小説「ふつつかな悪女ではございますが  3」感想・ネタバレ

小説「ふつつかな悪女ではございますが  3」感想・ネタバレ

どんな本?

本作は、ファンタジーとロマンティックドラマの要素を持つライトノベルシリーズの第3巻である。物語は、次代の妃を育成するために五つの名家から姫君を集めた宮廷「雛宮」を舞台に、蝶のように美しいが虚弱な雛女・黄 玲琳と、そばかすだらけの鼠姫と呼ばれる嫌われ者の雛女・朱 慧月が、ひょんなことから身体を入れ替えられてしまうところから始まる。第3巻では、豊穣祭の開催地が慧月の領地である南領に決定し、玲琳たちは初めての外遊に心を躍らせるが、再び身体が入れ替わるなどの波乱が待ち受ける。

主要キャラクター
• 黄 玲琳:次期皇后と呼び声も高い、美しくも虚弱な雛女。身体が入れ替わった後も持ち前の鋼メンタルで逆境を乗り越える。
• 朱 慧月:そばかすだらけの鼠姫と呼ばれる嫌われ者の雛女。玲琳との入れ替わりを経て、自身の在り方を見つめ直す。
• 尭明:玲琳の兄で、彼女を溺愛するあまり過保護な一面を持つ。

物語の特徴

本作の魅力は、身体が入れ替わるという斬新な設定と、それによって生じるキャラクター間の葛藤や成長である。特に、虚弱ながらも前向きな玲琳と、嫌われ者として生きてきた慧月の対照的な二人が互いの立場を経験することで、人間関係や自己認識に変化が生まれる点が興味深い。また、宮廷内外で巻き起こる陰謀や試練を通じて、登場人物たちの絆や信念が描かれている。

出版情報
• 出版社:一迅社
• 発売日:2021年11月2日
• レーベル:一迅社ノベルス
• ISBN:9784758094122
• 関連メディア展開:コミカライズ版が『月刊コミックZERO-SUM』にて連載中。

読んだ本のタイトル

ふつつかな悪女ではございますが   3 ~雛宮蝶鼠とりかえ伝 ~
著者:中村颯希 氏
イラスト:ゆき哉  氏

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あらすじ・内容

「豊穣祭の開催地は、南領だ」
雛女になってはじめての外遊先に選ばれたのは、雛宮一の嫌われ者、慧月の領地だった!
後見の妃もいない中で、準備に追われる慧月。
玲琳はそれを全力でサポートしながらも、はじめての外遊に心を躍らせていた。
しかし……。何者かから儀式を妨害された慧月は、焦りのあまり力が暴走!
またしても玲琳と慧月の身体が入れ替わってしまった!
そんな混乱の最中に、慧月を攫おうと企む邑の民まで現れ、なぜか玲琳は兄とともに自ら捕虜となるのだが……!?
身動きの取れない尭明、独自に追いかける辰宇、そして過保護な玲琳の兄たちが大暴走する第三巻!

ふつつかな悪女ではございますが3 ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~

主な出来事

陰鬱な空と村の絶望
冷害による不作と重税に苦しむ村人たちが、絶望に沈む中、亡き頭領の弟である豪龍が雛女・朱慧月を攫い罰することで天の怒りを鎮めると提案した。村人たちは動揺しつつも、実行する決断ができずにいた。

雲嵐の挑発と計画の始動
邑の後継者である雲嵐が、慧月を捕らえる計画を引き受けると宣言した。彼は男たちの憎悪を煽り、貴族に対する怒りを暴力へと導いた。そして、捕えた後の行動についても示唆しながら、村人たちを引き込んでいった。

玲琳の休日と将棋対局
雛宮の休日に玲琳と慧月が将棋を楽しんでいた。慧月は真剣に勝負を挑んだが、玲琳の会話に気を取られ、集中できずにいた。他の女官たちも加わり、場は賑やかだったが、慧月にとっては試練の時間であった。

朱慧月の孤立と玲琳の支援
朱家の雛女としての立場が揺らぐ中、慧月は玲琳に学ぶことを決意した。しかし、他の雛女たちとの関係は冷え切っており、頼れる相手は玲琳しかいなかった。玲琳は慧月の決意を喜びつつも、複雑な感情を抱いていた。

豊穣祭の開催地決定
皇太子・尭明が雛宮を訪れ、豊穣祭の開催地が南領に決まったことを告げた。慧月は主催家の雛女として責務を負うこととなり、困難な状況の中で祭を成功させねばならなかった。

南領への道中と黄家の兄弟
玲琳の兄である黄景行と黄景彰が護衛として同行していた。彼らは玲琳を溺愛し、過保護な態度を見せていた。一方、慧月は過去に彼らを欺いたことが発覚することを恐れていた。

温蘇郷の不穏な空気
目的地に到着すると、郷長・江氏が迎えた。しかし、村の民たちは警戒し、慧月に対して敵意を隠そうとしなかった。彼女は不吉な予感を抱きながら、郷へ足を踏み入れた。

前夜祭の宴と異変
前夜祭が盛大に開かれ、各家の雛女たちは厳かな態度を取っていたが、黄家の席だけは賑やかであった。そんな中、奉納品の二胡が紛失し、郷の女たちが責められる事態となった。

慧月の激昂と衣装の汚損
慧月が部屋へ戻ると、奉納の衣装が泥を浴びせられ、破損していた。さらに、現場には黄家の組綬が落ちていた。慧月は怒りを爆発させ、玲琳と対立した。

突然の入れ替わり
感情の高ぶりと共に不可解な術が発動し、玲琳と慧月の魂が入れ替わった。玲琳は慧月の役割を果たさねばならなくなり、彼女の置かれた状況に強い憤りを覚えた。

皇太子の違和感と黄家の策略
皇太子・尭明は南領の民の態度に違和感を抱き、郷の祭壇の異様な規模を疑った。一方、黄家の兄弟は玲琳を守るため、敵対勢力を牽制しようと動いていた。

朱慧月の誘拐計画
雲嵐と豪龍は慧月を攫うため、舞台の梁から計画を見守っていた。彼らは舞台に火を放ち、混乱に乗じて慧月を捕らえようとしていた。

慧月の舞と圧倒的な存在感
舞台に現れた慧月(玲琳)は堂々とした態度で、神秘的な舞を披露した。炎を操るかのような姿に、観衆は圧倒され、これまでの評価を覆した。

拉致計画の失敗と玲琳の逃走
混乱の中、黄家の兄弟が玲琳を賊に攫わせることで、尭明の追及を逃れようとした。玲琳は計画に乗り、賊と共に姿を消した。

捕虜となった慧月の農作業
慧月は賎民たちに捕らえられたが、予想外にも稲作の改善を提案し、彼らの信頼を得ていった。景行も農作業に加わり、邑人たちは次第に彼らを受け入れるようになった。

