どんな本?
小説『極東救世主伝説 2 少年、北の地を駆ける。 ―極東ロシア救出編―』は、異世界ファンタジーのジャンルに属し、悪魔の侵攻に立ち向かう人類の戦いを描く物語である。
物語の概要
第二次世界大戦末期に行われた悪魔召喚の儀によって世界の在り様が一変し、それから100年が経過した世界。悪魔の大攻勢により九州が襲撃される中、魔装機体・御影一号機を操る少年・川上啓太は、多大な戦果を挙げる。異例の昇進を果たした啓太に与えられた新たな任務は、強化外骨格の新型開発であった。しかし、これは彼を疎んじる派閥の陰謀とも思える命令であった。この任務が新たな英雄の誕生を世界に示す戦いへと繋がっていく。
主要キャラクター
• 川上啓太:魔装機体・御影一号機を操る少年。異例の昇進を果たし、新たな任務に挑む。
物語の特徴
本作は、悪魔の侵攻により変貌した世界での人類の抵抗と、主人公の成長を描いている。特に、強化外骨格の新型開発という技術的挑戦と、それに伴う派閥間の陰謀が物語に深みを与えている。また、異世界ファンタジーでありながら、現実的な軍事戦略や政治的駆け引きが描かれており、他の作品との差別化が図られている。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2024年12月10日
• 価格:1,430円(本体1,300円+税)
・ISBN:9784040756912
• 電子書籍版も同時発売
• 関連メディア展開:特典付きの限定版が一部書店で販売予定
読んだ本のタイトル
極東救世主伝説 2 少年、北の地を駆ける。 ―極東ロシア救出編― 氏
著者 仏ょも 氏
イラスト:#黒銀 氏
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あらすじ・内容
その四腕が振るわれる時――北の地を襲う絶望は砕かれる。
九州を襲った悪魔の大攻勢で魔装機体・御影一号機を駆り多大な戦果を挙げた川上啓太。異例の昇進も果たし、国防の要としての任務が与えられることになるーーかと思いきや、上層部から舞い込んだのは、強化外骨格の新型開発。
御影を唯一自在に操れる機士である啓太に、歩兵用兵装の開発を命じるのは、彼を疎んじる派閥の陰謀としか思えない。
しかし、その時点ではまだ誰も知ることはなかった。それが新たな英雄の誕生を世界に示す戦いになるということを。
感想
四つ腕パワードスーツの変態挙動と開発の苦労
1巻で大暴れした、四つ脚の御影が見せた完成された動きにはなかったが、2巻は四つ腕パワードスーツの試行錯誤が描かれていた。
特に開発初期の失敗や苦労の過程が丁寧に描写され、完成後の戦闘シーンでは爽快感が増していた。
ただし戦果は小規模であったため、圧倒的な勝利とは言い難かった。しかし極東ロシアの要人救出に成功し、結果的に他国で騎士の称号を得た啓太は賞賛される。
また、敬意を込めて極東ロシアで「HENTAI」と呼ばれる異名を得たが、これが彼にとっては嬉しくない結果であった。
模擬戦の笑いと極東ロシアでの大暴れ
同期たちの提案で行われた模擬戦では、啓太が圧倒的な力を見せつける中で、同期達の真剣な考察や葛藤が描かれ、それを理不尽に捩じ伏せるのだが、啓太の頭には10万円しかないのが笑いを誘った。
その一方で、最上と向かった極東ロシアでは、啓太が否応なく注目を集める活躍を見せた。
特に新型強化外骨格の開発を通じて、彼が見せた努力と成長が印象的であった。
その中で、啓太の事情に巻き込まれた形の第二師団や担任の久我少佐の苦労が、物語にさらなる深みを与えていた。
魔族の思惑と啓太の騎士称号
極東ロシアでの活躍を通じ、啓太は「変態」扱いされつつも、他国での騎士称号を得る結果となった。
この一連の出来事は、彼の存在感を国内外でさらに高めた。
また、魔族側の動きや計画が徐々に明らかになり、魔族との緊張が高まる予感を漂わせていた。
啓太の名声が広がる一方で、彼自身が望む穏やかな日常が遠ざかっていく様子が描かれ、彼の未来に暗雲漂う雰囲気を醸し出していた。
新たな挑戦と未来への期待
パワードスーツの開発過程では、啓太と最上が直面する多くの困難がリアルに描かれていた。
他社とパワードスーツを差別化させたい最上と使い勝手を良くしたい啓太の衝突。
その中で試行錯誤を重ねる姿は、彼らの決意と成長を象徴していた。
次巻で描かれるであろう啓太のさらなる活躍や、魔族との戦いの行方に期待が膨らむ展開であった。
3巻早く出ないかな…
最後までお読み頂きありがとうございます。
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同シリーズ
その他フィクション
備忘録
プロローグ
魔物の襲撃と少女の逃亡
屋敷に住む少女は、突如現れた魔物に追われていた。魔物は街に侵入し、多くの人間を襲撃していた。少女は恐怖に駆られ、必死に逃げ惑ったが、体力が尽き転倒してしまった。彼女は助けを求めるも応答はなく、家族や守備隊はすでに命を落としていた。
魔物の残虐性と少女の絶望
魔物は少女の恐怖を楽しむように追い詰めた。彼らは容赦なく残忍であり、特に小型の魔物は人間にとって最も恐れられる存在であった。彼らの嘲笑と執拗な追跡に、少女は生存本能に従い叫び続けたが、希望は薄かった。
救いの風の到来
絶望の中、謎の風が吹き荒れ、魔物を次々と薙ぎ払った。その風は少女を救い、彼女は驚愕しながらも、本能的に助かったと理解した。しかし、体力と緊張の限界に達した彼女は、その正体を確認する間もなく意識を失った。
英雄の嘆きと少女の安らぎ
少女を助けた者は、彼女を責めることなく、その小さな体を抱えて運ぶことを決意した。彼女が命を繋ぐために全力を尽くした姿は、誰にも非難されるものではなかった。
一章 夏休みが明けて
夏休みの振り返り
主人公は九州での戦闘後、小競り合いに参加し機体の成長を確認した。その後、予定より早く学校に戻され、上官から「休め」と指示を受け、課題も免除された。また、少尉への昇進が正式に決まり、特務中尉の任務も打診された。さらに、破格のボーナスが支給され、妹には金銭の重要性を教える必要があると感じたという。
学校での再会とすれ違い
新学期初日、主人公は五十谷にいきなり叱責された。彼女は主人公の夏休み中の行動について怒っていたが、主人公には心当たりがなかった。途中、田口那奈が会話に加わり、五十谷を諫めた。彼女はゆるふわ系の外見とは裏腹に、計算された行動を取る人物であり、武家の娘らしい武術の腕前を持っていた。
派閥の問題と主人公の立場
