どんな本?
『治癒魔法の間違った使い方 〜戦場を駆ける回復要員〜』は、くろかろかたは、くろかた 氏による異世界を舞台にしたファンタジー小説で、イラストはKeG 氏が担当。
主人公は治癒魔法の使い手でありながら、その力を戦闘や他の目的に応用することで、独自の道を切り開いていく。物語は、彼が仲間とともに冒険し、成長していく様子を描いている。
この作品は、2014年3月から「小説家になろう」で連載が始まり、2016年3月から2020年3月までMFブックス(KADOKAWA)から刊行されました。第2回ライト文芸新人賞で佳作を受賞している。
主要キャラクター
- ウサト (兎里 健):主人公。治癒魔法の使い手であり、その力を戦闘や他の目的に応用する。
- ローズ:リングル王国救命団の団長。治癒魔法使いでありながら戦闘能力も非常に高く、かつては騎士団の大隊長を務めていた。
- スズネ(犬上鈴音):ウサトの学校の生徒会長で、才色兼備の人物。勇者として異世界に召喚され、王国の騎士隊に所属し、雷の魔法を操る。
物語の特徴
本作の特徴は、治癒魔法という一般的にはサポート的な能力を、戦闘や他の目的に積極的に活用する点にある。また、主人公の成長や仲間との絆、ユーモラスなやり取りなどが物語を彩り、読者を引き込む要素となっている。
このライトノベルはメディアミックスとして、九我山レキ 氏による漫画版が『月刊コンプエース』(KADOKAWA)で2017年6月号から連載されている。
2022年10月時点で、電子版を含めたコミックスの累計部数は200万部を突破。
また、スピンオフコミカライズとして『治癒魔法の間違った使い方 〜誘いの街・レストバレー〜』がカクキカイ 氏による作画で、『FWコミックスオルタ』で2023年8月から先行配信で連載が開始されている。
さらに、2021年8月15日にはアニメ化が発表され、2024年1月から3月に放送された。
お疲れ様イラストを公開!💪
— スタジオアド (@st_add) March 31, 2024
本日は原画さんのイラスト🎨2/3
※あくまでファンアートになります。
実際のストーリーや関係性と異なる場合があります。#治癒魔法 #スタジオアド pic.twitter.com/8wEj75SaZ4
2024年8月に二期制作決定の発表があった。
読んだ本のタイトル
#治癒魔法の間違った使い方 ~戦場を駆ける回復要員~ 4
著者:#くろかた 氏
イラスト:#KeG 氏
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あらすじ・内容
ウサト、またも厄介事に巻き込まれる!?
魔王軍の脅威に対抗すべく、魔導都市ルクヴィスと共闘の約束を結んだウサトたち一行。
治癒魔法の間違った使い方 ~戦場を駆ける回復要員~ 4
ウサトはともに異世界にやってきたスズネ、カズキとルクヴィスで別れ、アマコ、ブルリン、そして護衛の騎士アルクと次なる目的地へ向かう。その道中、助けを求める少女の悲鳴を聞き駆け付けると、ゾンビの群れが少女を取り囲んでいた。
ゾンビを蹴散らしたウサトに、ネアと名乗った少女は懇願する。
「村を、私達を……助けてください」
ウサトは、“人の命を救う”救命団の信念の下にその依頼を引き受けるが、ネアの住む村を襲う脅威には隠された理由があった!
人気シリーズ待望の第四巻、またもやウサトが厄介事に巻き込まれる!!
感想
この巻では、スズネ、カズキと別れ。
主人公ウサトと彼の仲間たちが新たな冒険に挑む。
彼らは次なる目的地サマリアールへ向かう旅の途中でゾンビに襲われているイアヴァ村にたどり着き、村を助ける話。
彼らは道中でゾンビに襲われていた少女ネアを救出し、彼女の案内でイアヴァ村に到着。
村ではゾンビの脅威に苦しんでおり、ネアの保護者であるテトラに歓迎された。
ネアは最初は隠していましたが、ゾンビを作り出した存在を知っており、ウサトたちに助けを求めて来た。
彼らは村の人々と協力し、ゾンビの問題に対処する計画を立て、ウサトは治癒魔法の専門家として、戦闘後の怪我人の治療を担当。
そうして、ネクロマンサーが居ると思う屋敷を取り囲み。
ウサト、アマコが屋敷内を捜査していたら、村人達が突然残っていたアルクを襲って来た。
緊急事態に気が付いたウサトは、即時撤退して何とか危機を脱したが、、
アルクを置いて行ってしまった。
そこで、ウサトと仲間たちはネアが実はゾンビを操るネクロマンサーと吸血鬼の混血であり、真の敵であることが発覚。
ネアはウサトたちを襲い、支配下に置いたアルクを操るが、ウサトたちは彼女の計画を阻止し、アルクを救出することに成功。
しかし、彼らはネアが切り札に呼び出した。
さらに大きな脅威である邪龍と対峙する。
全体として、この物語は、未知の敵に立ち向かいながらも、主人公たちの絆を深め、困難に立ち向かう勇気と協力の重要性を描いていた。
主人公のウサトは、治癒魔法の力を駆使し、彼と彼の仲間たちが団結して難局を乗り越える姿が強調されていた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
救命団ノ掟
食事の心構え
一、正しい食生活を心掛けるべし
一、栄養の偏らない食材を摂るべし
一、食事を残した者は、問答無用で皿洗いの刑に処す
第一話 僕らの旅は続いていく!! の巻
ルクヴィスとの別れと新たな旅路
魔導都市ルクヴィスでの役目を終え、勇者たちと別れを告げた一行は、次なる目的地であるサマリアールへと向かっていた。ナックは救命団員としての道を歩む決意を固め、治癒魔法使いとしての成長を遂げた。犬上先輩やカズキとも別れ、ウサトはアマコ、アルク、そしてブルリンと共に旅を続けることになった。
新たな使命への不安
ルクヴィスを発って三日が経過し、旅は順調だったが、ウサトの心中には不安が広がっていた。書状を届けるという使命が重くのしかかり、次に向かうサマリアールでは初めて単独で交渉を行わなければならない。カズキや犬上先輩がいないことに寂しさを覚えつつも、アルクの言葉に励まされ、自分は決して一人ではないことを再認識した。
救命団の思い出
道中、ウサトは救命団の仲間たちのことを思い浮かべた。ローズや強面の団員たち、そして新入りのフェルムの様子を想像し、思わず笑みを零す。その表情を見たアマコが問いかけると、ウサトは自分が救命団という環境をどれほど大切に思っていたかを改めて実感した。
アマコの想いと仲間の絆
ウサトはふと、アマコがこの旅をどう感じているのかを尋ねた。彼女の母親の状況を考え、軽率な質問だったと後悔したが、アマコは静かに「楽しい」と答えた。一人ではなく、仲間がいることが何より嬉しいのだと。純粋な言葉にウサトは心を打たれ、その場の空気が温かなものへと変わった。
