どんな本?
『官僚生態図鑑』は、経済アナリストである森永卓郎氏が著した書籍である。本書は、森永氏の職業人生を通じて観察した官僚の生態を詳細に描写し、その変遷や現状を分析している。具体的には、官僚の優秀さや政策決定における役割、そして近年の変質について言及している。また、官僚組織の内部から見た視点を提供し、彼らの行動や思考を理解する手助けとなる内容である。本書は、2024年11月21日に三五館シンシャから刊行された。
読んだ本のタイトル
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あらすじ・内容
累計58万部突破!森永卓郎シリーズ最新刊。
【目次】
第1章 私が観察した官僚の生態
第2章 凋落し始めた官僚
――私が観察した官僚の生態2
第3章 官僚の生態系に何が起きているのか?
第4章 官僚たちの生存戦略
第5章 官僚の選択ミスを検証する
第6章 ”官僚生態学”から7つの提言
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私の職業人生のほとんどは官僚とともにあり、間近で彼らの生態を観察してきた。
私の眼には、素晴らしいことから悪辣なことまで官僚の生態とその変化が焼き付いている。
それを読者に余すところなくお伝えしたい。本書が日本で初めての「官僚生態図鑑」たるゆえんだ。
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感想
官僚の真実に迫る一冊
『官僚生態図鑑』は、著者森永卓郎氏の長年の経験をもとに、官僚組織の本質とその変化を鋭く描き出した一冊である。
氏の文体は読みやすく、ユーモアを交えながら複雑なテーマをわかりやすく解説しており、終始興味を引きつけられた。
特に、自身が実際に関わったエピソードを交えた具体的な描写が、官僚という組織の特異性を浮き彫りにしている。
官僚の優秀さとその影
森永氏は、官僚の優秀さを高く評価している。
とりわけ、経済企画庁での経験を基に、かつての官僚が持っていた誇りや使命感を語る場面は説得力にあふれていた。
一方で、1990年代以降の制度変更によって官僚が小市民化し、自分たちの生活改善に注力するようになった点を批判している。
これらの指摘は、官僚の暴走が日本社会に与える影響の大きさを深く考えさせるものだった。
ユーモアと洞察に富む図鑑的アプローチ
「図鑑」というタイトルの通り、本書は官僚の日常や行動パターンを多角的に描写しており、その観察力には感嘆せざるを得ない。
特に、良い部分だけでなく、問題点や矛盾までも詳細に描き出している点が印象的であった。
こうした具体的な描写は、官僚という存在を身近に感じさせると同時に、社会構造の複雑さを理解する助けにもなった。
未来への提言と教訓
本書は過去の官僚制度を描くだけでなく、その未来についても提言している点が特徴的である。
森永氏は「やりがいのある仕事を与えることこそが官僚の能力を正しい方向に導く鍵である」と主張しており、読後にその重要性を痛感させられた。
官僚の潜在能力を日本の未来のために活用すべきだという提言には、大きくうなずけるものがあった。
総評
『官僚生態図鑑』は、官僚という社会的存在の本質を鋭く描き出し、その役割や課題を改めて問い直す良書である。
ユーモラスでありながらも深い洞察に満ちた内容は、多くの読者にとって新たな発見をもたらすだろう。
官僚というテーマに興味がある人はもちろん、現代社会の構造を知りたい人にもおすすめの一冊である。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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その他ノンフィクション
備忘録
まえがき
知られざる官僚の現実
経産官僚と議論された失われた30年の背景
番組「垣花正 あなたとハッピー!」において、元経産官僚の岸博幸氏がゲスト出演した。日本が「失われた30年」に陥った要因として、著者は「官僚が小市民化した」ことを指摘し、岸氏もこれに同意した。しかし、この主張は一般市民には理解されにくいものであった。理由として、官僚の実態がほとんど知られていない点が挙げられる。
