どんな本?
『神の庭付き楠木邸』とは、えんじゅ氏による小説である。
この物語の主人公は、悪霊を祓う力を無自覚に持つ楠木湊であり、彼が管理人として赴くことになった一軒家を舞台に、さまざまな神々や霊獣、時折陰陽師たちと穏やかに交流する内容である。
湊の無意識の祓いの力により、曰くつきの家が清められ、その居心地の良さに惹かれた個性的な神々が集まり始め、次第に庭が神域へと変貌していく展開である。
甘味を好む山神や、モフモフとした姿の眷属、酒好きの霊亀など、特徴的なキャラクターが多く登場し、湊とともに独特の世界観を築いている。
この作品はウェブ小説投稿サイト「小説家になろう」や「カクヨム」に連載され、書籍版もKADOKAWAから刊行されている。
また、電撃だいおうじでのコミカライズも進んでいる。
なお、神々や眷属たちは主に獣型であり、人化しない設定で描かれているのも特徴の一つである。
神々や霊獣たちとの穏やかな日常と、時折巻き込まれる厄介事にもマイペースに対処する湊の姿が、読者に和やかな読後感を与える作品である。
読んだ本のタイトル
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あらすじ・内容
田舎の新築一軒家の管理人を任された楠木湊。実はそこは悪霊がはびこるとんでもない物件……のはずが、規格外の祓いの力を持っていた湊は、知らぬ間に悪霊を一掃してしまう!
すっかり清められた楠木邸の居心地の良さに惹かれ、個性豊かな神々が集まってくるように! 甘味好きな山神や、そのモフモフな眷属、酒好きの霊亀……。そして、気づけば庭が常春の神域になっていて!?
さらには、湊の祓いの力を頼りに、現代の陰陽師も訪ねてくるほどで……。
お隣の山神さんたちとほのぼの田舎暮らし、はじまりはじまりです。
感想
楠木湊は田舎の一軒家の管理人として暮らしを始めるが、その家は悪霊がはびこる物件だった。
しかし、湊は無意識のうちに強力な祓いの力で悪霊を一掃し、家は一瞬にして清浄な空間と化してしまった。
その清められた場所に惹かれて、甘いもの好きの山神やお酒を愛する霊亀、さらには風神や雷神といった個性豊かな神々が集まり、庭はいつしか神々が憩う「常春の神域」となっていた。
穏やかな日常を送りつつも、湊は持ち前の祓いの力を使い、和やかで心温まる生活を送っている。
神々は時折その威厳を見せつつも、湊と共にスローライフを楽しみ、和やかな雰囲気の中で神秘的な日常が繰り広げられる。
湊が無意識に護符を作ったり、ささやかな供物を捧げたりすることで、さらに神々との絆が深まっていく様子が描かれている。
まったりとした日常の中に神域の不思議が混ざり合う世界観に引き込まれ、平穏な日々の中で繰り広げられる神々とのやり取りや湊ののんびりとした日々に癒されるだろう。
庭先の四季にとらわれない「神域」でのスローライフが、心に残る作品であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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同シリーズ
その他フィクション
備忘録
第1章 悪霊溜まり場、一掃
新たな職場での邂逅
湊は新しい職場である一軒家の前で、異様なもやに覆われた家に気づき、目の錯覚かと考えたが、実際に家全体が黒いもやに包まれていると確認した。不安に駆られつつ、家に入ることを決意した。
