どんな本?
本作は、最強の水魔法使いである涼が繰り広げる冒険譚の第二部である。王国解放戦から3年後、筆頭公爵となった涼は、王都とロンドの森を行き来しながら錬金術や農業に勤しむ日々を送っていた。しかし、遠く西方諸国へ向かう外交使節団に加わることとなり、かつての敵であった帝国の先代皇帝・ルパート6世と再会する。旅の途中で遭遇する数々の事件や謎に立ち向かいながら、涼は使節団を守り抜くため奮闘する。
主要キャラクター
- 涼:最強の水魔法使いであり、筆頭公爵。錬金術や農業を嗜む自由奔放な性格。
- アベル:王国の国王であり、涼の友人。多忙な日々を送る中、涼との友情を大切にしている。
- ルパート6世:帝国の先代皇帝。涼とは過去に敵対したが、現在は共に旅をする仲間となる。
物語の特徴
本作は、前作から3年後の世界を舞台に、涼の新たな冒険と人間関係の深化が描かれている。かつての敵との共闘や、西方諸国での未知なる脅威との対峙など、スリリングな展開が魅力である。また、涼とアベルの遠距離での掛け合いも健在であり、ユーモラスなやり取りが物語に彩りを添えている。
出版情報
• 出版社:TOブックス
• 書籍版発売日:2024年1月15日
•ISBN:9784867940501
• コミカライズ:墨天業による漫画版が『comicコロナ』にて2021年9月より連載中
• アニメ化:2025年7月よりテレビアニメ放送予定
読んだ本のタイトル
水属性の魔法使い第二部 西方諸国編2
著者:久宝忠 氏
イラスト:めばる 氏
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あらすじ・内容
長い旅路の末、使節団はついにファンデビー法国の聖都・マーローマーに到着した。最高級の宿に泊まってひたすら西方諸国グルメを堪能……するはずが、筆頭公爵である涼のもとには次々と仕事がやってくる。魔王の血を手に入れるために東奔西走したり、マファルダ共和国へ親書を持っていくことになったりと大忙し! ようやく仕事を終えて一息つけるかと思いきや、今度は西方最強のゴーレム兵団・ホーリーナイツが突然共和国へ侵攻。しかも涼を狙う暗殺者までもが送り込まれてきて……? 王国筆頭公爵の暗殺未遂は重大な国際問題……という建前を手に入れた涼がすることはただ一つ! 「最強のゴーレムは氷漬けにしてお持ち帰りです!」 西方諸国に渦巻く策謀を飄々と駆け抜けていく、最強水魔法使いの気ままな冒険譚!
感想
主な出来事は以下の通り。
魔人虫の脅威と対策
ハンダルー諸国連合では、魔人虫の出現が報告された。オーブリー卿は、連合西部での調査を決定し、第三独立部隊を派遣した。魔人虫に関する情報は、連合内の魔法使いアッサー導師が北方の伝承師から学んだ知識をもとに特定されたものであった。
空の民との非公式会談
ナイトレイ王国では、空の民「ロマネスクの民」との非公式会談が進められた。会談の警備はワルキューレ騎士団が担当し、王妃や王子も参加する大規模な会談となった。ロマネスクの民の戦争決定を受け、ナイトレイ側は力を示しつつ交渉を進める方針を採った。
ダンジョン探索とマーリン
涼と仲間たちは西ダンジョンの探索を進め、魔王の血を求める旅を続けた。探索中に遭遇した魔人マーリンは、魔王の行方や霊呪の解呪についての重要な手がかりを示し、涼たちの行動に大きな影響を与えた。
マファルダ共和国と連合王国の戦争
涼は親書を届けるためにマファルダ共和国を訪問した。連合王国の侵攻が始まり、共和国は存亡の危機に直面していた。涼は特務庁の協力を得ながらゴーレム兵団の修理に貢献し、法国のホーリーナイツとの戦闘では圧倒的な成果を収めた。
エルフの森での戦い
法国の暗殺部隊「ジューダスリモース」がエルフの森を襲撃する中、涼は「赤の魔王」としてエルフたちを救援した。エスメラルダやエルフの戦士たちとの協力により、ジューダスリモースの壊滅に成功し、森の平和を守ることができた。
次なる展開へ
ミカエルは、涼が教皇庁や魔王探索に深く関わりながらも、次々と困難を乗り越えていく様子を観察していた。涼の波乱に満ちた旅路は、さらなる挑戦と成長を予感させるものであった。
総括
涼の存在感が抜群であった。
一騎当千どころか、彼がいるだけで場の空気が安心感に包まれる。
特に、ケーキとコーヒーで簡単に幸せになれる性格が物語にユーモアを添えていた。
絶賛勉強中の錬金術やゴーレムへの情熱が伝わり、その技術を吸収し成長する様子が面白い。
ダンジョン探索や「赤の魔王」(笑)としての活躍は、スリル満点であった。
さらに、空の民との会談や魔王探索など、ストーリーには複雑な陰謀や強敵が次々と登場し。
涼の錬金術と魔法が進化し続ける展開は、ロマンを感じさせた。
一方で、転生前の性格が垣間見える場面では、少し厄介な一面が見られるのも魅力の一部であった。
次回作では、ついにアベル王が現場での活躍を見せるという。
久々に行動する王様となったアベルの姿がどう描かれるか、期待したい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ
魔人虫の脅威と対策
魔人虫の報告と連合執政の懸念
ハンダルー諸国連合の首都ジェイクレアにて、オーブリー卿は魔人虫に関する報告書を受け取った。その内容は、連合西部で発見された魔人虫がすでに終息しているというものだった。ランバー補佐官とともにこの状況を精査し、情報収集の経緯についてオドアケル将軍から説明を受けた。
アッサー導師と魔人虫の知識
報告書には、連合の魔法使いアッサー導師の見解が記されていた。アッサー導師は、かつて北方の伝承師ルーク・ロシュコー男爵から魔人虫に関する知識を得ており、それが今回の特定に繋がった。オーブリー卿はロシュコー男爵の死を惜しみながらも、この情報の重要性を認識した。
情報の欠如と調査の提案
魔人虫に関する初期報告が連合執政まで届いていなかった事実が明らかとなった。オーブリー卿は、情報管理の課題を反省しつつ、オドアケル将軍の提案を受け入れ、連合西部のジマリーノでの直接調査を許可した。また、調査には第三独立部隊を同行させる決定を下した。
ナイトレイ王国の反応
魔人虫の余波に対する警戒
ナイトレイ王国では、国王アベルが連合からの魔人虫に関する情報を受け取った。この問題は、過去に王国南部コナ村で封印された魔人の復活を連想させ、アベルとハインライン侯爵はその関連性を懸念した。
魔石異常と王国の課題
連合西部で観測された魔石の異常についての報告も届いており、王国東部でも同様の問題が発生する可能性が指摘された。王国解放戦以降、東部地域の復興が進まない状況が続いており、この問題の対応がさらに困難を伴うことが予想された。
空の民との接触
三年ぶりの接触と会談準備
空の民「ロマネスクの民」から非公式会談の提案が届き、アベルはその重要性を認識した。空と地上の全面戦争を回避するため、王都での会談準備が進められることとなった。
情報統制と護衛計画
ハインライン侯爵は、情報漏洩を防ぐため、王国騎士団による演習で間諜の目を引きつけつつ、護衛にはワルキューレ騎士団を配備する案を提案した。アベルはこの計画を受け入れ、会談の成功に向けた準備が進められることとなった。
会談
ワルキューレ騎士団と王国復興の課題
王都中央演習場とシルバーデール騎士団
解放戦後に新設された王都中央演習場にて、シルバーデール騎士団の演習が行われていた。この演習を視察したワルキューレ騎士団の団長イモージェンと副団長カミラは、シルバーデール騎士団の統率力と指揮を称賛した。特に、団長フェイスの若さと卓越した能力に感銘を受けた。
ワルキューレ騎士団の創設と目的
ワルキューレ騎士団は、王妃直属の女性騎士団として三年前に設立された。団員は冒険者出身者を中心に、騎士や魔法使い、斥候、救護担当で構成されている。その目的は、独立して作戦行動を可能にし、王国復興の柱となることにあった。伝統を重んじる王国騎士団とも協調し、国の発展に寄与する役割を果たしていた。
