小説「神の庭付き楠木邸 4」武蔵出版社に神降臨 感想・ネタバレ

小説「神の庭付き楠木邸 4」武蔵出版社に神降臨 感想・ネタバレ

どんな本?

『神の庭付き楠木邸』とは、えんじゅ氏による小説である。
この物語の主人公は、悪霊を祓う力を無自覚に持つ楠木湊であり、彼が管理人として赴くことになった一軒家を舞台に、さまざまな神々や霊獣、時折陰陽師たちと穏やかに交流する内容である。

湊の無意識の祓いの力により、曰くつきの家が清められ、その居心地の良さに惹かれた個性的な神々が集まり始め、次第に庭が神域へと変貌していく展開である。
甘味を好む山神や、モフモフとした姿の眷属、酒好きの霊亀など、特徴的なキャラクターが多く登場し、湊とともに独特の世界観を築いている。

この作品はウェブ小説投稿サイト「小説家になろう」や「カクヨム」に連載され、書籍版もKADOKAWAから刊行されている。
また、電撃だいおうじでのコミカライズも進んでいる。
なお、神々や眷属たちは主に獣型であり、人化しない設定で描かれているのも特徴の一つである。

神々や霊獣たちとの穏やかな日常と、時折巻き込まれる厄介事にもマイペースに対処する湊の姿が、読者に和やかな読後感を与える作品である。

読んだ本のタイトル

神の庭付き楠木邸 
著者:えんじゅ
イラスト:ox

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あらすじ・内容

隣神との賑やかスローライフ第四弾! 今度は町にお出かけです。

最近、護符作成に忙しい楠木湊。リフレッシュのため、山神は町へのお出かけを提案する。
 甘味に舌鼓を打ったり、おもちゃ屋で童心に帰ったり、山神ご贔屓のタウン誌の出版社にお邪魔したり……。気ままな時間を過ごすふたり。
 さらには新しい神様や妖怪たち、そして懐かしい再会もいっぱいで……!
 お隣のモフモフ神様とのスローライフ、第四弾! 町は梅雨真っ盛りですが、賑やかな休暇の始まりです。

神の庭付き楠木邸4

感想

湊と山神が南部の街を訪れたエピソードが、丁寧に描かれていた一冊であった。
タクシーに乗りはしゃいでいた山神は、すぐに飽きてしまい、車の上から景色を楽しむ姿が微笑ましかった。
また、古くから山神ご贔屓の甘味処やおもちゃ屋で童心に帰る様子も楽しく、長年和菓子記事を書き続けてきた雑誌社の社員たちが、山神が記事を読んでくれていることを知り感涙するシーンも印象的であった。
湊もまた、新たな行きつけの洋食屋を見つけ、その居心地の良さに惹かれたようである。

さらに、湊が地元の神様や妖怪たちとの懐かしい再会を果たし、新たな神々とも触れ合う展開は温かみがあり、ほっこりとしたスローライフの中に深い繋がりを感じられた。
山神が湊の疲れを察し、散策を提案した心遣いも、互いを気遣う関係が描かれており、読者に癒しを与えてくれる内容であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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神の庭付き楠木邸4

その他フィクション

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フィクション(novel)あいうえお順

備忘録

第 1章  世間は梅雨でも、楠木邸は春一色

楠木邸の初夏と庭の散策

梅雨の季節が訪れ、周囲の御山には雨が降り続いていたが、神域となった楠木邸は春の穏やかな気候を保っていた。庭に流れる川の小道を管理人である湊が散策していると、庭の中心に位置するクスノキが急成長し、ミニチュア版の大木の姿を見せた。湊はその成長に感動し、喜びを隠せなかった。

隣町の神の眷属と銀鯉の訪問

滝の音に気づき、湊がそちらを見やると、隣町に住まう神の眷属である金の鯉と稚魚たちが姿を現した。銀の鯉も現れ、湊に夏みかんを贈呈。神からの施しを素直に受け取った湊は、いただいた夏みかんを一つ手に縁側に戻る。

