小説「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 」感想・ネタバレ

小説「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 」感想・ネタバレ

どんな本?

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、汐見夏衛による日本のライトノベル。
この物語は、学校や大人たちに苛立ちを募らせる中学2年の少女・加納百合が、ある日突然、戦時中の日本にタイムスリップしてしまうという設定から始まる。

百合はそこで青年・佐久間彰と出会い、彰の誠実さと優しさに救われ、急速に彰に惹かれていく。
しかし、彰は間もなく戦地で命を散らすことが決まっている特攻隊員だった。

この物語は、1945年、第二次大戦末期の日本にタイムスリップした現代の女子中学生・加納百合と特攻隊員の青年・佐久間彰との時空を超えた切ない恋の物語。

また、この作品はTikTokで話題になり、シリーズ累計発行部数100万部を突破している。
そして、2023年12月8日には映画版も公開。

この作品は、戦争の悲劇と若者たちの純粋な愛情を描き出し、読者に深い感動を与えている。
それぞれのキャラクターが抱える葛藤や成長を通じて、戦争の恐ろしさと平和の大切さを伝えている。
また、特攻隊員という特殊な立場にある青年と、現代からタイムスリップした少女との間に芽生える恋愛は、読者に強い印象を残す。

読んだ本のタイトル

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
著者:汐見夏衛 氏
イラスト:pomodorosa 氏

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あらすじ・内容

親や学校、すべてにイライラした毎日を送る中2の百合。母親とケンカをして家を飛び出し、目をさますとそこは70年前、戦時中の日本だった。偶然通りかかった彰に助けられ、彼と過ごす日々の中、百合は彰の誠実さと優しさに惹かれていく。しかし、彼は特攻隊員で、ほどなく命を懸けて戦地に飛び立つ運命だった――。のちに百合は、期せずして彰の本当の想いを知る…。涙なくしては読めない、怒濤のラストは圧巻!

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。

感想

反抗期真っただ中の中学2年生、百合が主人公である。彼女は学校や家庭での問題に悩み、ある日、母親との喧嘩をきっかけに家を飛び出し、地元の防空壕で眠ることを決める。
目覚めると、時は大きく遡り、戦時中の日本にタイムスリップしていた。

彼女が目を覚ますと、そこは1945年の日本だった。彰という若い特攻隊員に助けられる。
彼は百合を自らが通う食堂、「鶴屋食堂」に連れて行き、そこで百合はツルという女性に世話をされることになる。
百合は彰の誠実さや優しさに次第に惹かれていくが、彼はやがて特攻隊として出撃し、命を落とす運命にある。

物語は、彼女が現代に戻るまでの日々を過ごし、彰やその時代の人々との交流を通じて戦争の現実と向き合い、成長していく過程を描く。
彰との深い絆や彼の遺した手紙が、百合の心に大きな影響を与える。

最後に、百合は現代に戻り、地元の防空壕で目を覚ます。
彼女は母親との関係を見直し、新しい理解と尊敬の念を持って母親を受け入れる。
彰との記憶は彼女の中で生き続け、彼女はその体験を通じて得た教訓を胸に、新たな日常を歩み始める。

戦時中の日本と現代の日本、二つの時代を経験した百合が、時代や状況を超えて人々とどう向き合うか、どう自己を見つめ直すかを描いた物語である。
彼女の成長と心の変化が、多くの考えを促す。

はぁ、、切なすぎる。
野球で甲子園、サッカーて国立、駅伝で箱根を目指してる子等と同じ年代の人達が御国のため、家族のためにと言って特攻をしに行く。
あぁ、辛い。悔しい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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その他フィクション

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フィクション(novel)あいうえお順

備忘録

序章  立夏

プロローグ

生まれてはじめて愛した人は特攻隊員であった。
その人は大きな愛を胸に秘め、優しく強く、温かい人物であった。彼と出会ったとき、彼は既に死を覚悟していた。
彼が「愛する人たちを守るために死にに征く」と言った時、彼女は泣いてすがったが、彼は静かな眼差しで彼女を包み込んだ。
そして、ある夏の日、晴れ渡った青空へと一点の小さな光となって消えていった。
彼女は彼が今、痛みも苦しみも悲しみもない場所にいて、優しい夢の中で安らかに眠っていることを祈っている。

