小説「准教授・高槻彰良の推察 10 帰る家は何処に」感想・ネタバレ

小説「准教授・高槻彰良の推察 10 帰る家は何処に」感想・ネタバレ

どんな本?

怪異は、現象と解釈によって成り立つ

高槻は、子供の頃に神隠しに遭った事があり。
1ヶ月行方不明になっていた。
発見された時は、靴を履いていなかったが靴下は汚れておらず。
背中に翼をもぎ取られたような傷跡がある。
そして、母親は天狗の子として高槻を神格化して祀ってしまい、それを否定したら母親は高槻を認識しなくなってしまった。

一時期海外の親戚で過ごし。
帰国してからは家族とは疎遠となり。
一人暮らしを始めた。
現在、幼馴染のケンちゃん(警視庁捜査一課勤務)とは親交があり。
海外の親戚ともそこそこ連絡をとっている。

助手の深町は子供の頃、熱を出して祖母の家の近くの夏祭りに行けなかったが。
真夜中に祭りが開催されてると思い、祭りに行ったら亡者の祭りだったらしく。
昨年亡くなった祖父の導きで助かったが、耳が他人の嘘を見破る能力を手に入れてしまい。
孤独になってしまった。
嘘を見抜ける能力のせいで、家族とは疎遠になっており。
大学進学を機に一人暮らしを始めた。

そんな2人が、高槻のホームページに送られてくる怪奇な相談に対応する。
今巻は人からの紹介だったな、、

読んだ本のタイトル

准教授・高槻彰良の推察  10 帰る家は何処に
著者:澤村御影 氏
イラスト:鈴木次郎 氏

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あらすじ・内容

大事なものを、この世界で見つけたい。凸凹コンビの民俗学ミステリ10弾!

青和大学の夏休み。
他の学生たちが就活関連で慌ただしそうにする中、
尚哉は遠山の事務所でバイトをすることになる。
そんな折、高槻のもとをフリーライターの飯沼が訪れた。
行方不明の男子高校生が遺体で発見された事件について、話があるという。
猟奇的なその事件は、高槻の過去の因縁につながりがありそうで……。
他、都市伝説「ひきこさん」と事故物件の物語に、掌編2編も収録。
高槻の過去に迫る民俗学ミステリ第10弾!

准教授・高槻彰良の推察10 帰る家は何処に

感想

大学生の深町尚哉と准教授である高槻彰良が中心となり、謎の事件や怪異に挑む物語である。
今巻は二つの大きな事件を軸に展開される。

最初の事件「ミナシの家」では、一家心中があったと噂される家が舞台となる。
学生たちがその家で奇妙な体験をし、その中の一人が幽霊を見たと高槻に相談に来る。

高槻と尚哉はこの怪異の真相を探るため、「ミナシの家」に足を運ぶ。
調査の結果、幽霊の正体は過去にその地域に住んでいた陽子さんの思い出であることが明らかになる。

陽子さんはDV被害に遭っていたが、後に新しい生活を始めており、幽霊とは学生が持っていた罪悪感の現れだったのだ。
この発見により、依頼者は過去の重荷から解放される。

次の事件「消えた少年」では、半年前に行方不明になった少年・相原塔矢の謎が中心となる。

彼の背中の皮が剥がされた状態で遺体が発見され、この事件は高槻の過去とも関連していると考えられ。
高槻と尚哉は事件の背後にある真実を突き止めようとするが、それには驚くべき秘密が隠されていた。

塔矢は男性ではなく女性の心を持ち、家族に秘密で女装をして夜の街を歩く事を趣味としており、それが彼の失踪につながったのではないかという推測が立てられた。

高槻はこの事件を解決するために画家の榊春郎を訪ねるが、榊は塔矢を殺害し、その皮を自身のアート作品に利用していた犯人だった。
事件は榊の逮捕と高槻の無事な救出で幕を閉じる。

この物語は、怪異や事件の解決に焦点を当てているが、今巻は人間の心理や罪悪感、そして高槻の過去との向き合い方に深く切り込んでいった。

尚哉と高槻の関係性の変化や成長も描かれており、多くの思索を促してくれた。
さらに、過去のエピソードや人物たちの背景が詳細に描写され、物語に厚みを加えていた。

物語の終わりには、高槻が彼自身の過去と向き合う決意を新たにし、尚哉が進路を決める重要な一歩を踏み出した。

彼らの未来に対する期待と不安が交錯する中で、二人は今後も共に歩んでいくことを誓う。

そして、「帰る家は何処に」というタイトルが示すように、彼らはそれぞれの「家」を求め続けてもいた。

巻末のextraは、息子を認識出来ない高槻の母の話で、高槻の父が刺された事件の詳細がここで明らかになった。
冒頭では彼女と父との出会いが書かれており。
そして、息子の彰良が産まれ。
幸せになるかと思ったら彰良が失踪。
彼が天狗に攫われ、一度戻って来たが、再び天狗の処に行ったと思っている。

