どんな本?
『盾の勇者の成り上がり 15』は、異世界ファンタジー小説である。主人公の岩谷尚文は、仲間たちと共に数々の試練を乗り越え、拠点の村へと戻る。住民の強化や治安回復に努める中、突如として現れた四霊の一つである鳳凰との戦いが描かれる。
主要キャラクター
- 岩谷尚文:盾の勇者として異世界に召喚された青年。仲間と共に世界を守るため奮闘する。
- ラフタリア:亜人の少女で、尚文の最初の仲間。剣士として尚文を支える。
- フィーロ:フィロリアル・クイーンという鳥型の魔物。明るく元気な性格で、戦闘や荷車引きで活躍する。
- リーシア:元は弓の勇者の仲間だったが、追放され尚文の仲間となる。努力家で成長著しい。
物語の特徴
本作は、異世界召喚や勇者といった王道ファンタジー要素を持ちながら、主人公が盾という攻撃手段を持たない武器を扱う点が特徴的である。また、仲間との絆や成長、逆境からの立ち直りが丁寧に描かれており、読者に深い感動を与える。
出版情報
- 出版社:KADOKAWA
- 発売日:2016年09月23日
- レーベル:MFブックス
- ISBN:9784040686387
- 関連メディア展開:本作はアニメ化もされており、2019年1月から6月まで第1期が放送された。さらに、2022年4月から6月に第2期、2023年10月から12月に第3期が放送された。第4期は2025年7月に放送予定である。
読んだ本のタイトル
盾の勇者の成り上がり 15
著者:アネコ ユサギ 氏
イラスト:弥南 せいら 氏
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あらすじ・内容
とうとう現れた鳳凰! 予想外の大きすぎる代償とは!?
騒動を乗り越え、再び拠点の村に戻った尚文。住民の強化や、留守中に悪化した国の治安回復に努めるのだった。
仲間が増えた事もあり、鳳凰戦に向けて人員の配置を決める尚文だったが、それに異を唱える者が現れる。
「俺だってお前等を守れる確信が無い。生きて帰る覚悟の無い奴は参加するな!」
すれ違う仲間達は、ぶつかり合う事で絆を深めていく。
そして、とうとう姿を現した鳳凰。この日の為に丹念に準備をしてきた尚文達だったが、まさかの展開が待っていた……!
想像を超える悲しみが尚文を襲う!? 異世界成り上がりファンタジー第十五弾、登場!!
物語の概要
盗賊問題
- 尚文が村に戻り、住民たちの仕事を確認。
- シルトヴェルトでの混乱が収まり、ようやく帰還。
- 村の発展が進むが、盗賊の増加が問題となる。
- 錬、樹、リーシアが盗賊の被害について報告。
- 交易が活発化するにつれ、商隊が標的にされる。
- 尚文が状況を分析し、解決策を模索。
- 捕らえた盗賊の更生を試みる。
- 交渉と支援により、一部の盗賊を協力者として迎える。
- 盗賊を義賊として活用し、治安維持を試みる。
- 悪徳商人を取り締まり、貧しい村への支援を実施。
- 村の発展と食文化の向上。
- 尚文がクレープを作り、住民に振る舞う。
- キールが騒動を起こし、村に新たな活気が生まれる。
ラフ種爆誕
- 桜光樹の植林が失敗。
- ラトがバイオプラントとの掛け合わせを提案。
- 竜帝の欠片の収集が重要に。
- レベル上限突破の可能性が示唆される。
- 尚文が盾のロックを解除。
- ドラゴン系統の装備が解放。
- 魔物のクラスアップが進行。
- ラフちゃんが干渉し、新たなラフ種が誕生。
- ラフタリアが拒絶し、逃亡を試みる。
- 尚文のスキル「カモンラフ」により阻止。
領地の改革
- 魔物舎が手狭になり、新施設の建設を決定。
- フィロリアル専用の魔物舎を新設。
- 領地改革スキルの活用。
- 建物の配置変更と桜光樹の植樹。
- ラフ種の成長が進み、新たな盾「ラフシールド」が解放。
- ルフトがラフちゃんのクラスアップを試みる。
- フォウルがアトラを守る決意を固める。
- 尚文と協議の末、戦闘参加を防ぐ。
- 盗賊フィロリアルの問題が発生。
- フィトリアが尚文に解決を依頼。
霊亀甲
- クテンロウの武器工房を訪問。
- 錬が鍛冶を学び、霊亀剣を入手。
- 尚文が新たな鎧を獲得。
- 霊亀の力を取り入れた「霊亀甲」が誕生。
- フィトリアの依頼に向け、夜の山岳地帯へ。
- 盗賊フィロリアルと遭遇し、元康が登場。
フィトリアの依頼
- 元康の痛馬車との遭遇。
- フィーロの愛馬車が魔改造され、彼女が絶望。
- フィーロがレースを受諾。
- 崖を飛び越える大胆な走行で勝利を収める。
- 元康の魅了スキル「テンプテーション」が発動。
- ルフトが影響を受け、ラフちゃんに愛を誓う。
- 尚文の策略により、元康の槍を変えさせる。
- フィーロの説得が成功し、暴走が収束。
鳳凰戦の準備
- 鳳凰戦に向け、戦力を集結。
- 各国の軍と勇者たちが現地に集結。
- 鳳凰の封印に関する調査を進める。
- 過去の勇者の日記が不完全で、重要な情報が欠落。
- 七星武器「小手」の所持者を決定する試み。
- フォウルが挑戦し、勇者として認められる。
鳳凰決戦
- 鳳凰が封印から復活。
- 低高度と高高度に分かれた戦闘が始まる。
- 尚文が防御を担当し、勇者たちが攻撃を展開。
- 儀式魔法の使用で鳳凰の耐久力を削る。
- 高高度の鳳凰が突如光に撃ち抜かれる。
- 低高度の鳳凰が自爆形態へ移行。
- アトラが盾となり、爆発を防ぐ。
- 彼女の犠牲により、戦場が救われる。
盾になった少女
- アトラの死により、尚文とフォウルが衝突。
- フォウルが尚文を責めず、彼女の意志を尊重。
- 尚文の盾にアトラの力が宿る。
- 「慈悲の盾」が解放され、仲間たちを強化。
- 尚文が復讐を誓い、鳳凰を撃ち抜いた者の正体を追う。
- 錬とともに調査を進める。
- ラフタリアが尚文の悲しみを共有。
- 尚文が彼女を抱きしめ、涙を流す。
- 尚文は、アトラの願いを胸に刻み、新たな戦いへと進む。
感想
勇者たちの結束と鳳凰戦の展開
本巻では、四聖勇者がついにまとまり、共通の目標として鳳凰討伐に挑むこととなった。
尚文の指揮のもと、各勇者が連携しながら戦闘に臨む様子は、これまでの戦いとは異なる団結の力を感じさせた。
特に錬や樹の成長が見られ、単独行動の多かった彼らがチームの一員として機能する展開は興味深い。
鳳凰の特性を分析しながら戦略を組み立てる場面では、尚文の知略が光り、彼が経験を活かして戦いに臨む姿が描かれていた。
アトラの決意と壮絶な最期
鳳凰戦の終盤で、アトラが尚文を守るために命を落とす展開は、心に深く刻まれるものとなった。
彼女は尚文の盾として戦い、自らを犠牲にすることで仲間を救った。
その決意は強く、フォウルをはじめとする仲間たちにも大きな影響を与えた。
特にフォウルがアトラの意志を継ぎ、伝説の小手を得る展開は、彼の成長と今後の活躍を予感させるものであった。
