どんな本?
本作は、最強の水魔法使いである涼が繰り広げる冒険譚の第二部である。王国解放戦から3年後、筆頭公爵となった涼は、王都とロンドの森を行き来しながら錬金術や農業に勤しむ日々を送っていた。しかし、遠く西方諸国へ向かう外交使節団に加わることとなり、かつての敵であった帝国の先代皇帝・ルパート6世と再会する。旅の途中で遭遇する数々の事件や謎に立ち向かいながら、涼は使節団を守り抜くため奮闘する。
主要キャラクター
- 涼:最強の水魔法使いであり、筆頭公爵。錬金術や農業を嗜む自由奔放な性格。
- アベル:王国の国王であり、涼の友人。多忙な日々を送る中、涼との友情を大切にしている。
- ルパート6世:帝国の先代皇帝。涼とは過去に敵対したが、現在は共に旅をする仲間となる。
物語の特徴
本作は、前作から3年後の世界を舞台に、涼の新たな冒険と人間関係の深化が描かれている。かつての敵との共闘や、西方諸国での未知なる脅威との対峙など、スリリングな展開が魅力である。また、涼とアベルの遠距離での掛け合いも健在であり、ユーモラスなやり取りが物語に彩りを添えている。
出版情報
• 出版社:TOブックス
• 書籍版発売日:2024年4月20日
•ISBN:9784867941645
• コミカライズ:墨天業による漫画版が『comicコロナ』にて2021年9月より連載中
• アニメ化:2025年7月よりテレビアニメ放送予定
読んだ本のタイトル
水属性の魔法使い 第二部西方諸国編 III
著者:久宝忠 氏
イラスト:めばる 氏
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あらすじ・内容
共和国の騒乱を鎮圧した涼は歓喜していた。中央諸国よりも技術の進んだゴーレムを解体し放題だったからだ。
ほくほく顔で使節団に帰ってきたのもつかの間、筆頭公爵のもとには仕事が次々と舞い込んでくる。
「暗殺者でもゴーレムでもどんと来いです!」 ……などと余裕しゃくしゃくな涼だったが、枢機卿が探りを入れてきたり、異端審問官と会談をしたりと、涼のもとにやってくる仕事は剣とも魔法とも関係ないものばかり!
しかも共和国とのツテを見込まれて急遽、今すぐ航海できる大型船の買い付けを任されてしまい……? 船の建造はふつう数年かかる大プロジェクト。無理難題を前に、涼がまさかの交渉人(ネゴシエイター)として覚醒!?
「筆頭公爵の僕にできない交渉はありません!」
培ってきた経験と知識でいざ交渉へ、最強水魔法使いの気ままな冒険譚!
感想
主な出来事は以下の通り。
ナイトレイ王国の訪問と交渉
ナイトレイ王国使節団は教皇庁を訪れ、グラハム枢機卿と対面した。彼は〈イビルサーチ〉を唱え、一行にかけられた怪異を祓い、権力者の心得について涼と意見を交わした。涼の提案で、使節団と教皇庁間の書類運びを担うこととなり、彼の魔法は注目を集めた。教皇庁内で修道士たちの信頼を得る中、涼はかつての「四司教」の一人、チェーザレに監視されていることに気付き、その意図を探ろうとした。
帝国動乱:政治と策略の渦
帝国では、新皇帝ヘルムートの失策が混乱を招いた。徴税権の乱用が民衆の反発を生み、各地で暴動が頻発した。反乱の背景には、エルベ公爵やアラント公爵の動きがあり、ジギスムント公爵は不当な行為への怒りから反逆とみなされる行動を取った。一方、エルベ公爵コンラートは冷静な策略で帝国の情勢を動かしていた。騎馬の王アーンの襲撃により、ヘルムートは命を落とし、帝国はさらなる混乱に陥った。
リョウの交渉と挑戦
涼は共和国で長距離航行可能な船を調達するため奮闘した。建造中止となっていたクリッパー船を購入し、設計改良に成功した。襲撃を受けるも、巧みに対応し魔法無効化道具を奪取した。帰路ではヴァンパイア公爵レアンドラとの会話を通じて種族間の関係を考え、食事を通じた平和の可能性に気付いた。
最凶の悪魔との戦い
聖都西ダンジョン攻略中、転移罠で分断されたリョウの仲間たちはゴブリンやオーガとの激戦を繰り広げた。合流後、悪魔ジャン・ジャックとの死闘に挑み、リョウは片腕を失いながらも悪魔の首を斬った。悪魔は「神のかけら」について語り、再び現れることを予告した。
総括
リョウの冷静さと独自の視点は、西方諸国の混乱の中で重要な役割を果たした。帝国の動乱が今後どのように収束するかは未知数であるが、リョウの成長と仲間たちとの絆は新たな希望を示している。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ
ナイトレイ王国使節団の教皇庁訪問
ヒュー団長と使節団の到着
ヒュー・マクグラスが率いるナイトレイ王国使節団は、教皇庁を訪れ、グラハム枢機卿に就任祝いを伝えた。一行は教皇庁の奥深くまで案内され、広大な部屋でグラハムと対面した。グラハムは一行が遭遇した怪異を即座に見抜き、〈イビルサーチ〉を唱えてその影響を祓った。彼は毒や魔法的盗聴を防ぐため、常に聖煙を焚いていると説明した。
涼の発言と権力者の心得
涼は、権力者間の信義が力によってのみ守られるという考えを語った。グラハムはその洞察に驚き、涼が引用した一節が『君主論』であると気付いた。涼は自身の発言により、グラハムの信頼をさらに得た。
中央諸国使節団の交渉窓口変更
グラハムは、中央諸国使節団の交渉窓口が自分に変更されることをヒューに伝えた。ヒューはグラハムの適性を認めつつも、権力争いの厳しさを改めて実感した。
涼の書類運びの提案
翌日から、涼は使節団と教皇庁間の書類運びを自ら引き受けた。彼の目的は、教皇庁内で見かけたニール・アンダーセンに関する情報を得ることであった。書類運びを文官の負担軽減として提案したため、首席交渉官イグニスからも賛同を得た。
教皇庁内での涼の存在感
涼の〈台車〉と呼ばれる魔法の便利さが教皇庁内で話題となり、中央諸国の魔法技術への評価を高めた。修道士たちは涼の行動を注視し、その丁寧な所作や洗練された態度から、彼が上流階級出身である可能性を推測した。
グラハム枢機卿の信頼
修道士カールレも涼に対する評価を改め、彼を誠心誠意サポートするようになった。グラハムは涼の過去を「秘密」として語らず、彼への信頼を暗示するにとどめた。
視線の主への気付き
涼は自分に向けられる視線に気付き、その主がかつての「教皇の四司教」の一人であるチェーザレであると察知した。〈パッシブソナー〉を駆使しつつ、監視の目的を探ろうとしたが、詳細には踏み込まなかった。修道士カールレに尋ねた中庭の三階についての質問では、カールレの動揺から、踏み込んではならない領域であることを悟った。
チェーザレと四司教の脅威
涼はグラハム枢機卿にチェーザレの情報を尋ねた。グラハムは「教皇の四司教」の詳細を明かし、彼らの暗殺部隊や個人戦闘能力が西方諸国の均衡を保つ要因であると説明した。特にチェーザレは共和国での出来事以来、再び暗躍している可能性があるとされた。グラハムは、涼に注意を促しつつも、その洞察力を高く評価していた。
監視班との対峙
涼は教皇庁周辺での監視が強化されていることを察知し、監視班を意図的に誘導して一人ずつ無力化した。彼の巧妙な策略により、監視者たちは抵抗もできず拘束されるに至った。その後、グラハムの協力を得て、捕らえた監視者たちから情報を引き出す計画を立てた。
グラハムとの連携
グラハム枢機卿は、元異端審問庁長官としての経験を生かし、監視者たちから情報を引き出す役割を担った。涼とグラハムは、お互いの能力を信頼し合いながら、監視体制を逆手に取った行動を進めた。この過程で、教皇庁内外の動向に対する情報収集を一層深化させた。
監視と迎撃の隠された意図
涼の行動は、単なる監視への対抗策に留まらず、より広範な情報網を築くための戦略であった。彼の笑顔の裏には計算された意図が隠されており、その機転によって新たな展開への布石を打ったといえる。
