どんな本?
本作は、異世界転移をテーマとしたファンタジー小説である。主人公・進堂仁は、放課後の学校でクラスメイトと共に異世界へ召喚される。召喚先のエルディア王国では、魔王討伐の使命を受け、一人一つのギフト(祝福)を与えられるはずだったが、仁と同級生の木ノ下さくらはギフトを受け取れなかったため、王宮から追放されてしまう。しかし、二人はギフトとは異なる「異能」の力を持っており、その力を駆使して異世界を生き抜いていく物語である。
主要キャラクター
• 進堂仁:本作の主人公。異世界に召喚されたが、ギフトを受け取れなかったため王宮を追放される。冷静沈着な性格で、「異能」の力を使いこなす。
• 木ノ下さくら:仁のクラスメイト。同じくギフトを受け取れず、仁と共に行動することになる。
• マリア:仁の奴隷であり、異界の勇者。
• ミオ:仁の奴隷であり、異界の勇者。
物語の特徴
本作の特徴は、主人公が異世界召喚時に一般的な「ギフト」を受け取らず、代わりに自身の「異能」を駆使して困難を乗り越えていく点にある。また、追放された二人が旅を通じて仲間を増やし、冒険を繰り広げる過程が描かれており、異世界ファンタジーとしての魅力が詰まっている。 
出版情報
• 出版社:マッグガーデン
• 発売日:2025年1月10日
• ISBNコード10:4800015391
• ISBNコード13:9784800015396
読んだ本のタイトル
異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 1
著者:コーダ 氏
イラスト:comeo 氏
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あらすじ・内容
女神からの祝福(ギフト)を得られなかった異端児――。その正体は、最強の”異能力者”!〈千里眼〉&〈生殺与奪〉で異世界を大攻略する――!
ある日、放課後の学校に残っていたクラスメイトごと異世界に転移することになった進堂仁。召喚された先はエルディア王国と呼ばれるファンタジー世界で、魔王を倒す為に1人1つギフトを貰うことに。しかし、仁とクラスメイトの少女・木ノ下さくらにはギフトがなかった為、王宮を追放されてしまう。二人は追い出されてしまうも、ギフトとは異なる「異能」の力を秘めていることに気付く。さらに、進堂の冷静沈着な行動と選択は強力な仲間たちを呼び寄せ、最強の冒険者パーティーへと変化していくのだった!
感想
本作は、以前からなぜ書籍化されていなかったのか不思議であった作品である。
Web版の頃から読んでおり、書籍化されたことに対して、感慨深さと喜びを抱かずにはいられなかった。
物語の魅力は、まず主人公・進堂仁の飄々とした判断力と、それに裏打ちされた異能の使いこなしにある。
与えられた「祝福」ではなく、自らが持つ「異能」によって突き進む姿には、従来の異世界転移ものとは異なる独自性が感じられた。
千里眼と生殺与奪という、一見チートじみた能力でありながら、その行使には倫理観や戦術的な工夫が求められる点も、物語に深みを与えていた。
こんな能力じゃ女神からの能力をインストールする容量があるわけが無いとも思ってしまった。
特筆すべきは、旅の仲間たちとの関係性である。
ドーラ、マリア、ミオという主要パーティメンバーの登場は、それぞれが異なる過去と事情を持ちながらも、仁との信頼関係を築き、新たな絆を形作っていく過程が丁寧に描かれていた。
ドーラの人懐こさと驚異的な戦闘能力、ミオの料理スキルと元転生者としての知識、マリアの勇者とう称号と忠誠心――いずれもが物語に彩りを加え、チームとしての完成度を高めていた。
終盤に登場した「霊刀未完」の存在は、その名称の響きも含めて非常に印象的であった。
最初は「冷凍みかん?」と空目してしまったが、読み進めるにつれ、その禍々しさと未完成であることの不安定さに引き込まれ、次巻への興味を強く掻き立てられた。
全体を通して、戦闘、戦略、生活、仲間との絆がバランスよく描かれており、物語のテンポも心地よかった。
異能という存在をテーマに据えながらも、人間ドラマとしての厚みが感じられる一冊であった。
今後、物語がどのような展開を迎えるのか、そして「霊刀未完」がどう物語に絡んでくるのか、続きを読むのが楽しみでならない。
続巻、出るよな?
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
第一章 エルディア王国編
第一話 勇者召喚と王都追放
異世界召喚と状況の把握
進堂仁は高校の授業後に異世界へと転移させられた。周囲にはクラスメイトや教師もおり、教室は中世風の大広間へと様変わりしていた。王女クリスティアが現れ、自分たちは「アークス」という異世界に勇者として召喚されたこと、魔王討伐の使命があることを告げた。王女の振る舞いは美しく、男子生徒の一部は心を奪われたが、仁は冷静に状況を観察し続けた。
王女と王国による勇者召喚の説明
王女と文官により、この世界が剣と魔法、魔物、魔王が存在するファンタジー世界であることが説明された。女神の神託に従い、日本の学校から全員が召喚されたという。彼らは「祝福」と呼ばれる能力を与えられ、その力で魔王を倒し、帰還方法を得るよう伝えられた。だが、仁はこの話が一方的かつ都合の良すぎる内容であると感じ、疑念を抱いた。
祝福判定と異常事態の発生
召喚された者たちは「祝福の宝珠」により、各自の祝福を確認することになった。仁もその順番を待つなか、隣のクラスの木ノ下さくらという少女が祝福を持っていないことが判明し、周囲の女子たちから嘲笑された。仁自身も祝福が確認されず、同様の扱いを受けた。
排除される二人と王族の対応
祝福を得られなかった仁とさくらは、神託に反するとして勇者ではないと断定され、王と王女から軽蔑の言葉を浴びせられた。召喚した側の責任は不問にされ、彼らは王城から追放されることとなった。周囲の者たちも冷たい視線を向け、かつての友人である幼馴染みまでもが沈黙したままであった。
王都からの追放と決別の決意
二人は王城のみならず、王都からも追放される。兵士により北門まで連行され、他の門にも再入国を禁ずるよう連絡が入っていた。兵士たちは彼らを罵倒し、事実上の流刑とした。仁はこの国が徹底的に腐敗していることを確信し、国そのものに見切りをつけた。
木ノ下さくらとの出会いと同行の提案
絶望して泣き崩れるさくらに対し、仁は声をかけ、名乗った。さくらも自己紹介をし、二人は初めてまともに言葉を交わす。仁は他の街や村を目指す意志を告げ、街に留まっても助けは期待できないと論じた。やがて、さくらもこの国への失望から旅立ちを決意し、仁に同行を申し出た。
協力関係の始まりと帰還の考察
仁は即座にさくらの同行を受け入れ、彼女の自己評価の低さを気に留めつつも、共に行動する意義を認めた。さくらは仁の思慮深さに驚き、彼への信頼を深めた。仁は女神の神託に関する説明の矛盾に着目し、帰還方法は女神が教えてくれるとは限らず、自力で探す必要があると結論づけた。
旅立ちと新たな誓い
仁はさくらに手を差し伸べ、共に旅をすることを誓った。さくらも涙ながらに応え、二人は王都を追われた者同士として支え合う覚悟を固めた。こうして、祝福を持たなかった二人の異世界での旅が始まったのである。
第二話 最初の戦闘と異能
異世界での初戦と方針の確認
仁と木ノ下さくらは王都から離れ、安全が確認された地点で今後の行動方針を定めた。道沿いに進んで他の村や国を目指し、魔物と遭遇した際は仁が一人で対応し、数が多ければ即座に撤退するというルールを決めた。木ノ下は戦闘に対して消極的であったが、仁の意思を尊重して了承した。
ゴブリンとの交戦と勝利
道を進むうちに二体のゴブリンが出現し、仁は格闘技の経験を活かして交戦した。回避を重ねて敵の動きを把握した後、腹部への一撃でそれぞれを倒した。仁の動きは正確で無駄がなく、現実世界での鍛錬が生きていることを証明する戦いであった。さくらはその様子に驚き、仁の強さに疑問を抱いた。
異能の正体と能力の説明
