どんな本?
『キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1』は、銀河大帝国を舞台に、自らを「オタク」「モブ」と称する傭兵ジョン・ウーゾスの物語である。彼は「分不相応・役者不足・身の程を弁える」をモットーに、目立たず穏やかな日々を過ごそうとしている。しかし、その卓越した判断力と冷静さから、周囲の注目を集めることとなる。
主要キャラクター
• ジョン・ウーゾス:自らを「モブ」と位置づける傭兵。ライトノベルを愛読し、目立たないように行動するが、その実力は高く評価されている。
• フィアルカ・ティウルサッド:通称「女豹(レオパール)」と呼ばれる女性傭兵。ウーゾスの実力を認め、彼の態度に苛立ちを感じている。
• ノスワイル:レースチーム「クリスタルウィード」の女性エースパイロット。同性からの人気が高く、ウーゾスをチームに誘っている。
• ロスヴァイゼ:古代文明の遺跡から発掘された意思を持つ超兵器の戦闘艇。金髪碧眼の美女のアバターを持ち、ウーゾスに乗り換えを提案する。
物語の特徴
本作は、主人公が自らを「モブ」と位置づけ、目立たないように行動しながらも、その高い実力ゆえに周囲から注目されるという逆説的な展開が魅力である。また、個性的なキャラクターたちとの関わりや、スペースファンタジーの世界観が読者を引き込む要素となっている。
出版情報
• 出版社:オーバーラップ
• 発売日:2023年7月25日
• ISBN:978-4824005571
読んだ本のタイトル
キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える 1
著者:土竜 氏
イラスト:ハム 氏
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
あらすじ・内容
銀河大帝国――人類が生息可能な惑星のある宙域の7割を国土としている大国でジョン・ウーゾスは、傭兵を生業としていた。「オタク」「モブ」を自認している彼は「分不相応・役者不足・身の程を弁える」をモットーにし、日々を穏やかに過ごそうとしていた。ゆえに、イベントが起こりそうなフラグはいつでも全力回避!すると、いつも「なぜか」続々と自滅していく周囲の主人公キャラたち……!どんな依頼に際してもウーゾスは、変わらずモブを貫こうとするのだが――。
「簡潔に申し上げます。私に乗り換えませんか?」
「私のチームにスタッフとして来てくれないか?」
モブに徹してきたことで培われた、迅速かつ的確な判断力と、些細なことに動じない精神力。ある者からは畏怖を込め「土埃」と称される能鷹隠爪な彼を、虎視眈々と狙う者が現れはじめ……?実は超有能なモブ傭兵による、無自覚爽快スペースファンタジー!
主な出来事
• 戦場の慎重派
ウーゾスは戦場で目立たぬよう慎重に動き、確実に生き残ることを最優先とする。
• 戦闘開始と混乱
雇われたバッカホア伯爵陣営がジーマス男爵軍と交戦。ウーゾスは敵の目を欺く技術で生き延びる。
• 伯爵の暴走と結末
戦闘中、伯爵が敵を挑発。結果として特攻を受け、戦場の指揮を失い戦闘は終了する。
• 新たな申し出
意思を持つ戦闘艇ロスヴァイゼがパートナーにならないかと持ちかけるが、ウーゾスは拒否。
• ギルドでのトラブル
目立つ仕事を避けるため小規模な海賊討伐を選ぶが、エリート傭兵に絡まれ暴力を振るわれる。
• フィアルカの叱責
騎士階級ながら新入りの攻撃に反撃しなかったことをフィアルカに咎められる。
• 過去の因縁
戦友のリオル・バーンネクストに再会し、軍への勧誘を受けるが拒否。
• 護衛任務の騒動
侯爵令嬢の護衛を務めた傭兵たちが報酬を受け取れず、貴族の横暴が明らかになる。
• 赤紙による強制招集
海賊討伐作戦に巻き込まれ、ウーゾスも参加を余儀なくされる。
• ロスヴァイゼの乗り換え計画
ウーゾスを諦め、他の有力者に接触するが失敗に終わる。
• 戦場での活躍
左翼部隊に配属され、慎重ながら確実に戦果を上げる。
• 裏切りと逆転
敵側の部隊が寝返り、伯爵軍が優勢に転じる。
• 男爵夫人の最後
秘密兵器で戦況を覆そうとするが、それが存在しないと発覚し、処刑される。
• 報酬と戦後処理
傭兵たちは報酬を受け取るが、一部の裏切り者は昇級ポイントを減らされる。
• フィアルカとの再会
ウーゾスの実力を認めるフィアルカが、彼の昇級拒否について問いただす。
感想
徹底したモブ思考
ウーゾスは「身の程を弁える」という信条を貫いている。
しかし、周囲の状況が彼の意志とは関係なく動き、結果として重要な場面に関わってしまう流れが面白い。
慎重さと実力のギャップ
戦闘技術は高いが、それを無闇にひけらかさず、あくまで生存を最優先とする姿勢が際立つ。
歪んだ社会構造
傭兵社会では、実力よりも家柄や見た目が重視される傾向が強い。
ウーゾスの冷静な観察眼と、それを避けようとする姿勢に共感を覚える。
ヒロインたちの立ち位置
フィアルカやスクーナといった女性キャラが登場するが、ウーゾスは関わりを極力避けようとする。
それがまた、彼の生き方を象徴しているようで面白い。
モブとしての完成度
一般的な俺TUEEEE系の展開とは異なり、あくまでモブ傭兵として立ち回る点が魅力的。物語のバランスが取れており、タイトルとの整合性も保たれている。
貴族社会の腐敗
