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どんな本?
異世界のんびり農家とは、内藤騎之介氏による日本のライトノベル。
小説家になろうにて連載されており、書籍版はKADOKAWAから刊行されている。
また、剣康之氏が作画をしている漫画版もあり。
月刊ドラゴンエイジにて連載されており、現在は11巻まで発売されている。
また、異世界のんびり農家の日常というスピンオフ作品もあり。
こちらの作画はユウズィ氏が担当している。
アニメ版もあり。
アニメ版は全12話。
2023年1月6日から3月24日まで放送された。
各話のタイトルやあらすじは[こちら]。
物語は、闘病の末に死んだ男性・火楽が、神によって異世界に転移し、農業生活を送るというもの。
彼は神から「万能農具」という特別な道具を授かり、死の森と呼ばれる危険な場所で農地を開拓していく。
そこで出会った吸血鬼や天使、エルフや竜などの様々な種族と交流し、やがて「大樹の村」というコミュニティを作り上げていく。
作品の特徴は、タイトル通りの「のんびり」とした作風であり、戦争や陰謀などのトラブルに巻き込まれるような展開は少なく、主人公が農業や料理を楽しんだり、仲間や家族と触れ合ったりする日常が描かれている。
また、主人公が前世で得た知識や技術を活かして異世界の文化や産業に革新をもたらす場面もある。
18巻の概要
学園で開催されるお祭りの手伝いに向かう村の住人たち。五ノ村では新たに白鳥レースが始まり、村全体が賑わいを見せる。一方、冒険者として活動するウルザは、不思議な出会いを経験する。慌ただしさの中にも、のんびりとした大樹の村の日常が描かれる。
主要キャラクター
• ヒラク:主人公であり、異世界で農業を営む男性。万能農具を駆使し、村の発展に貢献する。
• ルー:魔法を使う女性吸血鬼で、薬草の栽培に興味を持つ。ヒラクの最初の妻であり、息子アルフレッドの母親。
• ティア:「殲滅天使」とも呼ばれる女性天使で、ヒラクの妻の一人。娘ティゼルの母親。
• ウルザ:冒険者として活動する若い女性で、本巻で奇妙な出会いを経験する。
物語の特徴
本作は、異世界での農業とスローライフをテーマにしており、主人公ヒラクが仲間たちと共に村を発展させていく過程が描かれる。新たなイベントやキャラクターとの出会いを通じて、物語に新鮮さと深みが加わっている。特に、白鳥レースや学園のお祭りなど、村の賑やかな日常が魅力的に描かれている。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2025年1月31日
• 判型:B6判/408ページ
• 定価:1,430円(本体1,300円+税)
• ISBN:9784047381988
読んだ本のタイトル
異世界のんびり農家 18
著者:内藤 騎之介 氏
イラスト:やすも 氏
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あらすじ・内容
十九年目もお祭り騒ぎ! 白鳥レースで村は大盛況!
学園で開催されるお祭りの手伝いに行く村の面々!
五ノ村で新しく始まった白鳥レース!
慌ただしくものんびりしている大樹の村はいつも通り。
一方、なぜか冒険者をしているウルザは奇妙な出会いをしていた。
感想
ゴロウン商会の朝とジャッキーの奮闘
ゴロウン商会は忙しい日常を送る商会であり、職員たちは常に自発的に動くことが求められていた。ジャッキーは魔王国の王都にある商会で働く平職員で、幹部を目指す志を持っていた。商会はダルフォン商会と対立する一方で、貴族との関係構築や王都への影響力を強化していた。ジャッキーは細かい積み荷の確認作業に従事し、幹部候補としての資質を見せつけた。
学園の小さな祭りとエリックの任務
エリックはガルガルド貴族学園の生徒で、ティゼルの国作りを手伝うよう命じられた。新たな国は魔王国と人間の国の間に設けられる緩衝国であり、その準備は順調に進んでいた。スタッフ集めや地理調査、祭りの企画といった多様な任務をこなす中で、エリックは幹部候補たちをまとめ上げた。祭りではラーメンの屋台が大盛況であり、特別なブレンドコーヒーやジオラマ展示も行われた。
ゴロウン商会の危機とジャッキーの成長
ゴロウン商会は質の悪い酒を差し入れたことで問題を抱え、会頭マイケルは謝罪のため大樹の村へ向かう決意をした。フレディ支店長は責任を追及され、最終的にジャッキーが支店長代理として同行することになった。ジャッキーは大樹の村の実態を知り驚愕するも、幹部候補としての自覚を持ち、責務を果たす覚悟を決めた。
天使族の憂鬱と悪臭問題
天使族は指揮系統の混乱に直面しており、村長の調停のもとで序列の整理が行われた。一方、温泉地では発酵食品の研究による悪臭問題が発生し、フローラの実験が原因であった。対策として魔法の強化と研究室の改築が計画され、悪臭兵器としての利用も検討された。天使族の指揮系統はティアが代表となり、実務はマルビットが担当することが決定された。
浮遊庭園の拡張と村の発展
四ノ村では浮遊庭園の拡張が進み、農作物の収穫量が増加した。水槽型の浮遊庭園も設置され、水の供給や魚の養殖が計画された。謝罪としてゴロウン商会とダルフォン商会から大量の食材が届き、村はさらなる発展を遂げた。また、村には新たなプールが設置され、住民たちの生活がより豊かになった。
冬の冒険者と氷の魔物
冬が訪れる中、狩猟が進められた。氷の魔物が出現し、村は警戒態勢を取ることになったが、最終的にはウルザによって従者として迎え入れられた。ウルザの帰還により村は再び活気づき、新たな冒険が始まる兆しを見せた。
総括
本作は異世界の農村生活を中心に、商会の対立や国作り、村の発展といった多様な要素が織り交ぜられている。
登場人物たちは個性豊かで、特に本巻ではジャッキーの成長が印象的であった。
天使族の指揮系統の整理や発酵食品の研究といった細かなエピソードも物語に深みを与えている。
全体として、のんびりとした日常の中に緩やかな成長と冒険が描かれ、魅了する一冊であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
序章 ゴロウン商会の朝
ゴロウン商会の繁忙な日常
ゴロウン商会は、常に忙しい商会であった。暇を持て余すことはなく、仕事がなければ自ら探すのが当然であった。商会の一員は指示を待つのではなく、自発的に動くことを求められていた。
ジャッキーの立場と志望
ジャッキーは〝魔王国〟の王都にあるゴロウン商会で働く平職員であった。将来的には幹部になることを目指しており、自身を優秀な候補者と自負していた。しかし、現在の立場はまだ組織の中で慣れ始めたばかりの段階であった。
ゴロウン商会の背景と王都への影響
ゴロウン商会の本部は王都にはなく、〝シャシャートの街〟と呼ばれる港町にあった。商会は貿易を基盤として成長したため、港から離れることはできなかった。一方で、貴族との関係を築くためには王都の方が適していた。かつては王都進出を試みていたが、近年はそうした動きを見せていなかった。その理由は、王都と〝シャシャートの街〟を結ぶ複数の転移門が開通し、両都市間の移動が容易になったためであった。この利便性の向上は商業の混乱を招いたものの、結果としてゴロウン商会の影響力を王都にも拡大させる要因となった。
ダルフォン商会との対立
王都ではダルフォン商会が大商会の連合組織として圧倒的な力を持ち、ほとんどの商人がその影響下にあった。しかし、現在のゴロウン商会は、ダルフォン商会と対等に渡り合う力を備えていた。実際、小麦の買取価格に関する件でダルフォン商会と対立し、ゴロウン商会の会頭は要求を拒否した。その結果、魔王国の内務大臣であるランダンが仲裁に入り、事態は収束したが、ゴロウン商会の名は広く知れ渡ることとなった。