仁は、自分が異能を持つ存在であり、「生殺与奪」と「千里眼」の二つの異能を保有していることを明かした。「生殺与奪」は対象のスキルやパラメータを奪ったり与えたりできる能力であり、「千里眼」はステータスの確認、マップの俯瞰、ヘルプ機能といったシステム的な支援を行う能力であった。これにより仁は敵との力量差を事前に把握し、確実な勝利を収めることが可能となっていた。
スキルと異能の違い
仁は「スキル」「祝福」「異能」の違いをさくらに説明した。スキルは生得的または修練による力であり、祝福は女神から勇者に与えられる特殊能力である。一方、異能は世界のルールを逸脱した力であり、異能を持つ者は祝福を得られないという制約が存在する。仁はこの異能の特異性を理解したうえで、国からの追放を選んだと述べた。
能力の実例と成長の証明
仁は実際に兵士やゴブリンからスキルとパラメータを奪っていたことを明かした。その詳細なステータスを提示することで、自身の成長の証とした。また、この能力を行使するにあたって罪悪感はなく、敵対者には容赦しないという覚悟を語った。仁は既に異世界で生き抜く覚悟を決めており、それをさくらに共有した。
さくらの異能と心の動揺
さくらは自らの異能が判明していないことに不安を抱き、仁に詰め寄った。仁がステータスを確認したところ、「???」と表示されており、潜在的な異能を有していることが明らかになった。仁はその開花を信じ、さくらに対して守る意志を表明した。さくらは涙を浮かべながら感謝の意を示した。
仁の異能のさらなる能力とヘルプ機能
仁は「千里眼」に付属するヘルプ機能により、世界の基本的な情報を得ていた。魔物から得られる魔石の存在やその価値、販売用途を把握し、ゴブリンから魔石を取り出して路銀に充てようとしていた。また、異能により不自然なほど詳細な情報が得られることで、異世界生活において他者と圧倒的な差をつける存在となっていた。
王女と国の疑念、洗脳の可能性
仁は勇者召喚の際に、他の召喚者が王女に批判的な態度を取らず、追放された二人を誰もかばわなかったことを根拠に、洗脳の可能性を指摘した。さくらは当初その可能性を否定したが、教師さえも見て見ぬふりをしていたことを思い出し、疑念を抱き始めた。二人は王女たちの行動や国の在り方に強い不信を募らせていた。
感謝と謝罪、信頼の構築
さくらは自身の発言が仁の追放に影響を与えたと感じ、土下座をして謝罪と感謝を伝えた。仁はその謝意を受け止めつつ、彼女の言葉は王女たちによる追放の単なる口実に過ぎなかったと説明した。さらに、仁はさくらが一人で追放されそうになっていたら自らも共に行動していたと語り、さくらの信頼をさらに深めることとなった。
分岐点の選択と旅の再開
マップにより次の村までの距離が明らかとなり、進行方向を決める必要が生じた。仁はゴブリンの棍棒を使って方向を占い、東の道を選んだ。運の良さに自信を見せた仁に対し、さくらは自身の運の悪さを口にしつつも、仁に従って歩き始めた。道中、仁は自身のステータスに複数の未判明異能が記載されていることに気づき、その力の全貌が未だ明らかでないことを実感した。
第三話 最初の村とゴブリンの森
ゴブリンとの連戦と戦術の説明
仁は一時間半の間にゴブリンと三度交戦し、すべてを能力奪取のうえで撃破した。彼が回避を優先する理由は、「生殺与奪」が即時奪取ではなく、接近しながら段階的に奪う異能であるためであった。死体からは能力が奪えず、奪取後に倒すと経験値が得られないため、仁はレベル1のままであることも説明した。
レベルとステータスの関係の理解
ヘルプ機能により、レベルアップはステータス上昇に直結するが、魔法の一部を除きレベル差が致命的要因になることはないと判明した。また、経験値は敵を倒した者のみが得られ、戦闘参加だけでは取得できない仕様であると知った。仁はレベルを上げることに対して急ぐ必要はないと判断した。
スキルの取得と育成の構造
スキルの取得には先天的・後天的要因があり、育成は習熟度によりスキルポイントが貯まる仕組みであった。最大レベルは10で、全員共通である。仁は異能により初期ポイントを奪取できるため、育成において他者より大きな優位を得ていた。
カバテ村への到着と施設の確認
二人はゴブリン戦と魔石の回収を経て、夕方にカバテ村へ到着した。小さな村ではあるが、宿と道具屋が存在しており、冒険者の最低限の装備は揃っていた。マップ情報によって、村の構造や施設が事前に把握できていた。
宿の利用と信頼の進展
宿屋では一部屋しか空いておらず、さくらは同室でも構わないと応じた。仁は魔石で代金を支払い、宿泊と食事を確保した。夕食には自家製のシチューが供され、二人はその味に満足した。さくらの態度から、仁への信頼が大きくなっていることが窺えた。
異世界での今後の方針と認識の共有
仁はさくらと共にこの村を拠点にして旅支度と戦力増強を目指すことを提案した。貴族以外が名字を持たない世界観に合わせ、互いを名前で呼び合うことにした。さくらは照れつつも受け入れ、信頼関係はより深まった。
さくらへのステータス譲渡と戦闘意欲の表明
仁は「生殺与奪」により取得したステータスの一部をさくらに譲渡し、最低限の防御能力を与えた。予想に反し、さくらは仁に貢献したいという意志を示し、戦闘への参加を申し出た。仁はその覚悟を受け止め、戦闘に必要な能力を分け与えた。
装備購入と再出発の準備
翌朝、二人は道具屋で水筒、背嚢、ナイフを購入し、ほぼ無一文となった。仁は昨日の成果から、今日の稼ぎには自信を持っており、さくらの不安を軽く和らげた。
森への進出とゴブリン・ソードマンとの戦闘
仁とさくらはマップ情報に基づき、村から三十分の距離にある森に向かった。森の入り口でゴブリン二体と遭遇し、うち一体は「ゴブリン・ソードマン」であった。仁は剣を持った個体に対応し、ステータスを奪って武器を回収、撃破した。さくらは攻撃を避けることに専念し、戦闘経験を積んだ。
魔法使いゴブリンへの関心と今後の戦略
森には「ゴブリン・シャーマン」や「ゴブリン・ソーサラー」などの魔法を使う個体が存在していた。仁は魔法スキルの奪取を目指し、戦略的にそれらを狙うことにした。また、強力な「ジェネラル」や「ヒーラー」との戦闘を視野に入れ、事前にステータス強化を図る方針を立てた。
第四話 ゴブリン将軍と異能強化
ゴブリン・ソーサラーの探索と戦闘準備
仁はゴブリン・ジェネラルとの衝突を避けるため、大きく迂回しつつ、マップ情報を活用してゴブリン・ソーサラーの居場所を特定した。彼はゴブリン・ソードマンから得た剣を携え、魔法スキルの奪取を目的に単独行動をするソーサラーを狙った。詠唱の仕様や魔法発動のタイミングに関する知識は、すべて異能「千里眼」のヘルプ機能によるものであった。
魔法スキルの奪取と初の魔法使用
仁は茂みに隠れながら接近し、詠唱中のゴブリン・ソーサラーに不意打ちを仕掛けた。詠唱を阻止した上で「生殺与奪」を発動し、〈火魔法〉と〈氷魔法〉のスキルを順に奪い取った。その後、試しに『ファイアボール』を使用し、火の玉で木を焼いて威力を確認した。勢いで『アクアボール』を使って消火し、魔力による威力の違いも理解した。
連戦による魔法スキルの収集と成果
仁とさくらは残るゴブリン・ソーサラー二体を同様の手法で撃破し、〈水魔法〉〈雷魔法〉〈風魔法〉〈土魔法〉のスキルを追加で獲得した。スキルの重複が一切なかったため、三体から計六種類の属性魔法を得ることに成功した。仁はこの成果に満足し、次なる目標をゴブリン・シャーマンに定めた。
装備の更新と戦闘準備の整備
村に戻った仁たちは、ゴブリン・ソーサラーの魔石を売却し、予想以上の高値で資金を得た。その金で服や簡易装備、回復アイテムを購入し、さくらにも防具を渡さず、代わりに回避を重視する方針とした。これにより、異世界生活に適した戦士らしい装いへと変化した。
さくらの強化と戦闘戦略の再構築
ゴブリン・ジェネラルとの戦いに備え、仁はさくらに〈身体強化〉や〈棒術〉を与え、戦闘に備えた。二人はマップを確認し、敵の陣容や魔法持ちの配置を把握したうえで、最優先で〈回復魔法〉を持つゴブリン・ヒーラーのスキルを奪うことを目的とした戦術を展開した。