貴族の横暴が徹底して描かれ、傭兵の苦労が伝わる。特に侯爵令嬢の護衛任務の件は理不尽そのもので、ウーゾスが巻き込まれなくて正解だったと感じる。
今後の展開への期待
現状では小規模な事件を積み重ねる形だが、これがどのように大きな物語へと繋がるのかが気になる。ウーゾスはこのままモブを貫くのか、それとも流れに巻き込まれるのか、今後も目が離せない。
最後までお読み頂きありがとうございます。
(PR)よろしければ上のサイトから購入して頂けると幸いです。
備忘録
戦場に立つ傭兵の現実
ジョン・ウーゾスは、小太りで眼鏡をかけたオタクの傭兵であった。華やかな英雄譚に登場するようなエースとは異なり、彼の愛機は改造した中古船であった。現在、銀河大帝国の内戦に傭兵として参加しており、バッカホア伯爵側に雇われ、ジーマス男爵陣営と戦闘を開始しようとしていた。この戦争の原因は、格式の争いや骨董品の処分といった些細な理由に加え、バッカホア伯爵がジーマス男爵の娘を情婦にしようとしたことが発端であった。ウーゾスは戦場において、目立たず慎重に立ち回ることを信条としていた。
開戦とウーゾスの戦術
戦闘が始まると、ウーゾスは戦場の端で慎重に動きながら生き延びていた。彼の目的は、適度に戦いながら確実に生還することであった。開戦から1時間が経過し、戦況は激しくなっていた。彼のもとに一斉通信が入り、中央の支援要請が出された。中央部隊の正規兵は崩壊寸前であり、支援部隊が戦況を維持していたが、戦局は依然として厳しかった。
戦場に現れる“イキリ”傭兵
中央戦線では、一人の傭兵が敵の大群を引きつけ、目立った動きを見せていた。彼は開戦前に大口を叩いていたものの、実際には一隻も撃墜できておらず、ただ逃げ回っているだけであった。しかし、そのおかげで味方の安全は確保されていた。ウーゾスは敵機に狙われたものの、操縦技術を駆使して撃墜騙しの戦法を用い、敵機を逆に撃破した。
戦局の急変と伯爵の暴走
戦闘が佳境に入ると、バッカホア伯爵の軍が優勢となった。しかし、その勝利を確信した伯爵が旗艦を前進させ、敵陣に向けて傲慢な演説を始めた。彼はジーマス男爵の娘を手に入れると公言し、敵を挑発した。その瞬間、敵側の一機が旗艦のブリッジに特攻し、伯爵を含む指揮官たちは戦闘不能となった。ガルベン中尉が新たな指揮官となり、戦闘は終了した。
戦後処理とウーゾスの決断
戦闘が終結すると、ジーマス男爵側はバッカホア伯爵家に対し、謝罪と賠償を要求した。ウーゾスは報酬を受け取り、船の修理を終えた後に次の仕事を探しに向かった。彼は戦場で生き残るために目立たず慎重に動くことを何よりも優先していた。
新たな出会いと申し出
基地を出発しようとした矢先、ウーゾスの通信機に見知らぬ相手からの連絡が入った。送信者はロスヴァイゼと名乗る金髪碧眼の美女であり、自らを「意思を持つ古代兵器の戦闘艇」と称した。彼女はウーゾスに、自身の新たなパートナーにならないかと持ちかけた。しかし、ウーゾスはその申し出を即座に拒否した。彼の信条は「身の程を弁える」ことであり、強力な船を手にすれば不要な注目を集め、命を狙われる危険が増すからであった。
ギルドでの衝突
次の仕事を探すために傭兵ギルドを訪れたウーゾスは、小規模な海賊退治の依頼を選んだ。しかし、ギルドの受付から貴族令嬢の護衛任務への参加を提案される。彼は目立つ仕事を避けるためにこれを拒否したが、傭兵の若きエリートに絡まれ、突如として殴られた。彼は「傭兵として失格」と罵られたが、無駄な争いを避けるために反論せず、受付の仕事を続行した。
ウーゾスの信念
ウーゾスは、自分が目立つべきではないと再確認した。戦場では、派手に活躍する者が英雄となるが、彼のようなモブ傭兵にとって重要なのは生き延びることだけであった。そのためには、慎重に行動し、無用な争いを避けることが最善であった。彼は次の依頼へと向かい、相変わらず目立たず慎重に生き延びる道を選んだ。
美しき傭兵の叱責
ウーゾスがギルドで手続きを終えようとした矢先、再び背後から声をかけられた。声の主はフィアルカ・ティウルサッド、司教階級の傭兵であり、「女豹」との異名を持つ女性であった。彼女は白銀の髪と紫の瞳を持つ美貌の持ち主であり、ウーゾスに対し、騎士階級の傭兵でありながら新入りの攻撃に反撃しなかったことを非難した。
ウーゾスは面倒ごとを避けるための行動だったと説明したが、フィアルカはそれを怠慢と断じた。過去にも彼女はウーゾスの態度に不満を持ち、事あるごとに叱責していた。彼女の存在はウーゾスにとって厄介なものであり、彼の周囲の傭兵たちも彼女がウーゾスに絡むことを快く思っていなかった。
フィアルカは最後に「せいぜい小銭稼ぎに励め」と吐き捨て、その場を去った。ウーゾスは関わらないのが最善だと考え、深く気に留めることなく仕事を続けた。
フィアルカの苛立ち
その後、フィアルカは自らの宇宙船でシャワーを浴びながらウーゾスについて考えていた。彼は戦闘艇の操縦技術では女王階級に匹敵する実力を持ちながらも、騎士階級で満足していた。それがフィアルカには理解できなかった。彼女自身も司教階級に昇るまで様々な妨害を受けてきたが、それを実力でねじ伏せてきた。にもかかわらず、ウーゾスは出世を望まず、自らの力を示そうともしない。
彼女の苛立ちは強まるばかりで、思わずシャワー室の壁を叩いてしまった。メイドのアンドロイド、シェリーが心配して駆けつけたが、フィアルカは怒りを抑えながら、自分自身の考えを整理しようとした。
