小説「鬼人幻燈抄 : 2 江戸編 幸福の庭」感想・ネタバレ

小説「鬼人幻燈抄 : 2 江戸編 幸福の庭」感想・ネタバレ

どんな本?

この本は、江戸時代の風情とファンタジー要素が融合した物語が好きな方に特におすすめ。
物語の中で描かれる人間ドラマや、鬼との対峙が非常に魅力的で、読者を引き込む力がある。

今巻「鬼人幻燈抄:2 江戸編 幸福の庭」は、江戸時代の終わりに差し掛かった時期を背景に、甚太が甚夜と改名し、鬼退治をしながら自分の道を探し続ける物語である。
彼は江戸で多くの人々と出会い、その中で家族愛の様々な形に触れ、自らの使命を問い続ける。

鬼人幻燈抄』は、中西モトオ 氏による日本の小説。
この作品は、江戸時代から平成まで、刀を振るう意味を問い続けながら途方もない時間を旅する鬼人を描いた、和風ファンタジー巨編。

物語は、江戸時代に家出をした甚太と妹の鈴音が元治に助けられ、彼の故郷である葛野の村で新しい生活を送ることから始まる。
甚太は村の『いつきひめ』(葛野で信仰されている土着神に祈りを捧げる巫女)を護衛する巫女守という仕事をしていたが、ある日、村の近くに現れた鬼を討伐しに出かけた際に、その鬼から鬼の能力を受け継ぎ、甚太の体も鬼となってしまう。

その後、甚太は名前を甚夜と変え、鬼となった妹を止めるために、江戸時代、幕末、明治、大正、昭和と様々な時代を鬼討伐をしながら過ごし、力を身に着けていく。

また、この作品は「Arcadia」や「小説家になろう」で連載され、2019年6月から双葉社から単行本、2021年5月からは双葉文庫から文庫版が出版されている。
そして、2024年夏にはテレビアニメが放送予定となっている

読んだ本のタイトル

#鬼人幻燈抄  : 2 江戸編 幸福の庭
著者:#中西モトオ 氏
イラスト:#Tamaki  氏

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あらすじ・内容

百七十年後に現れる鬼神と対峙するため、甚太は甚夜と改名し、第二の故郷・葛野を後にした。幕末、不穏な空気が漂い始める江戸に居を構えた甚夜は、鬼退治の仕事を生活の糧に日々を過ごす。人々に紛れて暮らす鬼、神隠しにあった兄を探す武士……人々との出会いと別れを経験しながら、甚夜は自らの刀を振るう意味を探し続ける――鬼と人、それぞれの家族愛の形を描くシリーズ第2巻!

鬼人幻燈抄 : 2 江戸編 幸福の庭

鬼の娘

天保八年から諸外国の船が日本に接近し、長い鎖国体制が崩れ始めた。嘉永三年(1850年)秋、幕府が外国船に対してまともな対応を取れなかったことが民の不安を煽り、「鬼が出る」という噂が江戸で広まる。
商家「須賀屋」の手代・善二は、店主重蔵の養女・奈津の護衛として雇われた浪人・甚夜と出会う。
奈津は「鬼に襲われる」と言い出し、甚夜は彼女の護衛役を務めるが、奈津は彼を受け入れず、追い出そうとする。
ある夜、奈津が鬼に襲われるが、甚夜が見事に鬼を斬り倒し、奈津の安全を守る。

貪り喰うもの

嘉永六年春、甚夜は江戸の蕎麦屋「喜兵衛」に通っていた。そこで店主とその娘おふうとの交流が描かれる。
甚夜は辻斬り事件の調査を行い、茂助という鬼と出会う。
茂助は妻を鬼に殺された過去を持ち、その復讐のために辻斬りを追っていた。
二人は協力して辻斬りを追い詰め、最終的には甚夜が鬼を討ち取るが、茂助は深く傷つき命を落とす。

幸福の庭

嘉永六年秋、甚夜は三浦直次在衛という若い武士と出会う。
直次は家族から否定された兄を探しており、甚夜に助力を依頼する。
直次と甚夜は兄を探す過程で、かつて江戸で起こった「明暦の大火」について調査し、その火事が直次の兄を失った原因であることを知る。
直次の兄は異界に迷い込んだ末、鬼女との交流を経て異界に留まることを選んだ。
直次は兄を探し続ける中で、家族の絆と記憶のもろさに直面し、甚夜と共に兄の真実を探求する。

九段坂呪い宵

善二は日本橋近辺の茶屋で、鬼の絵が描かれた浮世絵について悩んでいた。
この絵は「九段坂の祟り」として知られており、不吉な噂が絶えない。
甚夜はその絵の真実を探るため、善二と共に絵師を訪ねる。絵師は体調を崩しており、浮世絵の背後にある恐怖と鬼の存在について語る。
最終的に、甚夜は元治の愛情深い過去を思い出し、父親への理解を深めることになる。

感想

この本は、江戸時代の終わりに差し掛かった時期を背景に、甚夜の成長と彼が出会う人々との関係を描いている。
江戸時代の終わり幕末を背景にした独特の世界観が魅力的である。
1巻から10年経った甚夜の心と武力の成長と、彼が出会う様々な人々との関係が深く描かれている。
1つの時代が終わる時期に家族愛や鬼との戦いを通じて、甚夜は自身の使命と生き方を問い続ける。
特に、彼の父との繋がりが暖かく描かれており、新たなキャラクターたちも魅力的である。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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その他フィクション

