どんな本?
『盾の勇者の成り上がり』は、アネコユサギによる異世界ファンタジー作品である。主人公の岩谷尚文は、異世界に召喚され、盾の勇者として数々の試練に立ち向かう。第11巻では、尚文が新たな仲間と共に、異世界の脅威に立ち向かう姿が描かれている。  
主要キャラクター
• 岩谷尚文:盾の勇者として召喚された青年。仲間と共に世界を守るために戦う。
• ラフタリア:尚文の最初の仲間である亜人の少女。剣の使い手として尚文を支える。 
• フィーロ:フィロリアルと呼ばれる鳥型の魔物で、尚文の仲間。明るく無邪気な性格。 
• リーシア:元弓の勇者の仲間で、尚文のパーティーに加わる。 
物語の特徴
本作は、異世界召喚や勇者といったファンタジー要素に加え、主人公が逆境を乗り越えて成長していく姿が魅力である。また、仲間との絆や信頼関係が物語の核となっており、読者に感動を与える。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2015年06月25日
• レーベル:MFブックス
• ISBN:9784040676982
• メディア展開:本作はアニメ化もされており、2019年1月から6月まで第1期が放送された。さらに、2022年4月から6月に第2期、2023年10月から12月に第3期が放送された。第4期は2025年7月に放送予定である。
読んだ本のタイトル
盾の勇者の成り上がり 11
著者:アネコ ユサギ 氏
イラスト:弥南 せいら 氏
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あらすじ・内容
形勢逆転! ダメ勇者に現実を教えてやれ!!
コロシアムでの決闘に勝利し、亜人の村の奴隷を取り戻した盾の勇者・尚文。
村に帰還すると、消息不明だった槍の勇者・元康の生存情報が伝えられる。彼を捕獲するため捜索に向かう尚文たちだったが、行き先では錬・元康・ビッチの修羅場が展開されていた!?
「お前を本気で信じてついてきた仲間にそんなことしか言えないとは……勇者どころか人間失格だな」
まったく更生する兆しのない勇者二人に、尚文がついにキレる!! そんな最中、尚文の命を狙う刺客が現れ、状況はますます混迷を極めていく……!?
過去の因縁に終止符を打て! 異世界リベンジファンタジー第十一弾スタート!
感想
本書は、異世界に召喚された盾の勇者・岩谷尚文が、戦いと開拓を続ける物語である。
霊亀戦を終え、新たな戦力の確保や領地の発展を進める中で、尚文はさらなる困難に直面する。
奴隷市場での交渉、剣の勇者・錬の闇落ち、槍の勇者・元康の変貌といった出来事が描かれ、物語は一層深みを増していた。
本書では、尚文が自身の仲間を増やしながらも、異世界の脅威にどう立ち向かうのかが重要なテーマとなっている。
奴隷市場での出会い
尚文は、ルロロナ村の住民を取り戻すため、ゼルトブルの奴隷市場を訪れる。亜人たちの価格高騰や、奴隷狩りの横行といった現実が浮き彫りとなり、彼の戦略的な判断力が問われる展開となっていた。また、新たな仲間としてフォウルとアトラが加わることで、物語はさらに広がりを見せる。特に、アトラが尚文を「守る盾になりたい」と願う場面は、彼女の強い意志を感じさせた。
元康の覚醒
槍の勇者・元康は、霊亀戦での裏切りにより、女性を全て豚と認識するほど精神的に壊れてしまった。しかし、それが逆に彼本来のスペックを引き出し、フィロリアルへの執着へと変わった。尚文を「義父」と呼び、フィーロを守ることに全てを注ぐようになった彼の姿は、かつての軽薄な振る舞いと比べると異質でありながら、むしろ彼らしいとも感じられた。この変化は、ギャグ要素を含みつつも、彼の新たな成長を示していた。
剣の勇者・錬の闇落ちと再生
錬は霊亀戦での敗北や仲間の死によって精神的に追い詰められ、カースシリーズの影響を受けてしまった。強さに執着するあまり、盗賊団の首領となり、尚文たちと敵対する道を選んでしまう。しかし、エクレールとの決闘によってその過ちを悟り、尚文の村へと合流することになる。カースシリーズの呪いから解き放たれる流れは、尚文が過去に経験したこととも重なり、勇者としての在り方を考えさせられる展開であった。
異世界の脅威と新たな仲間
尚文たちは、新たな敵として異世界の侵略者と対峙する。彼らは世界を滅ぼすことで自身の力を高める存在であり、四聖勇者を狙っていた。この脅威に立ち向かうため、尚文はマーダーピエロ=セインという新たな仲間を迎え入れ、強化を進めていく。この異世界間の戦いが、今後の物語の鍵を握る要素となるのは間違いないだろう。
総括
『盾の勇者の成り上がり 11』は、尚文が仲間を増やしつつ、強大な敵に備えていく過程が描かれた巻であった。奴隷市場での交渉や仲間の成長、元康や錬の変化、異世界の脅威など、多くの要素が絡み合い、物語に厚みを持たせていた。特に、元康の異常な覚醒や錬の救済は印象的であり、彼らが今後どのように物語に関わっていくのかが楽しみである。本巻は、新たな戦いに向けた布石となる重要な一冊であり、次巻への期待が高まる内容であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ 買い付け
奴隷市場への訪問
岩谷尚文は、ゼルトブルの奴隷地下市場を訪れ、新たな奴隷を購入するための交渉を進めていた。彼は異世界に召喚され、盾の勇者として戦う大学生である。霊亀関連の戦いが終わった後、次の波や鳳凰との戦いに備え、メルロマルク女王から与えられた領地の開拓を進めていた。その中で問題となったのが、ラフタリアの故郷・ルロロナ村の住人たちの行方であった。
かつてメルロマルク国内で奴隷にされていた亜人たちは、尚文の活躍によって女王の命令で解放された。しかし、命令が遅れたため、彼らはすでに他国に売られていた上に、その価格が高騰する事態となっていた。尚文たちは金を稼ぐためにゼルトブルの闇のコロシアムに出場し、戦いを勝ち抜いて資金を得た。その結果、ルロロナ村出身の奴隷を買い戻すことに成功したが、さらなる戦力増強のため、追加の人員確保を進めていた。
サディナの接近
尚文の腕に絡みついていたのは、ラフタリアの姉貴分であるサディナだった。彼女は獣人で、戦闘能力が非常に高く、闇のコロシアムでも圧倒的な力を見せつけた。彼女は「自分より酒が強い者を求愛する」という独自の価値観を持ち、尚文がルコルの実を食べても平然としていたことを理由に、積極的にアプローチを仕掛けていた。
尚文は、戦力を増やすためには開拓作業のための労働力が必要であり、追加の人員を確保する必要があると考えていた。ルロロナ村の奴隷価格高騰の影響で、奴隷狩りが横行し、村が襲撃される事態も発生していたため、住民の自衛意識を高めることも重要であった。尚文は、勇者に頼るばかりの世界のあり方に疑問を持ちながらも、現実的な対応を取ることを決意していた。
奴隷市場での出会い
地下市場に到着した尚文は、豪華な檻に囚われている一人の女性を目にした。彼女は鬼のような角を持つ褐色の亜人で、端正な顔立ちと整った体格を持っていた。しかし、尚文はその女性に対し、何か違和感を覚えた。奴隷商は彼女を戦闘向きのキキ種であると説明したが、尚文は彼女が性奴隷として売られる可能性が高いと直感し、購入を拒否した。
その女性は尚文に対し挑発的な態度を取り、自分を選ばない理由を問い詰めた。尚文は単純に「好みではない」と返答したが、女性は「ロリコン」と罵声を浴びせてきた。この態度に尚文は不快感を抱き、さらに彼女の言葉遣いがどこか自分を知っているかのような印象を受けた。奴隷商人たちは商談を進めようとしたが、尚文は直感的にその女性を避け、次の奴隷を確認することにした。
ラフタリアやリーシアも尚文の決断を支持し、サディナは挑発的に尚文に寄り添いながら状況を楽しんでいた。尚文はその奴隷がなぜ自分に執着するのか疑問を抱きながらも、感情を排し、冷静に次の交渉へと移った。
一話 神木の薬
偽装奴隷の見破り
尚文は次に案内された檻を確認した。そこには健康そうな亜人の少女が収容されていた。彼女は笑顔を浮かべ、手を振る仕草を見せていたが、その様子に尚文は違和感を覚えた。通常、奴隷は過酷な環境で育ち、怯えた目をしているはずである。しかし、この少女にはそうした影がなく、まるで夢見る冒険者のような表情をしていた。
