小説「転生陰陽師・賀茂一樹5」蒼依「昇神」感想・ネタバレ

小説「転生陰陽師・賀茂一樹5」蒼依「昇神」感想・ネタバレ

どんな本?

主人公・賀茂一樹は、地獄からの転生者であり、現代日本で陰陽師として活躍している。本巻では、仲間である山姫・蒼依の「昇神」を目指し、魔王陣営への威力偵察や花咲家の犬神継承など、反攻準備を進める一樹の姿が描かれる。彼は、イザナミがかつて取り逃がした『五鬼王』を討伐することで、蒼依の神格を上げる手助けをしようとする。

主要キャラクター
賀茂一樹:主人公。転生した陰陽師で、強力な霊能力を持つ。
相川蒼依:山姫であり、一樹の仲間。彼女の“昇神”を目指す。
五鬼童凪紗:五鬼童家の天才であり、一樹の協力者。
赤城山の龍神:一樹に力を貸す龍神。

物語の特徴

本作は、現代に陰陽師の要素を融合させたローファンタジーの世界観が魅力。
主人公が地獄から転生し、現代日本で陰陽師として活躍するという設定は、他の作品にはない斬新さを持つ。
また、仲間との絆や成長、強敵との戦いが詳細に描かれている。

出版情報
• 出版社:TOブックス
• 発売日:2024年12月20日
• ISBN:978-4867943984
• 電子書籍版:主要な電子書籍ストアで配信中
• メディア展開:コミカライズ版が連載中

読んだ本のタイトル

転生陰陽師・賀茂一樹  5~二度と地獄はご免なので、閻魔大王の神気で無双します~
著者:赤野用介 氏
イラスト:hakusaiきばとり 氏

gifbanner?sid=3589474&pid=889458714 小説「転生陰陽師・賀茂一樹5」蒼依「昇神」感想・ネタバレBookliveで購入gifbanner?sid=3589474&pid=889059394 小説「転生陰陽師・賀茂一樹5」蒼依「昇神」感想・ネタバレBOOK☆WALKERで購入gifbanner?sid=3589474&pid=890540720 小説「転生陰陽師・賀茂一樹5」蒼依「昇神」感想・ネタバレ

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あらすじ・内容

羽団扇の依頼から数か月。一樹が次に見据えていたのは……蒼依の“昇神”!?
魔王陣営への威力偵察や花咲家の犬神継承など反攻準備は着々と進行中。
文字通り命をかけた戦いを前に、後顧の憂いを断つためにも山姫から神格を上げ気の自給を可能にしておきたいのだ。
常人なら途方に暮れそうな難題にも、彼は変わらず冷静沈着!
女神へと至るカギが、イザナミがかつて取り逃がした『五鬼王』にあると掴むと即座に行動開始。
五鬼童家の天才・凪紗や赤城山の龍神の力も借りて、討伐どころか発見すら困難な難敵をあの手この手で追い詰めていく! 
果たして、神代の伝説を塗り替えられるのか――!? 
仲間と共に神話を越えろ!
とある陰陽師が地獄から返り咲く無双萬屋、第五弾!

転生陰陽師・賀茂一樹5~二度と地獄はご免なので、閻魔大王の神気で無双します~

感想

魔王との対峙と日常の融合

今巻では、魔王領域への威力偵察という命がけの任務と、高校生らしい日常のイベントである文化祭が絶妙に融合して描かれている。主人公・賀茂一樹たちは陰陽師協会の指示を受け、魔王の脅威に挑む一方で、文化祭ではクラスメイトと協力しながら、幽霊船を利用した船上カフェを運営する。非日常的な戦闘と日常的なイベントが巧みに組み合わさり、読者に緊張と緩和のバランスを提供している点が大きな魅力であった。幽霊船を舞台にした文化祭は、参加した生徒たちの努力と成長が感じられるものであり、読後感を心地よいものにしている。

蒼依の進化と神話の補完

蒼依の昇神を中心としたストーリーは、物語全体に神話的な深みを与えている。彼女が五鬼王を討伐することで神格を得て、女神としての独立を果たす姿は、読者に感動を与えるものであった。五鬼王との戦闘は、彼女自身の力だけでなく式神や仲間たちの協力が重要な要素となっており、チームプレイの面白さも味わえる展開であった。また、五鬼王討伐という偉業が、イザナミの果たせなかった神話を補完するものとして描かれている点も印象的である。蒼依の成長と、それを支える一樹の洞察力が、物語をさらに魅力的なものにしている。

伝奇物としての側面

魔王や妖怪との戦いだけでなく、伝承や神話を取り入れたストーリーが本作の特色を際立たせている。特に牡丹灯籠の怨霊・弥子との対決は、ラノベの枠を超えた伝奇物としての趣が感じられた。一樹と陽鞠の奇妙なコンビネーションによる囮作戦と封印の成功は、物語に軽妙さを与えつつ、読者を引き込む要素として機能していた。また、怨霊を封じるための具体的な描写は、陰陽師のリアルな側面を垣間見せ、物語に奥行きを加えている。

総括

『転生陰陽師・賀茂一樹5』は、魔王との戦いや蒼依の成長を通じて非日常の冒険を描きつつ、文化祭や日常の中での友情や努力を織り交ぜた一冊である。伝奇物としての深みとラノベらしい軽快さを両立させた構成は、読者にとって非常に満足度の高いものとなっている。次巻では、さらに広がる神話の展開や、魔王との本格的な決戦が期待される。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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乙女ゲームのハードモードで生きています

備忘録

第五章  昇神への道程

第一話  死者の国

相模川への旅路

堀河康隆の運転する車で、賀茂一樹と安倍晴也は相模川へ向かった。道中、堀河は相模川の由来や地理について説明した。川は山梨県で桂川と呼ばれ、神奈川県に入ると相模川に名を変える。現在、川の西側は煙鬼の感染拡大により封鎖されており、避難命令が発令されている地域であった。

検問での攻防

馬入橋手前の検問では、警察官が陰陽師である一樹たちの通行許可証を慎重に確認した。政府から許可を得た陰陽師は出入りが認められており、最終的に許可が下りたが、多くの手間と時間を要した。晴也はその煩雑さに不満を述べたが、堀河は許可証の簡略化を提案した。

