どんな本?
『「低学歴国」ニッポン』は、日本の教育制度が抱える根深い問題に光を当てた一冊である。
教育改革の遅れや格差の拡大、そして国際競争力の低下など、多くの課題を詳細に掘り下げている。
普段本を読まない方にも推薦したい理由は、この本が現代日本社会の状況を深く理解するための鍵となるからである。
また、教育に関する広範な議論を知ることで、個人的な見解や対策を考えるきっかけにもなり得る。
教育は単に学校の問題ではなく、将来の社会を形作る重要な要素である。この本を通じて、日本の教育が直面する現実を知り、どのように対応していくべきかの洞察を得ることができる。
読んだ本のタイトル
「低学歴国」ニッポン
著者:日本経済新聞社 編 氏
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あらすじ・内容
大学教育が普及し、教育水準が高い「教育大国」――そんなニッポン像はもはや幻想?
低学歴国」ニッポン(日経プレミアシリーズ)
日本の博士号取得者数は他先進国を大きく下回り、英語力やデジタル競争力の世界ランキングでも年々遅れをとっている。
とがった能力の子をふるい落とし、平均点の高い優等生ばかり選抜する難関大入試。世界の主流とずれる4月入学。理解が早い子にも遅い子にも苦痛なだけの「履修主義」指導……。
岩盤のように変化を忌避する学校教育はいま、私たちの未来をも危うくしている。
世界をけん引する人材を輩出するには、「何」を変えればいいのか。教育の今をルポし、わが国が抱える構造的な問題をあぶり出す。
感想
日本の教育制度が直面している問題を深堀りしたこの本は、根強い既得権益や政府の対応の遅れが、必要な教育改革を阻害している現状を描いている。
公立学校への不信感が高まる中、私立学校や海外留学へと目を向ける家庭が増えており、教育の格差は拡大の一途を辿っている。
特に、デジタル化やグローバルスタンダードに適応できない日本の教育システムは、国際競争力の低下を招いている。
学校現場では、伝統的な教育方法や受験制度が革新的な取り組みを阻んでおり、学び直しや新しい教育プログラムの導入も十分ではない。
教育の質は教師不足や教育プログラムの陳腐化によって低下しており、これが社会全体の課題となっている。
本書は、教育改革への道筋を示しつつも、多くの課題が山積みであることを警鐘している。
日本が真に競争力のある国として再び興り立つためには、教育システム全体を根本から見直し、新しい時代の要求に応じた教育を提供することが急務であると述べている。
この問題を解決するためには、政府、教育関係者、そして社会全体の協力が必要であるが、、
現状を見るに、何処から手を付けたら良いのやら。。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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その他ノンフィクション
備忘録
はじめに
日本人の「低学歴」化を見つめる
公立学校に対する不信感は強まっており、特色ある教育を提供する私立学校や海外留学が増えている。この背景には、日本が国際社会で遅れを取るという危機感がある。日本の英語力やデジタル競争力は低下し、博士号取得者も減少しており、これらは日本の研究力低下に直結している。教育改革が試みられているが、既得権益の壁に阻まれて大きな進展は見られない。教育界の硬直した体質が変わらなければ、時代に適した人材は育たないと指摘されている。
第一章 変わらない日本の学校
1 優等生は育ってもイノベーターは育たない
西和彦氏は、日本先端工科大学の開校を目指し、入試の面接のみで、学生の専門性や人間性、国際性を重視する方法を採用している。彼は、漢文のような伝統的な教科が全てのエンジニアに必要かどうかに疑問を持ち、現在の教育システムに不満を感じている。そのため、彼は技術者教育に特化した新しい大学の設立を進めており、幼小中高一貫教育を提供する玉川学園や前橋市と共に、日本の教育システムの硬直性に挑戦している。
2 デジタル社会なのに黒板・紙「信仰」
青稜中学校のオンライン入試は新型コロナウイルスの感染拡大への対応として計画されたが、東京私立中学高等学校協会が不正防止の問題を理由に自粛を求めたため、実施されなかった。千葉県や神奈川県では一部の学校がオンライン入試を導入し、遠方の生徒も受験できるようになったが、多くの場所では自粛によりその機会が逸された。一方、情報科目の採用をめぐる議論では、公立高校の教員の中で正規免許を持つ割合が低いため、一律の採用が困難であるとの懸念がある。教育界ではデジタル技術の導入に対する抵抗感と平等主義が根強く、革新的な取り組みが進まない状況が続いている。
