どんな本?
『盾の勇者の成り上がり』は、異世界に召喚された青年が、数々の試練を乗り越え成長していくダークファンタジー作品である。第10巻では、主人公・岩谷尚文が新たな敵と対峙し、仲間たちとの絆を深めながら困難に立ち向かう姿が描かれている。
主要キャラクター
• 岩谷尚文:盾の勇者として異世界に召喚された青年。逆境にもめげず、仲間と共に世界の危機に立ち向かう。
• ラフタリア:尚文が最初に仲間にした亜人の少女。剣士として成長し、尚文を支える存在となる。
• フィーロ:尚文が育てたフィロリアルという型の魔物。人間の少女の姿にも変身でき、パーティの移動手段や戦力として活躍する。
物語の特徴
本作は、主人公が理不尽な状況に立たされながらも、仲間との信頼関係を築き、成長していく過程が魅力である。また、異世界の独自の設定や、多彩なキャラクターたちとの関わりが物語に深みを与えている。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:MFブックス
• 発売日:2015年03月25日
• 判型:B6判
• ISBN:9784040674858
• メディア展開:本作はアニメ化もされており、2019年1月から6月まで第1期が放送された。さらに、2022年4月から6月に第2期、2023年10月から12月に第3期が放送された。第4期は2025年7月に放送予定である。
読んだ本のタイトル
盾の勇者の成り上がり 10
著者:アネコ ユサギ 氏
イラスト:弥南 せいら 氏
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あらすじ・内容
新章開幕。英雄として帰還した尚文たちだが思わぬ弊害が……!?
「俺にはラフタリアの居場所を作る義務がある」
仇敵キョウとの決着をつけ、無事に元の世界へと帰還した尚文たち。
霊亀を倒したものの、来るべき波までの猶予期間は三ヶ月半!!
その最中、尚文はメルロマルクの女王に自らの領地を持ちたいと提案する。表向きは、波に備えた私兵の育成が目的と説明する尚文。しかし、真の目的は波によって壊されたラフタリアの故郷を再興させることだった……?
新章開幕! 異世界リベンジファンタジー堂々の第十弾、ここに登場!
感想
領地の獲得と奴隷の救出
尚文は霊亀のエネルギーを取り戻し、異世界から帰還した。その功績が評価され、ラフタリアの故郷跡地を領地として与えられることとなった。しかし、そこには多くの問題があった。奴隷狩りによって住民たちは売り払われ、彼らを救出するには膨大な資金が必要だった。さらに、盾の勇者に従う剣士と同郷であることが広まり、ルロロナ村出身の奴隷の価格が急騰していた。尚文はその状況に頭を悩ませつつも、裏の闘技場で資金を調達することを決意した。
闇のコロシアムと予想外の試練
ゼルトブルの闇のコロシアムは、単なる武闘大会ではなく、金と陰謀が絡む戦場であった。尚文はラフタリアやフィーロとともに戦いに挑み、勝利を重ねながら資金を増やしていった。しかし、大会運営側の妨害や、試合の不正行為に苦しめられることとなる。特に、試合直前に選手を襲撃する暗殺者の存在や、戦闘中の魔法妨害など、不利な状況が続いた。それでも尚文たちは知恵と力を駆使し、順調に勝ち進んでいった。
準決勝では、謎の女戦士ナディアと対戦することになった。彼女は雷魔法と獣人の力を操る強敵であったが、戦いの最中にラフタリアが彼女を「サディナ姉さん」と呼んだことで、事態は一変した。彼女こそ、ルロロナ村の漁師であり、ラフタリアの知人であった。再会を喜びつつも、試合は続行され、演出を加えた戦闘の末に尚文たちは勝利を収めた。
商人たちとの交渉と奴隷の買い戻し
サディナが秘密裏にルロロナ村の奴隷を集めていたことが判明し、彼女の行動が奴隷価格高騰の一因となっていた。しかし、彼女自身も借金を抱えており、その返済のために戦い続けていたのだった。尚文たちは闇の商人たちと交渉し、コロシアムの優勝賞金を使って奴隷を解放する計画を立てた。
しかし、決勝戦直前に、エキシビジョンマッチとして新たな刺客が投入された。その相手は「マーダーピエロ」という謎の男であり、スキル封印や魔法妨害を駆使する強敵であった。尚文たちは苦戦を強いられたが、合唱魔法を活用し、雷の力を得たラフタリアの一撃によって勝利を収めた。
奴隷の解放と新たな生活
尚文たちはついに優勝し、得た資金でルロロナ村の奴隷を買い戻すことに成功した。さらに、尚文の名を利用し、村出身の奴隷を持つことが危険であるという噂を流し、今後の取引を防ぐ策を講じた。帰還後、村では新たな生活が始まり、ラフタリアの同郷の者たちが再び集まることとなった。しかし、サディナは尚文への積極的なアプローチを続け、ラフタリアとの間に微妙な空気を生み出していた。尚文は新たな課題に頭を悩ませながらも、村の発展を目指し、新たな戦いへと歩みを進めるのだった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ 霊亀の結界
帰還と霊亀のエネルギーの解放
尚文たちは異世界での戦いを終え、波の召喚と同じように一瞬で転送され、メルロマルクの城下町が見える平原に戻ってきた。帰還を喜ぶ間もなく、尚文の盾から眩い光が放たれ、空へと溶けるように消えていった。それは霊亀のエネルギーが本来の役割を果たすために世界へ還っていく瞬間であった。長い戦いの末、尚文たちは異世界での使命を果たし、霊亀のエネルギーを奪還して帰還したのである。
波の状況と次なる守護獣の封印
尚文は砂時計の表示を確認し、波の発生が停止していることを知った。そして、次なる守護獣である鳳凰の封印が解けるまでの時間が三ヶ月半であることが判明した。かつての戦いの期間を振り返ると、今までよりも猶予があるといえるが、それでも準備期間としては決して長くはない。次なる戦いに向けて、尚文たちはこの時間を最大限に活用しなければならなかった。
仲間たちとの再調整
ラフタリア、フィーロ、リーシアは、短期間のうちに次の戦いへ向けた準備を進める必要があることを理解し、鍛錬の意志を固めた。フィーロは自身の成長と戦力強化の必要性を感じ、リーシアもまた自らの力をさらに引き出すことを決意した。尚文の盾には「使い魔の盾」が新たに解放され、式神のラフちゃんを引き続き運用できることが判明した。
女王との再会と次の指針
その時、城下町から馬車が接近し、メルロマルクの女王が姿を現した。女王は尚文たちの帰還を歓迎し、霊亀のエネルギーが還元されたことを確認した。尚文は、波が当面は発生しないこと、次なる守護獣である鳳凰の封印が三ヶ月半後に解けることを伝えた。この短い猶予の間に、彼らは戦力を整え、次なる戦いに備えねばならなかった。女王の馬車へと案内された尚文たちは、城へと向かい、今後の方針を定めるための話し合いへと移ったのである。
一 話 杖の七星
凱旋と民衆の反応
尚文たちは女王の用意した馬車に乗り、メルロマルクの城へと向かっていた。街の住民たちは凱旋パレードのように彼を称え、手を振って歓声を送っていた。かつては「盾の悪魔」として忌み嫌われた彼に対する態度の変化はあまりにも露骨であったが、民衆の心理とはそういうものだと尚文は割り切っていた。
異世界との時間の流れの違い
尚文は女王に尋ね、自分が旅立ってからどれほどの時間が経過したのかを確認した。すると、メルロマルクではわずか二週間半しか経っていないことが判明した。異世界では一ヶ月以上の時間が流れていたことを考えると、尚文たちの体感時間とこの世界の時間の進み方には大きな差があったようだ。
波と鳳凰復活の猶予
尚文は世界中の龍刻の砂時計が停止していることを確認し、次なる波の発生が抑えられていることを確信した。しかし、新たな問題として、次の守護獣である鳳凰の封印が三ヶ月半後に解けることが判明した。準備のための時間は確保されたが、それでも決して余裕のある期間ではなかった。
異世界で得た情報と新たな疑問
尚文は女王に対し、異世界で得た波の仕組みに関する情報を共有した。その世界では、波とは世界同士の融合現象であり、融合が完了すると世界が消滅するとされていた。この理論に基づき、異世界では眷属器の勇者が他世界に乗り込み、その世界の四聖勇者を討伐することで自らの世界を守ろうとしていた。
しかし、尚文はその理論に疑問を抱いていた。彼が異世界で見た四聖勇者は対人戦闘に特化しておらず、本来の役割に矛盾があると感じたのだ。また、波に関する別の見解が記された写本を入手し、それを解読することが今後の鍵となる可能性があった。
