「バッタを倒すぜ アフリカで」7年ぶりの続編 感想・ネタバレ

「バッタを倒すぜ アフリカで」7年ぶりの続編 感想・ネタバレ

どんな本?

バッタを倒すぜ アフリカで』は、前野ウルド浩太郎 氏著の書籍で、2024年4月17日に光文社から発売された。
この本は、前野ウルド浩太郎氏がアフリカで行った13年間の研究活動をまとめたもので、特にサバクトビバッタの繁殖行動についての調査結果が詳細に記述されている。

具体的には、バッタの雌雄がどのように出会い、結ばれ、産卵しているのか、その一連のプロセスを明らかにしたもの。
この研究は、食糧危機の原因となるバッタの大量発生を防ぐ可能性を持ち。

また、この本は前野氏の前作『バッタを倒しにアフリカへ』の刊行から7年後の作品で、新たな研究内容が紹介されている。
全体的に、この本は科学的な要素を豊富に含みつつも、エンターテイメント性に富んでおり、非常に読み応えのある一冊となっている。

読んだ本のタイトル

バッタを倒すぜ アフリカで
著者:前野 ウルド 浩太郎 氏

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 「バッタを倒すぜ アフリカで」7年ぶりの続編 感想・ネタバレBookliveで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 「バッタを倒すぜ アフリカで」7年ぶりの続編 感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入 gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 「バッタを倒すぜ アフリカで」7年ぶりの続編 感想・ネタバレ

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あらすじ・内容

アフリカで研究を始めてはや13年。ようやく極秘裏に進めていたメインの研究成果を論文発表することができ、学術的要素をふんだんに盛り込んだ本を執筆できる準備が整った。
そのメインの研究とは、サバクトビバッタの繁殖行動について調査したものだ。具体的には、バッタの雌雄がいかにして出会い、結ばれ、産卵しているのか、その一連のプロセスを明らかにしたものである。研究者として、論文発表前の研究成果を公の場で書き記すことは控えるがのがしきたりのため、これまで執筆することはできなかった。(「まえがき」より)
日本、モーリタニア、アメリカ、モロッコ、フランス――世界中を飛び回ってのフィールドワークと実験は、深刻な食糧危機の原因となるバッタの大量発生を防ぐ可能性を持っていた!画期的な研究内容がいよいよベールを脱ぐ。

バッタを倒すぜ アフリカで

感想

本書は、サバクトビバッタの研究に生涯を捧げる研究者、前野ウルド浩太郎氏の挑戦を描いた書籍である。
この研究者は世界中を飛び回り、数々の困難、苦難を乗り越えながらバッタの行動や生態についての画期的な発見を追求している。
それは、科学的な発見だけでなく、国際的な協力や異文化との交流に焦点を当てており、広い視野を提供してくれた。
本書の大きな魅力は、研究の過程で経験する苦悩や喜びが生々しく、かつコミカルに描かれていることであった。
特に、研究成果が認められるまでの過程は、冒険小説のような緊張感に満ちていた。 また、著者は各地での人々との交流や文化的なエピソードも織り交ぜることで、科学書に留まらない深みを与えてくれた。 
しかし、物語の構成が複雑で、地域で分けているせいか分かりにくく、読み進めるのが困難な部分も存在する。

  • 詳細な専門的内容と織り交ぜられた体験談が多いと感じるため
  • もし編集がもう少し行き届いていれば、よりわかりやすい内容となったかもと感じたが、専門家の話を素人にわかりやすくしようとする努力は随所に見られた。

総じて、この本は科学的探求の情熱だけでなく、それを取り巻く人々の絆や文化的多様性を描いた作品であり。
研究者としての道のりだけでなく、人生という広い旅を体験できる点が本作の特徴であると感じた。 

最後までお読み頂きありがとうございます。

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同シリーズ

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バッタを倒しに アフリカへ
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バッタを倒すぜ アフリカで

その他ノンフィクション

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Nonfiction

備忘録

第 1章  モーリタニア編――バッタに賭ける

駆け出しの博士である研究者が、サハラ砂漠でサバクトビバッタの生態を調査している。
モーリタニアに赴いた彼は、地元のバッタ防除センターと共に、バッタの発生源となる地域で野外調査を実施していた。
そこで彼は、集団産卵するバッタたちの神秘的な光景を目撃し、研究者としての興奮を抑えきれなかった。
日本での長い研究生活とは異なる、未知の自然現象に直面し、その経験が将来のキャリアにも大きく影響するだろうと考えていた。
彼は、この体験を通じてバッタの行動パターンを解明し、研究者としての地位を固めようとしていた。

バッタに関する観察を行っている研究者は、夜間に息を潜めてバッタたちに接近する。
夜間はバッタが逃げることなく、観察が可能であるためである。
多くのバッタがカップルを形成している様子に、彼は嫉妬心を感じつつも、カップリングの成功率の高さに疑問を抱く。
人間社会ではカップル成立率が低い中、バッタの世界ではほとんどの個体がカップルになれることに違和感を覚える。
シングルのバッタを探すが、見つけることは困難である。この状況から、バッタ社会には効率的なカップリングシステムが存在するのではないかと考える。
研究者は、自身が嫉妬や悲しみを感じながらも、翌日の調査に期待を持って就寝する。

新しい朝が到来した。希望に満ち、喜びを胸に、空を見上げる。
夜明け前に目覚め、昨夜バッタの大群を観察した場所へと向かうが、そこにバッタは一匹もおらず、完全にいなくなっていた。日が昇ると、バッタの足跡だけが残されている。
地元スタッフに尋ねるも、彼らにもバッタがどこに行ったのかはわからない。混乱を抑え、朝食をとる。
この出来事が、新たな発見へのきっかけとなる可能性があると感じ、次のチャンスを見据えている。
また、研究者としての自分の成長を考慮し、日々の生活の中で様々な作業に取り組む。
調査と事務作業の繰り返しは、体力と精神力の消耗と回復のバランスを保ち、常に活動的な状態を維持している。

緊急の野外調査が行われた。
ティジャニは毎朝7時過ぎに宿舎に来て、共に朝食をとりながら前回の調査の反省を交わす。
朝8時には、ティジャニは防除センターへ情報を確認しに行く。
帰宅後、興奮して前回の調査地の近くでバッタの群れが目撃されたと報告し、直ちに出発の準備が始まる。
新たなバッタの集団の観察が期待され、ティジャニのいとこディダがアシスタントとして加わることで、準備は迅速に進む。
出発は昼過ぎであり、到着が遅れたため、バッタの観察は一部に限られたが、翌朝早くから更なる調査が計画される。
研究者はバッタの群生相について詳細なデータを取ることに専念し、研究業績を上げるための圧力を感じながらも、必要なデータを確実に取得するために努力を重ねる。

研究者はバッタのカップル成立のメカニズムを解明するために砂漠でトランセクト法を用いて調査を実施している。
この方法では定期的に区画内のバッタの数や性比をカウントし、繁殖行動のパターンを観察する。
特に雌雄の性比や繁殖行動に焦点を当て、目視でデータ収集を行っている。
調査は2メートル×25メートルの区画を10本用い、1時間ごとに実施することに決定した。
この手法は、バッタの数を効率的にカウントし、行動傾向を科学的に解析するために選ばれた。

研究者は、サハラ砂漠の厳しい環境下での調査に直面している。
灼熱の太陽光、強風、乾燥などの過酷な条件の中で、熱中症のリスクを避けながらデータ収集を行っている。
そのため、防風と日差し対策としてハイマというテントを使用し、必要に応じて休憩を取りながら調査を続けている。
また、気化熱を利用して水を冷却する方法を採用し、冷たい水を確保して体温を調整している。
この工夫により、灼熱の環境でも比較的快適に調査を行うことが可能となっている。

