どんな本?
『魔法科高校の劣等生 夜の帳に闇は閃く(2)』は、人気シリーズ『魔法科高校の劣等生』のサイドストーリーに位置する作品である。
この物語は、シリーズの主要キャラクターである司波達也や四葉家を巡る陰謀を背景に、四葉家の分家の黒羽姉弟、文弥と亜夜子が活躍するスピンオフ。
物語は、達也暗殺を狙うマフィア・ブラトヴァの動きから始まる。
前巻でロシア系マフィアの計画が失敗に終わり、今度はイタリア系マフィアが暗躍し、四葉家とライバル関係にある七草家の娘たちを人質に取ることで四葉家に対抗しようとする。
この策略を防ぐため、黒羽の双子である文弥と亜夜子が動き出し、事件に立ち向かうこととなる。
本作では、七草香澄と七草泉美という本編のキャラクターが物語の中心となり、彼女たちの大学生活やサークル活動の一環として馬術クラブのエピソードが描かれる。
また、物語が進むにつれて、イタリア系マフィアとの駆け引きや潜入任務、暗殺計画が展開され、サスペンスやアクション要素が加わっていく。
特徴的なのは、戦闘シーンだけでなく、キャラクター同士の心理戦や策略も多く含まれており、黒羽姉弟や新キャラクターたちの成長や葛藤が描かれている点である。
『魔法科高校の劣等生』シリーズのファンにとっては、達也以外のキャラクターたちの視点から物語を楽しむことができる一冊であり、シリーズの世界観をさらに深く知ることができる作品となっている。
読んだ本のタイトル
魔法科高校の劣等生 夜の帳に闇は閃く(2)
著者:佐島勤 氏
イラスト:石田可奈 氏
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あらすじ・内容
次なる標的は七草の双子、黒羽の双子が闇を駆ける!
文弥たちの活躍でマフィア・ブラトヴァによる司波達也襲撃は失敗に終わった。
単純な力押しでは「触れてはならない者たち」の異名を持つ四葉家に対抗することは難しいと悟った彼らは、同じ十師族で、以前は四葉のライバルと見なされていた七草家の子女を人質に取り、利用することを目論んでいた。
魔法大学に進学した香澄と泉美は、交友関係を広げるためにさまざまなサークルに参加していた。複数のサークルにうまく馴染むことができた泉美とは対照的に、香澄はどのサークルでも馴染むことができなかった。
そこで、弘一の勧めで社会人の乗馬クラブの見学に訪れるのだが、そこにもマフィア・ブラトヴァの刺客が紛れ込んでおり……。
感想
文弥よ、君はいったい何処に向かっているんだ?w
『夜の帳に闇は閃く』は、黒羽文弥と亜夜子が主役となるスピンオフの第2巻。
前巻で達也を暗殺しようとしたロシア系マフィアを退けた後、今度はイタリア系マフィアが七草家を狙う展開であった。
香澄と泉美という七草家の双子を誘拐しようと、暗躍するマフィア達の陰謀を阻止するため、文弥たちが暗躍する姿が描かれていた。
大学生となり社交性を高めるために香澄が体験で入った乗馬クラブでナンパされるシーンは、文弥の登場がまさにタイミング良く、彼がまるで白馬の王子様のように彼女を救う姿は非常に印象的であった。
しかし、香澄が無防備すぎる部分には少し違和感があり、大学生としてのもう少し成熟した描写が欲しかったとも感じた。
一方、文弥たちの冷静で計画的な行動は物語全体に緊張感をもたらし、彼らのプロフェッショナリズムがよく表現されていた。
また、新キャラクターとして登場した暗殺者ショコラこと千代子の存在が物語に新しい風を吹き込んでいた。
彼女と有希との関係性がどう発展していくのか、今後の展開が楽しみである。
物語の後半では、文弥たちがシンプルな暴力でマフィアを制圧するシーンもあり、魔法が主体の世界観の中で暗殺者たちのアクションが新鮮に感じられた。
全体として、この巻は少し淡白な部分もあったが、スピンオフとしては十分に楽しめる内容であり、次巻への期待が高まる作品であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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同シリーズ
魔法科高校の劣等生 夜の帳に闇は閃く