ゴブリン集団との大規模戦闘と予想外の展開
開戦後、仁とさくらは〈ファイアボール〉で敵を奇襲し、混乱した隙にヒーラーに接近して〈回復魔法〉を奪取した。しかし、攻撃の加減に失敗した仁の一撃がゴブリン・ジェネラルに直撃し、スキルやパラメータを奪う前に討ち取ってしまった。これによりジェネラルから得られるはずだった希少なスキルを失い、仁は後悔に沈んだ。
新能力の発現と挽回の機会
ゴブリン・ジェネラル討伐直後、仁の異能〈生殺与奪〉がレベル2へ進化し、倒した相手から死体経由でステータスを奪えるようになった。この新能力によって、ゴブリン・ジェネラルの死体からステータス奪取が可能となり、失ったはずの戦果を取り戻すことができた。
ゴブリンの殲滅と装備回収
残るゴブリンたちは恐慌状態に陥り、仁は八つ当たり気味に彼らを殲滅した。すべての敵から魔石とステータスを確保し、ゴブリン・ジェネラルの稀少な装備も回収した。これにより、装備と能力の両面で大きく強化された。
ゴブリン・シャーマンとの最後の戦闘
森の奥で孤立していたゴブリン・シャーマンに対して、仁は迷いなく接近し、詠唱の隙を与えず一刀で仕留めた。〈闇魔法〉〈呪術〉〈憑依術〉という新たなスキルを死体から奪い、全ての目的を果たして村への帰還を決めた。これにより、仁の異能による魔法スキルは大きく充実し、戦闘力は飛躍的に向上した。
第五話 殺す覚悟と村からの脱出
さくらの決意とトドメの申し出
ゴブリン討伐後、さくらは自らの非戦闘性に対する無力感から、魔物へのトドメを希望した。仁は異能の性質上、自らがトドメを刺す方が効率的であると説明したが、さくらは実戦に備えて経験を積みたいと訴えた。結果、仁はスキルとステータスを奪った後のトドメ役をさくらに譲ることに同意した。
トドメの訓練とスライム戦闘
初の実践対象として、人型でないスライムを選び、魔法による遠距離攻撃から始める段階的訓練が行われた。仁はスライムのスキル〈吸収〉〈分裂〉を奪い、戦闘を終息させた後、さくらが魔法でトドメを刺すことに成功した。続けて、杖による接近戦も試み、こちらも問題なくクリアした。
ゴブリンに対するトドメと葛藤の克服
次なる対象としてゴブリンに魔法で挑戦し、さくらは複数回の成功を重ねた。最終的には、杖を用いて人型魔物にトドメを刺す場面に挑み、恐怖と葛藤を乗り越えて成功させた。手応えに戸惑いは残ったが、いざという時に動けるという自信を得るに至った。
さくらの成長と実戦経験の重視
さくらはトドメ以外の行動にも慣れてきたことから、今後は最初から一人で戦う提案を受け入れた。仁はステータス獲得よりも、彼女の成長を優先すると判断し、今後の訓練方針を定めた。
仁の次の目標と盗賊討伐計画
仁は異世界生活の次の段階として、人間との戦闘、特に盗賊討伐を視野に入れていた。マップによる情報で、次の街近くに盗賊の拠点が存在することを確認し、討伐と略奪品の獲得を目的として計画を立てた。さくらは殺人には踏み切れないものの、仁を支える姿勢を示した。
村での準備と出立の判断
村に戻った仁たちは、魔石を売却して資金を得たうえで、次の街への移動に向けた準備を整えた。道具の補充や野営用品の購入も済ませ、夜は慎重に行動しつつ休息を取った。二人の距離はさらに縮まり、共同生活にも慣れ始めていた。
王都の兵士の出現と緊急退避
翌朝、村に王都からの兵士が訪れていることが判明し、追跡の可能性を警戒した仁は即座に村からの退去を決断した。宿の主人からの情報で兵士の目的が明確でないことを確認しつつ、包み食事を受け取って村を離れた。マップを駆使し、兵士に見つからぬよう脱出に成功した。
盗賊の存在と討伐の法的正当性
移動中、仁は冒険者ギルドの制度や盗賊に関する規定を整理し、盗賊討伐が合法かつ利益の多い行為であることを再確認した。略奪品の所有権や報酬制度が整備されており、事後報告でも討伐証明が可能であるため、討伐は現実的かつ有益であった。
保存食のまずさと食糧問題の発覚
移動中、保存食の不味さが深刻な問題となり、仁とさくらは早急に新たな食料確保を試みた。ホーンラビットを討伐して肉を入手したが、調理経験の乏しさから料理に苦戦し、満足のいく食事にはならなかった。これを機に、二人は今後の食糧事情への本格的な対策を誓い合った。
第六話 盗賊の発見と退治
食事事情と野営の工夫
仁とさくらは保存食の不味さを補うため、ホーンラビットの肉で口直しをしていた。魔法の存在により旅は比較的快適であり、<水魔法>で飲料水を確保し、<火魔法>は照明に使えた。<土魔法>はトイレなど生活面で役立ち、異世界の生活を支えていた。夕方にはテントを張って野営の準備を整えた。仁はかつて親友とキャンプをした経験が活きたと述べたが、さくらは友人との思い出がない様子で、複雑な感情を見せた。
さくらの成長と新たな魔物の出現
さくらは戦闘に慣れ、ゴブリンを単独で安定して倒せるようになっていた。道中で出現した新たな魔物――マッドボア、ファングウルフ、ゴブリン・アーチャー――も問題なく討伐し、仁はそれらのスキルを奪取した。<身体強化>により動体視力が向上し、仁は矢を剣で打ち落とす芸当も可能となった。なお、マッドボアとファングウルフの肉はホーンラビットより不味いと判断された。
安全確保のための裏技とスライム処理
仁はマップの『接近アラート』機能を用いて夜間の警備を代替し、スライムの接近にも即座に対応できるよう設定した。三度スライムが接近したが、瞬時に排除することで休息を確保した。スライムは夜間も動くため、アラート範囲を縮小して対応した。
盗賊アジトへの襲撃計画と役割分担
翌朝、仁は盗賊との戦いを宣言し、マップ情報から洞窟のアジトに向かった。奇襲作戦を採用し、洞窟外ではさくらがサポートに回ることとなった。彼女は<ウォール>系魔法で逃走阻止を担当し、仁は単独で盗賊を討伐する戦術をとった。
魔物と盗賊のアジト情報の確認
洞窟の前にはテイムされたブラックウルフが待機し、内部には10人の盗賊がいた。盗賊たちは<魔物調教>や<暗殺術>などのスキルを所持しており、特に<魔物調教>のスキルを奪うことが目的とされた。アジトには未テイムのフェザードラゴンも囚われており、仁はそのテイムを決意した。
襲撃の開始と初戦闘
仁は<ウィンドバレット>でブラックウルフを無音で排除し、洞窟内部に侵入。二人の盗賊の会話からドラゴンの取引情報を得た後、背後から斬撃を加えて一人目を討伐。戦闘に迷いはなく、死体からステータスを即座に奪取した。
盗賊たちとの連戦と連携への驚き
仁は次々と迫る盗賊を迎撃したが、連携の取れた攻撃により膠着状態に陥った。盗賊たちは大斧使いのお頭を中心に高い戦術を展開し、仁もこれを予想外と評価した。狭い洞窟内での大斧の運用と手下たちとの連携は高度であり、仁は隠し玉として<雷魔法>の詠唱を開始した。
サンダーバレットの発動と形勢逆転
<サンダーバレット>が敵の一人に直撃し、トドメの一撃で人数を削減した。戦況が仁に傾くと、次々と盗賊が倒され、残るは四人となった。お頭は切り札の<狂戦士化>を発動し、肉体を強化して突撃してきたが、判断力を失ったことで隙を晒し、仁に討たれた。
残敵の逃亡とさくらの活躍
お頭の死により士気を喪失した盗賊たちは脱出を図ったが、さくらの<ファイアウォール>により阻まれた。逃げ場を失った盗賊たちは仁により討ち取られ、アジトの掃討が完了した。
戦闘の総括とステータスの調整
仁は今回の戦闘を通じ、戦術と連携の重要性を再認識した。<生殺与奪>の隠された機能を用いて、取得ステータスの調整とスキルの無効化を実行し、今後の鍛錬に向けて余力を残す戦い方に切り替えることを決意した。
戦闘後の処理とさくらの負担
戦闘後、さくらは大量の死体に衝撃を受け、気分を悪くして座り込んだ。仁は一人で洞窟内の死体からスキルを奪い、<魔物調教>のレベル3を確保した。血まみれの身体は<水魔法>で洗浄し、<火魔法>と<風魔法>で乾かすことで整えた。いずれは<生活魔法>の獲得も視野に入れていた。
第七話 ドラゴンテイムと異能開眼
お宝部屋の到達とフェザードラゴンとの対面