研究者は、サハラ砂漠で行われるバッタの繁殖行動についての調査を行っている。
日中はオスのバッタが主に活動しているが、夜になるとメスが現れ、カップルが形成され産卵が行われる。
これは研究者にとって新たな発見である可能性があり、これまでの研究では十分に認識されていなかった。
この現象は、夜間に大量のバッタが産卵するというもので、日中に産卵する個体は例外的であるかもしれない。

野外でのデータ収集は困難が伴い、研究者は環境条件が厳しい中での体力の管理に苦労している。
観察結果を科学的に証明するためには、一貫性のあるデータが必要であり、研究者は室内での実験に比べて野外での研究が非常に難しいと感じている。
これにより、彼は今後の調査でどのようにデータを収集し分析するかという点について深く考えなければならない状況にある。

研究者は仮説検証の過程とその重要性について説明している。
仮説は自然現象を説明するために立てられる仮の説明であり、これが研究の大黒柱となる。
立てられた仮説が実際のデータによって支持されるか否かを確かめる行為が検証である。
研究者は仮説に対して中立的な立場で検証作業を進めるべきであり、その過程で「集団別居仮説」と名付けた新たな仮説を立てている。
この仮説では、サバクトビバッタの雌雄が通常は別居し、特定の時期にのみ集まって交尾と産卵を行うと推測されている。

さらに、研究者は仮説名に魅力的な呼び名をつけることの重要性を強調し、仮説がいかに研究に興味を引くかに影響すると述べている。
そして、具体的な検証方法として、野外でのバッタのグループの性比を目視でカウントし、交尾がオスの集団のみで行われているかどうかを観察することを計画している。
この研究の進展は、バッタの未知の繁殖行動に関する新たな知見をもたらす可能性がある。

研究者は、自らの研究テーマである「集団別居仮説」に情熱を注ぎ、それを追求することに生涯を捧げると決心している。
バッタの繁殖行動の謎に強い興味を持ち、その解明に向けての決意を新たにしている。
研究者は、子供の頃に読んだ『ファーブル昆虫記』から影響を受け、昆虫の謎を自らの手で解明する快感を追求したいと願っている。
また、生活のためではなく、研究に専念できる環境を選ぶことが重要だと考えている。
研究者は、バッタの研究を通じて、人類に新たな知識をもたらすことに喜びを感じており、これが彼の研究への情熱をさらに燃やしている。

第 2章  バッタ学の始まり

バッタ学の歴史とその学問的発展について述べられている。
初めに、バッタに関する誤解を解き、バッタ学がどのように進化してきたかを学術的に解説する。
また、「出エジプト記」のエピソードを引用し、古代エジプトでのバッタ(サバクトビバッタ)の扱いがどのように描かれているかに触れている。
特に、バッタとイナゴの間の誤訳の問題や、バッタがどのように描かれているかについて言及している。

研究者は、バッタの繁殖行動の謎を解明することに情熱を注ぎ、その解明に向けて生涯を捧げる決意を表明している。
また、「トビバッタ」と「イナゴ」の区別について学術的な説明を行い、一般的に使われる用語と専門用語の使い分けの重要性を強調している。
この文献では、バッタ学の進展を促した過去の研究と現在の課題を照らし合わせながら、バッタ学の歴史を概観している。

バッタの分類とその学問的謎について解説されている。
19世紀にはバッタの分類に関する混乱があり、ロシアの昆虫学者ウバロフは、異なるとされるトノサマバッタの二種が実際には同種である可能性を探求していた。
ウバロフは、ダニカとミグラトリアが同種の可能性を示唆しながらも、異なる行動と形態学的特徴から別種とされていたことに疑問を持ち、その解明に取り組んだ。

ウバロフは長期にわたる調査と飼育実験を通じて、ダニカとミグラトリアが環境に応じて形態が変わる「相変異」を示す同種であることを発見した。
彼の研究は、バッタがどのようにして大群を形成し、また消失するかの謎を解明するための重要な手がかりを提供した。
この発見は、バッタの分類学における重要な転換点となり、後の研究に大きな影響を与えた。

ウバロフによる「相説」の提唱とその科学的な意義について述べている。
ウバロフはダニカとミグラトリアとされるバッタが、実際には同種であるという新説を唱えた。
彼はこれらのバッタが「孤独相」から「群生相」へと変異するとし、この過程において「転移相」という中間状態が存在するとした。
この理論は、バッタの大発生とその後の消失を科学的に説明するものであり、長らくの謎に解を与えた。

彼の研究は、バッタ学における重要な進歩であり、後の多くの研究に影響を与えた。
また、ウバロフは、研究成果を広く共有し、国際的なバッタ対策の組織運営にも関与した。
彼の功績により、バッタの生態理解が深まり、より効果的な防除戦略が開発されたことで、彼は「バッタ学の父」と称されるに至った。

本文は、トビバッタの孤独相と群生相の違いに対する科学的な理解と、その研究に対する歴史的な進展に焦点を当てている。
ウバロフが提唱した相説は、現在では「相変異」として知られ、バッタの大発生の謎を解明するための基盤となっている。
研究の進行により、バッタの行動、発育、生理学などが深く探求された。

さらに、対バッタ研究所による「Anti-Locust」シリーズは、この分野における重要な成果をまとめたもので、多くの基礎的で革新的な発見を含んでいる。
この中で、Dirshはダニカとミグラトリアを区別する新しい形態学的特徴を発見し、これがバッタ研究に新たな光をもたらした。

ウバロフの業績は多大な影響を及ぼし、彼が構築した研究環境は後の研究者たちに多大な影響を与えた。
研究者たちは彼の研究を基に、バッタの生態についてさらに詳しく調査し、その知識を深めることができた。
しかし、その研究所は後に廃れ、新たなバッタ研究者の育成が停滞してしまった。
ウバロフの死後、彼の著作は後世の研究者たちに知識を伝えるためのものとなり、彼の研究への熱意を受け継ぐことが期待されている。

第 3章  アメリカ編 タッチダウンを決めるまで

ある研究者が昆虫学者を目指すきっかけとなった師匠、安藤喜一教授との出会いとその影響を語っている。
安藤教授は、研究に対して厳格で徹底した姿勢を持ち、同時に学生に対してはその研究スタイルを押し付けず、彼らが自然と研究の姿勢を学ぶ環境を提供していた。

研究者自身も、日々の繰り返しと試行錯誤を通じて研究の難しさと重要性を学んだ。
特にコバネイナゴの脱皮回数の遺伝的な背景を探る研究を行い、それが彼にとって生涯の財産となった。
また、バイト経験が研究の効率や精度を高めるのに役立ったと語っている。

さらに、弘前大学での生活や津軽弁との格闘、友人との交流など、研究以外の経験がどのように彼の人生や研究に影響を与えたかについても触れている。
最後には、ウバロフ卿やその研究所での仕事への尊敬と、独自の研究への情熱を綴っている。
この研究者は、フィールド研究を含む多岐にわたるテーマに取り組み、研究の伝統を継承しながら新たな発見を目指している。

研究者が「集団別居仮説」に挑戦する際、経済的な不安定さが冷静さをもたらし、自身の成長を模索することになる。
野外での調査経験や実験室での実験、生態学的な考察力、論文執筆能力が不足していることを認識し、これらのスキルを向上させようと決意する。
アメリカの研究者であるホイットマン教授との文通を通じて、教授の研究とフィールドワークを学ぶためアメリカに行くことを決める。
教授からの招待を受けてイリノイ州とフロリダのエバーグレーズを訪れる予定となり、これが自身の研究およびキャリアにとって重要な機会となる。