キャリア官僚の実態とその困難な就職競争
本書で描かれる官僚は、霞が関で働くスーパーエリート、いわゆるキャリア官僚である。採用される人数は年に約700人、同世代の1万人に1人以下の確率でしか就職できない難関の職である。一方、キャリアとノンキャリアの区別は一般には理解されておらず、その仕事内容もほとんど知られていない。
官僚の実態が伝わらない理由
元財務官僚の山口真由氏の発言から、東大法学部出身の彼女でさえ、官僚の実態をよく理解していなかったことが明らかになった。官僚の実態が伝わらない理由として、以下の三点が挙げられる。第一に、キャリアとノンキャリアを分けた統計が存在しない点。第二に、キャリア官僚が自らの職業実態を語りたがらない点。そして第三に、各省庁によって権力や処遇が大きく異なる点である。
官僚の権力構造とその多様性
財務省が最強官庁として君臨する一方、経産省や国土交通省などもそれに次ぐ権力を持つ。その他の中央官庁も所管分野において一定の影響力を発揮するが、一般公務員と比較すれば、キャリア官僚の出世速度や権力、処遇は全く異なる次元にある。
著者が見た官僚の生態
著者自身は官僚の経験を持たないが、日本専売公社での就職や経済企画庁への出向、シンクタンクでの勤務経験を通じて、官僚たちと深く関わってきた。45年にわたる職業人生で観察した官僚の生態は、優れたものから悪辣なものまで幅広い。本書では、それらの観察を基にした官僚の詳細な「生態図鑑」が提示されている。
第 1章 私が観察した官僚の生態
日本経済に「奇跡」が起こった理由
官僚の役割と政策決定の手法
著者は官僚に求められる最重要の役割を「国家の方向性を決定するグランドデザインを描くこと」とした。政策を多くの意見で調整することは妥協を生み、一貫性を損なうため、専門家による濃密な議論が理想的であると考えた。その結果、日本の産業政策は数々の成功を収めた。
戦後復興を支えた傾斜生産方式
太平洋戦争後、日本は焼け野原の状態から復興を遂げた。政府は基礎素材である鉄鋼と石炭の生産回復を最優先し、その循環を軸に段階的な発展を目指した。この政策の中心となったのが通商産業省の「通商産業ビジョン」であり、戦後日本の経済成長は「奇跡」と呼ばれるほど急速であった。
経済企画庁の「長期多部門モデル」
産業政策には具体的な数値モデルが活用された。長期多部門モデルは資源制約を考慮しつつ、GDP成長率を最大化する経済成長経路を導き出す手法である。この計算は膨大で、しばしば「解なし」となる状況を生んだが、官僚たちは迅速に条件を調整し、対応を進めた。
官僚に求められる資質
官僚に必要な能力として、著者は「知的能力」「体力」「高い情熱」の三点を挙げた。特に、極めて高い知的能力を重視しており、複雑な政策課題への柔軟な対応力が求められた。また、深夜まで及ぶ激務や長期間家に帰れない環境に耐える体力も必須であった。
キャリア官僚の給与と報酬
若手時代の官僚の給与は高くないが、早期昇進により40代で年収1,300万円を超える例もあった。一方、ノンキャリアの多くは課長補佐止まりで、報酬面の格差が大きかった。また、接待や天下りといったフリンジ・ベネフィットがキャリア官僚に特有の優遇として存在した。
天下りの実態
定年後の官僚には、天下り先で高額の報酬が用意され、仕事量に見合わない厚遇が与えられた。これにより、キャリア官僚の生涯年収は一般公務員の約10倍に達するケースもあった。こうした仕組みは官僚間で広く認識されており、激務時代の「貸し」を取り戻す形と捉えられていた。
第 2章 凋落し始めた官僚――私が観察した官僚の生態 ❷
崩れゆく最強の就職先
官僚制度の変化とその影響
かつて官僚は「最強の就職先」とされていたが、1990年ごろからの行政改革により、その地位は揺らぎ始めた。接待や贈答の慣行が廃止された結果、官僚は業界との距離を取り、現場感覚の乏しい政策を推し進めるようになった。また、専業主婦世帯の減少に伴い、官僚同士の結婚が増えたことで、政策の視点が「自分たちの生活基準」に偏り、一般市民との乖離が顕著となった。
若年官僚の退職増加
