どんな本?
『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』は、異世界ファンタジー小説である。
物語は、ギルドの受付嬢として働く主人公が、過酷な労働環境を改善するため、自ら強力なモンスターの討伐に挑む姿を描く。
彼女は、冒険者たちのサポート役から一転し、自身の力で問題を解決しようと決意する。
主要キャラクター
• エイミー:主人公であり、ギルドの受付嬢。残業続きの生活に嫌気が差し、自らボスモンスターの討伐を目指す。
• レオン:エイミーの同僚の冒険者。彼女の計画に気付き、サポートを申し出る。
• ギルドマスター:ギルドの責任者であり、エイミーの行動を陰ながら見守る。
物語の特徴
本作は、異世界ファンタジーの要素と労働環境への問題提起を融合させている。主人公が自らの力で困難に立ち向かう姿勢や、ギルド内の人間関係の描写が魅力的である。また、女性主人公がアクティブに行動する点が、他の作品との差別化を図っている。
出版情報
• 著者:香坂マト
• イラスト:がおう
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:電撃文庫
• 刊行日:2021年3月10日
• コミカライズ:優木すず作画、『月刊コミック電撃大王』にて2021年8月号から連載中、既刊5巻(2024年10月現在)
• アニメ化:2025年1月から放送予定
読んだ本のタイトル
ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います
著者:香坂マト 氏
イラスト:がおう 氏
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あらすじ・内容
強くてカワイイ受付嬢が(自分の)平穏のため全てのボスと残業を駆逐する!
デスクワークだから超安全、公務だから超安定! 理想の職業「ギルドの受付嬢」となったアリナを待っていたのは、理想とは程遠い残業三昧の日々だった。すべてはダンジョンの攻略が滞っているせい! 限界を迎えたアリナは隠し持つ一級冒険者ライセンスと銀に輝く大槌(ウォーハンマー)を手に、自らボス討伐に向かう――そう、何を隠そう彼女こそ、行き詰ったダンジョンに現れ、単身ボスを倒していくと巷で噂される正体不明の凄腕冒険者「処刑人」なのだ……!
でもそれは絶対にヒミツ。なぜなら受付嬢は「副業禁止」だからだ!!!! それなのに、ボス討伐の際に居合わせたギルド最強の盾役に正体がバレてしまい――??
残業回避・定時死守、圧倒的な力で(自分の)平穏を守る最強受付嬢の痛快異世界コメディ!
第27回電撃小説大賞《金賞》受賞作!
感想
受付嬢と処刑人、二つの顔を持つアリナの奮闘
コメディとシリアスの絶妙な融合
アリナは、受付嬢としての平穏を求めて職業を選んだにもかかわらず、現実は冒険者の不手際が引き起こす膨大な残業に追われる日々であった。この物語は、彼女が処刑人という裏の顔を持ち、ダンジョン攻略に挑む姿を描いた異世界ファンタジーである。物語序盤のコメディ要素では、ジェイドとの軽快なやりとりが読者を引き込み、二人の日常には笑いが絶えない一方で、後半の魔神との戦いでは手に汗握る緊張感が広がる。
登場人物の魅力と爽快感
アリナのキャラクターは、安定を愛しつつも残業に対する怒りを隠さない強烈な個性が際立つ。ジェイドの「ヤベー奴」と「高潔な冒険者」という狭間の立ち位置も絶妙で、彼がアリナに振り回される姿にはユーモアがありながらも共感を覚える。また、「残業」という誰にでも理解しやすい敵を設定したことで、物語全体に爽快感が生まれ、読者は自然とアリナを応援したくなる。
残業への怒りを代弁するヒロイン
現代社会における「残業」への不満や怒りを代弁するかのように、アリナは全てを叩き潰していく。彼女の行動には理不尽さも含まれるが、それがかえって魅力となっている点が面白い。残業を憎む姿は多くの読者に共感を呼び、読み進めるうちに「残業よ、滅びろ」という気持ちにさせる力を持つ作品である。
今後の展開への期待
この物語はコメディとシリアスを両立させつつも、次巻への期待を高める形で終わっている。アリナが次にどのような戦いに挑むのか、また残業が果たして解消されるのか、興味は尽きない。何より、彼女の平穏を守るための奮闘がどこまで続くのか、読者としては応援し続けたいと思わせる作品である。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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アニメ
同シリーズ
その他フィクション
備忘録
1
受付嬢の理想と現実のギャップ
アリナ・クローバーは平穏を求めて受付嬢という職業を選んだが、現実は想像を大きく裏切るものであった。大都市イフール最大規模のクエスト受注所で働く彼女は、冒険者たちの対応に追われる日々を送っていた。穏やかな事務作業を期待していたが、実際には怒号を上げなければならないほどの混雑の中、奮闘していた。
伝説的冒険者との対峙
ある日、受付に現れたのは「暴刃のガンズ」と呼ばれる有名な冒険者であった。彼の所持する遺物武器である黒いバトルアックスは、一目で彼の実力を物語っていた。受付に並ぶ他の冒険者たちが彼の登場に沸き立つ中、アリナは淡々と手続きを進めたが、彼の態度には苛立ちを隠せなかった。
規則を守る受付嬢の対応
ガンズは自身の名声を理由にライセンスの提示を省略しようとしたが、アリナは規定に基づき頑として要求を続けた。彼女の毅然とした態度により、ガンズは最終的にライセンスを提示し、クエスト受注が完了した。アリナはその後も次々と訪れる冒険者たちの対応に追われていった。
受注所の喧騒とアリナの忍耐
多忙を極める中でも、アリナは笑顔を絶やさず仕事を全うしていた。彼女にとって重要なのは、冒険者たちが無事に任務を遂行できるようサポートすることであり、自身の苛立ちは表には出さなかった。受付嬢としての責務を全うする彼女の姿には、職務に対する責任感と忍耐が感じられた。
2
深夜の事務作業とアリナの苦悩
イフール・カウンターは深夜になると昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。営業時間を過ぎた事務室にはただ一人、アリナが残業に追われていた。彼女は受付嬢として日中の窓口業務を終えた後も、膨大な書類整理に追われていた。責任のある集計業務を任されていたが、それは他の受付嬢が嫌がって押し付けた結果であった。
残業の元凶と苛立ち
アリナが向き合う未処理の書類の山は、ベルフラ地下遺跡に出現する階層ボス「ヘルフレイムドラゴン」が原因であった。このボスが倒れないためにダンジョンが攻略されず、冒険者たちが次々とクエストを受注し、大量の業務が発生していたのである。アリナは呪詛のような声で、「すべてボスのせいだ」とつぶやき、心の中で冒険者たちへの不満を募らせた。
限界を超えた決意
疲労の蓄積と終わりの見えない残業に、アリナの忍耐はついに限界を迎えた。彼女は禁じられた冒険者用の一級ライセンスカードを取り出し、受注書に自らの名前で「ヘルフレイムドラゴン」のソロ討伐を記入した。その瞳には鋭い決意と怒りが宿り、彼女は静かに呟いた。「絶対、定時で帰ってやる」と。