旅の小さなひととき
その後、ブルリンが空腹を訴え、アルクが気を利かせてリンゴを投げ渡した。ブルリンは喜び勇んでそれを頬張り、ウサトは彼の食いしん坊ぶりに呆れながらも、どこか微笑ましく感じていた。アマコもウサトのブルリンへの甘さを指摘し、旅のひとときは穏やかに流れた。
無事な旅路を願って
旅の安全を願いながら、ウサトは犬上先輩から貰ったお守りにそっと手を添えた。危険もトラブルもない平穏な旅を心から祈りつつ、一行はサマリアールへと歩みを進めていった。
第二話 アマコが見た未来!! の巻
未来視の呪いとウサトの運命
アマコは自身の魔法を忌み嫌っていた。未来が見える力は彼女にとって呪いであり、神から与えられた不本意な贈り物だった。しかし、その力がウサトとの縁を結んでくれたことだけは、唯一感謝していた。
ある時、アマコは不気味な部屋の中で目を覚ました。高価な絨毯とシャンデリアがある一方で、瓦礫が散らばり、壁は崩れ落ちていた。そこで彼女は、疲弊したアルクと、傷だらけのウサトの姿を目にする。ウサトは誰かに向かって言葉を投げかけ、やがてその相手に近づいた。だが、突如としてその者が短剣を振り上げ、ウサトに向けて突き出した。アマコが叫び、駆け寄ろうとした瞬間、視界は大きく揺らぎ、彼女は再び暗闇に引き込まれた。
避けられぬ未来と焦燥
アマコの予知夢は、常に断片的な場面だけを映し、先を知ることを許さなかった。ウサトが刺されたかどうかも、彼が無事なのかも分からない。ただ、その恐怖が彼女の心を締め付けた。彼の存在がアマコにとってどれほど大きいものか、それを彼女は痛感する。孤独だった日々に戻ることを恐れ、この未来を変えたいと強く願ったが、自分には何もできないという無力感に苛まれた。
予知の告白とウサトの反応
ルクヴィスを発って一週間後、アマコは顔色を悪くしながらウサトに予知を告げた。ウサトが短剣で刺される未来。それを聞いた彼は、一瞬考え込んだものの、驚くほど淡々と受け止めた。今さら刺されることなど恐れるようなことではなく、治癒魔法がある限り致命傷にはならないと楽観的だった。しかし、アマコの表情は晴れず、アルクもまた油断しないよう忠告した。
ウサトは自らの体を鍛えたり、敵を先に倒せば未来を変えられるのではないかと軽く考えていた。アマコは呆れつつも、確定した未来を覆そうとする彼の姿勢に言葉を失った。
旅の平穏とアマコの警戒
旅路は続き、夜には焚き火を囲んで休息を取った。アルクはサマリアールまでの距離を確認し、食料の減少に懸念を示した。ウサトは狩りをすることで補えると提案し、アルクもそれに賛同する。しかし、彼は地図を眺めながら、村の周辺で騎士や冒険者が消息を絶つという奇妙な噂があることを語った。失踪した者たちは数ヶ月から数年後に戻ってくるものの、失踪期間の記憶が消えているという。
その話を聞いたウサトは、不気味なものを感じつつも、ただの噂だと自分に言い聞かせた。しかし、その夜、ブルリンが突然唸り声を上げ、茂みの方を警戒し始めた。ウサトとアルクは即座に構えたが、そこから飛び出したのは黒いフクロウだった。
助けを求める声
翌日、アマコが何かを聞き取る。遠くから少女の助けを求める悲鳴が聞こえ、ウサトは迷わず駆け出した。木々を抜けた先で、複数の男たちに囲まれた少女を発見し、魔力弾で敵を吹き飛ばし、彼女を保護する。しかし、囲んでいた男たちは普通ではなかった。青白い肌に生気のない目、そして倒れても何度も立ち上がる不死のような存在。
アルクは彼らを「ゾンビ」と断定し、火に弱いことを利用して炎の魔法で撃退した。ゾンビは何者かによって操られていると考えられ、その首謀者を探す必要があった。
ネアとの出会い
救出した少女は「ネア」と名乗り、近くの村に住んでいることを明かした。彼女はウサトの戦い方に驚愕し、治癒魔法使いとは思えない戦闘力を不思議がる。ウサトは戸惑いながらも、彼女の案内で村へ向かった。
村に着くと、年老いた女性「テトラ」がネアを迎えた。彼女はネアを親のように世話しており、無事に帰ったことを心から喜んだ。ゾンビの出現が村に大きな影響を与え、外部との交流が途絶えていることが語られた。
テトラはウサトたちに村で一晩休んでいくよう勧め、彼らはその厚意を受けることにした。旅の疲れを癒しながら、次なる行動を決めるため、ウサトたちはこの村でしばしの休息を取ることとなった。
第三話 村を脅かす魔の手!! の巻
ネアの家と温かい夕食
ブルリンと馬を厩舎に預けた後、ウサトたちはネアとテトラの家へ招かれた。木造二階建てのその家は、彼ら三人がそれぞれの部屋を割り当てられるほど広かった。ネアは「二人で住むには広すぎる」と苦笑したが、その表情にはどこか寂しさが滲んでいた。
夕方、食事の時間になり、彼らは食卓を囲んだ。テトラはアマコがフードを被ったままでいることを不思議がったが、アマコは迷うことなくフードを外し、金髪の狐耳を露わにした。驚くテトラとネアを前に、アマコは「彼女たちなら大丈夫」と静かに告げた。予知の力で安全を確信していたのである。
テトラは偏見のない考えを示し、「獣人も人間も違いは耳と尻尾だけ」と笑った。ネアもまた、興味深げにアマコを観察し、驚きつつも敵意を見せることはなかった。こうして、彼らは温かい夕食を共にし、久しぶりのまともな食事に舌鼓を打った。
ゾンビの真相とネアの告白
食後、ネアが用意したお茶を飲んでいると、アルクがゾンビについて質問を投げかけた。ゾンビは自然発生するものではなく、誰かが意図的に生み出した存在である。その事実を指摘されたネアは目を逸らし、明らかに動揺していた。
アルクは更に問い詰め、彼女が真実を知っていることを見抜いた。ウサトもまた、ネアがゾンビの発生源を知っていると確信した。ネアはついに耐えきれず、涙ながらに助けを求めた。彼女の話によれば、ゾンビは二年前に村の墓地から現れ、村を襲った後に姿を消した。そして、ゾンビを操る黒幕が村の近くの洋館に潜んでいるという。
ネクロマンサーという脅威
ゾンビを生み出しているのは「ネクロマンサー」と呼ばれる魔物だった。死した者を操る能力を持ち、高い知能を有する。アルクによれば、ネクロマンサーは自身の戦闘能力こそ低いものの、大量のゾンビを統率することで戦闘を優位に進める。火の魔法が有効であるが、それを持たないウサトは物理攻撃での対処を考えるしかなかった。
ネクロマンサーの目的は不明であり、単に村を襲うことが目的とは思えなかった。アルクは「魔王が関与している可能性もある」と示唆し、事態の深刻さを指摘した。ネアは再び助けを求めたが、自分たちの旅の使命を考えると、ウサトは簡単に請け負うべきではないと迷った。しかし、彼女の切実な表情を見て、彼は覚悟を決めた。