小説版
魔法科高校の劣等生
続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー
新魔法科高校の劣等生 キグナスの乙女たち
漫画版
四葉継承編
師族会議編
エスケープ編
その他フィクション
備忘録
【1】陰謀浅慮
西暦2099年4月の夜、イタリア企業が借りていた低層ビルの一室で、三人の男たちがテーブルを囲んで話し合っていた。彼らはイタリア人で、マフィア・ブラトヴァのシチリアン側の幹部であった。ロシアンマフィアとの連合組織であるブラトヴァは、今回の任務に関して、現地の状況を確認し具体的な行動方針を立てる役割を与えられていた。
彼らの議題は、司波達也の暗殺計画であり、ロシア人たちの失敗について語り合っていた。ターゲットである司波を守る四葉家の強さを認めつつ、イタリア側も簡単には成功しないと考えていた。彼らは魔法師の力が必要だとし、親衛隊を動かすことも議論したが、最終手段として控えるべきだとの意見が出た。
さらに、彼らは十師族の一つである七草家を利用できる可能性を議論した。七草家が四葉家のライバルであったことから、彼らの力を借りることができるのではないかと考え、特に七草家当主の未婚の娘たちを人質に取る計画を立てた。娘たちを人質にすることで、七草家を利用し、最悪の場合は娘たちを売るという非道な案まで提案された。こうして、彼らはマフィア的な結論に達し、会議を終えた。
【2】大学生のサークル活動
4月の第三日曜日、夜の帳が降りる中、都心の歴史ある一流ホテルのレセプションホールで、フォーマルに装った若者たちが優雅にステップを踏んでいた。中でも、司波深雪とアンジェリーナ・クドウ・シールズ(リーナ)の二人が、圧倒的な存在感を放っていた。
深雪のパートナーは達也であり、リーナのパートナーは沢木碧が務めていた。周囲の視線は、特に深雪とリーナに集中しており、特に七草泉美は深雪に心奪われていた。泉美の姉、七草真由美はその様子を苦笑いで見守り、友人の花山清香と会話を交わしていた。
このダンスパーティは、清香がリーダーを務めるサークル『Oh!茶会』が主催する懇親会であり、魔法大学の学生が主な参加者であった。しかし、他大学の学生も招かれていたため、多彩な顔ぶれが集まっていた。
パーティ中、深雪はパートナーを変えようとせず、達也と踊り続けていた。一方でリーナは新しいパートナーと踊っていた。清香はリーナの親しみやすさと、深雪の完璧な雰囲気の違いについて語り合い、リーナの方が罪深い存在かもしれないと結論づけたが、泉美は熱心に深雪と踊りたいと主張していた。
『Oh!茶会』が主催したダンスパーティの翌日、七草泉美は姉の香澄に対し、深雪の美しさについて熱弁を振るっていた。泉美は深雪と踊れなかったことを残念に思っていたが、香澄は冷静にそれをたしなめていた。二人は講義を終えて帰宅する途中であり、泉美は香澄にサークルに入ることを勧めたが、香澄はまだサークルを決めかねていた。
約一週間後の四月最後の日曜日、香澄は依然としてどのサークルにも馴染めないと悩んでいた。そんな中、夕食時に父親の弘一が香澄にサークル加入について助言した。弘一は香澄に馬術クラブを勧め、その提案を受けて香澄は見学に行くことを決めた。香澄は幼少期に馬術に興味を持っていたことを思い出し、その挑戦を再び試みることにした。
泉美は、香澄が馬術クラブに本当に入るのかを尋ね、香澄は気に入れば入るつもりだと答えた。二人はパジャマ姿で就寝前の会話を楽しみ、香澄は障害飛越に興味を持っていた。泉美は心配していたが、香澄の前向きな姿勢を見て安心し、互いに応援し合った。
その後、土曜日の音楽サロンが開かれ、真由美と泉美がヴァイオリンとピアノで堂々と演奏した。泉美はプロの若手音楽家が集まる中でもしっかりと演奏を披露し、真由美も妹の成長に驚いていた。一方で、泉美は過去の九校戦で敗北した相手、黒羽亜夜子への対抗心を燃やしていた。亜夜子も演奏に参加し、二人の間には競争心が見られた。
さらに、サロンに参加していたイタリアからの留学生エドアルド・リッチが、泉美に不快な視線を向けていることを亜夜子が察し、彼の行動に警戒心を抱いていた。亜夜子は、女性として無視できないと感じつつも、イタリア人への偏見が含まれていることを認めざるを得なかった。