積み荷の確認作業
ジャッキーは仕事に戻り、積み荷のチェックを行うことになった。今回の貨物は食材と酒であり、貴族学園へと運ばれるものであった。しかし、確認すると最上級の酒ではないことに気づいた。指示書には問題なしと記されていたものの、彼は違和感を覚え、記録に残すことにした。幹部を目指す身として、些細な点も見逃さぬ姿勢を貫くことを決意していた。
一章 学園の小さな祭り
学園派閥と新たな任務
エリックへの命令と国作りへの参加
エリック=オーター=ツェゲリアは、ツェゲリア男爵家の三子であり、ガルガルド貴族学園に通う魔族の学生であった。彼は学園最大派閥に属し、アルフレートやウルザの補佐を務めていた。決して優秀と評されるほどではなかったが、堅実な働きぶりで知られていた。
ある日、アルフレートからティゼルの国作りを手伝うよう命じられる。理由は、ウルザやティゼルに対して唯一「非常識だ」と叱った人物だったからである。他の者は見て見ぬふりをするか、一緒になって遊んでいた。
破格の報酬と国作りの目的
エリックは任務への不満を見せたが、アルフレートは追加の報酬として銀貨千枚を提示した。これは彼の実家の帳簿でも見たことのない大金であり、最終的に彼は申し出を受け入れることになった。
ティゼルの国作りは、〝魔王国〟と人間の国の間に緩衝国を設け、人間側との交渉窓口を担うことが目的であった。ティゼルが女王として君臨するわけではなく、あくまで国の枠組みと王都の建設を進める計画であった。
幹部候補の部下化
国作りの準備は、スタッフ集めと情報収集の段階にあった。〝魔王国〟の各地から優秀な人材が派遣され、特に四天王からは幹部候補が送られてきた。しかし、なぜかその十人はエリックの部下という扱いになっていた。本来は彼より立場も年齢も上の者たちであったが、爵位を持つ者もおり、逆らうことはできなかった。
彼はティゼルの指示を彼らに伝える役割を担い、彼らは優秀であったため仕事は滞りなく進んでいた。しかし、なぜ彼の部下になったのかは謎のままであった。
逃亡するパレード実行委員会
同時に、パレード開催実行委員会の招集が試みられていた。彼らは以前、〝魔王国〟で行われた大規模パレードを短期間で成功させた内政官たちであり、国作りにも必要不可欠な人材であった。しかし、元実行委員会のメンバーはこの話を聞くや否や姿をくらませた。
対して、エリックの部下となった幹部候補たちは彼らを捕らえるために私財を投じて追跡部隊を結成。現在もなお、逃亡と追跡が続いていた。
学園とティゼルの協力者たち
エリックも独自にスタッフ集めを進め、アルフレート派閥の学園生徒三十名が参加を表明した。ティゼルもまた、人材を確保していた。一つは人間の国の元公爵令嬢のグループ、もう一つは反魔王勢力のグループである。
彼らはパレードの際にティゼルが見つけ、再就職先として国作りに誘われたという。反魔王勢力の参加にエリックは疑問を抱いたが、彼らはすでに過去の意志を捨て、新たな道を選ぶ覚悟を決めていた。なお、彼らもまたエリックの部下に配されることとなった。
ワイバーンによる地理調査
スタッフ集めと並行して、国の領土候補地の地理調査が行われていた。ティゼルの父が従えるワイバーンたちが空から情報を収集し、その報告をエリックがまとめていた。
ワイバーンに対する恐怖心はあったが、彼らは礼儀正しく、むしろ鉄の森のワイバーンの粗暴さを謝罪してきた。エリックは仕事と割り切り、情報整理を進めていった。
ベルバークの登場と交渉
その最中、ティゼルが新たな人材としてベルバークを紹介した。ベルバークはかつて〝魔王国〟の最前線を任され、「魔王より魔王」と称された伝説的な人物であった。彼の人脈は国内最大級であり、計り知れない魔力量を持つ。
彼はまだ説得されておらず、縄で拘束されていた。エリックは事態の深刻さを理解し、ひとまずアルフレートやウルザに知られる前にトラインの家へ連れて行くことを提案した。
報酬問題と祭りの企画
ベルバークを国作りに参加させる条件として、ティゼルは各地の美味しい食材を集めることを約束した。しかし、これが問題を引き起こした。すでに参加を決めたスタッフたちが報酬格差を不満に思い、エリックのもとには「我々も美味しい物を食べたい」との嘆願が殺到した。
こうした情報は抑えきれず、広まるのは時間の問題であった。この状況を解決するため、トラインが祭りの開催を提案した。特定の人物だけを優遇するのではなく、全員をもてなすことで不満を解消する狙いであった。
ウルザの案に基づいた計画であり、エリックはこれを高く評価した。ただし、時間の見積もりが甘かったため、急ぎ修正に取りかかることになった。また、祭りの準備を進めるにあたり、ダルフォン商会やゴロウン商会の協力も必要であった。
彼らが抵抗する場合は、貴族らしく優雅に、しかし容赦なく銀貨の力を行使することが決定された。
学園の小さな祭り
学園祭の開催
学園では小規模ながらも祭りが開催され、生徒や教師が一堂に会した。その規模は村の祭りと同等かそれ以上であり、決して「小さい」とは言い難かったが、以前行われた大規模なパレードと比較すると確かに小規模といえた。
屋台のラーメン提供
屋台ではオーソドックスな豚骨醬油ラーメンが提供された。準備時間が短かったため、試験的なメニューではなく、大量に用意できるものが選ばれた。麺は太めのストレート麺で、チャーシュー、ホウレン草、コーンをトッピングとして添えた。メンマやノリは必要量を確保できず、使用が見送られた。
学園側が客席を用意し、飲食に困ることはなかったが、箸を使えない客が多く、フォークが不足する事態が発生した。これに対し、学園の生徒たちが食堂からフォークを手配し、問題は解決された。貴族の子弟が通う学園であったが、彼らは思いのほか礼儀正しく、対応も迅速であった。
ラーメンの完売
屋台では三台をフル稼働させ、メニューを一種類に統一することで効率化を図った。その結果、五分で八杯、一時間で九十六杯の提供が可能となり、午前中には用意した二百食が完売した。追加の食材を準備するには時間が必要であり、これ以上の提供は不可能であった。しかし、ティゼルがもてなしたい要人には優先してラーメンが提供され、魔王や学園長など、提供が必須の人物にも行き渡った。
他の屋台の様子
他の屋台も順調に販売を続けていた。《マルーラ》の屋台では従業員による行列整理が的確に行われ、スムーズな運営がなされていた。《クロトユキ》や《甘味堂コーリン》の屋台は、調理不要の品を中心に提供していたため、速やかな提供が可能であった。一方、酒を提供する屋台はすでに宴会場と化していた。午前中にもかかわらず酒が振る舞われていたが、未成年の姿はなかったため問題はなかった。
特別なブレンドコーヒー
アースが運営する屋台では、メイドによる給仕のもと、コーヒーと紅茶のみが提供された。アースの店のコーヒーはブレンドされたものであり、元々は品種を区別せずに栽培していたため、自然と複数の種類が混ざったものになっていた。しかし、ルーとフローラの指導により、最近では品種別に収穫されるようになった。
ジオラマと国作りの計画
催し会場には、大規模なジオラマが展示されていた。これはワイバーンの空中偵察による情報をもとに、トラインとマアが作成したものであった。軍事行動の際に有益な情報を提供するためのものであったが、軍での活用には慎重な姿勢が求められた。
ジオラマの中には、ティゼルが新たに建設する国の予定地が示されていた。その場所は荒野の中央に位置する廃墟であり、過去に魔王国が攻め込んだ後、撤退時に徹底的に破壊された地域であった。そのため、人間の国々が簡単には取り戻せない状態が続いていた。
都市の立地変更
ジオラマを見たエリックは、予定地の交通の便が悪いことを指摘した。特に、人間の国と魔王国の交渉を担う国であるにもかかわらず、アクセスが困難なことは大きな問題であった。これを受け、ティゼルとグラッツはすぐに都市の建設地を変更する決定を下した。
