どんな本?
『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件 4』は、ファンタジー小説である。物語は、ファルーン王国の第一王子マルスが、暗殺の危機にさらされながらも、モンスターの肉を食べて生き延び、やがて王位に就くまでの成長を描く。本巻では、隣国イーリスとの戦争が激化し、フラウの強力な魔法が2万の軍勢を焼き払ったことで、戦況が一変する。シーラはフラウに対し、「力や恐怖で人はついてきません」「人を殺しすぎてはいけません」と進言し、無垢なる悪魔の心を動かそうと試みる。一方、マルスはマリアからの予想外の告白により動揺する。
主要キャラクター
• マルス:ファルーン王国の第一王子。暗殺の危機にさらされながらも、モンスターの肉を食べて生き延び、やがて王位に就く。
• フラウ:強力な魔法を操る女性。2万の軍勢を一度に焼き払うほどの力を持つが、その力の使い方に課題を抱える。
• シーラ:フラウに対し、力や恐怖では人はついてこないと進言し、彼女の心を動かそうとする。
• マリア:聖女候補。マルスに対し予想外の告白を行い、物語に新たな展開をもたらす。
物語の特徴
本作は、主人公マルスがモンスターの肉を食べることで生き延び、成長していく姿を描くユニークな設定が特徴である。また、強力な魔法や戦争といったスリリングな展開に加え、キャラクター間の人間関係や心理描写も深く掘り下げられており、読者を引き込む要素が満載である。
出版情報
• 出版社:マイクロマガジン社
• レーベル:GCN文庫
• 発売日:2025年1月20日
• ISBN:978-4867167007
• ページ数:326ページ
読んだ本のタイトル
モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件 4
著者:駄犬 氏
イラスト:芝 氏
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あらすじ・内容
少年は(全く望んでいないのに)最強の王へと成り上がる
たった一つの勘違いから始まる狂食英雄伝、開幕!
聞き分けのない子にはお仕置きを……!
イーリスとの戦争が激化する中、フラウの魔法が2万の軍勢を焼き払ったことにより状況は一変。
このままでは恨みを買いすぎて大変なことになると焦るシーラは、フラウへの進言を決意する。
「力や恐怖で人はついてきません」「人を殺しすぎてはいけません」。
覚悟の説得は無垢なる悪魔の心を動かすことができるのか?
一方その頃、マルスはマリアからの予想外の「告白」により大地に膝をついていた――。
感想
複雑に絡む政治と人間模様
マリアの計略とファルーンの拡大
マリアはその狡猾さと計略で物語を牽引していた。
聖女でありながら腹黒さを隠さず、イーリス浄化計画を通じて民衆を支配下に置く手腕は見事であった。
モンスターの肉(モン肉)を媒介にした支配構造は独創的であり、従来の戦略を超えた新しさがあった。
この計画の中で民衆はモン肉を受け入れることで国への依存を深め、結果としてファルーンの勢力拡大につながった。
主人公マルスの流される日常
一方、主人公であるはずのマルスは、意志を示す場面が少なく、流される立場であった。
ハンドレッドとの関わりや冒険者としての旅の中で、彼の行動は周囲に左右されがちであった。
それでも彼の戦いぶりや魔法の技術は随所で輝きを見せ、特にトリノ国での格闘は新たな一面を示した。
まともな常にモンスターの生肉のばかりで、普通の料理にありつけない哀れさが彼の個性を引き立てていた。
シーラの存在感とバランス感覚
物語全体の中でシーラの役割は非常に重要であった。
彼女は常識人(比較的)としての視点を持ちながら、過激なキャラクターたちの中で冷静さを保ち、物語のバランスを取っていた。
フラウやマリアといった濃い人物たちの中で、シーラが暴走する他のキャラクターのストッパーとして機能する場面は安堵を与えた。
ユーモアと悲壮感の絶妙なバランス
この作品ではユーモアと悲壮感が巧みに混在していた。
特にマリアやフラウの濃厚なキャラクター性が、緊迫した戦場に笑いをもたらす場面は印象的であった。
パワフルな赤ん坊ヒルダの描写もその一例であり、迫力あるイラスト(ハイハイするヒルダ(笑顔))が笑いを誘いながらも、ファルーンの異常さを際立たせた。
壮大な世界観と今後の展開への期待
物語は北のロンザ帝国や西側諸国へと広がりを見せ、壮大なスケールで描かれていた。
法治国家を目指すガマラスの優秀さや次世代を担う子供たちの成長も楽しみであった。
ファルーンがどのように進化し、マルスがどのような決断を下すのか、さらなる展開に期待が高まる。
この作品は、緊張感とコミカルな要素が混在し、複雑なキャラクターたちの活躍を描いた一冊であった。
非常に濃い人物たちのドラマと共に、読者を笑わせつつも心に残る読後感を提供してくれた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
PROLOGUE
マリアとの夜の出来事
マリアは天幕を訪れ、聖騎士団副団長カイムとのやり取りについて報告を始めた。マルスは疲れていたが、彼女の押しの強さに負けて話を聞いた。報告の最中、マリアは突然ローブを脱ぎ捨て、挑発的な行動に出た。彼女の美しさに動揺したマルスは、理性を保とうと必死に抵抗したが、結果的に状況を制御できなかった。翌朝、マリアは「このことは秘密に」と笑いながら去り、国を望むという衝撃的な言葉を残した。
イーリス軍の動揺
イーリス軍は連合を組んでいたキエル魔道国とバルカン国が戦場を離脱したことで、士気を著しく低下させていた。さらに、聖騎士団の半数が離反し、連合軍の力は大幅に削がれた。戦況の悪化を前に、撤退の是非が議論された。
焦土作戦と王城強襲
焦土作戦の提案が出されたが、それは領民に大きな犠牲を強いる内容であった。ヴォルフ伯爵はこれに反対したが、ブルーム伯爵はファルーンを倒すためにはやむを得ないと主張した。また、後方のファルーン王都をアサシンで襲撃する計画も議論され、王は両方の作戦を採用する決断を下した。
イーリスの苦境
イーリス王の決断により、焦土作戦と王城強襲が進められることになったが、重臣たちの間には不安が広がっていた。領民の犠牲や国土の損害が避けられない中、イーリス国は絶望的な状況に追い込まれていた。
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1.略奪
ネスト村の緊張とイーリス軍の要求
ネスト村はイーリス国南部に位置し、ファルーンとの戦争を前に楽観的な空気に包まれていた。しかし、イーリス軍が突如訪れ、村のすべての食料を徴収するという要求を突きつけた。村長は穏便に済ませようとしたが、軍の隊長は命令を強硬に遂行した。村民たちは従わざるを得ず、村全体が深刻な飢餓に陥ることとなった。
ファルーン軍の接近と村民の観察
窮地に立たされた村長は、近隣を通過するファルーン軍に注目した。噂に聞く恐ろしい軍団とは異なり、彼らは穏やかな態度で行軍しており、王とその側近の姿も平和的に見えた。村の若者たちが報告した内容を受け、村長はファルーン軍に助けを求めることを決意した。
モンスター肉の供給計画