雲嵐の葛藤と郷長の陰謀
雲嵐は邑を守りたい一心で郷長と交渉したが、彼は利用されていた。郷長は病を口実に邑を焼き払おうと画策していた。

病の蔓延と玲琳の決意
邑では急速に病が広がり、玲琳は看病を決意した。彼女は衛生管理を徹底し、治療に奔走した。

郷の策略と邑への攻撃
郷長は賎民を扇動し、邑の焼き討ちを計画していた。林熙という男が背後で糸を引いていたことが明らかになった。

雲嵐の負傷と警告
雲嵐は郷長との交渉で裏切られ、命を狙われた。負傷しながらも邑に戻り、「逃げろ」と警告した。

慧月の焦燥と尭明の命令
慧月は炎術を通じて病の報を受けたが、尭明は救助を命じず、茶会を開くよう指示した。彼は情報戦によって慧月の立場を守ろうとした。

景彰の励ましと慧月の決意
景彰は慧月に「逃げていない」と伝え、彼女の内にある強さを認めた。慧月は茶会を成功させることを決意した。

芳春の疑惑の発言
茶会の準備中、芳春が慧月について「礼武官に欲を抱いている」と発言した。慧月はそのような話をした覚えがなく、誰かが意図的に自分を陥れようとしていると気付いた。

陰謀の影と慧月の疑念
芳春の発言をきっかけに、慧月は自分に向けられた陰謀の存在を確信した。黒幕が誰なのかを探るため、慎重に動くことを決意した。

感想

本作は、策略と行動が絡み合う緻密な展開が特徴である。玲琳と慧月の関係がさらに深まり、それぞれの個性が際立つ場面が多かった。
黄家の兄たちの存在感も圧倒的であり、彼らの破天荒な行動が物語に新たな活力を加えていた。
一方、陰謀が錯綜する場面では、登場人物の心理描写が巧みに描かれていた。

特に、玲琳と慧月の入れ替わりが生む緊張感と、慧月の成長が印象的であった。
舞台での慧月(玲琳)の舞は、圧倒的な迫力を持ち、彼女の存在が認められる重要な場面であった。

また、物語後半では陰謀がさらに絡み合い、郷の策略や邑の危機が浮かび上がった。
慧月は自身の成長とともに、周囲の思惑に気付き始め、次巻では彼女がどのように動くのかが気になる展開となっている。
玲琳(慧月の魂)は誘拐され、黄家の兄とともに未知の領域へ向かうことになった。
彼女がどのように脱出し、敵の計画を阻止するのか、続きが楽しみである。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

プロローグ

陰鬱な空と絶望する村人たち

厚い雲が垂れ込める空の下、山の麓に点在する粗末な小屋では、疲れ果てた男たちが車座になり、深い溜息を落としていた。彼らは皆、痩せ細り、衣服には無数の継ぎが当てられ、その姿からも貧しさが滲み出ていた。冷害による不作に加え、重税に苦しむ彼らの生活は限界に達しており、話し合いの場は沈鬱な空気に包まれていた。

頭領代理・豪龍の提案

集まりの中で最も大柄な男、豪龍が声を荒らげ、男たちを叱咤した。彼はこの邑の亡き頭領の弟であり、現在は甥と共に邑をまとめる立場にあった。彼の提案は、雛女・朱慧月を攫い、罰を与えることであった。天朝を穢した彼女の存在こそが禍を招いた原因であり、彼女を処罰すれば天の怒りが鎮まり、冷害も収まると信じていたのである。

村人たちの動揺と迷い

男たちは豪龍の言葉に動揺しつつも、決断できずにいた。彼らの苦境を思えば、郷長の提案は魅力的だった。実行すれば税が半減され、生活は多少なりとも楽になる。しかし、貴族の娘を攫い、いたぶるという行為には抵抗があった。誰がその汚れ役を引き受けるのかという問いに、誰も答えられなかった。

雲嵐の冷笑と挑発

豪龍は、邑の頭領が後継として指名した若者、雲嵐に話を振った。彼は邑のはぐれ者のような存在で、軽薄な態度と冷笑を浮かべながら、男たちを挑発した。雲嵐は、郷長の命令を証明する文書を得ることを提案し、もしも計画が失敗した際の保険を求めた。さらに彼は、朱慧月を捕らえることを引き受けると宣言し、男たちを煽った。

積もる憎悪と歪んだ正義

雲嵐は言葉巧みに男たちの感情を刺激した。自分たちは貴族の贅沢のために苦しめられ、朱慧月が王都で優雅に暮らしている間に、多くの者が飢えと病で命を落としたのだと指摘した。貴族に対する憎悪は、まるで燻る火種に油を注がれたように広がり、やがて男たちの表情にも怒りが滲んでいった。

暴力への誘導と決意

雲嵐は、朱慧月を罰することこそが当然であり、天罰など恐れる必要はないと断言した。彼は嘲笑を浮かべながら、女など皆同じだと吐き捨て、捕らえた後の具体的な暴力を示唆した。男たちは当初の躊躇を捨て、やがて雲嵐の言葉に引き込まれていった。

雲嵐の暗い笑み

最後に、雲嵐は朱慧月に「民の気持ちをわからせる」と低く笑った。彼の赤茶の瞳は鋭く光り、南領の貧しき者たちの鬱屈した怒りが、一つの標的に向かって収束していくのが感じられた。こうして、絶望と怒りに駆られた男たちは、暴力という道を選び取ろうとしていた。

1.玲琳、はしゃぐ

雛宮の休日と将棋対局

玲琳と慧月は、雛宮の休日を利用し、四阿で将棋を楽しんでいた。玲琳は慧月に指導しつつも、質問を重ね、将棋よりも会話を楽しんでいるようであった。一方の慧月は、真剣に勝負へ没頭しており、集中を妨げられることに苛立ちを覚えていた。女官たちも加わり、やり取りは賑やかであったが、慧月にとっては試練のような時間となっていた。

朱慧月の孤立と玲琳の支援

朱家の雛女としての立場が揺らぐ慧月は、自身の資質を磨くため、玲琳に学ぶことを決意していた。しかし、過去の行いが影響し、他の雛女たちとの関係は冷え切っており、頼る相手は玲琳しかいなかった。玲琳は、その状況を喜びつつも、慧月にとっては苦渋の選択であることを理解し、複雑な思いを抱いていた。

入れ替わりの影響と慧月の焦り

玲琳との入れ替わりを経験した慧月は、その出来事が皇太子・尭明との関係にも影響を及ぼしていることを強く意識していた。慧月は、自身が賢妃の地位に固定されることを恐れ、雛宮内の序列が確定することを危惧していた。玲琳は慧月の焦りを理解しつつも、努力次第で未来を変えられると考え、励ましの言葉を掛けた。

豊穣祭の開催地決定

皇太子・尭明が雛宮を訪れ、豊穣祭の開催地が南領に決まったことを告げた。これにより、慧月は主催家の雛女として、大きな責務を負うこととなった。朱家の支援もなく、女官たちも離反している状況での主催は困難を極めると予想されたが、玲琳は前向きに支えようとした。

道中の不安と黄家の兄弟

南領へ向かう道中、玲琳の兄である黄景行と黄景彰が礼武官として同行していた。二人は玲琳に対する過剰な愛情を示し、過保護とも言える態度を見せていた。しかし、慧月にとっては、それ以上に重要な問題があった。彼らはすでに乞巧節の事件を知っており、慧月に対して警戒心を抱いている様子であった。その事実を知った慧月は、かつて自身が玲琳の筆跡を真似て、彼らに嘘の情報を送ったことを悔やんでいた。