家の中の様子と初日の対応
湊は家の鍵を開けて中へ入るが、静電気のような衝撃を受けた。部屋を見て回ると、全体的に生活に必要な家具が揃っている一方、長らく掃除がされていない様子だった。湊は掃除リストを作成し、部屋の清掃から始めることにした。
掃除と家の浄化
湊は丸二日をかけて家中を清掃した。特に家の外壁は虫が多く、速やかに片付けて新築の輝きを取り戻した。朝、冷蔵庫の付箋が床に落ちていることに気づき、メモの重要性を再確認し、再度貼り直した。
庭の手入れと庭師との対話
庭師が訪れ、荒れ果てた庭が整えられたが、どこか寂しい印象が残った。庭師は湊にシンボルツリーの提案をしたが、湊は一時的な滞在者であるため、慎重に検討すると答えた。庭師は肩の痛みを訴えていたが、湊のメモが当たったことで肩の調子が良くなり、驚きつつも作業を終えた。
表札の取り付け
湊は手作りの表札を表門と裏門に取り付けた。彼にとって初めての一人暮らしの証となる表札の設置は、彼の小さな夢でもあった。表札を取り付けた瞬間、結界が張られ、家の周囲が浄化されたが、湊はその現象に気づくことはなかった。
不思議な草の贈り物
湊が外出から帰宅すると、表門の前に薬草が積まれているのを発見した。初日はただの雑草と思い気にも留めなかったが、次の日以降もさまざまな草が門前に置かれており、少しずつ興味を持ち始めた。特にヨモギが置かれていた時は、彼の好物であるため、喜んで受け取った。
昔の記憶と神秘的な存在への気づき
幼少期に祖父から「童子さん」の存在を教えられていた湊は、幼い頃から不思議な現象に慣れ親しんでいた。今もこの家に住む者が湊を歓迎していると感じ、感謝を伝えようと決意した。
神棚への供物と不思議なやり取り
湊は童子さんへのお礼として、日本酒と和菓子を供えることを決めた。勝手口の扉が不自然に揺れるなど、まるで供物を催促されているようなやり取りが続いたが、湊はそれを愉快に受け止め、供物の準備を進めた。
第2章 初邂逅
怨霊の襲撃と無意識の祓い
人の数倍にも膨れ上がった怨霊が湊を襲った瞬間、彼は無自覚のまま一瞬で祓い、怨霊は粉々に消え去った。この祓いを目撃した陰陽師は、何が起きたのか理解できずに呆然と立ち尽くした。
青年との出会い
古びた商店街で怨霊を追いかけていた陰陽師が、湊と出会った。湊は怨霊に気づかず、のんきに買い物袋を提げていた。陰陽師は湊に話しかけたが、湊は怨霊に関する異変を一切感じておらず、なぜかメモが消えたことに苛立っている様子だった。
湊の帰宅と山神との対面
湊は商店街での出来事を全く知らないまま帰宅し、購入した日本酒と和菓子を持って庭に供えようとした。そのとき、縁側に神秘的な白い獣が座っているのを目にする。湊が対面したその獣は、隣の山の神であると自己紹介し、湊の無意識の力に感謝を述べた。
山神との会話と祓いの力の発覚
湊は山神から、自分が文字を書くことで無意識に祓いの力を発揮していることを告げられた。湊は当初その事実に戸惑ったが、やがて納得し、これまでの消えゆく文字や表札が壊れた現象についても合点がいった。
毎晩の食事と神への敬意
その後、湊は山神と毎晩のように食事を共にするようになった。湊が心からの敬意を示して拝むたびに、山神の力は増し、輝きが増す様子であった。湊はこの神聖な力に感動しつつも、過度の発光に困惑する場面もあり、神との生活が日常となっていった。
第3章 庭の改装は劇的に
朝の驚き:神の力による庭園の変貌
