どんな本?
『マージナル・オペレーション[F2]』は、戦場の傭兵たちが新しい生活に直面する様子を描いた短編集である。主人公アラタを中心に、彼を慕う者たちや関わる人物たちの視点から、戦争が終わった後の複雑な感情や生活の変化が描かれている。アラタ自身や子供たちが、それぞれの立場で抱える葛藤が丁寧に描かれた物語となっている。
まず、第1話「私のトリさん」では、元傭兵のサキが日本の高校で過ごす日常と、かつて戦場での過酷な経験が対比されて描かれる。彼女が抱える内面の複雑さや、部隊での「父」として慕ったトリさんとの絆がテーマになっている。サキの成長や心の葛藤が丁寧に描かれ、戦争の影響を強く受けた人物像が魅力である。
第2話「新しい首輪」では、ホリーとアラタの関係が描かれ、彼らの間にある緊張感と感情のすれ違いが焦点となる。ホリーはアラタにもっと他人を頼り、自分を解放するよう促すが、アラタはその責任感からなかなか変わろうとしない。二人の複雑な関係性と、それでもお互いを支え合おうとする姿が印象的である。
第3話「若きイヌワシの悩み」では、アラタの部隊に所属するイブンが、父親との間で学校に通うべきかどうかを巡る葛藤が描かれる。彼は既に戦士としての自覚を持っているが、父親は学校での学びが重要だと説く。イブンの成長と内面の揺れ動きが丁寧に描かれており、彼が仲間との絆を再確認していく過程が感動的である。
最後の特別編「子供使いの失踪」では、徳島のオタクイベント「マチアソビ」でアラタが突然失踪する事件が描かれる。護衛のナミやイクオ、そしてジブリールがアラタを探しながら、敵との戦闘に巻き込まれるスリリングな展開が続く。戦闘シーンも多く、シリーズのアクション要素が存分に味わえるエピソードである。
本作は、アラタを中心に、彼を取り巻く人物たちの視点で物語が進むため、彼らの成長や感情の変化をより深く感じられる内容となっている。戦場での生活から解放され、新たな日常へと進む中で、彼らが抱える悩みや葛藤がリアルに描かれており、感情移入しやすい作品である。シリーズファンにはもちろん、新規読者にもおすすめできる一冊である。
読んだ本のタイトル
マージナル・オペレーション [F2]
著者:芝村 裕吏 氏
イラスト:しずま よしのり 氏
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あらすじ・内容
銃火が止み、子供たちは惑う──。
銃を置き、日本の高校に進学したサキ。様々なギャップとアラタへの複雑な感情に悩む彼女に訪れた、三者面談の日を綴った「私のトリさん」。
元娼婦であり、アラタの語学の教師であり、現在は難しい立場でアラタに接するホリー。そんな彼女は、アラタの心を縛ることができるのか? 知られざる女の戦いが描かれた「新しい首輪」。
停戦後、変わりゆく生活に適応できず、懊悩するイブン。ただ純粋に父を規範とする少年に、自らの狭い世界を打ち破る日は訪れるのか?(「若きイヌワシの悩み」)
そして、2014年秋の徳島マチ★アソビで行われたアナログゲーム「マージナル・オペレーション[R]」とつながる、もう一つの日本篇「子供使いの失踪」。
全てが本篇以降の時間軸に位置する、書き下ろし4篇を収録。短編集第2弾、シリーズ開始十余年にして待望の電子版登場!
