どんな本?
『わたしの幸せな結婚 九』は、顎木あくみ 氏による和風ファンタジー小説シリーズの第9巻である。物語は、名家に生まれながらも虐げられて育った美世と、冷酷無慈悲と噂される若き軍人・清霞の結婚生活を中心に展開される。本巻では、二人が新婚旅行を兼ねて、旧都にある久堂家の本家・宮小路家を訪れることになる。
主要キャラクター
• 斎森美世:名家に生まれながらも、継母と義妹に虐げられて育った女性。清霞と結婚し、少しずつ幸せを見つけていく。
• 久堂清霞:冷酷無慈悲と噂される若き軍人。美世の夫であり、彼女を深く愛している。
• 弧門:宮小路家の当主であり、由緒ある神社の宮司。清霞の幼なじみで、二人を歓迎する。
• ユージン:金髪碧眼の端麗な男性。美世に執拗に声をかけ、再会をほのめかす謎の人物。
物語の特徴
本作は、歴史と曰くと怪異に満ちた旧都を舞台に、夫婦の絆と試練を描く。新婚旅行を楽しみたい清霞の思いとは裏腹に、美世はユージンという謎の男性や、薄刃の力に目を付けた宮小路家の男達に狙われる。これらの試練を通じて、二人の関係性や美世の成長が深く描かれている。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2025年3月14日
• 判型:文庫判
• ページ数:256ページ
• ISBN:9784040756974
また、本作はアニメ化もされており、2023年7月から9月にかけて第1期が放送され、2025年1月から第2期が放送中である。
読むきっかけは、2023年7月にアニメ化することは知っていたが、、
タイトルでは全く興味を持っていなかったが、当時読んだ「「若者の読書離れ」というウソ」という本を読み。
人気の作品であり、異能の力がある大正ロマンスだと知り購入して読んでみた。
読んだ本のタイトル
わたしの幸せな結婚 九
著者:顎木 あくみ 氏
イラスト:月岡 月穂 氏
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あらすじ・内容
新婚旅行を兼ねて、旧都の久堂家本家へ――
旧都にある久堂家の本家・宮小路家に挨拶へ行くことになった美世と清霞。由緒ある神社の宮司である当主の弧門は清霞の幼なじみでもあり、二人を歓迎する。
新婚旅行を兼ねて楽しいだけの旅にしたかった清霞の思いとは裏腹に、初日から美世は金髪碧眼の端麗な男性に声をかけられる。
ユージンと名乗る彼は執拗に美世を誘い再会をほのめかす。さらに薄刃の力に目を付けた宮小路家の男達に美世は狙われて……。
ここからは、稀なるおしどり夫婦の物語。いざ、歴史と曰くと怪異に満ちた旧都へ――。
主な出来事
ユージンの目的と上司の思惑
ユージンは、異国の地で拠点を構え、目的を果たすための準備を進めていた。彼の上司は、帝都ではなくこの地を選んだ理由を私情によるものとしつつも、意味深な態度を見せる。ユージンは、上司が何を考えているのか興味はなく、自らの目的達成のために行動することを優先していた。
美世の幻視と清霞の優しさ
夏の暑さの中、美世は庭で水やりをしていたが、突然幻を見た。そこには、清霞に似た男性と、自分によく似た女性が寄り添う姿があった。この異様な光景に戸惑いながらも、異能「夢見」の力が関係しているのではないかと考えた。意識を取り戻した美世は、清霞に支えられ、彼の温かい言葉に安心する。
旧都への旅とユージンとの遭遇
清霞とともに旧都へ向かう特別急行列車の旅を楽しむ美世。駅弁を味わい、移り変わる風景に感動するが、清霞に見つめられていることに気づき、恥ずかしさを覚える。旧都に到着後、宮小路家の宮司・弧門と対面し、歓迎を受ける。夕食の席では、異国の青年・ユージンに声をかけられ、彼の不穏な態度に警戒する。
宮小路家の茶会と陰謀
宮小路家での茶会に参加した美世は、上流階級の婦人たちとの交流を深める。しかし、宮小路の男たちは、久堂家への不満を抱え、密かに行動を起こそうとしていた。その裏で、ユージンが彼らと接触し、久堂家に対する陰謀を仕組んでいた。
衣づ子の悪夢と異能の使用
宮小路家にいる少女・衣づ子は、眠りにつくことができず、苦しんでいた。美世は、自らの異能を使い、彼女の夢に入り込む。そこには、宮小路家の過去に関する恐ろしい記憶が渦巻いていた。異能によって夢を浄化し、衣づ子を安眠へと導いた美世は、都子から感謝される。しかし、夢の中で聞こえた「異端」という言葉の意味が気にかかる。
宮小路家の罪と異能心教との関係
宮小路家は、かつて異能を強化するための研究を行い、その結果として「異端の者」が生まれた過去を持っていた。そして、その研究の一部が異能心教に流れた可能性があることが明らかとなる。宮小路家の歴史が、現在の異能に関する問題へとつながっていることが示唆された。
ユージンの策略と美世の誘拐未遂
美世は旧都の街で突然男たちに囲まれ、連れ去られそうになる。彼らは、薄刃家の血を持つ美世を宮小路本家へ迎え入れるべきだと主張するが、清霞が間一髪で駆けつけ、彼女を救出する。襲撃者たちはユージンの名を口にしており、彼が背後で動いていることが確定した。
美世の昏睡とユージンの夢への介入
翌朝、美世は目覚めなかった。清霞は必死に呼びかけるが、彼女は意識を取り戻さない。その間、美世は夢の中でユージンと対峙していた。ユージンは、自らの異能を使い、美世の夢に入り込んでいた。彼は彼女の能力を評価し、自分の仲間になるよう誘うが、美世は断固として拒否する。
