小説「誰が勇者を殺したか」感想・ネタバレ

小説「誰が勇者を殺したか」感想・ネタバレ

どんな本?

『誰が勇者を殺したか』は、駄犬氏著、toi8氏がイラスト担当のライトノベル。
この物語は、魔王が倒されてから四年後の世界を描いている。

平穏を手にした王国は、亡き勇者を称えるべく、数々の偉業を文献に編纂する事業を立ち上げる。
かつて仲間だった騎士・レオン、僧侶・マリア、賢者ソロンから勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で、全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。

「何故、勇者は死んだのか?」勇者を殺したのは魔王か、それとも仲間なのか。
王国、冒険者たちの業と情が入り混じる群像劇から目が離せないファンタジーミステリとなっている。

読んだ本のタイトル

#誰が勇者を殺したか
著者:#駄犬 氏
イラスト:#toi8  氏

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あらすじ・内容

勇者は魔王を倒した。同時に――帰らぬ人となった。

魔王が倒されてから四年。平穏を手にした王国は亡き勇者を称えるべく、数々の偉業を文献に編纂する事業を立ち上げる。かつて仲間だった騎士・レオン、僧侶・マリア、賢者ソロンから勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で、全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。「何故、勇者は死んだのか?」勇者を殺したのは魔王か、それとも仲間なのか。王国、冒険者たちの業と情が入り混じる群像劇から目が離せないファンタジーミステリ。

誰が勇者を殺したか

プロローグ

王国は女系の王家であり、勇者を王として迎える習慣がある。魔王が現れ、世界の半分を制圧した後、新たな勇者が現れる。
王家は勇者に王位を約束し、正統性と救済者の地位を示す。王女アレクシアは、勇者への褒賞として結婚を約束される。
しかし、アレクシアには自身の意志で生きる選択権がない。
四年後、勇者は魔王を倒し、王国に戻らないことを決める。
王国は勇者の業績を記録し、彼を讃える計画を進める。

市井にて

市井の人々は勇者に感謝しているが、その死については謎が多く、様々な憶測が飛び交っている。
勇者は剣技や魔法に長け、学院でも優秀だったとされる。
彼の出自は田舎の村であり、王位を継ぐことに関して一部の貴族からは疑問視されていた。
勇者の死については、剣聖や賢者などが関与しているとの疑念や陰謀説が浮上している。

レオンの章

レオン・ミュラーは勇者アレスとの関係について語る。
彼は勇者候補の筆頭であり、自らが最も優れた剣士だと自負していたが、アレスとの出会いが彼の価値観を変えることになった。
アレスは異常なまでの努力と献身が後の評価を高めることになった。
ロゾロフ大森林での野外演習中、アレスの指示によって多くの生徒が助かり、レオン自身もアレスの助けを借りて魔人と戦い、勝利する。
この戦いを通じて、レオンはアレスの真の勇者としての資質を認め、二人の間の関係は友情へと変化した。
アレスの死についてレオンは、それが彼の運命であったと述べている。

断章一

学院での最初の日、アレスはレオンから勇者になる資格がないと言われる。
レオンはアレスを敵視し、彼が伯爵の息子でありクラスで目立つ存在であることが明らかになる。
アレスはレオンに負けじと努力し、勇者になるために倍の鍛錬を行う。
レオンはアレスが剣の扱いが上達していることを認めるが、アレス自身は勇者としての自信がない。

断章二

レオンは幼少期から周囲に期待されながら育てられた。
彼は周囲の貴族が自らの安全を優先する姿に疑問を抱き、真に国を救おうとする姿勢を見せた。ファルム学院に入学した際、アレスと出会う。
アレスは平民出身でありながら勇者を目指す姿勢を貫いており、レオンは彼を一蹴しようとするが、その執念と努力に次第に畏敬の念を抱くようになる。
アレスの死について、レオンは彼の運命であったと述べている。

マリアの章

マリア・ローレンは、司教として教会を運営しており、勇者アレスとは学院時代からの知り合いであった。
アレスは回復魔法を学びたいと頼み、マリアはその真剣さを知る。
アレスは二年以上かけて初歩の回復魔法を覚え、その努力を高く評価されている。
マリアはアレスの死について神の思し召しだったと述べている。

断章一

アレスは戦士クラスでありながら回復魔法も攻撃魔法も学びたいと考えていた。
彼は僧侶クラスのマリアに接近し、回復魔法の指導を依頼する。
マリアは当初、戦士が回復魔法を学ぶ必要がないと考えていたが、アレスの熱意に触れ、彼が勇者になりたいという強い願望を持っていることを理解し、教えることを承諾する。
アレスはマリアのもとで様々な試練を受け、最終的には回復魔法を使えるようになる。

断章二

マリアは幼少期からの才能により、美貌と才能で注目され、多くの求婚も断ってきた。
十五歳でファルム学院に入学したが、彼女にとっては学ぶべき新しいことはなく、ただの形式的なものであった。
アレスが回復魔法を学びたいと頼んだ時、彼女はその真剣さに触れ、教えることを決意した。
アレスは彼女の試練を一つずつクリアし、最終的には回復魔法を使えるようになった。

ソロンの章

大賢者ソロン・バークレイは、勇者アレスを酷評したが、彼の努力を認めている。
ソロンはアレスの戦術や創意工夫に学ぶべき点が多々あったと語っている。
ソロンはアレスの努力を評価し、彼がいなければ魔王を倒すことはできなかったと語っている。

断章一

アレスは剣の修練とマリアの試練に慣れた後、攻撃魔法の習得を目指す。
ソロンは最初はアレスの依頼を拒否したが、アレスの根気強さにより、最終的には指導を受け入れる。
アレスはソロンから魔法の基礎を学び、時間が経つにつれて魔法を使えるようになった。