第一章  初夏

生徒は教室の環境や周囲の人々に対して大いに苛立ちを感じている。
特に歴史の授業中、ヤマダ教師が戦時中の日本の状況について語っているが、生徒はその話にはまったく関心がなく、窓から見える空を見つめながら内心で学校生活への不満を募らせている。
生徒は勉強に興味がなく、特に歴史が嫌いで、学校全体に対しても強い嫌悪感を抱いている。
授業中、ヤマダ教師に叱責されるが、反抗的に応じるとさらに問題が悪化する。最終的には、学校をさぼることを決め、校舎の屋上に隠れる。
そこでのひとときは、苛立ちや焦燥感から一時的な逃避となる。授業やテストに対する反抗的な態度は、親からも問題視されており、家庭内でも衝突が絶えない。
母親とのやり取りはしばしば激しさを増し、お互いの不満が爆発する。
生徒は家庭環境にも居心地の悪さを感じており、学校や家庭でのストレスが限界に達した結果、家を出る決断をする。

主人公は、夜の住宅街を歩き、適当な場所で寝ることを決める。
昔から「幽霊が出る」と言われていた地元の防空壕に、無人で静かな場所として目をつける。
幼い頃は幽霊の話に怖気づいていたが、もはやそのようなことを信じておらず、実際に防空壕を寝床として選ぶ。
夜が深まると、周囲は真っ暗で、何も見えなくなるが、ジャージを着て寒さをしのぐ。しかし、防空壕の奥は真っ暗で何も見えず、不安に駆られるが、それでもそこで眠りにつく。
翌朝、防空壕から出た主人公は、周囲の景色が一変していることに気づく。
見知らぬ野原と木造建築が立ち並ぶ異様な風景が広がり、自分が知る世界とは異なることに混乱する。
さらに、水分を求めて彷徨ううちに、歴史的な軍服を着た若い男、佐久間彰に出会い、彼に助けられる。
佐久間は主人公に水を与え、体調を気遣う。全く異なる時間か場所にタイムスリップしたかのような不思議な状況に置かれ、主人公は新たな現実に順応しようとする。

主人公は、佐久間という人物に連れられて「鶴屋食堂」という古民家風の食堂に入る。
店内は古く、現代的な設備がないことに戸惑う。
ツルと呼ばれるおばさんが暑さ対策として壊れた扇風機以外にも効果的な対策ができず、代わりにうちわで涼を送る。
店内での会話から、主人公は自分が昭和二十年、つまり1945年にタイムスリップしたことを理解する。
戸惑いながらもその事実を受け入れるが、この時代の苦労や困難を目の当たりにしてショックを受ける。エアコンのない生活や、井戸水を使った生活など、1945年の生活が具体的に描かれる。
主人公はこの新しい状況に適応しようとするが、混乱し疲れてしまい、再び防空壕で眠ることを選ぶ。
目覚めても状況は変わらず、絶望感を抱きながらも再び鶴屋食堂へと向かう。

ツルは、百合を心配しながら鶴屋食堂に連れ戻す。
百合は、ツルに導かれて水浴びをすることになり、戸惑いながらも従う。
この時代に日常的に風呂がなく、銭湯も燃料不足でままならない状況に驚く。百合は裏庭でたらいを使い、手拭いで体を拭く。
続いて台所で着替えを用意されるが、服の着方がわからないため戸惑う。
食堂で提供された食事には、麦ご飯が含まれており、百合は初めてそれを食べる。
ツルは百合に食堂での手伝いを提案し、百合はそれを受け入れる。
百合はこの見知らぬ世界での生活に適応しようとするが、初めて助けてくれた佐久間を思い出し、再会を願う。