「殴って倒せるなら問題ない」と言い放ち、ネクロマンサー討伐を決意したウサトに、ネアは感動し、涙を流した。
村の協力と作戦の準備
その後、テトラが村長に話を通し、村の若者たちと共にネクロマンサーを討つ計画を立てることになった。アルクも「協力者が増えれば作戦の成功率も上がる」と賛同し、ウサトたちはしばし休息を取ることにした。
久しぶりの柔らかな寝床で休んだウサトは、翌朝、訓練のために早く起きた。静かな村の朝を眺めながら、筋力を鍛えるために木の枝を使った腹筋運動を開始した。アマコの予知にあった「短剣で刺される未来」に備え、体を鍛え直すことが必要だった。
そこへネアが現れ、ウサトの訓練に興味を示した。彼女はウサトの旅について質問し、魔王の存在についても関心を抱いた。そして、村に閉じ込められたままの自分の境遇を語り、「外の世界を知りたい」と憧れを滲ませた。
しかし、村の状況や自身の立場を考え、彼女はその願いを口にすることはなかった。ただ、ウサトのように自由に旅をできることを「羨ましい」と静かに呟いたのだった。
ネクロマンサー討伐への決意
ネアの言葉を聞きながら、ウサトは自身にできることを考えた。彼がすべきことは、村の未来のためにネクロマンサーを討つこと。旅の使命と両立する難題ではあったが、このまま見過ごせるものではなかった。
「やるべきことは決まっている」と自らに言い聞かせ、ウサトは再び訓練を続けた。ネクロマンサー討伐の日は、刻一刻と近づいていた。
村長との交渉
昼時、ウサトとアルクは村長の家を訪れ、テトラと村の若者を交えて話し合いを行った。アマコは獣人であるため、人前に出るのを避け、ネアと共に留守番していた。
村長は、彼らの申し出に対し、「ありがたいが、ネクロマンサーを刺激すれば村が危険にさらされる」と慎重な姿勢を示した。また、ウサトとアルクの実力を知らないことも、承諾をためらう理由だった。アルクは、自身が火の魔法を得意とし、ウサトがゾンビの群れを一方的に倒せる身体能力を持っていることを説明した。
テトラが証言すると、村長は驚きつつも信じる姿勢を見せ、作戦の詳細を尋ねた。アルクは「陽動作戦」を提案し、彼が囮となりゾンビの注意を引く間に、ウサトとアマコが洋館へ潜入し、ネクロマンサーを討つ計画を語った。アマコの探知能力を活かせば、警備の隙を突くことが可能である。
村長は沈黙した後、自身の無力さを語った。ゾンビとの戦いで多くの犠牲を払い、かつての仲間や家族がゾンビとして蘇り、自分が死んだ後に家族を襲う可能性を恐れていた。その悲痛な思いを吐露し、「もう化け物の好き勝手にはさせられない」と、協力を申し出た。
アルクは村人の協力を歓迎しつつも、「危険を感じたら退いてほしい」と念を押した。ネクロマンサーの能力は悪趣味であり、知人や家族の遺体をゾンビとして操られることは、精神的負担が大きすぎるからである。
討伐の決定と準備
村の協力を得たウサトは、作戦の決行時刻を確認した。アルクは「夜の方が有利」と判断し、暗闇を利用して潜入することに決めた。夜の洋館というホラーな状況に不安を覚えつつも、ウサトはやるべきことを見据えていた。
村長は、戦う意思のある村人を集めるよう指示し、自身も戦況を見届けると宣言した。村の若者が準備に動き出し、ウサトたちは夜の襲撃に向けて心を整えた。窓の外には、目には見えぬが確かに存在するネクロマンサーの館がある。
ウサトは決意を新たにし、「待っていろ、ネクロマンサー」と静かに呟いた。アルクと村長は、その表情を見て「頼もしい」と感嘆し、アルクは「ローズ様に似ている」とまで評した。ウサトは呆れつつも、今はただ戦いに備えるのみだった。
アマコとネアの会話
ウサトたちが村長との交渉を行っている間、アマコはネアと共に居間で待機していた。お互いに気まずい沈黙が続く中、ネアが口を開き、「なぜウサトと一緒に旅をしているのか」と尋ねた。
アマコは一瞬戸惑ったが、自分の目的を思い出した。彼女は、目を覚まさない母親を救うために旅をしていた。獣人の国を飛び出し、治癒魔法使いを探し求め、リングル王国に辿り着いた。しかし、そこでも助けは得られず、魔王軍の襲撃を予知してしまった。絶望の中、彼女はウサトと出会い、「この人なら助けてくれる」と直感したのである。
「助けたい人がいる。そして、一緒にいたい人がいる」――それがアマコの旅の理由だった。
ネアはその言葉に深く頷き、「孤独に耐えられないことは弱さではない」と語った。人は支えなしには生きていけず、誰かに依存することで形を保つ存在だと、彼女は達観したように言った。
アマコは、その言葉がテトラの影響であることを見抜いたが、ネア自身の内面にも強い孤独があることを感じ取った。
ウサトの強さへの疑問
話の流れで、ネアはウサトの鍛錬について尋ねた。アマコは「ウサトは訓練バカ」と即答し、彼の異常な体力と持続力を説明した。ネアは「本当に治癒魔法使いなのか」と疑問を抱き、彼の強さの秘密を知りたがった。
アマコもまた、ウサトの強さの本質を正確に説明できなかった。ただ、弛まぬ鍛錬と折れない精神が、彼を理論の外に存在する異常な存在へと押し上げたのかもしれないと感じていた。
ネアは「羨ましい」と呟いた。だが、その言葉の裏にある感情は、アマコにとって捉えきれないものだった。ふと目を向けると、先ほどまでの明るい表情とは違い、冷たく沈んだ目をしていた。
それは一瞬のことだったが、アマコは確かにその変化を見逃さなかった。
第四話 突撃! 真夜中の洋館!! の巻
夜の決行
村が闇に包まれる中、月の光も雲に隠され、唯一の光源は家々の灯りだけとなっていた。だが、ネクロマンサー討伐を決行するには、むしろこの暗闇が好都合であった。
村の入り口には、村長を筆頭に十数人の村人が集まり、彼らの表情には決意が宿っていた。村長は、これまで恐怖に縛られていたが、ウサトたちの存在が戦う勇気を呼び覚ましたと語った。ウサトは村の人々の安全を第一に考え、討伐が失敗した場合の対策も念頭に置いた。さらに、自身が回復魔法を扱えることを伝え、怪我人が出た際にはすぐに治療すると申し出た。
アルクは作戦を説明し、陽動と潜入の役割分担を決定した。獣人であるアマコの視力と予知魔法が、隠密行動の鍵となるため、彼女の役割が重要であった。ウサトはアマコと協力するのが初めてであり、成功させる自信はあったものの、緊張も感じていた。
ネアの抱擁
作戦の確認を終えた矢先、ネアが突然駆け寄り、ウサトに抱きついた。驚きと困惑が入り混じるウサトをよそに、周囲の村人たちは微笑ましい様子で見守り、一部の若者は嫉妬の視線を向けた。
