どんな本?
本作は、中村颯希によるライトノベルシリーズの第6巻である。物語は、架空の帝国を舞台に、二人のヒロインが互いの身体を入れ替えられたことから始まる波乱万丈の物語である。
主要キャラクター
• 黄玲琳(こう れいりん):黄家の雛女。体が弱いが、聡明で芯の強い性格。物語の主人公であり、入れ替わり後も前向きに状況を乗り越えていく。
• 朱慧月(しゅ けいげつ):朱家の雛女。玲琳に嫉妬し、身体を入れ替えるが、その後の試練を通じて成長していく。
物語の特徴
本作の特徴は、主人公たちが互いの身体を入れ替えられるという設定を通じて、自己のアイデンティティや他者との関係性を深く描いている点である。また、架空の帝国という独特の世界観や、政治的陰謀、友情、成長といったテーマが巧みに織り込まれており、読者を惹きつける要素となっている。
出版情報
• 出版社:一迅社
• 発売日:2023年4月4日
・ ISBN:9784758095426
また、本作は尾羊英によるコミカライズも行われており、『月刊コミックZERO-SUM』にて連載中である。
読んだ本のタイトル
ふつつかな悪女ではございますが 6 ~雛宮蝶鼠とりかえ伝 ~
著者:中村颯希 氏
イラスト:ゆき哉 氏
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あらすじ・内容
五家の雛女で序列を争う『鑽仰礼』。その途中で襲われ、命の危機に瀕した黄 玲琳だったが、朱 慧月の助けでどうにか窮地を脱し――玲琳と慧月は再び入れ替わった!
しかし、波乱尽くしの鑽仰礼も、残すところ「終の儀」のみ。
儀式中に受けた数々の妨害、きな臭い妃達と、様子のおかしい金 清佳と藍 芳春。
そして玄 歌吹の強い殺意と『凶行』……。
そのすべての理由、原因を知った玲琳は、雛宮にはびこる汚泥を一掃すべく、慧月とともに動きだす!
「復讐をするなら、速やかに、そして堂々と」
五家の雛女たちは力を合わせ、盛大で公明正大な復讐劇を開始する――!!
忌まわしき過去、そして自分自身と対峙する第三幕、終結!
主な出来事
1. 姉妹の過去と復讐の誓い
• 舞照と歌吹は冷たい家庭で育ち、姉の舞照は工芸に優れ、王都での活躍を夢見ていた。
• 舞照は雛宮に送られるが、炎尋の儀で火傷を負い、罪人として北領へ戻される。
• 家族は事件を隠蔽し、舞照は放置されたまま命を落とした。
• 歌吹は復讐を誓い、雛女として後宮へ潜り込むことを決意する。
2. 玲琳と慧月の対立
• 玲琳と慧月は井戸から脱出し、体調が回復した玲琳はさらに鍛錬を続けようと決意する。
• 慧月は玲琳の提案を拒否し、玄歌吹の探索をやめるよう求めるが、玲琳は受け入れない。
• 玲琳は歌吹の行動に疑問を抱き、過去の事件との関連を考える。
• 二人は言い争いながらも、周囲の人々は彼女たちの変化に驚いていた。
3. 歌吹の秘密と真実の発覚
• 玲琳は歌吹を発見し、問い詰めるが、彼女は復讐のために動いていたことを明かす。
• 舞照の死は後宮の陰謀によるものであり、祈禱師が仕組んだ策略の可能性があると告げる。
• 慧月は黄家が霊麻を買い占めていないことを告げ、歌吹は自身の誤解を悟る。
• 絶望する歌吹に玲琳は「生きねばならない」と叱咤し、彼女は涙を流しながら前を向く決意をする。
4. 慧月のやらかしと入れ替わりの発覚
• 慧月は玲琳に代わり、「黄玲琳」として振る舞うが、鷲官長・辰宇に連行される。
• 途中で黄玲琳の兄・景彰が登場し、一目で入れ替わりを見抜く。
• 最終的に慧月は皇太子・尭明の前に引き出され、絶体絶命の状況に陥る。
• 玲琳はこの間に歌吹と共に祈禱師の陰謀を暴くための計画を進める。
5. 玲琳の潜入と宴での発見
• 歌吹と玲琳は、北の望楼で行われる秘密の宴に忍び込む。
• そこで祈禱師が金淑妃と藍徳妃から賄賂を受け取り、皇帝への偽の託宣を行っていた事実を知る。
• 三年前の炎尋の儀も、祈禱師の策略であったことが明かされる。
• 玲琳は証拠を掴むために慎重に動き、妃たちの陰謀を暴く計画を立てる。
6. 陰謀の終焉と祈禱師の失脚
• 皇后・絹秀の主導で終の儀が始まり、妃たちの贈り物が披露される。
• 祈禱師・安妮は玲琳に叛意の疑いをかけ、炎尋の儀を行おうとする。
• しかし、火が玲琳ではなく安妮自身を襲い、彼女の悪事が明るみに出る。
• 雛女たちは五家の協力で作った魔鏡を皇帝に献上し、その鏡により祈禱師の偽りが暴かれる。
