どんな本?
『神の庭付き楠木邸』とは、えんじゅ氏による小説である。
この物語の主人公は、悪霊を祓う力を無自覚に持つ楠木湊であり、彼が管理人として赴くことになった一軒家を舞台に、さまざまな神々や霊獣、時折陰陽師たちと穏やかに交流する内容である。
湊の無意識の祓いの力により、曰くつきの家が清められ、その居心地の良さに惹かれた個性的な神々が集まり始め、次第に庭が神域へと変貌していく展開である。
甘味を好む山神や、モフモフとした姿の眷属、酒好きの霊亀など、特徴的なキャラクターが多く登場し、湊とともに独特の世界観を築いている。
この作品はウェブ小説投稿サイト「小説家になろう」や「カクヨム」に連載され、書籍版もKADOKAWAから刊行されている。
また、電撃だいおうじでのコミカライズも進んでいる。
なお、神々や眷属たちは主に獣型であり、人化しない設定で描かれているのも特徴の一つである。
神々や霊獣たちとの穏やかな日常と、時折巻き込まれる厄介事にもマイペースに対処する湊の姿が、読者に和やかな読後感を与える作品である。
読んだ本のタイトル
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あらすじ・内容
新しい神々も多々登場! 隣神たちとの賑やかスローライフ第二弾!
マイペースな麒麟、気難しい鳳凰(ひよこ型)を迎え、ますます賑やかに&神々しさが増してしまった楠木邸。
そんなお庭が山神さんの気まぐれで春仕様に様変わり。花見をしたり、タケノコなど春の味覚を堪能したり、変わらずのんびりと暮らす湊たち。
さらには、新たな神様が迷い込んできたり、別の神域にお邪魔したりと、春は出会いの季節であるようです。
その一方、陰陽師たちは春に大量発生する悪霊退治に追われていて……。
お隣のモフモフ神様とのスローライフ、第二弾!
感想
楠木湊が管理人を務める楠木邸には、麒麟やひよこ型の鳳凰が新たに加わり、ますますにぎやかで神秘的な日々が展開される。
山神の気まぐれで庭が春の景色に一変し、湊たちは花見を楽しみ、タケノコなどの春の味覚を満喫する。
そんな穏やかな生活を送りながらも、湊の持つ祓いの力は次第に増し、陰陽師たちとの関係も深まっていく。
湊が無自覚に清めた楠木邸の清浄な空気が神々を引き寄せ、いつしか庭は常春の神域となっていた。
しかし、春には悪霊が大量発生することもあり、陰陽師たちは退治に奔走する。
湊は祓いの札を提供し、その力で陰陽師たちの手助けをする一方で、少しずつ人間を超えた存在になりつつあることを自覚していく。
新たに神域へ引き込まれる体質も明らかになり、湊は神々の助けを受けながら新たな試練に立ち向かっていく。
このシリーズは、湊が神々とのスローライフを過ごす日常を描き、温かな雰囲気で読者を癒してくれる。
神々しい楠木邸の庭と、穏やかながらも心に残るエピソードの数々は、気軽に楽しめる。
湊が持つ自然体の強さが印象的で、神々との絆が深まる様子に、今後の展開が楽しみになる作品である。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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同シリーズ
その他フィクション
備忘録
第 1章 日常風景と非日常風景
冷蔵庫前のやり取り
湊はコンビニで冷蔵庫からビールを取ろうとしたが、背後に視線を感じた。振り返らずとも、その視線の正体は麒麟であると察した湊は、わざと麒麟の好む絵柄のビール缶を避け、別のビールに手を伸ばした。すると麒麟の視線がさらに鋭くなり、強い意志が湊に伝わる。結局、湊は麒麟の希望通りのビールを選んで、満足げに見守る麒麟を背に会計を済ませた。
野良猫からの贈り物
湊が店を出ると、野良猫が二匹並んで待ち構えていた。それぞれに差し出されたちくわと魚の切り身に、湊は戸惑う。湊は感謝の意を伝え、遠慮しつつ猫たちに食べ物を返した。毎回、動物たちが湊に食べ物を提供しようとするのは、四霊の長に世話をしてもらっていることへの感謝であると湊は理解していたが、彼はそれを受け取ることをためらっていた。
山道と春の訪れ
帰路を歩む湊は、山桜が所々に咲く景色を眺め、確実に春が訪れていることを実感した。山の風景と春の訪れに目を奪われながら、湊は排水溝から顔を出したカニや子亀と目を合わせる。湊は霊亀の元気な様子を伝え、カニが挨拶として片方の鋏を動かす姿に微笑んだ。
祠と麒麟の奇声
楠木邸への道すがら、湊は祠の前で鮮やかな赤いアネモネが供えられているのを見かけた。そのとき、突然背後から麒麟の奇声が響き、湊は驚いて振り返った。麒麟は地蔵に対して強い警戒を示し、湊をその場から離れさせようとしていた。
神域に帰る喜び
やがて楠木邸に到着すると、湊は美しい緑の庭と神々しい景観に改めて心が和む。庭では霊亀が甲羅干しをし、応龍がゆっくりと泳いでいた。湊の姿を見た大きなクスノキも歓迎するように葉を揺らす。湊はこの神域のような庭に帰るたび、心が安らぎ、満ち足りた気持ちになるのを感じていた。
山神と和菓子の約束
