小説「ふつつかな悪女ではございますが 5」感想・ネタバレ

小説「ふつつかな悪女ではございますが 5」感想・ネタバレ

どんな本?

この作品は、架空の中華風世界を舞台に、五つの名家から選ばれた雛女(ひめ)たちが次期皇后の座を巡って繰り広げるファンタジー小説である。第五巻では、秋の恒例行事である『鑽仰礼』が描かれ、雛女たちが課題に挑む中、主人公・黄 玲琳(こう れいりん)が陰謀に巻き込まれていく。

主要キャラクター
• 黄 玲琳(こう れいりん):黄家の雛女で、次期皇后と目される美しい少女。病弱だが、鋼のメンタルを持つ。 
• 朱 慧月(しゅ けいげつ):朱家の雛女で、そばかすだらけの鼠姫と呼ばれる嫌われ者。玲琳と身体が入れ替わった経験を持つ。 

物語の特徴

本作は、後宮内の権力争いや陰謀が巧みに描かれており、キャラクターたちの成長や友情が物語に深みを与えている。特に、玲琳と慧月の複雑な関係性や、各雛女の個性豊かな描写が読者を惹きつける。

出版情報
•  出版社:一迅社 
•  発売日:2022年10月4日
• レーベル:一迅社ノベルス
• ISBN:9784758094979
また、本作は尾羊英によるコミカライズも行われており、『月月刊コミックZERO-SUM』にて連載中である。  

読んだ本のタイトル

ふつつかな悪女ではございますが  5  ~雛宮蝶鼠とりかえ伝 ~
著者:中村颯希 氏
イラスト:ゆき哉  氏

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あらすじ・内容

豊穣祭から三月が過ぎ、五家の雛女の序列が決まる中間審査――『鑽仰礼』の季節がやってきた。
雛女に与えられる課題は三つ。それを皇帝や国の重鎮が直々に審査を行うという、各家にとって重要な儀式。
この日に賭ける者、大きな重圧を背負う者……出自の違う雛女たちは、それぞれ想いを抱えながら、当日を迎えた。
一方、序列に興味のない黄 玲琳は、不安と緊張で固くなる朱 慧月を励まし、いつもの通り後押ししていくのだが――。
「あなたなんて大嫌い。顔も見たくない!」
「もう、よいのですわ。慧月様なんて」
二人の間に揉め事発生!? さらに今回は、玲琳自身が何者かから狙われ、課題の妨害をされて……。
玲琳がとうとう絶体絶命!? 五家の雛女がしのぎを削る、波乱尽くしの第五巻!

ふつつかな悪女ではございますが5 ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~

主な出来事

賢妃との面会と王都への到着
玲琳は王都に到着し、賢妃へ挨拶を済ませた。賢妃は寡黙ながらも優しく、玲琳は彼女のもとで学べることを喜んだ。一方で、領地に残した妹のことが気がかりであった。

冬の夜の鍛錬と慧月の苦悩
玲琳は寒さの中で鍛錬を続けるが、慧月は疲労困憊の状態であった。玲琳は体力強化が必要だと主張するが、慧月は納得できずにいた。

鑽仰礼への準備と慧月の失敗
慧月は鑽仰礼に向け、化粧や詩作を学ぼうとする。しかし、玲琳は体力を鍛えるべきだと考え、厳しい訓練を課した。さらに、慧月が仕入れた化粧品に毒が含まれており、行商人に騙されたことが発覚する。慧月はショックを受けるが、玲琳の励ましによって前を向く。

淑妃・麗雅の策略と清佳の葛藤
麗雅は金家の雛女・清佳に対し、玲琳を陥れるよう指示する。清佳は反発するが、従わなければ金家の相見会に出されると脅され、苦悩する。

棋譜の記録と芳春の策略
芳春は玲琳との対局を振り返り、彼女の冷徹な手並みに魅了される。さらに、慧月を利用し、玲琳を挑発しようと画策する。

徳妃・芳林の暴力と芳春の屈辱
芳春は徳妃・芳林に手紙の内容を見破られ、激しい暴力を受ける。さらに、玲琳を陥れるよう命じられ、拒めばさらなる制裁が待っていた。

賢妃・傲雪との対話と歌吹の疑念
賢妃・傲雪は夜更かしする歌吹を咎め、霞粧を贈る。しかし、舞照に関する話題を避けようとし、歌吹の中に疑念が生じる。

王都の市と霊麻の発見
玲琳は王都の市で霊麻を発見するが、他の薬草を優先して購入する。その価値はあまり認識されていなかった。

鑽仰礼の開始と皇后・絹秀の課題
鑽仰礼が始まり、皇后・絹秀は「妃としての花を体現せよ」と命じる。雛女たちはそれぞれの花を選び、準備を進めた。

水白粉の毒と芳春の企み
芳春の水白粉に異変を感じた玲琳は、試しに肌につけると腫れが生じた。毒が仕込まれていた可能性が浮上する。

柱の倒壊と玲琳の迅速な対応
天幕の柱が倒れ、玲琳は慧月を庇って避難する。鑽仰礼の中断を防ぐため、冷静に状況を判断し、儀式を続行する決意を固めた。

慧月の舞台登壇と玲琳の演出
慧月は無花果を捧げ、自らの覚悟を示す。続いて登壇した玲琳は、煤けた衣装のまま舞台に立ち、その気高さで観衆を圧倒する。

玲琳の負傷と慧月の焦燥
玲琳の裾が焦げ、火傷を負っていたことが判明する。しかし、彼女はそれを隠し、霊麻があるから大丈夫だと笑ってみせた。

後宮の波乱と新たな火種
金淑妃や藍徳妃は玲琳の影響力に危機感を抱き、新たな策を巡らせる。玄家の賢妃・傲雪は玲琳に薬を提供しようとするが、歌吹はそれを断る。

鑽仰礼・中の儀と書画の試練
雛女たちは紫龍泉の祠に言祝ぎの書画を捧げるよう命じられる。慧月は筆を誤り、墨をこぼしてしまうが、玲琳が宣紙を交換することで助ける。

慧月の書画と祈禱師の糾弾
慧月の書が燃え上がり、祈禱師・安妮は「神罰」だと断じる。しかし、玲琳は氷の上を歩き、燃えた紙を確認すると、「寿」の文字が浮かび上がっていた。それを吉兆とみなすよう皇帝に進言する。