研究者は、アメリカに渡り、ダグの指導のもと、イースタンラバーグラスホッパーの研究施設を訪れる。
このバッタは黒と黄色のストライプが特徴的で、成虫はオレンジ色の体に赤い後翅を持つが、飛ぶことはできない。
ダグとの共同作業を通じて、研究者はバッタの体温調節行動とその測定方法を学ぶ。
アメリカ滞在を経て、フロリダのエバーグレーズに位置する大湿地帯でフィールドワークを行う計画を立てる。
エバーグレーズでは、湿地帯に適応したイースタンラバーグラスホッパーの観察を行い、その生態と行動について深く学ぶ。
研究者はこの地での生物多様性と蚊の問題にも直面するが、湿地帯の複雑な環境を直接体験することで多くを学ぶ。

研究者は、ダグの指導のもと、イースタンラバーグラスホッパー(ラバー)と呼ばれるバッタの研究を行っている。ラバーは毒を持ち、捕食者には危険を示す色をしているが、寄生バエには効果がない。これにより、ラバーは湿地帯を選んで生息することで寄生バエから逃れるが、産卵のためには陸地に戻る必要がある。この生態的な特性を基に、ダグは「ヒルトッピング仮説」を立て、研究を行っている。この仮説では、湿地に囲まれた陸地(島)でメスが産卵する場所として集まり、オスはここでメスを待つ行動を取るとされる。

研究は、フロリダのエバーグレーズ国立公園で行われ、島と隣接する道路沿いでの性比と交尾行動の違いを観察し、島ではオスがメスより極端に多く、ほとんどのメスが交尾中であることが確認された。
また、メスが産卵のために島に来るという仮説を支持するために、ダグの提案により、島で交尾中のメスの解剖を行い、卵巣の状態を調べた。
この解剖から、島にいたメスのほとんどが産卵準備が整っていたことが明らかになった。
この結果は、メスが産卵のために特定の場所に集まる行動を支持するものである。

湿地帯でオスがメスを待ち伏せする理由は、単独でメスを探すよりも待ち伏せの方が出会いの確率が高いためである。
オスは競合他社が多い島で、メスが到着するとそのメスに集まり、最終的に成功したオスはメスとの交尾後にメスの背中に乗り続け、他のオスからメスを守る。
これにより、自分の精子が卵を受精する可能性を高める。
ダグはこの現象を、「金があるから銀行を襲う」と同じ理由で「メスがいるからオスが集まる」と例えて説明した。

研究者はこの現象を調査中に、野生のクマに遭遇し、これをビデオ撮影する。
ダグとの議論の後、間違いなくクマだったことが確認され、後にニュースでも報じられた。
フィールドワーク終了後、ダグの家で開かれた送別パーティーでは、アメリカンフットボールを楽しみ、これが研究者のアメリカでの大人への成長を象徴する出来事とされた。
ダグは研究者の経済的な困難を理解し、フロリダ行きの費用を支払ったことを告げ、その金額を研究の進展に使うよう促した。
研究者はこの経験を活かし、将来の研究での恩返しを約束して日本に帰国した。

第 4章  再びモーリタニア編 バッタ襲来

モーリタニアに戻った研究者は、大雨によって一部の地域が緑に覆われ、サバクトビバッタが現れ始めたことを記録した。
研究者はフィールドワークを行い、孤独相の成虫の行動パターンを観察したが、十分なデータを得るのは困難であった。
特に孤独相の成虫は捕獲が難しく、その速さと保護色により、観察や捕獲には大きな努力が必要であった。

その後、研究者はバッタの集団が交尾しているという報告を受け、砂漠地帯を車で移動する困難を経験した。
砂漠を「沙漠」と表記するべきか「砂漠」とするべきかの言葉選びにも触れ、砂丘地帯の難所を避けながら目的地へと向かった。
砂地での走行は、タイヤの空気を抜くなどして対応し、砂丘を乗り越えて緑地に辿り着いたことが語られる。

また、サハラ沙漠を横断しようとした日本人青年の物語が触れられ、その旅と比較して現代のフィールドワークの挑戦が描かれている。
この物語は、沙漠の厳しさと冒険者の孤独を象徴しており、研究者自身のフィールドワークへの敬意と注意の重要性を表している。

研究者はフィールドワークに出向くも、目当てのバッタがすでにいなくなってしまった。
翌日、ティジャニの勘を頼りに再度探索を行い、バッタの集団に遭遇することができた。
集団は研究者の予想通り、車の通ったわだちで産卵をしており、これは地中の湿り気と深さが産卵に適しているためだった。
夜間の産卵の観察を行いつつ、解剖する重要な作業を忘れるというミスを犯し、これに自己反省の念を示している。

その後、研究者は京都大学白眉プロジェクトに特任助教として採用され、後に国立研究開発法人国際農林水産業研究センターに任期付き研究員として異動した。
そこで、越境性害虫の管理をテーマに研究を行い、サバクトビバッタの防除技術開発に取り組んでいる。
研究所では、与えられた課題を忠実に遂行しつつ、自分の研究が社会に役立つことを証明することに努めている。
また、国際的なネットワークを構築するため、モーリタニアでのワークショップに参加し、バッタ防除に関する国際的な連携を模索している。

京都大学在籍時、研究者はアフリカに度々訪れたが、集団産卵の現場には遭遇できなかった。
しかし、学内で『Sexual Selection』という書籍に出会い、そこから性選択に関する研究が幅広く紹介されていることに興味を持った。
特に、”Lek”(レック)という現象について知り、この現象が自身の研究に重要かもしれないと感じた。

レックとは、オスが集団を形成し、メスが交尾をするためだけに訪れる場所である。
この現象は鳥類、哺乳類、昆虫など多様な動物群で観察されており、レックの社会的、生態学的意義が広く研究されている。
オスが集団を形成する場所には、食料や巣作りに適した環境があるため、メスが集まりやすいとされる。

この発見は研究者にとって衝撃的であり、サバクトビバッタの繁殖システムに関する理解を深めるきっかけとなった。
また、レックの概念を用いてサバクトビバッタの行動を解明し、新たな研究の方向性を見出すことができた。
レックの研究により、研究者はこの現象がバッタ目にも存在することを世界で初めて示すことが目標となった。

昆虫の繁殖行動に関しての知識が不足していた研究者は、繁殖行動に関する書籍を手に取り、その中で交配プールという概念を知った。
交配プールは交尾可能な個体が集まる集団を指し、実効性比というのはこのプール内でのメスとオスの数の比である。
この比は時間と共に変化し、動物によっては交尾後の繁殖過程が終わると再び交配プールに戻ることもある。

交尾相手を探すためには様々な戦略があり、ヒルトッピングやフェロモンの使用、迅速なカップリングなどが知られている。
特にサバクトビバッタはレックに似た行動を取る可能性があり、これによって繁殖行動と性比の問題が説明できるかもしれないと考えた。

国際農研に所属している研究者は、40日以上前に出張の計画を提出する必要があり、実際にバッタの発生を確認するまで計画を立てることが困難だった。
しかし、強風がバッタの大群をモーリタニアに運んできたとの情報が入り、その年の研究が大きく進展することになった。

北部のアドラール地方のデーツ農園を営む老婆からの通報を受け、研究チームはその場所に急行したが、バッタの被害は見られなかった。
それにもかかわらず、チームはその地域に留まり、さらなる調査を行うことを決めた。