ルン辺境伯領での模擬戦
ワルキューレ騎士団の一部が、王国南部のルン辺境伯領で模擬戦と討伐訓練を実施した。ルン騎士団との模擬戦では、その圧倒的な戦力差に驚かされた。ネヴィル団長の説明によれば、彼らはかつての伝説的剣士によって鍛えられたため、極めて高い戦闘能力を有していると判明した。イモージェンらは、この経験を糧に更なる成長を目指すことを決意した。
空の民との極秘会談計画
会談警備の要請
イモージェンは、国王アベルと宰相ハインラインから、空の民「ロマネスクの民」との極秘会談の警備を命じられた。情報開示は隊長たちに限られ、迅速な準備が求められた。彼女は副団長カミラや他の隊長たちと協議し、計画を練り直した。
会談場所の選定とお茶会の提案
ミューの提案により、ウエストウイング侯爵家の第二侯爵邸が会談場所に選ばれた。また、王妃と王子を招いた「ワルキューレ騎士団のお茶会」を同時開催することで、大規模な動員を隠す計画が立案された。第二近衛連隊が護衛を担当し、ワルキューレ騎士団が補助する形で進められることとなった。
訓練と準備の重要性
ミューの指摘により、ワルキューレ騎士団の王室儀礼に関する知識不足も課題として浮上した。王妃や王子を迎える機会を活用し、騎士団全体の訓練を兼ねた準備が進められることとなった。全員の協力の下、会談警備計画は具体化し始めた。
五人の隊長たちの結束と工夫により、ワルキューレ騎士団は重要任務を着実に進めていくのだった。
王都衛兵隊と近衛連隊の協力
警備計画の調整
アベル王は、リーヒャ王妃とノア王子が出席するお茶会の警備について、第二近衛連隊長エマニュエル・ソークと王都衛兵隊長レックスに指示を行った。ワルキューレ騎士団が警備を担当するウエストウイング第二侯爵邸までの移動経路について、王都衛兵隊が軽度な警戒を行うことが決定された。
過去の密偵の行方
三年前に捕らえられた密偵ナンシーについて、エマニュエルが言及した。彼女は現在、ホープ侯爵の次男である外務省職員イグニス・ハグリットを補佐しているという。イグニスは優れた外交官であり、トワイライトランドへの使節団に同行していた。
会談当日の王都の様子
王国騎士団の出陣式
王国騎士団の大規模演習に伴い、アベル王が出陣式を見送る姿を見ようと多くの王都民が集まった。出陣式は王国騎士団の復活を象徴するものであり、王都民の歓声を受けて騎士団が出陣した。
王妃と王子の移動
リーヒャ王妃とノア王子は第二近衛連隊の護衛を伴い、ウエストウイング第二侯爵邸に向かった。アベル王とハインライン侯爵も護衛に紛れ込み、警備体制を確認しながら移動した。
ロマネスクの民との会談
開戦決定の報告
ウエストウイング第二侯爵邸で行われた会談には、ロマネスクの民の代表としてゾラ司令官とリウィア副司令官が出席した。彼らは、ロマネスクの民の上層部が地上との戦争を決定したことを伝えた。戦争の目的は「力を示すため」という非合理的な理由であり、アベル王はその無意味さに憤りを覚えた。
戦争回避の難しさ
ゾラとリウィア自身は戦争に反対の立場でありながら、上層部の決定に従わざるを得ない状況であることを説明した。アベルとハインライン侯は、戦争を避けるためには力を示して交渉に持ち込む以外に方法がないと結論づけた。
涼との会話と戦略
対ゴーレム戦の懸念
アベル王は『魂の響』を通じて涼に会談内容を伝えた。涼は戦争におけるゴーレムの脅威を指摘しつつも、自信を持った対応を提案した。その一方で、涼独特のユーモアにより、重苦しい空気が和らいだ。
最後の一言
涼は、サントゥアリオとの戦争に向けた準備を進める中で、自らの「ケーキ特権」を理由に生還を誓い、アベルとの会話を終えた。アベルは涼の無事を祈りつつ、王としての責務に立ち向かう決意を新たにした。
聖都マーローマー
ヴァルペガラへの到着と平穏な船旅
王国使節団は、西方諸国の中心地であるファンデビー法国北部の国境街ヴァルペガラに到着した。四日間の船旅は平穏であり、剣士アモンは剣術訓練ができたと満足し、神官エトは護衛任務が軽く済んだことを喜んでいた。一方で、涼は分解されたキューシー公国製のゴーレム部品を持参し、その処分方法を模索していた。
ゴーレムの処分方法と水プラズマの試行
涼は水属性魔法を用いてゴーレム部品を処理しようと試みた。水プラズマを生み出す計画を立てたが、実現には至らなかった。その代わりに、テッポウエビが発生させる水中プラズマを応用し、水中で高温を生み出して金属を溶かす手法を実行した。何度も試行を重ね、ついに部品を完全に消失させることに成功した。
帝国と連合の使節団との再会
ヴァルペガラでは先に到着していた帝国と連合の使節団が、王国使節団の無事を表面上は祝福した。三大国の緊張関係は隠せず、各陣営は互いを警戒しながらも、翌朝にはファンデビー法国の聖都へ向け出立する準備を整えた。
深夜の訪問者と手紙の内容
深夜、団長ヒュー・マクグラスの部屋に忍び込んだのは、かつて勇者パーティーの斥候であったモーリスであった。彼女は聖職者グラハムからの手紙を持参し、ヴァンパイアが多数目覚めている現状と、使節団が監視下に置かれている事実を伝えた。グラハムは西方教会の高位聖職者であり、異端審問庁長官としての影響力を持つ人物であった。
ヴァンパイアの脅威と行方不明の勇者
手紙の内容から、ヴァンパイアによるキューシー公国襲撃が一般には知らされていないことが明らかになった。さらに、勇者パーティーのリーダーであったローマンが行方不明であることがモーリスによって告げられ、ヒューは深い懸念を抱くこととなった。
次の旅程と不安
使節団は翌朝、ファンデビー法国聖都マーローマーを目指して出発する予定であった。だが、ヴァンパイアの動向や西方教会内部の不穏な状況が、使節団の今後の旅路に影を落とす兆しとなっていた。
ヒューと涼の会話
宿舎での朝食後、ヒューは涼を呼び出し、使節団が法国に監視されている事実を伝えた。ヒューは涼に、監視者たちには手を出さないよう注意したが、涼は穏やかな表情で了承した。しかし、涼が前夜にアベルとの通信で先制攻撃を計画していたことは、ヒューの知らない事実であった。アベルの説得により攻撃は未遂に終わったが、監視者たちの存在は依然として続いていた。
ダンジョンへの興味と北門への到着
使節団はヴァルペガラを発ち、聖都マーローマーへ向かう途中で北ダンジョンの存在を耳にした。涼はダンジョンへの興味を示し、エトが提供する『旅のしおり』の情報に大きく反応した。ダンジョンの転送機能や深さに驚きつつ、涼は登山家のようにダンジョンに挑む意欲を見せたが、ニルスはその情熱を冷静に受け流した。その後、使節団は無事に聖都マーローマー北門に到着し、ゴーレムが守る巨大な門を目にした。
教皇庁での歓迎式典
聖都に入った使節団は、教皇庁での歓迎式典に出席した。涼は式典中、教皇から「中身が空っぽ」という奇妙な違和感を感じたが、それが何であるか明確に説明できなかった。他の冒険者たちは涼の発言に疑問を抱いたが、結局その謎は解けないまま式典は終了した。使節団は教皇庁近くの宿に案内され、ひとまず落ち着くことができた。
先王ロベルト・ピルロの疑念
連合使節団団長ロベルト・ピルロは、歓迎式典の教皇が替え玉ではないかと疑念を抱いていた。彼は魔法使いとしての鋭い感覚から、教皇に魔法の気配が全く感じられない点に違和感を覚えた。涼のように魔法を抑える例外もあると考えたが、それでも教皇が西方教会の頂点として相応しい存在には思えなかった。ロベルト・ピルロは、この違和感の答えが教皇就任式までに明らかになることを期待していた。
文官会議と貿易交渉の提案