• 皇帝の裁定により、安妮は失脚し、黄玲琳たちの勝利が確定する。
7. 妃たちの転落と新たな支配者
• 金淑妃は軟禁されるが、清佳の策略によって孤立し、最終的に見捨てられる。
• 藍徳妃もまた、藍芳春と女官たちの反乱によって支配権を奪われる。
• 芳春と清佳は、それぞれのやり方で後宮における新たな立場を確立していく。
• 後宮の権力図が大きく変わるなか、玲琳たちは次なる局面に向けて動き出す。
8. 皇后と賢妃の密談
• 皇后・絹秀と賢妃・傲雪は、三年前の出来事について語り合う。
• 祈禱師の処遇について、皇帝の指示により玄家へと引き渡されていたことが明らかになる。
• 傲雪は復讐を終え、歌吹を大切にする決意をするが、皇后は「羨ましい」と呟く。
9. 玲琳と慧月の再会と新たな問題
• 慧月は「金清佳に入れ替わりのことを知られた」と告白する。
• 玲琳もまた「藍芳春に見破られた」と語り、二人は互いの失敗を知る。
• さらに、玄歌吹は「朱慧月」に忠誠を誓っていたのではなく、「玲琳」を慕っていたことが判明する。
• 玲琳は皇太子・尭明に呼び止められ、「入れ替わりを解消してはならない」と警告される。
• 皇帝が黄家の雛女を監視し始めたことが示唆され、新たな危機が迫る。
感想
陰謀と復讐の渦中で輝く雛女たち
本巻では、玲琳たち雛女が仕掛けられた罠を逆手に取り、後宮の陰謀を暴く姿が描かれる。前巻ではすれ違いと葛藤が中心だったが、今巻では玲琳を筆頭に各家の雛女がそれぞれの方法で戦い、決着をつけていく。慧月との入れ替わりが露見する場面や、玄歌吹の復讐の誤解が解ける過程も印象深い。彼女たちは単なる駒ではなく、自らの意志で道を切り拓く存在となっていく。
玲琳の反撃と雛女たちの成長
本巻の大きな見どころは、玲琳が「翻弄される側」から「翻弄する側」へと変わる瞬間である。慧月の小心者ぶりが際立ちつつも、その狡猾さが活かされる場面もあり、玲琳との掛け合いがより面白くなった。また、玄歌吹の怒りと悲しみが交錯するなか、玲琳の冷静さが光る。慎重な計画を立て、ただの復讐ではなく正当な裁きを目指す姿勢が、この物語の魅力のひとつである。
陰謀渦巻く後宮の決着
祈禱師・安妮の失脚とともに、妃たちの力関係が大きく変わる。金淑妃や藍徳妃が失墜し、藍芳春や金清佳が新たな立場を築いていく過程は痛快であった。玲琳が陰謀を暴く展開はこれまでもあったが、本巻では彼女の策がより洗練され、ただの生存戦略ではなく、後宮全体を動かす力を持ち始めたことが示される。
皇后との対峙と今後の展開
物語の終盤では、皇后と賢妃の静かな対話が描かれ、三年前の事件の裏に隠された真実がほのめかされる。さらに、玲琳と慧月の入れ替わりが皇太子・尭明に知られていたことが判明し、今後の展開に大きな影響を与えそうである。皇帝の動きが本格化し、玲琳たちの立場がさらに危うくなる可能性が高い。
総括
本巻は、雛女たちの成長と後宮の権力構造の変化を存分に楽しめる一冊であった。玲琳の策が見事に決まり、祈禱師の陰謀が暴かれる展開にはカタルシスがあり、読後の満足感も高い。一方で、皇后や皇太子といった更なる強敵の影が見え隠れし、物語は新たな局面へと突入する。続巻では、玲琳がどのように立ち回るのか、雛女たちの関係がどのように変化していくのかが楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ
姉妹の名に込められた意味
冬の厳しい北領に生まれた姉妹、舞照と歌吹の名は、春を思わせる美しい響きを持っていた。しかし、それは母の悪意が込められた名であったかもしれない。母は東領の出身であり、幼馴染との仲を引き裂かれて北領へ嫁いだ。冷たい屋敷の中で心を閉ざし、故郷の春を思い焦がれながら、娘たちにも愛を注がなかった。父もまた、妻にしか関心を持たず、娘たちは孤立していた。
舞照と歌吹の絆
寒さと無関心に包まれた家の中で、舞照は幼い妹・歌吹を温かく包み込んだ。引っ込み思案で舌足らずな妹を気にかけ、優しく導いていた。舞照は手先が器用で、幼い頃から画や工芸に没頭していた。玄家の鉱山資源を活かし、鉄や金を扱う技術を学び、職人たちのもとで金細工を磨いていった。歌吹も姉に倣い、工芸の世界に惹かれていった。
舞照の王都行き