新しい神霊の存在と夏みかんの反応

夏みかんを手にした湊は、ひょっとしたら神霊が興味を示すかもしれないと考え、石灯籠の前に供えた。神霊は鳳凰の火袋とは別の暗い火袋の中に眠っていたが、微かに反応し、ガラス窓を叩く音を立てた。夏みかんに興味があるようだったが、湊が見守ると再び静かになった。

木彫りの制作と山神との対話

湊は庭の散策を終えると、再び座卓に戻り木彫りの作業に取り掛かった。作業に熱中するあまり疲労がたまっている湊に対し、山神は無理をせず、時には休むよう諭す。そのアドバイスに従い、湊は一時的に制作を中断することにした。

御山の整備計画と山神の許可

湊は近々、山神の力を高めるために御山を整備し、山に人を呼び込むことを提案する。湊の真剣な提案に対し、山神は「好きにせよ」と許可を与えた。山神への感謝を述べた湊は整備計画を心に決め、次に御山の所有者に許可を取る方法を考えた。

きび団子屋の特集と和菓子への興味

山神が興味を示していた地域情報誌には、南部のきび団子屋「周防庵」の特集が組まれていた。山神が期待感に溢れ、明日その店へ行くことを提案したため、湊は南部への訪問を決めた。

神霊と夏みかんの消失

湊が再び石灯籠を振り返ると、供えた夏みかんが消えていた。神霊が素早くかっさらっていったらしく、湊はその姿を見ることはできなかったが、いつか会える日を待ちわびながら庭を後にした。

ウツギの素早い来訪と夏みかんの贈り物

山側の塀に湊の呼びかけで現れたウツギは、すぐに縁側に到着し、夏みかんを目にして喜んでいた。湊から贈り物の夏みかんについて「銀の鯉からのもの」と説明され、ウツギはこれを受け取り、香りを楽しんだ。

銀の鯉の正体と湊の神気の成長

ウツギは「銀の鯉はただの眷属ではなく、神である」と明かし、湊も薄々感じていた神気が正しいと確信を得た。湊がその違いを理解し始めていると知ると、ウツギは彼を称賛した。

ウツギの能力と修行の成果

ウツギは夏みかんを自分の神域である小さな部屋に瞬時にしまう技を見せた。これが修行の成果であると誇らしげに説明し、追加で渡された夏みかんも同様に保存した。眷属たちは、初物は皆で分かち合う習慣を持ち、独り占めはしない。

山神の眠りと湊の外出計画

一方で、山神は呼び出したにもかかわらず眠りについていた。湊は翌日に山神と南部に出かける予定をウツギに伝えると、ウツギは快く楠木邸の護りを引き受けた。ウツギは「お土産を期待している」と告げ、軽やかに御山へと戻っていった。

第 2章  お出かけ日和第

快晴の朝、南部への旅立ち

湊と山神は、快晴の空の下、朝早くから南部への散策と甘味巡りのため表門前でタクシーを待った。湊は晴天を喜んでいたが、山神は少し落ち着かない様子で車道に集中していた。やがてタクシーが到着すると、山神はその大きな体で後部座席に乗り込んだが、車内が狭く、湊もやや窮屈そうであった。

初めてのタクシー体験と外の風

山神はタクシーに乗ること自体が初めてで、興味津々の様子であった。湊の提案で窓を開け、外の風を浴びて楽しむ山神は、車内よりも自然の風のほうが心地よいと満足そうにしていた。途中、山神は「車は鈍い」と不満を漏らすが、安全のためであると湊が説明し、納得して車窓からの景色を眺めた。

南部の景色と過去の変化

タクシーが南部に近づくと、山神は街並みや道が増えていることに感慨を抱き、昔は道もなく集落が点在していただけだったと語った。湊はその変化を興味深く聞き、しばらくの間、二人で昔と今の風景について話をした。

山神のタクシー脱出と人々の反応

突然、山神がタクシーの天井を突き抜けて外へと出ていった。湊は驚いたが、山神はそのままタクシーの上から街並みを見渡し、過去と現在の違いに驚いていた。これを見た通りすがりの人々が「白い犬が乗っている」と指をさし、騒ぎになる場面もあったが、山神は気にせず堂々としていた。

