小説「カフネ」(2025年本屋大賞受賞作)感想・ネタバレ

小説「カフネ」(2025年本屋大賞受賞作)感想・ネタバレ

どんな本?

本作は、供託官として働く女性・薫子が、死別した弟・春彦の元恋人・せつなと再会し、家事代行ボランティア「カフネ」で活動を共にしながら再生していくヒューマンドラマである。遺言を巡る葛藤、家族や社会からの孤独、そして他者との絆を通じて、薫子は再び生きる意味を見出していく。

主要キャラクター
宮下薫子:供託官。離婚と弟の死による孤独と絶望に沈みながらも、せつなとの出会いと家事支援活動を通じて再生を目指す。
小野寺せつな:春彦の元恋人。家事代行会社「カフネ」で働く女性。孤独と病気を抱えながらも他者に温かさを与える存在。
宮下春彦:薫子の弟。生前、せつなと深い絆を結び、死後も彼女と薫子をつなぐ存在となる。
常盤斗季子:「カフネ」の代表。かつてシングルマザーとして困窮を経験し、家事支援活動に人生を捧げる。

物語の特徴
本作は、失われた家族の絆、癒えぬ心の傷、孤独と再生を丁寧に描き出している。家事支援を通じた人間同士のささやかな交流が主題であり、「誰かを助けることは自分を救うことでもある」というテーマが貫かれている。春彦の死の真相、せつなの病気、そして薫子自身の葛藤が重層的に絡み合い、感情の機微を深く掘り下げる点が最大の魅力である。派手な展開に頼らず、日常の中の優しさと痛みを繊細に描写している点で、他のヒューマンドラマ作品との差別化が描かれていた。

読んだ本のタイトル

カフネ
著者:阿部 暁子 氏

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あらすじ・内容

☆2025年本屋大賞受賞作☆

【第8回未来屋小説大賞】
【第1回あの本、読みました?大賞】


一緒に生きよう。あなたがいると、きっとおいしい。
やさしくも、せつない。この物語は、心にそっと寄り添ってくれる。

最愛の弟が急死した。29歳の誕生日を祝ったばかりだった。姉の野宮薫子は遺志に従い弟の元恋人・小野寺せつなと会うことになる。無愛想なせつなに憤る薫子だったが、疲労がたたりその場で倒れてしまう。
実は離婚をきっかけに荒んだ生活を送っていた薫子。家まで送り届けてくれたせつなに振る舞われたのは、それまでの彼女の態度からは想像もしなかったような優しい手料理だった。久しぶりの温かな食事に身体がほぐれていく。そんな薫子にせつなは家事代行サービス会社『カフネ』の仕事を手伝わないかと提案する。

食べることは生きること。二人の「家事代行」が出会う人びとの暮らしを整え、そして心を救っていく。

カフネ

感想

失ったものと向き合う痛み

本作を読んで最初に感じたのは、深い喪失感であった。最愛の弟を突然失った主人公・薫子の悲しみは、誰にでも訪れるかもしれない現実として胸に迫った。弟の死というミステリーめいた出だしは、やがて、身近な人の内面にどこまで踏み込めるかという問いへと姿を変えた。どれほど近しい間柄であっても、他人の心を完全に理解することはできないという苦い事実が、作品全体に重く横たわっていた。

日常の中に灯る希望

作品を通して繰り返し描かれるのは、壊れた日常を「整える」ことで得られる癒しである。離婚、不妊治療、介護、育児疲れ、発達障害、依存症――登場人物たちは皆、さまざまな傷を抱えながら生きていた。それでも、部屋を少し片付け、温かいご飯を食べるだけで、人は少しだけ前を向けることがある。そのシンプルだが力強いメッセージが、読後も心に深く残った。

薫子とせつなの距離感の変化

はじめは全く噛み合わなかった薫子とせつなの関係が、時間をかけて少しずつ変化していく様子には胸を打たれた。無愛想ながらも優しさを隠し持つせつなと、素直になれずに傷ついてきた薫子。そんな二人が互いの不器用さを受け入れ、少しずつ歩み寄る過程は、静かでありながら確かな温かさを伴っていた。

弟・春彦という存在の重み

誰からも愛されていた春彦の存在が、物語を通して何度も薫子とせつなの心に影を落とした。外からは幸せそうに見えても、本人が抱えていた孤独や苦悩は、死後になってようやく少しずつ明らかになる。人は他人のすべてを知ることはできないが、それでも「わかろうとする」努力には意味があるのだと教えてくれる展開であった。

タイトルの持つ力と読後の余韻

「カフネ」という耳に残る美しい言葉が、作品の核となる優しさと温もりを象徴していた。読み終えた今、登場人物たちの未来が穏やかであることを願わずにはいられない。重いテーマを抱えつつも、再生の物語として静かな希望を灯して終わるこの作品は、確かに心に寄り添う力を持っていた。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