断章二

ソロン・バークレイは幼少期から魔法の才能を発揮し、ほとんど誰にも教えを受ける必要がないほどの実力を持っていたが、貴族の圧力によりファルム学院に入学させられた。
学院での生活は彼にとって不要なものであったが、アレスの熱意に触れ、彼に魔法の基礎を教えることにした。
アレスの努力と彼の前向きな姿勢が、ソロンに人間関係や魔法への新たな見方をもたらした。

アレスの章

タリズ村は勇者アレスを輩出したことで知られている。
アレスは幼い頃から多才で、剣術、魔法、回復魔法を習得し、村の中でも特に目立つ存在だった。
彼は預言者の予言により勇者として選ばれ、王都へ向かうことを決意した。

断章一

アレスとザックは村を離れ、王都への旅を進めていた。
アレスは勇者であることに疑問を抱いていたが、ザックの支えにより旅を続けることができた。
旅の途中で魔物との戦闘が避けられなくなり、アレスはその強さを発揮し、冷静に戦いを進めた。

断章二

アレスが六歳の時、従弟のザックが家に来た。
ザックは普通の子供だったが、アレスと共に学び、回復魔法や攻撃魔法の勉強を続けた。
アレスは十二歳の時に初めて魔法を詠唱することに成功し、預言者の予言によりファルム学院に入学した。

断章三

アレスは魔人に負った傷から何とか助かったが、その状態は悪化し続けた。
彼は自らの命を絶ってほしいと頼んだが、彼を兄弟のように思っていた彼は、その要求を拒んだ。
最終的には、彼の願いを受け入れて、アレスを楽にする決断を下した。

断章四

八年が経過し、ザックはレティンの村に着いた。
彼は祖父ヴィンスの話を聞き、過去の自分を受け入れることができた。
最終的には、彼は村の再建を手伝うことを決意し、自らの存在と行動に誇りを持ち始めた。

アレクシアの章

ソロンと共に神殿を訪れたアレクシアは、王妃が預言者であることを知る。
彼女はザックを捜し出すために、ソロンやマリアの協力を得て彼を探した。
最終的には、彼は王都に戻り、アレクシアとの約束を果たすことを決意した。

断章一

王城でアレスは初登城し、アレクシア姫と出会った。
彼女に戻らないことを約束し、彼女が自由に愛する人と結婚することを望んだ。
彼は魔王を倒す決意を固めた。

断章二

玉座の間で会った勇者は、予想とは異なり普通の優しそうな人だった。
彼は王女に、魔王を倒しても戻らないと約束し、彼女に好きな人と結婚するよう言った。
王女はアレスの訓練を見守り、彼の努力を信じていた。

預言者の章

シェラの問題は解決したが、ザックの居場所は依然として不明である。
ソロンと共に神殿を訪れたアレクシアは、王妃が預言者であることを知り、彼女の助けを得てザックを探し出した。
彼はアレクシアとの再会を果たし、彼女の期待に応える決意をした。

断章

城が燃える光景を見ながら、預言者は勇者を導く運命を背負い続けていた。
彼女は多くの勇者を導いてきたが、最終的にはザックがその役割を果たした。
彼は魔王を倒し、長い輪廻から解放された。

勇者の章

ザックは祖父の村に着き、過去の自分を受け入れることができた。
彼は村の再建を手伝うことを決意し、自らの存在と行動に誇りを持ち始めた。

エピローグ

マリカ国を訪れたザックは、祖父の村で生活を始めた。彼はアレクシアとの再会を果たし、彼女との未来を築くことを決意した。

とあるスイーツの店にて

王都で話題となっている勇者の凱旋パレードの後、ザックとアレクシアはスイーツ店で再会し、新たな未来に向けて歩み始めた。

感想

駄犬さんって40代後半だったんだ。
同氏の作品は商業化率が高いので、新進気鋭な若い人が精力的に書いてるのかと思っていたが、酸いも甘いも知っているアラフォーの人が書いていたとは、、

本書は、魔王を討伐した勇者アレスの死の真相を追うファンタジーミステリである。
物語は、魔王を倒して帰らぬ人となったアレスの業績を讃えるため、王女アレクシアが彼の過去と冒険を文献に編纂するという設定で始まる。
アレスと共に冒険をした仲間たち、剣士レオン、僧侶マリア、賢者ソロンから話を聞き進める中で、彼ら全員がアレスの死について言葉を濁す。
彼等の話を聞く中で、なぜ勇者は死んだのか、その真相が徐々に明らかになっていく。

この作品の魅力は、その構成の巧みさとキャラクターの深みである。
各章で語られるエピソードは、アレスの人間性や仲間たちとの絆を浮き彫りにしながら、彼の死の謎を解き明かしていく。
特にレオン、マリア、ソロンのそれぞれの視点から語られる話は、彼らの個性と内面の葛藤を描き出し、多角的なアレスの人物像の視点を見せてくれる。

また、作品全体を通じて、勇者という存在の重みや、その裏に隠された悲しみと犠牲が描かれており。
アレスはただの英雄ではなく、その背後には多くの努力と苦悩があったことが伝わってくる。
彼の仲間たちもまた、それぞれの立場から彼を支え、そして失う痛みを抱えている。

印象深いのは、物語の最後に明かされる真相である。
アレスの死の理由が仲間たちの行動や選択に深く関わっており、その複雑な人間関係が物語に厚みを加えている。
アレスの勇敢さだけでなく、彼の周囲の人々の人間味も感じられる結末であった。