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フィクション(novel)あいうえお順

アニメ

PV

MBSアニメ&ドラマ
双葉社公式コミックチャンネル

備忘録

鬼の娘

1

天保八年から始まり、次々と諸外国の船が日本に接近し、長い鎖国体制は崩壊の兆しを見せていた。
特に、嘉永三年(1850年)の秋には、幕府が外国船に対してまともな対応を取れなかったことが、民の不安を煽り、「鬼が出る」という噂が江戸で広がり始めた。
江戸はもともと怪異譚が多い都であり、ここ数年で目撃談が異様に増加していたが、民の生活は日々を繰り返す中で変わらなかった。
しかし、皆が漠然と理解していたことがあった。
それは、何かが終わろうとしているということである。

善二は十歳で日本橋の商家「須賀屋」に住み込み始め、十年間働いて二十歳で手代に昇格し、次の番頭候補と見なされていた。
彼は親しみやすい性格で、問屋や顧客からの信頼も厚い。
須賀屋では簪や櫛、根付や扇子などの小間物を取り扱っており、善二は問屋や職人との交渉に携わっていた。
ある日、店が閉まっているのを見て驚いた善二は、店内で店主重蔵と浪人と思しき大男と会い、その浪人が重蔵に雇われたことを知る。
この浪人は重蔵の養女である奈津の護衛として雇われており、奈津が「鬼に襲われる」と言い出したため、その護衛としての役割を果たすことになる。
しかし、奈津はこの浪人を受け入れず、彼を追い出そうとする。
善二はこのやりとりをどうにか和らげようとするが、奈津は聞く耳を持たない。

奈津は十三歳の少女で、不安定な状態にある。夜、江戸の町が静まり返る中、彼女は布団の中で眠れずにいる。
奈津は外見は強気で生意気な態度を取るが、実際にはかなりの不安を抱えており、一人になることを極度に恐れている。
彼女は生まれてすぐに両親を失い、重蔵に引き取られて育った。
そのため、家族を失うことへの恐れが彼女を苦しめている。

善二は奈津が四歳の時に須賀屋に来た男性で、奈津を実の妹のように思いやる人物である。
彼は奈津が「鬼が出る」と言い出したときに、彼女の言葉を真剣に受け止めて、夜通し護衛をすることを決める。
奈津は善二が自分のことを案じてくれていることを感じているが、彼が鬼の存在を信じていないことに対して複雑な感情を抱いている。

ある夜、奈津は鬼が現れることを感じ取り、善二もそれを認識する。
鬼は奈津を自分の娘だと主張し、奈津を連れ去ろうとする。
善二は奈津を守るために立ちはだかるが、ただの人間に鬼に対抗する術はない。
そのとき、以前奈津が拒否していた浪人が現れて、見事に鬼を一太刀で斬り倒す。
この浪人は甚夜と名乗り、彼の剣の腕前に奈津は驚嘆する。

甚夜が奈津とその家族にとってどれほどの価値があるかを示す場面で、彼の行動が奈津の安全と家族の平和を保つ鍵であることが明らかになる。

2

夜の庭で、鬼が倒された後、甚夜は奈津と善二に鬼がまだ死んでいないことを説明する。
甚夜は重蔵に雇われており、善二が帰れと言っても従うわけにはいかないと述べる。
実際、甚夜は帰ったふりをして庭に隠れており、鬼が現れるのを待っていた。
善二は、そんな事態になるとは思っておらず、奈津が「鬼が出る」と主張していたことを信じていなかった。
鬼が倒された後も、その死骸が透明になり消えていく異常な現象が起こる。
甚夜はこれを見て、鬼がまだ死んでいないと結論づけ、再び現れる可能性が高いと説明する。
そのため、奈津に対して護衛として行動することを強く申し出る。

縁側に座る甚夜は、一夜明けた朝にも鬼が現れなかったことを確認し、安堵していた。
しかし、鬼がまだ死んでいないことは明らかであり、警戒を解くわけにはいかない。
奈津が目覚めると、彼女は顔を洗いに行くと言って、甚夜に付いてこないように言い放つ。
二人は庭を眺めながら朝食をとる。
奈津は少し眠れたが、依然として不安を隠せずにいる。
甚夜は彼女に対して護衛としての自信を示し、強がるものの、奈津は鬼が再び現れるかもしれないと心配していた。甚夜は奈津の不器用な性格を察し、彼女の心情を理解しようとする。
奈津は甚夜に対して何度もひどいことを言っていたが、甚夜は彼女の言葉に動じない。
彼は自分が演技で平静を保っていると説明し、その一部は戦闘中の技術の一環だと話す。
奈津はそれを聞いて、甚夜が内心怒っていたかもしれないと考えるが、甚夜はそれを軽く受け流す。
二人は庭を眺めながらさらに会話を交わし、奈津は甚夜の態度に戸惑いつつも、徐々に彼を理解し始める。

3

奈津は物心がつく前に両親が亡くなり、引き取られた父親は仕事に厳しいが彼女には常に優しく接している。
奈津はその父親を本当の父と心から思っているが、周囲の話から、彼が失った本当の家族を今も待っていると知り、自分がただの「代わり」ではないかと不安を抱いている。
彼女にとって本当に怖いのは、このような家族の真実である。