使節団到着翌日、文官会議が開始された。法国の提案は、中央諸国と西方諸国を海路で結ぶ貿易交渉であった。しかし、正確な海路や距離は不明であり、海の魔物の脅威も存在していた。この提案に、王国交渉官イグニスをはじめ、中央諸国の文官たちは頭を抱えた。一方、護衛冒険者たちは自由時間を得てそれぞれの行動に移った。
涼のゴーレム見学申請
護衛冒険者の涼は、歓迎班を訪れ、聖都のゴーレムを見学する許可を求めた。驚きをもって受け止められたが、彼の申請は話し合いの末に許可された。涼は小さくガッツポーズを繰り返しながら喜びを表した。涼以外の『十号室』と『十一号室』の冒険者たちは街へ出かけるかと思われたが、『十一号室』の三人はハロルドの霊呪問題が未解決であるため宿に留まった。
枢機卿オスキャルとの交渉
翌朝、団長ヒューと『十一号室』の三人は教皇庁で枢機卿オスキャルと面会した。ハロルドの霊呪を解くには魔王の血が必要であったが、第一保管庫が襲撃され血が失われていた。第二保管庫に予備があるとされ、三日後に届けられる予定であったため、ハロルドは希望を抱いて待つことになった。
魔王の血の喪失
三日後、魔王の血の到着を待つ中、第二保管庫も襲撃され、血が失われたことが判明した。さらに、第三保管庫や第四保管庫も同様に襲撃され、教会側は対応に追われていた。他に魔王の血を保管している場所がないことから、霊呪の解呪が不可能となり、ハロルドを含め他の被害者たちも困難な状況に直面した。
魔王探索の命令
ヒューは冒険者たちに魔王を直接見つけ出し、血を採取する任務を命じた。その無茶な命令に、涼をはじめ七人全員が驚愕し、言葉を失ったが、任務遂行のため新たな行動を開始する必要に迫られた。
魔王探索
魔王の存在と勇者の役割
魔王の誕生や存在について、人類の理解は乏しい。魔王は西方や中央、さらには東方諸国にも現れると言われ、勇者のみが討伐可能な存在である。三年前に勇者ローマンが魔王を討ったとの記録があり、その後の魔王の状況については定かではなかった。
魔王探索への準備と課題
ヒューは教皇庁で七人の冒険者に発行される「聖印状」を確保した。この証明書により、西方諸国内での行動が容易となったが、魔王探索の困難さは依然として高かった。加えて、教会や法国からの援助は期待できず、場合によっては敵対関係に陥る可能性も指摘された。
探索開始と冒険者たちの意気込み
七人はラシャー東王国の大司教グラハムのもとを訪ねるべく旅立つ準備を整えた。馬車を用いた移動で、資金面の補助も使節団から受けられる状況であった。旅の第一目的地では、魔王や勇者ローマンに関する情報収集が期待されていた。
ナイトレイ王国での国王の憂慮
中央諸国では、ナイトレイ王国の国王アベルが涼たちの動向を把握していた。彼は使節団を離脱した彼らの行動を見守りつつ、東部の統治問題にも直面していた。若き貴族アーウィンの要望に応じ、領地統治の学びのため彼を東部に戻すことを決定した。
東部での動きと旧知の縁
ウイングストンには、演習中のシルバーデール騎士団が滞在していた。次期公爵フェイスは、アーウィンの帰還の報を受け、驚きつつも特段の行動は取らなかった。過去に婚約の話があった二人であったが、現在の立場では再び接点を持つことはないと考えられていた。
教皇庁での緊張と動き
聖印状の発行に驚いた教皇庁内では、魔王の血を確保するための計画が進められていた。教皇庁はテンプル騎士団を派遣し、魔王と勇者の探索を進めていたが、進展はまだ見られなかった。魔王の血が無ければ対応できない状況に直面し、緋色の祭服を纏った人物は聖都を離れて行動を開始する旨を伝えた。
バチルタ到着と教会訪問
探索一行はラシャー東王国の王都バチルタに到着し、宿泊施設を探す前にバチルタ教会を訪れた。教会の壮大な建築に涼は冗談を交えたが、他の者たちは静かに進んだ。エトが教会の開祖像について説明すると、聖職者が現れ、一行を司教館へ案内した。
グラハムとの再会と魔王探索の困難
司教館で一行は大司教グラハムと再会した。グラハムは魔王の所在を知らないと述べたが、前回の魔王討伐の経緯を地図を用いて説明すると約束した。また、ハロルドの破裂の霊呪を確認した際、一行全員に汚れが付着していると指摘し、聖煙による清浄を行った。その後、魔王探索の手がかりとして携帯用の地図が提供された。
教会周辺での監視と一行の反応
教会を出た一行は、自分たちを監視する者がいることに気付いた。監視者たちは行動を起こさず、一行も警戒を続けながらバチルタの街に戻った。涼は監視者よりもリンドー焼き屋に関心を示し、他の者たちは苦笑した。
グラハムとテンプル騎士団の対峙
一行が去った後、司教館にテンプル騎士団の三人が現れ、冒険者に提供した情報を開示するよう高圧的に迫った。グラハムはこれを拒否し、瞬時に二人を無力化し、残る一人を剣で制圧した。彼は騎士団の背後にいる枢機卿サカリアスの名を引き出し、その動向に興味を示した。
グラハムの脅威と冷静な対応
グラハムは騎士団の最後の虚勢を静かに否定し、彼らがサカリアスの私兵であることを指摘した。その後、記憶の書き換えを行うことを宣言し、騎士団の男たちを震え上がらせた。異端審問庁長官としての彼の過去を思い出させる冷静な対応であった。
魔王山地
魔王探索の課題と計画
魔王を探索する手がかりは少なく、一行は魔王軍の元幹部たちが統治する領地を訪れるしかない状況であった。しかし、これらの領地が人間によるものではないことにエトは懸念を示し、涼は冗談めかして拷問の可能性を提案したが、アモンの冷静な指摘に一同が驚いた。
オンゲ教会と魔王山地への準備
一行はアリエプローグ北方国の街オンゲに到着し、馬車と荷物をオンゲ教会に預け、徒歩で魔王山地へ向かう準備を整えた。涼は魔法で馬車を氷漬けにし、その安全を確保した。魔王山地に近づくと、険しい地形と魔物たちの多様性が一行を迎えたが、涼の水属性魔法の活躍で順調に進んだ。
赤い熊との遭遇と攻防
魔王山地で一行は火属性魔法を使う赤い熊に襲撃された。涼の〈アイスウォール〉により火の玉を防ぎつつ、ニルスとアモンが連携して熊と対峙した。赤熊は一行を警戒しつつも、最終的に撤退した。この熊の存在により、一行は魔王山地に潜むさらなる脅威の可能性を認識した。
ケンタウロスの群れとの出会い
山地を越えた一行はケンタウロスの群れと遭遇した。ケンタウロスたちは魔王軍の一部でありながらも知恵を持ち、対話が可能であるとエトが説明した。一行はケンタウロスの「闘いの祭」に挑むことで、魔王の情報を得ることを決意した。
ニルスとケイローンの一騎打ち
「闘いの祭」において、一行を代表してニルスがケンタウロスの戦士ケイローンと対峙した。槍と剣で激しい攻防が繰り広げられ、ニルスは圧倒的なスタミナと冷静な判断力で優位に立った。最終的にニルスはケイローンを追い詰め、審判の声で勝利が宣言された。この勝利により、一行はケンタウロスたちの信頼を得ることに成功した。
ケンタウロスの宴と敗北の意義
ケンタウロスの集落で歓迎の宴が開かれ、ニルスは中心に座り、次々と酒を勧められた。戦ったケイローンも現れ、希少な酒を差し出しながら「敗北は恥ではない」と語り、一行はその哲学に敬意を抱いた。族長ケンロウトルは、魔王の所在は分からないとしつつ、「魔王の因子」の影響で軍が起きた場合、従わざるを得ないことを明かした。
魔王に関する新たな知識
ケンロウトルは、魔王が軍を起こさない限り人間との敵対はないと述べたが、魔王の正体については「魔王子の進化だけでなく、生まれながらの魔王も存在する」と説明した。この情報に涼やジークは驚き、中央諸国の知識の偏りを実感した。一方、魔王の居場所を知る可能性がある存在として、古くから魔王に仕える参謀マーリンの名前が挙げられた。
オンゲへの帰還とテンプル騎士団との遭遇
探索一行は赤熊の襲撃もなくオンゲに戻ったが、馬車の周囲にはテンプル騎士団の姿があった。隊長アンドレ・ド・バシュレは魔王に関する情報の引き渡しを要求したが、エトは即座に拒否した。その後、涼の魔法で騎士たちは滑り続け、状況を理解しないまま、司祭が司教を呼びに行く間、一行は無事に街を出発した。
