どんな本?
『悪役令嬢、宇宙を駆ける 二度目の人生では宇宙艦隊を率いて星間戦争を勝利に導きます』は、異星人との戦争に敗北し戦死した地球帝国軍の元艦隊提督リリアンが、18歳の少女として過去に戻り、未来の知識と艦隊指揮能力を駆使して人類の存続を目指すSF作品である。
主要キャラクター
• リリアン・ルゾール:地球帝国軍の元艦隊提督。異星人との戦争で人類敗北を招き、戦死した末に18歳の少女に死に戻る。未来の知識と艦隊指揮能力を駆使して今度こそ人類の勝利を目指す。紅茶を淹れるのが趣味。
• ステラ・ドリアード:未来で天才総司令官となる少女。天才的な戦術眼を持つが普段は抜けている部分が多く、友人のフリムに助けられている。リリアンはステラのことをかつてライバル視していた。
• ヴェルトール・ガンデマン:かつてのリリアンの初恋の人。若き帝国の獅子と呼ばれるエリート士官候補生の一人。漂流した戦艦で艦長代理を務めることに。
• フリム・結城:医務科の儚げな雰囲気のある少女。ステラの友人で、暴走しがちなステラを心配して厳しく当たることも。
• デボネア・エルトレス:通信科の少女。艦橋で通信を担当する。初めての実戦でリリアンに気にかけられて以降、リリアンに懐く。
物語の特徴
本作は、異星人との戦争に敗北した元提督が過去に戻り、未来の知識と経験を活かして人類の存続を目指す物語である。主人公が二度目の人生で自身の過ちを正し、若き士官候補生たちと協力しながら困難に立ち向かう姿が描かれている。また、士官学校の演習中に起こる宇宙戦艦の漂流や異星人からの襲撃など、緊迫感あふれる展開が魅力である。第9回カクヨムWeb小説コンテスト カクヨムプロ作家部門 特別賞を受賞した作品である。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2025年3月5日
• 判型:B6判
• ページ数:276ページ
• ISBN:9784040758244
読んだ本のタイトル
悪役令嬢、宇宙を駆ける 二度目の人生では宇宙艦隊を率いて星間戦争を勝利に導きます
著者:甘味亭 太丸 氏
イラスト:ヨシモト 氏
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あらすじ・内容
人類敗北を招いた艦隊提督が死に戻り――最強の提督令嬢誕生!
「異星人に勝つ? 地球へ生還する? 全部、やってやろうじゃない!」
異星人との戦争に敗北した宇宙艦隊提督のリリアンは、十八歳の少女に戻っていた。
前回は己の失態により負けた。次は勝って凄惨な未来を変える――!!
そんな彼女の目前に迫るのは、士官学校の演習中に起こる宇宙戦艦の漂流と、異星人からの襲撃(ファーストコンタクト)。
リリアンは培った戦術眼と未来の知識で実戦経験のない生徒をまとめ上げ、たった一隻の戦艦で異星人艦隊に立ち向かう。
後に奇跡と呼ばれる活躍は、人類存続の未来へと繋がっていく――。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト カクヨムプロ作家部門 特別賞受賞作!
主な出来事
リリアン・ルゾール提督の最期
リリアンは地球帝国の提督として、無価値な艦隊を率いる立場にあった。彼女の部隊は旧式の巡洋艦と駆逐艦以下の戦力しか持たず、圧倒的に不利な状況で戦うことを強いられた。敵の攻撃により、一〇九番パトロール隊は瞬く間に壊滅し、彼女自身も戦艦の爆発に巻き込まれて命を落とした。
十八歳の自分に転生
リリアンは、七十九歳の記憶を持ったまま、十八歳の姿で目を覚ました。そこは士官学校の卒業試験を控えた過去の世界であった。驚きはあったが、冷静に状況を整理し、この機会を生かす決意を固めた。
卒業試験とティベリウスの事故
卒業試験では、演習用の戦艦ティベリウスに乗り込むこととなった。この試験は形式的なものであったが、リリアンは未来の知識をもとに、この艦がワープ事故を起こし、異星人との戦争のきっかけとなることを知っていた。
帝国軍の問題と改革の必要性
地球帝国軍は形式だけの組織となっており、実戦経験のない貴族の子弟が指揮を執る仕組みとなっていた。このままでは戦争に勝てないことを悟ったリリアンは、自らの知識を活かして軍の体制を変えるべきだと考えた。
ステラ・ドリアードとの出会い
未来の天才軍師であるステラと出会ったリリアンは、彼女の才能を最大限に発揮させることが重要だと気づいた。前世ではステラに嫉妬し、彼女の昇進を妨げたが、今回は彼女を支え、戦争の勝利に導く決意をした。
ワープ事故の発生
ティベリウスのワープ機関が暴走し、艦は予想外の宙域へ飛ばされた。そこは未知の領域であり、敵の勢力圏の近くであった。リリアンは、事故が偶然ではなく、スパイによる意図的なものではないかと疑った。
未知の敵とのファーストコンタクト
ワープ先で遭遇した敵艦は、人類とは異なる異星人のものであった。交信は成立せず、敵は即座に攻撃を開始した。リリアンは艦の戦力を分析しながら、最善の策を模索した。
戦闘と奇策による勝利
敵は強力な兵器を持っていたが、リリアンは未来の知識を活かし、魚雷の散布と急制動を組み合わせた作戦で敵を翻弄した。結果、ティベリウスは最小限の被害で敵艦を撃破し、戦闘を切り抜けた。
修理と次なる戦闘への準備
戦闘後、ティベリウスの修理と整備が進められた。リリアンは仲間たちと交流を深めながら、今後の戦いに向けて準備を整えた。敵が再び襲撃してくる可能性が高く、慎重な行動が求められた。
長距離ワープの成功と帰還
ティベリウスは短距離ワープを繰り返しながら、長距離ワープの準備を進めた。ついに成功を収め、彼らは地球への帰還を確実なものとした。この出来事は「戦艦ティベリウス、奇跡の帰還」として語り継がれることとなった。
帰還後の新たな課題
地球へ帰還したリリアンたちは、戦争の今後について考えることとなった。帝国軍の改革、戦争の行方、自身の立場など、解決すべき問題は山積していた。
未来への決意
リリアンは夜空を見上げ、これからの戦いに思いを巡らせた。未来の知識が通用しない世界で、自らの使命を果たすため、前へ進む覚悟を固めた。
感想
SFでは珍しいやり直し物語
本作は、SFの舞台で「やり直し」というテーマを描いた珍しい作品である。壮大な宇宙を背景に、主人公が過去の失敗を乗り越え、仲間と共に新たな道を模索する物語は、引き込む魅力に溢れている。