重蔵と奈津は夕食をとっていたが、通常無言の重蔵が珍しく話しかけ、護衛について問う。
重蔵は江戸に鬼が出る噂を聞き、刀一本で鬼を討つ浪人を雇ったことを説明する。
その浪人が甚夜であること、重蔵が鬼の存在を真実と受け止めて対策を考えていたことが明かされる。
甚夜と善二は奈津の護衛をしていて、夜になると庭を監視する。
奈津は善二がなぜいるのか疑問に思い、彼は昨夜の失言を挽回しようとしていると述べる。
重蔵は家族を鬼に奪われており、奈津にとっては唯一の家族であり、彼女は彼を本当の父と心から慕っている。
しかし、奈津は自分が本当の子供の代わりであるかもしれないという不安を抱えている。

騒動が収まり、庭に静けさが戻ってきた。
善二は奈津を抱えており、彼女は安心した表情で眠っている。
甚夜と善二は、これからの奈津が鬼を再び生み出さないように、彼女の成長を見守ることになる。
甚夜は奈津が成長し、過去の間違いを受け入れられると信じている。

その後、甚夜は庭で鬼が再び動き始めるのを見て、これが奈津の想いだけでなく、重蔵の亡くなった妻の想いが混ざっていることを理解する。
奈津の想いだけでは鬼を形成するには不十分で、鬼の中には重蔵の妻の想いも含まれていた。
甚夜はこの複雑な想いを理解し、最終的に鬼を斬る決断をする。

甚夜と善二は、鬼が完全に消え去った後、奈津を室内に寝かせる。
甚夜は一晩中庭を見守り、何も起こらなければすぐに立ち去るつもりだったが、奈津と善二が見送りに来ていたため、短い別れの挨拶を交わす。
甚夜は奈津に親孝行をするよう勧め、その場を去る。

甚夜が去った後、重蔵は店の前でその去り際を静かに眺めていた。
善二は重蔵が甚夜を非常に高く評価していることについて問いかけるが、重蔵はそんな問いを愚問と一蹴する。
その様子は、普段の重蔵からは想像もつかない感傷的なものであった。

奈津が重蔵の前に現れ、手伝いを申し出る。
この突然の申し出に重蔵は少し驚きながらも、親孝行について言及する奈津の言葉に内心で微笑む。
重蔵は奈津に対して、子供が親より長生きすることが最大の孝行だと教える。

最後に、重蔵と奈津は共に店に戻り、その後の様子は一見普通の家族の日常として描かれている。
一連の出来事が重蔵にとってどれほどの意味を持っていたのか、その深い感情は奈津には完全には理解されていないようだ。

貪り喰うもの

1

甚夜は嘉永六年春、江戸の深川にある蕎麦屋「喜兵衛」に足繁く通っていた。
店主とその娘おふうが二人で店を切り盛りしており、甚夜はしばしばその蕎麦を食べに訪れていた。
店主は最近の世相の悪さを愚痴りつつ、外国船の噂や江戸の治安の悪化について話していた。
特に、辻斬りの話題は甚夜にとっても重要であり、江戸の不安定な情勢に警戒していた。

甚夜は外見上は若々しく、鬼の姿を隠して人間として振る舞っていたが、その正体は鬼である。
彼はかつては人間として生きていたが、妹に想い人を殺された憎しみから鬼へと転じた経緯がある。
江戸での生活が長くなるにつれ、彼は人目を避けるために客入りの悪い店を利用するなどの工夫をしていた。

ある日、甚夜が店を訪れた際、店主とおふうとの間で世間話が交わされた。
おふうは甚夜に親しげに接し、彼の蕎麦に対する評価を聞く。
甚央は蕎麦の味は普通だと述べ、店主もそれに同意し、自分たちが蕎麦屋を開いた経緯をほのめかすが、具体的な話はしなかった。

さらに、江戸で増えている辻斬りの噂について語られ、それが鬼の仕業ではないかという話が出る。
甚夜はこの話に興味を示し、江戸橋で辻斬りが出たという場所を訪れて調査を行う。
そこで、実際に辻斬りと遭遇し、戦いを挑むが、相手の鬼は戦う意思がないと主張し、甚夜を自宅に招待することになる。

2

犬の遠吠えが夜の静けさを破り、江戸の町は青白く照らされていた。
甚夜は四畳半の古びた部屋に座り、茂助と名乗る鬼と対峙していた。
この男は人間の姿をしており、かつての鬼とは思えない普通の町人のようだったが、実際には高位の鬼であった。
彼は甚夜に酒を勧め、二人は会話を交わす。

茂助は自らの境遇を明かし、人間の妻を持っていたが、彼女は神隠しに遭い、その後残忍に殺されたことを告げた。
そのため、彼は復讐のために辻斬りを追っていた。
茂助は、甚夜に辻斬りを追うなら自分に任せて欲しいと頼んだ。
甚夜はその提案を受け入れ、二人は互いの目的を邪魔しないことで合意した。

甚夜は元々人間であり、鬼に殺された想い人の復讐のために鬼となった。
彼は自分の行動が意味を持つように、そして強くなるために鬼を狩る生活を送っている。
一方で茂助は、人間として平和に暮らすことを望んでいたが、妻を失ったことでその願いは叶わなかった。