主人公は第二師団に所属していると見られていたが、自覚はなかった。派閥の距離感を掴めず、関係を築く方法に悩んでいた。田口の態度から主人公に対する興味を感じたが、それを利用されることを警戒していた。
模擬戦の提案と報酬
五十谷から放課後のシミュレーターでの模擬戦を提案され、それに一戦10万円の報酬が付いた。さらに田口も同額で参加を希望したため、主人公は訓練を引き受けた。訓練に対する報酬を喜びつつ、放課後の模擬戦に意気込む姿が見られた。
模擬戦の交渉成功
田口は、五十谷を通じて啓太に模擬戦の提案を成功させた。啓太は、他人からの提案を侮辱と感じる性格であったが、五十谷の言葉であれば承諾するだろうと田口は見抜いていた。この行動により、田口は自分の目標を達成しつつ、五十谷との関係を深めることにも成功した。
啓太の戦闘データの価値
啓太は、単騎で大型魔物を次々と倒すエースであり、その模擬戦データの価値は非常に高かった。田口と五十谷は、この貴重なデータを共有することで互いの利益を図ることに合意した。データの活用は、彼女たちの戦術研究に大いに貢献するものであった。
少女たちの意気込み
模擬戦の計画を進める中で、田口と五十谷は放課後に得られる成果を思い浮かべ、威圧感のある笑みを浮かべた。その姿は周囲の男子たちを圧倒し、彼女たちの計画への本気度を物語っていた。
二章 クラスメイトとの模擬戦
訓練の不公平とシミュレーターの役割
軍学校では、体力を鍛える基礎訓練が中心であり、機体を用いた訓練は各自の放課後に委ねられていた。これは生徒間の実力差や機体の性能差を調整するためであった。シミュレーターには複数のフィールドが用意されており、生徒たちは戦場に近い環境で模擬戦を行うことが可能であった。
翔子の挑戦と啓太との模擬戦開始
翔子は広域戦場フィールドを選択し、啓太との模擬戦に挑んだ。このフィールドは啓太の御影型に圧倒的有利であり、翔子の草薙型には厳しい条件であった。しかし、翔子は啓太の狙撃技術を体感し、実戦に活かすためこの条件を受け入れた。
一戦目の衝撃的な結果
模擬戦は開始直後に決着がついた。啓太は短時間で翔子の機体を撃破し、翔子は対抗する間もなく敗北を喫した。啓太は狙撃手としての能力を遺憾なく発揮し、結果的に翔子の初戦は3秒で幕を閉じた。
啓太の挑発と模擬戦の継続
啓太は翔子に「まだやるかい?」と挑発し、再戦を促した。翔子は悔しさから模擬戦の継続を決意した。啓太にとっては、一戦ごとに得られる報酬がモチベーションとなっていたが、翔子にとっては戦術の経験と自分の限界を試す重要な機会であった。
那奈と啓太の関係性
田口那奈は、啓太との初対面から警戒心を抱かれていた。普段のあざとい態度が功を奏しない啓太に対し、那奈は態度を改める必要性を感じていた。五十谷翔子の行動を参考にしつつ、慎重に啓太との関係性を築こうとしていた。
一戦目の振り返り
翔子の初戦は、啓太の御影型による高高度ジャンプと精密な狙撃によって、開始から3秒で敗北に終わった。御影型の魔力推進を用いたジャンプ力と衝撃吸収の技術は、翔子にとって未知の脅威であった。那奈はこの戦闘の一連の動作が無駄のないものであったと説明し、翔子はその理不尽さに納得せざるを得なかった。
二戦目の焼夷榴弾攻撃
翔子は再挑戦し、10秒の準備時間を設ける戦術を試みた。しかし、啓太は155mm榴弾砲による範囲攻撃を放ち、隠れた翔子の草薙型を焼き尽くした。この戦闘は16秒で終了し、草薙型の防御力では耐えきれない圧倒的な攻撃力を見せつけられる結果となった。
模擬戦の継続
翔子は敗北を認めつつも、さらなる模擬戦への挑戦を表明した。啓太の問いかけに応じ、那奈の協力を得ながら次の戦闘に備えることを決意した。翔子は啓太に近接戦闘の弱点がある可能性を探りながら、今後の戦いに向けてデータ収集を続ける構えであった。
三戦目の敗北と索敵能力の差
翔子は遮蔽物を増やした市街戦フィールドで啓太に挑んだが、索敵能力と機体性能の差により、わずか28秒で撃破された。御影型は遠距離狙撃に特化し、啓太の成長と魔力推進による機動力が加わり、翔子の草薙型では太刀打ちできなかった。
四戦目の戦術変更と新たな敗北
翔子は攻撃を受けるリスクを抑えるため、動かずに隠れる戦術を採用したが、啓太は遮蔽物を破壊しながら翔子を追い詰め、再び勝利を収めた。焼夷榴弾の使用を禁止しても、その圧倒的な機動力と火力を前に草薙型では対応が難しかった。
五戦目の田口那奈の挑戦と圧倒的な結末
闘技場にて那奈が啓太に挑むも、開始1.6秒でシールドバッシュを受け、完全敗北を喫した。啓太の御影型はその質量と防御性能を生かし、近接戦闘でも圧倒的な力を見せつけた。那奈の武術技量は通用せず、草薙型の限界が浮き彫りとなった。
二対一の模擬戦と完全敗北
翔子と那奈は二対一で啓太に挑み、全力で挑戦したが、またしても一切のダメージを与えることなく完敗した。彼女たちは、理不尽な力の差と戦場の厳しさを体感し、知識ではなく実感として理解する結果となった。
理不尽への挑戦と教訓
この日、二人の少女は「気合と根性だけでは戦場を生き抜けない」現実を学んだ。模擬戦を通じ、理不尽な状況への対応策を模索し、敗北から多くの教訓を得ることができた。
広域戦場での模擬戦
田口那奈は啓太の狙撃能力を確認するため、一戦のみの模擬戦を選択した。啓太の正確な一撃で模擬戦は瞬時に終了し、田口は次の【戦場】への移行を選んだ。
戦場での二戦
最初の戦いでは、田口は警戒しながら動いたものの、啓太のヘッドショットにより敗北した。次の戦いでは田口が盾を装備して挑んだが、啓太は四〇mm機関砲で盾ごと破壊し、圧倒的な火力差を見せつけた。
闘技場での二対一模擬戦
五十谷翔子と田口那奈の二人が啓太に挑む変則戦が行われた。一戦目では啓太が開始直後に二人の隙を突き、四〇mm機関砲で即座に撃破した。二戦目ではシールドバッシュで田口を倒し、続けて翔子の隙を突いて勝利を収めた。二人の挑戦は完敗に終わり、啓太には一切のダメージを与えられなかった。
模擬戦から得られた教訓
模擬戦を通じて啓太は、魔晶と機体の魔力を機動補助に使う有用性を再確認した。一方、近接戦闘や草薙型の防御性能の限界も明確になり、戦術や装備の改良の必要性が浮き彫りとなった。
啓太の収穫と反省
啓太は模擬戦で一二〇万円を獲得し、成果に満足していたものの、自身の技術や装備の課題を認識していた。遠距離狙撃の有効性を再確認しつつも、近接武装の改良が必須であると感じていた。
模擬戦後の予期せぬ展開
啓太は模擬戦終了後、妹と食事に行こうと考えていたが、最上に止められ、帰宅は叶わなかった。
啓太の近接戦闘能力への誤解