舞照は玄家の雛女候補として王都へ送られることになった。彼女は雛宮での暮らしに不安を抱えつつも、国や人の心を照らす工芸品を作りたいと夢を語った。出発の朝、歌吹は別れの悲しみを抑えきれず、涙を流しながら姉を見送った。舞照が王都で温かい人々に囲まれ、幸せに過ごせることを願いながら。
舞照の帰還と炎尋の儀
しかし、舞照は王都に到着して半月も経たぬうちに、酷い火傷を負い、罪人として北領へ送り返された。彼女は後宮で「炎尋の儀」にかけられたのだった。罪の有無を祈禱師の火で裁く儀式で、彼女の右腕は火に包まれた。賢妃の不在時に無許可で刃物を持ち込んだとして処刑されるはずだったが、祈禱師の慈悲により命は救われ、秘密裏に北領へ帰されたのである。
玄家の対応と歌吹の怒り
玄家は舞照の名を口にすることすら禁じ、事件を隠蔽した。当主は皇帝に取り入り、炎尋の儀の記録を破棄させた。舞照は離れに隔離され、適切な治療も受けられなかった。さらに、父は歌吹を新たな雛女候補として王都へ送ろうと決めた。歌吹は激怒し、こっそりと姉を看病したが、舞照の火傷は悪化し、ついには命を落とした。
復讐を誓う歌吹
遺されたのは、血で書かれた舞照の遺言だった。姉の死を受け入れられない歌吹は絶望し、そして怒りに燃えた。霊麻を買い占めた者、姉を見捨てた親、後宮の陰謀――すべての黒幕を突き止め、復讐を果たすことを決意した。歌吹は雛女となり、後宮へ潜り込むことを決める。彼女の瞳には、かつての純粋さはなく、ただ冷徹な決意だけが宿っていた。
1.玲琳、真似る
後宮の夜の静寂と移動
後宮の夜、冷えた夜風が梨園を吹き抜け、小池には薄氷が張っていた。その近くを、女たちがぞろぞろと進んでいた。朱家の雛女・慧月の体に収まった黄玲琳は、鍛錬不足を嘆きつつ、慧月を抱き上げようとしていたが、結局その役目は怪力の冬雪に奪われていた。彼女たちは古井戸のあった北側から南側へ移動していたのである。
玲琳の決意と慧月の反発
玲琳は、井戸から引き上げられたことで体調が回復したことに感動し、己と慧月の可能性を信じると宣言した。しかし慧月は、鍛えようとする玲琳の提案を拒否し、自力で歩けると主張した。だが、玲琳は慧月を抱き続けた。慧月は、玄歌吹の探索をやめれば休むと告げるが、玲琳はそれを拒否した。彼女たちの言い争いは続いたが、周囲の者たちはその変化に驚いていた。
玄歌吹の疑惑と過去の事件
井戸底から脱出するために慧月と体を入れ替えた玲琳は、過去の事件について考えを巡らせた。鑽仰礼の最中に起こった異物混入や天幕の倒壊、藍家や金家の動き、そして玄歌吹の襲撃――これらの出来事が関連しているのではないかと疑っていた。玲琳は、玄歌吹が復讐を遂げようとしていると推測し、彼女を追うことを決意した。
慧月の制止と玲琳の行動
慧月は、玲琳が玄歌吹を捜すことに猛反対した。彼女は、玲琳が自分の体を危険に晒すことを許さなかった。だが、玲琳は慧月の説得を受け入れず、「適切な強さで報復するために事情を知る必要がある」と述べた。慧月は怒り、玲琳の行動を止めようとしたが、玲琳は聞き入れず、歌吹を探しに向かった。
廃蔵での対峙と真相の追及
歌吹が蔵で何かを探していることを察知した玲琳は、単独で彼女のもとへ向かった。歌吹は日記を漁りながら、祈禱師や金家・藍家について調べていた。玲琳は彼女を急襲し、問い詰める。歌吹は抵抗したが、最終的に玲琳に押さえ込まれ、逃げ場を失った。
歌吹の過去と復讐の理由
歌吹は、自身の姉・舞照が三年前に祈禱師によって火刑に処せられたことを語った。玄家はその事実を隠し、誰も真相を調べようとしなかったため、歌吹は単独で復讐を企てたのだった。祈禱師の神通力がまがいものであり、舞照も同じ方法で陥れられた可能性があると語った。玲琳は、その話を聞き、祈禱師に疑念を抱いた。
誤解の発覚と歌吹の動揺
慧月が壁越しに現れ、黄家は霊麻を買い占めていないことを告げた。歌吹はその言葉に愕然とし、己の誤解によって玲琳を襲った事実に苦しんだ。復讐を支えに生きてきた彼女は、自らが「誤解を言い訳に暴走した」ことに気づき、精神的に崩壊しかけた。
玲琳の叱咤と歌吹の覚醒
鷲官たちの足音が迫るなか、玲琳は慧月たちを遠ざけ、歌吹に向き直った。絶望する彼女に対し、「生きねばならない」と叱咤し、舞照の願いを思い出すよう促した。玲琳自身も、大切な人の願いによって生き続けていることを告げ、歌吹を奮い立たせた。
再起と救出
玲琳の言葉を受け、歌吹は涙を流しながら生きることを決意した。そして、玲琳が差し出した手を握り、蔵から抜け出すことを選んだ。絶望の淵から引き上げられた歌吹は、今度こそ正しい方法で姉の誇りを取り戻すことを誓った。