祭りの午後の展開
午後からは外部の参加も可能となり、来場者数が急増した。《クロトユキ》や《甘味堂コーリン》の屋台は瞬く間に完売し、《マルーラ》の屋台も事前に補充を要請していたため、追加のカレーと従業員が転移門を通じて迅速に補充された。
アースの屋台では、貴族たちが涙を流していた。彼らは武装したメイドではなく、普通の給仕をしてもらいたいと嘆いており、注文した通りの飲み物が提供されることに感動していた。
国作り関連の催し
祭りの中では、ティゼルの国作りに関する発表も行われた。具体的な計画や主要スタッフの紹介が行われたが、堅い内容のため、人気は低かった。対照的に、特設ステージでの「死神ごっこ」やジオラマを用いた戦略演習は人気を集めていた。
また、祭りには過激な演説を行う者もいた。彼はかつて一国の内務大臣であったが、汚職の冤罪で追放され、親友と信じていた者の裏切りを経験していた。彼の訴えは過激であったが、周囲の魔族が宥める形で落ち着いた。
新たな協力者たち
ティゼルは国作りの新たな協力者を紹介した。「顔役」と呼ばれる男は元反魔王勢力の指導者であり、組織ごとティゼルの国作りに協力を決めた。彼は自らの名を捨て、「顔役」として扱われることを受け入れていた。
次に、元公爵令嬢エカテリーゼ。彼女はかつてのパレードで見事な演武を披露した女性であり、自身より強い者との結婚を望んでいた。彼女はシールがティゼルの兄妹であると知り、ティゼルの計画に協力することを決めた。
さらに、祭りで過激な演説をしていた元内務大臣も新たに加わった。公私を分ける性格のため、国作りには適任と判断された。
エリックの立場とティゼルとの関係
エリックはアルフレートの推薦でティゼルの補佐を務め、将来的には貴族の執事職を目指していた。落ち着いた性格であり、トラインにとって理想の執事像とされていた。一方で、ティゼルとの距離が近いことが気にかかった。
魔王に確認すると、彼自身も気になっていたらしく、エリックに結婚の予定を尋ねたことがあった。しかし、エリックは激しく反応し、「冗談でも言うべきではない」と怒鳴ったという。この返答から、二人の関係が恋愛に発展する可能性は低いと判断された。
こうして学園祭は盛況のうちに進行し、国作りの準備もまた一歩前進していった。
閑話 泥をかぶる
ゴロウン商会会頭の危機
ゴロウン商会の会頭であるマイケルは、長年にわたり商会の発展に尽力し、〝魔王国〟では二番目の規模を誇る商会へと成長させてきた。人間という立場で成功を収めた彼であったが、人生でも数えるほどしかない危機に直面していた。早朝、〝魔王国〟の重鎮ランダンから「大至急」「緊急」「一大事」「商会存亡の機」と書かれた手紙が届き、事態の深刻さがうかがえた。
ランキング導入の衝撃
手紙を開封したマイケルは、内容を確認し愕然とした。〝大樹の村〟の村長が関わる祭りで、ゴロウン商会とダルフォン商会が質の悪い酒を差し入れたことが問題視され、村長が酒のランキング制度を導入する意向を示したというのだ。
これにより、貴族と平民を交えた投票制度が検討されていたが、それは重大な問題を孕んでいた。人間の国では、貴族と平民が同じ投票制度を持つことは国家の崩壊に繋がる危険があり、不用意な平等化は社会の不安定化を招きかねなかった。また、酒の味にこだわるのは裕福な貴族が中心であり、平民の関心を引くことは難しかった。
マイケルは村長の意向を全て受け入れるのではなく、貴族限定のランキング制度に修正する必要があると判断し、村長と直接交渉する決意を固めた。
商会内の責任追及
オークションの激励を終えたマイケルは、転移門で〝シャシャートの街〟や〝五ノ村〟へ向かう村長たちを見送った。しかし、問題はここで終わらなかった。質の悪い酒を差し入れた責任を明確にするため、王都支店長であるフレディを問い詰めた。
フレディは「キーブル子爵に呼ばれたため、部下に差し入れを任せた」と弁明したが、マイケルは「重要な相手への贈り物は自ら確認すべきだ」と厳しく叱責した。フレディは貴族の呼び出しを断れなかったと釈明したが、マイケルは「どうせ金を貸せという話だろう」と一蹴し、フレディを〝大樹の村〟に同行させることを決定した。
フレディは安堵したが、その直後、村長の護衛について知らされると動揺した。
天使族の脅威
村長を護衛するのは天使族の女性たちであり、その中には天使族のトップであるマルビットとルィンシァも含まれていた。フレディは恐怖に震え、「急に体調が悪くなったので休みを取りたい」と申し出たが、マイケルは「どのような状態でも連れて行く」と断言した。
さらに、マルビットとルィンシァから「ランキングの件はすでに修正されたため、今回は見逃す」と伝えられたことも明かされた。つまり、ゴロウン商会は試されていたのだ。怯えるフレディに対し、マイケルは〝大樹の村〟と学園への謝罪の品を用意するよう指示した。
ライバル商会との協力
マイケルは、ダルフォン商会のリドリーとも接触した。リドリーも村長に謝罪する必要があり、すでにティゼルのもとを訪れていた。彼女はティゼルと関わる中でゴロウン商会との協力関係を築いており、マイケルは商会同士の関係強化について助言を行った。
かつてはダルフォン商会を超えることを目標としていたマイケルであったが、最近は商会間の安定こそが最優先であると認識し、協力体制の構築を重視するようになった。
ダルフォン商会への期待
ダルフォン商会はキアービットの介入により内部が再編成されつつあった。表向きは問題なく運営されていたが、マイケルは内情に不安を抱いていた。しかし、商会の安定は〝魔王国〟全体の安定にも繋がるため、彼は「頑張れ、ダルフォン商会!」と心の中で応援した。
そして、マイケルはある考えに至った。リドリーを〝大樹の村〟に誘うことで、さらなる協力関係を築くことができるかもしれない。彼は、リドリーがこの誘いを喜ぶに違いないと確信し、準備を進めることにした。
閑話 ゴロウン商会のジャッキー
ゴロウン商会支店の混乱
フレディはマイケル会頭に叱責された後、王都支店の倉庫に職員全員を集め、問題の経緯を問いただした。指示を無視した職員は、「最上の酒を在庫からなくすわけにはいかなかった」と弁明し、格の落ちる酒を送った理由を説明した。しかし、フレディは「ならば報告しなかったのはなぜか」と厳しく指摘し、該当する職員を降格処分とした。一方、最終チェックを担当していたジャッキーは異変に気づいて報告していたため、処分を免れた。ただし、彼の担当範囲は量の確認のみであり、酒の種類までは管轄外だったため、責任を問われることはなかった。フレディはこの問題を教訓とし、改めて報告の重要性を職員に説いた。そして、自身がマイケル会頭によって〝大樹の村〟へ招待されたことを告げた。
代理の選定と職員の逃走
フレディは「残念ながら当日は腹痛になる予定だ」と言い、代理を選ぶ意向を示した。その瞬間、職員たちは一斉にその場を離れ、フレディの前にはジャッキーだけが取り残された。逃げ遅れたジャッキーは、フレディに肩をつかまれ、絶対に逃がさないという圧力を感じた。フレディは「君は幹部候補として期待されている」と言い、ジャッキーを代理に指名しようとした。ジャッキーは最初こそ困惑したが、支店長代理としての役目を果たせば、マイケル会頭に覚えられ、昇進のチャンスが巡ってくると考えた。そして、前向きにその役を受け入れようとした。しかし、フレディは急に表情を曇らせ、ジャッキーに〝大樹の村〟についてどれだけ知っているか尋ねた。ジャッキーは「貴族が高値をつける果物や穀物の仕入れ先」としか知らず、それ以外の情報は持っていなかった。
〝大樹の村〟の正体