最上隆文は、啓太が操る御影型について「近接戦闘が苦手」という自己申告を信じていた。しかし模擬戦で啓太が見せたシールドバッシュやブラフを駆使した戦い方により、御影型の近接戦闘能力が予想以上に高いことが明らかとなった。この結果は、重量や速さを活かした戦法が十分に有効であることを示していた。
御影型の特性と課題
御影型は遠距離狙撃に特化した設計であり、四脚という独特な構造ゆえに通常の近接戦闘には向かないとされていた。しかし啓太はその制約を超え、魔力を利用した機動力で柔軟な戦闘を可能にした。一方で、シールドバッシュなどの戦法は大型魔物には通用せず、さらなる改良が必要であることも浮き彫りとなった。
中型魔物への対応と啓太の視点
啓太は、焼夷榴弾で簡単に対処できる中型魔物を「その他大勢」と見なしていた可能性がある。最上は、啓太が中型魔物を主な敵として戦う現状の草薙型や八房型の機士たちの戦闘環境を十分に理解していないと推測した。
軍への影響と機体設計の方向性
啓太の戦闘スタイルが知られれば、草薙型と御影型の役割が大きく見直される可能性があった。しかし、現状では啓太ほど御影型を使いこなせる機士は存在しないため、遠距離攻撃能力の強化が優先される見込みであった。
最上の決意と新たな挑戦
最上は啓太と御影型のデータを試作三号機以降に反映させることを最優先とした。模擬戦で得られた予想以上の成果に喜びつつ、データ収集に集中することを決意したが、その数日後、軍閥経由で新たな仕事が舞い込むこととなった。
三章 新しい仕事
啓太への新たな指示
最上隆文は啓太に、上層部からの命令で新型パワードスーツの実験を依頼した。パワードスーツは小型魔物に対抗する随伴歩兵用の装備で、魔物の素材を用いて機動力や防御力を高めたものであった。しかし啓太は、機士である自分にこれを試す意味がわからず、不信感を抱いた。
パワードスーツの背景と役割
随伴歩兵は戦車を守るための存在であり、小型魔物の襲撃から戦車を防ぐ役割を担っていた。パワードスーツの導入により歩兵の生存率は向上し、小型魔物への対処能力も向上した。しかし、機士である啓太にはこの装備の実験が直接的な利益をもたらすものではなかった。
啓太の疑念
啓太は自分にこの実験が任された理由を深く考察した。武術経験のある田口や五十谷ではなく、自分が選ばれた背景には悪意が潜んでいると確信した。彼の中では、上層部が自分を排除しようとしているのではないかという疑念が強まり、この命令は「騙して悪いが」案件と断じた。
過去の経験から来る啓太の価値観
啓太は前世の記憶から、他人の「欲」を読み取り、その裏に隠された意図を疑う習慣を持っていた。昇進や報酬、仲間たちの行動にはそれぞれ合理的な理由が存在したが、今回の指示にはそのような明確な理由が見当たらなかったため、余計に警戒心を強めた。
敵の存在を確信する啓太
啓太はこの命令を通じて、自身に敵意を抱く勢力が軍内部に存在することを確信した。彼は、裏切りや攻撃に対して反撃する準備を進める決意を固めた。この確信が正しいのか、それとも思い込みなのかを判断するのは、後の啓太自身に委ねられることとなった。
策謀に巻き込まれる最上と啓太
命令の不自然さに気付く啓太と最上
啓太はパワードスーツの実験を命じられたが、その背後に潜む意図を察知して不信感を募らせた。一方、命令を受けた最上も、この依頼が自身や最上重工業を陥れるための策略であることを即座に理解していた。軍上層部の推薦による依頼は、表向きには名分が通っていたが、その実態は最上重工業を妨害する狙いが明確であった。
パワードスーツ開発に隠された策略
軍内部の一部勢力や財閥系企業は、最上重工業が御影型の成功で注目を集めたことを警戒していた。彼らは最上重工業に負担を強いることで、試作三号機の進捗を遅らせると同時に、パワードスーツ開発で失敗させることを目論んでいた。依頼を断れば参入の道を閉ざされ、応じれば成果を上げられず信用を失う。どちらに転んでも最上重工業には不利な状況であった。
最上の決意と啓太の協力
最上はこの策略を冷静に分析しつつも、その挑発に応える形で全力で応じることを決意した。軍や財閥系企業の軽視に憤りを感じた最上は、自社の技術力と信念を示すため、最高のパワードスーツを開発する覚悟を固めた。また、啓太も状況を理解し、自身の安全を確保しつつ、命令に従うフリをしながら反撃の準備を進めることにした。
変態と称される者たちの連携
最上重工業は、啓太の持つ前世の記憶による奇抜な発想と、最上自身の技術的執念を融合させ、かつてないスピードで対応を進めた。この両者の連携は、単なる防御ではなく、軍や財閥系企業に対する強烈な反撃となる兆しを見せていた。
復讐の火蓋が切られる前兆
啓太と最上が手を組んだことで、軍の策略を仕掛けた者たちが次第に追い詰められるのは時間の問題となった。彼らの見通しの甘さは、最上と啓太という「変態」の怒りを招き、想定以上の破壊力を持つ結果を引き寄せることになりそうであった。
四章 最上重工業製強化外骨格開発計画
パワードスーツとその現状
機士用パワードスーツの可能性
パワードスーツは本来機士には不要な装備であるが、特定の条件下では使用可能であった。一部の特注品では魔晶の適合率が低い者でも攻撃に魔力を纏わせることで魔物と戦う実績があった。第一師団の剣聖や第二師団の芝野大佐がその代表例である。だが、三〇M級の魔物には対処できず、こうした特注品は補助的な役割にとどまった。
財閥系企業の妨害と軍の動き
最上重工業と啓太を巡る状況には、財閥系企業やそれに連なる政治勢力の干渉が色濃く見られた。既得権益を守るため、パワードスーツ開発を押し付け、試作三号機の製造を妨げようとする意図が明らかであった。さらに、魔物の大攻勢が予測される中で、啓太に実験を優先させるよう仕向ける非合理的な命令が下されていた。
迎撃戦への対応策
最上は啓太に「パワードスーツの実験が正式任務である」と説明し、大攻勢への対応を避ける計画を提示した。命令の優先順位や啓太の立場を利用し、迎撃戦には直接参加せず、あくまで実験に集中する方針を取った。これは軍内部の不和を利用した逆手の策でもあった。
極東ロシアの利用
最上は日本国内の財閥系勢力との対立を避けるため、極東ロシアの存在を活用する意向を示した。これにより、啓太と最上重工業は軍需産業の中で独自の立ち位置を確保しつつ、大攻勢を回避する理由を構築しようとしていた。
極東ロシアとパワードスーツの実験
極東ロシアの歴史的背景