二人は辻斬りを見つけ出すために共に行動を開始し、夜ごとに江戸を探索しているが、目立った成果は得られていない。
それでも茂助との酒の席は彼にとって心地よいもので、甚夜はこの関係を気に入っていた。
彼らはお互いに誠実さを保ちながら、各自の目的を果たすために努力を続けている。

甚夜と茂助は腹ごしらえのために蕎麦屋『喜兵衛』を訪れた。
そこで店主とその娘、おふうに迎えられる。店内は客が少なく、甚夜にはおふうが捜索状況を尋ねる。
甚夜は、を追っていることをおふうには話していなかったが、彼女は甚夜の冗談と思っていた鬼退治の話を真実だと捉えていた。

店主は、客足の悪さを嘆きながらも娘の嫁ぎ先を甚夜に持ちかけるが、おふうは困惑し、父親を叱る。
店主は娘の将来を案じ、娘を嫁に出すことを急いでいるように見える。
一方、おふうはまだ父の傍にいたいと願っている。
二人のやり取りは、互いを大切に思っているからこその言葉の応酬であった。

甚夜は、自身の父と妹の過去をおふうに語る。
父が妹に厳しく当たっていた理由を今なら理解できると述べるが、それに対する感情は複雑である。
自身も妹を見捨てたため、父を責める資格がないと感じている。
その心情を、綺麗にはいかないものだと表現している。

3

春の夜、甚夜と茂助は辻斬りを探すために江戸の町を見回っていたが、進展はない。
その日も情報交換後、おふうと偶然再会する。
おふうは蕎麦屋『喜兵衛』の看板娘で、普段とは異なり儚げな姿で夜を楽しんでいた。
茂助は甚夜に女性を送るように勧めて姿を消し、甚夜はおふうに声をかける。
彼女は雪柳の花を見ていたが、これが柳に似ている桜の一種であることを説明する。

おふうの言葉に心動かされた甚夜は、自分の厳しい生き方を見直すきっかけを得る。
おふうの明るく慈愛に満ちた態度に癒され、彼は彼女を送ることにする。
夜道を歩きながら、甚夜は自己の内面と向き合い、彼女の言葉を受け入れることで少し心が軽くなる。
花々について学びながら、甚夜は今まで見えなかった景色と向き合う。

甚夜と茂助は辻斬りの情報を求めて江戸の町を探索していたが、成果は上がらなかった。
甚夜はおふうを自宅まで送り、彼女から花について教えられる。
おふうは甚夜に感謝し、彼もまた彼女の話に興味を示した。
別れ際、おふうは甚夜が過保護だと不満を漏らすが、甚夜はそれを親の心配として理解する。
二人は再び別れ、甚夜は辻斬りの捜索を続ける。

その後、甚夜は茂助に出会い、二人で話を交わす。茂助は姿を隠し、甚夜と会話を続ける。
夜の町を歩きながら、甚夜は女性が危険な状況に置かれることに懸念を示す。
しかし、おふうは自身の行動に自信を持っていて、甚夜の心配を受け入れない。
最終的に甚夜はおふうに花の話を約束し、彼女を送ることを決める。
その後、甚夜は再び辻斬りの捜索に戻る。

茂助が江戸の外れ、谷中の寺町に辿り着いた。この地域は寺院が多く、夜は特に不気味な雰囲気が漂う。
人通りが少ないため、通常であれば辻斬りには不向きな場所と思われるが、突然の悲鳴を聞き、茂助は姿を隠して声の方へと進んだ。
彼が目撃したのは、血を滴らせながら若い女を抱えて走る鬼の姿であった。
この鬼が茂助の敵であると確信し、追跡を続けた。逃げた先は、以前住職が亡くなり廃寺となった「瑞穂寺」だった。
茂助にとって、この寺は自らの憎悪を終える場所であることが明らかになった。

4

鬼には様々な起源がある。茂助は純粋な鬼として生まれ、自分の存在を受け入れつつも人間の姿を取って生きることを選んだ。
人間としての生活を営み、愛する女性と出会い、恋に落ちる。
彼女に自分の真実を打ち明けたが、彼女は茂助を受け入れた。二人は結婚し、平穏な日々を送る。
しかし、鬼の本性を隠しながらも、その静かな生活に満足していた。

一方で、鬼としての運命は彼を瑞穂寺へと導く。
そこで茂助は獣のような姿をした鬼と対峙し、彼には夫婦を裂かれた過去がある。
鬼との戦いでは、茂助は深く傷つけられ、その死を覚悟する。
しかし、鬼は彼を殺さずに去っていく。
茂助は自分の運命を受け入れながら、憎悪と後悔の中で最期を迎える。

甚夜も瑞穂寺に到着した。
静かながら不気味な雰囲気を持つ廃寺を進む彼は、本堂が辻斬りのいる場所であると推測し、そこへ向かった。
足跡があることから、誰かが定期的にこの場所を利用していると気づく。
本堂に入ると、死体から発せられる独特の臭いがした。
床には血の跡があり、茂助と思われる異形の鬼が力なく横たわっていた。
茂助は左半身を大きく損傷しており、甚夜は慎重に彼の近くに近づいた。
罠の可能性も考えつつ、茂助の傍までたどり着く。

茂助は虚ろな目で甚夜を見上げ、強がりを見せつつも痛みで顔を歪める。
彼は自分の死を悟りつつ、甚夜に仇討ちを頼んだ。
甚夜は茂助の願いを受け入れ、短刀を受け取り、共に戦うことを約束する。