3 校則も採点基準も謎だらけ 同調圧力の害
栃木県立足利清風高校では、生徒主体で校則を見直す議論が行われ、下着の色指定や地毛申請書などの厳格な校則が廃止された。この変更は、ジェンダーの多様性を考慮し、学校の厳しい風紀規定を緩和する試みの一環である。しかし、日本の多くの学校では依然として厳しい校則が残り、生徒の意見が十分に反映されていないと感じている。文部科学省は校則についての指導を見直し、校則を公開し、生徒が自主的に守る重要性を指摘しているが、教育現場では依然として古い価値観に基づく厳格なルールが守られている。
4 閉鎖的な〝教育ムラ〟
京都市にある京都先端科学大学は、永守重信が私財を投じて創設した。大学には工学部があり、実践重視の教育を提供し、英語指導にも力を入れている。永守は、日本電産を創業し、厳しい学校市場に挑戦し、文部科学省の審議会からの厳しい審査を乗り越えて大学を設立した。また、長野県軽井沢町にあるユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンは、国際高校として開校し、生徒は世界中から集まり、全員が寮生活を送る。東京のデジタルハリウッド大学は、映像やIT技術の教育に特化しており、構造改革特区による株式会社立大学として設立された。これらの事例から、日本の教育制度は革新を受け入れにくく、教育改革への参入障壁が高いが、時代に合わせた教育の必要性が指摘されている。
5 「受験エリート」に異変あり
明治期に設立された東京大学は、長らく官僚の養成機関として機能してきたが、近年では中央省庁への進路を選ぶ学生が減少している。2020年度の国家公務員総合職試験の合格者で東大出身は349人に留まり、外資系コンサルティング会社への就職が増えている。霞が関での労働環境の厳しさや、官界の独立性の低下などが影響している可能性がある。
東大法学部では、以前は多くの学生が公務員を志望していたが、現在では学生の多くがその職を選ばないようになっている。大沢裕法学部長は、学生の公共心は健在であり、公共に関わる分野が多様化しているため、進路の選択肢が増えたと指摘している。また、法学部のカリキュラムも大幅に変更され、必修科目を減らし学生の選択の自由度を高めることで幅広い学問の修得を促している。
これらの変化は、日本が明確な将来像を描けなくなっていることの一つの表れであり、国力の相対的な低下や価値観の多様化が影響していると考えられる。政府は教育改革において微修正を繰り返しており、大きな変革を実現するためのビジョンが求められている。
私見
・日本の大学改革が進まない原因の一つに、根強いブランド主義がある。日本電産の創業者である永守重信は、大学経営に乗り出し、京都先端科学大の工学部新設などを推進したが、文部科学省の許認可権による審査の遅延に苦労したと述べる。彼は、文科行政が変わりつつあると期待を寄せる一方で、社会全体のブランド主義による弊害を指摘している。企業や家庭、学生が持つブランド校への過度な期待が、真の能力とは無関係に学生の選択を制限しており、それが創造力やコミュニケーション能力の育成を妨げていると批判する。また、日本の税制が寄付文化の発展を阻んでいるとし、改革が必要だと主張している。永守は、日本が世界に通用する人材を育てるためにも、硬直した教育体系を改革することの重要性を訴えている。
・小林りんは日本初の全寮制インターナショナルスクールを設立し、日本の公教育に多様な選択肢を増やすための改革を推進している。校舎建設の承認が得られず開校が延期されたことや、審議会での不信感が課題だったが、地元紙の特集などを通じて、広報活動に力を入れることで理解を得られたと述べている。また、国際バカロレア認定校としての教育プログラムと日本の学習指導要領の整合性も問題だったが、特別免許状の審査において行政の支援を得て、課題を乗り越えることができた。小林は、行政が民間による新たな教育の取り組みを認める努力をして、教育の自由化を進めるべきだと訴えている。
