どんな本?
『絶望からの新聞論』は、新聞業界の内部からの批判と問題提起を描いている。この本は、特に新聞に批判的な視点を持つ方々に推薦される。著者は朝日新聞での長年の経験から、報道の現状に警鐘を鳴らし、ジャーナリズムの自由と独立の喪失について深く掘り下げている。その洞察と解析は、新聞業界に対して疑念を抱いている方々にとって、共感とさらなる理解の源となるであろう。
朝日新聞を退職後、沖縄で新たな報道の道を模索する筆者の旅路は、新しいジャーナリズムの形を求める動機と期待を示している。読売新聞の「一強」化や政治とメディアの癒着について詳述されており、これらは現在のメディアが直面する課題を浮き彫りにしている。
この本は、新聞が単なる情報源ではなく、権力を監視し、公正を追求すべき存在としての役割を再確認するきっかけを提供する。新聞に批判的な方々にとって、『絶望からの新聞論』は、現代のメディア環境を理解し、これからの報道に何を求めるべきかを考えるための重要な一冊である。
読んだ本のタイトル
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あらすじ・内容
新聞はもう本当にダメなのか
政治への忖度が横行し、部数が激減する中で内部から崩れる新聞メディア。次世代にどのようなメディア環境を構想すればいいのか。新聞に希望を再生することは可能か。元朝日新聞エース記者が考える「正しい新聞の残し方」。
絶望からの新聞論
感想
新聞業界の内部からの批判と問題提起を描いたものである。
朝日新聞の記者であった著者は、自らの経験をもとに報道業界の現状と課題を鋭く解析している。
第一章では、著者が朝日新聞を退職した理由とその後の沖縄での活動に焦点が当てられている。報道のあり方や権力とメディアとの癒着に対する深い懸念が示され、地域社会に貢献する報道を目指す決意が語られている。権力の監視役としてのメディアの本質を見失っている現状に警鐘が鳴らされ、ジャーナリズムの自由と独立を求める著者の姿勢が印象的である。
第二章では、読売新聞が日本の新聞業界で「一強」の地位を築いている様子が描かれる。経営戦略やデジタルシフトへの取り組みが詳細に述べられ、他のメディアとの競合と協力の中でその地位を保っている様子が明らかにされている。しかし、その成功が時に権力との過度な連携や倫理的な問題を引き起こす側面も批判的に分析されている。
第三章では、政治とメディアの癒着を具体的な事件を通じて詳しく解説されている。菅義偉首相のインタビューとその報道のあり方が、メディアが政治権力に利用される可能性を示している。公権力による情報操作やメディアの自主性の喪失が、民主主義にとってどれほど大きな脅威であるかが強調されている。
第四章では、フェイクニュースや情報操作の問題を深堀りし、安倍晋三首相時代のメディア操作と公文書改竄問題が批判されている。政権とメディアとの間の不健全な関係が、公の議論や政治の透明性を阻害している様子が示されている。
最終章では、新聞業界とそれを取り巻く環境が直面する多くの課題に対して、改善のための提言がなされている。ジェンダー平等や多様性の重視、地域社会との連携の強化が求められており、新聞が真の公共の利益に奉仕するためには根本的な改革が必要であると訴えられている。
この本は、日本の新聞業界における深刻な問題を浮き彫りにし、その改革と再生のための道筋を示している。
メディアが直面する課題について深く考え、それに対する解決策を模索するきっかけを与えるかもしれない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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その他ノンフィクション
備忘録
第一章 脱藩・朝日新聞
朝日新聞社で21年半勤務した筆者は、2023年7月10日に退職届を提出し、その日のうちに週刊文春から連絡が来た。退職の意思はSNSで7月17日に公表され、10月末に朝日新聞を離れ、沖縄での記者活動を始める予定である。退職の理由は、記者としての新たな挑戦への意欲と、報道の集中と消費化への危機感に基づくもので、地域社会のために働きたいという思いがある。朝日新聞での経験は、政治部での取材や「慰安婦」問題などの批判的な状況の中で形成され、最終的には新聞労連の委員長としての役割を担うことになった。筆者は、メディアの未来と自らのジャーナリストとしての役割を見つめ直すために新たな道を選んだ。