慧月の動揺と玲琳の誤解
慧月は玲琳に依存する自分を惨めに思い、怒りをぶつける。「二度と話しかけないで」と言い放ち、玲琳は驚きながらも言葉を返せなかった。

慧月の謝罪と玲琳の拒絶
慧月は玲琳に手紙を書き、莉莉に届けさせる。しかし、玲琳は受け取りを拒み、怒りを隠さずにいた。

慧月と玲琳の対立の激化
慧月は玲琳の態度に激昂し、周囲に怒りをぶつける。一方で玲琳も頑なに沈黙を貫き、和解の糸口を見出せなかった。

歌吹の介入と衝撃の襲撃
玲琳が霊麻を持っていたことを知った歌吹は、彼女を殴打する。玲琳は床に倒れ、意識を失ってしまった。

井戸の中での覚悟
玲琳は井戸に落とされ、助けが来ない絶望を味わう。しかし、慧月に謝罪するため、火を熾し、炎術を使って助けを求めた。

慧月の救出と玲琳の目覚め
慧月は玲琳を助けるため、自ら井戸に落ちる覚悟を決める。玲琳は驚きながらも、彼女の手を取り、共に這い上がった。

新たな決意と終の儀への準備
玲琳は、慧月と向き合う決意を固め、終の儀で巻き返す覚悟をする。満月の下、彼女の中にかつてない闘志が燃えていた。

感想

本書は、後宮で行われる『鑽仰礼』を舞台に、玲琳と慧月が初めて本気の衝突を経験する物語である。これまでの巻では協力し合ってきた二人が、すれ違いを重ねて喧嘩へと発展する展開は非常に緊迫感があり、読み手の感情を大きく揺さぶるものとなった。また、妃たちの陰謀が加速し、玲琳に対する圧力が増していく中で、彼女がどのように立ち回るのかが見どころとなる。

鑽仰礼の緊張感と玲琳の決断

鑽仰礼では、雛女たちがそれぞれの象徴する花を選び、その姿を体現するという課題が課された。玲琳と慧月は、それぞれ異なる方法で自らを表現しようとするが、予期せぬ出来事が続き、二人の立場を大きく揺るがす。特に、慧月が燃え上がる宣紙によって神罰を受けたと糾弾される場面は緊迫感があり、玲琳が氷の上を歩き、慧月の潔白を証明するために動く姿には強い意志が感じられた。この場面では、玲琳の機転と慧月への揺るぎない信頼が描かれ、読者を引き込む展開となっていた。

玲琳と慧月のすれ違いと葛藤

これまで互いを支え合ってきた玲琳と慧月であるが、本巻ではお互いの気持ちがうまく伝わらず、大きな亀裂が生じる。慧月は玲琳に頼りながらも、常に自分が後れを取っていることに劣等感を抱き、その焦りが怒りとなって爆発する。一方、玲琳は慧月の感情の変化を理解できず、自分の行動が彼女を傷つけていたことに気づかない。この二人のすれ違いが、物語の中心に据えられており、読者のフラストレーションを高めつつも、二人の成長を予感させる構成となっていた。特に、慧月が「二度と話しかけないで」と言い放つ場面は印象的であり、玲琳の驚きと戸惑いが痛いほど伝わってきた。

後宮の陰謀と妃たちの暗躍

妃たちの権力争いも本巻の大きな見どころである。金淑妃や藍徳妃は玲琳を排除しようと画策し、清佳や芳春を利用して策略を巡らせる。さらに、徳妃・芳林の暴力によって芳春が追い詰められる場面は、後宮の冷酷な一面を浮き彫りにした。また、玄家の賢妃・傲雪の沈黙と歌吹の疑念が交錯し、玲琳が知らぬ間に新たな火種が生まれていることが示唆される。このように、多方面からの陰謀が絡み合い、物語に深みを与えていた。

クライマックスの衝撃的展開
玲琳が井戸に落とされ、助けが来ない絶望に直面する場面は圧巻であった。ここで、彼女は自らの力で火を熾し、炎術を用いて助けを求めるが、その必死の努力すらも追い詰められる状況が続く。しかし、慧月が玲琳を救うために井戸へ飛び込むという大胆な行動を取り、二人の関係が再び交わる瞬間には大きなカタルシスがあった。この展開により、玲琳と慧月が互いにどれほど強く思い合っているかが強調され、次巻への期待を高める締めくくりとなっていた。

総括
本作は、玲琳と慧月の初めての大喧嘩を通じて、互いの未熟さや成長の必要性を描きつつ、後宮の陰謀がますます深まる展開を見せた。読者にとっては、二人のすれ違いに苛立ちを覚えると同時に、その関係の行方に強い関心を抱かせる構成となっていた。また、妃たちの策略や玄家の動きがより複雑化し、次巻でどのような決着がつくのか目が離せない。鑽仰礼という厳しい儀式を乗り越えた二人が、どのように関係を修復し、成長していくのかを楽しみにしたい。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

1.それぞれの夜

賢妃との面会と王都への到着

玲琳は、王都へ到着し、賢妃へ挨拶を済ませた。互いに口下手であり、会話は最小限に留まったが、長年の手紙のやり取りの通り、賢妃は寡黙ながらも優しい人物であった。玲琳は、彼女の雛女として学ぶことを心から喜び、短期間ながらも後宮の作法を学ぶ時間を楽しみにしていた。一方で、領地に残してきた妹のことが気がかりであった。

冬の夜の鍛錬

玲琳は、雛宮の高楼から黄昏の空を眺めながら、冬の訪れを実感していた。そこへ、疲れ果てた様子の慧月が声を上げ、窓を閉めるよう求めた。彼女は過酷な鍛錬の最中であり、汗が冷えて寒さに震えていた。しかし、玲琳は体の鍛錬こそが重要だと考え、さらに厳しい訓練を続けようと提案した。慧月は強く拒絶したものの、玲琳の論理的な説明により、体力と精神の強化が必要であると認識せざるを得なかった。

鑽仰礼への準備

慧月は、鑽仰礼に向けた準備として、化粧や詩作の指導を求めた。しかし、玲琳はまず基礎を鍛えることが重要だと主張し、徹底した体力訓練を課した。慧月は納得がいかないまま鍛錬を続けるが、疲労困憊の状態に陥った。

不良品の化粧品と慧月の挫折

慧月は、行商人から大量の化粧品を仕入れ、自信満々で玲琳に披露した。しかし、玲琳はそれらが水銀や鉛を含む有毒なものであると見抜き、使用しないよう忠告した。この事実に慧月は衝撃を受け、行商人に騙されたことへの怒りと恥ずかしさを感じた。玲琳は慧月を慰めようとしたが、慧月は嫉妬と自己嫌悪に苛まれ、玲琳へ厳しい言葉をぶつけた。しかし、玲琳は動じることなく、慧月の魅力を称え、彼女に自信を持つよう促した。その言葉に、慧月は動揺しながらも、玲琳の優しさに触れてしまう。