湊が朝カーテンを開けると、そこには風光明媚な日本庭園が広がっていた。昨日まで空だった池には水が張られ、芝生や落葉樹が植えられていた。その池の太鼓橋の上には山神が誇らしげに佇んでおり、湊は神の力による庭の美しい変貌に感嘆した。また、山神は力を使いすぎて中型犬サイズに小さくなっていたが、やがて元の姿に戻ると自信を示していた。
亀の訪問と種の贈り物
湊が買い物から帰宅すると、表門の下に青葉に乗った黒い種が置かれていた。山神に尋ねると、それは商店街で湊に助けられた亀からの贈り物であり、庭に住むことを望んでいると告げられた。湊はその亀を歓迎し、山神に種を植える場所を決めてもらい、新たな仲間として亀が庭に加わった。
祓いの力を認識した湊と陰陽師との会話
ある日、湊のもとに陰陽師の播磨が訪れ、湊の書いた文字が強力な祓いの力を持っていることを認識した播磨は、湊に護符を求めた。湊は心を込めて和菓子名入りのメモを数枚書き、それを護符として渡した。播磨はその力を感謝しつつ、湊に高額の謝礼を提示するも湊は受け取りを辞退した。最終的に、播磨の手の甲に五芒星を描き、祓いの効果を高めることで満足した。
庭の新たな仲間:神木と小鬼の訪問
新たに植えた種が芽を出し、湊の背丈ほどに成長して神木となった。また、山神が連れてきた三匹の眷属と共に小鬼の風神と雷神が現れ、庭で湊と共にお茶とお菓子を楽しんだ。風神は湊に風の力を授け、彼の庭での生活にさらなる活気を加えた。湊はこの力で庭仕事が楽になることを期待し、日常に役立つ異能として感激していた。
山神の帰還と新たな日常
梅雨の訪れとともに山神はしばらく姿を消していたが、やがて三匹の眷属と共に再び現れた。湊は再会を喜び、山神や新たな仲間たちとの穏やかな日常を楽しむようになった。庭の快適な環境の中で、湊は自分の役割と力を新たに自覚し、異能を持つ日々を送ることとなった。
第4章 本領発揮
家計難と神々の存在
湊はダイニングで家計簿を広げ、厳しい家計状況に頭を抱えていた。現在の収入で山神や眷属たちの食費を賄うのは困難であり、彼らの好物である高級和菓子や酒の購入が負担となっていた。湊は何とかして収入を増やす方法を模索していたが、解決策が見つからず苦悩していた。
瑞獣霊亀の招福と商店街での大当たり
湊が商店街の福引きに参加すると、一等の金券十万円分が当たるという幸運に恵まれた。さらに、酒屋で三百三十三人目の客として記念の日本酒三十三本をもらうという二重の幸運に驚かされた。この出来事は、瑞獣である霊亀が福をもたらした結果であり、湊はこれにより当面の金銭的な不安が解消された。
母からの電話と懸賞金当選
夕食中に実家の母から電話があり、湊が以前応募していた懸賞で百万円の当選金が振り込まれることを知らされた。これにより、湊は神々への供物に困らなくなると安心しつつも、今後の仕事探しも検討し始めた。湊の献身的な行動に対し、山神も湊の無欲さを讃えながらも、自身のために使うよう助言していた。
陰陽師播磨の再訪と和菓子の手土産
翌日、陰陽師の播磨が再び護符の依頼に訪れ、湊は仕事としてこれを引き受けた。播磨は手土産として高級和菓子を持参し、和菓子好きだと誤解されている湊は、山神のために笑顔で受け取った。湊は菓子箱を開け、桜餅を山神に供し、自身は辛い煎餅を食べることで互いの好みに合わせた和やかなひと時を過ごした。
山神の祠への巡礼と掃除