2.慧月、やらかす
四阿への逃走と計画の策定
慧月は冬雪に担がれ、莉莉とともに慌ただしく小池近くの四阿へ向かっていた。途中、暴れる慧月を二人が宥めながら、鷲官たちの捜索を振り切る形となった。到着後、三人は黄玲琳の失踪について、彼女が慧月との喧嘩に悩み、一人で夜の散策に出た末に倒れた、という筋書きを作り上げることにした。冬雪は証拠となりうる毛布や救命道具を隠し、莉莉は助けを呼ぶ役を演じることで、状況を整えた。
慧月の憤りと指摘される類似点
計画を進める中、慧月は黄玲琳のために尽力する冬雪と莉莉に苛立ちを見せた。玄歌吹を庇うことへの不満をぶつけるが、冬雪は玲琳自身が歌吹を死なせたくないと望んでいることを指摘した。それに対し慧月は、本人の意向を無視してでも周囲が決断すべきだと主張する。しかし莉莉は、それこそ慧月自身が玲琳と似ている証拠だと指摘した。かつての喧嘩と立場が逆転しているだけで、結局慧月も玲琳を守ろうとしているのだと気付かされ、慧月は衝撃を受ける。
計画の承諾と皮肉なやりとり
冬雪は慧月の行動が自分の身に関わるものであるため、感情的になるのも当然だと諭した。一方で、玲琳は黄家の女として自らの問題を自ら解決したいと望む性格であることを説明し、慧月にもその意志を尊重するよう促した。最終的に慧月は二人の計画を承諾し、「黄玲琳」として発見されるほうが事態を丸く収められると認識した。女官たちは慧月の適応力を評価し、皮肉交じりに「悪女」と称するが、慧月もそれを受け入れた。
鷲官長の到着と予期せぬ展開
しかし、そこへ鷲官長・辰宇が現れ、慧月の姿を「黄玲琳」として確認した。彼の尋問に対し、冬雪はあらかじめ考えていた筋書きを述べ、慧月の額の傷についても、卓にぶつけたものだと説明する。しかし辰宇は疑念を抱き、慧月を抱き上げて本宮へ連れて行くと宣言した。慧月は動揺し、冬雪と莉莉も制止を試みたが、辰宇は頑として聞き入れなかった。
入れ替わりの見破りと屈辱
復讐への衝動と制止
密かに本宮へ向かう道中、慧月は辰宇の態度に戸惑いを覚えた。彼が「黄玲琳」に対して優しく接しているように感じたため、その気持ちを利用しようとしたが、彼女の振る舞いはすぐに見破られる。辰宇は冷淡に「媚びる真似はやめるように」と忠告し、慧月は恥辱に震えた。
景彰の登場とさらなる追い詰め
本宮の手前で、黄玲琳の兄・景彰が待ち受けていた。彼は「黄玲琳」の傷を見て心配しながらも、一目で入れ替わりを見抜いた。慧月は入れ替わりを隠そうとしたが、辰宇が慧月の振る舞いを皮肉り、景彰の機嫌を損ねてしまう。その結果、景彰は入れ替わりの事実を隠すのではなく、殿下に速やかに報告するよう決定した。
尭明との対面と絶体絶命の状況
景彰に扉を開かれた先には、皇太子・尭明が待ち構えていた。慧月の言葉が扉越しでも響いていたことを指摘し、彼女が何をしでかしたのか詳細に報告するよう命じた。外には雷鳴が轟き、嵐の気配が迫る中、慧月は絶体絶命の状況に追い込まれるのだった。
3.玲琳、忍び込む
雷光の下での発見と計画
冬の夜空に雷が走ると、歌吹は不吉な予感を抱いた。しかし、その閃光は玲琳の気づきを促し、酒樽を運んだ台車の轍を発見させた。宴の開催場所が秘密裏に決められたことを示す証拠を目の当たりにし、二人はそれが金家か藍家による祈禱師のもてなしであると推測した。玲琳は、三年前の事件の真相を知るため、この宴に忍び込む決意を固めていた。
宴の推測と計画の立案
歌吹と玲琳は、秘密の宴が北の望楼で催される可能性を考え、慎重に向かった。玲琳は、宴の規模が小規模であることから、参加者が限られていると判断した。そして、もしそこで祈禱師を捕らえることができれば、三年前の真相を問いただすことができると考えた。歌吹もまた、復讐の念を抱きつつ、その計画に同意した。
宴の現場と罪の暴露
望楼に忍び込んだ二人は、金淑妃と藍徳妃が祈禱師に賄賂を渡し、彼の「奇跡」を利用しようとしている現場を目撃した。彼女たちは、皇帝に都合の良い託宣を受けるため、祈禱師に多額の財や情報を提供していた。その会話の中で、三年前に舞照が処刑された経緯が語られた。祈禱師の策略と妃たちの共謀により、舞照は炎尋の儀の名の下に命を奪われたのだった。
復讐への衝動と制止
歌吹は怒りに震え、今すぐ祈禱師たちを殺そうとしたが、玲琳がそれを制止した。証拠が不十分であり、現時点で行動すれば、逆に自分たちが罪に問われる危険があった。玲琳は、公明正大に復讐する方法を考えるべきだと主張し、より慎重な計画を立てることを提案した。