ディアナとの出会いと魔女の目的
ユージンに導かれ、美世は夢の中で黒いドレスをまとった女性・ディアナと対面する。ディアナは、自らを魔女と名乗り、女神を降ろす儀式に美世の力を必要としていると告げる。しかし、美世は彼女の提案を拒絶し、夢から目覚めるための方法を模索する。
ユージンの追跡と捕縛作戦
清霞と五道は、ユージンの宿泊先を特定し、捕縛を試みる。夜、ユージンが宿を出ると、清霞と五道が立ち塞がる。五道がユージンの腕を捻り上げ、確保しようとするが、その瞬間、白い靄と甘い香りが立ち込める。視界を奪われた清霞たちは、ユージンを取り逃がしてしまう。
新たな協力者・タカオの登場
逃亡したユージンは、ディアナと合流する。そこで、新たな協力者として「タカオ」と名乗る男が紹介される。彼は灰色の髪と無精髭を持ち、異様な雰囲気を漂わせていた。ディアナは彼の能力を高く評価しており、今後の計画において重要な役割を担わせるつもりであった。
五道の焦燥と清霞との稽古
ユージンを取り逃がした五道は、自身の未熟さを痛感し、清霞に稽古を申し出る。宮小路家の庭で行われた激しい打ち合いの末、五道は清霞に敗北する。清霞は彼に、無駄な力みがあることを指摘し、戦い方を見直すよう助言する。休憩中、二人はかつての戦いの日々を振り返り、互いの成長を確認する。
清霞と美世の誓い
夜、美世は清霞の腕の中で安堵していた。清霞は、美世が再び目を覚まさなかったらどうしようかと恐れていたことを打ち明ける。美世は彼を不安にさせたことを詫び、今後は自らの異能を必要な場面で積極的に使うことを決意する。清霞は彼女の決意を受け入れ、二人は静かに寄り添いながら夜を迎えた。
感想
夫婦の絆と陰謀の交錯
本巻では、美世と清霞の絆がさらに深まりつつ、異能を巡る陰謀が動き出す。
旧都・宮小路家を訪れた二人は、格式ある家系のしがらみや、異能を巡る複雑な関係に巻き込まれる。
美世の異能「夢見」は新たな段階へ進み、彼女の存在が異国の陰謀と結びついていく。
清霞は美世を守りながらも、異能心教の残党、行方不明の土蜘蛛、そして謎の異国人ユージンの動向を追う。
夫婦としての信頼が試される中、二人はどのようにして困難を乗り越えていくのか。
美世と清霞の成長
本巻では、美世と清霞がただの夫婦ではなく、互いを支え合う存在として成長していく様子が描かれる。
美世は以前のように守られるだけの存在ではなく、異能を活かしながら問題を解決しようとする。
彼女の「夢見」の力は、衣づ子の悪夢を浄化する場面で大きな役割を果たした。
一方で、清霞は美世に対する愛情がより深まり、彼女の安全を何よりも優先する姿勢を見せる。
特に、美世が襲われた際には、その怒りが尋常でなく、彼の決意が改めて強調された。
夫婦としての距離感が丁寧に描かれ、心温まる場面が多く感じた。
宮小路家の陰謀と異能心教
宮小路家の内部には、久堂家に対する複雑な感情が渦巻いていた。
彼らの一部は、美世を宮小路本家へ迎え入れようと画策し、さらには清霞に対する敵意を隠さなかった。
彼らの行動が単なる不満から生まれたものなのか、それとも異能心教との関係があるのかが徐々に明らかになっていく。
本巻では、宮小路家がかつて異能を強化する研究を行っていたこと、そしてその成果が異能心教へ流れた可能性が示唆される。
この事実が、今後の展開にどう影響を与えるのか、非常に興味深い。
ユージンと魔女ディアナの登場
異国の青年ユージンは、単なる異邦人ではなく、美世の異能に興味を持つ者であった。
彼は美世の夢に入り込み、彼女の力を評価し、利用しようとする。
しかし、その背後には魔女ディアナという存在が控えていた。ディアナは、「女神を降ろす儀式」に美世の力が必要だと語る。
異能と宗教的な要素が絡み合い、物語のスケールが一気に広がった印象を受ける。
ユージンとディアナがどのような目的で動いているのか、そして清霞たちがそれにどう対抗するのかが次巻の大きな焦点となるだろう。
清霞と五道の戦い
ユージンを捕らえようとする清霞と五道。
しかし、ユージンは謎の白い靄を使って逃走する。
清霞は五道の未熟さを指摘しながらも、彼の成長を見守る姿勢を崩さない。
本巻では、五道の焦燥感や清霞への尊敬が強く描かれており、彼がどのように成長していくのかが気になるところである。
総括
「わたしの幸せな結婚 九」は、夫婦の関係の深化と異能を巡る陰謀が交錯する展開となっている。
美世と清霞は確固たる絆を築きつつも、未知の敵と対峙することとなる。
宮小路家の闇、異能心教の影響、ユージンと魔女ディアナの思惑。
それらが複雑に絡み合い、物語はさらに加速していく。
次巻では、この謎がどう解き明かされるのか、早い続編の刊行を期待したい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
序章
洋燈の灯る部屋
室内では洋燈の橙色の火が揺らめき、書物や薬草、わずかに油の香りが漂っていた。欧風に調えられた部屋には、大きな窓があり、その前には重厚なカーテンが閉ざされていた。壁には二つの棚が設置されており、一方には母国語で書かれた書物が整然と並び、もう一方には薬草や爬虫類の標本、骨などの薬の材料が詰まった瓶が陳列されていた。同業者の私室としては、ありふれた光景であったが、一般人には不気味に映る代物ばかりであった。