呪いによる能力低下と治療の必要性
尚文たちは異世界での戦闘において強力な呪いを受け、その影響で能力が著しく低下していた。治療には最低でも三ヶ月かかるとされ、完全回復までの間は戦闘力が制限される状態となっていた。このままでは、鳳凰復活に間に合わない可能性もあるため、尚文は七星勇者たちとの会談を要請し、強化方法の共有を試みることにした。
失踪した三勇者
尚文は女王に他の四聖勇者の現状を確認した。しかし、女王は目を逸らしながら、彼らが数日前に意識を取り戻し、その夜に忽然と姿を消したと告げた。どうやら転移スキルを使用して逃げたらしく、その理由は不明だったが、尚文は彼らが責任から逃げたのではないかと推測した。
また、霊亀の災害により各国の情勢が不安定になっており、彼らを政治的に利用しようとする勢力も現れる可能性があると女王は指摘した。特に、四聖勇者を召喚しようとした大国フォーブレイは彼らの動向に関心を示しており、場合によっては戦争を引き起こしかねない状況であった。
領地の要請と新たな計画
尚文はこの状況を踏まえ、領地を所有することを申し出た。その理由は、今後の戦いに備えて戦力を強化するためであり、特にラフタリアの未来を考えての決断でもあった。彼女が安心して暮らせる場所を確保するためにも、領地の管理が必要と判断したのである。
尚文が選んだのは、かつて最初の波で甚大な被害を受けた地域であり、現在は復興が進んでいない場所であった。そこを拠点とし、波に対抗するための軍を育成する計画を立てたのである。
伯爵位の授与と新たな称号
女王は尚文の申し出を受け入れ、彼に伯爵の地位を授与することを決定した。尚文は爵位に関心はなかったが、国家の威信を保つためにも正式な地位を与える必要があると女王は説明した。尚文はしぶしぶながらもこの決定を受け入れ、儀式を経て正式に伯爵となった。
クズ王の正体と七星勇者の秘密
儀式の後、女王は尚文に「七星勇者」について語り始めた。そして、彼女は尚文の前にクズ王を連行し、「彼が杖の七星勇者である」と告げた。
尚文はこの事実に呆然とした。かつて「英知の賢王」として名を馳せ、二十年以上前にシルトヴェルトと戦い、多くの国を救った人物が、今や無能な王として扱われているクズ王だったのだ。
しかし、尚文はその話を信じることができなかった。彼はこの男のどこに知略があるのかと疑問を抱きつつ、クズ王が持つ強化方法を聞き出す必要があると判断した。
クズ王への拷問と新たな問題
クズ王は尚文への敵意をむき出しにし、七星勇者の強化方法を明かすことを拒んだ。尚文は女王に対し、彼に可能な限りの拷問を行い、情報を引き出すよう指示した。女王もこれに同意し、クズ王への尋問を開始することとなった。
また、女王は尚文に新たな問題として、行方不明となっていたビッチの件を報告した。尚文はビッチが依然として生存している可能性が高いと判断し、彼女を捕えるよう命じた。
今後の展望
尚文は異世界から戻ったばかりでありながら、多くの課題を抱えていた。鳳凰との戦いに向けた準備、呪いの治療、行方をくらました三勇者の捜索、七星勇者との会談、そして失踪したビッチの確保など、解決すべき問題は山積していた。
尚文はこれらの問題に対処しながら、波に対抗するための戦力を整えていく決意を固めたのである。
二 話 奴隷の行方
呪いの影響と装備の異常
尚文は客室のベッドに横たわり、呪いによる身体の重さを実感していた。その日の会議では、女王たちと今後の計画について長時間話し合いを行ったが、問題は山積していた。尚文は自らの装備を確認し、異世界から持ち帰った鎧が文字化けし、機能しなくなっていることを発見した。ラフタリアやリーシア、フィーロの装備品も同様であり、彼女たちは以前の装備に戻すしかなかった。
領地獲得の目的と尚文の考え
ラフタリアは、尚文が爵位を得たことについて感想を述べたが、尚文自身はあまり実感が湧いていなかった。彼が指定した領地が最初の波で壊滅した地域だったため、ラフタリアは理由を問うた。尚文は、私兵を養成するために適した場所であり、エクレールの家系と縁の深い土地であったことを理由に挙げた。しかし、本心は彼女に対する配慮であったが、それを直接伝えることは避けた。
さらに尚文は、領地を活用する計画について語った。まずはラフタリアの知り合いを中心に奴隷を集め、戦力を整えた後、城の兵士たちの訓練も視野に入れていた。ラフタリアは尚文の発言の意図を察し、「人質」としての利用も考えているのではないかと指摘した。尚文は否定しなかったが、彼の真意はより現実的な戦略であった。
リーシアとの会話と成長の可能性
リーシアは尚文とラフタリアの関係について、夫婦のようだと冗談を口にしたが、ラフタリアは強く否定した。尚文は、彼女がまだ年若く、色恋沙汰を考えるには早いと考えていたが、一方で彼女の心の強さには敬意を抱いていた。
また、リーシアのレベルリセットについての話題も挙がった。尚文は、異世界での彼女の成長を観察していた結果、リセットの必要性はないと判断し、レベルを維持する方向で提案した。リーシアは悩んだ末に、今の自分を大切にしたいと決断した。
奴隷の解放と新たな問題
翌日、尚文たちは奴隷商のもとへ向かうことにしたが、その前に女王が一つの問題を報告した。霊亀事件後、女王はセーアエット領の亜人奴隷の即時解放を命じていた。しかし、解放の命令が出る前に多くの奴隷が売却されてしまい、行方がわからなくなっているという。ラフタリアの故郷の生き残りはわずか四人しか確認されておらず、この状況にラフタリアは大きな衝撃を受けた。
尚文は人手不足を補うため、新たに亜人奴隷を購入する方針を決めた。開拓を進めるためには、より多くの人員が必要であった。
奴隷商との再会と新たな仲間
尚文は久々に奴隷商を訪れた。奴隷商は相変わらずの態度で尚文を迎え、彼の新たな計画に興味を示した。尚文はできる限り低レベルの亜人奴隷を購入する方針を伝え、選定を開始した。
彼は、丈夫そうな少年二人、手を繋いで震えている子供二人、毛布をかぶって震えている子供、そして入り口近くでフィーロをじっと見つめている者を選んだ。特に、毛布をかぶっていたルーモ種の子供は、手先が器用で夜間の作業に適しているとされていたが、ひどく怯えており、身体には鞭打ちの痕が残っていた。
尚文は彼の傷を回復魔法で治療し、手先の器用さを活かせるか尋ねた。しかし、ルーモ種の子供は自信を持てず、「命令ならやる」と怯えながら答えた。その反応に尚文は不快感を覚え、彼を安心させるため「虐待する趣味はない」と伝えた。
新たな仲間と領地開拓の準備
尚文は奴隷商に対し、新たに選んだ奴隷たちの登録を依頼し、彼らの応急手当も指示した。奴隷商はこれに快く応じ、尚文の新たな計画に興味を示していた。
手続きを待つ間、尚文はラフタリアとリーシアを連れてテントを後にし、次の目的地へ向かう準備を始めた。彼の領地開拓は、多くの問題を抱えながらも確実に進行していった。
三 話 知人達
武器屋の訪問と領地開発の相談
尚文はローブを纏い、街を巡回して被害の状況を確認した。霊亀の襲撃の爪痕は深く、特に使い魔の猛攻の跡が各所に残っていた。しかし、目当ての武器屋には大きな被害がなく、通常営業を続けていた。店主の親父も無事であり、尚文は安心しつつ挨拶を交わした。
尚文は、武器屋の経営状況を尋ねた。親父の話によれば、災害後の防衛意識の高まりから武器の需要が増し、店は繁盛しているとのことだった。しかし、心得のない者が買い占めに走っており、それを懸念する声もあった。尚文は、領地の開発に伴い大量の武器を必要とすることを説明し、親父に弟子の育成を依頼した。親父は「弟子を取るほどの腕ではない」と謙遜しつつも、申し出を受け入れた。
装備の修理と異世界の影響
尚文は異世界で改造されたバルバロイアーマーを親父に見せた。異世界の鍛冶師によって改造されたこの鎧は、元の世界では機能しなくなっていた。親父は鎧を詳しく観察し、核石の部分は問題ないものの、他の箇所の調整が必要であると判断した。尚文は修理を依頼し、親父も未知の素材への興味から快く引き受けた。
また、尚文は天女の胸当てとラフタリアの巫女服をカウンターに載せ、これらの装備も修理が可能か尋ねた。巫女服については、裁縫の専門家の手が必要になると指摘され、尚文はそれを納得しつつも、できる範囲での修理を依頼した。ラフタリアは尚文の意図を察し、自分が着せ替え人形扱いされていることに不満を示したが、尚文は適当に誤魔化した。