・坂東真理子は、教育が抱える問題として大学入試の異常な関心と入学後の学生の成長への無頓着を挙げている。また、米国の大学では成績評価が厳しく、留年率や中退率が高いことから学生も勉強に励んでいるが、日本では文部科学省が卒業を大学の責務とみなしており、学生は勉強せず、教育が空洞化していると指摘している。さらに、教育界は保守的で閉鎖的であり、創造性や挑戦心を育むためには多様な経験を持つ人材を受け入れるべきだと述べている。国のリーダー層の劣化についても言及し、日本の大学が社会のために尽くすことを教えていないと批判している。
第二章 いびつな日本の「学歴」問題
1 本物の高学歴者は日本には少ない
メルカリは国内の大学院博士課程に社員を派遣し、学費を支給している。世界では博士が産業革新を牽引しており、博士号取得者は新しいビジネス仮説の創造と事業展開を行う。これは科学者がイノベーションを目指す時と同様のプロセスである。日本では博士号取得者が他先進国に比べて少なく、大学院教育に対する評価が低い。これが日本の競争力低下の一因となっている。大学院教育の強化と、博士号保持者の活用が求められている。
2 卒業したけどできてない 〝学び直し〟の裏側
技術系社員の基礎知識不足が問題となっており、クボタでは新入社員の基礎知識を測るテストを実施し、その結果78%の社員が基礎知識に欠けていることが明らかになった。これを受け、クボタは対象者に対して「学び直し」教育を行い、新入社員研修に取り込んだ。また、日本の大学教育も高等教育が普及し、国民の教育水準が高いとされるが、先進国の中で博士号取得者が低いレベルにあることが指摘されている。日本の学校教育には学び直しが必要であり、教育改革が進められている。
3 学習内容は「ゆとり」ならぬ「ふとり」化
新学習指導要領は、英語を実用的に使えるようにするために授業を英語で行うことを基本としている。しかし、公立中学の現場では、英語の読み書きが不十分な生徒もいるため、この方針が現実離れしているとの声がある。学習指導要領は、1947年に導入されて以来、教育の専門家による議論を基に約10年ごとに改訂されており、教育水準の底上げに貢献してきた。2022年度までに全面実施された最新版では、「主体的・対話的で深い学び」を理念として掲げているが、現場の教員は、授業時間内に十分な活動を行うことが難しいと感じている。また、新科目「情報」の教育も実施されているが、教育体制が追いついていない問題があり、一部の教員は正規の免許なしで教えている現状がある。学習指導要領は、過去の成功体験が抜本的な見直しを阻む壁となり、新たな要素が積み重ねられる形で改訂が行われてきたが、学校現場との乖離が問題となっている。
4 難関突破の条件は「学力」以上に「裕福な親」?
学習塾への多額の支出が日本の教育格差を象徴している。東京・荒川の開成中学校を受験するため、ある家庭は小学1年生から月10万円を塾代に投じている。このような状況は、教育が平等に提供されるべきだという原則に反しており、学校が格差を再生産する装置となっていることを示唆している。
文部科学省の「子供の学習費調査」によると、小学生の年間塾代は過去最高に達しており、収入が多い家庭ほど高額な教育費を負担している。都市部では進学熱が特に高く、教育格差は地域差も大きい。東大合格者の過半数が年収950万円以上の家庭出身であり、受験生を追い詰める現実がある。
この教育格差は、受験生を精神的に追い込む原因ともなり、極端な事例として刺傷事件や問題流出に手を染める受験生も出ている。少子化と大学数の増加で誰でも大学に入れる時代となったが、難関大を目指す競争は依然として激しい。
日本の教育は、経済的な背景に左右されずにすべての子どもに平等な機会を提供するという役割を果たすべきであるが、その理念は現実に即していない。教育の在り方を見直し、すべての子どもが潜在能力を発揮できる環境を整えることが求められている。
5 東大や理系大学、今も女子が少ない理由
日本の理系分野における女性の進学率はOECD諸国中で最低である。芝浦工業大は女子学生の進学を奨励するために、成績上位の女子学生に対して入学金相当の給付を行っており、これにより女子学生の比率はわずかに上昇しているが、目標の30%にはまだ達していない。日本全体の問題として、STEM分野における女性の比率が低く、OECD平均の半分以下であることが指摘されている。この背景には、高校教育における進路指導の問題や、女性が理系分野に進むことに対する社会的な偏見が存在している。現在、日本の大学や産業界は女性の理系離れを是正しようと努力しており、工学部卒業の女性が求められている現状がある。一方で、進路指導を行う教育機関も女子学生に対して理系分野を積極的に勧めるべきであり、そのための情報提供が必要である。