拠点選びの理由
ユージンは窓際の机で羽ペンを弄ぶ上司に疑問を投げかけた。なぜ帝都ではなく、この地を拠点に選んだのかと。上司は微笑みながら、私情以外に理由はないと答えた。歴史あるこの土地が目的の品を探すには適していると語りながらも、含みを持たせるような口調であった。ユージンは彼女の本心には興味がなかったが、その態度には思わせぶりなものを感じた。
上司との関係
上司は細かい指示や無茶な命令をしないため、ユージンにとっては扱いやすい存在であった。ただし、彼女の言動には裏がありそうで、それを読み解くのが面倒に感じていた。だが、自分のやり方を尊重し干渉しない限り、特に問題はないと考えていた。彼はこの環境を活かし、独自のやり方で目的を果たすつもりであった。
目的への決意
ユージンは、求めるものを必ずこの地で見つけると宣言した。上司もまた期待している様子であり、情報も集まってきていることを確認した。すでに候補は絞られており、下準備も進めていた。彼にとって目的の達成が最優先であり、個人的な因縁を持ち込むつもりはなかった。しかし、上司は違うようであった。
ユージンが決意を固めると、上司は満足そうに微笑んだ。やがて彼は、自分と同類の者に対面することになるのだと実感した。その思いは楽しみでもあり、緊張を伴うものであった。
一章 予感
夏の訪れと美世の庭仕事
帝都に夏が訪れ、強い日差しが地面を焼き、木立では蝉の声が響き続けていた。久堂美世は庭で如雨露を手にし、夏の花々に水をやっていた。庭には向日葵や朝顔、桔梗、百日紅などが咲き誇っていたが、乾いた土はすぐに水を吸い込み、再び乾燥してしまう。美世は去年の夏の水やりをどうしていたか思い出そうとしたが、当時はそれどころではなかったことを思い出し、苦笑した。
夢のような幻影
突然、美世の視界が白く霞み、陽炎のようなものが立ち上った。夏の暑さも蝉の声も消え、目の前には二つの人影が現れた。そのうちの一人は夫・久堂清霞に似た男性で、もう一人は着物を纏い、どこか美世自身に似ていた。二人は寄り添い、美世には目もくれなかった。美世は自らの異能「夢見」の力による幻ではないかと疑ったが、これまで自分自身を夢で見たことはなかったため、不安が胸に広がった。
清霞の優しさ
幻が消え、再び現実に戻ると、美世は清霞の腕に優しく抱きすくめられた。彼は美世を気遣い、体調を尋ねた。美世は心配をかけたことを詫びたが、清霞は「心配ならいくらでもかけてよい」と言い、抱きしめる腕に力を込めた。彼は結婚後、より美世に対する愛情を表すようになり、過保護ともいえる態度を見せるようになっていた。
新への相談
清霞が屯所から帰宅した直後、美世が見た幻について話していると、薄刃新が訪ねてきた。彼は美世の従兄であり、幻を操る異能を持つ薄刃家の次期当主だった。美世は新にも幻の話を伝え、意見を求めた。新は、異能の気配が残っていないため確証はないが、夢見の力による白昼夢の可能性が高いと述べた。
未来の暗示
新は、夢見の力は完全に制御できるものではなく、神の領域に属する異能であると説明した。美世が見たものが未来の暗示なのか、単なる幻影なのかは分からなかったが、夢見が発動した以上、何かしらの意味を持つのではないかと考えられた。清霞と新は、美世が見た光景について更なる検討が必要であると結論づけた。
甘水直の残党
新は、美世と清霞が旧都へ行く予定について触れた後、異能心教の残党の調査状況を報告した。甘水直が残した拠点の後始末は進めていたものの、新たな動きは見られず、正体不明の人物の消息も掴めていなかった。清霞は、軍の対応が遅れていることに苛立ちつつも、事態の収束を急がねばならないと考えた。
土蜘蛛の封印調査
翌日、清霞は対異特務小隊とともに山へ入り、封印された土蜘蛛の状態を確認しに向かった。しかし、封印の場には本体の姿はなく、脚が一本だけ残されていた。結界は破壊され、封印の要であった妖刀も力を失っていた。清霞は、土蜘蛛が自ら身体を分割し、封印を抜け出した可能性を指摘した。
五道の決意
五道壱虎は、隊長として土蜘蛛の調査を自ら引き受けると申し出た。清霞は彼の覚悟を見定めたうえで、土蜘蛛の捜索と結界の調査を任せることを決めた。五道は意気込んで部下に指示を出し、清霞は旧都へ向かう準備を進めることとなった。
土蜘蛛の行方は不明であり、対処の手段も見つかっていなかったが、清霞は旧都で新たな情報を得ることを期待していた。
二章 旧都と、新しい出会い
旧都の歴史と現在
旧都はかつて千年以上にわたり帝が鎮座していた地であり、幕府時代以前から国の中心として機能していた。華族と呼ばれる上流階級の家々もこの地に居を構え、朝廷を支えていた。異能者の家系もまた例外ではなく、旧都には長い歴史とともに、怪異にまつわる数多くの伝承が残されている。帝都に都が移された後も、旧都にはなおもその伝統と曰くが色濃く残り、異能者の役割は今も変わらず続いていた。
特別急行列車の旅
帝都から旧都へ向かう特別急行列車の中で、美世は車窓の風景に目を輝かせていた。夏空に流れる白い雲、緑に覆われた田畑や山々が次々と通り過ぎていく景色は美しく、普通列車よりも速い移動に心を躍らせていた。しかし、清霞に「はしゃぎすぎるな」と注意され、恥ずかしさに顔を赤らめた。美世は夏物の白いワンピースを身にまとい、清霞も軽装で旅に臨んでいた。二人は旧都の本家筋に顔を見せるため、この旅路を共にしていた。