ツルは、心配していた百合を鶴屋食堂に迎え入れ、庭で水浴びをするよう指示する。
百合はこの要求に戸惑いながらも、庭ではなく台所で水浴びをすることにする。
地元では銭湯が一般的であり、家庭用の風呂は贅沢品とされていることを知る。
ツルは百合の衣服を用意し、その後、食堂で提供された食事を食べる。
食事は野菜が豊富な味噌汁、さつまいもの煮物、小魚の佃煮、そして麦を混ぜたご飯で構成されている。
食後、ツルは百合に食堂での手伝いを提案し、百合はこれを受け入れる。
百合はこの新しい生活に心を開くが、初めて助けてくれた佐久間のことを思い出す。

百合の咲く丘

ツルの食堂で住み込みとして働き始めた百合は、少しずつこの時代に馴染み、食堂の日常を観察する余裕が生まれる。
大きな会社や製鉄工場で働く人たちが主な客層であり、近所の家庭は外食する余裕がない。
食堂では米の代わりにうどんやさつまいもなどの簡素な食事が出される。
おかずも貧相で、代用醤油を使った青菜や煮物が提供されている。

百合は懸命に働き、朝早くから水を汲んだり、食材の保冷のため氷を買いに行くなど、日々の業務に追われている。
また、家事や食堂の仕事を通して、現代の便利な家電の存在を改めて実感し、この時代の大変さに体力を消耗する。

ある日、最初に百合を助けた佐久間が食堂に訪れる。
彼は百合が元気になっているのを見て安堵し、百合が無事であることを喜ぶ。
その後、佐久間は百合に軍で支給されるキャラメルを与える。
その優しい気遣いに百合は感謝の気持ちを表す。
他の軍人たちも百合に親しみを持ち、彼女に食事を奢ったりするなど親切に振る舞う。

佐久間は百合を少し連れ出し、静かな森の中を歩きながら百合に話しかける。
彼は妹がいることを明かし、その妹と同じ年齢の百合に親近感を抱いていることを語る。
百合はこの新しい環境での生活に徐々に慣れつつあり、彼との関係も少しずつ深まっている。

百合が彰と共に百合の咲く丘を訪れた後、帰り道に現代の中高生に似た女の子たちの集団とすれ違う。
彼女たちは戦時下の格好をしていたが、楽しそうに笑いながら歩いていた。彰との会話で、百合は「学徒動員」の存在を初めて知る。
学徒動員は、男性が戦地に行くことで生じた労働力不足を学生が補うもので、彰の妹もその影響を受けているという。

百合は学校生活が恋しくなり、当時嫌だった学校が今では懐かしく思えることに気づく。
現代の自由な学校生活と比べ、厳しい労働と物資不足の中での生活は大きく異なる。

帰り道で彰は、日本が戦争に勝つことで、百合や彼の家族が通常の生活に戻れると信じている。
しかし、彰が特攻隊員として自己犠牲の可能性に言及すると、百合は戦争そのものの意味や必要性に疑問を感じる。
彰と百合は戦争の意味や個々の犠牲について深く語り合うが、その会話は百合の心をかき乱す。
彼女は彰の考えが理解できず、感情的になってその場を離れる。

汚れなき瞳

百合はしばしばツルさんの家から抜け出し、防空壕で眠る。
目覚めれば現代に戻っているかもしれないと期待しているが、常に1945年の世界で目覚める。
近所の魚屋の娘、千代との日常的な会話が交わされる。
戦時中であるにも関わらず、日常は思ったほど暗くなく、普通の生活が続いているが、至る所に戦争を意識させるスローガンが掲げられている。
千代は百合に密かに自分が仕立て直した派手な下着を見せるが、戦時下では派手な服装は「非国民」とされるため、注意を払っている。

学校が停止されている中で、千代は工場で働いており、戦争協力が誇りであると語る。
この時代の人々は、戦争を肯定的に捉えている一方で、百合は戦争の恐ろしさを教えられて育ったため、そのギャップに戸惑いを覚える。
基地からやって来た兵士たちとの交流の中で、彼らの未来に対する考え方や行動が理解しがたく、彼らの死に対する態度や命の価値について深い疑問を抱く。
百合は特攻という選択を理解できず、それに対する不満や疑問を抱えたまま、複雑な気持ちを抱えつつ日々を過ごしている。