ウサトは戸惑いながらも、ネアの腕を解き、「心配は無用」と告げた。そして、ネクロマンサーを討つと約束し、彼女に待っているよう伝えた。ネアは感謝の言葉を述べ、安堵した様子でその場を離れた。
気を引き締め直し、アルクの号令のもと、一行はネクロマンサー討伐へと出発した。
館への潜入
道中、ゾンビとは遭遇せず、彼らは難なく館の近くまで到達した。アルクは村人と共に館の正面から陽動を開始し、ゾンビの注意を引きつけた。その間に、ウサトとアマコは裏口から潜入することとなった。
林を抜け、窓の下へと移動したウサトは、鍵のかかっていない窓を発見し、そこから館内へと入り込んだ。館の内部は驚くほど整頓されており、敵の気配も感じられなかった。慎重に進みながらアマコの予知魔法を頼りに、ゾンビの待ち伏せを察知すると、ウサトは一瞬で四肢を破壊し、口を封じ、ゾンビを無力化した。その圧倒的な力にアマコは驚愕し、ウサトの戦いぶりに一抹の恐怖すら覚えた。
異様な館の内部
館の中を進むにつれ、違和感は増していった。特に廊下に並べられた鎧の数々は異様であり、それぞれ異なるデザインをしていた。中には、アマコが旅の途中で見たことがあるものもあったことから、比較的新しいものであることが推測された。
アルクから聞いた「行方不明事件」のことを思い出し、これらの鎧が関係しているのではないかと疑念を抱いた。しかし、村の人々がその話を知らなかったことに違和感を覚えた。
その時、アマコが先を進む廊下の向こうに明かりの漏れる部屋を発見した。慎重に扉を開けると、そこには圧倒的な数の本が並ぶ書斎が広がっていた。
勇者の記録と禁忌の書
ウサトは、書棚の中から「カギの勇者の記録」と題された手帳を見つけた。内容の多くは虫食いで判読不能だったが、一文だけが明瞭に残されていた。そこには「彼は人を憎み、我らを愛した」と記されていた。この「彼」が先代の勇者を指すのならば、彼は何らかの理由で人間を拒絶し、別の存在に寄り添ったことを意味していた。
さらに、ウサトは黒い本を手に取った。しかし、その本に書かれた文字は読めなかった。言語理解の魔法がかかっているはずのウサトが読めないという事実に違和感を覚え、アマコに本を渡した。すると、彼女は驚愕の表情を浮かべた。それは「魔術の本」だった。
魔術の脅威
アマコによれば、魔術とは魔力を用いる点では魔法と同じだが、その発動には「術式」を理解する必要があるという。その学習には最低でも五十年を要し、人間にとっては到底習得できる代物ではなかった。
しかし、ネクロマンサーは人間ではなく、長寿の魔物である可能性が高い。もし彼がこの魔術を習得しているとすれば、非常に危険な存在である。しかも、魔術は時空や概念に干渉するほどの力を持つ場合もあるため、敵がどのような力を有しているか分からないことが最大の問題であった。
ウサトとアマコは、ネクロマンサーが魔術を使用できる前提で行動することを決定し、迅速に彼の居場所を突き止めるために書斎を後にした。
ウサトは、胸騒ぎを覚えながらも、決意を固めて先へと進んでいった。
洋館周辺の戦闘
ウサトとアマコが洋館へ侵入してからしばらく経過した。アルクは村人たちと共に洋館周辺のゾンビを引きつけ、炎の魔法を駆使して迎撃していた。村人たちも農具や剣を用いて奮闘し、誰も負傷することなくゾンビを退けていた。
しかし、アルクはこの状況に違和感を抱いた。ゾンビたちがあまりにも都合よく動き、彼らの思い通りに誘導されすぎている。それはまるで、誰かに試されているかのようであった。
ウサトへの信頼
アルクは村長と短く言葉を交わし、ウサトが洋館内でうまく立ち回っているかを気にかけた。しかし、彼は不安を抱いていなかった。ウサトは魔族との戦場を駆け抜けた戦士であり、どんな敵にも屈しない強靭な精神を持つ者だった。彼がネクロマンサーごときに不覚を取るはずがないと信じていた。
村長はウサトの正体を問うた。アルクは彼が治癒魔法使いであることを明かした。村長は驚くどころか納得した様子を見せ、彼が戦いの最前線に立ち、なおかつ仲間の安全を気遣う姿勢に深い感銘を受けたと語った。
アルクもまた、ウサトの姿を思い出していた。戦場でローズと共に立っていた彼の姿は、未熟ながらも確かな光を放ち、英雄の片鱗を見せていた。戦いで人を殺めることは容易いが、救うことは難しい。それを実践できる彼こそが、本物の英雄だとアルクは確信していた。
異変の発生
アルクは洋館に突入するため、村長に提案を持ちかけた。しかし、返答がないことに不審を抱き、振り向こうとした瞬間、村長の剣の柄が手首を打ち、剣を叩き落とされた。同時に、共に戦っていた村人たちがアルクの手足を押さえつけた。
驚愕しながらも抵抗しようとしたが、村長を含む村人たちの目は虚ろであり、尋常ならざる力で押さえつけられていた。彼らは自らの意志で動いているのではなかった。アルクはすぐにそれを理解した。これは裏切りではなく、何者かによって彼らが操られているのだと。
新たなる敵の登場
洋館の主が仕掛けた罠は、ゾンビだけではなかった。村人たちまでもが操られ、アルクを拘束したのである。彼は必死にウサトとアマコへ警告しようとしたが、村人たちの力に押さえつけられ、声を発することすらままならなかった。
その時、背後から声が響いた。ゆっくりと近づく足音と共に現れた者——それは、ゾンビすらも主の命令を待つかのように従わせる存在だった。
アルクは生者を操る能力を持つ魔物を一つだけ知っていた。しかし、それはネクロマンサーとは異なる。彼が導き出した答えに、背後の者は微笑を浮かべながら肯定するように言葉を発した。
絶望の刻印
アルクの言葉を遮るように、拘束していた村人たちは彼の頭を押さえつけ、無理やり首筋を晒させた。背後の彼女は、愉しげな笑みを浮かべながら、アルクの首元に鋭い牙を突き立てた。
瞬間、身体から力が抜け、意識が徐々に薄れていった。彼は確信した。彼女はヴァンパイアであり、これまでの事態を全て操っていたのは彼女だったのだ。
ウサトとアマコのもとへ急がなければならなかった。しかし、声を出すことすらできず、全身から抵抗する力が失われていく。
アルクは最後の力を振り絞り、ウサトとアマコの名を呼ぼうとした。しかし、口を開く前に彼の意識は闇に沈み、最後に見たのは、血のような赤い瞳で嗤う少女の姿だった。
第五話 驚愕! 裏切られた信頼!! の巻
陽動作戦の違和感
ウサトとアマコが館に潜入してから、アルクは村人たちと共にゾンビを陽動しながら討伐を続けていた。アルクの炎の魔法が中心となり、村人たちも農具や剣を駆使してゾンビの動きを封じていた。しかし、戦況はあまりにも順調であり、ゾンビたちが異常なほど意図した通りに動くことに違和感を覚えた。まるで何者かに試されているかのような、不穏な気配が漂っていた。