尚文はアトラの死に深く傷つきながらも、その想いを無駄にしないために前へ進むことを決意する。
この悲劇的な出来事が、彼の新たな盾「慈悲の盾」解放へとつながる流れも印象的であった。
ラフ種爆誕とフィロリアルの増殖
戦闘の合間には、尚文の村での平和な日常が描かれた。
ラフ種の誕生や、フィロリアルの増殖による混乱は、物語にコミカルな要素を加えていた。
特に、元康が大量のフィロリアルを引き連れて村へ移住する場面は、彼の異常なフィロリアル愛が再確認できる場面であった。
一方で、村の発展に関する尚文の戦略的な視点も描かれ、単なる戦いだけでなく、領地経営の要素も物語の大きな部分を占めていた。
鳳凰戦における謎の介入者
鳳凰戦では、突如として飛来した光が戦況を変え、尚文たちは思わぬ苦境に立たされることとなった。
この横槍を入れた存在が誰なのか、その目的は何なのかが明かされないまま物語が進んだ点が、今後の展開への期待を高めた。
尚文はアトラの死を受け止めながらも、彼女を奪った者への復讐を誓い、その決意が次なる戦いへとつながることが示唆されていた。
総括
本巻は、勇者たちの結束と成長、鳳凰戦という大きな戦い、そしてアトラの死という衝撃的な出来事が重なり、物語の転換点となる重要な一冊であった。
尚文が新たな盾を得て、次なる敵へ向かう展開は期待が高まる。
横槍を入れた者の正体や、尚文がどのようにして復讐を果たすのか、今後の展開が楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ 盗賊問題
朝の村の管理と指示
尚文は村の住民たちを集め、各自の仕事を確認した。シルトヴェルトでの混乱を収めた後、ようやく村に戻ることができたが、その間にいくつかの問題が発生していた。村の住民たちは元気に活動しており、ラフタリアが尚文のもとに相談を持ちかけた。彼女はかつて奴隷だったが、現在はクテンロウの天命として即位し、刀の眷属器を持つ立場となっていた。
盗賊問題と相談
剣の勇者である錬、弓の勇者である樹、そしてリーシアが尚文のもとへ訪れ、最近の盗賊の増加について報告した。クテンロウやシルトヴェルトでの交易が活発になるにつれ、盗賊の襲撃も増えていた。商隊が狙われる頻度が高くなり、商人たちからの相談が相次いでいた。尚文は状況を分析し、根本的な解決策を考え始めた。
犯罪者更生村での交渉
尚文は、以前捕らえた盗賊の一人を更生村へ訪れ、彼を説得しようと試みた。最初は頑なに拒否していた盗賊だったが、尚文の巧みな交渉と、クラスアップや資金援助の提案に心を揺さぶられた。さらに、尚文は彼に食事を振る舞い、盗賊の心を和らげた。最終的に、盗賊は尚文の計画に協力することを決めた。
義賊組織の立ち上げ
尚文は、盗賊を単なる犯罪者ではなく、悪徳商人やならず者を取り締まる「義賊」として活動させることを考案した。盗賊たちは悪質な商人のみを標的にし、奪った物資の一部を貧しい村へ寄付することで、世間からの支持を得る方針を立てた。尚文はこの計画を「治安維持」として進めることを決定し、錬やラフタリアもそれに巻き込まれる形となった。
村での新たな発展と料理
村に戻った尚文は、交易の収支を確認しながら、村の発展を実感した。住民たちの働きぶりを評価し、報酬として自ら料理を振る舞った。尚文は新たなデザートとして「クレープ」を作り、村の住民たちに振る舞ったが、キールがそれを落とし、大騒ぎとなった。食事を巡るドタバタの後、尚文は新しい計画のために研究所へ向かうことにした。
ラフタリアの従兄弟との対話
ラフタリアの従兄弟であるルフトミラも村に滞在しており、尚文は彼と交流を深めた。彼は以前クテンロウの天命として愚かな政策を行っていたが、今は村で静かに暮らしていた。尚文は彼に興味を持ち、どのように利用できるかを考えていた。
新たな計画の準備
錬と別れた尚文は、ウィンディアやルフトと共に研究所へ向かった。クテンロウで得た物資の整理や、新たな計画の準備を進めるためである。これからの動きが、村の発展や盗賊の取り締まりに大きく影響することとなる。
一話 ラフ種爆誕
研究所での報告と桜光樹の問題
尚文はラトの研究所を訪れ、彼女から桜光樹の植林が失敗していることを報告された。クテンロウ固有の植物である桜光樹は、差し木を試みた瞬間に枯れてしまい、原因は不明だった。ラトはバイオプラントとの掛け合わせを提案し、そのためには尚文や他の勇者の協力が必要であると説明した。尚文はこの提案に同意し、後ほど取り組むことを約束した。
竜帝の欠片とレベル上限突破の可能性
ガエリオンは、竜帝の欠片を集めることで強さや知識を得られることを改めて説明した。さらに、失われた欠片の中にレベル100の限界を突破するための知識が含まれている可能性があると述べた。勇者以外の者は基本的にレベル100で成長が止まるが、竜帝の力を利用することでこの制限を超えられるかもしれないという。尚文はこの情報に関心を示し、欠片を集めることを検討することにした。
盾のロック解除とドラゴン系統の解放
ガエリオンは、フィトリアによって施された盾のロックを解除することを提案した。フィロリアルシリーズが解放された代わりに、ドラゴン系統の盾が封じられていたことが判明した。ガエリオンの力を借りてロックを解除すると、ドラゴンレザーシールドや竜使いの盾などの新たな装備が解放された。特に竜使いの盾にはドラゴンの成長補正が付与されており、ガエリオンの能力をさらに強化できることが分かった。
魔物のクラスアップとガエリオンの加護
ラトは村の魔物たちがレベル40に達しており、クラスアップの時期が来ていると報告した。魔物たちは尚文の指導のもと、特別なクラスアップを望んでいた。ガエリオンは竜脈法の加護を勇者たちに施す予定であり、これにより魔物の成長を補助できることも判明した。尚文はこの提案を受け入れ、魔物たちをクラスアップさせるために龍刻の砂時計へ向かうことを決めた。
ラフ種の誕生と魔物の進化
魔物のクラスアップが始まると、ラフちゃんが突如干渉し、キャタピランドのクラスアップに影響を与えた。結果として、元キャタピランドはラフちゃんに似た姿へと進化し、能力値が大幅に上昇した。この現象により、魔物たちの間でラフちゃんの影響を受けたクラスアップが望まれるようになった。尚文はこの状況を受け入れ、新種の魔物を「ラフ種」と命名した。
ラフタリアの困惑と逃亡未遂
ラフ種の増加に対し、ラフタリアは強い拒否反応を示した。彼女はラフちゃんを連れて龍刻の砂時計を利用し、逃亡を試みたが、尚文の新たなスキル「カモンラフ」によってラフちゃんはすぐに戻された。ラフタリアは絶望しつつも、最終的には状況を受け入れざるを得なかった。
村への帰還と新たな混乱
クラスアップを終えた尚文たちは村へ戻った。しかし、ラフ種の増加は村にさらなる混乱をもたらした。ウィンディアやガエリオンも困惑し、ラフタリアは嘆いたものの、最終的には新たな魔物たちの存在を受け入れるしかなかった。こうして尚文の村には、ラフちゃんに酷似した魔物たちが多数存在することとなった。