仁とさくらは洞窟を進み、盗賊団が守っていたお宝部屋に到着した。鍵はすでにお頭から奪っており、金属製の扉はすんなりと開いた。部屋の中には雑多な樽や木箱が並び、中央には小さな檻が置かれていた。その中には白い羽毛を持つ可愛らしいフェザードラゴンが囚われており、仁は即座にテイムを決意した。
テイムの実行と予想外の成功
<魔物調教>のスキルを用いてテイムを開始した仁は、檻越しに陣を打ち込み、即座にテイムに成功した。戦闘を経ずにテイムが完了した理由については、魔物側が危機的状況下でテイムされることを望んでいたためと判明した。檻から解放されたフェザードラゴンは仁に懐き、名前を「ドーラ」と命名された。
ドーラの正体と人間形態の確認
ドーラはドラゴンの姿を取っていたが、ステータスから彼女が「竜人種」であると判明した。竜人種は人型とドラゴン型の両方を持ち、人間と同等の知性を有する魔物である。仁の呼びかけに応じてドーラは人間形態へと変化し、幼い少女の姿を見せた。さくらはこの変化に大きな衝撃を受け、混乱したが、仁は冷静に説明を行った。
異能<契約の絆>と<無限収納>の解放
仁の異能<契約の絆>が発動し、従魔であるドーラとの間に契約が成立した。この異能によりスキルや異能の共有、思念による会話(念話)が可能となり、ドーラとの意思疎通が容易になった。同時に、異能<無限収納>も解放され、荷物や戦利品の無制限な収納が可能となった。
ドーラの過去と仁への懐き
念話によってドーラから過去を聞き出した仁は、彼女が遊びに出かけた際に盗賊に捕まったこと、現在は保護者がいないことを確認した。称号に「竜人種の皇女」が含まれていたことから、彼女の出自には重大な秘密があると予測された。仁はドーラを故郷へ帰すことも考えたが、ドーラ自身は仁と共にいたいと強く希望した。
さくらとの契約と新たな関係の構築
仁の異能によってさくらも念話の対象とするため、さくら自身の希望により配下契約を交わすこととなった。異能の適用には指切りが必要であり、二人は儀式を経て契約を成立させた。念話を通じてドーラとも会話できるようになったさくらは、すぐに能力に順応し、三人の関係性は一層深まった。
新たな異能<生殺与奪LV3>の確認と応用
仁の異能<生殺与奪>がレベル3に進化し、新たな能力「スキルポイントの変換」が解放された。この機能は不要なスキルをポイント化し、それを別のスキルに振り分ける能力である。変換効率は5対1と低めではあるが、任意のスキルレベルを調整可能である点において極めて有用であった。仁はこの力を用いて不要スキルから<鼓舞>を強化し、今後の戦闘に備えた。
今後の方針と倫理的配慮
スキルポイントの変換によってレアスキルの転用も視野に入るようになったが、仁はこの能力を無関係な他者に使うことを控える意志を明示した。現段階では敵性存在に限定して使用し、この国の住人には借りを作らない方針を徹底することで、自身の信条を守る覚悟を固めていた。
第八話 さくらの異能と街到着
さくらの異能の発現と自己評価
仁はさくらのステータスを確認中、彼女の異能が開眼していたことに気づいた。異能の名は<魔法創造>であり、彼女はそれを通じてこの世界に存在しない魔法を生み出せると理解した。さくらは自分を役立たずと評価し、自信の持てる力を欲していた。仁はその自己評価に異を唱え、さくらの支えが自身にとって心理的に重要であると認識していた。
異能の性質と発動条件の確認
仁は<千里眼>を用いて異能の詳細を調査したが、他人の異能の効果までは把握できなかった。だが、本人には異能の効果が直感的にわかる仕組みがあると知り、さくらは自らの異能に問いかけることでその性質を理解した。<魔法創造>は非常に強力だが、発動には莫大なMPを必要とし、さくらの現在の能力では使用できなかった。
異能の相互依存と内面的願望の考察
仁は、異能は使用者の望みに応じて発現するものであるという仮説を立てた。さくらが仁への依存を抱いていることから、彼女の異能が仁の支援を前提とした内容になったと考えた。彼女は独立を望んではおらず、仁の役に立ちたいという願望がその力に反映されたと推測された。
お宝部屋の探索とアイテム整理
仁は洞窟内のお宝部屋にある物品を<無限収納>に回収していった。中には血のついた装飾品や武具、ポーション、金品があり、必要に応じて鑑定と整理を進めた。特に目を引いたのは魔法の道具「アイテムボックス」で、さくらに管理を任せることにした。高価な物品はアイテムボックスに収めることで、用途別に分けられる利便性が生まれた。
ドーラへの戦闘参加と才能の確認
仁はドーラに戦闘参加を提案し、彼女のスキル構成から戦闘能力の高さを確信した。特に七歳で<竜魔法>のレベル3に到達していることから、並外れた素質があると判断された。仁はステータスを分け与え、ドーラに戦力としての自覚を持たせた。
<竜魔法>の威力とさくらの驚愕
ドーラが使用した<竜魔法>は無詠唱で高威力の属性攻撃であり、森の中で実際に使用させたところ、その範囲と破壊力にさくらと仁は言葉を失った。ドーラはその力を抑えて使ったと語っており、さらなる成長が期待された。
ティエゾの街への到着と準備
一行は街「ティエゾ」に到着し、まずドーラの衣服を購入して人間形態での外出に備えた。宿を確保した後、ドーラに着替えさせることで街中でも目立たぬよう配慮がなされた。さくらの手伝いにより、ドーラは服を着こなし、可憐な少女の姿となった。
冒険者ギルドへの盗賊退治の報告
仁はティエゾの冒険者ギルドを訪れ、盗賊団「黒い狼」の討伐を報告した。応対した受付嬢は驚き、ギルド長ジョセフが応接室に案内した。仁は討伐の経緯を説明し、報酬はギルド未登録のため半額となることを了承した。ギルド長は盗賊団の頭が元冒険者であったことを明かし、仁の話を信頼した。
拠点滞在とギルドとの取り決め
ギルド長は報酬支払いと買い戻し対応のため、仁たちに街に滞在するよう依頼した。仁は朝と夕方にギルドへ顔を出すことで合意し、具体的な居場所は伝えなかった。戦利品についても、ほとんど持ち出したことを伝えた上で、残された物はギルドに処理を任せるとした。
宿での食事とドーラの初体験
その夜、三人は宿で食事をとり、ドーラは初めての人間の料理に大いに感動した。竜人種であるドーラにとって、調理された食事は新鮮な体験であり、食事への関心を高めた。仁とさくらは過去の粗末な食事を思い出し、改めて食事の大切さを認識した。今後は<無限収納>を利用した保存食の工夫なども視野に入れることが決まった。
第九話 連携戦闘と最初の買い戻し
戦闘スタイルの相談とドーラの武器選定
夕食後、仁は風呂で疲れを癒やし、部屋でさくらとドーラと今後の戦いについて話し合った。ドーラの戦闘スタイルとして<竜魔法>の使用は強力だが、発動制限の問題から、人間形態での武器戦闘も組み合わせる方針となった。七歳相当の小柄な体格を踏まえ、仁は刃物より安全かつ威力のあるハンマー武器を提案した。<棒術>との比較もあったが、攻撃力を優先し、まずは<槌術>を試すことになった。
武器屋での購入とドーラの適性確認
翌朝、冒険者ギルドに買い戻し依頼が未成立であることを確認した後、仁たちは武器屋を訪れた。仁はドーラ用のハンマーを探し、最初は長柄のアイアンハンマーを試したが、ドーラにはやや合わなかった。店主が再調整したハンマーはドーラにぴったりであり、彼女はそれを気に入り購入が決定した。仁は借りを作らぬよう代金を多めに支払い、良好な取引を終えた。
実戦訓練とドーラの戦闘能力の発揮
街の外でドーラに実戦訓練を行い、彼女はマッドボアを一撃で倒すなど圧倒的な戦闘力を見せた。竜魔法なしでも十分な前衛戦力となり得ることが確認されたが、油断から不意打ちを受け、仁の<回復魔法>で治療された。仁は油断の危険性と弱者を侮らぬ姿勢を説き、ドーラは反省し素直に謝罪した。
連携訓練と仲間間の戦術理解の深化
ドーラの個別戦闘能力確認の後、三人での連携訓練が開始された。ドーラの<竜魔法>による範囲攻撃の精度と位置取り、さくらの魔法支援、仁の前衛補佐による連携が繰り返し訓練された。<契約の絆>により味方への魔法ダメージが無効化される効果も活用され、さくらは味方の近くを狙うことにも躊躇しなくなった。戦闘ごとに立ち位置や範囲感覚を身につけさせ、実践的な動きを覚えさせた。