玄賢妃の介入と真実
その後、二人は突如現れた玄賢妃・傲雪に連れられ、玄端宮へと避難した。賢妃は、歌吹の復讐を阻止しようとし、その理由を語った。彼女は舞照を深く愛しており、自らも復讐を誓っていたが、歌吹にはこの闇に囚われてほしくなかったのだ。しかし、玲琳はここで手を引くのではなく、公に罪を暴く方法を探るべきだと主張し、歌吹と傲雪を巻き込んで復讐の計画を進めることを提案した。
復讐の決意と新たな計画
玲琳の提案を受け、三人はより大規模な計画を立案することにした。罪を公にし、正当な裁きを下すためには、五家の雛女の協力が不可欠だった。玲琳はそのために動き出し、ついにこの復讐劇が大きく動き出すこととなった。
4.慧月、凄む
冬の梨園と清佳の葛藤
冷たい風が吹く冬の梨園で、金清佳は小包を抱えて歩いていた。見事に整備された景観を前に、彼女は自らの家との違いを思い知らされる。かつては金家の庭を浄化することが目標だったが、今は梨園が荒れていればよいと願う自分に気づき、そんな自身の心の変化に苦笑する。彼女は黄玲琳の見舞いを命じられていたが、四阿へ向かう途中で躊躇し、誰かに見咎められることを願った。しかし、あたりに人影はなく、清佳は自分の選択を迫られる状況にあった。
淑妃の指示と呪いの人形
清佳が梨園に向かうことになったのは、淑妃の命令によるものだった。彼女は玲琳への見舞いの品として、菓子と木彫りの人形を託されるが、その人形には祈禱師が仕込んだ平安符が隠されていた。しかも、それを本人に気づかれぬよう密かに四阿へ置くことを指示される。不審に思った清佳だったが、淑妃の圧力に逆らえず、指示通り動くしかなかった。自分が罠にはまっていることを理解しながらも、逃げる術はなく、追い詰められていた。
慧月の警戒と玲琳の策略
一方、黄玲琳に扮した慧月は、四阿で冬雪と共に清佳の到着を待っていた。慧月は、昨夜の出来事を思い返しながら、黄玲琳の策がどのように進んでいるのかを確認する。彼女は玄家の後ろ盾を得て、妃たちの陰謀を暴き、敵を一掃する計画を立てていた。慧月自身もその一端を担っており、玲琳の思惑に振り回されつつも、最終的に彼女の策が功を奏することを期待していた。
清佳の苦悩と決断
清佳が四阿に到着すると、彼女は見舞いを装いながらも、内心では強い葛藤を抱えていた。彼女にとって玲琳は理想の女性であり、尊敬する存在だった。しかし、自らの生存のために彼女を陥れようとしている現実に耐えられず、短刀を懐に忍ばせながら、自らの運命を決しようと考えていた。だが、慧月の挑発によって清佳は追い詰められ、自らが持ち込んだ呪いの人形を破壊することで、淑妃との決別を決意する。
決別と新たな道
清佳は、自身がただの操り人形ではないことを示すために、人形を真っ二つに切り裂いた。そして、慧月の提案を受け入れ、彼女と共に行動することを選ぶ。ただし、それは脅されて従うのではなく、己の美学に従った結果であった。高潔であることを捨てずに戦うと誓った清佳は、新たな意志をもって慧月に手を差し伸べる。こうして、二人の関係は対立から協力へと変わり、共に淑妃への反撃を開始する準備を整えるのだった。
5.玲琳、叱る
陰謀の兆しと畑の秘密
藍芳春は、朱駒宮の外れにある畑に蹲り、慎重に土を弄んでいた。この畑は黄玲琳が手入れしたもので、彼女が密かに訪れていた場所でもあった。芳春はそこに毒花を植え、玲琳が謀反を企てていたという証拠を捏造する任務を負っていた。徳妃の命令により、金家と藍家が共同で証拠を仕立て上げ、玲琳を断罪しようとしていた。既に計画が決定している以上、証拠の質は問われず、存在することが重要であった。
予想外の対峙
芳春が作業を終え、疲れを感じながら独り言を呟いていると、不意に背後から女性の声が掛かった。そこに立っていたのは「朱慧月」の姿をした黄玲琳であった。彼女は芳春の行動を見抜き、毒花の種類まで正確に識別した。芳春は驚き、逃走を試みたが、玲琳に阻まれる。咄嗟に「朱慧月が暴行を加えた」と叫び、周囲の注目を集めようとしたが、玲琳は逆に「芳春が毒草を誤食し、幻覚に苦しんでいる」と演技し、状況を覆してみせた。
玲琳の策と芳春の崩壊