過去の過ちと謝罪
馬車の中で涼が問題解決を誇らしげに語る一方、ジークが過去の出来事に触れた。かつてハロルドが「カフェ・ド・ショコラ」で傲慢な態度を取ったことを思い出し、彼の非を追及した。ハロルドは小声で過ちを認め、涼から店員への謝罪を提案された。ハロルドは頷き、一行はその成長を評価した。
再び聖都へ戻る一行
涼は重々しく聖都への帰還を宣言したが、ニルスはその態度に呆れた様子を見せた。一行は、団長ヒュー・マクグラスに報告するため、西方教会の本拠地である聖都に戻ることを決めた。教会との対立は避けつつも、聖印状を頼りに再入城を果たした。
ダンジョン探索の決意
宿舎で団長ヒューに報告すると、西方のダンジョン探索の必要性が議論された。ヒューはそのダンジョンの「転移の罠」によるパーティ分断の危険性を指摘したが、一行はリスクを受け入れることを決断した。特にニルスは、選択肢が限られる中で冒険者としての信念を示し、全員がその決意を共有した。
アベルとの会話
涼は「魂の響」を通じてアベルと会話し、ニルスたちが命を懸ける姿勢にアベルが後悔を感じていることを知った。涼は彼らの行動がアベル自身の背中を追い続けてきた結果であると諭し、仲間の絆と冒険者の誇りを強調した。アベルはその言葉に深く考え込んでいた。
ダンジョン攻略
西ダンジョンへの出発と街の宿泊
探索一行はヒューからの補給を受け、西ダンジョンへ向かった。西ダンジョン周辺には巨大な街が広がっており、冒険者や商人で賑わっていた。一行は街一番の高級宿『聖都吟遊』に滞在した。宿代は西方教会が負担し、安全と快適さが保障された。宿の提供した『ダンジョン地図』や装備により、一行の準備は万全となった。
ダンジョン探索の開始
ダンジョン入口で転送機能を持つプレートを受け取り、一行は探索を開始した。最初の十層では鉱石採掘が盛んで、魔物の姿は見られなかった。失望する涼を尻目に、十一層以降の本格的な探索を目指した。一行は宿で得た新たな地図を手に、ダンジョンの深部へ進む決意を固めた。
十一層での遭遇と謎の老人
十一層に進むと、ダンジョンの構造は一変し、不気味な静けさが漂っていた。その中で突如現れた赤いローブの老人が一行に接触した。老人は自身を「ダンジョンの管理人」と名乗り、ハロルドの霊呪や一行の目的を見抜いた。老人の正体が「マーリン」であり、彼が魔人であることが判明した。
マーリンとの会話と次の行動
マーリンは魔王の血の紛失に驚き、一行に「後日また訪れるように」と伝え姿を消した。その後、十一層の終点が現れ、一行は探索を一旦終了した。宿に戻った後、ハロルドはマーリンに再び会い霊呪について尋ねる意志を表明した。ニルスもそれに賛同し、翌日からの探索再開を決定した。
ラウンジでの涼の様子
宿のラウンジで議論が進む中、涼はケーキを楽しんでいた。追加注文を巡るやり取りの中で、ニルスが「ケーキは一日一個」のルールを持ち出したが、特別な事情として追加注文が許された。涼は満足そうにミルフィーユを楽しみつつ、仲間たちの成長を評価しつつ翌日の探索に備えた。
西ダンジョンの本格探索開始
探索一行は、西ダンジョンの四十九層まで順調に進んだ。四十一層以降では、コウモリ系と狼系の魔物が現れ、涼が氷の屋根を生成することで効率的な討伐を実現した。連携の結果、四十九層を無事に攻略し、次の五十層への期待を高めた。
五十層の挑戦と骸骨王の登場
五十層に進んだ一行は、巨大な扉の先に広がる空間で骸骨王と対峙した。その場は魔法無効空間であり、涼とエトの魔法が封じられた。骸骨王は魔法を操りつつ剣を振るい、さらに骸骨騎士を召喚して一行を追い詰めたが、ニルスの指示で役割分担を行い、効率的な戦闘体制を取った。
骸骨王との決戦
アモンは骸骨王と一対一で戦い、その剣技を吸収しながら反撃に転じた。最終的に骸骨王の首を刎ね、討伐に成功した。その瞬間、骸骨騎士たちが全て消滅し、魔法無効空間も解かれた。一行は疲労しつつも勝利を喜び、記録を残して次の階層へ進む準備を整えた。
テンプル騎士団との再会と異常気象
宿へ戻る途中、一行はテンプル騎士団と遭遇した。騎士団の隊長アンドレは一行に魔王の情報を要求したが、エトが毅然と拒否した。すると、突然空から雹が降り注ぎ、騎士団は混乱に陥った。一行は涼の魔法で守られながら、無事に宿に戻った。
次の探索への意気込み
五十層を突破し、さらなる挑戦への準備を進める一行。彼らはマーリンとの再会を目指し、西ダンジョンの更なる深部へと進む決意を固めた。
宿での安全と高級宿の利点
宿『聖都吟遊』は、テンプル騎士団の訪問を丁重に断り、安全を確保していた。宿の主が教会の高位枢機卿と関係があるため、騎士団も強引な行動を取れなかった。翌朝、一行は宿が用意した馬車でダンジョン入口まで送迎され、快適に探索を再開した。
八十層での再会と提案
八十層の攻略を終えた一行の前に、マーリンが現れた。彼は一行の迅速な攻略に驚きつつも、ハロルドの「破裂の霊呪」を解くための協力を約束した。マーリンは、自身の力では霊呪を解けないが、魔王の血を提供する準備を進めるとし、彼らを魔王に引き合わせる手筈を整えた。
マーリンの提案と涼への信頼
マーリンは、魔王側から血を提供する代わりに、教会へ届ける役割を一行に任せると述べた。彼が一行を信じた理由は、涼が妖精王の寵愛を受けているからだという。涼は戸惑いながらも、マーリンの提案を受け入れた。一行は教会の影響を避けるため、慎重に動くことを誓った。
勇者ローマンと魔王ナディアとの遭遇
一週間後、マーリンの転移で魔王の元へ向かった一行は、勇者ローマンに出会った。彼は教会の追跡を避けるため隠れており、そこに現れた魔王ナディアは、驚くべきことに人間であった。マーリンの協力のもと、ナディアはハロルドの霊呪を解き、一行に感謝された。
魔王と勇者の未来
教会の包囲を受けた中、ローマンとナディアはマーリンの提案で中央諸国への移住を考えることになった。涼の提案とナイトレイ王国の受け入れの許可を受け、二人は移住を決意。マーリンの転移によって安全にナイトレイ王国へ向かう手筈が整い、新たな未来へ踏み出したのであった。
魔王の血の確認と解呪の成功
ヒュー・マクグラスがオスキャル枢機卿に魔王の血を渡した。オスキャルは血を確認し、その力で破裂の霊呪にかかった男を解呪する実験を行った。結果は成功であり、枢機卿は深く感謝した。翌日には、テンプル騎士団の極秘命令であった魔王探索命令が取り消された。
モーリスとグラハムの再会
数日後、ラシャー東王国でモーリスと大司教グラハムが再会した。モーリスはヒューから預かった氷製の瓶を渡し、それが魔王の血であると説明した。さらに、リョウからの伝言として、血を使い教会内での地位を高めるように勧めた。グラハムはこれを受けて、自身が来月枢機卿に任命されることを語ったが、教皇庁での責務への重圧を口にした。
教皇庁と西方教会の動向
グラハムは教皇庁の影響で西方諸国全体が不穏な動きを見せていると指摘した。特に教皇イライジャ即位後、教会の活動が活発化していると語り、その背景に何らかの大きな変化があると推測した。また、ローマンとナディアが中央諸国で安全に暮らせることを確認し、いつか西方でも安住できる環境を作るべきだと決意した。
涼とマーリンの対話
涼はマーリンを訪ね、コーヒーを楽しみながら様々な議題を語り合った。マーリンは魔王の役割や魔人の特性について語り、魔人が「スペルノ」と呼ばれていた過去を明かした。また、西方諸国南方にある暗黒大陸についても言及し、その未知の大陸への興味を刺激した。
マーリンの忠告
最後に、マーリンは王国の東に封じられた魔人ガーウィンについて注意を促した。ガーウィンは破壊衝動が強く、多くの兵を操る危険な存在であり、王家にその情報を伝えるよう助言した。涼はこれを受け止め、マーリンの元を後にした。