領地開発への協力要請と今後の計画
尚文は、領地開発の拠点となる村の場所を親父に伝え、武器屋の運営や鍛冶技術の継承について協力を求めた。親父は興味を示しつつも即答は避けたが、知り合いに話を通すことを約束した。尚文は、武器屋の存在が新たな領地の発展に重要であると考え、将来的な協力を期待して店を後にした。
四 話 Eフロートシールド
女王との会談と装備の調達
尚文は城へ戻り、女王と今後の方針について話し合った。彼は倉庫に保管されている装備品を領地で活用するため、譲渡の許可を求めた。女王はそれを快諾し、戦闘で劣化したものが多いと指摘したが、尚文は問題ないと判断した。ラフタリアたちには、軽めの装備を優先して馬車に運ぶよう指示し、フィーロには定期的な運搬を頼んだ。
また、女王は倉庫前の訓練場に霊亀の素材を集めていることを伝え、尚文はその確認のために移動した。
霊亀の素材と新たな盾の解放
訓練場には山のように積まれた霊亀の素材があり、その中には目玉や脳といった異様なものまで含まれていた。しかし、それらは尚文の盾に吸収され、次々と新たな盾の解放条件を満たしていった。結果として、「霊亀の甲羅の盾」「霊亀の血の盾」「霊亀の心臓の盾」など、多数の盾が解放され、霊亀シリーズがほぼコンプリートされた。
特に「霊亀の甲羅の盾」は「Eフロートシールド」というスキルを持ち、空中に展開できる防御壁として機能した。尚文はその性能を試し、チェインシールドと比較しながら、思考で操作できる点に利便性を感じた。
盾の検証を終えると、ラフタリアたちが準備を終えて戻ってきた。これにより、奴隷商のもとへ向かうこととなった。
奴隷の管理と新たな戦力の確保
尚文は城下町の奴隷商へ向かい、新たに確保した奴隷たちを迎え入れた。彼らの不安を払拭するため、尚文は自身の方針を明確に伝えた。命令に従う限りひどい扱いはしないが、怠け者は容赦なく売却するという警告を加え、奴隷商の部下がそれに合わせて銅鑼を鳴らした。その結果、奴隷たちは萎縮し、尚文の言葉の重みを理解した。
さらに尚文は、行商や土壌整備のための魔物も確保する方針を決めた。フィロリアル以外にも適した魔物が必要であり、奴隷商に選定を任せた。また、魔物を成体で購入するか、卵から育てるかを検討し、コストの面から卵を選択した。
リーシアへの役割と奴隷の育成
尚文はリーシアに、新たな奴隷や魔物の育成を担当する役目を与えた。彼女にはラフタリアやフィーロと共に、奴隷たちの訓練を監督させ、戦闘経験を積ませる意図があった。リーシアの持ち前の器用さを活かし、リーダーとしての素質を伸ばす狙いも含まれていた。
また、変幻無双流の修行を並行して行うよう指示し、戦闘力だけでなく適応力も身につけさせようとした。リーシアは緊張しながらも了承し、尚文の指示に従うことを決意した。
奴隷たちへの食事と士気向上
尚文は奴隷たちの士気を高めるため、自ら霊亀の肉を使った料理を振る舞った。焼き肉やスープなどの料理は大好評で、奴隷たちの緊張も和らいだ。奴隷商やその配下も食事にありつき、尚文は呆れつつも黙認した。
彼は「しっかり働けばまた食事を提供する」と約束し、奴隷たちはそれを励みに頷いた。そして、食事を終えた一行は、夜のうちに城下町を抜け、領地へ向かって出発した。
五 話 セーアエット領
領地への到着と町の現状
尚文たちはフィーロに馬車を引かせ、夜の行軍を続けた。朝方には目的地であるラフタリアの故郷周辺に到着したが、エクレールたちが拠点としているのはラフタリアの村ではなく隣町であった。
町の入り口では、かつて波の戦いで共に戦った少年兵が警備に立っていた。彼の案内で町に足を踏み入れると、そこは波の被害で荒廃したままの状態であった。屋敷へ向かうと、庭ではエクレール、変幻無双流のババア、キール、そして見知らぬ子供たちが稽古をしていた。
旧友との再会と町の復興の問題
エクレールは尚文の到着を歓迎し、キールも興奮気味に異世界での戦いについて話を聞きたがった。しかし、復興の進捗について尋ねると、エクレールの表情は沈んだ。
騎士としての稽古には熱心に取り組んでいたが、町の復興は遅々として進んでいなかった。元住民を取り戻そうとしていたものの、戻る人は少なく、奴隷にされた者たちの行方も分からない状態だった。尚文は「人を取り戻すだけでは復興にならない」と指摘し、より実用的な計画を立てるべきだと助言した。
エクレールへの指導と領地経営の現実
尚文はエクレールが領主としての役割を十分に理解していないことを問題視し、メルティを交えて話し合いを行った。メルティは、母である女王がシルトヴェルトの協力を期待していることを伝えたが、尚文は「時間が有限である以上、もっと積極的に人材を集める必要がある」と主張した。
また、復興には「人手・衣食住」が不可欠であり、エクレールの計画にはその要素が不足していると説明した。彼女の努力を否定するつもりはなかったが、より実践的な視点が必要だった。尚文は、エクレールが騎士としては優秀であるものの、領主としての資質には欠けていることを明確にした。
新たな戦力の確保と奴隷制度の活用
尚文は、町の復興を担うべきなのは元住民自身であると考え、キールの周囲にいた子供たちを奴隷として登録することを決めた。彼らは奴隷にされることに抵抗を示したが、尚文は「ラフタリアのように強くなり、村を取り戻すために必要な力を得るべきだ」と説得した。
また、メルティも尚文の方針を支持し、「現在の状況では、ここで養える人数にも限界がある」と付け加えた。エクレールも最終的にはこの判断を受け入れ、子供たち自身の意思で選ばせることになった。
奴隷登録と新たな目標
最終的に子供たちは尚文の考えに賛同し、ラフタリアの呼びかけに応じて「村を取り戻すために戦う」決意を固めた。奴隷商は尚文の手法に感心しつつ、奴隷登録の準備を進めた。
こうして尚文は正式に領地を受け取り、新たな住民と共に村の再建へと向かうことになった。
六 話 餌付け
村の再建と最初の課題
尚文たちは奴隷たちと共に村の再建を始めた。まずは壊れた家屋の撤去作業に取り掛かったが、キールは自分の家を壊すことに抵抗を示した。しかし、家屋の損壊が激しく修復不可能であることを説明され、新しい家を建てることを条件に渋々了承した。その後、フィーロが家屋を破壊し、撤去作業が進められた。
昼前には女王の手配した建築資材と兵士たちが到着し、尚文は兵士たちに建設を依頼した。同時に、ラフタリア、フィーロ、リーシアには食事の準備後、奴隷たちを引率して魔物狩りに向かうよう指示した。リーシアが経験値の分配について説明し、尚文は班分けを決定した。その後、尚文は料理を始め、ラフタリアも手伝いながら久しぶりに料理を共に作った。
奴隷たちの初めての戦い
食事を終えた奴隷たちは、城から譲り受けた中古の武器を受け取り、尚文の指示で狩りへ向かった。最初は不安を抱いていたが、キールの前向きな姿勢に影響され、次第に士気が上がった。尚文は奴隷たちに対し、村の復興は自らの手で行うべきであり、戦わなければならないことを強調した。
フィーロの馬車に乗って出発した奴隷たちは、夕方には疲れ切った様子で帰還した。荷車には討伐した魔物が積まれており、尚文の指定した羊型の魔物も含まれていた。空腹を訴える奴隷たちに向け、尚文は事前に用意していた霊亀の肉を使ったシチューやステーキを振る舞った。食欲旺盛な奴隷たちはすぐに料理を平らげ、満足そうな表情を見せた。
夜の食糧問題と成長の兆し
奴隷たちは食事を終えた後、指定された家に入り、休息を取ることになった。尚文たちは別の家に寝床を確保し、それぞれ休息の準備を進めた。ラフタリアは友人たちと共に眠ることを選び、フィーロはすでに半分眠りかけていた。一方で、リーシアは絆たちから受け取った書物を解読しており、まだ活動を続けていた。
尚文は奴隷たちの成長を確認し、すでに平均Lv15まで上昇していることを把握した。ラフタリアの成長速度を基準に考え、最低でもLv30まで引き上げる必要があると判断した。その最中、扉をノックする音が響き、ラフタリアが数人の少女奴隷を連れて訪れた。
彼女たちは恥ずかしそうに腹の音を鳴らし、空腹であることを伝えた。尚文はため息をつきながらも、夜食を用意することにした。調理場へ向かい、手早く魔物の肉を捌き、串焼きや丸焼きを作った。奴隷たちは感謝しながら食事をとり、再び満足そうな表情を浮かべた。
新たな課題と狩猟計画
