「日本の物流問題 ――流通の危機と進化を読みとく」感想・ネタバレ

「日本の物流問題 ――流通の危機と進化を読みとく」感想・ネタバレ

どんな本?

日本の物流問題 ――流通の危機と進化を読みとく」は、野口智雄 氏著の書籍で、日本の物流業界が直面している問題とその解決策について詳しく解説。

この本では、「安くて早くて確実な、安心の物流」が終わりつつある現状を描き出している。
特に、「物流の2024年問題」と呼ばれる、低賃金を残業でまかなってきたドライバーや人手不足に悩む企業など流通業界ばかりか消費者にも衝撃をもたらした問題について詳しく説明している。

しかし、AIによる効率化や危険な作業やきつい重労働を軽減するロボット化なども飛躍的に進歩していることも指摘。
戦後の発展史からボトルネックの正体、そしてこれから起こるブレークスルーまで、物流の来し方行く末を見通す一冊となっている。
ニコニコ動画の番組、ニコ生深掘TVで紹介されたので手に取ってみた。

また、本書は2024年3月7日に筑摩書房から出版され、新書288ページ。
主にビジネス・経済や産業研究の分野で読まれているらしい。
野口智雄 氏は1956年東京都生まれで、一橋大学大学院博士後期課程単位修得後、横浜市立大学助教授を経て、93年から早稲田大学教授となる。
彼は2006年3月から2008年3月まで、客員研究員としてスタンフォード大学経済学部で流通および物流の研究を行ってた。

読んだ本のタイトル

日本の物流問題 ――流通の危機と進化を読みとく
著者:野口智雄 氏

gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 「日本の物流問題 ――流通の危機と進化を読みとく」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890497815 「日本の物流問題 ――流通の危機と進化を読みとく」感想・ネタバレ

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あらすじ・内容

生産と消費の間にあって、企業努力と労働者の犠牲の上に成り立っていた「安くて早くて確実な、安心の物流」は終わりつつある。3K職種といわれる業界で始まった働き方改革「物流の2024年問題」は、低賃金を残業でまかなってきたドライバーや人手不足に悩む企業など流通業界ばかりか消費者にも衝撃をもたらした。しかしAIによる効率化、危険な作業やきつい重労働を軽減するロボット化なども飛躍的に進歩している。戦後の発展史からボトルネックの正体、そしてこれから起こるブレークスルーまで、物流の来し方行く末を見通す一冊。

日本の物流問題 ─流通の危機と進化を読みとく

編集レビュー

著者について
野口智雄(のぐち・ともお):1956年、東京都に生まれる。84年、一橋大学大学院博士後期課程単位修得。横浜市立大学助教授を経て、93年から早稲田大学教授。2006年3月から2008年3月まで、客員研究員としてスタンフォード大学経済学部で流通および物流の研究を行う。主な単書に『流通 メガ・バトル』(日本経済新聞出版社)、『I型流通革命』(講談社)、『ウォルマートは日本の流通をこう変える』(ビジネス社)、『FREE経済が日本を変える』(KADOKAWA)、『入門・現代流通論』(日本評論社)などがある。

日本の物流問題 ─流通の危機と進化を読みとく

感想

本書は、日本の物流業界が直面している現状と未来の課題に焦点を当てた詳細な分析を行った書籍である。

本書では、2024年問題として、労働環境の改革が迫られる中で、物流業界がどのように対応していくべきかを探求している。
具体的には、ドライバー不足や労働環境の厳しさ、そして労働市場の変化にどう適応していくかが議論されている。
また、技術革新や災害対策、持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みも詳述されており、物流業界の将来像を描く一助となっている。

感想としては、2024年問題に対する具体的な問題点が明確に書いてあった。
特に、過酷な労働条件の改善やドライバー不足の解消に向けた戦略は、業界全体の持続可能な発展を支援する重要なステップとして理解出来たが。
一方で、政府の規制強化は必須で、賃金体系の改革や労働者保護の強化が不可欠であるとの指摘もある。
また、中小企業に対する配慮が不足しているとの意見や、大手企業に比べて設備投資が難しい現実も指摘されており、業界内での格差が問題視されている。

ロボット化やAIの導入に関しては、労働者の負担軽減と効率向上の可能性を指摘する一方で、全ての企業がこれらの技術を導入することの難しさを懸念する声もある。
また、災害時の物流対策や国際的な協力によるサプライチェーンの強化が今後の課題として挙げられている。