彼は砂丘と平地エリアでバッタの観察を行い、特に平地エリアでオスの集団が集まるレックを確認した。
観察作業は本来の計画よりも間隔を長くとって時間を効率的に使い、解剖作業に専念することにした。
また、性成熟したメスのバッタを捕捉し、解剖を行い卵巣の状態を確認した。
これにより、バッタの繁殖行動に関する重要なデータを収集することができた。解剖作業中には虫の群れが集まる難問も発生したが、彼はそれを乗り越え解剖を続けた。

研究者は、卵母細胞の長さを測定する作業に取り組み、特注品のライトと熟練の技術を使用して解剖を進めた。
通常は顕微鏡で測定するが、今回はデジタルノギスを使用して強引に測定を行った。
野外での解剖は肩の凝りや虫の邪魔など困難が多く、作業は一層難しくなった。
昼間の暑さと夜間の困難な条件を乗り越えながらも、解剖を続けた。
特にバッタが好きでなければ耐え難い作業だが、彼はその難しい状況を楽しんでいた。
解剖が終わると、バッタの卵母細胞の長さの測定結果が得られた。
これにより、バッタの生殖と関連する重要なデータが収集された。

研究者は産卵中のメスバッタがオスに守られている現象に興味を持ち、その理由を探求した。
先行研究によれば、産卵中のメスの背中にいるオスは他のオスを寄せ付けないフェロモンを放つため、産卵中のメスは他のオスから交尾を迫られることがない。
これを実証するため、研究者はデジタルビデオカメラを使って産卵中のカップルの行動を観察し、産卵中に他のオスがメスを襲うことはほとんどないことを確認した。

さらに、研究者は新しい調査地でのデータ収集と解剖を行いながら、グララと呼ばれる地域での調査も進めた。
グララでは、豊富な植生を背景にバッタが活動している様子をビデオで撮影し、虫アミを使って大量のメスバッタを捕獲する実験も行った。
この実験から、周囲がメスで占められていることが判明し、これが大きな驚きとなった。
研究者はこの発見をもって、産卵前のメスの卵巣の状態を詳しく解剖し、その生理的特徴を解明するために努力を重ねた。

研究者は、さまざまな発達段階の卵母細胞を持つメスバッタの集団を解剖し、その生理的な特徴を調査した。
群生相のバッタの性比がオスに偏っている理由が、メスが早死にするからではなく、メスだけで集団を形成しているからであることが明らかになった。
これは「集団別居仮説」を支持する重要な証拠となり、研究者はこの発見により、サバクトビバッタの繁殖システムについての新たな理解を得た。
さらに、卵巣発達中のメスバッタがエサを摂取する様子も観察され、グララ地域がメスにとって理想的な餌場であることが確認された。
研究者はこのデータを基に、科学的な証明を行うためにさらなる詳細な実験を計画している。

第 5章  モロッコ編 ラボを立ち上げ実験を

研究者は、特定の飼育室と機材が必要な実験を計画しており、適切な施設を探していた。
サバクトビバッタの飼育には特定の温度と湿度を保つ必要があり、一部の国では厳格な植物防疫の規制が存在するため、外国の研究所との協力が求められた。
研究者は過去にフランスのCIRAD研究所で実験を行った経験があり、シリルというフランス人研究者と協力していたが、シリルがモロッコに長期赴任中であるため、フランスでの実験が難しくなっていた。

研究者は他の国の研究所を訪問し、飼育室の利用を希望していたが、複数の問題に直面した。
現地研究者は外部研究費を給料として依存しており、研究者が持ち込む外部資金が彼らの収入に直接寄与しないため、彼らにとって魅力的でなかった。
また、高額な設備が使用されていない状況や、地元の治安の悪さなど、様々な障害が存在した。

結局、シリルの誘いに応じてモロッコのバッタ防除センターで実験を行うことになり、研究者はモロッコへ行くことを決めた。
彼らは、バッタの飼育に適した環境を整えるために、現地での飼育設備と実験室の準備に取り組むことになる。

モロッコでの生活において、研究者は人間が尊厳を保持し健康的に生活できる環境の整備が必要だと考えている。
センターの宿泊施設は健康に適さないため、近くのホテルで長期滞在することにした。
ホテルには基本的な設備があり、電気ヒーターで寒さ対策をすることになる。車の運転に自信がなかったが、国際免許を取得し、マニュアル車での運転に挑戦することになる。

交通マナーの良いアガディールで練習を重ねた後、一人での運転に移行する。
フランス語が不自由ながらも、地元の人とのコミュニケーションを重ねる。特に、シャディッドというドライバーとはフランス語で会話ができ、生活の中で彼の支援を得ている。
また、バッタの餌の確保については、市場で安価に手に入れることができるが、農薬の使用が懸念されるため、購入後には毒見を行っている。これにより、飼育するバッタに安全な食料を提供している。

コムギ栽培システムを構築しようとした研究者は、他のラボと同様の食料を使うことが望ましいと考えていたが、センターではコムギの芽出しを栽培するシステムがなかった。
レタスを使用しているが、トラブルが起きた場合のリスクを避けるためにコムギ栽培システムの準備も進めることにした。
単純な構造の棚に蛍光灯とトレーを設置し、コムギの芽出しを育てる計画を立てる。
地元の業者にカスタムせずにシンプルなものを作るよう依頼し、最終的にはレタスをメインの餌として使用することを決定した。
プランBとしてコムギ栽培システムを保持することで、リスクを最小限に抑える戦略を採用した。

研究者はモロッコでの初めての休日出勤を経験し、シリルがクリスマス休暇のためフランスに帰省している間に研究活動を開始する。
モロッコの文化に触れながら、センターの清掃スタッフに感謝を示すことでコミュニティとの絆を深める。
また、所長の訪問を受け、家族とのバカンスを控えた所長と挨拶を交わす。
休日、シャディッドの自宅での昼食に招かれ、モロッコの家庭料理を楽しむ。
タジン鍋で調理されたチキンや地元のサラダを堪能し、文化の理解を深める。
食事を通じて地元の人々との関係を築き、研究以外の生活も充実させる。

金曜日はモロッコ全国でクスクスを食べる習慣があり、研究者もファリッドからその日のクスクスを提供されるようになった。
このクスクスは、ファリッドの奥さまが作ったもので、粒状のスパゲティのような形状をしており、オリーブオイル、水を加えて蒸すことで柔らかく調理される。
さらに、肉、ニンジン、キャベツ、カボチャ、ナス、ひよこ豆などの野菜と共に煮込んだスープをかけて食べる。
クスクスは栄養バランスが良く、飽きの来ない味であるため、金曜日の食事として定番となり、研究者にとっても週末の楽しみの一つとなった。
また、クスクスを蒸した後に砂糖をまぶし、油で揚げるとクリスピーなお菓子にもなるという多様性がある。

出稼ぎ研究者としてモロッコでの研究が軌道に乗り始めたが、帰国日が近づく中で必要なデータは最低限取得し、次回の研究に備えて準備ができた。
サイドゥ所長は研究に興味を持ち、研究者が幼虫の雌雄判別技術を伝授したことで、飼育室が活用されるようになったと評価された。
所長は研究者たちのモチベーションと努力を高く評価し、いつでも歓迎すると伝え、研究者も新しい仲間との共同作業で多くの問題を解決し、成果を挙げることができたと自信を深めた。

第 6章  フランス編 男女間のいざこざ

動物界では雌雄が存在し、繁殖のためにはお互いの配偶子を結び付けることが必要である。
しかし、繁殖においては雌雄間で激しい対立が生じることもあり、「性的対立」という現象が起こる。
これは、雌雄が繁殖を巡って異なる利益を追求するために起こる。
特にオスは繁殖周期がメスより短く、より多くの子をもうける機会があり、これが雌雄間の競争を激化させる。