フレディは悩んだ末、ジャッキーに〝大樹の村〟の実態を伝えた。そこは春のパレードで王都を大混乱に陥れた竜、インフェルノウルフ、天使族の住処だった。フレディ自身も詳しくは知らなかったが、調べるうちに「マイケル会頭だから対応できているだけで、自分には手に余る」と悟った。それでも「黙って会頭の後ろについていれば問題ない」と励まし、ジャッキーを説得しようとした。しかし、その時、マイケル会頭が派遣した使用人たちが到着した。
フレディの逃げ道封鎖
使用人たちは「本日よりフレディさまの体調管理を担当する」と告げ、「〝大樹の村〟への出発まで病気も怪我も許されない」と念を押した。つまり、マイケル会頭はフレディの逃げ道を完全に封じたのである。ジャッキーは「自分は助かった」と安堵したが、フレディは彼を道連れにしようとした。支店長代理は無理でも「同行なら可能なはずだ」と言い、ジャッキーを説得しようとした。ジャッキーは必死に抵抗したが、フレディは彼の肩をつかんで離さなかった。そして、「ゴロウン商会の未来のために」と説得し、ついにジャッキーは頷いてしまった。ジャッキーは、自らの未熟さを嘆きながら、〝大樹の村〟への同行を決意した。
増えた浮遊庭園
投票の危険性と修正
ルーは、貴族と平民を同じ枠組みで投票させることの危険性を指摘した。票差があったとしても、貴族と平民の力の差を数値化することになり、平民が団結すれば貴族を倒せるという認識を持たれる可能性があった。特に、貴族代表の酒と平民代表の酒が競う形になるため、単なる味の評価以上の意味を持ちかねなかった。幸い、マイケルの助言を受けて投票方式は修正されており、大きな問題にはならなかった。ルーも「魔王のほうで上手く調整するだろう」とし、この件については問題なしと判断した。ただし、質の悪い酒を差し入れたゴロウン商会とダルフォン商会には、それ相応の対応が必要だと考えていた。
〝四ノ村〟の拡張と浮遊庭園
ルーは〝四ノ村〟の拡張計画について報告した。浮遊庭園の改造を行った結果、当初の予定よりも規模が大きくなり、数も増えたという。空間の確保には問題がなかったが、畑作りが大変になる可能性があった。しかし、視覚を誤魔化す魔法を常時発動させることで、外見上は太陽城しか見えない状態になっているため、周囲への影響はないと説明した。翌日、〝四ノ村〟へ向かった。護衛として同行したクロの子供たちの中には、高所を怖がる者もいたが、誤魔化しは通じず、後で散歩をする約束をすることで宥めた。
浮遊庭園の視察と用途の検討
〝四ノ村〟の本島は大きく変わっていなかったが、その周囲には大小三十基ほどの円盤が浮かび、景色が一変していた。浮遊庭園の内部はまだ整備中だったが、近隣の円盤や本島とロープや吊り橋で繋がれており、利便性は確保されていた。南側に偏った配置の理由をベルに尋ねると、「万能船の入出港の邪魔にならないように」とのことだった。万能船の船長トウの指示で、視覚を誤魔化す魔法を考慮しながら、安全な配置にしたという。また、北側には巨大な円柱型の水槽があり、貯水用の特殊な浮遊庭園として設計されていた。水が腐らないよう循環機能を備え、万が一の際には他の浮遊庭園に水を供給できる仕組みだった。水槽の底には水草が植えられ、将来的に魚を放つ予定だった。この水槽の存在を知ると、水槽を個人で楽しむための小型版が用意されていることも判明した。ルーが事前に準備しており、魚の展示や水草のレイアウトを楽しめるものだった。
浮遊庭園の利用計画
浮遊庭園の数は大小合わせて三十四基で、そのうち三基が水槽だった。残る三十一基のうち、二十基を畑にし、十一基を〝四ノ村〟の住人のための施設とすることが決まった。畑では主に調味料、果物、コーヒー豆、茶葉などの栽培を行う予定だった。さらに、運動できる場所を確保するため、すべてを畑にするのではなく、一部を住人のためのスペースとして利用することになった。計算すると、浮遊庭園による農作物の収穫量は従来の十五倍に増える見込みだった。しかし、これだけの量を収穫するには人手が足りず、新たな労働力の確保も検討する必要があった。
謝罪としての贈り物と対策
夜、〝大樹の村〟に戻ると、ゴロウン商会とダルフォン商会から酒の件の謝罪として大量の食材が届いていた。海の幸や山の幸が豊富に含まれており、美味しそうな品々だった。しかし、ルーはこの謝罪の品に対して金貨の詰まった小樽を両商会に送り返していた。その理由を尋ねると、「この金で良い酒を造るための資金として活用させるため」とのことだった。こうして、謝罪を受け入れる形でありながら、問題の根本的な解決策として動くよう仕向けたのである。
二章 天使族の憂鬱
春がそろそろ終わりそう
【四ノ村の浮遊庭園の958開発と種々な問題】
村の見回りと四ノ村の市民の反応朝の見回りでクロの子供たちが喜ぶ様子を確認した後、四ノ村に向かう事を考えたが、何も言わず、そのまま進める事にした。四ノ村の浮遊庭園は実用化されており、大量の建築資材が運ばれ、ハイエルフたちが建設を進めていた。城の改修も検討されており、ゴウは「久しく住んでいるため」という理由から修復を希望した。ただ、住んでいるがゆえに不満も生じ、改修と増築も検討された。
浮遊庭園の構造問題水槽となっている浮遊庭園では、リザードマンたちが潜って作業をしていた。ただ、潜りながら大外に近づくと、水がねばねばしくなることが発覚したため、親切な壁をつくることが主張された。しかし、水槽の外見を重視する意見も強く、抵抗があった。結局、まだ決定はされず、後日再検討となった。
耐光性と土質問題耐光性の78確認のため、ニュニュダフネが光量チェックを実施した。結果は問題なしであったが土質に不満が発覚した。これについて、『一部を体験的に考慮して耐光性を何度か再チェックする』という結論に致った。
今後の措置と実行計画『今後の土地利用について、正しい値を導き出す』ことがゴウから打出され、ベルやクズデンと相談して不満を不十分に考慮する事が決定された。そこで、土の質が問題となり、今後、正しい土地の設計を行うことになった。
悪臭事件
リリウスたちの走り込み
朝の村の見回り中、リリウス、リグル、ラテの三人が走り込みをしていた。彼らはかなりの速度で走っており、体力作りの一環として訓練を行っているようであった。そういえば、ハクレンが彼らに課題を出していたが、詳細は聞いていなかった。無理のない内容であることを願いながら、後で確認することにした。
温泉地への移動とクロの子供たちの反応
本日の予定は温泉地での作業であり、〝大樹のダンジョン〟内の転移門を使って移動することになっていた。しかし、その途中には万能船のドックがあるため、高所が苦手なクロの子供たちの気分が激しく揺れ動いた。ドックが見えると足取りが重くなり、温泉地に近づくと再び元気になる。その様子はまるでジェットコースターのようであり、軽やかな足取りは見ていて面白かった。
温泉地と住民たち
温泉地に到着すると、アシュラが出迎えてくれた。アシュラはすでにこの地に馴染んでおり、ライオン一家や死霊騎士たち、さらには転移門を管理するヨルとも良好な関係を築いていた。一方、死霊魔導師は教師として村に通っており不在であったが、ここに研究室を構えていた。ルーやフローラ、ティアが時折訪れ、一緒に実験を行っているらしい。
悪臭問題の発生
温泉地に来た目的は、研究室から発生している悪臭の調査であった。ヨルやライオン一家からの陳情を受け、温泉地の端にある研究室へ向かうことになった。しかし、近づくにつれて強烈な異臭が漂い始め、クロの子供たちが悲鳴のような声を上げた。彼らは何度もこちらを見て「戻ろう」と訴えてきたが、問題の解決が必要であったため、前進することにした。
研究室の異臭と撤退
研究室に到着し、扉を開くとさらに強烈な悪臭が襲ってきた。これまで感じていたものは、あくまで扉の隙間から漏れた臭いであり、扉を開けたことで根源の悪臭がまともに鼻を攻撃してきた。あまりの衝撃にふらつくと、護衛についていた若いクロの子供が悲鳴を上げ、気絶した。すぐに彼を抱え、撤退を決意した。臭いが少しマシな場所に移動し、世界樹の葉を用いて治療を施した。クロの子供は無事に回復したが、研究室の扉を開けたまま逃げたため、温泉地全体に悪臭が広がり始めていた。