村長の訴えに応じたファルーン軍は、飢えた村民たちにモンスターの肉を提供すると提案した。オグマは自信を持ってモンスター肉の効能を説き、実演してみせたが、村民たちはその異様な提案に困惑した。それでも他に選択肢がない状況下、村民たちはモンスター肉を受け入れざるを得なかった。
村民の苦悩とファルーン軍の圧力
モンスター肉を食べることに抵抗する村民たちだったが、ファルーンの戦士たちに囲まれ、逃げ場を失った。村長を先頭に、村民たちは列を作り、恐る恐る肉を口に運ぶしかなかった。その光景は、追い詰められた彼らの無力さを象徴していた。
イーリス軍とファルーン軍の対峙
一方、イーリス軍は焦土作戦を進めつつ、ファルーン軍の補給路を断つ計画を立てていた。しかし、ファルーン軍は現地調達でモンスターを狩り、補給部隊を必要としない特殊な行軍を行っていたため、イーリス軍の策は空振りに終わった。ファルーン軍の戦略は、従来の軍事常識を超えるものであった。
焦土作戦の結果とファルーン軍の対応
焦土作戦に対応するため派遣されていたオグマたちは軍に戻り、作戦の進捗を報告した。彼らはイーリス軍の行動を逆手に取り、飢えに苦しむ民衆にモンスターの肉を広めたと説明した。ゼロス王の計画として称賛されたが、ゼロス自身にはその意図がなく、報告内容に困惑していた。
「イーリス浄化計画」としての策略
部下たちは、イーリス軍を撤退に追い込むための一連の出来事を「イーリス浄化計画」と名付けていた。モンスターの肉を利用して民衆を取り込み、イーリス国を精神的にもファルーンの支配下に置くことを目的としていたと報告された。ゼロスは計画に関与していないが、すべてが彼の功績とされ、否定できない状況に追い込まれていた。
モンスター肉の広まりと民衆の変化
焦土作戦により食料が奪われた民衆は、モンスターの肉を受け入れざるを得ない状況に追い込まれた。一度食べた者は忌避感を失い、次第にそれを求めるようになったという。オグマは民衆がモンスターの肉を受け入れる姿を「滑稽」と評し、マリアも薄笑いを浮かべて同意していた。
毒水への耐性とモンスター肉のアピール
イーリス軍が毒を投じた井戸についても、ファルーン軍はモンスターの肉で培った毒耐性を活用し、問題なく対応していた。オグマたちは毒水を民衆の前で飲み干し、その行動がモンスター肉の受容を後押ししたと報告した。焦土作戦は結果としてファルーン軍の宣伝効果を高める結果となった。
民衆の依存とファルーンの支配力
最後にマリアは、イーリスの民がモンスターの肉なしでは生きられなくなったと笑いながら述べた。ゼロスはその発言を否定したかったが、状況的に何も言えなかった。焦土作戦は、イーリス国の民衆を逆にファルーンの影響下に引き込む結果となっていた。
2.アサシンとメイド
暗殺計画の始動と潜入
各地から集まったアサシンたちは、イーリスが用意した巨額の報酬を目当てにファルーン王城への潜入を開始した。彼らは青の騎士団と第三妃カサンドラの存在を警戒しつつも、成功率を高めるため協力し合い、王城内部への侵入に成功した。使用人に扮した仲間の案内で奥の間へと進んだが、その先に待ち構えていたのは異様な雰囲気を纏った一人のメイドだった。
ヴィオの圧倒的な実力
アサシンたちが仕掛けた攻撃を、メイドのヴィオは軽々と捌いた。彼女は二本のショートソードを駆使し、圧倒的なスピードと技術でアサシンたちを瞬く間に蹂躙した。さらに毒刃をものともせず、次々とアサシンを仕留めていく様子は、見る者を恐怖させた。ヴィオは過去にアサシンとして活動していたが、今では第三妃カサンドラ直属のメイドとして忠誠を誓う存在となっていた。
青騎士団の介入とアサシンの壊滅
奥の間でヴィオがアサシンたちを追い詰める中、扉の外には青の騎士団が待ち構えていた。団長ブレッドの指揮の下、アサシンたちは逃げ場を失い、全滅させられた。今回の侵入作戦は、実はカサンドラの「メイドの力試し」のために泳がされていただけであり、アサシンたちの努力は最初から無駄だったと判明した。
ヒルダとの日常とファルーンの恐怖
戦いを終えたヴィオは、報告のためカサンドラの部屋を訪れた。そこで待っていたのは、娘ヒルダの驚異的な力だった。幼児とは思えない圧倒的な力を持つヒルダの世話は、ヴィオにとってアサシンとの戦い以上に緊張を強いるものであった。ヒルダの存在やファルーンの妃たち、そして国全体の異常な強さに触れることで、ヴィオは自分がこの国に飲み込まれていくことを実感した。
ファルーンの本質とその強さ
ヴィオは、ファルーンが法治国家の表向きの姿を持ちながらも、実際には力で支配された国家であることを理解していた。妃たちの存在や次世代の子供たちの圧倒的な能力により、この国は他国とは異なる形で安定していた。彼女はファルーンの内部に染まりつつ、その異質さに戦慄していた。
3.リンド平原の戦い
イーリス王の焦土作戦の失敗
王都ガーデンに戻ったイーリス王は、防衛を固め籠城策を採用した。しかし、ファルーン軍は焦土作戦の影響を逆手に取り、モンスターの肉を住民に普及させた。住民たちは食糧不足からそれを受け入れ、イーリス領内ではモンスターの肉への忌避感が薄れつつあった。この事態にイーリス王は驚愕し、作戦の裏目を嘆いた。
出撃の是非を巡る貴族たちの対立
籠城を続けるか、出撃するかで貴族間の意見は割れた。焦土作戦を提案したブルーム伯は籠城を続けるべきだと主張し、一方でヴォルフ伯は内部崩壊を防ぐため早急な出撃を提案した。両者の対立が深まる中、若きゴドウィン伯が新たな提案を持ち出した。
クロスボウの提案と作戦採用
ゴドウィン伯は、自領で開発した特製クロスボウを用いた戦術を提案した。この武器は威力が高く、接近戦で有効であると説明した。彼の作戦はブルーム伯とヴォルフ伯の双方を納得させ、イーリス王もクロスボウ部隊の編成を命じた。こうしてイーリス軍は野戦を決断し、ファルーン軍との決戦に向け動き出した。
リンド平原の戦い
イーリス軍とファルーン軍はリンド平原で激突した。ファルーン軍は黒の騎士団、赤の騎士団、ハンドレッドを中心に突撃を試みたが、クロスボウ部隊の攻撃によって多くの損害を被った。クロスボウの高威力と集中運用による戦術はファルーン軍にとって予想外の脅威であり、騎兵部隊が撤退を余儀なくされた。
ハンドレッドの苦戦とイーリス軍の追撃
中央ではオグマ率いるハンドレッドが突撃を試みたが、クロスボウと魔法攻撃の集中砲火により足止めされた。退却を試みたハンドレッドだったが、ゴドウィン伯率いるイーリス軍の追撃を受け、苦戦を強いられた。徒歩での移動が仇となり、ファルーン軍は甚大な被害を受ける結果となった。
イーリス軍の勝利の兆し
クロスボウを中心とした新戦術は、ファルーン軍にとって予想外の成果を上げた。圧倒的な兵力差と新兵器の活用により、イーリス軍は戦局を優位に進めつつあった。ファルーン軍の損害は過去に例を見ないものであり、この戦いはイーリスにとって大きな転機となる兆しを見せた。
戦場での危機と苦境
ハンドレッドがイーリス軍のクロスボウに苦戦し、戦場は壊滅的な状況に陥った。黒の騎士団と赤の騎士団は退却を始め、ハンドレッドの戦士たちは次々と倒れた。戦場を見守っていたマルス王は、彼らを救うため前線に飛び込み、魔力障壁を駆使して敵の攻撃を防ぎながら、イーリス軍を退けた。
マリアの舞とハンドレッドの復活