近年、10年未満で退職する国家公務員が急増しており、2022年度には177人と過去最多を記録した。東大出身者の官僚志望者も減少傾向にあり、長時間労働や待遇の低さが一因とされている。特に、官僚の生涯報酬は高いが、それが主に天下り後に集中していることが不満の背景にあると考えられる。
天下りシステムの実態
天下り先を確保することは事務次官の重要な業務とされ、新たな法律を制定して関連ポストを作り出すことが常態化していた。特に財務省は「埋蔵金」を利用し、予算を通じて他省庁用のポストと同時に自省庁用のポストも確保していた。天下り先では高額の報酬や特典が与えられ、官僚の生涯収入は一般公務員の10倍に達する場合もあった。
官僚への免責とその影響
官僚は職務に関連する問題で処罰を受けることが稀である。財務省の佐川元理財局長による公文書改ざん事件では、刑事責任が問われず、最終的に約5000万円の退職金が支払われた。このような構造が、官僚制度全体の不透明性を助長している。
フリンジ・ベネフィットの現状
官僚には低賃金を補う多様なフリンジ・ベネフィットが存在する。一等地の官舎に格安で住むことや、接待や贈答品が日常的に与えられることが例として挙げられる。また、接待や贈答に加え、天下り先での待遇が実質的な報酬として機能していた。
官僚の使命感とその限界
一部の官僚は、経済成長期において「日本丸の舵取り」を担うという使命感を持ち、待遇を度外視して働いてきた。特に高度経済成長期には、官僚の尽力が大きな役割を果たした。しかし、現在では制度の硬直化や現場感覚の欠如が批判の対象となっている。
第 3章 官僚の生態系に何が起きているのか?
官僚制度に逆風が吹き始めたきっかけ
行政改革の開始と官僚制度への影響
1980年代、日本では行政改革が本格化し、官僚制度に大きな変化が訪れた。土光敏夫を会長とする第二次臨時行政調査会が設立され、三公社の民営化や地方議会定員の削減が提案された。また、大蔵省が財政再建元年を宣言し、国債発行を抑制する政策が推進された。この動きは、官僚の行動や政策に直接影響を与えた。
ノーパンしゃぶしゃぶ事件と官僚の失墜
1998年、大蔵省職員が新宿のノーパンしゃぶしゃぶ店で銀行から接待を受けていた事実が発覚した。この事件は、官僚と金融業界の癒着を象徴し、国民の怒りを招いた。事件の影響で7人の官僚が起訴され、一部は有罪判決を受けた。この出来事は、従来の「官僚は無罪放免」という慣例を覆す結果となった。
大蔵省から財務省への再編
ノーパンしゃぶしゃぶ事件の余波で、大蔵省は2001年に財務省へ改称され、金融庁が分離された。また、他の省庁も再編が進み、官僚優遇の構造が部分的に見直された。一例として、公務員宿舎の家賃が大幅に引き上げられるなどの変化があった。
天下り規制の導入とその限界
2008年に改正国家公務員法が施行され、天下りに対する規制が強化された。現職官僚による再就職あっせんは禁止され、新設された官民人材交流センターが天下り調整を担った。しかし、この規制には多くの抜け穴があり、天下りそのものは依然として続いている。
財務官僚の特権と二極化
財務省は依然として多くの天下り先を確保しており、上場企業の社外取締役報酬ランキングでは最高4471万円の報酬が確認された。一方で、他省庁の官僚は利権を大幅に削られ、二極化が進行している。財務官僚の特権は、税務調査やメディア操作を通じて維持されている。
官僚のやりがい喪失と若年層の退職増加
2001年以降の「官邸主導」の政策決定により、官僚たちは政策作成の自由を失い、仕事へのやりがいが大きく減少した。この変化に加え、待遇や環境の悪化が影響し、10年未満で退職する若年官僚が急増した。官僚制度は、大きな変革の中で、その魅力を徐々に失っていった。
第 4章 官僚たちの生存戦略
女性官僚の増加とライフスタイルの変化
官僚家庭の変化と専業主婦の減少
40年前の官僚家庭では専業主婦が一般的で、家庭を支える役割を担っていた。しかし、女性官僚が増加し、官僚同士の結婚という新しい選択肢が生まれた。この変化により、共働きが主流となり、世帯年収の大幅な増加を実現した。
強欲すぎる定年延長
国家公務員の定年延長