優しい背中

ある日、ツルさんが百合を外に連れ出し、陽射しの強い日にお墓参りを行った。
行き先はツルさんの家族の墓地であり、月命日だったことを百合は知らされる。
百合はツルさんと共にお墓を掃除し、線香を供えた。
その後、ツルさんは前の戦争で亡くなった主人と空襲で亡くなった娘がお墓に入っていることを百合に語った。

ツルさんは娘が結婚し、子供がいたが、空襲で亡くなったと説明する。
百合は空襲がなければ、ツルさんの家族がまだ生きていたかもしれないと考え、その不条理さに心を痛める。
百合はツルさんの優しさと家族のような扱いに感謝し、彼女に対して家族同様の愛情を感じている。

この日の出来事は、百合が戦時中の日常と家族の喪失について深く理解する機会となり、ツルさんとの絆を一層強めることにもつながった。

ツルさんが古い知り合いに用事があるため、彼らは町外れの特攻基地がある陸軍の飛行場近くに向かった。
そこでツルさんは高野さんと会い、持参した着物や漬物を野菜や果物と交換した。この時代、物々交換が一般的であった。

その後、百合は飢えた少年を見つけ、自分が持っていた野菜を彼に与えた。
少年は急いで食べ始め、飢えを訴えた。
百合は少年のことを心配し、彼を抱きしめた。
少年は食料の窃盗を試みたところを店の人に殴られていたことを白状し、百合はそれに深く同情した。

突然、警官が現れ、百合が戦争を批判する発言を聞いて彼女を非国民として非難した。
彰が現れて百合を守り、警官と対峙した。
警官は彰を攻撃しようとしたが、彰は百合を守るために自らを盾にした。
警官は彰を殴ったが、彰はそれを堪え、最終的に警官は退散した。

第二章  仲夏

幸福のひととき

翌日の朝、百合はツルさんの肩の怪我を確認し、彼女に安静を促した。百合は店を臨時休業とし、家の仕事を一手に引き受けた。
その間、百合は過去の記憶に浸りながら母との思い出を振り返り、再び母に会えたら一緒に晩ご飯を作りたいと思った。

彰が訪れ、ツルさんと百合の様子を見に来たところ、ツルさんは百合と彰に外出を勧めた。
二人は一緒に時間を過ごすことになり、甘味処でかき氷を楽しんだ。
彰はその場で百合の可愛らしさをつい呟き、その言葉に百合は動揺した。
二人は甘味処での一時を楽しみながら、互いに気まずさを感じつつもその日を大切に過ごした。

襲いくる炎

七月になり、暑さが本格化した。鶴屋食堂では、基地の訓練休みの日に隊員たちが集まっており、彰たちは清掃当番で遅れていた。
隊員たちの会話からは、沖縄が連合国軍に占領され、大都市での大空襲による甚大な被害が話題となっていた。
この話を聞いて、百合は戦争の残酷さについて深く考え込む。

百合は未来の日本とアメリカの良好な関係を思い浮かべ、現在の憎しみや戦争の無意味さに疑問を持った。
彼女は隊員たちに未来の日米関係がどれほど変わるかを伝えたいと願っていた。

その日、ツルさんから特別な紫色の銘仙の着物をお米と交換するように頼まれた。
ツルさんは隊員たちのために自分の大事な着物を惜しみなく提供し、百合はその姿勢に感動しつつ、指示された家へと向かった。

暑い日で、百合は歩きながら手拭いで汗を拭いていた。
町の人々の表情は暗く、空襲による不安が顔に現れていた。
百合は間違えて道を曲がり、遅れながらも田島さんの家に到着し、大事な着物を少量のお米と交換した。交換後、鶴屋食堂へと戻る途中で、空襲警報が鳴り響き、不安が高まった。
警報が現実の脅威であることを実感し、爆弾が降り注ぐ恐怖に直面した。
百合は逃げ遅れてしまい、空襲の中を走り続けた。