死霊騎士による扉の封鎖
再びあの悪臭の中へ戻るのは困難であり、助けを求めることにした。温泉地にはヨル、ライオン一家、死霊騎士、アシュラがいたが、ヨルとライオン一家は被害者側であり、頼るわけにはいかなかった。そこで、臭いを意識しなければ影響を受けないという死霊騎士に扉を閉める役目を依頼した。彼らは無言で頷き、任務を遂行したが、戻ってくると気を失ったフローラを担いでいた。
フローラの回復と悪臭の原因
フローラは研究室に閉じ込められていたらしく、悪臭の影響で気絶していた。しかし、目を覚ますと、すぐに魔法を使い、周囲についた悪臭を取り除いた。研究室内は依然として臭いが充満していたため、対策を講じる必要があった。悪臭の原因について尋ねると、フローラは「発酵食品の研究」と答えた。
魚の発酵食品の実験
村での発酵食品の研究は味噌や納豆、チーズ類が中心であったが、アンやラムリアスの妊娠中は臭いに過敏になるため、実験を温泉地に移したとのことだった。しかし、問題はその発酵食品の臭いが魔法を破るほど強烈であったことである。フローラも「まさか魔法が突破されるとは思わなかった」と驚いていた。
対策と研究室の改築
問題解決のため、まずは魔法の強化が必要であると判断された。さらに、研究室の構造そのものを改築し、悪臭が外部に漏れないようにする計画が立てられた。この件はハイエルフに依頼することになった。また、ヨルとライオン一家には迷惑をかけたことを謝罪することになり、フローラと共に謝罪へ向かった。
発酵食品の試食と新たな問題
後日、フローラから「悪臭の原因となった発酵食品を焼いて食べたら美味しかった」という報告があった。しかし、焼いたことで臭いが倍増し、強化した魔法ですら抑えきれなかったとのことだった。この報告を受け、〝大樹の村〟への持ち込みを禁止することが即決された。フローラは「えええっ!」と驚いたが、臭いの拡散を防ぐためには致し方なかった。
天使族会議
悪臭兵器の開発と実験
フローラの研究から生まれた兵器案
フローラが研究していた悪臭の強い食品を兵器として活用する計画が持ち上がった。冗談かと思われたが、ルーが本気で取り組み、試作品を完成させた。形状は手に持てる筒状であり、紐を引いたり、筒を壊すことで臭いが発生する仕組みであった。
実験と驚くべき効果
試作品の効果を確認するため、村ではなく森の奥地で実験が行われた。その結果、巨大な猪、熊、蛇が一斉に逃げ出し、強烈な威力を発揮することが証明された。ただし、ザブトンたちには通用しなかったものの、クロの子供たちはこの臭いを非常に嫌がることが確認された。ルーはザブトンの子供たちに筒を背負わせようとしたが、それではあまりに危険すぎるため、即座に中止させた。兵器としての実用化や量産化は検討が必要であり、特に臭いを中和する魔法が使えない者にとっては扱いが難しい。結果として、少量のみ作成し、保管は厳重に行うことが決定された。地下室で水没させるほどの慎重な管理が望まれた。
天使族の大会議
天使族の集結
夏のある日、〝大樹の村〟の天使族たちが屋敷に集まり、大規模な会議が開かれた。オーロラ、ローゼマリア、ララーデル、トルマーネといった子供たちを除き、村にいる天使族全員が出席した。円卓を囲む形で会議が進められたが、全員分の席はなく、ティア、グランマリア、クーデル、コローネ、スアルリウ、スアルコウ、マルビット、ルィンシァ、スアルロウ、ラズマリア、レギンレイヴら主要な天使族のみが座り、他の者は少し離れた位置から見守っていた。この会議に、なぜか村長も呼ばれ、席に着かされていた。正統〝ガーレット王国〟に関する話かと思われたが、実際には天使族内の序列についての問題が議題であった。
天使族の指揮系統の混乱
村における天使族の序列は、ティアが最上位であると確認された。彼女は天使族として最初に村へ移住し、村長の妻となり、ティゼルとオーロラの母である。しかし、実際の指揮はマルビットやグランマリアが行っており、統率の実態と序列がかみ合っていなかった。特に問題視されたのは、指揮命令系統の混乱であった。普段の統率はマルビットやグランマリアが担っているが、村長からの指示はティアを通じて伝えられるため、正確なニュアンスが変わることがあった。また、天使族の行動結果の報告もティアが一括して受けるため、当事者たちは自らの判断が適切だったかを確認しづらい状況に陥っていた。
ティアの態度と本音
天使族の不満の核心は、ティアが指揮を執らずに悠々自適な生活を送っていることであった。そのため、この問題を正式に話し合うための大会議が開かれたが、ティア本人は会議中に眠っていた。マルビットが「本日の会議を終了します」と宣言すると、ティアは即座に目を覚まし、「有意義な会議でした。各自、励んでください」と堂々とした態度で締めくくり、退出しようとした。しかし、ルィンシァに捕まり、再び席に戻されることになった。ようやく状況を把握したティアは、村長の参加を聞いていなかったことに驚き、「騙したな!」と怒ったが、マルビットに頭を下げられ、村長が調停役を務めることとなった。こうして、本格的な天使族の指揮系統の整理が始まることになった。
天使族の序列と指揮体制の再確認
天使族の指揮系統の整理
大会議では、まず〝大樹の村〟における天使族の序列が再確認された。天使族の代表はティアであるが、実際の指揮はマルビットが正式に代行することが決定された。そのため、村長が天使族全体に指示を出す際は、マルビットを通す形となる。ただし、ティアとマルビットの意見が対立した場合、ティアの意見を優先するが、村長の直接の指示がある場合はマルビットを優先することとされた。また、マルビットの下における組織体制に変更はなく、天使族の長としての役割もそのまま継続された。
天使族の仕事と課題
天使族の基本的な仕事は上空からの警戒であるが、人数が増えたことで余裕が生じていた。余裕があることは重要だが、働いている姿が見えにくいことで、村のほかの種族からの視線が気になるという課題も指摘された。特に、新しく村に加わった天使族は、しっかりと働く姿を見せることが求められた。最近の収穫作業では、天使族も積極的に参加したものの、経験不足のために足を引っ張る場面が多かった。この点については、他の種族に協力を仰ぎながら、徐々に仕事に慣れていく方針が示された。
魔族からの反発と天使族の今後
〝魔王国〟内では、天使族に対する魔族の反発が依然として強かった。予想通りの展開ではあったが、緩和の兆しは見られず、マルビットたちは対応に苦慮していた。当初は、王都のティゼルのもとや〝五ノ村〟、〝シャシャートの街〟に天使族を文官として派遣する計画があった。しかし、現状では天使族が公然と活動できるのは〝五ノ村〟が限界であり、その他の地域では変装が必要となる状況であった。戦争の歴史を考えれば、お互いに責任があるため仕方がないというのが天使族側の認識であった。ただし、時間の経過だけでは解決しないことも理解しており、〝魔王国〟に貢献できる機会を長期的に待つ方針が取られた。
オーロラの育成計画
最後に、天使族の指揮を将来的にオーロラへ引き継ぐ計画が提案され、それに向けた教育が決定された。しかし、オーロラはまだ幼く、本人の意思が確認されないまま決定が進められたことに村長は異議を唱えた。この反応を抑えたのは、母であるティアであった。彼女は「教育と称して、孫を甘やかしたいだけ」と発言し、ルィンシァの無言の動揺がそれを裏付けた。結果として、村長はこの方針を受け入れ、大会議は終了を迎えた。
プールを増やす
双子の護衛とプールの建設
スアルリウとスアルコウの護衛任務