受付嬢としての決意
アリナは平穏な生活を取り戻すため、そして定時で帰宅するために、ついに受付嬢という枠を超えて行動を起こした。彼女の行動には、日々の苛立ちと強い意志が込められていた。
3
先人たちの栄光と滅亡
ヘルカシア大陸にはかつて「神の国」と呼ばれる高度文明が存在していたが、一夜にして滅び、魔物の棲む危険地帯と化した。その後、二百年前に冒険者たちが現れ、大陸の再開発を始めた。彼らは魔物と戦いながら、再び人間の町を築き上げたのである。
アリナの独自行動
ベルフラ地下遺跡の最深層を目指していたアリナは、ぶつぶつと残業への不満を漏らしながら歩みを進めていた。彼女はフード付きの外套をまとい、防具や武器も身につけず、目的地へ急いでいた。途中にある先人の遺物にも目をくれず、ひたすら階層ボスであるヘルフレイムドラゴンを目指していた。
精鋭パーティーの苦戦
ヘルフレイムドラゴンが棲む儀式場では、精鋭パーティー《白銀の剣》が苦戦していた。暴刃のガンズの遺物武器ですら、ボスに傷一つつけることができなかった。さらに、ドラゴンは遺物を摂取して進化しており、その強さは通常の魔物を大きく上回っていた。
アリナの登場と圧倒的な力
精鋭パーティーが撤退を検討する中、アリナは一人でヘルフレイムドラゴンに挑んだ。彼女は謎のスキル〈巨神の破鎚〉を発動し、虚空から巨大な大鎚を召喚した。圧倒的な力でボスの鱗を砕き、一撃で場を制圧した。その光景は、精鋭パーティーすら呆然とさせるものであった。
処刑人としての噂と正体
アリナの活躍によりヘルフレイムドラゴンは塵となって消えた。その場にいた冒険者たちは、彼女を都市伝説的な存在「処刑人」だと噂した。しかし、フードの奥に隠された顔を垣間見た盾役ジェイドは、そこに歴戦の猛者ではなく、ただ疲れた顔の少女を見て驚愕した。
平穏への願い
ヘルフレイムドラゴンを討伐したアリナは、一切の興味を示さず、静かに儀式場を去った。その背中から漏れた言葉は「これで明日から定時で帰れるはず」であった。彼女の行動の全ては、平穏な生活を取り戻すためであった。
4
ベルフラ地下遺跡の平穏な翌日
アリナは、ベルフラ地下遺跡攻略後の静けさを感じながら、冒険者を送り出す日常に戻っていた。受注カウンターには列がなく、事務処理をその場で進められる余裕もあった。広いロビーには冒険者たちが集まり、最新のクエストボードを確認しながら情報交換を行っていた。久々に落ち着きを取り戻したカウンターで、アリナは一息ついていた。
処刑人捜索依頼の波紋
一方で、ギルドが発行した捜索依頼書がアリナの手元にあった。その対象者は「処刑人」と呼ばれる冒険者で、ヘルフレイムドラゴンをソロ討伐したことで噂になっていた。ギルドはこの「処刑人」を《白銀の剣》の新たな攻撃役に迎え入れるべく、その行方を追っていた。アリナは、自身の偽名での行動が原因でこの騒ぎが起きたことに気づき、苦々しい思いでため息をついていた。
副業禁止と受付嬢の誓い
アリナは偽名で作った一級ライセンスカードを握りしめながら、副業が発覚すれば受付嬢としての地位を失う危険性を痛感していた。受付嬢は冒険者ギルドの公務員であり、終身雇用が約束された安定した職業である。冒険者のような不安定な生活に戻るわけにはいかないと、彼女は心に誓った。
未来への決意
冒険者たちの「処刑人」への憧れや興味に耳を傾けながら、アリナは自らの理想の受付嬢ライフを再確認していた。残業は一時的な困難であり、後輩が増えれば負担も軽減されるはずだと信じていた。アリナは捜索依頼書を握り潰し、絶対に正体を明かさないと固く決意した。
5
闘技場での激戦
ベルフラ地下遺跡攻略から一ヶ月後、イフールの闘技場では冒険者たちによる闘技大会が開催されていた。観覧席にいたジェイドは、巨漢相手に圧倒的な怪力を見せる女剣士を観察していた。しかし、彼女のスキルは「人域スキル」であり、地下遺跡で目撃した大鎚使いの「超域スキル」とは異なると判断した。
ルルリの説得と捜索の難航
ジェイドは、ギルドの同僚ルルリとともに大鎚使いの捜索を続けていた。彼は目撃した大鎚使いが黒髪の若い女性であると確信していたが、ギルドにはその情報を共有せず、独自に調査を進めていた。ルルリは手がかりの乏しさから捜索の無謀さを指摘し、新しい攻撃役を選ぶ必要性を説いていた。
大鎚使いへの興味と推測
ジェイドは、大鎚使いが未知の「神域スキル」を使う可能性を考えていた。神域スキルは先人たちが用いた力で、超域スキルを凌駕する存在だとされている。しかし、そのような冒険者がいれば噂になるはずだと考え、推測に迷いを抱いていた。
街中での偶然の再会
ジェイドは街中で偶然、黒髪と翡翠色の瞳を持つ少女とすれ違った。彼は彼女こそ探し続けた大鎚使いだと確信し、人混みをかき分けて追いかけた。しかし、少女が入ったのはイフール・カウンターであり、彼女がギルドの受付嬢であることにジェイドは衝撃を受けた。
真実の一端を目の当たりにして
受付嬢として働く少女の姿に、ジェイドは言葉を失った。探し求めた大鎚使いが、自分が最も予想しなかった立場の人物だったからである。混乱と驚きが交錯する中、彼は少女の正体に迫る決意を新たにしていた。
6
ジェイドの突然の訪問
イフール・カウンターに突如現れたのは、《白銀の剣》のリーダー、ジェイド・スクレイドであった。その登場によりロビーは静まり返り、冒険者たちは驚愕の表情を浮かべていた。ジェイドは迷うことなくアリナの窓口へ向かい、彼女と二人で話したいと申し出た。
スーリの割り込みとアリナの困惑
ジェイドを目当てに現れた人気受付嬢スーリは、アリナを押しのけて窓口に立ったが、ジェイドの視線はアリナを捉えていた。困惑するアリナはその場から逃げようとしたが、ジェイドの「目が良い」という一言で足を止めることとなった。ジェイドは、地下遺跡で目撃した黒髪に翡翠色の瞳を持つ大鎚使いがアリナであると確信していた。
アリナの危機感と対抗
ジェイドの直感により正体が露わになりかけたアリナは、冷静を装いながらも内心で焦りを隠せなかった。彼女は窓口に置かれた遺物の赤水晶を片手で握り潰し、超人的な力を示してジェイドを黙らせた。そして彼に対して、受付嬢として平穏な生活を邪魔するなら許さないと冷たく告げた。
ジェイドの撤退
アリナの圧倒的な威圧感により、ジェイドは一言の反論もできずに窓口を去った。彼は壊れた遺物の欠片を見つめながら、アリナが持つ異質な力と決意に恐れを抱き、すごすごと退散するしかなかった。
7
夕暮れの街での再会
アリナは夕暮れのイフールの街を歩きながら、定時で帰れる喜びに浸っていた。しかし、そのささやかな幸せはジェイド・スクレイドの登場によって打ち砕かれた。ジェイドは道端で待ち構えており、無邪気に声をかけてきた。アリナは困惑しつつも、笑顔を装い対応した。
ジェイドの強引な行動
ジェイドはアリナを引き止めるため、自身のスキル〈鉄壁の守護者〉を発動させ、アリナの衣服を硬化させて拘束した。この行動にアリナは苛立ちを隠せず、冷たい視線でジェイドを見据えた。ジェイドは彼女の反応にたじろぎつつも、「話を聞いてほしい」と訴えた。
場所を変える提案