煙鬼の脅威

封鎖区域に入り、車が進むにつれ、煙鬼の姿が目立ちはじめた。一樹たちは車内で対策を話し合いながら進んだ。煙鬼はゾンビのように感染を広げる危険な存在であり、遭遇した場合には即座に排除する必要があった。

キヨの活躍

晴也の妻で怨霊のキヨが、白蛇の姿となって煙鬼を次々と倒した。その圧倒的な力で周囲の安全を確保しつつ、車の進行を助けた。一樹はその力に感心しつつも、怨霊の危険性を再認識した。

羅刹との遭遇

箱根山の山頂から羅刹が現れ、煙鬼を食べるキヨを挑発した。羅刹は強大な力を持つが、堀河が召喚した赤牛とキヨが協力して戦いを挑んだ。羅刹は押されるが、戦闘は膠着状態に陥った。

獅子鬼の介入

戦闘の最中、魔王獅子鬼が現れた。一樹は幽霊巡視船を使って遠隔攻撃を仕掛け、獅子鬼の行動を一時的に封じたが、倒すには至らなかった。車は戦場を離れ、安全な地点へと向かった。

作戦の結末

羅刹は御殿場市へと退却し、獅子鬼も戦場を離れた。一樹たちは陰陽師協会の陣容と連携しながら、次の作戦に備えた。今回の戦闘では大きな被害を避けられたが、魔王との決着は依然として先送りとなった。

魔王占領地域への強行偵察

九月二三日、陰陽師協会神奈川県支部は、賀茂一樹を筆頭とする三名の上級陰陽師による魔王占領地域への強行偵察を実施した。一行は相模川東側から小田原市に突入し、煙鬼を殲滅しつつ進軍した。その後、小田原市で羅刹と接敵し、戦闘が優勢に進む中、魔王が出現した。対処として幽霊巡視船を用いた砲撃を実施し、魔王を退却させることに成功した。

戦闘の成果と次段階への移行

この作戦では、羅刹に対し有利な戦闘を展開し、煙鬼を排除した。一方で、魔王の右腕が重傷を負っていることも確認された。陰陽師協会はこの結果を踏まえ、占領地域を縮小するための第二段階へと移行する方針を発表した。

陰陽師協会の活動の背景

陰陽師協会は政府から独立した民間組織であり、自らの資金を用いて活動している。今回の作戦も独自の判断で実施され、政府の支援は一切受けていなかった。協会は殉職者を最小限に抑えつつ、着実に魔王への対策を進めている。

住民の反応と議論

ネット上では、陰陽師協会の成果に対する驚きと称賛が寄せられた。一方で、政府の陰陽師支援体制の不備や協会の独立性についての議論も活発に行われた。特に、陰陽師に対する待遇改善や報酬の支給を求める声が高まっている。

第二話  魔王に適応した日常

中間テスト後の日常

九月二六日、二学期の中間テストを終えた賀茂一樹は、教室で魔王が現れても中間テストが行われる現状に疑問を抱いた。隣の蒼依は「状況が落ち着いたからではないか」と推測を述べ、一樹もそれに同意した。現在、避難命令が発令されている神奈川県西部、山梨県全域、静岡県東部では約三〇〇万人が避難生活を余儀なくされているが、防衛線が有効に機能し、侵攻が抑えられていた。

陰陽師協会の第二段階

陰陽師協会は、緩衝地域上空で羽団扇を持った天狗の子孫による作戦を計画していた。この作戦では霊毒を用いて煙鬼を一掃し、魔王の力を削ぐことが目的であった。一樹と蒼依は、この作戦が魔王占領地の縮小に寄与するとの見通しに同意しつつ、日常に戻った学生生活を続けていた。

避難者の苦労と転校問題

避難した高校生たちは、避難先近くの学校への転校を余儀なくされ、環境の変化に伴う学習や生活面での課題に直面していた。一樹と蒼依は、学期制や教育制度の違いによる影響について話し合い、避難生活が生徒たちに与える負担を案じた。

文化祭の準備

中間テスト終了後、一樹たちは文化祭の準備に取り掛かることとなった。担任教師は文化祭での出し物案を黒板に書き出し、生徒にそれをもとに議論させる方針をとった。一樹は担任の行動が、生徒の広い視野を育てる教育的意図によるものと理解し、その判断を評価した。

提案の検討

文化祭の出し物案は、模擬店、展示、演出、遊戯、発表など多岐にわたり、食品の取り扱いに関しては保健所の許可が必要な具体例も提示された。一樹たちはこの案をもとに議論を進め、クラスで成功する企画を考えることとなった。

文化祭の準備と見学計画

文化祭の時期と他校の状況

一樹は、担任が提案した「他校の文化祭を参考にする」というアドバイスについて、秋が文化祭の一般的な時期であることを考慮し、花咲市の近隣では開催されていない可能性を懸念した。花咲市には公立と私立の普通科高校が計五校あり、農業、商業、工業の専門高校も存在していたが、いずれも文化祭の開催が近々ではないことが明らかとなった。

専門科高校の文化祭の特徴

農業高校では、自分たちで育てた和牛やミルクを活用した食品を提供するなど、独自の実践的な内容が中心であった。また、工業高校では生徒が習得した技術を披露し、就職先や見学者にアピールする文化祭が行われていた。一樹はこれらが普通科の生徒たちには模倣が困難であり、参考にするのは現実的ではないと判断した。

卿華女学院の情報

沙羅から、京都府の中高一貫校である卿華女学院が今週末に文化祭を行うことが知らされた。紫苑のクラスでは喫茶店の出し物を計画しており、衣装や簡単な食品の提供に工夫が凝らされているという。一樹はこれに興味を抱き、文化祭を見学する計画を立てることにした。

入場券の取得と制約

卿華女学院では、文化祭への入場には生徒が配布する入場券が必要で、男性の入場は在校生の三親等以内に限定され、事前の届け出が求められた。一樹は妹の綾華に協力を頼むことを避け、友人の陽鞠や姚音を通じて入場券を確保する方針を決めた。こうして一樹たちは、卿華女学院の文化祭を見学する準備を進めた。