もう一つのextraは、ゴシップ記者の飯沼が塔矢との出会いを振り返り。
彼を夜の街から家に連れ帰る帰り道に話した雑談を思い出していたら。
塔矢の幽霊と出会い、家路へと向かい道中会話する。

最後は、塔矢の気配を感じて外に出て来た妹が出て来て。
彼女に視線を向けた瞬間、塔矢は消え。

妹に、塔矢の形見を渡したら、泣けなかった妹はやっと泣けるようになり。
彼女も兄、塔矢を亡くした気持ちに一区切り付いた形となった。

なんとも切ない話だったな、、

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

第一章  ミナシの家

深町尚哉は誕生日に、高槻彰良と佐々倉健司によるサプライズパーティーを開かれる。

去年から計画されていたこのイベントでは、彼らは尚哉を祝うために食事とケーキを用意していた。

高槻の家での祝いは尚哉にとって特別な意味を持ち、彼は周囲の人々に気にかけられていることに感謝し、幸せを感じる。

また、尚哉は異界の食べ物を食べた経験と、その体に及ぼす影響について考えを巡らせ、特に異界に長期間滞在した高槻の体に影響があるのではないかと懸念する。

しかし、これらの考えはあくまで推測に過ぎず、彼は不安に駆られながらも、現在を大切にする心を持つ。

佐々倉の抗議後、異捜からの接触がなくなり、尚哉は忙しい日々を送っていた。

ゼミでは『幽霊トンネルの噂』に関するグループ発表を行った。
発表は高槻から概ね好評を得たが、調べ方の甘さを指摘される場面もあった。

梅雨の時期に入り、雨が多くなる中で、尚哉はインターンの話題で友人と話していた。

ある日、江藤が持ってきた『耳囊』という本で、難波や他の学生たちと楽しんでいたが、高槻にその様子を見られてしまう。

同じゼ授業を受けている白岡たちが『ひきこさん』について発表し、その話の成立や特徴、類似怪異について語った。

発表はある程度評価されたが、独自性に欠けると指摘される。
高槻は論文としての展開や分析の重要性を強調し、『ひきこさん』の話が持つ新しさについて語った。難波と尚哉は、ひきこさんが幽霊ではなく「ヤバい人」として描かれている点に着目し、現代のホラー傾向とその社会的背景について考察した。
福本はひきこさんが伝統的な女性怪異の系譜に属するとしつつ、高槻は母性と恐怖の関連や雨の日に怪異が起こるというモチーフに言及した。

ゼミ終了後、尚哉は雨の中、高槻からの呼び出しで研究室に向かった。
研究室では、高槻が以前の依頼者からの紹介で新たな怪異相談を受けていた。

依頼内容は、“ミナシの家”として知られる貸家で友人たちと過ごした際、不可解な体験をした依頼者が、雨の日に幽霊を見るようになったというものだった。

“ミナシの家”は事故物件であり、一時期ネットで話題になったが、心霊スポットとしての人気は短命だった。
尚哉と高槻は、この家とそこでの体験に興味を持つ。

その後、尚哉はインターンシップの申し込みをせず、夏休みには遠山宏孝の建築設計事務所でバイトする予定であることを高槻に話した。

ゼミでのグループ発表の経験や難波との関係を通じて、尚哉は他人との関わり方が変わり、今後の学生生活や進路について前向きに考えている。高槻と尚哉は、ゼミ合宿に向けて期待を膨らませている。

依頼人である園部秀一との面会がその週の土曜日に決定された。
場所は園部が通う大学近くのコーヒーショップで、梅雨入り宣言された関東での弱い雨の中、高槻と尚哉は約束の場所へ向かった。

店内で志穂と合流し、彼女から園部を紹介された。園部は最近幽霊に悩まされていると話し、志穂が高槻を紹介した経緯を語った。
志穂はその後、旅館の現状と自分の変化について話し、去っていった。