本書は、物流業界に興味を持つ人々にとって有益な情報が豊富に提供されており、現代日本が直面する物流の課題を深く理解するための一冊となっている。
この書籍を通じて、物流業界の未来に対する洞察を深め、さらなる研究や討論のきっかけを得ることができるかもしれない。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

まえがき

世界は矛盾に満ちており、物流の世界も例外ではない。宅配便の取扱個数は2022年に50億個を超え、2000年比で95.4%増加したが、国内のトンキロベースの輸送量は27.5%減少した。貨物の個数が増えているのに輸送量が減るという矛盾は、荷物の平均重量の軽量化や輸送距離の短縮、物流システムの経年劣化が原因かもしれない。物流の問題にはドライバーの不足や高齢化、事故率の増加も関連している。本書は、日本の物流が直面する問題とそれに対する解決策を提示し、物流業界の効率化や合理化のための取り組みを解説している。また、物流業界における女性の就労増加や持続可能な開発目標の達成に向けた戦略も考察している。

序章
2024年問題とは何か
ドライバー不足と働き方改革

「働き方改革関連法」の施行は、特定の業界には適用の猶予が設けられていたが、2024年3月31日でその猶予期間も終了する。
特に運送業界においては、年間の時間外労働の上限が960時間に制限されることになる。
これにより、長距離トラックドライバーの収入減少や業界の人手不足が悪化する可能性がある。
また、運送会社の倒産や荷物配送の遅延、配送料金の高騰などの問題が予想されている。
このような規制の強化は、長時間労働や過労問題を改善するためのものであり、健全な職場環境の確立を目指している。
しかし、業界はこれに対する準備が遅れており、割増賃金の適用などの対策が未だ不十分であることが多い。
国は、過去の規制緩和が引き起こした問題を解決し、物流業界の近代化を目指している。

物流業界は基本給が低く、ドライバーたちは長時間労働による残業で収入を得る状況にあり、過労や事故のリスクが高い。トラックドライバーの年間労働時間は業界平均を大幅に上回っており、運送会社は法的な時間外労働の上限を設けず、ドライバーに過度な労働を強いることが一般的である。さらに、ドライバーは荷主から依頼されていない荷役作業も強いられることがあり、これが法令違反になることもある。国土交通省はこのような不正行為に対して「勧告・公表」などの措置を取っている。長時間の荷待ちや厳しい時間厳守の要求もドライバーの負担を増加させ、事故や遅延につながることがある。この状況は、運送業者が急増し、荷主優位の市場が形成された結果であり、無料サービスやダンピングが常態化しているため、ドライバーの賃金水準は全産業平均と比べても低いままである。

宅配便の取扱個数は1985年の約4億9300万個から2022年には約50億600万個に増加しており、10倍以上に膨れ上がっている。この急増は、アマゾンや楽天などEC市場の拡大によるもので、物流業界は増え続ける小口荷物の配送を担っている。しかし、トラックによる輸送量は2000年の約57億7362万トンから2022年には約38億2600万トンに減少しており、輸送効率も低下している。再配達の問題もあり、配達員の負担が増加している。再配達率は減少しているものの、依然として高い水準にあり、政府は再配達削減を目指しているが、置き配などの対策には限界がある。働き方改革関連法による残業規制の強化が予定されており、これにより物流サービスの需給ギャップがさらに拡大し、ユーザーが享受していた利便性が低下する見込みである。

以下の文書は、物流業界の現状と今後の課題に関する分析である。国は2024年4月を境に物流業界の環境を改善しようとしているが、これが「物流の2024年問題」と呼ばれる理由は、改善策がステークホルダーにネガティブな影響を及ぼす可能性があるからである。物流業界の入職者数は減少しており、特に若者が運転を職業として選ぶことが少なくなっている。また、物流業界では高齢ドライバーが増加しており、これが労働災害の増加につながっている。高齢化の進行は、物流業界の労働力不足をさらに悪化させ、業界全体の安全性に対する懸念を高めることが予想される。このため、今後の物流業界はさらなる人手不足と労働災害の増加に直面する可能性がある。

ドライバー不足は物流関連企業の経営を逼迫させており、今後もさらに深刻化する予測がされている。2023年5月の研究によると、2025年にはドライバーの供給量が需要量を大幅に下回り、約52万3800人の不足が予想される。また、ドライバー不足は求人難を招いており、求人倍率は他の職業と比べて非常に高い。このため、運送会社は賃金を上げざるを得ない状況にあり、また、2024年の働き方改革関連法の施行により、在職ドライバーの残業が制限され、業績貢献が難しくなる。加えて、エネルギー価格の高騰が物流企業の経営をさらに圧迫している。これらの影響で、物流企業は減量経営を余儀なくされ、その結果、業績が減衰し、多くの企業が倒産に至る可能性がある。