私見
日本の教育システムが近代化と経済成長を支えてきたが、そのモデルは現在、機能不全に陥っているとされる。この問題に対処するため、中央教育審議会の会長である渡辺光一郎は、産学連携を強化し、大学院教育の質を向上させる必要性を強調している。特に、博士課程の学生が減少している日本の状況は国際的にも遅れを取っており、高度人材の育成が急務であると指摘されている。T字型の人材を育てること、リカレント教育の強化、学びと仕事の好循環を生み出すことが求められている。また、企業は博士人材の評価と活用を進め、人材の多様化と流動性を高める必要がある。
学力の差が出身家庭の経済力や文化的環境に左右される問題が存在することが、青山学院大の耳塚寛明特任教授の研究から明らかになっている。特に、社会経済的地位(SES)が低い家庭の子どもは、たとえ長時間学習しても学力が伸び悩む傾向がある。学校は平等な教育の機会を提供する役割を果たすべきであるが、現状ではSESの低い家庭の子どもが進学や地位向上の機会を失いがちである。教授は、学校や行政が格差を是正するための支援策を強化すべきだと提言している。また、学校が社会の多様性を反映し、異なる価値観を持つ人々が交流する場となることが望ましいとされている。
昭和女子大付属昭和中学校・高等学校の真下峯子校長は、女子の理系教育において重要な役割を果たしている。特に、工学部への女子生徒の進学率を高めるためには高校教員の意識改革が必要と指摘している。高校教育の現場には、女子生徒に対して理系科目への進学を奨励しない雰囲気が存在し、このために女子生徒が理系科目に苦手意識を持つようになってしまうという。また、工学部に対する女子生徒のイメージは古いものが多く、工学部での学びが社会の多くの場面で役立つことや、卒業生が就職市場で高い評価を受けている現状を理解していないことが多い。真下校長は、教員が学校外の情報に触れ、現代の職業界との連携を深めることで、生徒のキャリア教育を進めることが重要だと述べている。
第三章 二極化する「入試」、形骸化する「偏差値」
1 一般入試じゃない入学生が半数に
明治大学は2026年に42年ぶりの系列校として日本学園を中高一貫の男子校から男女共学校「明大世田谷中高」に変更する予定である。この変更により、2029年までに卒業生の70%が明治大学に推薦入学する体制を目指す。日本学園はかつて多くの著名人を輩出した伝統校だが、少子化や男女共学校の台頭により志願者数が減少していた。この系列校化により、志願者の関心が高まり、オープンキャンパスは定員割れするほどの反響があった。中高一貫教育と大学が連携することにより、中高の教育が大学進学に直結する環境が整ってきている。この動きは日本学園にとっても、明治大学にとっても、少子化の進行という課題に対する有効な戦略となっている。
2 最難関大学はより難関に
「東大京大に余裕を持って合格する」を目標とする鉄緑会は、中学受験が終わった小学6年生から大学受験までの6年一貫教育を提供している。この塾は特に数学の教育に力を入れ、中学3年までに大学受験範囲の大半を学び終えることを目指している。2022年度には、東京大学の合格者518人のうち約20%が鉄緑会出身者であった。冨田賢太郎会長は、難易度が増している現代の入試に対応し、得点力を向上させる教育を行っていると述べている。
また、総合型選抜や学校推薦型の比率が高まる中で、偏差値の重要性が低下しているが、最難関大学への競争は依然として激しい。高校側の進学実績向上の動きとして、中高一貫教育が強化され、多くの有力私立中高は高校からの募集を停止し、公立一貫校でも同様の動きが進んでいる。この競争の激化が、大器晩成型の学生にとって不利な状況を生み出していると懸念されている。
さらに、海外の大学への直接進学する生徒が増えているという現象も見られる。これは、学問の専門性やダブルメジャーなど個々の興味に基づいた教育を求める傾向が強いためであり、海外の教育システムが提供する多様な学びの場に魅力を感じている生徒が多いことを示している。
3 塾に依存する学校 授業の「出前」も
総合型選抜や学校推薦型選抜が高校生の意欲や個性を評価する入試方式であるにも関わらず、塾や予備校による対策が広がっている。首都圏のある大手塾は、志望理由書の書き方や面接対策などを含む総合型選抜の対策コースを提供し、9月には対策が本格化する。また、総合型選抜の面接では受験生の興味や関心が問われるため、塾ではこれらの点を強化する指導を行っている。