二話 領地の改革
魔物舎の拡張と多様性の問題
尚文は帰還後、村の魔物舎を確認し、魔物の増加に伴い手狭になっていることを実感した。現在、魔物舎のほとんどがラフ種で占められており、フィロリアルやガエリオンが居場所を失いつつあった。ウィンディアは、魔物の多様性を確保するため、別種の魔物を管理する必要があると提案し、ラトも研究の観点から同意していた。特に、尚文がラフちゃんを溺愛していることが、魔物たちのラフ種化を促している可能性が指摘された。尚文は、錬や樹に魔物の世話や魔物紋の登録を任せることで、魔物の偏りを防ぐ方針を決定した。また、フィロリアル専用の魔物舎を建設することを決めた。
領地改革のスキルと魔物舎の建設
尚文はシルトヴェルトで入手した獣王の盾のスキル「領地の改革」を思い出し、その効果を試すことにした。スキルを発動すると、村の地図が視界に浮かび、建物の移動や設置、作成が可能であることが判明した。手持ちの素材を利用して、フィロリアル用の魔物舎を作成し、適切な場所に設置した。さらに、献上ポイントを消費してバイオプラントと桜光樹を合成し、村を囲むように植えることで、防壁を形成する効果を確認した。桜光樹の光は村を照らし、住民たちを驚かせたが、結果的に村の環境は大きく改善された。
ラフ種の成長とラフシールドの解放
尚文はラフ種のさらなる強化を考え、アクセサリー作りに取り組んでいた。そこへルフトとラフちゃんが訪れ、ラフちゃんが尚文に新たなアイテムを渡した。それを盾に取り込むと、「ラフシールド」をはじめとする複数の盾が解放され、ラフ種の成長補正が付与された。さらに、ルフトはラフちゃんのクラスアップを試みたいと述べ、尚文もそれに賛同した。ラフちゃんは尚文とルフトの希望に応えるかのように成長し、フィーロ並の大きさへと変化した。しかし、ラフタリアはこの変化を快く思わず、尚文とルフトを強く非難した。
フォウルの決意とアトラへの想い
深夜、フォウルが尚文のもとを訪れ、アトラを危険な戦いに巻き込むのをやめてほしいと訴えた。フォウルは、尚文の戦いがあまりに無謀であり、アトラを危険にさらしていることに不満を抱いていた。尚文は、アトラを戦わせないというフォウルの願いを受け入れ、その代わりにフォウル自身がアトラを守ることを条件とした。フォウルはこの提案を受け入れ、アトラの暴走を止める決意を固めた。
フィーロの依頼と盗賊フィロリアルの問題
翌日、メルティとフィーロが村を訪れ、フィトリアからの依頼を伝えた。最近、夜に馬車を奪う盗賊フィロリアルが現れ、問題となっていたという。その盗賊は積み荷を狙わず、馬車のみを奪い去るという異常な行動を取っており、負けた者の馬車を持ち去る習性があることが判明した。フィトリアは尚文にこの問題の解決を依頼しており、尚文は翌晩の出発を決めた。一方、ルフトはメルティとの対話を通じて、王族としての知識を学ぶこととなった。
今後の戦力調整と作戦の準備
尚文は、メルティとフィーロに加えて誰を同行させるかを検討した。セインは召喚すれば対応可能であり、錬とエクレールは領主業務に専念させることを決定。樹とリーシアにはカルミラ島へ行かせ、碑文の調査を命じた。その他の同行者は、出発時に適当な者を選ぶことにした。その後、尚文は就寝前のアクセサリー作りに戻った。
三話 霊亀甲
修行の進展とクテンロウへの訪問
尚文は、朝食後にその日の行動を決定した。修行は順調に進んでおり、セインの指導のもとで気の習得が進んでいた。錬は鍛冶技術を学ぶため、クテンロウの武器屋の親父や師匠に会いたいと希望した。尚文は、クテンロウの工房を訪れ、ついでにメルロマルクの店の処理についても考えることにした。
クテンロウの城に到着すると、ラフタリアは天命としての立場から城に留まることになり、尚文と錬だけで武器屋の工房を訪れた。武器屋の親父は快く迎え入れ、元康二号とイミアの叔父が鍛冶作業を進めていた。工房では呪われた剣の改修が進められており、大量の聖水と聖職者による魔法が使われていた。
鍛冶の進行と新たな装備の完成
元康二号とイミアの叔父は、尚文用の鎧の完成を報告した。これは以前のバルバロイアーマーを基に改良されたもので、霊亀の力を取り入れた各種耐性を備え、成長する特性を持つ強化版であった。尚文は鎧を試着し、親父の技術の高さを改めて実感した。
また、尚文が盾をウェポンコピーすると、霊亀の心の盾と融合し、新たな「霊亀甲(覚醒)」が誕生した。これは魔竜の盾よりも優れた性能を持ち、成長する特性を備えていた。錬もまた、師匠が打った霊亀剣を手に入れ、これをコピーすると大幅な性能強化が確認された。これらの武具は、クテンロウの重鎮たちの支援で制作され、代金は支払われていた。
フィトリアの依頼と出発の準備
日が傾いた頃、尚文はフィトリアからの依頼に対応するため、フィーロ、メルティ、ラフタリア、ラフちゃん、アトラ、ルフトを連れて夜の山岳地帯へ向かうことにした。フォウルは修行のため同行できず、セインも疲労が溜まっていたため留守番とした。尚文は、依頼の内容に不安を感じつつも、問題解決に向けて準備を整えた。
盗賊フィロリアルとの遭遇
山道を進む一行は、遠くから松明のような光が近づいてくるのを確認した。土煙の中から現れたのは、金色に輝く装飾が施された痛馬車であり、それを引いていたのは赤・青・緑の羽を持つ幼女たちであった。そして、その運転席には、旗を掲げた槍の勇者・元康が座っていた。
四話 フィトリアの依頼
フィトリアの依頼と同行者の選定
尚文は、フィトリアの依頼を受け、夜に出発することを決めた。依頼の内容は、尚文とフィーロがいればすぐに解決するとされていたが、同行者の選定には慎重を期した。ラフタリアやラフちゃんは当然のことながら、アトラも参加を希望した。フォウルは変幻無双流の師匠と修行に出ていたため不在だった。ガエリオンやウィンディアを連れていくと話がこじれそうなため、留守番とした。結局、尚文、ラフタリア、ラフちゃん、アトラ、フィーロ、メルティ、ルフトの編成で出発することとなった。
夜の山道と目的地への移動
目的地はメルロマルクの山岳地域であった。フィーロが馬車を引きながら進み、尚文は改めて自身の鎧姿を確認した。ラフタリアやルフトはその装いを称賛し、種族的な感覚が影響しているのではないかとも思われた。移動中、尚文はフィロリアルの依頼を引き受けることに対して不満を漏らしたが、メルティにたしなめられた。
アトラは敵対する相手を討つつもりでいたが、尚文は懲らしめる程度に留めるよう指示した。戦いの展開は馬車同士の勝負になる可能性が高いため、連れてきた仲間の戦力を考慮しながら慎重に進んだ。
謎の痛馬車との遭遇
山道を進む一行は、遠方から土煙とともに接近する集団を確認した。その姿が徐々に明らかになると、尚文は驚愕した。目の前に現れたのは、金メッキで装飾された痛馬車であり、フィーロのイラストが大きく描かれていた。さらに、馬車にはデコトラのような装飾が施され、異世界には不釣り合いなほど派手に光っていた。