土蜘蛛の捜索と旧都の役割
美世は、土蜘蛛の件がある中で清霞が本当に帝都を離れてよいのかと気にかけていた。封印を破り姿を消した土蜘蛛の行方は掴めず、対異特務小隊は手詰まりに近い状況だった。清霞は、帝都では情報が得られないため、旧都の記録を頼りに土蜘蛛を封じる方法や討伐の手がかりを探すつもりであった。美世は異能を活かして役に立てないかと考えたが、土蜘蛛のような異形には薄刃の異能は作用しないため、別の形で清霞を支える決意を固めた。
駅弁の楽しみと清霞の視線
美世は初めて駅弁を手にし、その蓋を開ける瞬間に期待を膨らませた。旅の中で味わう冷めた弁当は特別な味わいがあり、普段の食事とは違う楽しみがあった。美世は感動しながら食べ進めたが、ふと視線を感じて清霞を見ると、彼が静かに彼女を眺めていた。清霞は美世が食事を楽しむ姿を微笑ましく思っていたのだった。美世は子どもっぽいと思われたのではないかと気にしたが、清霞はむしろその素直な反応を愛おしく感じていた。
旧都への到着と神社への訪問
列車が旧都に到着すると、美世はその風景に見入った。駅前には近代的な建物が並び、帝都と変わらぬ活気があった。迎えの車で移動した二人は、まず本家の宮小路家が宮司を務める「生国神社」を訪れることになった。美世は千年近い歴史を持つ神社の壮大さに圧倒され、清霞と共に石段を上がり、拝殿に参拝した。
宮小路弧門との対面
本殿から出てきたのは、宮小路家当主であり神社の宮司を務める宮小路弧門であった。彼は陽気な性格で、清霞とは幼い頃からの付き合いがあったようだった。弧門は美世を「別嬪さん」と評し、歓迎の意を示した。彼は美世に、宮小路家は由緒正しいがゆえに気難しい者も多く、慎重に振る舞うよう忠告した。
レストランでの夕食と警戒
弧門の案内で、三人はホテルのレストランで夕食をとることになった。食事中、清霞は弧門が屋敷ではなく外で食事をすることにした理由を問いただした。弧門は、美世が宮小路家の屋敷に直接足を踏み入れる前に、落ち着いて話せる機会を設けたかったのだと説明した。宮小路家は伝統と格式に厳しく、内情は複雑だった。
ユージンとの遭遇
食事の終盤、美世は突然、金髪碧眼の青年ユージンに声をかけられた。彼は異国の貴族のような風貌を持ち、美世の美しさに惹かれたと言って誘いをかけてきた。美世は丁重に断ったが、ユージンは引かず、執拗に会話を続けようとした。そこへ清霞が戻り、ユージンに鋭い視線を向けた。清霞の威圧的な態度にもユージンは動じなかったが、最終的には場を収めるために退いた。
謎の言葉「シャーマンの姫君」
ユージンは去り際に、美世を「シャーマンの姫君」と呼び、また会うことを示唆した。美世はその言葉の意味がわからず、困惑した。清霞もその言葉に引っかかり、調査をする必要があると考えた。美世は清霞に、もしまたユージンのような男に会ったらどうすべきか尋ねたが、清霞は「取り合うな」と断言した。美世は冗談めかして相談すればいいかと聞いたが、清霞はそれすら許さなかった。美世は彼の狭量な態度に愛おしさを感じ、改めて彼への想いを確かめた。
この旅はまだ始まったばかりだったが、美世にとって旧都での時間はすでに波乱の幕開けとなっていた。
三章 宮小路の茶会
宮小路家への到着と宿泊場所
美世と清霞が弧門とともに宮小路家の敷地に足を踏み入れた頃、すでに夜の帳が降りていた。広大な土地は高い塀に囲まれ、屋敷の規模は美世の実家である斎森家をも凌ぐものであった。庭園には池や小山まであり、まるで森林公園のような広さを誇っていた。弧門は二人に自由に使える別棟を用意し、気兼ねなく過ごすよう促した。その建物は十人近くが滞在できるほどの広さで、生活に必要な設備も整っていた。
旅の疲れと清霞の不機嫌
弧門が母屋へ戻ると、広い座敷には美世と清霞だけが残された。すでに布団は敷かれ、風呂も用意されていたため、二人は荷解きを済ませた後、順番に入浴した。寝る準備が整った頃、清霞は布団の上で胡坐をかきながら不機嫌そうにユージンのことを口にした。その様子に、美世はむしろ新鮮な気持ちを抱いた。普段は冷静な夫が、彼女のためにやきもちを焼いているのだと感じ、つい笑みを浮かべた。清霞は美世の反応にさらに拗ねたが、美世は彼を甘やかすように腕を広げた。すると、清霞は素直に膝枕を要求し、美世は彼の髪をそっと梳いた。
「シャーマンの姫君」という言葉の意味
膝枕をしながら、美世はユージンが口にした「シャーマンの姫君」という言葉について尋ねた。清霞によれば、シャーマンとは異国の言葉で「予言者」を意味するものらしい。しかし、なぜユージンが美世にその称号を使ったのかは不明であった。美世自身、夢見の異能を持ち未来を視ることができるため、予言者と呼ばれるのは完全な誤りではなかった。しかし、ユージンがなぜ彼女の能力を知っていたのかは疑問であった。清霞は異国の知識に詳しい五道に問い合わせることを決め、式を使って連絡を取った。
旅の目的と清霞の気遣い