淑妃・麗雅の策略

一方、金家の雛女である清佳は、舞の稽古に励んでいた。しかし、淑妃・麗雅が現れ、鑽仰礼の結果は舞や詩ではなく、陰謀によって決まると告げた。そして、清佳に対し、黄玲琳を陥れるよう指示した。清佳はこの提案に激しく反発したが、麗雅は従わなければ雛女の座を剥奪し、金家の相見会に出すと脅した。相見会とは、金家の娘たちが金で買われる場であり、清佳にとって屈辱的な運命であった。

清佳の葛藤と決意

麗雅の脅しにより、清佳は絶望し、怒りを募らせた。彼女は雛宮を美しき競争の場と信じていたが、権力闘争に巻き込まれ、己の誇りと生き方を試されることになった。自らの理想を貫くのか、それとも生き延びるために策略に従うのか――清佳は重大な決断を迫られることとなった。

棋譜の記録と芳春の策略

藍芳春は、黄玲琳との対局の余韻に浸りながら棋譜を書き留めていた。彼女にとって、玲琳の冷徹な駒運びは魅力的であり、完敗することすら心地よい経験だった。芳春は雛宮では猫をかぶっており、対局相手に困ることが多かったため、玲琳の容赦のない手並みは貴重だった。玲琳には「大嫌い」と認識されているが、それすらも芳春にとっては楽しみの一部であった。彼女は玲琳を刺激する方法を心得ており、慧月を絡めて挑発することで玲琳の本性を引き出すことを愉しんでいた。

徳妃・芳林の介入

芳春が棋譜を記録する最中、徳妃・芳林が突如として訪れた。彼女は表向きには愛嬌を振りまくが、内心では芳春の狡猾さを警戒していた。彼女は芳春が書いた手紙の暗号を見破り、その内容に激怒していた。芳春は取り繕おうとしたが、芳林は彼女の言葉を信じず、突如として暴力を振るい始めた。

芳春への暴力と屈辱

徳妃は、硯の墨を芳春に浴びせ、髪を乱暴に引き抜き、さらに平手打ちを浴びせた。彼女の行動は激情に駆られたものであり、冷静な計算に基づくものではなかった。芳春は、これまでの策略や機転が通じない暴力の前に、恐怖を覚えた。妃としての威厳を保つべき徳妃が、女官たちの前で雛女に手を上げるという行為に、芳春は理解が追いつかなかった。徳妃は、忠誠の証として黄玲琳を陥れるよう命じ、それを拒めばさらなる制裁を加えると脅迫した。

女官たちの無力さと芳春の絶望

徳妃が去った後、女官たちはようやく芳春に駆け寄った。しかし彼女たちは妃に公然と逆らうことができず、ただ震えながら彼女を慰めることしかできなかった。芳春は、女官たちの忠誠が口先だけであり、徳妃の権力と暴力には抗えないことを悟った。自身の知恵と策略ではどうにもならない状況に直面し、初めて絶望を感じた。

賢妃・傲雪との対話

一方、玄家の雛女・歌吹は夜更けに鏡を見つめていた。彼女は、己の顔に重ねるように、亡き舞照の面影を探していた。そこへ賢妃・玄傲雪が現れ、夜更かしを咎めた。歌吹は、鑽仰礼に向けた準備と称して化粧の練習をしていたが、実際には過去に囚われていた。傲雪は、歌吹の努力を認めながらも焦る必要はないと諭し、霞粧の贈り物を渡した。しかし、その品を自分からの贈り物だとは公言しないよう求めた。

隠された真実への疑念

歌吹は、賢妃の真意を探ろうとし、舞照の話題を持ち出した。しかし傲雪は即座に話を遮り、それ以上語ろうとしなかった。歌吹はその反応に戸惑いながらも、それが禁忌の話題であることを察した。賢妃は言葉少なに室を去ったが、歌吹の心には疑念が残った。彼女は鏡を見つめながら、賢妃の真意を問うように呟いたが、鏡は沈黙を保つばかりであった。

2.玲琳、花を表す

王都の市と霊麻の発見

王都の市は賑わいを見せ、南国の果物が並んでいた。賢妃からの小遣いで果物を購入し、干して届けることにした。また、王都の薬草屋で霊麻を発見したが、その価値はあまり認識されていなかった。霊麻は火傷に効くと知っていたが、他の珍しい薬草を優先して購入した。

鑽仰礼の開始と雛女たちの動揺

鑽仰礼の初日、雛宮では銅鑼が鳴らされ、盛大に始まった。雛女たちは突然、寝間着のまま天幕に連れ出され、何が起こるのか分からぬまま座らされる。特に朱慧月は、予告された時間と異なる状況に憤慨していた。天幕の前方には巨大な衝立が設置されており、その奥の様子は分からなかった。

皇后・絹秀からの課題

皇后・絹秀が現れ、「妃としてあるべき花を体現せよ」と命じた。雛女たちは、それぞれの家や妃としての理想を反映する花を選び、衣装や化粧と共に準備することとなる。玄歌吹は「椿」、金清佳は「牡丹」、朱慧月は「梅」、藍芳春は「水仙」を選んだ。

芳春の違和感と水白粉の毒

芳春の振る舞いに違和感を覚えた玲琳は、慎重に水白粉を試すと、肌が赤く腫れ上がる異変を発見した。芳春の選んだ「水仙」は、薬効を持つが強い毒も持つ花だった。これにより、芳春の行動が意図的である可能性を疑う。

柱の倒壊と玲琳の迅速な対応

突然、天幕の柱が不自然な音を立てて傾き始めた。危険を察知した玲琳は、慧月を突き飛ばし、共に難を逃れる。外では混乱が広がるが、玲琳は鑽仰礼の中断を避けるため、助けを求めず儀式を続ける決意を固めた。

清佳の葛藤と麗雅の策略

金家の淑妃・麗雅は、清佳に柱を倒す合図を送らせようとしていた。清佳は躊躇するが、最終的に麗雅自身が合図を出し、柱の倒壊を引き起こした。清佳は、自らの意思とは無関係に事件に関与してしまう形となり、罪悪感に苛まれる。