南領・温蘇郷の異変

目的地である温蘇郷に到着すると、郷長・江氏が礼儀正しく出迎えた。しかし、村の民たちの態度はどこか不自然であり、慧月が笑顔を向けるも、彼らの表情には警戒と敵意が滲んでいた。歓迎されるはずの主催家の雛女としての立場が揺らぐ中、慧月は不吉な予感を覚え、胸中に不安を抱えながら郷へと足を踏み入れた。

2.玲琳、憤る

前夜祭の豪華な宴

前夜祭は盛大に催され、紅花で炊いたおこわ、山菜の炒め物、香菜の天ぷら、豚や鳥の炙りまでが並び、篝火の灯りに照らされていた。南領の風習に触れた雛女たちは驚きと興味を抱きながら食事を進めた。祭壇を兼ねた舞台の前で食事を取ることは、神への感謝と祈りを込めた儀式であり、彼女たちは慎重な挙措を心がけていた。背後では郷の女たちが祈りを捧げ、場には厳かな空気が漂っていた。

宴席での家族の温度差

各家の雛女たちは神妙な態度を保っていたが、黄家の席だけは賑やかであった。護衛である景行と景彰は、妹の玲琳に世話を焼き、過保護な態度を崩さなかった。その様子を見ていた他家の雛女たちは、黄家の家族愛の濃さに感嘆しながらも、玲琳の状況に同情を寄せていた。玲琳は、兄たちの過剰な愛情を受けながらも、自らの誇りを守ろうとしていた。

奉納の二胡の紛失

宴の最中、舞台近くから朱慧月の怒声が響き、場は一瞬にして緊迫した。奉納の楽器である二胡が紛失しており、その責任を問われた郷の女たちはひれ伏していた。慧月は動揺し、声を荒げながら責め立てた。彼女の態度は郷の人々の反感を買い、やがて悪意ある囁きが広がっていった。朱家の雛女である慧月は、すでに郷の人々の間で悪評が立っており、その冷たい視線が彼女をさらに追い詰めた。

破壊された奉納品と疑惑

慧月は舞台を離れ、自室に戻った。玲琳が後を追い、室内に入ると、そこには折られた二胡と泥を浴びせられた衣装があった。奉納の衣装は金家から贈られたものであり、その状態は明らかに意図的なものであった。さらに、現場には黄家の組綬が残されていた。慧月は黄家の仕業だと断じ、玲琳に怒りをぶつけた。玲琳は兄たちの「報復」という言葉を思い出し、不穏な気配を感じながらも、慧月を宥めようとした。

突然の入れ替わり

激昂した慧月が感情を爆発させた瞬間、不可解な術が発動し、玲琳と慧月の魂が入れ替わった。状況を理解した玲琳は、冷静さを装いつつ、敵対的な環境で慧月の役割を演じねばならないことを悟った。慧月の怒りと悲しみを目の当たりにし、彼女に向けられた悪意に対して強い憤りを覚えた玲琳は、ついに決意を固めた。

皇太子の違和感

一方、皇太子・尭明は祭食の席で、南領の民の態度に違和感を覚えていた。彼に対しては恭しい態度を取るものの、朱慧月には敵意を向けていることが明らかだった。また、郷の規模に対して異様に立派な祭壇や建造物が気にかかり、何か意図的な力が働いているのではないかと疑念を抱いた。さらに、小姓からの報告を受け、慧月の異変を知り、玲琳に釘を刺すために動き出すことを決めた。

決意する玲琳

玲琳は入れ替わりを「不可抗力」と受け止めながらも、慧月に向けられた敵意と不当な扱いに対し、行動を起こすことを決意した。荒らされた室内と組綬を見つめながら、静かに怒りを燃やす。「やっておしまい」という心の声に導かれるかのように、玲琳は新たな行動を起こそうとしていた。

3.玲琳、やり返す

朱慧月の非難と賎民たちの計画

朱慧月が郷の女を非難し去った後、雲嵐と豪龍の二人は舞台の梁の上からその様子を見下ろしていた。二人は黒布で顔を隠し、賎民として扱われる立場を嘆きつつ、郷民の不条理を語り合った。賎民は郷の痩せた土地に追いやられ、過酷な環境の中で生きることを強いられていた。彼らは郷長から密命を受けており、この前夜祭の場で朱慧月を誘拐する計画を立てていた。豪華な衣装を纏う朱慧月を見て、彼らは憎悪を募らせ、「天罰を与えることで自分たちが救われる」と語る。

舞台への準備と策略

雲嵐と豪龍は朱慧月を攫う計画を立て、舞台上で火を放つ準備を進めていた。雲嵐は郷の女たちを通じて知られざる逃走経路を把握し、郷長とも連携を取って警備を緩めるように仕向けていた。豪龍はこの計画に不安を抱きながらも、雲嵐の冷静な態度に感心しつつ準備を進める。二人は朱慧月が舞台に現れるのを待ち、その一挙手一投足を注視していた。

朱慧月の変化と舞台での異変

朱慧月が舞台に戻ると、以前とは打って変わった堂々とした態度を見せた。彼女の衣は泥にまみれ、奉納には不適切な姿だったが、篝火の明かりを減らし、神秘的な雰囲気を演出するよう指示する。舞台上で彼女が何をしようとしているのか、観客は固唾を呑んで見守った。

圧巻の舞と予想外の展開

朱慧月は舞の代わりに歌を歌い始め、その伸びやかな声で観客を魅了した。泥にまみれた衣装を脱ぎ捨てると、新芽のような緑の衣が姿を現し、舞は一転して激しさを増した。彼女は篝火の炎を手に取り、それを天へと掲げながら舞い、まるで太陽を操るかのような姿を見せた。その圧倒的な表現力に、観衆は魅了され、これまでの朱慧月の印象を覆すような芸に圧倒された。

黄玲琳の影響と皇太子の警告

この舞を見ていた黄玲琳は、舞台上の朱慧月に大きな影響を与えていたことを悟る。一方、皇太子・尭明は玲琳を呼び出し、外遊中の入れ替わりを禁じると告げる。彼はもし玲琳が禁を破るならば、即座に后にすると宣言し、さらに慧月にも罰を与えると警告する。玲琳はこれを聞き、身を隠す必要性を強く意識した。

火の混乱と拉致計画の始動

その頃、舞台の梁に潜んでいた雲嵐と豪龍は、計画を実行に移すべく、油を撒き火を放った。舞台周辺は混乱に陥り、その混乱に乗じて朱慧月を拉致しようとする。しかし、黄家の兄弟たちはこの事態を逆手に取り、玲琳を賊に攫わせることで、尭明の追及を逃れようとする。景行と景彰は玲琳を守るふりをしつつ、賊の計画に便乗し、彼女を無事に逃がそうと画策する。

計画の実行と玲琳の決断

玲琳は兄たちの計略を理解し、賊に攫われるふりをしてその場を去ることを決意する。景行と景彰は、賊たちに自ら絡むことで、玲琳を守るように動いた。そして、混乱の中で尭明たちの追跡を振り切り、彼女は賊とともに舞台を後にするのだった。