園部の語る体験は、友人たちと「ミナシの家」と呼ばれる事故物件に泊まり、不可解な現象に遭遇したものだった。

その夜、庭に佇む血まみれの女性の幽霊を目撃し、以降雨の日になると彼女が現れるという。

この話から、その幽霊が一家心中の際に殺された母親である可能性が浮上した。
尚哉は、園部の話に噓はないと感じた。

高槻は興味を持ち、事故物件に泊まることを提案するが、その態度は園部にとっては驚きのものだった。

園部の親戚から宿泊許可を取り付けた後、高槻は気軽に「お泊まり会」と表現し、尚哉からの苦言を受ける。園部は渋々ながらも再び「ミナシの家」へ行くことを受け入れるが、自身以外の友人の体験も聞きたいと高槻が提案する。

その結果、一人の友人がコーヒーショップに訪れ、幽霊を目撃した夜のことを話すが、自身にはその後特に何も起きていないと語る。

高槻たちはその後、園部の親戚を訪ね、事故物件の経緯や幽霊の噂について話を聞く。

親戚は幽霊など見ていないし信じてもいないことが明らかになる。
園部は小学生の頃に一時的にその家に住んでいたことを明かすが、その時も何も起きなかったと述べる。

最後に、高槻の興味深い提案にもかかわらず、園部の親戚は家に幽霊が出ることを否定し、家自体に特別な曰くはないと強調する。

園部、高槻、尚哉は、園部の伯母から鍵を借りて「ミナシの家」に入る。

家の中には異様な空虚感が漂い、それが園部にとって特別な意味を持つ。
彼らは家を探索し、園部は過去にこの家でのある出来事を思い出す。

園部は小学生の頃、この家の近くに住んでいた陽子さんという女性を知っていた。
陽子さんは園部に優しくし、お菓子を作ってくれたが、DVの被害に遭っていた。

ある日、園部は陽子さんが夫に暴行されているのを目撃するが、助けることができずに逃げてしまう。
その後、陽子さんは姿を消し、園部は彼女のことを忘れようとする。

しかし、友人たちとこの家に来た時、庭に立つ陽子さんの幽霊を見たと感じ、過去の記憶が蘇る。
園部は陽子さんが自分を恨んでいると思い込む。

高槻は、この家にまつわる怪談の中に陽子さんの話は存在しないと指摘し、園部の見たものが本当に陽子さんの幽霊なのか疑問を呈する。

夜が更け、彼らはコンビニへ行くが、園部は陽子さんの幽霊を見続ける。
高槻と尚哉は、園部が自分の罪悪感から陽子さんの幽霊を見ていると考える。

庭を見た時、彼らは外に人影を見つけるが、それはただの近所の男性だった。
園部は過去に自分ができなかった陽子さんの助けを求める声に今でも耳を塞いでいると気づく。

隣家に住む男性は、園部たちが「ミナシの家」で何をしているのかを心配し、様子を見に来た。

以前にも、園部たちが庭に見たという黒い影は、実はこの男性であった。
男性は園部の伯母からの許可を得ていると知り、問題ないとして去ろうとする。

高槻は男性に、以前この地域に住んでいた初瀬陽子さんについて尋ねる。
当初は覚えていない様子の男性だったが、思い出し、陽子さんが現在岡山で生活していること、年賀状の交換が続いていることを明かす。

陽子さんは夫からのDVを受けていたが、離婚し、新しい生活を始めていた。
この事実を知った園部は安堵の涙を流し、陽子さんが無事であることに感謝する。

隣家の男性も園部の涙に動揺し、彼を慰める。園部はこの出来事を通じて、過去の重荷から解放される経験をする。

園部から高槻へのメールが届き、雨が降ってももはや幽霊を見なくなったことが伝えられた。

これに対し、高槻は園部が見ていたのは彼の思い込みであったと推測した。
園部は陽子さんに関する罪悪感と後悔をずっと抱え、それが幽霊を見る原因になっていたが、陽子さんが元気に生活していることを知り、安堵の涙を流した。