日本の物流業界には、2024年4月からの働き方改革関連法の施行による残業時間の上限規制が導入される。これにより、物流業界の構造的な変化が予想される。残業時間が制限されるため、物流サービスの供給能力が低下し、それにより荷物の遅延が発生する可能性が高まる。特に、従来翌日に届けられていた地域が翌々日配送へと変更されるなど、利便性の低下が懸念される。この変化はユーザーに不便を感じさせることになるだろう。

また、運賃は需要と供給のバランスによって決まるため、サービス供給の制限が運賃の上昇を招くことになる。実際に、大手運送会社は既に料金を引き上げており、この傾向は将来も続くと見られる。

さらに、残業時間の制限は物流企業の経営を圧迫し、淘汰が進むことで体力のある企業のみが残り、荷主と運送業者間のパワーバランスに変化が生じる可能性がある。荷主が適切な運賃を支払うよう求められ、運送業界の健全化が進むことが期待される。

第一章
ロジスティクスの発展をたどる
産業と物流の相関史

1950年代後半から1960年代にかけての日本は、高度経済成長期を迎え、産業は劇的な変貌を遂げた。この時期、市場は拡大し、生産と消費の間の物理的な距離も拡がり、それに伴い物流が重要な役割を果たすようになった。技術的な進化とシステムの革新により、物流は高速化や低コスト化を実現していった。

1960年代には、物流は産業の発展においてボトルネックとなっており、行政主導で効率化が図られた。この時代、名神高速道路や東名高速道路などの道路インフラが整備され、長距離のトラック輸送が可能になったことで、トラック事業が大きく成長した。また、港湾や臨海地帯のインフラも整備され、大規模な港湾施設が建設された。

さらに、荷役作業の機械化・効率化も進み、コンテナ船の開発やパレチゼーション(パレットを使用した荷役作業)が導入された。これにより、荷物の標準化が進み、輸送効率が向上し、コストと時間の節約が可能になった。

このように、1960年代の日本は物流のシステム化を進め、社会インフラの整備とともに産業発展を支えるための基盤を築いていった。

高度経済成長期における日本の産業と物流の進化に焦点を当てると、市場の拡大に伴い生産と消費の間の物理的距離が広がり、物流が重要な役割を果たすようになった。この時期、特に東京や大阪などの大都市圏での人口集中と産業の地理的分業化が進んだ。これにより、完成品や部品の輸送パターンが変化し、製品の需給に応じた迅速な入出荷が求められるようになった。

倉庫はこの変化の中で、単なる保管場所から効率的な物流の拠点へと変貌を遂げた。花王などの企業は、工場から直接販売会社への直送方式を採用し、物流コストを削減した。また、倉庫内の技術も進化し、コンピュータのオンラインシステムによる在庫管理やパレチゼーション、フォークリフトによる省人化荷役などが導入された。

1966年には、ダイフクが日本で初めて立体自動倉庫を導入し、荷物を自動で捌けるシステムを実現した。これらの進歩は物流の効率を大幅に向上させたが、同時に倉庫周辺での交通混雑や環境問題も発生した。これに対処するため、郊外に流通業務施設を建設し、物流機能を集約させる措置が取られた。これは後に「物流センター」と呼ばれるようになり、物流の近代化と集約化が進んだ。

この時代の物流は、大量輸送化、高速化、標準化、共同化などが主に求められ、効率性の追求が中心となっていた。企業は、厳しい経済環境の中で物流コストを削減することに重点を置いていた。

1970年代から1980年代前半にかけて、日本は高度経済成長の終焉を迎え、1973年の第一次オイルショックを境にエネルギー依存度の高い日本で大きな経済危機が発生した。これにより物価が急騰し、インフレが進行した。同時に、産業界では省エネルギー、省資源が重視されるようになり、経済全体の景気は悪化し、物流業界も大きな打撃を受けた。1973年度と比較して、国内貨物輸送量は1974年度に7.7%も減少し、産業の構造は重厚長大型から消費財産業へとシフトしていった。