村長がアルクの戦いぶりを称賛するも、アルクはそれを村人たちの協力あってこそと考えていた。そして、ウサトが順調に進んでいるかを問われると、彼への揺るぎない信頼を口にした。アルクは、ウサトがこれまでの戦いで示した精神力や戦闘技術を知っており、ネクロマンサーごときに遅れを取るはずがないと確信していた。
ウサトの存在と村長の疑問
村長は、アルクのウサトへの信頼の深さに興味を抱き、彼が何者なのかを尋ねた。アルクはためらうことなく、ウサトが治癒魔法使いであることを明かした。ウサト自身はそれを伏せていたが、彼の本質を語るには欠かせない要素であった。
村長は驚きつつも納得の表情を浮かべ、ウサトが戦闘の最前線に立ちながらも村人たちの安全を気にかけていたことに感銘を受けた。そして、彼がただの治癒魔法使いであるはずがないと確信し、その若さで幾多の困難を乗り越えてきたのだろうと推測した。
アルクは戦争時のウサトの姿を思い出した。ローズと並んで戦場へ向かう彼の姿は、未だ彼女ほどの圧倒的な存在感こそなかったものの、確かな輝きを放っていた。その光景は、まさに理想の師弟の姿だった。ウサトは戦場を駆け抜け、人々を救ってきた英雄であり、アルクは彼と共に旅をすることを誇りに思っていた。
突然の裏切りと操られた村人たち
戦闘がひと段落し、アルクは村長に館へ突入する準備を促した。しかし、村長は何の反応も示さず、アルクが怪訝に思った次の瞬間、彼の手首に剣の柄が叩きつけられ、武器を落とされた。さらに、村の男たちが一斉にアルクを取り押さえ、身動きを封じた。
アルクは驚愕し、村長に理由を問うたが、彼の目は虚ろであり、信じられないほどの力で押さえつけていた。他の村人たちも同様に、普段とは違う異様な雰囲気を漂わせていた。彼らは裏切ったのではなく、何者かによって操られていたのだ。つまり、アルクたちは最初から罠に嵌められていたのだった。
迫る闇と支配者の登場
アルクはすぐにウサトとアマコへ警告を送ろうとしたが、村人たちに完全に拘束され、声を上げることすら許されなかった。そこへ、不気味な声が響き、何者かがゆっくりと近づいてきた。その存在の前では、周囲のゾンビたちさえ微動だにせず、まるで忠実な下僕のように命令を待っていた。
アルクはその正体を察した。生者を操る魔物など一種類しか存在しない。しかし、今回の敵はネクロマンサーであり、ゾンビを従えていることも事実であった。もしも、ゾンビだけでなく生者すらも操れる存在だったとすれば――その答えに思い至った瞬間、アルクは絶望を覚えた。
支配者は、アルクが「英雄」という言葉を口にしたことを面白がりながら、その背後へと迫った。そして、拘束され無力なアルクの首筋に、鋭い牙を突き立てた。
意識の喪失と新たな支配
激痛が走ると同時に、アルクの体から力が抜けていった。意識が薄れる中、彼は理解した。敵は吸血鬼――ヴァンパイアであった。彼女の能力により、意識が失われても体は意のままに操られてしまう。
アルクは最後の抵抗として、ウサトとアマコを守るよう懇願したが、背後の女は冷笑しながら「残りの二人も捕まえてあげる」と囁いた。次第に意識が闇に沈み、抵抗の意思すらも霧散していった。
倒れ込む直前、アルクはぼんやりと、血のように赤い瞳を輝かせた少女の凄惨な笑みを目にした。そして、完全な支配の中へと堕ちていった。
第六話 束の間の休息!! の巻
森への退避と身体の回復
ウサトとアマコは、村の支配下にあるネアから逃れるため、近くの森へと身を隠した。村の人々全員が操られている可能性を考慮し、無暗に村へ戻れば捕らえられる危険があったためである。また、ウサト自身もネアの魔術に拘束されており、体の自由が完全に奪われていた。その状態ではアルクを助けるどころか、まともに動くことすらままならなかった。
森の中で体を休めたウサトは、翌朝目を覚ました。枕代わりにしていたブルリンの背の感触を確かめつつ、昨日の戦いを思い返した。魔術による拘束は解除されており、自由に動けるようになっていた。この魔術は永続的なものではなく、時間経過とともに効果が薄れたのかもしれない。むしろ、体が以前よりも軽く感じられ、力が増したような錯覚さえ覚えた。
その後、アマコが森から戻り、手に持った果物をウサトに差し出した。二人は腹を満たしながら、アルク救出の作戦について話し合いを始めた。
ネアの正体とその能力
ウサトは、アマコにネアの正体を伝えた。彼女はネクロマンサーでありながら吸血鬼の血を引く存在であり、二百年間もの間、村娘を装ってきたのだった。その事実を知ったアマコは驚きを隠せなかった。ウサトもまた、彼女の演技力に舌を巻きながら、自分が騙されていたことに複雑な心境を抱いた。
ネアの持つ能力として、死者を操るネクロマンサーの力に加え、生者をも支配する吸血鬼の力、目を合わせた相手を魅了するチャームがあった。さらに、彼女は魔術も扱えることが分かっていた。ウサト自身もその魔術による拘束に苦しめられたが、術の発動には対象に触れる必要があると推測した。
また、ネアがアルクを支配下に置いた場合、彼の記憶を探られる可能性が高いことも考慮した。その場合、ウサトが異世界から来たこと、アマコが予知魔法の使い手であることがネアに知られてしまう。そうなれば、彼女が二人を執拗に狙うことは避けられないと結論付けた。
勇者の記録と過去の戦い
ウサトは、洋館から持ち出した手帳を取り出し、ページをめくった。その手帳には、先代勇者についての記録が記されていた。筆者は勇者に近しい存在であり、彼が英雄としてではなく、孤独に戦い続けた人間であったことを記していた。勇者は異世界から召喚され、戦いに駆り出される中で仲間も理解者も得られず、ただ戦うことを強いられていた。彼にとっての功績とは、倒した敵の数でしかなく、称賛されることさえ苦痛だったようである。
さらに、勇者がかつて「邪竜」と戦った記録も残されていた。その竜は、吐息で大地を腐らせ、爪で地を裂き、尾の一振りで山を削る化け物だった。勇者は三日三晩にわたる戦いの末、その竜を封じ込めたが、完全に殺すことはできなかったという。その理由について、筆者は「勇者は殺せなかったのではなく、殺さなかったのではないか」と疑念を抱いていた。
ウサトは、その手帳に描かれた竜の絵を見つめながら、なぜネアがこの手帳を所有していたのかを考えた。しかし、その答えはまだ見えてこなかった。
予知された未来と決意
アマコは、洋館で見た広間が自分の予知に登場した場所に似ていることを打ち明けた。その予知では、ウサトの血が滴る場面が映っていたが、誰が刺したのかまでは不明だった。その可能性を考え、ウサトはネアに対して一切の油断をしないことを決意した。