死んだ弟の元恋人との再会

薫子は、弟・春彦の元恋人である小野寺せつなとの待ち合わせに遅刻され、苛立ちながらも待ち続けた。ようやく現れたせつなは謝罪もそこそこに座り、遺言に基づき遺産の受け取りを促す薫子に冷たく拒絶を示した。過去の別れ話を思い出しながら、薫子はせつなの態度に怒りと絶望を募らせ、ついには倒れてしまった。

介抱と再び交錯する想い

せつなは薫子を介抱し自宅まで送り届けたが、薫子は羞恥と混乱に苛まれた。初対面時の家族との確執、離婚と孤独に打ちひしがれる生活のなかで、せつなの料理が薫子の心を少しずつ解きほぐしていった。

弟の死と遺言への疑念

春彦の死は「不詳の内因死」とされ、事件性は否定されたが、若さゆえに遺言を残していたことがせつなに違和感を抱かせた。遺産の受け取りを拒絶するせつなは、薫子にアルコール依存の危険も指摘した。

職場での孤独と家族の期待

供託官として働く薫子は、離婚後に職場で孤立していた。誕生日にも母から心ない言葉を浴びせられ、自己否定と孤独に沈み、アルコールに逃避するようになった。

弟からの贈り物とせつなの支え

春彦名義の贈り物が届き、薫子は深い悲しみに沈んだ。酔った薫子を訪ねたせつなは、即席パフェを作って慰め、再び遺産辞退を伝えた。春彦の死への疑念が薫子の心をさらに揺さぶった。

家事支援活動と再起への道

薫子は家事代行サービス『カフネ』に参加し、支援活動を通じて他者との繋がりと自己肯定感を取り戻していった。岡崎家、川上家、八木家、小笠原家など、さまざまな家庭で支援を行い、自らも癒やされていった。

春彦の遺志と過去との対峙

春彦が『カフネ』で活動していた事実を知った薫子は、弟の志に触れ、支援活動への思いを新たにした。せつなとの絆も少しずつ深まり、互いに心を開く瞬間を重ねていった。

せつなの病と秘めた過去

せつなが慢性骨髄性白血病を患っていることが判明し、薫子は衝撃を受けた。さらに、せつなの幼少期の過酷な家庭環境と孤独な過去を知り、単なる憐れみではなく、彼女を支えたいと強く願うようになった。

すれ違いと決意

せつなとの距離に悩みながらも、薫子は諦めずに歩み寄ろうと決意した。斗季子の助力を得て、せつなに感謝を伝えるための行動を起こした。

再び結びつく心

薫子は体調を崩したせつなに食事を届け、少しずつ心を開かせた。春彦の死を巡る葛藤や、子供たちへの支援活動を通じた成長を分かち合い、新たな絆を築き始めた。

過去との和解と新たな一歩

元夫・公隆との和解を経て、薫子は春彦の遺志と家族の思いを受け止めた。失われたものを抱えながらも、薫子は支えを必要とする人々のために生きることを選び直した。

終章――未来へ続く誓い

薫子は新たなピアスの穴を開け、春彦への想いと共に生きる覚悟を新たにした。せつなとの関係においても、一方的な救済ではなく、互いに支え合う関係を築こうと心に誓った。拒絶されても諦めず、再び寄り添う道を模索し続けた。

薫子とせつなペアが受けた依頼で出て来た料理

1. 岡崎氏宅への訪問
• 依頼主:岡崎氏(高齢の母親を介護している)
• 料理:ガトーショコラ(脳が溶けるほど甘いものが食べたいという希望に応えて作成)

2. 川上千佳子宅への訪問
• 依頼主:川上千佳子(シングルマザー、小学生の娘・鈴夏と暮らしている)
• 料理:チャーハンおにぎり、プリン(せつなが鈴夏と一緒に作成)

3. 中野氏宅への訪問
• 依頼主:中野氏(シングルファーザー、二歳の息子を育てている)
• 料理:子供向けの工夫された料理(具体的なメニュー名は明記されていないが、子供が食べやすいものを用意)

4. 市営住宅・拓斗とののか宅への訪問
• 依頼主:拓斗(小学生の少年、母親不在)
• 料理:お好み焼き(ののか用)、オムライス(拓斗用)、特製ピザ(兄妹用)

せつなが薫子に振る舞った料理

1. 薫子宅での看病時
• 対象:薫子(体調不良で倒れた薫子を介抱)
• 料理:温かい素麺のスープ(冷蔵庫にあった材料で調理)

2. 薫子宅での慰め
• 対象:薫子(誕生日の夜、落ち込む薫子を慰めるため)
• 料理:即席のパフェ(部屋にあった材料を利用して作成)

3. 薫子宅での癒やしのひととき
• 対象:薫子(精神的に不安定な薫子を落ち着かせるため)
• 飲み物:ルイボスティー(リンゴと蜂蜜を加えた特製バージョン)

4. 薫子宅での春彦追悼ディナー
• 対象:薫子(春彦を偲ぶために)
• 料理:骨付き肉料理(スーパーで食材を揃え、大きな肉を豪快に焼き上げて調理)

その他フィクション

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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