アリナはその場で抵抗することも考えたが、周囲の視線を意識し、目立つ行動を避けることを選んだ。仕方なく、彼女はジェイドに場所を移すよう提案し、路地へ向かうことを決めた。ジェイドの強引さに不満を抱えつつも、アリナは冷静を保ちながら対応を続けた。
8
ジェイドの勧誘とアリナの抵抗
ジェイドはアリナを《白銀の剣》に勧誘しようと路地裏で切り出した。しかしアリナは無言でスキルを発動させ、大鎚を具現化してジェイドに襲いかかった。ジェイドはなんとか回避したものの、その威力に驚愕して顔を引きつらせた。
神域スキルの可能性
アリナのスキルが発動時に専用の武器を具現化する点から、ジェイドはその力が「神域スキル」である可能性を指摘した。アリナはその概念に興味を示さず、自分の力を当然のように扱った。ジェイドは神域スキルについて説明しつつも、アリナの平然とした態度に困惑を深めた。
ガンズの引退の真相
ジェイドはアリナの攻撃を見たガンズがショックで引退した事実を明かした。アリナはその理由が自分にあるとは思いもしなかったが、少しだけ罪悪感を抱きつつも、大鎚を下ろした。
残業嫌いの理由
アリナはヘルフレイムドラゴンを討伐した理由が「残業をなくすため」であったことを明かした。ジェイドはその答えに唖然としつつも、アリナの熱弁を前に謝罪するしかなかった。アリナはギルドの働き方に対する不満をぶつけ、自らの平穏を守るために行動したと断言した。
《白銀の剣》加入の拒否
ジェイドは残業がないことを理由に《白銀の剣》への加入を提案したが、アリナは冒険者という不安定な職業を拒絶した。ジェイドはさらに説得を試みるも、アリナの断固たる態度に押し切られた。
最後の警告
アリナは立ち去る前に、ジェイドに対してこの件を口外しないよう警告した。その迫力にジェイドは押し黙り、アリナの背中を見送るしかなかった。
9
アリナの憂鬱な朝
アリナは朝の静けさに包まれながら目を覚まし、窓から新鮮な空気を吸い込んだ。しかし、ジェイドに正体を知られてしまったことへの不安が消えず、思考は暗澹としていた。彼女はベッドに戻り、平穏を守るための決意を新たにした。
ジェイドが現れたイフール・カウンター
ベルフラ地下遺跡の攻略後、平和が戻ったはずのイフール・カウンターは、ジェイドの登場によって一変した。冒険者たちが彼を取り囲み、握手やサインを求める声が飛び交った。周囲の喧騒を無視しようと努めるアリナだったが、ジェイドを見つめる他の受付嬢たちの黄色い声援が、彼女の苛立ちをさらに煽った。
昼休みを待ち望むアリナ
昼休み直前、アリナは窓の向こうの時計台に目を向け、鐘が鳴るのを待ちわびていた。ついに鐘が鳴ると、他の受付嬢たちは窓口を飛び出し、ジェイドに群がった。しかし、その中心にいるはずのジェイドの姿は、いつの間にか消えていた。
10
昼休憩の静寂を破る訪問者
アリナはお気に入りの空き地で昼休みを楽しんでいたが、ジェイドが突如現れたことで、その静けさは破られた。彼の軽率な発言に怒りを覚えたアリナは大鎚を具現化させ、ジェイドを追い詰めた。最終的にジェイドは謝罪し、アリナも怒りを静めたが、彼女の昼食時間の平穏は奪われたままだった。
スキルについての議論
ジェイドはスキルの発芽についてアリナに尋ねたが、彼女は答えを拒否した。スキルの発芽条件や性質は未解明であり、ジェイドはその力を持つアリナの能力を惜しんだが、彼女は「力の使い方は自分で決める」と突き放した。
短すぎる昼休憩の終わり
昼休みが終わりを迎え、アリナは職場に戻る準備を始めた。一時間の昼休みは体感ではわずか数分に感じられ、彼女は重い足取りで職場へと向かった。冒険者の自由な働き方とは対照的に、受付嬢としての規律に縛られた日々を改めて実感した。
11
怒声が響く受付所
イフール・カウンターの受付所で、悪質な冒険者スレイ・ゴーストが新人受付嬢ライラに理不尽な要求をしていた。彼の恫喝に誰も介入できない中、アリナが対応を引き継いだ。裏クエストという存在しないものを求めるスレイの要求を、アリナは冷静に否定したが、彼はアリナの胸倉をつかみ暴力を振るおうとした。
ジェイドの介入
スレイがアリナに拳を振り上げた瞬間、ジェイドが現れてその拳を阻止した。ジェイドはスレイの挑発にも動じず、一級ライセンスの実力を見せつけて彼を退けた。スレイは敗北を認めざるを得ず、捨て台詞を残して立ち去った。
受付嬢としての対応
スレイの去った後、アリナはジェイドに助けられたことを感謝したが、ジェイドが注意した「挑発を控えるべき」という助言には心中で反発していた。その後、ジェイドが引き続きカウンターに居座る意図を感じ取ったアリナは、業務用笑顔でプレッシャーをかけた。その結果、ジェイドはその場を去ることを選んだ。
白銀のリーダーの退場
ジェイドは多くの冒険者や受付嬢たちの惜別の声を背に、イフール・カウンターを後にした。一方で、アリナは冷静な表情の裏で日常の平穏を取り戻したことに安堵していた。
12
夕方の業務と平和な広場
アリナは定時直前、事務用品の買い出しを兼ねて外出していた。彼女は仕事から離れた解放感を満喫しつつ、大都市イフールの象徴である巨大な転移装置を眺めた。広場では冒険者たちが巨大魔物クレイゴーレムを討伐し、その功績を称えられていた。魔物は眠らせた状態で転移装置を通じて研究所に運ばれる予定であった。
ジェイドとの再会と追跡
買い出しを終えたアリナの前に、ジェイドが現れた。彼は仕事後の食事やプレゼントを提案したが、アリナはそれらを冷たく断り続けた。ジェイドのしつこさに耐えかねたアリナは、最終的に彼を振り切るため裏路地を駆け出した。
スレイの復讐心
一方、昼間の出来事を引きずるスレイ・ゴーストは、広場で怒りを募らせていた。受付嬢への屈辱を忘れられない彼は、転移装置のそばで眠るクレイゴーレムに目をつけた。その巨体を見て、スレイの心には残忍な計画が芽生え、復讐を企む様子を見せていた。
13
裏路地での異変
ジェイドはアリナを振り切られた後、裏路地で呆然としていた。彼女を白銀に加入させる方法がわからず、思案に暮れていたが、その時突然、地面が大きく揺れ始めた。突如響き渡った咆哮に、ジェイドは異変を察知し、大広場へ急行した。
暴れるクレイゴーレム
広場に到着したジェイドが目にしたのは、破壊された石畳や傾いた転移装置、そして倒れた冒険者たちの惨状だった。巨大なクレイゴーレムが暴れ、冒険者に襲いかかる中、ジェイドは盾を構えて一撃を受け止めた。彼の咄嗟の対応により、冒険者たちは退避することができた。
スレイの計画と挑発
クレイゴーレムを操っていたのは、昼間に騒動を起こしていたスレイ・ゴーストであった。スレイは自身のスキルでゴーレムを暴れさせ、町を破壊しようとしていた。ジェイドはスレイの挑発を無視しつつ、ゴーレムの攻撃を受け続けながらも、冒険者たちを広場外に誘導しようと奮闘していた。
広範囲攻撃とスモールゴーレムの出現
クレイゴーレムが全身から岩片を撒き散らし、町中に甚大な被害を与え始めた。その破片からはスモールゴーレムが生まれ、さらなる混乱を引き起こしていた。ジェイドはその場で親玉の攻撃を受け止めつつ、町全体に広がる戦場を見て苦悩していた。スレイの計画は、町全体を混乱の渦に巻き込むものだった。
14
大広場からの異変
アリナは、イフール・カウンターの事務所で書類作成に取り組んでいた。広場から聞こえるクレイゴーレムの咆哮に眉をひそめつつも、上司から押し付けられた報告書の作成に追われていた。事務所には誰もいない中、彼女は定時帰りを守るため、残業回避の努力を続けていた。