2023年4月から国家公務員の定年延長が始まり、65歳まで段階的に引き上げられることになった。定年後の給与や退職金の計算において優遇措置が取られており、これが民間企業と比較して非常に好待遇である点が批判されている。
給与の優遇措置
公務員の給与は、事業所規模50人以上の正社員を基準として算定されており、結果的に民間企業の平均よりも高い水準が維持されている。また、地域手当の導入により、東京23区勤務者は自動的に20%の給与増加を享受していた。
働き方改革とその影響
働き方改革の導入
2019年から施行された働き方改革は、有給休暇取得の義務化や残業時間規制を強化するものであった。この改革は、官僚自身の仕事のつまらなさが背景にあると考えられており、日本経済や企業文化に悪影響を及ぼしている。
トップダウン経営による問題
トップダウンの経営スタイルにより、現場の自由が奪われ、若手社員や官僚の仕事への満足度が低下している。この状況が働き方改革や生産性の低下に繋がったと指摘されている。
少子化対策の矛盾
格差是正の欠如
少子化対策として児童手当の拡充が進められたが、格差縮小に向けた具体的な施策はほとんど含まれていなかった。これにより、低所得層への恩恵が薄く、対策が高所得層や官僚自身に有利な形で設計されているとの批判がある。
共働き優遇と専業主婦の排除
共働き家庭への補助が拡充される一方、専業主婦にはほとんど支援が行われていない。この政策が共働きを強要するものであり、多様なライフスタイルを制限していると問題視されている。
官僚制度の未来
官僚の利益追求
近年の官僚は、自身の利益を優先した政策を打ち出す傾向が強まっている。その結果、国民全体にとっての最善策ではなく、一部の特権階層に有利な政策が増えているとの指摘がある。
第 5章 なぜ官僚の政策は失敗するのか?
首都機能移転とその背景
日本では、東京への過密集中が長年問題視されてきた。1980年代後半からその弊害が議論され、1990年に国会で首都機能移転が正式に決議された。議決では、政治・経済・文化が東京に集中することが地価高騰や生活環境の悪化を招くとされ、移転先として「栃木・福島地域」と「岐阜・愛知地域」が候補地に選ばれた。しかし、その後国会はこの問題に関する具体的な進展を見せず、東京の人口集中や災害リスクが放置されたままであった。
災害リスクと防災策の現状
東京都の防災機能向上には巨額の投資が行われてきた。埼玉県の外郭放水路や荒川の氾濫対策施設が台風時に機能しているものの、増加する豪雨や地震リスクに対しては依然として脆弱性が残っている。政府の試算では、首都直下地震や洪水による被害は甚大であり、東京の都市機能の喪失は日本全体に致命的な打撃を与える可能性があるとされている。
福島への移転提案
福島への首都機能移転は、復興支援と災害リスク軽減の両面で有効であるとされている。移転により地元に雇用が生まれ、人口減少に歯止めがかかるほか、政治や行政が地方目線で政策を考える環境も整う。さらに、東京の過密解消による災害時の被害軽減も期待できる。しかし、官僚を含む多くの関係者が現状維持を望む姿勢を崩さず、実現の可能性は低い状況にある。
エネルギー政策と原発依存の問題
日本のエネルギー政策では、福島第一原発事故後に原発依存を低減する方針が示されたものの、近年は原発を基幹電源とする方向に転換した。原発のコストやリスクが見過ごされている一方で、政府は再生可能エネルギーである太陽光発電の普及には冷淡である。その背景には電力会社や官僚の利権構造があり、国民の負担を増やす一因となっている。
農業と食料安全保障の課題
日本の農業は低い自給率や担い手不足に直面している。政府の政策は生産者より都市生活者の視点に偏り、有事の食料供給が脆弱な状況にある。農業を魅力ある職業とするための所得補償や若年層の参入促進が必要とされる一方、スマート農業の導入にはコスト増加や品質低下の懸念がある。これらの課題に対し、農業政策の抜本的な見直しが求められている。
半導体産業支援の是非
日本政府は半導体産業復権のために巨額の補助金を投入しているが、その多くが外資系企業に向けられている。過去の失敗例や現在進行中の企業赤字を踏まえると、この政策の成果には疑問が残る。経産省の施策は現場との連携を欠き、補助金を社会保障や減税に回すほうが国民生活に貢献すると指摘されている。