特に、リリアン一人が活躍するのではなく、学友たちの成長が物語の軸となっている点が新鮮である。
彼らが戦友として結束し、それぞれの才能を発揮していく過程が丁寧に描かれており、読者としても彼らの奮闘を応援したくなる。
戦闘シーンの緊張感も見どころの一つである。戦艦一隻で生き延びるという絶望的な状況の中で、知恵と戦術を駆使し、少しずつ道を切り開いていく展開は手に汗を握る。
また、やり直し元のリリアンが、過去とは異なる選択をすることで周囲に影響を与え、未来を変えていく様子が巧みに描かれている。
一方で、リリアンの判断が全て的確すぎる点や、彼女の変化を周囲が不審に思わない点は、ややご都合主義的な部分もある。
しかし、それを補って余りあるストーリーの面白さと、登場人物たちの魅力が際立っているため、気になることはほとんどない。
今後の展開がどのように進むのか、非常に楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
序章 リリアン・ルゾール提督:七十九歳
地球帝国一〇九番パトロール隊の実態
地球帝国一〇九番パトロール隊は、名ばかりの艦隊であった。艦隊を構成するのは、駆逐艦にも及ばない小型のパトロール艇ばかりであり、武装も貧弱であった。主武装として宇宙魚雷を三基搭載するものの、弾数は少なく、重粒子砲を装備する艦もほとんどなかった。本来、このパトロール隊は地球軌道上で活動するはずであったが、なぜか千光年離れた最前線に配備されていた。異常な配置であったが、それには理由があった。
左遷された提督リリアン・ルゾール
この艦隊を率いるのは、地球帝国軍のリリアン・ルゾール少将であった。彼女は七十九歳の老提督であり、士官学校を優秀な成績で卒業後、コネと一定の能力で若くして出世を果たした。しかし、実戦経験は乏しく、大艦隊の指揮を執ったのは一度のみ。その戦いにおいて彼女は壊滅的な敗北を喫し、多くの艦隊を失った。
その結果、彼女は軍から冷遇され、六十年もの間、旧式の巡洋艦アトロポスと共に、意味のない宙域を巡回する任務に就かされていた。彼女を戦場に戻すこと自体が不吉とされ、軍内部では彼女を追放同然の扱いにするのが暗黙の了解となっていた。そうして彼女は、軍の中でも異端として扱われるようになった。
無価値な艦隊と敗北の予感
アトロポスは五〇〇メートル級の重巡洋艦であったが、すでに旧式であり、まともな戦力にはなり得なかった。さらに、リリアンの艦隊に配属される者たちは、軍の中でも厄介者ばかりであり、実戦経験のない者が大半であった。そんな彼らは、たった十数隻の艦隊で三〇〇隻もの敵艦隊と対峙することになった。
もはや戦闘というより、捨て駒としての役割を果たすだけの状況であった。敵の攻撃を防ぐ電磁シールドを持つ艦はごくわずかであり、一撃でも被弾すれば撃沈は免れない。リリアンはその絶望的な状況を冷笑しながら見つめていた。
無意味な戦闘と最期の瞬間
接敵からわずか五分、敵艦隊の重粒子砲が火を吹き、一〇九番パトロール隊は壊滅した。パトロール艇は瞬く間に全滅し、アトロポスも無数の攻撃を浴びてシールドを喪失した。艦長として指揮を執るはずだったザバト・クインシーも、最初の砲撃で即死した。
もはや戦う術はなかった。ブリッジにはまともに動ける者もおらず、主砲すら機能しなくなっていた。リリアンは、敵艦隊の砲塔がこちらに向けられるのを静かに見つめた。これまで生き延びてきたが、ついにその時が来たのだと悟った。
最後の瞬間、彼女は呟いた。「あぁ、でも。船は、楽しかった」と。直後、重粒子砲の閃光が彼女を包み、リリアン・ルゾールはその生涯を終えた。
第一章 リリアン・ルゾール嬢:十八歳
目覚めと異変
リリアンは、十八歳の自分の姿で目を覚ました。豪奢なベッドとファンシーな装飾が施された部屋、そしてかつての初恋の人ヴェルトール・ガンデマンの写真が飾られていた。そこは、過去の自室に違いなかった。腰まで伸びたブロンドピンクの髪や、張りのある肌は若き日の肉体の証拠であったが、精神は七十九歳のままだった。
かつての自分ならば驚き、取り乱していたはずである。しかし、七十九年を生きた者としての冷静さが勝り、これは夢ではないと理解した。重粒子砲の光に飲まれ、肉体が消滅した感覚は確かに記憶に残っていたが、鼓動や温もり、風の音、香水の香りが現実であることを示していた。リリアンは柱時計を確認し、四一〇三年三月、学園の卒業試験当日であることを知った。
過去への回帰と戸惑い
リリアンは、過去に戻った事実を受け入れざるを得なかった。かつての自分は愚かで、功名心と虚栄心に囚われ、周囲を顧みることなく突き進んでいた。そして、その結果が六十年前の大敗を招き、帝国艦隊を壊滅させた。今、自分が再びその時代に戻ったのは何かの罰なのか、それともやり直す機会なのか。
一方で、十八歳という立場に強い違和感を覚えた。提督だった頃は誰も彼女に逆らえなかったが、今はただの学生に過ぎない。制服に袖を通すことすら、精神が老いている今となっては苦痛だった。しかし、今日は卒業試験の日であり、この服を着るのも最後であると自分に言い聞かせた。
迫る戦艦ティベリウスの事故
学園の卒業試験は、演習用の戦艦ティベリウスに乗り込む実習であった。戦艦は本物であり、航宙戦闘機を含む実戦配備の装備を備えていた。試験とは名ばかりで、実際には一日限りの航行訓練に過ぎなかった。しかし、リリアンはこの試験が「戦艦ティベリウス、奇跡の帰還事件」として歴史に残る重大な出来事へと発展することを知っていた。
ワープ事故により、ティベリウスはオリオン座方面へと飛ばされる。そして、ワープ機関の不具合で三週間もの間、通常航行を余儀なくされた。さらに、馬頭星雲の陰から出現したエイリアン艦隊に襲撃されることになる。この出来事が、地球帝国と異星人との戦争の引き金となったのは間違いない。
帝国の慢心と破滅への道
地球帝国は広大な領土を持っていたが、軍人の数は少なく、その補充策として学生のうちから兵士を募っていた。これにより戦争の継続は可能となったが、同時に若すぎる指揮官の誕生を招いた。四年後、リリアン自身がその象徴となる。彼女は若くして艦隊を率い、愚かな決断によって無数の兵士を死なせた。
敵の情報はほとんどなく、捕虜にしたエイリアンの外見すら正確には伝えられていなかった。肌の色が紫、血が緑、髪がないなどの特徴はあったが、それ以上の情報は軍の上層部で止められていた。その結果、戦争は泥沼化し、帝国は崩壊への道を進んでいった。