【3】馬とナンパと同級生
泉美と亜夜子がニアミスを起こしたサロンの翌日、香澄は父の紹介で馬術クラブを見学していた。体験乗馬では、香澄はすぐに慣れ、指導員から称賛された。見学中、香澄は障害飛越の馬場に足を運び、幼い頃の願望を思い出して興奮していた。
しかし、香澄の前に二人の軽薄な若者が現れ、ナンパを始めた。香澄は彼らを拒否し続けたが、ナンパ男Aが彼女の腕を掴んで無理やり引っ張ろうとした。その時、赤い乗馬服を着た人物が現れ、ナンパ男Aの拳を受け止めて介入した。この人物は黒羽文弥であり、ナンパ男たちを軽々と制圧した。文弥は香澄にスタッフを呼ぶよう指示し、ナンパ男たちはクラブの警備員により取り押さえられた。
その後、香澄はクラブハウスでイタリアからの留学生、ヴィットリア・リッチと出会い、彼女から親しくされる。しかし、文弥はヴィットリアの接近が不自然であり、彼女が何かを企んでいると感じ、警戒を強めた。文弥はヴィットリアを調査対象としてリストに加える決意をした。
【4】探り合い
5月3日、文弥は馬術クラブで香澄をナンパ男たちから助けた後、その夜に『ホテル・ブラックスワン』で部下の榛有希と鰐塚単馬を呼び出した。文弥は、彼らにヴィットリア・リッチというイタリアからの留学生について調査し、彼女が危険であれば始末するよう指示した。
鰐塚は「リッチ」という姓に関連し、リッチ・マキナというイタリアの高級車メーカーが東京に事務所を設立したことに言及した。文弥はヴィットリアの背後に何らかの陰謀があると疑い、彼女を監視するよう有希に命じた。また、香澄の身辺も見張るよう指示し、文弥は状況を見守ることを決めた。
文弥が有希と鰐塚に指令を出している頃、リッチ・マッキナの社長の三男エドアルド・リッチは、従姉のヴィットリアから報告を受けていた。ヴィットリアは、七草香澄と親しくなるために手下を使って襲撃する計画を立てたが、別の人物が介入したことで予定通りにはいかなかった。エドアルドは結果を喜びつつ、今後は香澄に焦点を絞って進めるよう指示した。
一方、香澄は馬術クラブで起こった出来事を父に報告し、もう一度体験してから入会を決めたいと答えた。その夜、香澄はヴィットリアの馴れ馴れしい態度に戸惑いつつも、彼女との会話で親しみを感じ始めていた。また、ナンパから助けてくれた黒羽文弥に対し、彼の変わりすぎた外見に驚きつつも、彼と友人になりたいと考えていた。
文弥がヴィットリア・リッチについて調査を依頼してから二日後、鰐塚から調査報告が届いた。その頃、亜夜子はパーティから戻り、文弥と彼女が日常で直面する上流階級の付き合いに苦労を感じている様子を見せた。
文弥はヴィットリアについての報告を亜夜子に共有し、ヴィットリアが七草家の娘たちと関わりを持ち始めたことを語った。亜夜子も、エドアルド・リッチが七草家の人物に不審な視線を送っていたと報告した。二人は、リッチ家が七草家の娘を人質に取って司波達也を襲わせようとしている可能性について議論した。
文弥は、リッチ家の企みを阻止するべきだと考え、必要であれば七草家の娘たちを守る決意をした。彼はすぐに側近の黒川白羽を呼び、対策を講じる準備を整えた。
今週、魔法大学の正門付近では、ヴィットリア・リッチが夕方に香澄を待ち構えている光景が繰り返された。水曜日も彼女は現れ、香澄を誘って一緒に駅へ向かう姿が見られた。これを密かに監視していたのは、文弥であった。
文弥は香澄の安全を確保するため、配下の学生や職員を使い、彼女を見守っていた。香澄には七草家の護衛もついており、今のところ危険はなさそうだと判断した。
その後、サークル勧誘に疲れた亜夜子が文弥に合流し、二人は香澄の警戒心が強いことから、すぐに危険に陥ることはないだろうと結論づけた。
【5】誘拐未遂事件
土曜日の午後、香澄は魔法大学から直接馬術クラブに向かい、乗馬の練習を楽しんだ。帰り際にヴィットリアに偶然出会い、彼女からサッカー観戦に誘われた。香澄はその誘いに応じ、二人は一緒に出かけることになった。