玲琳の冷静な対応により、周囲の女官たちは芳春が混乱していると信じ込み、事態は玲琳の思惑通りに進んだ。追い詰められた芳春は、言葉巧みに玲琳を挑発しようとしたが、玲琳は動じなかった。逆に、芳春が徳妃の命令に盲目的に従っている現状を指摘し、「自分の意志を持たずに従うだけでは無能である」と厳しく言い放った。その言葉に、芳春は初めて羞恥と怒りを覚え、静かに崩れ落ちた。
隠された真実の発覚
追い詰められた芳春は、自らの手を晒し、徳妃に小指の爪を剥がされた事実を明かした。彼女は痛みと恐怖に支配され、誰も自分を守ってくれないと嘆く。しかし、玲琳はそれに同情することなく、「自分の身は自分で守るべき」と諭した。さらに、徳妃の暴力が芳春だけでなく、藍家の女官たちにも向けられていた可能性を指摘した。その言葉に、芳春は初めて自分が女官たちの苦しみに目を向けてこなかったことに気付き、動揺を隠せなかった。
新たな選択と同盟
玲琳の言葉により、芳春は自身の立場を改めて考え、決断を下した。彼女は玲琳に手を差し出し、「あなたと手を組む」と宣言する。玲琳はこれを受け入れ、芳春に協力を求めた。計画の一環として、木材の供給を依頼し、雛女たちが協力してある目的を果たそうとしていることを明かした。芳春は玲琳の真意を探ろうとしながらも、その言葉に興味を抱き、新たな方向へと歩み出す決意を固めた。
6.玲琳、演じる
王宮の荘厳な儀式
儀式の朝と宮殿の装飾
王宮は華麗に飾られ、終の儀が皇帝の誕辰と同日に行われることとなった。本宮には、臣民や妃嬪、雛女たちが祝いの品を持ち集まり、厳粛な雰囲気の中、始祖神に捧げる香が焚かれていた。皇帝と皇太子はまだ姿を見せておらず、参列者たちは静かに整列していた。
祈禱師・安妮の企み
祈禱師・安妮は、白い装束に身を包み、祈禱師としての威厳を装っていた。彼女は周囲の香壇を確認し、自ら仕込んだ小道具が万全であることを確かめると、満足げに神鏡を撫でた。安妮の「神通力」とされるものは、実際には情報収集と異国の技術を組み合わせた欺瞞にすぎず、彼女は巧みにそれを利用し、地位を築いていた。
過去の失敗と警戒する存在
三年前、彼女の手口が女官見習いに知られそうになった際、安妮は策を巡らせて証拠を隠滅した。しかし、現在彼女が最も警戒しているのは、五家の雛女の一人である黄玲琳であった。過去の儀式で、黄玲琳は安妮の判定を覆し、皇帝や皇太子の前で彼女の威信を損ねた。安妮は、この機に黄玲琳を排除しようと画策していた。
皇后の儀式の開始と安妮の策略
皇后・絹秀が儀式の開始を告げ、臣民の贈り物の品評が始まる。安妮は慎重に時機を見計らい、雛女たちの贈り物の判定が始まる瞬間、突如として「叛意の相がある」と告げた。場内は静まり返り、妃たちは動揺しながらも、炎尋の儀を行うよう促した。
黄玲琳への疑惑と炎尋の儀
安妮は、黄玲琳に叛意の疑いをかけ、炎尋の儀を執り行うことを宣言した。黄玲琳は他の雛女を巻き込むことを避けるため、自ら儀式を受け入れると申し出た。安妮は密かに仕込んだ聖血石を用い、彼女を炎で包もうと試みる。
予想外の展開と安妮の失敗
しかし、火が灯った瞬間、炎は黄玲琳ではなく安妮自身を襲った。彼女は悲鳴を上げ、火傷を負い、周囲は驚愕した。そこへ朱慧月(実は黄玲琳)が駆け寄り、祈禱師を介抱しつつ、巧妙に彼女を儀式の場から遠ざけた。安妮は痛みに喘ぎながらも、形勢が逆転したことを悟ることすらできなかった。
皇帝の到着と雛女たちの贈り物
この混乱の最中、皇帝と皇太子が到着し、場の空気が一変する。雛女たちは、五家の協力によって作り上げた特別な鏡を贈り物として披露した。それは光を反射し、浮かび上がる雪花紋様を持つ魔鏡であった。皇帝は興味を示し、その機能を確かめることにした。
真実の暴露と安妮の失脚
皇帝が鏡を用いて儀式の灰を照らすと、炎が再び灯り、その中に安妮の不正を暴く証拠が浮かび上がった。これにより、彼女の欺瞞が明るみに出され、長年築き上げた権威は一瞬にして崩れ去った。民衆は真実を目の当たりにし、黄玲琳の策が成功したことを確信する。
雛女たちの勝利と新たな局面
炎尋の儀を利用した策略によって、黄玲琳たちは安妮を失脚させ、皇后の信頼を得ることに成功した。雛女たちは一丸となってこの危機を乗り越え、新たな局面へと進むこととなった。
四阿での対話と策略
朱家の雛女として四阿に控えていた玲琳は、祈禱師・安妮の看護を行った。冬の風が吹き込む中、鎮痛薬を与えつつも、安妮の態度は尊大であった。彼女は自らの地位に誇りを持ち、雛女ごときにへつらう必要はないと考えていた。しかし、玲琳はあくまで穏やかに接し、薬草の知識をちらつかせながら、慎重に相手の警戒心を解いていった。霊麻の密集地を知っていると仄めかすことで、安妮の関心を引くことに成功する。
