どんな本?
本書は、ファンタジー小説である。ギルドの受付嬢として働く主人公が、過酷な労働環境を改善するため、自ら強力なボスモンスターの討伐に挑む物語。この作品は、異世界ファンタジーの世界観を背景に、労働問題や自己成長をテーマとして描いている。
主要キャラクター
- アリシア:ギルドの受付嬢であり、物語の主人公。労働環境の改善を目指し、自ら戦闘技術を磨く。
- レオン:ギルドの熟練冒険者で、アリシアの良き相談相手。彼女の成長を支える存在である。
- エリーナ:ギルドの同僚受付嬢で、アリシアの親友。共に労働環境の改善を目指す仲間である。
物語の特徴
本作は、異世界ファンタジーの設定を活かしつつ、現代社会の労働問題を風刺的に描いている点が特徴である。主人公が自らの力で困難を乗り越え、成長していく姿は、読者に勇気と共感を与える。また、コミカルな要素とシリアスなテーマがバランスよく融合されており、エンターテインメント性と社会的メッセージ性を兼ね備えている。
出版情報
• 著者:香坂マト
• イラスト:がおう
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:電撃文庫
• 発売日:2023年01月07日
• ISBN:9784049148138
• コミカライズ:優木すず作画、『月刊コミック電撃大王』にて2021年8月号から連載中、既刊5巻(2024年10月現在)
• アニメ化:2025年1月から放送予定
読んだ本のタイトル
ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います 6
著者:香坂マト 氏
イラスト:がおう 氏
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あらすじ・内容
新ダンジョンの発見ラッシュ! さらにアリナの前に偽の「処刑人」現る――
社会人にとって癒しのひと時である長期休暇――を目前に控えてうきうきなアリナのもとへ、ギルド本部から5つの封書が届く。内容はいずれも同じく「新ダンジョン発見のお知らせ」。ひとつ発見されただけでさえ莫大な残業と休日出勤をもたらす新ダンジョンが、五つ、同時に、見つかっただと………!?(絶望)
長期休暇の存亡を揺るがす非常事態に、アリナは急ピッチでダンジョンの処分を進めることに。猛り狂う大鎚によって次々とボスが粉砕されていく中、最後の1匹が待つボス部屋に殴りこんだアリナを待っていたのはボスではなく――?
「……処……刑、人……?」
受付嬢がボスと残業を駆逐する異世界コメディ第6弾!!
感想
アリナは社会人にとって待望の長期休暇を目前にしていた。
しかし、ギルド本部から届いた五通の封書により、新ダンジョン五つの発見が告げられる。
これがもたらすのは膨大な残業と休日出勤である。
絶望するアリナの前に現れたのは、自分と瓜二つの「偽の処刑人」。
彼女の助けを借りつつ、ダンジョンを片付けたアリナたちは、長期休暇を利用して故郷フィールアへと向かう。
しかし、その地で待っていたのは黒幕【剣聖】との遭遇と、シュラウドの死の真実であった。
物語は第二部の幕開けを告げ、新たな挑戦が描かれる。
圧倒的な展開と黒幕の登場
今巻では、これまで暗躍していた【剣聖】がついに直々に姿を現した。
彼の力は圧倒的であり、主人公たちは手も足も出ない状況であった。
その圧倒的な差は、物語にさらなる緊張感を与えた。また、シュラウドの正体やその「死」の真相が明らかになり、過去の伏線が見事に回収される展開は驚きである。
とはいえ、新たな敵に立ち向かうにはさらなる成長が必要であり、物語が進むにつれてその過程が描かれることを期待したい。
アリナの成長と新たな絆
長期休暇を目指して残業と戦うアリナの姿勢は、コミカルでありながらも力強い。
特に彼女が「偽の処刑人」と協力しつつ、自らの仕事を進めるシーンには笑いと感動が混じる。
さらに、故郷フィールアでのエピソードでは、アリナの素直な一面や家族との絆が描かれ、物語に温かみを加えている。
物語の転換点と新キャラクターの登場
新たに登場したアリナの弟アシュリーや、謎の存在フェイクは、物語の進行において重要な役割を果たしている。
特にアシュリーの現実的で賢明な性格は、アリナとの対比が鮮やかである。また、シュラウドの復活は衝撃的であり、過去の因縁や未来への希望が交錯する描写には心を打たれた。
次巻への期待
黒幕【剣聖】の圧倒的な力に対抗するには、さらなる力を求める必要がある。
次巻では、アリナたちがどのようにして成長し、困難に立ち向かうのかが楽しみである。
また、家族や仲間との絆がどのように物語に影響を与えるのか、目が離せない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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アニメ
PV
同シリーズ
その他フィクション
備忘録
0
暗い森を駆ける少女
少女は夜の森を駆け抜け、息を切らしていた。「これで生き返るんだよね、シュラウド……!」と明るくつぶやきながら、誰もいない闇の中で希望を抱えていた。やがて少女は町外れの共同墓地に辿り着き、「シュラウド・ラウグーン」の名が刻まれた墓石の前に座り込んだ。
葬送花への期待
少女は手にした白い花を墓石に供えた。強く握りしめたせいで花弁は傷んでいたが、それでも懸命に供え続けた。しかし、墓石の下に眠る死者が蘇る気配はなく、静寂だけが墓地を包んでいた。彼女は「アシュリーが言ってたから間違いない」と震える声で自分を励ましながらも、疲労と睡魔に負け、やがてその場で眠りに落ちた。
家族の発見と現実
目を覚ました少女は、母をはじめとする数人の大人たちに囲まれていた。母が少女を強く抱きしめる中、彼女は振り返って墓石を見たが、蘇った「シュラウド」の姿はなかった。「これで生き返るって……」と必死に訴えた少女に、母は言葉を詰まらせながらも真実を伝えた。
無垢な願いの崩壊
母は「葬送花は死者に手向けるためのもので、生き返ることはない」と語り、少女を優しく抱きしめた。少女の涙が溢れ、静かな墓地に彼女の悲しい叫びが響き渡った。死者への無垢な願いが破壊された少女は、シュラウドがもうこの世にはいないという現実を知り、深い悲しみを抱いた。
1
日常の平穏な午後
アリナ・クローバーは昼休憩後の穏やかな午後、温かいお茶を飲みながら、平和なひとときを楽しんでいた。事務所内は閑散としており、事務作業もほぼ片付いていたため、同僚のライラと共に、静かな時間を満喫していた。ナーシャという全身半透明の少女が現れ、二人と軽い会話を交わしたが、その和やかな雰囲気が事務室全体を包んでいた。
新ダンジョンの発見
午後の郵便が届いた際、ライラがギルド本部からの一通の書簡を開封した。その中には新ダンジョン「モール灯台」の発見を知らせるダンジョン認定通知書が入っていた。アリナはその知らせを予想内として受け止めたが、平和な日常が突如として乱される予感を覚えた。
さらなる通知と混乱
配達員が追加の郵便を届け、封書を開封すると、さらに四つの新ダンジョン認定通知書が含まれていた。それぞれ異なるダンジョンを示しており、事態は一転して深刻なものとなった。驚きと動揺が広がる中、冒険者たちの足音がイフール・カウンターに迫り、事務室の緊張感は頂点に達した。
新たな戦いへの決意
アリナは新ダンジョン五つの出現という前代未聞の状況に対し、自ら立ち向かう決意を固めた。自分の平穏を守るため、ダンジョンの攻略を迅速に進めることを心に誓い、ライラと共に事務室の混乱を切り抜けようとしていた。彼女の叫びが響く中、物語は次の展開を予感させながら幕を閉じた。
2
残業地獄とアリナの叫び
深夜の事務所に響いたアリナの叫びは、彼女が新ダンジョン五つの同時発見に伴う膨大な書類処理に追われている現状を象徴していた。彼女の隣に座るジェイドも疲れた様子を見せ、さらに幽霊のような少女ナーシャも巻き込まれた。アリナは彼女の非効率な事務処理への不満に対し、ナーシャを即席の助っ人として強引に作業に組み込んだ。
長期休暇の憂鬱
アリナは、あと一週間で終わる特別な休暇取得期間の中で、まだ一日も休めていなかった。その理由は明らかで、新ダンジョンの発見による業務量の急増である。アリナは涙を流しながら、三日間の短い休暇でも家族と過ごすことの意義を訴えたが、そのささやかな願いすら叶いそうにない状況に絶望していた。
ナーシャとアリナの攻防
ナーシャは過去の技術と比較して現在の非効率性を批判したが、アリナは彼女を厳しく叱責した。ジェイドも仲裁に入るが、アリナの苛立ちは収まらない。ナーシャは渋々書類チェックを続け、アリナの要求に応えようとしていた。
ジェイドの負傷と冒険者の現状
ジェイドはかつての戦闘で負った傷が完全には癒えておらず、その影響でダンジョン攻略が進まない現状に苛立ちを見せていた。ナーシャも彼の無茶な行動を非難しつつ、回復を促した。一方で、新ダンジョンの攻略が遅れることで事務処理の負担が増加し、状況は悪化の一途をたどった。