天才軍師ステラ・ドリアード
リリアンの脳裏に、一人の少女の姿が浮かんだ。ステラ・ドリアード――彼女は未来において、帝国最後の希望と呼ばれた天才軍師であった。元々は整備科の卒業生であり、卒業試験中のワープ事故に巻き込まれながらも、的確な判断でティベリウスの生還に貢献した。その後、彼女は次々と武功を立て、わずか数年で大艦隊を指揮するまでに至った。
リリアンはかつてステラを目の敵にし、嫉妬心から彼女を僻地に追いやろうとした。しかし、ステラはそれでも実績を積み重ね、最終的にはリリアンを遥かに超える指揮官となった。リリアンは今、自分がすべきことを理解した。無能な自分が出しゃばるより、ステラにすべてを任せるべきなのだ。
ティベリウスのワープ事故への疑念
リリアンは、ティベリウスの事故が単なる機械的な故障ではない可能性に気づいた。ワープ技術は精密な座標計算を必要とし、通常であれば数百光年もの距離を誤ることはあり得なかった。さらに、事故直後に敵が襲撃してきたことを考えると、偶然とは思えなかった。
彼女の脳裏に浮かんだのは「スパイ」という可能性であった。ティベリウスに乗艦していたのは、多くの有力貴族の子弟であった。もし敵が彼らを狙っていたとしたら、ワープ事故は意図的に引き起こされたものではないのか。リリアンは、この考えが単なる妄想であることを願いながらも、かつての事故の真相に疑問を抱かざるを得なかった。
新たな選択
リリアンは子供っぽい装飾が施された部屋を後にした。すでに事態は動き出しており、彼女はこれからティベリウスに乗り込まなければならない。未来を知る者として、何をすべきかは明白であった。今回こそ、間違えずに済むかもしれない。
第二章 後悔ばかりの二度目の人生
地球帝国の成立と新たな危機
西暦二三四八年、人類は地球の環境汚染と戦争により、火星や月、コロニー惑星への移住を余儀なくされた。その後の千年に及ぶ混乱を経て、地球は帝国制へと移行し、皇帝を戴く体制が確立された。しかし、人類が再び繁栄の兆しを見せる中、地球帝国は未曾有の危機に直面していた。
決戦宙域はコロニー惑星アグリを背にしたM六五六七宙域であり、そこには一五〇〇隻もの地球帝国艦隊が展開していた。戦艦一二〇隻、巡洋艦二〇九隻、駆逐艦多数、さらには三〇〇〇機を超える艦載機が配備されており、帝国軍は自らを無敵の存在と信じて疑わなかった。
若き女艦長の誤算
この大艦隊の右翼部隊に、一つの小規模艦隊が配置されていた。指揮を執るのは二十二歳の若き女艦長。彼女は敵艦隊に対し、勢いに任せた砲撃命令を下し、全艦がそれに従った。しかし、発射された重粒子砲の多くは距離減衰の影響で霧散し、ごくわずかな直撃弾のみが敵艦のシールドを突破したに過ぎなかった。
敵の防御がそれほど強固ではないと判断した彼女は、さらに宇宙魚雷の発射を命じ、全艦を前進させた。敵は反撃が乏しく、彼女は奇襲が成功したと確信した。しかし、この判断が帝国軍の命運を決定づけることとなる。
敵の反撃と地球帝国艦隊の崩壊
前進を続ける彼女の艦隊とは異なり、後方の友軍は混乱していた。無秩序な攻撃命令により、動きを制御できなくなった部隊が前進をためらい、他の艦隊との連携も崩れていた。そして、この混乱を見逃さなかった敵艦隊は、後方の帝国軍に総攻撃を仕掛けた。
わずか数秒の間に、地球帝国の右翼は壊滅し、無敵を誇ったはずの大艦隊は半壊状態に陥った。前進を命じた女艦長の艦はほぼ無傷だったが、後方の爆発の余波を目にした彼女は、状況を理解できずに呆然としていた。突出したリリアン艦隊を避ける形で、敵艦隊は前進を続け、残された帝国軍の戦力を徹底的に叩いた。
悪夢からの目覚め
リリアンは、突如として目を覚ました。そこは戦艦ティベリウスの左舷展望デッキであり、彼女は悪夢を見ていたのだった。昔の記憶を思い出したせいか、心に重いものが残る。しかし、今の自分は過去を変えることができる立場にいる。
学園の卒業試験として、学生たちは軍事基地のような施設である暁の焰学園から戦艦ティベリウスに乗り込むことになっていた。この学園は帝国公認の教育機関であり、貴族の子息や軍関係者の子弟が多く在籍していたが、その教育方針は形骸化し、実戦経験のない者ばかりが育成されていた。
戦艦ティベリウスと卒業試験の幕開け
卒業生たちは、学園に併設された地下ドックから四隻の戦艦に乗り込み、宇宙へと飛び立った。戦艦の構造は標準的な三層構造を持ち、戦闘に備えた設計が施されていたが、乗員は実戦経験のない学生たちで構成されていた。
リリアンは展望デッキからその様子を見下ろし、過去の自分が何も考えずにお茶会ばかり開いていたことを思い出していた。そして、未来ではこの仲間たちが戦争で命を落とす運命にあることも知っていた。
未来の総司令官ステラとの出会い
展望デッキでうたた寝をしていたリリアンは、偶然にもステラ・ドリアードとヴェルトール・ガンデマンの会話を盗み聞く形になってしまった。ステラは未来の地球帝国軍総司令官となる少女であり、ヴェルトールはリリアンがかつて憧れていた提督候補生だった。
二人の間には親しい雰囲気があり、リリアンはかつての自分がステラに対して理不尽な嫉妬を抱いていたことを思い出した。そして、今度こそ彼女の才能を存分に発揮させ、この戦争をより良い方向へ導くべきだと決意した。
地球帝国軍の本質的な問題
リリアンは、自らが過去に犯した最大の過ちが、無能な指揮と不適切な決断による艦隊の壊滅であったことを理解していた。しかし、それ以上に深刻な問題は、帝国軍の構造そのものであった。戦争経験のない兵士が大半を占め、実力よりも家柄が優先される軍組織では、いくら優秀な指揮官がいたとしても勝利にはつながらない。
未来を変えるためには、帝国軍そのものの改革が必要であった。しかし、そのためには権力が必要であり、現在のリリアンには何の影響力もなかった。
医務科の少女フリムとの出会い
悩みに沈むリリアンは、通路で衛生兵の少女と出会った。彼女はフリム・結城という名の医務科の生徒であり、リリアンの試験班に配属されていた。
リリアンは、未来で無駄死にすることになる兵士たちの顔を見ておくべきだと考え、彼女の手伝いを申し出た。こうして、過去とは異なる選択を始めることとなった。未来を変えるために、今できることを一つずつ積み重ねるしかなかった。
第三章 決闘! 帝国若獅子艦隊!