物語の始まりは、男たちの死体と血溜まりである。意識を得た時には既に鬼となっており、何かを探していた。誰を探しているのかは不明だが、その過程で出会った男たちは理由もなく殺していた。殺すことによって一時的な解放を感じていた。

昨日も男を殺したが、今回はすっきりとしなかった。
いらいらとした気持ちで町に出かけ、さらに何かを探し続ける。

町で女性を攫い、廃寺まで連れ帰った。女性は食べるために生かしておく必要があった。
鬼の体に必要なものを摂取するためである。
女性を攫ったのは帰るため、どこに帰るのかは分からないが、早く帰りたいという思いが強い。

本堂で女性を食べようとした瞬間、誰もいないはずの場所で声が聞こえ、驚いて振り向くと誰もいない。
しかし、気付けば腕が斬られている。何が起こったのか理解できない中、人影を見つけ、殺し損ねた男が再び現れたと考え、影に向かって怒りを向ける。その場には太刀を構えた鬼がいた。

甚夜は廃寺の本堂で鬼を見据える。
鬼は食事中であり、その隙を突いて甚夜は鬼の腕を切り落とすが、鬼は動揺を見せず反撃を試みる。
非常に高速で動く鬼は甚夜に捉えられず、ただ無目的に暴走する。
しかし、甚夜は茂助の助力により姿を消す力を持っており、鬼は甚夜の位置を把握できない。
この利点を活かして甚夜は鬼の足も斬り、最終的には鬼を討ち取る。

本堂には破壊された跡が残り、甚夜は鬼に対して質問を試みるが、鬼からは明確な答えは得られない。
甚夜は、この鬼が最初にいた「男を殺し、女を犯す辻斬り」とは異なり、「男を殺し、女を喰らう辻斬り」であることを理解し、鬼の本質に迫る。

甚夜は鬼の左腕にある力を吸収し、鬼の記憶から、彼が人であった頃の記憶を見る。
鬼は元々男に犯された女で、死後、その絶望と憎悪が鬼として蘇った。
彼女は人としての体を取り戻そうとして女を喰っていたが、結局は失った幸福に帰ることはできず、最終的に甚夜に討たれる。

甚夜はこの鬼を討ち、その悲しい運命を背負うことになる。鬼はただ、かつて失った幸福に帰りたかっただけであったが、それは叶わなかった。
甚夜自身も過去に囚われる存在として、鬼の運命に対して憐憫と羨望の感情を抱く。

甚夜は本堂に一人残り、自らの変化した肌の色を眺める。
取り込んだ鬼の影響で全身が鉄錆のような褐色になっていることを感じる。
彼は自身の行動を振り返り、過去に鬼から投げかけられた「人よ、何故刀を振るう」という問いに今も答えを持たないことに思いを馳せる。
憎悪と力を求める欲望が交錯し、その結果として他者の願いを踏み躙りながらも人としての彼女を止めたいという願望に苛まれる。

数日後、甚夜は茂助が住んでいた裏長屋を訪ねる。
持参した酒瓶を手に、茂助の知り合いと誤解された甚夜は、茂助の妻「はつ」についての話を聞く。
はつは茂助に深く愛されていたが、不幸にも犯されて殺されたという事実を知る。

はつの名前が甚夜が斬った鬼と同じであることから、悲しい符合を感じる。

甚夜は鬼がずっと探し続けていたのは憎むべき誰かではなく、本当は自分を犯し殺した男かもしれないと考える。
しかし、最終的には過去に手を伸ばしても変えられることはなく、失われたものは戻らないと結論づける。
茂助の想いがいつかは妻のもとに戻ることを願いつつ、酒瓶を妻の墓前に供えるよう頼む。

春の陽気の中、甚夜は茂助との別れを告げ、裏長屋を後にする。
短い交友だったが、酒を共にした記憶は彼にとって貴重なものであった。

宵闇に二人の男が闊歩していた。
彼らは過去に非道な行為を犯し、現在も普通に生活していたが、彼らの罪は鬼の仕業にされているという噂があった。
ある夜、彼らが次の悪事を計画していると、突如彼らの首が斬り落とされた。
その場には誰もおらず、鋭利な刃物によって首が落とされていた。
恐怖に震える男の声も、次々と斬られる運命から逃れることはできなかった。

江戸の町を騒がせていた辻斬り騒動は、この二人の被害者を最後に止まり、犯人は最後まで明かされなかった。
この事件は「寺町の隠行鬼」として知られ、一種の怪談として後の世に語り継がれることとなった。
その真実は誰にも知られず、時はただ流れていった。
春は終わろうとしていた。

幸福の庭

1

音が響き、童女の数え唄が流れてくる黄昏の中、一人の人物がうらぶれた屋敷に辿り着いた。
童女の声は心地よいが、空恐ろしさも感じさせる。
屋敷の庭には水仙が咲き乱れ、濃密な花の香りが漂い、鯉の水音も聞こえる。
庭には白い光が舞い、蛍か魂のように見える。
この場所は現世ではないかもしれないという感覚がある。

庭の中心で、童女は毬をつきながら数え唄を歌っている。
美しい娘であるが、人形のように無表情で、愁いを帯びた空気が周囲に漂う。
娘は笑わず、遠い眼で唄を口ずさんでいる。
その場の美しさと寂寥感が、観る者の心に深く残る。しかし、不思議ながら逃げる気持ちは起こらず、魂魄が奪われたように感じる。