その後も何人かの奴隷が紹介されたが、どの者も同じように尚文に文句を言う姿勢を見せた。これにより、彼は何者かが意図的に彼のもとへ特定の奴隷を送り込んでいると察した。奴隷商人たちに問い詰めたところ、彼らは焦りを見せながらも本当の事情を明かそうとはしなかった。そこで尚文は強引に奴隷の一人を問い詰め、背後にいる勢力を暴こうとした。
奴隷は怯えながら、父親の指示で尚文の嫁になるために送り込まれたことを明かした。シルトヴェルトの権力者たちが尚文の近くに影響力を持つために、彼が奴隷としてしか女性をそばに置かないという噂を利用し、娘たちを送り込んでいたのだった。尚文は、このような策略を許すわけにはいかず、奴隷商人に対し、シルトヴェルトへ書状を送る意向を示し、これ以上の干渉を止めるよう通告した。
サディナの悪ふざけ
尚文が冷静に対処している中、サディナは相変わらず尚文への接触を続けていた。彼の女性不信を克服させるなどと言い出し、ラフタリアを挑発しながら絡んできた。彼女は尚文に抱きつき、無理やり密着しようとするなど、周囲の者たちを呆れさせた。
フィーロもこの流れに乗り、遊び感覚で尚文を抱きしめたいと申し出たが、彼は即座に拒否した。無視を決め込もうとしたものの、サディナは勝手に肯定的な解釈をし、ますます積極的に絡んできた。尚文は彼女のしつこさに苛立ちつつも、次の奴隷の確認へと進んだ。
新たな奴隷の発見
尚文は手先の器用な奴隷を探していた。案内された檻の中にはルーモ種の亜人たちがいた。彼はイミアの知り合いがいるかどうかを確認したが、具体的な名前が分からず、一度は諦めかけた。しかし、ラフタリアがイミアの長い本名を正確に記憶しており、それを伝えたことで、イミアの親戚であることが判明した。尚文は彼らを買い取り、イミアとの再会を約束した。
また、サディナは尚文とラフタリアの関係について触れ、自身がラフタリアの両親と親しい間柄だったことを明かした。彼女は村の外からの流れ者であり、ラフタリアの両親に世話になった過去があったのだという。
フォウルとアトラとの出会い
奴隷商人は尚文に「劇薬のような奴隷」としてある兄妹を紹介した。檻の中には十二歳前後の少年と、病に伏せる少女がいた。少年の名はフォウル。彼は戦闘奴隷としてゼルトブルで戦い続けてきた。サディナとも顔見知りであり、以前にコロシアムで戦ったことがあるらしい。
尚文はフォウルの容姿に目を向けた。彼は白と黒の縞模様の毛並みを持ち、瞳には鋭い光を宿していた。その姿は、尚文がかつて絆の世界で戦った白虎に似ていた。奴隷商人の説明によれば、彼の種族は「ハクコ種」と呼ばれ、勇者が名付けた特別な亜人であるという。彼らは極めて高い戦闘力を持ち、成長すればさらに強くなる特性を持っていた。
しかし、フォウルの妹・アトラは遺伝性の病を患っており、目も見えず、歩くこともできなかった。彼女の余命は長くないとされていたが、尚文は彼女を救うため、イグドラシル薬剤を与えることを決めた。フォウルは尚文の意図を疑い、薬に毒が入っている可能性を考えたが、最終的には妹のために信じるしかないと判断した。
アトラは尚文の手から薬を受け取り、それを口にした。薬はすぐに効き始め、彼女の体調は次第に回復していった。フォウルはその光景を目の当たりにし、尚文の力を認めるしかなかった。
フォウルの従属と新たな関係
尚文はフォウルに、自分のもとで働くよう命じた。彼は妹を救うための代償として、尚文に忠誠を誓わざるを得なかった。フォウルはコロシアムで稼ぐことを申し出たが、尚文はそれを否定し、別の手段で役立たせるつもりであった。
フォウルは尚文を強く警戒していたが、アトラが尚文を信頼していることにより、次第に態度を変えていった。彼は尚文を敵視しつつも、妹のために彼のもとで働くことを受け入れた。
こうして尚文はフォウルとアトラの兄妹を新たな仲間として迎え入れたのだった。
二話 村へ帰る
奴隷登録とポータル転移
尚文は奴隷登録を順調に進めながら、ポータルを利用して奴隷たちを村へと送り届けていた。しかし、ポータルのクールタイムがあるため、その間の時間を持て余していた。ラフタリアが帰路の龍脈を利用できるよう登録していたため、フィーロを介しての転送も考えられたが、大きな違いはなかった。
また、ゼルトブルには七星の勇者がいると聞いていたが、現在は不在であり、会う機会を得られなかった。彼と強化方法について話すことで自身の能力向上も期待していたが、思惑通りには進まなかった。
サディナが尚文を誘おうとしたが、彼は面倒を避けるため、彼女を先に村へと転送した。ラフタリアと雑談を交えながら、残る奴隷の転送を続けていった。
フォウルとアトラの転送準備
ついにフォウルとアトラの番となった。アトラは治療の効果で体調が改善しつつあり、フォウルは彼女を寝かせつつ水を持ってきた。アトラは兄の気遣いに感謝しつつ、尚文に出発の時期を尋ねた。尚文は、まもなく移動すると答え、彼女にもう一度イグドラシル薬剤を飲ませた。
薬の効果でさらに体調が回復したアトラは、尚文の手を握り、兄と仲良くするように頼んだ。フォウルは不満そうな表情を見せつつも、尚文と馴れ馴れしく接するようになっていた。アトラは再び横になり、疲れた様子を見せたため、尚文は彼女に休むよう指示した。
アトラの直感とフィーロの反応
アトラは目が見えないながらも、フィーロの存在を察知し、その強さを感じ取っていた。彼女は尚文に匹敵するほどの力を持っていると表現し、フィーロはそれを褒め言葉として受け取った。尚文自身は、フィーロの無邪気な態度を見て半信半疑だったが、アトラの感覚の鋭さには驚いた。
ポータルのクールタイムが解消されたため、尚文たちは帰還の準備を整えた。まだ未回収の奴隷がいる可能性もあるため、今後も奴隷商たちに追跡調査を依頼し、必要に応じて再びゼルトブルに訪れる予定であった。
村への帰還と歓迎
尚文はポータルを使用し、一行を村へと転送した。潮風が漂う漁村の空気が迎えた。アトラは目が見えないにもかかわらず、村の雰囲気を感じ取っていた。尚文は彼女の回復状況を確認し、診療所に案内するようフォウルに指示した。フォウルはアトラを背負い、戸惑いながらも診療所へ向かった。
一方、イミアは親戚との再会を喜び、感動的な再会の場面が広がっていた。新たな奴隷たちも次第に村に馴染み始めていた。
新たな生活と戦力強化
村では新たに加わった者たちの歓迎会が開かれた。尚文は士気を高めるため、自ら料理を振る舞った。その後、翌日から新たな住人たちの鍛錬が開始された。数日は村に馴染ませながら、最低限のレベル上げを行わせた。
キール、リーシア、ラフタリアが主導し、奴隷たちは懸命に努力していた。サディナも鍛錬を手伝い、圧倒的な戦闘力を発揮していた。彼女は襲いかかる魔物たちを魔法で瞬く間に討伐し、その実力を見せつけた。こうして、村の新たな戦力の強化が進められていった。
三話 アルプス
アトラの治療と驚異的な回復
尚文はアトラの治療のため、夜の診療所を訪れた。アトラの皮膚病が快方に向かっており、痒みを訴えていたため、包帯の巻き直しを頼まれた。フォウルが強引に治療を申し出たものの、アトラの希望で尚文が担当することとなった。
包帯を外すと、アトラの肌は以前とは見違えるほど再生していた。フォウルは驚愕し、尚文も想像以上の回復に驚いた。奴隷として過酷な環境にいたにもかかわらず、アトラの髪には艶があり、肌も滑らかで美しかった。その姿を見たフォウルは、まるで娘の成長を喜ぶ父親のように涙していた。
村への適応とフォウルの覚悟
アトラは自らの回復を実感しながら、尚文に村のことを尋ねた。尚文は冗談交じりに厳しい訓練を強調し、ラフタリアに窘められながらも、村の状況や今後の計画について説明した。アトラは村の人々との関係を深めたいと願い、話を聞き入れていた。
やがて、アトラは尚文に手を伸ばし、もっと話をしたいと願った。しかし、その勢いでバランスを崩し、フォウルに支えられながらもベッドから転げ落ちた。そして、無意識のうちに足を使い、立ち上がることに成功した。フォウルは驚愕し、まるで奇跡を目の当たりにしたかのように妹を見つめた。アトラ自身も信じられない様子だったが、確かに歩くことができた。