この時期、物流はモノを運ぶだけの効率性から情報ネットワークシステムを活用した管理システムへと進化し、「宅配便」が誕生するなど小口多頻度配送の需要が高まった。具体的には、ヤマト運輸が1976年に「宅急便」を開始し、この新しい形の物流サービスは、顧客にとって大変便利なものとなり、事業は急速に成長した。さらに、トヨタ自動車のジャストインタイム(JIT)生産システムが物流にも影響を与え、生産ラインの効率化に貢献するとともに、在庫コストの削減を実現した。

しかし、ジャストインタイムシステムには限界もあり、部品が定時に届かない場合に生産ラインが停止するリスクがあり、また環境への悪影響など新たな問題も提起された。このような背景の中で、日本の物流システムは質的変化を迎え、小口多頻度配送が普及し、物流の効率と効果を高めるための新たな試みが進められた。

1980年代後半から2009年にかけて、日本経済はグローバル化と規制緩和の進展により大きな変化を経験した。この時代は特に1980年代後半から90年代初頭の「バブル経済」の時期を含む。このバブル期には、日本人が不動産や株式への投資、高級消費に走り、経済的な好況が見られた。その後の経済情勢は、1985年のプラザ合意による円高が起こり、国内の輸出企業は価格競争力を失い、日本経済は円高不況を経験した。

この時期の物流業界は、バブル経済の好況に支えられ、貨物輸送量が増加した。特に自動車と内航海運の輸送量が顕著に増え、鉄道輸送は減少した。これは、トラックによる長距離輸送が拡大したことを示している。また、この時期には国内外での直接投資が活発化し、グローバル化が進行。これにより、国際競争力を保つために海外での生産が増え、グローバル物流の需要が高まった。

NACCS(Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System)という組織が設立され、グローバル物流の効率化や国際競争力の強化を図った。これは、関連する多くの組織がオンラインで連結し、物流関連の業務を効率的に処理する総合的な情報プラットフォームを提供している。このシステムによって、企業は通関や関税の納付などの業務を合理的に行えるようになり、物流活動を迅速かつ効率的に展開することが可能になった。この時代は、物流業界においても大きな変革の時期であった。

1980年代後半から1990年代初頭にかけての土地や建物などの資産価格の急上昇は、不動産融資の総量規制の導入により終焉を迎え、いわゆる「バブルの崩壊」が発生した。その後、日本は長期にわたるデフレ不況、通称「失われた30年」を経験し、その影響が今も続いている。

この時代には規制緩和が進み、国鉄、電電公社、専売公社の民営化などが行われた。特に運送業では、1990年12月に施行された「物流二法」により、運送事業の免許制が許可制へと変更され、運賃の認可制から事前届け出制へと緩和された。これにより物流業者が増加し、価格競争とサービス競争が激化した。

さらに、都市部では違法駐車の問題が顕著になり、特に東京や大阪のような大都市圏では車両数の増加が交通渋滞や騒音、自然環境の悪化をもたらした。1994年の「駐車場法の一部改正」により、貨物車専用の駐車場設置が義務付けられるなど、都市部の物流環境はある程度整備された。

また、1992年に制定された「自動車NOx・PM法」は、東京や大阪で排出基準を満たさない車両の使用制限を開始し、低公害車への乗り換えを促進した。これにより、物流業界は環境に配慮した車両への移行を進め、都市圏の環境改善に寄与した。

この時代は、物流業界が経済や社会の変動に適応し、新たな規制や技術の導入を通じて、都市環境や物流システムの改善を図った時期である。

物流には、「動脈物流」あるいは「フォワードロジスティクス」と呼ばれるプロセスがあり、これは原材料の調達から生産、卸売、小売を経て最終消費者に商品が届く流れを指す。また、もう一つの重要な概念として、「静脈物流」または「リバースロジスティクス」があり、これは消費者から廃棄物を回収し、再生処理施設まで運ぶ逆の流れを示す。この逆流する物流は、資源の再利用やリサイクルの増加に伴って重要性が増している。

さらに、「ロジスティクス」という言葉については、1990年代の初頭に広まり、バブル崩壊後の大不況を乗り越えるための「救世主」として位置づけられた。ロジスティクスは単なる物流コストの削減だけでなく、戦略的な価値創造やイメージ向上に貢献する概念として扱われ、その適用範囲は調達から生産、配送まで広がっている。また、ロジスティクスと物流は概念上重なる部分が多いが、ロジスティクスはより広範な活動を含み、特に生産における効率化や戦略性に焦点を当てる。

このような背景から、「ロジスティクス」よりも「物流」という用語が一般的に広く使われている状況が続いているが、本書では流通プロセスに焦点を当てているため「物流」という言葉を主に使用している。