縁側で待っていた山神は、湊の帰りを出迎えた。湊は新しくできた和菓子店で買ったいちご大福を山神に手渡し、山神は喜んで尾を振った。その様子を見て、湊は微笑みつつお茶の準備に向かった。湊が家の中へと入る姿を、麒麟が静かに見つめていた。
山神といちご大福
湊が買ってきたこし餡のいちご大福に、山神は大変満足していた。つぶ餡では味が足りないと豪語し、こし餡といちごの組み合わせを堪能した。山神の要望通り、湊はまた買いに行くことを考えた。
鳳凰先生とウグイスたちの鳴き声練習
庭のクスノキの木陰では、鳳凰がうぐいすたちの鳴き声指導をしていた。若い鳥たちの努力に応じ、鳳凰は励ましながら正しい発声を教えたが、なかなか上達しないうぐいすには根気強く付き合った。そんな鳳凰もまだ疲労が抜けきれず、眠りにつく姿が微笑ましかった。
山神の思いやりとガラスの加工
鳳凰が眠れるように、山神は石灯籠の開口部にガラスをはめ込んで音や光を遮断した。その行動に湊は驚いたが、山神は「神の力」と言い、自分の神格を誇示した。
庭の清掃とクスノキの手入れ
湊は庭の清掃を行い、クスノキの周囲を穏やかな風で包んだ。クスノキはその風を喜び、湊の手入れを楽しむように枝を揺らしていた。応龍も協力し、御池の水を使って木を洗浄。湊はクスノキに触れ、その温かさと生命力を感じ取った。
霊亀の急成長と山神の力
突然、霊亀が巨大化し御池に小さな山のように姿を現した。霊亀はその大きさに困惑していたが、山神が力を使い、小さな亀の姿に戻して安心させた。湊は山神の力を再確認し、霊亀と応龍の秘密の行き先に思いを馳せた。
春の山菜と眷属たちの訪問
春の季節に合わせて、山神の眷属たちが山菜を持って訪れた。湊はその心遣いに感謝しつつ、山神との日々の交流を楽しんでいた。
第 2章 旅は道連れ
買い物と鳳凰の幸運の引き寄せ
湊はドラッグストアで最後の洗剤を手に入れ、喜んでレジに向かった。肩に乗る鳳凰と共に、平日の閑散とした商店街を歩き、途中、鳳凰が気になる工芸品を見かけたため立ち寄った。幸運のおかげで、危うく自転車との衝突を避けたが、このような「運の良い」出来事は湊にとって日常であった。
幸運の連続と鳥たちの注目
信号もタイミング良く青に変わり、湊は待つことなく商店街を抜けた。しかし、湊の周りにはいつものように鳳凰を慕う鳥たちが集まり、まるで鳥遣いのような姿を道行く人々に見せることになった。湊は地元民から「鳥遣いの人」として親しまれていた。
建築現場での出来事と鳳凰の加護
建築現場で翁が大きな木材を支えきれずよろけていたところ、湊が風の力で危機を回避した。翁は自分の衰えを嘆いていたが、鳳凰がさりげなく力を貸し、翁の腕の痛みを取り除いた。元気を取り戻した翁が再び家を建てられるようになったことに、湊は鳳凰の加護の効果を改めて実感した。
庭師との再会と前衛的な庭の生垣
湊は剪定中の庭師と再会し、奇抜な埴輪形の生垣に感心した。庭師に「楠木邸の庭も任せてほしい」と勧められたが、神庭の自然の維持機能を知る湊は微笑みながら断った。
謎めいた陰陽師たちと小さな社の前での異変
湊は帰宅途中、播磨がつけているものと同じ記章を持つ陰陽師らしき男女を目撃したが、特に交流せず見送り、その後竹やぶに隠れた小さな社に気づいた。そこへ近づきすぎたためか、湊は体を引っ張られ、強制的に社の中へ吸い込まれ始めた。鳳凰が本来の姿に戻って警告の叫びを上げたものの、湊と共に空間に飲み込まれて姿を消した。
『楠木邸の異界探訪と怠惰なる女神』
縁側での山神の命令と風神雷神の訪問
楠木邸の縁側で、山神がまどろみつつ耳を立て、三匹の眷属セリ、トリカ、ウツギを呼び出した。彼らに異変のあった町へ向かうよう低く命じ、ため息をついた直後、空から風神と雷神が訪れた。彼らは山神が相変わらず眷属に厳しいと指摘し、町の近くでの異変についても語り合った。
湊の異界への転移と鳳凰の同行
湊は何かの力に引き込まれ、竹やぶから別の空間へと転移した。そこは苔むした大地と無数の古びた木箱が散らばる静かな神域であった。湊は冷静に状況を確認し、異界に迷い込んだことを悟った。肩には鳳凰がついてきており、疲れた様子ながらも共に出口を探すこととなった。
異様な空間での探索と推測
湊は苔の生えた大地と木箱だらけの空間を慎重に歩き、神域が創り手の心象風景を反映するものだと考え、この場が湿った場所を好む神によるものだと推測した。敬意を払いつつも、湊は辺りの木箱に触れぬよう細心の注意を払いながら出口を求めた。
眠る女神との遭遇
やがて湊は大岩の中に住まう女神の姿を発見した。彼女は寝苦しそうに呻いていたが、湊の存在に気づくと、顔を上げ、文句を言いながら起き上がった。美しい容姿の女神は、千年ぶりに訪問者を迎え入れ、湊に風の力を用いて神域の空気を入れ替えるよう頼んだ。
風を用いた空気の浄化と神木の葉の使用
湊は女神の要望に応じ、風神から授かった風の力で空気を入れ替え始めたが、千年の淀みを完全に消し去ることはできなかった。そこで楠木邸のクスノキの葉を用い、翡翠色の清浄な風を発生させ、空気を清らかにした。この風で古い木箱もろとも淀みを消し去った。