繁殖における雌雄間の対立は、メスが迷惑と感じるオスの過度な求愛行動として現れることがあり、これを「male-mating harassment」と表現する。
しかし、雌雄間での対立は必ずしも否定的なものではなく、一部の動物は繁殖期に雌雄が物理的に離れることで、雌雄間の衝突を避けることができる。

このような性的対立や交尾相手の選択は、動物の繁殖行動を理解するために重要な研究テーマであり、動物がどのようにしてパートナーを選び、どのような特性が選ばれるかについて多くの研究が行われている。
これらの知識は、生物学の理解を深める上で非常に有益である。

研究者がモーリタニアで行ったフィールドワークから、サバクトビバッタの雌雄が集団で別居する現象に対して生態学的な理由を探求している。
オスは交尾後もメスにしがみつき、他のオスからメスを守る行動を取るが、これがメスにとっては逃避能力を低下させる不利益をもたらす。
バッタの交尾行動の観察を通じて、オスにマウンティングされることがメスの逃避能力にどう影響するかを数値化しようと試みている。
その結果、メスはオスにマウンティングされることにより逃避反応が遅れるという生態学的な説明が導かれる可能性がある。

CIRADでは、研究者がバッタの飼育と実験に専念しており、日々効率的にデータを収集している。
研究所の施設には充実した文献資料と食事の提供があり、昼食は補助を受けて格安で提供されている。
さらに、金曜の夜にはフライデーナイトと呼ばれる交流の場が設けられ、同僚との親睦を深めながらリラックスする時間を過ごしている。
この環境において、研究者は研究生活における快適さと科学的生産性の高さを実感している。

フランスでの海外出張中、日本から持参したお土産が重宝される。
特に抹茶味のキットカットや梅酒、日本製のウィスキーは大変喜ばれる。
日本の特有なお土産としては、手ぬぐいや扇子があり、特に包丁は非常に好評である。
フランスでは刃物を贈られた際には、友情が途切れないようコインを返す風習があるため、贈り物としても喜ばれる。
また、フランスではお土産の選び方にも工夫が求められるため、多様なアイテムを準備していくことが推奨される。

食レポートには注意が必要である。
料理の素晴らしさを伝えることは良いが、他の料理が味わえなくなるような表現は避けたいものである。
特にフランスではワインを称賛する機会が多く、複数の友人からのワインの提供を受ける場合、一方を過度に称賛すると他方を傷つける可能性がある。
このような状況を避けるため、食レポートでは慎重に異なる表現を使い分けることが大切である。

また、不味い料理に遭遇した場合も、過度に美味しいと演じると、さらに食べさせられる危険があるため、適切な反応を見極める必要がある。
例えば、「面白い」という表現は、感動したわけではないが、辛辣な批評を避けたいときに役立つ。

食レポートは、ただの表現以上に、その場の雰囲気や相手との関係を維持するための機微を要するコミュニケーション手法であると言える。

第 7章  ティジャニ

本書では、昆虫学者とサバクトビバッタの戦いを描くが、影の主役であるティジャニが話の展開を根底から覆す強烈なキャラクターとして登場する。
ティジャニはドライバーでありながら、その豪快で人情味あふれる行動で読者の人気を博し、サイン会でも多くのファンに支持された。
前作「バッタを倒しにアフリカへ」では、彼は脇役として登場しているにもかかわらず、独特の魅力で注目を集めた。

ティジャニはモーリタニアに住むドライバーであり、彼の素晴らしいカリスマと人柄は、著者が再び彼を中心に物語を組み立てるに至った。
また、彼との出会いやエピソードは著書の中でも特に印象的な章を形成しており、彼の逸話を独立した章にまとめることで、その影響力と魅力を際立たせている。
それにより、この学術書においても、ティジャニに関する興味深い派生話が語られることになった。

ティジャニは防除センターでドライバーとして働いていたが、その技術力と探究心で車の修理など様々な技術を身につけ、センター内での評価が高まった。
その後、FAOのプロジェクトでドライバー専任として雇われ、悪路での運転技術を磨き、高い評価を受けた。
給料の低さからタクシー運転手に戻ることもあり、重要な任務の際にはドライバーとして呼び戻される状態だった。
さらに、料理の腕も高く、砂漠でのキャンプ食を改善するなど、多才な面を持ち合わせていた。
彼の弟たちは商売で成功しており、ティジャニも商才があるとされるが、ドライバーとしての仕事に情熱を持ち続けている。
彼は長男として、親の支援を受けずに自立しようとしており、その責任感は研究者としての彼との関係にも影響を与えている。
彼の生活を支えることが研究を進める上での使命と考えられている。

ティジャニは防除センターでドライバーとして働いていたが、その技術の高さから整備士のような役割も果たし、センター内で尊敬されるようになった。
その後、FAOのプロジェクトで専任ドライバーとして雇われ、困難なフィールドでの運転技術を磨いた。
長い期間、センターでドライバーとして働いたが、経済的理由からタクシー運転手として独立。
しかし、その技能を評価され、重要な任務の際にはセンターに呼び戻されることもあった。

ティジャニの料理の才能も抜群で、砂漠でのキャンプ地でフランスパンを使用したサンドウィッチを作り、大好評を得た。
この能力により、彼は様々な役割を一人でこなすことができた。

さらに、ティジャニの家族についても触れられている。
彼の父は複数の店を経営しており、富裕であるが、ティジャニとその母は質素な生活をしている。
ティジャニ自身、商売ではなくドライバーの職を選び、その道で独立しようと考えていた。

また、ティジャニは将来的に労働から解放される方法を模索しており、タクシー会社の経営を考えている。
これにより、彼は車を購入し、他人に運転させることで収益を上げる計画を立てている。
この計画には研究者も資金を提供することで関与している。

ティジャニは防除センターでドライバーとして働き始めたが、その卓越した技術で整備士さえ修理できない車を修理し、注目を集めるようになった。
彼はさまざまな技術を習得し、FAOのプロジェクトでは困難な環境での運転技術を駆使した。
ドライバーとしての給料が低いため、彼はタクシー運転手として独立するが、重要な任務ではセンターから呼び戻されることもあった。
ババ所長の下で彼の才能は認められ、専任ドライバーとして再雇用された。

ティジャニは料理にも長けており、砂漠でのキャンプ地でサンドウィッチを作り、高い評価を受けた。
彼は多才であり、一人で数々の役割を果たすことができた。
家族については、ティジャニは商売の才能がある兄弟とは異なり、ドライバーとしての生活を選んだ。
彼は複雑な家庭環境の中で自立しようとし、父の支援を求めずに自分の道を歩んでいる。

また、ティジャニは収入源としてタクシー会社経営を目指しており、そのためのビジネスモデルを検討している。
彼は将来的には労働をせずに収入を得る方法を探求しており、その過程で研究者と協力している。
彼らは車を購入し、それを利用してタクシー業を展開する計画を立てており、初期投資として車の購入と運営コストを見積もっている。

ティジャニは防除センターでドライバーとして働き始め、その卓越した修理技術で注目を集めた。
彼はさまざまな技術を身につけ、特に難易度の高い砂丘エリアでの運転技術を磨いた。
彼の技術とサービス精神は評価され、高官が視察に来る際には指名されるほどであった。
経済的な理由から一時はタクシー運転手に戻ったが、重要な任務ではセンターに呼び戻されていた。
ババ所長が彼の能力を評価し、専任ドライバーとして再雇用した。