感想
第1話「私のトリさん」
サキは日本の高校に通う一方、かつて傭兵としてジャングルで過ごした過去を抱えていた。
彼女はその過去を他人に明かすことなく、美術部での活動を続けていた。
そんなサキの心の中で大きな存在となっていたのは、部隊の「父」トリさんである。
彼との思い出がサキにとっての支えとなっており、特に三者面談の日に突然現れた彼との再会が、彼女の心を動かした。
サキの過去と現在が交錯するこの物語は、彼女が持つ複雑な感情や戦争の影響を丁寧に描いている。
トリさんとの関係がサキにとっていかに重要であるかが強調されており、過去の過酷な生活から日本の日常への適応がいかに困難かが伝わってきた。
彼女が自分の道を模索しながら前に進もうとする姿勢が感動的であり、トリさんの存在が彼女にとってどれほど大きな意味を持っているかが心に響いた。
第2話「新しい首輪」
ホリーは、停戦後の生活でアラタとの関係に苦悩していた。
彼が全ての責任を一人で抱え込み、他人に頼ることをしない姿勢に苛立ちを感じながらも、彼を支えたいと思っていた。
ホリーはアラタにもっと自分を解放するよう促すが、彼は変わろうとしない。
二人のやり取りは時に軽妙でありながら、根底には深い葛藤があった。
ホリーの心の内が描かれたこの話では、彼女がアラタに対する思いを持ち続ける姿が強調されている。
アラタがどれほど大きな責任を背負っているか、そしてそれが彼を追い詰めている様子がよくわかる。
ホリーが新しいネクタイを「首輪」としてプレゼントするシーンは、二人の関係の象徴的な瞬間であり、彼女がアラタを少しでも自由にしたいと願っていることが感じられる。
彼の変化を願うホリーの強い思いが印象に残った。
第3話「若きイヌワシの悩み」
イブンは父親との間で学校に行くことを巡り葛藤していた。
彼は既に戦士としての自覚を持っており、学びは師匠から直接得るべきだと考えていたが、父親は技術の習得が重要だと説き、学校に行くよう勧めていた。
この対立に悩む中、彼は仲間や異教徒のサキとの対話を通じて少しずつ自分の考えを見直していった。
この話では、イブンの成長過程が描かれており、彼の内面的な葛藤が丁寧に描写されている。
父親の期待に応えるべきか、自分の信念を貫くべきかという悩みは多くの読者に共感を呼ぶだろう。
サキとの交流を通じて新しい視点を得ていく彼の姿が印象的であり、物語が進むにつれて彼がどう成長していくのかを期待させる内容であった。
特別編「子供使いの失踪」
アラタが徳島のオタクイベント「マチアソビ」に参加する中、突然失踪する事件が発生した。
護衛を務めていたナミやイクオはアラタを見失い、ジブリールが彼を探し始めるが、彼女も行方不明になってしまう。
仲間たちは懸命に捜索する中で、暗殺者や敵のロボットと対峙することとなる。
最終的にアラタは無事に見つかり、戦いの中で新たな展開が訪れる。
この特別編は、アラタの失踪を巡るスリリングな展開が特徴で、読者を最後まで引き込む力がある。
特に、ジブリールやナミたちがアラタを追う姿勢が描かれ、彼らの強い絆と決意が伝わってきた。
また、ロボットを使った戦闘シーンが多く、アクション性も高く、シリーズ全体の雰囲気を盛り上げる内容であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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同シリーズ
その他フィクション
備忘録
第1話 私のトリさん
サキは高校生で、美術部に所属しながら、他人には明かせない秘密を抱えて日々過ごしていた。かつて傭兵としてジャングルでの過酷な経験を積んでいたことがその一つであったが、日本ではその話を打ち明けても笑われるだけだったため、それは彼の秘密となっていた。
サキは毎朝、満員のバスに乗って学校へ通っていた。日本の時間に対する厳格さや狭苦しいバスの状況に違和感を覚えながらも、バス停ひとつ手前で降りて歩くことで通学を楽しめるようになっていた。この小さな工夫が、バス通学を心地よいものに変え、バスが好きになったと感じるようになった。