4.玲琳、新天地を拓く

人質となった慧月と隠蔽の計画

郷長の家で、景彰は冬雪と莉莉に対し、入れ替わりの事実を隠すよう厳命した。慧月の行動によって事態は混迷を極め、朱家の女官らはすでに共犯として逃れられない状況にあった。夜も更けた室内で、二人は景彰の指示を受け入れ、隠蔽に協力することを誓った。

一方、皇太子・尭明は舞台の火事により前夜祭を打ち切り、証言を基に朱慧月の捜索隊を編制した。雛女たちは礼武官と共に室に控え、慧月もまた「黄玲琳」として景彰たちと戻っていた。そこで景彰は、慧月に入れ替わりの経緯を白状させた。慧月が炎術を使ったことで玲琳が焦り、賊に攫われるという混乱を招いたのだ。景彰はそれを皮肉交じりに指摘し、慧月は内心で反論を試みたが、状況を覆す術はなかった。

黄家の意図と景彰の疑念

景彰は黄家が入れ替わりを隠蔽する理由を説明した。玲琳が立后すれば、五家の均衡が崩れ、彼女は内乱の危険にさらされる。黄家の者たちはむしろ、彼女が立后を望まないことを理解し、密かに支援していたのだ。慧月はその話を聞きながら、自分を陥れようとする別の勢力の存在に思い至った。黄家が敵でないならば、真に狙われているのは誰なのか。慧月は入れ替わりを隠しつつ、黒幕を突き止める決意を固めた。

景彰は慧月が手紙を偽造していたことも見抜いていた。慧月は玲琳の筆跡を真似たが、黄家の者たちはわずかな違いを見逃さなかった。さらに、尭明もすでに入れ替わりに気づいていた節があった。それにもかかわらず、尭明は慧月を責めることなく、彼女を守るような行動を取っていた。慧月は、彼の真意を測りかねながらも、彼がすでに自分を庇護していたことを理解した。

賎民の朝と朱慧月への敵意

賎民の集落では、雲嵐と豪龍が朝を迎えた。彼らの生活は過酷であり、特に郷からの重税に苦しんでいた。南領に課された罰として税が倍になったことで、賎民たちは生存の危機に瀕していた。郷長の江氏は「朱慧月を苦しめれば禍が和らぐ」と提案し、彼女を攫うことで賎民の税を軽減する取引を持ちかけた。賎民たちはそれを受け入れ、彼女を拉致する計画を実行した。

雲嵐は朱慧月に対して激しい敵意を抱いていた。貴族の娘として何不自由なく生きてきた彼女を、自分たちと同じように苦しませることで、理不尽な世の中の均衡を取り戻そうとしていた。彼らは慧月を辱め、苦しませることで、自らの憎しみを晴らそうとした。

慧月の予想外の対応

しかし、捕らえられた慧月は予想外の行動を見せた。縄抜けをして自由になり、備蓄庫の中で害虫の区画整理を行っていたのだ。賎民たちは驚き、彼女の冷静な態度に困惑した。さらに、慧月は論理的に賎民の動機を分析し、なぜ自分が攫われたのかを的確に指摘した。彼女の洞察力と冷静な思考は、雲嵐を動揺させた。

雲嵐が慧月を辱めようとした矢先、景行が突如として現れ、彼を圧倒した。景行は武術の達人であり、賎民たちは一瞬で制圧された。彼は慧月を守るため、賎民たちに強い威圧をかけた。

稲田での強制労働

しかし、その場の空気は一変する。慧月は突然、稲田を見て感動し、景行と共に熱心に語り始めた。そして、賎民たちの目的が「苦痛を与えること」であるならば、稲田での強制労働が最適であると提案した。景行もそれに同調し、二人は賎民たちに向かって堂々と宣言する。

「稲田での強制労働ということで、ここはひとつ!」

この突飛な展開に、賎民たちは完全に戸惑った。

雲嵐の葛藤と捕虜たちの異常な行動

雲嵐は、辺境では珍しいほど美しい男であり、常に飄々とした態度をとる人物であった。しかし、この日は珍しく地にしゃがみ込み、片手で額を覆いながら疲労の色を滲ませていた。今朝方、捕虜にしたはずの朱慧月たちが「稲田で働きたい」と申し出てきたことが、彼を困惑させていた。彼らは捕虜でありながら、まるで熟練の農夫のように稲の成長を分析し、田畑の改良を進めようとしていたのである。

朱慧月と黄景行は、稲の状態を詳細に見極め、日照不足や病害の危険性について的確に指摘し、邑の農業に改善策を提案していた。さらに、彼らは畑の管理まで申し出、邑全体の農業計画にまで関与しようとした。この異常な状況に、雲嵐と邑の人々はただ唖然とするばかりであった。

捕虜たちの圧倒的な能力

黄景行は、圧倒的な武力を持つ男であり、捕虜としての自覚がまるでなかった。彼は素手で縄を引きちぎり、農具を自在に扱い、邑の男たちを圧倒していた。一方の朱慧月も、ただの捕虜ではなかった。彼女は冷静に稲作の知識を語り、時折、景行と共に異常な速さで雑草をむしったり、農業の改善策を練ったりしていた。

雲嵐たちは、捕虜を制圧するために豪龍率いる十人がかりで囲んだが、景行は鍬を手にしてしまったことで、むしろ戦闘力が向上。邑の男たちは次々と撃退され、計画は失敗に終わった。さらには毒蛇を仕掛けても、彼らはそれを捕らえて「肉が降ってきた」と喜び、薬酒にする相談を始める始末であった。

邑の人々の動揺と雲嵐の迷い

邑の人々は、捕虜であるはずの二人に次第に懐柔されていった。景行の武勇と慧月の知識、そして二人の飄々とした態度により、敵意は次第に薄れていった。雲嵐は、捕虜として扱うどころか、むしろ彼らに邑の管理を任せてしまうような流れに困惑していた。

夜になり、雲嵐は亡き養父・泰龍の墓前に座り、自身の立場と邑の現状について考え込んだ。彼は、邑を守るためには郷の命令に従い、朱慧月をいたぶらねばならないと考えていた。しかし、その計画はことごとく失敗し、捕虜たちの異様な振る舞いに翻弄されていた。

そんな雲嵐の前に、いつの間にか慧月と景行が現れ、彼の計画をすべて聞いていたことを告げる。彼らは邑を救うためなら協力も惜しまないと申し出るが、その提案は真剣でありながらもどこか異様であった。景行は「郷長を倒せば解決する」とまで提案し、慧月もまた「虚偽の報告の方法を指導できる」と申し出た。この異常な捕虜たちに対し、雲嵐はただ困惑するばかりであった。

玲琳の興奮と邑の変化

一方、朱慧月の体を借りた玲琳は、邑での農作業に心躍らせていた。彼女は幼い頃から農業に興味を持ち、今まさにその知識を存分に活かせる環境にいたのだった。邑の人々が当初は敵意を持っていたものの、次第に彼女の知識や行動に信頼を寄せるようになり、捕虜としての扱いが曖昧になっていった。