最後のダンジョン攻略へ
事務所の連絡板に残された新ダンジョンの名前を確認したアリナは、最後に残された「トプラ大図書館跡」の攻略が業務を落ち着かせる鍵だと判断した。彼女は夜の街へと飛び出し、残務解消のための行動を開始したのである。
3
偽処刑人との遭遇
トプラ大図書館跡の最奥階へ向かう階段で、ジェイドは体を鍛えるため同行したと語ったが、アリナに不審がられていた。階段を上り切ると、巨大な鉄扉の向こうから戦闘の振動と音が響き、直後に静寂が訪れた。扉を開けると、青い鱗を纏う竜の魔物が倒れており、その前に立つ一人の冒険者が目に入った。それは処刑人を模した外見の冒険者であり、ジェイドとアリナはその存在に警戒心を抱いた。
赤竜との戦闘と神域スキル
次の瞬間、赤い鱗を纏う竜が現れ、偽処刑人に襲いかかった。ジェイドが間合いを詰めようとする中、偽処刑人は冷静にスキル〈巨神の破鎚〉を発動した。虚空から現れた巨大な銀の大鎚は竜を一撃で倒し、部屋は再び静寂に包まれた。この圧倒的な力を目の当たりにしたジェイドは、偽処刑人の正体に疑念を深めた。
偽処刑人の正体と対話
倒れた竜を前に、偽処刑人はアリナと向き合った。その顔はアリナと瓜二つであり、声も同じだった。偽処刑人は自らを「完璧な偽者」と称し、アリナに戦いを代わる意思を示した。彼女は自分がアリナと同じ力を持つことを語り、魔神と戦う役割を引き受けると宣言した。
偽処刑人の撤退
偽処刑人は「戦わなくていい」と告げると、部屋の暗闇へと姿を消した。追いかけようとしたジェイドも捕らえることはできず、その場に残されたアリナとジェイドは、目の前で繰り広げられた出来事の意味を測りかねていた。偽処刑人の正体とその目的は依然として謎のままである。
4
偽処刑人の報告と困惑
アリナたちは事務室で、偽処刑人についてライラとナーシャに報告した。〈巨神の破鎚〉を扱える偽者の存在に、二人は驚きを隠せなかった。ナーシャは過去の時代でも同一のスキルを持つ者が同時に存在した例がないと指摘し、ジェイドは偽者の力が本物に匹敵すると語った。その中で、偽処刑人がアリナの代わりを務めようとしている意図について話題が上がった。
アリナの苛立ちと危機感
ジェイドは偽処刑人の存在がアリナの負担を軽減する可能性を示唆したが、アリナは彼を厳しく叱責した。さらに、ライラはアリナのこれまでの言動を引き合いに出し、ジェイドの意見に理解を示した。これに対してアリナは反論しつつも、偽者の正体が処刑人の秘密を暴露する可能性に気づき、深刻な危機感を覚えた。
未処理の残務と長期休暇の現実
偽処刑人の対応を巡る議論の最中、大量の未処理書類が崩れ落ち、四人は残務の膨大さを再認識した。アリナの長期休暇まで残り二日であるにもかかわらず、事務処理の進展は絶望的であった。彼女は休暇を守るため、偽者の捕縛を最優先事項とする決断を下した。
アリナの決意と新たな計画
膝をつき落胆していたアリナだったが、突然新たな計画を思いついた。彼女は残務処理を後回しにし、偽処刑人を捕まえることを最優先に掲げた。ジェイドたちの懸念をよそに、アリナは力強く立ち上がり、偽者を追い詰めるべく行動を開始する決意を固めた。
5
昼食のひとときと計画の提示
昼休み、アリナたちはイフールの小さな広場に集まり、ジェイドの作った弁当を囲んで昼食を取った。ジェイドが作り置きした料理を詰めた弁当は、アリナの粗食とは対照的で色鮮やかであった。ライラはジェイドの心配りを称賛し、アリナは少し照れながらも感謝の意を表した。その後、アリナは偽処刑人をイフールにおびき寄せる方法について尋ねた。
虚像構築装置の提案
ジェイドは、冒険者ギルドが開発した「虚像構築装置」を使う計画を説明した。この装置は魔物の姿を立体的に投射し、本物に近い動きを再現するものであった。ジェイドはこの幻影を町に出現させることで、偽処刑人を引き出すことができると考えた。偽処刑人がアリナに成り代わろうとする目的から、幻影を討伐しようとする可能性が高いと予測された。
計画への理解と準備
ナーシャはジェイドの説明を聞き、偽処刑人が幻影と本物の処刑人を見誤るリスクを避けるため、行動を起こさざるを得ないと理解した。ジェイドは、過去の処刑人の行動から偽処刑人が動く可能性を読み、ギルドの許可を得て計画を進める準備を整えていた。アリナも他に有効な手段がないと判断し、計画に同意した。
6
ストーンゴーレムの出現と町の混乱
昼過ぎのイフールで、虚像構築装置によるストーンゴーレムが広場に投射された。町中で暴れ回る幻影に驚いた人々は混乱しながらも、過去に出現した同様の魔物を思い出していた。アリナはこの騒動を冷静に見つめつつも、偽処刑人の出現を待ち構えていた。
偽処刑人の登場と町人の反応
しばらくして、屋根伝いに現れた偽処刑人がストーンゴーレムへ接近した。町人たちは処刑人だと信じ込み、歓声を上げて彼女を迎えた。アリナはその様子を見て、処刑人への誤解を訴えたが、ライラの言葉に少し苛立ちを見せた。
偽処刑人の戦闘と幻影の崩壊
偽処刑人はストーンゴーレムに対して〈巨神の破鎚〉を発動し、一撃で幻影を霧散させた。その圧倒的な力にナーシャは驚きを隠せなかったが、一部の冒険者たちはストーンゴーレムに違和感を覚え始めていた。偽処刑人はその場を離れる際、人々が困惑している隙を突いて裏路地に姿を消した。
偽処刑人の追跡開始
偽処刑人の動きを見逃さなかったジェイドは、すぐにアリナを促して行動を開始した。二人は広場を飛び出し、偽処刑人を追跡し始めた。
7
裏路地での対峙
アリナが裏路地の奥に足を踏み入れると、偽処刑人が待ち構えていた。偽処刑人は、虚像構築装置を使った魔物の幻影について不満を述べつつ、自分がアリナの姿を悪用するつもりはないと必死に訴えた。アリナは偽処刑人の言葉を一蹴し、自身の社会的地位や仲間を守るためにも、偽処刑人の行動を許さない姿勢を示した。
偽処刑人への痛烈な反撃
偽処刑人がアリナに成り代わる理由を説明する中、アリナは彼女を追い詰めるため「社畜呪文」を口にした。偽処刑人の心に突き刺さるような言葉の数々が繰り出され、彼女は次第に追い詰められた。「ミスの責任を押し付けられる」「休憩中に邪魔をされる」などの呪文が放たれるたびに、偽処刑人は痛みと苦しみで動揺していった。
呪文の余波とアリナの意志
アリナ自身も呪文の影響を受け、一時はうずくまるほどのダメージを受けたが、不屈の意志で立ち上がった。偽処刑人が抱える悩みをさらにえぐるような言葉を次々と放ち、ついに「本来七日間とれるはずの長期休暇が三日間に短縮された」という極めつきの一撃でとどめを刺した。
偽処刑人の失神
アリナの猛攻により、偽処刑人は限界を迎え、白目をむいてその場で失神した。アリナの言葉は、偽処刑人がアリナそのものであるがゆえに、効果絶大であった。勝利を収めたアリナは、自身の意志の強さを改めて示した形となった。
8
偽処刑人の捕縛と事務室への帰還
ジェイドたちは気を失った偽処刑人を背負い、イフール・カウンターの事務室に戻った。休館日のため職員はおらず、残務処理を進めながら偽処刑人の事情を聞き出す絶好の機会であった。アリナは勝利の余韻に浸るどころか疲労困憊の様子で事務作業を続けていた。一方、ナーシャとライラは「社畜呪文」の余波を受け、罪悪感に沈んでいた。
偽処刑人の目覚めとアリナの反論
偽処刑人が目を覚まし、自身の状況を理解すると、不服そうに「反則だ」と呟いた。アリナは彼女を一蹴し、自分を模倣することで得た力の代償について指摘した。偽処刑人は事務室での状況に戸惑いつつも、アリナたちが作業を片手間に自分と会話していることに不満を漏らしたが、アリナの苛立ちを買い、黙らざるを得なかった。
アリナの策略と偽処刑人への宣告
アリナは偽処刑人の前に山積みの書類を置き、これが事務室の「戦場」であると告げた。休館日であるにもかかわらず、膨大な残務を片付けねばならない現実に偽処刑人は愕然とした。さらに、アリナは三日間の長期休暇が迫る中、残業を終わらせる必要があると強調し、偽処刑人に事務処理の手伝いを命じた。
事務処理への強制参加
アリナは偽処刑人を見下ろし、冷徹な笑みを浮かべながら断言した。「私を完璧に模倣しているなら、事務処理も当然できるはずよ」と。偽処刑人はアリナの命令に驚愕しつつも、その場から逃げられない状況に追い込まれた。アリナは彼女を残務処理の労働力として使うことを決定し、その場を支配していた。
9
偽処刑人の挫折とさらなる試練
偽処刑人は最後の書類を処理し終えると、次の書類の山が目の前に置かれ、ついに音を上げた。泣きながら「こんな量を裁けるはずがない」と訴えたが、アリナに叱咤され再び作業に取り組むことを余儀なくされた。ジェイドは偽処刑人の仕事ぶりを観察し、「ミスまで全く同じ」と指摘し、偽処刑人とアリナの間で言い争いが始まったが、ライラとジェイドに制止された。
同じ名前の混乱と新たな呼称の決定