レクリエーションルームの模擬戦
レクリエーションルームのシミュレーションエリアでは、四つのポッドが稼働し、模擬艦隊戦が行われていた。リリアンはステラと共に艦隊を指揮し、対戦相手は帝国の若き獅子と称される二人の提督候補であった。シミュレーション内では、双方の艦隊がチープなグラフィックながら迫力のある戦闘を展開していた。リリアンはなぜ自分がこの戦いに巻き込まれたのかと疑問を抱きつつも、戦闘に挑むこととなった。
模擬戦の発端
数分前、リリアンは衛生科のフリムを手伝っていたが、手持ち無沙汰で薬の知識を学んでいた。その会話の流れでレクリエーションルームに向かうことになったが、そこでは模擬戦が盛り上がっていた。ステラは若き獅子たちと対戦し、彼らの態度に怒りを感じたことで、リリアンを巻き込んで決闘を申し込んだ。こうして、リリアンとステラの即席艦隊が、アレス・デランの艦隊と戦うことになった。
艦隊戦の展開
模擬戦は、ゲームとしての側面が強く、指揮官の判断が勝敗を左右する。ステラは、通常の戦略とは異なり、駆逐艦をワープさせる奇策を用いた。この作戦により、アレス艦隊の陣形が崩れ、防御の隙間を突かれる形となった。結果として、リリアン・ステラ艦隊が勝利し、アレスとデランは予想外の敗北を喫した。
勝利後の余韻
戦闘が終わり、リリアンたちの勝利が確定すると、観戦していた生徒たちは驚きの表情を浮かべた。アレスは敗北を認めたくない様子だったが、ステラの指摘により、態度を改め謝罪した。リヒャルトはステラの才能を称賛し、将来的にヴェルトールの艦隊に加わるよう勧誘したが、フリムに強く制止された。その後、模擬戦を巡る騒動は収束し、リリアンはこの戦いが今後の運命にどのような影響を与えるのかを考えながら、艦橋へと向かった。
第四章 ファーストコンタクト
遠隔航行の制約と艦橋の役割
演習に使用される艦は外部操作によって遠隔航行しており、兵装はすべてロックされていた。艦橋では各種システムの状況を確認できるが、完全な運用には機関室の直接管理が必要である。リリアンは艦橋の機密性を考慮しつつも、帝国軍の戦艦には緊急時のワープシステムが搭載されていることを理解していた。
ワープ事故の疑問とスパイの可能性
ティベリウスがワープ事故を起こした理由について、リリアンは疑問を抱いていた。通常、演習艦はコントロール艦のワープに牽引されるため、単独でのワープはあり得ない。しかし、事故後に敵艦が都合よく現れたことから、内部にスパイがいる可能性を考慮した。仮にスパイがいたとしても、証拠がなければ逆にリリアンが疑われる危険もあった。
人類の過信と異星人の存在
地球帝国では中世的な貴族制度が復活していた。さらに、人類は数千年にわたりヒューマノイド型の異星人と接触したことがなく、自らを宇宙で最も進化した種だと考えていた。しかし、リリアンはこれから遭遇する敵が、これまでの歴史を覆す存在であることを知っていた。
ヴェルトールとステラの密会疑惑
リリアンは艦橋へ向かう途中、ヴェルトールとステラが密会しているように見える場面に遭遇した。二人の会話に興味を抱いたリリアンは、隠れて様子を窺う。やがて、二人は艦橋へと入っていった。リリアンは興味本位で後を追おうとしたが、ゼノン・久世少将に声をかけられ、驚いて艦橋に飛び込んでしまう。
ゼノン・久世少将との遭遇
艦橋ではゼノン・久世少将がモニターに映っていた。彼は帝国軍の少将であり、月面基地の司令官であった。リリアンは彼の名を知っていたが、前世の記憶では彼が戦況に大きく関与した記録はなかった。ただし、ゼノンが後に政治的な権力闘争に巻き込まれ、失脚する運命にあることを知っていた。
ティベリウスの異変とワープの発動
突如、ティベリウスのメインシステムが起動し、艦橋内に混乱が広がった。外部コントロールを受けているはずのシステムが勝手に作動し、ワープが始まろうとしていた。リリアンは、この事故が異星人との戦争の引き金となることを理解していたが、歴史の流れを変えてはならないと考え、静かに見守ることにした。
ワープ後の到達地点と敵の本拠地
ワープが完了すると、ティベリウスは馬頭星雲付近の未知の宙域に到達していた。リリアンはこの星雲の奥に敵の本拠地があることを知っていた。そして、間もなく敵が現れることを確信し、即座に警戒態勢を指示した。
艦内の混乱とヴェルトールの決断
艦内ではパニックが広がっていたが、リリアンは迅速にシールドを展開し、レーダーを起動した。ヴェルトールには艦内放送を行い、各員に持ち場へ移動するよう指示させた。彼の冷静な対応により、生徒たちは次第に落ち着きを取り戻していった。
迫りくる敵とリリアンの決意
ティベリウスは未知の宙域で孤立していた。リリアンは、敵の攻撃を警戒しつつ、過去の経験を活かして艦の操縦を開始した。前世の記憶を頼りに、最適な判断を下しながらも、これから起こる戦いに備えた。そして、ついに敵が接近し始める。
航路データの異常とワープの発覚
望月ミレイは、作業中の航路データが突然消えたことに気づいた。座標データが不正確なものに書き換わり、AIが混乱を示していた。ワープブレーキによる衝撃を感じ、誰かが意図せずワープを実行したと推測した。航海科の生徒たちの悲鳴が響く中、立体モニターには馬頭星雲が映し出されていた。予想外の事態に直面し、ミレイは最悪の状況を覚悟した。
艦内の緊急対応と指揮系統の確立
艦内放送に従い、ミレイは第一艦橋へ向かった。ヴェルトールが暫定艦長として指揮を執り、戦術科のデランとアレスがCICの責任者に任命された。砲術科のコーウェンや戦闘機科のアルベロもそれぞれの役割を与えられた。航海科の責任者としてミレイが選ばれたことには納得したが、リリアンがメインオペレーターに指名されたことに疑問を抱いた。彼女は過去に優秀な成績を残しておらず、ただの貴族の娘に過ぎないと考えた。
リリアンへの疑念と合理的な説明の要求