さらに、王女アレクシアの存在が物語に重要な役割を果たしていた。
彼女の調査と決意が、アレスの死の真相を明らかにし、物語に深みを与えている。

総じて、『誰が勇者を殺したか』は、ファンタジーミステリとしての要素を持ちながら、キャラクターの内面描写や人間関係の複雑さが際立つ作品である。
その構成の巧みさとエモーショナルな物語展開により、引き込まれ、最後まで飽きさせない魅力があった。
ラノベファンタジーの枠を超えた人間ドラマとしても楽しめる一冊であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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その他フィクション

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備忘録

プロローグ

この国の王家は女系で、勇者を王として迎える習慣がある。
魔王が現れ、世界の半分を制圧した後、新たな勇者が現れる。
王家は勇者に王位を約束し、正統性と救済者の地位を示す。
王女アレクシアは、勇者への褒賞として結婚を約束される。しかし、アレクシアには自身の意志で生きる選択権がない。
四年後、勇者は魔王を倒し、王国に戻らないことを決める。
王国は勇者の業績を記録し、彼を讃える計画を進める。

市井にて

市井の人々が勇者に対する様々な人々の意見を述べている。
勇者は魔王を倒し、国を救ったことで感謝されているが、その死については謎が多く、様々な憶測が飛び交っている。
勇者は剣技や魔法に長け、学院でも優秀だったとされる。
彼の出自は田舎の村であり、王位を継ぐことに関して一部の貴族からは疑問視されていた。
また、勇者の死については、剣聖や賢者などが関与しているとの疑念や陰謀説が浮上している。
これらの意見は、勇者の功績を讃えつつも、彼の突然の死とその背景に疑問を持つ声が多いことを示している。

レオンの章

勇者アレスとの関係について語るレオン・ミュラーは、彼を単なる友人以上の存在と見なしている。
レオンはかつて勇者候補の筆頭であり、自らが最も優れた剣士だと自負していたが、アレスとの出会いが彼の価値観を変えることになった。
貴族の家に生まれ育ったレオンは、人間関係を階級でしか見なかったが、アレスとの出会いにより、友情という新たな関係を経験する。
アレスがファルム学院に入学したのは、勇者になるための公式なルートとして認識されていたからであり、学院での彼の成績は決して輝かしいものではなかったが、彼の異常なまでの努力と献身が後の評価を高めることになった。
特に、ロゾロフ大森林での野外演習中に魔人との戦闘が発生し、アレスの指示によって多くの生徒が助かる。
レオン自身もアレスの助けを借りて魔人と戦い、勝利する。
その戦いを通じて、レオンはアレスの真の勇者としての資質を認め、二人の間の関係は友情へと変化した。
アレスの死についてレオンは、それが彼の運命であったと述べている。

断章一

学院での最初の日、アレスは金髪で青い目を持つ整った顔立ちの青年、レオン・ミュラーに勇者になる資格がないと言われる。
レオンはアレスを敵視し、彼が伯爵の息子でありクラスで目立つ存在であることが明らかになる。
レオンは勇者候補の筆頭で、剣の腕も確かであった。
アレスはレオンが勇者になれば自分はその必要がなくなると考えるが、レオンに負けじと努力し、勇者になるために倍の鍛錬を行う。
アレスは人が少ない場所で密かに鍛錬を重ね、剣の技術を磨く。
ある日、アレスが剣をクラスに置き忘れると、クラスメイトがそれを盗もうとするが、レオンが介入し、剣を返させる。
レオンは剣は戦士の命であると説き、アレスに剣を大切にするよう説教する。
後日、レオンはアレスが剣の扱いが上達していることを認めるが、アレス自身は勇者としての自信がなく、レオンがもっとふさわしいと考えている。
しかし、レオンは自分の父から勇者候補を辞退するよう言われており、戦況が悪いために魔王を倒すのが不可能だと判断されている。
それにもかかわらず、アレスは自分が勇者になると言い、どんな困難も乗り越えると宣言する。
レオンはそれに対し軽蔑するが、もし自分が勇者になったらアレスを自分のパーティーに入れることを約束する。

断章二

伯爵家の長男として、レオンは幼少期から周囲に期待されながら育てられた。
家は王国を支える武の象徴であったため、剣の訓練は彼にとって日常だった。
叔父は魔王軍との戦いで武勇を発揮し、レオンは叔父を尊敬して育つ。
しかし、彼は周囲の貴族が自らの安全を優先する姿に疑問を抱き、真に国を救おうとする姿勢を見せた。

ファルム学院に入学した際、レオンはアレスと出会う。
アレスは平民出身でありながら勇者を目指す姿勢を貫いており、レオンは彼を一蹴しようとするが、その執念と努力に次第に畏敬の念を抱くようになる。
アレスはレオンから剣術の模擬戦で繰り返し打ち負かされるも、その都度立ち上がり、剣の腕を磨き続ける。
レオンはアレスが見せる真剣な姿勢に感銘を受けつつも、その平民としての立場に葛藤しながらも、彼の努力を認めざるを得なくなる。

学院生活を通じて、レオンは貴族としての自分の立場とアレスのような平民が同じ目標に向かう姿を見て、自分の価値観と貴族社会の矛盾に苦悩する。
しかし、勇者としての役割と自己の使命に向かって、孤独にも似た厳しい道を歩む決意を固める。

アレスに関する噂が広まった。彼が僧侶クラスのマリア・ローレンに告白しているという噂である。
しかし、レオンはその噂を信じなかった。
レオンは以前、マリアと話をしたことがあるが、彼女の言葉には心が感じられなかった。
そのため、アレスがマリアに夢中になっているとは思えなかった。