ハンドレッドの戦士たちが重傷を負う中、マリアが戦場で神聖な舞いと祈りを捧げた。その結果、神々しい光が戦場を包み、瀕死のハンドレッドたちが奇跡的に回復を果たした。マリアの祈りにより、傷が癒えた彼らは再び立ち上がり、戦意を取り戻した。
マルス王の叱責とハンドレッドの決意
マルス王は、慢心が敗北を招いたとしてハンドレッドを叱責し、彼らに帰還を命じた。しかし、マリアの巧みな言葉により、ハンドレッドたちはこれを試練と解釈し、自らの力を示すため戦場でさらなる奮闘を決意した。虚ろな目で武器を握る彼らは、以前とは異なる狂気と執念に満ちていた。
オグマたちの再集結
オグマやアーロンら「始まりの5人」も合流し、再び戦いに挑む意志を固めた。彼らはマルス王の意図を誤解し、恐怖を克服することが試練だと信じ込んでいた。その異様な執念と戦意は、彼らを恐怖から解き放ち、戦場における新たな脅威となっていた。
戦場の結末と不穏な予兆
ハンドレッドたちの復活と執念により、戦場は再び動き始めた。彼らの狂気じみた行動に、マルス王は言葉を失いながらも、戦いの行く末に不安を抱いていた。戦場の結末は、さらなる混乱と対立を予感させるものであった。
復活するハンドレッドの猛威
倒れたはずのハンドレッドたちは復活し、全身に傷を負いながらも突撃を続けた。クロスボウ隊の猛攻を物ともせず、矢を受けた身体を血で染めながら進撃する姿は、人ではなく悪鬼そのものであった。この異様な光景に、イーリス軍の兵士たちは恐怖し、一部は武器を捨てて逃げ出した。指揮官の制止も虚しく、ハンドレッドたちは敵兵を容赦なく討ち取った。
乱戦とハンドレッドの脅威
ハンドレッドの突撃により戦場は混乱し、イーリス軍は至近距離での戦いに引き込まれた。この間合いこそハンドレッドたちの得意とする領域であり、負傷した彼らは手負いの獣のように暴れ回った。もはやその姿は人間の枠を超え、モンスターの群れと化していた。ゴドウィン伯は兵力差を活かして形勢を逆転しようと試みるも、次第に戦場全体がハンドレッドの狂気に飲み込まれていった。
黒の騎士団の介入とゴドウィン伯の死闘
ゴドウィン伯の部隊を狙い、傷を癒した黒の騎士団が突撃を開始した。クロム率いる騎士団は勢いを取り戻し、ゴドウィン伯の精鋭部隊を次々と打ち倒した。身体強化の術を駆使して対抗するゴドウィン伯も、クロムの力に押され次第に劣勢に追い込まれた。激しい一騎打ちの末、ゴドウィン伯は敗北し、戦死を遂げた。
イーリス軍の敗退とハンドレッドの覚醒
ゴドウィン伯の死とクロスボウ部隊の壊滅を契機に、イーリス軍は総崩れとなった。「もうこんな連中と戦いたくない」と叫びながら撤退する兵士たちは、ファルーン軍の恐怖を刻み込まれていた。リンド平原の戦いは、ファルーンに多大な被害を与えたが、ハンドレッドたちをさらに強固な存在へと変貌させる結果に終わった。
4.臣下の覚悟
ハンドレッドの狂気とマリアへの崇拝
ハンドレッドたちは戦いの興奮から雄叫びを上げ、その様子はもはや人ではなく野獣に近かった。戦いで致命傷を負った者たちも、マリアの祈りと回復魔法によって癒され、彼女への崇拝を深めていた。マリアは疲労を見せつつも満足げであり、その瞳にはファルーンの野望を成し遂げようとする強い意志が輝いていた。一方、彼らを率いるマルス王は、ハンドレッドたちの血に飢えた目を見て彼らの止められない狂気を悟り、やむなく進軍を決断した。
イーリス王の苦悩と敗北の原因
一方、王都ガーデンに戻ったイーリス王は、敗北に肩を落としていた。撤退の過程で兵の半数以上が離脱し、その多くはファルーンに降伏すると見られていた。敗因の一つは聖女マリアの存在であり、イーリス王は彼女の力を軽視したことを後悔していた。マリアがファルーン側についていることで、イーリス内部や周辺諸国の支持を失い、孤立が深まっていた。さらに、ファルーン軍が見せた奇跡的な回復と反撃により、士気も地に落ちていた。
臣下たちの沈黙とフラウへの恐怖
軍議の場では、主戦派であるヴォルフ伯や籠城派のブルーム伯も沈黙を貫いていた。彼らはファルーンの圧倒的な力を前に、抵抗が無意味であると理解していた。特に、マルス王の妃フラウ率いる魔導士団の存在が、臣下たちに深い恐怖を与えていた。彼女の非道な戦術や魔力は、過去にイーリス王宮を恐慌に陥れた記憶を呼び起こし、戦意を奪っていた。
降伏か亡命か、イーリス王の決断
追い詰められたイーリス王は、降伏を口にし、無駄な抵抗を避ける意向を示した。しかし、ブルーム伯はファルーンの体制が長続きしないと主張し、王家の存続を最優先に考えるべきだと説得した。彼の提案により、イーリス王は亡命し、再興の機会を待つことを決断した。臣下たちはその間、時間を稼ぐために城と運命を共にする覚悟を示した。
覚悟と別離の中での出発
臣下たちの献身的な姿勢を前に、イーリス王は自らの非力さを痛感しつつも、未来のために亡命の道を選んだ。その別れは悲痛であったが、彼らの犠牲が新たな希望を生む礎になると信じ、王は重い足を進めていった。
5.最後の戦い
王都ガーデンの防衛とファルーン軍の動き
王都ガーデンは堅牢な城壁に守られた巨大な城塞都市であり、ファルーン軍にとって容易に攻め落とせる場所ではなかった。マルス王は兵士たちに攻撃を控えるよう指示し、状況を静観する構えを見せていた。一方、イーリス軍は籠城戦に備え、戦力を整えていたが、士気の低下が顕著であった。
マルス王の和平への模索
ファルーン軍を率いるマルス王は、正面からの攻城戦を避ける考えを持っていた。ハンドレッドの強力な戦力を温存しつつ、敵の出方を待つ姿勢を取った。しかし、同時にマリアを利用してモンスターの肉の普及を進め、イーリスの西部地域に影響力を広げる計画を進めていた。
イーリス軍の出撃と三伯の決意
イーリス軍は籠城に限界を感じ、ついに東門と西門から軍勢を送り出した。その指揮を執ったのは、イーリスの「三伯」として名高いブルーム伯とヴォルフ伯であった。彼らは悲壮な覚悟を持ちながら、ファルーン軍に対して挟撃を試みた。出撃前に、家族と別れを済ませるよう命じた彼らの姿勢は、兵士たちの士気を一時的に高めた。
東門の戦いとブルーム伯の奮闘
ブルーム伯が率いる軍は、ファルーンの黒の騎士団と赤の騎士団に遭遇した。ワーレン率いる赤の騎士団の猛攻により、イーリス兵たちは次々と倒され、ブルーム伯も自ら剣を手に立ち向かった。彼は必殺の剣技「閃光」を繰り出し、ワーレンに傷を負わせたが、決定打とはならなかった。ワーレンの反撃を受け、ブルーム伯は戦死した。
西門の戦いとヴォルフ伯の最期
西門では、ヴォルフ伯がハンドレッドの戦士たちを迎え撃っていた。彼は剣技「巨刃」を駆使して多くの敵を倒し、イーリス軍に一時的な勢いを与えた。しかし、ハンドレッドの頂点に立つオグマとの対決で、彼の身体は深手を負った。それでもヴォルフ伯は剣を地面に突き立て、最後まで戦場に立ち続けた。その姿に敬意を抱いたオグマは、彼を避けて他のイーリス兵たちへと進撃を続けた。
戦場の混乱とファルーン軍の優位
イーリス軍の奮闘は一時的なものであり、ファルーン軍の強力な個の力によって次第に押し返された。ブルーム伯とヴォルフ伯という二人の名将を失ったことで、イーリス軍の士気は崩壊しつつあった。ファルーン軍はさらに優勢を確立し、王都ガーデンを完全に包囲する形となった。
6.イーリスの落日
イーリス王の逃亡と飢え