馬車を引いていたのは、見覚えのある三人の幼女のようなフィロリアルだった。そして、運転席には槍の勇者・元康が座り、「走り屋」と自称していた。
五話 走り屋
痛馬車との遭遇とフィーロの絶望
尚文たちは、元康の率いる奇抜な痛馬車と遭遇した。それはかつて彼らが使用していた馬車であり、フィーロの宝物であったが、元康によって派手に魔改造されていた。フィーロはその変貌ぶりに涙を流し、ラフタリアたちも絶句した。元康は「チューン」と称し、自らの愛情を込めて改造したと誇らしげに語ったが、尚文には単なる暴挙にしか見えなかった。
尚文はこの状況を見て逃げ帰ることを決意したが、フィトリアの依頼を思い出し、仕方なく対処することとなった。メルティは元康の狂気に頭を抱え、アトラは妙な愛の深さを感じ取っていた。ルフトも元康の異様さに困惑し、尚文は改めて元康の異常性を再認識した。
元康の「子供」とレースの開始
元康は尚文を「お義父さん」と呼び、フィーロとの関係を歪んだ形で捉えていた。そして、自身の「子供」と称する赤・青・緑のフィロリアルを紹介したが、彼らはあくまで元康の取り巻きであり、本当の子供ではなかった。さらに、元康は女性を「豚」と認識する呪いにかかっており、メルティを「青い子豚」と呼んで彼女の怒りを買った。
元康は尚文にレースを挑み、勝者が相手の「天使」を一人得るというルールを勝手に決めた。尚文は即座に拒否したが、フィーロはその勝負を受けてしまい、レースが始まることとなった。
峠レースの激戦とフィーロの覚醒
フィーロはスタートで大きく遅れを取ったが、尚文は魔法を駆使して彼女を強化した。「リベレイション・オーラ」によりフィーロは加速し、驚異的なスピードで元康を追い上げた。尚文は地図を頼りに最適なルートを指示し、フィーロは馬車の重心を利用しながらカーブを曲がることで速度を維持した。
途中、吊り橋を通る場面では、橋が崩壊しそうになるも、フィーロが機転を利かせて突破した。さらに、五連続ヘアピンカーブではフィーロがジャンプを駆使してショートカットし、尚文たちは激しい揺れに耐えながら進んだ。メルティは恐怖のあまり悲鳴を上げ続け、ラフタリアやアトラも極限状態に追い込まれた。
崖を飛び越えたフィーロの決断
ゴールが近づく中、尚文はフィーロに最後の選択を委ねた。崖を飛び越えれば勝利できるが、失敗すれば転落する危険があった。フィーロは迷うことなく崖へ突っ込み、羽ばたきを利用して滞空しながらショートカットを敢行した。尚文は魔法とスキルを駆使してサポートし、フィーロは見事に崖を越えてゴールに到達した。
勝利と元康の敗北
フィーロは勝利の喜びを爆発させ、馬車の上で踊りながら勝ち誇った。しかし、彼らの馬車はボロボロになり、新たな馬車を手配する必要があった。しばらくして、元康とフィロリアルの三匹が到着し、元康は尚文の勝利を認めて地面に崩れ落ちた。
六話 愛の狩人
フィロリアルの譲渡と元康の拒絶
尚文は勝利の報酬として、元康のフィロリアルのうち最も大人しそうな「みどり」を要求した。しかし、元康は泣き叫びながら三匹を抱きしめ、譲渡を拒否した。尚文自身もフィーロ一匹で手一杯であり、実際には新たなフィロリアルを必要としていなかったが、元康を保護する目的もあったため、形だけ要求したに過ぎなかった。結局、元康の号泣を前に、尚文は諦めることとなった。
突如発動した元康の魅了スキル
元康は突如槍を振り回し、「テンプテーション」というスキルを発動した。このスキルは以前、錬を捕縛した際にも使用されており、強力な魅了効果を持っていた。尚文はすぐに警戒し、特にメルティとルフトの影響を心配した。メルティは一瞬元康を「かっこいい」と思ってしまったものの、すぐに持ち直した。しかし、ルフトは完全に魅了され、ラフちゃんに愛を誓うほどの影響を受けてしまった。
元康の槍の正体と新たな異常
尚文は元康の槍が「ラストスピアⅣ」という呪われた武器であることを知る。これは色欲に由来する槍であり、魅了能力を持っていた。さらに、元康はフィーロへの歪んだ愛を語り続け、尚文に対して「娘をくれ」と懇願する異常な態度を見せた。元康の言動に尚文は呆れ果て、フィーロもまたその執着を拒否した。
メルティを巻き込んだ策略
尚文は元康の暴走を止めるため、フィーロの婚約者がメルティであると告げた。これにより元康は混乱し、メルティに対して激しい嫉妬を抱くようになった。フィーロもメルティに庇護を求め、尚文の策略は一定の効果を発揮した。元康は動揺しながらも、「フィーロが女性にも愛を注ぐ天使である」とさらに歪んだ解釈を加えてしまった。
元康の槍の更なる暴走
元康は尚文への嫉妬を募らせ、槍から黒いオーラを噴出させた。これにより、新たなスキル「ルサンチマン」が発動し、周囲の者に嫉妬の感情を強制的に抱かせる効果を生じさせた。アトラはラフタリアへの嫉妬を抑えきれず、突然彼女に襲いかかった。フィーロの取り巻きのフィロリアル三匹も元康への独占欲を暴走させ、フィーロに敵意を向ける事態となった。
フィーロの説得と元康の敗北
混乱が続く中、尚文はフィーロに元康を説得させるよう指示した。フィーロは尚文の言葉を受け、「誠実で、人の話を聞く者が好き」と伝えた。さらに、「その槍を変えなければ嫌いになる」と釘を刺した。これにより元康は即座に槍を変え、暴走は収束した。スキルの影響も消え、魅了されていたフィロリアルやアトラも正気に戻った。
痛馬車の処理と帰還
事態が収束した後、元康は尚文の領地へ正式に厄介になると言い残し、「ポータルスピア」で消えた。しかし、彼は自身が魔改造した痛馬車をその場に置き去りにしていった。フィーロは嘆き、メルティもその悪趣味なデザインに苦言を呈した。尚文は仕方なく、この痛馬車を武器屋で修理する案を考えつつ、村へ持ち帰ることにした。フィーロは嫌そうな顔をしながらも馬車を引き、尚文たちは村へと帰還した。
七話 フィロリアルの恐怖
村の到着とフィロリアルの魔法
村に到着すると、フィーロが新たな魔法「サンクチュアリ」を習得したことが判明した。この魔法はドラゴンを嫌がらせる結界を生成できるが、尚文は村の縄張り争いを防ぐために使用を却下した。フィーロの提案に対し、ラフタリアは呆れながらもアトラを休ませるために家へと向かった。
倉庫への馬車移動とフィーロの突然の逃走
痛馬車を倉庫に運ぼうとしたところ、フィーロが突如としてメルティを背負い、馬車を放棄して逃走した。尚文たちは困惑し、ラフちゃんが代わりに馬車を運んだ。村はまだ静かであり、起きているのは朝練をする錬くらいであった。
予備の魔物舎からの異変
錬が予備の魔物舎から異様な声がすると指摘し、尚文が確認することとなった。慎重に扉を開くと、中には異常な数のフィロリアルが溢れており、元康がその中で陶酔していた。元康が育てていたのは三匹だけではなく、大量のフィロリアルが増えていたのだった。