園部の幽霊の正体が彼の意識の中にあるものであり、実際には存在しなかったことが明らかになる。

高槻と尚哉はこの件を通して、幽霊や心の影響について考察し、園部が幽霊を見なくなったことを喜ぶ。

しかし、高槻はもし本物の幽霊が存在していたら面白かったと少し残念がるが、尚哉によってその考えが不謹慎だと指摘される。

この一連の出来事を通じて、園部は過去の重荷から解放された。

第二章  消えた少年

梅雨が明け、夏の到来を感じさせる中、学生たちは夏休み前の忙しさに追われている。

特に、春学期の試験前にはレポート提出が重なり、多くの学生が厳しいスケジュールに苦労している。

尚哉は高槻の講義を三つ受講しており、その中の一つである『現代民俗学講座 Ⅱ』では「怪異の起こる時間帯」というテーマが扱われている。

高槻は現代の怪談が特定の時刻に紐付けられることや、古来からの怪異が時代に合わせてアップデートされていくことなどを説明する。

また、夜中の十二時や丑三つ時が怪異の時間帯として語られる理由や、黄昏時に発生しやすいとされる「神隠し」についても言及している。

教室での議論は夏休み前のレポート課題の発表によって締めくくられ、学生たちはこれからのレポート作成に向けて苦悩の表情を浮かべる。

この講義では、古来の信仰や民話がどのように現代に引き継がれ、変化していったかが明らかにされている。

夏休みに入ると、尚哉にはいくつかのイベントが控えていた。

最初は百物語の会で、今年の主催者は町村唯だった。
この会では、参加学生たちが怪談を共有し、高槻の講義を通じて現代の怪談を収集することが目的だった。

事件やトラブルはなく、参加者は怪談を楽しんで終了した。

その後、尚哉は遠山の建築設計事務所で短期バイトを始めた。

これは尚哉にとってオフィスワークの初経験であり、少し緊張していた。
遠山の事務所は大田区に位置し、モダンな内装のオフィスで、尚哉は主に事務作業を担当した。バイト初日、尚哉は遠山の事務所スタッフとして歓迎され、CAD(コンピューターを利用した設計)の基本から学び始めることになった。

竹井うららという女性スタッフが尚哉の指導を担当し、初めはややつっけんどんな印象だったが、次第に親切に尚哉をサポートしてくれるようになった。

この経験を通じて、尚哉は新しいことに挑戦することの重要性を学び、遠山の事務所で有意義な時間を過ごした。

遠山の建築設計事務所では、個人宅や集合住宅、店舗などの設計を手掛けている。
依頼は主に事務所のサイトを通じて受け、打ち合わせの設定や、必要に応じて過去の建築物の見学も行っている。

尚哉の仕事は、来客対応や資料準備、コーヒー提供などである。
初回の打ち合わせは無料のため、具体的な依頼意図のない来客もいるが、遠山はそのような客にも慣れており、尚哉はその対応を学ぶ。

事務所では他にも、コピー作業やデータ入力の手伝いも尚哉の仕事に含まれており、コピー機の紙詰まりやトナー交換などのトラブル対応にも挑戦する。
尚哉はトラブルに遭遇するも、竹井から適切なサポートを受け、事務所内での様々な作業をこなしていく。

遠山の建築設計事務所でのバイトを始めてから初めての休みの日、尚哉は大学へ向かった。

夏休みのキャンパスは閑散としており、映画制作をしているサークルの活動が目についた。

生協での買い物後、高槻からの連絡を受けて研究室を訪れた。

そこでは、以前尚哉たちとトラブルになったフリージャーナリストの飯沼が現れ、最近の殺人事件について高槻に情報を求めた。

飯沼は被害者の相原塔矢と個人的に面識があり、事件に強い関心を持っていた。

塔矢から預かっていたという謎のカードと鍵を見せ、その秘密を知りたがっていたが、高槻には関連する情報がなかった。

飯沼は塔矢との関係や事件に対する個人的な感情を語った後、何も得られずに去っていった。

高槻は事件に興味を示しながらも、自分との関連を否定したが、尚哉は彼の気になる様子を察して、事件の調査に協力することを申し出た。

翌日、高槻と尚哉は相原塔矢の失踪事件について調査するため、彼の家の近くに行くことにした。

そこで、彼らは塔矢の妹、雫に出会い、塔矢のスケッチブックを見せられる。
スケッチブックの最後のページには、塔矢の繊細な人物画があり、雫はこれが塔矢の好きな人によって描かれたものだと考えていた。

一方、異捜の刑事である林原は、塔矢が失踪してから半月後に一度だけ家族に連絡したこと、そして彼の遺体が発見された時の背中の皮が広範囲にわたって剝がされていたことなど、事件に関する情報を共有する。