湊は山神の眷属であるテン三匹と共に、山中の祠を目指して登山を行った。道中は険しい獣道が続き、祠に着いた湊はその荒れ果てた姿に哀愁を感じつつも、祠を掃除し、かつての人々の信仰に感謝の意を表した。その後、一行は昼食を共にし、和やかな時間を過ごした。
瘴気に穢れた悪霊の祓い
祠からの帰路、湊たちは瘴気に覆われた場所で悪霊に遭遇した。湊は自らの文字で祓いの力を行使し、悪霊を浄化。浄化された場所には瑞獣のような鹿に似た白い姿が現れ、湊とテンたちの見守る中で力を取り戻し、上空へと去っていった。
第5章 湊印の効果やいかに
楠木邸の静寂と山神の守護
楠木邸の縁側には、山神の神力により心地よい風が常に吹き、虫一匹もいない快適な環境が保たれていた。湊は護符としてメモ帳に祓う力を込めた文字を書きながら、庭の平穏を満喫していた。家の外の静寂と神聖な空間が、彼の祓う力の成長を後押ししていた。
護符の試行錯誤と名刺案の提案
湊は護符としてのメモ帳の薄さに疑問を感じていたが、大狼や山神からは紙の厚さよりも気持ちが重要と助言を受けた。そこで湊は、護符を名刺に書くアイデアを思いつき、名刺ならば陰陽師としての格好もつくだろうと期待を膨らませた。
播磨の訪問と山神への供物
陰陽師の播磨が再び訪れ、湊が作成した護符を受け取った。播磨は高級和菓子を手土産に持参し、それに反応する山神は嬉しげにその香りを嗅ぎ分けていた。湊もまた、播磨が湊の護符の効力に気づき、尊重していることを察し、少しばかりの満足感を感じていた。
陰陽寮での悪霊祓いと播磨の力
播磨は陰陽寮の同僚である葛木と共に、廃校に巣食う悪霊を祓う任務に従事していた。播磨は自身の祓う力を手の甲に宿し、悪霊を次々に浄化していった。彼の力は圧倒的であり、その光景に周囲の者たちは圧倒されたが、彼は淡々と仕事を進め、効率的に悪霊を祓っていた。
一条との対立と葛木との協力
任務の中で、播磨は同期の一条と共に三階の強力な悪霊と対峙する場面があった。一条は播磨に対して嫉妬心を抱き、敵愾心を剝き出しにしていたが、播磨は冷静に対処し、悪霊を見事に祓いきった。葛木との協力で、二人は任務を終えた。
メモ紙から名刺への移行
任務終了後、葛木と播磨は食事の場でメモ紙護符についての話題を交わし、今後は名刺に書かれることを決定した。播磨は護符の効力に感謝し、山神に敬意を払いつつも、今後も湊の護符に依存する形で任務を遂行していく決意を固めていた。
日常の穏やかさと異質な神域の存在
湊は楠木邸の異質な静寂と穏やかさを感じつつ、神域と現世の違いを意識していた。庭の平和な環境は神の加護によるものであり、湊は神聖な存在との共存に満足し、居心地の良さを感じていた。
第6章 山神の御業、とくとご覧あれ
山神と秋の和菓子の新作
山神が楠木邸の縁側で地元情報誌を読みながら、秋の和菓子の新作特集に目を輝かせていた。雑誌に掲載された干し柿の栗きんとんに関心を示し、その新作和菓子の魅力に浸っていた。湊は山神の好物を把握するため、毎回山神が欲しがる和菓子の名前を護符に記しておいた。
越後屋への神託
山神は、越後屋が新作でつぶ餡を使ったことに不満を述べ、再びこし餡饅頭への愛情を口にした。長年続く越後屋の伝統を称賛し、その気持ちを珠に込め、力強く越後屋へと送った。この珠は、越後屋の職人への励ましと感謝の意味を持つものであった。
播磨への護符の受け渡し
陰陽師の播磨が越後屋の和菓子を持って楠木邸を訪れ、湊に護符を受け取った。播磨は湊の護符に感謝の意を表し、護符を収納するケースも持参していた。湊は播磨の護符の使用方法について詳細に説明し、より良い護符を作るために試行錯誤していることを明かした。