極東ロシア大公国は、一九五〇年代にソ連から独立した立憲君主制国家である。その背景には、帝政ロシア崩壊後の赤軍と白軍の内戦、第二次世界大戦時の悪魔召喚による混乱、日本との協力があった。特に日本は、ソ連との緩衝地帯として極東ロシアを支援し、独立を後押しした。初期の独立時は日本からの支援が国家運営の基盤となり、後に技術の進歩で自立可能な状態へ移行した。
極東ロシアと魔物の脅威
独立当初、安全地帯とされていた極東ロシアも、近年では魔物の侵攻を受けるようになった。朝鮮共和国の崩壊や人口増加がその要因と考えられる。これにより、極東ロシアは日本に食料や武器の支援を求め、日本側も軍事技術提供を含めた支援を行っている。
パワードスーツの実験計画
最上重工業は、極東ロシアへの支援の一環としてパワードスーツの実験を行う計画を立てた。この計画には現地での実地試験が含まれ、啓太は護衛と試験の責任者として任命された。最上隆文は、この計画を通じて財閥や軍閥の妨害を回避し、外交の場でも存在感を示す意図があった。
第三師団の妨害と啓太の対応
啓太は、財閥や第三師団が自身を妨害しようとしていることを理解していた。第三師団は、自分たちの功績が啓太に奪われたと主張し、啓太を戦場から遠ざけようと画策していた。しかし、啓太は極東ロシアへの赴任を決断し、これを逆手に取って意趣返しを図ることを決めた。
実験準備と啓太の戦略
パワードスーツの試作機はすでに準備が進められており、調整後に実戦投入可能とされた。啓太は、第二師団や他の師団からの迎撃要請を回避するため、迅速に極東ロシアへ向かう準備を始めた。彼の目的は、現地での実験を成功させることと、第三師団に対する牽制であった。
迎撃戦を巡る混乱と啓太の不在
芝野の怒りと報せ
北九州防衛戦の準備を進める芝野雄平大佐の元に、川上啓太特務中尉が迎撃戦に参加しないという報せが届いた。芝野はこの知らせに驚愕し、詳細を尋ねたが、運用政策課が新型強化外骨格の性能試験を命じたことが理由と判明した。この理不尽な命令は啓太や最上重工業への嫌がらせとして下されたものであり、芝野の怒りは頂点に達した。
迎撃戦における啓太の重要性
啓太は御影型の性能を活かし、これまでの戦闘で大型魔物を効果的に討伐してきた。特に今回のような大攻勢において、啓太の存在は不可欠であった。量産型の試作機はまだ限定的な性能しか発揮できず、第六師団や第八師団の援軍も準備不足だったため、啓太の参戦がもたらす戦力の補完は計り知れなかった。芝野は啓太の不在が戦局に与える影響を深刻に憂慮した。
運用政策課と第三師団の暗躍
運用政策課第二課と第三師団の一部が、啓太と最上重工業への妨害工作を図ったことが背景にあった。最上重工業の御影型は財閥系企業の既得権益を脅かす存在となり、その妬みと警戒心から啓太を排除しようとする動きが活発化していた。啓太を極東ロシアに派遣し、実戦を交えた性能試験を行わせるという提案は、啓太の戦場離脱を歓迎する第三師団と財閥系企業にとって渡りに船であった。
芝野の対策と決意
芝野は現場を無視した運用政策課の行動に激怒し、関係者を締め上げることを決意した。特に現場の恐怖を理解していない政策課の連中に戦場の実態を体験させる必要性を感じていた。一方で啓太が極東ロシアに向かった事実を受け入れるしかなく、迎撃戦は現有戦力で挑む覚悟を固めた。芝野の怒りは第六師団や第八師団にも伝播し、運用政策課や第三師団に対する不信感を助長した。
啓太と隆文の意趣返し
啓太と最上隆文社長の極東ロシア行きは、財閥系企業や第三師団への意趣返しとしても機能していた。啓太不在による戦局への影響と、運用政策課への怒りは、現場の士気に微妙な影響を及ぼした。こうして啓太と隆文の計画は、第三師団の信頼をじわじわと削る結果を生み出しつつあった。
五章 極東ロシア大公国
極東ロシアと新型パワードスーツの試験
極東ロシア大公国と日本の関係
極東ロシア大公国と日本皇国は名目上対等な同盟関係を結んでいた。その主な目的はソ連や社会主義国家への対抗であったが、魔物による被害が主敵を一掃した結果、現在では経済的な結びつきが中心となっている。日本からは食料や武器が、極東ロシアからは鉱物資源が輸出されていた。また、極東ロシアでは草薙型をインフラ開発や治水工事に利用するなど、平和的な用途で活用していた。
北部における魔物の侵攻パターン
極東ロシアでは、大型や中型の魔物が少なく、小型が非常に多いという侵攻パターンが特徴的であった。この状況は人間を苦しめることを目的とする悪魔や魔族の戦略に合致していた。大型の魔物が持つ強大な破壊力ではなく、小型の魔物による継続的な襲撃が、町や村を持続的に脅かしていたのである。この地域特有の環境が、今回のパワードスーツ試験に最適と判断された。
新型パワードスーツの特性と挑戦
最上重工業が開発した新型パワードスーツは、既存の一般向けパワードスーツとの差別化を図るため、魔晶適合率がやや高い人向けの特注品として設計されていた。しかし、試作機には肩部に副腕が追加されるという独特な仕様が採用されていた。これに対して啓太は、操作性や肉体への負荷に疑問を抱いたが、最上隆文は御影型のコマンドシステムを応用することで副腕の動作を実現する方針を示した。
新型パワードスーツの活用方針
新型スーツは、複数機で運用することを前提に設計されており、小型魔物への対抗として手数を増やし火力を強化する狙いがあった。この設計は対人戦を前提とした武術の技術ではなく、魔物に対する火力重視の戦術に基づいていた。啓太には、このスーツを用いて実際に魔物を討伐し、その成長や最適化の過程を調査することが求められた。
試験の目的と今後の展望
最上隆文は、新型パワードスーツの成功をもって国内の批判を抑え、財閥系企業や軍閥からの攻撃に対抗する実績を作ることを狙っていた。一方で啓太は、この仕様が実戦でどこまで役立つか、まず試験を通じて確認する必要があると感じていた。国外での試験を通じて、パワードスーツの運用と改良が進むことが期待されていたが、その成果は未知数であった。
修練場での新型パワードスーツ試験
試験場での動作確認
修練場として借りた森で、新型パワードスーツの動作試験が行われた。この試験では、肩に追加された副腕の操作性が課題となった。コマンドシステムを応用することで副腕を動かすことはできたものの、その動きは鈍く、迅速な攻撃や回避には向いていなかった。また、機動性を重視しない設計が一人での運用を難しくしていた。
副腕の問題点と運用の課題
副腕は火力を向上させるための装備であったが、視界を遮り、機動性を損なう欠点があった。特に、敵の反撃を避ける際には副腕が邪魔となり、戦闘に大きな支障をきたしていた。また、パワードスーツの性能を十分に引き出すためには、魔力を持つ魔物を討伐して成長させる必要があったが、現状ではその実現が難しい状況であった。