アマコは、ウサトが予知を軽視しているように感じ、不安を隠せなかった。しかし、ウサトは未来の可能性は一つではなく、解釈次第で変えられると主張した。彼は、自身の身体能力や治癒魔法による回復を根拠に、予知された未来を変えることができると信じていた。アマコも、そんなウサトの言葉にわずかながらも希望を見出し、彼を信じる決意を固めた。
そして、アマコは「ウサトと共に戦う」と宣言し、彼が以前冗談めかして提案したコンビネーション戦法を採用することを提案した。ウサトもそれを受け入れ、作戦を練り直した。
ネアの執着と新たな脅威
一方、洋館ではネアがウサトたちが持ち去った手帳の存在に気付いていた。彼女は、勇者の記録を研究していたが、まさかそれが奪われるとは予想していなかった。興味本位で持ち出したのか、それとも何かに気付いたのか――彼女は考えを巡らせる中で、アルクから得た情報により、ウサトが異世界から召喚された存在であることを知った。
異世界人であることに加え、魔王軍と戦い抜いた英雄でもあるウサトは、ネアにとって最高の興味対象となった。彼女はその事実を知るや否や、執着の色を強め、ウサトを必ず捕らえると決意した。
しかし、ウサトの戦闘能力の高さを理解していた彼女は、村人やゾンビでは到底捕らえられないことを悟る。そして、ある考えに至った。
ネアは地下へと向かい、封印されていた存在の前に立つ。
それは、天井に届くほどの巨軀、大きく裂けた口、抉られた右目、そして切り裂かれた翼を持つ片翼片目の異形の化け物だった。
ウサトを捕らえるには、ゾンビでも村人でも魔物でも足りない――ならば、「それ以上」の存在を解き放つしかないと、ネアは静かに笑った。
第七話 激闘! 治癒魔法 VS炎魔法!! の巻
洋館襲撃の準備
ウサトとブルリンは、村と洋館の中間地点で準備運動をしていた。ネアの館にはゾンビが溢れていると予想され、ブルリンの力が必要不可欠であった。一方、アマコは村の様子を偵察し、村人たちが無事であることを確認した。ネアは村人を戦いに巻き込まず、アルクとゾンビだけで戦うつもりのようだった。この報告を受けたウサトは、村人を気にせずに全力で戦えると判断した。
アマコはウサトに布製の帯を渡し、彼の背に固定される準備を整えた。これは二人の連携を最大限に活かすための作戦であり、アマコが予知し、ウサトが動くことで、敵の攻撃を回避しながら戦えるというものだった。ウサトは彼女をしっかりと固定し、ブルリンと共に洋館へと突撃を開始した。
洋館への突入と戦闘
ウサトたちが洋館へと向かうと、周囲には多くのゾンビが徘徊していた。しかし、彼らの相手はブルリンに任せ、ウサトとアマコはそのまま館内へと突入した。修理された扉を蹴破り、中で待ち伏せていたゾンビを一掃しながら階段を駆け上がる。アマコの予知により、ゾンビの配置を把握できていたため、ウサトは迅速に敵を排除しながら進んだ。
三階へと到達すると、ウサトは怒りを込めて大広間の扉を拳で吹き飛ばした。ネアは余裕の表情で待ち受けていたが、突如飛んできた扉に驚き、床に転がり込んだ。ウサトは一気に彼女を倒そうとしたが、アマコの警告により動きを止める。次の瞬間、アルクが鎧を身に纏い、剣を構えてウサトの前に立ちはだかった。
アルクとの戦闘
アルクはネアの支配下にあり、彼女を守るためにウサトと対峙した。ウサトは彼を正面から倒すことを決意し、治癒パンチで意識を奪おうとした。しかし、アルクの鎧にはネアが施した「耐性の呪術」が組み込まれており、ウサトの体術攻撃はすべて無効化される仕組みになっていた。
ネアはこの魔術の効果を誇示し、ウサトに武器を使って攻撃するよう挑発した。しかし、ウサトはアルクを傷つけることなく戦う方法を模索し、鎧の隙を突く形での戦闘を展開した。彼はアルクの剣を回避しながら接近し、投げ技を用いて地面に叩きつけることで、アルクの動きを封じた。さらに、治癒魔法を用いて彼のダメージを最小限に抑えながら戦った。
最終的にウサトは、アルクの体力を削り、治癒投げによって彼を気絶させた。アルクが動けなくなったことで、ネアの戦力は大幅に削がれたはずだった。しかし、彼女は余裕の表情を崩さなかった。
封じられていた怪物の覚醒
ネアはウサトの戦いぶりを見ても動揺せず、地面に向かって魔力を送り続けていた。彼女の意図を探ろうとしたウサトだったが、次の瞬間、洋館の床が大きく揺れ、激しい破壊音が響き渡った。
アマコはこれが自分の予知に登場した恐怖の光景だと察し、怯えながら警告した。そして、館の床を突き破るように、巨大な爪を持つ手が飛び出し、建物全体を押し上げるように動き始めた。
ネアは翼を広げて宙に浮かびながら、狂気じみた笑みを浮かべた。そしてついに、館の中央部が崩壊し、その奥から巨大な黒き竜が姿を現した。
その竜は、先代勇者の手記に記されていた存在と酷似していた。巨大な前足、片翼だけ残された翼、そして一つの目に宿る憎悪の光。それは生物というより、災厄そのものであった。
竜は大きく口を開き、天を裂くような咆哮を上げた。ネアは満足げに微笑みながら、ウサトに向かって高らかに宣言した。
「これが、貴方を倒すための切り札よ」
ウサトは歯を食いしばりながら、目の前の怪物を見据えた。この戦いは、まだ終わっていなかった。
閑話 彼女の受難の始まり
魔王の侍女としての試練
侍女長から告げられた命令は、半人前の身にはあまりにも重いものであった。平凡な魔族であるシエルは、数百年の眠りから目覚めた魔王の侍女として仕えることになった。専属ではなく交代制という点が唯一の救いであったが、侍女長の冷たい視線の中で働かなければならず、精神的な負担は大きかった。魔王に対する恐怖ではなく、偉大な存在に粗相をしてしまうことへの恐れが、彼女を支配していた。
魔王に初めて対面した瞬間、シエルは彼の放つ威光に魅了された。細心の注意を払いながら侍女としての日々を過ごし、無表情ながら冗談めいた会話や、気配なく姿を消す奔放さに翻弄されながらも、なんとか職務を全うし続けた。
魔王の不可解な笑い
ある日、魔王が突然笑い出した。彼は口元にだけ笑みを浮かべ、不気味な雰囲気を漂わせながら、何かに気づいた様子を見せた。シエルが恐る恐る尋ねると、魔王は懐かしい竜の波動を感じたと答えた。この時代にも竜が生きていることに驚きながら、彼は何者かが不完全な状態で目覚めさせたのだろうと推測した。
シエルには魔王の言葉の意味が分からなかったが、彼はさらに語り続けた。目覚めたのは邪竜であり、ワイバーンなどとは異なる、力を持った災害そのものであるという。邪竜は知能を持ちながらもそれを放棄し、本能のみに従って生きる愚かな生き物であった。