卿華女学院の文化祭見学

卿華女学院の概要と歴史

一樹、蒼依、沙羅の三人は、文化祭を見学するため卿華女学院を訪れた。この学校は明治時代に開校した女子校であり、当時の教育令に基づいて設立された。現在は一般生徒も通う中高一貫校であるが、伝統的に家柄の良い子女が多く在籍している。沙羅の説明から、一樹は同学院が家柄や教育方針の面で、いまだに高い評価を得ていることを理解した。

入場手続きと教師の対応

女子校への男性の入場は厳格に管理されていた。一樹は顔写真付き身分証の提示を求められ、事前に提出された名簿との照合を受けた。担当教師は、一樹の陰陽師としての経歴を知りつつも、男子高校生を女子校に入れることへの懸念を示した。一樹は丁寧に対応し、無事に入場許可を得た。

卿華女学院の校舎と雰囲気

学院の敷地内は、赤レンガの校舎と整然とした石畳で構成されており、西洋的な洗練された雰囲気を漂わせていた。文化祭用の案内板や装飾も丁寧に作り込まれており、訪問者に対する配慮が行き届いていた。一樹はこれらを見学し、文化祭の参考になる点を写真に収めた。

紫苑のクラスのメイド喫茶

一樹たちは紫苑のクラスが運営するメイド喫茶を訪れた。教室内は生徒の机を活用した席の配置や壁の装飾が工夫され、飲食物も衛生的に準備されていた。一樹は他校の文化祭の模範として、この喫茶店の運営方法を高く評価した。

紫苑への冗談とクラスの反応

一樹は紫苑に対して「美味しくなるおまじない」を注文し、クラスの注目を集めた。紫苑は最初こそ戸惑いを見せたが、周囲の期待に押されて渋々と対応した。一樹の冗談は、クラスメイトたちにとっても笑いを誘い、場を盛り上げた。

文化祭見学の成果

一樹たちは、文化祭の運営や雰囲気について多くの参考点を得た。特にクラス全体での工夫や、文化祭を通じて得られる経験の重要性を再認識する結果となった。紫苑のクラスの協力により、見学は無事に終わり目的を果たした。

中等部でのゲリラライブ

陽鞠たちとの再会

紫苑のクラスを見学し終えた一樹たちは、中等部の中庭へと向かった。一樹が入場券の手配を依頼した陽鞠に挨拶するためである。陽鞠のクラス展示物ではなく中庭を指定された理由を、一樹は「展示内容に満足していないためだ」と推測した。

中庭での演奏準備

中庭に到着すると、陽鞠、綾華、姚音、芹那の四人がバンド演奏の準備を進めていた。陽鞠と綾華はギター、姚音はキーボード、芹那はドラムを担当しており、それぞれの楽器の前にスタンドマイクが置かれていた。一樹はその短期間での準備と演奏技術に驚愕した。

陽鞠の歌声

演奏は芹那のドラムから始まり、陽鞠が明るい恋の歌を歌い出した。陽鞠の声は伸びやかで艶やかであり、聴衆を惹きつける力を持っていた。その結果、見学者は次々と増え、陽鞠たちを囲む人垣は二重になった。生徒たちは手拍子や身体を揺らしながら楽しみ、陽鞠がウインクを送ると歓声が湧き上がった。

姚音のクラシック演奏

次に姚音がピアノを弾きながら、シューベルトの『野ばら』をドイツ語で歌った。沙羅によると、この歌曲はゲーテの詩に基づくもので、「乱暴な少年に乙女が手折られる物語」を描いているという。この歌は教養のある卿華女学院の生徒たちの興味を引き、一樹をちらちらと見る生徒たちも現れた。

一樹の戸惑い

姚音の歌が意味深な内容だったことから、一樹は隣にいた蒼依からの無言の圧力を感じ、必死に目を逸らした。一樹は「歌を歌うのは自由だ」と独り言のように呟きつつ、陽鞠たちの才能を改めて実感した。

第三話  伝承の犬神

良房からの立会人依頼

良房との面会

一樹は、良房からの連絡を受けて豊川稲荷を訪れた。良房は霊狐塚に宿る付喪神であり、一樹に立会人を依頼するために面会を求めた。面会の場は以前、香苗と雪菜の相談を行った大座敷であった。

立会人の必要性

良房は、花咲家次期当主の選定において中立的な立場の立会人が必要だと説明した。花咲家の犬神と妖狐の因縁から、狐側も慎重な対応を求めていた。この選定は花咲家の故人である先代の四十九日を終えた時期に行われる重要な儀式であった。

干珠を巡る歴史

良房は、花咲家と新田家の間にあった干珠を巡る争いについて語った。干珠は神功皇后が龍神から授かった宝珠で、かつて花咲家が所有していた。しかし、隣家の意地悪爺さんに盗まれ、新田家に渡った経緯があった。狐側は、干珠を守るために犬神を悪役とした物語『錦着恋山守』を通じて自らの立場を守ってきた。

干珠の特性と管理

干珠は潮の満ち引きを操る力を持つ霊物であり、その管理は非常に重要とされた。狐たちは、この宝珠を花咲家から新田家へ返さない代わりに、自らが管理し、花咲家の世代交代に協力することで合意した。この歴史を聞いた一樹は、その背景にあった狐たちの配慮と策略を理解した。

依頼の受諾

良房は、一樹に立会人として中立的な視点で選定に臨むよう依頼した。一樹は狐と人間の関係性を重視し、その要請を受け入れた。報酬は提示されなかったが、一樹は良房との関係を築くことが大きな価値を持つと考えた。

干珠への執着

最後に、良房は犬神が干珠に執着した理由を語った。それは、花咲の爺が潮を引かせて犬神と遊んだという一夏の思い出に由来していた。この話を聞いた一樹は、龍神の宝珠を遊びに使う行為に驚きつつ、苦笑を浮かべた。

犬神継承の儀

継承の場への訪問

一樹は、良房からの依頼を受け、群馬県太田市の金山城跡で行われる花咲家の犬神継承の儀に参加した。儀式を主催する妖狐お春は、お辰狐の娘であり、継承候補者たちを迎えていた。

干珠と犬神の因縁

春は、干珠を巡る犬神と新田家の争いについて語った。干珠は神功皇后が龍神から授かった宝珠で、新田家が正当に手に入れたが、犬神はその宝を取り返そうと執念を見せた。結果として妖狐が干珠を管理し、花咲家の継承を支援する形で決着を見た。