女神からの贈り物と新たな力
女神は湊の働きを賞賛し、礼として「閉じ込める力」を少し授けた。これにより、湊は人間の感情や異能の力を閉じ込める術を得た。力を受け取った湊は、この神域を離れるため出口を尋ねたが、女神は返事もせず再び眠りについた。
眷属たちの救援と無事な帰還
その時、現世側からセリたちが道を開き、湊と鳳凰を導いた。無事に神域を脱出した湊は、眠っている鳳凰に感謝を込めて目をやり、眷属たちと再び商店街へと戻ることになった。湊はクレープ屋台へ向かう道すがら、遠くに見える黒スーツ姿の陰陽師たちに目を留めた。
第 3章 春の悪霊祭
『春の悪霊祭りと陰陽師たちの奮闘』
悪霊湧出の季節
春の訪れと共に、全国各地で悪霊が湧き出る『春の悪霊祭り』の季節を迎えた。人の残留思念が残る場所以外でも悪霊が出現するため、陰陽師たちは休む間もなく退治に奔走する日々であった。
小高い墓所での悪霊祓い
陰陽師の播磨と葛木が、荒れ果てた墓所で悪霊祓いにあたった。播磨は刀印を結び九字を切ることで低級の悪霊を祓い、葛木は式神を操り悪霊を喰わせるなど、それぞれの得意技で効率的に悪霊を退治していた。
人手不足の陰陽師と退魔の難しさ
墓所での祓いを続けながら、彼らは陰陽師が常に人手不足である現状に思いを馳せた。悪霊祓いには霊力が不可欠であり、それを持つ者が少ないため、全国の陰陽師が各地を巡回し忙しく立ち回っている状況であることを再確認した。
楠木邸付近での異変と他の退魔師との対峙
祓いを終えた二人は、楠木湊が住む楠木邸の近くで中級の悪霊の気配を察知したが、現地に向かうとすでに気配は消えていた。そこには在野の退魔師が現れ、陰陽師を嘲るような態度で一方的に皮肉を述べ、退魔師と陰陽師の微妙な関係性が垣間見えた。
次の祓い場へ向かう二人
在野の退魔師に邪魔されつつも、播磨と葛木は余計な小競り合いに巻き込まれることなく、次の悪霊祓いの場所へと向かって歩を進めた。
『夕暮れ時の悪霊退治と陰陽師たちの奮闘』
朽ちかけた神社での悪霊退治
夕暮れ時、薄暗い海辺近くの神社にて、播磨、葛木、一条、堀川の四人が悪霊退治を行っていた。悪霊の数は多く、一条は上級悪霊用の大技を多用して退治にあたっていたが、その無駄な霊力消費を堀川は冷静に見守っていた。二人の関係には改善が見られたものの、一条は力任せの退治に熱中し、連携の意志を見せなかった。
播磨家の伝統と霊力の限界
退魔の名家である播磨家には、女性しか扱えない退魔の武器が存在する。播磨はその伝統を尊重しつつ、自らの限界値まで霊力を高めたことに誇りを感じていた。一方で、一条の圧倒的な霊力には劣る点に悔しさを感じつつ、護符の力を借りずに悪霊を祓い続ける決意を固めていた。
続く悪霊との戦い
日が沈むにつれて悪霊の活性化が進み、祓っても祓っても数が減らない状況に苦戦していた。葛木が新たに式神を召喚し、四人で次々に悪霊を退治するも、その数の多さに苦労を強いられた。播磨は空を見上げ、遠くに神の神力を感じ取った。
『神域と八百万の神々』
神域の存在と放棄神域の問題
自然界には八百万の神々が存在し、各神が独自に神域を持つが、放置された神域が漂うことも多い。これらの放棄神域は次元の歪みとして地上や水中などに現れ、無秩序に移動するため厄介である。特に神との親和性が高い湊が引き寄せられる危険があったため、神々が放棄神域を消去し続けていた。
風神と雷神の努力と限界
風神と雷神は湊を守るため、楠木邸周辺の放棄神域を次々に破壊していたが、その数は膨大で、一度破壊しても再び現れる様子に二柱は諦めの気配を見せ始めた。湊がまだ神々の力を完全に使いこなせないこともあり、神域に引き込まれる危険を避けるために懸命な防御策を講じていた。
『山神と眷属たちの巡回』
山神の巡回と眷属たちの成長
山神は眷属たちとともに山中を巡り、湊を危険から守るために放棄神域を排除して回った。各地の放棄神域を念入りに消去する一方で、山神は眷属たちの成長を楽しみながらも、その力を高めるべく指導していた。特に、未熟に創られた眷属たちが神格を持つまで鍛える方針を堅持していた。
再び現れる放棄神域と山神のぼやき
一連の巡回と努力にもかかわらず、山神と眷属たちが帰宅する頃には、またも楠木邸周囲に放棄神域が現れてしまった。努力が水の泡となった様子に、山神は嘆きの声を漏らし、放棄神域の数と対処の限界を感じていた。
第 4章 神の庭、レッツ衣替え
『春の神庭と山神の試練』
平和な神庭と鳳凰の休息
春のやわらかな風と温かな日差しが差し込む楠木邸の庭に、山神と湊が安らぎのひとときを過ごしていた。庭には霊亀や麒麟、応龍が戯れ、長らく眠っていた鳳凰も石灯籠の中で力強く輝き始めていた。湊は、鳳凰が無事回復しつつあることに安堵していた。
湊の異能習得と山神の悩み
湊は女神から授かった異能を身につけようと、さまざまな箱を用いて練習を重ねていた。しかし、力の定着が難しく、感情を物体に閉じ込める作業に苦心していた。一方、山神は湊の神域に引き寄せられる体質が自身の影響であることに負い目を感じ、黙して見守ることを選んだ。神域の入り口が絶えず流入する現状にも、無力感を覚えていた。