アトラの決意と戦闘への意欲
アトラは、自分の足で歩けるようになったことを喜びつつ、これまで守られるばかりだった自分を変えたいと考えた。そして、戦う術を学びたいと尚文に願い出た。フォウルは妹を戦わせたくないと反対したが、アトラは意志を貫こうとした。
尚文はハクコ種の特性を考え、アトラの成長の可能性を評価した。そして、フォウルにも戦いへの参加を促した。フォウルはアトラを守るため、尚文の申し出を受け入れ、より強くなる決意を固めた。
レベルリセットの提案とサディナの介入
尚文は、勇者の奴隷には成長補正がかかることを説明し、フォウルとアトラにレベルリセットを提案した。最初から鍛え直せば、より強くなれる可能性があるためだった。フォウルは迷いながらも、最終的にはアトラと共にリセットすることを決意した。
そこへサディナが酔った様子で割り込み、自分もレベルリセットを希望した。尚文は、すでに高レベルの彼女には必要がないと考えたが、より強くなれるならば悪い選択ではないと判断した。ただし、強くなったサディナがさらに厄介な存在になることを懸念していた。
夜の別れとアトラの名残惜しさ
夜も更け、尚文はフォウルとアトラに休むよう指示した。フォウルはアトラの手を引き、家へと向かったが、アトラは尚文ともっと話したいと名残惜しそうにしていた。尚文は、休息が必要であることを諭し、アトラを送り出した。
その後、サディナが再び絡んできたが、尚文はラフタリアに彼女を連れて行かせた。ラフタリアとラフちゃんが子供たちを寝かしつける中、尚文は久しぶりにラフちゃんと遊べていないことを思い出しながら、自宅へと戻った。
四話 盾を守る盾
静かな夜とアトラの訪問
尚文は一人の夜を過ごしながら、行商用の薬の調合を進めていた。しかし、間もなく扉をノックする音が響いた。訪れたのは、兄に連れられて帰宅したはずのアトラであった。彼女は尚文と一緒に寝たいと申し出たが、尚文は兄の存在を理由に拒否した。しかし、アトラは頑なに尚文の家の前で寝ると主張し、尚文は仕方なくラフタリアのベッドを使うように指示した。
村の未来と尚文の役割
アトラは尚文の仕事ぶりを見て感謝を述べた。尚文は金銭のために行動していると答えたが、アトラは彼のおかげで自分が歩けるようになったことを喜んでいた。その純粋な感謝の言葉に尚文は戸惑いを覚えた。アトラは村の様子を見て、尚文が皆を守る親鳥のように感じると語った。そして、村人たちは尚文の庇護のもとで成長し、いずれは巣立っていく存在なのだと述べた。尚文は巣立ちは構わないが、村を守ることを怠る者には罰を与えるつもりであった。
アトラの決意と新たな目標
アトラは尚文の功績を聞き、彼を誇らしく思うと語った。そして、彼を支えてきた者たちについて問うた。尚文はラフタリアやフィーロ、メルティ、女王など、さまざまな者が助けてくれたことを認めた。しかし、アトラはそれでも尚文を守る存在が必要だと主張した。そして、自分は尚文の盾になりたいと強く願った。尚文はその言葉を受け、まずは強くなることが先決だと助言した。アトラは決意を新たにし、明日から鍛錬に励むことを誓った。
フォウルとの対話と誤解
アトラが眠りについた後、尚文は彼女を抱えてフォウルのもとへ戻した。フォウルは熟睡していたが、尚文の呼びかけで目を覚ました。尚文は妹の面倒を見るよう忠告したが、フォウルは尚文がアトラと何かあったのではと疑った。その誤解を解くため、尚文は奴隷紋を作動させ、フォウルを抑え込んだ。しかし、フォウルはアトラに女としての魅力がないと言いたいのかと食い下がった。
尚文はハーレム願望がないことを強調し、仲間の性別にこだわりはないと述べた。しかし、それを聞いたフォウルは尚文が男色の趣味を持っていると勘違いし、距離を取った。尚文は全力で否定し、面倒な兄妹だと改めて感じた。だが、アトラの「尚文の盾になりたい」という言葉が頭に残り、彼女の決意を改めて考えさせられたのだった。
五話 クズとハクコ
朝食の準備とアトラの熱意
尚文は村の奴隷たちの強い要望を受け、朝食を作ることになった。料理の下ごしらえは奴隷たちが済ませていたため、尚文は調理を担当した。奴隷たちは喜びながら食事を待ち、サディナも楽しげにしていた。その中でアトラは「尚文の料理を味わい尽くす」と意気込んでいたが、フォウルがそれを制止した。奴隷たちは給食のように整列し、順番に料理を受け取っていった。
見知らぬ少女の登場
食事の配膳を進めていると、見覚えのない少女が並んでいた。彼女は銀色の髪と瞳を持ち、村の者たちや城の兵士とも違う雰囲気を醸し出していた。尚文はラフタリアに尋ねたが、村には見当たらない存在であることが確認された。そこへフィーロが現れ、その少女を「ピエロのお姉ちゃん」と呼んだ。少女は眠そうな顔をしながら、尚文の料理を受け取ろうとした。
マーダーピエロの正体
少女は懐からハサミを取り出し、さらに仮面を見せた。尚文はその瞬間、彼女がゼルトブルのコロシアムで戦ったマーダーピエロであることに気付いた。彼女はトレイを差し出し、食事を求めたが、尚文は「無料ではない」と告げた。すると、彼女は銀貨二枚を渡してきた。尚文はその行動に困惑しつつも、料理を渡すことにした。
仲間になりたいという提案
マーダーピエロは尚文に「仲間にしてほしい」と頼んだが、尚文は信用できないとして拒否した。ラフタリアが理由を尋ねるも、彼女は沈黙を貫いた。やがて、彼女は「波が来るまで滞在し、協力する」と申し出たが、尚文はその申し出を断った。彼女の発言にはノイズが混じり、尚文はその異様さに戸惑った。
眷属器の持ち主の可能性
尚文は彼女の武器が七星武器や眷属器である可能性を疑った。マーダーピエロの戦闘能力と特殊な武器の性質を考えると、それは眷属器の力によるものだと考えられた。しかし、彼女の発言は不明瞭で、真意を把握することは難しかった。彼女が異世界の勇者を倒す側の存在である可能性も浮上したが、尚文は信用できないとして村から追い出すことにした。
村を去るマーダーピエロ
マーダーピエロは去り際に何度も振り返り、尚文が呼び止めるのを期待していた。しかし、尚文はそれを無視し続け、彼女は失望しながら村を後にした。ラフタリアは彼女がどのように村に来たのか疑問を抱いたが、尚文はそれについて深く考えていなかった。
クズとの遭遇
尚文たちはメルロマルクの城へ向かい、女王と面会する前に中庭で待機していた。そこへクズが現れ、尚文に対して敵意を向けた。クズはパンツ一丁にマントという異様な格好をしており、背中には罰の札が下がっていた。彼は尚文を盾の悪魔と罵倒し、襲いかかろうとしたが、兵士たちに止められた。しかし、アトラの顔を見た瞬間、クズの態度が一変し、無言のまま立ち去ってしまった。
アトラの正体とクズの過去
女王はクズの行動の理由を説明した。かつて、クズ(ルージュ・ランサーズ・フォーブレイ)には盲目の妹ルシアがいたが、彼女はハクコ種によって命を奪われたとされていた。しかし、アトラの顔はその妹ルシアと瓜二つであった。尚文は、アトラとフォウルがクズの妹の忘れ形見である可能性を考えたが、真相は不明のままだった。フォウルは自分の家系についてほとんど知らず、女王の言葉に戸惑いを見せた。
槍の勇者の目撃情報
女王は尚文に、槍の勇者・元康の仲間が発見されたことを伝えた。その仲間は行方不明になっていたが、最近になって家族のもとへ戻っていたという。女王は尚文に、その仲間と接触し、元康を誘い出すよう説得してほしいと依頼した。尚文はこの作戦を受け入れ、まずはフォウルのレベルリセットを終えてから行動することにした。
次なる行動
尚文はメンバーを選び、ポータルシールドを使ってメルロマルクの城へと向かった。城では霊亀の山の開拓が進められており、人々が復興に励んでいる様子が見られた。女王との面会が済み次第、尚文は槍の勇者の仲間と接触し、元康を捕らえる計画を進めることにした。不安要素は残るが、次の行動へと移るべく準備を進めた。
六話 鍛錬のお陰
龍刻の砂時計でのレベルリセット