クレーマーの仕業と広がる被害
広場の喧騒に耐えかねたアリナは外へ出た。そこには、暴れるクレイゴーレムとその肩に乗るスレイの姿があった。スレイの仕業と判断したアリナは冷静に状況を分析していたが、飛び散る岩片が自宅方向に向かっているのを目撃し、愕然とした。
自宅の崩壊
アリナはスキルを発動し、人外の脚力で自宅へ急行した。しかし、到着した彼女が目にしたのは、クレイゴーレムの岩片が突き刺さり崩壊していく自宅の姿であった。膝から崩れ落ちたアリナの耳には、家が悲鳴を上げるかのような破壊音が響き渡った。
怒りの決意
「ローンがあと三十年残っているのに」と呆然とつぶやいたアリナの心に、次第に憤怒が芽生えた。立ち上がった彼女の瞳には炎が宿り、大広場を睨みつけてスレイへの復讐を決意した。アリナは、怒りに満ちた声で「殺ス」と呟き、静かに戦いの舞台へと向かった。
15
怒りに燃える処刑人の登場
大広場ではスレイがクレイゴーレムを操り冒険者たちを翻弄していた。冒険者の攻撃は通らず、混乱が続く中、突如として何かが飛来し、ゴーレムの右腕を肩ごと吹き飛ばした。その衝撃に広場が静まり返る中、小柄な大鎚使いが現れた。処刑人に扮したアリナであった。
家を失った怒り
スレイや冒険者たちの注目を集めながらも、アリナは無言で立ち尽くしていた。彼女の肩に触れ制止を試みたジェイドの手を振り払い、アリナは家を破壊された怒りを吐き出した。彼女の憤怒に満ちた殺気が周囲を圧倒し、大鎚を握り締めたままクレイゴーレムに向かって突進した。
圧倒的な攻撃力
アリナの一撃は、ゴーレムの片腕を粉砕し、さらなる一撃でその頭部を胴体ごと地面に叩き込んだ。ジェイドですらその破壊力に驚愕し、広場の冒険者たちも信じられないという表情を浮かべた。クレイゴーレムは完全に破壊され、周囲には静寂が訪れた。
スレイへの裁き
クレイゴーレムを失ったスレイは恐怖に駆られ逃げ出そうとしたが、アリナは無言で彼の元へ向かった。彼女の言葉に震え上がるスレイに対し、大鎚を振り下ろしたが、狙ったのは彼の横の石畳であった。アリナの威圧感に気絶したスレイを見下ろし、彼女は何事もなかったかのように立ち去った。
16
壊された家とアリナの悲嘆
アリナは住宅街の道ばたに膝をかかえ、半壊した自宅を見つめながら肩を震わせていた。夕暮れのイフールでは復旧作業が進んでおり、土木師たちが慌ただしく動き回っていた。迅速な討伐のおかげで被害は最小限に抑えられたが、アリナの心の傷は深く、無言で涙を流していた。
ジェイドの申し出とアリナの拒絶
アリナの隣でジェイドもまた、壊れた家の様子を前に声を失っていた。やがてジェイドは意を決して、アリナに自分の家に泊まるよう提案したが、彼女はそれを一蹴した。不機嫌に眉を寄せたアリナは、くそクレーマーのせいで仕事が増えたと吐き捨て、ジェイドを追い払った。
夕闇に響く静寂
アリナの厳しい言葉を受け、ジェイドは悲しげに肩を落としてその場を去った。夕暮れの住宅街には、彼の静かな返事だけが響いていた。
17
深夜の大広場とギルドマスター
壊滅した大広場の調査
深夜のイフール、大広場には二人の男女が立っていた。昼間、クレイゴーレムが暴れたこの場所は、戦場の跡地のような様相を呈していた。象徴的な転移装置も壊され、唯一残る外灯の光だけが広場をぼんやりと照らしていた。
処刑人への関心
顎をなでる男性、グレン・ガリアは「ここに出たのか、処刑人は」とつぶやいた。そばに控える秘書のフィリは、不満げに眉を寄せて答えた。「優秀な前衛役はギルドに多数いるのに、なぜ処刑人にこだわるのですか」と問うフィリに、グレンは処刑人の秘める可能性が並外れたものであることを語った。処刑人が持つ力を確かめ、ギルドに迎え入れる価値があるという点で、ジェイドと同じ意見を持っていた。
ギルドマスターの決意
フィリは彼の熱意に諦めたようにため息をつき、グレンの決意を黙認した。グレンは笑みを浮かべ、「処刑人が姿を現したことで、その運命は決まった」とつぶやきながら右手をかざした。そして、夜闇に向けてスキルを発動させた。
時の観測者の発動
グレンの手が光を放ち、「スキル発動〈時の観測者〉」という言葉とともに、彼のスキルが闇に放たれた。
18
深夜の事務所と不思議な遺物
残業中のアリナとジェイド
深夜のイフール事務所に、アリナの恨みの声が響いていた。彼女の周囲には処理しきれないほどの書類が山積みされ、他の受付嬢は早々に帰宅していた。隣に座っていたのは、白銀のリーダーであるジェイド・スクレイドであった。彼はアリナを手伝いながら、彼女を元気づけようと努力していたが、その器用さゆえに逆にアリナの怒りを買ってしまった。
遺物の異変と謎の受注書
アリナがデスクの上で使用していた赤水晶の欠片が、突然強い光を放った。その光とともに金色の文字が空中に浮かび上がり、まるでクエスト受注書のような文章を形成した。記された内容は「白亜の塔」という未知の場所で全階層のボスを討伐するというもので、依頼者の明記も受注者のサインも省略されていた。
対応を巡るアリナとジェイドの意見
金文字が消えた後、アリナはこの現象を無視しようとしたが、ジェイドはその異常性に注目した。アリナは書類に追われる日常を理由にこの問題に関わる気がないと明言したが、ジェイドは赤水晶を手に取り、遺物の調査を進めるべきだと主張した。最後にはジェイドが調査を引き受ける形で話が収まったが、赤水晶がもたらす謎は深まるばかりであった。
19
処刑人の秘密とギルドマスターの訪問
新聞に踊る処刑人の話題
クレイゴーレムの事件から一週間後、イフール・カウンターは平和を取り戻していた。しかし、新聞の一面に大きく掲載された「処刑人」についての記事が、アリナを蒼白にさせた。記事では、処刑人がイフールに拠点を持つ可能性が示唆されており、その活躍が多くの冒険者たちの注目を集めていると記されていた。アリナは、怒りのあまり家を壊された復讐心で正体を隠すのを忘れていた自分を嘆いた。
後輩ライラとの会話
そんな中、新人受付嬢ライラがアリナに声をかけてきた。ライラは、スレイとの一件で助けてくれたアリナを褒め称え、処刑人に関する話題に花を咲かせた。彼女は処刑人を「ミステリアスで最強の冒険者」として熱烈に推しており、その憧れを隠さなかった。ライラの無邪気な様子に、アリナは呆れつつもひとまず自身の正体がバレていないことに安堵した。
ギルドマスターの突然の訪問
そこにギルドマスターであるグレン・ガリアが現れた。彼は気さくな態度でイフール・カウンターを訪れたが、その目的は処刑人の正体を探ることであった。グレンはアリナの窓口に歩み寄り、穏やかな笑顔で挨拶をしたが、その目には全てを見透かすような鋭さが宿っていた。
グレンのスキルと処刑人への言及
グレンは、自身の超域スキル〈時の観測者〉を用いて一週間前の大広場での出来事を観察したと語った。しかし、処刑人はフードの下にさらに仮面をかぶっていたと説明し、正体を掴めなかったと嘯いた。アリナは内心で仮面などかぶっていないと気づき、彼の発言が暗に自分を指していることを理解した。
ギルドマスターの誘い