アドルフィト枢機卿の動向と監視の目的
涼は、監視していた者たちがアドルフィト枢機卿の手の者であると知った。グラハム枢機卿の説明によれば、アドルフィトは教会内で最も裏工作に秀でた人物であり、今回の監視は涼の行動を通じて情報が外部に漏れるのを防ぐためであった。ただし、監視者たちは、必要とあらば涼を排除する指令も受けていたという。
別の監視者たちの存在
監視者たちは、涼以外にも王国の文官や連合使節団を監視する別の者たちを目撃していた。その指揮者はグーン大司教であり、背後にはカミロ枢機卿がいると推測された。カミロ枢機卿はアドルフィトに次ぐ裏工作の巧者であるという。涼は教会内の複雑な権力構造に呆れつつも、その状況を冷静に受け止めていた。
ヴァンパイアの活動の兆候
グラハムは、ヴァンパイアたちの活動が活発化していると警告した。涼も過去にチェテア公爵率いるヴァンパイアと戦った経験があり、その脅威を実感していた。グラハムは、聖都襲撃の可能性すら示唆し、涼に警戒を促した。これに対し、涼は不安を抱えながらも冷静に対応する姿勢を示した。
ナイトレイ王国における城壁魔法の報告
アベル国王の元には、王都城壁の防御機構に関する報告書が届けられた。この城壁には闇属性の魔法が組み込まれており、攻撃魔法を放つと追尾して返してくる仕組みであった。この特性を利用して涼が訓練を行った結果、城壁の性能が明らかとなり、王国魔法団のさらなる分析が進められた。
権力と人間性に関する議論
涼とアベルの会話では、権力を持つ者が陥る危険性について議論が交わされた。涼は、権力を持つことで人が変わることの危険性を指摘し、アベルに警告を与えた。アベルはそれを受け止めつつ、自身の行動を省みる姿勢を見せた。この会話は、二人の信頼関係をさらに深めるものとなった。
アシュリー・バックランドの転任と活躍
アシュリー・バックランドは、王都衛兵隊東門の責任者として堅実に職務を果たした後、軍務省本庁へ転任し、グラディス・オールディス交渉官の副官に任命された。彼女の剣術と体術の卓越性、そして事務能力の高さが評価され、グラディス自身の希望で副官に抜擢されたとされる。これにより、彼女は西方諸国への使節団の一員として派遣されることとなった。
宿舎での邂逅と情報の共有
アシュリーが宿舎のラウンジでくつろいでいると、涼が声をかけてきた。突然の訪問に驚くアシュリーだったが、涼からグラディス交渉官が監視されている可能性について告げられる。涼はその理由については分からないとしながらも、警戒を促した。アシュリーはこの情報を受け、護衛としての緊張感を新たにした。
監視の背後に潜む謎
涼の情報を聞いたグラディスは、監視の対象が自分であることに驚いた。だが、それ以上に監視の目的が不明である点に困惑した。彼女はアシュリーと共に考え、連合使節団の誰かも同様に監視されているとの情報から、共通点を探る必要性を認識した。
連合使節団での面会とさらなる情報
涼は連合使節団を訪れ、団長であるロベルト・ピルロと面会した。そこで、連合使節団の中でも監視が行われていることが明らかとなった。監視対象はピルロ自身ではなく、彼の所有物や周囲の何かである可能性が高いという。ピルロは、自身が持つものに狙われるほどの価値があるとは考えにくいと述べ、監視の目的が依然として不明である点に懸念を示した。
監視の目的を巡る推測と困惑
涼とピルロは、監視の理由や目的について推測を重ねたが結論には至らなかった。それぞれが保有する情報を共有したものの、具体的な手がかりは得られず、謎は深まるばかりであった。
四司教
教皇庁での司教たちとの対峙
涼がグラハム枢機卿に書類を届けた帰り、アベラルド、ブリジッタ、ディオニージの三司教に呼び止められた。彼らは教皇直属の四司教のうちの三人で、異質な威圧感を纏っていた。涼は彼らの提案に応じ、案内された部屋で対話に臨んだ。三人から半包囲される形で座らされた涼は、自身の自動防御魔法〈動的水蒸気機雷Ⅱ〉を発動させ、用心しながら話を進めた。
ブリジッタは発動前の魔法の特性を瞬時に見抜き、涼は彼女の能力に恐怖を覚えたが、情報を引き出すため、魔法について詳しく説明した。アベラルドは涼が教会に害を成す存在かを見極めるために呼び出したと明かしたが、涼は過去の行動を説明し、敵意がないことを伝えた。最終的に、教皇自身が最終判断を下すという結論に至り、涼との対話は終わった。
王国と連合の連携とグロウンの襲撃
同日早朝、連合使節団団長ロベルト・ピルロが王国使節団のヒューを訪問し、監視の件について情報を共有していた。その際、連合の護衛隊長グロウンが黒装束の男たちに襲われた。『十号室』の三人、ニルス、エト、アモンが現場に駆けつけ、連携して黒装束たちを追跡。激闘の末、グロウンの剣を奪還することに成功した。
奪還された剣の価値と聖剣の特性
奪還された剣は、かつてグロウンが仕えたルーク・ロシュコー男爵の形見であり、特性は霊体の消滅であった。ヒューやピルロは、この剣が狙われた理由を推測したが、売却価値や特性からは大きな理由が見いだせなかった。聖剣はそれぞれ尖った特性を持つが、活用の場面が限定的であるため、今回の襲撃の真の目的については引き続き調査が必要となった。
異端審問官
異端審問庁とその特殊性
教皇庁内には、一般の聖職者や信徒がほとんど立ち入らない「異端審問庁」が存在していた。この施設は黒い御影石で造られた重厚な建物で、千人以上の異端審問官が所属していたが、常時詰めているのは三百人ほどであった。彼らの左胸には、赤い花を白い縁取りで描いた紋章がついており、それが信仰の深さと教会への献身を象徴していた。異端審問庁は、出世競争の終着点として認識されており、所属者は教会内部の競争や政治的駆け引きから解放されるため、信仰と研究に専念できる理想郷のような場所とされていた。
異端審問庁長官ステファニアの訪問
涼が教皇庁から戻る前、異端審問庁長官ステファニアがグラハム枢機卿を訪ねてきた。ステファニアは涼の存在を教会にとっての危険因子と捉え、異端審問にかける意向を示した。グラハムはその判断を慎重に考えるべきだと忠告したが、ステファニアは信仰を優先するとして聞き入れなかった。グラハムは、涼に手を出せば教会そのものが崩壊すると警告したが、彼女はその意味を理解せず立ち去った。
聖剣を巡る攻防と使節団内での混乱
王国使節団宿舎では、連合使節団団長ロベルト・ピルロの護衛隊長グロウンが所持していた聖剣が黒装束の集団に狙われた。しかし、『十号室』の三人がこれを阻止し、聖剣を取り戻した。ヒューをはじめとする使節団のメンバーは、この事件の背後に何か大きな意図があると考え、緊張を高めていた。
異端審問庁による涼の引き渡し要求
その後、異端審問庁のステファニアが王国使節団宿舎に現れ、涼を異端審問に引き渡すよう要求した。ヒューはこれに激しく反発したが、異端審問を妨げる権限がないとするステファニアの言葉に困惑した。そこへ現れたグラハムは、異端審問が交渉の破綻を招くと警告しつつも、それを阻止できないと述べた。
涼の登場と圧倒的な威圧感
最終的に、涼がロビーに姿を現し、異端審問庁の要求に直接対応した。静かで穏やかな声ながらも、異端審問官たちはその圧倒的な威圧感に圧倒された。涼は「聖都全てを凍りつかせる」と明言し、〈パーマフロスト〉を用いて異端審問官たちに自らの力を示した。異端審問庁は完全に手出しできなくなり、ステファニアは涼の要求に従い退却を余儀なくされた。
ヒューとの対話と後悔
騒動の後、ヒューは涼に謝罪し、自分の判断が今回の事態を招いたと反省していた。涼は苦笑しながらも、交渉を継続するための支援を示唆し、周囲の緊張を少し和らげた。
涼とアベルの会話
ラウンジで涼はアベルと魔法について語り合っていた。〈パーマフロスト〉の効果について涼が説明し、アベルは涼の威圧感に驚いた様子であった。涼はその技術をロンドの森のドラゴンたちから学んだと述べたが、同時にアベルを自然にその威圧感を備えた存在として尊敬していた。