南部の到着と街の散策計画

タクシーが予定より早く到着し、湊はスマホで目的地を確認しながら、街の散策を始めた。まずは「あじさい遊歩道」へ向かい、山神も近くの和菓子屋を楽しみにしている様子であった。湊は散策をゆっくり楽しむつもりで、山神の興味に合わせて次の行き先を検討した。

道祖神との遭遇と穢れの祓い

散策の途中、道端にある道祖神を見つけた湊と山神は、ふとその神像に目を留めた。湊は道祖神に悪霊が憑いていたことに気づき、山神の助力で浄化を行った。悪霊が消え去ると道祖神の表情も和らぎ、山神も満足そうであった。

神域への吸引と山神の対処

再び歩き出した湊がふとした瞬間、神域に引き寄せられそうになった。山神はその引き込みの原因をすぐに見極め、湊を助け出した。湊は神域に引き込まれるたびに疲れてしまうことを告白し、山神は「神域の判断ができるようになれば、入り込まずに済む」と励ました。

風の精たちとの交流と神域の浄化

散策の途中、風の精たちがいたずらに神域の残骸を湊の周囲に降らせた。湊はその神域の有無を次々に確認し、山神が不要な神域を次々と踏み潰していった。風の精たちのいたずらは湊を苦笑させたが、これが神域判断の訓練となり、湊は着実に成長していった。

休憩と大判焼きでの甘味タイム

風の精の騒動が落ち着くと、山神は甘い物が疲れを癒すとして、大判焼きの屋台に湊を誘った。湊は出来立ての大判焼きの味わいに感動し、山神もこし餡を堪能していた。二人は地元の和菓子名について語り合いながら、のんびりとした甘味の時間を楽しんだ。

南部散策の再開

大判焼きを食べ終えた湊と山神は、再び散策を続ける準備が整った。湊は神域の気配を警戒しつつも、甘味巡りを含む今日の散策を存分に楽しむ決意を新たにした。

第3章  咲き誇るあじさい

あじさい遊歩道の散策

湊と山神は、見渡す限りあじさいが咲き乱れる遊歩道を歩いた。雨上がりのあじさいが鮮やかに輝き、青から紫、白へと色を変えて見事な景色を形成していた。湊は花の種類や色の違いに感心し、山神からあじさいの特徴について教えられた。また、山神は以前訪れていたという白いあじさいが咲き乱れる丘の上にあった汁粉の店がなくなっていることに寂しさを覚えた。

悪霊がいた湖への訪問

南部の散策を続ける中、湊は以前、悪霊の浄化で訪れた湖を思い出した。山神の提案で湖に立ち寄り、現在も清らかな水が保たれていることを確認した。湊が湖の浄化に用いた護符には山神の神気が込められており、周囲の清浄を維持していることを理解した。

親方との再会とお社の建築現場

湖の近くでお社の建築に従事する親方と再会した湊は、親方の健やかな姿に驚いた。親方は以前、鳳凰の助けで肩の痛みから解放されており、湊もその恩恵を目の当たりにした。親方との会話で、大工仕事への関心を持つ湊の様子が見て取れた。

すずらんと風鈴の音色

湊と山神は帰り道に、すずらんが咲き誇る家の前を通り、清らかな香りを楽しんだ。しかし、山神からすずらんが強い毒性を持つことを教えられ、湊は驚いた。その後、和風の店舗で多数の風鈴が奏でる音色に耳を傾け、風の精たちのイタズラで風鈴が次々と音を奏でる様子を楽しんだ。

風鈴の音を懐かしむ湊

店先の風鈴に描かれた金魚の絵を見た湊は、昨年しまい込んだ自宅の風鈴を思い出し、山神とともに風鈴を出す時期について話した。風鈴を出すことで楠木邸の夏らしさが増すが、湊は世間との季節感のズレを懸念しながらも、夏の訪れを楽しみにしていた。

第 4章  きび団子屋をご一緒に

周防庵でのきび団子堪能

湊と山神は老舗のきび団子屋「周防庵」を訪れた。山神から「ただのあばら家」と称された店舗であったが、改装され、伝統の外観を保ちつつ趣ある佇まいを見せていた。店主から出されたきび団子を山神が特に気に入り、湊もその素朴な味わいに心を和ませた。山神は、昔の南部での懐かしい甘味屋についても触れ、変わらない味の継承に安堵していた。