提案された改善案
パワードスーツの改善案として、使用しない際には副腕を収納する仕組みを提案した。また、上腕部に副腕を固定し、射撃時にのみ分離する設計も示された。これにより、戦闘中の邪魔を最小限に抑えつつ、副腕の利便性を確保することが狙いであった。
未来への期待
現段階では不十分な性能であったが、改良を重ねることで実用性が向上する可能性が示された。最上隆文はアイディアを積極的に取り入れる姿勢を見せ、試験結果を踏まえた改良案を進める意向であった。この試験と議論を通じて、新型パワードスーツの完成に向けた一歩が踏み出されたのである。
幕間 魔族の視点から 一
魔族による新たな攻勢の開始
計画の立案と意図
極東ロシアの周辺地域で活動する魔族が、日本への新たな攻勢を計画していた。この魔族は過去の魔物の逐次投入方針を批判し、日本に十分な圧力がかかっていない現状を問題視していた。過去の攻勢では、日本は魔物の大群を無傷で撃退しており、これが相手にとって素材と経験値の供給源に成り下がっていた。魔族は、この状況を打破し、真の圧力をかけるべく、新たな大軍勢を組織することを決断した。
新たな戦術と戦力
魔族は過去の教訓を活かし、前回の攻勢規模を倍増させる計画を立てた。大型魔物24体、中型300体、小型1000体という未曾有の大軍を編成し、さらに渡海時の損耗を防ぐため、浮力を補助する道具を導入した。この攻勢は、日本の防衛力を測定し、さらに相手国の余裕を削ぐことを目的としていた。
魔物の襲来と日本側の危機
魔物の大群は日本国防軍の予測を大きく超える規模で現れた。啓太という決戦戦力を欠く中、日本国防軍は前例のない大軍勢を迎え撃たねばならなかった。圧倒的な数を前に、迎撃部隊の間には希望の見えない戦いへの不安が広がり、絶望が徐々に迫りつつあった。
六章 遭遇
新型強化外骨格の戦闘試験と討伐依頼
強化外骨格の改良作業と依頼の受領
啓太と隆文は新型強化外骨格の改良を進めるため、小型魔物を相手に戦闘を繰り返しながらデータを収集していた。数多くの問題点を修正した結果、最低限の実用性を確保した段階で、地元貴族から討伐依頼が舞い込んだ。近くの森に人食い熊が出没しているという報告であったが、魔物の可能性が否定できないため調査が求められていた。中型以上の魔物であれば国軍への依頼が必要とされるが、目撃情報の誤りであるリスクも考慮され、依頼が啓太たちに持ち込まれた。
森での魔物の発見と戦闘開始
啓太たちは討伐対象を探すべく森を進んだ結果、魔物化した熊三体を発見した。一体は五メートル級の中型、残り二体は二メートル級の小型であった。熊たちは目の前の相手を餌と認識し、警戒する様子もなく一直線に接近してきたが、啓太は落ち着いて行動した。重機関銃から放たれる弾丸が先頭の熊の頭部を直撃し、即座に仕留めることに成功した。
魔物の壊滅と結果の確認
リーダーを失った熊たちは呆然と立ち尽くしたが、その隙を逃さずに残りの二体も討伐された。中型一体、小型二体を無事に仕留めたことで、啓太たちは任務完了を報告した。この戦闘を通じて、新型強化外骨格が中型魔物にも対抗できる性能を備えていることが確認された。残るは細部の調整のみとし、啓太は一息つけるかと思われたが、さらなる困難が待ち受けていた。
極東ロシアでの新型強化外骨格の運用と魔物襲撃の発見
新型強化外骨格の改良と運用の試行錯誤
啓太と最上は、新型強化外骨格の運用において、肩口から出る副腕を取り外し、上腕部に固定する改良を試みた。この仕様変更は、火力向上を目指しつつ企業独自の特色を保つためのものであった。改良が進む中、彼らは極東ロシアの各地を移動し、魔物の存在が日常化している現地の厳しい環境を目の当たりにした。特に、破壊された鉄道や道路の状況は、魔物が日本国内と異なる脅威を与えていることを実感させた。
極東ロシアでの交易事情と護衛任務
移動中、啓太たちはナ・アムーレという都市に向かう途上で、現地貴族との取引を進めていた。ハバロフスクやウラジオストクと異なり、財閥系企業の手が及ばない地域であるため、最上は日本企業の影響力を強化する意図を持って行動していた。交易の護衛任務を遂行しながら、パワードスーツの成長と最適化を進める方針が取られていた。
衛星都市アムールスクでの魔物襲撃の発見
一行が目的地に近づく中、アムールスクという衛星都市が魔物の襲撃を受けている現場を発見した。街から煙が上がり、小型魔物の群れが街中を蹂躙している様子が確認された。啓太と最上は、防衛戦がすでに崩壊している状況を目の当たりにし、どのように対応するべきか判断を迫られていた。街を覆う魔物の数は千を超えており、被害の深刻さが一目瞭然であった。
魔物襲撃への対応を巡る苦悩
他国領内での介入の困難
アムールスクの魔物襲撃を目撃した啓太と隆文であったが、即座に救援に向かうことはできなかった。他国領内での武力行使は、たとえ人命救助が目的であっても重大な問題を引き起こすためである。地元の貴族の許可や要請がない限り、武装を解禁しての介入は規則違反と見なされる可能性が高かった。特に新兵器の試験という機密事項を抱える状況では、軽率な行動はさらにリスクを伴うものであった。
市民救助の是非を巡る葛藤
啓太が「一般人から救助要請を受けた場合」の可能性を問うた際、隆文は曖昧な回答を示した。極東ロシアの統治は貴族に依存しており、民間人の要請が正式な援軍要請として認められる保証はない。それどころか、救援を行った場合でも火事場泥棒扱いされ、復興資金を理由に賠償を求められる可能性があった。逆に救援を拒否した場合には、「同盟国の民衆を見捨てた」と非難される可能性もあり、どちらを選んでも国際的な摩擦が生じる危険性があった。
商人としての立場と信頼の問題
隆文は自らが商人であることを理由に、戦闘への介入を避けることも考慮していた。しかしながら、彼が抱える私兵集団の存在やその高い戦闘能力を知るナ・アムーレの貴族たちにとっては、それが許容される状況ではなかった。取引相手としての信頼を失うことは、これまで築いてきた関係を一瞬で崩壊させるリスクを伴っていた。
救援と信用の板挟み
啓太と隆文は、どちらの選択をしても損失を避けられない状況に苦悩していた。全滅した街であれば強硬策が可能であり、損失を抑えることができたが、生存者がいることで市街戦を余儀なくされる可能性が高まった。膨大な数の魔物を相手にした戦闘の危険性と、放置した場合の信用失墜の間で、二人は進退窮まる状況に立たされていた。襲撃を受ける街を見つめる二人の表情は、行動の選択を迫られる苦悩を反映していた。