慧月と玲琳の決意

衣装も花も台無しになった慧月は絶望するが、玲琳は鑽仰礼を続けるべきだと説得する。逃げる選択肢を与えられた慧月は、それを拒絶し、自らの意思で最後まで挑むことを決めた。玲琳は策を巡らせ、新たな方法で儀式に臨む覚悟を固めた。

舞台への登壇と緊張

慧月は震える足を叱咤しながら、舞台へ続く階段を登った。長らく儀式には黄玲琳が代わりを務めていたため、久しぶりの登壇であった。観衆の冷笑や嘲笑の視線が彼女を包み込むのはこれまでの常であり、今回の不測の事態が重なる中で、緊張は極限に達していた。それでも雛女として舞台に立たねばならないと、自らを奮い立たせた。

階段を上る慧月の姿を見て、女官や鷲官たちがざわめいた。髪を簡素にまとめ、羽織を裏返しにまとった姿に、驚きと疑問が広がる。しかし、皇帝が言葉を発さぬ限り、誰も問いただすことはできない。慧月はそれを利用し、黙々と舞台へと向かった。

皇帝と周囲の反応

舞台中央に立った慧月は、皇帝・弦耀とその周囲の面々の姿を目にした。彼の穏やかな微笑は、何事にも動じない底知れぬものに感じられた。皇后・絹秀は天幕倒壊を案じ、真剣な表情を浮かべているものの、皇帝の許しなしに動くことはできなかった。

皇太子・尭明は険しい表情でこちらを凝視し、黄玲琳の兄たちも不安げな様子を見せていた。慧月は、舞台に立つ自分を案じる者がいることを認識し、わずかに緊張を解いた。

慧月の決意と演出

慧月は膝を折り、皇帝に挨拶を述べると、羽織を脱ぎ去り、褐色の裏地を見せた。その掌には、黄玲琳が朝食代わりに摘んでいた「無花果」が載せられていた。それは単なる果実ではなく、「豊穣の実」とも呼ばれ、内向きに咲く花の集まりであった。

彼女は花の美しさではなく、実として人々に幸福をもたらす覚悟を示した。この演出に観衆は驚き、初めは戸惑いの声が上がったものの、次第に感嘆へと変わった。慧月はまっすぐに立ち、成長した自分を自覚した。

玲琳の登場と圧倒的な存在感

次に舞台へ上がったのは黄玲琳であった。彼女は黒く煤けた襦裙をまとい、袖と領巾で顔を隠していた。その姿は事故の凄惨さを物語っていたが、彼女が袖を下ろすと、その顔は驚くほど美しかった。

玲琳は後宮の妃としてあるべき姿を、衣装の演出と共に示した。裾は炭にまみれながらも、上へ向かうにつれ清らかさが際立つ装い。彼女の佇まいはまさに「蓮」のようであり、その気高さは観衆を圧倒した。

天幕倒壊と玲琳の巧みな弁舌

舞台後方で天幕が完全に倒壊し、会場は騒然となった。しかし玲琳は動じず、皇帝の前に跪き、冷静に状況を説明した。彼女は倒壊を「陛下の威光に天幕がひれ伏した奇跡」と表現し、不吉な出来事ではないと巧みに言いくるめた。

その大胆な発言に皇帝は驚いたものの、すぐに笑みを浮かべ、場の雰囲気を和らげた。玲琳は圧倒的な話術で観衆を掌握し、さらに陰謀を企てた者たちへ向けた威圧の眼差しを送った。

慧月の動揺と玲琳の負傷

慧月は無花果を使用してしまったことに責任を感じつつも、玲琳の口上に圧倒され、共犯者としての笑みを交わそうとした。しかし、階段を下りる玲琳の足取りがわずかに乱れたのを見て、異変を察知する。

女官や玄歌吹が駆け寄り、玲琳の裾が焦げていることを指摘。火傷を負っていたことが判明したが、玲琳はそれを隠し、霊麻という薬草があるから大丈夫だと言い張った。慧月は、彼女が無理をして笑顔を見せていることに気づき、胸の奥に苛立ちと焦燥を感じた。

後宮内の波乱と新たな火種

一方、金淑妃や藍徳妃たちは、玲琳の強さに危機感を覚え、次なる策を巡らせていた。彼女たちにとって、この日の出来事は失敗に終わったが、明日からの儀で巻き返そうと密かに画策していた。

玄家の賢妃・傲雪は、玲琳への薬の提供を申し出たが、歌吹はそれを断り、玲琳が霊麻を知っていることに興味を抱いた。彼女の黒い瞳には、秘めた炎が揺らめいていた。

後宮の儀式は続くが、すでに新たな波乱の種が蒔かれていた。

3.玲琳、沈む

王都での新生活と後宮の観察

火傷の具合は回復に向かい、王都での生活にも馴染み始めていた。これまで玄端宮にばかり通っていたが、許可された範囲で後宮を見て回ることにした。後宮の調度品は見事で、意匠も洗練されており、陶坊や繍坊を覗いてみたいと考えた。また、本宮には儀式のために祈禱師が訪れており、彼女の神通力や実績に興味を持った。女の身で国に尽くすその姿勢は誇らしく、自身も雛女として国の役に立てればと願った。

後宮の華やかさは玄家の女性には不向きだと感じたが、始祖神から与えられた才能を鍛え、本分を果たさねばならなかった。言葉を尽くすのは苦手だが、意匠を形にする作業は好きであり、手掛けた作品が尊い方の慰めになればと願った。玄家は武器製造の名家でありながら、金細工の職人としての側面も持っていた。自身は鉄剣を打つよりも金細工を作り、人の心を照らしたいと考えていたが、家の期待に応えられるかどうかは悩ましかった。

また、家族に対する考え方についても触れ、冷酷な野心家と見なすのではなく、彼らなりの願いや悩みがあると理解しようとしていた。雛女として最大限の努力をすることを決意し、最後に、相手を気遣う言葉を添えて手紙を締めくくった。

鑽仰礼・中の儀の開始

鑽仰礼・中の儀は前日よりも厳粛な空気のもと始まった。警護が厳しくなり、特に皇帝や祈禱師、家臣の周りには何重もの人垣が配された。儀式は紫龍泉の水辺で行われ、この泉は神聖な場所とされていた。そのため、祈禱師の席は皇后よりも上席に置かれ、開会の言葉の前に清心神への祈りが捧げられた。

祈禱師は皇族を龍の末裔と崇める詠国において、唯一公式に認められた神職者であった。大陸は始祖神の吐息から生まれ、神々は人間を生み出し、その導き手として龍を遣わしたとされる。皇族はその龍の末裔であり、龍気を持つとされた。一方で、神通力を持つ者は、魂の清らかさゆえに神と通じる力を得るとされ、祈禱師として仕えていた。