飛行機が低く飛び、機銃掃射が始まり、百合は周囲の破壊と死の恐怖に直面した。
火事による煙が広がり、百合は呼吸困難になりながらも必死に逃走を試みた。
しかし、建物の崩壊や飛び散る破片による危険にさらされ、状況は一段と悪化した。
彰が現れて百合を救出し、彼の行動により二人は危機を逃れた。
その後、彰に背負われた百合は、安心感と同時に緊張と恐怖が交錯する中での脱出を経験した。

彰と百合は、炎に包まれた道を避けて川へと向かった。火事が及んでいない場所であることを期待しての行動だった。
その途中、百合は周囲の惨状に心を痛め、吐き気を感じるほどだった。
彰は途中で火に巻かれた男性を助けようと試みたが、その男性は助からなかった。
この出来事から彰は強い無力感と悲しみを感じていたが、その感情を表に出さず、百合には優しさを見せ続けた。

川に到着しても、多くの人々が怪我をしており、彰は泣いている少年に手を差し伸べた。その後、小学校に避難し、そこでも多くの犠牲者がいる光景に直面した。
彰と百合は、人々の痛みに囲まれながらもお互いを支え合い、少しずつ癒やしを見つけた。
彰は自身の命を犠牲にすることで戦争を終わらせることを決意しており、その強い意志を百合に伝えた。
百合はその決意を受け入れつつ、苦しみと戦いながらも彰の温もりに安らぎを見出していた。

彰と百合は、夜を越えた後の朝に疲労しきった心身を引きずりながら鶴屋食堂へと向かった。
朝の光は美しく、救援が届き始めていたが、町は大きく変わり果てており、焼け野原と化していた。
途中、町人が犠牲者の遺体を扱う光景に直面し、二人はその現実に心を痛めた。鶴屋食堂は無事で、百合はツルさんと再会し、安堵の涙を流した。
百合はお米の風呂敷包みを失ってしまい、その事実に罪悪感を感じたが、ツルさんは百合の無事を最優先に考えて涙を流した。

この経験を通じて百合は、彰の存在が自分にとってどれほど心の支えになっているかを実感し、彼の手に触れることで心の平穏を取り戻した。
百合は自分が未来に戻るべきか、現在に留まるべきかの決断に苦しんでいたが、その答えを見つけることはできなかった。
彰とともに手を取り合い、再び鶴屋食堂に向かう道を歩んだ。

星空の彼方

空襲から一週間近くが経過していたが、町はまだ静まり返り、復興は夢のまた夢の状態であった。
飢えをしのぐことすら精いっぱいの状況で、常連客のおじさんが家財道具や通帳、大切な品々を失ったことをツルさんに話していた。
おじさんは仕方がないと受け入れ、嫁の実家に疎開することにした。

疎開とは、戦時中に空襲の危険から避けるため田舎に移住することであるが、多くの人々は慣れ親しんだ土地を離れることが難しく、空襲の不安と闘いながらもその場所に住み続けていた。
しかしながら、空襲を受けて家を失った人々は、やむを得ず他の土地へ一時的に移り住んでいた。

ある日、彰たちが訓練休みの日に訪れ、食事を共にした後、彰から出撃命令が出たことが告げられた。
これは彼らが戦闘に参加し、恐らくは命を落とすことを意味していた。ツルさんは礼儀正しく「おめでとうございます」と言い、彰たちは礼を返した。
しかし、百合はその状況を受け入れられず、店の外に飛び出してしまった。彰が追いかけてきたが、百合は一人になりたいと願い、彰はそれを受け入れた。

近くの空き地で膝を抱えていた百合は、三日後に出撃する彰たちのことを考えていた。
彰たちはもう数日後には亡くなっているかもしれない。
百合はこの異常な状況にどう向き合っていいかわからず、「おめでとう」とは言えなかった。
この時代の人々が、軍隊への召集令状を受け取った人を祝福する習慣が理解できなかった。
特に、死に向かう人に向けて使われる「おめでとう」の言葉に、百合は深い違和感を感じていた。