また、サキには「父」が複数存在していたが、遺伝子上の父や育ての父などはよい思い出がなく、唯一「部隊の父」と呼ばれるトリさんだけが本当に優しく、彼にとって大切な存在であった。トリさんとの最後の思い出が深く心に残っており、その経験が通学バスへの思いにも影響を与えていたとサキは回想していた。
歩きながら、サキはジャングルでの過酷な過去をふと思い出しながら、現在の平穏な日常を静かに噛みしめていた。
サキは過去にマニラ郊外のスラム「スモーキー・マウンテン」でゴミ拾いをして生き延びていた。彼女は、娼婦になる以外に道はないと考えていたが、同じ混血児であるトニーという少年から傭兵になろうと誘われ、その道を選んだ。兵士の募集があり、トニーは彼女の参加を後押しするために20ドルを渡して合格させてくれた。バスに乗り込み、家族に別れを告げることなくスラムを後にしたが、その後も自分が逃げたような感覚に苛まれていた。
現在、サキは日本の高校で美術系大学を目指して勉強しているが、かつてのスラムやジャングルでの経験が強く影響しており、日本の学校生活やSNS文化に馴染めない自分に違和感を抱いていた。時折、ジャングルでの戦いの日々を懐かしく思うのは、彼女にとって「部隊の父」として慕うトリさんの存在が大きかったからである。
サキは、初めて日本で地震を経験し、その揺れに恐怖を感じていた。日本からタイへ輸送される際、彼女は船旅で激しい揺れに苦しみ、何度も吐いた。嵐の中での航海は辛く、トニーがどのように過ごしていたかの記憶すらなかった。
タイの港に到着した時、サキは悲惨な状態で、他の仲間の何人かは既に姿を消していた。彼女は商品価値がないと思いながら、スラムの近くにある施設に連れて行かれた。男女に分けられ、水浴びをさせられる中、サキは汚れた髪を何とか洗おうとしたが、時間が限られており、十分に洗えなかった。その後、再びシャワーを浴びる機会を得て、初めてたっぷりと水を使う体験をし、少し満足感を覚えた。
再検査後、彼女は大きすぎるベトナム製の作業着と編み上げ靴を受け取ったが、靴はサイズが合わず、独りで心細く立ち尽くしていた。
サキは、子供兵士になるための訓練を受ける過程で、靴が合わず困っていたが、イヌワシと呼ばれるスーツ姿の男に助けられた。彼は優しげな態度でサキを靴屋へ連れて行き、新しい靴を購入した。その後、サキとトニーは彼の指導のもと、兵士としての道を進むことになった。
イヌワシは、実は部隊の指揮官で、子供たちを大切に育てており、教育の重要性を強調していた。彼は、戦争が終わった後の未来を見据え、サキたちに生き残るための知識を与えようとしていた。サキもその意図を理解し、勉強に励むことを決意した。
栄養の改善により、サキの体は急激に成長し、半年後には兵士としての訓練に正式に参加できるようになった。訓練は厳しかったが、彼女は勉強と兵士としてのスキルを身につけ、困難な環境の中で生き抜く道を模索していた。
サキは日本での学校生活を送っていたが、他の生徒たちは勉強に対する意識が低いように感じていた。彼女にとって勉強は戦争後の人生を生き抜くための大切な手段であり、トリさんから学んだ価値観を大切にしていた。彼女は将来、美大に進学してジャングルの鳥や虫、そしてトリさんの絵を描きたいと考えていた。
サキはまた、部隊で出会ったジブリールという人物についても記憶していた。ジブリールは厳格な性格であり、特にトリさんに対して深い愛情を抱いていた。彼女の存在は部隊全体に影響を与え、厳格なイスラム法のもとで秩序が保たれていた。サキはジブリールとの関係を慎重に扱い、トリさんとの距離を保つようにしていたが、トリさんへの恩を返したいと常に感じていた。
サキはいつも七限まで授業があったが、その日は五限までで終わり、クラスメイトたちは遊びに出かける予定を立てていた。彼女も三者面談が終わったら新宿の世界堂に画材を買いに行くつもりであった。しかし、授業が終わるとヘリコプターの音が聞こえ、サキは身を隠して状況を確認した。驚いたことに、ヘリからラぺリングで降りてきたのはトリさんであった。