庭での茶会と山神の忍耐
湊は山神のためにうぐいす餅や桜饅頭を用意し、茶を淹れる。山神は茶と菓子を前に静かに待ち続け、その様子に湊は愉しみを覚えながらも少し長く茶を淹れる時間を取っていた。湊が茶と菓子を差し出すと、山神は春の風味をじっくりと味わい、饅頭の色合いに春を感じ入っていた。
『春の神庭の改装と山神の縮小』
桜に彩られる神庭
山神が庭の景色を見渡すと、その眼力によって庭の木々が次々と桜の木に変わっていった。あっという間に庭は桜色に染まり、淡い香りが漂う美しい春の景色が広がった。その変化を目の当たりにした湊は感嘆し、改装の奇跡に心を奪われた。
小さくなった山神の姿と春の茶会の続行
突如として山神が小型化し、座布団に埋もれるように座っていた。その小ささ故に食べ物が大きく見え、山神は小さな姿で饅頭を堪能しながらも、その新しい感覚を気に入っている様子であった。湊は戸惑いながらも山神の変化を楽しみ、山神もまた、今の状態を「徳」だと感じて満足していた。
『湊の試練と再会する春』
異能のヒントと湊の挑戦
湊は山神の言葉から、異能の使い方にヒントを得て、自分にとって合う方法を模索し始めた。異能習得に困難を覚えながらも、挫けることなく努力を続け、和紙を用いて自身の力を試し続けた。
鳳凰の復活と春の歌声
鳳凰が石灯籠から姿を現し、その時に集まったうぐいすたちが庭中で美しい鳴き声を響かせた。春の訪れを告げるその音色が神庭に満ち、湊もまたその光景に心を奮い立たせ、再び筆を取り和紙に向かって新たな力の習得に挑んでいった。
第 5章 山神さんちは大所帯
『神々の宴と酔いの情景』
宴の開始と神々の自由な振る舞い
楠木邸に集まった神々は、久々のお疲れ会と称し、風神や雷神も交えて宴を楽しんでいた。山神も小型化した身で酒を味わいながら、普段以上に満足げにふるまった。風神と雷神も「小さな体での食事は特別な感覚がある」と語り、神々は思い思いの酒を楽しんだ。
酔いの勢いと神々の本性
宴もたけなわ、応龍が酔いで浮遊しながら霊亀や麒麟とじゃれ合い始めた。麒麟は、普段真面目な応龍が酔うことで本性が露わになると苦笑したが、応龍は負けじと角をぶつけ合って戯れていた。鳳凰もまた梅酒に浸り、気ままなひとときを過ごしていた。
『神々と人間の関わり』
神々の視点から見た人間の行動
宴の合間、風神は「楠木邸の購入を検討していた人間たちを神域に招待した」と告げた。神域に放り込まれた人間たちは無事に帰されたものの、この神々の自由な行動に対し、山神は「少々過剰ではないか」と述べつつも許容していた。
雷神と風神の力の制御の難しさ
雷神は、自分の力を抑えずに使ってしまうことで成人体に戻れない状況をぼやき、風神もその小さな姿で問題なく過ごしている様子を見せていた。山神も同様に、己の神格の象徴としてその存在を尊びながらも、彼らの姿を静かに見守った。
『神々の放棄神域と湊の影響』
湊に与えられた神々の力と体質の変化
湊は、山神や風神、雷神から力を授かり、神域に引き寄せられやすい体質となっていた。三柱の神々は湊が神寄りの存在に変わっていくことを理解しつつも、湊自身が成長し自力で神域からの影響を制御できるよう導く必要性を感じていた。
神域の放棄と浄化の試み
神々は放棄された神域の浄化を試み、雷神は稲妻を放って上空の歪みを一掃した。雷神の力による雷鳴が響きわたり、山神もそれを認めるように静かに見守った。
『湊と眷属たちの山の探索』
山道での出会いと自然との調和
湊は早朝から眷属たちとともに山へ赴き、タケノコ掘りに励んだ。山道で出会った多くの動物たちは湊に協力し、タケノコの収穫を手伝った。熊やカモシカ、鳥たちがその場に集い、彼らの助けによって湊の旅は順調に進んだ。
山神の分身と湊への導き
湊と動物たちのやり取りを楽しむ中、山神がテンのウツギに憑依して登場した。山神は湊とともに収穫を喜び、湊が神々の力に慣れていく過程を温かく見守りつつ、自らも山の一部としての役割を実感していた。
『山の奥へと続く道と自然の豊かさ』
川辺の交流と湊への恩返し
タケノコ掘りを終えた湊たちは山の渓流へと足を運び、山わさびの収穫に向かった。川辺では魚たちが集まり、彼らは応龍への想いを湊に伝えた。湊も応龍の無事を伝え、自然との豊かな交流を続けた。
木々の間での冒険と山神の調和
山神はテンの身体を借りて木々の間を自在に駆け巡り、湊とともに深い森を探索した。山神は木登りを楽しみながらも、自然の中での己の役割を再確認し、湊が神々の加護のもとで成長していく姿に満足げであった。
『山からの帰路と静寂の池』
収穫を終えた帰路
山わさびの収穫を終えた湊たちは、静かな山道を下って帰途についた。動物たちも次々と姿を消し、湊の足音だけが響く中、山神は湊のバックパックに乗って休んでいた。穏やかな山道で湊は「ここはのどかだ」と感慨にふけっていたが、山神から「以前は荒れていた」と聞かされ、意外な歴史に驚いた。
静寂の池と悪しきモノの気配