この日の儀式を執り行うのは、三十年以上にわたり本宮に仕えてきた老女・安妮であった。彼女は始祖神の作り出した大地に息を吹きかけぬよう口元を白布で隠し、独特な迫力と神聖さを漂わせながら祝詞を唱えた。

雛女たちの課題と玲琳の態度

皇后・絹秀は、妃として必要な資質を試すため、紫龍泉の祠に言祝ぎの書画を捧げるよう命じた。書のみでも画のみでも、また組み合わせてもよかった。宣紙には祈禱紋が施され、神聖なものとされていた。雛女たちは景観の良い場所を探し、それぞれ課題に取り組み始めた。

玲琳は周囲の目を気にせず、泉の周辺を散歩しながら構想を練っていた。遊んでいるように見えたが、実際には筆を手慰みに動かしながら計画を立てていた。霜を踏みしめたり柚をもいで香りを味わったりと、彼女なりの方法で気持ちを整えていた。

一方で、慧月は指が凍えて手元を狂わせ、墨をこぼしてしまった。女官に新しい紙を求めたが、予備は用意されていないと拒否された。そのやり取りを見た玲琳は、自分の宣紙と交換することを提案した。慧月は最初こそ戸惑ったが、玲琳の言葉に説得され、申し出を受け入れた。

慧月の書画と祈禱師の非難

書画の披露が始まり、芳春や清佳、歌吹がそれぞれの作品を差し出した。皇帝は彼女たちの作品に目を通し、主題や技術を評価した。続く玲琳の作品は、泉の美しさを繊細に表現し、祖先への感謝を込めたものだった。その出来栄えに、皇帝も祈禱師も感嘆し、彼女の善良な心を称えた。

しかし、慧月の番になると、突如として彼女の宣紙が燃え上がった。人々は驚愕し、祈禱師・安妮はこれを「神罰」と断じた。不信心な詩を捧げたことで清心神の怒りを買ったのだと糾弾し、周囲もその言葉を信じる気配を見せた。慧月は動揺し、反論しようとしたが、疑いの眼差しに飲み込まれ、言葉を失った。

玲琳の行動と慧月の動揺

玲琳は、慧月の書が本当に凶兆かどうかを確かめるため、氷の上を歩き泉に近づいた。しかし、氷が割れ、彼女は水中に落ちた。周囲が慌てる中、玲琳は自力で岸に上がり、濡れた書を手にしていた。そこには「寿」の文字が浮かび上がっていた。玲琳は、清心神が慧月の熱意に応えたのだと説明し、これを吉兆とみなすよう主張した。結果として皇帝や皇太子もその意見を支持し、祈禱師・安妮は渋々ながら発言を修正した。

儀式が終わり、玲琳は藤黄女官たちに介抱されながらも、慧月のもとへ向かった。自身の行動が彼女の立場を守るためだったことを伝えようとしたが、慧月は激しく動揺し、玲琳の助けに依存する自分を惨めに思った。そして、感情が爆発し、玲琳に対して怒りをぶつけた。

慧月は、玲琳が無茶をしながらも常に成功し、自分は何もできないという現実に耐えられなかった。自らの無力さに苛まれた彼女は、玲琳に「二度と話しかけないで」と言い放ち、その場を去った。玲琳は彼女の言葉に驚き、悲しみを滲ませたが、追いかけることはできなかった。

慧月は走りながら、玲琳が倒れたという悲鳴を背後に聞いた。しかし、振り返ることも、止まることもできず、ただ耳を塞いで走り続けた。

4.玲琳、喧嘩する

祈禱師の集会と手紙の中断

玲琳は、これまで都に上がってから毎日手紙を書いていたが、翌日は手紙を中断することを決めた。ちょうどその日、祈禱師が後宮を訪れ、女たちのために平安符を授ける集会が開かれることが決まっていたためである。この集会には、信心があれば下働きの者でも参加が許されるという。賢妃も外出する予定であり、玲琳は時間の余裕があるため、参加を決めた。しかし、祈禱師の都合により時間が不明瞭であるため、手紙を書く余裕はないかもしれないと考え、事前にその旨を伝えた。

雛宮での世話焼き

冬の梨園にある四阿では、玲琳が腰掛けていた。彼女の周囲では、冬雪をはじめとする藤黄女官たちが次々と世話を焼き、火鉢を近づけたり、布を巡らせたりと過保護なほどの配慮を見せていた。四阿はもともと開放的な空間であったが、厚手の布で覆われ、天幕のようになっていた。さらに、茶器や果物、文具などが揃えられ、まるで宮の自室のような様相を呈していた。

玲琳は「十分暖かい」と断りを入れたものの、女官たちは世話をやめようとしなかった。彼女が泉に沈み、高熱を出したことを気にかけていたためである。特に冬雪は「死の淵から生還されたばかり」と述べ、玲琳の健康状態に対して過剰な心配をしていた。

黄麒宮の規則と雛宮での滞在

鑽仰礼の最中、雛女は離れで女官の世話を受けずに過ごさねばならなかった。しかし、看病を禁じられた藤黄の女官たちは、二昼夜にわたり離れを取り囲み、玲琳が回復するとすぐに雛宮の梨園へと連れ戻した。雛宮は公共空間であり、女官との接触が規則違反とならない場所であったためである。

玲琳は「大げさな話ではない」と述べ、意識も明瞭で悪夢も見ず、紫龍泉の神聖さのおかげで快適に過ごせたと語った。しかし、女官たちは終の儀まで玲琳を日中ずっと雛宮で過ごさせようとし、他家の雛女たちも離れ暮らしに耐えかねて雛宮に避難し始めた。

兄たちの過剰な心配

玲琳の兄たちは、妹の水難事故を心配し、黄麒宮に乗り込もうとしたが、絹秀によって止められた。その後、彼女が雛宮に出てくると、兄たちはすぐに駆けつけた。景行は「すっぽんやフカヒレで栄養をつけろ」と過保護な態度を見せ、景彰は「終の儀を休んでもいい」とまで言い出した。

玲琳は「騒ぎ立てないで」と笑顔で断ったものの、兄たちは涙を浮かべ、彼女が無茶をしすぎたと非難した。冬雪も今回は兄たちを止めず、鍛錬の道具すら持ち込ませなかったため、玲琳はひたすら説教を受ける羽目になった。