数え唄は途中で止まり、「続きはないよ」という幼い声が聞こえ、「もう帰る道はなくなった」と告げられる。
この不可解な状況と景色は、観る者を囚われさせ、異界のような空間を創出している。

嘉永六年の秋、江戸の町は賑やかで人々が行き交っていた。
その中で三浦直次在衛という人物が歩いている。
彼は三浦家の嫡男で、十八歳になる未だ若輩の武士だが、右筆として登城し、文書管理の仕事をしている。
彼の生活は安定しており、家督を継ぐ準備も整っていたが、彼自身はその状況に悩んでいた。

一方、奈津は蕎麦屋「喜兵衛」で昼食を取っている。
この店は閑古鳥が鳴くほど客足がまばらであったが、奈津は度々訪れる。
彼女は昔の知人、甚夜に再会するために来ていた。
その日、彼女は偶然店を出る際に直次とぶつかるが、彼は謙虚に謝る。
店主が直次の人柄を褒め称え、奈津は彼の礼儀正しさに感心する。

このエピソードは、江戸時代の日常と人々の交流を描いている。
直次と奈津、二人の性格や状況が巧みに対比され、彼らの性格と社会的地位が明確にされている。

嘉永六年の秋、三浦直次在衛は蕎麦屋「喜兵衛」でかけ蕎麦を注文し、心配そうに見えるおふうに悩み事があることを認める。
彼は武士の家柄から町人を見下すことなく、敬語を使って接する。
直次は悩んでおり、自分には実際にいるはずの兄が家族によって否定されていると説明する。
店主とおふうはその話に困惑し、彼を慰めようとする。その後、蕎麦屋に夜叉様と呼ばれる甚夜君が入店する。
甚夜君は剣術に長けた浪人で、鬼を討つとされるが、実際はただの浪人である。直次は彼に圧倒されながらも興味を持つ。

甚夜がいつも通り蕎麦屋「喜兵衛」に立ち寄ると、珍しく他に客が一人いるだけであった。
店主は甚夜のことを冗談交じりに迎え、彼の常連としての注文、かけ蕎麦を受ける。
甚夜は店の蕎麦を普通だが気に入っていると述べ、店主と軽いやりとりを交わす。
その間、おふうが蕎麦を運び、彼女の成長を褒める。
甚夜は秋の季節を詠じ、おふうとは花についての話で盛り上がる。
二人の関係は親しいものとなっており、おふうは甚夜に対して気遣いを示す。
店を訪れていたもう一人の客、三浦直次が突然話を割り込み、甚夜に鬼を討つ依頼をしようとする。
甚夜は鬼を討つことはできるが、怪異の原因を解明することはできないと説明する。
その後、店主とおふうは甚夜に三浦直次を助けるよう頼む。甚夜は彼らの要求を受け入れ、恩返しの意味も含めて協力を約束する。

2

記憶に残る幼少期の景色が描かれる。
優しい父とよく笑う母が登場し、子供時代に庭で遊ぶ主人公が描かれる。
父が購入した毬と母が整備した庭が大切な思い出として語られる。
母は専属の庭師に反対されながらも自ら庭を手入れし、花を植えた。
この庭は主人公にとっても重要な場所であった。
時間の流れにより、幸福な時は速く過ぎ去るというテーマが語られる。
彼岸を望む場面で、故郷は遠く感じられると述べられる。

甚夜が深川にある茶屋で休息を取っている場面が描かれる。
通りがかった奈津に声をかけられると、彼は磯辺餅を食べながら過ごしている。奈津は甚夜の隣に腰を下ろし、茶と餅を注文する。
二人は親しい会話を交わし、奈津は甚夜に親しみを込めて話をする。
甚夜は自身の仕事である鬼の討伐について語り、奈津はそれに対して憂慮を示す。
甚夜は自身が鬼であることを隠しながら、彼女との時間を楽しむ。
会話の中で、甚夜は自身の年齢を告げ、二人は互いの未来について語り合う。
最後に、甚夜は仕事のために立ち去るが、その別れ際には彼らの間には特別な絆が感じられる。

江戸の町の多くを占める武家町に三浦家があり、その家は古くから地震に耐え抜いてきた。
三浦直次は家を出る準備をし、打刀と脇差を腰に携えて出かけようとする。
母は直次の夜の外出に反対し、三浦家の嫡男は彼であり、兄は存在しないと主張する。
しかし直次は、兄が確かに存在したと反論し、遊郭や貧民窟に足を踏み入れていることを母に詰問される。
家柄を重んじる母の諫言にもかかわらず、直次は兄を探し続ける決意を示す。
母から学んだ武士の在り方に悩む直次は、自らの意思で兄の真実を探求する道を選ぶ。

甚夜が三浦家へ向かう途中、直次と出会う。
直次は兄を探しているが、周囲からは兄が存在しないと言われている。
甚夜はこの事態に首を突っ込むことを決意し、直次に解決できるとは約束できないが助力すると伝える。
直次は安堵し、笑顔を見せる。
二人は別の場所で会話を続けるが、甚夜は元武家ではないと説明し、以前の地域で帯刀が許されていたことを話す。
直次は甚夜の刀に興味を示し、甚夜の故郷や刀についての詳細を尋ねる。
甚夜は直次に兄が消える前の情報を求める。
直次は兄の消失と関連する花の話をするが、その花の詳細は不明である。
甚夜はそれが水仙かもしれないと考え、直次に兄の部屋から花のサンプルを持ってくるよう頼む。
二人は兄の消失の謎を解明しようとする。