サキはトリさんと一緒に面談に向かうが、緊張しながらも彼が日本に来た理由を尋ねると、保護者へのメール通知を通じて面談日を知ったという。サキは自分のためにトリさんが来てくれたことに驚き、彼が護衛を連れていないことに不安を感じた。
面談が始まり、担任の長谷川先生はトリさんの登場に驚きつつも、次第に和らぎ、話は順調に進んだ。サキは進路の話が短く済んだことにほっとしたが、トリさんとの会話の中で、彼が自分に対して特別な思いを持っているように感じて戸惑う。食事を提案されるが、サキはトリさんの護衛がいないことを心配していた。
最後に、トリさんが帰る際、サキは銃を持たない生活を送ることを勧められ、別れた後に自分の選択や将来について思い悩んだ。
AFTER 01 ともだち
サキは翌日、バスを使わずに走って通学した。彼女は自分の存在を「バックアップウェポン」と例え、必要とされることを望んでいたが、その役割が果たされることはないかもしれないと感じていた。彼女の心には、絵の勉強をしたい気持ちとトリさんの役に立ちたい気持ちが同時に存在していたが、それに対する自問自答が絶えなかった。
学校に近づいたところで、友人の相田さんに声をかけられた。相田さんはサキの様子を心配しつつ、前日にサキの父親を撮影しようとしたが、写真がすべて削除されてしまったことを話した。サキにはその理由に心当たりがあったが、トリさんの安全をただ祈るしかなかった。
サキは相田さんに「携帯を持っていないから分からない」と答え、心配そうな相田さんに対し、歯を見せずに笑ってみせた。
AFTER 02 夜の銀座にて
銀座の夜は輝いており、バンコクやソウルに比べて落ち着いた雰囲気があった。トリさんはレクサスの後部座席に座り、ジャングルとは違う都会の夜景を眺めながら過ごしていた。運転手との会話で、娘と会う時間を楽しんだことを咎められたが、トリさんはそのことに譲歩する気はなかった。
自衛隊の学校について尋ねたが、運転手は具体的な答えを避け、ウェブサイトで確認できると言うだけだった。日本とトリさんの関係は修復されつつあったが、国際政治は不確実であり、明日にはどうなるか分からないという現実も意識していた。トリさんは、自分が殺される可能性を考えながらも、既に子供たちの国を作るという目標を達成していたため、あまり死を恐れていなかった。しかし、簡単に死ぬことはジブリールの怒りを買うだろうと考えた。
静寂の中、トリさんはサキの成長を思い出していた。彼女は美しく成長し、成績も良さそうだと感じていたが、写真を撮り忘れたことを後悔した。運転手が拳銃を向けていることに気づき、日本が誤った選択をしたかもしれないと思った。
第2話 新しい首輪
ホリーは、ミャンマーの停電が続く中で不機嫌に目を覚ました。湿度と気温が非常に高く、さらに最近連絡のないアラタへの苛立ちが募っていた。彼女は電話をかけ、軽い口論を交わしたが、最終的には彼に自宅に来るよう要求した。
アラタは時間通りに現れ、ホリーと会話を続けた。二人は互いに冗談を交えながら、ホリーの料理を食べ、将来のことや過去の経験について話し合った。アラタは自分の行動がどう評価されているか、そして将来的な軍事的な動向について考え続けていた。彼は、アメリカや中国との関係について、さらに自身の立場を見直す必要があると感じていた。
ホリーはアラタが自分の負担を一人で抱え込む姿勢に苛立ち、彼にもっと他人に頼るべきだと諭した。アラタはその提案に対して深く考え込み、最終的にホリーの言葉に耳を傾けた。二人は互いに思いやりを持ちながらも、異なる考え方を抱えていた。
ホリーはアラタの背負っている責任が大きすぎることを心配し、彼にもっと自分を解放するよう促したが、彼は子供たちや部隊を守るために強くあり続けようとする姿勢を崩さなかった。