数ヶ月後、アレスが魔法を学んでいるという話を聞いた。
多くはその試みを愚かだと笑ったが、勇者が魔法を使えるという伝承があるため、アレスはそのために努力しているのかもしれないとレオンは考えた。
マリアとの接触も、恐らくは回復魔法を覚えるためだったのだろう。

レオン自身、家にあった魔法書を読み始めたが、古代文字で書かれており、解読は困難だった。苦労していくつかの呪文を唱えてみたが、何の効果もなかった。
最終的にレオンは一月でその努力を諦めた。
それを見て、レオンはアレスが続けていることを疑問に思った。

三年に進級してからのある時、アレスが回復魔法と攻撃魔法を使えるようになったという噂が広まった。
その成果は大したものではなかったが、アレスはレオンが成し遂げられなかったことを達成していた。
その後もアレスはレオンに挑み続け、その成長は明らかだった。
レオンはアレスが最も成長した戦士であることを認めざるを得なかった。

叔父が魔人との戦いで亡くなった後、レオンはアレスとの関係を見直し、勇者になるための覚悟を固めた。
アレスが持ち続けた一貫した姿勢と、彼に押し付けようとした自分の行動を反省し、自分も同じ荒野を歩む覚悟を示すことにした。

マリアの章

勇者と関わりのあるマリア・ローレンは、司教として教会を運営しており、聖女マリアと呼ばれている。
勇者アレスとは学院時代からの知り合いで、彼から回復魔法を教えてほしいと頼まれたとき、初めてその真剣さを知った。
当時は、戦士が回復魔法も攻撃魔法も使えることが期待されていたが、そのような戦士は二百年以上現れておらず、学院もその効率の悪さから訓練をやめていた。
魔法と神の奇跡との相性の悪さと、僧侶と戦士の訓練の異なる方向性も一因であった。

アレスが才能もなく、回復魔法を学ぼうとしたのは、神の奇跡を信じていないがゆえに、魔物が存在する理由を問うていたからだ。
マリアはアレスに回復魔法を教えることにしたが、その過程は非常に困難であった。
アレスは二年以上かけてようやく初歩の回復魔法を覚えることができたが、これは普通ならば才能があれば一月程度で覚えるものであった。
それでも彼は勇者としての役割を果たし、小さな傷も積極的に癒やすことで、長時間の戦いを支えた。
マリアはアレスの粘り強い戦い方と努力を高く評価しており、彼の死については神の思し召しだったと述べている。

断章一

学院では戦士、僧侶、魔法使いと職業ごとにクラスが分かれているが、専門分野のみを学べる仕組みとなっている。
勇者を目指すアレスは、戦士クラスでありながら回復魔法も攻撃魔法も学びたいと考えていたが、魔法の学習には素質が必要であり、また学院の方針として魔法と近接戦闘の同時教育は効率が悪いとされているため、通常は教えられていない。

そこで、アレスは僧侶クラスのマリア・ローレンに接近し、回復魔法の指導を依頼する。
マリアは当初、戦士が回復魔法を学ぶ必要がないと考えていたが、アレスの熱意に触れ、彼が勇者になりたいという強い願望を持っていることを理解し、神の教えを伝えることを承諾する。

その後、アレスはマリアのもとで様々な試練を受ける。
これらの試練は、一見すると非効率かつ理不尽に映るが、最終的にはアレスが小さな傷を癒す初歩の回復魔法を習得することに成功する。
この過程で、アレスは美味しいパンやスイーツを見つける才能にも磨きがかかる。

断章二

三歳の頃、教会で母親に祈る理由を尋ねた少女は、神様が人々の幸せを願っているからだと教えられた。
しかし、少女は神が人間に関心を持っていないことを感じ取り、神の存在を感じつつも、神に一方的な恋をしているような人々の姿に疑問を抱いた。
そのため、彼女は信仰心なく、回復魔法の技術を利用していた。
多くの人々が彼女を聖女だと讃えたが、彼女自身はその称号に疑問を持っていた。

幼い頃からの才能により、彼女は美貌と才能で注目され、多くの求婚も断った。
十五歳でファルム学院に入学したが、彼女にとっては学ぶべき新しいことはなく、ただの形式的なものであった。
そこでアレスという戦士クラスの生徒が彼女に接近し、回復魔法を教えてほしいと頼んだ。
彼の理想は伝説の勇者のような存在で、攻撃魔法も回復魔法も使える戦士であることに興味を持った彼女は、彼に回復魔法を教えることに同意した。

教育過程で彼女はアレスに様々な試練を与え、彼の成長を見守った。
アレスは彼女の出した試練を一つずつクリアし、最終的に回復魔法を使えるようになった。
これにより、彼女は人によって成し遂げられた奇跡を目の当たりにし、彼女自身も勇者という存在を信じるようになった。

ソロンの章

大賢者ソロン・バークレイは、勇者アレスを酷評した。
アレスは勇者としての資質がないとされ、魔王を倒したのは運が良かったとされている。
しかし、アレスは実際に魔王を倒し、多くの点でその役割を果たした。
ソロンはアレスの努力を認めており、アレスの戦術や創意工夫に学ぶべき点が多々あったと語っている。
ソロンは天才として自己を高く評価しており、アレスが単なる凡人であったにも関わらず、重要な役割を果たしたことに複雑な感情を抱いている。
最終的に、ソロンはアレスを友人として認め、彼がいなければ自身も他の仲間も魔王を倒すことはできなかったと語っている。