その様子を清掃員として潜入していた文弥の部下、有希が密かに監視していた。彼女はヴィットリアの意図を探るため、五感を強化する異能を使って会話を盗み聞き、ヴィットリアの企みに注意を払っていた。
一方、文弥と亜夜子は、ヴィットリアの動きを警戒しつつも、七草家に警告を送るべきか議論した。しかし、二人はあえて知らせず、敵の企みを偶然に見せかけて阻止する計画を立てた。最終的に亜夜子は、文弥にビジュアル系の衣装で変装するよう提案し、二人は行動に移す準備を進めた。
ヴィットリアが香澄を連れて行った会員制カフェバーは、ウォーターフロントエリアにある無機質な建物で、外観は簡素であったが、内部は高級感があり、3Dスクリーンを使った臨場感溢れるサッカー観戦が可能であった。香澄はヴィットリアの勧めでノンアルコールのスパークリングジュースを飲みながら、試合を楽しんでいた。
試合が終わり、香澄は帰る準備を始めたが、ヴィットリアが案内した出口は入った時とは異なる道であったことに香澄は気付かなかった。
一方、香澄のボディガードたちは店の外で彼女の動向を見守っていたが、なかなか出てこないことに焦りと苛立ちを感じていた。位置情報から香澄がまだ店内にいることを確認しつつも、次第に不安を募らせながら待ち続ける状況であった。
香澄がヴィットリアに連れて行かれた会員制カフェバーで、香澄は薬物を混入されたジュースを飲まされ、体調を崩した。彼女は出口が違うことに気付かないまま、ヴィットリアに支えられて外へ出た。ヴィットリアは香澄が弱っている隙に、タクシーではなくマフィアの構成員が用意したSUVに香澄を押し込めた。
この一部始終を隠れて観察していた文弥は、ヴィットリアに正体を晒すことを避けたかったため、助けに入らなかった。しかし、有希のチームに追跡を命じ、さらに警察の追跡システムを藤林響子の協力でハッキングして監視を続けていた。文弥と亜夜子もまた、自ら行動を開始するために車に乗り込んだ。
香澄のボディガードたちは、彼女がいつまでも出てこないことを不審に思い、店に踏み込む決断をした。彼らは店員と揉めながらも、最終的にはマネージャーの承諾を得て店内を調べた。しかし、香澄の姿は無く、偽装された発信器が見つかったことで、彼女が裏口から連れ出されたことが判明した。
その頃、香澄は粗末なベッドで目を覚まし、誘拐されていたことに気付いた。身体が自由に動かず、無力感に苛まれながらも、無事であることに安堵した。
一方で、有希、鰐塚、若宮は香澄が監禁されているビルを見つけ、救出作戦を開始した。香澄を誘拐したのはシシリアンマフィアが雇った傭兵崩れであり、彼らは警戒を怠らずに見張りを立てていたが、有希の奇襲により見張りは倒され、室内の傭兵たちも圧倒されていった。
有希と若宮は、香澄が監禁されているビルに侵入し、素早く階段を駆け上がった。二人はそれぞれの訓練と技術を駆使して隠密行動を取っていたが、見張りに出くわし、若宮が咄嗟に殴り倒してしまった。音を立ててしまった可能性があったため、二人は急ぎ四階に向かった。
四階に着くと、有希は廊下の照明を切り、暗闇の中で見張りを次々と制圧した。見張りは武装していたが、彼らは銃を使うよりも先にライトを点けようとし、緊張感に欠けた行動を取っていた。有希と若宮はその隙を突き、闇の中で敵を次々と無力化していった。
二人は、わずか一分足らずで見張りの五人を全て倒し、敵の制圧を完了した。その後、最後の仕上げに取り掛かるため、暗闇の中で互いに頷き合った。
香澄は酩酊から回復し、ベッドから起き上がった。騒音や魔法の気配を感じたが、当時は動けずにいた。今は体が動くようになり、香澄は部屋から出て隣室で自分のバッグと携帯端末、そしてCADを見つけた。その後、廊下を進んだ香澄は、別の部屋で倒れている複数の死体を発見し、驚愕する。警察に通報し、GPSを使って自分の位置を知らせたが、自分がなぜその場にいるのか説明できなかった。
一方、エドアルド・リッチは、監禁中の香澄に異変が起きたことを部下から報告され、激怒した。監視カメラが全滅し、人質が逃げた可能性があるという報告を受け、部下に香澄を捜し出すよう指示した。エドアルドは、今夜が最後のチャンスであることに焦りを感じ、計画の練り直しが必要であることを認めざるを得なかった。