播磨への警告と山神の意志
播磨は湊に対し、ある陰陽師の同期が湊の護符に目をつけ、監視や妨害の恐れがあることを伝え、警戒を促した。湊はその言葉を重く受け止めたが、山神が「心配無用」と力強い言葉を放ち、湊を励ました。
一条の楠木邸訪問と不思議な体験
陰陽師の一条は、湊の護符を執着して探るため、楠木邸を訪れた。しかし、一条は楠木邸の門前で不思議な体験をする。突然、見知らぬ山中に投げ出され、何度も同じ場所に戻る「死に戻り」のような体験を繰り返す。一条は懸命に謝罪し、ようやく家に戻るが、その経験が彼に何らかの教訓を与えたかのようだった。
山神の威厳と湊との食事
山神は一条を追い払うため風鈴を鳴らし、平穏を取り戻した後、湊とともにきんつばを食べた。山神はその後眠りについたが、その姿は威厳に満ち、湊にとっても神としての存在感を改めて実感させるものとなった。
陰陽寮での一条の再出発と播磨姉妹の協力
一条は楠木邸での経験を経て、しばらくは大人しくしていたが、再び堀川への高圧的な態度が目立つようになった。しかし、陰陽寮の同僚たちはその様子を冷静に見守り、播磨姉妹は彼のモラハラ行為を抑えるために、工夫を凝らしながら対応した。
第7章 少しずつ変わりゆく日々
山神と耐熱ボウルの出会い
夕食後、山神は耐熱ボウルで炭酸水を堪能していた。湊が湯呑みやどんぶりを勧めるも、山神は特に不便を感じず、そのままで問題ないとした。湊は、神にふさわしい器について思案を巡らせていたが、山神は頓着せずにそのままボウルで満足していた。
うつわ屋での茶碗選び
ある日、湊と山神はうつわ屋に足を運び、抹茶碗コーナーで様々な茶碗を観察した。山神は唐津焼や黒楽茶碗などに強い興味を示し、茶碗選びに真剣な姿勢を見せていた。湊は山神が気に入る茶碗に出会えるまで付き合う覚悟で、彼を見守った。
布団屋での座布団選び
湊は山神のために大きな座布団を購入しようとし、山神も興味津々で座布団の感触を確かめていた。湊が色について高貴な濃紫を勧めると、山神もそれを受け入れ、特注の大きな座布団が決定された。山神に合わせた特注サイズは、湊にとっても満足のいく選択であった。
町での散歩と山神の存在感
湊と山神が町を歩いていると、山神が放つ神威により人々が自然に道を開けた。山神の身から漂う森林の香りに一部の人が気づき、感嘆の声を上げる場面もあった。湊はその光景を面白く感じながら、山神の存在が自然と人々に影響を与えていることを実感した。
悪霊退治と山神の浄化
湊と山神は、悪霊が棲みつく廃屋に入り、浄化の儀を行った。山神の浄化の力で悪霊を安らかに祓い、建物の中に漂っていた瘴気が消え去った。湊は山神の神聖な力に感謝しながら、悪霊との戦いの重要性を再認識した。
越後屋での饅頭の購入
湊と山神は越後屋を訪れ、蒸したての甘酒饅頭を購入した。山神は越後屋の十二代目に対し、見守るような態度を見せた。越後屋の主人は山神の存在を感謝して「御犬様」と呼び、饅頭を供えることを忘れない心持ちを湊に語った。
特注座布団での護符制作
湊は、山神と共に護符の制作に励み、筆ペンや高級筆を使用して護符を作成した。山神と霊亀も協力し、護符に力を込めて押印した。湊はこの護符の出来栄えに満足し、播磨にその護符を渡した際、彼は畏敬の念を抱き、感謝の意を示した。
霊亀と御池の異変
ある日、湊は御池で霊亀が水草を移動させていることに気づき、池の左側に水草がなくなっている様子に疑問を抱いた。霊亀がその空間を整えていることを察しつつも、湊は深入りせず、霊亀の自由を尊重してその場を後にした。