尚文たちは龍刻の砂時計へ向かい、すでに女王の命令が届いていることを確認した。儀式の準備は整っており、最初にサディナがレベルリセットを受けることになった。彼女は余裕を見せながら魔法陣の中へ進み、儀式が執り行われた。光が四散し、リセットが完了すると、彼女は体が重いと感じながらも歩くことができていた。続いてフォウルも儀式を受け、同様に無事リセットを終えた。兵士によれば、リセット後の反動には個人差があるが、一定期間のリハビリが必要になる場合もあるという。
リセット後の影響と鍛錬の重要性
サディナとフォウルは、リセット直後でも大きな問題なく動けていた。尚文は彼らの様子を観察し、身体を鍛えている者はレベルリセット後の影響を最小限に抑えられるのではないかと推測した。魔法を主に扱う者や、戦闘経験の少ない貴族のような者は、リセット後の負担が大きい可能性がある。そのため、自己鍛錬の重要性が改めて浮き彫りとなった。尚文自身も修行の必要性を感じたが、最終的には波を鎮めることを優先し、元の世界に戻ることを考えることにした。
村への帰還と出発準備
儀式が終わると、尚文たちはポータルを使って村に戻った。サディナ、フォウル、アトラにはすぐにレベル上げを開始するよう指示を出し、尚文たちは別の任務へと向かう準備を進めた。アトラは尚文について行きたいと申し出たが、戦闘の危険性を考慮し、まずは自身の戦闘力を高めることを優先させることにした。彼女は尚文を独占することを目標にすると宣言したが、ラフタリアにたしなめられていた。
移動手段の決定とフィーロの馬車
尚文はラフタリアとフィーロを同行者として選び、元康の仲間のもとへ向かうことにした。リーシアはエクレールと共に修行中であり、変幻無双流の習得を優先させるべきと判断した。フィーロは久しぶりに自分の馬車を使うことに喜び、尚文たちはそれに乗り込んで目的地へと出発した。尚文は帰り道に行商を兼ねることを考えながら、元康の仲間と接触するための計画を進めていった。
七話 槍の勇者捕縛作戦
騒ぎの中心と錬との再会
尚文たちは元康の説得に失敗し、村へ戻る途中であった。行商をしながら進む中、とある村の自警団の詰め所前で騒ぎが起こっているのを目にした。最初は無視するつもりだったが、聞き覚えのある声がしたため、様子を見に行くことにした。そこでは錬が盗賊を捕まえたものの、逆に疑われていた。
尚文が近づくと、人垣が割れ、盗賊たちと錬の姿が見えた。盗賊たちはニヤニヤと笑いながらも、尚文の姿を見た途端に青ざめた。彼らは過去に何度も尚文に制裁を受けていたため、その存在を恐れていたのだ。尚文は彼らを見下しながら、懲りない態度を指摘し、さらにフィーロを召喚して威圧させた。すると、盗賊たちは自ら罪を認め、自警団に助けを求めた。尚文は彼らのアジトの情報を引き出し、ラフタリアとフィーロを送り込んで残党を掃討させることにした。
錬との対話と彼の苦境
騒動が片付き、尚文は久しぶりに錬と向かい合った。錬は警戒しながら距離を取ったが、尚文は敵意がないことを示すため、フィーロとラフタリアを別行動させた。錬は自らの状況を語り始めた。彼はギルドから国に戻るよう命じられ、フリーの魔物退治や賞金首討伐をしても賞金の大半を奪われるという不遇な扱いを受けていた。そのため、魔物のドロップ品を売って生計を立てていたが、次第に嫌気がさしてきていた。
尚文は彼の話を聞きながら、似た境遇の元康について語った。元康も説得に失敗し、逃亡してしまったことを伝えると、錬は元康の仲間が生存していることに驚いた様子だった。この流れから、尚文は錬の仲間がどうなったのかを尋ねた。
霊亀戦での敗北と仲間の死
錬は尚文を出し抜くつもりで霊亀に挑んだが、想定外の強さに圧倒されたことを明かした。彼の知るゲームの情報では、適正レベルは 60 であり、80 もあれば十分に戦えるはずだった。しかし、実際にはまったく歯が立たなかった。錬は仲間と共に霊亀へ突撃し、スキルを連発したが、結果は惨敗。気が付いた時には、仲間たちの死体が無惨に転がっていた。
ショックを受けた錬は呆然とし、ゲームのように蘇生できる可能性を信じたが、それは叶わなかった。さらに、何者かに不意打ちされ、気を失ってしまった。目覚めた時には治療院のベッドの上だったという。錬は仲間の死を受け入れられず、「自分は悪くない、仲間が弱かったからだ」と自己弁護を繰り返した。
錬の再起と尚文の提案
尚文は彼の言葉を否定せず、あえて「しょうがないな」と相槌を打った。本音では錬の慢心と準備不足が原因であると分かっていたが、ここで責めても意味はないと判断した。そして、次の鳳凰戦に向けて準備をするよう助言し、彼が本当に強くなるための方法を提案した。
尚文は、錬がしばらく自分の村に滞在し、仲間を育てることを提案した。ラフタリアの故郷であるその村は、波の被害を受けた地であり、現在復興が進んでいる。錬はその提案に驚きながらも前向きに捉えた。尚文は彼をうまく導き、強化方法を叩き込むつもりであった。
謎の人影と新たな展開
話がまとまりかけたその時、尚文は酒場の扉の向こうに見覚えのある人影を見た。不審に思った尚文は、錬にしばらくここで待つよう伝えた。村へ帰る前に解決すべき問題があると感じたのだった。
八話 ゲームが終わった日
自警団の騒ぎと錬の登場
尚文たちは元康の説得に失敗し、村へ戻る途中であった。行商をしながら進む中、とある村の自警団の詰め所前で騒ぎが起こっているのを目にした。最初は無視するつもりだったが、聞き覚えのある声がしたため、様子を見に行くことにした。そこでは錬が盗賊を捕まえたものの、逆に疑われていた。
尚文が近づくと、人垣が割れ、盗賊たちと錬の姿が見えた。盗賊たちはニヤニヤと笑いながらも、尚文の姿を見た途端に青ざめた。彼らは過去に何度も尚文に制裁を受けていたため、その存在を恐れていたのだ。尚文は彼らを見下しながら、懲りない態度を指摘し、さらにフィーロを召喚して威圧させた。すると、盗賊たちは自ら罪を認め、自警団に助けを求めた。尚文は彼らのアジトの情報を引き出し、ラフタリアとフィーロを送り込んで残党を掃討させることにした。
錬との対話と彼の苦境
騒動が片付き、尚文は久しぶりに錬と向かい合った。錬は警戒しながら距離を取ったが、尚文は敵意がないことを示すため、フィーロとラフタリアを別行動させた。錬は自らの状況を語り始めた。彼はギルドから国に戻るよう命じられ、フリーの魔物退治や賞金首討伐をしても賞金の大半を奪われるという不遇な扱いを受けていた。そのため、魔物のドロップ品を売って生計を立てていたが、次第に嫌気がさしてきていた。
尚文は彼の話を聞きながら、似た境遇の元康について語った。元康も説得に失敗し、逃亡してしまったことを伝えると、錬は元康の仲間が生存していることに驚いた様子だった。この流れから、尚文は錬の仲間がどうなったのかを尋ねた。
霊亀戦での敗北と仲間の死
錬は尚文を出し抜くつもりで霊亀に挑んだが、想定外の強さに圧倒されたことを明かした。彼の知るゲームの情報では、適正レベルは 60 であり、80 もあれば十分に戦えるはずだった。しかし、実際にはまったく歯が立たなかった。錬は仲間と共に霊亀へ突撃し、スキルを連発したが、結果は惨敗。気が付いた時には、仲間たちの死体が無惨に転がっていた。
ショックを受けた錬は呆然とし、ゲームのように蘇生できる可能性を信じたが、それは叶わなかった。さらに、何者かに不意打ちされ、気を失ってしまった。目覚めた時には治療院のベッドの上だったという。錬は仲間の死を受け入れられず、「自分は悪くない、仲間が弱かったからだ」と自己弁護を繰り返した。
錬の再起と尚文の提案
尚文は彼の言葉を否定せず、あえて「しょうがないな」と相槌を打った。本音では錬の慢心と準備不足が原因であると分かっていたが、ここで責めても意味はないと判断した。そして、次の鳳凰戦に向けて準備をするよう助言し、彼が本当に強くなるための方法を提案した。
尚文は、錬がしばらく自分の村に滞在し、仲間を育てることを提案した。ラフタリアの故郷であるその村は、波の被害を受けた地であり、現在復興が進んでいる。錬はその提案に驚きながらも前向きに捉えた。尚文は彼をうまく導き、強化方法を叩き込むつもりであった。
謎の人影と新たな展開
話がまとまりかけたその時、尚文は酒場の扉の向こうに見覚えのある人影を見た。不審に思った尚文は、錬にしばらくここで待つよう伝えた。村へ帰る前に解決すべき問題があると感じたのだった。