帰路の途中、一行は静まり返ったため池に差し掛かった。池の周囲には生き物の気配がまるでなく、不自然なほど静寂が支配していた。山神によれば、この池は「悪しきモノ」が溜まりやすい場所であり、先ほど湊たちが来る前にトリカがそれを浄化していたという。トリカが霊道の存在も示唆し、湊は神域の神秘に触れることとなった。
眷属ウツギの不満とタケノコの天ぷら
一行のもとにウツギが現れ、山神に体を乗っ取られたことを愚痴りながらもタケノコの天ぷらに興味津々だった。湊はウツギたちに乳製品を使ったチーズフォンデュを提案し、彼らの期待をさらに膨らませた。
『春の山の幸と神々の宴』
庭での揚げ物と三瑞獣の食事風景
湊は庭にガスコンロを設置し、揚げ物の準備を整えた。タケノコや山菜の天ぷらが次々と揚げられる中、ウツギは食べる瞬間を待ちわび、さくさくとした食感に大喜びであった。また、応龍はチーズ、麒麟は枝豆、鳳凰はおはぎをそれぞれ楽しみ、各々の好みで食事を堪能していた。
チーズフォンデュと眷属たちの喜び
湊が特製チーズフォンデュを用意すると、ウツギやセリ、トリカら眷属たちが興奮しながら串を差し込んでチーズを味わった。三匹は夢中で食べ、温かいチーズの美味しさに虜になっていた。
『霊亀の帰還と春の歓び』
霊亀の豪華な土産と歓びの食卓
霊亀が背に豪華な重箱を載せて帰還した。湊は恐る恐る箱を開けると、そこには新鮮な海鮮類がぎっしり詰まっており、湊の不安はすぐに歓びへと変わった。神々や眷属たちは土産を手に、昼餉としてその海の幸を満喫し、春の宴が続いた。
温泉での安らぎと花びらの舞
湊たちは春の温泉で心身を癒した。桜の花びらが水面に舞い降り、触れるとすぐに消えてしまう情景は、まやかしながらも本物と見紛う美しさであった。山神も小型の姿で温泉内を泳ぎ、春の湯のひとときを楽しんでいた。
『新たな来訪者と春の出会い』
えびす神の登場と愉快な対話
温泉に突然現れたのは小太りのえびす神であった。湊に笑顔で話しかけ、「えべっさん」と気さくに名乗った彼の姿に、湊は驚きつつも神の気軽さに心が和んだ。えびす神は湊と庭の美しさについて語り、眷属たちの歓迎を受けながら、その場に溶け込んだ。
麒麟との対決と和解の春の景色
えびす神は庭にいた麒麟と目が合い、妙な対抗意識を燃やし始めた。しばしの睨み合いが続くも、最終的に麒麟が視線をそらし、静かにその場は収まった。再び和やかな空気が戻り、春の庭に新たな縁が芽吹いたようであった。
第 6章 お初にお目もじつかまつる
『狐の嫁入りと黒狐ツムギの登場』
天気雨と新たな来訪者
湊が裏門から庭へ入る頃、ぽつりぽつりと降り始めた雨はやがて止み、青空が戻った。庭に入ると、そこで黒い毛並みの小さな狐が塀に座っていた。湊は、山に住まう神の眷属だと名乗るその狐が露天風呂に魅了されている様子に、彼が温泉好きであることを察した。
ツムギの素直さと稲荷寿司への期待
湊が稲荷寿司の話を持ち出すと、ツムギは背筋を伸ばして名乗りを上げ、湊に相伴を求めた。食欲に負けたツムギは稲荷寿司を美味しそうに味わい、神の眷属らしい丁寧な口調で感謝を述べ、満足げな表情を見せた。湊はその姿を微笑ましく見守りながら、稲荷寿司の手作りがもたらす喜びを感じ取っていた。
『山神との交流と贈り物』
ツムギの贈り物と山神への挨拶
ツムギは稲荷寿司のお礼に、自分が住まう山でとれた金色の桃を湊に贈った。この桃は強い芳香を放ち、腐ることのない不思議な果実であった。湊は恐れつつもその贈り物を受け取り、山神が後に食べると聞いて安堵した。再会した山神にも挨拶を済ませたツムギは、湊と温泉について話し、自分も湯に浸かる許可を得た。
温泉と別れの場面
温泉を楽しんだツムギは毛並みに艶を増し、軽やかに空を飛ぶようにして山へ戻っていった。湊はツムギの去り際まで見送り、その不思議な存在感に心を動かされつつも、神域での生活の独特さを改めて実感していた。
『湊の苦悩と山神の言葉』
神域に住まう体質への不安
湊は神域に住むことによる影響で自らが「人っぽくなくなっている」と告げられたことに動揺し、山神に問いかけた。湊はこの神域での生活が普通ではないことを理解しつつも、人としての死を迎えられるのか、という根本的な不安を抱えた。
山神の力強い返答と湊の安堵
湊の問いに対し、山神は「必ず人として死ねる」と力強く応え、湊はその言葉に肩の力を抜いた。彼は庭の美しい桜の景色と温泉を見渡しながら、温泉の持つ魅力がこの地に不可欠なものだと改めて認識し、日常の中に潜む神秘と安らぎを再確認した。
第 7章 我が思い、ぬしに届くやうに
『霊獣たちの異変と疑惑』
霊亀と応龍の異様な様子
霊亀が大岩に腰掛けるような姿勢を取り、普段は半開きの目を大きく開け、動かないままであった。湊が近づいても微かに目を閉じるだけで、調子が悪そうな様子もないため、そのままそっとしておいた。一方で、応龍も異常な行動を見せ、水面から飛び出し華麗に飛翔する姿が頻繁に見られるようになった。美しい光景ではあるが、その勢いで水しぶきが麒麟にかかり、迷惑そうにしていた。
麒麟の奇行と恋の予感