候補者の紹介と背景

春は継承候補者として花咲小太郎、三戸愛奈、助井三郎、格田彦六の四人を紹介した。愛奈は幼少期に庭に現れた白い犬と遊んだ経験があり、それが氏神であると理解した。助井は小学校の登下校時に犬と走り回った記憶を語り、格田は帰り道の神社で犬に給食を分け与えた経験を述べた。いずれも幼少期から犬神との接触が確認されており、継承資格を持つ者とされた。

干珠の威圧感

春は紫布に包まれた干珠を取り出し、それが継承の試練に用いられることを示した。干珠は龍神の力を宿す霊物であり、候補者たちもその存在感に圧倒されていた。

犬神の登場

儀式の場に現れた犬神は、白い紀州犬の姿で候補者たちを見守っていた。春は犬神が候補者たちを幼少期から見定めていたことを明かし、継承の試練が始まることを宣言した。一樹は立会人として儀式の行方を静かに見守る立場に立った。

犬神継承の試練の開始

分霊の登場と候補者との再会

春の合図で犬神が分霊を放出し、それぞれの候補者の元へ駆け寄った。愛奈の分霊は「シロ」と呼ばれ、他の候補者たちの分霊もそれぞれ親密な関係を示した。分霊の大きさには個体差があり、それが候補者と分霊の接触時間や呪力によるものであると説明された。

候補者間の力の差

分霊の大きさから、最も接触時間が長く親密だったのは愛奈であることが判明した。一方で、小太郎は犬神の力よりも陰陽師としての技術を重視しており、自ら作成した鎮物を駆使して分霊を操っていた。愛奈は旧財閥の力で得た勾玉を使用し、小太郎に対抗しようと試みたが、その操作技術において差が見られた。

試練のルールと策略

継承試練では、候補者が犬神の力を使って障害を乗り越え、最終目標である干珠を手にすることが求められた。愛奈は助井と格田を自陣営に引き込み、連携して小太郎を足止めしつつ、自らは干珠を目指して進んだ。

試練の初めての障害

愛奈が最初に到達した障害は、「犬神が遊びたいのは『海』か『山』か」という選択を迫るものであった。愛奈は「海」を選び突き進んだが、その先には泥沼が広がっていた。さらに看板には「両方で遊びたいそうです」と書かれており、愛奈は意図を読み違えた結果、泥沼へと落下した。

試練の過酷さと策略の重要性

泥沼に落ちた愛奈の様子は、試練が単なる力比べではなく、候補者の判断力や冷静さを試すものであることを示していた。候補者たちはそれぞれの信念や能力を駆使して、犬神の継承を目指して奮闘していた。

泥沼での試練開始

泥沼での困難

愛奈は泥沼に落ち、分霊のシロと共に泥まみれとなった。シロが楽しそうに遊ぶ様子に怒りながらも、泥沼から這い上がることを試みた。ゴール地点で見守る春と一樹は、愛奈の様子を監視しつつ、障害を突破する工夫を欠いた愛奈の行動に苦笑していた。

堅壁から続く迷宮への進入

泥沼を抜けた愛奈は堅壁に到達し、続く狭い通路を進んだ。そこから現れたのは、縦横5列に部屋が並ぶ迷宮だった。部屋ごとに扉があり、正しいルートを選び進む必要があった。愛奈は困惑しながらも進む道を選び、慎重に次の扉を開けていった。

鬼との対峙

次の部屋で待ち受けていたのは赤鬼であった。愛奈は赤鬼に驚愕しつつ、分霊のシロに命じて迎撃させた。シロは果敢に赤鬼に飛びかかり、一対一の戦いでは優勢を見せた。しかし、中鬼は二体おり、部屋に青鬼が現れると状況は一変した。

愛奈の捕縛と脱出

青鬼に襟首を掴まれた愛奈は、成す術もなく別の部屋に連れ去られた。しかし、直後に現れた別の分霊が彼女を救い、泥沼を再び避けて対岸に運んだ。この行動によって一命を取り留めた愛奈は、混乱しつつも状況を立て直す余地を得た。

小太郎の圧倒的な技量

一方、小太郎は青鬼と直接対峙していた。呪力を籠めた鉄矛を自在に操り、攻撃を重ねながら青鬼を着実に追い詰めた。小太郎の精緻な動きと技術により、青鬼は次第に力を失い、最終的には倒された。小太郎の陰陽術の技量は他の候補者を大きく凌駕しており、彼の努力と実力を象徴する結果となった。

春の賛辞

青鬼を完全に撃破した小太郎に対し、試験を監視していた春は「お見事です」と一言賛辞を送った。その言葉は、小太郎の実力を認めるものであった。

金山城での選定試験の終幕

勝敗の決着と障害の撤収

助井と格田の脱落、そして小太郎が愛奈を救出したことで、選定試験は事実上決着した。春はこれ以上の試験を無意味と判断し、堅壁より先の障害物を撤収した。小太郎は愛奈を引き連れ、何の妨害もなくゴール地点である日ノ池へ到達した。

干珠への到達と継承の瞬間

小太郎は台座に鎮座する干珠に触れ、犬神の分霊である皎が愛奈の分霊・シロを吸収した。しかし、小太郎が意図的にシロを解放し、再び愛奈に憑かせたことで、愛奈は感謝の意を込めて小太郎に抱きついた。その様子は、愛奈が小太郎に惹かれたことを物語っていた。

犬神の力の変化と一樹の洞察

一樹は小太郎に憑いた犬神の力が、以前よりも増していることに気付き、理由を考察した。先代が殺害されたことへの怨念や、花咲家の氏子を守ってきた力の一部が回収された可能性が高いと述べた。その結果、犬神は以前のA級下位から中位へと力を増していた。

復讐への示唆と警告

一樹は小太郎に、無謀な単独行動を避けるよう助言した。復讐の機会を模索している他の陰陽師と協力すれば、仇討ちは成功する可能性が高いと述べた。小太郎はその助言を受け入れ、慎重に行動することを誓った。

春との別れと次回の約束

試験が終了し、一樹は主催者である春と挨拶を交わした。春は次回の継承が44年後になることを予測し、一樹に再び立会人を務めることを提案した。一樹はその提案を受け入れ、継承の儀は幕を閉じた。一樹は役目を終え、金山城を後にしたのであった。