連絡を終えた清霞は再び膝枕の体勢に戻り、ため息をついた。彼は今回の旅を新婚旅行の代わりにし、美世に楽しい思い出を作らせたいと考えていた。しかし、ユージンの件や宮小路家の事情が絡み合い、純粋に楽しめる状況ではなくなりつつあった。美世はそんな清霞の気持ちを理解し、列車の旅や神社訪問、夕食などすでに十分楽しい思い出になっていると伝えた。清霞は美世の言葉に安心しながらも、引き続き警戒を怠らぬよう念を押し、二人は並んで布団に入った。
宮小路家での茶会
翌々日、美世は宮小路家の夏の茶会に参加することになった。広大な庭園で行われるこの茶会は、宮小路家の者たちが集まり親交を深める場であった。美世は夏らしい薄黄緑色の小紋を身にまとい、清霞は軍服姿で臨んだ。茶会が始まると、清霞とともに多くの宮小路家の者たちに紹介された。美世は礼儀正しく挨拶を重ねるうちに、薄刃家の血を引くことに対する興味の目を向けられる場面もあったが、大きな問題は起こらなかった。
婦人たちとの交流
茶会が進むにつれ、男性陣と女性陣に自然と分かれ、それぞれ歓談を楽しむ流れとなった。美世は親切な婦人たちに迎えられ、彼女たちとの会話に加わった。特に宮小路都子という女性は親しみやすく、美世も安心して話すことができた。婦人たちの間では美世の美しさや礼儀作法についての賞賛の声が上がったが、美世自身はまだ社交に慣れず、内心では緊張を隠せなかった。
宮小路家の男性陣の反応
一方、清霞は男性陣の集まりに加わっていたが、宮小路家の者たちからは久堂家に対する皮肉めいた言葉が多く飛び交っていた。久堂家は宮小路家の分家でありながら、異能者の家として強い影響力を持っていたことが、彼らの不満の種になっていた。特に清霞が薄刃家の血を引く美世を妻に迎えたことで、その不満はさらに膨らんでいた。弧門は清霞に気を悪くしないようにと声をかけたが、清霞にとっては宮小路家に来るたびに繰り返される光景であり、もはや慣れたものだった。
料亭での騒動
茶会の後、宮小路家の一部の男たちは街へ繰り出し、行きつけの料亭へと向かった。すでに酔っていた彼らは、店が準備中であるにもかかわらず無理やり押し入り、騒ぎ始めた。彼らは久堂家への不満を酒の肴にしながら、品のない言葉を交わしていた。さらには給仕の女性に対して横暴な態度を取り、手を上げるまでに至った。その場の空気が悪化する中、突如として異国の青年が現れた。
ユージンの提案
その青年はユージンだった。彼は男たちと親しげに振る舞いながら、彼らの不満を聞き入れた。そして、久堂家に対して何らかの行動を起こすことを示唆し、男たちにある提案を持ちかけた。男たちはその提案に興味を示し、不穏な笑みを浮かべながら同意した。ユージンは男たちの反応を見届けると、一歩引いた位置から彼らを観察し、冷ややかに肩をすくめた。こうして、久堂家に対する何らかの陰謀が動き出そうとしていた。
四章 宮小路の夢
五道からの報せと清霞の迷い
茶会のあった午後、美世と清霞は与えられた客間で穏やかな時間を過ごしていた。美世が用意した茶を前に、清霞は五道からの返事が届いたことを伝えた。その書簡には細かい文字で多くの情報が詰め込まれており、美世には読み取るのが困難であった。清霞の説明によれば、五道はユージンという青年を知っているらしく、「シャーマン」の言葉にも心当たりがあるようだった。しかし、その詳細を手紙には書ききれず、直接話したいと旧都への訪問を望んでいた。
清霞は、帝都を離れることの難しさから決断をためらっていた。土蜘蛛の件もある以上、対異特務小隊を率いる五道が軽々しく動くわけにはいかない。一方で、ユージンが単なる軽薄な男である可能性も否定できず、過剰に警戒する必要はないとも考えられた。美世もまた、五道の言う青年とユージンが本当に同一人物か確証がないことを指摘し、五道を呼び寄せるには決め手に欠けると認識していた。
旧都の街への期待
話を終えた清霞は、美世に茶会で何か問題がなかったかを尋ねた。美世は婦人たちが親切で楽しい時間を過ごせたことを伝え、清霞は安堵した。すると、美世は旧都に滞在している間に街を見て回りたいと申し出た。清霞はそれを快く承諾し、美世が訪れたい場所を尋ねた。美世は生国神社を挙げたものの、それ以外の名所を知らず、言葉を濁してしまう。そんな美世に微笑みながら、清霞は自らのおすすめの場所を案内すると提案し、美世は喜びを隠せなかった。
婦人たちとの会話と衣づ子の問題
夕方、美世は母屋に呼ばれ、都子をはじめとする婦人たちとのお茶会に参加した。会話は和やかに進んでいたが、都子が深刻な話を持ち出した。宮小路家には、衣づ子という少女が幼い頃から深い眠りにつくことができず、成長が遅れているという。婦人たちは薄刃家の異能について聞き及んでおり、美世に何か対処法を知らないかと尋ねた。美世は自身に専門的な知識はないものの、夢見の異能を使えば助けられるかもしれないと答えた。
美世は異能を使うことを避けていたが、目の前で苦しむ少女を放置することもできなかった。異能の使用は今回限りにしてほしいと前置きした上で、衣づ子の症状を確認するため、直接会って話を聞くことになった。
衣づ子との対面と異能の発動
美世は都子とともに衣づ子の部屋を訪れた。そこには、七、八歳ほどにしか見えない小柄で痩せ細った少女がいた。衣づ子は寝つきが悪く、ようやく眠れても悪夢によって目を覚ましてしまうという。美世は彼女の夢を視るために異能を使うことを提案し、衣づ子は期待に満ちた表情で了承した。