最近、村長の護衛にスアルリウとスアルコウがつくことが多くなった。天使族の増加に伴う仕事の専門化が進んでいるのかもしれない。クロの子供たちやザブトンの子供たちもいるため、二人が加わったところで特に違和感はなかった。ただ、双子であることを活かしたネタを披露することが多く、村長は反応に困る場面が増えた。
〝二ノ村〟のプール建設
村長はスアルリウ、スアルコウを引き連れ、〝二ノ村〟へ向かった。ミノタウロス族が大量の褒賞メダルを差し出し、プールの建設を依頼してきたためである。〝大樹の村〟のプールも利用可能だったが、彼らは体が大きく、自由に泳ぐことで周囲に迷惑をかけるのを避けたいと考えていた。このため、彼ら専用のプールを造ることが決定された。褒賞メダルの提供があったため、建設に問題はなかった。夏場はプールとして、その他の季節ではため池として利用する予定である。村長は『万能農具』を使い、長辺四十メートルのプールを掘り完成させた。監視員の確保も考慮し、広さはこの程度に抑えた。
〝三ノ村〟の水浴び場
続いて、村長は〝三ノ村〟へ移動した。ここでもプールを求められたが、ケンタウロス族の目的は水浴び場としての利用だった。ケンタウロス族は泳げるものの得意ではなく、長時間水に浸かると蹄が傷むため、積極的に泳ぎたくはないという。グルーワルドは「戦場に行く者は生存のために泳ぎを学ぶが、それ以上の習熟は求められない」と説明した。しかし、夏場の暑さをしのぐために水に入りたいという要望はあった。そこで、プールの設置が決まり、褒賞メダルが差し出された以上、断る理由はなかった。村長は『万能農具』を使い、プールを掘り終えた。安全対策を万全にするよう伝え、次の目的地へ向かった。
〝一ノ村〟の対応
〝一ノ村〟の村長代行であるジャックに、プールの必要性について尋ねた。ジャックは「〝大樹の村〟のプールを利用できる上、村の子供たちはまだ小さいため不要」と答えた。また、村には護衛としてクロの子供やザブトンの子供たちがいるが、彼らは外部の魔獣や魔物への警戒が主な役割であり、子供の遊泳を監視する余裕はない。そのため、プールを設置すると事故のリスクが高まるとの懸念があった。そこで、村長はビニールプールの代替として、小型の浮遊庭園を各村に配ることを考えた。ルーに相談したところ、すでに予定の数より多く用意されていた。「必要になると思っていた」とのことで、準備の早さに感心した。また、鬼人族メイドたちが生け簀の拡張を望んでいることもあり、彼女たちにもいくつか配ることにした。
新たな薬草畑の発見
ルーは水槽の提供の代わりに、薬草畑での協力を求めた。村長はすでに新しい薬草畑を用意しており、王都のオークションで見せてもらった希少な薬草を栽培していた。その薬草は夏に花が咲き、葉と根が薬になるが、花には毒があるという特徴を持っていた。ルーは「まさかエリグンジャーでは?」と興奮した。実際に村長が用意した薬草畑を見ると、一面にエリグンジャーの花が咲き誇っており、ルーは小躍りして喜んだ。
エリグンジャーの価値
エリグンジャーは万能薬草とされるが、世界樹の葉には劣る。世界樹の葉はそのまま使用できるが、エリグンジャーは薬にするまでの調理や調合が必要で、完成までに百日以上かかる。そのため、代用品や劣化品と見なされることが多かった。しかし、それでも希少価値は高く、生の状態なら金貨五枚、乾燥状態でも金貨二枚の価格がつくほどの高級品である。栽培に成功した例はほとんどなく、研究者が一生を費やしても結果を出せなかったほどの貴重な薬草だった。ルーは「世界樹の葉と比較するのが間違いなだけで、薬学的には非常に価値がある」と述べ、研究の意欲を燃やしていた。
薬草研究と共有
ルーは「世界樹の葉を超える薬をこの手で作り、薬学の歴史を進める」と意気込んでいた。しかし、村長は「独占せず、ティアやフローラとも共有するように」と釘を刺した。また、イフルス学園への提供についても確認し、村長は快諾した。ルーは「ありがとう」と感謝し、研究に励む決意を新たにした。村長はルーの喜ぶ姿を見て満足し、忘れないうちに各村に水槽になる浮遊庭園を配ることにした。薬草の話が続くと、重要な仕事を忘れかねないからである。
双子の護衛と新たなネタ
スアルリウとスアルコウの期待
ルーが喜ぶ様子を見守る村長の横で、護衛を務めるスアルリウとスアルコウが視線を送ってきた。「私たちにはなにかないのですか? 私たちも頑張っていますよ」と訴えるような表情であった。
双子芸人のネタの伝授
二人の努力に応えるため、村長はテレビで見たことのある双子芸人のネタを教えた。スアルリウとスアルコウがまだ思いついていないネタであり、テレビではそれなりに評判がよかったものだった。これならば、すべることはないと判断した。
天使族の反応
後日、天使族の間でそのネタは大いに受け、大爆笑を誘った。スアルリウとスアルコウは満足気な笑顔を見せており、村長は二人の喜ぶ姿を見て安心した。
三章 競う白鳥
とある夏の日
夏の日の穏やかなひととき
祖母と孫の編み物
朝食後、屋敷の涼しい部屋でルィンシァとオーロラが編み物をしていた。祖母と孫の微笑ましい交流であったが、その傍らではザブトンの子供たちが猛烈な速さで編み物をしていた。オーロラはその技術に目を奪われ、ルィンシァの翼は僅かに震えていた。そこで、ザブトンの子供たちを誘い、庭で遊ぶことにした。
縄跳びとザブトンたちの妙技
中庭ではダブルダッチが行われた。ザブトンの子供たちは基本を教えられるとすぐに習得し、見事な動きを披露した。単に跳ぶだけではなく、リズムや構成に工夫を凝らし、複数匹で跳ぶ技も見せた。その中にマクラが加わり、素早いステップで軽やかに跳び、さらに自身で縄を操る技まで披露した。これに続き、ザブトンも参加し、回転する縄の中で静止するような動きを見せるなど、圧巻のパフォーマンスであった。村長はその妙技に驚嘆しながら、二時間ほど彼らと楽しんだ。
ククルカンと空飛ぶ絨毯
昼食後、最近空飛ぶ絨毯の姿を見かけないことに気づいた。その理由は、ククルカンに気に入られてしまい、常に掴まれているからだと判明した。ククルカンが手放さないため、洗うことすら許されず、空飛ぶ絨毯は涎まみれの状態であった。ブルガから「洗おうとするとククルカンさまが怒る」と聞き、仕方なく様子を見ることにした。また、スティファノの姿が見えなかったため理由を尋ねると、ヒカルとヒミコの世話を手伝っていると判明した。彼らの世話は仕事の一環であり、ようやく役目を得たことに喜びを感じているらしい。村長は、何か困ったことがあれば遠慮なく相談するよう伝えた。
妖精女王とカキ氷
おやつの時間になると、妖精女王が甘味を求めてやってきた。鬼人族メイドたちがサクラとラムナの世話に忙しく、作る余裕がなかったため、村長が代わりに用意することにした。夏らしくカキ氷を選び、イチゴのシャーベットやアイス、ジャムをトッピングして仕上げた。妖精女王がカキ氷を食べていると、プールから戻った子供たちが「いいなー!」と羨ましがったため、すぐに小さいカキ氷を作ることにした。ただし、過去に食べ過ぎてお腹を壊した例があったため、少量にするよう注意を促した。さらに、夕食が入らなくなることも指摘すると、子供たちは納得した様子であった。
夕食のライブキッチン
夕食では、鬼人族メイドたちが水槽の魚を取り出し、その場で捌いて提供する「ライブキッチン」の形式を取り入れた。これはラーメン店の人気の秘密を研究した結果、考案された方法であった。魔王も興味を示し、「貴族たちに披露すれば喜ばれそうだな」と感想を述べた。そして、提供された刺身を食べると、「美味い!」と満足げに微笑んだ。村長も一口食べ、その美味しさを実感した。
静かな夜
一日の終わりを迎え、夜のことは考えず、ただ穏やかに過ごした。今日もまた、のんびりとした一日であった。
料理文化への評価
料理文化団の成果と新たな挑戦
新しい調味料と植物の栽培