翌朝、尚文は奴隷たちに食料の重要性を説き、自らの手で狩猟を行い、食料を確保する必要があることを伝えた。奴隷たちは尚文の言葉を真剣に受け止め、狩猟への意欲を見せた。食事を済ませた後、フィーロの馬車に乗り、再び魔物狩りへと出発した。
尚文は出発した奴隷たちを見送りながら、兵士たちに家の建設を進めるよう指示を出し、自身は次の食料確保の計画を練り始めた。奴隷たちが成長するにつれ、消費する食料の量も増えていくため、より持続的に確保できる手段を確立する必要があった。
そのために尚文は、ある道具を活用することを決意した。現在の環境に適応しながら、村の再建と奴隷たちの成長を進めていくことが、今後の課題となるであろう。
七 話 バイオプラントの運用
狩猟の成果と食事の時間
奴隷たちは泥だらけになりながらも笑顔で村へ帰還した。昨日よりも活力があり、適応の早さがうかがえた。一方で、リーシアは疲労困憊の様子だったが、ラフタリアやフィーロには疲れが見られなかった。二人は呪いの影響があってもなお高い戦闘力を維持していたためである。尚文は奴隷たちの努力を労い、あらかじめ準備していた夕食を振る舞った。
奴隷たちは勢いよく食事を平らげ、食後の談笑が広がった。村での生活にも慣れてきた様子であり、キールたちにとっては故郷の地ということもあってか、精神的にも安定しているようだった。尚文はそんな奴隷たちを見ながら、今後の村の発展に向けて重要な話を持ち出した。
新たな食料供給計画
尚文は奴隷たちを畑へと連れていき、一つの種を見せた。それは南西の村で問題を引き起こした植物の改良版であり、城の兵士たちにもその名を聞いたことがある者がいた。尚文はこの種を植え、水をかけると、たちまち成長し、大きなトマトのような実をつけるバイオプラントが現れた。
この植物は食料供給の安定化を目的としたものであり、奴隷たちの空腹を満たす手段となるものであった。尚文は奴隷たちに対し、この植物の管理を任せ、敷地を超えたら伐採し、実の収穫を自主的に行うよう指示した。フィーロが試しに食べた後、奴隷たちも恐る恐る手を伸ばし、その味を確かめた。
奴隷たちは、この村の復興が本当に可能なのかと疑問に感じていたが、尚文の知識と行動力を目の当たりにし、次第に希望を抱くようになっていた。このバイオプラントの管理が成功すれば、食料問題は大幅に改善されるだろう。
成長痛とさらなる鍛錬
翌朝、奴隷たちは体の節々の痛みを訴えていた。これは急激な成長による影響であり、彼らの戦闘力が向上している証拠でもあった。尚文は彼らのLvを確認し、昨日の予想通り20前後まで成長していることを確認した。順調な育成が進んでおり、今後の発展に期待が高まった。
しかし、ここで満足するわけにはいかない。尚文は、さらに村の再建を進めるため、次の計画に取り掛かることを決意した。これからの課題は、労働力の確保と、奴隷たちを戦力として機能させることであった。試行錯誤を繰り返しながら、尚文は自身の持つ知識と経験を活かし、村の発展に向けて動き出した。
八 話 海の男女
奴隷たちの成長と村での日常
バイオプラントを活用した村の生活が続く中、奴隷たちのLvは30前後に達し、成長のペースが落ち着いてきた。彼らの外見年齢は14~15歳程度であり、ラフタリアよりも幼く見える者が多かった。戦闘に適した年齢がこの辺りなのかもしれない。
キールは相変わらず尚文に馴れ馴れしく接し、食事への不満を口にした。彼は肉と野菜に飽きたと言い、海で魚を捕って料理を作るよう頼んだ。尚文は最初は取り合わなかったが、奴隷たちの食の好みに変化をつけることも必要と判断し、海へ向かうことを決めた。
海での漁とキールの秘密
村の奴隷たちは海に慣れており、到着するとすぐに下着姿で海へと飛び込んだ。ラフちゃんも楽しそうに水の中へ入り、尚文はその様子を眺めていた。しかし、そこでキールの異変に気づいた。
フィーロに命じてキールを捕まえさせたところ、奴隷たちも事態を察した。イミアがキールに性別を確認すると、彼は自分を男だと主張したが、ラフタリアが冷静に確認し、彼が実は女であることが判明した。キール自身は男であると信じ込んでいたが、それは父親の影響によるものだった。
この事実に奴隷たちは驚き、特に女子たちはキールを「男装の麗人」として興味を示した。しかし、キール自身は混乱し、性別の違いについて理解できていなかった。そこへフィーロが割り込んで、生物の性別の役割について詳細に語り始めた。尚文はその知識の出所を疑い、フィーロが誰かから学んだ可能性を探ったが、本人は「最初から知っていた」と主張した。
戦闘と恋愛の規則
尚文は、このままでは奴隷たちの意識が戦闘から離れると判断し、新たなルールを設定した。それは「恋愛禁止」であった。奴隷たちは不満を漏らしたが、尚文は「戦力を求めているのであり、少子化対策をしているわけではない」と言い放った。
また、尚文は奴隷たちに波との戦いへの参加を持ちかけた。キールは性別の問題で戦えないのではと疑ったが、尚文は「男でも女でも関係なく、戦える者を使う」と明言した。それでもキールは納得せず、「尚文は両刀で、人外も対象なのか」と皮肉を言ったが、尚文は無視した。
キールには行商の才能があると判断し、彼を行商班に組み込むことを決めた。彼の容姿は整っており、人懐っこい性格も相まって、商売には向いていると考えたのである。
漁の成功と村への帰還
奴隷たちは漁を終え、貝や魚を持ち帰った。尚文は鉄板を用意し、刺身や焼き魚などの料理を振る舞った。ラフタリアはキズナの世界で学んだ刺身を披露し、奴隷たちは美味しそうに食べた。
尚文はこの機会に新たな計画を進めることにした。それは魔物の孵化であった。
魔物の孵化とフィロリアルの問題
村に戻ると、尚文は倉庫に並べられた魔物の卵を確認した。しかし、フィロリアルの孵化には慎重になっていた。フィーロのような食欲旺盛な個体が増えると、食料問題が深刻化するためである。
フィーロは尚文の懸念を察し、「フィーロが命令しない限り、フィーロのようにならないようにする」と魔力を注いだ。その結果、新しく生まれるフィロリアルがフィーロと同じ特性を持たないように調整された。
その後、魔物たちが孵化した。フィロリアルの雛、キャタピランド(芋虫型魔物)、デューン(ミミズ型魔物)が誕生し、それぞれの役割を決めた。フィロリアルは運搬用、キャタピランドは馬車引き、デューンは土壌整備を担う予定である。尚文は奴隷たちに魔物の育成とLv上げを命じた。
新たな作業班の設立
尚文は、料理班と細工班の設立を発表した。料理班には、戦闘が苦手な者が参加することを条件とし、女の子奴隷とイミアが志願した。イミアは細工が得意なため、料理ではなくアクセサリー作りを担当することになった。
尚文は料理班の指導を始め、実際に調理を行わせた。料理を学びたいと名乗り出た少女は、親から教わった味を思い出しながら作業に励んだ。尚文は彼女の意欲を評価し、これからの成長に期待を寄せた。
同時に、イミアには薬作りやアクセサリー作りを指導した。彼女は手先が器用であり、尚文の指導にもすぐに適応した。村の生活が整い始める中で、それぞれの役割が明確になり、今後の発展へと繋がる基盤ができつつあった。
九 話 盾の看板
村の発展と行商の開始
村での生活が始まって一週間が経過し、家の補修はほぼ完了した。フィロリアルの雛はフィーロとは異なり、大人しく馬車を引いていたため、尚文にとっては扱いやすかった。キャタピランドも成長し、馬車の準備を進めていた。この魔物は草食性であり、不要なバイオプラントを餌とするため、環境管理にも役立っていた。
デューンも土壌整備を担当し、順調に成長していた。行商を始めるにあたり、尚文はキールに二種類の服を用意させた。彼が好む男らしい鎧と、行商のためのフリル付きのワンピースであった。尚文はキールに恥ずかしがりながら不器用に営業を行うよう指示した。
行商の展開
行商の第一段階として、フィーロに馬車を引かせ、尚文は裏でキールの様子を観察した。盾の勇者の看板を掲げ、国中を巡れば噂が広まると考え、三日間の行商を計画した。町を巡ると、以前世話になった住民たちが尚文を「聖人様」と呼び、改めて彼の身元を知ったことに驚いていた。尚文は領地経営と波への対策を説明し、盾の勇者の看板を目印にするよう促した。
フィーロの俊足を活かし、町を短時間で巡回した結果、販売は好調に進んだ。キールの初々しい営業も一定の需要があり、尚文はその効果を認めた。粗悪な薬草を盾の力で精製し、質の良い薬として販売することで、売り上げを確保した。三日間の行商の成果は上々であり、尚文は行商の規模を拡大する計画を立てた。