断章一

アレスは剣の修練とマリアの試練に慣れた後、攻撃魔法の習得を目指す。
学院の魔法使いクラスの教員に断られた後、彼はソロン・バークレイに魔法を教えてもらうことを試みた。
ソロンは最初はアレスの依頼を拒否したが、アレスの根気強さにより、最終的には指導を受け入れる。
ソロンはアレスに魔法の基礎から詳しく教え、魔法が使えるようになるまで指導した。
アレスは時間が経つにつれてソロンから魔法を学び、彼との関係も改善した。
3年目には、アレスはほんの僅かながら火の魔法を使えるようになった。
その成功はソロンにも喜ばれ、従来の魔法理論を覆す成果として評価された。

断章二

ソロン・バークレイは幼少期から父の影響で魔法の書を読み始め、幼いながらに魔法を使いこなすようになった。
彼の才能は周囲から注目されたが、その異常な早熟さが子どもたちとの間に距離を生んだ。
結果として、彼は孤独を好むようになり、人間関係に苦労した。
十五歳の時には魔法使いとしての実力を高め、ほとんど誰にも教えを受ける必要がないほどになったが、貴族の圧力によりファルム学院に入学させられた。
学院での生活は彼にとって不要なものであったが、週に一度だけ顔を出すことで妥協点を見つけた。

アレス・シュミットという学生が、真剣に勇者を目指していたため、ソロンは彼に興味を持った。
アレスのしつこい依頼により、ソロンは彼に魔法の基礎から教え始めることにした。
教える過程でソロン自身も魔法について新たな発見をし、アレスの成長とともに自分の考えも変わっていった。
アレスはソロンからの教えにより魔法の基礎を学び、魔法を使えるようになる希望を持ち続けた。

ソロンはアレスの指導を通じて、無駄だと思っていたことが実は価値あるものであると気づかされた。
アレスの努力と彼の前向きな姿勢が、ソロンに人間関係や魔法への新たな見方をもたらした。
最終的には、アレスの指先から微かな火の魔法が発動し、それがソロンにとって非常に意味深い出来事となった。

アレスの章

タリズ村は、勇者アレスを輩出したことで知られている。アレスは幼い頃から多才で、村の中でも特に目立つ存在だった。
彼は早くから剣術、魔法、回復魔法を習得し、教会で学んだ知識によってさらにその能力を高めた。
特殊な文字を読む学習もしており、そのために多くの人が彼の才能に驚いた。
預言者が村を訪れた際には、「この村から世界を救う勇者が現れる」との宣言があり、村人たちはアレスがその勇者だと信じて疑わなかった。

アレスの母親であるシェラは、息子がいかに優れていたかを認めつつも、他の多くの優秀な子供たちと同じく、特別視することは少なかったと述べる。
彼女自身は王都出身であり、夫と共に学問と運動で優れていた。
アレスが勇者として王都へ行ったのは、村人たちと義父の期待に応える形での行動であった。

アレスが旅立った際、彼の従弟ザックも同行しており、ザックは彼の剣を村に持ち帰った。
ザックには王都でアレスの剣を受け取ることができ、それを村に戻す役目を果たした。
シェラによれば、アレスが何かを学び続けることができたのは、ザックがそばで支え続けたからである。

アレスが最終的に魔王を倒した後、彼は亡くなるが、その死に対して家族は複雑な感情を持っている。
彼の死は世界を救ったとはいえ、なぜ彼が犠牲にならなければならなかったのか、という疑問が残った。

断章一

アレスとザックは村を離れ、王都への旅を進めていた。
アレスは自分が勇者であることについて疑問を抱いており、その旅の危険性や重責についても語っていた。
アレスは旅の供としてザックを選んだが、他の村人は自分が選ばれなかったことにほっとしているようだった。
アレスの家族も勇者としての彼の運命を悲しんでいたが、村長をはじめとする村の人々は彼を祭り上げていた。
二人は魔物との遭遇を避けつつ、できる限り戦いを避けながら王都に向かっていた。

旅の途中で魔物との戦闘が避けられなくなった際、アレスはその強さを発揮し、冷静に戦いを進めていった。
しかし、魔人との遭遇によって彼らの旅は新たな危険に直面する。
魔人との戦いでは、アレスがその剣術と魔法で対抗しながらも、魔人に深刻な傷を負わされてしまう。
最終的にアレスは魔人を倒すことに成功するが、魔人の最後の反撃によって命を落としてしまう。

ザックはアレスの勇者としての戦いを最後まで支え、彼の剣の扱いや魔法の使い方を見守りながら、一緒に困難に立ち向かっていた。
アレスが魔人に負傷させられたにもかかわらず、ザックの助けを借りて魔人を撃退する場面は、彼の勇者としての資質を示すものであった。
しかし、それでもアレスは最後に命を落とし、ザックに大きな悲しみを残した。

断章二

アレスが六歳の時、従弟のザックが家に来た。ザックの両親は冒険者で、ザックの父は戦士、母は魔法使いだった。
しかし、ザック自身は普通で、どちらかというと鈍臭かったが、不器用ながらも何事も粘り強く続ける子だった。
ザックの両親はマリカ国での戦いに参加するために旅立ち、その後は戻らなかった。

アレスは村長の家で育ち、若い神父から回復魔法を学び始めた。
当初は軽い興味から始まったものの、徐々にその重要性を理解し、続けることに熱心になった。
一方で、ザックは回復魔法を習得できなかったが、アレスと共に勉強を続けた。

数か月後、マリカ国の戦いでザックの両親が戦死したとの知らせが届き、ザックは正式にアレスの家族の一員となった。
その後、アレスは攻撃魔法の勉強を始め、村の子供たちも一緒に学び始めたが、やがて彼らは脱落していった。

魔法の勉強は長く続き、アレスは十二歳の時に初めて魔法を詠唱することに成功した。
その後、彼は魔王軍の増加する脅威に対抗するため、村で自衛訓練を積んだ。
そして、預言者の予言により、アレスが魔王を倒す勇者であると村全体に宣言された。
これにより、アレスはファルム学院に入学し、本格的に勇者としての訓練を受けることを決意した。