地下室の呪詛
シュールズベリー公爵家の館地下室で、見た目十三歳の現当主アーウィンが呪詛の声を上げていた。「破裂」が解かれた原因を魔王の血と推測しつつ、彼は自らの復活計画の進行を確認した。さらに、リチャード王の国が滅びる未来を嘲笑し、「将軍」たちの蘇生を語りながら不気味な笑みを浮かべた。
ナディアとローマンの移住決定
ナイトレイ王国王都の国王執務室で、国王アベル一世が勇者ローマンと魔王ナディアを迎えた。二人の移住を歓迎したアベルは、住居の希望を尋ねた。ローマンは農業経験を活かせる場所を希望し、宰相ハインライン侯爵の提案によりルンの街近くの農家に決まった。その家が涼の家の隣であると判明し、驚きつつも二人は納得して受け入れた。
涼のカフェでの出会い
涼はカフェ・ローマーでケーキを楽しみながら、使節団首席交渉官イグニスと偶然出会った。交渉の重圧に苦しむイグニスを見た涼は、アベル国王を通じた相談の可能性を示唆し、少しでも助けになればと提案した。この一言が、イグニスの負担を軽減するきっかけとなった。
使節団での依頼
宿舎に戻った涼は、団長ヒュー・マクグラスから三通の手紙を託された。宛先はマファルダ共和国の魔法使いとエルフたちであり、一通はアベル国王からの親書であった。涼はこの依頼を快諾し、初めて訪れる共和国への旅に期待を抱きながら出発の準備を整えた。
マファルダ共和国
馬車での移動と国境警備
涼はマファルダ共和国への馬車移動中、アベルと「魂の響」を通じて会話を交わしていた。道中、襲撃や事件を期待する涼に対し、アベルが現実的な意見で応じるなど、二人らしいやり取りが続いた。共和国の国境に到着すると、警備が非常に厳しく、涼が提示した聖印状では通過に一週間かかると言われた。しかし、身分プレートを提示したことで状況が一変し、迅速に通過が許可された。
元首の懸念と涼の監視
マファルダ共和国首都の元首公邸では、元首コルンバーノと最高顧問バーリー卿が、涼の入国報告を受けて議論をしていた。ナイトレイ王国の筆頭公爵である涼の行動を奇異に思いつつも、監視をつけることで様子を見る方針を決定した。元首コルンバーノは、戦争の兆しがあるこの時期に涼が現れたことに不安を感じていた。
特別森林区への訪問
涼が入国後、特別森林区と呼ばれるエルフの森に向かったという追加の報告が元首に届いた。元首と顧問は、人間である涼がなぜエルフの森に行くのかを理解できず、事態を懸念した。元首コルンバーノは「殺されなければよいが」と呟きながら、疑念を深めていた。
エルフの森への到着と初対面
涼はエルフの森に到着すると、鬱蒼とした景色と「関係者以外立入禁止」の看板を目にした。王国からの親書を届けるため、自衛のための氷の壁を展開しながら森に入った。しばらく進むと、涼は雷の檻に囲まれる罠にかかり、動きを封じられた。程なくしてエルフの青年たちが現れたが、彼らの疑念を晴らすことは難しく、リーダーの「お頭」バーボンが呼ばれることとなった。
バーボンとの会話と信頼の確立
バーボンは涼を囲んでいた雷の檻を解除し、「妖精の因子」が見えることを理由に、涼の身元を信じた。バーボンの招待でエルフの居住地に案内された涼は、村の先進的な錬金術技術やエルフたちの生活を目の当たりにした。涼は親書を無事に手渡し、西の森やナイトレイ王国の近況を説明した。
エルフの錬金術と宴会
村では、エルフたちが錬金術に秀でていることが明らかとなり、涼は彼らと錬金術の話題で盛り上がった。エルフたちの錬金道具や技術の見学を楽しみつつ、ゴーレムに対する拒絶感などエルフ特有の歴史的背景も知ることとなった。その夜、涼を歓迎する宴会が開催され、彼はエルフたちと深い絆を築いた。
次なる目的地への決意
翌日、涼はエルフたちに見送られながら馬車で森を出発した。彼は次の目的地である共和国の首都へ向かう決意を新たにし、枢機卿から依頼された手紙を届けるべく旅を続けた。涼の行動は、錬金術を通じて多くの者たちとの関係を築くきっかけとなった。
黒神官服の男
ダンジョン攻略の開始
『十号室』と『十一号室』の六人は、聖都西ダンジョンの百層に挑んでいた。パーティー構成には魔法使いや斥候がいないという弱点があったが、彼らはそれを補うだけの経験と覚悟を持ち合わせていた。百層のボスとして現れたのはワイバーンであり、その難易度の高さに撤退も視野に入れていた。
ワイバーンとの初戦
ワイバーンは強力な魔物であり、『風の防御膜』によって攻撃を防ぎ、空中からの〈エアスラッシュ〉で冒険者を翻弄した。しかし、ダンジョン内の天井が低いことを活かし、エトの連射式弩に仕込んだ爆発矢が効果を発揮した。この矢は音による混乱を目的としたもので、ワイバーンの動きを一時的に鈍らせることに成功した。
地上戦への移行
爆発矢の影響で混乱していたワイバーンは地上に墜落したが、すぐに態勢を立て直し、再び戦闘を優位に進めようとした。地上に降りたワイバーンは、〈ソニックブレード〉を使えないものの、『風の防御膜』をまとったまま、冒険者たちの剣を寄せ付けなかった。
アモンの決死の一撃
状況が膠着する中、アモンが自らの体を使った大胆な作戦を提案した。ニルスの協力で空高く投げ上げられたアモンは、杖を用いてワイバーンの弱点である目を狙い、「闘技:完全貫通」を発動した。この一撃が見事に命中し、ワイバーンは絶命した。
勝利の余韻
六人は見事に百層ボスであるワイバーンを討伐した。この戦いで得た経験と成果は、彼らにとって大きな自信となり、王国への報告に繋がる重要な実績となった。
悪魔との邂逅
『十号室』と『十一号室』の一行は、聖都への帰路の途中で突然光る魔法陣により転移された。暗闇の中、目の前に現れたのは、かつて遭遇した黒神官服の男であった。この男は「堕天」の概念を広めよと一行に命じたが、言動は不安定で支離滅裂であった。その後、男は一行の中から神官ジークを標的にし、殺害を試みた。
マーリンの介入
ジークが危機に瀕したその瞬間、赤いローブをまとった老人マーリンが現れた。彼は即座に魔法〈グラビティ〉を発動し、黒神官服の男を圧倒したが、男は無傷のまま復活した。マーリンは「スペルノ」と呼び、男を悪魔であると断じた。その後、マーリンと悪魔の激しい戦闘が始まった。
魔法の応酬
マーリンと悪魔は、それぞれ高度な魔法を次々に放ち合った。〈グラビティ〉や〈リバース〉を駆使するマーリンに対し、悪魔は瞬間移動を絡めた攻撃で応戦した。最終的にマーリンは、悪魔に剣を突き立てられるも、捨て身の魔法〈インプロージョン〉で悪魔を撃退した。しかし悪魔は完全には滅びず、再会を予告して姿を消した。
堕天の謎
戦闘後、マーリンは一行に「堕天」について尋ねた。エトが涼から聞いた知識を基に説明すると、マーリンは西方教会上層部の堕天した存在が悪魔と結びついている可能性を示唆した。悪魔の行動は単なる暇つぶしであるとしながらも、彼らの背後に潜む脅威に警戒を促した。
今後への課題
マーリンは、悪魔の存在が一行を危険にさらしていると警告した。また、「堕天」の問題が人間社会に及ぼす影響について考えを巡らせ、一行にさらなる注意を促すのであった。
ニール・アンダーセン
首都ムッソレンテ到着と初動
涼はエルフの森を出発して二日後、マファルダ共和国の首都ムッソレンテに到着した。活気溢れる海に面した貿易都市の様子を馬車の中から眺め、満足げに頷いていた。到着後は高級宿「ドージェ・ピエトロ」に宿泊を決め、旅のしおりを基に街巡りの計画を立てた。
諜報特務庁の監視
涼が国境を越えた時から、共和国の諜報特務庁が彼を監視していた。少人数での長期間の監視任務に追われていたが、同時に西方教会関係者の動きにも注意を払っていた。その状況下で、監視の態勢が厳しい中、宿泊先の外で涼を見守ることを続けた。
監視を意識した行動と手紙の受け渡し