幼女との出会いと「山神ちゃん」発言

きび団子を楽しむ中、店舗の裏から幼女が現れ、山神のことを「山神ちゃん」と呼び親しんでいた。幼女は祖父である店主とともに山神のことを知っており、代々伝えられてきた様子であった。山神はその表現に特に不快を感じることもなく、幼女と湊のやり取りを静かに見守っていた。

黒い眷属ツムギの登場と会話

突然、黒狐の眷属ツムギが姿を現し、湊と山神に挨拶した。ツムギはきび団子に興味津々で、湊から勧められると喜んで堪能した。会話の中で、湊はツムギを通じて天狐のことをより理解することができた。ツムギは湊への感謝の気持ちを示し、近いうちにお礼を持参すると決意を表明して去っていった。

越後屋と越前亭との遭遇

湊と山神は散策中、サイドカー付きのハーレーに乗る越前亭と、助手席に座る越後屋に出会った。二人はラーメンの好みを巡って一時口論となるも、最終的に穏やかに収まり、そうめんを食べに向かった。山神はこの二人が相変わらず元気であることに呆れつつも、和やかな表情を見せた。

花の毒性についての雑談

道中、山神がクチナシやダチュラといった花々について毒性の有無を湊に説明した。湊は身近な植物にも毒性があることを驚きつつ学び、さらに自身の眷属であるセリやトリカなどの名前が毒草由来であることを知って衝撃を受けた。山神はこの名付けに、「可愛らしい見た目に侮れぬ威厳を込めた」と語り、湊もその奥深さに感心した。

第 5章  まがい物の退魔師

『楠木邸の来訪者と奇妙な出会い』

退魔師たちの来訪と不敬な態度

楠木邸の表門にタクシーが停まり、退魔師の男たちが降り立った。彼らは短軀と長軀の二人組で、敷地内を覗き見しながら粗雑な言動を繰り返した。短軀の男が田んぼの匂いを嫌悪し、長軀の男は冷笑しながら応じたが、二人とも非常に礼を欠いていた。その後、敷地内に強引に入ろうとし、眷属たちからの怒りを買った。

山神の指示と眷属の対応

門上で不機嫌な様子の眷属たち、ウツギ・トリカ・セリは、退魔師たちの粗雑な行動に堪えかねて、山神に念話を送り、対応を仰いだ。山神はその報告を受けて冷静に判断し、眷属たちに対して「好きにするがよい」と指示を下した。喜んだ三匹の眷属は早速、退魔師たちに対して反撃を開始した。

湊と懐かしいペンギンとの再会

一方、湊は街を歩きながら興味を引かれた路地に入り、懐かしいペンギンのぬいぐるみと再会する。幼少期に自ら命名したぬいぐるみが、まるで生き物のように動き回り、湊に懐いてきた。その後、ペンギンのみならず、ザトウクジラやホオジロザメも現れ、湊を取り囲んだ。湊はかつての思い出が蘇り、微笑みながらそれらと触れ合った。

葛木小鉄とのすれ違い

その後、湊はペンギンを連れている男性、葛木小鉄とすれ違うが、彼は湊に気づかず、式神たちを連れて去っていった。湊は、彼が陰陽師であることを知らず、かつての宿泊客と再会したと誤解しつつも、懐かしさを胸に抱えたまま道を戻った。

奇妙な陰陽師一条の災難

一方、悪霊祓いを共にしていた一条は、道中で災難に見舞われていた。突風や猫たちの跳躍によって混乱し、泥まみれになりながらも湊と交わることなく帰路についた。一条は湊の存在に気づかないまま、彼との再会は永遠に遠のいていった。

山神との再会と平和な日常への帰還

薄暗い路地を抜け、広小路に出た湊は山神と合流した。山神は、途中で香ばしいこし餡の香りを感じ取り、湊と共にそれを目指すこととなった。彼らは再び広小路を歩き出し、人々が道を開ける中、静かに目的地へ向かった。