シェリーはウーゾスを「能ある鷹」と評し、無闇に力を誇示しないことが彼の本質ではないかと諭した。しかし、フィアルカは納得できなかった。彼は自分より遥かに優れた操縦技術を持ちながら、それを生かそうとしない。彼が本気を出さない限り、自らの苛立ちは消えそうになかった。
小規模海賊の討伐
ウーゾスはギルドで新たな仕事を受け、海賊退治に向かった。彼の船「パッチワーク号」は探査能力に優れ、広範囲を索敵することができた。調査の末、不審な小惑星を発見し、近くの役所に問い合わせたところ、正式な居住登録のない違法施設であることが判明した。
オープン通信で警告を発したが、反応はなかった。その後、小惑星がゆっくりと動き始め、隠されていた噴射口が姿を現した。明らかに海賊の拠点であり、戦闘の準備が必要となった。
小惑星から二機の戦闘艇が出撃したが、ウーゾスは冷静に対応した。威嚇射撃を行い、小惑星の推進装置を破壊。迎撃してきた一機を撃墜し、もう一機のパイロットが動揺する間に事態を収束させた。警察を呼び、残存する海賊を引き渡し、依頼を完了した。
報酬の受け取りと傭兵ギルドの騒動
依頼を終えてギルドに戻ったウーゾスは、報酬を受け取る前に異様な光景を目にした。多数の傭兵がギルドの幹部を囲み、怒声を上げていた。事情を聞くと、貴族令嬢の護衛任務に参加した傭兵たちが報酬を受け取れず、全額がヒーロー傭兵のみに支払われたというのだ。
侯爵令嬢は「信頼に足る者にしか支払わない」と言い放ち、他の傭兵は全員無報酬となった。ウーゾスは、この依頼を受けなかったことを安堵しながらも、ギルドが貴族の横暴に抗議すらできない現実を改めて痛感した。
一方、そのヒーロー傭兵は令嬢の寵愛を受けつつも専属にはならず、「他にも救うべき人がいる」と辞退したという。彼の正義感は貴族すら感心させるものであり、ウーゾスは「主人公属性の人間は何もかも違う」と遠巻きに見ていた。
過去の記憶と傭兵としての選択
報酬を受け取ったウーゾスは、両親への仕送りを終えた後、アニメショップに向かった。しかし、その道中でかつての戦友リオル・バーンネクストと遭遇してしまった。
彼はウーゾスと同じく、学生時代に教師に騙され、強制的に傭兵団へ入れられた過去を持つ。しかし、リオルはそこで英雄的な活躍を見せ、傭兵の世界でも名を馳せる存在となっていた。一方で、ウーゾスは戦場の隅で生き延びることを優先し、慎重に生きる道を選んできた。
リオルはウーゾスに向かい、「いつまで傭兵を続けるつもりだ」と問いかけた。彼の言葉には軽蔑ではなく、どこか憐れみが滲んでいた。ウーゾスは、その問いに対してどう答えるべきかを考えながら、立ち止まっていた。
リオル・バーンネクストの勧誘
ウーゾスは、顔を合わせるたびにリオル・バーンネクストから帝国軍への勧誘を受けていた。バーンネクストは伯爵家の次男であり、帝星から遠ざけられた身であったが、悲惨な事件の被害者となったことを契機に軍に入隊し、エースパイロットとして活躍していた。
彼はウーゾスが傭兵を続けることを理解できず、軍に入ればより良い待遇を受け、帝国のためになると説得を続けた。しかし、ウーゾスは軍内部の植民地民に対する過酷な扱いを知っており、そのような環境に身を置くつもりはなかった。傭兵ギルドの自由さを好んでおり、バーンネクストの「親切」な勧誘を迷惑に感じていた。
取り巻きの圧力
バーンネクストと会話している間、彼の取り巻きの女性軍人たちが敵意をむき出しにしていた。彼女たちはバーンネクストを慕っており、ウーゾスが彼と親しげに話すことが気に入らなかった。
ウーゾスはその状況を逆手に取り、バーンネクストに対し、女性たちとの時間を邪魔したくないと伝えた。それにより、彼が連れを待たせていることを思い出させ、女性たちの関心をバーンネクストへ向けさせた。すると、彼女たちは彼の腕を取り合い、デートではないと主張するバーンネクストを取り囲んだ。その隙にウーゾスは速やかにその場を立ち去った。
バーンネクストの誤解
ウーゾスとのやり取りを終えたバーンネクストは、彼が軍に入らない理由を自分への遠慮だと解釈した。植民地出身のウーゾスが、貴族である自分と関わることで迷惑をかけると考えているのではないかと誤認し、次に会ったときには彼を直属の部下として迎え入れることで、軍へ導こうと決意した。
ウーゾスの日常
ウーゾスは、前日の疲れを引きずりながらもアニメショップへ向かった。街を歩きながら、賑やかな繁華街の風景を楽しみ、書店やホビーショップを巡った。昼食を済ませた後、一度帰宅しようとした矢先、特別召集令状『赤紙』が届いた。
これは傭兵ギルドが発行する強制的な招集命令であり、今回の指令はポウト宙域全体の傭兵ギルドに発せられたものであった。赤紙を無視するとペナルティがあるため、ウーゾスは速やかに準備を整え、ギルドへ向かった。
召集された傭兵たち
ギルドに到着すると、ローンズから今回の召集が「大物海賊の討伐作戦の前準備」であることを聞かされた。式典用のホールに移動すると、イキリ君やヒーロー君、フィアルカの姿もあった。そこへ戦闘艇ロスヴァイゼが通信を送ってきた。
ロスヴァイゼは、以前ウーゾスに乗り換えの提案をした意思を持つ超兵器であったが、今回は新たな対象としてアルベルト・サークルードとキーレクト・エルンディバー大将に興味を示していた。ウーゾスは彼女の浮気性に呆れつつ、ブリーフィングへと意識を向けた。