グレンは最後にアリナへ耳打ちするように「裏に馬車を用意した。ギルド本部まで来い」と告げてその場を去った。彼の言葉には、処刑人としてのアリナを迎え入れる意図が込められていたが、彼はその正体を公言することはなかった。アリナは、自身の正体が知られていることを悟りつつ、ギルド本部への呼び出しに戸惑いを隠せなかった。
20
馬車の中での不安と衝突
重い空気に包まれる送迎馬車
アリナは馬車の端に座り、顔をうずめて「バレた……」と繰り返し呟いていた。馬車はギルド本部へ向かっており、彼女の周囲だけが異様に重苦しい空気に包まれていた。ギルドマスターからの招集に応じるしかなかったが、その心中はまるで断頭台に向かう罪人のようであった。
同乗者たちとの口論
送迎馬車にはジェイドと《白銀の剣》のメンバーであるルルリとロウが同乗していた。ジェイドがアリナを励まそうとしたが、アリナは「大嫌い」と冷たく言い放ち、ジェイドはショックで呆然とした。ルルリとロウは彼を宥めつつも、恋に傷つく彼の様子をからかいながら話を進めていた。
アリナの正体を巡る疑念
ロウはアリナを処刑人と信じきれず、「ただの受付嬢にしか見えない」と疑問を呈した。これに対し、ジェイドは「いまにわかる」と答え、アリナの力を暗に認めた。しかし、ルルリはアリナが冒険者を無理強いされる状況を憂い、「嫌がることをさせるのは間違っている」と述べた。彼女の意見にロウも同調し、嫌々組まされたパーティーでは成功しないと指摘した。
ジェイドの沈黙
ルルリがジェイドに「ギルドマスターの意図を知っているはずだ」と問い詰めたが、ジェイドは「それは内緒だ」とだけ答えて沈黙を保った。馬車の中には再び緊張した空気が漂い、アリナは窓の外を見つめながら深いため息をついた。
21
ギルドマスターとの対峙と勝負の幕開け
ギルド本部への招集
冒険者ギルド本部は、かつてS級ダンジョンだった石造りの要塞であった。アリナは白銀のメンバーに囲まれながら、堅牢な建物の中庭へと案内された。そこは訓練場として使われる広大な空間であり、グレン・ガリアが彼女を待ち構えていた。アリナは彼の真意を測りかねながらも、無愛想に話を聞いた。
予想外の勝負提案
グレンは「処刑人」としてのアリナの力を確認するため、自らとの勝負を提案した。条件は、アリナが勝てばギルドは彼女の受付嬢としての立場を保障し、彼女を追跡しないというものだった。一方でグレンが勝利すれば、アリナは白銀の一員として活動することになる。この申し出に対し、アリナは迷うことなく勝負を受け入れた。
圧倒的な力の衝突
アリナはスキル〈巨神の破鎚〉を発動し、虚空から大鎚を召喚した。その凄まじい威圧感に、周囲の冒険者たちは驚愕した。グレンもまた、自らのスキル〈時の観測者〉を発動し、アリナに挑む準備を整えた。しかし、勝負が始まるや否や、アリナの一撃がグレンを吹き飛ばし、訓練場の空気を一変させた。
時を止めるスキルの破綻
グレンはスキル〈時の観測者〉でアリナの動きを封じようとしたが、驚くべきことに彼女はその中でも動きを止めなかった。グレンはこの現象に愕然としつつも、彼女の異能を認めざるを得なかった。止まった時間の中でなお動けるアリナの姿に、彼は敗北を宣言した。
潔い敗北と新たな理解
グレンは自身のスキルをも凌駕するアリナの力を認め、勝負の結果として彼女を自由にする約束をした。彼の敗北宣言とともに、訓練場に再び音が戻った。その中で、アリナは受付嬢としての平穏を守るという自身の信念を新たにしつつ、静かに大鎚を収めた。
22
新たな試練と条件提示
勝負の結果とスキルの正体
グレンはアリナとの勝負に敗北し、彼女が神域スキルを持つ初の使い手であることを確信した。神域スキルはこれまで伝説として語られていただけで、その存在を示す確証がなかったが、アリナが〈時の観測者〉を超越したことで、その仮説が現実となった。グレンはアリナの力を認めつつも、その破壊力に驚嘆していた。
新ダンジョンの発見と受付嬢の危機感
イフールの東部で「白亜の塔」という新たなダンジョンが発見され、その攻略が冒険者ギルドの急務となった。ジェイドからその報告を受けたアリナは、新ダンジョン発見がもたらす膨大なクエスト処理に伴う残業地獄を予見し、激しく抗議した。彼女は、残業が再び始まることに対する絶望感を露わにし、グレンを揺さぶりながらその苦しみを訴えた。
「協力」の条件提示とアリナの決断
グレンはアリナに白銀の前衛役として「協力」することを提案し、その報酬としてイフール・カウンターの受付嬢を倍増させることで、アリナの残業を完全に解消することを約束した。この条件にアリナは激しく心を揺さぶられたが、定時帰りの平穏を手に入れるため、今回限りという条件付きで協力を承諾した。
定時帰りへの強い執念
アリナは今回の決断が自分の平穏な日常を取り戻すためのものであると自らに言い聞かせた。スキルを発芽させた自分の過去を少しだけ恨みながらも、彼女は理想の職場環境を築くために動き出す覚悟を固めた。グレンたち白銀のメンバーはその決意を見守りつつ、新たな挑戦へと向けて準備を進めていった。
23
初めての百年祭と残業地獄
残業の夜と孤独な事務所
百年祭の最終夜、大都市イフールの喧騒が町中に響き渡る中、アリナは受付所で一人残業を続けていた。新人受付嬢として配属されたばかりのアリナにとって、膨大な事務作業は体力的にも精神的にも過酷だった。祭りの賑わいがむしろ孤独を際立たせ、書類の山を前に絶望的な気持ちに押しつぶされていた。
神への祈りと呟かれる願望
百年祭に伝わる「強い意志を持った者に神の祝福が与えられる」という言い伝えを思い出したアリナは、祭りの神に心の底から力を求めた。彼女は「残業をなくしたい」と真剣に願い、誰かがボスを倒してくれることを祈った。しかし、その願いが叶う気配はなく、失望を胸に受付所を後にした。
終わった祭りと募る悔しさ
日付が変わった広場では、祭りの片付けが終わり、虚無感がアリナを襲った。人々が祭りを楽しむ姿が記憶に残り、自分だけが仕事に縛られている現実に怒りと悲しみが沸き起こった。冒険者たち、ギルド、そして倒されないボスすら憎く感じる中、アリナは力への渇望を強く抱くようになった。
魔法陣の出現と予兆
家路を急ぐ途中、アリナの足元に白い魔法陣が突然現れた。その正体を掴めないまま、魔法陣は静かに消え去った。疲労困憊のアリナはその出来事を深く考えず、その夜は泥のように眠りについた。数日後、彼女がとてつもない怪力スキルを得たことに気づいたのは、全てが変わり始める最初の兆候であった。
24
引っ越しと休日の混乱
思い込みと安堵の朝
アリナは寝坊して仕事に遅れると思い込み、大慌てで目を覚ました。安宿で寝癖を直しながら準備を進める中、制服を着替えた直後に自分が休みの日であることを思い出し、表情を晴れやかにした。再びベッドで二度寝を楽しもうとした瞬間、窓の外からジェイドの声が響き、平穏を乱された。
引っ越しの準備とジェイドの登場
新しい宿舎への引っ越しが予定されていたことを思い出したアリナは、窓から騒がしいジェイドを見下ろし、彼が自分を尾行して宿泊場所を特定したと確信した。彼の手伝いを受けつつ荷物をまとめたが、最低限の所持品しか持たないアリナにとって準備は簡単だった。道中、イフールの一等地に向かう途中でアリナは不本意ながらジェイドの存在を受け入れることになった。
一等地への到着と新しい宿舎