アリナと偽処刑人が同時に振り向く場面が続き、混乱を招いていた。偽処刑人は「偽者」と呼ばれることを提案し、作業効率を上げるためにその呼称を受け入れた。しかし、ライラが未処理書類の膨大な量を指摘すると、二人は同時に悲鳴を上げた。
偽処刑人の逆転発想と新たなスキル発動
書類の山に圧倒された偽処刑人は、「アリナではこの量をさばけない」と断言し、新たなスキル〈巨神の賢眼〉を発動した。白い光の後、偽処刑人はジェイドの姿へと変身し、事務作業に適した体となった。これにより効率的な作業が可能となったが、アリナは彼女の発言に激怒した。
偽処刑人の謝罪と決意
偽処刑人はアリナに謝罪し、受付嬢の仕事を軽視していたことを認めた。彼女は「受付嬢も地獄の仕事だ」と理解し、長期休暇までに残業を終わらせる決意を固めた。はちまきを締め直し、偽処刑人は新たな覚悟で残務に挑む姿勢を示した。
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深夜の雑談とアリナの実家
深夜、事務処理が続く中、ライラがアリナに実家への帰省について話を振った。アリナはフィールアという田舎町に帰る予定だと答え、調べたいことがあると付け加えた。その言葉にジェイドは心配そうな表情を見せたが、アリナはその視線を避けた。彼女の脳裏には、リーティアンで遭遇した正体不明の男の姿が浮かんでいた。
リーティアンでの出来事と揺れる思い
その男は魔神の攻撃を防ぎ、アリナに〈全てを打ち滅ぼす者〉という本来のスキル名を告げた。その際、「アリナおばちゃん」と呼びかけたことで、アリナは死んだはずのシュラウドを思い出した。彼の存在を否定しつつも、心の奥でその可能性を捨てきれないアリナは、不安に苛まれていた。
仲間たちの提案と心配
ライラやナーシャはアリナの実家への同行を希望し、ジェイドも調査のためフィールアに行く予定があると告げた。アリナは彼らの様子に呆れながらも、ナーシャから「みんながアリナを心配している」と言われ驚いた。アリナの様子が以前と違うことを仲間たちは感じ取っており、アリナを一人で悩ませないよう支えたいという思いを持っていた。
アリナの胸に秘めた不安
シュラウドが【大賢者】であるという事実や、リーティアンでの男の正体をジェイドたちは調べようとしていたが、アリナはそれに触れることを恐れていた。仲間たちがアリナを心配し手を差し伸べる中、アリナは自分の不安を打ち明けることをためらい続けた。
再び作業に戻る日常
アリナは「なんでもない」と言葉を濁し、書類に向き直った。視界の端に映ったジェイドの表情には寂しさが浮かんでいたが、彼も何も言わず作業に戻った。アリナの心には、未解決の不安が残されたままだった。
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疲労困憊の出発準備
早朝、アリナは残業を終えたばかりで疲れ切った状態のまま、フィールアへ向かう準備をしていた。ジェイドやナーシャも疲労で憔悴しきっていたが、なんとか集合し転移装置の前に集まった。アリナは三日間の休暇を最大限活用するため、休まずフィールアへ出発することを決意していた。
ライラの不参加と執念の移動
ライラは自宅で力尽きてしまい不参加となったが、アリナは休暇を無駄にしないためにそのまま移動を続けると決めた。移動先のフィールアには転移装置がないため、一行はまず宿場町ルルコアに向かい、そこから馬車で移動することとなった。
フェイクの登場と嘆き
疲労困憊のアリナたちの前に現れたのは、膝を抱えて落ち込むフェイクだった。フェイクは、残業を終えた途端に放置されたと不満を漏らした。アリナは彼女を面倒くさがりつつも、放置するわけにはいかない状況を理解し、同行を許可した。ただし、問題を起こせば精神攻撃を喰らわせると釘を刺した。
フィールアへの出発
余計な荷物が一人増えた形となったが、アリナたちは気を取り直してルルコアへ向かう準備を整えた。アリナは疲労を感じつつも、目的地の名を叫び、長期休暇の初日をスタートさせた。
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宿場町ルルコアの到着
アリナたちはイフールから転移装置を使い、宿場町ルルコアへ到着した。ルルコアはかつて小さな宿場町だったが、周辺都市を結ぶ重要な交通拠点として発展を遂げ、冒険者ギルドの支局や転移装置が設置されるまでに成長した街である。三角屋根の建物や石畳の道が並び、太い川が街の中心を貫いていた。
広場での観察
早朝のルルコアの広場には、旅装束の人々が行き交い、アリナたちとは対照的に活気があふれていた。初めてルルコアを訪れたジェイドとナーシャは、その可愛らしい町並みに興味を示し、周囲を観察していた。アリナは疲労を感じながらも目的地を急ぎ、広場で馬車を探し始めた。
馬車でフィールアへ出発
アリナは広場に停車していた大型馬車を見つけ、御者に目的地を告げた。居眠りしていた御者を起こし、馬車に乗り込むと、馬がゆっくりと歩き始めた。ルルコアの見学は後回しにし、アリナたちは目的地フィールアへの移動を開始した。
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馬車での移動と疲労の中の会話
アリナたちは馬車に乗り込み、ルルコアを出発した。疲労困憊の状態で座席に横たわり、御者の軽い冗談にも力なく苦笑を返すばかりだった。馬車の揺れに身を任せ、移動の疲れが彼らを襲った。
フェイクの姿の変更
隣に座るフェイクの姿を見て、アリナは偽処刑人のままではまずいと指摘した。フェイクはスキル〈巨神の賢眼〉を発動し、窓の外にいた冒険者の姿を模倣した。新たな姿は栗色の髪を結った凛々しい少女であったが、見ず知らずの他人を勝手にコピーする行為にアリナたちは白い目を向けた。ジェイドが本来の姿を見せない理由を問いただすと、フェイクはまだその時ではないと曖昧に答えた。
フィールア到着とフェイクの別れ
馬車が目的地フィールアに到着し、アリナたちは馬車を降りた。しかし、最後に降りようとしたフェイクは足を止め、再び処刑人の姿に戻っていた。フェイクはフードの奥から微笑みながら、アリナに「シュラウドの本を探す」よう告げた。突然の言葉に戸惑うアリナを残し、フェイクはその場から姿を消した。
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消えたフェイクとアリナの帰郷
馬車の前でフェイクが突然消え、アリナたちは呆然と立ち尽くしていた。ジェイドはフェイクがシュラウドについて何かを知っていることに驚きを隠せなかったが、アリナはとりあえず帰宅を優先することにした。ナーシャの説明によれば、〈巨神の賢眼〉の効果は一時的で、処刑人の姿もいずれ解かれるとのことである。
フィールアへの到着と懐かしい風景
歩みを進めると、草原に放牧された家畜や畑が広がり、次第にアリナの故郷フィールアが見えてきた。開放的で穏やかな雰囲気が漂うその町は、アリナにとって心安らぐ場所であった。アリナは町の中心にある小さな広場へ向かい、『四つ葉亭』という看板を掲げた酒場に足を踏み入れた。
母との再会と家庭の風景
酒場ではアリナの母、イレイザが明るく迎えてくれた。美人で評判の母に、ジェイドは「アリナの彼氏か」と勘違いされる場面もあったが、アリナは否定しつつ二階の部屋を案内した。イレイザによれば、アリナの父は狩人をしており、滅多に家に戻らないが元気に活動しているらしい。ジェイドは狩人という職業に驚きつつも、アリナの戦闘慣れは父譲りではないかと納得していた。
部屋での安息
アリナはジェイドを部屋に案内し、自分も久しぶりの自室に戻った。子供の頃から変わらないその部屋で、懐かしさに浸るとともに、ついに緊張の糸が切れた。ベッドに身を投げ出し、シュラウドの墓参りや旧友との再会を考えながら、アリナは深い眠りについた。
15
酒場の再会とシュラウドの席
アリナが目を覚ますと、日はすでに傾いていた。一階の酒場では、地元の冒険者たちが陽気に酒を飲んでいた。彼らはアリナの帰郷を歓迎し、久しぶりの再会に盛り上がっていた。アリナの視線は、かつてシュラウドが座っていたカウンターの席に吸い寄せられたが、そこには別の客が座っていた。
ジェイドの手伝いと母の勘違い
酒場のカウンターでは、ジェイドが手際よく酒をつくっていた。イレイザはその働きぶりに感心しつつ、ジェイドをアリナの彼氏だと勘違いして楽しそうにからかっていた。ジェイドは冒険者たちにも「白銀さん」として歓迎され、酒場はいつもの夜以上に賑わいを見せていた。
《白銀の剣》の仲間との再会
その賑やかな中、ロウとルルリが冒険者たちとともに現れた。フィールアの冒険者と共に活動していた彼らは、地元でもすっかり馴染んでいた。ロウはシュラウドの失踪に関わる調査のためフィールアを訪れており、アリナたちと再会を果たした。
アリナの弟アシュリーの登場
そのとき、アリナの弟であるアシュリーが酒場に現れた。彼は淡々とアリナに声をかけたが、その存在にジェイドたちは驚愕した。アシュリーの姿を見た彼らは、アリナに弟がいることを初めて知り、声をそろえて驚きをあらわにした。