イーリス王は家族とともに荷馬車に隠れ、王都ガーデンを脱出した。屈辱的な逃走であったが、臣下たちの犠牲によって得た機会であり、彼は西方の友好国を目指した。荷馬車には王家の宝物や金品が積まれていたが、食料や水が不足していた。王族たちは贅沢に慣れ、節制を知らず、食料は早々に尽きてしまった。忠誠心の高い騎士は、近隣の村で食料を調達しようと試みた。
奇妙な村人たちとモンスターの肉
騎士が訪れた村では、村人たちが不自然に怪しい態度を見せた。話を持ちかけた村人が差し出したのはモンスターの肉であった。騎士は不気味な状況に警戒を強めたが、村人たちに囲まれて身動きが取れなくなった。さらに、ハンドレッドの戦士カレンが現れ、騎士の右腕を斬り落とし、イーリス王の逃亡を阻止した。
イーリス王の捕縛と村人たちの怒り
イーリス王は荷馬車から引きずり出され、村人たちによって非難を浴びせられた。村人たちは、イーリスの政策がモンスターの肉を広めた結果、自分たちが強制的にその肉を食べさせられたと訴えた。王は自らの正義を主張しようとしたが、村人たちに力で黙らされ、モンスターの肉を無理やり口に詰め込まれた。
マリアとカレンの対話
遠くから一部始終を見ていた聖女マリアは、イーリス王の家族に同情を示した。しかし、カレンはマリアの甘さを諫め、イーリスの王族を滅ぼす必要性を強調した。マリアは悲しみを抱えつつも、イーリスを救うための決断を固めた。
ヴォルフ伯の復活とマリアの提案
戦場で傷ついたヴォルフ伯は、マリアの癒しによって命を救われた。マリアはイーリスの民を守るため、ヴォルフ伯にファルーンの統治を受け入れるよう提案した。ヴォルフ伯は一度は断ったが、最終的に新たな統治者としてマリアを推し、彼女を支える立場を選んだ。
マリアの計略と未来への布石
マリアは自ら統治者としてイーリスを導く覚悟を決めた。彼女はマルス王の意図を理解し、その計画を実行に移していた。マリアはイーリスの再建に向けて、自らの地位を固め、民衆からの支持を得るために行動を開始した。その裏には、マルス王の壮大な野望が息づいていた。
7.マーヴェ教国の政変
マーヴェ教皇の静かな覚悟
教皇はイーリス王やバルカン王、そしてマトウ師の最期を思い起こし、ファルーンの脅威を改めて実感していた。彼は、自身の判断が正しかったと安堵しつつ、力による支配には限界があると確信していた。ファルーンの隆盛が一時的であると見込み、耐え忍びながらマーヴェ教国の未来を託すことを決意していた。
カイムの乱入
外からの喧騒が教皇の静寂を破った。現れたのは聖騎士団の副団長カイムであり、数名の騎士を引き連れていた。彼らは教皇を非難し、特にマリアを聖女に任命しなかったことを問題視した。カイムは教皇の行動が教団の腐敗を招いたと断じ、さらにマリアの処遇がファルーンとの戦争を引き起こしたと主張した。
カイムの反逆
カイムは教皇を追及し、剣を抜いて教団上層部の粛清を宣言した。教皇は反論したが、聖騎士団に裏切られたことで抵抗は叶わず、教皇は失脚した。これにより、マーヴェ教国は聖騎士団の手に落ちた。
マリアの聖女認定と新体制
聖騎士団は暫定的な評議会を設立し、マリアを正式に聖女に任命した。そして、後継の教皇としてマリアを指名し、教国の再建を進めることを決定した。この動きは、ファルーンと教団双方の利益を反映したものであった。
8.マーヴェにて
マリアの計略とカイムの反乱
マーヴェ教国の教皇が聖騎士団に拘束された報告を受け、マリアは天幕で嘆き悲しむ様子を装った。しかし、実際にはこの反乱をマリアが裏で唆していたことを知る者もいた。彼女は反乱を利用して教皇を失脚させ、自らの地位を固める計画を練っていた。一方、マルス王はマリアの策略に乗らざるを得ず、教皇を反逆者とすることで事態を収拾しようとしていた。
ガーデン攻略を避けた判断
イーリス王都ガーデンの攻略が議題に上がったが、マルス王は戦力的リスクを考慮して攻城戦を避ける方針を示した。代わりに、マーヴェ教国へ赴き、マリアを教皇に据えることでイーリスを間接的に掌握する戦略を提案した。これにより、無理な攻撃を回避し、次なる段階への準備を整える決断がなされた。
マーヴェ教国での歓迎と教皇救出
マーヴェ教国に到着したマルス王とマリア一行は、聖騎士団の熱烈な歓迎を受けた。特にマリアは民衆からの支持も厚く、彼女の人気が際立っていた。マリアは教皇の監禁を憂うふりをしつつ、聖騎士団に教皇の解放を求め、カイムらはその意向に従った。教皇との対面が実現するが、教皇は憔悴しつつも自身の無力さを認め、権力者への不信感を表明した。
教皇とマリアの対話
教皇は自らの過ちを反省しつつも、宗教と権力の関係性を説き、マルス王を含む外部の干渉を警戒していた。これに対し、マリアは「マルス王はマーヴェ教の上に立とうとしているのではなく、教えの下に入ろうとしている」と教皇に語りかけた。この発言は、マリア自身の計略の一端を示唆するものであった。
9.新教皇
マリアの教皇即位とファルーンとの停戦
マリアの計略と教皇の指名
マリアはカイムら聖騎士団の反乱を利用し、教皇を失脚させる計画を進めていた。彼女の巧妙な発言により、教皇は自らの過ちを認め、マリアを聖女として認定するとともに次期教皇に指名した。マリアは謙虚な態度を見せつつその地位を受け入れ、教皇の後継者として正式に認められた。
マリアの狡猾な立ち回り
マリアはマルス王に「子供ができた」と囁き、彼を動揺させることで自分の計略をさらに進めた。マルスがマリアの発言に困惑している間に、教皇やカイムら聖騎士団を利用して、自らの権威を高める状況を作り上げた。結果として、マリアは民衆や教団の全面的な支持を得て、教皇としての地位を確立した。
イーリスでの和平議論と停戦
マリアが教皇に即位した知らせは周辺諸国に瞬く間に広まり、特にイーリス国内に大きな波紋を呼んだ。王と三伯を失ったイーリスは内部で和平派と抗戦派に分かれたが、最終的にマリアに仲裁を依頼する使者を送る決定が下された。マリアはこれを快諾し、ファルーンとイーリス双方に無条件の停戦を提案した。
戦争の終結とマリアの統治
ファルーン側のマルス王は戦争継続を望んでおらず、マリアの停戦提案を受け入れた。イーリス側も停戦に合意し、長きにわたる戦争は終結を迎えた。この結果、マリアの権威はさらに高まり、イーリス国内では彼女による統治を求める声が次第に強まった。
10.シーラの憂鬱
バルカンの反乱とフラウの非道
シーラの反乱軍と国王派の対立
シーラ率いる反乱軍は、バルカン国王派と激しく対立していた。反乱軍の主体はハンドレッド・バルカン支部であったが、数は少なく、貴族の多くは国王派についていた。王都トラキアを制圧するも、国王派に包囲され、防戦一方の状況であった。
フラウの強硬な行動
フラウはイーリスから帰還するバルカン国王の軍勢を森ごと焼き払った。この行為により、国王派はほぼ壊滅状態となったが、その非道さが遺族や貴族たちの義憤を招き、反乱軍の立場を不利にした。結果として、バルカン国内の反乱軍支持はほぼ失われた。
シーラの苦悩と決意
シーラはフラウの強硬な行動による犠牲の多さに頭を悩ませていた。ファルーンの拡大においてフラウの影響力が大きいと感じつつも、そのやり方に問題を感じていた。シーラは、力や恐怖だけでは人はついてこないと考え、フラウに直接諫言することを決意した。
魔導士団との接触