香澄は監禁されていたビルの外で警察の到着を待っていた。緊張している彼女の前に、黒羽文弥と亜夜子が現れた。香澄は二人の登場に疑念を抱いたが、特に追及はしなかった。文弥と亜夜子はライブハウスの梯子をしていたと言い、香澄もそれに納得した。
その時、黒マスクの男たちが現れ、三人を取り囲んだ。賊たちはキャストジャミングを使い、文弥に襲いかかったが、文弥は魔法を使わずに次々と敵を倒した。亜夜子も最後に魔法を使い、残りの賊を倒した。
戦いが終わった後、文弥と亜夜子は香澄に別れを告げ、警察が到着する前にその場を立ち去った。香澄はその後、警察に事情を聞かれたが、黒羽姉弟のことを詳しく説明することはなかった。
香澄が警察に送られて自宅に戻ったのは、夜遅い時間であった。真由美が最初に迎え、香澄の無事を確認し安心した。双子の妹である泉美も心配していたが、香澄は何も問題が無かったことを強調した。父親の弘一も深く心配しており、娘の安全を守るために今後はボディガードを増やすことを決定した。娘たちはこの提案に同意し、特に抵抗は見せなかった。
さらに弘一は、香澄に馬術クラブを辞めるよう勧めたが、香澄は少し考える時間が欲しいと答えた。彼女は乗馬自体にはそれほど執着していなかったが、文弥と一緒に過ごすことに興味を持っており、そのためにクラブに通い続けたいと考えていた。香澄はこのことを家族に言えず、建前として社交の必要性を理由にしたが、本心では文弥との交流を楽しみにしていたのであった。
【6】潜入調査指令
香澄の誘拐計画が未遂に終わった翌日、文弥は部下たちに新たな指示を与えるため『ホテル・ブラックスワン』の会議室に集まった。文弥は有希のチームに対し、マフィアの拠点とされるお台場のライブハウス「ディスコルディア」への潜入調査を命じた。この店が達也暗殺計画に関連するかどうかを確認するためであった。有希は現在他の潜入任務に従事していたが、文弥はライブハウスでの調査も掛け持ちで行うよう指示した。
翌日、奈穂はウエイトレスとしてライブハウスに潜り込み、有希もダンサーとして潜入を開始した。奈穂は初対面を装いながら有希を案内し、店の内情を探る準備を整えた。
ディスコルディアでは、セクシー系ライブショーがメインであり、有希はそのダンサーとして働いていた。彼女は羞恥心を感じることなく、堂々とポールダンスを披露し、客席からの注目を集めた。有希は暗殺者としての経験から、色仕掛けを武器にして油断を引き出す術に長けており、このような環境に慣れていた。
ステージ後、有希はダンサーたちとの会話を通じて、店の客層に関する情報を探り出した。外国人客が多いものの、イタリア人かどうかははっきりしなかったが、英語を話す客が多いことが分かった。有希はステージで踊るだけでなく、ホステスとしても働きながら、情報収集を続けていた。
【7】ナッツとショコラ
有希はディスコルディアでのダンサーとしての仕事を続けながら、別の潜入先であるFLTの観葉植物メンテナンス業務も並行していた。彼女は早朝に奈穂に起こされ、緑屋としての仕事に出発したが、その後もディスコルディアでの潜入調査を続ける必要があった。奈穂も同じく調査を続け、店のスタッフやダンサーたちと親しく接しながら情報収集をしていた。
店のダンサーの一人、知世子がトラブルを抱えていたが、店長に軽く叱られるだけで済んだことが判明し、彼女はその後のステージの打ち合わせに参加した。ランというバックダンサーのリーダーが急に来られなくなったため、知世子が代役を務めることになり、有希がそのポジションに入ることになった。しかし、有希は他のダンサーとリハーサルを行っていないため、周囲は彼女の適応力に少々不安を感じていた。
ディスコルディアでのダンスの仕事を終えた有希は、同僚の知世子と軽く会話を交わした。知世子は、有希の高い集中力に驚き、彼女がプロフェッショナルなのではないかと疑ったが、有希はそれを否定し、ただのバイトであると述べた。