16
弟アシュリーの登場
ジェイドは、アリナに弟がいることに驚愕していた。黒髪で淡泊な表情の少年アシュリーは、確かにアリナと似た顔立ちをしていたが、性格は正反対であった。アリナの母と同様、顔立ちの整った姉弟であることが印象的であった。
大学生アシュリーとその現実的な性格
アシュリーは大学生で、長期休暇中だった。専攻は賢学で、魔導書を扱う知識を学んでいるという。彼は将来の就職や資格取得について非常に現実的で、安定志向の考え方を持っていた。その淡々とした発言にルルリは驚き、しっかり者であることに感心していた。
ジェイドへの視線とアシュリーの一言
アシュリーは時折ジェイドを意識している様子を見せ、彼の経歴や立場を称賛しつつ、アリナと比較するような発言をした。それがアリナの怒りを買い、弟の頭にげんこつが振り下ろされた。アシュリーは慌てて謝罪し、早々にその場を去った。
17
夜の情報共有
店じまい後、アリナと《白銀の剣》のメンバーはリーティアンでの出来事や偽処刑人に関する情報を共有していた。ロウはフィールアでの調査結果を報告し、シュラウドが地域の冒険者に愛されていたことを伝えた。しかし、【大賢者】としてのシュラウドに関する具体的な情報は得られなかった。
偽処刑人の言葉への疑念
ジェイドは、偽処刑人が語った「シュラウドの本」という言葉を手がかりにするべきか迷っていた。ロウとルルリはルルコアの図書館で手がかりを探すことを提案し、翌日行動することを決めた。
言い出せない真実
アリナはリーティアンでシュラウドに似た男に会ったことを告げようとしたが、途中で言葉を飲み込んだ。彼らを信じていないわけではなかったが、シュラウドの正体に迫る恐怖が言葉を遮った。
宿泊と翌日の準備
ロウとルルリはアリナの提案を受け、四つ葉亭に泊まることとなった。ジェイドは明日の行動を確認し、一同は夜の休息に入ることを決めた。最後にジェイドがアリナに「おやすみ」と声をかけたその言葉が、アリナの胸に静かに響いていた。
18
朝のフィールアでの薪割り
ジェイドは朝早くからフィールアで薪割りをしていた。筋肉を使う仕事に満足感を覚えつつも、ふと気配を感じて振り向くと、寝起きのアシュリーが眠そうに立っていた。井戸水で顔を洗った後、アシュリーはじっとジェイドを観察し始めた。
アシュリーの圧力
アシュリーはジェイドをまるで新種の生物を見るかのように凝視していた。ジェイドはその視線に戸惑いながらも、やがてアシュリーが彼の鍛え上げられた体に注目していることに気づいた。アシュリーはジェイドを褒めるような口調で彼の良いところを列挙しながらも、どこか皮肉を込めて言葉を続けた。
本音の吐露
アシュリーはついに本題を切り出し、ジェイドを「ねーちゃんの彼氏」と認めるつもりはないと宣言した。ジェイドは困惑しながら否定したものの、アシュリーは彼の発言を「まだ」と捉え、激しく非難した。田舎から上京した姉に近づくジェイドを胡散臭いと感じている様子だった。
激しい攻撃と言葉の刃
アシュリーは「胡散臭マッチョ野郎」と罵倒し、ジェイドに激しい言葉を浴びせ続けた。その言葉の鋭さにジェイドは心身共に打ちのめされ、全身を痙攣させながら倒れ込んだ。アシュリーは最後に「ねーちゃんに近づいたら殺す」と吐き捨て、立ち去った。
ジェイドの沈黙と姉弟の共通点
倒れ伏したジェイドは、アシュリーの態度や暴言がアリナに似ていることに気づき、苦笑するしかなかった。彼の行動不能な姿は、アシュリーの強烈な印象を物語っていた。
19
墓参りの決意
アリナは悩み続けた末、シュラウドの墓参りをすることでリーティアンでの出来事を忘れることを決意した。彼の死を受け入れることで、無駄な期待や悩みから解放されようとしていた。墓参りにはジェイドも誘うつもりで、一階に降りて声をかけた。
ジェイドの料理とアシュリーの登場
アリナが一階に降りると、キッチンではジェイドが料理を作っており、イレイザが興奮した様子で彼を褒めていた。その最中、突然アシュリーが現れ、ジェイドを驚かせた。彼は二人の外出を察し、不服そうな表情でアリナとジェイドを交互に見つめた。
ルルコアへの提案とアシュリーの介入
イレイザがルルコアでの買い出しを提案すると、アシュリーはジェイドの代わりに自分が行くと言い出した。彼は「重たい荷物なら男二人で」と理由をつけたが、明らかにアリナとジェイドが二人きりになるのを避けたがっている様子だった。イレイザは二人を引き合わせようと画策したが、アシュリーの言葉に押され計画は失敗に終わった。
墓参りの延期とアリナの迷い
アシュリーの行動と母の誤解に振り回されたアリナは、自室に戻り再びベッドに寝転んだ。墓参りは翌日に延期することにしつつ、ジェイドと一緒に行きたいという気持ちを自覚していた。その理由は、過去にジェイドとシュラウドを共に弔った百年祭の日の記憶が影響していると考えられた。
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ルルコアへの道中
フィールアからルルコアへ向かう道中、ジェイドはアシュリーとともに歩いていた。平和で穏やかな景色とは裏腹に、二人の間には気まずい沈黙が漂っていた。アシュリーからの無言の敵意に、ジェイドはどう接すればいいのかわからず、ただ荷車を押しながら気まずさを堪えていた。
ルルコアでの注目
ルルコアに到着すると、町の人々からの好奇の視線がジェイドに注がれた。名の知れた《白銀の剣》のリーダーである彼の存在は、ルルコアでも広く知られていたからである。その注目がアシュリーの不満をさらに増幅させ、彼の呪詛めいた言葉に新たな要素が追加されていった。
町娘たちとの出会い
ジェイドに気づいた三人の少女が駆け寄り、興奮した様子で握手を求めてきた。彼女たちとの短い交流を終えたジェイドは、アシュリーの殺気立つ視線に再びさらされた。アシュリーは「女の子にモテモテ」と新たな要素を呟き、ジェイドへの不信感を一層強めた。
買い物とジェイドの思案
買い物を進める中で、ジェイドはアシュリーの態度に困惑しながらも、彼の気持ちを理解しようと努めた。大切な姉を守りたいという気持ちが強いアシュリーにとって、ジェイドは「得体の知れない外部の侵入者」と映っているのだと気づいたジェイドは、無理に仲良くしようとするのを諦め、距離を保つ戦略を選んだ。
アリナの頼みへの疑問
一方で、フィールアを出る前にアリナがジェイドに何かを頼もうとしていたことが気にかかっていた。彼女が仕事以外のことでジェイドを頼るのは稀であり、その内容が非常に気になった。しかし、アシュリーのガードが固いため、しばらくはアリナに近づくことさえ難しい状況であった。
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ルルコアでの合流
ジェイドとアシュリーはルルコアからフィールアへの帰り道で、偶然ルルリとロウに出会い、合流していた。ジェイドはアシュリーとの気まずい空気に少々疲れており、仲間たちと一緒になったことでほっとしていた。
ロウの洞察と気まずい空気
道中、ロウはジェイドの様子が普段と異なることに気づき、「何かあったのか」と尋ねた。ジェイドはすぐに否定したが、その反応からロウは何かがあったことを察した。アシュリーはそっぽを向き、ジェイドも詳しく話すことを避けたため、ロウは話題を深追いしなかった。
ルルコアでの買い出し
ルルリが荷車に積まれた食材に目を留め、買い出しの内容を尋ねた。ジェイドはイレイザに頼まれた品々であることを説明した。会話の間にも道は進み、フィールア近くの森へと入った。
アシュリーの寄り道
フィールアが近づいたころ、アシュリーは急に立ち止まり、寄り道をすると告げた。薬草採取の課題を進めるためであり、アシュリーは道脇の植物を調べ始めた。森が自分の庭のように熟知していると言う彼を見送り、ジェイドたちは先にフィールアに向かった。
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剣聖の発見と回想
薄暗い部屋の中、椅子に座る初老の男【剣聖】は、賢魔書の在処をついに突き止めたことに満足げな表情を浮かべていた。その賢魔書は、かつて【剣聖】が殺害した四代目【大賢者】の持ち物であり、死後も感知されぬよう隠されていたものである。
賢魔書への警戒心
【剣聖】は賢魔書を破壊すべき存在として捉え、賢者と魔導書が一心同体である以上、どちらかが残ることを許してはならないと考えていた。大賢者を葬ったものの、そのあっけなさに不安を感じており、賢魔書が生き残り何かを企んでいる可能性に注意を払っていた。
計画の再確認
計画の順調さを自覚しつつも、【大賢者】の残した影響が計画に悪影響を及ぼすことを警戒した。【剣聖】は、その知性と策略を考慮し、頭の悪い兵隊だけでは対処できないことを悟る。大賢者が対策を講じている可能性を前提に、自ら動くべきだとの結論に至った。
決意の行動開始
「たまには私が行こうかね」とつぶやきながら、【剣聖】はゆっくりと立ち上がり、賢魔書の破壊という次なる行動へ向け準備を始めた。