海賊基地の攻撃作戦
作戦の説明を行ったのは、帝国軍親衛隊副長であるプリシラ・ハイリアット大尉だった。彼女は軍人として優秀であり、プロパガンダ要員としても有能な女性であった。彼女の魅力と巧みな話術には一定の評価があったが、ウーゾスは興味を持たなかった。
作戦の要点は、カイデス海賊団の基地襲撃のため、傭兵たちが橋頭堡を確保し、帝国軍親衛隊が制圧するというものだった。しかし、親衛隊の参加は政治的な意味合いが強く、本気で戦うのか疑問が残った。
作戦には、王階級の傭兵であるアルベルト・サークルードも参加しており、彼の存在が戦況を大きく左右すると考えられた。
戦闘の開始
傭兵たちはカイデス海賊団のアジトである巨大小惑星要塞を包囲し、戦闘を開始した。敵の砲撃をかわしながら、アルベルトとロスヴァイゼが迎撃部隊を圧倒していった。特にロスヴァイゼは、人間には不可能な機動で戦闘艇を次々と撃墜し、その勢いに他の傭兵たちも驚かされた。
イキリ君が乗るロスヴァイゼは、激しい機動により意識を失っている可能性が高かったが、それでも彼の評価は高まり続けていた。
戦闘が終盤に差し掛かると、親衛隊の制圧部隊が突入を開始し、傭兵たちはその支援に回ることになった。ウーゾスは戦況を見守りながら、本を取り出して読書を始めた。
ロスヴァイゼの新たな興味
戦闘がほぼ終息し、ウーゾスが休憩を取っていると、ロスヴァイゼから通信が入った。彼女はアルベルトとキーレクトのどちらを選ぶべきか悩んでおり、ウーゾスに意見を求めてきた。
ウーゾスは彼女の性格を理解していたため、どちらを選んでも同じことを繰り返すだろうと考え、適当に聞き流した。ロスヴァイゼは相変わらず興奮しながら話し続けたが、ウーゾスは本に集中し、制圧部隊の作戦終了を待つことにした。
こうして、カイデス海賊団の拠点攻撃は順調に進み、ウーゾスは再び傭兵としての仕事を全うするのだった。
ロスヴァイゼの新たな乗組員探し
ロスヴァイゼが新たな乗組員を探すと宣言した直後、ウーゾスのもとに女豹ことフィアルカ・ティウルサッドから通信が入った。彼女は真剣な表情で「黄緑の羽兜」の正体を尋ねたが、ウーゾスはロスヴァイゼではなく、そのパイロットであるランベルトの名前を挙げた。
フィアルカは、彼の戦果についても確認し、新人とは思えない活躍に驚きを隠せなかった。ウーゾスはランベルトが初陣で敵を引きつけたものの、撃墜はしていないことを伝えたが、実際は失神していたため攻撃できなかっただけだった。
フィアルカはランベルトの実力を評価しつつ、ウーゾスに「後輩に抜かれることを悔しいと思わないのか」と問いかけた。しかし、ウーゾスは昇進に興味がなく、面倒ごとを避けたいと考えていたため、特に気にしていなかった。その態度にフィアルカは憤慨し、通信を切った。
フィアルカの苛立ち
通信を終えたフィアルカは、ウーゾスの無関心な態度に苛立ちを覚えていた。彼女はランベルトを王階級目前の実力者だと思っていたが、実際には新人だったことに衝撃を受けた。そして、そんな才能ある後輩が現れたにもかかわらず、ウーゾスが何の焦りも見せないことに納得がいかなかった。
彼女の執事であるシェリーは、冷静に状況を分析し、ウーゾスが馬鹿にされるのを嫌がっているのか、それとも単に彼を倒したいだけなのかを問いかけた。フィアルカは反論しようとしたが、言葉に詰まり、シェリーは話を切り替えた。
ロスヴァイゼの勧誘失敗
ロスヴァイゼは、より優れた乗組員を探すため、アルベルト・サークルードに接触した。彼女は自らを古代文明の超兵器と紹介し、アルベルトに乗り換えを提案した。しかし、彼はロスヴァイゼの申し出を一蹴し、「ディアボロス号」がある以上、必要ないと断った。
次にロスヴァイゼはキーレクト・エルンディバー大将に接触した。彼女は自身の圧倒的な戦闘能力を強調し、安全を保証すると提案したが、大将もまた拒絶した。彼はロスヴァイゼの信頼性を疑い、万が一彼女の気分次第で乗員が排除される可能性を懸念していた。
二度の拒絶に激怒したロスヴァイゼは、傭兵や軍人の見る目のなさを嘆いた。しかし、彼女はすぐに別の考えを思いつき、次の乗組員として女性や美少年を探すことを決意した。
戦闘の終結とウーゾスの休息
カイデス海賊団の施設制圧作戦は無事に終了し、ウーゾスは作戦報告を聞きながら、ようやく休息を取ることができた。翌日、休日を楽しむために掃除と買い物を済ませた後、定食屋で食事をとり、闇市商店街へ向かった。
彼は友人のゴンザレス・パットソンを訪ね、最新の情報を得るために「噂話」を購入した。パットソンは、ゲート通行料の値下げを巡るデモが過激化し、皇帝に対する屈辱的な要求が出ていることを伝えた。また、このデモの背後には反皇帝派が関与しており、一部の貴族が秘密裏に戦力を集めている可能性があると示唆した。
新たな仕事の選択
ウーゾスは傭兵ギルドを訪れ、仕事を探した。ゲート関連の依頼が急増しており、ローンズはデモが影響していることを説明した。ウーゾスは危険な地域の警備を避け、老朽化したゲート安定装置の交換作業中の警備任務を選択した。
この仕事は48時間の拘束で、報酬は固定24万クレジット。三交代制で、休憩中は管理コロニー外への外出が禁止されていた。地味な仕事ではあったが、ウーゾスは安定した環境で働くことを選んだ。