第 6章  届かない恋文

『山神と武蔵出版社の因縁と神の訪問』

山神と武蔵氏の因縁

山神が愛読していたのは、武蔵出版社が発行する情報誌のみであった。これは、武蔵出版社の社長の先祖である武蔵と知己であったためである。昔、山を降りた山神は、町中で武蔵という中年男性に拝み倒された。武蔵の息子が怪我をしており、医療の未発達な当時、腕が壊死しかけていた。山神は「神は生贄を求めぬ」と伝えることを条件に、息子を助けた。それ以来、武蔵は山神に甘味を提供し、山神の好物であるこし餡や和菓子の情報をかわら版に載せるようになった。この関係は現代でも続き、情報誌に和菓子特集が毎号掲載されている。

山神のための情報誌と記者の葛藤

武蔵出版社の記者である十和田薫は、和菓子特集の担当であり、山神が記事を読んでいることに半信半疑であった。社長から代々伝えられる「山神様が町に訪れる日を心待ちにしている」という言葉に付き合わされ、担当者たちは山神の好みに合わせた和菓子記事を書き続けていた。しかし、十和田は何年も山神が現れないことに不満を抱いており、自嘲を込めた愚痴を漏らしていた。さらに、悪霊に取り憑かれやすい体質で苦しんでいた彼は、社内で遭遇する悪霊への恐怖に怯えつつ、救いを求める気持ちでいた。

山神の訪問と悪霊の退散

十和田が悪霊に襲われている最中、突然その悪霊が消え去る。十和田は驚愕し、何が起きたのか理解できなかったが、ふと視線を上げると山神の眷属である湊が出版社の前に現れているのを目撃した。湊は、山神が記者の名前を確認し、社内へ向かう様子に驚きを隠せなかった。山神は十和田に和菓子記事を楽しみにしていたことを告げ、長年の思いが報われた記者たちは歓喜の声を上げた。

山神に対する誤解と喜びの訪問

山神は社のロゴと同じく厳かな狼の姿で現れ、社員たちが抱いていた「山神は女性である」という誤解を正した。長年の担当者たちは、山神の訪問に歓喜し、長きにわたる記事が山神に届いていた事実に涙した。湊もまた、和菓子特集が単なる装飾ではなく、山神に向けた真心が詰まっていることを確信した。

再び楠木邸への来訪者と三匹の眷属の守り

一方、楠木邸には二人の退魔師が無礼な態度で訪れていた。彼らは格子戸を叩きながら、楠木邸の住人を無理に起こそうとしていたが、門を閉ざす三匹の眷属に見守られていた。短軀と長軀の退魔師は、敷地内に入り込むが、門が閉じると同時に眷属たちは忽然と姿を消し、楠木邸には奇妙な静けさが広がった。クスノキたちが風に揺れざわめく中、彼らは敷地内で待ち受ける運命に気づいていなかった。

第 7章  招かれざる客ども

『楠木邸を訪れた退魔師たちと眷属たちの制裁』

楠木邸への不届きな訪問

退魔師である短軀の男と長軀の男は、遠慮なく楠木邸の玄関扉を叩きながら訪れた。自然の静けさに気づかぬまま、彼らは無遠慮に邸内へと足を踏み入れた。玄関を抜けると、家中に爽やかなみかんの香りが漂い、やがて薄れていったが、二人は特に気に留めなかった。

「くすのきの宿」からの呪い

短軀の男は「くすのきの宿」から宿泊者用のキーホルダーを盗んでいたが、その行為は座敷わらしとの誓約に違反していた。宿に棲む座敷わらしの存在と恐ろしさを知っていた長軀の男は、短軀の男の不用意さに怒り、仲間としての縁を切る決意を固めていた。彼らは邸内を探索し、和箪笥から護符を発見したものの、強烈な霊力に圧倒され、触れることを断念した。

繰り返される悪夢と眷属たちの制裁

邸内を進んだ退魔師たちは、続く和室の異様さに気づかぬまま、次々と襖を開けて進み続けた。やがて、どこからともなく夏みかんの香りが漂い始め、それが合図となり、彼らの運命が繰り返されることになる。短軀の男は毎回、毒入りのみそ汁を摂取した後に頓死し、そのたびに記憶を消され、玄関から再スタートさせられた。眷属たちは夏みかんの芳香をトリガーとして、退魔師たちに恐怖を植え付ける仕掛けを施していたのである。