物流業界は現代の多様な経済社会の課題と直面し、その対応策を模索している。特に、グリーンロジスティクスやカーボンニュートラルを目指す取り組みが進められており、省エネルギー、モーダルシフト、燃費の良い車両の導入などが行われている。また、AIの活用や自動運転技術の開発も進み、物流の効率化と安全性の向上が期待されている。さらに、大震災や戦争などの危機によってサプライチェーンが分断されるリスクに対し、多様な供給ルートの確保や災害対策計画の策定が強調されている。これらの取り組みは、物流業界における持続可能な発展を目指すものである。

第二章
変貌する流通の現在

現在の物流業界では、宅配便の急増やECの発展が小口多頻度配送を一般化させており、消費者の多様なニーズに応えるための効率的な物流システムが求められている。この背景には、消費者の個性化された価値観があり、その本源的なニーズに応える形で物流が進化している。特に、AI技術を活用した物流の最適化が注目されており、複雑な配送ルートの効率化やコスト削減が実現されている。例えば、AmazonはAIを用いて配送効率を高めており、再配達率を大幅に削減している。また、セブンイレブンやローソンなどの大手コンビニチェーンもAIを利用して日配品の配送回数を削済しており、物流コストの削減に成功している。これらの取り組みは、物流効率の向上だけでなく、CO2排出量の削減にも寄与しており、カーボンニュートラルへの貢献が期待されている。

現代の消費者は、購入する商品やサービスにおいて高い顧客体験価値を求めており、これには商品の認知から消費後のサポートに至るまでの全プロセスが含まれる。この一連のプロセスをカスタマージャーニーと呼び、企業はこれを詳細に分析し、各段階での顧客の評価と行動を理解することで顧客体験を向上させる戦略を立てる。物流は、顧客体験の向上に直接貢献することは少ないが、特定のマーケティング戦略、例えば「ラッピングトラック」による広告を通じて顧客の認知と関心を引くことが可能である。また、ショールーミングやウェブルーミングといった消費者の検索行動も変化しており、これにはオンラインとオフラインのシームレスな統合が求められる。最終的には、顧客体験の向上を通じて、物流が顧客のイメージアップに間接的に寄与することが明らかにされている。

商品価格の重要性が高まっている中、物流システムの効率化が、顧客にとってのトータルな買い物コストを低減させるための鍵である。特に三井不動産ロジスティクスパークでは、ロボットを利用した倉庫自動化システム「Skypod」により、人件費が削減され、商品価格の低減にも寄与している。さらに、サプライチェーン全体の効率化には、ビジネスパートナーとの協力が不可欠であり、高度な需要予測に基づいたジャストインタイム物流が望ましい。

また、物流センターは、ディストリビューションセンター、トランスファーセンター、プロセスディストリビューションセンターに大きく分かれるが、トランスファーセンターでは在庫コストが発生しないため、効率的である。次に、物流の2024年問題への対応として、クロスドッキング方式の導入が挙げられる。これにより、運転手の運転時間が削減され、輸送効率が高められる。

低コスト化と効率的な物流システムの導入は、顧客が満足できる価格水準に貢献する。顧客が商品価格を評価する際は、単にプライスタグの価格だけでなく、トータルの買い物コストを意識しているため、これらの効率化対策は顧客にとって非常に重要である。

再配達問題は、「物流の2024年問題」の一環として、特に深刻な問題である。昼間の留守宅が増加する中、再配達率は23年4月時点で11.4%に達しており、物流業界にとって大きなコスト負担となっている。政府は再配達削減の目標を6%に設定し、置き配や宅配ボックスの設置を推進している。アマゾンは約75%の荷物を置き配にしており、再配達問題をほぼ解消している。宅配ボックスの普及も再配達を減らす有効な手段であり、顧客にとって配達待ちのストレスを解消し、物流業者にとってもコスト削減に寄与している。

再配達問題の解決策としてのクリック・アンド・コレクトや宅配ボックスの導入は、顧客体験価値を高めるだけでなく、物流業者のコスト削減にも寄与する重要な取り組みである。これらの効率的な受け取り方法は、今後さらに拡大していくと考えられる。

ドローンはラストワンマイルの効率化に向けた注目の手段として使用されつつある。特に緊急物資の配送や医薬品輸送に活用されており、ジップライン社やスイスポストが実用例として挙げられる。米国ではアルファベットのウイング・アビエーションやアマゾンが、商用ドローン配送を進めており、日本でも安中市や日本郵便が実証実験を行っている。