料理文化団は新たな調味料の原料となる植物の採取を開始した。〝五ノ村〟で入手可能なものはそのまま利用されたが、それ以外のものは育成が必要とされた。特に珍しい植物が集められ、〝四ノ村〟の空中庭園にて栽培が試みられた。ビニールハウスのような環境を提供できることが選定理由である。万能農具の力を活用し、短期間で成長させた結果、ユリのような花や変わった形のバラ、ダイコンに似たカブなどが育ち、今後の活用が期待された。
調理器具の収集と再現
料理文化団が持ち帰った調理器具の多くは実用的であったが、現代のものと比較すると不便な点も多かった。器具も進化するため、古いものが必ずしも優れているとは限らない。一部の器具は現物を持ち帰れず、記録のみとなった。これらの再現のため、〝五ノ村〟の鍛冶師たちが試作を行った。しかし、実用性に差があり、拷問器具と調理器具を混同する場面も見られた。中には処刑用器具の可能性を指摘されたものもあり、関係者は困惑した。
料理文化団の評価と今後の方針
料理文化団の活動は村長やヨウコ、文官娘衆によって評価された。結果として、投資額に対する成果はやや不十分とされた。美味しい料理の発見が少なかったことが主な要因である。ただし、活動自体は継続が決定し、各地の料理の調査が続けられることとなった。また、調味料や調理器具を展示する施設の建設が計画され、無料で見学可能な形にする予定である。さらに、定期的な食事会の開催も検討された。
秋の味覚とさつまいも焼き
秋の晴れた日に、村の外れでさつまいもを焼く催しが開かれた。収穫は夏の終わりに行われたため、時期的にはやや早かったが、十分に美味しく食べられる状態であった。最初はクロとユキだけがいたが、いつの間にかクロの子供たちやザブトンたちが集まり、さらにはルーやティア、リアたちも参加した。急遽追加の薪が用意され、大規模な焼き芋会となった。結果、多くの者が秋の味覚を楽しむ機会となった。
白鳥レースのグッズ販売の拡張
ヨウコの提案により、白鳥レースのグッズ販売を〝五ノ村〟の認可制事業とし、他の店舗でも販売が可能となった。村長自身の店には《クグイ》という名称が付けられた。これは白鳥の古い呼び名から取られたものであり、オデットとオディールもこの名称に同意した。新たに鴨やアヒルのぬいぐるみも販売され、ショーやレースで活躍した彼らの人気向上にも寄与した。ただし、直接的な報酬とはなりにくいため、別途食べ物を差し入れることが決まった。また、山エルフが製作したポーズを変更できる白鳥の人形も販売された。ただし、数が少なく不定期の入荷であるため、即売り切れるほどの人気を誇った。
魔王の白鳥人形と通しナンバー
〝大樹の村〟に戻った村長は、魔王からポーズを変更できる白鳥の人形を自慢された。足には通しナンバーが刻まれ、一桁の若い番号であった。魔王は偶然、白鳥レースの観戦時に販売のタイミングに立ち会い、購入できたらしい。部下たちに見せる機会を作っていたため、村長の元へ持ってくるのが遅れたとのことだった。村長は自室の戸棚に、自身が受け取った白鳥人形を確認し、その足のナンバーを見て、山エルフたちの気遣いを感じ取った。彼らに対して、何らかの形で感謝を示すことを考えることとなった。
閑話 職人
豆腐職人の仕事とこだわり
〝大樹の村〟の森の中に、ハイエルフのラーサが営む豆腐小屋があった。湧き水が豊富なこの場所で、彼女は毎朝豆腐作りに励んでいた。前日から水に浸した大豆を潰し、丁寧に混ぜる。加熱して豆乳とおからに分け、にがりを加えて型に流し込み、重しを乗せて完成させた。この作業を繰り返し、一日に五十丁から百丁の豆腐を作り上げていた。彼女の豆腐は〝大樹の村〟をはじめ、〝一ノ村〟から〝五ノ村〟まで運ばれた。出来たての味を保つため、ケンタウロス族の輸送隊が迅速に届けた。ラーサは豆腐の品質に一切の妥協を許さず、日々変わらぬ手順で作り続けていた。
ジャム職人の作業と妖精女王の試練
ジャム職人の作業は昼食と夕食の間に行われた。今回は、村長が育てたジャム用の酸味が強いイチゴを使用した。大鍋に砂糖とともに入れ、焦がさぬよう丁寧に煮詰めた。しかし、その甘い香りに誘われて妖精女王や妖精たちが現れ、完成を待ち構えた。彼女たちはすぐに手を出すことはなかったが、試食を求めるのは確実であった。職人は毅然とした態度で対応し、完成後は鍋に残った分のみ試食を許可した。出来上がったジャムは鬼人族メイドへ渡され、イチゴ、リンゴ、ブルーベリーなどの人気の品が配分された。変わり種のジャムは好みが分かれたが、職人は「自分に合う味を見つければよい」と考えていた。
ジャム職人の思索とマーマレードの謎
夕食後、天使族のジャム職人は柑橘系ジャムのみ「マーマレード」と呼ばれる理由に疑問を抱いた。明日はどのジャムを作るか思案しながら、一日を締めくくった。
閑話 徴税官
徴税官の過去と〝五ノ村〟への移住
かつて徴税官だった男は、不正を拒み、公正な徴収を行っていた。しかし、それが原因で賄賂を受け取る同僚たちに疎まれ、虚偽の罪を着せられて家族ごと追放された。放浪の末、〝魔王国〟の〝五ノ村〟に辿り着き、家族とともに小物店を営みながら穏やかな生活を築いた。やがて村の税制に疑問を抱き、村議会に自らの知識と経験を活かしたいと申し出た結果、徴税官として復帰することとなった。
〝五ノ村〟独特の徴税制度
〝五ノ村〟の税制は特殊であり、人頭税は大銅貨二枚という破格の安さであった。商売をする者への課税もほとんどなく、徴税の季節である秋になると徴税官たちは姿を隠すのが慣例となっていた。村人たちは税を多く納めようとするが、徴税官には定められた額以上を受け取る権限がなく、過剰な徴収は私腹を肥やしていると疑われる原因にもなる。そのため、徴税官たちは変装し、慎重に職務を遂行する必要があった。
徴税官の苦難と決意
徴税官の似顔絵は村中に掲示され、発見されると高級宿に押し込められ、冬まで手厚い接待を受けることになる。食事も豪華で、徴税官たちは確実に太るため、翌年の徴税期間までに体を戻すことが試練とされた。男は〝五ノ村〟の特殊な税制に戸惑いつつも、この村を愛し、職務を全うすることを決意した。
〝五ノ村〟の収穫
〝五ノ村〟の収穫と税制度
収穫が始まり、大量の作物が倉庫に収納された。〝五ノ村〟の畑は村の所有であり、農作業を行う者は雇用される形で賃金を得た。収穫物の取引も村が管理し、安定した交渉が可能であった。収穫量は想定を超え、倉庫が不足する事態となり、村議会場や屋敷にも一時的に保管された。
収穫量の増加による課題
計画外の収穫量が問題となった。日持ちしない作物の消費が課題となり、商人が転移門を利用して可能な限り購入したものの、限界があった。村議会の食堂や警備隊での消費が求められたが、同じメニューが続くことが士気に影響を与えた。
新たな料理の必要性と対応策
村の代表者は料理のバリエーションを増やすことを決定し、食事の単調さを解消する方針をとった。日持ちしない作物はエルフの里に分け与えたが、返礼品として別の食材が届き、結果として問題の解決には至らなかった。畑の拡張も検討されたが、計画的な運用と柔軟な対応が求められた。
うちの村長は変な事を考える
〝五ノ村〟の徴税問題と対策会議
徴税問題を議論するための会議がヨウコ屋敷の応接室で開かれた。参加者は村長、村長代行のヨウコ、武官筆頭のヒー、文官筆頭のロク、諜報担当のナナであった。村人は税を納めたいと考える一方、行政は税収の必要性が薄く、徴収を抑えようとしていた。
〝五ノ村〟の財政と魔王国への納税問題
〝五ノ村〟は財政が安定しており、魔王国に納税する義務もなかった。ロクは魔王国への納税を検討したが、魔王国側が受け取りを拒否した。納税を受ける以上、〝五ノ村〟に見合った対価を提供しなければならず、それが現実的に不可能であったためである。
現金つかみ取り制度の導入
村長は住人の納税意欲を満たしつつ、徴収を管理するため「現金つかみ取り制度」を考案した。徴税官が発行する木板のチケットを持つ者が抽選機を回し、当たりが出れば現金つかみ取りに挑戦できる仕組みであった。獲得した金額は持ち帰るか納税するかを選択でき、結果的に多くの者が納税を選んだ。