奴隷商からの報告
村に戻ると、奴隷商が訪れていた。彼は「ゼルトブルで村出身の奴隷が取引されている」との情報をもたらした。尚文はその話を聞き、奴隷たちを探しに行くことを決意した。移動手段として、フィーロの足を使えば一週間半で到着すると奴隷商は説明した。
村の状況を確認したところ、復興作業は順調に進んでいた。ラフタリアは行商の指導を行い、フィーロは昼寝をしていた。戦闘を志す奴隷たちは、隣町で修行を積んでいた。尚文はポータルを利用すれば夜には戻れるため、村の統率をラフタリアに任せ、ゼルトブルへ向かうことを決めた。
ゼルトブルへの出発
尚文はフィーロと共に出発することを決めた。ラフタリアは不満を示したが、尚文は彼女を村に残し、管理を任せる意向を伝えた。必要に応じてラフタリアもゼルトブルに同行できると説明し、彼女も納得した。
こうして、尚文は奴隷商の誘いを受け、ゼルトブルへと向かった。
十 話 ゼルトブル
ゼルトブルへの到着と国の特徴
尚文たちはゼルトブルの首都に到着した。メルロマルクの城下町よりも賑やかなこの都市には、石造りのコロシアムが目立っていた。ゼルトブルは「商売と傭兵の国」と呼ばれ、商業と傭兵業を中心とする経済が発展していた。国には王が存在せず、大商人たちが議会を運営する共和国のような体制であった。
また、ゼルトブルは影のある国でもあり、戦争の裏で暗躍する勢力が多いと奴隷商は説明した。彼の一族もここに本拠地を持ち、商売をしているという。特にこの国では、コロシアムが名物であり、闘技場での戦いを賭け事の対象にしていた。
裏路地での襲撃とフィーロの反撃
奴隷商の案内で裏路地へ向かう途中、フィーロを狙う男たちが現れた。縄を投げつけてフィーロを捕えようとしたが、彼女は一蹴し、襲撃者を吹き飛ばした。さらに、一人の男の首に噛みつき、動かなくなるまで締め上げた。
尚文はフィーロに「人は食べ物ではない」と諭したが、彼女は食材としてではなく、脅しのためにやったと説明した。それでも、尚文は彼女の発言に危うさを感じ、成長の方向性に不安を覚えた。
闇市場と奴隷取引の実態
コロシアムの裏口に案内されると、そこには地下市場が広がっていた。ゼルトブルのコロシアムは、表向きは格闘競技を行う施設だったが、その地下では奴隷取引が行われていた。奴隷商の叔父がここで活動しており、彼の案内で奴隷販売の現場へ向かった。
ゼルトブルでは、最近「ルロロナ村出身の亜人奴隷」が高額で取引されるようになっていた。奴隷商によれば、一ヶ月前から急に高騰が始まったという。尚文は、それが霊亀討伐の影響であり、盾の勇者とその奴隷であるラフタリアの出身地が注目されたことが原因ではないかと推測した。
闇のオークションと高騰する奴隷価格
尚文たちは闇のオークションへと案内された。入札の仕組みを学びながら、競売の様子を見守ると、「ルロロナ村出身」とされる亜人奴隷が登場した。しかし、ラフタリアはその子供を見て「村にいた子ではない」と即座に見抜いた。
それにもかかわらず、その偽物の奴隷には高額の入札が続き、価格は金貨数十枚に達した。尚文は驚愕し、この状況では本物の奴隷を買い戻すのは到底不可能だと悟った。しかも、衰弱している者も多く、早急に手を打たねばならなかった。
コロシアムでの金策計画
尚文は短期間で大金を稼ぐ必要があった。普通の行商では到底間に合わず、奴隷の買い戻しは現実的でない。そこで彼は、ゼルトブルのコロシアムに目を向けた。奴隷商に問いただしたところ、賭け試合に参加すれば大金を得ることも可能であると分かった。
そこで尚文は、正体を隠しながらコロシアムの高額試合に挑むことを決意した。ラフタリアの仲間を救うために、戦いを利用することを選んだのである。ラフタリアは彼の決断に深く頷き、尚文たちは奴隷商のコネを使い、コロシアムに参戦することとなった。
十一話 奴隷狩り
賭け金の調達とコロシアムの準備
尚文はコロシアムで稼ぐために、まずは賭け金を調達する方法を模索した。ポータルを利用してメルロマルクとゼルトブルを往復する輸送業も考えたが、時間や名声の問題があったため断念した。
その後、奴隷商の地下市場へ戻り、コロシアムでの試合に向けた準備を進めた。尚文は最も高額な試合への参加を希望し、奴隷商に手配を依頼した。その後、一度村へ戻り、現状をキールたちに伝えることを決めた。
村の襲撃と奴隷狩りとの戦闘
村へ転移した尚文たちは、建物が燃え上がり、兵士たちが慌てて駆け出していく光景を目の当たりにした。兵士によれば、奴隷狩りが村を襲撃したとのことだった。
尚文は即座に指示を出し、ラフタリアとフィーロに奴隷狩りの殲滅を命じ、リーシアには負傷者の手当てと避難誘導を任せた。そして、尚文自身も戦闘に加わり、村を取り囲む奴隷狩りとの戦いに臨んだ。
村を守るための戦い
ラフタリアは次々と敵を斬り伏せ、キールたちも奮戦していた。イミアは地面を掘り、敵を落とし穴に誘導する戦術を駆使し、フィーロの配下も戦闘に加わった。尚文は盾のスキルを駆使して味方を守りながら、奴隷狩りの攻撃を防ぎ、反撃の機会を作った。
戦況は徐々に村側に傾いたが、奴隷狩りの数は多く、完全には制圧しきれなかった。そこで、尚文はラフタリアに村全体を照らせる魔法を詠唱させ、戦場の視界を確保すると同時に、隣町のエクレールたちへの合図とした。
奴隷狩りの首領との対峙
戦闘の最中、奴隷狩りの首領が姿を現した。その男は、かつてラフタリアの村を襲い、大人たちを殺した元メルロマルクの兵士だった。ラフタリアとキールは彼に激しく怒りを露わにし、戦闘を挑んだ。
エクレール率いる援軍も到着し、奴隷狩りの包囲を崩し始めた。尚文はラフタリアとキールを援護し、彼らの攻撃を確実に首領へと命中させた。激戦の末、奴隷狩りの首領は倒れ、その部下たちも制圧された。
奴隷狩りの処遇と新たな計画
捕らえられた奴隷狩りの処遇を巡り、エクレールは国へ送るべきだと主張したが、尚文は別の方法を考えていた。彼は奴隷商を呼び寄せ、奴隷狩りたちを奴隷として売り払うことを決定した。ただし、売る先はシルトヴェルトであり、かつて彼らが迫害した亜人たちの手に渡るようにした。
この決定により、奴隷狩りたちは恐怖に震えたが、尚文はこれが彼らにふさわしい報いだと考えた。そして、この取引によって得た資金を使い、ゼルトブルのオークションでラフタリアの仲間たちを買い戻す計画を立てた。
新たな戦いへの決意
尚文は、この戦いが終わっても問題が解決したわけではないと理解していた。奴隷狩りは今後も村を狙う可能性があり、ゼルトブルでの奴隷価格の高騰も続いていた。
そこで尚文は、コロシアムでの試合に全力を注ぎ、一攫千金を狙うことを決意した。キールたちも戦闘に参加したいと申し出たが、彼はまだ危険だと判断し、彼らには村を守ることを優先させた。そして、ゼルトブルでの戦いに向けて、準備を整えることにした。
十二話 デパート
奴隷狩りの処分と資金調達
尚文は奴隷にした奴隷狩りたちをポータルで一時間おきにゼルトブルへ送り、翌日の昼までに全員を移送した。奴隷商はゼルトブルの貴族たちに連絡を取り、彼らの需要を確認したところ、勇者が提供した奴隷への予約が殺到し、すでにオークションが前倒しで開催されていた。これにより、尚文は売却前に代金を受け取ることが可能となった。
女王もこの取引を黙認し、シルトヴェルト側も国賊の送還に満足していた。メルティは朝方、尚文のやり方に呆れながらも、母の対応を理解していたようだった。こうして、コロシアムの賭博資金が確保され、次の準備に移ることとなった。
コロシアムのルールと参加メンバーの選定
尚文はコロシアムでの戦いについて、奴隷商から詳細な情報を得た。基本的にはトーナメント形式であり、最も賭け金が大きいのはチーム戦であった。参加人数は三人または五人で、尚文はラフタリアとフィーロを中心に三人チームでの出場を選択した。
また、個人戦にも興味を示したが、賞金額や賭け金の規模を考慮し、チーム戦を優先することに決めた。ルールとしては、Lv階級や種族制限はなく、勝敗は相手の死亡、気絶、または降参で決まるというシンプルなものだった。
闇のコロシアムの下見とオークションの確認
奴隷商の勧めで、尚文は現在開催中の闇のコロシアムを視察することにした。しかし、同じ時間帯に奴隷オークションも行われるため、ラフタリアにはオークションに出品される奴隷を確認し、村の出身者を特定するよう指示した。
また、単に出品されている奴隷だけでなく、市場に抱え込まれている奴隷の情報もリストアップし、後の交渉材料とすることにした。ラフタリアは指示を受け、しっかりと記録を取る準備を整えた。