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アシュリーの後悔と葬送花
アシュリーは森で大学の課題用薬草を採取する途中、白い葬送花を見つけた。その花を手にした彼は、シュラウドの死後に姉アリナを傷つけた過去の後悔を思い出していた。幼い頃、葬送花が死者を蘇らせると信じたアシュリーは、姉を励ますためその話をしたが、結果として彼女を深く傷つけ、危険な目に遭わせたことを思い出していた。
不審な男との遭遇
思考から目を覚ましたアシュリーは課題を再開したが、背後に怪しい男が現れた。その男は虚ろな瞳と不自然な動きでまともな人間には見えなかった。男は手のひらに青い炎を生み出し、それをアシュリーに向けて放った。その炎は普通の魔法ではなく、物体を焼くのではなく消し去る奇妙な力を持っていた。
恐怖と冷静な判断
アシュリーは恐怖を抱きつつも逃げることを選んだ。彼は魔導書を使って防犯のための警報音を放ち、《白銀の剣》のリーダーであるジェイドに気づいてもらおうとした。フィールアの冒険者では対応できないと判断した彼は、最強の助けを求めることが生き延びる最善策だと考えた。
ジェイドの救出
アシュリーが警報を発するも、男は彼に迫り、逃げ場を失わせた。絶望的な状況で目を閉じたアシュリーだったが、開いた目の前にはジェイドの大きな背中が立っていた。彼はアシュリーを守り、状況を一変させたのである。
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アシュリーの救出と未知の敵の襲撃
アシュリーの危機とジェイドの到着
アシュリーが腰を抜かしているのを確認し、ジェイドは彼の無事に安堵した。アシュリーを心配して森に戻ったジェイドだったが、予想外の戦闘に巻き込まれる形となった。護身用の長剣のみで敵に向き合いながら、ジェイドは超域スキル〈百眼の獣士〉を発動し、敵の動向を探った。敵は正気を失い、不気味に青い炎を操っていた。この炎はロウの指摘で「禁術の蒼炎」であると判明した。
禁術と掟破りの正体
禁術は闇ギルドにのみ伝わる危険な技術であり、掟を破り持ち出す者を「掟破り」と呼ぶ。ロウによれば、この男は単なる掟破りではなく、魔神復活を目論む「〝あの方〟」の手先と見られるという。男が正気を失っている理由は脳のリミッターを無理やり解除された結果であると推測された。これは身体に大きな負担を強いるが、極端に高い魔力を引き出すことを可能にするものであった。
襲い来る青い炎と複合スキルの応酬
敵の男は巨大な青い炎を生成し、ジェイドたちに向けて放った。この範囲攻撃は回避が困難で、アシュリーは恐怖を露わにした。ジェイドはアシュリーを守るため、ロウのスキル〈永増の愚者〉を利用して蒼炎を増幅し、自らのスキル〈終焉の血塗者〉でその力を集中させた。強大な蒼炎は圧縮され、白く輝く盾「複合スキル〈白炎〉」へと変化した。ジェイドは白盾で濁流のような青い炎を受け止め、攻撃を防いだ。
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ジェイドとロウの連携、そして戦いの終結
青い炎の防御と未知の戦い
アシュリーは、ジェイドが白い盾で敵の青い炎を受け止める姿に驚愕していた。未知の力がぶつかり合う戦場で、ジェイドの盾は青い炎を完全に防ぎ、背後のアシュリーを守った。敵の強大な攻撃も、ジェイドの複合スキル〈白炎〉の圧倒的な防御力によって無力化された。
青い炎の消失と戦場の変貌
敵の青い炎が収束し始めると、ジェイドたちの視界が徐々に開けた。そこには、青い炎によって焼き尽くされ、消し炭となった森の光景が広がっていた。その破壊力にアシュリーは恐怖を覚え、骨も残さず消し飛ばす力の凄まじさに息を飲んだ。
ロウの反撃と敵の崩壊
ジェイドの指示を受けたロウは、白炎を双剣に変え敵に接近した。無駄のない動きで敵の懐に飛び込み、首を狙った攻撃を放とうとしたが、直前で動きを止めた。敵の男は自らの限界を迎えたように力尽き、その場に崩れ落ちた。ロウは男の脈を確認し、わずかに息があることを伝えた。
アシュリーの安全確保とロウの決意
ロウは敵の処理を引き受け、ジェイドにアシュリーの安全な送還を依頼した。ジェイドはロウに頷き、まだ動揺が残るアシュリーを連れてフィールアへと向かった。戦いは終わったが、その余韻がフィールドに漂っていた。
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ジェイドとアシュリーの会話と心情の揺らぎ
怪我の確認とアシュリーの無力感
ジェイドはアシュリーの怪我の有無を確認したが、アシュリーは自分で治癒魔法を使ったことを伝えた。魔導書に記載された魔法は護身用程度のもので、これまでそれで十分だと考えていたアシュリーだったが、自分の無力さを痛感していた。ジェイドに助けられなければ命を落としていた事実に、悔しさを抱いていた。
ジェイドの感謝とアシュリーの嫉妬
ジェイドは、冷静な判断のおかげで間に合ったとアシュリーに感謝を述べた。アリナのことを気遣う言葉に、アシュリーは同じ考えを抱いていたことを認めざるを得なかった。だが同時に、ジェイドの経験と実力に嫉妬心を覚え、内心で複雑な感情を抱いていた。
フィールアの秘密への気づき
ジェイドが事件について口外しないように念を押すと、アシュリーは了承しつつ、自らの推測を語った。フィールアで《白銀の剣》が活動していることに違和感を抱き、何かが起きているのだろうと察していた。しかし、それに深入りするつもりはないと冷静に言い切った。
アシュリーとアリナの共通点
アシュリーの現実的な割り切り方に、ジェイドはアリナと似ていると感想を述べた。アシュリーは動揺しつつもその指摘を否定し、そっぽを向いてしまった。そんな様子から、二人の間にはまだ微妙な距離感が残っていることがうかがえた。
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掟破りの粛清とゼファの静かな怒り
掟破りの無力化とロウの困惑
ロウは無力化した掟破りを前に、情報を引き出す必要を考えていた。しかし、正気を失った相手から有益な情報を得るのは困難であると判断した。深い溜息をつきながら、ロウは森の中に向かって声をかけた。現れたのは、闇ギルドのギルドマスターであるゼファであった。
ゼファの分析と掟破りへの無情な現実
ゼファは掟破りの様子を観察し、ここまで心を壊された人間を回復させるのは現存する禁術でも不可能であると冷静に語った。掟破りをただの捨て駒と見なす〝あの方〟の非情さに対し、ゼファは寂しげな様子を見せた。彼の手によって掟破りの瞼が閉ざされ、彼の顔はわずかに人間らしさを取り戻した。
掟破りの最期とロウの行動
ロウはゼファの指示を受け、蒼炎を使って掟破りを葬った。青い炎は男を一瞬で飲み込み、跡形も残さなかった。その様子を見届けながら、ゼファは掟破りたちの弱さと〝あの方〟の甘言に屈してしまう心の弱さを非難した。
ゼファの静かな怒りと決意
ゼファは焼け焦げた大地を見つめながら、静かな怒りを滲ませた声で〝あの方〟への強い憎しみを口にした。その言葉には、これまで非情な決断を下してきたゼファの深い決意が込められていた。ロウでさえ聞いたことのない、静かだが揺るぎない怒りであった。
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シュラウドと魔導書への思索
シュラウドとの記憶と違和感
アシュリーは眠れない夜を過ごしながら、シュラウドについての記憶を思い返していた。シュラウドがただの冒険者ではないことを幼い頃から薄々感じていたが、その正体を追及するつもりはなかった。彼はアシュリーやアリナに対して平等に接し、特別な存在だったからである。
渡された魔導書とその謎
シュラウドが亡くなる直前、アシュリーに渡したのは古びた魔導書であった。シュラウドが発した「おめーならいずれその使い道がわかる」という言葉にアシュリーは背中を押され、その解読を目指すことを決意した。大学で賢学を履修した理由も、この魔導書を解明するためであった。
魔導書の解読の困難さ
魔導書に記されていたのは、制作者オリジナルの特殊言語であった。解読は通常の賢者では到底不可能であり、特に危険な術や秘密を隠すために用いられるものである。この魔導書が四聖書クラスの貴重品であることを理解したアシュリーは、シュラウドがただの冒険者ではない確信を深めた。
シュラウドの覚悟とアシュリーの疑念
シュラウドが魔導書を託したとき、彼は自らの死を予見していたとアシュリーは考えていた。悲壮感のない背中で去っていった彼の行動は、あまりにも不可解だった。魔導書を解読することでシュラウドの真実がわかると信じていたが、現実は困難を極めていた。
魔導書を抱えた決意
解読の進展が見えないまま、アシュリーはなおもシュラウドの言葉を反芻していた。魔導書が示す未来の可能性を信じ、部屋を出る決意を固めたのである。