百合は長い時間、空き地に座って考え事をしていた。
そこに彰が現れ、「板倉を見なかったか?」と焦った様子で尋ねた。
彰によると、板倉が突然姿を消し、彼を探しているという。百合は彰と一緒に板倉を探し始めた。
程なくして、板倉を見つけたが、彼は死にたくないと訴え、百合に見逃してほしいと懇願した。
百合は板倉に、捕まえに来たわけではなく、ただ心配になって探しに来たと説明した。

その後、彰が現れたとき、板倉は更に逃げようとしたが、彰は板倉に「お前は生きろ」と告げ、彼を逃がすことを許可した。
彰は板倉に自分たちの分まで生きるように言い、板倉は涙を流しながらその場を去った。
その様子を、彰たちはただ静かに見送った。

板倉の姿が見えなくなると、寺岡たちは基地に戻った。
彰は百合を鶴屋食堂まで送ると言って、二人は暗くなった町を歩いた。
百合は彰に百合の花が咲く丘へ行きたいと頼み、彰は同意した。
彰の温かい手を感じながら、百合は彰に抱きしめられたときの温もりや、空襲の夜に眠りにつくまで百合の背中を撫でてくれたことを思い出した。

丘の頂上に近づくと、百合の花の甘い香りが漂ってきた。
彰は町が灯火管制で暗くなっているため、星がよく見えると説明した。
百合は満天の星空に圧倒され、彰がいつかこの星空を見せたいと思っていたと知り、自分の彰への感情を自覚した。

百合は彰に「行かないで」と懇願し、特攻をやめるように頼んだが、彰はその願いを受け入れることができなかった。
百合の懇願に対し、彰は家族や友人を守るために征く必要があると語った。
彰の言葉は百合には理解できなかったが、彰は自分が征かないと気が楽だと感じていると明かした。

百合は日本の敗北が確実であると感じ、彰にもう戦いをやめるように言ったが、彰は万に一つの可能性を信じて最後まで戦い抜くことを決意していた。
彰の決意は変わらず、百合の懇願に応じることはできなかった。
百合は彰が残したくちづけを受けながら、星空の下で涙を流し続けた。

空に散る華

翌朝、千代が鶴屋食堂に来て、石丸たちが出撃することを知らせた。
千代は女学校で勤労奉仕を行っており、特攻隊の隊員たちと交流していた。
石丸が初めて出会った時に故郷の盆踊りを見せた話を笑いながら話したが、その背後には複雑な感情があった。

千代は出撃の見送りに行くことを提案したが、百合は拒否した。
千代はそれ以上追及せず、簡単に別れた。
百合は彰のことを考えて仕事に集中できず、ツルさんに迷惑をかけたが、ツルさんは何も言わずに頭を撫でてくれた。

夕方、彰の隊の隊員たちが来店し、最後の酒盛りを行った。
みんな明るく振る舞っていたが、百合は彼らが死を覚悟している様子に心を痛めた。
特攻隊が希望的に語る中、百合は出撃の現実に直面し、彰との最後の別れを受け入れた。彼らが去った後、百合は深い悲しみと共にその日を終えた。

翌朝、百合はツルさんが玄関から出て行くのを見送った。特攻隊の見送りに行く勇気が出なかったからである。
百合は、彰に迷惑をかけたくなかった。部屋でじっとしていると、窓から吹く風が風鈴を鳴らした。
その時、食卓の上の紙が床に落ち、百合はそれを拾った。
紙は特攻隊の隊員が家族に宛てた手紙で、中には彰から百合への手紙もあった。
百合はその手紙を見て驚き、涙がこぼれた。彼女は家を飛び出し、基地に向かって走り出した。
基地で特攻機が飛び立つのを見送り、彰は百合に向けて美しい百合の花を投げた。
百合は涙を流しながら彰の機が飛び立つのを見つめ、意識を失い地面に倒れた。