第四話  メイド喫茶・幽霊船店

文化祭の議論と一樹の提案

多数決の否定と公平負担の主張

文化祭の出し物を決める話し合いで、綾村絵理が多数決の不公平さを主張した。絵理は、メイド喫茶案に対して男女の負担が不平等であると指摘し、男子も同等の負担をすべきだと訴えた。この意見に対してクラス委員長の北村択海は「男子もメイド服を着る」という案を提案したが、男子生徒からは即座に反対の声が上がった。

絵理の提案と一樹の代案

絵理が公平負担を求める一方、一樹は卿華女学院から持ち帰った文化祭の案を元に、男子がさらに大きな貢献をすることで公平性を担保できると考えた。そして、一樹は幽霊巡視船を利用して「船上メイド喫茶」を開催するという大胆な提案を行い、これに絵理も納得した。

衣装の調達と女子の負担軽減

メイド喫茶の衣装について議論が進む中、卿華女学院から衣装を借りる案が出された。この提案により、高額な衣装費の負担が軽減されることとなり、クラスの女子達も賛成した。また、貸してくれる生徒たちを文化祭に招待することで、良好な交流が期待された。

男子の役割分担と食品の選定

男子生徒達は食品の調達方法について議論を重ねた。効率を重視する北村はレトルト食品を主軸に据え、調理の手間を最小限に抑える方針を採用した。しかし担任からの指摘で焼きそばを追加することが決まり、文化祭に向けた準備が具体化していった。

宣伝活動と一樹の影響力

宣伝に関しては、北村達のSNSを活用することが決定した。一樹は自身の影響力を使うことで予想される大規模な混乱を避けるため、宣伝には関与しない方針を示した。しかし、北村達の発信がどのような影響を及ぼすかは未知数であった。

準備の進行と新たな展望

一樹は幽霊巡視船の使用許可を海上保安庁に申請し、その結果を待つこととなった。一方で、クラスメイト達は男子女子それぞれが役割を分担し、文化祭の準備を進めていった。この一連の議論により、クラスの出し物は船上メイド喫茶に正式決定したのであった。

幽霊船と文化祭準備

幽霊船への乗船と花咲市の背景

幽霊船に乗り込んだ一年三組の生徒達は、その規模と非日常感に歓声を上げた。全長117メートル、建造費144億円のこの幽霊巡視船は、ヘリ甲板を備え、武装も搭載されていた。花咲市を見渡すこの船上で、北村は花咲家が市と周辺地域に及ぼす影響を知り、小太郎の背負う責任の重さに思いを巡らせた。

幽霊船の特性と背景

幽霊船は沈没船の無念や怨念から生まれる。特にこの巡視船は2020年代に就役し、その後、魔王討伐などで活躍して有名になった。テレビで繰り返し取り上げられたことから、絵理もその存在を知っていた。一樹は幽霊船の有用性を評価しつつも、新たに意図的に幽霊船を作るという考えには呆れ、現状の巡視船で十分と判断していた。

文化祭の準備とクラスの分担

文化祭では、幽霊巡視船を会場とする「船上メイド喫茶」が計画された。晴天のためヘリ甲板を客席とし、卿華女学院の生徒達を第二公室に招待することになった。男子は厨房で焼きそばを調理し、販売は船の乗船タラップ前で行う手筈であった。一樹は北村の提案に従い、看板を持つ牛太郎を使役して客寄せも行った。

文化祭当日の混雑と不安

文化祭開始2時間前には、既に数百名の来客が集まっていた。一樹はこの状況に危うさを感じながらも、北村の指揮の下、準備を進めていった。幽霊船と文化祭の話題性から、予想以上の盛り上がりが期待されたのであった。

文化祭での特別な来訪者

宇賀の訪問と幽霊巡視船での応接

宇賀が訪れた文化祭で、一樹は彼女を幽霊巡視船の第一公室に招き入れた。この部屋は幹部用の多目的室であり、要人の応対に最適な空間である。小太郎は初対面の宇賀に対し恐縮していたが、宇賀は終始リラックスした態度で会話を進めていた。文化祭で提供される焼きそばを提案されるも、宇賀は一樹の配慮から特別な茶菓を楽しんだ。

お化け屋敷の話題と陰陽師の役割

宇賀は、文化祭での校舎内の出し物について興味を示した。一樹は自分たちのクラス以外には関与していないことを説明したが、宇賀は小鬼や怨霊を使ったリアリティのあるお化け屋敷の可能性について言及した。かつてバブル期に陰陽師が協力した本格的なお化け屋敷が存在したが、恐怖が過剰で流行らなかったという逸話も語られた。文化祭の意義を踏まえ、生徒たち自身が手作りすることが重要であるとの結論に至った。

犬神の力の増強と順位付けの必要性

宇賀は、花咲家の犬神の呪力が増した点に注目し、小太郎にその影響を説明した。犬神は過去の経験を超えた力を秘めており、特に煙鬼対策において有用であるとされた。宇賀は、陰陽師の順位付けにおいて小太郎の役割を強調し、魔王との決戦に備える必要性を説いた。一樹もまた、順位付けの見直しが行われる可能性について考慮しつつ、準備を進める決意を固めた。

迫る決戦と陰陽師の責務

東京が近いことから、魔王との決戦が避けられない情勢となっていた。陰陽師協会は政府の直接依頼を受けていないものの、無策では国民からの批判を免れない。一樹は、宇賀からの指示に従い、準備を進める決意を新たにした。決戦の時が近づく中、一樹と小太郎の役割はますます重要なものとなった。

文化祭の模擬店に押し寄せる来客

混雑する港ドックと延々と続く行列

文化祭の模擬店では、九時の開店から三時間以上経過しても来客が絶えなかった。客のSNS投稿がさらなる客を呼び込み、周辺道路には路上駐車が増え続けた。一樹が事前に政府へ許可を申請していたため、大規模な混乱は避けられたものの、近隣住民への迷惑は避けられなかった。訪れた客たちは幽霊巡視船を眺めたり心霊写真を撮影したりして文化祭を楽しんでいたが、模擬店の生徒たちは終わりの見えない行列に対応し続けていた。