警備とデブリ回収
仕事が始まると、ゲート周辺の警備だけでなく、デブリ回収作業も求められた。急遽決まった追加作業であったが、ウーゾスの戦闘艇「パッチワーク号」はこの作業に適していたため、彼はデブリ屋と協力して回収作業を行った。
ウーゾスは、ベテランのデブリ屋と息を合わせ、順調に作業を進めた。彼は傭兵の仕事には派手な戦闘だけでなく、こうした地味な仕事も必要であることを理解していた。
仕事は順調に進んでいたが、彼は最後に「何も起こらなければいいが」と思わずにはいられなかった。
警備任務終了後の休息
ウーゾスは8時間の警備とデブリ回収作業を終え、管理コロニーに戻った。船体に付着したポリマーを剥がし、燃料を補給した後、カプセルホテル式の宿泊施設へ向かった。この宿泊カプセルは防音・空調・通信環境が整っており、脱出ポッドとしても機能するものであった。
入浴施設で疲れを癒し、食堂で食事を済ませた後、談話室でテレビを眺めていたが、突如として傭兵同士の口論が響いた。新米の傭兵が「これが傭兵の仕事なのか」と憤りを見せていた。ウーゾスは彼らに関わらないよう、早めに部屋へ戻り、ラノベを読みながら眠りについた。
船を失った新人傭兵の嘆願
翌朝、ウーゾスは駐艇場で船の点検をしていたが、「お願いします!」という懇願の声が聞こえてきた。声の主は昨夜騒いでいた新人傭兵の少女で、彼女は「船を貸してほしい」と頼んできた。
事情を聞くと、彼女の相棒であるフィディクが「海賊を倒してくる」と言い残し、勝手に船を持ち出したという。契約上、傭兵は待機中も緊急時には対応する義務があるため、彼の行動は明らかな規約違反であった。ウーゾスは、同じシフトの自分に船を貸す余裕がないことを伝え、少女は失意のまま他の傭兵に頼みに行った。
デブリ回収作業と少女の処罰
シフトに戻ったウーゾスは、デブリ回収の作業を続けた。次第にデブリの量が減り、作業が順調に進んでいることが実感できた。その頃、少女は船を借りることができず、ゲート管理者と所属するギルドの関係者に叱責されていた。
彼女の相棒があんな無責任な行動を取るにもかかわらず、この依頼を受けたのは、金銭的な理由があったのかもしれないとウーゾスは推測した。
レースチーム「クリスタルウィード」の到着
シフト終了間際、オープン回線から突然の通信が入った。相手は「クリスタルウィード」というプラネットレースチームのコンテナ船で、ゲートを利用するための手続きを求めていた。しかし、彼らはゲートが換装作業中であることを把握しておらず、焦っていた。
ウーゾスは管理コロニーに連絡し、対応を依頼した。クリスタルウィードのチームには、ウーゾスが過去に関わった事件で生き残ったもう一人、スクーナ・ノスワイルが所属していた。彼女はレース界で王子様のように人気のある女性であり、ウーゾスとは事件後にほとんど接点がなかった。
彼らは管理コロニーに留まることになり、コロニー内は有名レーサーの到着に沸き立った。ウーゾスは興味を示さず、風呂と食事を済ませた。
契約違反の処罰と俺様傭兵の失態
その後、管理事務所から怒鳴り声が響いてきた。フィディクが戻ってきたらしく、仕事を放棄したことで厳しく責められていた。彼は反省する様子もなく、「フィノが警備につけばよかっただろ」と開き直ったが、管理者から「君が船を持ち去ったため、彼女は警備に就けなかった」と指摘された。
さらに、彼は「俺は子爵令息だ」と身分を持ち出して抗議したが、傭兵ギルドは「契約時に実家から縁を切られている」と冷徹に言い放った。そこに、スクーナ・ノスワイルが現れ、「貴族は責任を取らない」と皮肉を口にした。
スクーナ・ノスワイルの勧誘
スクーナはウーゾスを庭のベンチに誘い、彼の過去について話し始めた。彼の父が貴族のミスを押し付けられ、会社を辞めざるを得なかったことを調べ上げていた。そして、ウーゾス自身が大学に進学できず、傭兵になったことを問い質した。
彼は「家族が今幸せならそれでいい」と答えたが、スクーナはなおも彼の気持ちを探ろうとした。彼女は最後に「私のチームにスタッフとして来ないか?」と勧誘した。しかし、ウーゾスは「華やかな世界には向かない」と断った。スクーナは残念そうに微笑みながら、「考えておいて」と言い残し、立ち去った。
グリムリープ海賊団の襲撃
翌日、緊急警報が鳴り響いた。グリムリープ海賊団が接近中であり、戦闘要員に出撃命令が下された。ウーゾスも迎撃の準備を進めた。
戦力は大小100隻ほどで、彼らの目的は復讐だった。というのも、フィディクが彼らの斥候部隊を挑発し、撃墜したことで海賊団の怒りを買っていたのである。しかも、フィディクはそれを理解せず、「腰抜けばかりだろうから花火にしてやる」と余裕を見せていた。
ウーゾスは傭兵ギルドに救援要請を出し、ローンズから「軍も動くが到着まで1時間かかる」との返答を受けた。その間、持ちこたえる必要があった。
スクーナの参戦
突然、スクーナから通信が入った。彼女はオレンジのパイロットスーツを身に纏い、「私も参戦する」と宣言した。ウーゾスは「あなたは傭兵ではない」と止めようとしたが、スクーナは「プラネットレースは妨害ありの競技で、戦闘の経験もある」と言い張った。
彼女の乗機は最新鋭の『ストーム・ゼロ』であり、その性能はウーゾスの戦闘艇をはるかに上回っていた。しかし、彼女が負傷すれば、傭兵全員が彼女のファンから報復を受ける可能性があった。ウーゾスは「無茶はしないでほしい」と念を押した。