ティジャニは料理にも長けており、砂漠での視察時にはサンドウィッチを作って好評を得た。
彼は多才で、メカニックやコックとしても機能できる一人何役もこなす能力を持っている。
家庭環境では、商売の才能がある弟たちと異なり、自立して生計を立てている。父は裕福であるが、ティジャニはその支援を受けずに独自の道を歩んでいる。
彼の独立心と責任感は、周囲からの尊敬を集めている。

ティジャニは防除センターでドライバーとして働き始めた。
彼は車の整備士たちが修理できない車も修理する能力を持っており、多くの注目を集めた。
彼はさまざまな機械の扱いに長け、特にFAOのプロジェクトで砂丘地帯を運転する技術を磨いた。
その技術と安定したサービスで評価を受け、大臣クラスの要人が訪れる際には、彼が指名されるほどになった。
経済的な理由から一時タクシー運転手に戻ったが、重要な時にはセンターに呼び戻された。
ババ所長に能力を評価され、再雇用された後、3年でティジャニは新しい上司と出会った。

ティジャニは料理も得意で、砂漠での視察中にはサンドウィッチを作って高評価を得た。彼は料理のスキルも併せ持ち、スタッフからのリクエストが増えた。
ティジャニの弟たちは商才があり、父の店を引き継ぎ発展させたが、ティジャニ自身はドライバーとして独立した道を歩んでいる。
彼は経済的な自立を望み、研究者として雇用された上司と共に、金を稼ぐ新たな方法を模索している。
その方法とは、タクシー会社の経営であり、最初の投資後は手持ちの車を増やして収益を上げる計画である。

ティジャニは防除センターでドライバーとして働き始め、その技術で注目を集めた。
彼は車の修理だけでなく、通信機器の取り付けや施設の保守も行い、技術力を高めた。
FAOのプロジェクトでは、困難な砂丘地帯を運転し、その技術で知られるようになった。
その後、経済的な理由からタクシー運転手に転職したが、重要な時にはセンターから呼び戻された。
ババ所長の下、再びセンターに戻り、その能力を活かして多くの人々と接触した。
彼は料理も得意で、砂漠での作業中には食事の提供も行い、同僚からの評価も高かった。
ティジャニの家族は商才があり、彼自身も経済的な自立を目指しており、研究者のサポートを受けながら新たなビジネスモデルを模索している。
このモデルは、タクシー会社の経営を通じて収入を得ることに基づいており、彼の生活を支えることができるだけでなく、研究の進行にも寄与している。

第 8章  日本編 考察力に切れ味を

2013年、京都大学白眉プロジェクトに応募し、松浦健二教授の昆虫生態学研究室で研究を行うことになった。
松浦教授はシロアリの社会性に関する著名な研究を行い、世界的に注目された成果を発表している。
特に、シロアリの繁殖システムに関する新たな発見は、サイエンス誌にも掲載された。
京都大学での研究生活は、他の研究者との交流や議論を通じて、研究スキルだけでなく、多様な研究テーマへの理解を深める機会となった。
松浦教授は学生の意見を尊重する姿勢を持ち、学生と教授の間に隔たりなく意見交換が行われた。
また、ラボでは論文執筆の技術を共有し、研究において新たなアプローチを試みることを奨励していた。
この経験は研究者としての成長に大きく寄与し、研究活動をさらに高いレベルへと推し進めることができた。

2016年、モーリタニアの首都ヌアクショット近郊でバッタの大群と遭遇した際、研究者の認識力や思考の明敏さが顕著に向上していた。
以前と異なり、研究者は迅速に解決策を導き出し、作業中も新たな発見の可能性を探る余裕が生まれていた。
この新たに得た能力により、フィールドワークは一層魅力的になり、以前に気付かなかった現象にも気づくようになった。

バッタの研究において、性比が雌に偏った集団と雄に偏った集団が確認され、交尾や産卵の挙動が異なることが観察された。
特に雄が多い集団では交尾が頻繁に行われ、雌が多い集団ではほとんど交尾が行われていなかった。
また、産卵行動は集団が再合流した後に行われることが明らかになった。

この研究は、「集団別居仮説」を支持するものとして解釈され、雌雄が交尾のために一時的に再合流する行動パターンを示すことができた。

研究者は、過去の研究と照らし合わせながら、新たに得られた結果の意味や学術的意義を論文の考察部で詳細に説明し、文献確認の重要性を強調した。
この研究により、バッタの集団行動に関する新しい理解が進み、集団別居の生態学的意義についてのさらなる議論が期待される。

交尾中にオスがメスの背中に乗る行動は、メスが逃げる速度を遅くし、天敵からの攻撃を受けやすくなるというコストをもたらす。
モーリタニアの野外およびフランスの室内実験から、メスはこの状況を避けようとするが、逃げ場がなければ最終的にはオスに乗られてしまうことが確認された。
この結果から、メスがオスと物理的に距離を置くことで、交尾ハラスメントを軽減できるメリットがあると考えられる。

さらに、オス間の競争が激しくなるとはいえ、オスには集団別居のメリットとして、理想的なメスに出会える可能性があるとされている。
精子競争の概念も関与し、交尾後のメスの体内で異なるオスの精子が受精を競う。
特に、サバクトビバッタでは、最後に交尾したオスの精子が受精に利用されることが多い。

繁殖システムにおいて、オスが産卵前の最後に交尾したオスであることが父性を確保する上で重要であり、このことからオスは交尾相手をガードする行動を取る必要がある。
レックでは、オス間の競争は激しいが、産卵直前のメスに出会えるチャンスが高まり、メスもレックに自発的に訪れるため、双方にとってメリットがあるとされる。
このようなシステムが進化した背景には、双方の利益がバランス良く配分されているからと推測される。

交尾中のバッタでは、オスがメスの背中に乗ることにより、メスの逃げる速度が低下し、天敵から襲われやすくなる。
この状況から、メスはオスと物理的に距離を置くことで、オスからの交尾ハラスメントを避けるメリットがある。
また、オスはオス同士で集団を形成し、精子競争が発生するが、最後に交尾したオスの精子が優先して使われるため、産卵直前のメスとの交尾が重要である。
そのため、オスはメスが産卵するまでのガードが必要となる。

オス同士の競争は激しいが、産卵直前のメスに出会うチャンスが増えるため、レックに留まるメリットがある。
加えて、オスが放出するフェロモンが交尾相手をライバルから守る機能を持ち、メスを探してうろつく必要がなく、メスが自らやってくるため、効率的である。

このように、レックはオスにとって交尾相手に巡り合うメリットが大きいため、進化してきたと考えられる。
他の動物との比較を行うことで、バッタのレックが秘めるさらなるメリットを探る研究が行われている。

レックに関する複数のモデルを説明している。第一に、ホットスポットモデルは、メスにとって重要な資源が集まる場所にオスがレックを形成することで、メスに出会いやすくなると予測する。
サバクトビバッタに関しては、レック近くで産卵が行われることから、このモデルが支持されているが、産卵場所が狭い範囲に限られている点や、オスが産卵場所をどう判断しているかは不明である。

第二のメスの交尾相手選択モデルでは、メスがレックを利用して最適な交尾相手を選ぶことが仮定される。
これには、メスが物理的な試練を通じてオスを選ぶ直接的な選択と、オス同士の持久力などの競争を通じた間接的な選択が含まれる。
サバクトビバッタでは、メスがオスを直接選んでいる場面は少なく、オスが熱い砂漠の地面に留まり耐熱性を競う様子が観察される。