急増する業務と生徒たちの奮闘

模擬店では食材が不足し、生徒たちが業務用スーパーを往復して調達を始めた。次々に運び込まれる食材により模擬店は規模を拡大し、結果として来客の喜びを招く一方、生徒たちは過酷な状況へ追い込まれた。担任教師も車での運搬に加わるなど全力で支援したが、客の増加は止まらなかった。

卿華女学院の生徒たちによる効率化

混乱する模擬店に対し、卿華女学院の生徒たちが支援を申し出た。彼女たちは販売所を船着き場に移し、スペースの拡大や行列緩和の工夫を実施した。また、会計と品出しを分担するなど効率的な運営方法を導入した結果、模擬店は次第に落ち着きを取り戻した。模擬店の指揮は、次第に卿華女学院の生徒たちに引き継がれる形となった。

模擬店の閉店と終息

混雑が収まらない状況に対し、一樹は幽霊巡視船員を利用して販売終了をアナウンスするよう指示を受けた。最後尾に並んだ巡視船員がプラカードを掲げたことで、模擬店はようやく終了に向かった。長時間にわたり対応を続けた結果、生徒たちは疲労困憊しながらも無事に模擬店を終えることができた。最後の来客対応が完了したとき、一樹たちはようやく一息つくことができたのである。

文化祭後の疲労と後片付け

模擬店の終了と生徒たちの疲労

一四時、文化祭の模擬店を終えた絵理は、第二公室で椅子にもたれながら疲労困憊した声を上げていた。後片付けは幽霊巡視船員が行い、客用の椅子も一五時までには回収される予定であった。牛太郎は閉店の看板を持たされ、船着き場で新たな客を抑える役目を果たしていた。

北村たちの行動と交流

北村と男子生徒たちは、卿華女学院の生徒たちに積極的に話しかけ、写真撮影をしながらSNSの連絡先を交換していた。その中で、北村の巧妙な手法により、多くの連絡先が交換された。男子たちは危機を共に乗り越えたという共闘感からか、お嬢様たちとの距離を縮めることに成功した。

一樹の連絡先交換と周囲の視線

北村の提案に巻き込まれた一樹も、紫苑や三戸愛奈と連絡先を交換した。一樹にとっては、仕事上必要な関係としての交換という大義名分もあり、紫苑もその場の空気を読んで応じた。北村は陽気に動き回ったが、クラスメイトの女子には一切ナンパをせず、その行動の違いに一樹は疑問を抱いた。

利益の分配と次回への期待

絵理は、経費を差し引いた利益を手伝った全員で頭割りすると告げた。三戸愛奈は楽しい経験だったと満足げに答え、次回も誘ってほしいと申し出た。このやり取りを聞いた一樹は、また来年も同じ状況が繰り返される可能性に戦慄を覚えた。こうして文化祭は幕を閉じたのである。

第五話  神話の補完

秋の訪れと男体山の紅葉

紅葉の理由と季節の移ろい

一〇月半ばとなり、山々の木々は赤や黄色に染まり、紅葉が見事な景観を作り出していた。紅葉は、木々が冬に備えて葉の栄養を枝に回収し、不要な葉を切り離す準備の一環である。葉の色が赤くなるのは、日光による有害物質を抑えるために生成されるアントシアニンの働きによるものであった。一樹は紅葉や冷え込みから、季節の移ろいを肌で感じ取っていた。

中禅寺湖と歴史を刻む山々の景色

一樹と蒼依が訪れたのは、栃木県の男体山から一望できる中禅寺湖であった。湖面は陽光に輝き、その先の山々は秋特有の彩りを見せていた。この地はかつてムカデ神の支配地であり、その歴史は仁徳天皇の時代に遡る。群馬県と栃木県にまたがる赤城山と男体山では、蛇神とムカデ神が争い、最終的に蛇神がムカデ神を呑み込んで龍神へと昇華したという。現在の穏やかな景色は、長い歴史を経て安定した神域の象徴であった。

龍神の社への訪問

感慨深い景色を眺めていた一樹と蒼依のもとに、柚葉が現れた。彼女の明るい声に促され、二人は龍神を祀る社の中へと足を踏み入れた。

龍神の社での対話と蒼依の未来

龍神との再会と社の完成

龍神の社に一樹と蒼依が足を踏み入れ、龍神と挨拶を交わした。龍神はかつて毛野国(現在の群馬県と栃木県)の地脈を得て力を蓄え、現在の神域を創り上げた存在である。一樹は社の建立費用として二〇億円を寄進し、陰陽師協会を通じた行政手続きや業者手配を支援していた。社の建設は龍神自らが地形を切り拓き、周辺の鬼や魑魅魍魎を従えて完成させたものであった。

龍神の娘と柚葉の葛藤

龍神の娘が登場し、彼女が優秀であることが語られた。龍神の後継者候補であり、 A級の力を持つ彼女は神域を作る能力を備えていた。一方、柚葉は龍神からムカデを食べるよう促され、これを必死に拒んだ。一樹は柚葉を庇い、将来力が強まってから食べるほうが適切であると提案し、龍神もこれを了承した。

蒼依の神域と魔王への備え

一樹は蒼依の神域を作ることについて龍神に相談を持ち掛けた。蒼依は一樹から気を得て生きているが、一樹が死んだ場合、彼女が山姥化するリスクを避けるため、神域の創造を急ぐ必要があった。龍神は蒼依の意見も尊重しつつ、一樹の決意を評価し、効率的な方法としてムカデを食べる案を再び提示した。

神話の補完と龍神の助言

龍神は蒼依が神域を作れる力を得るため、ムカデを食べることが最も早い道であると述べた。これは龍神自身がムカデ神を呑み込んで力を得た神話に基づくものであった。一樹と蒼依はこの助言を受け止めながら、それぞれの立場で次の行動を考え始めた。

五鬼王捜索の始まりと背景

五鬼王とその伝承

一樹たちは、宮城県北部の石巻市と登米市で五鬼王を探すため、現地を訪れた。五鬼王は古来から伝わる妖怪であり、石巻市の法印神楽や登米市の伝承にその姿が描かれている。五鬼王の物語は、イザナギとイザナミが生んだ大八島の時代に遡り、海原に流れ着いた五つの頭を持つ鬼を、田中明神が退治したという内容である。しかし退治とは殺害ではなく、追い払う程度の行為であった。