かつて邪竜がもたらした破壊
魔王はかつて邪竜を利用した経験を語った。それは破壊衝動だけを持つ存在であり、適切な環境を与えれば容易に暴走した。実際、たった一夜で三つの国を灰燼に帰したことがあったという。しかし、邪竜を完全に支配することは不可能であり、利用者すらも喰らい尽くそうとする存在であった。
シエルは、そんな邪竜が目覚めたことを憂慮し、野放しにする危険性を指摘した。しかし、魔王は邪竜が弱体化しているため、いずれ勝手に朽ちるだろうと断言した。ただし、その間に大量の人間が犠牲になる可能性が高く、封印を施した者への憎悪によって暴走することもあり得ると予測した。
封印されることを選ばれた存在
魔王は邪竜の最期について語るうち、自身もまた生かされた存在であると明かした。かつて勇者は魔王を討つこともできたが、あえて封印するという選択を取ったのだという。シエルは勇者の決断を「甘い」と評したが、魔王はその言葉を噛みしめるように繰り返し、不敵な笑みを浮かべた。
専属侍女への任命
魔王はシエルの名を尋ね、彼女を正式な専属侍女に任命した。彼は暇を持て余しており、シエルの反応が面白かったため、話し相手として適任と判断したのである。他の侍女や軍属の者たちは純粋すぎるため、彼に対する崇拝の念が強すぎた。その点、シエルは純粋ではなく、だからこそ魔王にとって興味深い存在だった。
シエルは思わず「自分は純粋である」と反論したが、魔王は愉快そうに笑った。彼の周囲の者たちは皆、尊敬というより崇拝の域に達しており、些細な失敗をも許せず、自ら罰を求めるほどだった。しかし、魔王自身はそのような崇拝には興味がなく、ただ会話を楽しみたいだけだった。
この時、シエルは魔王が冷酷なだけの存在ではなく、思慮深く破天荒な一面を持っていることを実感した。こうして彼女は正式に魔王の専属侍女となり、彼との日々が始まったのである。
ナック、リングル王国への道のり
最後の手紙
ナックは実家に宛てた手紙を書き終え、それを送った。この手紙は、彼が貴族としての名を捨てる決意を告げる最後のものであった。彼は、たとえ仮初めの愛情であったとしても、育ててくれた両親に感謝の言葉を述べた。そして、これからは「ナック」として、自分だけの人生を歩むと宣言した。
ルクヴィスでの生活の変化
ルクヴィスでの生活は、当初地獄のようなものだった。誰にも頼れず、ただ耐えるだけの毎日だったが、一人の治癒魔法使いとの出会いが彼の人生を変えた。その人物は、かつてナックの家族に「使えない」と蔑まれた治癒魔法を駆使し、強くなり続けていた。彼の背中を見て、ナックは初めて「強くなりたい」と願った。そして、貴族としてではなく、自らの力で道を切り開くことを決意した。
手紙を出した後の心境
手紙を送ったナックは、少しだけ気持ちが軽くなった。父はプライドの高い人物であり、この手紙を読めばすぐに破り捨てるだろうと予想しつつ、彼はルクヴィスの街を歩いた。以前とは違い、街の景色が鮮やかに見えた。今まで気づかなかった街の活気が、彼の目に新たなものとして映っていた。
キョウとの会話
ナックが街を歩いていると、キョウに声をかけられた。彼は果物を持っており、一つをナックに渡した。何気ない会話の中で、ナックは最近「視線を感じる」ようになったことを打ち明けた。キョウはそれを当然のことだとし、人間と獣人が一緒にいるだけで注目を集めるのだと指摘した。
ナックは、もうすぐルクヴィスを離れるつもりであることをキョウに伝えた。彼の決意を聞いたキョウは、「暇つぶしの相手がいなくなるのが寂しい」と茶化しつつ、ナックの門出を祝うため、自宅に招待した。ナックはその申し出を喜んで受け入れた。
学園長との対話
ナックは学園長に退学の意向を伝えるため、学園長室を訪れた。ドアを開ける前に名指しで呼ばれ、驚きながら部屋へ入った。学園長は、ナックが学園を去ることをすでに予測していた。彼の選択を尊重し、無理に引き留めるつもりはないことを伝えた。
学園での授業に物足りなさを感じるようになったナックの変化を、学園長はすでに見抜いていた。ウサトとの過酷な訓練によって鍛えられた彼にとって、学園の授業は優しすぎるものになっていた。学園長は、彼の成長を見守りながら、これまでの学園の対応について謝罪した。しかし、ナックは自らの過去を乗り越え、前を向いて進むことを誓った。
リングル王国への道
ナックが救命団に入るためにリングル王国へ向かうと聞き、学園長は彼の移動手段を手配することを申し出た。ナックは驚きながらも、その申し出をありがたく受け入れた。さらに、学園長はウサトの師匠であるローズについて語った。彼女は「人類最強の治癒魔法使い」と称され、非常に厳しい訓練を施す人物であった。
ナックはその話を聞き、ローズとの出会いに対する不安を抱えながらも、旅立ちへの決意を新たにした。学園長は、彼の未来が困難に満ちたものであることを理解しながらも、その選択を応援すると告げた。
学園との別れ
ナックは学園を去る準備を進める中で、これまでの二年間を振り返った。苦しいことばかりの学園生活だったが、今となっては、ここでの経験が自身を成長させたことを実感していた。そして、廊下を歩いていた彼は、周囲の学生たちが壁際に避ける様子を目にし、違和感を覚えた。
振り返ると、そこには灰色の髪をした満面の笑顔の学生――ハルファが立っていた。彼は気軽にナックへ手を振った。
ルクヴィス最強の魔眼使い
ルクヴィスで最も恐れられる人物といえば、誰もがハルファの名を挙げるだろう。彼は好戦的な性格であり、魔法使いを封殺する魔眼の持ち主として知られていた。その圧倒的な実力により、彼と戦った者は皆、心を折られてしまうのだった。
予期せぬ同行者
ナックは気づけば、そんなハルファとともに帰路についていた。直接話したことはほとんどなかったにもかかわらず、彼と並んで歩いている事実に困惑した。ハルファは安心させるような笑顔を向けていたが、その表情はどこか不自然で、ナックにはむしろ不気味に映った。彼はハルファの笑顔を指摘し、その作り笑いに対する違和感を伝えた。
すると、ハルファは試行錯誤していることを打ち明けた。周囲に良い印象を持たれるために努力しているものの、どうもうまくいかないらしい。彼のその言葉に、ナックは驚きを隠せなかった。
ハルファの孤独
ナックの率直な反応に、ハルファは小さく笑みをこぼした。そして、自分が周囲に恐れられ、まともに会話ができる相手がいないことを打ち明けた。ナックは、そんな彼に不思議な親近感を覚えた。