日常の継続と異端審問庁の影響
異端審問庁の一件の翌日、涼は教皇庁に書類を届けに向かった。宿舎でヒューから心配されたが、平然と出発した。教皇庁ではカールレ修道士が涼の無事を確認し安心したが、枢機卿グラハムは涼が何事もなかったように来たことに驚きを隠せなかった。涼は異端審問庁を抑えたことを軽く話し、教皇庁全体に冷静な対応を求めた。
異端審問庁長官ステファニアの焦り
グラハムとの会話の中で、ステファニアが功績を上げようと焦っていることが明らかになった。異端審問庁の多くは研究に専念する者たちであったが、ステファニアは異例であり、涼に対する異端審問もその一環と考えられていた。
ニューの影響と異端審問庁の三つの柱
グラハムは涼に、西方教会の開祖ニューが聖典、剣術、チェスに多大な影響を与えたことを語った。聖典は信仰の指針であり、剣術はニューが剣聖であったことから始まるもので、チェスは彼が開発した定石や問題によるものだった。この三つの柱が異端審問官の基盤であることを強調した。
ジューダスリモースとグファーチョ大司教の謎
涼はグラハムに、暗殺兵団ジューダスリモースの活動やグファーチョ大司教の行動について語った。エルフの森でのゴーレム戦や、グファーチョの存在が教皇庁で確認された事実を共有した。グラハムはそれをサカリアス枢機卿の陰謀と関連付け、さらなる調査の必要性を認識した。
ルスラン公子との対話
涼は教皇庁を出た後、偶然ルスラン公子と出会い、共にカフェ・ローマーで語り合った。ルスランはゴーレム研究の進展や、暗殺兵団のゴーレムについての知識を共有し、涼はその中に自分の経験と符合する部分を見出した。ルスランの経験から生まれる前向きな姿勢に、涼は感銘を受けた。
サカリアス枢機卿の影響と展望
ルスランとの会話を通じ、サカリアス枢機卿が西方教会におけるゴーレム開発の中心人物であり、その活動が教会の運命に深く関わっていることが示唆された。涼は彼の研究が西方教会やキューシー公国の発展に寄与する可能性に注目しつつ、その背後に潜む謎に気を配った。
異端審問庁での会議
異端審問庁長官室では、ステファニア大司教を中心に会議が行われていた。第二審問補佐官アッボンディオ司教は、王国冒険者リョウに対し、キューシー公国のルスラン公子を利用する案を提案した。ステファニアは、公子を巻き込むことへの懸念を示したが、第三審問補佐官ルイージ司教も利用に反対した。その理由は、ルスランがサカリアス枢機卿に高く評価されているからであると述べた。
サカリアス枢機卿の突然の訪問
会議の翌日、サカリアス枢機卿がステファニアを訪ね、ルスラン公子に手を出さないよう直接的に要請した。彼の完璧な態度と言葉は、ステファニアに圧倒的な威圧感を与えた。ステファニアは枢機卿との衝突を避け、感謝と安堵の念を抱きつつ、彼の要求を受け入れることにした。
ステファニアの葛藤と前任者グラハム
ステファニアは、自身の未熟さと前任者グラハムとの能力差を痛感していた。グラハムは異端審問庁長官時代、圧倒的な成果と支持を得ており、その影響は今もなお残っている。彼女は、自分も教会全体に貢献するために、マファルダ共和国での成果を挙げる必要があると決意していた。
異端審問庁と涼の対話
異端審問庁は涼に正面から話を聞くことを選び、ステファニアが使節団宿舎を訪問した。涼は、壊れたゴーレムを観察しただけであり、特別な行動はしていないと答えた。また、教皇庁内で錬金術師ニール・アンダーセンを見たことを報告し、ステファニアの疑念を深めた。
涼とアベル王の議論
涼はアベル王に異端審問の歴史や人間の愚かさと偉大さについて語った。その中で、アベルは涼の論理に振り回されつつも、自身の政治を頑張ると誓った。さらにアベルが視察の予定を語ると、涼はその短い日程に不満を示しつつも、最終的に彼を応援した。
結論と展望
ステファニアは、自身の役割と責任を再確認し、引き続き成果を挙げるための努力を続けることを決意した。一方、涼は異端審問庁との対話を乗り切り、次の動きへの準備を整えていた。
アベル王の北部行
王国北部への視察
アベルは王室専用馬車で王都を出発し、北部カーライルへと向かった。途中、街や領主と交流しつつ進む中、彼の護衛には王国騎士団が同行していた。騎士団長ドンタンや第一近衛連隊の支援を受け、アベルは北部での不安定な状況に対処する決意を新たにしていた。
カーライル伯爵家との再会
カーライル城でアベルは、新設されたカーライル伯爵家の当主ウォーレンと夫人リンと再会した。彼らはかつての仲間であり、新興の北部貴族の象徴でもあった。北部の貴族たちもアベルに謁見し、王国の統治に必要な信頼関係が築かれていた。
北部の復興と新貴族の成長
北部の復興は、新設された貴族たちが中心となって進められていた。小さな領地から経験を積むことで、新北部貴族たちは領地経営を学び、将来の王国防衛の要となることが期待されていた。アベルは彼らに爵位を与えただけでなく、直接的な信頼関係を築く努力を続けていた。
セミントン襲撃の報告
謁見の最中、エイボン男爵領セミントンが盗賊団「黒狼」に襲撃された報告が届いた。アベルはこれを受け、男爵の独断での出陣を阻止しつつ、カーライル伯爵領から援軍を派遣する指示を出した。さらに、自らも出陣することを決断し、王国騎士団を率いて現場へ向かった。
盗賊団の奇妙な行動
「黒狼」は通常の盗賊団とは異なり、防備の堅いセミントンを攻城戦のように襲撃していた。住民たちは士気高く抵抗し、領主夫人ケイトの指揮の下、土属性魔法で街を守っていた。一方、盗賊団の幹部たちは、この襲撃が「契約」に基づくものだと述べつつ、その異常さに困惑していた。
防衛戦と王国の対応
セミントンは住民と守備兵の連携によって堅守されていたが、アベルの指揮する援軍が到着することで状況がさらに改善する見込みであった。一方で、今回の襲撃が盗賊団を超えた背景を持つ可能性があり、アベルはその背後関係を探る必要があると考えていた。
カーライル伯爵領軍と王国騎士団の進軍
エイボン男爵ガス・ハイドは援軍に加わり、騎馬隊と共にセミントンに向かった。彼は妻ケイトの安否を案じつつも、城壁や守備隊が耐えることを信じていた。一方、アベル王は彼に声をかけ、敵の狙いが援軍にある可能性を示唆し、伏兵への警戒を促した。リンとウォーレンも、アベルが最前線で行動することに複雑な思いを抱きながらも、状況に備えていた。
伏兵の襲撃と戦局の変化
カーライルを出発して30分後、援軍は街道が倒木で塞がれている地点で伏兵の襲撃を受けた。リンの指揮の下、防御陣形を整えたが、丘の上からの攻撃に苦戦した。アベルとリンは、背後にデブヒ帝国が関与している可能性を疑い、状況を見極めつつ反撃の機会を探った。
冒険者パーティー『明けの明星』の助勢
同じ地域を移動していた冒険者パーティー『明けの明星』は、戦闘の音を聞きつけ、状況を把握した。彼らは帝国軍の関与を確信し、援軍側に助勢することを決意した。彼らの奇襲によって伏兵は混乱し、これを契機にカーライル伯爵領軍と王国騎士団が反撃を開始。魔法団の砲撃と突撃により、伏兵部隊は壊滅した。
セミントンの防衛と逆襲
一方、セミントンではケイトが民を指揮して防衛を続けていた。援軍の到着を確認したケイトは自ら突撃を決断し、民と共に攻勢に出た。援軍と挟撃された盗賊団「黒狼」は壊滅し、セミントンの危機は回避された。
セミントンでの再会と感謝
戦闘後、アベル王とリン、ウォーレンはセミントンに入り、ケイトと再会した。ケイトは街の防衛と復興に尽力しており、特産品として「トキョータワ」を展開していた。アベルはその発展に感心し、ケイトの努力を称賛した。さらに、ロンド公爵リョウの影響がこの地にも及んでいることを知り、彼の功績を改めて評価した。
