甘くなった。その隙をモングレルは的確に突き、最後にはウォーレンの木剣を弾き飛ばした。

稽古を終えたウォーレンは完全に力を使い果たしていたが、満足した様子だった。モングレルは薪割りを手伝った労いとして、彼に食事を奢ることにした。

夢を語るウォーレン

酒場で食事をしながら、モングレルはウォーレンに「兵士になりたいのか」と尋ねた。ウォーレンは驚きつつも、自身の志を語り始めた。戦争で先輩のランディが亡くなったことをきっかけに、「国を守る兵士になりたい」と思うようになったのだという。彼はサングレールの侵攻を防ぎ、祖国の人々を守る英雄になりたいと考えていた。

そのために〝大地の盾〟に入ることを目指し、厳しい訓練を続けていた。入団試験が近づいており、不安もあるが、それでも挑戦したいと語った。彼の目には、夢を追う者特有の熱意が宿っていた。

モングレルは「受かると良いな」と声をかけ、ウォーレンも「馬上騎士になりたい」と未来への期待を膨らませた。モングレルは「馬には乗れるのか」と問い、ウォーレンは「まだ未経験」だと答えた。モングレルも一時期練習していたが、上達する前に飽きたことを明かし、ウォーレンに呆れられた。

世界一を目指して

ウォーレンは「世界一強くなりたい」と口にした。モングレルもその気持ちは理解できるとしながら、「もう世界一になった」と冗談めかして答えた。ウォーレンは「世界一を譲ってくれ」と頼んだが、モングレルは「死んだ後ならいい」と突っぱねた。

こうして、ウォーレンの夢と意気込みを聞きながら、彼らは食事を楽しんだのだった。

第三十話  森の奥地でソロキャンプ

冬の訪れと工事の進展

レゴール郊外では拡張工事が順調に進んでいた。ケイオス卿が発明した剣先スコップの導入により、作業効率が格段に向上していた。特に地下整備の進展が目覚ましく、下水道の設備も徐々に整えられていた。

しかし、冬の到来に伴い作業は次第に鈍り始めた。犯罪奴隷も労働者であり、国も彼らを限界まで酷使することはしないため、この時期の工事現場は警備員を配置するのみで閑散としていた。寒さが厳しくなるにつれ、燃料の確保が課題となる中、モングレルはギルドへと戻ることにした。

冬のギルドマンの過ごし方

冬はギルドマンにとって退屈な季節であった。バロアの森にはほとんど魔物が出現せず、狩猟の効率が著しく低下するため、冬の猟は成果が上がらない。結果として、ギルドマンたちは暖房の利いた大広間に集まり、屋内作業をすることがほとんどであった。

貴族たちも同様に、冬の間は王都に集まり社交の場を持つことが多かったが、本質的には暖房をシェアしながら暇を持て余していた。しかし、同じ顔ぶれが毎日続くと飽きが来るものであり、モングレルもその閉塞感から逃れるため、冬の森での野営を計画した。

冬の森でのキャンプ準備

モングレルはバロアの森へ向かう準備を整えていた。これは狩猟が目的ではなく、単に冬の静寂を楽しむためのものだった。ミレーヌに出発の報告をすると、彼女は特に土産は望まず、安全に戻ることだけを願っていた。

ライナに計画を話したところ、彼女は理解できない様子を見せた。冬の森でわざわざ過ごすことに価値を見出す者は少なく、この世界では珍しい趣味であった。しかし、モングレルにとっては「焚き火を眺め、静寂の中で過ごすこと」に大きな魅力があった。

森の奥地への移動

大荷物を背負いながら、モングレルはバロアの森の奥へと進んだ。森の奥へ行くほど気温は上がり、冬の魔物たちも暖かい地域へと移動していた。今回は安全な範囲で、過去に泊まった北部第三作業小屋よりもさらに奥へと進むことにした。

川沿いにたどり着くと、テントを張る場所を決めた。本来、川沿いの設営は危険だが、モングレルは自身の力を信じてこの場所を選んだ。薪ストーブを設置し、荷物を整理する中で、長らく忘れていた投擲武器のチャクラムを発見した。荷物の重みで歪んでいたが、修正すれば使える状態だった。

静かな時間と食事

特に目的のない一人キャンプでは、持参した食料を活用することが基本となる。モングレルは焚き火でパンを焼き、肉を挟んで食べた。冬場の保存性を考慮して持ち込んだ硬いパンも、温めることで甘みが増したように感じた。