ドローンはラストワンマイル配送を迅速化し、特に人口の少ない地域や難アクセス地域での負担を軽減する。また、環境への負荷も軽減し、カーボンニュートラルに寄与する可能性がある。しかし、管理要員の必要性、接触事故、天候の影響、長距離・長時間配送の問題など、多くの課題が存在する。現時点では完全な商用化には至っておらず、高付加価値の物を中心に利用が考えられる段階である。

倉庫内でのドローンの使用も有効であり、在庫追跡や管理の効率化に貢献している。このような屋内での活用は、屋外での利用よりも直接的な実利をもたらす可能性が高いと考えられる。

ギグワーカーとは、インターネットを介して仕事を選び、短期間で働く人々である。その起源は音楽業界にあり、現代では主にデジタルプラットフォームを利用して労働供給が行われる。日本では正確な人口規模は不明だが、フリーランスの一形態として少なくとも300万人以上が存在するとされる。

ギグワーカーは、特に物流業界で労働力不足の問題を緩和する重要な役割を担っている。これは、配達や軽貨物輸送など、一時的かつ柔軟な仕事を提供することにより、特にラストワンマイルの効率化に寄与している。新型コロナウイルスの流行によって、ウーバーイーツなどのデリバリーサービスが拡大し、この雇用形態が更に普及した。

しかし、ギグワーカーはしばしば労働条件の悪化や報酬の不透明性に直面している。これに対して、一部のギグワーカーは労働組合を結成し、労働者としての権利を主張し始めている。労働者としての地位が確立されることで、今後も社会において更に重要な存在になると考えられる。

第三章
ロボット化は救世主となるか
仕分けロボや自動運転配達の現在地

物流業界では、生産者の「少品種大量生産」と消費者の「多品種少量購買」という需給ギャップを埋める重要な機能として、「分類取揃え機能」が果たされている。倉庫や物流センターにおいては、生産者からの大量の商品を消費者の希望に応じて必要な品種と量に調整し、組み合わせて提供する作業が行われる。このプロセスは、小売業者がネットを通じて受けた注文をピッキングし、適切に仕分けて配送することで完了する。

しかし、現在この機能は著しくプレッシャーを受けており、人手不足や高齢化、新型コロナのパンデミックの影響で、宅配便やネットスーパーの利用が増加している一方で、物流業界の労働力が不足しているため、業務の過負荷が進行している。この状況を解決するために、「ロボット化」が期待されており、ロボットが人間の労働を代替することで、労働力不足の解消や効率化が見込まれている。

現在、物流業界は「ロジスティクス4.0」と呼ばれる自動化の潮流の中にあり、IoTやAI、ロボット技術を活用し、人間労働をロボットに置き換える動向が加速している。自動化の歴史は古く、1966年にダイフクが自動倉庫を開発して以来、多くの企業が高度な自動化システムを導入してきた。しかし、これらのシステムの普及は限定的であった。その理由は、初期投資の高さと、EC業界など需要の変動が激しい場所での利用に適さないためである。

最近では、モジュラー型の自律搬送ロボットが登場しており、これらは需要の変動に柔軟に対応可能で、効率的な物流を実現している。例えば、インドのグレイ・オレンジ社が開発した自動搬送ロボットや、トラスコ中山が導入した無人フォークリフトなどがその例である。これらのロボットは、自動荷下ろしや積み込みを可能にし、物流プロセスの効率化と労働負担の軽減を図っている。

自動化の動向は、ECの成長、労働力不足、新型コロナウイルスの影響など、多様な要因によって推進されている。物流業界では人材不足が続き、ロボットによる自動化が必須の課題となっており、政府も自動化を支援する様々な政策を推進している。これにより、将来的には更なる無人化、省人化が進むことが予想される。

現代の物流業界はドライバー不足に直面しており、自動運転トラックの開発が進められている。ドライバー不足は、物流事業者の過半数が感じており、今後も悪化すると見られている。この背景には、物流業界が3Kの不人気職種であること、労働市場の有効求人倍率が高いこと、また燃料費の高騰が挙げられる。

自動運転トラックは、長距離輸送や限定エリア内での輸送を想定しており、高速道路での半自動運転から始まり、公道での完全無人運転へと進展している。既にいくつかの企業が自動運転トラックを商用運輸に利用しており、例えば、ウォルマートは公道での完全無人運転トラックでの納品活動を行っている。これらの技術は、物流コストの削減と効率化を目指し、労働力不足に対する解決策として注目されている。