3

毬をつきながら、花の満ちた庭で遊ぶ少女。父と母は縁側で見守る。
平和な午後が急に変わり、遠くで黒煙を上げる大火が見える。
それは千代田城が焼け落ちる大火である。火の手は迅速に広がり、少女の屋敷も襲う。
少女は恐怖に震え、父母を助けようとするが、彼らは炎に飲み込まれる。悲鳴と轟音に包まれ、少女は逃げようとするが動けない。
そして、幸福の庭は炎と崩壊により終わりを告げる。

甚夜が三浦家へ向かう日、夕方まで時間があり、昼に喜兵衛の店に行く。
店では奈津がいて、二人は蕎麦を食べながら話す。
店主は、甚夜を婿にという考えを持ちつつ、笄の話題で盛り上がる。
笄は武士が携帯する小物で、直次から店主への贈り物であった。
店主はそれを甚夜に譲ろうとするが、甚夜は受け取ることを渋る。
最終的には形式的に預かることになり、おふうも感謝を表す。
甚夜はその後、蕎麦を食べ始めるが、何か物足りなさを感じていた。

直次が江戸城からの帰路を急いでいた。
兄を探すことが目的であるが、その日は甚夜との約束があったためだ。
同僚のからかいを受けつつ、彼は城門を出て急ぎ足で家に向かう。
到着すると、甚夜が仏頂面で待っており、挨拶もそこそこに屋敷へと案内を頼んだ。
直次の母が玄関で出迎えるが、甚夜の浪人然とした姿に一瞬訝しがるも、彼の礼儀正しい挨拶には適切に対応した。
直次は母に甚夜を知り合いと紹介し、家に泊まることを説明する。
母はその説明を受け入れ、二人は母屋へと向かう。
甚夜は母の感謝の言葉に動揺を隠せず、何か礼を言われるべき行動をしたか自問するが、明確な理由は分からなかった。
母は息子が久しぶりに明るくなったことを喜び、直次もその想いに心を動かされる。
その後、二人は部屋に籠もり、甚夜は直次の兄の部屋で発見された水仙の花について話を聞く。
直次は部屋を案内し、甚夜はその花から何かを感じ取ろうとする。

4

死んだと思っていたが、生きていることに気づく。
屋敷は崩壊し、家族は失われ、何も残らない中で一人生き残る。
すべてを失った痛みを背負い、江戸から遠くへ逃れる。
時が経つにつれ、父母の記憶さえ薄れるが、幸福だった過去の記憶は消えない。
長い時を経て、再び江戸に戻り、かつての住居があった場所に新たな屋敷が立っているのを見る。
涙を流し、幸福だった過去を願うが、現実には戻れない。
しかし、ある瞬間、過去に戻ったかのような幻想に包まれ、幼い日々の幸せを感じることができる。
結局、過去の幸福な庭から動けないでいる。

一瞬の前後不覚を起こした直次は、見知らぬ少女の人生を夢に見る。
意識が覚醒し、兄の部屋と思われた場所を見回すと、何かがおかしいことに気づく。
調度品など細かな点で差異があった。
甚夜が突如として現れ、状況に驚く直次。甚夜は、二人が同じ夢を見たことから、何らかの怪異の中心にいると理解する。
この屋敷は三浦家とは異なり、別の場所であると推測される。
兄が消える前に「娘に逢いに行く」と言ったことから、甚夜はその娘が鬼であり、兄は現世とは隔離されたどこかに連れ去られたのではないかと推測する。
部屋から出て廊下へ出た二人は、屋敷が古い武家屋敷であることを確認し、外に出ようとするが門が固く閉ざされていることから、簡単には出られないことを悟る。
甚夜は、この屋敷や白昼夢が鬼によって生み出された可能性を示唆する。
その後、甚夜と直次は庭に向かい、そこで定長と毬を抱えた童女がいるのを見つける。
直次は兄を見つけたことに驚き、駆け出そうとするが、再び花の香りによって足がもつれ、意識が朦朧となる。

三浦定長兵馬は、庭先で毬を抱えた童女に片膝をつきながら問いかける。
童女は百年以上もその場所にいると答え、定長はその言葉を不思議に思うものの嘘とは感じない。
童女は一人でずっとそこにいると無表情で語る。
彼女は鬼の正体を持ち、両親はすでに亡く、この屋敷には百年以上一人でいると語る。
定長は偶然この異界に迷い込んだが、閉じ込められてはおらず、童女に悪意はない。
童女は定長に現世へ帰るよう促すが、彼は彼女を心配して居座ることを選ぶ。定長は花の美しさを楽しみながら、童女との交流を深める。
彼女は定長に早く帰るよう何度も言うが、定長は彼女が孤独になるのを避けようとする。
童女は定長の存在を必ずしも歓迎しておらず、彼女が現世へ送り返す力を持つことを示唆する。
しかし定長はそこに居座り続け、最終的に童女が彼を「お父さま」と思える日が来ることを望みながら、彼女と共に屋敷から出ることを提案する。