翌日、ホリーは自宅で最終報告書を作成していたが、アラタからの電話を受けた。ホリーはその珍しい連絡に最初は喜んだが、アラタが間違い電話だったと言い、電話を切られたため、苛立ちを隠せなかった。彼女は電話を投げつけた後、再度の連絡を待っていた。アラタが再び電話をかけてきたが、話の内容はホリーの安全確認だった。ホリーは彼に急いで来るよう要求し、アラタは不満を抱きながらも彼女の元に駆けつけた。
ホリーはアラタに対し、自分のために幸せになるべきだと説いたが、アラタは罪の意識や過去の過ちから結婚を望んでいなかった。彼女は彼の考え方を「不健康」と指摘し、もっと前向きに生きるよう促したが、アラタはそれに対しても頑なな態度を崩さなかった。二人は皮肉や軽口を交わしながらも、互いに理解を深めるための会話を続けた。
その後、ホリーはアラタと一緒に外出し、彼に新しいネクタイを選んであげることを決意した。彼女は彼に「首輪」としてネクタイをプレゼントし、二人の関係を象徴するようなものとして慎重に選んだ。ホリーはアラタに対し、彼の人生にも幸せを取り戻すための手助けをするという気持ちを持って接していたが、アラタはまだその重責を手放すことができずにいた。
AFTER 01 天使の怒り
夕方、アラタは美しい夕焼けを見ながらも、これからの帰路を思い、憂鬱な気分になっていた。車の爆発物を確認してくれていたグエンとク・ミエンに挨拶をし、パジェロミニに乗り込んだ。考え事が多く、雑事も増え、心労が絶えなかったが、ホリーのアドバイスを受け入れ、考える人材を育てる必要があるかもしれないと感じていた。
アラタはホリーの情緒不安定さを心配しつつ、彼女のために新しい仕事を見つけるのは難しいと感じていた。また、子供たちに銃を持たせ続ける現状にも葛藤を抱いていた。彼は、どこかの政府が助けてくれればと考えながらも、現実の厳しさを感じていた。
帰り道、アラタはグエンとク・ミエンの関係に困惑していた。グエンはク・ミエンに対して不満を持っていたが、その裏に友情も感じられた。キャンプに戻ると、ジブリールがアラタを迎えた。彼女はホリーの匂いを敏感に感じ取り、嫉妬した様子であったが、アラタはホリーとの関係について説明した。
ジブリールはホリーの存在に不満を抱きつつ、アラタに対する感情が表に出てしまい、彼を部屋に連れて行こうとした。アラタは、ジブリールの情緒不安定さにも気を配りながら、彼女の険しい表情を見つめていた。
第3話 若きイヌワシの悩み
父親が学校に通わせたがることに対し、主人公のイブンは反発していた。彼はすでに大人であると主張し、学ぶべきことは師匠から直接学ぶべきだと考えていた。一方、父親は文明の進歩や技術の習得が重要だと説き、学校へ行くことを勧めたが、イブンは納得できなかった。
イブンは宿舎に戻り、考えを整理しようとしたが、ジブリールが泣いている場面に出くわしたため、一人になれず苛立ちを感じた。弟たちやグエンとも意見が合わず、孤立感を抱いていたが、サキという異教徒の少女との会話を通じて少し心が軽くなった。サキは絵を描くために学校に通いたいという考えを持っており、その発想にイブンは驚いたものの、彼女の意見を聞きながら自身の考えを改めるようになった。
その後、彼はパトロールに出発し、隊員たちの士気を高めるために訓練を行った。学校に通うことに対する反発は消えないものの、パトロールを通じて仲間との協力や訓練の意義を再確認し、成長の一端を感じていた。
主人公のイブンは、中国軍との対峙中、指揮を取りながら様々な葛藤を抱えていた。父との間にある期待や責任のズレに苦しみ、父が自分を学校に行かせたい意図を理解できず、反発していた。しかし、周囲の人々の助言や、異教徒のサキとの交流を通じて、父の意図を少しずつ理解するようになっていった。
その中で、弟のハサンが学校に行く決断をし、飛行機の勉強をして父を助けるという夢を持っていたことが明らかになった。イブンはその決断にショックを受け、家族や仲間との絆が断たれることを恐れ、父に反発したが、父は静かにそれを受け入れ、ハサンを送り出した。