第8章 新たなる兆し
眷属たちからの贈り物
木枯らしが吹き始める季節、楠木邸の庭先で湊は眷属たちを迎えた。年長組のセリとトリカが、山神へのお世話に感謝の意を示し、山の恵みである秋の果物が詰まった竹籠を贈った。湊はその贈り物に感謝し、縁側で眷属たちと共に楽しむ穏やかなひとときを過ごした。
クスノキの成長停滞
湊は庭の若木クスノキが成長を止めたことに気づき、心配していた。眷属たちが「この木は神木だから通常とは異なる理で生きている」と教え、少し安堵するも、湊は依然としてクスノキの変化を見守ることにした。
霊亀と龍・応龍の訪問
突如として現れた龍・応龍が、霊亀と共に湊を訪問した。龍は湊に一礼し、庭のクスノキに対する何らかの許可を求めた。湊が承諾すると、龍はクスノキの周囲に青銀の光を放ち、羊雲から降る雨でクスノキを成長させた。クスノキは一気に倍の大きさに成長し、湊たちを驚かせた。
応龍の同居と宴
龍・応龍は霊亀と共に御池に住むことを希望し、湊も承諾した。新たな住居を得た応龍は、ワインを好む酒豪であり、湊の周囲でご機嫌に漂っていた。霊亀と応龍の友情が深まり、御池はますます賑やかになった。
湊の願いが叶った温泉
湊の要望を受け、庭には新たに温泉が設置された。早朝、庭の温泉を見つけた湊は驚きと喜びで満たされた。湊と山神は温泉を満喫し、湊は久しぶりの温泉に心地よい疲労を感じていた。
麒麟との再会
湊は、以前助けた麒麟と再会した。麒麟は感謝の意を伝え、湊に「世界の半分を手に入れる力」を提案したが、湊は即座に拒否した。麒麟の申し出に困惑していた湊を助けるべく、風神と雷神が現れ、麒麟も納得して去っていった。
風神と雷神の訪問
風神と雷神が湊を訪れ、お礼の品として巨大なメカジキを提供した。湊が風神の神業で魚を切り身にする技術を見て感銘を受けるも、己の風力の未熟さに悩みを抱えた。風神と雷神から助言を受け、湊は自身の力を鍛える決意を固めた。
第9章 振り返れば、いつでもそこにいる
縁側での護符作成
湊は縁側で護符作成に励んでいたが、何者かの熱い視線を感じ、振り返ったものの、視線の主はすぐに姿を消した。再び作業を進めると、背中に刺さる強烈な視線を感じ、湊は不審に思いつつも表札の制作を再開した。
表札の再作成と山神の加護
湊は実家用の表札や温泉宿の各部屋用の表札を制作。山神はその中の一つに加護を与えた。湊は表札が度々割れる現象が童子の仕業かもしれないと考え、感謝の気持ちを込めて表札を作り直した。
麒麟の訪問と山神の代弁
湊が作業中に麒麟がひっそりと敷地内に入り、珍しい果物を置いて去った。山神は麒麟の独り言を通訳し、湊の作業が殺意を含んでいるかのような冗談を交えて伝えた。湊はため息をつきつつ果物を収集した。
清掃と麒麟の視線
湊が掃除をしていると、麒麟が再び現れ、湊の行動に関して不穏な妄想を膨らませた。山神は麒麟の独り言を逐一通訳し、湊はその度に視線と不穏な台詞に辟易したが、慣れつつあった。
神域での修行と風の力の習得
山神に促されて湊は神域に入り、風を自在に操る修行を行った。山神は湊に木々を傷つけても問題ないと告げ、湊は思い切り力を解放し、修行に励んだ。次第に湊は風の力を操れるようになり、成長を実感した。
麒麟の執着と焼き芋の準備
修行で倒れた湊が目を覚ますと、麒麟が執拗に覗き見し、異国の果物を置いていった。湊は麒麟に興味を抱きつつも、落ち葉を集め、焼き芋の準備を始めた。