権力との共犯性が問題視された賭け麻雀事件において、新聞労連の委員長はメディアと権力者との癒着を厳しく批判した。黒川弘務・東京高検検事長と朝日新聞、産経新聞の記者が賭け麻雀をしていたことが、権力監視の使命に反する行為として公に非難された。この事件は、検察庁法改正案に対する抗議デモのきっかけともなり、政府は法案を撤回せざるを得なくなった。記者たちのこれまでの努力は無視され、新聞が市民ではなく権力の側に立った「共犯者」としての立場に終わったと指摘されている。
事件を受けて、新聞労連は「賭け麻雀」のような旧来の取材慣行を問題視し、報道機関に体質の転換を求める声明を発表した。この声明では、権力との癒着や同質化、記者会見の形骸化、組織の多様性欠如など、日本の報道現場が抱える問題点を挙げ、報道倫理のガイドラインの制定や、当局取材へのリソースの見直し、長時間労働に基づく取材慣行の見直しなど具体的な改善策を提言した。
この提言には、新聞協会加盟社の現役社員127人を含む1027人が賛同した。賛同者の中には、メディア内部の慣習と社会の常識との乖離を感じる若手記者や、取材文化の問題に苦しんでいる記者もいた。提言の公表は、報道機関が抱える問題に対する社内外の認識を新たにし、より健全な報道環境の構築を目指す一歩となった。
ある記者が朝日新聞を退職する過程とその背景が描かれている。記者は、女性支援団体への攻撃を行っていた政治家を好意的に紹介する記事が配信されたことに強い違和感を持った。この記事に対するSNS上での批判が拡大し、最終的に記事の配信を停止することになったが、その対応に問題があると感じていた。さらに、女性支援団体に対する記事については配信が遅れるなど、朝日新聞の対応に疑問を持つようになった。これらの経験から、「デジタルで読まれそうな記事」を優先する新聞の方向性に失望し、退職を決意した。
退職の決断は、新聞の方向性に対する深い懸念と、メディアとしての使命と責任についての問い直しを含むものだった。朝日新聞が置かれている状況と、その問題を指摘しつつ、社外活動規制の強化など、社内の管理がより厳しくなる方針に反対していた。彼はジャーナリズムの自由と独立を守るために、「脱藩」することを選び、朝日新聞が真の意味でのリベラルなメディアとして再生することを望んでいる。
第二章 「一強」化する読売新聞
読売新聞が業界の先頭を走り、他の全国紙や地方紙とは異なる経営方針を展開している。用紙代の高騰にも関わらず、読売は価格を据え置き、これによりシェアを増加させる意向を示している。また、デジタル化の進展とともに、紙の新聞にこだわる理由は、メディア業界の再編における主導権を握るためである。読売はプライバシーを重視する取り組みや、フェイクニュース対策など、デジタル技術の推進にも注力している。
一方で、読売新聞は公権力と協力して情報発信を行うことにも積極的で、大阪府との包括連携協定などを通じて、情報発信の協力を行うとしている。これには、読者の「知る権利」を損ねる可能性があるとの懸念が示されている。
読売新聞はまた、新聞協会の会長職を独占し、業界内の重要な地位を築いている。新聞社有志として敵対的買収から新聞輪転機メーカーを守るなど、業界内での影響力を行使している。
しかし、これらの動きに対する批判も存在しており、メディアとしての独立性や公正性を確保することが課題とされている。特に、公権力との連携による問題や、メディアとしての倫理綱領に反する行動が問題視されている。
三章 共犯者
2021年9月10日に菅義偉首相のインタビューを掲載した月刊誌が書店に並んだ。インタビューでは菅氏が新型コロナ対策を最優先としながらも、総選挙への意欲を示していた。しかし、公表される前に退陣が決まり、その内容は「遅すぎるやり直し」として受け止められた。菅氏はこれまでの記者会見のあり方が支持率に影響していると認識し、国民に届く言葉を見つける必要があると語っていた。一方で、記者会見が問題提起の場として機能していないことも示唆された。特に、加計学園問題に関連して政府が「記憶にない」と繰り返し答弁し、事実関係の確認を避ける態度が批判された。また、菅氏は記者の質問に対する回避や制限を強め、メディアとの関係が緊張したものであったことが指摘されている。
情報公開や公文書管理が不十分な日本において、記者はオフレコ取材で政治家に迫り、真剣な取材を続けている。しかし、現在の政治取材方法は、権力者側につけ入る隙を与えており、その結果として記者と権力者との癒着が指摘されている。
2019年11月、首相主催の「桜を見る会」に関連し、参加者の急増と税金を使用した疑惑が国会で問題視されたが、この問題についての記者会見は開かれなかった。代わりに、首相側は官邸記者クラブとの懇談を行い、その様子が「オフレコ」の場として批判を受けた。