フィロリアルの暴走と救助
フィロリアルたちは尚文を「ご主人様」と認識し、群れをなして襲いかかってきた。尚文とルフトは悲鳴を上げながら逃走するが、結局フィロリアルたちにもみくちゃにされて意識を失った。最終的にセインとラフ種が介入し、彼らを救出したものの、尚文とルフトは精神的なショックを受け、しばらく放心状態となった。
第三回勇者会議の開催
数日後、尚文たちはカルミラ島の温泉で休息をとりながら、勇者会議を開催した。錬が勇者たちの強化状況を確認し、今後の戦略について話し合った。勇者ごとの魔法適性が判明し、それぞれが新たに習得した魔法の共有も行われた。
鳳凰戦への準備と元康の独自の行動
鳳凰戦に向けて、勇者たちは各自の準備を進めた。元康は尚文の村を守るため、密かに襲撃者を排除していたことを明かした。彼の行動に対して錬と樹は驚きつつも、尚文は状況を把握しつつ受け入れた。
アトラの戦場参加の拒否
勇者たちは戦力について話し合う中で、アトラが急成長していることが指摘された。しかし、尚文はフォウルとの約束を理由にアトラの参戦を認めなかった。アトラはこれに強く反発し、尚文は彼女の気持ちを理解しつつも決定を変えなかった。
鳳凰戦への最終調整
尚文たちは鳳凰戦に向けて、装備の強化や魔法の習得を続けた。経験値を効率的に得られる狩場の調査も進められ、より良い準備が整えられていった。そして、尚文は最終的に作戦指揮を任されることとなった。勇者たちはそれぞれの役割を理解し、決戦に向けて着実に歩みを進めていった。
九話 兄妹喧嘩
フォウルの帰還とアトラの決意
フォウルはババアから免許皆伝を授かり、村に戻ってきた。勇者の配下となった者たちの成長は著しく、ババアは誇らしげにしていた。盾の勇者の強化方法の影響も考えられたが、確証はなかった。一方、アトラは戦いへの参加を強く望み、フォウルと何度も問答を繰り返していた。しかし、フォウルは頑なに許可しなかった。アトラは安全という概念を否定し、尚文の身を案じる理由を挙げて説得を試みたが、フォウルは納得しなかった。
兄妹の対決
問答が平行線を辿る中、フォウルは決着をつけるため、アトラとの勝負を提案した。二人はそれぞれの決意を胸に、戦闘の構えを取った。フォウルは拳による力強い戦闘スタイルを持ち、アトラは素早さと精密な突きを主軸とした戦い方をしていた。戦闘が始まると、両者は激しい攻防を繰り広げた。フォウルの攻撃はアトラを捉えたかに見えたが、彼女は受け流しながら隙を突き、反撃を続けた。
奥義の応酬と決着
戦闘の終盤、フォウルは獣人形態へと変身し、戦闘能力を飛躍的に高めた。一方、アトラも無双活性を発動し、冷静な殺気を纏った。フォウルは必殺技を放ち、アトラはそれを受けながらも気を利用して防御し、逆にフォウルへと跳ね返した。最後の攻撃の応酬により、両者はほぼ同時に地へ倒れ込んだ。結果として、勝負は引き分けとなった。
フォウルの決断とアトラの成長
意識を取り戻したフォウルは、アトラの成長を認め、彼女の戦闘参加を許可した。フォウルは尚文に感謝の意を伝え、アトラを抱えて家へと向かった。尚文はその様子を見送りつつ、アトラの急成長を実感した。彼女は勇者に次ぐ戦力として数えられるほどの強さを持っていた。
鳳凰戦への準備
鳳凰戦を目前に控え、尚文は遠征の準備を進めた。元康、錬、樹、ラフタリア、フィーロをはじめ、フォウル、アトラ、サディナ、シルディナ、セイン、ラト、キール、志願した奴隷や魔物たちが参加することとなった。尚文は、波が決して遊びではないこと、そして生還する覚悟を持つように皆へ念を押した。彼の願いは、最小限の被害でこの戦いを乗り越えることにあった。
十話 鳳凰の地
女王の同行と戦力の配置
女王は連合軍の首脳陣の一員として同行することとなった。シルトヴェルト訪問やクテンロウでの出来事についても把握しており、判断の速さが窺えた。メルティは城の留守を任され、護衛はエクレールが担当することとなった。戦力をすべて動員するわけにはいかず、エクレールは波に参加できないことを悔しがっていた。代理の貴族が町を管理し、キールはその者に預けられた。一方、クズも同行していたが、アトラの存在に動揺し、以前より老けた印象を与えていた。アトラが尚文の側にいる間は特に静かであった。
鳳凰封印の地への到着
一行は鳳凰が封印された地に到着した。元康がポータル位置を確保したことで、迅速に現地入りが可能となった。この地には龍刻の砂時計があり、ラフタリアがメルロマルクやシルトヴェルトの兵士の移動を担当することになった。現地の国は小規模で、住民の服装は中華風であったが、シルトヴェルトとは異なる雰囲気を持っていた。城下町は広さに対して人の数が少なく、寂れた印象を受けた。霊亀騒動後、鳳凰の覚醒を恐れて住民が逃げ出したためであると女王は説明した。
国王との対面と国の現状
城に到着すると、国の王を名乗る幼い少年が玉座に座っていた。先代の王は国の宝を持ち出し、部下を連れて逃亡したとのことだった。尚文はこの無責任な行動に呆れ、女王と共に現状を確認した。この国の王族も極端な者が多く、フォーブレイの血を引く者たちも非常時には機能しないことが明らかであった。七星勇者にも連絡を取っていたが、今のところ応答はなく、騙りの可能性もあるため警戒を強める必要があった。
鳳凰戦の準備と食糧問題
少年王は勇者たちと連合軍を歓迎し、鳳凰に関する資料を提供した。だが、尚文は城下町の様子から食糧不足を察し、影にバイオプラントの種を渡し、食料の確保を命じた。女王と少年王は尚文の配慮に深く感謝した。世界規模の飢饉の影響で、この国も深刻な食糧難に直面していたためである。尚文は、飢えた民を放置すれば長期的に戦力にも悪影響を及ぼすと判断し、支援を決定した。
霊獣の使い魔と鳳凰の資料
尚文は霊亀の使い魔であったオストのような存在がいないかを確認したが、そのような者は見当たらなかった。霊亀戦では使い魔の協力があったが、鳳凰戦ではそれを期待できない状況であった。七星勇者の情報も曖昧であり、慎重な対応が求められた。その後、鳳凰の資料を閲覧するための部屋へ向かった。尚文はラフタリア、フォウル、アトラに連合軍の受け入れと監視を命じ、フィーロには馬車の配置や周囲の調査を担当させた。
警戒の強化と戦いへの備え
セインは周囲の警戒を続けており、何か異変があればすぐに報告すると言った。尚文は過度な警戒が疲労につながることを指摘し、慎重に行動するよう伝えた。一方、アトラも尚文を気遣い、必要があればすぐに呼んでほしいと申し出た。尚文はそれを了承し、鳳凰の資料を調査するため、静かに書物を開いた。
十一話 消失した勇者の日記
鳳凰の封印と過去の勇者の記録
鳳凰の封印に関する書物には、過去に発生した甚大な被害や、勇者が召喚されて最終的に封印を成功させた経緯が記されていた。樹は、鳳凰が封印されている場所として窓の外にそびえる山を指し示した。その山は、まるで山水画に描かれるような独特の形状をしていた。過去の記録によれば、封印は山にある石碑から解かれる仕組みであった。