東京タワーと貴族の役割
東京タワーの起源と思案
涼はアベルとの会話の中で、かつてアシュリーの前で東京タワーを作った記憶に触れた。その際、星を浮かべていたことが現在の「幸運のお守り」としての形状に繋がった可能性に思い至った。また、著作権やロイヤリティーの概念が中央諸国には存在しないことを再確認したが、地球と『ファイ』という異世界間の著作権適用範囲について、一瞬思案した。
貴族としての責務と報酬
アベルは、東京タワーが北部復興に貢献している事実を評価し、涼が貴族としての役割を果たしたと称賛した。一方、涼は「ノブレス・オブリージュ」による搾取感を嘆きつつも、その評価に一定の納得を示した。その流れで、涼はケーキ特権の頻度を増やすことを提案し、アベルもそれを了承した。
未来への不安
会話の最後、アベルの「王国に戻れたら」という言葉に、涼はフラグの立った予感を抱き、僅かな不安を覗かせた。それでも、彼は前向きな姿勢を崩さなかった。
アベル王の東部行
アベル王の東部視察と戦略的交渉
王国騎士団の増強と視察の短縮
アベル王の北部視察中、王国騎士団は急遽、王都から中隊を追加して護衛を強化した。アベルはこれを歓迎しつつも、視察期間が予定の三十日間から六日間に短縮されたことに不満を漏らした。涼は視察反対派の暗躍と推測したが、具体的な証拠はなく、アベルとの軽口に終始した。
盗賊団と帝国軍の関与
セミントン襲撃事件に関し、盗賊団『黒狼』が帝国から活動資金を受け取っていた事実が判明した。アベルは、盗賊団の自白による情報を踏まえ、帝国の新皇帝ヘルムートの慎重さに欠ける姿勢を懸念した。涼との会話で、ヘルムート政権内の分裂が帝国内戦を招く可能性にも触れ、戦略的に注目するべき事案とした。
ウイングストンでの謁見と少年公爵の独白
東部最大の街ウイングストンに到着したアベルは、公爵家当主である少年アーウィンとの謁見を行った。謁見後、アーウィンが鏡越しに「アベル王の体を乗っ取れなかった」と独り言を呟き、邪悪な計画を進行させていることが明らかになった。彼は魔人復活を目論み、東部での活動を続けていた。
レッドポストでの連合将軍との接触
アベルは視察の途中、東部国境の街レッドポストでハンダルー諸国連合の斥候隊長オドアケル将軍と接触した。さらに、連合の二人の重要人物、炎帝フラムと灰色ローブファウストとも対峙した。アベルは冷静に対応し、帝国の新皇帝ヘルムートの動向や、魔人関連の協議を連合のオーブリー卿と行う意向を伝えた。
三大国のバランスを巡る政治的駆け引き
会談中、アベルは帝国の力を削ぐことが三大国の安定に繋がると主張し、連合側に対して共通利益を示唆した。オドアケルはアベルの意図を理解しつつ、情報を持ち帰る意向を示した。炎帝フラムはアベルとの個人的な因縁を見せつつも、直接的な行動を控えた。
視察の成果と帰路への準備
アベルの東部視察は、短期間ながらも重要な情報と外交的成果を得て終結した。王国と連合の関係性を再確認しつつ、帝国を含む三大国の動向に備える形となった。視察団は次の行動に移る準備を進めた。
連合と王国の謀略と権力の在り方
連合執政オーブリー卿の分析
連合執政オーブリー卿は、斥候隊長オドアケルの報告を受け、アベル王の戦略を「謀略家のそれ」と評価した。アベルが連合の動きを見抜きながら帝国の内乱を助長する方向性を煽ったことに対し、オーブリー卿はその狙いを認め、連合としての戦略を継続することを決断した。最終的に、帝国全土を巻き込む内乱へと発展させ、長期的に帝国の力を削ぐことを目指した。
アベル王と涼の外交的対話
アベルは、帝国に対する王国のスタンスについて、涼と議論した。王国は帝国の内乱を助長するような直接的な策を取らず、連合に対し「情報は把握している」という警告を送ったのみであった。涼はその高度な外交的交渉に感嘆しつつも、政治の複雑さに対して距離を置く姿勢を示した。
宰相への特権提案
涼は宰相ハインライン侯爵に特別な特権を付与する提案を行った。それは月一回の「ケーキ特権」というユーモラスな案であったが、アベルは慎重に検討することを決めた。涼の提案は、宰相との関係を良好に保つ意図が含まれていた。
帝国の現状と失政の影響
ルパート前皇帝の盤石な統治に比べ、ヘルムート新皇帝の時代には帝国の内政が混乱し、国全体が弱体化していた。この状況をアベルは「失政」と断じ、力量のない人物がトップに立つことの危険性を強調した。王室の者は幼少期から徹底した教育を受け、国家運営の準備を整える必要性を述べた。
権力と責任の考察
アベルは、権力を持つ者の責任の重さを語り、無責任に権力の座に留まり続ける危険性を指摘した。一方、涼は政治に距離を置きたい意向を述べつつ、資本による影響力を行使する方法論を擁護した。二人の考えは対照的でありながら、権力とその行使についての重要な視点を提供した。
帝国動乱
帝国の変革と混乱
ヘルムート新帝の即位と変革
二年前、デブヒ帝国ではルパート六世が退位し、皇太子ヘルムートがヘルムート八世として即位した。即位当初、彼の領地経営の実績もあり、多くの帝国民に歓迎された。彼は政治、経済、軍制の改革に着手し、正規軍と魔法軍に再編する一方で、徴税権を正規軍に一部与えた。この施策は強力な軍事力を目指したものだったが、急激な変革は歪みを生み出し、帝国内に問題を引き起こす結果となった。
徴税権の乱用と民衆の反発
正規軍による徴税は過剰となり、民衆から怨嗟の声が広がった。ヘルムートは問題を認識したものの、徴税停止まで半年の猶予を設けた結果、さらなる苛烈な徴税が行われた。この政策の失敗により、新帝の名声は急落し、エルベ公爵コンラートを支持する声が高まった。その中で各地で暴動や反乱が頻発し、帝国中枢はその背後にある意図を探る必要に迫られた。
第三空中艦隊の不満と派遣
帝国軍唯一の空中艦隊となった第三空中艦隊は、反乱鎮圧のために派遣された。彼らは自らの役割が単なる移送手段に過ぎないことや、民衆攻撃の可能性に不満を抱いていた。元冒険者で構成された艦橋員たちは、現状の政策や皇帝への忠誠に疑問を持ちながらも命令に従った。
反乱拠点攻撃への準備
第三空中艦隊は、反逆者ランタン男爵の拠点攻撃に同行した。フローラ・ライゼンハイマー司令官の指揮のもと、攻撃前に降伏勧告を行う計画が立てられた。一方、元『乱射乱撃』のメンバーは、クルコヴァ侯爵夫人からの依頼で調査と支援を行うこととなった。彼らはフローラの作戦に従いつつ、自分たちの目的を果たすべく動いた。
ランタンブルク潜入作戦
潜入の準備
元『乱射乱撃』の六人はランタンブルク北側城壁下に到着し、潜入の準備を整えた。城壁の高さは三メートル程度で警備も手薄であり、双子のユッシとラッシが軽業師のような身のこなしで城壁を越え、ロープを垂らして他のメンバーを引き上げた。潜入後、彼らは屋敷の位置を特定し、さらに街の中央にある塔が反乱の指揮拠点である可能性も確認した。
赦免状の探索
一行はランタン男爵の屋敷に侵入し、アンの正確な情報に基づき、屋敷内の警備状況を把握した。護衛を排除しつつ二階の執務室へ向かい、男爵と対峙した。エルベ公爵コンラートが出したとされる『赦免状』の所在を尋ねるも、男爵アインリッヒはそれを渡すことを拒否し、戦闘が始まった。
ランタン男爵との一騎打ち
エルマーは室内戦闘に不利な長剣を短剣に持ち替え、戦局を有利に進めたが、戦闘中のミスで危機に陥った。それでも左手を犠牲にして相手の攻撃を止め、拳で反撃して勝利を収めた。男爵は敗北を認め、『赦免状』を渡すと約束し、配下のボランスがそれを引き出しから取り出した。
戦闘の余波と撤収
『赦免状』を手にした一行は、城壁を越えて撤退を開始した。エルマーは戦闘で傷ついた左手を治療されながら、正規軍の徴税政策が引き起こした反乱の根深さに思いを巡らせた。彼らはクルコヴァ侯爵夫人への報告を終えた後、アラント公爵領への旅行を計画し、明るい未来を思い描きながら任務を終えた。