第三の捕食リスクモデルでは、レックが最も安全な場所であるためメスが集まるとされる。
特に交尾中や産卵中に脆弱なメスが安全に時間を過ごせるよう、多数のオスがいることで個々の捕食リスクが減少する。

第四のブラックホールモデルは、メスがレックに入るとオスからの交尾ハラスメントを避けられるというもので、レック内のオスがメスを保護する役割を果たすとされる。
室内実験で、レック内のメスが他のオスから交尾ハラスメントを受けずに済むことが確認されている。

これらのモデルは、サバクトビバッタが繁殖システムを進化させる過程で、雌雄それぞれがメリットを得る方法として自然に発展したものと考えられる。
特に、サハラ砂漠などの極端な環境で生き残るためには、これらの適応が有効であることが示唆される。

第 9章  厄災と魂の論文執筆

モーリタニアから日本に帰国した研究者は、長期間日本人女性から隔離されたことにより、帰国時にすれ違う日本人女性全員が魅力的に映ると感じる。結婚相手の選択に困るほど選択肢が多いことを独白する。
この感覚を、バッタの繁殖行動と比較し、群生相と孤独相のバッタの交尾・産卵行動が異なるかどうかに興味を持っている。

孤独相のバッタは低密度のため、野外で見つけるのが困難であり、群生相のバッタと比較して繁殖行動が異なるかを調べるため、モーリタニアでのフィールド調査を行った。
その結果、孤独相のバッタはレックを形成せず、交尾する個体は少ないが、オスとメスの比率はほぼ1対1であることが明らかになった。

さらに、サバクトビバッタのメスはオスとの交尾がなくても単為生殖で産卵することができるが、交尾した方がふ化率が高まるため、交尾することが望ましい。
孤独相はいつでも交尾しており、研究者はモロッコで行った実験でこれを確認している。

孤独相のサンプル収集は困難であるが、「バッタ買取キャンペーン」を通じて多くのバッタを集めることができた。
また、捕獲後の孤独相をペットボトルで個別に飼育し、産卵を促すことに成功している。

この調査により、群生相のバッタが大型の卵を産むのに対し、孤独相のバッタは小型の卵を産むことが明らかになった。
研究者はこの結果を基に、バッタの密度に応じた繁殖行動の違いを解明し、帰国後も研究を続ける意欲を示している。

2018年、アラビア半島の砂漠地帯にサイクロンによる大雨が降り、緑が芽生えた。
この恵みの雨によってサバクトビバッタの生態に変化が生じ、バッタの大発生が起こった。
緑を口にしたバッタは直ちに性成熟を開始し、湿った土に卵を産んだ。
卵は土から水分を吸収し、発育を進めた。
バッタは数年ぶりの大雨により、天敵の不在と豊かな食料を背景に、数を急速に増やし始めた。

バッタは季節風に乗ってサウジアラビアから中東、インド、パキスタンへと広がり、アラビア半島からは紅海を越えてアフリカの角に侵入した。
2019年、ソマリアやエチオピアで発生した洪水とサイクロンが、バッタの増殖をさらに加速させた。
この大発生はメディアの注目を集め、70年ぶりの大襲来となり、防除活動が国際的に行われた。

しかし、バッタの防除は多くの困難に直面し、内戦やテロリストの影響で防除活動が困難になり、バッタの増殖を助長した。
FAOや国際的な支援により防除活動が行われたが、新型コロナウイルス感染症の発生により、さらなる障害が生じた。
世界中のバッタ研究者たちはこの危機を研究の機会と見ていたが、コロナウイルスのパンデミックによって研究活動が阻害され、計画されていた現地での調査や防除活動も大きく影響を受けた。

未曽有のバッタの大発生に対し、フランスのCIRADの退官者ミッシェル・レコック博士とアリゾナ州立大学のアリアン・シーズは、Agronomy誌でサバクトビバッタに関する特集号の企画を進め、関連論文の投稿を呼びかけた。これに応えて、著者は以前収集したデータに基づいて論文を発表することに決めた。
提出された論文は、バッタの飛翔習性を利用した効率的な駆除方法に関するもので、フィールドワークが防除作業の改善にどう貢献するかを示す内容であった。

一方、バッタの大発生がメディアで大きく取り上げられたことにより、著者は過剰なメディアの注目を集め、取材依頼に応じる日々が続いた。
これにより、誤解を招く報道がなされたり、重要な事実が削られるなど、ストレスの多い状況が生まれた。
さらに、コロナウイルスのパンデミックが発生し、計画されていた研究活動や現地での防除作業も大きく阻害された。

最終的に、バッタに関する研究とメディア対応の重圧により、著者の心身は疲弊し、私生活にも大きな影響を受けた。
特に、異性との出会いが減り、婚活にも失敗し、研究者としての役割にも疑問を持つようになった。
このような厳しい状況の中で、著者は研究とメディア対応のバランスを取りながら、精神的な安定を求めていた。

著者はサバクトビバッタの知名度を高めるためにブログやツイッター、その他メディアを通じて積極的な広報活動を行い、多くの賞を受賞し、テレビ番組にも出演した。
しかし、著者自身は研究を続けるために有名になることを目指していたわけではなく、順序が逆転して知名度を上げたことで「実力不足なのに無駄に有名」との批判も受けている。
経済的に安定し研究に専念できる環境が整ったものの、公の場での露出が多いために「有名税」としての噂話や中傷に悩まされている。

長期間データを収集し地道に研究活動を行っても、論文発表がないと評価されず、研究者からも見下されがちである。
そこで著者は、ハイインパクトなジャーナルに論文を掲載することが研究者としての尊厳と自信を取り戻す方法と信じ、一発逆転を狙っている。

研究成果を論文にするプロセスには、厳格な構造と方法が必要であり、結果の価値を科学的に証明していく必要がある。
著者は、論文の質が評価されることを期待しており、そのためには国際的な認知が必要だと感じている。
そして、論文の掲載先としてPNAS誌を目指し、研究成果を広く認知されるための戦略を練っている。

スーパー戦隊シリーズに喩えられるように、研究者は複数のデータを合体させてより強力な論文を目指している。
交尾中のバッタに関する研究データも初期には単独での発表を考えていたが、より影響力のある論文にするために他のデータと統合する選択をした。
論文執筆においては、計画的なアプローチが求められる。

また、論文のキーワード選定は重要で、その選択が研究のインパクトを大きく左右する。
限られたキーワードを用いて論文の全体像と新発見を効果的に伝える必要がある。
さらに、英語での論文執筆には英文校閲業者の利用や共同研究者の協力が不可欠であり、効果的なコミュニケーションと精度の高い文書作成が求められる。

掲載を目指す雑誌によって異なるスタイルの適応や、リジェクション(不採用)の経験を通じて論文の質を向上させる試みが行われている。
また、論文投稿は知の総力戦であり、エディターやレビュワーによる厳しい審査を経て、研究の新規性やデータの妥当性が評価される。
投稿した論文が受け入れられるまでには、エディターの門前払いやレビュワーの厳しいコメントに対処しながら、何度も修正を重ねることが一般的である。

研究者は、論文のキーワード「性的対立」がレビュワーに明確なイメージを与えなかったため、「オスによる交尾ハラスメント」という具体的なテーマに変更し、タイトルも「密度依存的な交尾行動がトビバッタのオスによる交尾ハラスメントを減少させる」とした。論文の内容は何度も見直しを重ね、さらに英文校閲を行うことでより洗練された。
この論文は、以前リジェクトされたものと大きく変わっていたため、再びPNASに投稿することにした。