書物の中には、鳳凰を封印した勇者が残した日記も含まれていた。その記録には、召喚された経緯や戦いの日々が綴られていたが、戦術的な情報よりも私的な内容が多かった。特に、勇者の恋愛や自慢話が目立ち、戦闘の詳細は少なかった。尚文は必要な情報を探しながらも、日記の内容に苛立ちを覚えつつ、慎重に読み進めた。
失われた記録と不自然な欠落
日記の内容を最後まで確認したものの、肝心の鳳凰戦や四霊に関する記録、さらには波に関する部分が不自然に抜け落ちていた。クラスアップの方法や強化に関する情報も見当たらなかった。尚文は、意図的に削除された可能性を疑った。
学者によれば、過去にこの地で戦争が起こり、その際に資料の大部分が焼失したとのことであった。しかし、その焼失の範囲があまりにも都合よく、重要な情報だけが消えていたことに尚文は不審を抱いた。樹も、クテンロウを支配していたマキナのような存在が関与している可能性を指摘した。
断片的に残された写本
残されたのは、辛うじて写本として伝わる紙の束であった。しかし、それも穴だらけであり、ほとんどの内容が失われていた。断片的に判読できた情報によれば、鳳凰の目的は「波による世界融合の阻止」であり、霊亀と同様の役割を持つ存在であった。また、終末の波が発生している間は封印が不可能であり、討伐する場合は「二羽同時に倒さなければならない」と記されていた。だが、攻撃パターンの詳細が記されていた部分は完全に欠落しており、解読は困難であった。
尚文たちは、絆の世界や霊亀との戦いを通じて得た知識と照らし合わせ、この情報の意味を整理した。オストや絆たちの協力がなければ、この真相に気づくこともなかっただろうと考えた。
壁画の調査へ
写本から十分な情報を得ることができなかったため、一行は次の手がかりとして過去の勇者が残した壁画の調査に向かうこととなった。霊亀の町に存在したものと同様の壁画がこの地にもあるとされ、観光地化している寺院へと足を運ぶことになった。
十二話 最後の七星武器
鳳凰戦の準備と寺院の調査
寺院の前に並ぶ連合軍
寺院へ向かう途中、尚文たちは連合軍の兵士たちが長蛇の列を作っていることに気付いた。列には商売人も混ざり、鳳凰復活が迫る中でも商魂たくましい者がいることがわかった。女王によれば、この列の先には後で勇者たちにも確認してほしいものがあるという。だが、尚文たちにとって最優先すべきは鳳凰の対処法であり、まずは壁画を調べることになった。
寺院の内部と壁画の発見
寺院の内部は石造りで、観光名所としても機能していた。薄暗く、荘厳な雰囲気の中、蠟燭の灯りがゆらめき、壁には古い文字やマヤ文明のような壁画が刻まれていた。寺院の最奥に案内されると、大きな壁画が現れたが、暗くて詳細が把握できなかった。女王が魔法で照らすと、二羽の巨大な鳥が火の海を作り出している場面が描かれていることが判明した。
鳳凰は孔雀のような姿を持ち、鱗に覆われ、魚の尾のようなものもあった。赤と五色の二羽が描かれ、それぞれ異なる攻撃方法を持つと推測された。一羽は高高度から炎の爆撃を行い、もう一羽は低高度で爪や炎を駆使して戦う戦法を取っていた。さらに、抜けた羽が使い魔を生み出し、焼かれた者はゾンビのように徘徊する特性も持っていた。
鳳凰の再生と自爆攻撃の危険性
壁画には、一羽が倒された直後、もう一羽が膨れ上がり、爆発を引き起こす様子が描かれていた。その後、爆発した鳳凰は二羽に分裂し、再生するという驚異的な能力を持つことが示されていた。このため、倒す際には二羽を同時に討伐する必要があると推測された。
ゲームの設定では共同HPで管理され、片方を倒せば戦闘が終わる仕組みだったが、現実ではこのような仕様は適用されなかった。元康や樹もゲームとは異なる攻撃方法が含まれていることを認めた。尚文は、この情報を基に作戦を練ることにした。
作戦会議と訓練の準備
鳳凰が上空と地上で分かれて攻撃を行うため、勇者たちも分担して対処する必要があった。樹と元康は高高度の鳳凰を狙い、尚文と錬が低高度の鳳凰と戦う作戦が立てられた。連合軍も参戦し、遠距離攻撃が可能な兵士や魔法使いは高高度、その他の戦士は低高度の鳳凰に対応することとなった。作戦の詳細は女王に一任され、戦闘に向けた訓練が行われることになった。
七星武器の存在と挑戦者たち
訓練の前に、女王は尚文たちを別の寺院へ案内した。そこには、現在所持者が決まっていない最後の七星武器である「小手」が封印されていた。この武器を手に入れようとする者が多数訪れ、長蛇の列を作っていた。七星武器はこの世界の住人も手に入れることができるため、冒険者たちが次々と挑戦していたが、誰も小手を抜くことはできていなかった。
尚文は、夜間に自分の仲間たちに優先的に挑戦させる許可を得た。奴隷たちを連れて寺院へ向かい、一人ずつ小手に触れてみたが、誰も選定されることはなかった。フィーロも試したが、まったく反応がなかった。ラフタリアやアトラも試みたが、彼女たちも適格者ではなかったようだ。
小手の選定と勇者召喚の問題
尚文は、四聖の勇者が召喚された状況を考えると、七星勇者も全員揃っているべきではないかと疑問を抱いた。女王によれば、小手の勇者を召喚する儀式は何度も試みられていたが、成功していないとのことだった。七星武器は、四聖のように異世界人に限定されず、この世界の住人も適格者になれるはずであったが、それでも選ばれる者が現れなかった。
尚文は、この世界で行方不明の七星勇者たちの情報も気にかけた。フォーブレイも捜索に乗り出していたが、依然として消息は不明だった。尚文は、勇者を騙る偽者が紛れ込んでいる可能性も考え、今後の対応を検討することにした。
最終的に、フォウルも挑戦したが、やはり小手を引き抜くことはできなかった。アトラは気の流れを探った結果、自分には適性がないことを感じ取っていた。フォウルは最後まで粘ったが、結果は変わらず、挑戦者の中から新たな七星勇者が誕生することはなかった。
十三話 鳳凰決戦前夜
鳳凰戦に向けた準備と指揮体制の確認
尚文は城で女王と打ち合わせを行い、これまでの経緯を報告した。鳳凰戦に向けた物資の調達、メルロマルクからの支援、人材の管理について議論が続いた。特に、勇者の仲間たちが自由に行動しすぎないよう注意が必要とされた。女王によると、樹の仲間は彼と同行中に問題を起こし、現在は指名手配中であった。さらに、三勇教の残党も暗躍しており、尚文は自らの敵の多さに呆れるしかなかった。
メルティは尚文の領地管理を手伝い、良い経験を積んでいると報告された。彼女は元康の影響で混沌としたフィロリアルたちをまとめる役割も果たしており、特に「ヒヨ」と呼ばれるフィロリアルが元康の三羽以外の統率を担っているという。さらに、元康は自身のフィロリアル軍団を率いており、ラフ種と張り合う形で戦力を整えていた。