ギルドマスターの秘書フィリの案内で、一等地の白銀専用宿舎に到着したアリナは、その豪華な外観に驚嘆した。広々とした部屋と贅沢な天蓋付きベッドを目の当たりにし、アリナは新生活に対する喜びを隠せなかった。その場でベッドに飛び込み、至福の感覚に浸りながら、動きたくないと強く感じた。
ジェイドの役割とアリナの拒絶
フィリから宿舎の案内役を任されたジェイドは喜びを隠さなかったが、アリナは彼を一蹴し、部屋から追い出した。ジェイドの抗議の声が廊下に響いたものの、アリナは引き籠もる決意を固め、平穏を取り戻そうとしていた。
25
白亜の塔攻略の始まり
有給休暇を失った悲嘆
休日明け、快晴の朝にもかかわらず、アリナは暗い表情で冒険者ギルド本部に向かっていた。有給休暇を大切に計画的に使う派のアリナにとって、この日が有給消化にあてられることは衝撃だった。ギルドマスターから特別休暇を提案されるも、それが処刑人としての正体を疑われる原因になると恐れ、有給を選択した彼女は深く落ち込んでいた。
転移装置と白亜の塔への移動
ギルド広場中央に設置された転移装置を使用し、アリナたちは新たなダンジョン「白亜の塔」へと向かった。移動後、彼らが立っていたのはエルム大峡谷の縁であり、赤茶色の荒野にそびえる純白のらせん状の塔が彼らを迎えた。その美しい外観にアリナは思わず目を奪われた。
白銀のメンバーの紹介
ルルリは自身がパーティーの回復役であることを誇らしげに語り、誰も死なせないという決意を示した。続いてロウは遠距離攻撃を得意とする黒魔道士としての自己紹介を行い、ジェイドも盾役としての責任感を滲ませながらパーティーを引き締めた。三者三様の個性がアリナを含めたチームの雰囲気を彩っていた。
導きの結晶片の授与
白亜の塔の入り口に到着したアリナたちは、ジェイドから「導きの結晶片」と呼ばれるアイテムを渡された。この結晶片は仲間の危機を知らせる緊急連絡手段として設計されており、白銀の絆の象徴でもあった。ロウの冗談を交えた説明に対し、ルルリが即座に叱責し、チームの結束を強めた。
塔内部への一歩
白亜の塔の開いた入り口を前に、アリナたちは慎重に足を踏み入れた。その瞬間から、新たな冒険が始まる予感が彼らの心を包み込んでいた。
26
白亜の塔第一層の探索
異質なダンジョンの風景
白亜の塔の第一層には、薄闇の中に巨木のような白い円柱が立ち並び、不思議な光景が広がっていた。遺物の灯りが淡く周囲を照らすだけで、壁や仕切りはなく、静寂が漂っていた。この異様な空間にアリナは困惑しつつも、慎重に周囲を探った。
ケルベロスとの遭遇
ジェイドが何かを感じ取り、警戒する中、巨大な三つ首の魔犬ケルベロスが姿を現した。ルルリとロウは緊張しつつ武器を構え、ジェイドはパーティー戦の基本をアリナに説明した。しかし、アリナは説明を無視して単独で行動し、大鎚の一撃でケルベロスを瞬殺した。その力に仲間たちは驚愕し、パーティー戦の意味を見失いかけた。
次々と現れる魔物との戦闘
その後もアリナの圧倒的な力で、現れる魔物たちは次々と一撃で倒されていった。ジェイドは盾役としての存在意義を失ったように肩を落とし、ロウとルルリも後衛や回復役としての出番がない状況に戸惑いを隠せなかった。
先人たちの謎に迫る議論
探索を続ける中で、ロウは「白亜の塔がこれまで見えなかった理由」について疑問を呈した。ジェイドとルルリは、先人たちが何らかの理由で塔を隠していた可能性を示唆し、神の怒りに触れた結果、先人たちが姿を消したのではないかと推測した。アリナはその説を突飛だと感じながらも、先人たちの足跡が未だ謎に包まれている現状に思いを巡らせた。
新ダンジョンへの皮肉
新たなダンジョンが先人の調査を進展させる一方で、アリナにとっては残業地獄の再来を意味していた。過去の苦しい経験を思い出し、アリナは新たな発見に対して複雑な感情を抱いていた。
27
鉄扉と鍵の障壁
鉄製の巨大扉との遭遇
アリナたちは白亜の塔の一層を進む中、複雑な魔法陣と荘厳な装飾が施された巨大な鉄扉に辿り着いた。しかし、その扉には鍵が必要であり、開ける手段が見つからなかった。アリナは状況に不満を募らせつつも、解決策を探るために立ち止まった。
嫌がらせを仕掛ける上位パーティー
その時、薄闇の中から現れたのは、ギルド内で白銀の次に実力を持つとされる上位パーティー「ルーフェス一行」であった。彼らはアリナたちに嘲笑と侮辱を浴びせ、鍵を手にしたまま先に進むと宣言して鉄扉の向こうへ姿を消した。
アリナの怒りと扉の破壊
鍵を奪われて困惑するジェイドたちを尻目に、アリナは無言でスキルを発動させた。巨大な大鎚を召喚すると、彼女は全力で鉄扉を叩き壊した。頑丈に設置されていた扉は、物理的な力によりひしゃげて砕け散り、道が開けた。
有給への執念
アリナは砕け散った扉の残骸を見下ろし、毅然とした態度で「私の有給がかかっている」と言い放った。彼女の強引な行動にジェイドたちは言葉を失ったが、アリナの平穏を守る執念深さを再確認することとなった。
28
白亜の塔に潜む異変
鉄扉の先に広がる不穏な空間
破壊された鉄扉の先には、大きなホールと次の階層に続く階段があったが、ボスの姿は見当たらなかった。階層ボス不在という異例の状況に戸惑いつつも、アリナたちは二層への階段を進んだ。そこは荘厳な石柱が並ぶ長い回廊であったが、魔物の気配は一切感じられなかった。
聞こえた悲鳴と壊滅したパーティー
静寂を破ったのは回廊の奥から響いた悲鳴であった。アリナたちが急ぎ駆けつけると、二層のボス部屋と思われる場所には、血まみれで倒れる冒険者の姿があった。倒れていたのはルーフェスのパーティーメンバー三人であり、全員すでに息絶えていた。盾役の防具すら貫かれた惨状を前に、ジェイドは相手の攻撃力の異常性を感じ取った。
生存者ルーフェスの証言
柱の陰で震えるルーフェスが発見されたが、彼の表情には恐怖が刻まれていた。彼によれば、突如現れた人型の魔物がスキルを使い、パーティーを壊滅させたという。魔物がスキルを使うという衝撃的な事実に加え、ルーフェスの言葉から、そのスキルがアリナの神域スキルと酷似している可能性が示唆された。
現れた新たな脅威
その時、頭上から巨大な人喰いコウモリ・ブラッドバットが襲来した。ロウが魔法で攻撃し、怯んだ隙にアリナが大鎚で仕留めたものの、その一撃がアリナの正体を明かしてしまった。驚愕したルーフェスはアリナを魔物の仲間と疑い、さらに人型魔物のスキルも神域スキルである可能性を指摘した。
急がれる撤退
神域スキルを持つ魔物の存在が示唆され、白亜の塔の異常性はさらに深まった。ジェイドは状況の危険性を悟り、一同を速やかに退却させる決断を下した。ダンジョン内の真相を解明するには、さらなる慎重さが求められることが明らかであった。
29
嫉妬に囚われたルーフェスの暴走
ギルドマスターへの報告と白亜の塔の危険性
ジェイドは冒険者ギルド本部でグレンに白亜の塔の異変について報告した。塔内の神域スキルを持つ魔物や、高い攻撃力を持つ魔物の存在が明らかになり、グレンは事態の深刻さに眉をひそめた。白銀メンバーと相談の末、攻略を一時中断し、調査を優先する方針を決定した。
ルーフェスの突入と要求
治療中であったルーフェスが執務室に飛び込んできた。彼は「処刑人の正体を公表する」と脅迫し、白銀への加入と白亜の塔の再攻略を要求した。ルーフェスの執拗な言動は嫉妬と恨みに満ち、彼の本来の冷静さを失わせていた。
「神域スキルを取得する遺物」の存在