断章三

アレスは魔人に負った傷から何とか助かったものの、その状態は悪化し続けた。
首の傷は一応塞がったが、完全には治癒せず、酷い変色をしていた。
さらに、魔力を使い果たしたため、自力で立つこともままならない状況であった。
腹部の傷も深刻で、回復魔法を使える状態ではなく、布で応急処置を施していたが、血が止まらず状況は厳しかった。
助けを求めるようにアレスを背負って、人里を目指したが、途中でアレスの体調は更に悪化し、歩くことすらできなくなった。

アレスが高熱を出し、最終的には歩けなくなり、二人は森の中で遭難する形となった。
アレスの傷が悪化し、彼は自らの命を絶ってほしいと頼んだが、彼を兄弟のように思っていた彼は、その要求を拒んだ。
しかし、アレスの苦しみが増す一方で、最終的には彼の願いを受け入れて、アレスを楽にする決断を下した。
この過酷な状況の中で、彼はアレスの命を絶つという最も困難な選択を余儀なくされた。

断章四

八年が経過し、森の様子は変わらず、魔物の数も多いままだった。
ザックは、かつてアレスとして知られた自分が過去に友人を埋葬した場所を探したが、何も見つからなかった。
レオン、マリア、ソロンはザックに王都への帰還を促し、彼らと一緒に勝利を報告するよう迫った。
しかしザックは自分が本当にはアレスではなく、勇者アレスは既に死んだと彼らに打ち明けた。

レオンはザックを支援し、彼が王になることを望んでいたが、ザックは自分に勇者としての資質がないと感じていた。
ザックは過去にアレスを助けられなかった責任を感じており、自分の力で勇者の役割を果たしたとは考えていなかった。
彼はソロンやマリアに真実を告げ、彼らと別れを告げる決意を固めた。

最終的にザックは彼らと別れ、アレスが魔王を倒したと村に報告した後、国を出て新たな旅に出る計画を立てた。
彼は彼らからの感謝を受け入れつつ、彼の道を歩むために別れを選んだ。
ソロンとマリアはザックの決断を尊重し、彼がどこに行っても友情を持ち続けることを約束した。

アレクシアの章

ソロンは紫色の賢者のローブを羽織り、部屋で待っていた。
彼は来訪を予期していたようで、なぜアレスが勇者でなかったことを明かすような真似をしたのかと尋ねた。
彼は、調査書を見直し、話者が「アレス」と言うときはアレスのことを、しかし「あいつ」や「彼」と言うときはザックのことを指していたことを指摘した。
ソロンは、ザックがアレスになったのは王都に来る途中で魔人に襲われ、アレスが死亡したときだと答えた。
彼は、ザックがアレスを殺した可能性を示唆した。

さらに、ソロンはザックの才能のなさと嘘をつく下手さを語り、アレクシア姫にはいくつかの縁談があったが、レオンやソロンもこれを断ったことを話した。
アレクシア姫は勇者の功績を文献にまとめる事業を始め、ザックを探す意図を持っていた。

彼女は国の施策として、勇者の功績を文献にまとめることを提案し、自ら調査を始め、彼が生きていることを信じていた。
しかし、彼がアレスでなかったことに驚いた。
ソロンは、国外に向かったザックを捜すために、レオンは伯爵家の力を使い、マリアは教会の情報網を駆使して捜索したが、ザックは見つかっていない。
ソロンはザックを連れ戻す意志を示し、友達のいない人生はつまらないと語った。
彼らは魔法でタリズ村に転移し、シェラの家を訪れた。
シェラはザックの嘘を知っていたことを明かし、彼女のためにザックが勇者としての行動を取っていたことを理解していた。
彼女はザックの幸せを願い、アレクシア姫に彼を見つけるよう依頼した。

断章一

ロゾロフ大森林の戦い後、アレスはレオン、マリア、ソロンとパーティーを組み、勇者として認められた。
王城で初登城した際、アレスは周囲の疑念を感じつつも、それを気にすることなく受け入れた。
王はアレスのパーティーに期待を寄せていた。
そんな中、アレクシア姫との出会いがあり、魔王討伐後に彼女と結婚し国王となることが期待された。
しかし、アレスは本物の勇者でないと自覚しており、アレクシア姫に自由な未来を望んだ。

城での滞在中は、レオンと剣の特訓に励み、魔法を駆使して戦術を磨いたが、戦闘スタイルは泥臭いとされた。
特訓後、アレクシア姫に剣術の未熟さを指摘され、勇者としての役割に疑問を呈されるが、どんな手段でも魔王を倒す決意を明かした。
アレスはアレクシア姫に、戻ってこないこと、彼女が自由に愛する人と結婚することを約束した。
アレスは魔王を倒し、もし可能ならば命を落とすことで自身が勇者であると疑われないようにしようと思っていたが、アレクシア姫は彼が生きて帰ることを強く望んだ。その結果、互いに約束を交わし、互いの未来に期待を寄せた。

断章二

玉座の間で会った勇者は、予想とは異なり普通の優しそうな人だった。
彼は王女に、魔王を倒しても戻らないと約束し、彼女に好きな人と結婚するよう言った。
その後、王女はアレスの訓練を覗き見し、彼がレオンと剣の訓練をしているのを目撃した。
アレスは剣の腕はレオンに及ばなかったが、粘り強く戦っていた。
王女はアレスを応援することに決め、彼の安全を祈った。