以上のように、日本の政策は災害リスク、エネルギー、食料安全保障、産業振興といった重要課題において、実効性や公平性を欠いているとの指摘が多い現状である。
第 6章 〝官僚生態学〟から7つの処方箋
官僚の変化と問題提起
1998年の「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」以降、官僚への信頼は低下し、彼らの特権的待遇が制限された。これにより、若手官僚の一部は民間企業への転職を選んだが、多くは政策や制度を自分たちの都合の良い方向に変える「戦略転換」に乗り出していた。この動きが日本の沈没を加速させるとの懸念が示されていた。
経済財政諮問会議の問題と改革案
経済財政諮問会議は予算編成の骨格を決定する役割を担っていたが、事務局を財務省に掌握され、事実上財務省の意向が反映される場となっていた。これにより、社会保障費の増加が制限され、国民負担の増大が続いていた。解決策として、財務官僚を会議から排除し、予算編成を政治家主導に戻す必要性が提案されていた。
官僚報酬の引き上げと条件
官僚の能力流出を防ぐため、報酬を3倍程度に引き上げる案が示された。同時に、十分な金銭的補償を提供する代わりに、天下りや特権的待遇の完全禁止が求められていた。また、若手官僚には転職の自由を認める一方、40歳以降は定年まで勤続する仕組みを提案していた。
調査費支給による現場連携の強化
官僚が現場の声を直接聞き、業界と密接に連携する重要性が指摘されていた。調査費を支給し、業界との交流を割り勘で行うことで、癒着を防ぎつつ現場との関係を強化する仕組みが提案されていた。
財務省と国税庁の分離
財務省が予算編成と徴税を一手に担う体制は、世界的にも例がなく、メディアや学者が逆らえない原因となっていた。公平な財政議論を実現するため、国税庁を財務省から完全に分離する案が示されていた。
働き方改革の適用除外
官僚の仕事は高度な戦略性と創造性が求められるため、労働時間規制を適用しない方が合理的であるとされた。官僚の仕事の楽しさを取り戻し、柔軟に働ける環境を整えることが重要だと提案されていた。
経済企画庁の復活案
かつて「総合調整官庁」として機能していた経済企画庁の復活が提案されていた。ただし、財務省の影響を排除した新しい形で設立し、予算ではなく政策を最優先する方針が必要であるとされていた。この改革により、日本の政策作りが国民の利益に直結するものへと変わる可能性が示されていた。
あとがき
官僚の役割とシンクタンクの不在
アメリカでは、民主党のブルッキングス研究所や共和党のフーバー研究所が政策立案を支えるシンクタンクとして機能していた。一方、日本では、こうした独立したシンクタンクが根付かなかった。その理由は、日本の官僚自体がシンクタンクの役割を担っていたからである。著者は官僚の優秀さを高く評価し、その専門能力が経済社会の舵取りに不可欠であったと述べている。
官僚の地位低下と歪んだ政策遂行
1990年代以降、官僚は特権や政策決定権を失い、自分たちの生活改善を優先するようになった。一方、財務官僚は天下り利権を拡大する手法を編み出し、その結果、官僚の暴走が経済社会の停滞を招いたと指摘されている。優秀な人材であるがゆえに、この暴走を止めることは非常に困難であった。
中名生課長との出会いと教訓
著者が経済企画庁で出会った中名生隆課長は、独自の管理手法を採用していた。彼は「まずい情報はすぐに上げろ」「自信があれば締切まで自由にやれ」と簡潔な指示を出し、若手に仕事を委ねた。そして緊急時には自ら対応するため、常に待機していた。このような信頼と責任を伴う仕事の任せ方により、著者は長時間働きながらも仕事に大きなやりがいを感じていた。
やりがいを奪われた現代の官僚
著者は、官僚に必要な報酬は金銭や利権ではなく、やりがいのある仕事であると強調している。しかし、現代の官僚はそのやりがいを失い、「国のために働く官僚」は絶滅危惧種となってしまった。著者は、官僚が本来の姿を取り戻し、その高い潜在能力を国のために発揮してほしいと願っている。
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