祈禱師の思惑と玲琳の誘導
安妮は霊麻の入手に強い関心を示し、その密集地を教えるよう玲琳に迫った。玲琳は慎重に対応し、あえて霊麻の価値を強調しながら、相手の興味をさらに引き出す。一方で、霊麻の幻覚作用についても言及し、乱用の危険性を指摘した。焦れた安妮は、次第に口を滑らせ始め、自らの立場を利用して妃たちを操ってきたことを語る。そして、霊麻の買い占めや妃たちの薬物使用に関与していた事実を明かした。
自白と証拠の確保
玲琳はさらに会話を誘導し、安妮が過去に女官見習いを毒殺したことまで語らせる。炎尋の儀の失敗にも関わらず、標的の雛女を病死させる計画を立てていたことも判明した。安妮は次第に警戒心を解き、自らの悪行を次々と口にしていく。しかし、これらの会話はすでに炎を通じて広場に映し出されており、皇帝をはじめとする多くの人々がその内容を聞いていた。
皇帝の決断と広場の反応
炎を通じて祈禱師の真実が明かされると、皇帝は即座に対応を決定した。広場の武官に命じ、安妮を捕縛するよう指示するとともに、朱慧月の安全を確保するよう命じた。この奇跡的な炎の映像を利用し、皇帝は自身の権威をさらに強固なものとしようとした。一方、皇太子・尭明もまた、巧みに皇帝の意向を補強する言葉を投げかけ、事態を有利に進めていった。
雛女たちの願いと皇帝の裁定
皇帝は雛女たちに褒美を与えると告げたが、彼女たちの願いは妃たちの処分に関するものであった。藍芳春と金清佳は、それぞれの家が罪に問われぬよう嘆願し、玲琳は炎の奇跡を皇帝の威光とすることを求めた。最後に歌吹は、姉の作った鏡を国の宝とするよう願い、皇帝はその願いを受け入れ、鏡に「照真鏡」との銘を与えた。こうして、祈禱師の悪行が暴かれた鑽仰礼は、皇帝の決断によって収束した。
祈禱師の捕縛と玲琳の策
一方、四阿では武官長・辰宇が到着し、安妮を迅速に拘束した。玲琳の計画は成功したが、辰宇はその危険な行動に苦言を呈する。彼は玲琳の策略を見抜いており、自白剤を使用したことも理解していた。玲琳は慎重に行動したと弁明するが、辰宇はその大胆さを指摘しつつも、玄家のために復讐の機会を作ったことには感謝の意を示した。そして、鑽仰礼の正式な結果が通達され、玲琳が一の位、朱慧月と歌吹が二の位とされ、鑽仰礼は幕を閉じた。
エピローグ
金淑妃の焦燥と策謀
金冥宮の離れは、軟禁されている金淑妃・麗雅のために、未だに豪奢な作りを保っていた。彼女は経典を手写するようにと与えられた道具を乱暴に扱い、怒りを露わにしていた。かつて皇帝の寵愛を誇っていた彼女は、祈禱師・安妮の失脚により、皇帝の寝所に霊麻を仕込んでいたことが露見し、危機に陥っていた。処刑は免れたものの、軟禁の身となった麗雅は、財力こそが自身を救うと考え、密かに策を巡らせていた。
金清佳の訪問と対峙
そんな麗雅のもとへ、金清佳が訪れた。彼女は室内の豪華な調度品を一瞥し、反省の色がないことを侮蔑する。麗雅は憤怒しつつも、軟禁の状況を軽視し、金と権力さえあれば再起できると豪語した。しかし清佳は、皇帝が「五日間だけ差し入れを許可する」との命を下した事実を突きつけた。すでに三日が経過しており、清佳は「三日で十分」と進言していたのだった。これを聞いた麗雅は、ようやく自らの状況が単なる軟禁ではなく、放置される可能性があることに気づき、恐怖に囚われた。
離れの封鎖と孤立
清佳は淡々とした口調で、麗雅が食料や必要品を求めなかったことを確認し、扉の封鎖を命じた。麗雅は絶望し、必死に清佳に助けを求めるが、彼女は冷たくそれを突き放す。清佳の指示により、扉は釘打たれ、窓までも封じられた。麗雅の叫び声は扉の向こうへと消えていき、清佳は静かにその場を去った。彼女は、誇りで腹は膨れないという麗雅の言葉を皮肉に受け取り、「ならば、金があれば飢えないだろう」と呟いた。
藍徳妃の怨念と策略
一方、藍狐宮の離れでは、藍徳妃・芳林が手写を装いながら、藍芳春への怒りを紙に書き連ねていた。彼女は雛女を脅迫し、従わせることが当然だと考えており、芳春を離れに呼び出して再び支配しようと画策していた。筆頭女官の明明に指示を出し、どんな手段でもいいから芳春を連れてくるよう命じていた。
藍芳春の計略と女官の決起