偽造された赦免状とその真相
赦免状の鑑定と連合の陰謀
クルコヴァ侯爵夫人マリアは、入手した『赦免状』を鑑定し、偽物であることを確認した。見た目は精巧であり、下級貴族や民衆には本物と区別がつかない代物であった。この偽造物は、連合が帝国内部を混乱させるためにばらまいた可能性が高いと判断された。
乱射乱撃の休暇
マリアは、乱射乱撃の六人がアラント公爵領へ休暇を取ったことを語った。彼らは正規軍所属であるものの、母港がクルコヴァ侯爵領であるため、実質的にマリアが許可を下せる立場にあった。帝国が空中艦隊にあまり重きを置かない現状も、許可が下りた理由の一つであった。
コンラート逮捕の報告
ノルベルト騎士団長から、コンラートが大逆罪で逮捕されたという報告が入る。マリア、フィオナ、オスカーはこれを聞き驚愕し、即座に対策を講じることを決意した。フィオナは帝城で兄ヘルムートに会うべく動き、オスカーが護衛として同行した。
帝城における執政マルティナの苦悩
ヘルムートの独断
執政マルティナは、ヘルムートの暴走に不安を抱いていた。彼は策であると知りながら、最大のライバルである弟コンラートを逮捕し、帝国内外に大きな混乱を招いた。反乱の拡大や敵対勢力の策略に対する適切な対応が行われない状況に、彼女は無力感を覚えていた。
フィオナの面会拒否
フィオナとオスカーが帝城を訪れ、面会を求めたが、ヘルムートはこれを拒否した。執政としてマルティナはその意図を理解しつつも、フィオナに対して面会不可を伝える際、胸の内に苦悩を抱えていた。
馬車内での議論と西方の脅威
帝国の西部情勢
帝都からの帰路、フィオナとオスカーはエルベ公爵領の重要性と、先帝ルパートの隠棲地ギルスバッハについて議論した。彼らは、西方諸国や連合が帝国の混乱に乗じて動く可能性を危惧していた。
騎馬の民とアーン王の復讐
新たな脅威として浮上したのは、回廊諸国の騎馬の民であった。アーン王が抱く復讐心が民衆に伝播し、帝国に対する攻撃へと繋がる可能性が指摘された。オスカーはこの脅威を過小評価することの危険性を語り、慎重な対応を求めた。
フィオナとマルティナの想い
フィオナは兄コンラートの無実を信じ、帝国の分裂を防ぎたいと願ったが、その思いは叶わなかった。一方、マルティナはヘルムートの補佐として、帝国の危機に向き合い続ける覚悟を固めていた。
帝国の混乱とコンラートの脱出
囚人の塔での対話
帝城第三尖塔、通称「囚人の塔」に幽閉されていたエルベ公爵コンラートは、補佐官ランドと情勢について話し合った。コンラートは、自身を逮捕したヘルムートが策にはまったことを指摘し、脱獄を誘発させるための環境が整えられていると推測していた。しかし、彼は脱獄に乗ることを避け、情勢が動くのを待つ姿勢を示した。
帝国内の反乱と軍の動揺
その後、帝国内でリーヌス・ワーナーやロルフらが反乱を起こし、第十五正規軍や第九正規軍が次々と壊滅した。特に第九軍は、金銭による買収で「消滅」したとされ、これはコンラートの準備によるものであった。これにより帝国内部の不安が増大し、ヘルムートの統治は揺らぎ始めた。
ジギスムント公爵の反逆
アラント公爵ジギスムントが第三正規軍司令官を殺害して反逆したという報告が帝城に届いた。この予想外の事態に、ヘルムートもコンラートも驚愕した。ジギスムントは穏健派であり、反逆とは無縁と思われていたため、この出来事は帝国内外に大きな衝撃を与えた。
コンラートの脱出決行
ジギスムントの反逆により、情勢が一変したことを受け、コンラートは自身の命が危ういと判断し、即座に囚人の塔から脱出を図った。準備は整っており、ランドの助けを借りて帝城を脱出した後、公爵領への帰還を目指した。
混乱の中の思索
馬車の中でコンラートは、計画外の出来事により情勢が変化したことを悟りつつ、自らの立場を再確認した。「何事も、思い通りにはいかぬものだ」と呟きながら、次なる行動を模索していた。
アラント公爵領での旅と遊覧飛行船
旅行開始と帝国情勢の議論
元『乱射乱撃』の六人はクルコヴァ侯爵夫人から休暇を許され、馬車でアラント公爵領へと旅立った。道中、エルマーとザシャは帝国内の反乱や暴動について語り合い、北部と南部で発生している混乱の原因が新帝ヘルムートの政策、特に正規軍の徴税にあると結論付けた。一方で、東部と北西部が比較的平和であることを幸いだと感じていた。
領都エラーブルクの到着と宿泊
一行はアラント公爵領の中心地エラーブルクに到着し、その華やかさに感嘆した。彼らが宿泊したのは領内で最上級とされる宿「エラーブルク ほほ」であった。滞在中、クルコヴァ侯爵夫人から預かった手紙をアラント公爵領の執政府に届ける予定であったため、ミサルトの交渉により、最高執政官テオ・バーンとの面会が手配された。
執政府での面会と手紙の伝達
執政府でテオ・バーンと面会した一行は、無事にクルコヴァ侯爵夫人の手紙を渡した。話題は遊覧飛行船の開発に及び、技術者や操船者がクルコヴァ侯爵領で訓練を受けていることや、破壊工作を乗り越えて飛行船が完成に近づいていることが語られた。テオ・バーンは飛行船による領地の発展を楽しみにしている様子であった。
遊覧飛行船エラーブルク号の見学
一行は遊覧飛行船「エラーブルク号」を見学し、その美しい外観と空中戦艦に匹敵する性能に驚嘆した。飛行船が将来、平民にも利用可能な遊覧船として広がる可能性が示唆され、彼らは未来の発展に希望を抱いた。遊覧飛行船は戦場に出る空中戦艦とは異なり、観光や民間利用に特化したデザインが特徴であった。
観光と突然の破局の予兆
滞在予定は一週間とされ、一行は領内観光を楽しむつもりであった。しかし、彼らの計画は三日後に突然の破局を迎えることとなる。具体的な状況は明かされなかったが、平和に思えた領地での出来事が大きな転機を迎えることが暗示されていた。
アラント公爵の反逆と民衆の決意
政庁訪問と反乱の始まり
元『乱射乱撃』の六人は、画聖マヌンティの絵を目当てにアラント公爵領政庁を訪れた。しかし到着時、政庁内から悲鳴と怒号が響き渡り、混乱が外へと広がった。この出来事が「アラント公爵の反逆」と呼ばれる混乱の発端となった。
帝国の分断と情勢の膠着
帝国は三者に分断された。新帝ヘルムート八世が帝都と大半の帝国軍を支配する一方、アラント公爵ジギスムントは自領を固め、エルベ公爵コンラートも自領で守勢を取った。この三人を中心に、北部と南部で暴動と反乱が頻発していたが、帝国貴族たちは動けない状況にあった。ヘルムートは信頼できる第一正規軍と第一魔法軍のみを頼り、少数精鋭での戦闘を検討していた。
ジギスムントの苦悩と決断
ジギスムントは第三正規軍司令官イーヴォ将軍を殺害したことを悔い、責任を取るために帝都へ赴く決意を固めた。イーヴォは不当な要求を繰り返し、さらに大切な絵を切り裂くという侮辱的行為を行い、それがジギスムントの怒りを招いた。結果として、自らの行動が反逆とみなされることとなった。
民衆の支持と反乱の決意
政庁に集まった民衆はジギスムントへの支持を表明し、彼が帝都へ行くことを反対した。民衆は声を上げ、「皇帝を倒せ」という叫びが街中に広がった。執政官テオ・バーンや家臣たちもジギスムントを支える意志を示し、領主としての彼の立場を改めて自覚させた。
ジギスムントの最終的な決断
ジギスムントは民衆や家臣の熱意を受け、自らの命が他者に属するものであると理解した。彼は迷いを捨て、民衆の声に応える形で反逆の道を進む決意を固めた。この決断により、アラント公爵領は反乱の象徴となり、帝国全土に新たな波紋を広げることとなった。
アラント公爵領の戦略と帝国の動乱
アラント公爵領とテオ・バーンの統治