シーラはフラウが率いる魔導士団の広間を訪れた。そこにはフラウの他に、キーリ、ミカ、ノーアといった幹部たちが集まり、魔法の議論を交わしていた。その内容が「効率的な殺戮方法」であったことに、シーラは大きな衝撃を受けた。
フラウとの対話
シーラはフラウに話しかけると、周囲の幹部たちは無言で部屋を後にした。フラウは無表情でシーラを見つめるが、その姿は人形のように美しく、シーラは一瞬言葉を失った。しかし、気を取り直してフラウに向き合い、戦いにおける行き過ぎた行動を控えるよう諫言する決意を固めた。
11.シーラとフラウ
バルカンの反乱とフラウの非道
シーラの反乱軍と国王派の対立
シーラ率いる反乱軍は、バルカン国王派と激しく対立していた。反乱軍の主体はハンドレッド・バルカン支部であったが、数は少なく、貴族の多くは国王派についていた。王都トラキアを制圧するも、国王派に包囲され、防戦一方の状況であった。
フラウの強硬な行動
フラウはイーリスから帰還するバルカン国王の軍勢を森ごと焼き払った。この行為により、国王派はほぼ壊滅状態となったが、その非道さが遺族や貴族たちの義憤を招き、反乱軍の立場を不利にした。結果として、バルカン国内の反乱軍支持はほぼ失われた。
シーラの苦悩と決意
シーラはフラウの強硬な行動による犠牲の多さに頭を悩ませていた。ファルーンの拡大においてフラウの影響力が大きいと感じつつも、そのやり方に問題を感じていた。シーラは、力や恐怖だけでは人はついてこないと考え、フラウに直接諫言することを決意した。
魔導士団との接触
シーラはフラウが率いる魔導士団の広間を訪れた。そこにはフラウの他に、キーリ、ミカ、ノーアといった幹部たちが集まり、魔法の議論を交わしていた。その内容が「効率的な殺戮方法」であったことに、シーラは大きな衝撃を受けた。
フラウとの対話
シーラはフラウに話しかけると、周囲の幹部たちは無言で部屋を後にした。フラウは無表情でシーラを見つめるが、その姿は人形のように美しく、シーラは一瞬言葉を失った。しかし、気を取り直してフラウに向き合い、戦いにおける行き過ぎた行動を控えるよう諫言する決意を固めた。
12.シーラの実力
バルカンの制圧とシーラの活躍
シーラとフラウの対峙
シーラはフラウの軽率な魔法使用を諫めるべく剣を抜き、戦闘を挑んだ。フラウは無詠唱で雷を放つも、シーラは双剣でそれを斬り伏せた。続けてフラウの部下であるキーリ、ミカ、ノーアも魔法で援護したが、シーラは全ての攻撃を完璧に防ぎ、フラウの首筋に剣を突きつけた。フラウの驚きにも関わらず、シーラは自らの実力を示し、彼女を完全に封じ込めた。
ヤマトの登場とフラウの部下たちの無力化
フラウの部下たちが魔法で支援を試みる中、護衛のヤマトが現れた。彼はシーラの剣技を称賛しつつ、フラウの部下たちを抑え込む形となった。この結果、フラウは完全に孤立し、シーラの追及を受ける状況に追い込まれた。
シーラの交渉術とバルカン制圧
フラウを封じたシーラは、冷静に戦いを収める方針を打ち出した。彼女はフラウの魔導士団を指揮下に収め、国王派を効率的に降伏させることに成功した。死者を最小限に抑えた上で、平和的な形でバルカンを制圧した。
マルスへの報告と重臣たちの驚嘆
バルカンの制圧完了の報告を受けたマルスは、シーラの実力を当然のものとして受け止めた。一方、ファルーンの重臣たちは、彼女が持つ冒険者としての高い戦闘能力と、その成果に驚きを隠せなかった。これにより、バルカンの平定はファルーンに新たな勢力をもたらすこととなった。
マルスの内心の複雑さ
重臣たちが歓喜する中で、マルスはバルカンの併合に対する意欲を欠いていた。彼にとって、バルカンは重要ではなく、シーラの活躍がもたらした結果に複雑な思いを抱えていた。
13.カーミラとシャーリー
ドルセン防衛とカーミラの変化
ドルセンの現状とカーミラの退屈
カーミラはドルセンの防衛に専念しており、イーリス侵攻には加わらなかった。これはドルセンの国力が回復しておらず、兵力不足が深刻だったためである。国内の政治と軍事は、官僚やハンドレッドの支部に任せ、将来に備えていた。かつての傲慢さを失ったカーミラは、豪奢を嫌い、子レオンへの愛情からドルセンの発展に尽力していた。
イーリス併合の報告
直属の部下シャーリーから、イーリスがマーヴェ教国に併合されたとの報告が届いた。これはカーミラにとって想定内の出来事であったが、想定よりも早い進展に少し驚いていた。報告によれば、マリアの仲介によりファルーンとイーリスの和平が成立し、その後イーリス内部でマーヴェ教国への帰属運動が起こり、最終的に併合へと至った。
併合の裏に潜む陰謀
マリアが暴漢に襲われた事件をきっかけに、反対派貴族が力を失い、併合が加速したとの報告を聞いたカーミラは、その背後に誰が絵を描いたのか推測を始めた。彼女は夫マルス、フラウ、もしくはガマラスの可能性を挙げたが、シャーリーはマリア自身の関与も示唆した。マリアの過去の行動やモンスターの肉普及活動から、彼女が清廉な聖女であるという表向きの評価を疑問視していた。
カーミラとシャーリーの対話
カーミラはマルスが妻や側近を力で選んでいることを再確認し、自分がその中に選ばれた幸運を認識した。一方、かつて妃候補であったシャーリーに、現在も妃になりたいのかと尋ねたところ、彼女は「耐えられない」と答えた。その返答に、カーミラは苦笑し、二人の間に微かな共感が生まれていた。
capture.2
blowin in the wind
14.帰郷
ファルーンへの帰還と新たな統治体制
ファルーン軍の凱旋
イーリスから戻ったマルス率いるファルーン軍は、民衆から熱烈な歓迎を受けた。闘技場での戦いを熱望する声が響き渡り、国民の戦闘嗜好が強調される場面であった。イーリスとマーヴェ教国は併合され、イーリス聖王国が誕生したが、その実態はファルーンの属国同然であった。
新体制の確立
マリアはガマラスの官僚たちを歓迎し、イーリスの統治に協力的であった。ガマラスは法治政治を広めることに喜びを感じており、カドニアのニコルを後継者と見なしていた。カドニアを中心に、ファルーンの施策が周辺国へ広がる体制が構築されつつあった。
国内外の発展
ファルーン領内では、転移魔法施設「ゲート」が活用され、各地への移動が容易になった。フラウが直轄するキエル魔道国では、魔法研究がさらに自由化された。一方、バルカンはシーラとマルスの子が次期王となる予定で、国々は順調に発展を遂げていた。
西側諸国の動きとマルスの決意
西側諸国が「モンスターの肉禁止令」を公布し、珍しい統一行動を見せた。この知らせにマルスは興味を示し、西側への視察を決意した。彼は変装用の魔法使いローブを身にまとい、長期滞在の準備を整えた。
旅の準備と期待
ガマラスの協力で準備が進み、マルスは視察の目的を「西側諸国の偵察」と説明したが、真の目的は「普通の食事を楽しむこと」であった。撲殺用とも思える杖を受け取ったマルスは、自身の力が過剰に評価されていることを改めて実感しつつ、旅の準備を完了させた。
15.西へ
冒険者としての旅立ち
西への旅と変装
マルスはワイバーンのエアに乗り、西側諸国への視察に出発した。ゲートを使わず森の中へ向かったのは、マリアに見つかるのを避けるためである。冒険者を装いながら徒歩で移動し、魔法使いらしい恰好を整えて旅を始めた。
遭遇した冒険者たちと助太刀