シルトヴェルトの代表ヴァルナールやクテンロウの戦士たちも現地に集結しており、人間の兵士は女王が指揮していた。霊亀戦を経験したメルロマルク軍も健在であり、指揮系統は整っていた。
クズの動向と女王の期待
打ち合わせの最中、尚文は城の庭でフォウルの怒声を耳にし、窓から様子を確認した。フォウルはアトラを抱きかかえ、クズから距離を取ろうとしていた。クズは無言で手を伸ばしたものの、フォウルとアトラに何かを伝えた後、立ち去っていった。
女王はその姿を見ながら、クズが過去の知的な姿を取り戻すことを期待しているようだった。しかし、尚文は彼の更生よりも七星武器を新たな適格者に持たせるべきだと主張した。女王は、もしクズが元の力を取り戻せれば、新たな勇者を選定するよりもはるかに有益であると譲らなかった。
尚文は、七星の杖がクズの手にあるかも不明であることを指摘し、もし状況が悪化すれば、クズを処刑して新たな所持者を選ぶ必要があることを警告した。女王はその可能性を理解しつつも、まだ希望を捨てていなかった。
フォウルとクズの対話
尚文は庭で待機していたフォウルに話しかけ、クズと何を話していたのかを問いただした。フォウルは最初は話すのを渋ったが、クズがアトラに興味を示し、彼女に質問を繰り返していたことを明かした。さらに、フォウルにも母親のことを聞こうとしてきたという。
フォウルは情報を明かすことを拒否したものの、クズの様子が以前よりもさらに衰えていることを感じ取っていた。そして、クズは去り際に「妹を守り切れ」とフォウルに言い残したという。
尚文は、クズがフォウルと自身を重ねているのだろうと推測した。クズにはアトラに似た妹がいたが、すでに失っていた。尚文は、フォウルがこの言葉をどう受け取るかを見守ることにした。
鳳凰戦の最終確認と戦力配置
その後、尚文たちは村へ戻り、鳳凰戦に向けた打ち合わせを行った。配置について議論する中、アトラが前線に配置されることに不満を抱いた。彼女は尚文と常に共にいたいと主張し、より安全な後方にいることを拒んだ。フォウルもアトラが戦場に出ることに強く反対し、より安全な位置に配置すべきだと主張した。
しかし、アトラはフォウルの考えを否定し、自身も戦士として戦う意志を示した。尚文は、彼女の意志を尊重しつつ、適切な配置を決める必要があると考えた。
アトラの告白とフォウルの葛藤
アトラは、尚文が戦場で傷つくことに耐えられないと述べ、自らが彼を守りたいという強い決意を語った。彼女は尚文の本質的な優しさに惹かれていると告げ、命を賭して戦うことを止めてほしいと訴えた。
尚文は、その言葉が自身の役割と相反することを理解しながらも、アトラの気持ちを無下にはできなかった。ラフタリアもアトラの想いには理解を示したが、尚文の意志を尊重することの重要性を説いた。
その後、アトラはフォウルに対しても、自分だけを守ることに固執するのではなく、もっと広い視野を持つべきだと指摘した。フォウルはアトラの言葉に衝撃を受け、沈黙したまま立ち去った。
尚文は、アトラの強い意志とフォウルの葛藤を見届けながら、戦いの準備を進めることを決意した。
十四話 VS鳳凰
鳳凰の封印調査
尚文たちは、鳳凰が封印されている山の中腹にある寺院を訪れ、その封印の状況を確認した。寺院は管理が行き届いており、錬と樹によると、封印は寺院内の像の下に隠されていた。彼らは像の仕掛けを操作し、隠された階段を開いた。その地下には赤く発熱する石碑があり、これが鳳凰の封印であった。しかし、錬と樹はその場で驚愕する。封印の石碑の隣にあった鳳凰の像が最近になって破壊されていたのだ。
封印の破壊と強化鳳凰の可能性
錬と樹は、ゲームでは鳳凰を討伐した後に像が破壊されることで「強化鳳凰」との戦闘が発生するイベントがあったことを思い出した。通常の鳳凰よりも強化された形で戦うことを余儀なくされる可能性があった。寺院の僧侶たちは、封印を調査した際にはすでに像が壊れていたと証言し、最近の出来事であると判断されたが、数日から数ヶ月という広い範囲でしか特定できなかった。尚文は、封印の崩壊によって通常よりも強力な鳳凰と戦わざるを得ない状況に苛立ちを覚えながらも、戦いに向けた準備を進めることを決めた。
鳳凰戦の開戦
鳳凰が復活する時刻が迫る中、連合軍の準備は整っていた。住民の避難も完了し、戦場には勇者たちとその仲間、連合軍の精鋭たちが残った。尚文は戦闘の号令をかけ、全軍の士気を高めた。そして封印の時刻が訪れると、石碑が砕け、巨大な二羽の鳳凰が姿を現した。その姿は、寺院の壁画に描かれていた後光を背負ったものと同じであった。鳳凰はすぐに戦場へと飛来し、連合軍に向けて襲いかかってきた。
鳳凰の戦闘パターンと迎撃
鳳凰は二羽で異なる戦闘スタイルを取っていた。高高度の鳳凰は火の雨を降らせ、広範囲に攻撃を仕掛ける一方、低高度の鳳凰は爪や突進を多用し、前線の戦士たちを直接攻撃してきた。尚文は流星盾を展開し、火の雨から味方を守りつつ、敵の攻撃の隙を作った。勇者たちはそれぞれの戦術で応戦し、錬は鳳凰の頭部を狙い、ラフタリアやフォウル、アトラも連携して攻撃を繰り出した。しかし、鳳凰は切り裂かれた傷を炎で修復し、驚異的な回復力を誇っていた。尚文は、これが鳳凰の特性であると認識し、持久戦に持ち込むことを決めた。
吸収攻撃と新たな脅威
戦闘が続く中、低高度の鳳凰が突進攻撃を仕掛けた。尚文は盾で受け止めたが、その瞬間、魔力が吸収される感覚を覚えた。この魔力は高高度の鳳凰へと送られ、強力なブレス攻撃のエネルギーとして利用された。鳳凰は相互に支え合いながら戦う構造になっており、尚文はこの戦術を崩すために戦闘の流れを調整する必要があった。
戦略の見直しと儀式魔法の発動
尚文は、敵の回復力と耐久性を考慮し、高高度の鳳凰に対して錬を投入することを決めた。ガエリオンに乗せて接近戦を仕掛けさせ、高高度の鳳凰の弱点を突く戦法を採った。また、影の助言を受け、低高度の鳳凰には儀式魔法を集中させることになった。女王とサディナが水の竜巻を発生させ、低高度の鳳凰に大ダメージを与えた。魔法への耐性が低いため、この攻撃は効果的であった。しかし、低高度の鳳凰は再び炎に姿を変え、突進攻撃を仕掛けてきた。尚文はソウルイーターシールドを構え、辛うじて耐え抜いた。
戦況の変化と突如放たれた一撃
戦闘が膠着状態に入りつつあったが、尚文たちは攻撃の調整を進め、同時撃破を狙っていた。しかし、その時、戦場の遥か後方から一筋の光が放たれ、高高度の鳳凰を直撃した。突然の出来事に、尚文たちは驚愕し、戦況が大きく変化することを予感した。
十五話 許されざる閃光
突如飛来した光と鳳凰の崩壊
高高度の鳳凰が戦場を支配していた最中、突如として遥か後方から光が飛来し、鳳凰を貫いた。その瞬間、鳳凰はまるで霧散するように羽根だけを残し、空へと消えた。尚文たちはその異変に困惑しつつも、即座に残る低高度の鳳凰に目を向けた。しかし、鳳凰は突如動きを止め、異様な音を響かせながら急激に膨れ上がっていく。そして、その身体を覆う後光が球体となり、圧倒的な熱量を蓄え始めた。二羽分の生命力が統合されたことで、より強力な自爆攻撃へと移行していた。