昆布茶を飲みながら、じっくりと火を見つめる時間は贅沢なものだった。葉物野菜があればより良い食事になったが、冬では手に入らないため、それは贅沢な願望に過ぎなかった。

伐採と新たな計画

腹ごしらえを済ませた後、モングレルは薪拾いを開始した。森の奥地では木材の採取者もおらず、自由に伐採できる環境が整っていた。斧を振るい、大量の薪を確保していった。

すると、薪の豊富さから新たなアイデアが浮かんだ。川の水を利用し、即席の露天風呂を作る計画である。川岸に大きな穴を掘り、木材を組み合わせた浴槽を作り、焼き石で温めることで簡易風呂を構築できるのではないかと考えた。

しかし、風呂を作れたとしても、入浴後の寒さが問題となる。冬の森での湯冷めは命取りになりかねない。それでも、モングレルはこうした無駄な試みを楽しんでいた。

森の静寂を楽しむ

一人で過ごす冬のキャンプには、静けさと自由があった。風呂作りという新たな挑戦に思いを馳せながら、モングレルは薪を斬り続けた。誰もいない森の中で、彼は気ままな時間を満喫していた。


第三十一話  風呂と調理と来訪者

穴掘りと風呂の準備

モングレルは特注の携帯スコップを使い、風呂用の穴を掘っていた。このスコップは取っ手部分がなく、現地調達した木の枝を挿し込んで使用する簡素な構造であった。人間一人が入れるサイズの穴を掘るのは手間がかかったが、黙々と作業を続けた結果、十分な深さの穴を完成させた。

しかし、壁から水が染み出し始めたため、木材で補強する必要があった。穴の外壁を薪のように木材で囲み、崩落を防ぐと同時に断熱材としての役割を持たせた。底にも木材を敷き、形は四角く整えた。半球形にする案もあったが、木材で内壁を覆う手間を考えると実用性を優先せざるを得なかった。

水の確保と焼き石の準備

川に近い砂地であったため、水は自然に湧き出し、放置すれば風呂桶が満たされるほどだった。しかし、このままでは冷たいままであり、焼き石で加熱する必要があった。

焼き石作りのため、風呂の近くで焚き火を起こし、大きな石を並べて強火で熱した。石は蓄熱性が高く、一度熱すれば冷えにくい。その特性を利用し、十分に加熱した石を次々と風呂に投入する作戦である。

火の中で熱せられていた石の一つが突然割れ、大きな音を立てた。内部の水分が膨張し、破裂したものと思われる。こうしたハズレもあったが、十分な個数を焼けば問題にはならなかった。

風呂の加熱と温度調整

焼き上がった石をスコップで拾い、風呂に放り込むと、水蒸気が激しく立ち上った。最初の数個では温度の上昇は緩やかだったが、数を増やすにつれ、湯気が絶えず立ち昇るようになった。

しかし、指を突っ込んで湯加減を確かめたところ、熱湯に近い温度になっていた。古代の風呂には温度調整機能などないため、しばらく冷ますしかなかった。

ホットサンドの調理

風呂が適温になるのを待つ間、モングレルは昼食の準備を始めた。今日は鍛冶屋の娘ジョゼットに作ってもらったホットサンドメーカーを持参していた。重くてかさばる道具ではあったが、この世界では不味いパンを美味しくするための重要なアイテムだった。

パンに肉を挟み、ホットサンドメーカーでしっかりと焼き上げた。油の香ばしい匂いが漂い、サクサクのパンが出来上がった。焚き火のそばで調理を続けながら、辺りを見回した時、異変に気付いた。

老オーガとの遭遇

薪ストーブの近くに、一体の魔物が佇んでいた。それはただの魔物ではなく、人型のオーガであった。

オーガは身長二メートル半ほどで、浅黒い肌と深い体毛を持ち、長い縮れた髪をしていた。全身に筋肉が隆起し、不吉な二本の角が額から伸びていた。しかも、このオーガは通常の個体とは異なり、古びたズボンとロングソード、毛皮のマントを纏っていた。

この特徴に見覚えがあった。かつてレゴールのギルドで指名手配されていた特定危険種――剣持ちのオーガ〝グナク〟だった。数年前にシルバーランクのパーティーを半壊させ、その後行方をくらましていた存在である。

グナクの反応

グナクはモングレルをじっと見つめていたが、すぐに襲いかかる様子はなかった。単なる戦闘意欲によるものではなく、何か別の目的があるように思えた。

試しにホットサンドを差し出すと、グナクは警戒しながらも興味を示した。慎重に近づき、匂いを嗅ぎ取ると、ようやく口にした。そして、一気に食べ終えた後、薪ストーブの近くへ戻った。