九話 ヴィッチ命名
元康の尾行と予想外の出会い
尚文は単独で尾行を開始した。ラフタリアがいれば理想的だったが、彼女は盗賊狩りに出ており、代わりはいなかった。尾行相手は誰かに話しかけるタイミングを見計らっているようで、人気のない場所を歩き続けていた。
やがて相手が急に立ち止まり、その視線の先にあった光景に尚文も驚愕する。そこには、ビッチが女二人を連れ、錬と酒場で話をしている姿があった。尚文は状況を確認するよりも、まずビッチを捕らえることを優先し、速やかに行動を開始した。
ビッチの巧妙な誘惑と錬の動揺
ビッチは錬に対し、槍の勇者である元康は勇者の器ではないと吹き込み、彼を持ち上げる言葉を巧みに並べた。さらに、元康と共にいた頃は無理な関係を強要されていたと語り、自らが被害者であるかのように振る舞った。
錬はその言葉を真に受け始め、ビッチに対する警戒心を持ちつつも、彼女の甘言に揺さぶられた。尚文は状況の異常さを理解しながらも、冷静に観察し、ビッチの計略を阻止する方法を模索した。
元康の介入と三勇者の対立
元康はビッチと錬のやり取りを目の当たりにし、激しい憎悪を抱きながら介入した。ビッチはすかさず涙を流し、元康が自分を犠牲にして逃げようとしたと嘘を並べた。元康は激しく反論したが、ビッチは巧みに彼を悪者に仕立て上げた。
尚文は事態の展開に呆れながらも、元康の表情がかつて自分が陥れられたときと同じであることに気づいた。そして、ビッチが勇者たちを次々と操ろうとしていることを確信し、彼女を排除する決意を固めた。
尚文と錬の衝突
尚文はビッチの嘘を見抜き、彼女を断罪しようとしたが、錬が彼女を庇い剣を構えた。酒場内は騒然となり、客たちは慌てて逃げ出した。尚文は錬に対し、ビッチの言葉を信じるのかと問いかけたが、彼は頑なに拒否した。
錬は尚文こそが全ての元凶であると決めつけ、自らの過ちを認めようとしなかった。尚文は錬の自己欺瞞を指摘し、責任を転嫁するなと叱責したが、彼は怒りに任せて攻撃を仕掛けた。尚文はそれを盾で防ぎ、冷静に彼の未熟さを指摘した。
錬の敗北とビッチの逃亡
錬の攻撃は尚文にほとんどダメージを与えられず、彼の力不足が明らかになった。ビッチは危機を察し、錬に助けを求めた。錯乱状態にあった錬は彼女の指示に従い、閃光剣を放って視界を奪った後、転送剣でビッチと共に姿を消した。
尚文は、ビッチの逃亡が成功したことに苛立ちつつも、今後彼女を逃がさない決意を新たにした。残された元康は完全に打ちひしがれ、絶望の表情を浮かべていた。
元康の絶望と尚文の決断
元康は信じていた仲間たちに裏切られ、完全に心を閉ざしていた。尚文は彼を城へ連行し、真実を理解させるつもりであったが、元康はすべてに絶望し、投げやりな態度を取った。
その時、盗賊狩りを終えたラフタリアとフィーロが戻ってきた。尚文は彼女たちに事の経緯を説明し、元康の精神状態を考慮して今夜は村に戻らず、宿を取ることを決めた。ラフタリアも納得し、尚文たちは宿へ向かった。
十話 新たな目覚め
元康の落ち込みと酒場での出来事
尚文は宿で食事が提供されないため、元康を連れて酒場へ向かった。元康は入るなりカウンターの隅に座り、酒を注文して静かに飲み始めた。普段、女性しか頭にない男が、すっかり意気消沈している様子だった。近づいてきた女性の誘いにも冷たく断り、誰とも関わる気はないようだった。
その間、尚文たちは食事を済ませ、フィーロは気分よく歌い始めた。彼女の美声は店内の客を魅了し、詩人と共に変わった歌を披露していた。まるで魔物のように周囲を惹きつけるフィーロの歌声に、尚文は一抹の不安を覚えたが、客たちは歓声を上げて楽しんでいた。
フィーロの励ましと元康の異変
フィーロは、元康の様子を見て話しかけた。かつて彼はフィーロの外見を好んでいたが、今は彼女に対してすら興味を示さなかった。そこで、フィーロは元気を出してもらおうと、再び歌いながら元康に向かって踊り出した。
しかし、元康は突然号泣し、フィーロに抱きついた。驚いたフィーロは悲鳴を上げ、必死に逃れようとしたが、元康の力が強く、振りほどけなかった。尚文は状況を理解できず、混乱しながらもフィーロに魔物の姿へ戻るよう指示した。だが、元康はそれすらも受け入れ、フィロリアル姿のフィーロにすり寄って離れようとしなかった。
元康の暴走と尚文たちの困惑
尚文は、フィーロが優しく接したことで元康が何かを錯覚し、完全におかしくなったことを確信した。ラフタリアも困惑しながら尚文に問いかけたが、尚文自身も元康の行動を制止できず、事態は悪化していった。
フィーロは元康を振り払うため、野菜を手渡して誤魔化そうとしたが効果はなく、結局、酒場から逃げ出していった。尚文は、元康の立ち直りが早すぎることに疑問を抱きつつも、彼の執着が新たな問題を引き起こすことを危惧した。
翌朝の異常な展開
尚文たちは宿で目覚め、元康をどうするか相談していた。しかし、扉を開けた瞬間、そこには元康が待ち構えていた。彼は尚文を「お義父さん」と呼び、フィーロとの関係を認めるよう懇願してきた。
尚文は完全に呆れ果て、ラフタリアもまた、元康の異常な発言に冷静に対処しつつ、フィーロに突き放すよう促した。しかし、元康はまったく聞く耳を持たず、ますます暴走していった。
尚文たちの脱出と元康の執着
尚文たちは元康のしつこさに耐えきれず、窓から宿を脱出することにした。馬車を回収することは諦め、城へ向かい、ヴィッチの件を女王に報告することを優先した。
城へ到着後、尚文はヴィッチの賞金首としての扱いを女王に提案した。女王は、ヴィッチが三勇教の残党と関わっている可能性を指摘し、生け捕りにする意義を説明した。尚文は、それならば賞金を引き上げることを条件に、生死不問での指名手配を進めることを了承した。
こうして、ヴィッチは正式に指名手配となり、尚文たちは新たな問題に向けて動き出すこととなった。
十一話 ふんどし犬
キールの獣化と村の変化
尚文たちが村へ戻ると、キールが獣化した姿で迎えた。彼はシベリアンハスキーのような子犬の姿になり、誇らしげにふんどしを着用していた。村人たちは驚きながらも微妙な表情を浮かべ、サディナだけが満足そうにしていた。キールは獣化の資質があったため、サディナに教えられて変身できるようになったらしい。
リーシアは修行の合間に現れ、キールを可愛いと評した。彼女は最近、ババアの指導を受け続け、修行に励んでいた。尚文は他にも獣化できる者がいるのかを尋ねたが、資質を持つ者はごく少数で、ラフタリアはその適性がないとサディナは説明した。
獣化したキールと村のマスコット化
キールは自分を「かっこいい」と思っていたが、尚文は「可愛い」と評価した。ラフちゃんと並んだキールは、完全に村のマスコットとしての立場を確立してしまった。フォウルもまた獣化の資質を持っていると知らされ、尚文は彼に「アルプス」というニックネームをつけた。アトラは、尚文から特別な名前を授かったフォウルを羨ましく思い、軽く嫉妬の感情を漏らした。
その後、尚文は村人のレベルを確認し、戦闘に積極的な者がレベル40に達していることを把握した。リーシアはレベル69で足踏みしており、70に達するための壁に直面しているようだった。尚文は、この状態が資質開花の兆しである可能性を考慮しつつ、村の戦力強化のためにクラスアップを進めることを決めた。
村人たちのクラスアップ準備
クラスアップを告げると、キールを筆頭に村の戦闘者たちが意欲を見せた。尚文は、フィーロに馬車の準備を指示し、ポータルで龍刻の砂時計へ向かう計画を立てた。フィーロは元康の存在を警戒していたが、尚文は宿屋で待っている可能性が高いと推測し、気にしないよう促した。
さらに、尚文は村のルーモ種の者たちを集め、鍛冶の修行を希望する者を募った。イミアの叔父が手を挙げ、鍛冶の経験があることを明かしたため、彼を鍛冶職人のもとへ預けることにした。また、炭鉱作業の適性についても確認したところ、ルーモ種の者たちは得意としており、今後の村の発展に大いに役立つと判断された。
こうして、尚文たちは村の戦力強化と生活環境の整備を進めるため、ポータルを使って移動することになった。
十二話 決断
龍刻の砂時計でのクラスアップ