道中、森の中で冒険者たちがブラッドベアと戦っている場面を目撃した。彼らは劣勢に立たされており、マルスは試しに初級魔法を使うことにした。しかし予想以上の魔力でモンスターを圧倒し、冒険者たちを助ける結果となった。剣士のカイラン、斧使いのダリオン、僧侶のベリンダと出会い、マルスは「マルキス」と名乗り、彼らのパーティー「暁」に加わることになった。
冒険者たちとの交流
カイランは金髪碧眼の剣士で、自己主張が強くよく喋る男である。ダリオンは力自慢の戦士で実直な性格を持ち、口数は少ない。僧侶のベリンダはそばかすのある穏やかな女性で、パーティーの癒し役であった。彼らと馴染みながらも、マルスは自らの身元を慎重に隠して行動した。
モンスターの肉の目的
カイランたちが森でブラッドベアを狩っていた理由を尋ねると、彼らは「モンスターの肉を食べるため」と答えた。普通では毒性があるため利用価値がないはずのモンスターの肉を食べるという発想に、マルスは驚きを隠せなかった。
16.暁
モンスターの肉の秘密と冒険者たち
モンスターの肉を食べる理由
カイランたちは、モンスターの肉を食べることで強くなれるという話を信じ、冒険者としての成長を目指していた。彼らはイーリスでの普及の話を聞きつけ、自ら実践していた。しかし、その肉は不味く、毒性があるため、多くの者が手を出さない食材でもあった。カイランはモンスターの肉を食べ続けることを仲間に強要し、これが成長への近道だと説いていた。
マルキスの秘密が明らかに
仲間たちからの執拗な問いかけにより、マルキス(マルス)の持っていたカバンから、彼専用のモンスターの干し肉がこぼれ落ちてしまう。この肉の異様な色合いから、彼が既にモンスターの肉を食べ続けていることが露見した。彼は咄嗟に「ファルーンへの復讐のために食べ始めた」と嘘をつき、仲間たちを納得させた。
新たな仲間としての絆
マルキスの過去の苦悩を知ったカイランたちは、彼への誤解を解き、むしろ「魂の絆」を感じて受け入れた。ベリンダは彼の右手を取り、優しく励まし、カイランは「出会う前から仲間だった」と感動的な言葉を口にした。しかし、マルキスは心の中で困惑しつつも、彼らの仲間として行動せざるを得なくなった。
17.冒険者
冒険者登録への道
暁との旅と目的地への到達
マルスはなりゆきで暁の一員となり、西側諸国を目指すことになった。暁の目的地は最西端のトリノ国で、ファルーンからの影響を避け、冒険者としての仕事を確保するためであった。旅の途中、カイランたちはモンスターの肉を食べて強くなろうと試みたが、その不味さと毒性に苦しめられていた。一方、マルスは持参した干し肉を消費しながら旅を続け、やがて西側諸国の玄関口であるレイエス国の大きな街に到着した。
冒険者ギルドでの登録手続き
カイランに案内され、マルスは冒険者ギルドで魔法使いとして登録することを目指した。受付嬢に案内され、魔法使いとしての経験を問われると、マルスはキエル魔道国での研究者であったと偽った。その結果、高いランクで登録できる可能性があると告げられ、審査官との面談に進むことになった。
審査官との対面と予期せぬ展開
審査官は禿頭で眼帯をした威圧的な人物であり、挑発的な態度でマルスを試した。審査官の挑発に応え、マルスは軽く拳を振ったつもりであったが、その一撃で審査官を床に叩きつけてしまった。力加減を誤ったマルスは動揺したが、審査官は彼の身体能力を見て「魔法使いではなく、力に適性がある」と断言し、格闘家としての登録を強く勧めた。しかし、マルスは魔法使いとして登録する意志を貫いた。
非公開の適性試験への挑戦
審査官はマルスを適性試験へと案内した。この試験は非公開で行われるため、仲間のカイランたちも詳細を知らなかった。激励を受けたマルスは審査官の後に続き、未知の試験に臨むこととなった。冒険者としての適性がどのように判断されるのか、マルス自身も不安と期待を抱えていた。
18.ランクテスト
冒険者ギルドでの試験と思わぬ結果
審査官の試験と巨大な岩の課題
審査官はマルキスを試すため、ギルド中庭にある巨大な岩を見せつけ、「魔法で破壊できなければ、魔法使いとしての才能はない」と挑発した。この岩は、これまで誰一人として破壊した者がいない、ギルドの象徴的な存在であった。マルキスは軽い気持ちで火の魔法を試みたが、岩には傷一つ付かなかった。審査官は失望の表情を浮かべ、「やはり魔法使いとしての才能はない」と断じた。
風の魔法と意外な成果
しかし、マルキスはもう一つの魔法を試すことを提案し、杖を構えて風の魔法『ソニックブレード』を放った。この魔法と杖の強度を組み合わせた一撃で、岩は斜めに切断され、上部が地面に落下した。審査官はこの結果に茫然とし、マルキスを「Aランクの魔法使い」として認定しようと強く主張した。
ギルドマスターとの対面
審査官はマルキスをギルドマスターに引き合わせ、「Aランクの魔法使い」として認めるべきだと熱弁を振るった。ギルドマスターは最初は反対したが、マルキスの謙虚な態度と実力を見て最終的に合格を告げた。マルキスは控えめにランクを下げるよう提案したが、審査官とギルドマスターはその謙虚さこそがAランクにふさわしいと評価した。
「そよ風」の二つ名
ギルドマスターはマルキスに「そよ風」という二つ名を授け、新人の風の魔法使いとしての象徴とした。この名に対してマルキスは内心で不満を抱えながらも、冒険者としての新たな一歩を踏み出すこととなった。
19.Aランク
冒険者ギルドでの波乱と新たな旅路
不本意な昇格と冒険者たちの反発
マルキスは審査官により、無理やり Aランクの魔法使い として認定された。これにより、同じ Cランク の仲間であるカイランたちとの間に格差が生まれた。受付嬢がマルキスのランク昇格を公表したことで、他の冒険者たちから非難が集中した。疑念を抱いた冒険者たちは、力ずくでマルキスを試そうと詰め寄った。
思わぬ力の発揮と冒険者たちの後退
一人の冒険者が乱暴にマルキスのローブを引き剥がそうとしたが、反射的に杖で反撃した結果、一撃で倒してしまった。その後、次々と襲いかかる冒険者たちを「風魔法」と称して杖で撃退した。周囲はその威力に恐れをなし、最終的に冒険者たちは引き下がったが、マルキスは 魔法使いではなく棒術使い として認識されてしまった。
「そよ風」の二つ名と仲間たちの疑念
審査官はギルドマスターから授与された「そよ風」という二つ名を披露し、事態を収束させたが、この名が周囲から微妙な反応を受けたことで、マルキスはさらなる居心地の悪さを感じた。その後、カイランたちと共にギルドを後にしたマルキスは、 「Aランクはまぐれ」と謙虚に振る舞うことで、仲間たちとの信頼を維持 した。
ハンドレッド情報の収集依頼
宿泊中、カイランはトリノ国への旅路で「ハンドレッドに関する情報収集」という依頼を受けたと明かした。ベリンダによると、西側諸国ではハンドレッドが密かに活動を広げており、各国がモンスターの肉禁止令を発令した背景にはハンドレッド対策があるという。マルキスは自分がハンドレッドのトップである事実を隠しつつ、情報収集という皮肉な依頼を受け入れることになった。
トリノ国への旅立ち
こうして、マルキスと暁の一行はハンドレッドの情報を集めながらトリノ国を目指すことになった。しかし、マルキスは 自分の組織の動向を調査するという矛盾 に困惑しながらも、旅を続けることを選んだ。
20.ラズレ王国