啓太と隆文、救助決断を巡る葛藤
救助信号の発見と解析
啓太はパワードスーツの高性能な受信機で短い信号を捉えた。それが救難信号と判断され、隆文の指示でトレーラー内で解析が進められた。市庁舎から発信された正式な信号であると判明すると、街への介入が正当化され、これまでの懸念が大幅に解消された。
啓太の役割と安全の確保
隆文は啓太に街へ先行するよう指示したが、啓太はそれを即座に拒否した。啓太は自身の安全を絶対条件としており、自国民でない他国民を守るために危険を冒すつもりはなかった。隆文が命令権を持たない民間人である以上、啓太はその指示に従う理由がないと考えた。
隆文の意図と説得
隆文は啓太の拒否に動揺しつつ、指示にはちゃんとした理由があると弁明した。啓太はその説明を聞く姿勢を見せたが、納得できる理由が提示されなければ協力はしない構えであった。啓太は冷静ながらも、自身の安全を最優先にしつつ、隆文の判断に慎重に耳を傾けていた。
慎重な判断の中での対応
この状況での判断は啓太の冷静さを物語っていた。彼は自身の役割と安全のバランスを保ちつつ、隆文の説明に期待を寄せて次の行動を模索していた。このやり取りは、二人の立場や価値観の違いを浮き彫りにしながらも、適切な判断を下すための慎重さを示していた。
啓太と隆文、戦場での連携と信頼の構築
先行命令と啓太の疑念
最上は啓太に街への先行を命じ、その理由を説明した。啓太と商隊の部隊は連携訓練をしておらず、個々の性能差が大きいため、一緒に動けばかえって足を引っ張り合う可能性が高いとした。また、啓太のパワードスーツはこれまでの戦闘で強化されており、小型の魔物相手であれば十分に対応可能であると断言した。ただし、啓太が危険な状況に置かれることには変わりなく、彼は最上の判断に対し慎重に検討を重ねた。
啓太の決意と条件
啓太は、最上の指示に一定の理解を示しつつも、自身の安全を最優先とする意向を明確にした。「ヤバくなったら逃げる」という啓太の言葉に対し、最上も撤退や御影型の使用を許可したため、啓太はその条件の下で命令を受け入れた。これにより、啓太は状況を見極めつつ戦場に赴く覚悟を固めた。
最上の反省と部隊の準備
啓太が出発した後、最上は部下との会話で自身の指示が啓太に殺意を抱かせた可能性を認識した。部下たちも同様の指摘を行い、信頼関係を築く前に過度な命令を出すことの危険性を諭した。最上は反省しつつも、部隊の準備が整ったことを確認し、「子供一人に戦わせるわけにはいかない」と部隊を率いて行動を開始した。
共闘の決意
最上は啓太の戦力を信頼しつつも、単独での戦闘を長引かせないよう部隊を街へ向かわせた。彼の行動は、信頼の欠如を補い、共闘による成果を目指す姿勢を示していた。啓太と最上の双方が、それぞれの役割を果たしながら困難な状況に挑む準備を整えた。
七章 魔物蔓延る街へ
啓太の救助行動と苦悩
新型外骨格の戦闘性能と啓太の対応
最上重工業が開発した新型強化外骨格は、魔力による支援を前提に設計され、啓太はその性能を活かし四丁の銃を駆使して弾幕を張る運用を行っていた。しかし、装備には多数の欠点もあり、とりわけ副腕の見た目が問題視されることはなかったが、識別信号が敵にも味方にも影響する可能性があった。啓太はその中でも適応しながら、市街地に向かう途中で襲い掛かる魔物を退けつつ進軍を続けた。
救難信号と市街地の探索
市街地の中心に向かう中、啓太は魔物たちの行動に異変を感じ、何かを包囲するように動いている群れを発見した。包囲の中心には一人の少女が魔物に捕まっており、啓太は即座に行動を開始した。魔物たちを次々と倒し、少女を救出するも、その疲れから少女は意識を失っていた。
救助の決断と撤退
意識を失った少女を目の前に、啓太はこの場で戦闘を続けることの困難を認識した。少女を安全な場所に避難させる必要性を優先し、市街地を回ってさらなる救助を行う可能性を断念した。この決断は、彼の心に負担を残しつつも、目の前の命を守るという優先順位を示していた。
救助の意義と啓太の苦悩
啓太は他の救助対象者を放置することへの葛藤を抱えながらも、目の前の少女一人を救うという選択をした。その決断の是非は将来の自分が判断するものだとしつつも、今の自分が感じた苦悩を忘れてはいけないと胸に刻み、撤退を開始した。
英雄の誕生と「変態」誤解の余波
少女救出の成功と歓待
啓太はナ・アムーレ近郊の臨時指揮所に到着した。彼が救出した少女がナ・アムーレを治める貴族の娘であり、国家元首である大公の親族であることが明らかになった。この救出によって指揮所では啓太が大いに称賛され、軍人や貴族から感謝を受けた。また、彼女の救出は、撤退できなかった軍部にも大きな影響を与え、状況が好転する契機となった。
極東ロシアの貴族制と法的背景
少女が市街地に残らざるを得なかった理由は、極東ロシアの貴族に課せられた「貴族は民間人より先に避難してはならない」という法律に起因していた。この法律は貴族制の信頼基盤を支える重要なものであり、例外が認められない厳格な規定であった。この背景により、彼女は市街地に残り、市庁舎で防衛部隊と共に魔物に対処していたが、部隊が全滅したことで窮地に陥った。
啓太の再突入と攻勢
少女の救出に成功したことで軍の士気が向上し、啓太は再び市街地に戻ることを決意した。友軍の支援を得ることで要救助者の確保や戦闘の効率化が可能になった啓太は、「目の前の命を救う」ことを自身の使命として行動を開始した。この行動は、魔物への攻勢をさらに加速させる結果となった。
「変態」英雄としての誤解
啓太の戦闘スタイルは、近接戦闘に特化した動きと、強化外骨格「黒天」の外見によって、極東ロシアの軍人たちに「変態」と誤解される原因となった。啓太の姿勢やテンションもその誤解を助長し、彼は「HENTAIする英雄」として認識されることになった。この異名は後に大公や他国の軍人たちにも伝わり、啓太の名声と誤解を広げる結果となった。
英雄の影響と新たな展開
啓太の行動により、中型を含む数百体の魔物が討伐され、多数の民間人が救出された。彼の功績は極東ロシアで高く評価され、英雄的な存在として扱われたが、一方で「変態」の異名が付きまとうこととなった。この異名に関するエピソードは、後に日本や魔族社会にも伝わり、さらなる波紋を呼ぶ結果となった。
八章 予期していたが予想できなかった大攻勢
魔物襲来と迎撃の苦闘
芝野雄平の決断と迎撃体制
極東ロシア大公国で啓太が「ヘンタイ」と称されている頃、日本皇国では国防軍が魔物の大軍と対峙していた。芝野雄平は指揮官として、観測を省略した即時砲撃を指示し、戦況を冷静さではなく勢いで押し切る判断を下した。敵の規模が大型二十四体、中型三百体、小型千体以上と過去の襲来を大幅に上回っていたためである。この状況で冷静でいられる軍人はいなかった。