麒麟は、えびす神と睨み合った日から、普段とは異なり屋根の上で寝るようになった。湊は、えびす神に特別な感情を抱いたのではと考えた。恋の季節に、麒麟が戸惑いを抱えているのかもしれない。湊は、恋愛の結果として麒麟と鳳凰が熾烈な争いを繰り広げる可能性を想像し、不安にかられた。
『鳳凰の指導と護符作成』
護符の鍛錬と鳳凰の教え
湊は護符の作成に集中していたが、妄想に駆られていると鳳凰から叱責を受け、姿勢を正して再び集中した。鳳凰は細かな助言を湊に与え、力の込め方について示唆した。湊は短期間でその技術を習得しつつあり、鳳凰の指導が湊の成長を促していた。
新たな眷属の予兆
一方で、山神が眷属の創造を進めている様子が見られた。山神は新たな生命体を誕生させる準備を進めており、湊は次なる眷属の姿に興味を抱いた。山神は詳しい情報を教えなかったが、湊は誕生の瞬間を楽しみに待つことにした。
『山神の和菓子への執着』
和菓子情報の収集
山神は、地元情報誌や和菓子店のホームページを調べ、新作和菓子や桜餅の情報を熱心に集めていた。特に『越前亭』の桜餅が紹介されているページでは、山神は感激しつつ、和菓子の魅力に心を奪われていた。しかし、越前亭の店主の写真を見た瞬間、山神は驚愕し、店主の体調が悪そうに見えることを懸念した。
『越前亭への救いの御業』
珠の誤射と越前亭への祈り
山神は店主の健康を回復させるために、金色の珠を創り出したが、くしゃみの勢いで珠が別の方向へ飛んでしまった。しかし、山神は「地球は丸いから」と考え、珠が巡り巡って越前亭に届くと信じ、問題ないと判断した。
湊は風を使って暴風を制御し、無事に庭の平和を守ることに成功した。最後に、穏やかな桜の花弁が庭へ舞い落ち、再び静けさが戻ってきた。
第 8章 続・春の悪霊祭
『廃病院の悪霊祓いと播磨家の奮闘』
悪霊との対峙:播磨と葛木の戦闘
廃病院内で悪霊が暴れ回る中、播磨は革手袋に護符を仕込んだ拳で、悪霊を次々と祓っていた。悪霊の俊敏な動きに対応するため、護符を節約しつつ直接攻撃で対処していた。葛木は廊下で護符を使用して悪霊を消し去り、戦闘に集中していた。
一条と堀川のやり取り
二階で除霊を行っていた一条は、危機に陥った堀川を助けるが、堀川の反応は冷淡であった。一条は彼女を助けたことに得意げな態度を見せたが、堀川の心情には変化が見られなかった。
『播磨家一族によるホールの浄化』
各自の役割と除霊
廃病院の一階ホールでは、播磨家の一族が個々の得意な武器や方法を用いて悪霊と対峙していた。特に、藤乃は薙刀を駆使し、広範囲の悪霊を一掃していた。一方、椿は無表情で太刀を振るい、冷静に除霊作業を続けていた。美形の播磨家一族による除霊の光景は壮観で、周囲に勇ましさと凄みを漂わせていた。
湊の護符の効果と浄化の威力
護符の力を使い、翡翠の光がホール全体を包み込むと、悪霊たちは跡形もなく消え去り、残る人の情念も浄化されていった。湊の護符は強力で、悪霊の除霊後に清浄な空気を保つ力もあった。この護符の威力によって播磨家のメンバーたちは安堵し、湊の存在に感謝していた。
『才賀の護符調達と播磨家の女性たちの興味』
護符調達の命令
除霊作業が一段落した後、播磨家の長姉・椿は才賀に護符の調達を命じた。才賀はその命令に従い、湊のもとへ護符を調達しに向かうことになった。
湊への興味と予感
播磨家の女性たちは湊に対して興味津々で、才賀に彼の容姿や性格について質問したが、才賀はその対応に戸惑いを見せた。藤乃は才賀に不吉な予感を告げつつも、穏やかな表情で送り出し、才賀は慎重に湊のもとへ向かうことになった。
第 9章 幽玄の庭
『楠木邸への訪問と神気の洗礼』
播磨と部下の訪問準備
播磨は部下と共に楠木邸を訪れた。部下は以前の訪問で神気に圧倒された経験があり、今回も同行を拒否した。播磨は部下を車に残し、楠木邸の清浄な空気に感謝しつつ、門をくぐった。
神域への歩みと圧倒的な神気
楠木邸内では、庭園の美しさと強大な神気が播磨を包んだ。特に桜やクスノキが放つ神々しさに圧倒され、播磨はその神秘的な光景に魅了された。庭には四霊の気配もあり、現世とは異なる異次元の雰囲気が漂っていた。
『湊との対話と山神への手土産』
湊と山神への手土産の受け渡し
播磨は縁側で湊に越後屋の甘酒饅頭を手渡した。これを喜ぶ山神の気配を感じ、播磨は神の存在感に改めて緊張した。山神の視線は饅頭に集中し、周囲には森林の香りが漂った。
湊の新しい護符と山神の加護
湊は新たに習得した力を使った護符を播磨に渡した。山神もその護符に力を加え、完全に悪霊を祓う力を閉じ込めるように仕上げた。播磨は新しい護符に感謝し、これが悪霊との戦いで効果を発揮することを期待した。
『播磨の疲労と神々の配慮』
播磨の疲労と湊の気遣い
湊は疲れた様子の播磨に温泉を勧めかけるも、山神の力で体質が変化する懸念から、結局思いとどまった。湊は播磨の健康を気遣い、短い滞在時間の中でも彼の疲労が和らぐよう努めた。
雷神による電撃ショックの提案
雷神が播磨に「電気ショック」をかけて活力を回復させようとし、播磨は困惑したが、湊は雷神の自由さに戸惑いながらもその効果を信じた。神々が周囲で駆け回る中、庭の桜が舞い、神々しい風景が広がっていた。
第 10章 その輝きは永遠