ラズレ国でのハンドレッドとの接触
ラズレ国の風土とハンドレッドの情報
一行はレイエス国を抜けてラズレ国に入った。この国は西側独特の文化が色濃く、人々の楽観的な雰囲気や原色を多用した建物が特徴的であった。カイランはこの地でハンドレッドと接触する計画を明かした。ラズレ国ではハンドレッドへの加入が容易で、メンバー同士の戦いが観戦されるという独自の文化が広がっているとのことだった。
ハンドレッドの集会と異質な雰囲気
集会は森の中で行われており、一般人も見物できるほどオープンな場であった。観客は戦いに賭けをし、罵声を飛ばして応援するという賑やかながらもどこか後ろ暗い雰囲気を持っていた。参加者たちは刺青を入れた者が多く、アウトロー感が漂っていた。カイランとダリオンは情報収集のため、飛び入り参加を試みることになった。
カイランの挑戦と連戦の開始
二人はハンドレッドを仕切る 短髪の男(1位) に接触し、戦いへの参加を許可された。カイランは最初の相手である 50位 に勝利するが、次々と順位が上の相手が現れ、戦いは連戦となった。何度も戦い抜いたカイランは 45位 まで勝利したものの、体力が尽きて地面に座り込んでしまった。
1位の冷酷な要求とダリオンの覚悟
カイランの限界を見かねたダリオンが抗議したが、1位は冷たく次の戦いを続けるよう命じた。そして、ダリオンに対して「代わりに戦え」と挑発を加えた。その冷酷な視線に、ダリオンは答える決意を迫られることになった。
21.魔法使いの戦い方
ラズレ国のハンドレッドとの決戦
連戦の疲労と嘲笑
ダリオンは44位に辛勝したものの、続く43位との戦いでは疲労により敗北した。カイランも回復しておらず、2人は動けない状態であった。1位の男は彼らを嘲笑し、冒険者として自分たちを軽視していると非難した。さらに、カイランの言い訳を「嘘」と断じ、強烈な平手打ちを加えて意識を失わせた。
マルキスの登場と嘲笑
事態を収拾するため、マルキスが名乗り出た。魔法使いであると告げると、1位は嘲笑しながらも戦いを許可した。最初の相手である43位との戦いでは、マルキスは詠唱を続けながら杖を振るい、物理的に相手を倒した。観客たちは呆然とし、マルキスの「魔法の勝利」に困惑していた。
次々と続く対戦相手
続く42位も、同じく物理的な攻撃で倒した。3位との戦いでは、相手が呪文の詠唱を許すという条件で挑んだ。そこでマルキスは火の魔法を使用し、圧倒的な炎を生み出して勝利した。この結果、観客たちは彼が本物の魔法使いであることをようやく認めた。
1位との最終決戦
最後の相手である1位との戦いでは、激しい剣技と圧倒的な力で応戦された。1位は技術的には雑だが、力と速さに優れ、重力10倍の腕輪を装着していたマルキスでも劣勢に追い込まれる場面があった。隙を見て蹴りを見舞ったが、それすらもかわされたため、マルキスは本格的に魔法を使うことを決意した。
炎による決着
戦いの最中、マルキスは火の魔法を詠唱し、最後の一節と共に巨大な炎を放った。その炎は1位を包み込み、決着をつけた。この圧倒的な力の前に、観客とハンドレッドのメンバーたちはただ見守るしかなかった。
22.ミリオン
ミリオンとの遭遇とカルロスの敗北
カルロスの執念とミリオンの介入
マルキスの火の魔法で全身に大やけどを負ったカルロスは、それでもなお立ち上がった。彼は命を懸けて戦う覚悟を示したが、杖を振り上げるマルキスの前に、突如ミリオンと呼ばれる男が現れた。ミリオンはカルロスに敗北を認めるよう説得し、カルロスは悔しさを滲ませながらも降伏した。
ミリオンとの対話と驚愕の計画
ミリオンはマルキスをゼロスと呼び、彼の正体を見抜いていた。そして、自分たちミリオンが西側諸国をハンドレッドの支配下に収める計画を進行中であると告げた。さらに、イーリス浄化計画を称賛し、ゼロスの活動がミリオンの期待を超えたものであると認めた。ミリオンの言葉から、彼らが各国で潜伏し一斉蜂起を企んでいることが明らかになった。
計画への反論と苦渋の決断
マルキスは、ミリオンの計画が非現実的であることを指摘したが、ミリオンはそれを肯定しつつもゼロスが導くべきと信じて疑わなかった。困惑するマルキスは、自分が冒険者であることを理由に明確な拒絶を避け、広場に戻ることを提案した。
カイランたちの新たな決断
広場に戻ると、カイランたちはカルロスや他のハンドレッドのメンバーと親密になり、ハンドレッドへの加入を決意していた。カイランはマルキスがトップである以上、自分たちもハンドレッドになるべきだと語り、魂の絆を強調した。予想外の展開に、マルキスは動揺を隠せなかった。
23.カルロス
カルロスの過去と飢え
刺激を求めた孤独な戦い
カルロスは退屈な日常に飽き、刺激を求めてモンスター狩りを始めた。最初は仲間と共に楽しんでいたが、強いモンスターを求めるうちに次第に孤独になった。それでも彼は自由を感じ、ひとりで戦い続けた。しかし、ある戦いで腹を裂かれ動けなくなったところを金髪碧眼の男、ミリオンに救われた。
ミリオンとの出会いと修行の日々
ミリオンはカルロスにモンスターの肉を食べて強くなる方法を教えた。カルロスは初め強いモンスターの肉を食べて死にかけたが、次第に弱いモンスターの肉から順応していった。その後、毎日のようにミリオンと戦い、ボコボコにされながらも楽しさと目標を見つけた。そして周囲に集まってきた戦いを求める者たちを仲間に引き入れ、互いに切磋琢磨することで力をつけていった。
ミリオンの去就とハンドレッドの結成
ついにカルロスはミリオンに勝利し、恍惚感と虚無感を同時に味わった。その後、ミリオンからハンドレッドの結成を提案され、カルロスはその単純で力を重視する掟に共感し、ラズレ国でハンドレッドを結成した。彼は自由を謳歌しつつも、ハンドレッドのリーダーとして新たな仲間を集め、力を求める日々を送った。
新たな提案と国を賭けた戦い
ミリオンが再び現れ、ラズレ国を乗っ取る計画を提案した。カルロスはこの提案を受け入れ、国の冒険者や密偵の妨害を排除しながら組織を拡大した。しかし、数を集めるだけでは満たされない違和感を抱いていた。そんなとき、東から冒険者の剣士と戦士が現れ、刺激的な戦いを求めてハンドレッドに挑んできた。
魔法使いとの思いがけない対峙
剣士と戦士を次々と下位のメンバーにぶつけ、真意を暴こうとするカルロスの前に、魔法使いの仲間が名乗りを上げた。戦う気のない顔をした魔法使いに、カルロスは舐められたと感じ、叩き潰すことを決意した。しかし、この出会いが彼の思惑を大きく揺るがすこととなる。
24.良いこと
ラズレのハンドレッドとの対峙と新たな旅立ち
ハンドレッドのトップに祭り上げられる
カルロスやミリオンの言葉により、マルキスはラズレのハンドレッドの1位にされてしまった。仲間たちから「そよ風」と称され、彼の実力と二つ名が場内で話題となった。カイランたちも状況を受け入れており、冒険者としての依頼やトリノ国行きの計画は宙に浮いてしまった。
「良いこと」を課題にする試み
マルキスはハンドレッドの暴力的な性質を変えるべく、メンバー全員に「1日1回、良いことをする」という課題を与えた。彼の意図は組織を平和的で社会的な存在に変え、暴力から遠ざけることであった。しかし、カルロスが「良いこと」を過剰に解釈し、メンバーたちは前向きに行動を始めた。だが、その解釈は明らかに暴力的で危険な方向へ向かっていった。