尚文たちはラフタリアのスキルを用いて龍刻の砂時計へ転移した。突如として現れた彼らに警備の兵士は驚いたが、尚文は仲間のクラスアップが目的であることを伝え、儀式の準備を進めた。
クラスアップに際し、尚文は奴隷たちに未来を自ら選ぶことの重要性を説いた。戦闘力だけが人生の全てではないため、選択肢を持つことの大切さを強調した。そのうえで、波に備えて戦闘力の向上を優先する者と、自身で進む道を決めたい者に分かれるよう指示を出した。
クラスアップの儀式とフィーロの影響
キールを筆頭に、戦闘力向上を優先した者たちのクラスアップが始まった。フィーロの特殊なアホ毛の影響で、キールのクラスアップも自動的に最適なものが選ばれ、能力が大幅に向上した。ただし、ラフタリアの時ほどの劇的な成長ではなかった。
その後、自ら選択したいと望んだ者たちがクラスアップを行い、尚文はフィーロに外へ出るよう指示した。その結果、クラスアップは正常に行われ、それぞれの望む道を選ぶことができた。
魔物討伐の計画とフィーロの不安
クラスアップ後、尚文は新たな戦力を確認するため、魔物討伐に出ることを決めた。しかし、フィーロは元康への警戒から外出を嫌がった。尚文は、遭遇したら蹴り飛ばせばいいと励まし、ラフタリアも慎重な姿勢を見せつつ、フィーロを説得した。
フィーロは、魔物討伐のために馬車を出すことを承諾し、尚文は彼女に新しい馬車を発注することを約束した。これによりフィーロのやる気が回復し、魔物討伐へ向かう準備が整った。
武器屋での相談と新たな弟子
尚文は魔物討伐の前に、武器屋の親父を訪ね、霊亀の素材を用いた装備の開発状況を確認した。武器は加工しやすいものの、エアウェイク加工と相性が悪く、防具としての実用性に課題があった。
また、尚文は村のルーモ種の職人であるトーリを武器屋に弟子入りさせるため、親父に紹介した。親父とトーリは旧知の間柄であり、再会を喜びつつ、鍛冶の修行を始めることとなった。尚文は彼らに霊亀の素材を活用した装備の研究を託し、武器屋を後にした。
十三話 襲撃の数々
元康の執着とフィーロの対応
尚文たちは魔物討伐のために馬車で移動していたが、道中で元康が何度も先回りして現れた。彼は転移スキルを利用しているようだったが、フィーロの蹴りにより三度目の宙を舞った。奴隷たちは人が蹴り飛ばされる様子に悲鳴を上げ、恐怖を覚えていた。尚文は、ここまで頻繁に遭遇するのであれば、どこかで説得の機会を得られるかもしれないと考えた。
謎の襲撃者との遭遇
人里を離れた山道を進んでいると、前方に一人の男が立ちはだかっていた。男は小柄で茶髪、年齢は二十代に見えたが、どこか老けた印象があり、マントの一部には血の跡があった。尚文が話を聞こうとすると、男は突如マントを翻し、魔法の弾を投げつけた。
尚文は即座に「流星盾」で防御を固めたが、弾は途中で膨れ上がり、大爆発を引き起こした。衝撃で馬車の屋根が吹き飛び、尚文たちは戦闘態勢に入った。男はシャムシールを二本抜き、尚文とフィーロの攻撃を受け止めた。さらに、ラフタリアの必殺技「剛刀・霞十字」をも回避し、驚異的な戦闘能力を示した。
強力な魔法と不利な状況
男は詠唱速度が異常に速く、無詠唱に近い魔法を繰り出した。突如として巨大な隕石を召喚し、尚文たちの頭上へ落とそうとした。尚文は複数の盾スキルを駆使して防御したが、その魔法の威力は尋常ではなく、奴隷たちにも危険が及んでいた。
さらに、男は「解除弾・土遁」という魔法を使用し、ラフタリアの援護魔法を打ち消した。これによりラフタリアの動きが鈍り、彼女の能力を低下させる呪いまで解除されるという副次的な効果をもたらした。ラフタリアはそれに気づき、結果的に呪いが解けたことで以前よりも素早く動けるようになった。
マーダーピエロの介入
男がキールを狙い、シャムシールを振り下ろしたその瞬間、大きなハサミが間に入り攻撃を防いだ。そこに立っていたのは、かつてコロシアムで戦ったマーダーピエロであった。彼は糸を操り、敵の動きを封じようとしたが、男は即座に回避した。
その後、尚文が隕石の衝撃に耐えていた間に、マーダーピエロが男に深手を負わせた。ラフタリアとマーダーピエロの連携により、男は追い詰められ、最後の手段として光の爆発を引き起こした。しかし、マーダーピエロはそれを読んでおり、男の胸にハサミを突き立てた。
消えた敵とマーダーピエロの正体
マーダーピエロの一撃によって、男は倒れたかに見えた。しかし、男の身体は淡く光り、蜃気楼のように消えてしまった。尚文は、マーダーピエロが戦いの最中に現れたことに疑念を抱いたが、彼はコロシアムの戦いの際に尚文の鎧に待ち針をつけ、それを利用して駆けつけたと説明した。
マーダーピエロは自らを「セイン=ロック」と名乗り、自身が滅びた世界の眷属器持ちであることをほのめかした。尚文は完全には信用しなかったが、監視しながら共に行動することを決めた。こうして、新たな仲間としてセインが加わることになった。
十四話 正式依頼
セインの裁縫と異世界の脅威
村に戻った後、セインは村の端で裁縫を始めた。彼の眷属器は裁縫道具に関係しているようで、ぬいぐるみのようなものを作っていた。一方、尚文は元康や錬、樹の捜索を進めるべき時期が迫っていることを自覚していた。先日の襲撃者のような敵に彼らが対抗できるとは思えず、特に元康はフィーロを執拗に追っていたにもかかわらず、突然行方不明となり、一週間が経過していた。その間、尚文は村の警戒を強めると同時に、領地で発生している盗賊の活動にも対応しなければならなかった。
リーシアとエクレールの帰還
尚文が考えを巡らせていると、修行から戻ったリーシアとエクレールに出会った。二人はババアの指示で修行を続けていたが、尚文の手伝いをするよう命じられたという。エクレールは変幻無双流の表の技を学び、リーシアは修行を積んだ結果、キョウとの戦いでしか使えなかった技を再現できるようになったらしい。尚文はその成長に驚いたが、ババアの修行がどの程度の効果をもたらすのか、まだ未知数であった。
ラフタリアと修行の必要性
ラフタリアもまたグラスとの稽古を通じて成長を遂げていたが、彼女の眷属器の特性上、変幻無双流の技を完全には習得できないようだった。それでもスキルの強化は可能であり、一定の戦闘力は保証されていた。尚文は彼女の修行を継続する必要性を感じながらも、今は敵の襲撃に備える時期であり、警戒を怠ることができなかった。
盗賊狩りと魔物討伐の準備
尚文は、領地の治安維持と経験値稼ぎのために盗賊狩りと魔物討伐を計画していた。エクレールは本来この任務を担当するべき立場だったが、修行にかまけていたため、尚文が代わりに動くことになった。さらにアトラとフォウルも加わり、戦闘の準備が整った。アトラは盲目でありながら変幻無双流の師範から「すでに資質が開花している」と評されており、その実力が未知数であった。
盗賊の謎めいたボス
尚文は、最近近隣で台頭している盗賊団の首領の存在について説明した。彼は非常に疑り深く、滅多に人前に姿を現さないが、一度標的を定めると確実に仕留める戦術を取っていた。彼の指示のもと、盗賊団は冒険者たちを攪乱し、孤立した者を首領自らが狩るという手法を用いていた。尚文たちは、この首領を捕らえることが目的であった。
魔物討伐と仲間たちの成長
討伐隊が盗賊の出没地域を巡回しながら魔物を狩ると、リーシアがその実力を発揮し始めた。彼女は投げナイフと鞭を組み合わせた技を駆使し、次々と魔物を仕留めていった。変幻無双流の技も習得し、かつての彼女とは比べ物にならないほどの戦闘力を備えていた。エクレールもまた安定した実力を示し、ラフタリアとの間に良きライバル関係が築かれつつあった。
アトラの圧倒的な戦闘力
アトラはフォウルを足場にして魔物に突進し、わずかな動作で巨大なレイザーバックを沈めた。その戦闘スタイルは暗殺術にも似ており、尚文は彼女の実力に驚愕した。彼女の盲目はむしろ戦闘の資質を高める要因となっており、戦闘顧問であるババアも彼女に変幻無双流を教える必要がないと断じていた。
リーシアの覚醒
魔物との戦闘を続ける中で、リーシアが Lv70 に到達した瞬間、全ステータスが急激に上昇した。さらに Lv71 でも通常とは比べ物にならないほど成長が加速し、以前のラフタリアのステータスに匹敵するほどの力を手に入れていた。彼女の才能が Lv71以降に開花する 仕様であったことが判明し、今後のさらなる成長が期待された。