翌朝、FLTが休みで緑屋の仕事が無かった有希は、鰐塚との打ち合わせに出席した。そこで鰐塚は、ライブハウス「ディスコルディア」のオーナーであるジュリオ内田が、マフィア・ブラトヴァのエージェントであり、店が犯罪活動の拠点になっていると報告した。また、知世子が「ショコラ」というハニートラップ専門の殺し屋であることも明らかになった。彼女は特殊な毒を使い、男性を殺す暗殺者であった。
有希は早期の決着を望み、ジュリオ内田が海外出張から帰国後、彼を排除する計画を立てた。若宮にはショコラの依頼人を監視する役割が与えられ、奈穂は引き続き有希と共にディスコルディアで働きながら調査を続けることになった。
【8】暗殺合戦
五月半ばの日曜日の夜、文弥に鰐塚からの電話があった。ライブハウスの調査結果が出て、オーナーがマフィア・ブラトヴァと繋がっていることが判明したため、暗殺の許可を求められた。文弥はこれを承諾し、すでに行動に移しているチームに全てを任せた。
その後、ライブハウスのオーナーであるジュリオ内田は、ダンサーとして潜り込んでいた殺し屋「ショコラ」、つまり小倉知世子を呼び出した。ジュリオは知世子の正体を見抜き、彼女を問い詰めたが、そこに有希が突入し、ジュリオとその部下たちを次々と倒した。ジュリオは有希によって首を折られ、さらに心臓を踏み砕かれて確実に命を絶たれた。
知世子は、有希の冷徹な技に驚き、彼女が「暗殺幼姫」であることを悟ったが、有希は詮索を許さず、その場を去った。知世子は有希の姿に憧れを抱きながら見送った。
【9】暗躍
ジュリオ内田の暗殺から一日後、有希と奈穂はディスコルディアの店長から雇用契約を解除され、解雇された。理由はオーナーの死により経営が厳しくなったためであった。有希と奈穂は冷静に解雇を受け入れ、店長に対して感謝の意を示した。
その頃、エドアルド・リッチはヴィットリアとジュリオの殺害について話していた。ジュリオの死については、犯人が分からず、調査が進展しないことにエドアルドは苛立っていたが、ジュリオにこれ以上こだわらず、新たなエージェントを選ぶ決断を下した。
一方、黒羽姉弟のマンションでは、亜夜子が街コンから帰宅し、文弥とエドアルド・リッチをどう扱うかについて話し合った。亜夜子はエドアルドを排除するべきだと主張したが、文弥はエドアルドを泳がせてスパイにすることを考えていた。最終的に、亜夜子はエドアルドに対する個人的な嫌悪を示しながらも、文弥の意見を受け入れた。
文弥は自分で洗脳魔法が使えないことを理解しており、既に黒川を呼び寄せ、必要な準備を整えていた。
ヴィットリア・リッチは、都心のホテルで開催された招待制の街コンに参加していたが、最近は香澄との接触を避けていた。香澄の家族に疑われる恐れがあるため、香澄や泉美に近づかないようにしていたが、ヴィットリアは日本でのビジネス人脈を広げるため、街コンに出席していた。
ヴィットリアは街コンの会場で、年上の女性と不思議な邂逅を果たし、その女性に何か囁かれたが、その内容を覚えていなかった。その後、彼女は特に違和感なく会場に戻り、七草家とのリスクについても気にならなくなっていた。
一方、ヴィットリアに会いに来た女性は、文弥の指示で彼女の意識に「楔」を打ち込んでいた。文弥は黒川白羽とその妹、白妙の協力を得て、ヴィットリアを自分たちの支配下に置く準備を進めていた。
同時に、文弥はエドアルド・リッチの行動も監視し、彼を利用しようと計画していた。エドアルドはマフィア・ブラトヴァの中間管理職で、上層部からの命令に従わないことで内部で対立が生じていると文弥は分析していた。彼はエドアルドを泳がせて利用しつつ、最終的には幹部たちを排除するつもりでいた。
亜夜子は文弥の計画に賛同し、ヴィットリアの心を縛ることを確認したが、エドアルドや他の幹部に対しては容赦なく対処する予定であった。
【10】邪眼
2099年5月最後の土曜日、エドアルドは不機嫌な様子でリッチ・マッキナの日本支社設立準備事務所へ向かっていた。彼は、上司に当たる幹部たちとの会議に呼び出されており、その内容を予測して苛立っていた。ヴィットリアも彼の横に座りながら、彼を宥めようとしたが、エドアルドはその言葉を遮って冷静に答えた。