慧月との確執と玲琳の葛藤

玲琳は、兄たちに叱られたことを素直に受け入れつつも、慧月が怒った理由には釈然としない気持ちを抱いていた。自分は慧月の役に立ちたかっただけであり、それがなぜ彼女を傷つけるのか理解できなかった。人の心の難しさを痛感しつつも、玲琳は「慧月に謝るべきだ」と結論づけ、手紙を書くことを決めた。

金淑妃の訪問と清佳の嘘

そこへ金淑妃と金清佳が訪れ、玲琳の体調を案じる素振りを見せながら、嫌味を含ませた言葉を投げかけた。特に淑妃は、慧月が玲琳を見捨て、清佳に頼り始めたと語った。清佳は初めは否定しようとしたが、淑妃の圧力に屈し、慧月が玲琳を嫌っていると嘘をついてしまった。その言葉に玲琳は深く傷つき、心を閉ざしてしまった。

辰宇の訪問と玲琳の感情の爆発

その後、鷲官長の辰宇が訪れ、皇太子からの手紙を届けた。玲琳は手紙を受け取り、ざっと目を通したが、心ここにあらずの様子であった。辰宇が彼女の異変に気付き、体調を心配したが、玲琳は「絶好調」と強く否定した。

しかし、次第に感情が高ぶり、慧月の言葉が理不尽だと訴え始めた。卓を叩きながら「わたくしは無茶なんてしていない」と繰り返し、ついには「慧月様なんてもう結構」と決別の言葉を口にした。その言葉は、かつて尭明に弓を貸してもらえなかったときと同じものであったが、そのときよりもずっと悲痛な響きを持っていた。

慧月の葛藤と黄玲琳への謝罪の決意

慧月は、離れでの暮らしにうんざりし、不満を募らせながら梨園を歩いていた。自らを「雛女」と称しながらも、侘しい生活に耐えかねていた。散策の目的はあくまで気晴らしだと主張したが、実際には黄玲琳との関係を修復しなければならないという焦燥に駆られていた。四日前に紫龍泉で感情のままに黄玲琳を罵ったことを後悔し、謝罪の機会を窺っていた。しかし、炎術を使っても玲琳の気配を感じ取ることができず、彼女が意図的に交流を拒絶しているのではないかと疑念を抱いた。

黄玲琳への不安と梨園での陰謀

慧月は黄玲琳が梨園にいると聞き、意を決して彼女の元へ向かった。しかし、藍家の女官たちの会話を偶然盗み聞きし、鑽仰礼に関する陰謀が進行していることを知る。藍徳妃は芳春に金銭を用意させ、終の儀を有利に進めるために祈禱師を懐柔しようとしていた。また、黄玲琳が冬の泉に落ちたことで体調を崩し、終の儀の準備が遅れていることも話題に上がっていた。徳妃は玲琳を陥れる機会を狙っており、そのために芳春を利用していた。

芳春の策略と慧月の窮地

慧月と莉莉がこの陰謀を知った矢先、藍芳春が現れ、彼女たちの行動を阻止しようとした。芳春は突然態度を変え、慧月が黄玲琳を見限って金清佳や自分に媚びていると公然と吹聴し始める。その場にいた玲琳は、その言葉を聞いて慧月を無視し、立ち去ってしまった。芳春の策略によって、慧月は玲琳に誤解され、孤立する形となった。彼女は困惑しながらも、玲琳に真実を伝えなければならないと決意する。

玄歌吹の決意と三年前の事件

一方、玄歌吹は離れでの日常を過ごしながらも、三年前の事件の真相を探るため密かに行動していた。変装して後宮内を動き回り、手がかりを探していたが、祈禱師・安妮との接触は叶わず、真相には辿り着けていなかった。しかし、鑽仰礼の期間中に安妮が再び後宮に現れる可能性が高いことを察し、情報を集めるために他家の女官に接触する計画を立てていた。

玄賢妃との対峙と歌吹の執念

歌吹は変装して後宮内を探索していたが、玄賢妃・傲雪に見つかってしまう。傲雪は歌吹の行動を咎め、玄端宮か梨園に留まるよう命じる。そこで歌吹は、自分が探しているのは三年前の事件の真相であり、姉・舞照が無実の罪で炎尋の儀にかけられたことを確信していると告げる。賢妃は事件の話題を禁忌として封じようとするが、歌吹はそれを許せず、真相を明らかにする決意を新たにした。

それぞれの運命の岐路

慧月は玲琳との関係修復のために、誤解を解く決意を固めた。一方で、歌吹は姉の死の真相を追い続け、後宮の陰謀に迫ろうとしていた。鑽仰礼が進む中、彼女たちはそれぞれの目的を果たすため、新たな一歩を踏み出すこととなる。

5.玲琳、こじらせる

慧月の手紙と莉莉の役割

慧月は自らの非を認め、黄玲琳に謝罪するための手紙をしたためた。しかし、直接会うことを躊躇い、まずは書面で誠意を示そうと考えた。莉莉は主人の意向を尊重し、慎重に手紙を届ける役目を担った。彼女は四阿に身を寄せる玲琳を探し当て、緊張しながらも意を決して近づいた。黄玲琳が寛容な人物であることを信じ、問題がこじれることはないと自分に言い聞かせながら、手紙を手渡そうとした。

予想外の拒絶と玲琳の怒り

しかし、予想に反し、玲琳は慧月の名前を口にすることすら拒んだ。彼女は笑顔を浮かべつつも、莉莉の言葉を封じるような威圧感を放ち、手紙を読む意思を見せなかった。冬雪によれば、玲琳は「朱慧月が各所で自分を嫌っていると吹聴している」との噂を耳にし、それ以来態度を硬化させているという。慧月がどれだけ後悔しても、玲琳は完全に心を閉ざし、対話の糸口すら与えなかった。

慧月の激昂と意地の張り合い

手紙が受け取られなかったことを知った慧月は、激しい怒りを露わにした。彼女は羞恥と失望を怒りへと変え、周囲の物を手当たり次第に投げつけた。玲琳が誤解したまま関係を断とうとしていることが許せず、「自分を疑うなら、向こうから詫びに来るべきだ」と叫んだ。一方の玲琳も頑なに対話を拒否し、四阿に閉じこもることで徹底した沈黙を貫いた。二人の間の対立は、一歩も譲らぬ意地の張り合いへと発展してしまった。