退魔師たちの逃亡と再訪の恐怖

退魔師たちが百八回目の試行を経て、玄関扉を開いた瞬間、強烈な夏みかんの香りに襲われた。顔面蒼白になった二人は、慌てて屋敷から逃げ出し、神域を後にした。肩をつかみ合いながら走り去る二人を見送り、眷属たちは和やかな空気の中、楠木邸の神域を解いた。彼らは再び訪れるかもしれない不届き者に備え、夏みかんの香りを利用して対策を講じることを決意した。

眷属たちの結束と未来への思案

退魔師たちの去った後、三匹の眷属たちは自らの役目に誇りを持ちつつ、御山への帰路についた。彼らはまたいつか人間と接触する時が来るかもしれないと考え、見聞を広げるべきだと感じていた。次なる退魔師の侵入に備え、神域にふさわしい護りの策を練り続ける決意を胸に、彼らは山神に守られた日常に戻ったのである。

第 8章  妖怪は、ひっそり存在しているとは限らない

『山神と湊の横丁巡りと楠木家の暮らし』

横丁での昼食探し

昼下がりの横丁、山神と湊は雑多な人々をかき分けて歩んでいた。山神は満足そうに甘味を楽しみ、湊は空腹で腹をさすりながら歩いていた。やがて湊は、香ばしいカレーの香りに惹かれ、赤煉瓦ビルの食堂「美作食堂」に足を向けた。山神はそれに賛同し、ふたりで店内に入った。

神気と妖怪の漂う店内

美作食堂の店内では、スパイシーな香りが漂い、カレーを注文する客が多かった。湊は席について周囲を観察すると、他の客たちにも不思議な光景が広がっていることに気付いた。ある客は見えない存在とカレーをシェアし、別の客のコーヒーカップは神気に包まれて浮いていた。湊は、山神の助言を聞きつつ、異変を楽しみながら注文を済ませた。

神々と付喪神との対話

山神は湊に、食堂内のドアベルやカレーを食べている客のハサミが付喪神であることを教えた。湊は、自宅の風鈴も実は付喪神であると知らされ、今年の夏には大切に扱おうと決意した。また、店内の他の客たちが自然に人ならざるものを受け入れている様子に感心し、自分の家族も同様に座敷わらしを大切にしていることを思い出した。

楠木邸と「くすのきの宿」の座敷わらし

一方、楠木邸では座敷わらしが静かに過ごしていた。彼女は湊からもらった駄菓子を食べつつ、近くにある「くすのきの宿」を訪れる準備をしていた。宿には悪霊が憑いている客が定期的に訪れるが、表門や客室に置かれた湊の手作りキーホルダーや表札が、彼らを浄化する力を持っていた。座敷わらしは、湊の作った物が客の命を守る存在であることを認識していた。

「くすのきの宿」での退魔師たちの冒険

宿泊客の一人、退魔師の若者たちは、宿から表札やキーホルダーを無断で持ち出そうとした。しかし、座敷わらしは彼らの運をひとつ残らず奪い取った。退魔師たちはその後、不運続きの人生を歩むことになるだろう。座敷わらしは、彼らに対して容赦ない制裁を加え、楠木家の住まいを守ることを誓った。

湊の帰省を決意

美作食堂に戻り、湊はようやく注文したカレーを楽しみながら、家族や座敷わらしのことを思い出していた。彼は家族や故郷の温かさを思い出し、今年は久しぶりに帰省することを決意した。

第 9章  いろいろ不思議なお店

『山神と湊の木彫り探しと新たな縁』

美作食堂での昼食と満足

湊と山神は、美作食堂での食事を満喫し、愛想のよい店員と心地よいドアベルに見送られて表通りに出た。湊はまた訪れたいと望み、山神もそれを快く受け入れた。二人は充実した昼食を終え、湊は木彫りに使う組紐を探すため商店街を歩き出した。

いづも屋との出会い

商店街の一角で湊は、控えめな外観の雑貨店「いづも屋」に惹かれた。和風の建物と紅色の暖簾が特徴的で、店の周りには清浄な空気が漂っていた。湊はその引き寄せられる感覚を信じ、山神と共に店内へ足を踏み入れた。