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シュラウドの魔導書とアシュリーの決意
深夜の訪問と魔導書の受け渡し
深夜、アシュリーはシュラウドから預かった魔導書を手に、ジェイドの部屋を訪れた。扉を開けたジェイドに、アシュリーは無言で魔導書を差し出した。シュラウドが死の直前に託したこの魔導書には謎が多く、自分では読み解けないと悟ったアシュリーは、その重責をジェイドに引き継ぐ決意を固めた。
シュラウドの影と魔導書の重要性
アシュリーは、シュラウドがただの冒険者ではなかったと信じていた。昼間の襲撃者が魔導書を狙っていた可能性が高いと考え、ジェイドにその危険性を伝えた。ジェイドもまた、シュラウドの正体を調査する目的でフィールアを訪れたと認め、魔導書の重要性を深く理解している様子であった。
アシュリーの覚悟と告白
アシュリーは、自分には力がなく、この件に関わるべきではないと判断した。シュラウドに特別な思い入れがある一方で、自分にとって最も大切なのは姉のアリナと母イレイザだと告白し、家族を守るために魔導書をジェイドに託す決意を示した。
賢さへの執念と過去の悔恨
幼い頃、シュラウドを失ったアリナを救おうとして逆に傷つけてしまった過去を振り返り、アシュリーは誰よりも賢くなり、二度と家族を傷つけないと強く誓った。その決意の表明に対し、ジェイドは「お前ならできる」と力強く応えた。
シュラウドとジェイドの重なり
アシュリーはジェイドの言葉や姿勢にシュラウドの影を見た。それが自分の心を掻き乱す要因であり、姉アリナの心を掴む存在への嫉妬を覚えたのである。
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母との会話とアリナの決意
夜の一人時間と母の優しさ
夜更け、アリナは一人四つ葉亭の一階で考え込んでいた。そこへ母イレイザが現れ、昔からよく作ってくれた野菜スープを差し出した。スープを口に運ぶうち、アリナは涙をこぼし始めた。母はそっと寄り添うように声をかけ、アリナの悲しみに静かに寄り添った。
シュラウドの死と母の告白
アリナはシュラウドの死について母に尋ね、「死んだ人は生き返らない」との言葉に涙を流した。母はシュラウドを失い悲しみに沈むアリナを支えきれなかった悔しさと、冒険者の夢を諦め受付嬢になったアリナへの複雑な思いを語った。その一方で、ジェイドたちと接するアリナの姿が楽しそうで、彼女が再び前を向けていると感じたことを伝えた。
母の言葉とアリナの決意
母の「辛くなったらいつでも帰っておいで」という言葉に、アリナは自分が守りたいものを思い出した。シュラウドの死と向き合い、今を生きる人々を守るために戦う決意を新たにしたアリナは、涙を拭いて自室に戻り、心に希望を抱いて新たな一歩を踏み出した。
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シュラウドの魔導書とアリナの決意
魔導書の謎と議論
翌朝、ジェイドはアシュリーから渡された古めかしい魔導書を仲間たちに見せた。ナーシャは魔導書に強力な力を感じつつも暗号化され内容が読めないと判断し、ルルリもそれがオリジナル言語で書かれたものだと推測した。シュラウドが四代目【大賢者】であれば、この魔導書は機能を失ったただの本だとルルリは説明した。一方で、ジェイドはフェイクがこの本を探せと言った理由について疑問を抱いていた。
アリナの提案
その議論の中で、アリナが突然「行きたい場所がある」と切り出した。彼女が目指すのは、シュラウドが階層ボスに殺されたとされるC級ダンジョン「ファルマの館」だった。過去にルルリとロウが調査したが特に何も見つからなかった場所である。しかし、アリナはどうしても自分の目で確かめたいと主張した。その瞳には強い決意が宿っていた。
シュラウドとの再会の告白
アリナはさらに驚くべき告白をした。リーティアンでシュラウドと再会したというのだ。彼女は最初、別人だと自分に言い聞かせたが、どうしてもそれがシュラウドであると感じた。その真偽を確かめるため、アリナは仲間たちに同行を求めた。その言葉にジェイドたちは目を見合わせ、彼女の要請に即座に応じた。
新たな旅への準備
ジェイドたちはアリナの話を聞きながら、ファルマの館への同行を決意した。これまで彼らがアリナに頼りきりであった中、初めてアリナ自身が助力を求めてきたことで、彼らの心にも一層の決意が芽生えた。アリナの小さな笑顔を見て、ジェイドたちは新たな旅への準備を始めた。
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ファルマの館と剣聖の告白
ダンジョン探索の開始
ジェイドたちはシュラウドが死亡したとされるC級ダンジョン「ファルマの館」を訪れた。このダンジョンはかつて地下階層の存在が知られず、シュラウドはその階層に落下して階層ボスに殺された。館内は長年訪れる者もおらず、埃にまみれ、朽ちた雰囲気を漂わせていた。ジェイドたちは慎重に館内を探索したが、地下階層へ通じる道や異変を見つけることはできなかった。
剣聖の登場
探索を続ける彼らの前に、初老の男が現れた。その男は【剣聖】と呼ばれる四聖の一人で、大陸の歴史を見守り続けてきた重要人物であった。だが、彼は信じがたい事実を告げる。「私が〝あの方〟と呼ばれている者の正体だ」と。【剣聖】の言葉にジェイドたちは驚愕したが、その直後、【剣聖】はさらなる残虐な行動に出た。
掟破りの自害と悪意の顕在
【剣聖】は現れた掟破りの一人に命じ、自害させた。その行為を淡々と実行する彼の姿に、ジェイドたちは背筋が凍るような悪意を感じ取った。【剣聖】は掟破りたちを「軟弱な愚物」と嘲り、彼らを道具としか見ていない冷酷さを露わにした。
魔導書を巡る対立
【剣聖】はジェイドの持つ魔導書を要求した。さらに、自らの正体を明かしたにもかかわらず、世間が自分を告発できない理由を語り、ジェイドたちを圧倒した。その冷静かつ計算された態度に、ジェイドは彼の策略を悟りつつも怒りを抑えられなかった。
戦闘の始まり
【剣聖】はジェイドたちに戦いを挑み、柔和な表情の裏に冷酷な殺意を秘めて嗤った。彼の一挙手一投足には圧倒的な威圧感が宿り、ジェイドたちは緊迫した状況の中で武器を構えるしかなかった。戦いの幕が今まさに切って落とされようとしていた。
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剣聖との対峙と圧倒的な敗北
戦闘開始と剣聖の威圧感
ジェイドたちは【剣聖】との戦闘に突入したが、彼の放つ威圧感と圧倒的な力に動揺を隠せなかった。ロウは禁術の蒼炎を増幅させ〈白炎〉を作り出し攻撃を仕掛けたが、【剣聖】はそれを素手で防ぎ、反撃の蹴りでロウを遠くの壁へ吹き飛ばした。ルルリがすぐに回復スキルで応急処置を施したものの、ロウのダメージは甚大であった。
神域スキルと剣聖の反撃
ジェイドは神域スキル〈巨神の盾〉を発動させ、仲間たちを守るべく身を削る覚悟で全力を尽くした。しかし【剣聖】は、彼の防御を嘲笑うように新たな神域スキル〈巨神の斬剣〉を召喚し、その一撃でジェイドたちを壊滅状態に追い込んだ。剣の衝撃波だけでスキルの効果を停止させ、ルルリやロウも次々と倒れていった。
アリナの反撃と失敗
最後の希望としてアリナが大鎚を振るい〈巨神の破鎚〉を発動させたが、【剣聖】はその攻撃を軽々と回避し、逆に蹴りでアリナを吹き飛ばした。アリナは壁に叩きつけられ意識を失い、ジェイドたちのチームは完全に無力化された。
剣聖の圧倒的な力
戦闘はわずか数十秒で終結し、ジェイドたちは為す術なく敗北を喫した。【剣聖】の力はこれまでに相対してきた魔神とは比較にならず、全てを見下すような冷酷な態度が、彼の圧倒的な強さを際立たせた。ジェイドたちは己の無力さを痛感し、この戦いがただの力の差以上の、絶望的な次元の違いを示していることを悟った。
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ナーシャの恐怖と剣聖の異常性
ジェイドたちの敗北とナーシャの動揺
ナーシャは、一撃で倒されたジェイドたちの姿を見て愕然とした。彼女は最初からこの結果を予感していたものの、目の当たりにした現実に震えが止まらなかった。目を向けた【剣聖】の存在は恐怖そのもので、視線を維持することすらできなかった。
情報体としての感覚と剣聖の異質さ
ナーシャは物理的な肉体を持たず、情報の集合体として世界を感知している。そのため、人や物を認識する際は外見やスキルといった情報を基に構築する。だが、【剣聖】に関する情報量は尋常ではなく、人間の枠を超える異常なものであった。
魔神核を超える情報量
ナーシャの目には、【剣聖】の情報量がどす黒い塊となって映った。それは、魔神核に似た現象であるが、さらに規模が大きい。人間の脳では到底処理しきれない膨大な情報量であり、それが【剣聖】の異質性を示していた。