塾や予備校は、総合型や推薦入試での成功を強調し、有名大学への切符を提供するとアピールしている。これにより、対策を提供することで合格可能性を高めるとされている。学校が提供すべき教育内容が外部の塾に委託されることは、教員の多忙化や教育の質の確保という観点からも問題視されている。さらに、塾と学校の連携は進み、教育市場における塾の位置づけも変わりつつある。これは、学校教育が塾に依存する状況へと変化していることを示している。
4 過熱する「医学部信仰」の真の問題
全国で指折りの進学校である私立灘中・灘高(神戸市)は、約600人の生徒が登校する土曜講座を開催している。これは生徒の視野を広げるキャリア教育の一環であり、様々な専門分野から講師を招いて行われる。にもかかわらず、灘高では依然として医学部志望が強く、国公立大の医学部に進む生徒が多い。
22年度の大学入試では卒業生のうち約29%が国公立大の医学部に合格しており、これは国公立理系学部進学者全体の約40%を占めている。この「医学部信仰」は、社会の発展や技術進歩に対して理系の他の分野が同等に重要であるにも関わらず、多くの生徒が医学部を目指すという現実を反映している。
海保校長は、医学部志向の壁が厚いことに対する懸念を表明しており、教育機関としては多様なキャリアを生徒に提案し続けることが求められている。また、国公立医学部は非常に狭き門であり、工学系で偏差値65以上の大学は限られていることも、高学力受験生に根強い医学部志望を物語っている。
5 入試日程に残る大学の〝序列〟
東京都市大の菅沼直治入試部長によれば、私立大学の一般入試日程が複雑化している理由は、大学間の競争と各大学の収入確保戦略にある。一般選抜は2月に集中しており、私大は自由に入試日を設定できるため、複数回の試験や出題科目の異なる試験を実施している。これにより、より多くの受験生を引きつけ、必要な受験料収入を増やすことができる。受験生はリスクを回避するために複数の大学を受験し、それによって肉体的・精神的負担が増大する。
一方、大学は競合する他の大学のスケジュールを考慮して自身の入試日程を計画している。このため、国内の約600の私立大学が参加する「入試カレンダー」が形成されており、2022年1月から3月にかけて設定された入試は1万3000件以上に上る。大学側は、受験生ができるだけ多く自校を受験してもらえるように入試日程を工夫しているが、このような状況は個々の大学の自助努力に頼らざるを得ない状況を反映している。
私見
東京大に多くの合格者を出す進学塾「鉄緑会」の冨田賢太郎会長は、トップ大学の入試が一段と難化していると指摘している。特に東大や京都大、国公立大医学部の入試問題が難しくなっており、すべての科目でバランス良く得点する必要があると述べている。また、得点力を引き上げていることも難化の一因かもしれないとも語っている。
冨田会長は、鉄緑会が提供する中学1年からの6年一貫のカリキュラムが、東大入試に最適化されていると考えている。この教育方針では、生徒が自ら試行錯誤する機会は少ないが、その分、効率的に学習が進むとしている。
さらに、塾がトップ層の学力形成に大きな役割を果たしている現状について、塾と学校は異なる役割を持っていると説明している。学校は広い視野で教育を行い、塾は合理的な受験勉強の支援を行うべきだとしている。また、学校が才能ある生徒をもっと伸ばせるように、飛び級制度などがあれば良いと提案している。
高校2年の夏に奮起し、慶応大に現役合格した小林さやかは、受験が逆転の機会であるべきだと訴えている。大学受験を巡る状況は、幼少期からの受験準備が過熱しすぎており、早稲田大や慶大に進学するには難しい風潮が強くなっていると感じている。しかし、小林は1年半の努力により慶応大に合格し、新たな出会いと世界の変化を経験した。
さらに、公立中学校の先生と共に授業改善に取り組み、聖心女子大大学院で教育学を学んだ後、コロンビア大教育大学院で認知科学を専攻する予定である。英語の勉強が大変だったが、それに挑戦し、国外の大学にも進学可能であることを示したいと述べている。子どものやる気を支え、未来を変える教育者を増やすため、学習動機づけを科学的に説明することに取り組んでいる。