この行動を見て、モングレルはグナクの傷に気付いた。右目は潰れ、左半身には火傷の痕があった。火傷は比較的新しいもので、バロアの森の奥地で何かと戦った結果である可能性が高かった。

観察の決意

グナクの行動を見て、モングレルの中に興味が湧いた。魔物である以上、本来は即座に討伐すべき存在であったが、この老オーガはどこか人間らしい仕草を見せていた。

今は襲いかかってこないが、それがいつまで続くかはわからない。そこでモングレルは、自ら攻撃するのではなく、何か仕掛けられたら反撃するという方針を取ることに決めた。

オーガとの友情を育むつもりはなかった。ただ、長年森に潜んできた知性ある老オーガがどのような行動を取るのか、それを観察することにした。

モングレルがそう決意した一方で、グナクは無言のまま険しい表情で彼を睨み続けていた。今にも襲いかかるかもしれない、危険な静寂が流れていた。

第三十二話  森の賢者

オーガの起源と生態

ゴブリンが突然変異を起こした結果、オーガが生まれるとされていた。サイクロプスはオーガの失敗作とも言われており、オーガの誕生はゴブリンの繁殖における数少ない成功例と見なされている。しかし、ゴブリン、サイクロプス、オーガの間には仲間意識はなく、出会えば殺し合う関係にあった。

このような魔物の生態に関する知識は、貴族の記録に頼るよりも、実際に観察したほうが正確であった。モングレルはその考えに従い、目の前の老オーガ〝グナク〟を観察し続けていた。

老オーガの風呂への侵入

モングレルが作った風呂に、グナクが無造作に手を突っ込んで湯をかき混ぜていた。最初は単なる興味かと思われたが、次の瞬間、グナクは風呂にゆっくりと身体を沈めた。

驚くべきことに、彼は装備していたロングソードだけは慎重に外に置き、いつでも迎撃できる体勢を整えていた。警戒心の強さと知性の高さが伺えたが、それ以上に問題だったのは、風呂の汚れであった。

長年身体を洗っていなかったオーガが風呂に入った結果、一瞬で湯は黒ずみ、無惨なまでに汚染された。モングレルが苦労して作り上げた露天風呂は、もはや彼が入るには耐え難いものとなった。

風呂を満喫するオーガ

グナクは風呂の湯を手ですくい、初めて見るような表情で驚いていた。そして、湯に浸かりながらゴシゴシと顔を擦り、長い髪を洗い始めた。まるで温泉に浸かる猿のようだった。

一方、モングレルは諦めの境地に達し、昆布茶を飲みながら観察を続けることにした。これほど汚れた湯では自分が入る気にはなれなかったが、グナクの動作には妙に人間味があり、見ていて飽きなかった。

老オーガの武器と慎重な性格

グナクが風呂から上がると、再び薪ストーブの近くに戻った。びしょ濡れの身体を晒しながらも、警戒心は解いておらず、ロングソードを手にしていた。

このロングソードは相当古いもので、刃が欠け、まともに手入れされていなかった。しかし、それを長年使い続けてきた事実は、彼の戦闘能力の高さを示していた。

モングレルが薪を補充しようとすると、グナクはロングソードを構え、一歩引いた。攻撃するつもりはないが、彼の間合いには決して入れさせないという意志が見えた。その慎重さは、彼が長年生き延びてきた理由を物語っていた。

スコップの研ぎ方を学ぶオーガ

モングレルは携帯スコップの刃を研ぐために川辺の石を使い始めた。するとグナクが興味を示し、ジリジリと距離を詰めてきた。彼は研ぎ方を観察し、自らも手持ちのロングソードを石の上に寝かせた。

最初はぎこちなかったが、モングレルの動きを見て学習し、徐々に正しい角度で研ぎ始めた。その姿はまるで鍛冶職人のようで、知能の高さを改めて印象づけた。

人間の力を見せつける

研ぎ終えたロングソードを試すため、グナクは木の枝に刃を振り下ろした。鈍い剣にも関わらず、オーガの怪力で太い枝が一撃で切断された。驚いた様子のグナクを見て、モングレルはさらに圧をかけることにした。

自らのバスタードソードを抜き、魔力を込めて細木を一振りで切り倒した。その威力を目の当たりにしたグナクは、明らかに警戒を強めた。モングレルが一歩踏み込むと、グナクはさらに後ずさった。