役割理解と個々の特性の確立
夕方まで連戦を続けたことで、三人の戦術理解は深化した。ドーラはタフさと前衛適性を持ち、竜魔法とハンマーを組み合わせて強力な攻撃力を発揮した。さくらは接近戦の適性は低いが、魔法の精度と判断力に優れ、信頼できる後衛であると評価された。新たな魔物との戦闘を通じて、各種スキルの習得も進み、三人の連携は大きく向上した。
ギルドでの買い戻し交渉と貴族の出現
街に戻った仁は一人で冒険者ギルドに向かい、盗賊団から得た戦利品の買い戻し依頼に対応した。応接室に案内された仁を待っていたのは、赤いドレスに金髪縦ロールの典型的な貴族令嬢エリザベートであった。彼女は礼儀もなく無理難題を突きつけ、ギルド職員にも高圧的な態度を取った。
短剣の買い戻しと相場の攻防戦
エリザベートは鷲の紋章入りの高価な短剣を買い戻したいと主張し、相場を無視して10万ゴールドを提示した。仁は千里眼で価値を確認し、500万以上の価値があることを見抜いていた。値上げ交渉を拒否されたため、仁は強硬姿勢を取り、最終的に2000万ゴールドでの売却を一方的に宣言した。
交渉決裂の危機と主導権の維持
エリザベートは交渉拒否に狼狽し、冒険者としての活動停止をほのめかしたが、仁はそもそも冒険者登録しておらず、その脅しが無意味であると一蹴した。ギルド職員も仁の立場を認めたことで、エリザベートは次第に追い詰められた。
圧倒的条件提示と屈服の瞬間
仁は「2000万、払いますか。払いませんか」の一点張りで、相手に交渉の余地を与えず繰り返し詰め寄った。冷静さと強引さを併せ持った態度により、エリザベートはついに折れて支払いを受け入れた。ギルド職員の立ち会いのもとで交渉成立が記録され、仁は一切の妥協なく圧倒的勝利を収めたのである。
第一〇話 獣人奴隷と犯罪奴隷
短剣買い戻しと貴族の反応
エリザベートとその執事セバスチャンは、短剣の買い戻しのため二千万円相当の大金貨を携えて再訪した。仁は予めマップで枚数を確認していたため、受け取った袋の中身を素早く確認した上で短剣を引き渡した。エリザベートは家宝の短剣であると明言し、無事取り戻せたことに感極まって不意に口を滑らせてしまった。仁はその言葉の意味を察し、深追いはせずに忘れることを選んだ。
ギルド職員との会話と貴族への警戒
エリザベートが先に退出した後、仁はギルド職員からその要求額がギルド歴代最高であることを伝えられた。仁は高額設定の背景に貴族の態度の悪さがあったと説明し、ギルド側もエリザベートの対応が酷い部類であったと認識していた。貴族相手に強硬な交渉をしたことへの危惧も語られたが、仁は何かあれば速やかに街を離れるつもりであると答えた。
報奨金の受領と交渉結果の報告
ギルド長が現れ、盗賊討伐の報奨金として五十万ゴールドを支給した。しかし、直前に二千万ゴールドを得ていた仁にとっては、金額の重みは薄れていた。仁は貴族相手にふっかけたことも素直に報告し、ギルド長はその大胆さに呆れつつも注意を促した。仁はそれを真摯に受け止めた。
宿での報告と奴隷購入の提案
宿に戻った仁は、さくらとドーラに報酬と買い戻しによる収入を報告した。二人は金額の大きさに驚き、ドーラは素直に喜びを表した。仁は旅の質の向上を図る一環として、奴隷を購入したい旨を伝えた。理由は料理ができる人材の確保であり、さくらとドーラも納得して奴隷購入に賛成した。
奴隷商訪問と商品選定の試行錯誤
翌日、仁は奴隷商を訪れ、予算百万円以内で料理スキル持ちの奴隷を求めた。応接室で待機していた仁と二人の少女の前に複数の女性奴隷が現れたが、目的のスキルを持つ者は現れなかった。仁はマップによりスキル持ちが別室にいることを把握していたため、犯罪奴隷や欠損奴隷の収容部屋の見学を申し出た。
犯罪奴隷ミオとの出会いと事情の確認
仁はそこで黒髪黒目の少女ミオと出会い、日本語に近い言葉で助けを求められた。ミオは元日本人の転生者であり、マヨネーズを村で提供したことが原因で食中毒事件を引き起こし、犯罪奴隷とされた経緯を語った。仁はその話に偽りがないと判断し、彼女の購入を決意した。
もう一人の奴隷との契約と引き取り
ミオの他に、左腕を欠損した獣人の少女にも関心を持った仁は、二人を合わせて四万ゴールドで購入した。<奴隷術>使いによって奴隷契約が執行され、二人は正式に仁の所有物となった。仁は宿へ戻る際、獣人少女の状態が悪いため自ら抱えて運んだ。
宿での紹介とミオの正体の明示
宿に戻った仁は二人に会話の許可を与え、ミオの自己紹介を促した。ミオは元日本人であることを告げ、仁もそれを事前に察していたと明かした。彼女が仁を日本人と判断した根拠は、黒髪黒目の外見と過去の勇者召喚の噂によるものであった。料理スキルを持つことが確認され、目的通り料理人としての期待が高まった。
トラウマの確認と新たな仲間の絆
ミオは毒を盛ったとされた過去がトラウマになっており、仁はそれに理解を示しつつ軽く慰めた。ドーラは撫でられるミオを羨ましがり、仁は二人を同時に撫でて落ち着かせた。さくらは毒の件に驚いたが、後で説明することで納得させた。
獣人少女マリアの紹介と状態の観察
最後に、喋ることも難しい獣人少女について、仁は彼女の名を「マリア」であり「獣人の勇者」と紹介した。さくらとミオはその唐突な紹介に困惑したが、マリアは苦しげに呻きつつも反応を示していた。仁は新たに迎えた二人の少女との絆を築くため、ゆっくりと関係を深めていく覚悟を固めた。
第一一話 欠損回復と奴隷たちの事情
マリアの称号と治療の可能性
仁はマリアの称号「獣人の勇者」に注目し、異世界転移者ではなく生まれつきの存在であると推測した。マリアは全身に傷を負い、四肢の欠損によって命も危うい状態であった。仁は彼女を救うため、さくらの異能<魔法創造>によって欠損治療魔法を創り出すことを決断した。
リバイブの創造と成功
さくらは仁とドーラから魔力とMPを譲渡され、新たな魔法<リバイブ>の創造に成功した。この魔法は欠損を回復させるものであり、死体には無効とされるが、マリアの状態には適用可能であった。MPを大量に消費したさくらの代わりに、仁が魔法を発動し、マリアの肉体は無事に元の姿へと戻った。
マリアの感情と忠誠の表明
身体が治ったことを自覚したマリアは、感情が爆発し号泣した後、仁に対し地面に平伏して忠誠を誓った。さくらの功績が大きいことを示唆する仁に対し、マリアは自分を救う意思を示した仁こそが最大の恩人であると主張し、生涯を捧げることを願い出た。仁はその気持ちを受け入れ、マリアとの関係が正式に確立された。
異世界からの来訪者たちの自己紹介と秘密の共有
仁はマリアとミオに、自らが異世界から召喚された存在であることを明かし、自身とさくらが祝福を受けていないことから勇者ではないと説明した。ミオもまた、日本からの転生者であり、自身の境遇と年齢について語った。二人には機密保持を命じ、今後の旅に向けた協力体制を整える方針が示された。
ミオの過去と犯罪奴隷となった理由
ミオはかつて村でマヨネーズを振る舞い、それが原因で中毒事件を引き起こしてしまい、犯罪奴隷として売られた経緯を語った。目的は日本の知識を活かして生活を改善することだったが、結果的に投獄寸前まで追い込まれていた。仁に買われたことで難を逃れ、改めて忠誠を示した。
奴隷たちの生活と役割分担の開始
ミオは料理と家事に自信を示し、マリアができない点は自らが補うと申し出た。マリアもミオから料理を学ぶ意志を表明し、二人は互いに協力して生活を支えることとなった。仁は彼女たちを捨てることはないと断言し、信頼関係が深まった。
マリアの過去と称号の謎
マリアは獣人の集落で口減らしのために奴隷として売られ、輸送中に魔物の襲撃で重傷を負ったことを明かした。「獣人の勇者」の称号については自覚がなく、生まれ持ったものである可能性が示唆された。他種族にも同様の称号を持つ者がいる可能性があると推測された。
猫獣人の習慣と忠誠の証
マリアは仁に対して猫耳を突き出すことで忠誠の証を示し、仁はそれが許可された行為であると理解して撫でるに至った。マリアは極度の快感を覚え、精神的にも仁への忠誠を強めた。異世界の文化として、猫獣人の耳は特別な存在とされていた。