アラント公爵領は、ジギスムント公爵と最高執政官テオ・バーンの協力によって発展した。ジギスムントは文化と芸術の振興に情熱を注ぎながらも、統治において現実的なバランスを保つ能力を発揮していた。一方、テオ・バーンは商業やインフラ整備を進め、領地に人と物、金を引き寄せた結果、芸術家が集まり領民との交流も深まった。この基盤が現在のアラント公爵領の繁栄を支えている。
イーヴォ将軍の行動とジギスムントの決断
イーヴォ将軍の不当な要求と画聖マヌンティの作品を侮辱する行為は、ジギスムントの怒りを買い、将軍を討つ事態に発展した。この行為が「反逆」とみなされ、ジギスムントは自らの身を差し出す決意を固めたが、テオ・バーンは公爵を守るため全力で行動することを誓った。テオは帝国の混乱を利用し、戦争を回避するための策を講じることに集中していた。
帝国軍の動きと新帝の対応
新帝ヘルムート八世は、ジギスムントの書状に応じて第十正規軍を派遣する決定を下した。一方、エルベ公爵コンラートへの対応として第一正規軍と第一魔法軍を率い、エルベ公爵領への進軍を開始した。ヘルムートは慎重な行動を取る一方、情勢の複雑化による影響を避けようと努めていた。
エルベ公爵領とアラント公爵領の連携
エルベ公爵コンラートは、帝国の動きに対し静観を続けることで、敵対的行動を避けつつヘルムートの進軍を抑制した。同時に、アラント公爵領との協力関係を築き、両領地の戦略的な連携を進めていた。この連携により、帝国軍の行動を牽制しつつ、ジギスムントとコンラートの立場を守る体制が整えられた。
フローラ司令官とテオ・バーンの対話
アラント公爵領に派遣された第十正規軍司令官フローラ・ライゼンハイマーは、テオ・バーンから事実を聞かされ、ジギスムントを擁護する立場を強めた。テオ・バーンは事実を基に中立を保つことを提案し、フローラもこれに同意した。テオは皇帝への報告内容を調整しつつ、第十正規軍を敵に回さないための慎重な対応を進めた。
エルベ公爵コンラートの策と準備
エルベ公爵コンラートは、ヘルムートの進軍を予測し、ナインへの誘導を進めていた。彼は戦闘を避けつつも、テオ・バーンと協議を行いながら帝国内の情勢を巧みに操った。準備が整う中、彼の策は次第に具体化していった。コンラートはあくまで戦争回避を望みつつも、必要に応じた防衛策を講じていた。
動乱の幕開け
アラント公爵領とエルベ公爵領の両名門が連携を深め、帝国全体の情勢を複雑化させた。この状況は、ヘルムート八世の計画にさらなる困難をもたらしつつ、各勢力の緊張が高まる新たな段階へと進んでいった。
闖入者
帝国動乱と『乱射乱撃』の決断
ヘルムートとコンラートの会談
新帝ヘルムート八世はエルベ公爵コンラートと直接会談を行った。会談では、コンラートが帝城を無断で出た件についてヘルムートが咎め、コンラートが安全のためであったと主張した。しかし、会談の真の目的は時間を稼ぐことであった。ヘルムートはコンラートを強く非難したが、苛立ちを見せるその姿は、コンラートに「皇帝としての器量」を疑わせるものであった。
帝国軍とエルベ公爵領軍の対峙
戦闘準備が進む中、ヘルムート率いる帝国軍が攻撃を開始した。しかし、エルベ公爵領軍は特殊な防御策「錬金障壁」を使用し、帝国軍の攻撃魔法を無力化した。この予想外の事態に帝国軍は混乱し、エルベ公爵領軍は矢と攻撃魔法による一斉反撃を行った。戦闘が長引く中、エルベ公爵領軍はさらなる策を発動させた。
騎馬の王アーンの襲撃
エルベ公爵領軍が左右に展開し道を開けると、騎馬の王アーン率いる騎馬隊が現れた。彼らは矢を放ちながら帝国軍を突破し、ヘルムートの周囲を制圧した。近衛騎士団も圧倒され、アーンはヘルムートを討ち取った。この一撃で新帝ヘルムート八世は命を落とし、帝国軍は動揺の極みに陥った。
テオ・バーンの策略
アラント公爵領では、テオ・バーンが『乱射乱撃』の六人に依頼を持ちかけた。その内容は、騎馬の民を戦場へ案内する遊覧飛行船の操作であった。しかし、六人は帝国皇帝が他国の王に討たれることを拒絶し、依頼を断った。テオ・バーンは六人を拘束せず解放したが、六人は遊覧飛行船を強奪し、帝国軍へ警告を伝える行動を取ることを決意した。
遊覧飛行船の強奪と出航
『乱射乱撃』の六人は執政府から逃走し、遊覧飛行船エラーブルク号を奪取した。テオ・バーンの指示によりドックの扉は開けられており、六人は無事に出航を果たした。空を飛ぶエラーブルク号は、騎馬の民の侵攻ルートを追い、帝国軍に危機を知らせるための航路を進んだ。
戦局の結末への布石
この一連の出来事によって、帝国動乱は新たな局面を迎えた。ヘルムートの死、エルベ公爵領軍の動向、そして『乱射乱撃』の行動が、帝国全体にどのような影響を及ぼすのか、全てはこれから明らかになるであった。
エルマーの決断と戦場での闘い
騎馬の民の追跡
エルマー率いる遊覧飛行船エラーブルク号は、騎馬の民を追うため南へ向かった。斥候アンの報告により、騎馬の民が既に戦場へ到達し、帝国軍本陣と交戦していることが判明した。エルマーは迅速に現地へ向かうことを決断し、操舵手ザシャにタッチ・アンド・ゴーを命じた。
戦場への降下と皇帝の救出
エラーブルク号は戦場の本陣に接近し、地表ギリギリまで降下した。エルマーは飛行船から飛び降り、混乱する戦場に突入した。騎馬の王アーンが新帝ヘルムートに致命的な一撃を与えたが、エルマーは迅速に行動し、皇帝を確保するよう近衛兵に指示した。この間にアーンと剣を交えることになった。
アーン王との激突
エルマーとアーンは激しい剣戟を繰り広げた。アーンは皇帝を完全に仕留められなかった理由を述べ、光属性魔法を使って回復不能な傷を与えたことを明かした。彼はヘルムートの命を奪う代わりに、回復不能の苦痛を与えることで復讐を遂げたと語り、最終的に戦場から撤退した。
帝国動乱の余波
ヘルムートの重傷は広く伝わり、その背景にはアーン王の復讐と連合の暗躍があった。エルベ公爵コンラートは、皇帝殺しの罪を回避するため、外国勢力を利用するという危険な策を取った。騎馬の民による襲撃と帝国軍の混乱は、中央諸国全体に波紋を広げる結果となった。
通商交渉と長距離航行船の調達問題
王国使節団の窮地
涼は、王国使節団首席交渉官イグニスからの要請を受け、長距離航行可能な船の調達に関する問題を聞いた。中央諸国と西方諸国の海路を結ぶ航路調査が通商交渉の焦点となっており、王国が船を用意することが求められていた。しかし、国内外での調達が困難を極め、交渉は暗礁に乗り上げていた。
涼の提案と共和国への可能性
涼は、船の調達が不可能な現状を打破するため、共和国への協力を模索することを提案した。共和国は西方諸国屈指の海洋国家であり、涼自身がその中核を担うフランツォーニ海運商会とのコネクションを持っていた。しかし、過去の経緯から歓迎されるかは不明であり、涼は単独で交渉に赴く覚悟を固めた。
王国の信用状と涼の決意
ヒューは涼に王国の信用状を託し、五千億フロリンという巨額の保証を準備した。この資金は、時間を買うために高額を支払い、すでに引き取り手のある船を奪い取る可能性も含んでいた。涼は信用状や自身の地位を駆使し、船の調達を成功させる必要があると理解した。期限は教皇就任式までの一カ月であり、涼は強い決意を胸に、行動を開始したのであった。
二度目の共和国
船調達の難航と法的制約
巨額の信用状と出発準備
涼はナイトレイ王国から五千億フロリンの信用状を託され、マファルダ共和国での船調達に向けて出発した。この信用状は、交渉を円滑に進めるための強力な資金であった。前回の旅路より時間がかかったものの、途中で聖都西ダンジョンを経由し、六日で国境に到達した。
国境通過と元首公邸での動き
涼は国境検査で身分プレートを提示し、無事に入国を果たした。一方、元首コルンバーノと最高顧問バーリー卿は涼の目的を探るべく、特務庁の人間を派遣する準備を進めた。彼らは涼の過去の行動に注目し、今回も慎重に対応しようとしていた。
高級宿への到着と特務庁との会話