ラフタリアの武器強化の検討
尚文はコロシアムでの戦闘を見据え、ラフタリアの武器強化について考えた。現在の装備は魔物由来の刀と異世界の眷属器のコピーで構成されており、強化が不十分であった。そのため、より良い武器を求めてゼルトブルの武器屋を探すことにした。
奴隷商の案内で大規模な武器商店へ向かうことになった。そこで、ラフタリアの攻撃力向上を目的に、新たな刀を探し、戦闘に備える方針を立てた。
武器商店での探索と商人との再会
ゼルトブルで最も大きな武器商店に到着した尚文たちは、そこで過去に出会ったアクセサリー商と再会した。彼は尚文が領地を持ったことを知っており、出店の話を持ちかけてきた。尚文は渋々了承しつつも、監視が必要だと考えた。
武器商店の内部には、多種多様な武器が展示されていた。尚文は盾のウェポンコピーを利用して新たな盾を複数取得し、ラフタリアの刀も試しながら適したものを探した。また、店内で霊亀の素材で作られた非売品の剣を見つけ、その品質の高さに驚いた。
武器と防具の選定
フィーロのツメやリーシアの装備も確認したが、特に買い換える必要はないと判断した。尚文自身の装備も女王から譲られた魔法銀の鎧で十分であり、新たな防具を購入することは見送った。
最終的に、適した武器や防具が見つからなかったため、尚文たちは奴隷商の地下市場へ戻ることにした。今後の戦いに向けて、さらに情報を集め、準備を進める必要があった。
十三話 闇のコロシアム
闇のコロシアムの視察
尚文は奴隷商の案内で闇のコロシアムの会場に向かった。ラフタリアとラフちゃんは奴隷オークションの確認をしており、リーシアは別の調査、フィーロはその護衛についていた。
会場は地下にあり、闘技場の周囲には酒場やカジノの設備が整えられていた。観客席はビアガーデンのように作られており、まるで地下カジノのような雰囲気を醸し出していた。試合では獣人同士が戦っており、パンダ獣人とゾウ獣人が対決していた。観客はオッズを確認しながら熱狂し、賭けの結果に一喜一憂していた。
謎の女との出会い
試合を観戦していると、尚文は飲み比べの勝負に勝った女と出会った。彼女は黒髪の和風美人で、姐御肌の雰囲気を持つが、人間ではなく獣人の特徴を備えていた。彼女は勝手に隣の席に座り、試合の行方について語り出した。
彼女はパンダ獣人の勝利を予測し、その通りの展開となった。ゾウ獣人が優勢に見えたが、パンダ獣人が魔法を使い、巨大な竹を生やして相手を貫き、勝利を収めた。尚文は彼女の知識の深さに関心を持ち、話を続けることにした。
闇のコロシアムの危険性
女は尚文に闇のコロシアムの詳細を語った。次の大会は三対三のチーム戦であり、Lv制限なし、武器持ち込み可のルールで行われるという。しかし、試合では使役されていない野生の魔物が投入されることがあり、その魔物のLvが 100 を超える場合もあるため、非常に危険な戦いになると説明した。
さらに、運営側の判断で特定の選手に有利な地形が用意されることや、観客が賭け金を使って選手に援助を行うことも可能であった。その結果、戦いは公平とは程遠いものであり、状況次第では一方的な展開になることもあり得ると述べた。
試合の不正要素
また、スポンサーとなる武器商人ギルドの影響で、高価な武器が試合中に選手に投げ渡されることもあるという。さらに、観客からの資金提供による援助魔法も許可される場合があり、選手は目の前の敵だけでなく、外部の干渉にも注意を払う必要があった。尚文はこの情報をもとに、ラフタリアやフィーロと対策を練る必要があると考えた。
女の忠告と違和感
尚文は女の言葉を参考にしつつ、礼として酒代を支払った。そして最後に、彼女がどのように勝者を予測したのかを尋ねたが、彼女は「勘」と答えた。尚文はその曖昧な返答に不信感を抱いたが、深く追及はしなかった。
女は尚文に、何か知りたいことがあればまた訪ねるようにと言い、最後に「闇のコロシアムに参加するのはお勧めしない」と忠告した。その言葉が妙に不安を掻き立てるものであると感じながら、尚文はその場を後にした。
十四話 リングネーム
闇のコロシアムへの準備
尚文たちは闇のコロシアムへの参加登録を完了させた。大会は数日後に開催される予定であり、その間は奴隷商のもとで待機していた。ラフタリアとラフちゃんは奴隷オークションの調査を続け、リーシアは資料を調べていた。尚文たちはまだ無名の傭兵扱いであり、奴隷商とアクセサリー商の協力もあって問題なく登録が完了した。
闇のコロシアムは昼夜問わず連日試合が行われ、参加者が多いため長期的な大会となっていた。商人たちは一戦ごとに賭けを行うことで利益を得ており、そのため大会のスケジュールは日本人の感覚では理解しにくいものとなっていた。尚文たちは自身の正体が露見しないように、仮面や装備で素顔や種族を隠すことにした。
賭けと賞金の計画
大会では上位入賞すれば賞金が与えられるが、それ以上に賭博で多額の金が動いていた。尚文たちは事前のオッズ操作を考慮し、賭けのタイミングを奴隷商に指示していた。ダークホースとして参戦し、最大限の利益を得るため、優勝を狙う必要があった。
さらに、尚文は追加の資金を得る方法を模索した。フィーロを表のコロシアムの大食い大会に出場させる案が浮上したが、賞金が少ないため却下された。その代わり、フィロリアルレースの参加が検討された。しかし、重賞レースに出るには時間がかかるため、即座の資金調達には向いていなかった。そのため、奴隷オークションの観察を続けつつ、村での行商や修練を並行して行うことに決めた。
リングネームと偽名の設定
尚文は大会でのリングネームを「ロックバレー一行」と決めた。これは自身の名字「岩谷」の英語読みを変えたものであり、異世界人でなければ意味を察することは難しいと考えた。ラフタリアやフィーロにも仮の名前を設定し、フィーロは「ハミング」、ラフタリアは「シガラキ」と名乗ることになった。
その後、ラフタリアがオークションから戻り、村の生存者が高額で落札されていることを報告した。尚文たちはコロシアムでの試合を通じて資金を得ることで、少しでも早く彼らを買い戻すことを決意した。
コロシアム初戦
大会当日、尚文たちはゼルトブルの闇のコロシアムに向かった。対戦相手は「トパークファミリー」と名乗るチームで、筋骨隆々の傭兵たちだった。観客は彼らの圧勝を期待していたが、尚文たちは目立たず、しかし確実に勝利を収める作戦を立てていた。
試合が始まると、対戦相手にはモーニングスターなどの名のある武器が投げ渡された。彼らは尚文を嬲るつもりで攻撃を仕掛けてきたが、尚文は盾で受け止め、反撃の機会を伺った。尚文はフィーロに援護魔法をかけ、肩に乗せることで能力を強化した。そして、フィーロを投擲し、スパイラルストライクを決めさせた。
トパークファミリーは一撃で崩れ落ちた。尚文は彼らの武器を踏みつけながら観客に向けて勝利をアピールし、会場は歓声に包まれた。こうして初戦を勝利で飾り、尚文たちは控え室へと戻った。
コロシアム二戦目
翌日、尚文たちは二戦目に臨んだ。対戦相手は人間ではなく、檻に入れられたグリフィン・エリート三匹だった。これは前日に出会った酔いどれ女が警告していた「危険な野生の魔物」の投入試合だった。フィーロはグリフィンを敵視し、やる気を見せたが、尚文は目立ちすぎないように注意するよう指示した。
試合開始とともにグリフィンたちは猛然と襲いかかってきた。フィーロはモーニングスターを投げつけ、一匹に命中させて炎を上げた。その隙を突き、ラフタリアが一撃で三匹を斬り伏せた。観客は予想外の素早い決着に驚き、司会も絶叫しながら尚文たちの勝利を宣言した。
試合後の準備と戦略
試合後、フィーロはモーニングスターを玩具のように振り回し、村に持ち帰ることになった。尚文は次の試合に向けて戦略を練りながら、リーシアと共に他の試合の観戦を続けることにした。一方、ラフタリアはオークションでの動向を監視し、村の生存者を確保するための情報収集を続けることとなった。
こうして尚文たちは闇のコロシアムの戦いを続け、資金を得ながら目的を達成するために動いていた。
十五話 襲撃と陰謀
酔いどれ女との再会
尚文は酒場を訪れた。そこでは傭兵たちが集まり、情報交換をしていた。酒を注文すると、以前出会った酔いどれ女――ナディアがすぐに近づいてきた。彼女は尚文の正体を仮面越しに見抜き、試合の戦いぶりを評価した。