店員との奇妙な対話

いづも屋の店内に入ると、店員が湊と山神の存在に驚き、奇声を発して震え始めた。山神の神威に対する強い反応から、湊は店員が神の存在を肌で感じ取れる特別な人物であることを察した。山神も彼を試すかのように近づき、離れ、店員を弄ぶような態度を見せたが、店員はその圧力にも慣れてきた様子を見せ、最後には毅然とした態度で山神を迎えた。

特別な組紐との出会い

湊は組紐の棚に目を止め、特に萌葱色の平打ち紐に心惹かれた。店員からこの組紐が神域で作られた特別なものであると説明を受け、湊はその言葉に一層興味を深めた。また、店員は湊が全身に神気を纏っていると見抜き、自らも寺で修行を積んだことを明かした。

木彫りの特別な力と店員の願い

湊が木彫りの狼を見せると、店員は驚愕と歓喜に包まれ、その神聖さを実感した様子を見せた。湊の木彫りには祓いの力が封じ込められており、店員はその特別さを見極めていた。店員は湊に、ぜひこの木彫りを店で販売してほしいと頼み込み、湊は少々戸惑いながらも、その真剣な申し出に心を動かされた。

木彫りの卸し契約

湊は、木彫りの製作に時間がかかるため、多くは提供できないと伝えたが、店員はそれでも一つでも十分だと感謝の意を示した。山神もまた湊の決定を尊重し、湊はついに木彫りを卸すことを承諾した。

第 10章  その怪は、商店街を震撼させた

『湊と山神の商店街独楽勝負』

雑貨店「いづも屋」を後にして

湊と山神は、和雑貨店「いづも屋」での買い物を終え、商店街を歩きながら、店員との出会いについて語り合った。湊は、自分と同じように神気を感じられる人物がいることに安堵し、山神と些細な会話を交わしていた。

子どもたちと独楽遊び

二人の目に飛び込んできたのは、おもちゃ屋の前で独楽を楽しむ子どもたちの姿であった。湊は懐かしさを覚え、山神と共にその場に引き寄せられた。やがて子どもたちが離れた後、残された土俵と独楽を使って、二人は独楽遊びを始めることとなった。

山神の挑戦と初めての失敗

湊が独楽を回す姿を観察した山神も、挑戦を決意し、独自の方法で独楽を投げた。しかし、独楽は土俵の外へ飛んでしまい、回転も安定せずに失敗。悔しがる山神は再挑戦を誓い、湊の指導のもとで投げ方を改良しながら少しずつ腕を上げていった。

独楽回し勝負の開始

湊と山神は、独楽回しの勝負を始め、互いの独楽を土俵内でぶつけ合う喧嘩独楽の形式で競い合った。湊は独楽を安定して回し、山神の独楽を土俵の外へ弾き出すことに成功するが、山神はさらに闘志を燃やし、湊の技術に追いつこうと繰り返し挑戦した。

土俵を広げての最終決戦

山神は土俵の広さに不満を抱き、広めの土俵を使って再挑戦することを提案した。二人は独楽を次々と投げ入れ、どれだけ多くの独楽が回り続けるかを競う形式に変更。激しい競り合いの末、山神の独楽が土俵に君臨し、ついに山神が勝利を収めた。

勝利の遠吠えと伝説の始まり

勝利した山神は、商店街中に響き渡るほどの遠吠えをあげ、その声が周囲の人々に「白昼の商店街に突如響いた犬の遠吠えの怪」として語り継がれることになった。この出来事により、二人の独楽勝負は商店街に小さな伝説を残したのであった。

第 11章  そのモノ、最初から知っていた

『帰路と新たなる出会い』

タクシーでの帰路

湊と山神は散策を終え、タクシーで帰路についた。しかし、運転手が山神の気配を感じ取れる者であり、不安を募らせた結果、運転が不安定になったため、やむを得ず楠木邸の近くで降車することとなった。日も傾き、侘しい街道を二人は歩いて帰ることにした。