『湊と神木の世話』
水やりと神木の喜び
湊は毎日のように神木クスノキに水やりを行った。応龍の助けで霧状の神水がクスノキ全体に行き渡り、クスノキは風に身を委ねながら喜びの舞を見せた。湊は水やりの手間が減ったことを感謝しつつ、クスノキが自ら水量を調整してくれることに感銘を受けていた。
竜宮門の出現と霊亀の帰還
御池を管理する湊は、水の透明度を確認しつつ、竜宮門があることに驚いていた。ある日、霊亀が竜宮門から姿を現し、甲羅の一部が剥がれていた。湊は霊亀の異常行動が脱皮のためだったと知り、ほっと胸を撫で下ろした。剥がれた皮は特別な力を持つとされ、湊はこれを大切に保管することに決めた。
『瑞獣の再生と贈り物』
応龍と麒麟の脱皮と贈呈
応龍と麒麟も新たな姿で現れ、それぞれの脱皮した皮を湊に贈呈した。湊はその皮が持つかもしれない神秘的な力に驚きつつ、大切に保管することを誓った。また、瑞獣たちは軽妙なやり取りを交わし、神々の存在が持つ荘厳さと親しみやすさを同時に示した。
麒麟の鱗と庭の静けさ
麒麟もその姿を一新し、背毛が色とりどりに輝いていた。湊は麒麟の鱗を預かりつつ、その効能については慎重な姿勢を示した。瑞獣たちの穏やかな日常が戻り、湊は庭の静けさに癒された。
『クスノキの成長と再生』
異常な成長と再生の兆候
ある日、麒麟が起こした雨によってクスノキが大きく成長した。その成長は異様なもので、湊は戸惑いつつも、クスノキの健やかさを確認した。クスノキは嬉しそうに葉を揺らしていたが、成長が進みすぎてしまい、湊は新しいしめ縄を準備する必要があると感じた。
風神と雷神の介入と指導
風神と雷神がクスノキの大きさを指摘し、湊にクスノキを斬るよう指導した。湊は躊躇しつつも、風神の力で風を刃とし、クスノキを細かく切り刻んだ。風神と雷神の教えに従う中で湊の風の技は成長し、彼は自身の風を自在に操れるようになっていった。
『湊の新たな役割と決意』
神木の倒伐と再利用
湊は大切にしてきたクスノキを倒伐し、再利用する決意を固めた。クスノキは、瑞獣や庭を彩る大切な存在であったが、成長が過度に進んだことで管理の難しさが生じていた。湊はその巨木を最後まで大切に扱い、新たな形で庭に残すことを誓った。
風神の教えと新たな力の目覚め
風神と雷神は、湊が新たな力を身につけ、庭や神木の管理をより高い次元で行えるよう促した。湊は、今後も庭を守り続ける決意を新たにし、風の力を用いた管理に従事することとなった。その背後では山神をはじめとする瑞獣たちが見守り、湊の成長を温かく見つめていた。
『クスノキの再生』
切り株と湊の思索
湊はクスノキの根本に残された切り株を見つめ、風の刃で切断面を整えていた。クスノキの軟材が持つやわらかさと傷つきやすさに、湊は新たに使うには難があると感じていた。そのままテーブルとして使用する案を考えるも、長く綺麗な状態を保ちたいという想いがあった。
クスノキの枯渇と神木の特性
湊が考え込む中、地面に這う根の部分だけが急速に枯れ始め、丸い形が崩れ、消え失せていった。この現象に驚く湊に、山神が「神木だから」と語りかけた。湊が振り返ると、山神が歩み寄り、ふたりでその変化を見守った。
黒い種の出現と再生の兆し
枯れ果てた切り株から、山神が地面を軽く掘ると、黒い種が現れた。湊はその種が、かつて自分が植えたものと同じだと気づき、再び植えればゆっくりと成長するだろうと期待を込めた。湊が種に触れると、それがかすかに震え、彼はうれしそうに微笑んだ。
風に乗る残骸と湊の眠り
神威を帯びた風が吹き、枯れたクスノキの残骸は山へと流された。その風景を見届けた湊は、突然眠気に襲われ、山神の言葉を受け、種を手にしたまま家へと戻った。
第 11章 望まぬ招待
『山神と湊の奇妙な日常と神域の戦い』
山神の異常な様子
山神が日頃とは違い、座布団の上を転がり続けていた。湊が「どうしたのか」と尋ねたところ、山神は落ち着かないと答えた。山神は通常、動じない態度で存在感を示しているが、この日は特別に不安定であった。
桜の羊羹を拒否する山神
湊は桜の羊羹を勧めたが、山神は珍しくこれを拒否した。甘いものが好きな山神の拒否に、湊は驚き、異変を感じ取った。
クスノキの表札作成と設置
湊はクスノキの木材から新しい表札を作り、裏門に設置した。クスノキの香りと力が表札に宿り、表札が放つ光が神域をさらに強化した。
街への散歩と出会い
湊と山神が散歩中、道行く人々とすれ違いながらも、山神は目立たないよう慎重に歩いていた。しかし、一人の男性が山神を避けることができず、湊が助ける場面もあった。山神の存在は人には見えないが、その気配は感じられていた。
『越前亭』での桜餅の購入
湊と山神は春限定で営業する『越前亭』に訪れ、桜餅を購入した。店主は山神の存在を感じ取り、追加の桜餅を湊に渡した。湊はこの行為に感謝し、山神の特別な存在感を再確認した。
謎の神域への引き込み
湊が道を歩いていると、突然虚空の歪みが発生し、別の神域へと引き込まれた。山神もこれを追いかけ、湊と共に不気味な洞窟へと足を踏み入れた。この場所は異様な瘴気を放ち、湊と山神はその空気の重さを感じ取った。