こうして、尚文たちは盗賊狩りと魔物討伐を進める中で、仲間たちの著しい成長を確認することができた。
十五話 仮面の男
盗賊討伐の開始
尚文は魔物討伐を終えた後、本格的に盗賊を捜索することにした。奪った宝は領地の復興資金として活用する方針であり、エクレールはそれに対して複雑な表情を浮かべた。尚文は、盗賊の持ち物が正当な持ち主に返せる保証がない以上、復興のために利用するのが最も合理的だと考えていた。エクレールはその姿勢に疑問を抱きながらも、最終的には納得するしかなかった。
盗賊捜索のための班分け
尚文は盗賊のアジトを見つけるため、仲間たちを二人一組に分けて捜索を開始させた。フォウルとアトラ、ラフタリアとエクレール、フィーロとリーシアがそれぞれ行動し、尚文はラフちゃんを連れて単独で動くことにした。この配置には戦力の分散と、尚文が一人でいるように見せかけることで敵をおびき寄せる意図があった。ラフちゃんはラフタリアに緊急信号を送ることができるため、危険な状況でも対応が可能だった。
謎の襲撃者との遭遇
尚文が山道を進んでいると、突然黒い影が現れ、彼を急襲した。攻撃の威力は高く、尚文以外が受けたら致命傷になっていた可能性があった。咄嗟に盾で防御しながら相手を確認すると、それは黒い仮面をつけた男であり、剣の構えや体格から天木錬であることがわかった。錬は明らかに以前とは異なり、装備は貧相になり、目付きも虚ろだった。彼は「正々堂々」と言いながらも、背後からの奇襲や潜伏スキルを駆使しており、尚文はその変貌に驚愕した。
錬との戦闘
錬は禍々しい剣を振るい、様々なスキルを駆使して尚文を攻撃した。尚文は「ヘイトリアクション」を発動させ、潜伏していた錬の位置を暴きつつ反撃を試みた。錬は次々とスキルを繰り出し、尚文を縛り上げる「ギロチン」を発動したが、尚文は力技で鎖を引きちぎり、辛うじて防御した。しかし、錬の攻撃は尚文の防御を貫くほどではなく、決定打に欠けていた。やがてラフタリアが駆けつけて攻撃を仕掛けるも、錬は転移スキルを使用してその場から逃走した。
盗賊の首領の正体
尚文たちは盗賊のアジトを発見し、捕らえた盗賊たちから情報を引き出した。その結果、最近台頭した盗賊の首領こそが錬である可能性が高いと判明した。彼は仲間を作らず、孤独に動いていたが、盗賊たちを巧妙に利用し、一人ずつ冒険者を狩る戦法をとっていた。さらに、錬は捕まえた盗賊を自ら救い出しており、自作自演のような行動を取っていたことも明らかになった。
錬のカースシリーズの特性
尚文は、錬の使う剣がカースシリーズのものであると推測し、その属性について考察した。彼の行動やスキルから、暴食、強欲、傲慢、虚飾といった罪の可能性が挙げられた。特に、錬は強さへの執着が強く、オンラインゲームにおける「仮初の強さ」に固執する傾向があったため、「虚飾」の可能性が高いと考えられた。
セインの協力要請
尚文は錬を確実に捕らえるため、スキル封じができるセインを呼び出した。彼は尚文を監視しているため、迅速に現れた。尚文は彼に錬の捕獲を依頼し、セインもそれを了承した。しかし、セインが捜索を開始しようとした矢先、驚くべき光景が目の前に現れた。
死んだはずの男の再登場
セインが以前に仕留めたはずの男が、平然と仲間を引き連れて姿を現した。その不可解な状況に、尚文とセインは驚愕した。彼は本当に死んでいたはずであり、それがどのようにして蘇ったのか、尚文たちは新たな謎に直面することとなった。
十六話 異世界侵略のメリット
謎の敵との遭遇
尚文たちは見知らぬ二人組の敵と遭遇した。小柄な男は尚文に復讐を誓い、長身の男は鎖鎌を手にしていた。彼らは四聖勇者を狩る目的でこの場に現れたようだった。アトラは敵の実力を察知し、フォウルとともに距離を取るよう促した。尚文たちは戦闘態勢を整え、敵と対峙することとなった。
敵の目的と戦闘の開始
尚文は敵の目的を探ろうとしたが、対話は成り立たなかった。敵は他世界の四聖勇者を殺すことで自身の世界を延命し、さらには経験値と技能を得られると語った。その言葉から、彼らは世界を滅ぼすことで力を増していることが判明した。これにより、交渉の余地は完全になくなり、戦闘は避けられないものとなった。セインが先制攻撃を仕掛けたが、敵は鎖鎌を駆使して応戦し、セインの武器を絡め取った。
異世界の戦闘システム
敵は自身の世界を「最強の世界」と称し、他世界を滅ぼすことで大きな恩恵を受けると確信していた。彼らは四聖勇者でも眷属器持ちでもなかったが、特殊な能力を持ち、それによって他世界を破壊していた。尚文は彼らがまるでゲームのようなシステムのもとで戦っていると推測し、その恐ろしさを実感した。彼らは死んでも復活できるため、いくら倒しても無意味である可能性が高かった。
戦闘の激化
戦闘が本格化すると、小柄な男が爆裂魔法を発動し、尚文たちを吹き飛ばした。フィーロとリーシアは大柄な男と戦い、尚文はフィーロに援護魔法をかけた。ラフちゃんの幻覚魔法によってフィーロは分身するように見えたが、大柄な男は防御壁を展開し、攻撃を吸収した。敵は「アブソリュートシールド」という能力を持ち、あらゆる攻撃を吸収していた。
尚文の迎撃と敵の撤退
小柄な男が回転攻撃で突撃したが、尚文は盾のカウンター効果で魔弾を放ち、攻撃を防いだ。ラフタリアとエクレールが反撃を仕掛けたが、小柄な男は体を陽炎のように揺らし、ダメージを最小限に抑えた。フィーロの蹴りとリーシアの投擲が大柄な男に直撃したが、敵は余裕の表情を崩さなかった。彼らは強さを誇示しながら、転移魔法を使用して撤退した。
敵の脅威と今後の課題
尚文たちは敵の正体と目的を分析し、彼らが異世界を滅ぼすために動いていることを確信した。四聖勇者の保護が急務であり、錬を確保する必要があると結論づけた。アトラとフォウルも自身の弱さを痛感し、さらに強くなることを誓った。エクレールも決意を新たにし、尚文と共に戦う覚悟を固めた。しかし、尚文が錬の確保に向けて指示を出そうとした瞬間、新たな異変が発生した。
十七話 テンプテーション
謎の異変と戦場の混乱
尚文たちは突如として謎の衝撃を受けた。フィーロやフォウル、アトラをはじめとする仲間たちが異常な反応を示し、特にフィーロは血走った目で尚文を見つめていた。しかし、ラフちゃんが彼女の頬を打つことで正気を取り戻した。異常な雰囲気の中、セインがある方向を指差し、そこでは土煙が上がっていた。尚文たちは事態を確認するため、その場へ急行することにした。
元康と錬の戦闘
到着すると、そこでは元康が錬と鍔迫り合いを繰り広げていた。元康は尚文の意向を察し、錬を誘き出し逃げられないようにしたと誇らしげに語っていた。錬は転移スキルを発動しようとしたが、何らかの力によって妨害され、逃走に失敗した。どうやら元康の槍の力が影響しているようだった。その槍は黒いモザイクがかかったように見え、尚文はそれが魅了状態を引き起こすフィールド効果を持つものだと推測した。
元康のスキルの影響
尚文は一瞬、元康が極端に美形に見えるという異様な感覚に襲われたが、頭を振って正気を保った。ラフタリアやエクレールはほぼ影響を受けていなかったが、リーシアは若干揺れている様子だった。フィーロはラフちゃんのおかげで影響を受けず、セインも平常通りだった。尚文は、この機会に錬を確保することを決めたが、その直後、フィーロは元康を見てじりじりと後退し、逃走を試みた。
錬の挑発と戦闘の開始
錬は尚文たちを見下し、単独で戦う自分の方が優れているという態度を崩さなかった。しかし、尚文はそれを一蹴し、仲間の協力によって察知したおかげで錬の不意打ちを防げたと指摘した。錬は尚文の言葉を受け入れず、一方的に戦いを挑んだ。最初の標的は尚文ではなく、最も弱そうなリーシアだった。
リーシアの成長と回避
錬の奇襲を受けたリーシアだったが、咄嗟に回避行動を取り、ロープ付き投げナイフを木に投げつけて距離を取ると同時に、錬へ鉄の串を投げつけた。その素早い動きに尚文は驚き、ラフタリアも彼女の成長を認めた。錬の剣は彼女に届かず、狙いを外したことで苛立ちを募らせていた。
錬の異常な言動と強欲の発露