アレスたちは魔王討伐のために静かに城を出発し、王女は彼らを見送りに行った。
彼らの旅立ちに対して、城内では彼の戦い方が評価されなかったが、王女は彼らの健闘を信じていた。
学院での訓練を経て、アレスたちが魔王討伐に成功したとの報が届いたが、その帰途でアレスが命を落としたという報も入った。

学院卒業後、王女はアレスを讃える文献を編纂する事業を立ち上げ、彼の偉業を記録することに尽力した。
彼女はアレスとの約束を果たすために、彼の業績を後世に残す決意を固めた。

預言者の章

シェラの問題は解決したが、ザックの居場所は依然として不明である。
ソロンと共に転移魔法で邸宅に戻った私たちは、預言者がザックの居場所を知っていると考えた。
預言者は神秘的な存在で、その居場所を探すことは困難であるが、ソロンは預言者の正体についてある程度の見当がついていると語った。
彼によれば、預言者は人間側の魔王にあたる存在であるかもしれないとのことだった。
預言者は勇者を見出す役割を担い、その活動期間は千年を超えるとされる。
この国の王族がそのような役割を担う巫女の系譜に連なっており、王妃が今代の預言者である可能性があるとソロンは指摘した。
ソロンは私に、王妃に会うために神殿へ行くことを求めた。

王城の地下にある神殿へと続く階段を下りながら、白い床や壁が松明の光でゆらめいていた。無機質で整然としたこの空間は、神殿を守るかのように、あるいはその存在を隠すかのように城が建てられたようである。神殿に続く扉の前には、白い装束に身を包んだヴェールをかぶった女性神官がふたり立っていた。彼女たちは剣を帯びており、代々神殿の巫女に仕える一族である。彼女たちの訓練された剣技は騎士をも凌ぐと言われていた。

神殿の内部には、巨大な女神像が設置されている広大な空間が広がっており、そこには白い衣を身に纏った王妃が立っていた。王妃は神殿の巫女であり、預言者であることを明かし、自身と私もその一族であると語った。彼女はソロンによって私がここに来ることを知っており、彼の計画についても理解していた。王妃は自らの死が世界の終わりを意味し、時間が巻き戻されることを告げた。彼女は死ねず、永劫の時を繰り返しながら勇者を探し続けていた。

王妃は、過去に何度も勇者を導きながらも、最終的に成功したのがザックであることを説明した。しかし、アレスとザックが共に魔王を倒す可能性について問うと、王妃はその選択肢は存在しなかったと否定した。彼女は千年以上の歳月を繰り返し、自らの命を何度も絶ちながら魔王を倒すために戦ってきたのである。

この重い運命を背負いながら、王妃は王族としての己の宿命に苦しみ、その経験に基づいてアレスを殺したと認めた。
話を終えると、王妃はこれ以上の接触を拒否し、私を神殿から追い出した。
私は彼女に感謝の言葉を述べながらも、憎まれていると感じつつ場を後にした。
王妃の強さを誇りに思うと同時に、その愛情を確信しながら、涙を流しながら去った。

断章

城が燃えるのは、幾度も目撃してきた光景である。
毎回の失敗に終わるこの現実を、地下神殿で幻影を通して見ている。
何度も救おうと誓うが、その誓いは簡単に崩れ、今では虚しさだけが募る。
もし自分が強ければ、誰にも頼らずに魔王を倒しに行けるのではないかと考えるが、女性であり、この年齢から体を鍛えたところで限界がある。剣も満足に振るうことができなかった。
活発な娘のアレクシアのように剣術や馬術を嗜めば違ったのかもしれないと自己嫌悪に陥るが、魔法の才もないため、大神の恩寵である回復魔法も使えない。
女神の像を恨みがましい目で見上げたとき、扉の向こうから轟音が聞こえる。
破滅が近いことを悟り、毒酒を飲んでこの失敗した世界に別れを告げる。

目覚めた時、幼いアレクシアがそばにいる。
彼女を抱きしめることで、また世界のやり直しを始める力を得る。
しかし、預言者としての自身の役割は、選んだ相手に影法師のように幻影を張り付かせ、見守るだけだ。戦うことはできず、知識だけを提供する。
これまで導いた勇者たちは全員非業の死を遂げ、勇者になることによる直接的な効果はないが、アレクシアのように自覚し、周囲が期待することで、さまざまな支援が得られる。

村でアレスが勇者に選ばれると告げられた際、彼は青ざめるが、その隣にいた従兄弟のザックが勇者になりたいかのように振る舞う。
アレスは王都へ向かう決断をし、魔王討伐の準備を整える。
しかし、彼は途中で命を落とし、再び死を考える。
しかし、今度はザックにも何かを感じ、幻影を彼に移し、行く末を見守ることにした。

ザックはアレスの名を騙ってファルム学院に入学し、勇者になるための努力を重ねた。
レオンに太刀打ちできなくとも、マリアからの試練を乗り越えながら神の奇跡に目覚め、ソロンとの長い特訓を経て魔法を習得した。
その努力の末、ザックは自らの力で勇者と呼ばれるようになった。

その後、ザックはレオン、マリア、ソロンと共に魔王討伐の旅に出た。
彼はパーティーの調和を重視し、各々の良いところを引き出そうとした。
多くの苦難と試練を乗り越え、魔王討伐が目前に迫った時、彼はアレスのために戦っていることを自覚していた。
しかし、彼はアレスを生き返らせることができるかもしれない選択肢を拒否し、そのまま進むことを選んだ。

結果として、ザックは魔王を倒し、千年にもわたる旅が終了した。
その歓喜も短く、彼は多くの犠牲を省み、自分の選択に責任を感じた。アレスの母、シェラとの類似を感じ取った彼は、預言者の優しさに感謝し、自らの後悔と願いを告げた後、戦いを続けた。
彼らの死闘の末、魔王が倒され、彼の旅は終わりを告げた。