また、玲琳は雲嵐たちが警戒する「禍森」に興味を抱き、その禁忌の理由を探ろうとしていた。しかし、邑の人々は頑なに森への立ち入りを拒み、その詳細を語ろうとしなかった。玲琳は彼らの態度に不信感を抱くものの、邑の人々の優しさを感じ取り、もっと打ち解けたいと願っていた。

景行と玲琳の会話

景行は玲琳の体調を心配し、彼女が本当にこのまま雛女の立場に居続けることを望んでいるのか問いかけた。玲琳は、自身の病が再発しつつあることを告白しながらも、もう少しだけこの体で過ごしたいと願った。景行はその気持ちを理解し、郷への帰還を遅らせることに協力することを決めた。

その頃、雲嵐たちは捕虜二人をどう処遇すべきか決めかねていた。邑の人々は次第に彼らを受け入れつつあり、当初の「制裁」の目的は完全に崩れつつあった。そして、景行はあることに気付き、警戒を強める。「まさかこの邑を突き止める者など――」と呟いた直後、彼はある一点を見つめ、驚愕の表情を浮かべた。

新たな脅威の到来

景行の視線の先には、何かが潜んでいた。雲嵐と邑の人々が翻弄されるなか、新たな訪問者が迫っていたのである。

監視の退屈と苛立ち

豪龍は監視に飽き、雲嵐に厠へ行きたいと愚痴をこぼしていた。杏婆も疲れ果て、食事すら用意されなかったため、空腹を抱えたまま彼は不満を漏らしていた。一方、朱慧月たちは二日間にわたり、農作業に没頭していた。彼らは悠々と田を耕し、邑人たちと良好な関係を築いていたが、監視役である雲嵐たちはまともに食事を取ることもできず、苛立ちを募らせていた。

働き続ける捕虜たちへの疑念

朱慧月と黄景行は、細やかな農作業を続けていた。雲嵐たちは、彼らが何か裏の意図を持っているのではないかと疑念を抱いていた。都で聞いた噂では、朱慧月は高慢で冷酷な女とされていたが、ここでの彼女はまるで別人のようだった。邑の民とも対等に接し、敬意を払う姿勢を見せていた。この態度の変化に、雲嵐は戸惑いを覚えた。

朱慧月の突然の逃走

雲嵐と豪龍が不審を抱きつつ見守る中、朱慧月が突然立ち上がり、畦道を駆け出した。雲嵐は即座に彼女を追いかけ、逃走を試みた理由を問い詰めた。彼女は「備蓄庫に帰りたい」と口走ったが、雲嵐は信用せず、強引に拘束した。その瞬間、黄景行が現れ、雲嵐を蹴り飛ばして彼女を救い出した。

辰宇の介入と対峙

朱慧月を助けた男は、鷲官長・辰宇だった。彼は雲嵐に剣を突きつけ、雛女を攫い脅した罪を問い詰めた。辰宇は単独で川を渡り、邑に乗り込んできたという。彼は雲嵐を処罰しようとしたが、朱慧月は彼を庇い、「この者たちは賊ではなく、飢えに苦しむ民である」と主張した。その姿勢に辰宇は興味を抱き、事態を静観することに決めた。

辰宇の残留と景行の交渉

景行は、辰宇を邑に留めることを提案した。橋が壊れているため、朱慧月をすぐに帰還させるのは難しいという理屈を持ち出し、さらに、「玲琳の正体が暴かれる危険がある」と囁いた。辰宇はしばらく思案した後、邑に残ることを受け入れた。こうして、邑の捕虜たちに新たな存在が加わることになった。

慧月の焦燥と皇太子の訪問

一方、郷の屋敷では慧月が焦燥感を募らせていた。入れ替わったままの状況に苛立ち、炎術での接触も失敗続きであった。そんな中、皇太子・尭明が訪れ、彼女に他家の雛女たちをもてなすよう依頼した。慧月は動揺しつつも、「朱慧月を信じるべきだ」という尭明の言葉に従い、承諾せざるを得なかった。

雲嵐と郷の密約

その夜、雲嵐は山を越えて郷長の使者・林と接触した。林は朱慧月の制裁の進捗を確認し、「彼女の純潔を汚すことで、雛女の座から引きずり下ろせばよい」と提案した。その冷酷な発言に、雲嵐は内心で強い反発を覚えた。しかし、彼自身も邑の民の憎しみを自らに向けさせないために、朱慧月への憎悪を煽る必要があった。

景行の密かな動き

その頃、黄景行は夜の空を見上げながら、訓練された鳩を手にしていた。彼はその鳩を通じて何者かと連絡を取っており、邑の動向を探り続けていた。彼の狙いが何なのかは、まだ誰にも分からなかった。

5.玲琳、獣に挑む

夜明け前の目覚めと新たな住居

玲琳は鳥のさえずりで目を覚ました。窓から差し込む光はまだ弱々しく、夜明けが近いことを告げていた。昨日、景行と辰宇の介入により、彼女は備蓄庫ではなく雲嵐たちの家で寝泊まりすることになった。家には雲嵐、豪龍、煮炊きを担当する杏婆、そして玲琳たち三人が集まり、六人がひしめく状況であった。周囲を見回し、全員がぐっすりと眠っていることを確認するが、警戒心からか雲嵐は夜中に何度も様子を窺っていたようだ。

邑の厳しい状況と玲琳の決意

この邑の状況は悲惨ではないものの、冷害の影響で稲が育たず、厳しい徴税が迫っていた。人々は「禍森」への恐怖から、狩猟や採集による食料確保を避けている。郷からの庇護も受けられず、飢えと重労働に苦しんでいた。雲嵐が父の墓の前で見せた複雑な表情を思い出しながら、玲琳は「自分にできることはないか」と考え、せめて食糧を確保することで人々の不安を和らげたいと決意する。

監視の目と火打ちの挑戦

辰宇と景行の監視が厳しく、玲琳は一人になる機会を得られなかった。辰宇は長剣を、景行は鍬を抱えており、一歩でも間合いに踏み込めば即座に目を覚ましそうな雰囲気であった。しかし、今ならばと判断し、静かに家を抜け出す。火を熾して慧月に報告を試みるが、火打ち金の質が悪く、なかなか火がつかない。難易度の高さに好奇心を抱いていたが、その様子を辰宇に見つかり、火を熾されてしまう。

禍森の恐怖と猪狩りの提案

邑では「禍森」が呪われた場所として恐れられていた。過去に空腹に耐えかねて森に入った者たちは、獣に噛まれたり、病にかかり命を落としたという。景行は食料確保のために猪を狩ることを提案するが、豪龍は強く反対した。しかし、雲嵐が「どうせ止めても無駄だ」と判断し、自らも同行を申し出る。

森での採集と玲琳の真意

森に入った玲琳は、薬草や茸の採集に夢中になり、邑の畑に根付かせれば医療の負担が減ると考えていた。一方で、雲嵐は険しい表情を崩さず、警戒を続けていた。玲琳の真の目的は、彼を仲間に引き入れ、邑の人々を無意味な制裁から遠ざけることにあった。