庭先でのバーベキュー
湊と山神、瑞獣たちは庭でバーベキューを楽しんだ。湊がコンロで秋刀魚やホタテを焼きながら神々に食事を提供し、湊も筋肉痛を抱えつつ楽しんでいた。雷神は湊の筋肉痛を和らげ、湊は彼らの優しさに感謝した。
麒麟の住居での受け入れとビール
湊は麒麟のためにビールを用意し、ついに麒麟が湊に接近することができた。以降、麒麟は庭で過ごすようになり、湊も麒麟の存在を受け入れた。
第10章 いざ、出陣
風の技術の披露と成長
湊は、木の葉を風で自在に操り、その技術を披露した。テンたちはそれに目を奪われ、ウツギは目を回すほどであった。湊は以前よりも風の力を巧みに制御し、もはや暴走する心配もなかった。彼は大技よりも小技が得意であると自己評価し、対話の後、訪問者の気配に気づいた。
播磨の疲弊と山神の反応
湊のもとに播磨が来訪し、再び疲れ切った様子であった。山神は席を外さず、播磨が持参した豪華な手土産に興奮していた。播磨は湊にある依頼を持ちかけるために訪れており、それは穢れた神域に住まう怨霊退治であった。湊はこの依頼に驚きつつも引き受ける覚悟を見せたが、山神は播磨の依頼に対して厳しい態度を示した。
山神の加護と協力
山神は自らの力で湊を異界へと送り出すことを承諾したが、力の貸し方について気まぐれな態度を見せた。播磨は高名な銘菓を手土産として持参していたが、山神の好奇心と食欲が重なり、湊と播磨の緊張感を和らげた。湊は、山神の加護を受けて異界の怨霊退治に挑むこととなった。
準備と旅立ち
湊は護符や筆ペンを丹念に準備し、異界での怨霊退治に備えた。山神や神々に留守を頼み、穢れた異界へと旅立つ決意を固めた。テンたちもその道行きを共にし、強い意志とともに目的地に向かう姿が印象的であった。
町での誘惑と再決意
湊たちが町に到着すると、テンたちは洋菓子店やパン屋の魅惑に抗えず、足止めを食らった。誘惑に屈しつつも、湊の励ましにより目的を思い出し、再び歩みを進めた。テンたちは誘惑に負けずに公園で一息つき、湊は鳥たちに案内されながら、最終的な目的地へと導かれた。
穢れた寺院への到着と覚悟
鳥たちの導きにより、湊とテンたちは怨霊の巣食う穢れた寺院に到着した。寺の周囲には瘴気が立ち込め、暗く重々しい空気が漂っていた。播磨との通話で湊は最後の確認をし、依頼を全うする決意を固めた。寺院の門をくぐり、本堂へと続く参道を進む湊の姿には、強い使命感と覚悟が漂っていた。
第11章 推して参る
門前の突破と異界への突入
湊と神の眷属たちは、異界の神域へと入るため、門の前で神力を使い穴を開けた。彼らは湊一人が通れる大きさの穴を無理やり開き、異界へと進入した。神域は不気味な空間であり、生温かく、薄暗い雰囲気が漂っていた。湊とテンたちは、本堂へと足を運び、大元である怨霊がその場所に潜んでいると感じ取った。
本堂への進入と怨霊の襲撃
湊たちは本堂の前に到着し、門の近くで待機していたところ、突然黒い霧と共に大量の人形が襲いかかってきた。朽ちた日本人形や西洋人形が次々と湊に突進してきたが、湊の護符の力により撃退された。テンたちは護符を温存しつつ、自らの力で人形と戦い、その数を減らしていった。
元凶となる人形の出現と激戦
本堂から黒い霧をまとった日本人形が出現し、湊に対して強力な呪いの言葉を吐いた。湊は護符の力を駆使し、風を操って攻撃を仕掛けたが、人形の髪が槍のように変化し、護符を切り裂かれてしまう。湊とテンたちは次々に襲いくる髪の攻撃に苦戦し、ついに湊は黒髪の束に巻かれ、圧倒的な重圧に押し潰されそうになった。