戦闘開始
その時、オープン回線で海賊の長『黒髭』が通信を入れてきた。彼はフィディクに対し「よくも手下を殺したな」と怒りを露わにした。しかし、フィディクは「ヘボ海賊が偉そうにするな」と挑発し、他の傭兵たちからも「ふざけるな」と罵倒された。
海賊の長は「こいつを引き渡せば引いてやる」と提案したが、傭兵たちは「どうぞ持って行ってくれ」と同意する者が続出した。フィディクは涙声で反論したが、そのまま単独で敵陣に突撃し、戦闘が開始された。
部屋の整理と休日の過ごし方
ウーゾスはゲート警備の仕事から戻ると、部屋の掃除や洗濯、換気、消耗品の補充などを済ませた。その後、ネットを閲覧し、動画鑑賞や趣味のチャットを楽しんだ。翌日は『アニメンバー』で新刊を購入し、古本屋を巡るなど、充実した休日を過ごした。
傭兵ギルドの騒然とした雰囲気
仕事を受けるために傭兵ギルドを訪れたウーゾスは、異様なざわめきを感じた。ローンズから話を聞くと、ロセロ家とグリエント家の間で利権戦争が勃発していた。その原因は、人間国宝の画家が残した一枚の油絵であった。ロセロ伯爵とグリエント男爵夫人の両者が、それぞれ先代当主への贈り物であると主張しており、絵画の本体はグリエント家が所有しているが、ロセロ家は盗まれたと訴えていた。
傭兵ギルドはこのような事態において中立を保つため、両陣営からの依頼を受け、傭兵自身にどちらに付くか選ばせる方式を採用していた。そのため、ギルドは特定の勢力からの恨みを買うことなく、傭兵たちは自己判断で依頼を受けることができた。
熱弁を振るう司教階級の女性
ウーゾスが情報収集を考えていると、傭兵ギルド内に女性の大声が響いた。その声の主は、黄緑の髪を持つ軍服風の装いをしたファディルナ・プリリエラであった。彼女は、ロセロ伯爵が悪であり、か弱い女性であるグリエント男爵夫人を救うために戦うべきだと主張していた。その様子は、まるでウーゾスが以前出会ったユーリィ・プリリエラの女性版のようであった。
ローンズによれば、彼女はユーリィの姉であり、最近司教階級に昇進したという。ウーゾスは、この姉弟とは関わらないほうが賢明だと判断し、依頼の締め切りまで情報収集を進めることにした。
闇市での情報収集
ウーゾスは、情報を得るために闇市の『パットソン調剤薬局』を訪れた。店主のゴンザレスにロセロ伯爵とグリエント男爵夫人の評判を尋ねると、調査には2時間ほどかかるとのことで、ウーゾスは店内でラノベを読みながら待つことにした。
2時間後、ゴンザレスは次の情報を提供した。ロセロ伯爵は領民から慕われており、善政を敷いている。税制も公正であり、人柄は温厚である。体型が小太りなのは甘いもの好きのためで、女性にはモテないが、政治的手腕には問題がなかった。一方、グリエント男爵夫人は贅沢を好み、税金を引き上げて私欲を満たしていた。そのため、領民の評判は悪く、多くの人々が他の星へ移住している。また、彼女は過去に3人の夫と死別しており、現男爵と結婚した翌年に彼も病死していることが判明した。
ウーゾスは、この情報からグリエント男爵夫人側に付くのは危険だと判断した。しかし、完全に決定する前に、さらに情報を精査することにした。
占い師からの決定的な情報
さらなる裏付けを取るため、ウーゾスは繁華街にある『占いビル』を訪れ、水晶玉占い師に相談した。彼女は情報屋でもあり、ロセロ伯爵とグリエント男爵夫人の情報を確認した。
占い師の調査では、ロセロ伯爵は領民から支持されており、平和な統治を行っていた。一方、グリエント男爵夫人は税金を浪費し、さらには戦争の原因となった油絵を盗んでいた可能性が高いと判明した。彼女は財産目当てで貴族と結婚を繰り返しており、今回の戦争も領地の乗っ取りが目的であると推測された。
この決定的な情報を得たウーゾスは、ロセロ伯爵側の依頼を受けることに決めた。
ギルドでの勧誘合戦
翌日、傭兵ギルドに戻ると、ファディルナ・プリリエラとユーリィ・プリリエラが熱弁を続けていた。彼らの影響を受けた者もいたが、冷静に情報を分析した者たちはロセロ伯爵側に付いていた。最終的に、傭兵の参加人数は約600人で、伯爵側が8割、男爵側が2割という構成になった。
ウーゾスは依頼の登録を済ませ、戦闘宙域に向かう準備を整えた。
戦場への出発
戦闘宙域となるナガン宙域へ向かう中、ロセロ伯爵から戦争の背景について説明がなされた。彼は、絵画を奪還するつもりはなく、適切な解決策を模索していたが、グリエント男爵夫人側が戦争を仕掛けてきたため、応戦せざるを得なくなったという。
ウーゾスは、戦闘の準備を整えつつ、配属された傭兵たちの間でロスヴァイゼの活躍が話題になっていることを耳にした。さらに、フィアルカ・ティウルサッドも人気を集めていたが、彼女のアンドロイドメイドが勧誘の接触を完全に遮断していたことも判明した。
グリエント男爵夫人の本性
一方、惑星ヤビョンのグリエント男爵家では、エリザリア・グリエント男爵夫人が執務室でファディルナ・プリリエラと通信していた。彼女は表向きは慎ましく振る舞っていたが、通信が終わると態度が一変し、戦争の勝利と共に領地を手に入れることを確信していた。
男爵夫人は部屋でワインを持ってきたメイドに理不尽な暴力を振るい、領民を売り飛ばして小銭にし、新居を建てる計画を思案していた。彼女の本性は冷酷そのものであり、戦争の目的は領地の強奪と私欲の追求にあった。