女官たちの苦悩と策謀

莉莉と冬雪は、仲裁の役目を担うことになったが、どちらの主人も説得には応じなかった。慧月は感情を爆発させ、玲琳は冷徹に門前払いを続ける。膠着状態に陥った二人をどうにかするため、女官たちは策を講じる必要に迫られた。冬雪は、避難路を使って慧月を誘導し、偶然を装って高位の人物と遭遇させる案を考えた。一方、莉莉は厨女官に扮し、玲琳に接触する計画を立てた。互いに主人を思う忠誠心が、異例の共闘を生み出したのである。

決戦に向けた準備

二人は協力し、それぞれの立場から状況を打開する方法を模索した。冬雪は慧月を避難路へと導き、皇帝や高位の妃と「偶然」対面させることで、強制的に行動を改めさせることを考えた。莉莉は厨女官の衣を借り、玲琳のもとへと潜入し、直接話をする機会を作ろうとした。二人の策は、強情な主人たちを和解へと導くための最後の手段であった。果たしてこの計画が成功するのか、女官たちの奮闘が始まろうとしていた。

玲琳の迷い

玲琳は、四阿の中で莉莉と冬雪の去っていく姿を見送っていた。二人の肩を落とした姿に胸を痛めたが、それでも手紙を受け取り、慧月に歩み寄ることはできなかった。自らの心の内を探るも、何が理由でここまで意地を張っているのかはっきりとは分からなかった。かつては冷静で感情に左右されることのなかった自分が、ここ最近の出来事で大きく揺らぎ、ちょっとしたことで心を乱されるようになっていた。慧月の言葉が心に引っかかり、紫龍泉での罵倒が脳裏から離れず、自らの感情を持て余していた。

拒絶と孤独

四阿の中は荒れ果て、玲琳は膝を抱えたまま時間を過ごしていた。彼女は側仕えの女官たちさえ遠ざけ、誰とも話さずにいた。思考は散漫となり、集中力を欠いた状態が続いた。自らの気持ちに名前をつけることができず、怒りなのか、悲しみなのか、あるいは別の何かなのかも分からなかった。そんな折、四阿の外から莉莉の声が響いた。彼女は強引に玲琳を引きずり出そうとし、さらには壺を割ることで注意を引こうとした。それでも玲琳は頑なに拒絶し、四阿に閉じこもり続けた。

説得と本心の露呈

莉莉は強引に玲琳を四阿の外へと引きずり出し、彼女の気持ちを真正面から問いただした。玲琳は「怒っている」と主張したが、莉莉はそれが真の感情ではないことを見抜いていた。彼女は玲琳の頬を引っ張り、「悲しい」と言うよう促した。最初は否定していた玲琳も、次第に自らの本心を認めざるを得なくなった。彼女は慧月の「大嫌い」という言葉に深く傷ついていたのだった。玲琳にとって、それは訣別の言葉に等しく、友人を失うことへの恐れが彼女の行動を縛っていた。

誤解と策略

莉莉の説得により、玲琳はようやく慧月と向き合う決意を固めた。しかし、慧月が本当に自分を嫌っているのかについてはまだ疑念が残っていた。玲琳は、金家の人々が慧月と自分の関係を悪化させようとしていることに気付いていなかった。莉莉は慧月がずっと玲琳のことを気にかけ、悔いていたことを伝え、玲琳の誤解を解いた。そして、二人の仲直りの場を設けるため、慧月との炎術の約束を取り付けようとした。しかし、玲琳は手紙を読む前に薬の調合をすると言い出し、その隙を突かれることとなる。

歌吹の介入と衝撃の襲撃

突如、四阿に飛び込んできたのは玄家の雛女・歌吹であった。彼女は玲琳の安全を案じ、莉莉を賊と誤解して拘束した。しかし、状況を確認するうちに莉莉の言葉を信じ、手を緩めた。歌吹は玲琳の体調を案じながらも、最近の異変について尋ねた。特に、祈禱師たちが玲琳に何か仕掛けていないかを気にしていた。玲琳は特に異常はなかったと答えたが、歌吹の執拗な問いかけには何か裏があるように感じられた。

霊麻の秘密と運命の瞬間

玲琳は、歌吹が火傷に特別な関心を持っていることを知り、霊麻という薬草を分けようとした。しかし、その大量の所持について無邪気に語ったことが、思わぬ事態を引き起こした。歌吹は三年前に霊麻を買い占めたのが玲琳であることに気付き、表情を強張らせた。彼女はその事実に激しく動揺し、次の瞬間、玲琳のこめかみをすりこぎで殴打した。玲琳は床に倒れ、意識を失う寸前まで追い込まれた。歌吹の目には怒りと憎しみが宿っており、彼女が玲琳に対して何か重大な誤解を抱いていることが明らかだった。

絶望と暗転

玲琳は、意識が遠のいていく中で、慧月と仲直りする機会を逃してしまったことを悔やんでいた。彼女は炎術で助けを呼ぶべきだったと気付きながらも、もう声を上げることすらできなかった。最後に慧月の名前を呼ぼうとしたが、その声は届かぬまま、玲琳の意識は完全に途絶えた。

6.慧月、逆上する

地下道の闇と慧月の恐怖

慧月は、冬雪に導かれながら暗闇の地下道を進んでいた。狭く湿った通路には灯りもなく、時折水滴が落ちる音だけが響く。冬雪が無言を貫くことで、慧月の恐怖は増していた。彼女は必死に話しかけ、気を紛らわせようとするが、冬雪は応じない。ついには怒りに任せて帰ると主張するが、既に彼女は逃げ場を失っていた。

冬雪の強制と慧月の反抗

四半刻前、慧月は夕餉も取らずに部屋で憤慨していた。そこへ冬雪が無言で踏み込み、玲琳と仲直りするよう強要した。慧月はその態度に反発し、茶器を投げつけるが、冬雪は動じず、冷淡に別の手段を講じると告げた。やがて彼女は陶器の鉢を床に叩きつけ、その膂力の恐ろしさを示す。慧月は完全に圧倒され、冬雪の命令に従わざるを得なくなった。

秘密の地下道と慧月の後悔

冬雪に連れられ、慧月は後宮の古井戸へと向かう。井戸の中には梯子が設置されており、冬雪はそれを下るよう命じた。抵抗も虚しく、慧月は仕方なく従うが、後にこの決断を悔いることとなる。暗闇と閉塞感に包まれ、彼女は過去の恐怖を思い出しながら、精神的に追い詰められていった。