隊列走行トラックは、複数のトラックを一体的に運行させる技術である。これにより、一定の車間距離を保ちつつ、先頭車両が人間のドライバーによって運転され、後続車両は先進運転支援システム(ADAS)によって自動的に制御される。このシステムの導入により、人件費の削減やドライバー不足の問題、疲労運転のリスクの低減、エネルギー消費の効率化が期待されている。ドイツ、スウェーデン、日本など複数の国で実験が進行中であり、高速道路を使った国境を越える隊列走行も行われている。

日本では、2016年から豊田通商が隊列走行の研究に取り組み、新東名高速道路での後続車無人の実証実験を行っており、GPSやLiDARトラッキングを活用している。さらに、5G技術を利用してトラック間の直接通信を可能にし、低遅延通信を実現している。日本からは隊列走行に関する国際標準の提案がISOに採用され、2022年に発行された。

この技術の導入により、長距離輸送や物流コストの削減に大きな影響を与える可能性があり、ドライバー不足という現代の課題に対する一つの解決策とされている。

第四章
災害と物流
大震災の教訓、コロナ禍・露ウ戦争下の流通

大震災が日本の物流業界に与えた影響を検討し、阪神・淡路大震災と東日本大震災の事例を取り上げている。これらの震災では、電気や水道などのライフラインが断たれ、鉄道や道路が破壊されたことで、物流が一時的に麻痺した。特に阪神・淡路大震災では、広範囲でライフラインが断絶し、緊急物資の供給が急務となった。政府は緊急支援物資を供給し、トラック団体が車両の提供を行ったが、避難所に十分な物資が届かない事態も発生した。この背景には、物流管理の未熟さがあった。災害時の物流の特徴として、メーカーから消費者への直接配送が増え、通常の流通ルートが大きく変更された。また、物資の需給ギャップや配送先のミスマッチが重大な問題として挙げられている。これらの震災を通じて、災害時の効果的な物流管理の重要性が浮き彫りになり、物流の改善や進化への動きが加速した。

1995年から2011年にかけての物流進化と東日本大震災時のトラック配送の活躍を概説している。2011年には日本で世界の累計地震回数の約55.6%にあたる地震が発生し、特に3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、マグニチュード9.0と記録的な規模であった。この地震により、極めて高い津波が発生し、福島第一原子力発電所ではメルトダウンが発生した。震災による総被害額は約16兆9000億円にも上り、避難者数は最大で約47万人、避難所の数は2400か所以上に上った。

避難所への緊急物資の配送には様々な物流手段が用いられたが、トラックが最も大きな役割を果たした。トラックは、食料品、水、毛布などを積んで避難所へと配送し、3月11日から4月20日までの間には食料品約1897万7000食、飲料水460万2000本、毛布45万8000枚が配送された。

また、大震災により物流ルートが断たれるリスクがあるため、ルートの分散化が求められている。例えばサンスターはフェリーを使用してモーダルシフト的な対応を取り、日本通運は船舶を活用して被災地への支援物資を供給した。これにより、一時的に船舶を利用して物資を運ぶことで、被災地への供給を維持した。

物流関連施設の分散化も重要であり、日本通運は新潟に給油拠点を設け、アサヒビールは茨城工場の自動倉庫が機能不全になった際に新潟に臨時のディストリビューションセンターを構築している。

このように、東日本大震災は物流における多くの教訓を与え、それを基にした改善が進められている。

新型コロナウイルスの流行は、物流業界に多大な影響を与えた。2020年には物流市場全体の規模が1兆5000億円減少し、コンテナ不足や港湾運送の混乱が生じた。国際線の減便により航空貨物の輸送量も大幅に減少した。対応策として、日本郵便と佐川急便が国際宅配便事業で協業し、「飛脚グローバルポスト便」として国際スピード郵便サービスを提供することになった。また、ヤマトHDと日本航空は貨物専用機の導入を計画するなど、航空貨物の効率化を図っている。

特に注目されたのは、3PL(Third Party Logistics)市場の拡大である。これは、荷主企業に代わり物流戦略の企画立案や実行を行うサービスで、2020年には前年比5%の成長を遂げた。新型コロナによるサプライチェーンの問題が明らかになり、効率的かつ信頼性の高い物流サービスが求められた結果である。

この危機に対応するため、物流業界はコンタクトレス技術を推進し、ロボット化や自動運転車、ドローン配送などを進めている。また、新型コロナの影響でEC(電子商取引)の需要が増加し、物流の新たな課題として「フィジカルインターネット」という概念が注目されている。これは物流リソースを企業間で共有し、効率化を図る考え方であり、パンデミック期における物流効率化の重要なアプローチとして評価されている。