錬は自らを最強の勇者と称し、更なる強さを求めることを宣言した。彼の言動は支離滅裂であり、明らかに呪いの武器に侵されているようだった。尚文は彼が「強欲」のカースシリーズに取り込まれていると推測した。しかし、その強欲は本来の意味とは異なり、「ただ強くなること」が目的化してしまった未熟な欲望であった。尚文は過去の自分を振り返りながら、その歪んだ強欲の在り方を見抜いた。
カースシリーズの発動条件の考察
尚文はこれまでの経験から、カースシリーズは勇者が精神的に追い詰められた時に発動する可能性が高いと推測した。自殺すら許されない勇者たちにとって、カースシリーズはある種の「防衛本能」として機能しているのではないかと考えた。錬の現在の状態を見て、彼が何かしらの絶望を経験し、強欲のカースに取り込まれたと推察した。
錬の暴走と尚文の怒り
尚文は錬の最強論に呆れ果て、彼が現実を見ていないことに怒りを覚えた。盗賊の親玉をしている者が世界を救うなどと口にするのは滑稽でしかない。尚文はその矛盾を突き、錬を激しく非難したが、錬はますます暴走し、さらなる力を求めて新たな技を発動しようとした。
錬の最終技と尚文の迎撃
錬は「ゴールドリベリオン」という技を発動し、金銀財宝を集めて巨大な像を形成し、それを尚文たちへと落下させた。尚文は迎撃を決意し、ラフタリアに協力を仰いだ。彼は全身でその攻撃を受け止め、ラフタリアが「瞬刀・霞一文字」で像を切り裂くことで対応した。尚文はその衝撃に耐えつつ、仲間たちの連携によって危機を乗り越えた。
エクレールの決断
尚文は錬を捕らえるため、セインにスキル封じを指示し、仲間たちに昏倒させる準備をさせた。しかし、ここでエクレールが異議を唱え、自分が錬と一騎打ちをしたいと申し出た。彼女は以前の戦いで抱いた疑問を晴らし、剣を通じて錬と向き合いたいと考えていた。尚文は彼女の意志を尊重し、援護魔法をかける条件で決闘を許可した。
決闘の開始
尚文の魔法を受けたエクレールは、小剣を構え、錬に対峙した。彼女は剣の勇者である天木錬に再び挑むことを宣言し、かつての決着をつけるべく剣を構えた。戦場には緊張が走り、尚文たちはその戦いの行方を見守ることとなった。
十八話 閃光
決闘の観戦と錬の異変
尚文たちはエクレールと錬の戦いを観戦していた。錬の動きは鈍く、エクレールに押されていたが、突如として彼の剣が禍々しい大剣へと変貌し、黒いオーラが噴出した。錬の言動も不自然になり、暴食のスキルが覚醒した可能性が浮上した。彼は成長を続け、敵を倒して経験値を喰らうことを宣言し、力任せに大剣を振るい始めた。
錬とエクレールの技術差
錬の攻撃は速かったが、単調で工夫がなかった。エクレールはその動きを難なく見切り、紙一重で回避し続けた。錬は焦り、次第に動きが荒くなっていった。尚文はリーシアに戦況を尋ねると、彼女も錬の攻撃の単調さを指摘した。技術の差は明白であり、錬の戦い方は幼稚なものだった。エクレールは錬の攻撃をいなし、反撃の機会をうかがった。
決定打の欠如
錬は自動回復の能力を持つ剣を使い、エクレールの攻撃を無効化しようとした。しかし、エクレールは変幻無双流の技を駆使し、攻撃を的確に回避した。錬は新たなスキルを発動し、地割れを起こしてエクレールを仕留めようとしたが、彼女は冷静に対処し、致命傷を避けた。尚文はこの戦闘を観察しながら、錬の力の本質を見極めようとしていた。
錬の目的と本心の露呈
エクレールは戦闘の最中、錬の目的を問いただした。錬は最強になることだけを追い求めていたが、エクレールはそれが本当の願いではないと指摘した。彼は過去の失敗で失った仲間や信頼を取り戻したいだけなのだと断言し、錬の戦いが空虚なものであることを暴いた。錬は動揺し、怒りに任せて剣を振るったが、エクレールはそれをすべて回避し、最後に強力な剣技を叩き込んだ。
錬の敗北と敵の再来
エクレールの攻撃を受けた錬は戦闘不能となり、昏倒した。彼の剣も元の形に戻り、禍々しさは消えた。戦闘が終わった矢先、先ほど逃げた二人組の敵が再び現れ、尚文たちを襲撃した。エクレールとリーシアは応戦しようとしたが、敵の戦力は依然として脅威であり、錬と元康を守るのが困難な状況だった。
元康の覚醒と圧倒的な勝利
しかし、戦況は突如として逆転した。元康が槍を振るい、敵の障壁を貫通させ、大柄な男を一撃で仕留めた。さらに、小柄な男の首を斬り落とし、二人を瞬く間に倒してしまった。尚文たちは元康の異様な強さに驚愕した。元康は四聖勇者の強化方法を完全に実践し、カース武器をも強化していたことで、異常な戦闘力を獲得していた。
敵の魂の消滅
元康が去った後、尚文は敵の魂がまだ残っていることに気づいた。ラフタリアの霊刀を使い、敵の魂を切り裂くと、二人の魂は霧散し、完全に消滅した。死に戻りを阻止できた可能性が高く、尚文たちは一つの勝利を確信した。しかし、敵の仲間がまだいる可能性もあり、警戒を怠ることはできなかった。
次なる課題と村への帰還
戦いを終えた尚文たちは、フィーロが戻るのを待ち、村へと帰還することにした。フィーロは元康を追いかけたが、結局逃げられてしまった。尚文は改めて元康の異変に危機感を抱きつつ、まずは錬の保護を優先することにした。戦いは終わったが、彼らの前には新たな問題が山積していた。
エピローグ 剣の勇者との和解
錬の目覚めと懺悔
意識を失っていた錬は尚文の村で目を覚ました。彼は自分が尚文の領地を荒らしていたことを知り、申し訳なさそうな表情を浮かべた。エクレールの説教が効いたのか、錬は素直に自らの過ちを認め、尚文の話を受け入れた。尚文はまず、ヴィッチの居場所を尋ねたが、錬は何も知らなかった。彼は盗賊になったのは自らの意思であり、ヴィッチの指示ではないと説明した。
ヴィッチの裏切り
錬はヴィッチとの逃亡後、とある町で剣の指南を求める男と出会った。ヴィッチはその男と何かを話し合っていたが、錬は深く考えずに彼女を信じた。そして、ヴィッチに連れられて宿に泊まり、彼女たちと旅を続ける決意を固めた。しかし、翌朝、錬は全財産と装備を奪われていた。残されていたのはヴィッチの置き手紙のみであり、そこには「もう利用価値がない」と書かれていた。錬はその瞬間、絶望し、カースシリーズの力に取り込まれていった。
転落の始まり
錬は裏切られたショックで視界が暗くなり、カースシリーズに囚われた。以降、金を求めて盗みを働き、身元を隠すために仮面をつけて盗賊団を結成した。奪われるくらいなら奪うという思考に染まり、転落の一途をたどった。尚文は錬を許すかどうかは別として、まずは保護することが目的であり、もう二度と同じ道を歩まないならば見逃すと告げた。錬はその言葉を受け入れ、尚文の指導に従い強くなることを誓った。
ヴィッチへの怒りと共感
錬はヴィッチへの怒りを露わにし、彼女を捕まえられなかったことを悔やんでいた。尚文もまた、ヴィッチに騙されたことがあるため、彼の気持ちに共感した。エクレールもまたヴィッチを良く思っておらず、彼女の行方を追う必要があると判断した。さらに、ヴィッチには協力者がいた可能性が高く、その男が誰なのかを突き止めることが今後の課題となった。
四聖の強化と錬の決意
尚文は、錬が正しい強化方法を学び、四聖としての力を取り戻す必要があると考えた。錬はエクレールと向き合い、自分の過ちを認め、今後間違った道を歩まないように彼女に助けを求めた。エクレールはそれを了承し、錬の指導を引き受けた。こうして、錬とエクレールは協力関係を築き、共に戦うことを決意した。
今後の課題と修行の必要性
錬の意識が変わったことで、尚文は戦力の増強に向けた計画を進めることを決めた。敵勢力は依然として四聖勇者の命を狙っており、今後も警戒を怠ることはできない。さらに、リーシアやエクレールの急成長を踏まえ、尚文たちは本格的な修行を行うことにした。これからの戦いに備え、技術と戦力の向上が不可欠であると判断したのである。
尚文とラフタリアは、村の復興を進めながら、次なる戦いに備えて行動を開始した。
同シリーズ
盾の勇者の成り上がり
小説版















漫画版


























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