ルーフェスは白亜の塔の最奥に「神域スキルを取得できる遺物」があると断言し、それを手にすることで冒険者としての名声を得る計画を明かした。しかし、その情報の信憑性は低く、ジェイドは無謀な行動を戒めようとしたが、ルーフェスは耳を貸さなかった。
嫉妬に支配されるルーフェスの心理
ルーフェスは自らの才能不足を認められず、白銀に選ばれなかったことへの恨みを「処刑人」に転嫁していた。彼は強い力を求めるあまり、曖昧な情報を信じ、命を賭けた危険な賭けに出る覚悟を見せた。
暴走するルーフェスの最後通告
ルーフェスはジェイドとグレンに「白亜の塔への同行」を強制し、拒否すれば処刑人の正体を暴露すると脅した。彼の執念深い言動は、冒険者としての理性を完全に失わせており、ギルド内の緊張感を一層高めた。
30
疑念を抱えた再出発
白亜の塔攻略からの帰還と孤独な時間
アリナは白亜の塔から戻った後、白銀専用の豪華な部屋で一人の時間を過ごしていた。ジェイドを含む他の仲間はそれぞれの任務に追われ、アリナだけが取り残されていた。
突然の決定とジェイドの告白
部屋を訪れたジェイドは、白銀の前衛役にルーフェスを選定し、アリナは白銀を離れると告げた。この報告に対し、アリナは初め驚きつつも、「受付嬢に戻れる」という結果に対して表面上は納得している様子を見せた。しかしジェイドの態度に不自然さを感じ取り、その背後に隠された意図を疑った。
別れ際の問いかけとジェイドの覚悟
ジェイドが去ろうとした際、アリナは思わず彼の安全を問いただした。ジェイドは「《白銀の剣》として行けと言われれば行く」と答え、神域スキルを持つ魔物に対する戦いへの覚悟を示した。彼の笑顔にはどこか作り物めいた違和感が漂っていたが、アリナはそれ以上追及しなかった。
再び迫る不安と過去の記憶
ジェイドが去った後、アリナは胸中に残る嫌な予感に囚われた。その違和感は過去の記憶を呼び覚まし、彼女の心を複雑にさせた。しかし、彼女はその思いを胸の奥に押し込み、静かに次の展開を待つことを選んだ。
31
約束の重さと過去の喪失
アリナとシュラウドの幼き日々
アリナの故郷は大陸東端の田舎町で、実家は酒場を営んでいた。幼いアリナは、そこに集う冒険者たちと触れ合い、特に若い冒険者シュラウドとは親しくしていた。彼は「おじちゃん」と呼ばれることを嫌がったが、アリナはそれを楽しんで繰り返した。シュラウドは自分を「臆病なハイエナ」と評し、危険な冒険を避けて堅実に稼ぐことを信条としていたが、アリナにとって彼の話は楽しく、冒険者への憧れを膨らませるものだった。
シュラウドとの約束と悲劇の兆し
アリナは将来、シュラウドと共に冒険者として活躍する夢を語り、彼と「一緒にダンジョンを冒険する」という約束を交わした。しかしある日、シュラウドたちはクエストに出たきり戻らなくなり、やがて帰還した彼のパーティーメンバーは、ボロボロの姿でシュラウドの死を告げた。
シュラウドの喪失とアリナの葛藤
シュラウドの死を受け入れられないアリナは、真実を知る者たちの沈黙とその表情に、次第に現実を突きつけられる。彼女の心に刻まれた約束は果たされることなく、シュラウドの最期の姿を目にすることも許されなかった。その冷たい事実が、アリナの幼い心を打ち砕き、冒険者という夢をも塗りつぶした。
白亜の塔での記憶の再来
時が経ち、白銀用宿舎で目を覚ましたアリナは、白亜の塔での出来事を思い出し、シュラウドとの過去の記憶と重ねていた。彼の死因が階層ボスとの遭遇であったことを思い返し、アリナはその苦い記憶から逃れようと努めた。
日常への復帰と新たな決意
アリナは遠い記憶に蓋をし、受付嬢の制服に袖を通した。自分を奮い立たせるように残業への不満を口にしながら、彼女は再び現実に向き合うため、一歩を踏み出した。
32
白亜の塔・第四層の試練
暗闇に潜む魔物の気配
白亜の塔第四層は薄暗い回廊が続き、壁に取り付けられた灯りが唯一の光源であった。ジェイドはスキル〈百眼の獣士〉を用い、五感を鋭敏にしながら進んでいた。そのスキルにより、魔物の気配や居場所を正確に把握できたが、感覚の過剰刺激による疲労が徐々にジェイドを蝕んでいた。
スキルの負荷と仲間の心配
ジェイドは人型の魔物との遭遇を回避するためスキルを酷使していたが、その疲労は蓄積される一方であった。ロウとルルリはジェイドの体調を案じ、休息を促したが、彼の決意は揺るがなかった。一方、ルーフェスは自分勝手な行動を続け、パーティー内の不和を増幅させていた。
階層ボスの消滅と現れた脅威
回廊の終わりにたどり着いた一行は、血の匂いが漂う部屋で切り刻まれた肉片を発見した。それが階層ボスの遺骸である可能性が浮上したが、さらなる驚きが待ち受けていた。突如現れた魔神シルハは、人間離れした力と神域スキルを駆使し、一行を圧倒した。
ルーフェスの裏切りとその末路
ルーフェスはシルハの復活に手を貸し、仲間の命を犠牲にしていたことを告白した。しかしシルハは彼をも容赦なく殺害し、彼の行動を嘲笑うかのように槍で貫いた。絶命したルーフェスを見て、ジェイドたちはさらなる危機感を募らせた。
戦いの決意と犠牲
シルハの猛攻に対し、ジェイドは仲間を逃がすため、自らのスキル〈終焉の血塗者〉を発動し、全ての攻撃を引き受けた。その選択により致命傷を負いながらも、彼は立ち続け、ルルリとロウに脱出の時間を稼いだ。
覚悟を決めた盾役の最期
ジェイドは扉を閉じ、超域スキル〈鉄壁の守護者〉で退路を塞ぎ、シルハをこの場に封じ込めた。彼の目的は明確であり、仲間を生かすために自身を犠牲にすることだった。魔神シルハとの戦いに身を投じたジェイドは、最期まで盾役としての役割を貫いた。
33
アリナの葛藤と導きの結晶片
受付嬢への復帰と残業の日々
白銀を離れ、アリナは再び受付嬢の業務に戻った。慣れ親しんだデスクワークに没頭しながら、後輩のライラのミスの尻拭いに追われていた。深夜まで続く残業にうんざりしながらも、白亜の塔の攻略に関する噂話を耳にしていた。白銀たちは三層を突破し、四層へ進んでいるという情報に、アリナはどこか安心していた。
処刑人捜索の終結と安定した生活
ギルドは処刑人の捜索を正式に打ち切り、アリナの副業が世間に露見する危険は去った。彼女の受付嬢としての地位は安泰となり、これからは平穏な生活が待っているはずだった。しかし、新たな白銀の前衛役として選ばれたルーフェスの存在に対し、ライラは不満を漏らしていた。
謎の発光物と導きの結晶片
事務作業中、アリナの机の引き出しから強い光が漏れ出した。その正体は、白亜の塔でジェイドから渡された導きの結晶片であった。これは白銀の紋章が刻まれた特別なアイテムで、瀕死の仲間のもとへと導く力を持っていた。アリナはそれを手に取ると、光の増す様子に胸騒ぎを覚えた。
緊迫する状況とアリナの行動
結晶片が強く輝くことは、ジェイドや白銀のメンバーが危機的状況にあることを意味していた。かつて冒険者シュラウドの死を目の当たりにした記憶がよみがえり、アリナは衝動的に行動を開始した。ライラの制止を振り切り、彼女は事務所を飛び出し、白銀たちの元へ向かおうとしていた。
34
アリナの決断と覚悟
夜の奔走と転移装置への突進
アリナは導きの結晶片を握り締め、夜のイフールの町を全速力で駆け抜けた。無我夢中でギルド本部の転移装置を目指し、スキルを使ってその脚力で庭を突っ切った。暗闇の中で光る転移装置を目前にしたが、警備たちに制止され、足を止めることとなった。