第三章  盛夏

真夏の夜の夢

百合は目を覚まし、自分が知らない場所にいることに気づく。彼女は驚きつつも、周囲を見渡し、突然現代に戻っていたことに更なる驚きを感じる。
学校のジャージを着ており、彼女のカバンも側にあった。
百合は立ち上がり、窓の外の現代の風景を目にすると、現代に戻ってしまったことを確信する。
しかし、戸惑いを隠せず、何もかもが急激に変わったことに戸惑いながら、彼女は自宅アパートに向かう。

アパートに到着すると、百合はスマホを見て、昨日に家を飛び出した日の翌日の朝であることを知る。
彼女は玄関の鍵を開け、家に入ると、お母さんが驚きつつも怒りをあらわにし、百合を平手打ちする。
百合がどこに行っていたのか尋ねるお母さんに、百合は戦時中の日本にいたとは言えず、黙り込む。

お母さんは一晩中百合を探していたことを明かし、百合が心配で夜も眠れなかったことを打ち明ける。
二人は涙ながらにお互いに謝り、百合はお母さんに抱きつく。
お母さんも百合を抱きしめ、お互いに感謝と謝罪の言葉を交わす。
この一連の出来事を通じて、母と娘の絆が再確認されるのだった。

消えない想い

百合は、七十年前の世界から現代に戻り、その体験により人格が変わったと感じている。
日常生活での小さな幸せに気付き、平和な生活の価値を実感している。
彼女は、日本が平和であることに感謝しつつ、まだ戦争が続いている国々に思いを馳せ、戦争の悲惨さに苦しんでいる。
学校では、彼女の変化に周囲が驚いているが、彼女自身は、過去に戦時中を体験したことで、過去の反抗期がつまらなく感じている。
百合は、社会科見学のリーダーを自ら引き受け、これまでの反抗期を乗り越えて新たな一歩を踏み出している。

社会科見学の日、百合はバス内で橋口さんと他のメンバーたちとお菓子を交換し、距離を縮めようと努力している。
バスは「特攻資料館」に到着し、百合は資料館の展示に深く感動し、彰と他の特攻隊員たちの遺品や手紙に心を痛める。
特に彰の家族宛の手紙には、その強い信念と家族への深い愛情が込められていることを感じ取る。
最終的に、彰が彼女宛に書いた手紙を見つけ、その存在を改めて実感し、過去の記憶と向き合うことになる。

彰から百合への手紙が、彼の深い愛と切ない別れの思いを伝えている。
彼は戦争の中で百合を愛していたこと、そして彼女に対する愛情が単なる兄妹のようなものではなかったことを告白している。
彼は彼女の幸せを願いつつ、戦争を生き抜くことを懇願している。
手紙を読んだ百合は、涙を止めることができずに展示室で崩れ落ち、クラスメートや先生たちの前で激しい感情に包まれる。
彰の写真を見つけた時、彼が遺した愛の深さを改めて感じ、その場で泣き崩れる。

新しい世界

特攻資料館を訪れた主人公は、外のベンチに座り、涙を流した後、新しい世界を感じた。
学校に戻る途中で、空を見上げると、飛行機雲が浮かんでいた。
これは彼らが守ろうとした世界、彼らが命を犠牲にしてまで叶えようとした平和であると感じた。
夕暮れ時、校門を出ると、見慣れない制服の男の子が現れ、彼が彰であることに気づいた。
彼は来週から同じ学校に編入すると告げ、新しい友情が始まることを示唆した。
主人公は、数え切れない人たちの命と愛の上に築かれた新しい世界で、これからも生きていくと感じ、彰に感謝の思いを伝えた。

終章  晩夏

エピローグ

主人公は特攻隊員としての最後の飛行に向かう途中、命と恋人への思いを胸に抱えている。
彼は自分の任務を遂行することに苦悩しながらも、最終的には恋人に対する愛を再確認し、再会を願う手紙を書いた。
彼の機体が目標に接近する際、甲板にいた若い米兵の姿が目に入り、突然の感情の変化により、自らの機体の進路を変更する。
最終的に機体は海に落下し、彼の意識は百合の花の香りとともに静かに途絶える。
彼は生まれ変わり、再び恋人と出会うことを願いながら、この世を去る。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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