眷属たちの反撃と決戦の終結
湊を救うため、テンたちは黄金色の神力を放ち、狼の遠吠えの力で髪の束を消滅させた。湊は残された護符を使い、人形に最後の祓いをかけた結果、怨霊は塵と化し、完全に消滅した。そしてその場には、霊的な力を持つ珠が残され、湊はそれを拾い上げた。
異界の崩壊と神の助け
怨霊を祓った直後、異界全体が崩壊を始め、湊たちは逃げ出した。しかし、出口に通じる穴が小さくなり、異界から出られない危機に陥った。そこへ風神と雷神が現れ、神の力で異界を斬り裂き、炎と雷で崩壊を食い止めた。湊は二柱の神に助けられ、異界から脱出することができた。
現世への帰還と神々への感謝
湊は無事に現世に戻り、遠くから見守っていた播磨の姿を確認した。風神と雷神に助けられたことを改めて実感し、感謝の気持ちを胸に抱いた。彼は神々と共に脱出し、ようやく安堵の息をついた。
第12章 神庭には今日も春風が吹く
神庭の日常と四霊の集い
湊の庭にある神聖なクスノキは、湊手作りのしめ縄を風になびかせて揺れていた。その木の下で、霊亀が甲羅干しをし、応龍が神水を泳ぎ、太鼓橋には舟を漕ぐ麒麟の姿があった。縁側では、湊が座卓で護符を作成しており、テンたちと共に、湊の手元を見守る小さな鳳凰も座っていた。鳳凰は、かつて怨霊の珠として封じられていた存在であり、湊の手元を鋭い眼差しで見つめる場面もあった。
鳳凰の復活と湊の依頼達成
半月前、湊は播磨からの依頼で怨霊を祓い、別界に潜む怨霊と対峙した。異界は風神と雷神の力で切り裂かれ、湊たちは無事現世に戻ることができた。怨霊を祓った証として残された珠から、桜色のひよこである鳳凰が姿を現し、喜びの声に包まれた。その後、疲労困憊の湊は現地で一泊を余儀なくされ、翌日に楠木邸に戻った。
四霊の存在と動物霊との関係
湊が救った鳳凰は四霊の一つであり、瑞獣である霊亀、応龍、麒麟と並ぶ鳥類の長であった。彼ら四霊は神聖な存在であるが、戦う術を持たないため、悪霊によって捕えられ、動物霊を引き寄せる「餌」として利用されていた。悪霊は動物霊を取り込み、怨霊化して力を増していたのである。長年の捕囚により鳳凰を含む四霊は衰弱していたが、神域化した湊の庭で徐々に回復していた。
四霊と神々の宴会
四霊たちは、楠木邸の庭を憩いの場とし、毎晩宴会を開いていた。鳳凰は甘いお菓子や焼酎を好み、山神と「こし餡」と「つぶ餡」について議論を交わすなど、穏やかな日々を送っていた。ある日、風神と雷神が湊の庭に訪れ、宴会に参加することが決まった。湊が冷酒を準備し、神々が湊の家で和やかに過ごす様子が描かれていた。
播磨の再訪と神々の歓喜
播磨が礼として和菓子を持参し、再び楠木邸を訪問した。山神はその訪問を予感し、鼻をふくらませて喜んでいた。湊は播磨と会話を交わしつつ、隣にいる神々の騒々しさを遠巻きに見守った。神々の豪快な様子に驚きつつも、湊は彼らが守護者であることを再確認し、安らかな時間を楽しんでいた。
穏やかな冬の神庭
冬の中でも、湊の庭には春のような温かな空気が漂い、クスノキの樹冠が風に揺れ、周囲に豊かな緑が広がっていた。四季の移ろいがない楠木邸の庭で、湊と神々、そして四霊が共に過ごし、穏やかで幸福な日常が続いている様子が描かれていた。
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