最終的に、イブンは父の思いを理解し始め、家族の絆が変わらぬものであることを学んだが、それでも父の決断を受け入れることに苦しみ、涙を流した。
一月が過ぎ、イブンは父の護衛としてグエンがそばに立つことに慣れ、彼の存在が頼もしく思えてきた。グエンはイスラムの食堂で食事をするようになり、ハサンの代わりを意識しているように見えたが、改宗しているわけでもないため、イブンは疑問を抱きつつも許容していた。ある日、グエンは父から学校に行く許可を得たことを喜んで伝えたが、彼は飛行機乗りではなく、農業学校に進むことを希望していた。彼は土地を手に入れて農業をしたいと語り、世界は広く、安い土地を見つけるつもりだと楽観的だった。
一方、イブンは自分も学びたいという気持ちを抱えつつ、ハサンが学校に通い始めたことに複雑な感情を抱いていた。父がいなくなったときのために、自分が父の代わりとなるべく訓練を受けたいと考え、サキに相談しようと決意した。彼は部隊の訓練計画を立てながら、自分の将来について思い悩んでいたが、ハサンがすでに学校に行ってしまった今、自分はここに留まるしかないと感じていた。
AFTER 01 夜の銀座にて 2
アラタは車の運転手が狙撃され、頭部を失った状況に巻き込まれたが、幸運にも自分には被害がなかった。事故後、ジニに助けられつつ、無線で連絡を取り、追手を迎え撃つ計画を立てた。裏道を通り、別のバンに乗り込んで逃走を図った。仲間たちとの会話の中で、アラタは復讐について議論しつつも、復讐よりも防御に徹し、敵を焦らせる作戦を選択した。
その後、サキを標的にされる危険を感じ、護衛としてイブンを派遣することを考えたが、戦力を分けることへの懸念もあった。それでも、アラタはイブンを学校に通わせることを決意し、彼の未来を微笑ましく想像した。戦いの状況が続く中、アラタは血生臭い現実にもかかわらず、少しずつ事態が好転していると感じていた。
AFTER 02 膝乗り
ジブリールがアラタの膝に座るようになったのは、アラタがホリーの話をしたことがきっかけであった。ジブリールは話を聞いて怒り出し、アラタが説明を加えようとするたびに彼女の機嫌がさらに悪化し、最後にはアラタを睨みつけるようになった。最終的に、ジブリールは顔を赤くし、アラタの膝に座り、「アラタはいかなる理由があっても私を膝の上に乗せ、他を置くべきではありません」と宣言した。アラタは戸惑いながらも受け入れた。
アラタはジブリールに勉強をさせたいと考えていたが、彼女は学校に行くことを頑なに拒否していた。ジブリールは勉強が嫌いで、勉強を勧めるとすぐに怒ったり、逃げたりしていた。その一方で、ジニは勉強好きで、特に促されなくても本を読んで知識を吸収していたため、アラタは彼女に特に勉強を強制する必要を感じていなかった。
ある日、ジニもまたアラタの膝に乗りたいと申し出てきた。アラタはそれを受け入れたが、ジブリールのときとは違う緊張感を感じた。アラタは、ジブリールやジニが膝に乗ってくることを戸惑いながらも、今後どう対処するか考えていた。
この「膝乗りブーム」がどこまで広がるのか、アラタは困惑しつつも、その行方を見守ることになった。
特別編 子供使いの失踪
1
アラタは、マチアソビというオタク向けのイベントが徳島県で開催されることをきっかけに、徳島へ向かった。かつてオタクであった時期はあったものの、今ではその世界から離れていたため、久しぶりのオタクイベントに訪れるのは皮肉な話であった。護衛役として同行していたナミとイクオは、イベントの雰囲気に興奮していたが、アラタは彼らに自由時間を提案しつつも、仕事があるため注意を促した。
徳島空港に到着後、タクシーでイベント会場へ移動し、地元のうどん屋で高野信念氏と打ち合わせを行った。打ち合わせのテーマは、戦争関連のビジネスに関する投資の話であった。アラタは二〇式ロボットの購入や、他国との関係性についての議論を進め、高野氏はアラタの提案に関心を示し、投資を決定した。さらに高野氏は、アラタに中国との関係強化を提案し、投資の条件に二〇式ロボットの調達を含めることを示唆した。