ナディアは酒を大量に注文し、周囲の傭兵たちを手で追い払っていた。彼女は尚文に、大会の参加者が気を付けるべきことがあると語った。しかし、具体的な説明をせず、尚文に酒を飲ませた後、夜風に当たる散歩に誘った。
夜のゼルトブルと奇襲
尚文はナディアに促され、ゼルトブルの裏路地を歩いた。町は夜でも賑わい、淫らな店や酒場が並んでいた。ナディアは水路沿いの静かな道へと進み、尚文に「一回戦から異常な出来事が起こっている」と問いかけた。
尚文は勝敗表を思い返し、妙に不戦勝が多いことに気づいた。これは単なる欠場ではなく、意図的に仕組まれたものだと察した。その直後、路地裏から現れた男たちに取り囲まれた。
ナディアの実力
尚文は罠にかかったと考えたが、ナディアは即座に銛を構え、強力な雷魔法で男たちを一掃した。電撃を浴びた男たちは白目を剥いて倒れ、最後の一人もナディアの銛による一撃で吹き飛ばされた。
この襲撃は、不戦勝を増やすためのものだった。賭博が絡む闇の大会では、対戦相手を試合前に襲撃することが常態化していた。ナディアは尚文に「強さを見せつけることで相手に諦めさせるのも手」だと忠告した。
ナディアの正体
ナディアは尚文の手を取り、突然自身の胸に押し当てた。尚文は呆れながら手を振り払ったが、ナディアは尚文の酒に「ルコルの実」を混ぜていたことを明かした。これは暗殺にも用いられるものであったが、尚文には効果がなかった。
彼女は尚文に耳元で囁き、「できればコロシアムで出会わないことを祈る」と言い残して去っていった。尚文は彼女の真意を図りかねたが、諦めるつもりはなかった。
ラフタリアたちの動向
尚文は奴隷市場に戻り、ラフタリアやリーシアと合流した。ラフタリアは同郷の者を見つけられず、安堵していた。リーシアは闇のコロシアムの試合記録を調べ、特に注意すべき選手の情報を入手していた。その選手はチーム戦でありながら単独で参加し、必ず上位に入る強者だった。
尚文がその選手の名前を尋ねると、リーシアは「ナディア」だと答えた。尚文は驚きつつも、彼女が並の相手ではないことを改めて認識した。戦うことになれば、十分に警戒する必要があった。
十六話 ナディア
闇のコロシアムでの快進撃
尚文たちは、試合数の減少に伴い、1日に2回戦う形式となったコロシアムで連日勝利を重ねていた。襲撃を受けた翌日は不戦勝となり、尚文は妨害行為が横行する中でも、ゼルトブルの奴隷商やアクセサリー商の支援を受け、陰湿な妨害を未然に防いでいた。さらに、ナディアの関係者だという噂が広がり、彼らに手を出す者はほとんどいなくなった。
尚文たちの戦闘は開始と同時に決着がつくほど迅速であり、特にフィーロはモーニングスターを使いこなしていた。観客の中には、彼らを応援する者も増えており、武器を提供する支援者も現れた。そして、勝ち進む中で、ついに準決勝の対戦相手が決まった。それは、チーム戦を一人で勝ち上がってきたナディアだった。
ナディアとの対峙
試合当日、尚文たちは闘技場の控え室で準備を整えていた。ナディアは雷魔法を駆使しながらも近接戦にも優れる戦士であり、注意を要する相手だった。彼女が何らかの援護を受けている可能性も考えられたため、尚文は警戒を強めた。
闘技場に入ると、ナディアは既に待ち構えており、尚文に握手を求めながら、ルロロナ村の奴隷購入についてほのめかした。彼女は尚文の目的を見抜いており、勝負の前から心理的な揺さぶりをかけてきた。
試合開始とナディアの戦闘技術
試合が始まると、ラフタリアとフィーロが先制攻撃を仕掛けた。しかし、ナディアは見切っていたかのように、最小限の動きで攻撃を回避し、軽やかに戦場を舞った。彼女はラフタリアの太刀筋を見抜き、フィーロの攻撃も紙一重でかわしていた。尚文たちの戦術を完全に読んでいるように見えた。
尚文は援護魔法「ツヴァイト・オーラ」を発動させようとしたが、ナディアは即座に「アンチ・ツヴァイト・オーラ」で打ち消した。これにより、ラフタリアの攻撃が空振りし、その隙を突かれて壁まで吹き飛ばされてしまった。
フィーロの猛攻とナディアの迎撃
尚文は回復魔法でラフタリアを支えながら、フィーロにハイクイックとスパイラルストライクを発動させた。フィーロの高速突進は、通常ならば回避不可能な一撃だったが、ナディアは雷を身にまとい、衝突時のダメージを軽減しながら回避行動をとった。
さらに、尚文がシールドプリズンで逃げ道を封じたものの、ナディアは銛を支点にして宙返りし、尚文の罠を回避した。彼女の戦闘技術は熟練の域に達しており、尚文の盾を巧みに利用しながら反撃に転じた。
試合の決定打
ナディアは「ドライファ・パラライズサンダー」を発動し、尚文たちを麻痺状態に陥れようとした。しかし、尚文は耐性によって行動不能にはならなかったものの、わずかな隙を突かれてナディアに距離を取られてしまった。
観客の支援により、ナディアは新たな銛を手に入れ、戦闘態勢を整えた。そして、ついに彼女は「本気で戦う」と宣言し、獣人化を始めた。その瞬間、闘技場には歓声が沸き起こった。
獣人化するナディア
ナディアの体が変化し、黒と白の模様を持つシャチの獣人へと変貌した。その巨体はフィロリアル形態のフィーロに匹敵し、圧倒的な迫力を放っていた。
変身後、彼女の動きは一層速くなり、疑似水中フィールドの中を自在に移動した。尚文は動きを見極めようとしたが、ラフタリアは呆然として戦意を喪失していた。ナディアが突進を開始したとき、ラフタリアは何かを思い出したかのように、「サディナ姉さん?」と呟いた。
十七話 茶番
驚きの再会
試合が佳境に入る中、ラフタリアがナディアに向かって「サディナ姉さん」と呼びかけた。その言葉にナディアは突進を止め、観客席にも動揺が広がった。尚文もまた、ナディアの特徴とルロロナ村の漁師サディナの話を照らし合わせ、その可能性に気づいた。そして、ラフタリアが改めて彼女に問いかけると、ナディアもラフタリアを見て驚き、成長した彼女の姿に驚嘆した。
ラフタリアは耳と尻尾を見せ、自身がルロロナ村の生き残りであることを示した。すると、ナディア改めサディナは微笑み、二人は互いに再会を喜んだ。思わぬ巡り合わせに尚文も驚いたが、同郷の者と出会えたことは幸運でもあった。
試合の中での会話
サディナは戦いを続けるふりをしながら、尚文たちに状況を尋ねた。ラフタリアは、ルロロナ村の子供たちを買い戻すために試合へ参加していることを説明した。尚文は、先ほどまで激しい戦闘を繰り広げていたにもかかわらず、突如として力を抑えた攻撃が始まったことに気を取られる観客の視線を意識していた。
サディナは驚きつつも、ラフタリアの成長を喜んでいたが、尚文は戦闘を装うよう指示した。こうして、サディナは広範囲に雷撃を放ち、尚文はそれを盾で防ぎ、ラフタリアとフィーロも派手な技を繰り出した。実際には幻影魔法を利用した演出であり、戦闘を続けているように見せかけながら会話を続けた。
サディナの事情
尚文はサディナに、なぜ最初から獣人形態で戦わなかったのかと問いかけた。サディナは、自身の亜人の姿が潜伏用のものであり、通常はその姿で過ごしていると説明した。尚文は納得しつつ、戦いの決着をどうつけるかを考えた。
尚文は、サディナに試合の途中で敗北するよう提案したが、彼女もまた多額の資金を必要としていると告げた。サディナは、ルロロナ村の子供たちを買い戻すために闇の商人と取引をし、奴隷の価値が高騰した原因の一端を担っていた。彼女は商人に懸賞金をかけて奴隷を探し、見つけた者たちを買い集めてゼルトブルのどこかで保護していた。しかし、その影響でルロロナ村の奴隷価格が急騰し、資金を捻出するために闇のコロシアムに参加していたのだった。
サディナの借金額は莫大であったが、尚文たちが優勝すれば十分に補える金額であった。尚文は試合を装いながら、観客を満足させつつサディナを敗北させる計画を立てた。
決着の演出
尚文は「チェインシールド」を使用し、サディナの動きを拘束する演出を加えた。観客の興奮を煽るため、ラフタリアとフィーロに必殺技を準備させた。サディナも抵抗する演技を続け、適度に攻防を繰り広げた。
そして、フィーロの「ツヴァイト・トルネイド」による巨大な竜巻と、ラフタリアの「幻影刀」による大量の刀が組み合わさり、サディナに襲いかかった。サディナは演技とは思えないほど迫真の悲鳴を上げ、拘束を解いたものの、攻撃を受けたふりをして倒れ込んだ。そして、観客が固唾をのんで見守る中、サディナは「勝てそうにないわね」と呟き、降参を宣言した。
こうして尚文たちは準決勝を勝ち抜き、決勝へと駒を進めることとなった。