異能を発動し、衣づ子の夢へと意識を沈めると、そこには歪んだ景色と悲鳴、暴力の記憶があった。美世はその悪夢を少しずつ浄化し、二度と衣づ子を苦しめないよう願いを込めた。現実へ戻ると、衣づ子は初めて安らかな寝顔を見せていた。都子は涙ぐみながら感謝し、美世も彼女の安眠を確認して安堵した。
「異端」という言葉の意味
美世は衣づ子の夢の中で「異端」という言葉を耳にした。それが何を意味するのか気になり、都子に尋ねると、彼女の表情が一変した。「異端」という言葉は宮小路家の秘密に関わるものであり、都子の一存では話せないという。美世が詳しく知りたいなら、当主である弧門に直接尋ねるべきだと告げた。美世はその言葉を胸に刻み、後日、弧門に会うことを決意した。
清霞の訪問と妖刀の修復
その頃、清霞は対異特務第二小隊の屯所を訪れ、隊長の光明院と面会していた。光明院は旧都の軍施設内に屯所を構える隊の指揮官であり、清霞とは旧知の仲であった。清霞は彼に、土蜘蛛の封印が解けた際に取り戻した妖刀「雪日刀」を見せ、その力を失っていることを伝えた。光明院は妖刀の回復には専門の術者が必要であることを理解し、清霞は次に「御師さま」と呼ばれる異能者の元を訪れた。
御師さまは盲目の老人でありながら、術具の修復を専門とする技術者であった。彼は雪日刀の状態を確認し、破損はしていないものの、力を取り戻すには時間がかかると判断した。清霞は妖刀を完全に回復させるため、御師さまに修復を依頼し、預けることを決めた。
美世の変化と弧門への依頼
その夕方、美世は婦人たちとの会話を終えた後、迎えに来た清霞とともに客間へ戻った。清霞は美世の顔色が優れないことに気づき、何かあったのではないかと問いかけた。美世は迷った末に、弧門に会って確かめたいことがあると伝えた。清霞は怪訝な表情を浮かべたが、美世の強い意志を感じ、話を通すことを約束した。
すると突然、清霞は美世を腕の中に抱き寄せ、異能を使ったのかと問いただした。美世は衣づ子のために自らの判断で異能を使ったことを認め、これからも必要であれば躊躇せずに使うつもりだと告げた。そして、もし清霞が助けを必要とする時が来たら、自分も彼の手を取って支えたいと伝えた。清霞は美世の言葉に目を見開き、彼女の決意を受け止めた。
清霞は美世を深く抱きしめ、彼女を誰よりも信じていると誓った。二人は夏の夜風に吹かれながら、互いの存在を確かめ合い、そっと歩みを進めていった。
五章 宮小路、最大の罪
旧都の街並みと散策
美世と清霞は旧都を訪れ、その独特な街並みを堪能していた。駅周辺には洋風の建築が並び、華やかな雰囲気を醸し出していたが、一歩脇道へ入ると歴史を感じさせる古い神社や仏塔が立ち並んでいた。帝都と比べ、旧都は山々に囲まれ、閉塞感があるものの、その景観には趣があった。二人は神社や寺を巡りながら、穏やかな時間を過ごしていた。
不穏な気配と襲撃
清霞が帝都からの連絡を受けるために美世のもとを離れると、彼女は見知らぬ男たちに囲まれた。彼らは美世を「薄刃の血を持つ者」として宮小路本家に迎えるべきだと主張し、彼女を連れ去ろうとした。美世は抵抗を試みたものの、男たちの力には敵わず、腕を掴まれて引きずられそうになった。
清霞の救出と制裁
美世の窮地に駆けつけた清霞は、躊躇なく男たちを殴り飛ばし、美世を救出した。男たちは術を使おうとしたが、清霞の圧倒的な戦闘力の前に成すすべもなく倒された。清霞の怒りは凄まじく、男たちを許す気はなかったが、美世の制止により命までは奪われなかった。
宮小路家の動揺と謝罪
清霞は男たちを宮小路家へ引きずり、当主の弧門に責任を問うた。弧門は平伏し、宮小路家の過ちを謝罪した。彼は、宮小路家の者たちが久堂家に対して根深い劣等感を抱いていることを認め、この事件がその感情の暴走によるものであると説明した。美世は弧門の真摯な謝罪を受け入れたが、清霞は宮小路家への信頼を完全に失っていた。
宮小路家の過去と罪
弧門は、美世の異能によって見た「衣づ子の悪夢」が、宮小路家の過去に関係していることを認めた。かつて宮小路家は異能を強化する研究を行い、人体実験を繰り返していた。その結果、異能者の「なりそこない」として額に角を持つ「異端の宮小路」が生まれるようになったという。その短命な体質と異能の不安定さは、宮小路家が過去に犯した罪の証であった。
異能心教とのつながり
さらに、弧門は六十年前に宮小路家から「異端の者」が出奔し、持ち出された研究資料が異能心教の研究に影響を与えた可能性を示唆した。甘水直が率いた異能心教は、宮小路家の過去の研究をもとに異能の強化を試みていたのではないかという疑念が浮上した。清霞はこの事実を重く受け止め、宮小路家の罪が今もなお影響を及ぼしていることに憤った。
ユージン・ウォードの関与
美世は、襲撃した男たちが「ウォードどの」の名を口にしていたことを思い出し、弧門に尋ねた。すると、清霞は五道から聞いていた異国人「ユージン・ウォード」の存在と一致すると指摘した。ユージンが宮小路の者たちと接触し、美世に近づいた理由は不明だったが、何らかの企みがあることは明白であった。
宮小路の婦人たちの支え
事件後、美世は宮小路家の婦人たちから温かい励ましを受けた。都子をはじめとする婦人たちは、美世の身を案じ、彼女を守ると誓った。彼女たちは美世が助けた衣づ子のことを感謝し、宮小路家の男たちの横暴を非難した。美世は婦人たちの温かさに触れ、わずかに安堵した。
清霞との誓い