このようにしてアラタは、無事に投資話をまとめ、護衛役のナミとイクオと共に次の予定へと向かった。彼は、高野氏との交渉が成功し、将来の戦略を思い描きながら、次なる仕事に備えた。
2
ジブリールは、アラタと出会ったときのことを思い出していた。彼女がまだ幼い頃、アラタは既に立派な武人の風格を漂わせていた。彼は彼女の頭を撫で、心配してくれ、知恵と勇気を振り絞って助けてくれた。彼の行動は、常に神の教えを地上に示そうとするものだった。ジブリールは彼と目が合った瞬間、彼に恋をしたが、アラタは大人であり、彼女の求愛を拒み続けていた。
物語が進む中、ジブリールは列車の中でアラタのことを考えていた。彼と初めて目が合った瞬間、彼女は懐かしさを感じ、少し涙が出た。その時の感情は今も強く残っており、もっと彼に自分を見てもらいたいと願っていた。
夜、徳島駅に到着したジブリールは、新しい仲間であるナミとイクオがアラタを見失ったことを告げると、彼らに対する怒りが湧き上がった。彼女は彼らを殺そうとするが、ジニに制止される。心の中でソフィの声が響き、冷静さを取り戻しながらも、ジブリールはアラタを捜す決意を固めた。そして、制止を無視し、人混みに向かって駆け出していった。
3
ジブリールが走り去ったのを誰も止められなかったことは痛恨であった。イブンは状況を整理し、アラタの失踪について指揮を執ることになった。ハサンを含む仲間たちと共に手分けしてアラタの捜索を開始したが、ジブリールとの連絡は途絶え、彼女の安否が心配されていた。
捜索の過程で、アラタが護衛を外して姿を消した理由が謎であった。彼が行方不明になったことは、彼を暗殺しようとする組織や国々にとって好機であり、危機的な状況が続いていた。イブンは捜索の指示を続けるが、次々と死体が発見され、状況はさらに悪化していった。
ジブリールは一心にアラタを探し続けており、彼のために行動する姿勢が見られた。最終的に、イブンは敵を排除するため狙撃を行い、状況を一時的に改善したが、彼の行動はさらなる混乱を招き、人々が橋の上でパニックに陥る結果となった。
その後、イブンは橋から落ちてしまい、捜索はさらに困難を極めた。アラタの所在は依然として不明であり、ジブリールたちは未だ解決策を見つけられず、緊張感は高まるばかりであった。
4
ナミは、アラタが行方不明となり、周囲の状況に圧倒され、どうすべきか分からなくなっていた。彼女は恐怖に駆られながらも、アラタを捜そうと決意し、仲間のイクオと共に捜索を始めた。道中で、徳島県警のロボットと遭遇し、助けを求めて協力を得ることになった。
彼女は新たに出会った高野美奈子の助けを借り、周囲の状況を把握しつつ、アラタの捜索を続行。ミートボールズという名のロボットたちの支援を受け、阿鼻叫喚のマチアソビ会場での混乱の中、アラタを発見した。
アラタは無事であり、ナミは彼を見つけたとき、感情を抑えきれず叫んだ。彼女たちはロボットの指示に従い、最終的にアラタの元へ向かって突撃した。
5
スタジャンを着た蟬丸が金属製のチャクラムとハラディを使い、敵と戦っていたが、敵はロボットであったため、蟬丸の武器はほとんど効果がなかった。アラタはナミとイクオの助けを受け、警察ロボットたちと連携してロボットの敵に立ち向かっていた。途中でジブリールが到着し、迅速に戦闘に参加し、敵ロボットを全て撃破した。
その後、アラタはジブリールから Iイルミネーターを受け取り、自衛隊の自動歩兵ロボット「まめたん」の指揮権を掌握した。アラタはオペレーションを再編し、各部隊を指揮しながら、次々と暗殺者や敵ロボットを無力化していった。最終的に、アラタは突進してくるSUVをロボットたちに阻止させ、戦況を安定させたが、戦いの中で壊れたロボットを見て泣くナミに、子供たちの心理面への配慮が不足していたことを痛感した。
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