幹部たち、アントーニオ・ルッソ、フェデリーコ・メッシーナ、マッテオ・ロンバルドは、学位を持つが実績に乏しい人物たちであり、ギルドとのつながりがあるだけで幹部に選ばれていた。彼らの真の役割は、現場の人々が逃げ出さないよう見張ることであった。エドアルドは彼らの命令に従わざるを得ない立場であり、彼の苛立ちはその屈辱から来ていた。
一方、文弥はエドアルドの動きをリアルタイムで追跡していた。彼とその部下たちはエドアルドが呼び出された会議の場へ向かう準備を進めており、文弥自身も変装して出動する準備を整えていた。亜夜子の手による変装は完璧で、文弥は自走車でリッチ・マッキナの事務所へ向かった。
エドアルドは事務所で幹部たちに迎えられたが、その態度には敬意が無く、彼に対する不満が感じられた。一方、文弥たちは事務所の向かいにあるホテルのラウンジで、エドアルドとヴィットリアが事務所に入るのを見守っていた。文弥と同行していたのは、特徴の無い青年と、目立つ二人の女性であり、彼らはこれからの作戦に備えていた。
会議室では、エドアルドとヴィットリアがルッソ、メッシーナ、ロンバルドの三人の幹部と対峙していた。幹部たちはエドアルドに対し、七草家を人質に取る作戦を進めるよう圧力をかけていたが、エドアルドはその作戦が失敗した理由を説明し、中止するべきだと主張した。幹部たちはエドアルドの言い分を聞かず、彼を批判し続けたが、エドアルドはその無責任な態度に苛立ちを爆発させ、反論した。
エドアルドは七草家の当主が娘を人質にされても従わないタイプの人間であり、むしろ報復に出るだろうと指摘し、幹部たちのプランが現実に即していないと非難した。幹部たちはエドアルドを粛清しようと企んでいたが、呼び鈴を鳴らしても手下が現れず、事態は彼らの思惑通りに進まなかった。
その頃、外では文弥たちのチームがリッチ・マッキナのビルを制圧していた。文弥はボブヘアの美女に変装し、彼の部下たちがビル内を静かに制圧する中、会議室の外で待機していた。ロンバルドが会議室のドアを開けた瞬間、文弥は魔法で彼を倒し、混乱の中で幹部たちを取り囲んでいた。
会議室でエドアルドとヴィットリアはルッソ、メッシーナ、ロンバルドと対峙していた。突然、廊下から謎の声が響き、ロンバルドが倒れた。声の主であるミディアムショートボブの女性が現れ、彼女の妖艶な雰囲気にルッソとメッシーナは驚愕し硬直した。エドアルドも混乱しつつ、ヴィットリアが彼女を「恐ろしい敵」と判断したことで、彼女が敵であることを確認した。
その後、ヴェールをかぶった女性が現れ、ヴィットリアにエドアルドを拘束するよう命じ、ヴィットリアは命令に従いエドアルドに抱きついた。エドアルドは驚きつつもヴィットリアの行動を解こうとしたが、彼女は異常な力で彼を拘束していた。
その場にいた美女「ヤミ」と名乗る人物は、冷静に事態を制圧し、エドアルドとヴィットリアにマフィア・ブラトヴァからの離反を提案した。この提案はエドアルドとヴィットリアにとって予想外のものであり、彼らは驚いた表情を見せた。
エドアルドとヴィットリアに対して、文弥はマフィア・ブラトヴァを裏切り、四葉家に協力するよう提案した。エドアルドは驚きつつも冷静にその提案を問い返し、文弥は彼らに情報提供を求め、その見返りに日本国内での安全を保障すると説明した。エドアルドは一度は抵抗する姿勢を見せたが、最終的に選択肢が無いと理解し、文弥の要求を受け入れた。
その後、文弥は魔法による誓約を提示し、エドアルドはそれに従うことを決意した。白妙の[邪眼]の力を借りて、エドアルドは誓いの言葉を口にし、契約が成立した。これにより、エドアルドはマフィア・ブラトヴァの情報を四葉家に提供することとなり、リッチ・マッキナに関わる問題は収束した。
【11】後日談
有希は、五月末の日曜日に亜貿社の社長、両角から呼び出され、新たな同僚としてショコラの二つ名を持つ千代子の教育係を任された。千代子はハニートラップ専門の殺し屋で、有希に対して深い尊敬の念を抱いていた。彼女は、自身の体質による毒を用いる技に限界を感じており、有希のような本物の忍者になりたかったが、それが不可能であることを理解していた。
有希は千代子の誠実さに押され、彼女の指導を受け入れることにしたが、内心では千代子の苦悩を理解しつつも言葉を失っていた。結果として、有希は社長の命令もあり、しばらく彼女と協力することを決意した。