夜、清霞の腕の中で美世は安らぎを得た。彼は美世を強く抱きしめ、「私以外の誰かにさらわれるな」と念を押した。美世もまた、「清霞さんだけにさらわれます」と微笑み、彼の腕の中で安心して眠りについた。しかし、翌朝、美世は目を覚ますことができなかった。
六章 繫がる夢
目覚めない美世
清霞は朝目覚めたが、妻の美世が普段とは異なり、まだ眠り続けていることに気づいた。彼女の脈はあるものの、反応がなく、何度呼びかけても目覚める気配がなかった。異能の影響を疑いながらも、清霞は焦燥に駆られ、ただ彼女が目を覚ますことを願うしかなかった。
異国の森の夢
美世は気がつくと、見知らぬ森の中にいた。その森は現実のものとはどこか異なり、彼女はこれが夢であることを察する。そこに現れたのは、数日前に出会ったユージンという異国の青年であった。彼は美世が特別な力を持つことを認識し、その才能を評価している様子だった。彼は彼女を自らの仲間へと誘おうとするが、美世は警戒し、慎重に対応した。
ユージンの異能と目的
ユージンは自らが異能を持ち、他者の夢に入り込む能力があることを明かした。彼は美世の夢見の異能と自分の力をつなげ、夢の中で会話できる状況を作り出したと説明する。さらに、彼の一族がかつてシャーマンとして人々を導いていたこと、そして今でもその力を求められていることを語る。美世は彼の話を静かに聞くが、彼の真の目的が読めず、疑念を抱いた。
シャーマンの血を引く者としての誘い
ユージンは美世の異能が極めて貴重であることを強調し、彼女を自らの組織へと勧誘する。しかし、美世は自身の異能を利用されることを望んでおらず、これ以上異能に振り回される生活をするつもりはないと断言した。ユージンは彼女の反応を観察しながら、もう一人会ってほしい人物がいると提案する。
花畑と謎の女性ディアナ
美世が導かれた先には、一面の花畑が広がっていた。その中心にある東屋に佇んでいたのは、黒いドレスをまとった神秘的な女性・ディアナであった。彼女は自らを魔女と名乗り、女神を降ろすための儀式にシャーマンの力が必要であると説明する。ディアナは美世に協力を求めるが、美世は自身の願いは女神の力を借りるものではないと考え、申し出を拒絶した。
清霞と五道の推理
その頃、清霞の元には五道が訪れていた。美世が目覚めない状況を聞いた五道は、ユージンの異能が関係している可能性を示唆する。彼の一族が薄刃家と似たような力を持つとすれば、美世を夢の中に閉じ込めることも不可能ではないと推測した。清霞はすぐに行動を起こし、ユージンの捕縛を決意する。
ディアナの思惑
美世に断られたディアナは、彼女が自らの意志で協力する可能性は低いと判断した。しかし、美世ほどの逸材を逃すつもりはなく、別の手段を考え始める。彼女はユージンとともに、美世を揺さぶる方法を模索し、次の手を打とうとしていた。
七章 追いかけてくる過去
目覚めた美世
美世は身体の重さと喉の渇きを感じながら目覚めた。外の光はすでに午後のものであり、彼女は自分が半日以上も眠っていたことに驚いた。座敷の襖が開き、都子が現れると、彼女は美世が無事に目覚めたことを安堵した。続いて弧門が訪れ、清霞が出かけていることを伝える。美世は自らの行動が清霞にどれほどの不安を与えたかを痛感し、後悔の念に駆られた。
都子の看病と食事
都子は美世の体調を気遣い、飲み物と軽食を勧めた。美世は久々の食事に空腹を覚え、都子が用意した玉子粥を口にした。昆布出汁が効いた優しい味に安心しながら、あっという間に平らげた。都子は美世が食欲を取り戻したことを喜び、体調が戻った証拠だと語る。美世は清霞の帰りを待ちながら、彼に謝罪すべきかと考え続けた。
清霞との再会
日が傾いた頃、清霞が屋敷に戻った。襖が開くと、美世は彼の姿を見た瞬間、反射的に駆け寄り抱きついた。清霞の指先は微かに震えており、美世は彼の不安と恐怖を悟った。清霞は美世が目を覚まさなかったことで、彼女を失うのではないかという絶望に襲われたと告げた。美世は深く反省し、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓った。
報告会と魔女の存在
清霞、五道、弧門と共に、美世は夢の中で起こった出来事を報告した。ユージンとの対話、ディアナとの出会い、そして彼女が語った女神降ろしの儀式について詳しく説明する。五道は魔女の派閥について語り、ディアナが属する派閥が女神信仰を重視していることを推測した。異能を持つユージンが彼女と協力している可能性も高く、今後の動向を警戒すべきだと確認された。
ユージンの追跡計画
清霞と五道は軍の権限を使い、ユージンの足取りを追っていた。その結果、彼の宿泊先を特定し、監視を続けていた。清霞はユージンの出入りを監視するための張り込み計画を立て、美世は自らも協力を申し出た。しかし、清霞は彼女の安全を優先し、実戦経験のない者が関与するのは危険だとして拒絶した。美世は悔しさを覚えたが、清霞の判断を受け入れるしかなかった。
ユージンの確保と妨害
夜が更ける頃、ユージンが宿泊先から出たのを確認し、清霞と五道は彼を捕縛しようとした。ユージンは余裕の態度を見せながらも、五道によって腕を捻り上げられた。だが、その瞬間、甘い香りとともに白い靄が立ち込め、視界を奪われた。靄の中で式が舞い、五道が咳き込みながらユージンを取り逃がしてしまう。清霞はこの妨害がユージンの仲間によるものだと判断し、ディアナの関与を疑った。