旅の目的と戦闘要員としての期待
仁はミオとマリアに、自分たちが近いうちにこの国を離れ旅を続けることを明かした。その中で、料理や家事の他に魔物との戦いも視野に入れていると告げ、戦力としての参加を求めた。ミオとマリアは一度は戸惑いながらも、仁の言葉を信じ、共に戦う決意を固めた。
異能による強化と今後の方針
仁は自身の異能によって彼女たちを強くすることを約束し、戦闘訓練と旅の準備を本格的に進める意志を表明した。ミオとマリアはそれぞれ、自分の意志で戦うことを選び、忠誠と信頼をもとに新たな一歩を踏み出したのである。
第一二話 転移者の事情とスキル封印
異能と祝福をめぐる真実の告白
勇者召喚の経緯と王都での扱い
仁とさくらは、日本の学校から異世界へ勇者召喚された八百人の一部であった。しかし、祝福を持たない二人は王宮から不要と判断され、追放された。祝福の代わりに異能という力を持っていたことが理由であり、祝福を受ける余地がなかったと説明された。教師や仲間からの援助もなく、追放は誰にも止められなかったため、仁は洗脳の可能性を疑っていた。
逃避と旅立ちの意思の違い
仁は国を嫌って出て行く選択をしていたが、さくらは逃亡者の心境であった。この認識の違いが明らかとなり、仁はあくまで堂々と立ち去る意志を示した。また、仁は国への帰属意識を否定し、仲間であるミオとマリアにも帰属意識の有無を問うた。ミオは日本に帰属意識を持ち、マリアは故郷に未練を抱いていなかった。
異能による力の獲得と旅の準備
仁は異能の力で魔物を倒し、魔石を売却して資金を得ていた。また、盗賊団を壊滅させ、報酬と買い戻しで二千五十万ゴールドを稼ぎ、その資金で料理ができる奴隷としてミオとマリアを購入した。盗賊団の壊滅は仁にとっては些末な出来事であり、その場で救出したドーラも仲間に加わった。
国への敵対姿勢と偽名の利用
仁は王族や貴族への強い敵意を持ち、国を敵と認識していた。情報漏洩を防ぐため、本名ではなく偽名を使用しており、冒険者登録もしていなかった。マリアとミオはこの方針に賛同し、エルディア王国にまともな人間が少ないと認識を共有した。
異能の詳細と能力の説明
仁は自らの異能について説明を始めた。最初に紹介されたのは<千里眼>であり、人や物の情報を視認できる能力であった。この能力によってミオの転生やマリアの称号を見抜いていた。次に紹介されたのは<生殺与奪>で、他者からパラメータやスキルを奪い、他人に与えることも可能な能力であった。
封印スキルの解除とマリアの才能の覚醒
マリアは<封印>というスキルを持っており、スキルの習得を阻害されていた。仁はこのスキルを奪って無効化し、その結果、封印されていた大量のスキルが一気に解放された。解放後のマリアは武術・魔法・生活系まで多岐に渡るスキルを習得し、即戦力となるポテンシャルを発揮した。
勇者スキルの構造とスキルの分類
<勇者>スキルはレベルごとに強力なスキルを獲得できる能力であり、仁はその内容を紙に記録した。レベル1から5までで得られるスキルは、戦闘や探索、支援に至るまでバランスよく配分されていた。勇者として成長するための設計がなされており、極めて強力かつ将来性に富んだスキルと位置づけられた。
スキル譲渡の申し出と仁の拒否
マリアは自らのスキルすべてを仁に譲渡することを申し出たが、仁はそれを断った。マリアたちは生活と戦闘の両面で支え合う存在であり、スキルを奪えば本末転倒になると説いた。マリアはその意図を理解し、スキルの習熟とレベル上昇に努めることを誓った。
識字能力と情報共有の補完
マリアはひらがなとカタカナしか読めず、スキルの詳細を理解できなかったが、ミオが説明役を担うことで情報の共有が成立した。二人の関係性は補完的であり、相性の良さが際立った。
勇者スキルの強力さと封印スキルの正体
<勇者>スキルは即戦力を生む設計であることが明らかになり、仁はマリアの忠誠と無欲さに驚きを覚えた。一方、<封印>スキルの正体は「勇者の称号を持つ者に自動で付与されるものである」と判明した。千里眼でも詳細は不明であり、女神の関与が強く疑われた。
ヘルプ機能による世界のルールと異常性の確認
仁は世界のルールについてヘルプ機能を使って確認した。元の世界とは異なるルールが存在し、マヨネーズに微弱な毒性が発生することなど、常識が通用しない世界であると理解された。女神や魔王、エルフの語り部などの存在が示唆されたが、詳細は不明であった。
今後への期待とスキルの育成方針
仁はマリアに、スキルの譲渡よりも活用による成長を求めた。マリアはそれに応じ、仁のためにスキルのレベルを上げることを目標とした。ミオとさくらもその様子を見守りながら、今後の旅路と仲間としての結束を深めていった。
第一三話 転移者の異能とスキル構成
異能の説明と無限収納の利便性
無限収納の概要と活用
仁は三つ目の異能<無限収納>について説明を開始した。これは容量無限の倉庫のような能力であり、生物を除く物体を格納できる。擬装用の荷物を装いに用い、本物は全てこの異能に収納していた。さくらは女性向けの可愛いポーチにアイテムボックスを入れ、さらに空の背囊でその存在を隠すという多重擬装を行っていた。収納先では分解・合成・魔法ストックなどの応用も可能であり、食材保存や料理への利用価値も高かった。
契約の絆による能力共有と通信機能
四つ目の異能<契約の絆>は、仁とその配下の間に見えないパスを結び、念話や能力共有を可能にするものであった。能力の使用範囲は仁が制御し、例えば<生殺与奪>の奪取効果の一部や、<無限収納>の領域貸与が可能であった。共有された異能によって、ミオやマリアにもアイテムボックスに匹敵する機能が与えられた。また、仁とパスを結んだドーラは念話によりドラゴン形態でも会話が可能となり、ミオとマリアもすぐにその機能に慣れた。
さくらの異能と初の魔法創造
さくらの異能<魔法創造>は、この世界に存在しない魔法を新たに創り出す力であり、リバイブという欠損回復魔法を創造したことでマリアを救った。使用には膨大なMPが必要であり、仁からのMP供給が不可欠であった。仁は将来的には共有に頼らず、さくら一人でも魔法創造が可能になるようサポートすることを誓った。マリアは改めてさくらに感謝の言葉を伝えた。
奴隷の食事に関する方針転換
マリアは奴隷としての立場を強く意識し、食事の質を主人とは区別すべきと主張したが、仁は皆で同じ食事をとる方針を示した。店の料理を食べたミオとマリアはその味に感激し、満足そうに涙を流した。仁は彼女たちを旅の仲間として扱い、同じ待遇を受けることが当然であると明言した。
スキル構成の決定とスキル付与
食後、仁はミオとマリアに適切な戦闘スタイルを決めるため、希望と適性を確認した。ミオは魔法を避け、遠距離職として弓術を選択し、身体強化などのスキルも授けられた。マリアは勇者スキルの特性を活かし、剣術による前衛を担うことになった。仁はマリアからスキルポイントを一つ譲り受け、それを元に他の仲間にもスキルを分配し、全体の戦力を底上げした。
衣類と生活用品の購入
奴隷商で与えられた粗末な衣服を改め、ミオとマリアの衣類を新調するため、衣料品店を訪れた。ミオはゴスロリ、マリアは実用的な服を選び、ドーラも新たな衣服を得た。女性陣にはそれぞれ<無限収納>のプライベートエリアが割り当てられ、私物を自由に収納できるようになった。その後、雑貨店や食料品店で必要な調味料や食材を購入し、生活基盤の強化が図られた。
調理器具の購入忘れの発覚
一通りの買い物を終えたと思っていたところで、ミオから調理器具の有無を問われ、仁はその存在を完全に忘れていたことに気付いた。料理スキルの有無が意識の差を生み、調理環境の整備が次なる課題として浮上した。
第一四話 戦闘準備と奴隷たちの初戦闘
武器と防具の購入と戦闘準備