21世紀に入り、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻したことにより、ロシア・ウクライナ戦争が勃発した。この戦争は、世界的な物資供給不足やインフレを引き起こし、グローバル・サプライチェーンに甚大な悪影響を与えた。特にエネルギー供給に依存していた欧州連合(EU)は大きな打撃を受け、エネルギー価格が急騰した。また、ウクライナとロシアが重要な穀物供給国であるため、小麦やひまわり油の価格も大幅に上昇し、特にアフリカの食料自給率の低い国々に影響を与えた。

戦争によって国際貿易は大きく阻害され、多くの物流企業が稼働停止や制限を余儀なくされた。例えば、ヤマト運輸はロシア、ウクライナ、ベラルーシへの宅急便サービスを一時停止し、その他の物流企業も同様の対応を取った。さらに、EUや米国はロシアへの経済制裁を加え、ロシア関連の貨物の取り扱いを制限し、グローバルな物流ルートの再編が迫られた。

また、ロシアとウクライナ両国がサプライチェーンに与える影響の大きさから、これらの国からの依存を減らすためのリショアリングやサプライソースの分散化が進められた。この戦争は、物流業界にとって多くのリスクと課題を提示し、それに対応するための多角的なアプローチが求められる状況である。

終章
新時代の潮流
SDGsを中心として

持続可能な開発目標(SDGs)とは、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された全世界規模の17の目標である。これらは貧困、教育、ジェンダー平等、エネルギー、イノベーションなど、広範な分野にわたっている。特に物流活動と関連性が高い目標には、健康と福祉、ジェンダー平等、クリーンなエネルギー、産業と技術革新の基盤などが含まれる。

物流業界では、環境への配慮や安定的な資源の持続的活用、産業化やイノベーションの促進に向けた取り組みが進められており、特に環境、社会、企業統治(ESG)の観点からの活動が強調されている。その一環として、CO2排出削減や環境に優しい車両の導入、エネルギー効率の向上などが行われている。また、モーダルシフトやカーボンニュートラルへの取り組み、再生可能エネルギーの活用なども進んでいる。

具体的な事例として、電気自動車の導入、液化天然ガス(LNG)を燃料とする船の運航、長距離輸送におけるモーダルシフト、省エネルギー技術の導入などが挙げられる。これらの取り組みは、SDGsの目標達成に寄与し、特に気候変動に関する具体的な対策や持続可能なエネルギーへの移行を支援している。

労働環境の改善と効率化は、ジェンダー平等と物流の「ホワイト化」を通じて進められている。ジェンダー・ギャップ指数によると、日本は国際的に男女格差が大きいが、女性の就業率は高い水準にある。ただし、物流業界における女性の就業率は低く、特にドライバー職では極端に少ない。これは、伝統的に男性が多い職場で、女性にとって働きづらい環境が根強いためである。

政府と民間企業は、女性が働きやすい環境を作るために「トラガール促進プロジェクトサイト」などの取り組みを進めている。これには、女性専用の施設の拡充や重労働の機械化、フレキシブルな勤務時間の提供などが含まれる。また、物流業界における女性ドライバーの増加は、業界のイメージ向上や新たなアイデアの提供にもつながる。

さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、物流業界では業務の効率化が進められている。これは「物流の2024年問題」に対応し、効率性や競争力の向上を目指すものである。共同化や標準化の推進は、サプライチェーン全体の最適化を図り、SDGsの目標達成に寄与する。

あとがき

物流の重要性が増している現代において、「物流の2024年問題」は、様々な国内外の危機が物流システムに与えた影響を示す画期的な事件である。気候変動やパンデミック、国際紛争などの災厄によってサプライチェーンが断たれ、物流の停滞が発生し、多くの人々が物品の入手困難や物価上昇を体験した。これにより、物流業界の役割と重要性が再認識されたが、同時に「ブラック職種」としての注目も浴びている。国は「働き方改革」を進め、ブラック職場をホワイト化することで業界への新規参入を促しているが、短期的には改革による困難も予見されている。本書は、これらの問題に対する解決策を提案し、物流に関する理解の促進と未来への備えを目指している。

その他ノンフィクション

6bf795f904f38536fef8a54f53a8a299 「日本の物流問題 ――流通の危機と進化を読みとく」感想・ネタバレ
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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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