戦争の幕開け
こうして、ロセロ伯爵とグリエント男爵夫人の間で繰り広げられる利権戦争が、ついに始まろうとしていた。
戦闘の開始と左翼の活躍
戦闘が始まり、ウーゾスは左翼部隊に配置された。そこにはロスヴァイゼやフィアルカもおり、彼女たちの実力を考えれば、生存率は大きく向上していた。しかし、敵軍はか弱いふりをしたグリエント男爵夫人を守るため、使命感に燃えていた。
戦場では大小数百の艦艇が入り乱れ、宇宙空間に火線が飛び交っていた。敵右翼は機動力が高く、正確な射撃を行っていたが、情報収集を怠り男爵夫人側についた者たちは、連携が取れず、実力も伴っていなかった。結果として、伯爵軍の左翼は優勢を維持し、特にロスヴァイゼの戦果が目立っていた。彼女の圧倒的な機動力と火力により、敵右翼は壊滅的な被害を受けた。
右翼の裏切りと新たな戦略
戦闘開始から1時間が経過し、敵右翼の8割が撃墜もしくは戦意喪失した。これを受け、本隊は三方から敵軍を包囲する作戦を決定。しかし、その直後、右翼部隊の7割が裏切り、伯爵軍の本隊と残りの右翼部隊に攻撃を仕掛けた。
この裏切りはプリリエラ姉弟が仕組んだものであり、敵軍は勢いを取り戻した。これに対し、伯爵軍本部は左翼の半数を右翼の支援に向かわせるよう命じた。ロスヴァイゼはこれに即応し、猛スピードで右翼へ向かった。彼女の後を追うように、多くの傭兵が続いた。一方、ウーゾスは直感的に嫌な予感を覚え、左翼に留まることを選んだ。
プリリエラ姉弟の策謀とロスヴァイゼの介入
敵軍では、ユーリィ・プリリエラが自ら戦闘の指揮を執っていた。彼の計画は、伯爵軍の右翼に送り込んだ潜伏部隊を裏切らせ、敵軍の左翼と同時に攻撃を仕掛けるというものだった。この戦略により、伯爵軍を混乱に陥れ、男爵夫人のための勝利を確信していた。
しかし、そこにロスヴァイゼが突撃し、ユーリィの計画は狂い始めた。彼はロスヴァイゼとの一騎打ちに臨んだが、まったく歯が立たなかった。苛立つユーリィに、姉のファディルナは戦意を煽るが、ロスヴァイゼの圧倒的な技量の前では無意味だった。
敵迎撃部隊の寝返りと戦局の急変
ウーゾスの率いる左翼部隊は、敵本隊への攻撃を開始した。しかし、迎撃に出てきた敵部隊は、これまでとは異なり、訓練された正規兵であり、連携も取れていた。そのため、左翼部隊は前進するどころか、後退を強いられるほどの苦戦を強いられた。
しかし、突然、敵迎撃部隊が自軍本隊に砲撃を開始した。彼らは元々グリエント男爵の私兵であり、男爵夫人の支配に不満を持っていた。そして、ついに家族を人質に取られていた兵士たちが解放され、決起したのである。これにより、敵軍の指揮系統は大混乱に陥った。
男爵夫人の焦りと最終手段
一方、グリエント男爵夫人は戦況の悪化に激しく動揺していた。彼女は家族を人質にしていた者たちを惨殺するよう命じたが、メイドからの進言で、最終手段に出ることを決意した。それは、戦場に仕掛けた惑星破壊兵器『フレア』を起動し、敵味方問わず全てを消し去るというものだった。
しかし、いくら待っても爆発は起こらなかった。動揺する夫人に、メイドは冷静に事実を告げた。実は『フレア』など存在せず、夫人が見ていたものはただの置物だったのだ。この瞬間、メイドの正体が明かされた。彼女は、かつて男爵夫人に父を殺され、命を狙われたリンダ・ボードアルであった。
男爵夫人の最期と戦争の終結
リンダの正体が明らかになると、男爵夫人は逃げようとしたが、執務室に押し入った武装集団に拘束された。彼女は親衛隊に助けを求めたが、ほとんどの兵が逃亡していた。男爵夫人は、最後まで自らの地位と美貌を誇示し続けたが、リンダによって粛清されることが確定した。
戦場では、裏切った迎撃部隊とロスヴァイゼの活躍により、伯爵軍が圧倒的な勝利を収めた。『雀蜂部隊』と呼ばれるエリート部隊が最後の抵抗を試みたが、ウーゾスとフィアルカが彼らを迎え撃った。フィアルカは敵のエースに敗北し、窮地に追い込まれたが、ウーゾスの支援により救出された。その後、敵本隊も降伏し、戦争は終結した。
ロセロ伯爵は、戦いの終結を宣言し、領地と絵画を守った将兵と傭兵たちに感謝を述べた。そして、戦死者の冥福を祈るとともに、領地のさらなる繁栄を誓い、戦争は完全に幕を閉じた。
戦闘後の処理と報酬の支払い
ロセロ伯爵家とグリエント男爵家の闘争は、ロセロ伯爵側の勝利で終わった。本来ならその日のうちに報酬が支払われるはずだったが、処理が煩雑であったため、支払いは二日後に延期された。その日、ウーゾスは傭兵ギルドを訪れ、ローンズから報酬を受け取った。
今回の戦闘では潜入工作が行われたため、ギルドの対応も複雑になっていた。傭兵ギルドは「戦場での行動には関知しない」という方針を取っており、裏切った傭兵へのペナルティは昇級ポイントの半減のみであった。この対応により、裏切った者たちは肩身の狭い思いをしていた。一方、男爵夫人に雇われた傭兵たちは、彼女が捕らえられたため報酬を受け取れず、迎撃部隊の助言により、一律50万クレジットが支払われることになった。
ロセロ伯爵に忠誠を誓った者たちには、基本報酬300万クレジットに加え、50万クレジットのボーナスが支払われた。さらに、ロスヴァイゼには追加で50万クレジットが支払われ、総額400万クレジットを受け取った。戦死者の報酬は遺族や指定された人物へ渡され、遺族がいない場合はギルドが接収した。