やがて芳春が女官たちと共に現れた。芳林は再び彼女を脅迫し、指を折るなどの虐待をちらつかせるが、芳春は怯えた様子を見せなかった。実は彼女は、終の儀の前から密かに女官たちに接触し、徳妃による虐待の実態を聞き取っていた。そして終の儀で奇跡が起こったならば、自分のもとに付くようにと説得していたのだった。結果、女官たちは芳春の側につき、芳林を追い詰める存在へと変貌していた。
復讐の成就と徳妃の転落
芳林はこの事態に気づいたときにはすでに遅く、女官たちは彼女を取り囲んでいた。芳春は、これまで虐待を受けてきた彼女たちが徳妃を「世話」するように命じた。女官たちは一斉に応じ、芳林は恐怖の中で絶叫した。芳春はそれを背に微笑みながら、離れを後にした。彼女は初めて自身が統率する立場に立ったことを実感し、その感覚を楽しんでいた。
新たな支配者の誕生
金淑妃と藍徳妃という二人の妃が失墜し、それぞれ清佳と芳春によって追い詰められた。清佳は誇りを守るために冷徹な決断を下し、芳春は策略と人心掌握によって逆転を果たした。二人の雛女は、それぞれのやり方で権力の一端を握りつつあった。回廊を歩く芳春は、視界の広がる感覚を楽しみながら、次の一手を考え始めた。
皇后と賢妃の静かな対話
皇后・絹秀は、遊戯室で一人将棋を指していた。そこへ賢妃・傲雪が現れ、二人は親しい間柄ならではの軽妙な会話を交わした。だが、話題はやがて三年前の出来事へと移る。絹秀は、皇太后の箝口令により、傲雪の名付け子を救えなかったことを悔いていた。これに対し傲雪は、皇后の最大限の努力に感謝し、今回の鑽仰礼において、自らが接触を許されたことが絹秀の配慮によるものだと察していた。
祈禱師の身柄と皇帝の意向
二人は、捕らえられた祈禱師の処遇についても言葉を交わした。皇后は、祈禱師の身柄を金家や藍家の妃たちから守るために、密かに玄家へと引き渡していた。この決定には皇帝の意向も関わっており、絹秀は自身の判断だけではなく、皇帝の命によるものだと傲雪に伝えた。絹秀は、皇帝が本心を見せない人物であることを指摘しつつも、皇后としての責務を果たす姿勢を崩さなかった。
新たな決意と皇后の内心
傲雪は、復讐を終えたことで、ようやく雛女・歌吹に対して心からの愛情を注げるようになったと語った。その表情には穏やかな幸福が滲んでいた。しかし、絹秀はそれを静かに見つめながら、「おまえが羨ましい」と小さく呟く。だが、すぐに話題を変え、組み手の誘いを持ちかけた。傲雪は、その意図を察しつつも、皇后の誘いに応じ、二人は共に遊戯室を後にした。
慧月と玲琳の静かな茶会
冬の四阿にて、「黄玲琳」として過ごしている慧月は、朱慧月として生きる玲琳と静かに茶を飲んでいた。慧月は、終の儀での疲労から体を戻す時が来たことを感じつつ、入れ替わりに関する問題について玲琳に打ち明ける決意を固めた。そして、ついに「金清佳に入れ替わりのことを知られた」と告白した。
芳春への露見と動揺
しかし、玲琳もまた「芳春に入れ替わりを見破られた」と明かす。互いに慎重に振る舞っていたはずが、それぞれの油断によって秘密が露見してしまったのだった。これに対し、二人は一時的に動揺しながらも、「入れ替わりを解消してしまえば証拠は消える」と考え、なんとか冷静を保つことにした。
玄歌吹の誤解と慧月の失望
だが、そこへ現れた玄歌吹の発言により、新たな問題が浮上した。歌吹は「朱慧月」に忠誠を誓っていたわけではなく、実は「玲琳」を慕っていたのだった。この事実に慧月は大きく動揺し、玲琳の演技がまったく通じていなかったことに憤る。彼女は、歌吹を懐柔しようとした玲琳の努力が、むしろ誤った方向へと導いてしまったことに気づき、怒りを抑えきれなかった。
皇太子・尭明の警告
一方、玲琳は引き継ぎ書を取りに戻る途中、皇太子・尭明に呼び止められた。彼は、鑽仰礼の間に沈黙を守っていたが、ついに動き出したのだった。尭明は、玲琳に対し「入れ替わりを解消してはならない」と告げた。皇帝が黄家の雛女に対して隠密部隊を動かし、監視を開始したというのだ。
新たな危機と玲琳の決断
尭明は、玲琳の正体を見抜いていたにもかかわらず、彼女を「朱慧月」と呼び、慎重に警告を発した。玲琳は、この事態の重大さを理解し、入れ替わりを戻すべきではないと悟った。彼女は、これまで以上に注意を払う必要があると痛感し、尭明の言葉に耳を傾けた。
鑽仰礼が終わり、一連の策謀は収束したかに見えたが、玲琳たちの前には、新たな問題が立ちはだかっていた。
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