ミレイはリリアンの任命に納得できず、合理的な説明を求めた。他の生徒たちも彼女の意見に同調し、リリアンの実力に疑問を持っていた。リリアンは反論せず、代わりに馬頭星雲の距離について質問し、ミレイ自身に思考を巡らせるよう促した。ミレイは計算を進めるうちに、ティベリウスが通常の航路ではありえない距離をワープしていることに気づいた。この発見により、機関室へ急ぎ連絡を取ることになった。
ワープ機関の損傷と修理の見通し
機関室のシドーからの報告により、ワープ機関がオーバーロードを起こし、修理には三週間を要することが判明した。通常エンジンは無事だったため、通常航行は可能であった。ヴェルトールは航海科に地球への航路算出を指示し、ミレイはオリオン座の恒星観測をもとに位置特定に取り組むことになった。
未知の接近物体と艦内の警戒態勢
突如、レッドアラートが鳴り響いた。ティベリウスのレーダーが100万キロ先に不明な物体を感知したため、隕石と仮定して砲撃の準備が進められた。しかし、ステラはこの物体が隕石ではなく、明らかにティベリウスを追尾していることに気づいた。彼女は観測ドローンの射出を提案し、艦長代理へ連絡を取った。
敵の接近と戦闘準備
サオウ整備長もステラの指摘に同意し、迅速に観測ドローンの準備を進めた。ティベリウスのクルーは未知の物体に対する警戒を強め、迎撃体制を整え始めた。リリアンは状況を把握しながらも、これが敵勢力とのファーストコンタクトとなることを理解していた。ステラの疑念が正しければ、これまで未知とされていた存在がついに姿を現すことになる。
隕石ではない不審な飛行物体
第一艦橋では異変が感じられていた。ミレイは軌道の異常に気づき、ティベリウスが微速前進する中、不明物体が追従していることを指摘した。その直後、サオウ整備長から観測ドローンの射出許可を求める緊急通信が入った。サオウによると、ステラが隕石のサイズに疑問を抱き、その規模が通常ではありえないと判断したとのことだった。リリアンも状況を把握し、ヴェルトール艦長代理へ進言した。航海科のデータと整備科の分析が一致し、物体はただの隕石ではない可能性が高まった。
飛行物体の挙動と敵の正体
ティベリウスの砲術長コーウェンは、物体が加速していることに気づいた。ミレイがデータを確認すると、短距離ワープの可能性が示唆された。物体は予想以上の速度で接近し、約二時間以内に到達すると判明した。ヴェルトールは機関室へ最大船速移行を指示し、戦闘格納を開始した。観測ドローンが射出され、メインモニターに映し出された映像には、人類のものとは異なる円盤型の飛行物体が映っていた。AIの解析では全長約200メートルの艦船であり、帝国軍のデータベースには一致する艦種がなかった。エイリアンの可能性が浮上し、艦橋内に緊張が走った。
敵意の確認と戦闘準備
ヴェルトールは全周波数帯で通信を試みたが、反応はなかった。さらに、敵艦がティベリウスの主砲射線を回避する動きを見せたことで、敵対的である可能性が確定した。リリアンは敵の特性を知っていたが、それを明かすことはできなかった。敵艦の機動性は帝国の駆逐艦を凌駕しており、無人機である可能性が高かった。ヴェルトールは警告を続けつつも、主砲の照準を調整し、交戦準備を整えた。敵は距離を詰めつつ、攻撃の機会を狙っているようだった。
敵の攻撃とティベリウスの被弾
敵艦は突如ワープを行い、ティベリウスの真上に現れた。主砲の照準が追いつかず、直後に強烈なエネルギー砲撃を受けた。シールドは97%まで低下したが、艦体への直接の損傷は免れた。続けざまに速射砲による攻撃が開始され、シールド出力は88%まで落ち込んだ。機動性で劣るティベリウスは敵艦に翻弄され、反撃のタイミングを掴めなかった。ヴェルトールは状況を分析しながら、適切な反撃手段を模索していた。
戦局打開と魚雷作戦の実行
リリアンは敵の攻撃意図が撃沈ではなく、ティベリウスを拿捕することではないかと指摘した。さらに、敵艦は無人機であるが故に自動制御の特性を持ち、特定の動作に過剰に反応する可能性があった。そこへステラが艦橋に飛び込み、艦の急制動と魚雷の散布を提案した。ヴェルトールは二人の意見を採用し、CICと連携して作戦を実行させた。ティベリウスは急減速し、大量の宇宙魚雷を散布。敵艦はこれに反応し、回避行動を取ったことで動きが鈍くなった。そこへコーウェンの主砲が直撃し、敵駆逐艦は粉砕された。
戦闘後の撤退と疲弊
ティベリウスは直ちに戦場を離脱する必要があった。敵が本隊へ情報を送った可能性が高いため、ヴェルトールは即座に最大速度での撤退を指示した。さらに、デコイを二基射出し、一つを直進、もう一つを大きく遠回りさせ、本艦はその中間を進むというミレイの提案が採用された。生徒たちは極度の緊張から解放され、艦橋内には疲労が広がっていた。特にデボネアは精神的に大きな動揺を受け、座席で泣き崩れていた。
個々の対応と今後の課題
ヴェルトールは艦内の人員を再配置し、交代要員を投入して休息を取らせることを決定した。ステラは格納庫へ戻るよう指示され、リリアンはデボネアを介抱しながら居住区へと向かった。戦闘が終わったことで生徒たちは一時的な安堵を得たが、リリアンは次の襲撃がいつになるのかを考えながら、自室へと戻った。彼女は戦闘の流れを振り返りつつも、今は体を休めることを優先し、シャワーを浴びた後、静かにベッドへと横たわった。
第五章 奇襲
戦闘後の余裕と新たな問題
敵駆逐艦を撃沈して三日が経過した。ティベリウスでは地球時間に合わせた照明調整が行われ、規則的な生活が維持されていた。ヴェルトールの判断により、レクリエーションルームが全面開放され、生徒たちは各々の方法でストレスを発散していた。緊張感が緩和されたことで余裕が生まれたが、それに伴い新たな問題も発生していた。女子生徒たちの間では、一部の男子生徒が公共の場で不適切な映像を視聴していたとの苦情が持ち上がり、リリアンに相談が寄せられた。
論争と規律の調整
食堂で朝食を取っていたリリアンのもとに、貴族階級の女子生徒たちが駆け込んだ。彼女たちは男子生徒がレクリエーションルームで隠れて映像を視聴していたことに憤慨し、処罰を求めた。これに対し、コーウェンを中心とする男子生徒たちは反論し、食堂内で議論が加熱した。リリアンは場を収めるために、公共の場での視聴を禁じると伝えつつ、過度な追及は避けるよう促した。しかし、この問題は単なる個人的な感情の衝突にとどまらず、ティベリウス全体の規律を考慮する必要がある課題へと発展した。