田中明神の役割と五鬼王の存在意義

田中明神は伏見稲荷の五祭神の一柱であり、イザナギとイザナミに代わって鬼退治を行ったとされる。五鬼王を倒したという伝承により、その神格が高められたが、五鬼王自体は完全に滅ぼされたわけではなかった。現在でも、五鬼王を追い払う儀式として神楽が奉納されている。蒼依が五鬼王を倒せば、イザナミが果たせなかった役割を補完し、その神格が上がると考えられている。

五鬼王捜索の困難さと香林の協力

石巻市と登米市周辺に五鬼王が潜んでいると見込んだ一樹たちは、妖気の手がかりを探った。しかし五鬼王は神をも欺く能力を持ち、妖力を隠しているため容易には発見できなかった。そこで龍神から派遣された香林が加勢し、彼女も周囲に意識を巡らせたが、漠然とした気配しか掴めなかった。虱潰しの捜索は逃亡を許す恐れがあり、慎重な対策が求められた。

五鬼王捜索の一時中断と通学生活

小太郎の多忙な日々

五鬼王の捜索は平日の通学が優先され、一時中断となった。一樹たちは高校生活を送る一方で、小太郎は花咲家の当主および花咲グループの会長として忙しい日々を送っていた。花咲グループは国内外の企業から手を出される心配がなく、陰陽師協会や関係者の支援もあり、盤石の体制を維持していたが、16歳の会長としての重責が彼にのしかかっていた。

陰陽同好会の活動状況

陰陽同好会では、メンバーがそれぞれの目標に向けて活動していた。妖狐のクォーターである香苗は音楽活動の準備を進め、配信に向けたリスト作成や練習を行っていた。蒼依は一樹を気遣いながらも、彼の五鬼王捜索に協力していた。柚葉は疲労で机に伏しており、香苗や蒼依が個々に努力する一方で、彼女の様子はやや異なっていた。

五鬼王捜索の課題

一樹は五鬼王の情報を得るためインターネットで調査を続けたが、求める手がかりは得られなかった。五鬼王が化ける能力を持つため、正確な所在を見つけるのが難しく、香林の助力を得ても確実性に欠けていた。一方で、陰陽師協会が強調する「一ランク下の相手と戦う」指針に従えば勝率が高まるが、五鬼王の場合はその戦略が通用しにくい状況であった。

香苗の提案と新たな可能性

香苗は一樹に対し、沙羅の妹である凪紗の「見鬼」の能力を活用する案を提案した。この能力は霊視とは異なり、意識を少しずらすことで妖怪を見つけられる可能性があるとされていた。一樹はその提案を受け、視線を沙羅に向けたが、彼女の態度は曖昧で、さらなる調整が必要であると判断された。

五鬼王捜索のための交渉と凪紗の希望

凪紗からの条件提示

五鬼王の捜索に協力を求めた一樹に対し、凪紗は「花咲高校進学の口添え」と「一樹の事務所でのアルバイト」を条件として提示した。一樹はその条件を厄介だと感じたが、特に父親である五鬼童義輔との交渉が問題だった。義輔は頑固で融通の利かない性格であり、一樹との相性も良くなかったが、沙羅に関しては一切干渉せず、一樹に全権を委ねている。しかし、凪紗については異なる状況であり、義輔の許可が必要であった。

父親の存在と義輔への交渉

一樹は凪紗の「父親なので困っている」という言葉に共感し、自身の父親である和則のことを思い返した。和則もまた問題を抱えた人物であったが、一樹の支援によって生活が改善した経緯があった。その共感から一樹は、義輔との交渉を受け入れることにした。奈良県に赴いた一樹は義輔に対し、凪紗の見鬼能力を活用する見返りとして、花咲高校進学を認めてもらうよう説得を試みた。

凪紗の真意と希望

義輔は凪紗に花咲高校を希望する理由を尋ねた。凪紗は自分が人間と異なる存在であり、一樹もまた自分と似た存在であると感じたことを説明した。彼女は一樹のそばにいることで安心を得られると考え、進学を希望したのだ。一樹は鬼神や天狗のような存在に対して不安や畏れを抱かない稀有な人物であり、それが凪紗の心の安定に繋がることを義輔も理解した。

義輔の結論と一樹の決意

義輔は一樹の意図を理解し、凪紗の進学希望を認めた。凪紗の望みが叶うことで彼女の心に安寧が訪れるならば、それは良いことであると一樹は判断した。同時に凪紗の見鬼能力を活用するための準備も整い、五鬼王の捜索に向けた体制が整えられたのであった。

五鬼王との決戦

捜索の再開と探索方針

一樹達は見鬼に長けた凪紗を加え、再び宮城県北部へ赴いた。一行には、一樹、蒼依、沙羅、凪紗、そして龍神の娘である香林が加わっていた。一樹は五鬼王が石巻市と登米市の中間地点、旧北上川の東側にいると推測し、その周辺の探索を開始した。東側は妖怪の領域であり、人間が住む西側とは隔たれていることが理由であった。

妖怪の領域への侵入

一行は複合型ゴムボートで川を渡り、北上川の東側に足を踏み入れた。そこは広大な妖怪の領域であり、どのような妖怪が現れるか予測できない危険な場所であった。しかし、一樹達は妖怪に慣れた者達であり、恐れることなく探索を続けた。凪紗は、五鬼王の領域に通じる境界線を感知し、一行を導いた。

五鬼王との遭遇

山裾の平地に隠された五鬼王の領域で、一樹達は五鬼王と遭遇した。五つの顔と巨大な体を持つ五鬼王は、大剣を携え、荒々しい呼気を響かせていた。その姿は、田中明神と戦った伝承そのものであった。一樹は五鬼王の力を観察し、封印の影響で想定よりも弱体化していることを確認した。

蒼依による決戦の開始

一樹は蒼依に五鬼王を倒させることで、彼女の神格を上げる計画を明かした。蒼依は天沼矛を構え、五鬼王に立ち向かった。信君や水仙、牛太郎などの式神が五鬼王の注意を引きつける間に、蒼依は翡翠製の勾玉に籠めた神気を用いて、五鬼王の顔を次々と破壊していった。