道中の会話と湊の決意

湊は本日の散策で得た出会いと出来事に満足感を抱きながら、木彫り用の紐の購入や縁のつながりを喜んでいた。また、自らの選択によって良縁を引き寄せていると山神に励まされ、さらに御山の所有者について調べる決意を新たにした。

神域の入り口との遭遇

楠木邸の細道へ差し掛かった時、突如として神域の入り口が出現した。湊は山神の助言を受け、神域内に神の存在を感じ取りながら中に入ることを決意。神域に入ることで、自己の成長と経験を積む必要性を感じながら、勇敢にその扉をくぐった。

神域での出会いと異時の女性

神域内で広がる稲穂の絨毯を歩いていると、湊は一人の女性と出会う。彼女は湊と同年代の裏島という女性で、湊に出会うまでここで過ごしていたが、世間では4年もの歳月が経過していることを知らずにいた。湊からその真実を告げられた彼女は戸惑いつつも、帰宅の決意を新たにし、神への挨拶を済ませるため家屋へと向かうことになった。

田の神との対峙と勝負

神域の主である田の神が姿を現し、湊に戦いを挑む。田の神は遊びとして湊に風神の力を試させ、湊もまた神の挑戦に応じて奮闘。田の神は巨大な土の手を操り、湊を圧倒しようとするが、湊も風の刃や神の力で応戦し、最後には田の神を一瞬ながらも封じることに成功した。

裏島との別れと再会の約束

勝負が終わり、田の神が裏島の帰宅を許したことで、湊と裏島は共に神域を後にした。裏島は自宅へ戻る途中、湊と再会を約束し、彼を信頼して別れを告げた。湊にとっても、田の神との新たな縁が生まれ、近隣の神としての関係が深まる契機となったのであった。

裏島家との縁と山の整備計画

湊は裏島を送り届けた際、彼女の家族と対面し、山の整備を申し出た。彼らから快く許可を得た湊は、御山の整備を開始することを約束し、地域との新たな関係も築かれた。

第 12章  楠木邸で和やかなひとときを

神域の現れる神秘的な都市

湊は、低層ビルの屋上から隣のビルへ飛び移り、奇妙な空間で戦い続けていた。周囲に人影もなく、無人の道路が張り巡らされていた。その場に現れたスサノオと対峙し、湊は逃げるも破壊の嵐が続き、スサノオの容赦なき攻撃をかわしつつ、自らの限界を感じた。

スサノオとの試練

スサノオが「極限の力を引き出せる」という言葉を湊にかけ、最終的に湊を楠木邸上空から突き落とす。湊は自身の能力を試される形となり、風の精たちの助けで無事着地するも、スサノオの厳しい性格を再確認することとなった。

神霊との出会い

湊は、楠木邸の石灯籠の火袋にこもる神霊と交流を試み、夏みかんをむいて手渡すことで信頼を深めようとする。神霊は顔を見せず、かすかに興味を示しつつ、湊がむいた夏みかんを受け取って楽しむ様子を見せた。

四霊からの加護

楠木邸の眷属である霊亀、応龍、鳳凰、麒麟は、湊にそれぞれの加護を与える過程で若干のアクシデントが生じる。特に麒麟は初めて人間に加護を与える際に、思わぬ力の加減を間違え、湊に痛みを与えつつも成功させた。湊は四霊の加護を初めて受けた人間となる。

川遊びと桃の神

湊が川で遊ぶうちに、桃の神が流れてくる。彼は「モモタロウ伝説」を思い浮かべつつも、桃の神との挨拶を交わし、その神の存在に感銘を受ける。テンたちとの楽しい時間が過ぎ、湊は再び楠木邸での生活を楽しむ。

温泉での語らい

湊が温泉に入り山神と会話を交わす中で、湊が楠木邸の主として認められていることが明らかになる。山神は彼に「遠慮なく過ごせ」と伝え、湊は感謝の意を示し、共に温泉を楽しんだ。

記者たちの奮闘と新たな記事

山神との記事を担当する記者たちは、武蔵社長の要望に応えるべく新たな企画を立案するも、山神に向けた和菓子の記事を中心に、和菓子店から居酒屋特集まで幅広く紹介する。湊も記事に興味を示し、和菓子と酒の魅力に惹かれて、次の訪問計画を立てる。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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