駿台予備学校の石原賢一部長は、一般選抜以外の入学者が増加する理由について、大学の生き残り戦略と保護者の意識の変化が大きいと述べている。2022年の大学入試については、一般入試から総合型選抜や学校推薦型選抜への移行が顕著であり、特に偏差値55未満の中下位層大学でこの傾向が強いと指摘している。一方、難関校では一般入試の志願者が増加しており、建前としては多様な学生の選抜を目指すものの、本音では入学者の早期確定を図るための策であると説明している。
石原は、一般入試が機能しない中下位層では偏差値が実態を反映しておらず、数年後には難関校以外で偏差値が無意味になると予測している。さらに、親と大学が相思相愛の関係にあり、社会が成熟して普通の仕事で大きな成功を収めることが難しくなったため、多くの人が無理して難関校に進学することはなくなっていると分析している。それにより、多くの学生が身の丈に合った大学を選ぶ傾向が強まっている。
今の風潮について、石原は安全志向を避けるべきだと述べており、学生が自分の学びたいことがしっかりと学べる大学を選ぶべきだと提言している。総合型や推薦入試では志望校を早期に絞る必要があり、ミスマッチが生じやすいと警告している。また、2030年代には大学の大量破綻が始まる可能性があるため、選抜機能を失っている大学について見切りをつける層も増えるだろうと予測している。
第四章 「学校崩壊」避けるためにできること
1 学校は「ブラック職場」? 教員不足の背景
山梨市教育委員会は2022年8月、市内の小中学校11校の保護者に対し、病気や出産で休暇に入る教員の代替教員や学習支援員を求める文書を配布した。これにより、教員免許を持つ代替教員や校内の見守りボランティアへの協力が求められたが、市内からは教員の質に対する不安の声も上がっている。
同様に、東京都内でも2022年度の始業日に約50校が50人の欠員を抱え、問題が発生している。教員の欠員が埋まらないことは全国的な問題であり、教員不足による「学校崩壊」の恐れも指摘されている。特に算数などの少人数指導が中止されるケースがあり、学校の教育質が低下する懸念がある。また、管理職が授業に追われ、研修や教材研究から遠ざかることも問題とされている。
教員不足は、教員採用試験の倍率低下による質の劣化に直結しているとされ、教員としての適性や能力が十分に問われていない状況がある。これに対して、文部科学省は教員採用試験の改革案をまとめ、採用試験の日程を前倒しすることで倍率の低下に歯止めをかけることを目指している。しかし、教職の魅力が低下している中での採用は困難であり、教員の質と量を確保するためには、教員養成と採用の見直しが必要である。
2 「サザエさん」家庭は少数派 P T Aもはや限界
群馬県前橋市立明桜中学校は、保護者や役員の獲得が困難になったため、2022年1月にPTAの解散を決定し、同年3月に活動を終了した。保護者からの反応は主に賛同で、役員不足や会の活動に対する義務感から解放されることに支持が集まった。解散後、校長はPTAの解散による具体的な不都合は発生していないと答え、必要に応じて保護者の有志が協力している。
日本国内では、PTAの必要性や活動内容に対する疑問が高まり、「PTA離れ」が進行している。さらに、PTAの代わりに民間企業が業務を代行する動きも見られ、保護者や学校のニーズに応じた新しい形の支援が求められている。
このような状況の中で、学校が地域や外部の人材とどのように連携するか、その方法を模索している段階である。特に東京都では、学校支援機構を通じて様々な支援活動が行われており、教育現場での外部人材の活用が進んでいる。しかし、全ての学校が積極的に外部人材を活用しているわけではなく、教員の多忙化による支援の必要性は高まっているものの、実際にはその活用が進んでいないのが現状である。
3 部活消滅が招く子どもの体力低下
横須賀市立長沢中学校の女子バレーボール部は部員不足で秋の地区大会出場が危ぶまれていた。この問題に対処するため、近隣の市立北下浦中学校と合同チームを結成し、一緒に練習と試合に臨むことにした。北下浦中も似たような人数不足であり、両校の連携によって互いに助け合う形を取った。
この現象は少子化が進行している日本全国で見られ、多くの学校で部活動の存続が難しくなっている。特に地方では顕著で、様々なスポーツで部員数が減少し、合同チームを結成するケースが増えている。
この問題に対処するため、いくつかの地方自治体では部活動の運営を地域団体に移行する提案があるものの、指導者不足などの理由で実現が困難な状況がある。また、教員の多忙化も問題となり、部活動の質の低下や教員の負担増が懸念されている。