警備たちとの対峙
ギルドの制服に身を包んだ警備たちは、転移装置の利用を禁じようとアリナを取り囲んだ。動揺する彼女は、受付嬢としての立場が崩れる危険を察しつつも、焦燥感に苛まれていた。シュラウドの死の記憶が頭をよぎり、危険な冒険者の運命に対する複雑な感情が心をかき乱した。
揺れる心と行動の選択
冒険者を助けに行くべきか、安定した受付嬢の地位を守るべきか、アリナは葛藤していた。しかし、ジェイドの言葉と、自分の中に残る矛盾が彼女を突き動かし、ついに決断を下した。
スキルの発動と正体の露呈
アリナは結晶片を握りしめ、スキル〈巨神の破鎚〉を発動した。巨大な大鎚を構えたその姿は、警備たちの目に「処刑人」の名を思い起こさせた。彼らの困惑の視線を受けながらも、アリナは毅然とした態度で前を見据えた。
冒険者としての覚悟
アリナの心には、幼少期に味わったシュラウドの死の記憶が焼き付いていた。安定を追い求める自分の生き方に反する形で、彼女は再びリスクを冒す道を選んだ。瀕死の仲間を助けるため、大鎚を構えたアリナは、自らの力で彼らを引きずり出す覚悟を固めた。
「どかないなら、ぶっとばす──」という低い声が、彼女の決意の強さを物語っていた。
35
アリナの決意と再登場
ロウとルルリの脱出
ロウはルルリを抱えながら二層まで駆け抜けたが、力尽きて壁にもたれ込んだ。ルルリはジェイドを見捨てて逃げたことを激しく責めたが、ロウはリーダーの覚悟を無駄にしないためだと声を荒げた。二人はジェイドの命運に心を痛め、無力感に押しつぶされていた。
導きの結晶片の希望
ロウはルルリに、特別なアイテム「導きの結晶片」の存在を示した。ジェイドの危機に反応している結晶片の光が、唯一の希望として二人に微かな望みを与えた。しかし、その瞬間、巨大な魔物ベヒモスが現れ、二人に襲いかかった。
救世主としてのアリナの登場
ベヒモスの襲撃直前、突然現れたアリナがスキルで魔物を一撃で撃破した。血に染まった大鎚を携えた姿に、ルルリとロウは驚愕しつつも彼女を救世主と見なした。アリナは結晶片の光を確認し、二人が無事であることに安堵するが、ジェイドが依然危険な状況にあることを悟った。
ジェイドの危機とアリナの決意
ロウはジェイドが魔神シルハと戦い、自らを犠牲にして仲間を逃がすために行動していることを説明した。シルハが神域スキルを複数使用する危険な敵であると知り、アリナは険しい表情で話を聞いた。全てを理解したアリナは「後は私に任せて」と言い、光が指し示す方へと向かっていった。
36
絶望と希望の戦場
アリナ、四層に到着
アリナは導きの結晶片の光に導かれ、四層へと到達した。鉄扉を大鎚で吹き飛ばし、暗闇の奥へ進むと、彼女の目の前には変わり果てたジェイドの姿があった。防具は破損し、体中に深い傷を負い、血の海に沈んでいた彼の姿に、アリナは息を呑み、絶望に打ちひしがれた。
魔神シルハの襲撃
突然の殺気を感じ取ったアリナが回避した直後、魔神シルハが姿を現した。人間離れした姿を持つシルハは、ジェイドの命を奪おうとし、アリナに挑発を交えながら攻撃を仕掛けた。アリナは激怒し、大鎚を振り抜いて応戦するも、シルハは無傷で反撃を続けた。
ジェイドの生存と戦闘続行
一方、ジェイドは辛うじて生きており、アリナの登場を待ち続けていたと告白した。その言葉に怒りつつも安堵したアリナは、彼を守るために再びシルハと対峙した。強大な魔神の攻撃を受けながらも、アリナは諦めずに戦い続けた。
魔神の圧倒的な力
シルハは神域スキルを操り、アリナに数百の剣を浴びせかける〈巨神の裁剣〉を発動した。アリナは全ての剣を力強い一撃で薙ぎ払い、なおも立ち向かう。戦闘中、アリナの大鎚は黄金の輝きを放つ形態へと変化し、その力がさらに増幅された。
逆転への一撃
魔神シルハが放った次のスキル〈巨神の妬鏡〉も、アリナの力の前に破壊された。驚愕するシルハを前に、アリナはさらに強大な力を発揮し、魔神の右腕を吹き飛ばす一撃を放った。動揺したシルハは、かつてない恐怖に駆られる。
平穏への決意
アリナは自らの平穏を守るため、全ての力を振り絞り魔神に挑んだ。魔神が絶望の表情を浮かべる中、アリナの大鎚はシルハの体を貫き、勝利を収めた。彼女の怒りと決意が込められたその一撃は、魔神を完全に打倒する力を持っていた。
37
魔神との決着と新たな暗示
シルハの最期
アリナの大鎚によって胸を貫かれた魔神シルハは、再起不能の状態に陥った。心臓を失い、全身が傷つき血を流しながらも、彼は執拗にアリナを恨み、呪詛の言葉を吐き続けた。アリナは冷静にその声を聞き流し、さらなる攻撃でシルハの命を完全に絶った。
魔神の暗示
消えゆく直前、シルハは「魔神は自分一人ではない」と不穏な言葉を残した。その発言は、彼の敗北を祝えないほどの不安を冒険者たちに与えた。ジェイドはこれをただの負け惜しみと片付けることができず、アリナもまた、その言葉を完全に無視することはできなかった。
遺物の回収
シルハが完全に消滅した後、彼の体内に埋め込まれていた黒い石──魔神の心臓が残された。ジェイドはそれを拾い上げ、不気味な気配を失ったその石を見つめながら、この戦いの重さを実感していた。
再会と感謝
ロウとルルリが駆けつけ、ジェイドやアリナの無事を確認すると、喜びと安堵の涙を流した。ルルリは感謝の気持ちをアリナに伝え、ロウもまたジェイドを𠮟りつけながらもその生還を喜んだ。アリナはそんな彼らの姿を見て、少しだけ微笑んだ。
アリナの想い
冒険者たちの喜び合う姿に、アリナはかつてのシュラウドたちのことを思い出した。もし別の選択肢があったなら、彼らにもこうした未来があったのではないかと一瞬考えたが、目の前の悲劇を防げたことに満足することにした。残業を犠牲にしてでも得た平穏には、それだけの価値があったのだと彼女は確信した。
38
日常に戻るアリナと残業の継続
新聞記事への不満
アリナは事務所で広げた新聞に目を通しながら、ため息を漏らした。記事には白亜の塔攻略が美談として誇張されて書かれ、ギルドマスターは処刑人への賛辞を述べていたが、アリナにとって重要なのは残業の軽減だった。しかし、その約束はまだ果たされておらず、彼女は今日も残業を強いられていた。
冒険者たちの努力と思い出
白亜の塔攻略後、新たなダンジョンが次々と発見されたが、攻略は難航していた。アリナは冒険者たちの努力を認めつつ、自身の選んだ受付嬢という道にも誇りを抱いた。互いに譲れないもののために働く姿は、冒険者と受付嬢であっても本質的に同じだと考えた。
ジェイドの訪問
深夜の事務所に、ジェイドが突如現れた。怪我だらけの姿でありながらも元気な彼の様子に、アリナは呆れながらも残業の手伝いを頼むことにした。ジェイドの軽口に振り回されながらも、彼の協力で仕事を進めることにした。
変わらない日常と少しの前向きさ
アリナは、家の修復や正体の隠蔽が成功したことで以前と変わらない日常に戻ったことを感じた。残業も相変わらずで、ジェイドの纏わりつきはむしろ増していたが、そんな中でも明日を頑張れそうだと思い直した。忙しさと愚痴を抱えつつも、どこか充実した表情で仕事に取り組んでいた。
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