長い輪廻から解放された預言者は、歓喜に打ち震えたが、その後の眠りから覚めると、死んだ人々が戻らない現実に直面し、自分の選択による犠牲を深く悔いた。
そして、アレクシアが現れた時、彼女は母の苦悩を知らずにザックの居場所を求めたが、毒酒を飲んで命を落とし、預言者は自らも毒酒で死を選ぶことを考えたが、アレクシアの死によって彼女の覚悟を知り、過去の選択を悔いるようになった。
そして、最後の『世界編纂』を行った後、アレクシアと再会する機会を待った。

勇者の章

二年間の旅の末、ザックは滅びたマリカ国とその一部であるレティンの村を訪れた。
マリカ国は魔王領に最も近かったため、魔王を倒しても荒廃が続いていた。
主人公の目的は、亡くなった父が常に話していた祖父に会うことだったが、村が存在しない可能性に直面していた。
魔王を倒した後の彼は、何をすべきかわからない状態だったが、村や町の再建や魔物退治を通じて、人々からの感謝を得ていた。

ザックは父母の死を救えなかった無力感や、ファルム学院でのアレスとしての学び、そして勇者としての努力を振り返った。
彼は自らの力ではなく、仲間のおかげで魔王を倒せたと感じており、過去を否定することなく、現在を受け入れる決意をしていた。

レティンの村に着いた彼は、村長と名乗る老人に出迎えられ、亡くなった祖父ヴィンスの話を聞いた。
祖父は村人を救うために魔物と戦い、命を落としたことを知る。
老人は彼を祖父の墓へ案内し、祖父がどのような人物だったかを語った。
その話から、ザックは自分と祖父の間に共通点を見出し、過去の自分を受け入れることができた。

最終的に、ザックは祖父がかつて守ったこの村で生活し、村の再建を手伝うことを決めた。
彼は自らの存在と行動に誇りを持ち始め、祖父が残したものを守るために力を尽くすことを決意した。

エピローグ

マリカ国があった場所に到達するため、ソロンの転移魔法を使用したが、一度行ったことのある場所にしか移動できないため、近くの街からレティンの村まで馬を借りて向かう必要があった。
ソロンは自身の過去の旅で馬に乗るスキルを身につけていたため、問題なく乗馬できた。

マリカ国の領域は依然として荒廃が激しく、その惨状に衝撃を受けるが、海近くのレティンの村は比較的良好な状態を保っていた。
村での尋ねにより、ザックが村の復興を手伝っているとの情報を得る。
ザックは魔物討伐も行っており、村人からは重宝がられていた。

ソロンと共にザックを訪ねたところ、彼は驚くが、再会を喜んだ。
ザックはアレクシア姫を認識し、彼女が彼を訪れた理由を問う。
アレクシア姫は以前の約束、「好きな人と結婚する」という約束を果たすために来たことを明かし、ザックは戸惑いながらも喜びを示した。
最終的には、王都のスイーツ店での会食を提案し、アレクシア姫はその提案に頷く。

とあるスイーツの店にて

最近、王都が騒がしくなっている。
死んだはずの勇者が戻ってきたことが話題となっている。
王女が文献をまとめる過程で勇者が生きている可能性が明らかになり、勇者の足跡を追跡して発見されたのである。
勇者の業績が本になり、王都では大ブームとなっている。
本は大ヒットし、買うことができない人たちは朗読会でその話を楽しんでいる。
その後、勇者の凱旋パレードが盛大に行われ、大きな注目を集めた。

王都の下町にあるお菓子店では、お菓子職人である父親と共に、お菓子作りを手伝っている。
父親の店は繁盛しており、貴族からも顧客が訪れることがある。
店は庶民向けだが、高い評価を得ている。
ある日、学生時代に頻繁に店を訪れていた客が久しぶりに現れ、父親は彼に感謝の意を示し、無料でお菓子を提供した。
この客は以前、店のお菓子を彼女へのプレゼントとして選んでいた。
彼女は厳しい試練を与えることで知られており、彼のお菓子選びが店の評判向上につながっていた。

ある日、かつての常連であった男性客が、仕事ができそうな女性を伴ってお店に来た。
お父さんは彼女がかつての恋人かと尋ねたが、彼は否定し、お父さんは安堵の涙を流した。
その直後、新たな女性客が来店し、以前来店した若い男性が選んだスイーツを購入したいと言った。
彼女はとても美しく、彼と同じお菓子を注文した後、人目を気にしながら店を去った。

続いて、騎士のような風格の金髪の男性が来店し、同じく彼が購入したお菓子を全て購入し、婚約者への土産とした。
彼の婚約者は従姉妹であり、尊敬する人の娘だった。
その後、魔法使いのような服装の男性が来店し、彼が購入したお菓子を求めたが、既に売り切れていたため不満を述べながら他のお菓子を購入した。

一週間後、お菓子選びの名人と呼ばれるその男性が再び眼鏡をかけた女性と共に来店し、お菓子について熱心に話し合った。
女性は以前購入したお菓子が母親にも好評だったと語った。
その後も、魔法使いを含む様々な客が来店し、特に名人が選んだお菓子は好評で、彼に関連する人々が次々と来店する状況が続いた。

最終的に、魔法使いが再度来店し、以前と同様に売り切れた後のお菓子を購入した。
彼はそのお菓子が未完成だが価値を感じていると語り、努力を続けるよう励ました。
この出来事は、彼がどのようにしてそのお菓子に興味を持ったかを示すものであり、彼の言葉がお菓子職人にとっての励みとなった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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