ラズレからの脱退を模索
マルキスは課題を通じて組織を弱体化させる計画を諦め、再びトリノ国へ向かう決意を固めた。仲間たちもマルキスが1位にふさわしくないと判断し、カルロスをリーダーとして推すことで一致した。ハンドレッドの暴力的な勢いは増していたが、マルキスはこれ以上関わることを避けるべきだと考えた。
トリノ国への旅路
ミリオンの助言もあり、マルキスたちはハンドレッドの集会を抜け出した。彼らは名残惜しそうに振り返るカイランたちを伴い、ラズレ国を後にした。マルキスはラズレの王国がハンドレッドの反乱に揺れる未来を予感しつつ、次なる目的地トリノ国へと向かった。
25.北の大陸
ロンザ帝国の歴史と南征計画
ロンザ帝国の成り立ちと農奴王の誕生
ロンザ帝国は、北方の厳しい環境の中で生まれた国である。長い大空位時代を経て、農奴が王として擁立され、暴力と恐怖で国を統一した。この農奴王は不死身と称され、ロンザ家の姓を名乗り国名もロンザに改めた。彼の支配の下、力がすべての秩序が築かれ、モンスターの肉を食べる風習が根付いた。
ロンザ帝国の拡大と内部の混乱
ロンザ帝は自ら先頭に立ち、軍隊を率いて周辺国を次々と侵略した。その軍勢は盗賊の群れのような実態であったが、力の強さにより北方の統一を果たした。しかし、南征を企てたロンザ帝国は内乱に直面し、広がった領土をまとめきれず、皇帝自身も晩年は反乱鎮圧に追われる日々を送った。
ウルグ人の登用と統治の安定化
ロンザ帝の後を継いだオウレイ皇帝は、母方のウルグ人を登用し、政治と経済の改革を進めた。ウルグ人の知識と美貌が宮廷を彩り、帝国の内政は安定に向かった。しかし、力を重視する統治方針は変わらず、恐怖による支配が続いた。
マトウの死と南征計画の議論
現皇帝ロンザ十二世の下、ロンザ帝国は再び南征を計画していた。中央の国々と対立してきたロンザ帝国にとって、雷の魔導士マトウの死は大きな転機であった。息子たち、リゲン、エゴール、イワノフがそれぞれ南征に名乗りを上げ、皇帝は彼らを中央に送り込むことで帝国の領土拡大を図ることを決定した。
南征の意図と後継者問題の解消
ロンザ十二世は南征を通じて、温暖な土地を手に入れると同時に、息子たちの不満を解消する意図を持っていた。力がすべてとするロンザ帝国の方針に従い、彼らを競わせることで次期皇帝の地位を盤石なものにしようと考えた。こうして、北の大国ロンザ帝国は中央への侵略を開始した。
26.ファールンの人々
ロンザ帝国の襲来とファルーンの対応
ロンザ帝国の侵攻と急報
マルスの不在を楽観視していたファルーンに、ロンザ帝国がバルカンとイーリスの北部から同時侵攻してきたとの急報が入った。両国は長年ロンザ帝国に備えていたため、北部の砦で動向を監視していたが、その防衛が突破されたことで危機が迫っていた。
王城での会議と戦況報告
王城では主要な臣下たちが集まり、状況を共有した。バルカンではシーラが出産を控え戦えず、ハルトら七星剣が苦戦していた。一方イーリスではマリアがロンザ帝国の皇子イワノフから和睦の提案を受けていたが、侵略が止まるとは信じられず悩んでいた。また、バルカンを侵略するエゴールは剛力の巨漢であり、七星剣も歯が立たない状況であった。
ロンザ帝国の軍事力と内情
ロンザ帝国の戦士たちはモンスターの肉を食べる風習を持ち、月に一度の摂取を儀式としていた。これが戦士たちの強さの源とされているが、ファルーンのハンドレッドとは異なり、肉を頻繁に食べることはなかった。また、御前試合が月に一度行われ、戦士の昇進や降格が決められていたことも明かされた。
カサンドラの正体とロンザ帝国の情報
ロンザ帝国の皇女だったカサンドラは、ロンザ帝国の内情を説明した。彼女はモンスターの肉を頻繁に食べ、戦場で敵を殺し続けた過去を誇らしげに語った。ファルーンの内通を疑われたが、その疑念は軽く払われた。
ファルーンの反撃計画
オグマがハンドレッドを率いてバルカンへ向かい、フラウとキーリ、ドルセン軍がイーリスへ向かうことで合意された。カーミラも前線に立つことを申し出た。一方で、カサンドラはロンザ帝国に戻り、父ロンザ十二世に孫を見せる意向を示した。
そよ風の冒険者の噂と不確定な脅威
ニコルが西側諸国で活躍する「そよ風」という冒険者に注意を促した。魔法使いなのか戦士なのか不明なその存在に対し、オグマやカーミラは軽視したが、ニコルは油断しないよう警告を発した。
結論と動き出すファルーン
ファルーンは迅速に反撃体制を整え、各地に戦力を派遣した。マルスの不在を補うための動きが本格化し、ロンザ帝国との対決が迫る中、各勢力がそれぞれの役割を果たそうとしていた。
EPILOGUE
西側諸国での旅と新たな戦い
西側諸国を巡る旅
マルキスはカイランたちと共に、西側諸国のハンドレッドを巡る旅を続けていた。どの地でも流れは似ており、初めは怪しまれ、戦闘を経て最終的にマルキスが1位となる形で収束していた。その結果、冒険者ギルドはマルキスを「ハンドレッドを鎮圧する英雄」として評価し、『そよ風』の二つ名が広まった。しかし、各地のハンドレッドが連携を模索するようになり、事態は悪化の兆しを見せていた。
ロンザ帝国の南征の噂
旅の途中で、ロンザ帝国が南征を開始し、ファルーンが狙われているとの噂を耳にした。マルキスは帰還を考えるも、迎えが来ないため、自分が不要とされているのではと不安を抱え、冒険者としての旅を続けることにした。かつてマトウが立ち上がりロンザ帝国を退けた歴史を思い出しつつ、ファルーンが自力で打倒できるか懸念を抱いていた。
トリノ国への到着とハンドレッドの情報
トリノ国に到着したマルキス一行は、賑わう港町で冒険者ギルドを訪れた。受付嬢から、この地のハンドレッドが荷役ギルドを中心に結成されていること、力自慢の者たちがモンスターの肉を摂取して勢力を増していることを聞かされた。さらに、港での乱暴な振る舞いに不満を抱く彼女の頼みにより、ハンドレッドへの対応を引き受けることとなった。
港での異様な決闘
ハンドレッドの集まりは港で行われており、男たちは素手で殴り合いを繰り広げていた。武器を持たず素手で戦うその光景は異様で、カイランとダリオンは参加を躊躇していた。マルキスは普段とは異なり、進んで戦いに挑むことを決意し、重力10倍の腕輪をつけたまま荒くれ者たちとの激闘に臨んだ。
ハンドレッドとの戦闘と勝利
マルキスは素手での格闘を得意としており、カサンドラから叩き込まれた技術を駆使して戦った。特にトリノ国の1位は鋭い蹴りを持つ強敵だったが、マルキスはその頑丈な体で最後には勝利を収めた。この戦いを通じて、剣や魔法とは異なる直接的な戦いの爽快感を味わった。
ファルーンへの帰還
戦いを終えた直後、フラウが転移魔法を用いて迎えに現れた。彼女からファルーンが苦戦していることを告げられ、マルキスはフラウの手を取り帰還を決意した。長い休暇を終え、マルキスはファルーンの王として再び責務に向き合うため、白い光に包まれながら帰路に就いた。
同シリーズ
モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件
同著者の作品
誰が勇者を殺したか
死霊魔術の容疑者
悪の令嬢と十二の瞳
その他フィクション
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