4 激増する不登校 10年前からほぼ倍に
不登校の小中学生向けに仮想空間で学習を提供する「room-K」が認定NPO法人「カタリバ」によって提供されている。このプログラムは、プログラミングやイラスト、工作など子どもたちが選択する多様なプログラムを含むオンライン環境で実施されており、不登校の児童生徒が自宅からアクセスして参加している。この取り組みには、埼玉県戸田市を含む複数の自治体が協力しており、利用者は2022年11月時点で134人に上っている。
カタリバの今村久美代表は、不登校の児童生徒が増加している現状について、学校の一律的な教育形式に適応できない子どもたちが多いことを指摘している。彼らの多くは学校に行きたいが行けない状況にあり、不登校の子が過去最多の24万人に達していることが文部科学省の調査で明らかになっている。
このような背景から、不登校の子どもたちが好きなことに焦点を当てて学べる環境が「room-K」で提供されており、不登校の子どもたちにとって新しい学習の場となっている。
5 消えゆく母校 統廃合もいずれ手詰まり
鳥取県倉吉市で、過疎化と高齢化が進行する中、少子化により小学校の統廃合が進んでいる。市西北部の灘手小学校(児童数33人)が市中心部の成徳小学校(児童数119人)と統合し、「新生・成徳小」として新たにスタートした。この統廃合は、学校運営の効率化と教育環境の改善を目指すものであるが、校名決定過程での混乱があり、地元の意見を反映しない決定に批判が集まった。最終的には、両校の名を組み合わせた「打吹至誠」から修正を経て「成徳」に決定した。
この事例は、全国的な公立小学校の統廃合の問題を象徴しており、少子化の進行と地域社会の変化により、地域のシンボルであった学校の役割が問い直されている。倉吉市の経験から、統廃合の過程で地元の意見をどのように反映させるかが重要であり、適切な対話と協議が求められる。また、適切な教育環境を維持するためには、学校の統廃合だけでなく、地域が独自の教育展望を持ち、新たな学校像を創造することが必要である。
私見
教員不足が深刻化しており、学校の持続可能性が揺らいでいる。ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵は、学校に依存する社会のあり方を変えるべきだと指摘している。小室は、教職員給与特別措置法(給特法)の廃止と、残業代全額支給の必要性に言及し、校長や教頭の360度評価や業務の外注化を推進する条件のもとで改革を進めることを提言している。また、部活動を学校外に移し、専門家に指導を委ねることで、教育の質を向上させることができると述べている。さらに、教育方法の遅れを指摘し、多様化した子どもに合った形に学校を変えることが世界のトレンドであるとしている。小室は、学校改革と働き方改革が密接に関連しており、現場の先生が声を上げて変革できる状況を作ることが、日本社会を変える鍵であると強調している。
鳥取県倉吉市の灘手小学校は、2023年3月末に150年の歴史を持つ学校を閉校し、近くの成徳小学校と統合された。この地域は過疎化が進み、若者の流出と高齢化が進行しているため、児童数の減少により統合が避けられない状況だった。住民の反発もあったが、地域との対話を通じて統廃合の必要性が理解された。しかし、統合過程の校名選定での混乱や反発が発生し、最終的に「成徳」が校名として選ばれた。全国的に見ても、少子化による学校の統廃合が進行しており、地域社会における学校の役割が変化している。今後は、持続可能な学校運営と教育環境の改善に向けた改革が求められている。
片山善博・大正大特任教授は、現在の公立小中学校の統廃合が進む背景について述べている。片山は、教育問題が国の指示待ちであること、地域社会の教育環境や意味を重視する立場が減少していることを指摘する。明治時代には教育は地域の問題とされ、地域の人々が校舎建設に寄与していたが、現在は国の問題とみなされることが多い。学校への関心の低下や、地域の教育を充実させるための議論のプラットフォームがないため、多くの教育問題が国頼みとなり、現場の主体性が失われていると語る。公立学校の保持は近代国家において必要な条件であり、学制発布時には公立学校が国の人材育成に寄与していたが、最近ではその重要性が低下していると述べている。
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