迎撃戦力の集結と期待
国防軍は第二、第六、第八師団からなる戦力を集め、草薙型五十機、八房型百機、砲士二百六十人、御影型四機を配備した。さらに再建中の第三師団も動員され、量産型六機を含む増援を準備した。芝野はこれらの戦力で敵の主力を撃破する計算を立てていたが、その計算は敵の実際の数を大幅に下回るものだった。
過去のデータと量産型への期待
量産型御影型は啓太が試作機で残した成果に基づき、敵大型を一体につき三体倒せると期待されていた。啓太が一体で十体を倒した実績を基にした楽観的な見積もりであったが、量産型の実戦経験不足という重大な問題点は考慮されなかった。芝野は啓太を評価していたものの、正規軍の練度に頼るべきだと判断していた。
魔物襲来の規模と戦況の激変
魔物の総数が想定の倍以上であったことが判明した際、迎撃戦力の不足が露呈した。量産型御影型は大型の撃破に期待されていたが、敵の圧倒的な数に対応するには戦力が不十分であった。芝野の冷静さを欠いた指揮は当初こそ効果的だったが、魔物の上陸後、戦況は急速に悪化していった。
誤算と戦場の混乱
芝野らが抱いていた「迎撃可能」という前提が崩壊し、本格的な戦闘が開始されると犠牲が増え続けた。初期の楽観的な見積もりと指揮系統の混乱が重なり、戦場は混沌を極めた。芝野は戦力を最大限活用しようとするも、魔物の圧倒的な数により状況はますます悪化していった。
この迎撃戦は、想定外の敵規模と準備不足による多大な犠牲を伴い、日本皇国の防衛能力の限界を突きつけるものとなった。
激闘の開始:砲撃部隊の迎撃戦
砲撃の失敗と指揮官佐藤の苦悩
佐藤泰明少佐は、上陸を許した魔物の数に激しい失望を感じつつも、戦意を保つべく冷静さをかなぐり捨てた。砲撃部隊の配置は周到に計画されていたが、砲撃の効果は限定的であり、敵の大軍勢に大きな損害を与えることはできなかった。
砲撃小隊の壊滅と生存者の苦境
第一砲撃小隊が壊滅し、続く第二砲撃小隊も消滅した。第三砲撃小隊は砲撃を遅らせたことで無傷だったが、これは部隊の練度不足によるものであり、指揮所からは暗に非難されていた。第五砲撃小隊では、柿崎中尉が孤軍奮闘し大型の魔物を仕留めたものの、彼自身も戦死した。
砲撃から近接戦闘への移行
砲撃の効果が薄れたため、佐藤は草薙型を主力とする近接戦闘の準備を命じた。八房型の機動力を活かし砲士を守りつつ、草薙型による直接戦闘で中型魔物を迎え撃つことを決定した。戦力は不足していたが、佐藤は戦術的な工夫と精鋭部隊の力を信じていた。
魔力砲撃の回避と佐藤の反撃
魔物の砲撃が佐藤たちを襲ったが、佐藤は精鋭部隊を率いる指揮官として、卓越した武術と魔力を駆使して魔力砲撃を刀で斬り捨てた。この行動が部隊の士気を大いに高め、第二師団の戦意をさらに鼓舞する結果となった。
戦いの余波と評価
戦闘終了後、第二師団の精鋭ぶりは広く称賛された。しかし、生存者たちがその称賛を喜べたかどうかは不明である。多くの犠牲を払いながらも、彼らは祖国を守るために戦い抜いたのであった。
甚大な被害と軍内の対立
戦闘損害の報告
浅香涼子統合本部長は、戦闘による甚大な損害の報告を受けた。量産型八機、草薙型二三機、八房型三一機が大破し、砲士一八二名、随伴兵四〇〇名以上が死亡。損害は大きく、特に再建に必要な費用と時間が課題であった。
第三砲撃小隊の対応と非難
第三砲撃小隊の戦闘中の「弾詰まり」は現場判断で不問とされていたが、第二師団の緒方勝利師団長は、これを「怠慢」とみなして激怒した。しかし浅香は、法的根拠がない以上、罰則を与えることはできないと強調した。第三砲撃小隊は結果的に生存者を出し、将来的な戦力として評価された。
啓太を巡る論争
川上啓太が戦場にいれば損害が軽減されていたとの意見が第二師団を中心に噴出したが、浅香は、啓太が同盟国の姫君を救助するという別の実績を挙げた以上、関係者に罰則を課すことはできないと断じた。啓太を戦場から遠ざけた経緯は、公式手続きを踏んだものであり、問題視できなかった。
軍内再編計画の発表
浅香は、第三師団の再建計画を凍結し、その予算を第二師団、第六師団、第八師団の再建に充てると発表した。緒方は現場の納得を得るため努力すると応じたが、感情的な報復を避けるための浅香の判断には苦渋が見え隠れしていた。
啓太の所属変更と叙位
啓太は正式に第一師団所属の中尉とされ、正六位を叙位された。これは外交上の理由から極東ロシアとの関係を強化する目的も含まれており、啓太の役割が国内外で重要視されていることを示した。
担任久我静香の困惑
啓太の正式な上官となった久我静香は、この決定に困惑していた。啓太の特異な経歴と実績が彼女に重圧を与え、今後の問題に対する不安を募らせていた。彼女の苦難は始まったばかりであった。
幕間 魔族の視点から 二
悪魔と魔族の特性
魔族の組織構造と生態
魔族は悪魔によって魔力を注がれたことで誕生し、騎士から王までの階級社会を形成していた。その階級は注がれた魔力の量によって決まり、大陸には約二〇〇体の魔族が存在していたが、その中で上級魔族とされるのは僅か八体であった。下級魔族と上級魔族の間には厳然たる序列が存在していた。
悪魔との関係
魔族は悪魔の指示の下で活動しており、その命令は曖昧なことが多く、各魔族が独自の判断で動くことも珍しくなかった。このため、時折命令が誤解されることがあり、その結果として行き過ぎた行動が発生することがあった。
侯爵ルフィナの失策
過剰な派兵による日本の被害
ルフィナは、日本に対して圧力をかける目的で魔物を派遣したが、その数を必要以上に増加させた結果、国防軍の第二師団が壊滅し、第六師団や第八師団も甚大な被害を受けた。さらに再建中の第三師団の復旧の目途も立たなくなり、日本の防衛力に大きな打撃を与える結果となった。
王からの叱責
王はルフィナの軽率な判断を厳しく非難した。特に、敵の戦力が倍になれば必要な対処の労力は二乗に増加するとの指摘を通じて、ルフィナの計画の不備を明確に示した。前回の派兵で日本側が限界に達していたことを見誤った結果、今回の甚大な被害を招いたと結論付けられた。
今後の対応と影響
日本との緊張維持の課題
日本に対する圧力を維持しつつも、過剰な派兵を控える必要が生じた。王は冬季の到来を利用して派兵を控えているように見せかけることで、日本側の戦力回復を待つ方針を決定した。ただし、この戦略が長期的に有効であるかは不明であった。
ルフィナへの命令