最後に大きく剣を振り上げると、グナクは茂みを突き破り、森の奥へと消えていった。慎重な性格を持つ彼は、戦いの結果を悟り、これ以上の対立を避けたのであった。

去っていった老オーガ

グナクは強敵に遭遇した時の判断力を持ち合わせていた。その慎重さが、彼を長年生き延びさせたのだろう。モングレルは露天風呂を台無しにされた不満はあったが、老オーガの行動を間近で観察できたことに満足感もあった。

オーガの寿命は未知数である。グナクはまだこの森で生き続けるのか、それとも次の冬にはもう姿を見せないのか。再び出会う可能性を考えながら、モングレルは薪ストーブの炎を見つめていた。

「だが、次はちゃんとした風呂に入りたいな」

そう思いながら、彼は風呂跡を埋め戻す準備を始めた。

第三十三話  楽しい春を待ちわびて特

街に戻った日常

冬のソロキャンプを終え、レゴールに戻ると、街の温もりと利便性が改めて実感された。寝心地や食事の快適さは、やはり文明の中でこそ得られるものであった。ギルドマンにとって討伐の少ない冬は暇な季節であったが、市民たちは変わらず忙しなく活動していた。

薪の値上がりや店の営業状況についての会話が飛び交い、露店では古着や冬の必需品が売られていた。モングレルはローリエ茶を片手に、街の様子を眺めながら、その活気を楽しんでいた。

ライナとの再会

通りを歩いていると、ライナと遭遇した。彼女は弓を背負い、矢筒を携えていたが、狩りに出るわけではなく、後輩に弓を教えていたらしい。シルバーランクになった彼女には、すでに後進を指導する立場が求められていた。

モングレルが後輩の成長について尋ねると、ライナは「的当ての腕前は上達しているが、狩猟の勘はまだ育っていない」と評価した。的に当てる技術は重要だが、実戦ではそれだけでは通用しないという考えであった。

そして話は、モングレル自身の弓の腕前に及んだ。ライナは彼が最近弓を使っていないことを見抜き、練習を勧めた。モングレルは乗り気ではなかったが、ライナの真剣な表情に押され、しぶしぶ承諾した。

弓の練習への誘い

ライナは、普段はモングレルから多くを学ぶ立場だが、弓に関しては自分の方が先輩であると主張した。体育会系の気質を発揮しながら、彼女はモングレルを修練場へと連れ出した。

モングレルも、教えてもらえる機会を活かすべきだと考え、素直に従うことにした。春になれば、一緒に狩りへ出るのも悪くない。そう思いながら、彼はライナと共にギルドの修練場へと向かった。

ギルドマンである以上、結局この建物に吸い寄せられる運命なのかもしれない。冬の静寂から一転し、春の狩猟に向けた準備が始まろうとしていた。

番外編  バスタードソード誕生秘話

モングレルの剣の謎

モングレルのバスタードソードは、一見普通の剣であったが、刃こぼれせず魔物を難なく斬り伏せる性能を持っていた。そのため、ギルド内では「あれは本当にただの剣なのか」と疑問を抱く者もいた。

ある日、ウォーレンはアレックスやフリードとともに酒場でモングレルの剣について議論していた。彼は「ただの剣ではない」と主張し、魔剣か何かではないかと考えていた。しかし、剣を見慣れたアレックスとフリードは「数打ちの凡庸な品だ」と一蹴した。それでもウォーレンは納得せず、ますます興味を持っていた。

鍛冶職人の失敗作

三十年近く前、ハルペリアの小さな鍛冶工房で、ある若い職人が剣を鍛えていた。彼は鉄の量を誤り、本来作るはずだったロングソードではなく、バスタードソードを打ち上げてしまった。寝不足と昨夜の深酒が原因であった。

工房の親方に見つかり、彼は「鉄の声が聞こえた」と苦しい言い訳をしたが、すぐに嘘だと見抜かれ殴られた。こうして誤って作られたバスタードソードは、処分されることなく市場に出されたものの、需要が低いため売れ残り、各地を転々とすることになった。

剣の新たな持ち主

長い旅路を経たバスタードソードは、ついにハルペリアの最果てに流れ着いた。そして、ある少年がそれを見つけ、「これが欲しい」と父にねだったことで、ようやく持ち主を得ることとなった。その少年こそ、モングレルであった。

時は流れ、ウォーレンはモングレルに剣の出自を尋ねた。すると、彼は「聖なる岩に突き刺さっていたものを、選ばれし勇者である俺が引っこ抜いた」と冗談めかして答えた。こうして、偶然生まれた一本のバスタードソードは、今もモングレルの手で使われ続けている。

その他フィクション

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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