首都ムッソレンテに到着した涼は、高級宿「ドージェ・ピエトロ」に宿泊した。宿の手配は一流で、滞在の快適さが保証されていた。その後、涼はラウンジで特務庁のバンガン隊長とアマーリア副隊長と面会した。二人は元首公邸からの命を受け、涼の目的を探るために訪れていた。涼は、長距離航行可能な船の調達が目的であることを明かした。
フランツォーニ海運商会での交渉
翌朝、フランツォーニ海運商会を訪れた涼は、商会長ジローラモ・フランツォーニと直接交渉した。しかし、長距離航行可能な船はすべて既に注文が入っており、完成品は手に入らない状況であった。涼は造船中の船を高額で譲渡してもらう提案をしたが、政府発注の船が対象であるため、交渉は難航した。
共和国法による大きな壁
ジローラモは、共和国の海洋法により一度共和国籍となった船は他国へ譲渡できないと説明した。この制約により、涼は未登録の造船中の船のみを対象に交渉を進める必要があることを理解した。涼は特務庁を訪れ、法律の詳細を調査したが、抜け道は見つからず、状況はさらに厳しいものとなった。
新たな手段の模索
船の調達が極めて難しい状況であることを再認識した涼は、元首公邸上層部との面会を宿の受付に依頼し、一縷の望みを託すことにした。同時に、諜報特務庁の協力を得て新たな方策を模索し、交渉を続ける決意を固めていた。
船調達の困難と解決への道
元首コルンバーノとの面会
涼は一流宿『ドージェ・ピエトロ』の手配で、元首コルンバーノとの面会を実現した。元首は涼の目的を既に把握しており、長距離航行可能な船が必要であること、そして共和国政府が発注した船が唯一の候補であることを確認した。しかし、政府の船を譲渡することは不可能であると告げられた。
戦闘艦と建造中止のクリッパー船
涼はフランツォーニ海運商会のジローラモ会長と再会し、建造中の船を見学する機会を得た。まず案内されたのは戦闘艦で、その威容に涼は感嘆した。しかし、その次に案内された第一造船所では、建造が中断されたクリッパー船を目にした。その美しい船体と設計に惹かれた涼は、問題の原因である復原性と速度の両立に挑む決意を固めた。
クリッパー船の設計改良
涼は数日にわたり、設計図と錬金術を駆使して問題を解決する方法を模索した。そして、バラスト水の使用とその配置を錬金術で制御するという方法に辿り着いた。この成果をもとに、涼はジローラモ会長にクリッパー船の購入を提案し、設計図と魔法式を商会に引き継ぐ条件で取引が成立した。
船員の確保とゴスロン公国への手配
ジローラモ会長は、船の運航に適した隣国ゴスロン公国の船員を紹介することを提案した。涼はその提案を受け入れ、ゴスロン公国で船の艤装を行い、船員を訓練する計画を立てた。また、公国での手続きに聖印状を活用することも決定した。
進水式と帰路への出発
完成したクリッパー船は『スキーズブラズニル』と名付けられ、進水式が行われた。涼は自身の努力が実を結んだことに満足感を覚えつつも、ナイトレイ王国の船であることを再確認した。その後、宿を引き払い、ゴスロン公国を経由して聖都へと帰路に就いた。『ドージェ・ピエトロ』での滞在は最後まで完璧であり、涼に深い印象を残した。
涼とヴァンパイア公爵の邂逅
謎の麗人との遭遇
涼は『ドージェ・ピエトロ』を後にしようとした際、馬上の麗人と視線を交わした。その女性は、涼の記憶にあるヴァンパイア公爵レアンドラであった。涼の動きに合わせて視線を送り続ける彼女に、涼は無言で馬車に乗り込んだ。しかし、彼女は供の男性と共に追跡を開始し、カフェ『ロワイヤル』まで付いてきた。
カフェでの再会と会話
カフェで対面した二人は、それぞれリンドーのタルトと暗黒コーヒーを注文した。会話は、ヴァンパイアの美食文化や宿『ドージェ・ピエトロ』のケーキの話題から始まった。その後、レアンドラが涼を追った理由を問うと、彼女は「特に理由はなかった」と答え、涼を困惑させた。
マーローマーの異常事態
レアンドラは話を進め、ファンデビー法国の聖都マーローマーで世界が揺らぐほどの異常が起きていると述べた。約十カ月前、その揺らぎが多くのヴァンパイアを目覚めさせたという。具体的な原因は不明だが、西方教会が関わっている可能性が高いと語った。
人とヴァンパイアの関係性
レアンドラは、人間を憎んでいるわけではなく、反抗的な家畜として認識していると語った。その言葉に涼は反発したが、ヴァンパイアにも人間に情を移す者がいるという事実を知り、驚きを隠せなかった。レアンドラは、ヴァンパイアが平和を望む一方で、人間との対立は避けられないと説明した。
リンドーのタルトで友好を深める
会話の最後に涼は、もう一度リンドーのタルトを頼み、友好を深めることを提案した。レアンドラも賛同し、二人は再びタルトを楽しんだ。美味しい食事が種族の壁を超えた平和の象徴になると確信した涼は、食事を通じた平和構築の可能性を強く感じた。
食事と平和への結論
最後に涼は、世界中の人々を満腹にすることで戦争を回避できるという極論を述べた。食事を通じた平和という涼の考えは、アベルに驚きつつも肯定され、二人は食べ物の偉大さについて共感し合った。こうして、種族間の対話と食事を通じて、平和の可能性が示されたのであった。
ゴスロン公国での船籍手続きと新たな脅威
ゴスロン公国での歓迎と手続き
涼はゴスロン公国に到着し、国境で聖印状とロンド公爵のプレートを提示したことで、迎えに出たのは公太子ジェネジオであった。公太子は父であるゴスロン公が不在のため名代を務め、涼を政庁へ案内した。スキーズブラズニル号の船籍手続きや船員の契約に関する手配は既に進んでおり、涼は確認と署名のみで事を済ませた。最終的に船籍はナイトレイ王国名義となり、維持管理費として百億フロリンをゴスロン公国に預けた。全ての手続きが一日で完了し、書類は四部作成され、各所へ送られる手配が整った。
スキーズブラズニル号の特性と期待
涼は設計者としてスキーズブラズニル号の特性と注意点を説明しながら、その美しい外観に改めて感銘を受けた。クリッパー船としての優美さと性能に、船員の習熟が必要であることを理解しつつ、いつか乗船することを夢見ていた。
襲撃者の出現
翌日、聖都マーローマーに向かう途中、涼の馬車は突然の襲撃を受けた。襲撃者は教皇直属の「四司教」のうち三人で、涼の行動を「教会への害」と断じて排除を試みた。その理由として、涼が共和国から船を購入し、多額の資金を渡したことが挙げられた。
魔法無効化と接近戦
襲撃の中で涼は、敵が「魔法無効化」を引き起こす道具を持っていることに気付いた。魔法使いとして不利な状況に陥りながらも、中央諸国で鍛えた接近戦の技術で対抗した。涼は巧みに敵二人を制しつつ、三人目のアベラルド司教が苦痛の表情を見せることから、魔法無効化の原因が彼にあると推測した。
魔法無効化道具の奪取と襲撃者の撤退
涼は巧妙に立ち回り、アベラルドが持つ円筒形の錬金道具を奪取した。司教たちはアベラルドを連れ撤退し、涼は追撃せず道具の確認を優先した。この道具が魔法無効化の原因と見られ、涼は分析をケネスに任せることを決めた。
馬車破壊と再出発への準備
襲撃により馬車が破壊され、御者も気絶していたため、涼は大きくため息をつきつつ状況を立て直そうとした。困難な状況にもかかわらず、魔法無効化道具の入手に満足しつつ次の行動を模索していた。
最凶の悪魔
西ダンジョン攻略と分断された戦士たち
再びダンジョン攻略へ
涼が共和国へ向かった数日後、『十号室』と『十一号室』の六人は西ダンジョン攻略を再開した。団長ヒュー・マクグラスの命令で聖都を離れたが、それが異端審問庁の干渉を避けるためであることを薄々理解していた。六人は、西ダンジョンの街にある最上級の宿『聖都吟遊』を拠点に、百一層以下の未踏領域を目指した。
未踏領域への挑戦