仁たちは再び武器屋を訪れ、今回はミオとマリアの武器を選定することになった。店主は彼女たちに合った片手剣と短弓を提案し、二人は手に取って感触を確かめた。その構えは初心者とは思えぬ堂々としたものであり、スキルの補正や店主の目利きの確かさが功を奏していた。仁は即決でそれらを購入し、さらに全員分の軽装防具とさくら用の新しい杖も加え、総額三十万ゴールドを支払った。店主は砥石をサービスとして提供し、最後に仁たちへ警告を与えつつ見送った。
個人戦闘の訓練と初実戦の勝利
街を出た仁たちは、周囲に魔物が少ないことから、マップを頼りに移動しながら訓練を行った。ミオは弓の練習を、マリアは素振りを繰り返し、すぐに実戦レベルに到達した。初戦となる相手はゴブリン・ナイトとソードマンの計三体であり、ミオは二体を弓で即座に仕留め、マリアは一対一でナイトを撃破した。二人の成長速度は異常であり、勇者の称号の実力が証明された。
連携訓練と攻撃パラメータ調整
複数回の個人戦闘を経て、仁は連携の必要性を説き、初の連携訓練に移行した。敵はゴブリン十一体の構成で、ミオとさくらが遠距離攻撃を先行させ、その後前衛が接近して連携を試みた。敵は瞬時に殲滅され、味方の被害はゼロであったが、一撃必殺が多すぎて練習としては不十分であると判断された。そのため、全員の攻撃系パラメータを意図的に下げ、防御系を強化することで適度な難度に調整した。
狼型魔物との混戦と役割確認
新たな敵はビッグブラックウルフ率いる群れであり、リーダー個体には高いスキルが備わっていた。咆哮によって群れは一斉に攻撃してきたが、マリア、ドーラ、仁は連携して迎撃に成功した。途中で仁が負傷したが、後衛三人が同時に『ヒール』を唱えてしまい、MPを無駄にしたことで課題が浮上した。以後、回復魔法は主担当を決め、発動前に確認を取るルールが設けられた。
実戦での成長と戦力評価の確立
その後も戦闘を繰り返す中で、マリアは一人で十体以上の魔物を無傷で撃破するなど、圧倒的な戦闘力を示した。ドーラは冷静に<竜魔法>とハンマーを使い分け、ミオは弓の間合いを習得しつつ中距離での活躍を見せた。一方、さくらは魔法使用中の回避が苦手であり、何度か被弾してしまったが、仁の励ましによって立ち直った。
戦闘中の指示と魔物スキルの収集
森での戦闘では、ゴブリン・モンクが回復魔法を所持していることに気づいた仁が指示を出し、確実に仕留めることで貴重なスキルの確保に成功した。実戦中は必要に応じてパラメータを下げるなど多様な方法が試され、仲間たちはどの状況にも順応する柔軟さを見せていた。
魔物発生の仕組みと狩場の変更
狩りを続けた結果、周辺の魔物が激減したため、仁は魔物の発生についてヘルプに確認した。魔物は「繁殖」または「自然発生」により増えることが判明し、安心して狩場を移動する判断が下された。次の狩場として選ばれた小さな森では、見通しの悪さを警戒しつつも索敵訓練を実施した。
高度な戦闘シミュレーションとさくらの課題
森では新たに集団戦や個人戦を含めたシミュレーション戦闘が繰り返された。マリアは一人で十体の敵を難なく倒し、ドーラとミオも十分な戦力を発揮した。さくらは回避の問題を残したが、努力と支援により徐々に改善が見られた。仁は各自の特性を見極めつつ、それぞれの成長を確認した。
ゴブリン・キングとの遭遇と討伐
帰路で稀少級の魔物ゴブリン・キングに遭遇した。装備・スキルともに強力であったが、配下が不在という致命的な弱点を持っていたため、仁たちは圧倒的な戦力差で討伐に成功した。獲得した剣は既存の武器よりも優れていたため仁が装備し、他の装備品は<無限収納>に保管された。
戦利品の整理と街への帰還
大量の魔物を討伐した結果、多数の魔石が収集され、マリアが袋に詰めて持ち運んだ。仁は今後を見据えて全員に魔石の剥ぎ取り作業を体験させた。さくらもまた努力を重ね、少しずつ役割を果たせるようになった。街に戻った後、仁は買い戻し対応のためギルドへ向かい、他の仲間には買い出しや魔石の売却を任せた。
第一五話 異能のデメリットと買い戻し終了
指輪の買い戻しと慈善の決断
仁はギルドで買い戻し希望者リサと対面した。彼女は夫との結婚指輪を取り戻したいと語り、その背景には夫を失った悲しい過去があった。仁は鑑定により指輪の価値が二十万ゴールドであることを確認したが、金銭の受け取りを断り、無償で返却することを決断した。リサは感涙しながら感謝を述べ、仁は彼女を見送りつつ、少しでも彼女の苦しみが軽減されればと願った。
帰宅後の癒しとマリアの成長特性の判明
宿に戻った仁を出迎えたのは、メイド服を着たミオとマリアであった。彼女たちは魔石を売却した資金で衣装を購入し、仁を喜ばせようとしていた。穏やかな時間の後、仁はマリアのステータスを確認し、スキルポイントの上昇速度が尋常ではないことに気づいた。これは勇者としての特性であり、成長速度において突出した能力を示していた。
仁の異能の代償と仲間からの支援表明
一方、仁自身にはスキルポイントの増加が全く見られず、異能<生殺与奪>のデメリットである可能性が浮上した。仁はスキルポイントを得ることができない体質であると確信し、仲間の協力が不可欠であると認めた。マリアは自分のスキルポイントを仁のために捧げると誓い、ミオやさくらも協力を申し出たことで、仲間との絆がさらに深まった。
戦力強化のためのテイム方針とスキル運用の再編
仁は奴隷の追加購入を当面控えるとしつつも、従魔のテイムによる戦力強化を検討した。マリアはすでに<魔物調教>スキルを持っていたが、テイムの役割は仁が担う方針となった。ミオはテイム希望を口にしたが、優先順位の観点から仁が担当することに納得した。今後は不要スキルを変換し、各自が必要とするスキルを強化する方針が採られた。
再びの買い戻し交渉と貴族ギリウスの出現
翌日、再びギルドにて買い戻し交渉が行われたが、現れたのは傲慢な貴族ギリウスであった。彼はフェザードラゴン、すなわちドーラの返還を一方的に要求したが、仁は記憶にも根拠にも基づかない要求を拒否した。ギリウスは激昂し、兵士に襲撃を命じたため、仁は正当防衛のもと彼らを一撃で倒し、ギリウスからスキルとパラメータを奪い尽くした。
交渉破綻と買い戻し業務の打ち切り決定
貴族とのやり取りの後、仁は受付嬢アンナと会話し、ギルドの姿勢や限界について確認した。貴族であっても冒険者ギルドは断れない立場であり、今回の件がギルドにとっても難しい対応であったことが語られた。仁はこれ以上の交渉継続は不可能と判断し、買い戻し業務を打ち切り、この街を即日出発することを決定した。
出発準備と最後の買い出し
仁は仲間たちに街を出ることを念話で伝え、全員が合流して出発準備に入った。<無限収納>を活用して必要物資を買い揃え、昼食を取った後、城門へと向かった。ドーラの希望に応えて肉料理を楽しみつつ、旅立ちへの期待が高まった。
仁の法と信念の優先
街を出る際、仁は自らの行動が法律ではなく自分の中のルールに基づくものであることを再確認した。拉致被害者である自身がこの国の法律に従う必要はなく、己の信念と仲間のために動く覚悟を持ち続けていた。こうして仁たちは、新たな旅路へと歩を進めたのである。
第一六話 Sランク冒険者と複合スキル
セバスチャンの再登場と偽名の判明
街を出ようとする仁たちの前に、最初に買い戻しをした貴族の執事として登場したセバスチャンが現れた。マップには彼の名前が表示されていなかったが、それは「セバスチャン」が偽名であったためであり、本名はセルディクと判明した。彼のステータスは非常に高く、あらゆる武術や魔法に秀でており、過去最強の人物といえる実力を持っていた。
殺意の通告と元Sランク冒険者の正体
セルディクは、縦ロールの貴族の命令で仁を殺すために派遣されていた。理由は短剣の買い戻しによって取引が失敗し、怒りを向ける相手が仁しかいなかったからであった。かつて「死神」と呼ばれた元Sランク冒険者である彼は、任務の失敗を許さない性格であり、親切な門番を買収して仁の出発を把握していた。
戦闘開始と対人戦闘の警戒
仁は仲間たちに戦闘の可能性を伝え、自分一人での戦いを宣言した。仲間たちは反対したが、仁は対人戦闘経験のない彼女たちには任せられないと判断した。また、マリアにはさくらたちの護衛を託し、戦闘中の不意打ちに備えさせた。セルディクは戦わない者を狙う意図はないと述べたが、仁はその言葉を信用しなかった。