彼自身、過去には孤独を感じていた。かつての彼と同じように、ハルファも学園内でひとりぼっちだったのだ。そう気づいたナックは、まだ時間があることを理由に、ハルファともう少し話してみることにした。ハルファは驚きつつも嬉しそうに微笑み、その申し出を快く受け入れた。
新たな目標
ナックは、リングル王国へ向かい、救命団に入るつもりであることをハルファに話した。ハルファは彼の決意に感心しながら、ウサトのような強さを手に入れることを期待していると告げた。ナックはその期待に驚きながらも、プレッシャーを感じた。
ハルファは、ウサトとの戦いを通じて新たな課題を見出し、自身の成長意欲を再燃させていた。彼にとって、戦う相手がいないことが退屈であり、ウサトとの戦闘は久しぶりに心躍る経験だったらしい。彼はさらに鍛錬を重ね、次にウサトと戦う際にはより強くなっていたいと語った。
ハルファの過去
ハルファは、自身の魔眼について語った。物心がつく頃にはすでに魔力の流れが見えていたが、彼は戦うための魔法を求めていた。しかし、彼の魔眼は攻撃に適さず、周囲からも戦闘には向かないと否定され続けた。
しかし、彼はその言葉に従わなかった。才能を否定されることに反発し、独自の戦闘スタイルを確立する道を選んだ。その結果、彼は魔法使いの動きを完全に封じる技術を身につけたが、その代償として学園内で孤立することとなったのだった。
リングル王国への興味
ナックとの会話の中で、ハルファは自らの進路について考え始めた。彼はもともとサマリアールの騎士になろうと考えていたが、ウサトたちとの出会いを経て、リングル王国も悪くない選択肢だと考えるようになった。
その国では、魔法の系統による優劣ではなく、実力が重視されるという。魔眼という特殊な力を持つ彼にとって、そのような環境は魅力的だった。ナックは、彼の騎士という未来像が想像しづらいと感じつつも、彼の強さへの探究心には感嘆した。
成長への決意
ハルファは、ナックが過去の苦難を乗り越え、強くなったことを認めた。彼は、ナックの努力が実を結んだことを称え、自分を卑下する必要はないと告げた。
ナックは、以前の自分ならば逃げていたであろうハルファと今こうして会話をしていることに気づき、自分自身の変化を実感した。そして、次に会うときにはハルファと戦えるほどに成長すると約束した。
ハルファはその言葉を嬉しそうに受け取り、ナックの成長を楽しみにしていると告げた。こうして二人は、互いにさらなる高みを目指すことを誓い、別れた。
キョウとキリハのもとへ
ナックがキョウとキリハの家に着いた頃には、すでに日が沈んでいた。キリハは温かく彼を迎え、夕食の準備が整ったことを伝えた。
食卓には、彼がこの家で過ごした日々を象徴するかのような温かな料理が並んでいた。二人はナックの旅立ちを理解しつつも、彼の決断を尊重し、笑顔で送り出す準備をしていた。
最後の団らん
食事の最中、ナックはキョウとキリハにハルファのことを話した。彼が意外にも普通の人間らしい一面を持っていることを伝えると、キョウは驚きつつも、次に会った際には普通に接してみると応じた。
ナックは、この二人の支えがあったからこそ、自分がここまで成長できたのだと改めて実感した。そして、旅立ちの寂しさを抱えつつも、前を向く決意を新たにした。
こうして、ナックはルクヴィスを去る準備を整え、新たな道へと進むのであった。
旅立ちの準備
ナックは、学園長から五日後の朝にリングル王国へ向かう商人の馬車に乗せてもらえると知らされた。その知らせを受け、すぐに出発の準備に取り掛かった。必要なものは最小限に絞り、着替えや食料などを揃えた。ルクヴィスの学生ではなくなったため、新しい服とローブを街の露店で購入し、制服は記念として荷物に加えた。荷物は背負える程度の小ささであり、意外にも少なかった。こうして準備を整え、出発の日を迎えた。
別れの挨拶
ナックはキリハとキョウの家の前で、二人に見送られながら旅立ちの時を迎えた。キリハは彼に肩の力を抜くことも大切だと伝えた。キョウもまた、過度に緊張せず適度に力を抜くようにと助言を送った。二人はかつてルクヴィスに来た際、人間社会に溶け込む不安を抱えていたが、ナックもまた新たな環境に飛び込もうとしていた。ナックは、ウサトがいた場所ならば安心できるはずだと前向きな気持ちを抱いた。
旅立ちの時が迫り、ナックは二人に心からの感謝を伝えた。キリハとキョウもまた、彼の新たな道を応援し、再会の約束を交わした。
ルクヴィスの街並みを背に
ナックは街の門へと向かい、馬車を探しながらルクヴィスの光景を眺めた。学生たちの活気に満ちた街並みは、これまでとは違った輝きを放っているように思えた。暗い気持ちで過ごした日々もあったが、今ではこの街の美しさを感じることができた。
彼が新たな人生の一歩を踏み出そうとしたその時、不意に背後から蹴られ、前のめりに倒れた。振り返ると、そこには幼馴染のミーナが立っていた。
突然の再会
ミーナは、散歩中にナックを見かけたと主張したが、彼女がここに来た理由は明らかだった。ハルファからナックの旅立ちを聞き、彼を見送りに来たのである。ミーナは、馬車の場所を教えると、突然怒り出した。彼がリングル王国へ行くと宣言しておきながら、馬車を見つけられずに右往左往していたことに苛立ちを感じたのだ。
ナックは彼女の変化を感じ取った。彼女は、かつての戦いの中でナックが叫んだ言葉を覚えており、その信念を貫くことを求めた。貴族の身分を捨ててでも目指す道ならば、絶対に成し遂げろというのが彼女の願いだった。
約束の重み
ミーナは、ナックの妹から届いた手紙を彼に渡した。手紙には短いながらも、妹の無事と兄への応援の言葉が記されていた。その内容に、ナックは深く感動した。
ミーナはそっぽを向きつつも、手紙を届けた理由を「ただ妹の願いを無下にしたくなかっただけ」と言った。ナックは改めて礼を述べ、手紙を大切にしまった。
新たな道へ
ナックは荷物を背負い直し、最後にミーナを見た。彼女は相変わらず不機嫌そうに腕を組んでいたが、その態度の裏にある気持ちは伝わっていた。幼馴染であり、かつての敵であり、これから戦うことを約束した相手——その関係は奇妙だったが、今はそれでよかった。
そして、彼は背を向け、歩き出した。
これから始まるのは、誰にも縛られない、自分だけの人生。楽な道ではないが、自ら選んだ道だからこそ、挑み続ける価値がある。ナックは熱い想いを胸に、救命団になるための最初の一歩を踏み出した。
アニメ
PV
OP
ED
同シリーズ
治癒魔法の間違った使い方











治癒魔法の間違った使い方 Returns


その他フィクション

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