涼は監視者たちを意識しながらも、自身の目的である手紙の受け渡しに集中していた。途中で入ったカフェで住所を確認し、目的地へと向かった。ニール・アンダーセンという名の男性に手紙を渡し、簡単なやり取りを交わした。
共和国の緊張と諜報活動の背景
ニールから、共和国が隣国シュターフェン連合王国との戦争の危機にあることが語られた。また、西方教会が軍を派遣し介入を企てている可能性も指摘された。この情勢の中、涼や監視者たちの存在が複雑な状況に影響を与えることが示唆された。
涼とニールの対話
ニールとの会話を通じて、涼は錬金術への興味を示し、彼から励ましを受けた。さらに、自身が監視対象であることを指摘し、ニールもその危険性を認めた。最終的に、涼は状況を把握しつつも冷静に行動を続ける決意を示してその場を後にした。
涼と特務庁の監視者たち
バンガン隊長とアマーリア副隊長は、ニール・アンダーセン宅に向かった涼を監視しながら、本庁への報告を続けていた。諜報特務庁内では、教会関係者の動向にも注意を払っており、一部の監視隊との交信が途絶えている状況であった。教会の暗殺部隊の動きが懸念される中、涼は平然と彼らの監視下を進み続けた。
涼への襲撃と反撃
涼は特務庁の監視者たちが命を狙われていることを察知し、二人を救うべく行動した。六人の暗殺者たちが現れるが、涼は氷の魔法〈氷棺〉を用いて彼らを封じ込めた。しかし直後に、さらに強力な五人の襲撃者が現れ、涼は防御魔法を駆使して二人を守りながら撤退した。
教皇直属部隊との遭遇
逃走後、涼は襲撃者たちが教皇直属の破壊工作部隊「ジューダスリベンジ」であることを知る。指揮を執るチェーザレは教皇の四司教の一人であり、その威力は涼ですら驚くほどであった。彼らの魔法には錬金術が関与している可能性が高く、涼はその背後に天才錬金術師の存在を感じ取った。
特務庁での逮捕未遂
涼は特務庁に到着するも、局長によって身分詐称の容疑をかけられた。局長は教会からの情報をもとに涼の逮捕を試みるが、涼は冷静に状況を掌握し、堂々と反論を展開した。氷の壁や障壁を使い、自らの無実を訴えつつその場を後にした。
涼の判断と余裕
涼は圧倒的な冷静さと実力を持って局長らを退けた。特務庁全体への不信感を抱きつつも、バンガン隊長とアマーリア副隊長の善意に触れ、特務庁への印象を多少改善する形でその場を離れた。
宿での再会とチョコレートケーキ
涼が宿に戻ると、受付のスタッフが彼を認識して歓迎した。ラウンジに目を向けた涼は「今月の黒板ケーキ」がチョコレートムースであることを知り、早速注文した。美味しいケーキとコーヒーを楽しむ涼の元に、ケネスから新しい錬金道具を通じて連絡が入った。ケネスは融合魔法に関する情報を提供し、その威力と錬金術の可能性について説明した。涼はその知識を深める必要性を改めて感じた。
局長の謝罪と条件
翌日、特務庁の局長が宿の前で涼を待ち構え、深々と謝罪した。涼は彼の謝罪を受け入れつつ、「共和国の海運技術を見せてほしい」という条件を提示した。局長はこれを快諾し、実家であるフランツォーニ海運商会を紹介した。涼はその日の午後、商会を訪れ、最新の技術や設備を見学し、大いに満足した。
商会での偶然の再会
見学を終えた涼が会長室で礼を述べていると、声の大きな人物が廊下から設計について指摘している声が聞こえた。それはニール・アンダーセンであり、彼は設計への意見を述べながら会長室に現れた。涼を見たアンダーセンは驚きつつも挨拶を交わし、互いに再会を喜んだ。涼は彼の反応にわずかな違和感を覚えたが、その理由を特定することはできなかった。
開戦
共和国の危機と開戦準備
マファルダ共和国では、連合王国の進軍が迫り、元首公邸にて緊迫した議論が交わされていた。総司令官カステーラ将軍は、連合王国軍の総勢二万の侵攻に対し、ジョコン平野ではなく鬱蒼としたダッコンの森で防衛戦を展開する作戦を提案した。ゴーレム兵団が動かない状況下、時間を稼ぐための最適な戦略とされ、元首コルンバーノもその計画に同意した。共和国の存亡をかけた戦いは間近に迫っていた。
宿泊先での知らせと涼の反応
翌朝、涼は完璧な朝食を楽しんだ後、宿のチェックアウトを済ませようとしていた。しかし、従業員が急ぎ知らせてきたのは、国境封鎖と戦争の開始であった。涼は冷静に状況を受け止め、ラウンジでケーキとコーヒーを楽しみながら情報を収集した。アベルとの会話の中で、戦争の根本原因を「人の欲」と結論づけ、戦争回避の可能性について思索を巡らせた。
教会高位聖職者たちの策略
一方、共和国の一軒家では、教会の高位聖職者であるサカリアス枢機卿とグファーチョ大司教がチェーザレを交えて密談をしていた。特務庁の壊滅を計画し、共和国の力の源泉を打ち砕くべく準備が進められていた。さらに、中央諸国使節団の一員である涼の殺害を命じ、その死を共和国への軍事進駐の大義名分とする策略が語られた。チェーザレもその任務を了承し、涼を標的と定めた。
ダッコンの森での攻防戦
侵攻する連合王国軍とゴーレムの沈黙
シュターフェン連合王国軍は、マファルダ共和国国境を越え、ダッコンの森へと進軍した。国王ゼー四世は、共和国ゴーレムの沈黙が法国の情報工作によるものと推測しつつ、自国への同様の妨害を警戒していた。一方で、共和国軍がジョコンの街で籠城戦を準備しているとの報告を受け、首脳陣は森での戦闘を想定した。
共和国軍の罠と奇襲
ダッコンの森を進む連合王国軍は、ゴーレム兵団が突如泥濘に沈む罠にかかった。土属性魔法を駆使した巧妙な罠であった。続いて共和国軍は遠距離攻撃を開始し、敵の混乱を誘った。カステーラ将軍率いる共和国軍は、夜まで森に敵を足止めし、同士討ちを誘発する戦術を展開した。
ゼー王の陽動作戦と直接対峙
連合王国軍第二軍はジョコンの街に向けて移動を開始し、陽動作戦を展開した。これにより、連合王国軍はカステーラ将軍の位置を特定し、ゼー王自らが突撃を行った。カステーラ将軍とゼー王は剣を交え、戦場は乱戦状態となった。カステーラは森の中へ撤退を余儀なくされ、エルフたちの助勢を得て戦線を維持した。
エルフの参戦と連合王国軍の危機
ゼー王はエルフの参戦に驚きを見せたが、彼らの森での優位性を認識していた。ゴーレムの引き上げ作業は進まず、連合王国軍はダッコンの森での戦闘に苦戦していた。ゼー王は自身の命が共和国軍の標的であると悟り、総司令官バウムクヘに守備を託した。
結末への布石
ダッコンの森での攻防は、共和国軍の奇策とエルフの参戦によって連合王国軍を苦しめた。ゼー王は戦況の悪化を認識しつつも、バウムクヘの冷静な指揮を信じ、次の一手を模索していた。
特務庁への襲撃と諜報員たちの戦い
特務庁の危機と局長の決断
マファルダ共和国では、シュターフェン連合王国との戦闘が続く中、共和国特務庁も厳しい状況に直面していた。特務庁局長ボニファーチョ・フランツォーニは、内部諜報員が次々と狩られる事態に対処しつつ、連合王国や法国からの破壊工作を防ぐために奮闘していた。局長は、戦時中にもかかわらず特務庁に滞在するロンド公爵涼の協力を仰ぐことを決断した。
チェーザレ一派の襲撃と戦闘開始
突如、特務庁本庁がチェーザレ一派による襲撃を受けた。轟音が響き渡る中、涼の魔法感知能力により敵の位置が特定された。局長はすぐに部下に防衛態勢を整えるよう指示を出し、涼は敷地内を散策する形で戦闘の準備を整えた。
アマーリア副隊長と金髪の敵の激突
北庁舎入口では、アマーリア副隊長がチェーザレ一派の一人である金髪の男と対峙した。アマーリアは剣技で応戦し、相手の火属性魔法に苦戦しながらも一進一退の攻防を繰り広げた。しかし、金髪の男の魔法により剣を奪われ、腹部に拳を受けて窮地に陥った。
バンガン隊長の参戦と共闘
窮地に陥ったアマーリアを救うべく、バンガン隊長が参戦した。二人は協力して敵を追い詰めるが、金髪の男は圧倒的な力を見せつけた。バンガンは敵の剣を凍結させる魔法を使用し、動きを封じることに成功した。最後はアマーリアが曲がった剣で敵を貫き、遂に敵を撃破した。