初撃の応酬と戦闘技術の分析
戦闘が開始され、セルディクは<縮地法>によって瞬時に距離を詰め、斬撃を放った。しかし仁はその行動を予測し、冷静に回避して反撃に成功した。さらに、暗器や魔法を駆使するセルディクに対抗し、仁は発動直前の魔法を<無限収納>から取り出して即座に攻撃することで応じた。仁は<縮地法>の隙を突き、隙間に<ファイアウォール>を展開しダメージを与えるなど、対人戦での経験と観察力を発揮した。
スキルの奪取と反撃の開始
仁はセルディクの隙を突いて<生殺与奪>を発動し、<縮地法>のスキルを奪取した。これにより戦術の幅が広がり、セルディクに斬撃を加えることに成功した。次第に仁が優勢となり、セルディクの行動が防御重視へと変化していったことで膠着状態に突入した。
切り札<闘気>の発動と弟子の関係
セルディクは<闘気>という強化スキルを発動し、パラメータを大きく引き上げるとともに回復を行った。彼はこのスキルを使える者が自分と弟子のジョセフのみであると語り、自身がティエゾのギルド長の師匠であることも判明した。
仁の本気と反撃の転換
仁はそれまで自前のパラメータで戦っていたが、セルディクが<闘気>を発動したことを機に、仲間から預かっていたパラメータを有効化し、総合的にセルディクを上回った。この強化により、仁は斬撃と魔法を織り交ぜてセルディクに次々と傷を与えていった。
最終奥義<闘神>と複合スキルの発動
追い詰められたセルディクは<闘気>と<狂戦士化>を同時に発動することで<闘神>という複合スキルを展開した。これは極限まで筋力と耐久を強化する反面、身体への負荷が大きく、滑舌や表情にも変化が見られた。仁はこの状態のセルディクを真正面から迎撃し、パラメータをさらに強化して対抗した。
決着と勝利の証明
激しい斬撃の応酬の末、仁はセルディクの最速の一撃を見切り、胴体を一刀両断にした。決着の直前、仁はセルディクがパラメータを強化している間に自身のパラメータも最大まで引き上げ、戦局を完全に掌握した。こうして、仁は元Sランク冒険者を撃破し、自身の実力が最高峰にあることを証明したのである。
第一七話 馬車購入と出発
街への一時帰還と爺の処理
仁は戦闘後、レベルアップした<生殺与奪>の能力による強化を確認した後、無傷で戦いを終えたことを仲間たちに報告した。圧勝した理由は、千里眼により相手の初見殺し戦術を無効化できたためである。遺体の処理は<無限収納>に任せ、後日、証拠隠滅を兼ねて時空の彼方に消す設定を行った。
ケジメのための街再訪と門番の末路
仁は街に一度戻る必要性を感じ、トラブルの元と分かりつつも決行した。街ではかつての門番に再会したが、彼は異常な動作の末に転倒して死亡した。仁はそれを事故として処理し、問題が大きくなる前にその場を去った。
馬と馬車の購入とドーラへの配慮
馬と馬車を購入するため牧場を訪れたが、竜人種であるドーラを恐れる馬が多かった。その中で恐れない二頭を選び、可もなく不可もない馬車と共に購入を決定した。馬と馬車の代金は約100万ゴールドであった。
夜の「忘れ物」としてのスキル回収
夕食後、仁は「忘れ物」と称して一人で外出した。目的は精霊魔法と精霊術のスキルを回収することであり、密かに二人目の「処理」も実行した。
ギルドからの訪問と再依頼の拒否
翌朝、冒険者ギルドのアンナが宿を訪れ、ギルド長の要請と買い戻し再開の懇願を伝えた。仁は過去の義理は既に果たしたとして断り、仲間たちにも念話で協力を求め、アンナの要請を一蹴した。
街の出発とギルド長との対峙
馬車で出発した仁たちは、街の門でギルド長ジョセフに呼び止められた。ジョセフはセルディク失踪について話を聞くため対話を求めたが、仁は断固として拒否した。ジョセフの発言に含まれた矛盾や情報不足を指摘し、暗殺者の襲撃を野盗と表現して報告した。
ギルドとの決別と今後への警戒
仁はジョセフの追跡を拒み、強い殺意を示して引き下がらせた。街を離れた後、今後の追っ手に警戒を強めることを決めた。
昼食準備とさくらとの対話
移動中、ミオが初の料理を披露し、マリアも手伝いながら技術を学んだ。仁はさくらに「元の世界に帰りたいか」と問い、さくらは帰還の必要性を否定し、今の仲間たちと共にいたいと語った。
帰還意思と観光優先の旅計画
仁も最終的には帰還を望むが、今は異世界観光を最優先とすると語った。ミオとマリアも同行を希望し、ドーラも当然のように付いていく意思を示した。
今後の旅の目的と優先順位
仁は旅の目的として「観光」「戦力強化」「帰還方法の探索」の三本柱を挙げ、それらを同時に進行させる方針を示した。仲間たちもそれに賛同し、目指す次の目的地をカスタール女王国と定め、新たな旅が始まったのである。
特別編【電子版限定書き下ろし SS】スキル <鼓舞 >
進堂仁の新学期と日常の描写
始業式の朝と日常の光景
仁は高校二年生となる初日の朝、目覚ましで起床し、隣家の幼馴染・水原咲の下着姿をいつものように目撃した。互いに見慣れた光景となっており、特に気にする様子もなかった。ダイニングでは妹の凜が朝食を用意しており、食後の皿洗いを仁が担当した。凜は料理が得意で、仁の料理の手伝い提案は一蹴された。
登校と咲との再会、すれ違う願い
咲はいつものように仁の家の前で待ち、三人は揃って登校を始めた。途中で凜と別れ、仁と咲は高校へ向かった。咲は今年こそ仁と同じクラスになることを望んでいたが、クラス分けで再び別れた。失望する咲は、三年で同じクラスになるための裏工作を考え始めた。
新クラスでの再会と友人たちの登場
仁のクラスは昨年とほぼ同じメンバーで構成されており、親友の浅井義信と東明とも再び同じクラスになった。浅井は大柄で視力が非常に高く、東は冷静で記憶力に優れていた。浅井は年度初め恒例の最前列に配置され、冗談交じりの会話が交わされた。
クラス分けの疑問と東の推察
東はクラス構成が前年度と約九割一致していることに注目し、学校側がクラスの性質を維持するために意図的に編成している可能性を示唆した。東は調査を始めると宣言し、三人は今年も変わらぬ関係を再確認した。
昼食後の会合と新しい趣味の決定
始業式終了後、三人はショッピングモールでファストフードを食べつつ、次の遊びを決める相談をした。仁の発案でカードゲームが選ばれたが、運の強い仁と頭脳明晰な東に対し、浅井が不利な展開になることが懸念された。だが全員が負けず嫌いであり、それぞれ勝つつもりで臨む姿勢を見せた。
突如発生した事件と現場への出動
カードショップに向かおうとした直後、浅井が銀行強盗を視認し、仁と共に現場に向かうことになった。東は後方支援としてその場に残った。現場では職員が銃撃されて重傷を負っており、緊迫した状況が広がっていた。
銀行強盗との戦闘と超人的対応
仁と浅井は状況に合わせて自然に銀行に入り、偶然を装って犯人と接触した。銃を向けられるも、浅井は銃弾を金属板で跳ね返し、仁は銃の弾詰まりを見越して攻撃を加え、次々と銀行強盗を制圧していった。浅井は背後の攻撃も鏡像を利用して察知し、全ての攻撃を無力化した。
最後の犯人の逃走と不可解な結末
五人目の銀行強盗は逃走したが、乗り込んだ車の音響が暴走し、異常な音量で意識を失った。電子制御の車を遠隔で操作したと思われる存在が、遠くの店で状況を監視していたことが示唆された。
警察への事情説明と帰宅後の一日
事件後、仁と浅井は警察署で事情聴取を受けたが、浅井の人脈により短時間で終了した。帰宅後、仁は妹の凜に事件を報告しつつ、咲と同じクラスになれなかったことを伝えた。凜は咲を気の毒に思いながらも、自身は親友・聖と同じクラスになったことを喜んだ。
家庭での穏やかな時間と日常の締めくくり
夕飯は凜の作ったカツカレーであり、仁はその味に満足した。食後に風呂で体を癒やし、眠る前に咲の部屋に向かって挨拶をした。挨拶のやり取りは二人にとっての習慣であり、その日の一日を締めくくる大切な行動となっていた。こうして、仁のよくある一日が静かに終わったのであった。
その他フィクション

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