塔矢が消えた際の家の窓は閉まっており、彼の部屋からの脱出方法についても謎は深まる。

帰り際に高槻は、もう一箇所調査したいと尚哉に依頼する。

高槻と尚哉は世田谷区にある高槻家を訪れた。高槻は過去に起こった自分の「神隠し」事件について、現代では「ただの失踪」と考えていることを尚哉に語った。

しかし、高槻の母親は彼が「天狗にさらわれた」と信じ、その説明に安心を見出していた。

高槻家の前で二人は高槻の母親、清花と偶然再会する。清花は高槻を認識せず、彼らを家に招き入れた。

雨が降り始め、尚哉は高槻を急いでその場から連れ去った。翌日、彼らは美術展に行き、榊春郎という画家の絵に塔矢との関連性を感じた。

高槻は榊に会うことを決意し、尚哉はその決断に戸惑いながらも同意する。

尚哉は遠山の事務所で働き始め、昼休憩に遠山と共に外でホットドッグを食べながら、職場の印象や仕事の感想を話し合う。

遠山は尚哉に正社員のオファーをし、尚哉は将来について悩みつつも大学院への進学と遠山の事務所での勤務を望む。

遠山は尚哉の決断を支持し、社会人としてのアドバイスを与える。

また、尚哉は遠山に対して異界に行った経験が年を取る速度に影響を与えるかどうかを尋ねるが、その懸念は現時点では根拠のないものとして片付けられる。

尚哉はバイトが終わった後、大学に向かい、高槻の研究室で待つことにする。

そこで瑠衣子に会い、彼女から研究室の鍵を預かる。高槻からのメールで、榊の家に行くと知らされるが、高槻はまだ戻っていない。

その間、尚哉は泉鏡花の『龍潭譚』を読み、その内容を思索する。

後に飯沼が現れ、相原塔矢の秘密、つまり彼が女装の趣味を持っていたことを尚哉に明かす。

飯沼はそれを家族には明かさず、自分で管理すると言い、塔矢が女性の服を着て自由を求めていたことを示唆する。

尚哉はその話に心を痛めながらも、高槻からの返信を待つ。

夜が更けるにつれて、高槻からの連絡はなく、電話も通じない。尚哉は不安を感じつつも、高槻が無事であることを願う。

夜十一時を過ぎ、尚哉は高槻に再度電話をかけるがつながらない。

そのため、佐々倉に連絡を取り、高槻が榊春郎に会いに行ったことと連絡が取れなくなった事情を伝える。

佐々倉は最初は話が理解できなかったが、尚哉の説明を聞き、捜査本部で情報を確認する。

その結果、高槻のスマホの最後の位置情報が榊の自宅であることが判明する。

佐々倉は榊の家に質問しに行くが、尚哉の同行を拒む。

尚哉は佐々倉を説得しようとし、必要であれば林原や山路に連絡すると迫る。

最終的に佐々倉は尚哉の言葉に動かされ、尚哉が現在どこにいるのか尋ねる。

尚哉は高槻との連絡が取れなくなり、大学の正門前に座り込んでいたところを、佐々倉と林原に迎えられる。

林原が運転する車で、彼らは榊の自宅兼アトリエへ向かう。佐々倉は尚哉に対して、榊が嘘をついているかどうかを耳を押さえる仕草で知らせるよう命じる。

榊の家までの車内では、林原と佐々倉が捜査状況について話し合い、尚哉は心配しつつも彼らの支援に感謝する。

尚哉は深夜、榊の家に到着するまでの間、高槻の安全を祈りながらも、祈りが必ずしも叶うわけではないという現実を思い知る。

神奈川県の葉山にある榊の自宅兼アトリエでは、深夜に尚哉、佐々倉、林原が到着し、朝まで待機した。

朝になり、榊の家を訪問し、高槻准教授の安否を尋ねるが、榊は当初高槻の訪問を否定する。

しかし、尚哉の行動から榊が嘘をついていることが明らかになり、家の中に入ると、高槻が倒れているのを発見する。

高槻は意識不明の状態だが、生きていた。

佐々倉と林原は榊を拘束し、彼が以前にも人を殺していたことを明かす。

榊は「愛」のために塔矢を殺害し、その皮を刺青のキャンバスとして使用していたことを認める。

さらに、高槎が榊にかつて会ったことがあるか尋ねるが、榊は否定する。

最終的に榊は警察に連行され、高槻は救急車で病院に運ばれる。部屋の隅で、塔矢と思われる少年が繰り返し謝っていた。

救急車で大きな病院に運ばれた高槻は、検査の結果、重大な異常はなく、一日入院した後は退院できる見込みであった。

尚哉は病室で高槻の様子を見守る。