戦闘後の会話と傷の処置
バンガン隊長は深手を負いながらも、アマーリアとの連携で勝利を収めた。戦闘後、アマーリアは傷の処置を提案し、教会での治療を手配するために動いた。去り際に漏らした感謝の言葉は、バンガンの耳には届かなかったが、二人の信頼関係を象徴していた。
特務庁での戦闘と涼の戦略
『ジューダスリベンジ』の迎撃
涼は特務庁敷地内を探知しながら移動していた。その中で、バンガン隊長とアマーリア副隊長が『ジューダスリベンジ』の一人を倒したことを確認した。その直後、最後の敵であるチェーザレが姿を現し、涼に攻撃を仕掛けた。涼は防御を整えつつ、チェーザレとの対話で相手の装備や戦術に関心を示しながら情報を探った。
チェーザレとの対峙
チェーザレの魔法攻撃は強力であったが、涼は持久戦を優位に進める作戦を採用した。チェーザレが装備しているブローチを観察し、それが融合魔法を補助する錬金道具であると推測した。チェーザレも涼の魔法の実力に驚きを見せたが、さらに強力な魔法で攻撃を続けた。
魔力補充と逆転の一撃
戦いが続く中、チェーザレが魔力を補充する道具を使用し、持久戦の優位性を覆した。涼は防御を強化しつつ相手の攻撃をしのいだが、チェーザレの炎の竜による攻撃は氷の壁を徐々に崩し始めた。涼は自身の油断を認め、戦術を改めることで最終局面に備えた。
最後の罠とチェーザレの捕縛
チェーザレの猛攻を受け流しながら、涼は水蒸気を利用した罠を仕掛けた。そして相手の攻撃を利用して全方向から一瞬で凍結する〈氷棺〉を発動し、チェーザレを捕らえることに成功した。戦いは涼の冷静な判断と計算された戦術により終結を迎えた。
捕縛後の処置と魔法封じ
涼が捕らえたチェーザレを含む四人は、特務庁の地下重監獄に移送された。『手枷』という魔法を封じる錬金道具が使用され、彼らの魔力を無効化する処置が施された。涼はその錬金道具に強い興味を抱き、仕組みを学ぶ決意を新たにした。
諜報特務庁との協議と報酬
捕縛の感謝と交渉
諜報特務庁局長ボニファーチョ・フランツォーニは、チェーザレと『ジューダスリベンジ』の捕縛に対し深く感謝を述べた。涼は四人の身柄を特務庁に譲渡する代わりに、彼らのブローチ二個と隠蔽技術に関する情報の提供を求めた。さらに、魔法封じの手枷の詳細を見せてもらうことを追加で依頼し、全て了承された。
ブローチの獲得と友情の証
数十分後、涼はブローチ二個と手枷の情報を手にした。二個のブローチのうち一つは友人で師匠でもあるケネスへのお土産であり、もう一つは自身の研究用であった。涼は友情を重んじる性格を示し、この成果に満足そうな様子を見せた。
共和国への滞在と連絡の要請
隠蔽技術に関する調査結果がまだ不明なため、涼は引き続き共和国に滞在することを了承した。同時に、聖都にいる使節団へ自身の安全を伝えるよう特務庁に依頼し、ボニファーチョ局長はその要請に応じた。これにより、涼は遅れても心配されることはない状況を整えた。
ドージェ・ピエトロでの滞在延長
涼は引き続きドージェ・ピエトロに滞在することを決めた。この宿の快適さに大いに満足しており、他の選択肢は考えられないほどであった。滞在の延長を決めた涼は、引き続き情報を待つ体制を整えた。
ホーリーナイツ
共和国の危機と決断
法国ゴーレム兵団の動き
元首コルンバーノは、ファンデビー法国のゴーレム兵団が共和国へ向かっているとの報告を受けた。彼と最高顧問バーリー卿は、これを共和国滅亡の危機と捉えた。ゴーレムの原因不明の停止により、共和国の防衛は非常に困難な状況であった。彼らは最後の手段として、かつて国を去ると決めた錬金術師ニール・アンダーセンに助けを求めることを決意した。
ニール・アンダーセンへの要請
コルンバーノは直接ニール・アンダーセンを訪問し、国家の存亡を懸けた協力を依頼した。ニールは要請を受けることで自らの退去が確定することを理解しつつ、共和国の苦境を知り、その申し出を受け入れた。同時に、ニールの元を訪れた冒険者涼も同行を求められた。
涼とニールの対話
錬金術の話題とニールの洞察
涼はニールに初めて読んだ錬金術の本が彼の著作であることを伝え、ニールは自身の知識が新たな世代に引き継がれていることを喜んだ。さらに、涼のイヤリングと鞘を見たニールは、その錬金術の高度さを称賛し、イヤリングの作成者であるケネス・ヘイワード子爵の卓越した才能にも驚嘆した。
ゴーレム修理への同行
ニールは涼に共和国のゴーレム兵団の修理に同行することを提案し、涼は快諾した。ニールは涼の持つ独創的な錬金術の知識が役立つと判断しており、彼との対話の中で錬金術の未来への希望を感じ取っていた。
未来への希望
ニールは、涼とケネスの存在を通じて、錬金術が廃れることなく発展を続けていることを確信した。その表情には、自らの道が次世代に引き継がれていることへの深い満足感が漂っていた。
ゴーレム修復と戦場への準備
ゴーレム格納庫の状況
元首コルンバーノらと共に涼とニールは地下の格納庫へ向かった。そこには多数のゴーレムが並んでいたが、多くが故障し動作不能の状態であった。ニールは即座に資料や端末を確認し、異常の原因を調査した。涼はニールの作業を観察しながら、省魔力化回路に問題があることを指摘し、その正確な洞察にニールも賛同した。
ゴーレム修復の進行
ニールは、全分解が必要な修復を短時間で進めるため、自身の整備補助ゴーレムを活用した。これにより、全50体のゴーレムを短期間で修復し、一戦のみホーリーナイツと互角以上に戦える状態に調整した。ニールの驚異的な技術力により、ゴーレムたちは再び戦場に立つ準備が整った。
法国ゴーレムとの対決
修復を終えたシビリアンは、法国のゴーレム部隊ホーリーナイツとレンテ平野で対峙した。ニールの調整により、シビリアンは機体性能が向上し、最初の突撃でホーリーナイツを圧倒した。さらに、三列目以降のゴーレムにはエンチャントの魔法式が施され、武器に特殊な効果を付与したことで優位性を保った。
戦闘の終結と結果
最終的に、シビリアンはホーリーナイツを全滅させ、損害を最小限に抑えることに成功した。シビリアンは勝利を収めたが、その魔力は限界に達していたため、今後の連合王国軍との戦闘への再投入は不確定であった。戦闘後、ニールは残存機体の再調整を指示しつつ、大破した機体を涼と共に調査することを提案した。
涼の興味と錬金術の発展
戦闘中、涼はエンチャントの魔法式に強い興味を示し、ニールとの会話を通じてその詳細を学ぶことに熱意を見せた。ニールは涼の錬金術への関心を見て笑みを浮かべ、共にさらなる研究を進めることを示唆した。戦闘は終わったが、涼にとっては錬金術の新たな学びが始まったのである。
エルフの森に降り立ったのは……
森の外縁での襲撃
エルフの森外縁を巡回していたジェンの部隊が襲撃を受けた。襲撃者は法国の暗殺兵団「ジューダスリモース」であり、ゴーレムを先頭に据えた混成兵団であった。ゴーレムは高い機動力と剣術を備え、エルフたちを圧倒した。エルフの自動防御機構「光檻」も起動したが、ゴーレムは十メートルの高さを飛び越え、さらに「光檻」の制御機能を破壊して無力化した。
撤退と戦況の分析
バンダが率いる援軍が到着したが、エルフの戦力不足から一時撤退を決定した。撤退後、森奥の会議室で状況を分析したエスメラルダは、シュターフェン連合王国の動きが法国の陽動であったと推測した。援軍要請を出すも、到着までに数日を要する状況であり、時間稼ぎが必要と判断された。
森の焼失とエルフの危機
ジューダスリモースは森を焼きながら侵攻を進め、エルフの防御を削ぐ戦術を採用した。森が焼かれることはエルフの生存基盤を失うことを意味し、戦わざるを得ない状況に追い込まれた。エスメラルダは援軍が到着するまでの時間を稼ぐため、敵との直接衝突を避けつつ森の奥で守勢に立つ方針を示した。