登場人物
- 黒羽文弥(くろば ふみや)
黒羽家の次期当主で、四葉家傘下の一員。物語全体で暗躍し、七草家の娘たちを守るため、マフィアの陰謀を阻止するために奔走した。冷静沈着であり、戦闘能力が非常に高く、香澄をナンパ男から救出したり、マフィアの一味を次々と倒すなどの活躍を見せた。 - 黒羽亜夜子(くろば あやこ)
文弥の妹で、姉弟で協力しながら七草家を守るために行動する。非常に鋭敏な感性を持ち、文弥の作戦を支える重要な役割を担う。物語の中では、ヴィットリア・リッチや他の敵の動向を監視し、敵対するマフィアに対抗する。 - 七草香澄(さえぐさ かすみ)
十師族の一つ、七草家の娘。馬術クラブでナンパされたり、ヴィットリアに誘拐されそうになったりするが、文弥たちに救われる。やや無防備な性格だが、周囲の協力により危機を乗り越えた。 - 七草泉美(さえぐさ いずみ)
香澄の双子の妹。姉香澄とは対照的に落ち着いており、物語の中では深雪に憧れを抱く一方で、香澄をたしなめる役割を果たす。 - ヴィットリア・リッチ
イタリアからの留学生であり、マフィア・ブラトヴァの一員。七草家をターゲットにして香澄に近づくが、最終的には文弥たちに阻止された。表向きは友好的だが、その裏には陰謀がある。 - エドアルド・リッチ
ヴィットリアの従兄で、リッチ・マッキナの社長の三男。マフィア・ブラトヴァの一員として七草家を狙う計画に加担するが、文弥の策略により、最終的に四葉家に協力することを決意する。 - 榛有希(はしば ゆうき)
黒羽家の部下であり、潜入や暗殺のプロ。ディスコルディアに潜入し、マフィアの動きを探るなど、文弥をサポートする重要な役割を果たした。 - 鰐塚単馬(わにづか ひとま)
文弥の部下であり、情報収集やサポートを担当。ヴィットリアやエドアルドについての調査を進め、文弥の作戦に貢献した。 - 小倉知世子(おぐら ちよこ)
殺し屋「ショコラ」として知られる女性。ディスコルディアで働いていたが、文弥や有希の介入によりマフィアとの関係が暴かれた。 - 司波達也(しば たつや)
本編の主役で、暗殺のターゲットとなっているが、その強大な力と四葉家の影響力により、マフィアたちが簡単には手を出せない存在。物語の中心には彼の存在があり、彼を守るために文弥や亜夜子が動いていた。 - 司波深雪(しば みゆき)
達也の妹であり、四葉家の後継者。美しい容姿と強力な魔法の能力を持ち、周囲からも非常に高い評価を受けている。泉美が憧れる対象でもあり、物語内ではパーティで目立つ存在として描かれている。 - アンジェリーナ・クドウ・シールズ(リーナ)
深雪の友人であり、アメリカの特殊部隊に所属していた魔法師。パーティでは沢木碧と共に参加し、カリスマ性を発揮する。物語の中で他のキャラクターと共に重要な場面に登場する。 - 七草真由美(さえぐさ まゆみ)
香澄と泉美の姉で、七草家の長女。物語の中では妹たちの保護者的存在であり、彼女たちの活動を温かく見守りつつ、時にアドバイスを与える。真由美自身も魔法師として高い実力を持っている。 - 花山清香(はなやま さやか)
真由美の友人で、サークル『Oh!茶会』のリーダー。パーティの主催者として登場し、真由美とともに七草家の人々を支える役割を担っている。 - 藤林響子(ふじばやし きょうこ)
文弥や有希をサポートする情報技術者であり、警察の追跡システムをハッキングして協力するなど、テクノロジー面での支援を担当している。彼女の存在が、文弥たちの作戦を成功に導く重要な役割を果たしていた。 - 黒川白羽(くろかわ しらは)
文弥の側近であり、彼の命令を受けて七草家やリッチ家に対する対策を講じる。冷静で判断力に優れた人物で、文弥を補佐する信頼のおける存在である。 - 黒川白妙(くろかわ しろたえ)
白羽の妹であり、魔法による洗脳や支配を担当する。エドアルド・リッチやヴィットリアに対する操作を行う役割を果たしており、彼女の「邪眼」が物語の鍵となる。
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