指揮官会議での議論
指揮官候補および班長たちが集まる会議では、この問題が正式な議題として取り上げられた。アレスは即時禁止を主張し、サオウ整備班長とアルベロ戦闘機班長は抑圧が逆効果になると警告した。議論は平行線をたどったが、リリアンは監視体制を強化し、違反者には適切な罰則を設けることを提案した。その中には、宇宙服を着用した艦外作業や艦内フルマラソンといった罰則が含まれていた。最終的に、コーウェンは自身が責任を取る形で艦内フルマラソンを行うことが決定された。
ヴェルトールとの対話
会議後、リリアンはヴェルトールに呼び出された。ヴェルトールはリリアンの突然の変化に疑問を抱いており、過去の振る舞いとの違いを指摘した。リリアンは「学生のうちは楽しんでおきたい」という曖昧な説明をしたが、ヴェルトールは納得しきれない様子であった。さらに、ワープ事故の異常性についても話題に上がった。ヴェルトールはこれが単なる事故ではなく、何者かによる意図的なものではないかと推測していた。リリアンもまた、その可能性を否定せず、現在の優先事項は地球への帰還であると認識を共有した。
ティベリウス内の人間関係の変化
リリアンとヴェルトールの会話が終わると、艦長室の前でステラ、デボネア、フリムが待機していた。三人はヴェルトールとリリアンの関係を気にしていたようだった。リリアンは状況を察し、ステラをヴェルトールのもとへ送り込んだ。その後、デボネアとフリムとともに紅茶を飲みながら、艦内の変化について語り合った。この三日間で、リリアンに対する周囲の評価が変わり、デボネアは彼女に懐くようになっていた。
未来の変化と警戒体制の提案
駆逐艦との戦闘から五日が経過し、ティベリウス内の状況は少しずつ安定していた。訓練の実施や艦内規律の調整により、士気は維持されていたが、依然として不安要素は残っていた。特に、前世で発生した脱走事件がまだ起きていないことは、リリアンにとって注意すべき点であった。そんな中、ステラが整備科と戦闘機科の会議を経て、早期警戒の強化を提案した。ティベリウスには三機分の早期警戒装備があり、これを活用することで奇襲のリスクを軽減できる可能性があった。リリアンはこの提案を受け入れ、ヴェルトールに相談することを決めた。
戦闘への備えと未来の不確定要素
リリアンはこの五日間の変化を整理し、未来が少しずつ異なる方向へ進んでいることを実感していた。彼女の行動によってティベリウスの損傷が軽減され、艦内の状況にも違いが生まれていた。しかし、敵の動向は依然として不明であり、次の戦闘がいつ発生するかは分からなかった。戦争という現実を前に、生徒たちはそれぞれのやり方で適応しようとしていたが、リリアン自身もまた、自分の変化に戸惑いながらも、最善の選択を模索していた。
早期警戒任務の実施
ヴェルトールは早期警戒任務の実施を即座に許可した。ただし、戦闘機科・戦術家・CIC勤務の生徒たちによる会議とシミュレーションを義務付け、整備科には早期警戒機のレーダードームの徹底点検を命じた。その準備に要した時間は六時間であった。
出撃可能な機体数には制限があり、レーダードーム装備の機体一機と護衛四機に絞られた。護衛隊は戦闘機科班長のアルベロを筆頭に三名の選抜パイロットで編成され、レドーム機にはデランと整備士のステラが搭乗していた。
レドーム機を中心に護衛四機が宇宙へと向かった。戦闘機というよりも超小型の戦闘艇に近いそれらは、機銃と迎撃機銃を備え、一定の戦闘力を有していた。特にレドーム装備機はレーダーに特化した仕様であり、簡易的な指揮システムを搭載していたため、デランの同行は当然の判断であった。
偵察と敵の待ち伏せの可能性
偵察隊はティベリウスのレーダー範囲ぎりぎりの宙域へ到達し、レドーム機とティベリウスのレーダーを同期させ、観測ドローンも展開することで探知範囲を拡張した。デランはドローンを消耗品のように扱うことに疑問を抱いたが、ステラは「人命優先」の方針であると説明した。さらに、彼女は敵の行動に関する仮説を提示した。
ステラの指摘により、デランは敵がティベリウスを迅速に発見したことに疑問を抱いた。本来、宙域の全てを網羅するレーダーは存在しない。にもかかわらず、敵艦は異常な速さでティベリウスを発見し、攻撃してきた。このことから、敵はティベリウスの存在を事前に知っていた可能性があると推測された。
アルベロもこの仮説に同意し、待ち伏せの可能性を考慮し始めた。デランは敵がこちらの情報を把握しているのに、連続して攻撃を仕掛けてこない理由に関しても疑問を抱いたが、その答えはまだ出なかった。
敵の存在を確認
観測ドローンの一機が異常を報告し、敵のジャミングもしくはステルス機能によるものと判断された。デランはこの状況を「敵をあぶり出すための作戦が成功しつつある」と分析し、アルベロとともに次の行動を協議した。
彼らは魚雷を使用して敵の反応を探ることを決定し、特定の宙域に向けて発射した。魚雷の爆発による反応を観測することで、敵の数や位置を特定する意図があった。
ティベリウス側の戦略
リリアンはこの偵察作戦に、自身の過去の経験を利用していた。デランたちが向かった宙域は、かつてリリアンが脱出艇で逃げた地点であり、敵が待ち伏せている可能性が高いと考えていた。
また、偵察隊の規模を最小限にし、囮としての役割を持たせることで、敵にとって「容易に捕獲可能」と思わせるよう仕向けた。この作戦が成功すれば、敵はその存在を露見し、ティベリウス側の攻撃を受けることになる。
ヴェルトールや艦橋のクルーもこの作戦の意図を理解しつつあった。敵の襲撃が単発的であり、大規模艦隊による追撃がないことから、敵の戦力展開には何らかの制約があると推測された。これは馬頭星雲側の長距離航行技術に制限があるためではないかとヴェルトールは考えた。