プリリエラ姉弟の運命と男爵夫人の処刑
プリリエラ姉弟の処遇も決定された。弟のユーリィは、戦闘中にウーゾスを殴ったこと以外に問題はなく、特に罰せられることはなかった。しかし、姉のファディルナは、ギルド幹部を懐柔し、不正に昇格していたことが発覚。逮捕される直前にギルドの船を盗み、逃亡した。彼女の行動により、ユーリィは周囲から白い目で見られることになった。
一方、男爵夫人は、これまで何度も結婚と殺害を繰り返していたことが発覚し、中央政府からも犯罪者と認定された。彼女の処刑は間近であり、男爵側にいた犯罪者や海賊たちは捕らえられ、警察に引き渡された。
ウーゾスとフィアルカの再会
報酬を受け取ったウーゾスがギルドを後にすると、フィアルカとそのメイドが待ち構えていた。彼女は、戦場で救われたことに対する感謝を伝えた。ウーゾスはそれを受け流しつつも、彼女の礼儀正しさに若干の驚きを覚えた。
その後、フィアルカは彼が司教階級に昇級しない理由を問いただした。ウーゾスは、貴族社会における平民への理不尽な扱い、見た目への偏見、昇級後の嫌がらせを避けるためだと説明した。また、彼には出世欲がなく、指示や作戦立案を苦手としていたため、階級が上がることに興味がなかった。
フィアルカは納得しつつも、彼の実力を正当に評価する者が現れることを伝えた。ウーゾスはそれを否定したが、彼女の言葉にはある種の確信が込められていた。
謎の組織と「土埃」の存在
その頃、某所では「雀蜂部隊」の戦いについて語られていた。彼らの目的は、エリザリア・グリエント男爵夫人を失脚させ、ロセロ伯爵との関係を強化することにあった。そのため、初めから伯爵を撃破する意図はなく、戦局を調整していたようだった。
戦闘では、若きパイロットが「土埃」と呼ばれる機体に敗北していた。彼は悔しさを滲ませていたが、指導者は「敗北は未熟さの証」と諭し、さらなる精進を促した。彼らはまだ影で動いており、戦局の鍵を握る存在であった。
特別編 私のお嬢様
ティウルサッド家への仕官
シェリーは製作者によって生み出されたのち、動作確認を受け、保存用カプセルに入れられた。次に起動した際、彼女の目の前にいたのは若い男女二人であり、彼らこそがティウルサッド子爵家の当主と夫人であった。
二人は廃墟の倉庫でシェリーを発見し、彼女が製作された時代の人々が既に寿命を迎えていることを知った。その後、子爵家に仕えることとなり、家事遂行・育児・要人警護のプログラムが搭載されていたこともあり、正式に使用人として受け入れられた。
一年が経過する頃には、子爵家の人々や使用人たちに受け入れられ、信頼を得るようになった。そして、夫人が懐妊すると、彼女は生まれてくる子の専属メイドを任されることになった。
フィアルカの誕生と専属メイドとしての決意
夫人の出産予定日、無事に女の子が誕生した。当主はその喜びのあまり騒ぎすぎ、病院の看護師から厳しく叱責されたという。この話は今でも夫人にからかわれることがある。
生まれたばかりのフィアルカを抱いた瞬間、シェリーは彼女こそが仕えるべき主であると直感した。その理由は不明だったが、それ以降、彼女の専属メイドとして仕えることとなった。
フィアルカが言葉を話し始めた頃、当主と夫人は使用人たちに「娘が悪事を働いたり、理不尽なわがままを言った場合には叱ることをためらわないように」と伝えた。さらに、成長に応じて体罰も辞さない姿勢を示し、使用人たちを驚かせた。
当時の帝国法により、貴族の権限は縮小されていたが、貴族の意識はすぐには変わらなかった。そのため、貴族の子供を叱ることは依然として慎重さを要する行為であった。しかし、夫人の説得により、使用人たちは娘の教育に協力することを決意した。
その結果、フィアルカはしっかりとした躾を受け、周囲に対して礼儀正しく接するようになった。彼女は食事を作ってもらえば感謝を述べ、お願い事をする際には必ず礼儀を尽くす、心優しい人物へと成長した。
フィアルカの我が儘と伯爵令嬢との対立
フィアルカが小学一年生の時、彼女のクラスメイトである伯爵令嬢がシェリーを自分のものにしようと企てた。彼女は父親の権力を利用し、ティウルサッド家を取り潰すと脅したのである。
この件が問題となり、シェリーはティウルサッド家に迷惑をかけないため、伯爵家へ向かう決意を固めた。しかし、フィアルカは彼女の左手の甲に自分の名前を書き、「絶対に渡さない」と涙ながらに訴えた。
その様子を見た当主が伯爵家に連絡を入れたところ、伯爵本人も娘の行動を知らなかったようであり、彼女を厳しく叱責した。どうやら彼女は厳しい教育を受ける環境にあり、シェリーを守護者として迎え入れたかったようであった。
伯爵家は正式に謝罪し、伯爵令嬢もフィアルカに謝罪した。しかし、翌日、学校に迎えに行くと、フィアルカは頬を腫らしていた。理由を尋ねると、伯爵令嬢と再び口論となり、互いにビンタを張り合ったという。最終的には教師に叱責され、二人とも処分を受けた。
その伯爵令嬢、マイカ・フィーニダスとは現在も交流が続いている。なお、フィアルカがシェリーの手の甲に書いた名前は、中学入学前まで消されずに残っていたが、彼女の強い要望により、最終的に消すことになった。シェリーにとって、それは惜しい決断であった。
同シリーズ

その他フィクション

Share this content:
コメントを残す