安倍政権下では、オフレコ懇談を利用した政権側のメディア操作が見られた。例えば、沖縄の基地建設に関して、政府が沖縄の新聞との懐柔を図ったと報じられた。また、菅氏が首相に就任後、官邸クラブの記者を対象にした懇談を原宿のパンケーキ店で開催することを提案し、これが「権力者とメディアの甘い関係」を想起させると批判された。
このような状況の中、政治部の記者たちは、参加するメディアだけに次回の懇談を呼びかけるような踏み絵に直面している。記者クラブはメディアと権力者との間の不健全な関係を象徴する存在となっており、その改革が求められている。
第四章 フェイクの沼
安倍晋三首相は、2017年10月8日にテレビ朝日が出資するネットメディア「Abema TV」の番組に出演し、選挙直前に政治的中立性が問われる中、首相を礼賛する形で番組が進行した。この番組は放送法四条の適用対象外であり、異例の扱いであった。同時期、安倍首相は「森友・加計学園問題」に関して朝日新聞の報道を批判し、ファクトチェックを呼びかけていた。
しかし、2018年3月に朝日新聞が公文書改竄をスクープすると、首相や政権幹部のうそが明らかになり、政権の私物化が批判された。安倍首相は衆院選での勝利を受け続投し、改竄が発覚しても政権は責任を取らなかった。
また、安倍政権は集団的自衛権の行使を憲法解釈変更で認め、これまでの政府見解を一八〇度転換した。この解釈変更には多くの矛盾が指摘され、特にアメリカ政府が自国民以外の退避を拒否しているにもかかわらず、邦人を乗せた米輸送艦を守るという説明がされた。しかし、この点に関する政府の説明は矛盾しており、集団的自衛権の行使条件として「邦人が乗っているかどうか」は重要ではないと後に述べられた。
このように、安倍政権はファクトチェックを求める一方で、事実を無視する政治を展開し、公文書改竄などの問題を引き起こした。政権の行動は民主主義の機能を損なうものであり、メディアや市民に対して正確な情報提供と説明責任が求められている。
2023年11月6日の記者会見で、松野博一官房長官は偽動画への見解を示した。動画は岸田首相が不適切な内容を話しているように見せかけたもので、SNSで広がっていた。この動画は生成AIを使用し、日本テレビのニュース番組のロゴや「LIVE」の表示を使って本物のように見せていた。これに対し、政府は民主主義の基盤を損なう行為であると批判し、社会的な混乱を招く恐れがあると指摘した。
2022年にはウクライナのゼレンスキー大統領がロシアへの降伏を呼びかける偽動画が投稿されたことから、偽情報対策の強化が求められた。これを受けて政府は「国家安全保障戦略」を改定し、偽情報対策チームを内閣官房に設置するなどの措置を講じた。
しかし、ファクトチェック活動については、政治権力と一体化する動きに懸念が表されている。特に、EUの外交部門がロシアのプーチン大統領へのインタビューのファクトチェックを公開した件について、元FIJ副理事長の立岩陽一郎氏や元FIJ事務局長の楊井人文氏は、このようなファクトチェックが政治的プロパガンダに利用される危険性を指摘している。彼らはファクトチェックが政治とは独立して行われるべきだと主張し、朝日新聞がファクトチェックを公的機関に委ねていることに対して批判を加えている。
第五章 批判を嫌う国
2021年6月1日にSNSで見かけた野党幹部の投稿について述べられている。この投稿では、新型コロナウイルス対策としての緊急事態宣言下での東京オリンピック・パラリンピックの特別扱いを指摘し、その状況が「批判」として報じられることへの違和感が表明されている。この状況に対するメディアの言語使用、特に「野党は反発」という表現が、否定的な印象を与えがちであることについても触れられている。記事には、政治報道において使用される言葉選びに見直しの必要があること、批判が構築的な議論を促すためのものであるべきだという点が強調されている。また、日本政府が国連人権機関からの勧告を拒否し続けている問題も指摘されており、国際的な批判を受け入れ改善を図るべきだと論じられている。
第六章 市民社会の幹を太くする
2021年10月10日、東京・杉並区のJR阿佐ヶ谷駅前で、市民100人ほどが集まり、山本太郎氏が突如「野党統一候補」として決定されたことに抗議した。山本氏は当初、野党統一候補としては予定されておらず、他の候補と共に立候補を目指していたが、統一候補としての立候補を宣言。これに反発し、市民は「鼻をつまんで投票したくない」とのスローガンを掲げ、候補者調整の過程での市民の意見が無視されたことを訴えた。この集会は、市民が政治に対して直接的に声を上げ、民主主義の実践を求める動きとして注目された。最終的に市民の声が反映され、山本氏は立候補を見送り、吉田晴美氏が統一候補として立候補し、選挙に勝利した。この事件は、市民が政治過程に積極的に関与し、民主主義を形作る一例として記録されている。