総攻撃と迫る自爆
尚文は即座に指示を出し、勇者たちを含む全戦力が低高度の鳳凰に攻撃を集中させた。樹が能力低下魔法を再発動し、錬や元康、ラフタリアらが連続して強力な技を放つ。さらに、ガエリオンとウィンディアも加勢し、風の刃と魔法の竜巻が鳳凰を包み込んだ。しかし、連撃の末に煙が晴れると、膨張し続ける鳳凰の姿が現れた。尚文は、霊亀の力を用いたエネルギーブラストを試みたが、機能しておらず使用不可能であった。焦燥する中、尚文は「集」を展開し、全員を庇う決意を固めた。
終末の炎と尚文の防御
鳳凰がいた場所には、まるで太陽のように輝く巨大な炎球が出現し、それが爆発の兆候を見せていた。同時刻、その光はメルロマルクの遠方からも確認されるほどの規模であった。尚文は盾を構え、全身を炎の防壁と化して仲間を守ろうとした。炎の衝撃は凄まじく、次々とシールドを展開するも、耐えきるのが困難なほどの高温が迫ってきた。勇者たちも後方から支援魔法を飛ばし、尚文の防御を補強しようとしたが、鳳凰の火力はそれを上回った。
アトラの決断
炎が尚文の防御を超えようとする刹那、アトラが前に飛び出した。彼女は「集」と「壁」を併用し、全ての炎を別の方向へと逸らすべく力を振り絞った。その瞬間、彼女の生命力が燃え尽きるほどの光を放ち、終末の炎を強制的に操作した。爆発とともに辺りは閃光に包まれ、轟音が響き渡る。そして煙が晴れた時、戦場には甚大な被害が残されていた。
アトラの瀕死と尚文の苦悩
尚文は、アトラの姿を必死に探した。そして、空からゆっくりと降り落ちてくる彼女を抱きとめた。しかし、彼女の身体はすでに炭のように焼け焦げており、生きているのが奇跡と言えるほどであった。尚文はすぐに彼女を後方へ運び、最上級の回復魔法を施した。しかし、イグドラシル薬剤を使用しても、焼け落ちた肉体は元に戻らなかった。治療師たちは、すでに彼女の傷が癒せる限界を超えていると告げた。
アトラの最期の願い
フォウルがアトラの手を握りしめる中、彼女は尚文に微笑みかけた。弱々しい声で尚文を呼び、彼の願いを聞き入れたいと語る。そして、彼女は自分の魂がこの大地に還ることを拒み、尚文の盾の一部となることを望んだ。尚文はその意図に気付き、激しく拒絶したが、アトラの決意は揺るがなかった。最後の力を振り絞り、彼女は尚文の唇にそっと口付けた。
別れの時
アトラはラフタリアに向け、尚文を支えてほしいと語った。そして、尚文に自分の存在を忘れないでほしいと願い、彼に対する愛を最後の言葉として告げた。彼女の声は次第に弱まり、尚文が必死に呼びかける中、ついに静かに息を引き取った。尚文の叫びが戦場に響く中、アトラはもう二度と応えることはなかった。
エピローグ 盾になった少女
アトラの死とフォウルの叫び
アトラを喪った尚文は放心し、ラフタリアは涙を流し続け、フォウルは沈黙のまま彼を睨みつけていた。尚文は自らを責め、フォウルに憎まれることを望んだ。しかし、フォウルは拳を振り上げながらもそれを止め、尚文を憎まないと叫んだ。アトラは尚文を守ることを選び、その道を誇りに思っていた。フォウルもまた、自身がアトラを止められなかったことを悔やみつつも、尚文を責めることはしなかった。
尚文は「もし出会わなかったらアトラは死ななかった」と呟き、それを聞いたフォウルは激昂し、彼を殴りつけた。フォウルは、もし尚文がいなければアトラはもっと早く死んでいたと訴えた。尚文の助けによってアトラは自由に歩けるようになり、戦いに身を投じることができた。その事実を否定することは、アトラの誇りを踏みにじることにほかならなかった。
その後、フォウルはアトラの遺志を継ぐことを誓い、尚文に「アトラが守りたかった村の子供たちを守れ」と告げる。そして、寺院から発せられた光がフォウルの手に降り注ぎ、伝説の小手が彼の腕に現れた。フォウルの叫びに、この世界が応えたかのようであった。涙を流しながらフォウルは戦場へと走り去った。
尚文の決意と慈悲の盾
尚文はラフタリアとラトに一人にさせてほしいと頼み、アトラの亡骸を抱きしめながら過去を振り返った。アトラが初めて彼の部屋を訪れた夜のこと、彼女が尚文の「盾になりたい」と願ったこと。その誓いは、彼女の命と引き換えに果たされた。尚文はその遺志を継ぐことを決めた。
彼はアトラを盾に宿すことを決意し、カースシリーズに代わる新たな盾――「慈悲の盾」が解放された。この盾は、尚文の仲間全員の能力を飛躍的に向上させるものであり、亜人や奴隷たちの力を引き上げる効果を持っていた。アトラの犠牲が尚文に力を与えたことを理解しつつも、尚文は彼女の死を許せなかった。
決着の時
尚文は戦場へ戻り、鳳凰との決着をつけるため、フィーロとガエリオンに指示を出した。慈悲の盾の力によって尚文の防御力は桁違いに上昇し、鳳凰の攻撃は全て無効化された。彼は鳳凰の爪を片手で受け止め、そのまま地面に叩きつける。そして、グラビティフィールドを展開し、鳳凰を飛べなくさせた。
二羽の鳳凰を「チェインシールド」で拘束し、仲間たちに一斉攻撃を指示する。フォウルが最も早く反応し、渾身の一撃を叩き込んだ。その後、各々が強力な攻撃を加え、鳳凰を追い詰めた。女王の儀式魔法「隕石」が発動し、鳳凰を一気に焼き尽くす。さらに、サディナとシルディナの魔法「風雷神」が鳳凰を貫いた。
最後にフォウルの「タイガーランペイジ」が炸裂し、二羽の鳳凰がほぼ同時に羽根となって消え去った。戦場には勝利の歓声が響き渡る。しかし、尚文は静かに盾を掲げ、アトラに勝利を報告した。
復讐への誓い
尚文は鳳凰を撃ち抜いた光の正体を突き止めるべく、錬とともにその痕跡を追った。しかし、日が落ちるまで捜索しても犯人の影は見つからなかった。苛立つ尚文を錬が制し、冷静になるよう諭した。尚文は己の怒りを自覚し、今は休むべき時であると理解した。
仮設テントで休んでいた尚文の前に、ラフタリアが現れた。彼女は涙を流しながら「アトラさんは卑怯です」と呟いた。彼女は尚文を振り向かせるために努力してきたが、アトラは命を懸けることで彼に刻まれる存在となった。その悔しさを吐露しながらも、尚文の肩を支え、泣き続けた。
尚文は「自分は泣いていない」と言い張るが、頰を伝う涙に気付いた。彼はラフタリアを抱きしめ、感情を抑えきれずに泣き崩れた。誰かの痛みを理解し、悲しみを共有することがどれほど大切なのかを改めて知った。その涙が、怒りとは異なる形で、彼の心に深く刻まれた。
そして尚文は、アトラを奪った何者かに必ず報いを受けさせると誓った。
同シリーズ
盾の勇者の成り上がり
小説版















漫画版


























その他フィクション

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