百層を突破した彼らは、これまで以上に広大で情報が乏しい百一層以下へと進んだ。パーティーは剣士や神官で構成されており、遠距離攻撃や魔法使い、斥候がいないという課題を抱えていた。しかし、罠感知に優れたアモンとジークの力を借り、着実に進行した。
転移罠による分断
百二十層に到達した瞬間、転移罠が発動し、六人は二組に分断された。ニルスたちは毒矢と大量のゴブリンの襲撃に苦しみ、魔法無効空間の影響で神官の回復魔法が使えない中、ポーションだけでゴワンの命を繋いだ。一方、アモンとジークは冷静に状況を分析し、合流を目指して行動した。
救援と合流
ゴブリンの増援によりニルスたちは追い詰められていたが、アモンとジークが間一髪で駆けつけ、圧倒的な殲滅力で窮地を脱した。六人は再び合流し、罠を避けながら慎重に進行。途中でオーガとも遭遇したが、斥候役の活躍により大きな被害を出さずに突破した。
百二十層の攻略完了と新たな問題
ようやく百二十層を攻略し、魔法無効空間を脱した後、ゴワンは回復魔法によって全快した。しかし、エトの弩矢が尽きてしまい、次の行動として聖都に戻る決断を下した。ヒューの命令を一部破る形となるが、六人はそれが持つ重大な意味には気づいていなかった。後に、ヒューの言葉の真意が問われることとなるのは明白であった。
聖都西ダンジョン攻略と予期せぬ転移
再び挑む西ダンジョン
涼が共和国に向かった数日後、『十号室』と『十一号室』の六人は再び聖都西ダンジョン攻略に乗り出した。団長ヒューの命令により聖都を離れ、西ダンジョンの街に滞在することとなった。彼らは定宿『聖都吟遊』に滞在し、百一層以下の未知の領域を目指して進行した。
パーティーの課題と進行
六人のパーティーは、剣士三人、双剣士一人、神官二人という構成で、魔法使いや遠距離攻撃の不足、斥候の欠如が懸念されていた。しかし、罠感知に優れたアモンとジークの活躍で、初期の攻略は順調に進んだ。これまで百層のボスを倒してきた実績から、彼らのダンジョン攻略は街中で話題となり、百一層以下に挑戦するわずか八組の一つに数えられた。
百二十層での転移罠
百二十層に足を踏み入れた瞬間、転移罠が発動し、六人は二組に分断された。アモンとジークの二人は冷静に行動し、合流を目指して進行。一方、ニルス、ハロルド、エト、ゴワンの四人は、魔法無効空間の中で毒矢や大量のゴブリンの襲撃を受け、危機的状況に陥った。ポーションが尽きる寸前、アモンとジークが駆けつけたことで事態は好転した。
再会と攻略の続行
アモンとジークの圧倒的な殲滅力により、六人は再び合流した。魔法無効空間を脱した後、エトの回復魔法によってゴワンの傷が癒され、百二十層の攻略を完了した。しかし、戦闘の中でエトの連射式弩の矢が尽きたため、翌日聖都へ戻ることを決断した。
決断の背景にある真意
彼らはヒューから「街を出るな」と命じられていたが、その理由を十分に理解していなかった。涼が共和国に向かう途中で西ダンジョンに立ち寄った意味と共に、この判断の重大さが後に明らかになることとなった。
悪魔との戦闘とその真相
悪魔の出現と戦いの始まり
『十号室』と『十一号室』の一行が聖都西ダンジョンの中間地点に差し掛かった際、突如世界が反転し、黒神官服の男――悪魔が姿を現した。彼は「堕天の広まり」を怠った責任を問うと告げ、一行を転移させた。圧倒的な力を見せつける悪魔に対し、ニルスやジークらが挑んだが、悪魔の〈障壁〉や石柱による攻撃の前に苦戦を強いられた。
悪魔との戦闘の激化
エトの〈エリアヒール〉による回復を頼りに、ニルスたちは悪魔に反撃を試みた。しかし悪魔は、自らの六本腕による剣戟で圧倒し、涼らを追い詰めていった。その戦いの中で、涼は独自の技術や戦術を駆使して応戦したが、悪魔の圧倒的な剣技と膂力の前に苦戦が続いた。
魔人マーリンの参戦
戦いの途中、赤い魔人マーリンが突如現れ、悪魔との戦闘に加わった。マーリンと悪魔の一騎打ちは壮絶を極め、互いの魔法が激しくぶつかり合ったが決着はつかず、マーリンの魔力が尽きかける中、再び涼が立ち上がった。
涼と悪魔の死闘
涼は、自らの剣術と守りの技を駆使し、悪魔との戦闘を繰り広げた。片腕を失いながらも、悪魔の六本腕による猛攻を受け流し、最終的には剣技で悪魔の首を斬り落とすことに成功した。しかし、悪魔は死なず、再び姿を現して次回の戦いを予告した。
悪魔から明かされる真相
戦闘後、悪魔――ジャン・ジャック・ラモン・ドゥースは一行に「神のかけら」という存在について語った。神から離れた「存在」が消え去ることを避けるために、この「神のかけら」を欲すること、人間の「神のかけら」の純度が高いこと、そしてそれが異常な存在や土地の変化を引き起こすことを説明した。
別れと残された課題
悪魔は「堕天を知る者」への干渉を控えることを告げ、涼や一行にこれからの行動を委ねる形で姿を消した。一方で、エトや涼は、教皇やその背後にある存在の関与を含む謎を改めて考えることを余儀なくされた。戦いの後、彼らにはさらなる危機が待ち受けていることが暗示された。
マーリンとの会話と悪魔の真相
エトによる涼の治療
エトはマジックポーションを飲み、〈エクストラヒール〉を唱えて涼の失った左腕と脇腹の傷を治療した。回復を終えた涼は、時間を稼いでくれたマーリンに礼を述べた。マーリンは、悪魔が聖都と西ダンジョンの間に現れる理由について説明した。聖都には悪魔が近づけない要因があり、また、レオノールが涼に手を出すことを禁じている可能性があると推測された。
悪魔ジャン・ジャックの目的
涼とジークの会話から、使節団が招集された理由が「神のかけら」を集めるためであると明らかになった。人間の持つ「神のかけら」の純度が高く、バランスを崩さない範囲で外部から人間を集めて利用する計画が推測された。一方、魔王の血が保管庫から失われた謎や、中央諸国と法国との交渉の目的については未解決のままであった。
マーリンの眠りと魔王軍
マーリンはスペルノと呼ばれる種族であり、長期間眠らないと力が著しく低下するという特性を説明した。また、魔王の因子が持つ制約や呪いが、多くの魔物を魔王軍に従わせる理由であることも語られた。マーリンは、魔王軍が暴走しすぎないよう監視し、バランスを保つ役割を担っていたと明かした。
聖都への到着と今後の展望
一行は聖都に到着し、教皇就任式までの準備を進める決意を固めた。涼は悪魔との戦いで左腕を失っていたが、戦闘続行の手段について軽い調子で話した。その一方で、空中戦などの完全三次元戦闘の可能性を示唆し、仲間たちを驚かせた。
涼とアベルの会話
国王アベルとの会話で、涼は戦闘中にゾーンのような状態に入ったことを振り返った。無我の境地に達した体験を理想として、自らの成長目標を語った。また、アベルは涼と悪魔ジャン・ジャックとの戦闘速度の速さに驚き、セーラの風装との比較を避けることを心に誓った。
セーラとおババ様の対話
西の森では、セーラがおババ様を迎え、リョウへの思いを口にした。セーラは訓練場で多くのエルフを鍛えながら、西方諸国でのリョウの活動を見守っていた。彼女はリョウへの信頼を語る一方、再会を心待ちにしていた。おババ様はそんなセーラの熱意に呆れつつも、その献身に一定の理解を示していた。
エピローグ
ミカエル(仮名)の葛藤と観察
世界の管理と判断の迷い
白い世界で、ミカエル(仮名)は複数の世界の管理を行っていた。手元の石板を操作しながら、彼は自身の判断について悩んでいた。「介入を見送った判断が正しかったのか」と自問しつつ、西方諸国がこちら側に繋がる危険性に懸念を抱いていた。
三原涼の心の観察
石板をさらに操作する中で、ミカエル(仮名)は三原涼の心に目を留めた。「人の心は決して強くない」と呟きながら、その内面を見つめ、静かに思索を続けていた。
同シリーズ












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