第七章 ボーイズクラブとの決別
2023年7月、退職を告げた筆者は、次の所属先である琉球新報に移籍し、そこでの初の調査報道を手がけた。琉球新報は、編集局長が女性で、管理職の女性割合も30%を超えており、日本では珍しい新聞社の一つだ。政府が先送りしている「指導的地位における女性の割合を30%程度にする」という目標を実現している。この数値は、ハーバード大学の社会学者ロザベス・モス・カンターが提唱した「黄金の三割」に基づく。組織においては、少数派が30%に達しないと、多数派による主導は変わらず、少数派の存在は組織文化や意思決定に影響を及ぼしにくいとされる。また、新聞労連は2019年に「労組役員の女性比率を30%以上にすることを目指す」という運動方針に基づき、女性役員枠を創設した。これは、業界全体にジェンダーバランスの改善を広げ、誰もが働きやすい職場の実現を目指すための動きだ。
第八章 原点回帰
琉球新報に所属する筆者は、2023年11月に編集局に着任し、住民の小さな声を拾う報道に取り組んでいる。同新聞は、市民の声を集める重要な役割を担い、沖縄を戦場にしないという強い意志を持っている。沖縄における米軍の存在による地域の困難や、基地に対する住民の複雑な感情を描く中で、公平な報道の重要性が強調されている。また、辺野古新基地建設に関する住民の意見を収集し、それを「歩く民主主義」と題した企画を通じて示している。この企画では、宜野湾市周辺の住民100人の意見を聞き、彼らの多くが政府の方針に疑問を持っていることが明らかになった。筆者はまた、沖縄戦を題材にした報道を行い、戦争を繰り返さない決意を表している。
対談(南彰・青木理)
南さんが朝日新聞を退職し、琉球新報への転職を決断した経緯が話題となっている。退職を決めた背景には、朝日新聞の現状に対する危機感があり、自身が送った退職メッセージがメディアで大きく取り上げられた。琉球新報を選んだ理由として、沖縄の新聞が直面する厳しい課題、特に米軍基地問題などに対する地元メディアの重要な役割を評価したからである。また、朝日新聞の経営戦略や編集方針が後手に回りがちであること、リベラルメディアとしての役割を果たすための新しいアプローチが必要と感じていたため、新たな環境でのジャーナリズムに貢献する場を求めた。
朝日新聞の批判が激化した背景には、誤報の訂正が契機となったが、その批判が極端になり、特に政権からの批判が激しかった。南は、この問題について語っており、問題発生後の朝日新聞の経営陣の総入れ替えや、経営陣が経営に必要な深い考察を欠いている状況を指摘している。また、管理重視の風潮が強まり、社内の自由な雰囲気が失われたことも語られている。具体的には、森友学園や加計学園問題の報道では、朝日新聞が重要なスクープを行ったが、経営陣の危機管理重視の方針が台頭し、記事の細部にまで介入が増えたと語っている。南はこれらの問題を通じて、管理強化の進行が報道の自由を損なっていると感じており、経営陣との衝突が続いたことから朝日新聞を退職した。
青木は、ある報道現場の愚劣な行動に対する南の怒りが理解できると述べている。文春オンラインがセンセーショナルに取り上げたこの話には、南がセンセーショナリズムを避けたいという思いも込められていた。南は、安倍政権に批判的な記事を書いたために先輩デスクから軽率な言葉を投げかけられたと説明し、そのような言動が報道の仕事に適しているかどうかについて怒りを表現している。また、社会全体に広がる冷笑と嘲笑の風潮についても触れている。
南は、2014年の問題以降、朝日新聞内部でも同様の風潮が強まっていると指摘し、特に最近の事件が、報道現場で基本的なことが壊れ始めている兆候かもしれないと感じた。この現象は、管理強化だけに走る現経営陣の姿勢によって悪化している可能性があると述べている。このため、彼は問題を共有し、真剣に対処する必要があると強調している。
最終的に南は、問題を共有し、真剣に捉えることでリベラルな言論機関としての資格を維持する必要があると述べ、これが退職時のメッセージに込めた意図であることを明かしている。青木は南の新天地である琉球新報での活躍を期待している。
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