その仮説はリリアンの過去の経験とも一致し、敵が容易に増援を送れない理由の一つである可能性が浮上した。
敵艦隊との交戦開始
偵察隊の魚雷攻撃の結果、敵の存在が確定した。ティベリウス側は即座に迎撃体制に入り、戦闘機隊に雷撃装備の準備を命じた。
ヴェルトールは敵の行動パターンを分析し、CICに指示を送り、アレスに主砲のコントロールを一時的に委ねる決断を下した。敵の短距離ワープを警戒しつつ、後退しながら戦闘機隊を温存するという戦術を採用した。
リリアンはアレスとデランの連携を重視し、彼らの戦闘経験を活かした攻撃を指示した。
敵の短距離ワープと決定的な一撃
敵艦隊は短距離ワープを行い、ティベリウスに急接近した。砲撃によりティベリウスのシールドが大きく削られ、一部装甲が失われたが、致命的な被害には至らなかった。
この瞬間、待機していた戦闘機隊がハイブーストを発動し、敵の後方から魚雷を一斉発射した。巡洋艦はシールドを失い、大きな被害を受けた。
ティベリウスは主砲による集中攻撃を開始し、巡洋艦と駆逐艦一隻を撃破。残る駆逐艦も逃走を試みたが、ティベリウスの主砲斉射によって消失した。
戦闘の終結と勝利
ティベリウスは敵艦隊を撃破し、戦闘に勝利した。
この戦闘によって、敵がティベリウスを積極的に攻撃しない理由が明確になった。敵には何らかの制約があり、完全な戦力投入が難しい状況にあると推測された。
同時に、ティベリウスの戦闘能力が予想以上に高いことも証明された。リリアンの策とヴェルトールの指揮、戦闘機隊の奇襲が噛み合い、最小限の被害で敵艦隊を撃破することに成功したのである。
今後の敵の動向は依然として不透明であったが、この戦闘はティベリウスにとって、次なる戦略を立てる上での貴重な戦果となった。
劇的な勝利と生存の喜び
ティベリウスは三隻の敵艦隊に単艦で勝利し、艦内は歓喜に包まれた。軍人ではない生徒たちにとって、この戦いは単なる勝利以上の意味を持っていた。戦場を生き延び、誰一人欠けることなく生存した事実が、彼らの心を満たした。
戦闘終了の宣言がなされると、生徒たちは互いに抱き合い、握手を交わし、大声で喜びを分かち合った。しかし、歓喜の熱気が収まると、極度の緊張が解けた彼らは泥のように眠りについた。艦内は静まり、照明も薄暗く落とされた。わずかに残る話し声と、修理班の作業音が響くのみであった。
ヴェルトールはこの休息を許可した。生存の喜びを分かち合うことは精神的に必要なことであり、戦闘の疲労が蓄積する中、回復の時間を確保することが重要だったからである。しかし、警戒は怠れない。艦内は交代制で維持され、各部署の作業は続けられた。
戦後の静寂とリリアンの回想
第一艦橋もまた戦闘時とは異なり、静寂に包まれていた。照明が落とされ、パネルの光のみが薄暗く輝いている。リリアンはそこで警戒待機を続けながら、ぼんやりと宇宙を眺めていた。
彼女にとって、この静寂は懐かしいものだった。前世の戦いの後も、こうして意味のない宙域を巡り、変わらぬ星の光を眺めながら過ごした日々があった。無為に時間を浪費し、最後は捨て駒として戦場に消えた。
今回の戦いは過去と異なり、ティベリウスは戦闘機を展開し、損傷も最小限に抑えられていた。前世では、副砲の損傷や装甲の亀裂を抱えたまま、敵陣へ突撃する危険な戦法を取らざるを得なかった。それに比べれば、今回の突破は僥倖といえるものであった。
また、リリアンは過去の脱出劇を思い返した。前世では戦闘終了後に回収されたが、今思えば、あれは囮として使われていた可能性が高い。無謀な操縦で敵の追撃を避けたものの、あの状況では見捨てられていたに等しかった。
彼女は過去の愚かさを自嘲しつつ、未来を見据えることに意識を向けた。ティベリウスの帰還、四年後の決戦への備え、そしてスパイの存在の確認が今後の課題であった。
スパイの可能性と通信の謎
今回の戦闘では、敵がティベリウスの動きを完全には把握していなかったことが確認された。もし艦内にスパイがいて情報を逐一流していたならば、作戦は失敗していた可能性が高い。しかし、だからといってスパイがいないと断定するのは早計であった。
敵がこちらの位置を正確に把握していたことを考えると、何らかの方法で通信が行われていた可能性がある。ティベリウスの公式な通信記録には何の異常も見られなかったが、それは当然のことであろう。スパイがティベリウスの通信回線を使うとは考えにくく、外部の手段を用いていたはずであった。
リリアンは周波数履歴を調べれば何かが分かるかもしれないと考えたが、自分にその知識はなかった。通信の解析は専門の通信士の仕事であり、確証もないまま指示を出せば不審に思われるだけである。この問題は、いずれ地球へ帰還してから解決すべきことだと結論付けた。
艦内の修理と整備班の奮闘
リリアンは艦橋を退き、交代要員のコーウェンと交わる。彼は睡魔と戦いながら砂糖なしのコーヒーを用意し、食堂で配られているプロテインバーを勧めた。
艦内の修理作業も進行していた。リリアンは食堂へ向かう途中、整備長のサオウと鉢合わせした。彼は修理班への差し入れを運んでいた。左舷の展望ブロックが吹き飛び、その復旧作業に追われていたのである。
サオウは、ステラの活躍をリリアンに伝えた。彼女は整備班に所属しているはずだったが、今回の戦闘では戦術面での働きが際立っていた。サオウもそれを理解し、ステラは整備よりも別の分野で才能を発揮していると考えていた。
リリアンは、前世のステラを思い返す。かつての彼女は他者を信用せず、邪魔者は排除する冷酷な性格であった。今の彼女は違う。リリアンは、ステラが過去のような存在にならないようにと願いながら、彼女についてもっと知るべきではないかと考えた。
リヒャルトとフリムの衝突
食堂へ向かう途中、リリアンはフリムとリヒャルトが言い争う場面に遭遇した。フリムはリヒャルトがガンデマンに従うことに強い不満を抱いていたが、リヒャルトはそれを冷静に受け流していた。
フリムは感情を抑えきれず、リヒャルトの頬を打った。そこへリリアンが割って入り、フリムは気まずそうにその場を去った。