最終局面と勝利

五鬼王の反撃が激化する中、蒼依の式神である猫太郎が身を挺して蒼依を守った。怒りに燃える蒼依は、最後の勾玉を使い切り、五鬼王を討ち滅ぼした。その一撃は、イザナミが果たせなかった神話を補完するものとなった。

戦いの結末

蒼依は見事に五鬼王を倒し、彼女の神格が上昇する礎を築いた。一樹達は、この勝利によって目的を果たすとともに、新たな道筋を切り拓いたのであった。

新米女神の神域と五鬼王の征討

神域の完成と評価

相川家が所有する山々の一角に、蒼依が新たに作り上げた神域が完成していた。龍神の娘である香林がその地を確認し、神域の完成度を評価した。蒼依が生み出した神域は、欠陥がなく土地の力を正しく取り込み、神気を宿していた。五鬼王の討伐による蒼依の功績と昇神の偉業が、神域の力を確固たるものにしていた。

蒼依の昇神とその意味

蒼依は五鬼王を討滅したことで、イザナミの分体という立場を超え、新たな女神として独立を果たした。かつて山姥化する運命にあった蒼依は、この功績により呪詛から解放され、イザナミの影響を完全に脱した。蒼依の子孫も、イザナミの影響を受けない独立した存在となることが保証された。

伝承の不足と信仰の課題

香林は、蒼依の神格が低い要因として伝承の不足を指摘した。偉業が人々に知られていないため信仰が集まらず、それが神格に影響を及ぼしていると説明した。蒼依の神格を補完するには、五鬼王討伐の伝承を陰陽師協会を通じて公表し、人々に認知させることが重要であるとされた。

陰陽師協会への報告

一樹は蒼依の功績と神域の存在を陰陽師協会へ報告する計画を明らかにした。この報告により、蒼依が神域を持つ正当な女神であることを公的に認知させ、長期的に人間社会との調和を図ろうとした。香林もこの報告に賛同し、龍神の保証を付け加えることで、報告内容の信憑性を高めた。

凪紗の同居問題と一樹の機転

蒼依は凪紗の一樹宅での同居に断固として反対し、その意見を一樹に伝えた。一樹は蒼依の怒りを和らげるため、凪紗には一軒家と家政婦を用意する案を示し、事務所でのアルバイトとして関わることを提案した。

猫太郎の成長と蒼依の機嫌

最後に、一樹は猫太郎の成長について言及し、話題を逸らすことで蒼依の機嫌を取り戻した。新たな女神としての蒼依の立場と役割が確立する中、一樹は彼女との信頼関係を維持しつつ、新たな課題に向けた準備を進めたのであった。

牡丹灯籠

雨の怨霊と卿華女学院の危機

文化祭後の日常と修学旅行への不安

文化祭が終わった翌週、卿華女学院の生徒達は通常の学業に戻りつつあった。二年生の綾華と陽鞠は、来年の修学旅行が魔王の影響で中止になるのではないかと懸念していた。魔王の出現により広範囲での被害が続き、多くの学校で修学旅行が中止されている中、卿華女学院は予定通り実施される可能性が高かった。

牡丹灯籠の怨霊の再来

放課後、担任から呼び止められた二人は、「牡丹灯籠」にまつわる怨霊の話を聞かされた。伝承によれば、京都市の五条京極で怨霊となった弥子が雨の夜に現れ、生者に災厄をもたらすという。さらに弥子の墓地が学校の近隣に位置し、すでに生徒に被害が出ていることが明かされた。

陰陽師への依頼と提案

担任は、綾華の兄である陰陽師一樹に協力を依頼した。綾華は一樹に頼る前に、高等部の五鬼童紫苑の名前を挙げたが、紫苑は現在魔王対策に忙しく対応が難しいとされた。他の陰陽師も魔王の影響で人手が不足しており、現状では弥子の調伏に対応できる上級陰陽師がいない状況であった。

京都駅周辺への潜在的な危険

担任は、弥子が現れる範囲が京都駅周辺にまで及ぶ可能性を指摘した。京都駅は一日で数十万人が利用する重要拠点であり、怨霊の放置は甚大な被害を招きかねないと説明した。そのため、京都府が調伏費用を負担してでも迅速な対応を求めていた。

綾華の決断と一樹への連絡

最終的に、担任の説得に応じた綾華は、一樹に連絡を取ることを決断した。彼女は渋々ながらも、兄である一樹がこの危機に対応してくれることを確信し、学校と生徒達の安全を守るための行動を取ったのであった。

牡丹灯籠の怨霊との対峙

卿華女学院での待ち合わせ

小雨が降る日、一樹は卿華女学院の会議室で綾華と陽鞠と合流した。弥子の出現を受けて一樹が「有名な怨霊」と軽く評すると、綾華は苦笑しつつも、弥子の危険性を認識していた。一樹が渡している護符の力で小規模な妖怪や怨霊からは守れるが、直接の襲撃には注意が必要だと警告した。

陽鞠の囮としての立候補

陽鞠は弥子を誘き寄せるため、可愛い彼女役を自ら買って出た。かつて幽霊だった彼女は、その経験と高い呪力から怨霊を挑発する適性があった。一樹は陽鞠の冗談交じりの発言に困惑しつつも、囮役として連れて行くことを決めた。

雨夜の遭遇

一樹と陽鞠は弥子の気配を感じつつ、墓所近くの細道を歩いた。陽鞠の幽霊時代の名残から、夜の静けさに馴染む様子が窺えた。すると薄暗い細道に牡丹灯籠を持つ女が現れ、続いて弥子と新之丞の姿が浮かび上がった。

陽鞠と弥子の奇妙な対決

陽鞠は一樹の腕を抱き、挑発的な態度で弥子を刺激した。それに応じた弥子は新之丞と共に対抗し、互いに挑発が激化した。最終的に弥子が新之丞の生気を吸い尽くしてしまい、自らの力で彼を倒れさせる結果となった。これを見た陽鞠は勝利を宣言し、一樹はその状況に唖然とするばかりであった。

弥子の封印

その後、一樹は法華経を一日で写し、神気を込めて弥子の墓に納めた。業務用コピー機を活用し、千部の経典を準備した結果、弥子は再び現れなくなった。封印は成功し、陽鞠の挑発的な役割も一役買った形となった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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