雲嵐の動揺と玲琳の説得

猪の足跡を発見し、景行が先に様子を見に行くと言い出す。その場に玲琳と雲嵐が残されると、突如、彼は短刀を突きつけ、「衣を脱げ」と命じる。朱慧月の身分を汚し、雛女としての価値を失わせることで、彼女を「穢れた存在」にする算段だった。玲琳は冷静に彼の心理を見抜き、逆に岩の破片を喉に突きつけて制する。「あなたは本当に人を害したいのではなく、悩んでいただけなのでは」と問いかけると、雲嵐は徐々に心を揺さぶられていく。

雲嵐の葛藤と決断

雲嵐は、父である泰龍が邑を守るために努力していたことを思い出し、自らがその意志を継ぐべき存在であることに気づかされる。これまでの劣等感や葛藤が噴き出し、涙を流しながら「自分も父のように邑を守りたかった」と吐露する。玲琳は「ならば、正しい方法で邑を守りなさい」と説得し、彼を仲間へと引き入れる。

新たな同盟と猪の襲来

玲琳の説得により、雲嵐は遂に郷の命令に背く決断をする。しかし、その直後、景行と辰宇が猪の群れに追われながら戻ってきた。玲琳は「仲間としてともに猪を狩るのです」と言い放ち、混乱の中、全員で猪との戦いに挑むこととなる。

6.玲琳、誘惑する

湯浴みと身支度

夕陽に染まる水面が揺れ、玲琳は大桶の中で身を清めた。狩りの際に血にまみれた衣を脱ぎ、邑の女性から借りた古着に袖を通した。水に濡れたままの肌に布が張り付いたが、着替えを優先した。彼女が選んだのは、邑の外れにある小さな貯水池であった。獣血を流すため、人目の少ない場所を選んだのである。

狩りと雲嵐の奮闘

禍森での狩りから半日が経ち、景行と辰宇、雲嵐の手で捕えた猪は無事邑へ運び込まれた。玲琳も狩猟に加わり、血まみれとなっていた。特に新たな「仲間」となった雲嵐は、武官二人の中に交ざりながらも、気後れせず狩りに参加した。彼の気質は黄家や玄家の者たちとは異なり、緊張を紛らわせるために大袈裟に悲鳴を上げる場面もあった。玲琳はその姿を思い出し、彼が説得に応じたことに安堵した。

邑人たちの警戒と理解

狩りを終えた一行が邑へ戻ると、豪龍をはじめとする邑人たちは恐怖の表情を浮かべていた。しかし、景行が見事な手際で猪を解体し、辰宇とともに肉の良し悪しを説明すると、人々の警戒は次第に和らいだ。食べられる肉と危険な肉の見分け方、毒のある茸が獣の体内に与える影響など、実践的な知識を披露した結果、邑人たちは禍森の「呪い」が迷信に過ぎないと理解し始めた。

交渉と信頼の獲得

邑人たちは食料の重要性を再認識し、猪肉を得るために衣服や農具などを提供し始めた。玲琳たちが見返りを求めず肉を分け与えたことで、彼らの警戒は完全に解け、解体作業にも協力するようになった。笑い合い、冗談を交わすうちに、雲嵐の表情も和らぎ、邑に馴染みつつあった。

慧月との炎術を介した会話

玲琳は炎を前に慧月と連絡を取る機会を得た。長らく繋がらなかった通信が成功すると、慧月、莉莉、冬雪の三人が映し出された。慧月は怒りを滲ませながら玲琳の動向を問い詰めた。玲琳は狩猟や農作業のことを淡々と語ったが、慧月は捕虜の立場でありながら悠々と生活していることに呆れ返った。

邑の事情と黒幕の存在

玲琳は、冷害の原因を「朱慧月」のせいにして民の不満を逸らした郷長・江氏の策略を説明した。また、玄家や黄家の祖綬が邑に落ちていたことから、江氏の背後にはさらに大きな黒幕が存在すると推測した。冬雪は金家や藍家の関与を示唆したが、玲琳はまず郷長の意図を確認すべきだと結論付けた。

辰宇の監視と入れ替わりの疑惑

辰宇は入浴中の玲琳を見張るため、一定の距離を保っていた。しかし、玲琳の悲鳴を聞きつけ、彼は剣を構えて駆けつけた。負傷を疑った辰宇は傷の有無を確かめようとし、玲琳は必死に誤魔化そうとした。しかし、辰宇の執拗な問いかけにより、玲琳は追い詰められていった。

辰宇の予想外の発言

彼女の態度を見た辰宇は、「もし俺が娶れば、おまえは従うのか?」と問うた。玲琳は一瞬混乱したが、「朱慧月」として振る舞うべく、挑発的に「あなたが従うのよ」と言い放った。その姿を炎越しに見ていた慧月たちは、驚愕し、絶望的な表情を浮かべた。

皇太子・尭明の介入

慧月たちが慌てている最中、尭明が姿を現した。彼はすでに入れ替わりを見抜いており、これまで沈黙していたのは冷静な判断を下すためだった。かつての激情を反省し、今度こそ適切な対応を取ると語る彼の姿に、慧月たちは圧倒された。

邑の異変と伝染病の発生

突然、炎の向こうから雲嵐の叫び声が響いた。邑の人々が次々と嘔吐や下痢を発症し、伝染病が広がり始めたのである。彼は玲琳に助けを求め、状況は急変した。

7.幕間

江氏の焦燥

江氏は夕暮れの空を睨みながら、焦燥に駆られていた。祠に跪き、朱慧月の無事を祈るふりをしていたが、内心では計画の頓挫に苛立っていた。彼が仕組んだ拉致事件にもかかわらず、皇太子・尭明は動じることなく、屋敷に留まり続けている。さらに、万が一帳簿を調査されれば、彼が行ってきた逋脱の事実が発覚する恐れがあった。

隠された不正と禍森の迷信

江氏は、郷民の戸籍を操作し、課税を意図的に減らしていた。余剰の米は東領経由で金に換え、山奥に隠していた。その地を「禍森」として恐れられる場所に仕立て上げ、人々が近づかないよう仕向けていた。干魃と冷害が続いたことで、この不正が仇となり、郷民の不満が高まる中、彼は対策を講じる必要に迫られていた。

不満の矛先をそらす策略

これまで江氏は、賎邑の住人を差別し、郷民の不満のはけ口として利用してきた。しかし、今回はそれだけでは足りず、半月前に藍林熙が現れ、新たな策を持ちかけてきた。彼は江氏の逋脱を見抜き、豊穣祭の開催地となったことを利用し、皇太子の調査が入る前に朱慧月を攫い、騒ぎを起こすよう提案した。

藍林熙の提案

藍林熙は、朱慧月を悪者に仕立て、冷害や飢饉の責任を押し付けるよう助言した。そして、豊穣祭の最中に彼女を攫い、皇太子の関心をそちらに向けさせることで、税の不正調査を回避できると説いた。さらに、計画が成功すれば江氏を東領の郷長に引き立てるという甘い言葉で誘った。

計画の狂いと焦り

当初、計画は順調に進むはずだった。しかし、予想外の出来事が重なった。黄景行が雛女を守るために同行し、捜査が思いのほか迅速に進んだ。さらに、辰宇が単独で邑へ向かい、下手人の特定が早まったことで、江氏は追い詰められつつあった。郷長の権限を使い、証拠を処分する時間もなく、焦燥感が募っていった。