元神霊の剣と山神の介入
洞窟の奥で、錆びついた剣を見つけた湊と山神は、その剣がかつて神霊を宿していたものだと理解した。山神は、この神霊を救済するため、前足で剣に触れ、神威を解放した。これにより、剣と神域は浄化され、剣は土と一体化した。
脱出と湊の新たな力の発揮
湊は崩壊する神域から脱出するため、風の刃を放つが最初は効果がなかった。山神の助言を受け、湊は神威を込めた風刃を使い、遂に洞窟の壁を斬り裂き、脱出の道を開いた。山神と共に界を超え、二人は無事に元の世界へと帰還した。
『湊と山神の旅路と遭遇』
播磨一族の悪霊除霊の疲弊
播磨一族の陰陽師たちは、悪霊の除霊活動により大きな疲労を感じていた。彼女たちは肌も髪も荒れ、服もよれよれで、泣き言を漏らしながら廃墟から出てきた。年少の藤乃が彼女たちを引率し、才賀も同意しながらも、さらに除霊が必要な場所へと向かっていた。
翡翠の光と山神の存在
突如、周囲に翡翠色の光が現れ、それが悪霊たちを浄化した。播磨一族の女性たちは、その光があまりに眩しくて湊と山神の姿を直視できなかった。才賀は藤乃と共に湊の姿を確認し、神聖な光の権化に感嘆していた。湊も一族に気づき、軽く会釈をしてその場を去った。
稲荷神社での狐神との遭遇
湊と山神が小さな稲荷神社の山を訪れた際、湊は狐神に引き寄せられた。湊は狐神の九尾に驚きながらも、山神に助けられて引き戻された。狐神が湊を見たかったのか、稲荷寿司が目当てだったのかは不明であったが、山神の助けで無事に引き離され、狐神の元へは行かずに済んだ。
山神の成長と湊の感謝
山神が湊を助けた後、湊は山神に感謝の意を示した。山神はその言葉に応え、徐々に元の巨躯に戻りながら堂々と歩き始めた。湊は山神の立派な姿を再確認し、尊敬の念を深めた。
第 12章 おやすみとおかえり
『湊と山神の静謐なる庭の日々』
山神の新たな眷属の誕生
神の庭では満開の桜が咲き乱れ、いつも美しい光景が広がっていた。その中で、山神が新しい眷属となる存在を珠に宿らせようとしていた。山神は湊の目の前で白い光の珠を取り出し、その中に剣の神霊を取り込もうとしたが、神霊は一度は躊躇した。しかし、最終的には珠の中に吸収され、融合が完了した。眩い閃光が湧き起こり、湊はその光景に目を見張った。
クスノキの種の成長と湊の願い
湊は庭の中心に植えたクスノキの種に水を与え続け、その成長を静かに見守っていた。神域の力で通常より早く芽吹くであろうことは理解していたが、今回はゆっくりと育ってほしいと願っていた。湊が水を注ぎ続けると、やがて土から芽が出て小さな葉が広がり、彼は種が再び生命を取り戻したことに感謝し、桜吹雪の舞う庭でその成長を祝福した。
桜の見納めと山神との対話
庭を取り囲む満開の桜も、時期が終わりを迎えようとしていた。湊は山神と共に、この幻想的な桜の景色を最後に楽しみ、心に刻んでいた。山神が「花見」について尋ねると、湊は酒は呑めないが庭の美しさを日常の中で堪能していると答え、桜の下で騒ぐ必要は感じていなかった。彼は団子を用意し、桜吹雪の中で山神と共に静かな時間を過ごした。
眷属たちの訪問と風神・雷神の登場
縁側で休息を取っていた湊の元へ、山神の眷属たちが訪れ、木苺の実を持参した。自由な末っ子のウツギは先を急ぎ、トリカに叱られながらも嬉しそうに実を差し出した。そこへ風神と雷神が現れ、縁側に並んで湊と交流した。湊は神々と穏やかなひとときを過ごしながら、日常の中で感じる神の存在に改めて感謝していた。
麒麟の帰還と神域の交流
しばらくぶりに麒麟が帰還し、湊に珍しい果実である龍眼を手渡した。麒麟と応龍の間には競り合うような様子も見られ、霊亀や山神もその光景に呆れながらも微笑んでいた。山神家の新たな眷属は石灯籠の中で眠りについており、いつか再び会える日を楽しみにして湊は桜吹雪を見納め、庭の美しい光景を目に焼き付けた。
秘技! 山神流、表札の割り方
『山神の挑戦と真ん中の線』
巨岩での挑戦
御山の中腹、山神の居住地にて、山神が小狼の姿で表札作りに挑んでいた。彼の前足で木材に一本の正確な亀裂を入れることを目指していたが、毎度失敗に終わり、木材は粉々に砕けてしまった。幾度も挑戦するも、亀裂が不規則に入り、山神の目的とする美しい正中線にはならなかった。眷属のセリは新たな木材を準備し続け、山神の挑戦を静かに見守った。
新たな試みと成功
山神は最後の木材を前に、決意を固めて挑戦を続けた。最終的に、自身の爪を鋭利なカッターナイフのような形状に変化させ、木肌を正確に一筋の線でなぞることで、見事に真ん中に浅くも深くもない完璧な亀裂を入れることに成功した。セリはその成果に対して称賛の言葉を贈り、山神の尽力を讃えた。
湊との対話と山神の見栄
湊が裏門から戻り、山神の作成した表札を手にして彼を褒め称えた。湊の言葉に山神は誇らしげに鼻を鳴らし、自身の功績を示したが、その裏には幾度もの失敗が隠されていた。山神は見栄っ張りであったが、その努力と成功を湊やセリは静かに喜んだ。
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