新たな協力者目覚めた美世
美世は身体の重さと喉の渇きを感じながら目覚めた。外の光はすでに午後のものであり、彼女は自分が半日以上も眠っていたことに驚いた。座敷の襖が開き、都子が現れると、彼女は美世が無事に目覚めたことを安堵した。続いて弧門が訪れ、清霞が出かけていることを伝える。美世は自らの行動が清霞にどれほどの不安を与えたかを痛感し、後悔の念に駆られた。
都子の看病と食事
都子は美世の体調を気遣い、飲み物と軽食を勧めた。美世は久々の食事に空腹を覚え、都子が用意した玉子粥を口にした。昆布出汁が効いた優しい味に安心しながら、あっという間に平らげた。都子は美世が食欲を取り戻したことを喜び、体調が戻った証拠だと語る。美世は清霞の帰りを待ちながら、彼に謝罪すべきかと考え続けた。
清霞との再会
日が傾いた頃、清霞が屋敷に戻った。襖が開くと、美世は彼の姿を見た瞬間、反射的に駆け寄り抱きついた。清霞の指先は微かに震えており、美世は彼の不安と恐怖を悟った。清霞は美世が目を覚まさなかったことで、彼女を失うのではないかという絶望に襲われたと告げた。美世は深く反省し、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓った。
報告会と魔女の存在
清霞、五道、弧門と共に、美世は夢の中で起こった出来事を報告した。ユージンとの対話、ディアナとの出会い、そして彼女が語った女神降ろしの儀式について詳しく説明する。五道は魔女の派閥について語り、ディアナが属する派閥が女神信仰を重視していることを推測した。異能を持つユージンが彼女と協力している可能性も高く、今後の動向を警戒すべきだと確認された。
ユージンの追跡計画
清霞と五道は軍の権限を使い、ユージンの足取りを追っていた。その結果、彼の宿泊先を特定し、監視を続けていた。清霞はユージンの出入りを監視するための張り込み計画を立て、美世は自らも協力を申し出た。しかし、清霞は彼女の安全を優先し、実戦経験のない者が関与するのは危険だとして拒絶した。美世は悔しさを覚えたが、清霞の判断を受け入れるしかなかった。
ユージンの確保と妨害
夜が更ける頃、ユージンが宿泊先から出たのを確認し、清霞と五道は彼を捕縛しようとした。ユージンは余裕の態度を見せながらも、五道によって腕を捻り上げられた。だが、その瞬間、甘い香りとともに白い靄が立ち込め、視界を奪われた。靄の中で式が舞い、五道が咳き込みながらユージンを取り逃がしてしまう。清霞はこの妨害がユージンの仲間によるものだと判断し、ディアナの関与を疑った。
新たな協力者
ユージンは辛うじて現場から離脱し、夜の闇の中でディアナと合流した。ディアナはユージンを助けたことを誇示しつつ、新たな協力者を紹介する。闇の中から現れたのは「タカオ」と名乗る男であり、無精髭を生やした不審な風貌の人物であった。ディアナは彼を「役に立つ存在」として紹介し、ユージンは彼の実力を見極める必要があると考えた。
ユージンは辛うじて現場から離脱し、夜の闇の中でディアナと合流した。ディアナはユージンを助けたことを誇示しつつ、新たな協力者を紹介する。闇の中から現れたのは「タカオ」と名乗る男であり、無精髭を生やした不審な風貌の人物であった。ディアナは彼を「役に立つ存在」として紹介し、ユージンは彼の実力を見極める必要があると考えた。
終章
五道の焦燥と稽古
宮小路家の庭に、木刀がぶつかり合う音が響いていた。五道は上半身裸で汗を滴らせながら、清霞へと猛然と打ち込んでいた。清霞もまた軽装で木刀を構え、五道の攻撃を受け流しながら応戦していた。
美世は縁側からその様子を見つめ、五道の様子に違和感を覚えた。昨夜、清霞たちはユージンの捕縛に向かったが、取り逃がし、帰宅時には二人とも沈んだ表情をしていた。特に五道は、不機嫌そうに唇を引き結び、帰るなり清霞に稽古を頼んでいた。
普段は陽気な五道の様子が違うことから、美世は彼がユージンを逃がした責任を感じ、自身の力不足を痛感しているのではないかと推測した。
激しい打ち合いと五道の敗北
五道は全力で打ち込んでいたが、清霞は危なげなく対応し続けていた。彼らの動きは、常人には到底真似できるものではなかった。しかし、やがて疲労が蓄積し、五道は清霞に木刀を弾き飛ばされた。肩で息を切らしながらも、清霞が飛ばされた木刀を拾い上げる。その清霞も、わずかに息が上がっていた。
清霞は五道の戦い方に無駄な力が入りすぎていると指摘した。五道は深いため息をつきながら、それを認め、肩を落とした。
縁側での休息と回想
休憩を促した清霞は、縁側に腰を下ろした。美世は彼と五道に手ぬぐいを渡し、彼らは汗を拭いながら息を整えた。五道は突然の稽古の申し出を謝罪したが、清霞は「今のお前には必要だったのだろう」と静かに答えた。
庭のせせらぎが静寂の中に響く。やがて清霞が何気なく口を開き、五道と打ち合うのは久しぶりだと述べた。五道は額の汗を拭いながら笑みを浮かべ、かつて清霞に何度も一方的に挑んでいた時期を思い出した。二人は五、六年前の記憶をたどりながら、静かに語り合った。
美世はその会話に耳を傾けながら、穏やかな時間を過ごしていた。
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