林熙の新たな策

その時、藍林熙は「賎民による脅迫状」を偽造し、新たな計画を提示した。脅迫状には、飢えと病に苦しむ賎民が雛女を攫い、薬を要求していると記されていた。この内容を利用し、邑で病が蔓延していると見せかけ、焼き討ちの正当性を確保する算段であった。

病の拡散と証拠作り

林熙はすでに前夜祭の段階で、病を邑に広める準備を整えていた。賎民を誘導し、病の元を持ち込ませることで、自然発生的な疫病の流行を演出していたのである。さらに、礼武官たちを招集し、彼らに病の証人となるよう仕向けることで、計画の信憑性を高める策を講じた。

計画の実行へ

江氏は林熙の指示に従い、玄家と金家の礼武官を密かに呼び寄せることとなった。ただし、黄家の武官は皇太子と関係が深いため、除外された。これにより、郷で病が広がっているとの認識を確立し、邑を焼き払う大義名分を整えようとしていた。

鼓楼からの視線

計画は順調に進んでいるように見えたが、江氏は気付かなかった。鼓楼の高みから、彼らの動きをじっと観察する者がいたことに。

8.玲琳、看病する

突如広がる病の兆候

玲琳たちが湯浴みから戻ると、頭領のあばら家には嘔吐を繰り返す人々が集められていた。彼らは桶を抱え、苦しみながら呻いていた。雲嵐によると、食あたりは以前にもあったが、これほど急激に大勢が倒れるのは初めてのことだった。景行は症状を確認し、これは単なる食あたりではなく「痢病」であると断言した。

急速な感染拡大の危機

痢病とは、激しい下痢を主症状とする病であり、軽度のものから命に関わるものまでさまざまな種類があった。今回の症状の急速な広がりから、重篤な伝染病である可能性が高かった。既に病人の中には、つい先ほど猪を求めていた女たちの姿もあった。玲琳は猪の肉が原因かと疑うが、それにしては発症が早すぎる上、自ら解体を行った者たちが無事なことを考えると別の要因があると考えられた。

景行は、すでに昨晩から体調を崩していた者がいることを指摘し、感染源が別にある可能性を示唆した。このままでは邑全体に広がる危険があった。

対策と指示

玲琳は、病の蔓延を防ぐため、すぐに対策を講じた。まずは煮沸した水を用意し、老鸛草を煎じて薬を作ることを決めた。雲嵐に蒸留した強い酒の有無を尋ね、辰宇には薪の準備と川の上流からの水汲みを指示した。しかし、辰宇は玲琳が看病に関わることを強く制止した。彼女が高貴な身であることを理由に、病に近づくことを危険視したのである。

しかし、玲琳は毅然とした態度で、自らの身を守るためこそ病の拡大を阻止する必要があると説いた。痢病は汚染された水や排泄物を介して感染するため、適切な衛生管理が不可欠であると強調し、細心の注意を払うことを誓った。彼女の強い意志に圧倒されながらも、辰宇は最終的に看病を許可し、彼女が無茶をすればすぐに郷へ連れ戻すと念を押した。

不安と恐怖の広がり

一刻も早く行動を開始しようとした矢先、雲嵐は邑人から呼び止められた。彼らは恐怖に駆られ、病を禍と結びつけ始めていた。「禍森」に入ったことが原因ではないか、という疑念が湧き上がり、やがてそれは雲嵐への非難へと変わった。

最初は小さな不安だったが、次第に感情が膨れ上がり、邑人たちは雲嵐と朱慧月に責任を押し付け始めた。「すべてあんたたちのせいだ!」と叫ぶ者も現れ、彼らへの憎悪が一気に燃え上がった。雲嵐を庇っていたはずの豪龍すら、病の苦しみに耐えかね、彼を激しく非難した。

憎しみの連鎖

怒りに駆られた邑人たちは雲嵐を追い詰め、ついには少年が火打ち石を投げつけた。しかし、その石は辰宇によって弾かれ、床に落ちた。彼は冷徹な声で「石を投げる体力があるなら、看病は不要だ。外で野垂れ死ね」と言い放ち、邑人たちを威圧した。

玲琳はその場を収めるため、毅然と立ち上がった。彼女は「誰かを恨むなら、雲嵐ではなく自分を恨め」と宣言し、朱慧月の名に懸けて、誰一人見捨てないと誓った。その威厳ある姿に、人々は沈黙し、敵意が鎮まっていった。

雲嵐の覚悟

外に出た玲琳は、雲嵐に邑中を見回るよう指示した。しかし、雲嵐は苦悩を吐露した。邑人は頼るだけ頼り、いざとなると簡単に裏切る。どれだけ尽くしても、最終的にはよそ者扱いされるのだと。

玲琳は、彼にある人物の話をした。それは、自らの責任を重んじ、愛されることを求めずとも民を守る男――皇太子・尭明であった。彼は、敵には厳しくとも、弱者には優しい。守るべきものは、見返りを求めずに守るのだと。

その言葉を聞いた雲嵐は、亡き父を思い出した。どんな状況でも邑を守り抜いた父の姿が脳裏に浮かび、「王」としての責務を自覚するに至った。彼は決意を固め、邑の病人を探し、さらに薬を得るために山へ向かうことを申し出た。

玲琳の孤独と覚悟

雲嵐を見送った後、玲琳は一人で薬草を集めていた。しかし、邑人たちの敵意を思い出し、無意識に手が震えていることに気付く。彼らは笑顔で迎えてくれたはずだった。それなのに、わずかなきっかけで手のひらを返し、憎しみを向けてきた。

それが、朱慧月の背負ってきた現実なのだと悟ると、彼女は深い悲しみに襲われた。しかし、涙を拭うことなく、再び顔を上げた。雲嵐が決意したように、自分もまた、邑の人々を守ると決めたのだから。

治療への決意

玲琳は最後に薬草を強く握りしめ、改めて決意を固めた。どんなに裏切られようとも、自分が守ると決めた以上、その責務を果たさなければならない。そして、病に苦しむ者たちに、確実に効果のある薬を届けるのだと。

その瞳に宿ったのは、揺るぎない意志だった。「一晩で治して差し上げますわ」そう呟き、彼女は薬草を手に、屋内へと戻った。

雲嵐の奔走と達成感

雲嵐は禍森の入り口に到着し、大きく息をついた。邑中を回り病人を運び、山に入り薬草を摘むなど、これまでにないほど働き回ったことで、疲労とともに達成感が満ちていた。懐には、泰龍の形見として拾った火打ち石の破片が収められていた。彼は、それを見守るようにと心の中で祈った。

郷との交渉と林の提案

そこへ郷からの使者・林が姿を現した。雲嵐は彼に対し、邑で病が広がっていることを告げ、証文を盾に医者と薬を要求した。林は戸惑いながらも、郷長が山の麓まで来ていることを明かし、直接交渉することを提案した。雲嵐は少し警戒しつつも、邑の状況を考慮し、林の提案を受け入れた。

郷長との対話と交渉の進展

山の麓には、護衛を従えた郷長・江氏が待っていた。彼は冷静に話を聞き、邑での痢病の拡大を「誇張ではないか」と疑ったが、雲嵐は感染経路を詳しく説明し、郷への影響も訴えた。このまま放置すれば、郷にも病が広がり、皇太子にまで及ぶ可能性があることを強調した。