王はルフィナに対し、失策を挽回するための具体策を策定するよう命じた。ルフィナは、今回の失敗を深く反省し、日本や魔族双方にとって最適な解決策を模索する立場に置かれることとなった。
日本と魔族の未来への影響
今回の事件を契機に、日本と魔族との均衡を保つことの重要性が再認識された。ルフィナの提案する新たな策が、両者にどのような影響を及ぼすのか、その結果が注視されている。
書き下ろし番外編 式典にて
戦勝パーティーへの招待
質実剛健なナ・アムーレの城
啓太がナ・アムーレの城に入った際、城の内装が豪華絢爛ではなく、品性と利便性を兼ね備えた実用的なものであることに感銘を受けた。この城は最前線を支える拠点として作られており、軍備やインフラに資源を回していることがうかがえた。この背景には、常に魔物の脅威に晒される極東ロシアの情勢が影響していた。
貴族への警戒心
啓太は一般家庭出身ということもあり、権力者に対する強い警戒心を抱いていた。特に貴族という存在が、未知であり得体の知れないものと感じていたため、パーティーへの招待に対しても懐疑的であった。しかし、隆文の説得により、警戒を保ちつつも露骨な態度を控えるよう努めることを決意した。
戦勝パーティーの意義
葬儀としての側面
今回のパーティーは、戦勝を祝うだけではなく、アムールスクで犠牲になった兵士や民衆を悼む慰霊の場でもあった。そのため、啓太は辞退という選択肢を取ることができず、参加を決意するに至った。隆文は、この機会を外交問題に発展させないための重要な場と捉え、啓太を励ました。
外交問題への配慮
啓太がゲストとして無作法な態度を取ることで、同盟国の貴族に対する失礼が外交問題に発展する可能性があった。隆文は、啓太に対し警戒心を見せないよう助言するとともに、慎重な態度を保つ重要性を繰り返し伝えた。
啓太の葛藤と決意
緊張と不安
貴族との接触に対して不安を抱える啓太は、直前になっても覚悟が定まらず、憔悴していた。隆文はその様子に苦笑しつつも、「魔物よりも人間が怖い」という啓太の発言を会場で口にしないよう念押しした。
覚悟を固めた少年
最終的に啓太は、貴族への警戒心を保ちながらも、場に相応しい態度を取ることを誓った。その姿勢は、彼が一〇〇〇体近い魔物と戦った「英雄」であることを知る者には、少し滑稽にも映るものであった。
パーティーの開始
主催者である伯爵の祈りが響く中、啓太と隆文は他の参列者とともにパーティー会場に足を踏み入れた。啓太にとってこの場は、英雄としての名声と、外交上の責務を両立させるための試練の場となった。
戦勝パーティーと新たな謀略
慰霊式典の厳かさ
戦勝パーティーと呼ばれた式典は、戦死者を悼む厳かな慰霊式であった。式典は滞りなく進み、参加者たちはその場の空気に敬意を示していた。啓太も予想していた騒々しい社交とは異なる内容に、心中で謝罪の念を抱きつつも一言も発することはなかった。
商談への突入
式典後には、本番ともいえる商談の場が始まった。この場には貴族や軍人、企業関係者が集い、魔物由来の貴重な素材や現地の情報を巡る駆け引きが繰り広げられた。啓太は自分には関係のない話と考えていたが、参加者の一人から「噂の英雄」として話しかけられることとなり、無視できない状況に陥った。
ヴァレリー伯爵の疲労
式典の主催者であるヴァレリー伯爵は、自室でようやく一息ついた。彼は数日前から続く魔物襲撃への対応や式典準備に追われ、疲れ切っていた。しかし、彼の従兄弟であり国家元首のディミトリ大公が現れ、安堵の時間は束の間であった。
ディミトリの策略
ディミトリ大公は式典に変装して参加し、啓太と直接会話した。初めは頼りない印象を持っていたが、啓太の胆力や忠誠心に感銘を受け、彼を騎士に叙する計画を立てた。さらには外交窓口として啓太を利用しようと考え、同盟国への提案も視野に入れていた。
英雄を巡る謀略
ディミトリは、啓太を極東ロシアに取り込むための策略を進める決意を固めた。その一環として、ヴァレリー伯爵の娘との婚約も視野に入れた計画を進めていた。彼は啓太の能力を高く評価し、国家の利益に繋げようと画策していた。
啓太の無自覚な行動
一方で、啓太自身は国外で自らの名声が広まっていることを知らず、真剣に土産選びに没頭していた。彼の何気ない行動が周囲に大きな影響を与えていることに気付く様子はなく、彼の平穏な日常は着実に遠ざかっていった。
登場キャラクター
日本皇国
川上啓太
• 主人公であり、御影一号機の操縦士。現在は新型パワードスーツの試験を担当している。
• 昇進して中尉となり、第一師団所属。
最上隆文
• 最上重工業の社長。啓太と共に新型強化外骨格の開発および極東ロシアでの任務に携わる。
• 技術者でありながら冷静な戦略家でもある。
久我静香
• 啓太の新たな上官であり、第一師団の担当教官。
• 啓太の特異な経歴と実績に困惑している。
芝野雄平
• 第二師団の師団長であり、北九州防衛戦の指揮官。
• 啓太の不在を大いに嘆きつつも、迎撃戦を冷静に指揮した。
浅香涼子
• 統合本部長として、軍全体の調整を行う。
• 啓太の戦場不在の背景を理解しつつ、冷静な判断を下す人物。
五十谷翔子
• 啓太の同期生であり、草薙型を操縦する軍学校の生徒。
• 模擬戦を通じて啓太の技術を学びつつ成長を目指している。
田口那奈
• 啓太の同期生であり、翔子と共に模擬戦に挑む。
• 武家の娘であり、策略に長けた性格。
運用政策課 第二課
• 啓太や最上重工業への妨害を画策する軍内部の派閥。
• 財閥系企業と結びつきが強い。
第三師団
• 再建中の師団であり、啓太と最上重工業を敵視している勢力の一つ。
極東ロシア大公国
ヴァレリー・アムールスキー伯爵
• ナ・アムーレ一帯を治める貴族であり、今回の戦勝式典の主催者。
• 貴族としての責務を全うしつつも、啓太を高く評価する人物。
ディミトリ=ロバノフ
• 極東ロシア大公国の国家元首であり、ヴァレリーの従兄弟。
• 啓太を極東ロシアに取り込もうと画策する。
ヴァレリー伯爵の娘
• ナ・アムーレの貴族の娘。啓太に救助された。
ナ・アムーレの貴族たち
• 戦勝式典に参加した貴族層。啓太の活躍を注目している。
魔族
侯爵ルフィナ
• 魔族の上級幹部。過剰な魔物派兵を行い、日本に甚大な被害をもたらした。
• 失策を王に叱責され、対応を模索中。
魔族の王
• 魔族全体を統括する存在。ルフィナに対し、戦略的対応を命じた。
その他の魔族
• 魔物の侵攻を支援し、日本や極東ロシアを脅かしている。
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