恐怖に凍り付くナーシャ
ナーシャは、自身の限界を知り、恐怖で身動きが取れなくなった。人間の範疇を超えた存在に対して、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
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魔導書を巡る攻防
【剣聖】の嘲笑と魔導書の強奪
【剣聖】は倒れたジェイドたちを一瞥し、「弱い」と言い放った。その言葉には嘲笑はなく、わずかな落胆がにじんでいた。彼は乱雑にジェイドを転がし、激痛に苦しむジェイドのそばに転がった魔導書を拾い上げた。そして、それを燃やすと宣言した。
魔導書に込められた思い
ジェイドの脳裏にアシュリーの姿が浮かんだ。魔導書はシュラウドからアシュリー、そしてアシュリーからジェイドへと信頼の中で託されたものだった。アシュリーは、自分の非力を認め、ジェイドを信じてこの魔導書を託した。ジェイドは、その思いを踏みにじらせるわけにはいかないと決意した。
癒しの魔法とアシュリーの登場
【剣聖】が魔導書を燃やそうとした瞬間、低い声が響き、「母なる癒やしを解き放て」という呪文とともに魔法光がエントランスを包んだ。傷を癒す薄弱な光はジェイドの痛みをわずかに和らげたものの、動きを取り戻すには至らなかった。だが、その光はアリナの傷を癒やし、意識を取り戻すきっかけとなった可能性があった。
不意に現れた少年の正体
【剣聖】が興味深そうに振り返ると、そこには新たな人影があった。その人物に目をやったジェイドは言葉を失った。そこにいたのは黒髪で藍色の瞳を持つ少年、アシュリーだった。彼は魔導書を手に、毅然と立っていた。
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シュラウドの本と新たな挑戦
フェイクとして現れたアシュリーの姿
アリナが意識を取り戻すと、目の前に弟アシュリーが立っていた。しかし彼は「アシュリーではない」と告げ、自らがフェイクであると名乗った。フェイクは、魔導書「賢魔書」を取り戻すことが目的だと明かし、それが歴代の【大賢者】が受け継いできたものであり、神域スキルが記載されている重要な書物であると説明した。
【剣聖】の分身と挑発
【剣聖】は自分の体が「出張用」の分身で、本体の十分の一の力しか発揮できないと告げた。それでも圧倒的な力を示す彼は、魔導書を取り戻したければ、自分の分身を倒してみせろと挑発した。さらに、「失敗した場合、近隣の町を一つ潰す」と宣言した。その町とはフィールアであり、アリナは住民たちの平和を守るために戦うことを決意した。
アリナの反撃と圧倒的な力の差
アリナは怒りに駆られ、大鎚を手に【剣聖】に迫った。しかし彼女の攻撃は全て空を切り、逆に致命的な隙を見せる形となった。にもかかわらず、【剣聖】はあえて攻撃せず、冷酷にその力不足を指摘し、挑発を続けた。
【剣聖】の衝撃的な告白
戦況を冷ややかに見つめる【剣聖】は、不意にアリナに向けて告げた。「シュラウドは、私が殺した」と。彼の言葉に込められた悪意と冷酷さは、アリナにさらなる衝撃と怒りを与え、戦いの行方に暗い影を落とした。
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シュラウドの死とアリナの激怒
衝撃的な告白とアリナの怒り
【剣聖】は、シュラウドの死因について告白し、彼を自ら殺害したと明かした。これまでのシュラウドとの思い出がアリナの脳裏に浮かび、彼の死に対する侮辱的な言葉がアリナの怒りを頂点に達せさせた。アリナは大鎚を手に取り、激情のまま【剣聖】に襲いかかったが、その攻撃はことごとく空を切り、逆に【剣聖】から致命的な反撃を受ける結果となった。
アリナの限界と絶望的な戦況
何度も立ち上がるアリナだったが、【剣聖】の圧倒的な力により再び地に伏した。彼女のスキル〈巨神の破鎚〉も完全に無効化され、行動不能となったアリナは、シュラウドを侮辱した敵への怒りだけでなく、自身の無力さへの悔しさに苛まれた。
フェイクの奮闘と挫折
その後、フェイクが詠唱による雷撃で反撃を試みたが、【剣聖】には全く通用しなかった。フェイクは反撃の隙を突かれて致命傷を負い、彼もまた倒れる結果となった。圧倒的な力を前に全員が地に伏す中、【剣聖】は勝利を宣言し、次にジェイドたちに手をかけようとする。
アリナの苦悩と絶望
倒れたまま動けないアリナは、自身の怒りにより仲間たちを守る力を失ったことを痛感し、深い絶望に陥った。ジェイドに迫る【剣聖】の剣を止める術はなく、目の前で繰り広げられる光景を見守ることしかできなかった。守りたいという思いと現実の無力さが交錯する中、アリナの心には圧倒的な敗北感と絶望が広がっていた。
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アリナの涙とジェイドの覚醒
アリナの涙がジェイドを動かす
圧倒的な力の差を前に、ジェイドは無力感と悔しさに苛まれていた。だが、倒れたアリナの泣き顔を目にした瞬間、彼の心に変化が訪れた。アリナの悲しみを目の当たりにしたことで、ジェイドは激しい感情に突き動かされ、停止していたはずの体がわずかに動き始めた。
神域スキルの奇跡的な発動
ジェイドは右手で【剣聖】の〈巨神の斬剣〉を掴み、神域スキルの停止効果を一部無効化した。彼の手には〈巨神の盾〉の光が収束し、剣の力を相殺するまでに至った。これを見た【剣聖】は驚嘆しつつも冷笑し、ジェイドの奮闘を「無意味」と嘲笑した。
再び訪れる絶望
ジェイドは〈巨神の盾〉を再び発動させようとしたが、【剣聖】の容赦ない攻撃により阻まれた。右手から流れる血と消え失せる光に、わずかな希望は潰えた。ジェイドの抵抗を無視して【剣聖】は次の標的に移ろうとし、フィールアの壊滅をほのめかした。
新たな声の登場
ジェイドの絶望的な叫びがエントランスに響く中、静かな一言が彼の声を遮った。その声は確固たる意志を秘めており、緊迫した空気の中で新たな展開を予感させるものだった。
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シュラウドの復活とフェイクの覚悟
フェイクによる賢魔書の奪還
倒れたかに見えたフェイクが、突如立ち上がり、【剣聖】に対峙した。手には奪われたはずの賢魔書が握られていた。フェイクは冷静な態度で、油断を誘った隙に賢魔書を奪い返したと語った。【剣聖】は一瞬驚きを見せたものの、余裕のある表情を崩さずフェイクの動きを見守った。
賢魔書の力を解放
フェイクは賢魔書を光らせ、歴代【大賢者】のみに許されるはずの力を解放した。彼の詠唱に応じるかのように賢魔書が展開し、白い文字が空間を埋め尽くした。それらの文字は渦を巻きながらフェイクに集まり、彼の姿を変化させていった。
シュラウドの姿への変化
白い光と文字に包まれたフェイクは、次第にその姿を変えていき、やがてシュラウドの姿を現した。ひょろりとした体、無精髭、無骨な装備。見た目には頼りなさそうな男だったが、その姿はアリナにとって懐かしく、心の底から信頼していたシュラウドそのものだった。
シュラウドの挑発
シュラウドは【剣聖】を鋭く睨みつけ、「てめぇの思い通りにはいかない」と宣言した。その声には迷いがなく、長い間失われていた希望の光が、再びこの場に差し込んだ瞬間であった。
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シュラウドの復活とアリナの覚醒
賢魔書の力での復活
シュラウドの詠唱により賢魔書が力を発揮し、癒しの風が吹き抜けた。その風によってアリナとジェイドの傷が癒され、動きを封じられていた体にも力が戻った。驚きと疑念の中、シュラウドは「説明は後だ」と告げ、【剣聖】の分身を相手に再び戦う意志を示した。
賢魔書の力を用いた反撃
シュラウドは賢魔書を用い、神域スキル〈巨神の滅鎌〉を解き放ち、その一撃で【剣聖】の分身を真っ二つにした。だが、【剣聖】はすぐに新たな分身を生成し反撃を開始した。分身の攻撃をものともせず、シュラウドは「本物を狙え」と指摘し、空中で待機していたアリナの反撃を促した。
アリナの覚醒と反撃
アリナはシュラウドの指示を受け、スキル〈全てを討ち滅ぼす者〉を発動。輝く大鎚を手にし、【剣聖】の分身を次々と破壊した。攻撃のたびに目の前の状況が望む通りに展開される中、アリナは絶対的な集中力で戦況を支配した。
決定的な一撃
アリナの渾身の一撃により、【剣聖】の分身は完全に粉砕された。黄金の稲妻が【剣聖】の体を打ち砕き、すべてが終わったかに見えた。だが、集中が途切れた瞬間、アリナの支配は消え去り、再び現実が彼女の前に戻ってきた。
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薄暗い部屋での【剣聖】の一幕
黄金の稲妻の衝撃
薄暗い部屋の中、突如響いた激しい衝撃音が静寂を破った。【剣聖】の本体の右腕に黄金の稲妻が走り抜け、肩から先が爆ぜ飛んだ。この現象は、分身を通じてアリナの大鎚の一撃が本体にまで影響を及ぼした結果であった。