十八話 エキシビジョンマッチ
試合後の混乱
尚文たちは試合に勝利し、歓声が巻き起こった。しかし、これで終わりではなかった。サディナの借金を清算し、ラフタリアの同郷の者たちを守るためには、雇用主である商人と交渉しなければならなかった。尚文は、次の試合は消化試合になるだろうと考えていたが、大会運営はそれを許さなかった。
司会者のもとに伝令が届き、大会主催者からの声明が発表された。観客の興奮をさらに高めるため、追加の娯楽としてアンケートを取るという。観客の関心を惹くための策略であり、尚文たちへの妨害の意図が見え隠れしていた。貴賓席に現れた商人たちが声を上げ、試合後にも関わらず、エキシビジョンマッチの実施を提案した。
新たな試練
商人の合図とともに、対戦相手として三人の選手が入場した。その中の一人は道化師のような格好をしており、二体の人形を連れていた。彼の名は「マーダーピエロ」。サディナによれば、最近この地域の大会を荒らしまわっている人気プレイヤーであり、非常に強力な存在だったという。
観客の賛成を得たことで、試合の開催が決定した。さらに、運営側は尚文たちの妨害を強め、試合中の魔法使用を完全に封じる措置をとった。サディナが以前、魔法を妨害したのとは異なり、今回は運営が複数の魔法使いを動員し、妨害魔法を展開していた。加えて、尚文たちには弱体化魔法が掛けられ、逆にマーダーピエロには強化魔法が施されていた。
戦闘の開始と苦戦
試合開始とともに、マーダーピエロは人形を操りながら、特殊な糸を使った戦法を展開した。その糸は、尚文たちの武器を拘束し、自由を奪う効果を持っていた。ラフタリアがスキルを放っても切断できず、尚文の盾すら巻き込まれてしまった。さらに、スキル封印の効果を持つ糸が尚文の首に絡みつき、スキルの発動も妨害された。
フィーロが突進し、マーダーピエロを蹴り飛ばすことに成功したが、彼は糸を繭のように展開し、衝撃を緩和して難を逃れた。ラフタリアは霊刀を用いて直接攻撃を試み、ついに糸を断ち切ることに成功した。しかし、マーダーピエロは次々と新たな糸を生み出し、状況は依然として厳しかった。
合唱魔法の発動
サディナは尚文とともに「合唱魔法」を使用することを提案した。二人で魔法を詠唱することで、運営の妨害を突破し、強力な支援魔法を発動できる可能性があった。尚文は半信半疑ながらも、サディナと協力し、合唱魔法を完成させた。その結果、「雷神降臨」の魔法がラフタリアに付与され、彼女の能力が大幅に向上した。
強化されたラフタリアは、マーダーピエロの糸を完全に弾き、驚異的な速度で敵の懐に飛び込んだ。そして、雷を纏った剣技を放ち、マーダーピエロを吹き飛ばした。フィーロの衝撃波攻撃も加わり、ついにマーダーピエロは地に伏した。
謎の撤退
勝負が決したかに思えたが、マーダーピエロは最後に不可解な言葉を残した。「この程度では勝てない。別の脅威に滅ぼされる」と意味深な警告を発した後、煙を巻いて姿を消した。同時に闘技場に張り巡らされていた糸も消え、彼が操っていた人形も消滅した。
尚文たちは勝利を収めたものの、マーダーピエロの正体や目的は依然として謎に包まれていた。観客の歓声が響く中、尚文たちは次の目的に向け、選手控え室へと向かった。
十九話 闇の権力
商人の妨害と奴隷の救出
尚文たちは、サディナを先頭にゼルトブルの商店街を駆け抜けた。サディナが契約を破ったことで、商人が報復としてルロロナ村出身の奴隷たちを売り払おうとしている可能性があった。そのため、奴隷が囚われていると思われる場所へ急いだ。
建物の前には護送用の馬車が並び、傭兵たちが見張りをしていた。彼らは借金の取り立てを理由に部外者を追い払おうとしたが、サディナが魔法の詠唱を始めると、すぐに尚文たちの正体に気づいた。傭兵たちは四十人以上の人数を揃えて襲いかかってきたが、フィーロ、ラフタリア、サディナの圧倒的な力の前に瞬く間に制圧された。
建物内での戦闘
フィーロの能力により、建物の中に囚われている人数が把握できた。逃げ出す暇もなく、奴隷たちは建物内に留まっていた。尚文たちは建物の扉を破壊し、内部へ突入した。そこでは商人たちが奴隷を連れ出そうとしていたが、尚文たちは彼らを迅速に制圧した。
その中には、エキシビジョンマッチを仕組んだ商人もいた。彼はサディナの契約違反を責め、奴隷を没収すると宣言した。しかし、サディナはすでに奴隷紋を解除しており、その影響を受けていなかった。商人は驚愕し、怒りをあらわにしたが、尚文たちの圧倒的な力の前に成す術がなかった。
援軍の到着と交渉
そこへアクセサリー商と奴隷商が現れ、尚文たちを支援する立場を表明した。彼らは、ゼルトブルの商人組合として尚文たちへの制裁には反対することを宣言した。さらに、今回の大会で利益を得ようとしていたのは商人側も同じであり、尚文たちを妨害する理由はないとした。
尚文は、商人に対して交渉を持ちかけた。翌日の試合で優勝し、得た賞金をサディナの借金返済に充てる代わりに、ルロロナ村出身の奴隷を解放するよう要求した。商人は反発したが、尚文が四聖勇者であることを証明し、さらにはルコルの実を食べても無害であることで本物であると示した。
決着と今後の方針
最終的に商人は観念し、尚文たちの要求を受け入れることとなった。尚文は、今後もルロロナ村の奴隷が発見され次第報告するよう指示し、高騰した価格を抑えるよう圧力をかけた。また、盾の勇者の名を利用し、ルロロナ村の奴隷を所持することが危険であるという噂を流すことで、さらなる問題を防ぐ策を講じた。
こうして、尚文たちは闇のコロシアムでの騒動を収束させた。翌日の試合はほぼ消化試合となり、速やかに勝利が決したのだった。
エピローグ アピール
奴隷たちの解放と帰還
サディナが囲っていた奴隷たちは十五人に上っていた。ラフタリアがオークションで見つけた同郷の者も含まれており、彼らは商人とともに競り落としに協力していたという。サディナも契約を破棄され、自由の身となった。
ラフタリアは奴隷たちに、自分たちが尚文の領地で村を再建していることを説明した。彼らの今後については、村に来てから決めることとなった。尚文の提案により、奴隷たちはパーティーに参加し、順次ポータルで村へ送り届けられた。ポータルの転送に驚きながらも、奴隷たちは無事に帰還していった。
村での再会と報告
尚文たちも村へ戻り、サディナを含む元の村の者たちは旧交を温めていた。フィーロは今回の出来事をメルティに報告しに出かけた。サディナは尚文を親しげに呼び、軽口を叩いていた。
ラフタリアとの関係についても言及し、尚文が異世界まで行ったことや、ラフタリアの刀が七星勇者に相当するものであることを知ると、サディナは興味を示した。キールも尚文に声をかけ、再会を喜んでいた。
サディナの意外な発言
サディナは尚文に対し、冗談めかしながらも積極的に迫るような態度を見せた。尚文が困惑する中、ラフタリアは彼女の発言に不満げな表情を浮かべていた。サディナの言動は悪ふざけのように思えたが、村人たちはそれを否定しなかった。
ラフタリアは、サディナが「自分よりも酒が強い相手を伴侶にする」と村人たちに語っていたことを明かした。村の飲み比べ大会で優勝した経験もある彼女にとって、尚文は唯一勝てた相手と見なされているらしい。
尚文は驚きつつも、以前サディナにルコルの実入りの酒を飲まされたことを思い出した。村人たちも頷き、尚文が飲み比べで勝ったと認識しているようだった。
サディナの積極的な行動とラフタリアの反応
サディナは冗談交じりに尚文へ迫り、唇を奪おうとした。尚文は咄嗟に顔を逸らしたものの、頬にキスを受けてしまう。さらにサディナは再度試みようとしたが、尚文は拒絶した。
その様子を見ていたラフタリアは、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべていた。サディナはそんな反応を楽しむように振る舞い、尚文をからかい続けた。
そんな中、キールが食事を催促し、村人たちも賛同した。尚文は騒がしさに呆れながらも、彼らの食事を準備することになった。
新たな課題
ラフタリアの同郷の者たちを集める計画は順調に進んでいた。しかし、彼らを戦力として活用するかどうかは未定だった。
一難去ってまた一難。尚文は、サディナの過剰なスキンシップと、それに過敏に反応するラフタリアの間で苦労しそうだと感じていた。
同シリーズ
盾の勇者の成り上がり
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