リヒャルトは、フリムがステラを偵察隊に組み込んだことに納得しておらず、誰にも不満をぶつけられないため自分に当たっているのだと説明した。そして彼らの関係について、驚くべき事実を明かした。
リヒャルトとフリムは兄妹だった。幼少期に別々の家へ養子に出されたため、名字が異なっていたのである。リヒャルトは軽い調子で説明したが、リリアンにとっては意外な事実であった。
仲間たちの理解を深める決意
リリアンは一人残され、考え込んだ。
自分は彼らのことを何も知らなかった。艦橋メンバーのことも、ステラの過去も、リヒャルトとフリムの関係すらも把握していなかった。
これから先、自分がやろうとしていることを考えれば、仲間たちを理解しなければならない。彼らと共に生き、共に戦うために。
リリアンはその決意を胸に、食堂へと歩を進めた。
エピローグ まるっとひっくるめてやることが多い未来
短距離ワープ成功と歓喜
ティベリウスは短距離ワープの実験を成功させた。ワープ酔いに苦しむ者もいたが、艦橋には喜びの声が満ちた。ミレイは報告しながら涙を流し、コーウェンは席を立ち上がり全身で歓喜を表現した。
この成果は、三隻の艦隊との戦闘から一週間後に達成されたものである。その間、ティベリウスへの襲撃は二度あったが、いずれも無人の駆逐艦によるもので、もはや脅威にはなりえなかった。前世と比べ、損傷を受けることなく戦闘を終えたことが、ワープ機関の修理を大幅に早めた要因となった。
しかし、長距離ワープにはまだ調整が必要であった。ヴェルトールは、調整完了後に長距離ワープが可能になることを告げるとともに、成功を祝うパーティーの開催を約束した。その通達が流れると、艦内の生徒たちは歓喜の声を上げた。
リリアンの意識喪失と医務室での診断
ワープ成功の歓喜が広がる中、リリアンはコンソールを操作しようとした瞬間、意識を失った。医務室で目を覚ましたのは八時間後のことであった。
彼女が眠っていたのは、ストレス軽減のための睡眠カプセルであった。この装置は精神的な疲労を緩和するために使用され、短時間で質の高い睡眠を提供するはずだったが、今回は完全な回復のために長時間の使用が必要とされた。
目を覚ましたリリアンの前には、フリムがいた。彼女はリリアンのバイタルデータを確認しながら、過度なストレスが原因であることを告げた。そして、短距離ワープの試験は順調に進み、長距離ワープの準備も進んでいると説明した。
リリアンが戦闘や今後の展開を気にしていることを察したフリムは、彼女がすべてを背負いすぎていると指摘した。リリアンはその言葉に少し心を動かされたものの、第一艦橋の責任を考えると、簡単に気を抜くわけにもいかないと考えていた。
フリムとの対話とリヒャルトとの関係
診察が終わると、フリムは慎重に言葉を選びながら、以前の出来事について謝罪した。リリアンは、フリムがリヒャルトと口論し、彼の頬を打った理由を尋ねた。
フリムはそれを恥じていたが、リヒャルトが兄であることを明かした。幼少期に別々の家へ養子に出されたため、名字が違っていたのだという。リヒャルトは世渡りが上手く、周囲から期待される存在であるため、フリムにとっては複雑な存在だった。
リリアンは、その関係性に理解を示しながらも、フリム自身も疲れているのではないかと指摘した。フリムは苦笑し、互いに気苦労が絶えないことを認めた。
デボネアの訪問と紅茶の誘い
その時、医務室にデボネアが現れた。彼女はリリアンの様子を心配しながらも、彼女が無事に回復したことを喜んだ。
リリアンはフリムとデボネアを自室に招き、紅茶を振る舞うことを提案した。フリムは少し躊躇したが、デボネアは即座に乗り気になった。リリアンは、冷凍保存の茶葉しかないことを嘆きながらも、自分の淹れる紅茶の腕前を披露すると話した。
リリアンは彼らを招待しながら、これまでの自分の行動を振り返った。仲間たちは優秀であり、すべてを自分が抱え込む必要はない。過去の自分とは違い、今は支え合える存在がいるのだと、少しずつ実感していた。
長距離ワープ成功と帰還
ティベリウスは最後の短距離ワープテストを終え、六時間の調整を経て長距離ワープを実施した。その結果、彼らはついに地球への帰路を確実なものとした。
この帰還は「戦艦ティベリウス、奇跡の帰還」として語り継がれることとなった。地球帝国にとっても、この事件がもたらす影響は計り知れないものであった。
リリアンにとっても、ここからは未知の領域だった。これまでの知識のアドバンテージはなくなり、歴史は新たな道を進み始めた。ティベリウスが消失してから四週間後、彼らは再び蒼い星を目にすることとなる。
帰還後の生活と新たな課題
ティベリウスに乗艦していた生徒たちは全員無事に卒業し、その経験は彼らを特別な存在へと押し上げた。実戦を経験し、長距離星間航行を成し遂げた彼らは、帝国軍の中でも注目される存在となった。
リリアンは帰還後、両親の過保護な愛情に戸惑いながらも、それを受け入れることにした。特に父は彼女を前線から遠ざけようとし、後方勤務にするべきだと主張した。彼を説得するには時間がかかるだろうと、リリアンは苦笑した。
学園は、ティベリウスの帰還によって知名度を高め、入学希望者も急増した。しかし、それだけでは帝国軍の人材不足を補うことはできなかった。
リリアンは卒業証書を手にしながら、これまでの出来事を振り返った。彼女の目の前には多くの課題があった。帝国の軍改革、戦争の行方、自身の立ち位置、そして未来の元帥たちの成長。
決意と未来への挑戦
夜空の下、リリアンは窓を開け、星々を見上げた。
彼女の前に待ち受けるのは、新しい歴史であった。未来の知識が通用しない世界で、彼女は自らの使命を果たす必要があった。
「来るなら来い。やれるところまでやってやる。それが、私の贖罪だから」
その言葉は、かつての老婆の決意であった。彼女は過去を変え、未来を創り出すために、前へと進む覚悟を固めていた。
同シリーズ

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