庭先で毬を抱えた童女に三浦定長兵馬が問いかける。
童女は百年以上もそこにいると述べるが、その言葉を定長は疑う。
童女は常に一人で、失くさないように毬をしっかりと抱えている。
童女は、帰る道がなく逃げられないと述べる。
定長は偶然異界に迷い込み、童女に鬼の存在と屋敷の秘密を聞かされる。
童女は定長に現世に帰るよう何度も促すが、定長は居座り続け、童女と共に時を過ごすことを選ぶ。
最終的に、童女は定長に現世に帰るよう強く勧めるが、定長は拒否し続ける。
二人はお互いに心を開き、童女が笑う姿を見て定長は微笑む。
童女が現世への帰還を促すが、定長は異界に留まることを選び、童女の孤独を案じる。
童女は定長に感謝し、二人はそれぞれの幸福を見つける。

5

甚夜と直次は、鬼女との出会いの翌日に蕎麦屋『喜兵衛』で会っていた。
直次は城を抜け出し、二人は茶を啜りながら会話を交わしている。
直次は母に兄の記憶について尋ね、母は兄が家を出て行ったことをぼんやりと覚えており、兄を家族から切り捨てたことを告げる。
これにより、直次は自らが嫡男となったことを悟る。また、直次は、江戸時代の大火事「明暦の大火」について調べた結果、火事が実際にあったことを確認する。
この火事が、童女が全てを失った出来事であることが明らかになる。
二人の会話は、家族と時間の経過による忘却のテーマを掘り下げ、直次はやがて自分も兄を忘れてしまうかもしれないと感じる。
甚夜は、この現象が人の自然な性質であることを示唆する。
この対話は、家族の絆と記憶のもろさに焦点を当てている。

短編  九段坂呪い宵

1

善二が日本橋近辺の茶屋で休息を取っていたある冬の日、彼は心地よい温度の茶を飲みながら、隣に置かれた荷物に悩んでいた。
この荷物には問題の浮世絵が含まれており、この絵は九段坂で一人歩いていた人が無残にも殺された後、その場に残されていた。
事件の怖ろしさと鬼の絵としての噂から、「祟りではないか」と囁かれていた。
善二がこの絵を手に入れたのは、逝去した人物の妻が彼に処分を押し付けたためである。
不本意ながら受け取った善二は、何をして良いかわからず、ただただ困惑していた。
立ち去る際には、不注意から荷物を落とし、通行人に踏みつけられてしまう。

甚夜は実の父である重蔵との距離感に戸惑いつつも、須賀屋主人の私室で茶を飲む機会を持った。
重蔵からの依頼は、鬼の絵が描かれた浮世絵に関するものだった。
その絵は美人画風で、巫女が描かれており、甚夜はそれが信濃の女神「奴奈川姫」ではないかと推測したが、重蔵は単に商売上の心配から甚夜に相談していた。

甚夜は依頼を受け入れ、絵の真実を探ることになった。その過程で、重蔵との関係は依頼者と受け手としてのものに終始し、親子としての接点は薄かったが、重蔵の少しの情が示される場面もあった。

浮世絵の真実を探求する中で、甚夜は善二とともに絵の情報を探り、伝馬町の絵草子屋を訪れた結果、浮世絵を描いた絵師が体調を崩していることを知り、絵に関連する不吉な噂が真実かどうかを確かめるためさらに調査を進めることになった。

2

遠い昔、甚太(後の甚夜)は父親元治の死を目の当たりにし、突然の終わりを痛感した。
産鉄の集落葛野が鬼に襲われた際、元治は集落の巫女である夜風を守る巫女守として、鬼に立ち向かったが、その強さには及ばず命を落とした。
元治は最後まで、夜風への想いを語り、甚太に重い言葉を残した。
その言葉は甚太に深く影響を与え、彼の心に刻まれた。
結局、元治は鬼によって殺され、甚夜はその場で意識を失い、目を覚ますとすべてが終わっていたという。

この出来事は甚夜に深い心の傷を残し、彼の運命を大きく変えることになった。
元治の最期の言葉は、変化を恐れずに生きることの重要性を説いたもので、甚夜にとって大きな教訓となった。

3

元治から教えられた「変わらないものはない」という教えを胸に、甚夜は寝覚めの悪さを感じつつも、深川の貧乏長屋を出発し、堺町に向かう。
途中、おふうと奈津と出会い、彼女たちは息抜きのためにお店を見に行くという。
甚夜は九段坂の浮世絵について調べていることを告げ、おふうと奈津に心配される。
甚夜は義父が関わっている可能性があると明かす。
奈津の質問に、甚夜は元治が巫女の護衛役であったと説明し、彼のことを懐かしく思う。
おふうの優しい言葉に少し心が和らぎ、三人は別れる。

甚夜は嵯峨道舟の住む裏長屋を再訪し、道舟は九段坂の浮世絵の真実を語り始める。
浮世絵は元治が名無しという女性の姿を基に依頼したもので、名無しは元治の恋人であり、信濃の出身だったという。
九段坂の絵は元治が巫女様に対して抱いていた惚気を表現したもので、その愛情が絵に込められていたことを道舟は明かす。

甚夜は元治が家族をどれだけ愛していたかを思い出し、その惚気を恥ずかしいが愛情深いものと受け止める。
彼はその日のうちに喜兵衛で蕎麦を食べながら、元治の愛情を振り返る。
その後、重蔵の私室で九段坂の浮世絵について報告し、話は終わる。

この一連の出来事は甚夜にとって、元治の人となりを再確認する機会となり、父親への理解を深めるものだった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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