投稿から9日後には査読へと進み、約2ヶ月後には「メジャーリビジョン」として再修正のチャンスが与えられた。
3名のレビュワーからの評価は分かれたものの、2名からは肯定的なフィードバックがあり、否定的なコメントも的外れであることをきちんと反論し、再び校閲と修正を経て再投稿した。
その結果、PNAS誌に論文が受理されたことを知らせるメールが届き、大きな達成感と安堵感を得た。

論文がアクセプトされたが、群生相に関する調査が不足している点が弱点とされていた。
この問題に対処するため、西アフリカで群生相が見られなくなった背景を防除活動の成果として肯定的に記述し、レミン博士もこれを評価した。さらに、研究者は論文執筆のビジネス面についても触れ、科学雑誌への投稿から研究者が直接的な金銭的報酬を得ることはなく、実際には出版やアクセス料を支払うケースが一般的であると説明した。
高額な掲載料やアクセス料にも関わらず、研究者には直接的な収益がないこと、また、オープンアクセスジャーナルで公開するためには更なる費用が発生する点を指摘している。
最終的に、研究成果を広めるための使命感と知的探求心から、研究者が論文を執筆し続けている実態が描かれている。

第 10章  結実のとき

最後の章で、アフリカンドリームに挑んだ10年間の結果、著者は「ハイインパクト雑誌からの論文発表」と「著作がベストセラーになる」という二つの成功を得た。
この二つの成果から得られた喜びや経験について詳細に記述するとともに、出版準備のプロセスも解説している。
プレスリリースの作成から各関係者の確認、メディア用の資料準備、そして出版社との調整に至るまでの複雑なステップが説明されている。
論文発表の直前には、論文の内容を最終確認し、時にはカバー写真の準備も行うが、今回はメディアで特集されることになった。
2021年10月に論文が公表され、研究者としての尊厳を取り戻すと同時に、長年のファンや関係者からの祝福を受けた。
その成功は、研究者が共に努力し、多くの支援と協力を得て成し遂げたことが強調されている。

論文のオープンアクセス公開にもかかわらず、期待したほどの外部からの反響がなかったため、著者はある種の孤独感を抱いていた。
しかし、想像上のレジェンドたちからの激励と賞賛を受けることで、その孤独感を和らげようとしている。
京大昆虫研の松浦からの電話によって、実際に意義深い議論が行われ、著者は研究者としての満足感を得ることができた。
また、研究成果が認められ、多くの研究者からの祝福を受ける中で、ウバロフ卿の研究哲学にも言及し、その精神を継承していることに誇りを感じている。
この研究旅路を通じて、科学的発見だけでなく、エンターテイメントとしての価値も追求し、ファンからの支持を得ながら研究活動を楽しんでいる様子が語られている。

バッタ目学会の国際会議がアフリカ大陸で初めてモロッコで開催されることになり、ババ所長からバッタのオペラをアフリカで上演するための資金援助を依頼された。
ババ所長の誤解により、著者は大変な超有名人とされていたが、実際にはそのような状況ではなかった。
それにもかかわらず、著者は自身の印税を使って2万ドルのスポンサー費用を捻出し、余剰分があれば返金する条件をつけて資金提供を申し出た。その結果、ババ所長は感謝し、プロジェクトを進めることが決定された。
モロッコでの会議は成功し、オペラも上演されたが、予定していた返金は実現しなかった。
それでも著者は、この経験を通じて学会を支援し、国際的なコミュニティに貢献できたと感じている。

著者は、日本とモーリタニアの文化における贈与行為の違いを解説している。
日本では贈与に対してお返しの文化があり、受け取ったり贈ったりする際にお互いに気を使う空気が漂っている。
これに対して、モーリタニアではイスラムの教えに基づき、持っている者が持たない者に与えるのは普通のこととされ、贈与は非常にスムーズに行われる。
著者は、贈与を通じて得られる善意の交換と共感が、人間関係の中で最も重要な財産であると感じている。

また、著者は日本学術振興会賞を受賞した経緯を説明している。
これは、日本学術振興会が主催する賞で、若手研究者の創造性と研究能力を顕彰することを目的としている。
著者は所属機関からの推薦を受けて応募し、受賞に至った。
授賞式は東京の学士院で開催され、秋篠宮皇嗣同妃両殿下の臨席のもとで行われた。
著者は受賞を通じて、自身の研究業績とともに、日本とモーリタニアの友好関係にも貢献していくことを目指している。

著者は受賞した日本学術振興会賞の副賞として、賞金110万円を得たことを報告している。
この賞金を使って、秋田県内の全ての図書館と小学校に自身の著書『ウルド昆虫記』を250冊寄贈した。
寄贈にかかった費用は50万円であった。彼はこの行動を通じて、読書活動の推進に貢献し、感動を与える価値があると感じている。

また、著者はフランスのモンペリエ大学でセミナーを開催し、サバクトビバッタの繁殖行動について発表した。
セミナーはオンラインでも参加可能であり、多くの研究者が関心を持った。この経験を通じて、彼は自身の研究が学問の世界でどれほど重要であるかを実感した。

教育関係者から学生に夢について語るよう依頼されることがあるが、著者は夢について語る資格があるのかと自問することがある。
若い頃は昆虫学者になる夢を追いかけ、それが叶ったが、夢についての違和感も感じていた。
学生時代は社会から夢を持つよう圧迫され、進路選択においても同様のプレッシャーを感じていた。しかし、夢についての正直な考えとして、ただ「楽しそう」という理由で昆虫学者という職業を選び、プレッシャーから解放された。

夢に対する現実的な考え方にも触れており、大きな夢を抱くことなく、小さな幸せを集めることが重要だと考えている。
夢を追い続けることで得られる幸せは大きく、早めに夢を見つけることができれば、それに向けての準備も進めやすくなるとしている。

また、進路選択についての自身の経験を述べ、多くの選択肢の中から進路を絞り出すのが難しいと感じている。
そこで、憧れの大人を見つけること、ロールプレイングを通じて自己の役割を探ること、読書を通じて多様な人生を経験することが、進路選択の助けになると提案している。

夏には全国高等学校野球選手権大会、通称「甲子園」が開催される。
著者はこの大会を特に楽しみにしており、秋田中央高校など地元関連のチームに熱心に応援する。失敗すると他のチームへと応援の対象を移す。
人間は誰かを応援することに喜びを感じ、応援されることで自身も成長できると考えている。
応援することは、社会の進歩において重要な役割を果たしてきたと著者は述べている。

また、研究者はしばしば他人を思いやる行動を取る。
2024年8月に京都で開催される第27回国際昆虫学会議では、多くの昆虫学者がその準備に時間を割いている。
これは彼らの献身的な行動の一例である。

応援することと応援されることの両方が、進路を進む上でのキーポイントになると強調されている。
また、応援心は人間の本質的な部分であり、誰かのために何かができることは人としての魅力を高めるものであると述べている。

あとがき  名前とお礼と挨拶と

著者はフィールドワークにこだわる理由を考え、自身の名字「前野」がフィールドへの縁を示していると納得している。
サハラ砂漠での研究を選んだのは意外な道であったが、そこで得た経験は、異国の人々とのコミュニケーションに役立ったと述べている。
特に、笑顔とお礼が言語の壁を越える重要なコミュニケーション手段であることを強調している。

また、著者は自らの生活や研究において、人間の本質的な行動である挨拶とお礼の重要性を認識している。
これらの行動は、相手への敵意がないことを示し、健康状態を知らせる手段として機能している。
人間関係を築く基本であり、どの国に行ってもこれが役立ったと振り返っている。
著者はこれからも挨拶とお礼を大切にし、研究活動を続けながら新たな挑戦を始める意志を示している。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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