郷長はその説明を受け、護衛に皇太子への報告を命じた。そして、雲嵐に対し、薬草や食料、医者の提供を約束し、制裁の中止と減税も決定した。思いがけないほど穏やかな対応に、雲嵐は驚きつつも、邑のために交渉が成功したことに安堵した。

突然の裏切り

しかし、話がまとまった直後、雲嵐は胸に矢を受け、脇腹を短刀で刺された。攻撃したのは林と小姓だった。林は冷静に振る舞いながら、雲嵐が病の恐怖を訴えたことで「正当な理由を得た」と告げた。彼らは最初から、邑を焼き払い口封じをするつもりだったのだ。

林熙と名乗った彼は、郷長さえも従えており、邑の壊滅を計画していた。証文など最初から意味を持たず、雲嵐は利用されたに過ぎなかった。

奇跡の生還と決意

致命傷と思われたが、矢は懐に入れていた火打ち石に阻まれており、心臓には届かなかった。父の形見が命を救ったのだ。痛みに耐えながら、雲嵐は立ち上がり、邑へ急ぐ。まだ死ねない。邑に焼き討ちの危機を知らせなければならなかった。

徹夜の看病と病人の回復

その頃、玲琳たちは徹夜で病人の世話を続けていた。景行や辰宇も協力し、湯を沸かし、薬湯を飲ませ、衛生管理を徹底した。最初は混乱していた病人たちも、治療の効果が表れるにつれ、落ち着きを取り戻していった。

杏婆などの初期の患者が快方に向かい、病の深刻度が軽微であることが確認されたことで、事態の見通しが立った。邑人たちは徐々に玲琳たちへの態度を軟化させ、反省の色を見せはじめた。

痢病の原因と意図的な汚染

景行は病の発生源を探り、ある仮説にたどり着いた。病の発症者を調査した結果、共通点は「貯水池の水」を使用していたことだった。さらに、池には金家から贈られた祭典用の衣の帯が沈んでおり、それが汚染されていた可能性が浮上した。

この衣装は朱慧月が着る予定だったものであり、病衣として加工されていたとすれば、慧月を狙った計画的なものであると考えられた。そして、その可能性が最も高いのは、戦場で合理的な戦術を好むとされた藍家の藍林熙であった。

負傷した雲嵐の帰還と警告

そんな中、邑の入り口で辰宇が誰かを支えていた。玲琳が駆け寄ると、それは血を流しながらも必死に戻ってきた雲嵐だった。彼は短刀を腹に刺されたまま、力尽きるように倒れながら、最後の力を振り絞り「逃げろ……」と告げた。

彼の言葉が意味するものを理解する間もなく、玲琳は彼の名を叫んだ。

9.慧月、怪しむ

慧月の動揺と尭明の命令

慧月は炎術を通じて邑の伝染病の報を受け、愕然としていた。玲琳は炎術を即座に打ち切り、急ぎその場を後にした。尭明も険しい表情を浮かべ、すぐに室を出て行った。残されたのは、張り詰めた空気の中に立つ莉莉と冬雪だけであった。

彼女は震えながら、どうすればよいのかと自問した。しかし、尭明はすでに答えを出していた。彼は「今は救助に向かうときではない」とし、慧月に茶会を開くよう命じたのである。彼の意図は、他家に「朱慧月」の評判が落ちる隙を与えないための情報戦にあった。

景彰の慰めと慧月の葛藤

そこへ景彰が現れ、慎重に言葉を選びながら話し始めた。彼は慧月の気持ちを理解しつつも、彼女が「逃げていない」と指摘した。慧月は動揺しながらも、その言葉にわずかに慰めを感じた。

景彰は慧月が状況を受け入れ、努力し続けていることを評価し、「根性がある」と称えた。慧月はその言葉を素直に受け止めることはできなかったが、彼の励ましに背を押される形で、茶会の準備に向かう決意を固めた。

茶会の準備と夜の邂逅

茶会の準備は夜遅くまで続き、慧月と莉莉は息抜きのために中庭へ出た。静まり返った屋敷の中、彼女たちは他家の礼武官たちが姿を見せないことに軽蔑の念を抱いた。

そんな中、四阿から人影が現れた。景彰とともに姿を見せたのは、藍家の雛女・芳春であった。彼女は具合を悪くし、景彰に介抱されていたらしい。

芳春の告白と疑念

芳春は、慧月の無事を祈って千字文を臨書していたと語った。その控えめな態度に、慧月は彼女に対する印象を改めた。しかし、その後の彼女の言葉が場の空気を一変させた。

芳春は、慧月が「礼武官たちに欲を抱いている」と話していたと告げた。さらに、媚薬を使ってでも関係を持ちたいと語っていたという。慧月は驚愕し、そのような発言をした覚えがないことに混乱した。

彼女の告白により、慧月は一つの疑念を抱く。芳春はなぜ、このような嘘をつくのか。その背後に、何者かの意図があるのではないか――。

情報の断片が次々と頭をよぎる中、慧月はただ呆然と、去っていく芳春の姿を見送った。

特典 SS『秘めやかな噂ではございますが』

女官たちの品定め

琥珀は黄麒宮の新人女官であった。後宮の女官といえば、多くの女性にとって憧れの職であり、時には後宮外の男性官吏と接する機会もあるため、有望な夫候補を探す場としても人気があった。

先輩女官たちはそんな話題で盛り上がっていた。彼女たちは朱家の男について、情熱的ではあるが嫉妬深く、言動が荒々しいと評した。琥珀は静かに頷きながら、心の中の帳簿から朱家を消した。

次に話題に上がったのは藍家であった。理知的なところは魅力的だが、理屈っぽく、ただ愚痴を聞いてほしいだけの時でも論理的に解決策を示してくるため、扱いが難しいとされた。琥珀は藍家にも線を引いた。

五家の男たちの評判

金家については、美麗な者が多いものの、大抵が自分自身を何よりも愛し、鏡の前で過ごす時間が長いと嘆かれた。琥珀は即座に金家の欄も消し、五家の男にはまともな者がいないのかと嘆息した。

そんな中、玄家の話になると、意見が分かれた。寡黙で淡々としながらも、恋人には深い愛情を注ぐと憧れる者もいたが、一方で過剰な情熱が恐ろしいと身震いする者もいた。破局時の刃傷沙汰が最も多いのは玄家だという話に、琥珀は青ざめながらその欄を黒く塗りつぶした。

話題の転換と玲琳の評価

先輩女官たちは、黄家の女性にはやはり黄家の男性が一番だと結論づけた。しかし、重苦しい空気が漂ったため、話題を変えることにした。

玲琳の話が持ち出され、彼女が尭明に寵愛され、辰宇に慕われる自慢の主人であると称賛された。先輩女官たちはその話題で盛り上がり、雰囲気を明るくしようとした。

琥珀もその流れに乗りつつ、そっとその場を離れた。だが、彼女は考えないようにしていた。最愛の主人に想いを寄せる二人の男が、最も厄介とされる玄家の血を引いているという事実を。

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