奇襲作戦の提案
敵の侵攻により、エルフ側は次第に劣勢に立たされた。そんな中、バンダは森を焼きながら進むジューダスリモースの本陣を発見したとの報告を受ける。本陣は前線から離れており、防備が薄いことが判明したため、バンダは奇襲作戦を決定した。彼はジェンを含む七名の精鋭を率い、本陣への奇襲を敢行する準備を整えた。
奇襲作戦の開始
バンダとジェンが指揮するエルフの精鋭部隊が、法国暗殺兵団「ジューダスリモース」の本陣を奇襲した。矢を囮に突撃を仕掛けたが、総指揮官グファーチョ大司教は座ったままバンダの剣を受け止め、余裕を見せた。さらに、黒祭服の男がゴーレムであることが明らかとなり、二人ではなく「一人と一体」であると告げられた。
グファーチョの余裕とエルフの窮地
グファーチョは、今回の奇襲が森への攻撃を誘引するための計画通りであったことを明かした。バンダは彼を倒せば形勢を逆転できると考えたが、実力差は歴然としており、剣戟で圧倒された。一方、他のエルフたちは白いゴーレムと戦ったが、体力を消耗し、劣勢に立たされた。
バンダの負傷と撤退
バンダはグファーチョの計略によって腹を負傷しながらもポーションで応急処置を施し、戦い続ける意思を示した。しかし、グファーチョはエルフ全体の戦況を冷静に見極め、戦意喪失寸前の彼らを指摘した。バンダは部隊の壊滅を防ぐため、撤退を決断し、白煙を利用してその場を離れた。
グファーチョの策略
撤退するエルフたちは、戦闘中に自身の服に取り付けられた小型の発信装置に気付いていなかった。グファーチョはそれを利用してエルフの居住地を特定しようと企んでおり、今回の奇襲を「次の手」への布石として捉えていた。
居住地への帰還と奇襲の準備
バンダら七人は居住地に戻り、疲労と戦傷で座り込んだ。彼らは自らの戦力ではグファーチョ大司教に敵わないことを痛感していた。居住地の防衛を考え、エルフ特有の治癒能力や錬金術による障害物「迷いの森」に頼るしかないと判断した。しかし、グファーチョは追跡しており、居住地への道案内をさせられていたことに気づく。
グファーチョの襲撃と白ゴーレムの脅威
グファーチョ大司教と白ゴーレムが現れ、居住地への攻撃を開始した。さらに、エルフの戦士たちが恐れる中、居住地に侵入したジューダスリモースの一部が切り刻まれる。銀髪の長老エスメラルダが現れ、グファーチョと対峙する一方、バンダは他のエルフたちと共に混乱を抑えるため行動した。
エスメラルダとグファーチョの戦闘
エスメラルダはジューダスリモースへの怒りをぶつけるように、全力でグファーチョと戦った。グファーチョは、エルフが人間にとって脅威であるため排除すべき存在と主張し、エスメラルダとの対話は平行線をたどった。戦いは次第に激しさを増し、両者は互いに一歩も引かない状況であった。
涼と白ゴーレムの一騎打ち
涼は赤い仮面とマントで「赤の魔王」を名乗り、白ゴーレムとの戦いを楽しんだ。白ゴーレムの剣が絡みつき糸状に変化するなど、多様な技術に感嘆しながらも冷静に対応した。涼は白ゴーレムの隙を見逃さず、「スコール」と雷の鞭を組み合わせた戦術で白ゴーレムを撃破した。
グファーチョの最期とジューダスリモースの壊滅
同時に、エスメラルダがグファーチョの胸を貫き勝利を収めた。グファーチョは涼の登場を「盤外からの介入」として悔やみながら命を落とした。彼の死とともにジューダスリモース全体が溶け、ゴーレムや暗殺者たちの正体が不明なまま消滅した。エルフたちは恐れと困惑の中、戦いの終息を見届けた。
赤の魔王とエスメラルダの対話
エスメラルダは涼に助勢の感謝を述べた。涼は赤い仮面とマントを身につけ「赤の魔王」として振る舞っていたが、次第にその装いに恥ずかしさを感じ始めていた。エスメラルダは涼の行動を「高度な政治的判断」と称賛し、錬金道具「光檻」の利用方法についても疑問を投げかけた。涼はそれに対し、水属性魔法を駆使して雷を誘導したと簡単に説明し、その場を切り抜けた。
光檻と雷の応用
涼は一人になり、光檻の雷を利用した「光の鞭」について国王アベルと会話を交わした。雷の誘導には静電気を用い、氷を擦って道を作るという技術を駆使していたことを明らかにした。アベルはその発想に驚きつつも、涼の説明を感心しながら聞いていた。
将棋とチェスの違い
アベルは涼に「将棋」について尋ね、チェスとの違いを知った。涼は将棋の取った駒を再利用するルールがゲームの複雑性を高め、逆転劇が多くなることを説明した。その会話の中で、涼は将棋の戦術をジューダスリモースとの戦いに例え、盤外からの乱入が戦況を大きく変えたことを振り返った。
共和国特務庁の失態
涼が共和国を発つ準備を進める中、特務庁では地下重監獄からチェーザレが脱走するという大失態が発生していた。諜報特務庁の局長は脱走者のブレスレットが「隠蔽」に関連する錬金道具であることを突き止め、その一つを涼に提供することで失態を埋め合わせようとした。涼はその提案を受け入れ、興味を持ってブレスレットを持ち帰った。
ニールとサカリアスの会談
ジューダスリモース壊滅後、サカリアス枢機卿がニール・アンダーセンを訪れ、聖都への訪問を要請した。ニールは当初拒否する意思を見せたが、サカリアスは巧妙な脅迫でニールを聖都行きを承諾させた。ニールはこの要請が計画的なものであり、自身が共和国を離れる状況が仕組まれていたと気づきつつも、周囲の安全を保証させることで条件を受け入れた。こうしてニールは聖都へ向かうこととなった。
聖都への帰還と国王への提案
涼は聖都への帰路、馬車の中でアベルに国内視察を提案した。即位後一度も視察を行っていないことを指摘し、国民の支持を得る重要性を説いた。アベルはその提案を受け入れ、北部と東部の視察を決定した。北部は新しい貴族の定着と防衛強化、東部は復興支援が目的であった。
宿舎での再会と新たな出会い
宿舎に戻った涼は、旅の汚れを落としつつ報告を行った。そこで偶然、キューシー公国第二公子ルスランと再会する。ルスランは法国とのゴーレム共同研究のために訪れていた。涼はその研究に羨望の念を抱き、同行を希望したが断られた。ルスランは涼に近隣のカフェを薦められ、その場を去った。
失われた船と懐疑の声
涼は国王との通信で、西方諸国との交易にレインシューター号を活用する案を提案した。しかし、その船は既に失われていたと知らされ、衝撃を受けた。レインシューター号は最新鋭の三胴船であり、魔法を駆使した航行が可能だったが、一年前に行方不明となっていた。
悪魔との関わりと新たな謎
晩餐の席で涼は悪魔との遭遇や戦闘の経験を語った。悪魔についての知識を共有する中で、西方諸国に悪魔や堕天使が存在する可能性を示唆した。また、「生贄」という不穏なキーワードが新たな謎として浮上したが、詳細は未解明であった。
幸せな晩餐
話題が尽きた後、涼は仲間たちと共に晩御飯を楽しんだ。肉料理や野菜を囲む中で、笑顔が広がり穏やかなひとときが生まれていた。彼らの中には一時的な幸せと平和が訪れていた。
エピローグ
白い世界での管理者の観察
三原涼の状況把握
白い世界にいるミカエル(仮名)は、いくつかの世界の管理を行っていた。手元の石板を確認しながら、三原涼の動向に目を向けた。涼の生活が相変わらず波乱に満ちていることを把握し、彼の友人であるアベルの運命にも注目した。その結果、アベルの選択が運命によるものであると納得していた。
教皇庁と運命の歪み
ミカエル(仮名)は、石板から涼が教皇庁に関わる未来を読み取った。それが新たな問題を引き起こす可能性を感じつつ、彼自身が介入するべきかどうか迷いを抱いた。彼は難しい判断を迫られていると呟き、考えを巡らせていた。
同シリーズ












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