【剣聖】の冷静な反応
自らの右腕が消失した状況にもかかわらず、【剣聖】は驚きよりも冷静な分析を優先した。分身の破壊を引き金にしたこの事象に対し、「全てを討ち滅ぼす者」の力に感心しながらも、「軽い」と断じた。そして、失われた右腕は瞬く間に元通りになり、何事もなかったかのような様子を見せた。
計画の狂いと【剣聖】の退出
【剣聖】は自らの計画が大賢者の復活によりわずかに狂わされたことを認識していた。しかし、その混乱をも楽しむかのように微笑むと、「今回は負けということにしてやろう」とつぶやき、部屋を後にした。その背中からは余裕と冷酷さが漂っていた。
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再会の喜びと困惑
無音の終わりと安堵
アリナが我に返ったとき、無音の世界は終わりを迎えていた。ジェイドが心配そうに声をかけ、アリナは彼を見つめながら自身の無事を確認した。周囲を見回すと、ルルリやロウも治癒され、大きな怪我は見受けられなかった。シュラウドによる治癒が全員に行き届いていたのである。
シュラウドへの疑念
アリナの視線は自然とシュラウドに向かった。彼の姿はまぎれもなく、記憶の中のシュラウドその人であった。アリナはその事実を信じられず、言葉を詰まらせた。シュラウドは気まずそうに目をそらしながら、自らが完全な人間ではないと告げた。その発言に、アリナは混乱しながらも感情を爆発させ、拳を振り上げるが、結局力を失い、震える手を彼の胸に当てるだけだった。
感情のあふれと再会の喜び
「説明してよ……っ」とアリナが震える声で問い詰めると、シュラウドは優しく彼女の頭に手を置き、「悲しい思いをさせた」と謝罪した。その言葉にアリナは涙を抑えきれず、彼に抱きついて子供のように泣きじゃくった。嬉しさと安堵、そして再会の喜びがアリナの心を満たしていた。
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シュラウドの秘密と未来への展望
シュラウドの告白
アリナが落ち着きを取り戻したのを見て、ジェイドはシュラウドに問いかけた。シュラウドは自らの状況を説明し、【剣聖】との戦いに敗れた後、自身の魂と肉体を賢魔書に記録し、長い年月を経て再構築された存在であることを明かした。彼の言葉にジェイドやルルリは驚愕し、これが理論的には可能であると認識したものの、現実に起こり得たことに戸惑いを隠せなかった。
アリナとの再会と感情の交錯
シュラウドが自分の前に再び現れたことに、アリナは混乱と喜びを抱えていた。彼の優しい言葉に、アリナは心の中に秘めていた感情を爆発させ、泣きながら彼に抱きついた。一方で、シュラウドはアリナに戦わせたくなかったという過去の思いを吐露し、それが彼の行動原理だったことを告げた。だが、アリナが成長して強さを見せたことに彼は感謝し、頭を撫でてその努力を労った。
別れの決意と未来への指針
シュラウドは【剣聖】の脅威を警戒し、アリナたちと別れる決意を固めた。彼は再び【大賢者】に戻るつもりはなく、仲間たちのもとを去ることを選んだ。その際、シュラウドはジェイドに四聖の残りである【聖母】と【守護者】に助けを求めるよう助言し、【剣聖】の目的が大陸全土の破壊であることを明かした。この言葉にジェイドたちは戦慄しつつも、次に進むための新たな目標を見出した。
アリナの迷いと背中を押す仲間
シュラウドが立ち去ろうとする中、アリナは彼の背中をじっと見つめていた。ジェイドは彼女の気持ちを察し、今のうちに話すべきことを話しておくべきだと諭した。渋々ながらも、アリナはシュラウドの背中を追いかけて行き、互いの思いを交わすための一歩を踏み出したのである。
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シュラウドとの再会と約束の再確認
別れの前の言葉
アリナはファルマの館を去ろうとするシュラウドを引き止めた。再会したばかりの彼が平然とした態度をとることに憤りを感じ、無責任だと責めた。涙をこらえつつアリナが心情をぶつけると、シュラウドは「悪ぃな」と短く謝罪した。その後、彼はジェイドを恋人と勘違いし、大鎚で殴られる場面もあったが、終始どこか飄々としていた。
アリナへの評価と感謝
シュラウドはアリナの戦いぶりを称賛し、彼女が自身の想像以上に強く成長していたことを認めた。幼い頃からアリナを戦わせたくなかったシュラウドは、彼女の冒険者としての活躍を見守りながらも複雑な感情を抱いていた。しかし、彼女が強くなった今、その成長を素直に喜び、感謝を述べた。
アリナの成長と覚悟
アリナはシュラウドとの再会に感動しつつも、自分が彼に依存することなく成長したことを実感していた。かつては彼の存在が全てだったが、今ではジェイドたちと共に築いた新たな居場所が心の支えとなっていた。そのため、シュラウドが去ることに対しても冷静に受け入れ、自分の中の変化を自覚していた。
約束の再確認
別れ際、アリナはシュラウドとの過去の約束を思い出し、再確認した。彼女は「今回の件はパーティーを組んだうちに入らない」と述べ、いつか本当に共に戦う日を楽しみにしていると伝えた。シュラウドもその言葉を真摯に受け止め、「約束は守る」と答えた後、軽く手を振り、静かに館を去った。
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四つ葉亭での夕食とアシュリーの助け
夕食の準備と帰宅
アリナたちは長期休暇最後の夜、四つ葉亭に戻り、母イレイザの手作り夕飯を囲んだ。ファルマの館から帰宅した際には陽が傾き始めており、イレイザは明日には帰るアリナのために夕飯を準備して待っていた。だが、ボロボロの姿で帰宅したアリナたちを見て、彼女は驚き、薬屋へ駆け込み店主を叩き起こして治療薬を用意した。
馬車の暴走と母の疑問
イレイザは「馬車が暴走してひっくり返った」という説明に驚きつつも、怪我がなかったことに安堵していた。ただし、どこへ行っていたのか尋ねられると、アリナは答えに窮してしまった。母はアリナたちがルルコアで遊んでいたのだろうと思っていた。
アシュリーの助け舟
アリナが言い訳に困ると、アシュリーが助け舟を出した。「隣の村のベベルに行っていた」と説明し、近道の荒れた道で馬車がよく転ぶことを理由に挙げた。その言葉を聞いたイレイザは納得し、話題を終わらせた。
アシュリーの察知
アリナはアシュリーの助けに感謝し、こっそり親指を立てたが、彼はどこか不服そうにそっぽを向いた。だが、賢魔書をジェイドに渡したり、今回の言い訳に協力したりする様子から、彼が何かを察しているのではないかと思われた。
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秘密の外出の計画
片付けを終えたジェイドへの呼びかけ
アリナは夕食後、片付けを終えたジェイドを見つけた。彼女はこの時を待ちわびていたかのように、周囲を警戒しながら声をかけた。「ちょっと一緒に来てほしいところがあるんだけど」と言ったが、ジェイドの返事が予想以上に大きかったため、アリナは慌ててジェイドの口を塞いだ。
母への警戒と外出の準備
アリナは周囲を再び確認し、厨房に誰もいないことを確認すると、「母さんにバレたら面倒だから」と低い声でジェイドを説得した。そして、警戒心を崩さぬままジェイドの腕を引っ張り、二人で四つ葉亭の外へと向かった。
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夜更けの墓参り
アリナとジェイドの夜の外出
アリナはジェイドを連れてフィールアの町外れへと向かった。辺りは街灯もなく真っ暗であったが、アリナは「すぐ終わるから」と言い、黙々と歩を進めた。一方でジェイドは、シュラウドと話していた時のアリナの表情を思い出し、胸を痛めていた。
アシュリーとの偶然の出会い
道中、アリナとジェイドはアシュリーと遭遇した。アシュリーは二人を敵視するような態度を見せながらも、「いってらっしゃい」と外出を許した。その後、弟特有の素直ではない暴言を吐き捨てて立ち去るアシュリーに、アリナは「素直じゃない」と軽く流し、再び歩き出した。
シュラウドの墓参り
アリナとジェイドが辿り着いたのは、町外れにある共同墓地であった。アリナはシュラウド・ラウグーンの名前が刻まれた墓石の前に白い花を供え、「これが最後の墓参り」と述べた。シュラウドが生き返ったことで、アリナは墓参りを「けじめ」として捉え、彼との過去に一区切りをつけようとしていた。
帰路につく二人
アリナは満足げな表情を浮かべ、「明日からまた仕事」と述べつつ、ジェイドと共に四つ葉亭に戻った。ジェイドもアリナの決意を静かに受け止め、二人の関係に新たな理解を得た様子であった。
終
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