皇太子と黄家兄弟の介入

井戸を抜けると、慧月は黄家の長男・景行、次男・景彰、そして皇太子・尭明の前に引きずり出された。冬雪の依頼で彼らが集められたのだった。彼らは、玲琳と仲直りするよう慧月に圧力をかける。慧月は反発し、感情を爆発させるが、景彰は彼女の怒りの裏にある罪悪感を見抜き、慧月が玲琳を本当に心配していることを指摘した。

慧月の決断と玲琳への思い

周囲の説得を受け、慧月は自分が本当に求めていたものを自覚する。彼女は玲琳と対等になりたかったのだ。冬雪の言葉からも、玲琳が慧月の言葉に深く影響されていたことを知る。怒りや反発ではなく、互いに理解し合うことが必要だと気づいた慧月は、玲琳と話し合うことを決意する。

炎術を通じた再会

離れに戻った慧月は、女官の莉莉から玲琳との炎術での対話を勧められる。最初は躊躇していたが、意を決して炎を通じて玲琳と話す。しかし、玲琳の態度は意外にも朗らかで、素直に謝罪してきた。慧月は面食らいながらも、許す意思を示し、二人の関係は修復されたかに思えた。

玲琳の危機

しかし、その直後、玲琳が奇妙な伝言を残し、意識を失いかけていることが判明する。彼女は何者かに襲われ、古井戸に放り込まれていたのだった。冬雪が飛び込んできて彼女の行方を必死に探す中、慧月は炎術を切らせまいと叫び続ける。玲琳が完全に意識を失う前に、居場所を突き止めることが急務となった。

慧月の怒りと決意

慧月は玲琳を救うため、怒りを力に変え、必死に呼びかけた。彼女を見捨てることなどできない。絶交をちらつかせ、罵倒し続けることで玲琳の意識を引き止めようとする。炎術を繋ぎ続け、決して彼女を見放さないと誓う慧月は、夜の闇を駆け抜け、必死に玲琳の居場所を探し続けた。

7.玲琳、死を覚悟する

井戸の中での目覚め

玲琳は、井戸の中で意識を取り戻した。狭い空間では身動きが取れず、膝から下は冷たい水に浸かり、感覚を失っていた。寒さのために気絶と覚醒を繰り返しながら、助けの来ない状況に絶望していた。彼女はかつて井戸を登ろうと試みたが、体力を消耗するばかりで失敗に終わった。唯一、宴の準備をする宦官や女官が近くを通ったが、彼女のか細い声は届かなかった。

歌吹の誤解と玲琳の思考

玲琳が井戸に投げ込まれる直前、歌吹は彼女に「助けが来ない絶望を知るべきだ」と言い放った。歌吹は霊麻を買い占めたことを玲琳の罪と見なし、そのために身内を亡くしたと誤解していた。玲琳は、その身内が三年前に亡くなったことを思い出し、祈禱師や出火の件と関連があるのではないかと考えた。しかし、思考をまとめる余裕はなく、体力の低下と寒さにより、生き延びることすら難しくなっていた。

決意と脱出の試み

玲琳は慧月に謝罪しなければならないと決意し、最後の力を振り絞って火を熾そうとした。彼女は水晶の破片と匕首を使い、火打ち石のように火花を散らそうとするが、なかなか成功しなかった。しかし、何度も試みるうちに小さな火花が紐に移り、炎が灯った。その炎を通じて慧月と繋がることに成功し、玲琳は彼女に詫びる機会を得た。

慧月との再会と衝突

慧月は炎を通して玲琳の状況を知り、彼女を救うために駆けつけた。しかし、玲琳が「大好きと言ってほしい」と願ったのに対し、慧月は「大嫌い」と叫び、涙をこぼした。慧月は玲琳の自己犠牲的な行動に怒り、助けを求めなかった彼女を叱責した。言い争いの末、慧月は井戸の中の玲琳と体を入れ替え、自らが井戸の底に落ちることで彼女を救い出した。

慧月の無謀な行動と玲琳の覚醒

慧月が井戸に落ちたことで、玲琳は驚愕し、すぐに彼女を引き上げる準備をした。冬雪と莉莉の協力を得て、玲琳は慧月を井戸から引き上げることに成功した。慧月は寒さと衰弱に震えながらも、玲琳に「しょせん病弱で無謀な女だ」と指摘した。しかし、その表情はどこか誇らしげだった。

玲琳の新たな決意

体力を取り戻した玲琳は、自らの弱さを認める一方で、慧月の体を得たことで「今の自分は最強だ」と確信した。彼女は、歌吹への反撃を決意し、清佳や芳春との決着をつけることを誓った。そして、鑽仰礼・終の儀も成功させる覚悟を固めた。満月の下、玲琳はかつてないほどの闘志を抱き、これからの巻き返しを心に誓った。

特典 SS『強かな花ではございますが』

藤黄女官への道

琥珀は黄麒宮の新人女官であり、将来は藤黄女官となり、敬愛する黄玲琳を支えることを夢見ていた。そのうえで、高給取りの武官に見初められ、玉の輿に乗ることも密かな目標であった。ある日、藤黄女官たちから「玲琳様をどう思う?」と問われ、彼女は機会を逃さず、自身の忠誠心を売り込む好機と捉えた。藤黄たちが下級女官を試すために質問を投げかけることは、宮中ではよく知られた事実であった。

玲琳への賛辞と機転

琥珀は思慮深い表情を作り、玲琳の美しさを称えつつ、「聡明にして性格は鮮美透涼。理想の主人です」と答えた。藤黄たちはその言葉に満足し、さらに「玲琳様を植物に例えると?」と尋ねた。琥珀は一般的な牡丹のような華やかな花では平凡すぎると考え、玲琳の繊細さを強調する答えを選んだ。「麗しいだけでなく、とびきり繊細な花。わたくしは、その花を守る柵の一本となりたい」と述べた。

藤黄女官たちの評価

しかし、藤黄たちの反応は思ったほどではなく、「ああ、そうよね……」と生温かい微笑みを浮かべ、彼女を退けた。困惑する琥珀をよそに、藤黄たちは玲琳の真の本質について語り合った。彼女たちにとって玲琳は、繊細な花ではなく、「踏まれても立ち上がる繁縷」「地下茎で勢力を広げるどくだみ」「囲いを超えて成長する葛」のような、強くしたたかな存在であった。

玲琳の本質と藤黄の価値観

藤黄たちは口々に「根性こそが重要」と語り、玲琳の真の魅力はその不屈の精神にあると確信していた。琥珀の答えは美しくはあったが、玲琳の本質を見抜くには至らなかったのである。こうして黄麒宮の熱血ぶりは、今日も変わらず健在であった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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