榊は逮捕され、塔矢と同じく家出少年だった別の少年も保護された。一方、高槻が意識を取り戻した時、彼の瞳には『もう一人の高槻』が映っていた。

尚哉は『もう一人の高槻』に、なぜ守ってくれなかったのかと問いかけるが、『もう一人』は、まだその段階ではないと考え、何もせずにいたと答える。

さらに、高槻との約束について語り、この世界に飽きたら元の世界に戻すという内容だった。

『もう一人』の存在は、高槻にとっての「窓」であり、彼がこの世界に戻りたがるまで見守る役割を担っていた。

尚哉は、その約束をどうやって破るか、どんな代償を払えばいいのかを尋ねるが、明確な答えは得られなかった。

尚哉は遠山の事務所で急に休んだことを詫びる。

遠山は高槻を非難するが、尚哉には優しく対応する。

高槻は無事に退院し、尚哉にメールで謝罪する。

尚哉は研究室の鍵のことを話し、高槻は次に返すと返信する。

尚哉はおにぎりを食べながら高槻に𠮟りたいと考える。

同僚の竹井は尚哉の顔つきに興味を示し、尚哉がいつも申し訳なさそうにしていることを指摘する。

竹井は尚哉に甘いものが苦手だと聞いて柿ピーを渡し、CADの教えを申し出る。尚哉は竹井の親切に感謝する。

尚哉は金曜日の午後、大学の高槻の研究室に向かい、傷の具合を尋ねる。

高槻は傷がふさがっていると返答し、コーヒーを提案するが、尚哉はまず𠮟りたいことを𠮟る。

高槻が一人で榊のアトリエに行った理由を問うと、高槻は美術展で見たスケッチブックに描かれていたネックレスをつけた子が危険にさらされているかもしれないと感じ、急いだと説明する。

その後、榊の事件が公になり、塔矢以外にも多数の被害者がいたことが明らかになる。

尚哉は高槻に院進学の意志を伝え、高槻は驚きつつも、尚哉に大学院に来ることを強く勧める。

尚哉は高槻にこれからもいなくならないでほしいと頼み、高槻は約束する。

尚哉は心の中で『もう一人の高槻』にもこの約束を知らせ、高槻を守る決意を新たにする。

(extra)花占い

ある女性は幼い頃から薔薇の花とバレエを愛しており、いつか薔薇と共にプロポーズを受けることを夢見ていた。成長し、多くのバレエの演目に出演する中で、彼女は夢物語のような恋に憧れていた。ある日、彼女の父親が智彰という男性を紹介し、二人は交際を始める。智彰との関係が深まる中、彼女は交通事故に遭い、バレエを踊れなくなる可能性に直面する。しかし智彰は彼女にプロポーズし、事故によりバレエを諦める代わりに得た幸福を神様からの贈り物と受け入れる。

二人は結婚し、彰良という息子に恵まれるが、彰良が突然行方不明になる。彰良が戻ってきた後、彼女は彰良が天狗にさらわれたと信じ込み、彰良を「天狗様」として祀り上げる。しかし彰良はそのような役割を拒否し、彼女からの期待に苦悩する。

彼女は彰良が戻ってくるかを占うために薔薇の花占いを行うが、どの占いも「戻らない」という結果に終わる。夫の智彰が止めようとすると、彼女は彼を誤って刺してしまい、彼は家を出て行く。彼女は一人で過去の幸福を振り返りながら、彰良が再び戻ることを待ち続ける。

(extra)向かいの家の猫の話

この物語は、秘密を抱える少年と彼を思う人々の交流を描いていた。

二年前、飯沼貴志は相原塔矢と初めて出会った。
塔矢は挨拶を交わす純粋な中学生で、飯沼はその様子を見て好感を抱く。

その後、飯沼は塔矢が酔っ払いに絡まれているのを助けるなど、たまに交流があった。
ある日、塔矢から秘密を預けられた飯沼は、塔矢の死後、東京中のロッカーを探し、その秘密が塔矢が女装を好んでいたこと知る。

飯沼は、塔矢が抱えていた苦悩を理解し、彼の遺品をどうするべきか悩む。

たまたま会った塔矢の霊と帰路に付きながら。
お互いの近況を語り合い、別れ際に塔矢の妹が塔矢の気配を感じて出て来た。

それをキッカケに塔矢の霊は消えてしまう。

そして、塔矢の妹にイヤリングを渡した際。
今まで泣けなかった彼女は泣きながら、兄に嫌われていると感じていたことを明かす。

飯沼は、塔矢のことを思いながら、妹におやすみなさいと伝える。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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