徴税官の負担軽減と新たな問題
徴税官は「色違いのチケット」を用意し、それを持つ者は全額納税となる仕組みとした。ナナは「村長は変なことを考える」と評したが、結果として徴税問題は解決した。使用された木板は山エルフによって新たな用途が研究されることとなった。
終章 冬の冒険者
十九年目の秋の収穫
〝大樹の村〟の現金つかみ取りと収穫の開始
現金つかみ取りの試験運用
〝五ノ村〟での導入に先立ち、〝大樹の村〟で現金つかみ取りの試験運用が行われた。箱のサイズや取り出し口の大きさを調整し、最適な形が模索された。初めは否定的だった天使族も、実際に試すと楽しさを見出し、改良案を提案するほど熱中した。子供向けには飴のつかみ取りが用意され、包装作業の手間は増えたが、子供たちの喜ぶ姿が見られた。最も多くの飴を掴み取ったのは妖精女王であった。
収穫の進行と村々の協力
〝大樹の村〟での収穫が始まり、武闘会に向けた訓練をしていた者たちも作業に加わった。すでに〝一ノ村〟から〝三ノ村〟の収穫は完了しており、村人たちが協力のため駆けつけた。〝四ノ村〟の収穫は遅れていたが、浮遊庭園の拡張と『万能農具』の使用により、収穫量が急増したためであった。さらに、〝南のダンジョン〟からラミア族、〝北のダンジョン〟から巨人族が手伝いに来た。彼らの働きにより、収穫は一気に進んだ。
ゴーレムの活用と箱の自己主張
山エルフたちはゴーレムを用いて収穫を進めた。このゴーレムは大きな人型で、手がクワの形になっており、土を掘り起こす補助をしていた。刃のついた腕に付け替えることも可能だったが、作物を押さえることができないため、草刈り専用の仕様となった。ゴーレムには「四千五十一番」と大きく書かれていたが、その字を書いたのは二歳のトルマーネであった。彼のしっかりとした字の出来栄えに驚かされた。
ライ麦の初収穫とドワーフの活躍
ハイエルフがライ麦の収穫時期を確認するため村長を訪れたが、村長自身は適切な時期を知らなかった。ドワーフたちはライ麦を「クロムギ」と呼び、収穫の適期であると判断し、一気に刈り取った。収穫されたライ麦は通常よりも品質が良く、ドワーフたちは酒造りへの期待を高めた。一方、鬼人族メイドはパン用のライ麦粉の確保を主張し、結果として倍の量を確保することとなった。
収穫と狩猟のバランス調整
クロの子供たちは収穫物を狙う魔獣や魔物への警戒に努めた。収穫が終わると、冬に備えた狩猟が開始され、肉の備蓄が進められた。一方で、狩った魔獣や魔物の皮と骨が倉庫に溢れ、処分に困る状況となった。市場に出せば売れるものの、価格の急落を防ぐため、値下げは控えるよう助言されていた。皮と骨の大量在庫をどう処理するかが今後の課題となった。
魔王の現金つかみ取り参加
収穫作業が進む中、魔王が現れ、子供たちに現金つかみ取りのコツを指導していた。魔王自身も〝五ノ村〟で挑戦し、捕まえられて納税した結果、ランキング三位に入ることとなった。夜になると〝五ノ村〟では、魔王の手法が「魔王の手」として噂になり、ヨウコから報告を受けた。知らぬ者が聞けば恐ろしい技のように思われるが、実際には現金つかみ取りの技術であった。
秋の終わりの審査
〝五ノ村〟の報告会とフライドポテト
〝五ノ村〟の報告会がヨウコ屋敷で開かれた。参加者は村長、ヨウコ、ミヨ、マルビットの四人であった。会議の場には村長が用意したフライドポテトとポテトチップスが並べられ、塩味に加え、ノリ塩、梅塩、マスタードも用意された。ヨウコたちは食べる手を止めず、会議の開始が遅れた。追加のフライドポテトを求められ、村長は調理を続けた。ザブトンの子供たちも食べたがり、さらに量が増えた。ようやく落ち着いたところで、会議が開始された。
炭酸飲料の試作と評価
村長は炭酸入りのレモンジュースを提供した。これはルーが開発した魔道具で二酸化炭素を抽出し、高圧で注入することで作られたものであった。ただし、その魔道具は一台しかなく、大樹の村で炭酸水を作り、各地で味付けする形をとっていた。ヨウコたちは炭酸の刺激に驚きつつも、「奇妙な体験」と評した。甘味が足りないとの指摘があり、砂糖を増やして再提供された。
天使族の私塾と家庭教師の派遣要請
マルビットは天使族が教師役となる私塾を〝五ノ村〟で開いたことを報告した。評判は悪くなく、商人から家庭教師として派遣してほしいとの要望も届いていた。しかし、その要請は〝五ノ村〟や〝シャシャートの街〟の商人ではなく、外部の商人ばかりであった。ヨウコとミヨは、その意図を「村長との繋がりを作ろうとしている」と見抜いた。マルビットはそれを逆手に取り、彼らを利用する方針を示した。村長は「そのような駆け引きが天使族の評判を下げている」と指摘し、慎重な対応を求めた。
〝五ノ村〟の交易船と造船計画
ミヨは、〝五ノ村〟が保有する交易船の数を報告した。大型船三隻、中型船八隻、小型船十六隻があり、すべて商人や〝シャシャートの街〟に貸し出されていた。今後の造船計画について、船大工たちが方針を知りたがっているとのことだった。ヨウコは、「資金には問題なく、船の貸し出し先も確保されているので、今後も造船を継続したい」との意向を示した。しかし、ミヨは「船大工の数が足りず、船員の育成にも時間が必要」と説明し、現状維持が最善とされた。
嘆願書の審査と新たな庇護制度
ヨウコは、大量の嘆願書をコタツの上に積み上げた。内容は「村長の庇護を求めるもの」であり、職業は大工、絵師、料理人、技師、発明家、薬師、魔法使い、小説家など多岐にわたっていた。村長は審査の負担を減らすため、庇護制度にランク制を導入することを提案した。この案は受け入れられたが、最初の審査は村長が行うこととなり、結局、彼は嘆願書の審査に追われることとなった。
子供たちの冬
ミエルとフラシアの追いかけっこ
屋敷の廊下を姉猫のミエルが全力で走っていた。珍しく一匹でいる彼女を追っていたのはフラシアであった。フラシアは「たくましい体型」を好み、ミエルの丸みを帯びた姿に興味を持ったようだった。彼女は見事なフォームで走り、ミエルに迫った。ミエルは追いつかれると察し、村長の体をすばやく登り、頭の上に避難した。そして、フラシアを威嚇しながら村長の頭を叩いて助けを求めた。しかし、村長はミエルを両手で捕まえ、フラシアに差し出した。ミエルは驚愕したが、村長は健康のために「適度に揉まれるのが良い」と考え、気にしなかった。こうして、ミエルは情けない声をあげながらフラシアにかわいがられた。
村に戻らない者たち
大雪が降り、本格的な冬が訪れたが、魔王国の王都からアルフレートたちが戻る気配はなかった。ティゼルは国作りの仕事で忙しく、アルフレート、ウルザ、トラインもその手伝いをしており、村には戻らないと連絡があった。そのため、アサ、アース、メットーラも帰還せず、ウルザがいないことでイースリーの訪問も途絶えた。ゴール、シール、ブロンも戻れなかった。ゴールの妻であるエンデリとキリサーナが妊娠中であり、彼は王都を離れられなかったからである。シールとブロンの妻の妊娠報告はなかったが、二人はゴールに合わせて帰省を控えた。しかし、転移門を利用して五ノ村で何度か顔を合わせていた。ゴールは以前より凛々しくなり、シールは少し痩せていた。ブロンはふくよかになっており、「妻の料理が美味しいから」と語った。村長は「フラシアが喜ぶぞ」と忠告したが、ブロンは笑って受け流した。
壺焼きサツマイモとカボチャの蒸し焼き
昼過ぎ、村長はサツマイモを壺焼きにすることにした。しかし、適した壺がなく、最終的に火鉢を用いた。「火鉢なら壺の一種」と自分を納得させつつ、換気に注意しながら焼き始めた。甘い香りが広がると、すぐに住人たちが集まり始めた。鬼人族メイドたちに焼くよう依頼していたため、妖精女王を先頭に子供たちがやってきたが問題はなかった。さらに、鬼人族メイドたちはカボチャも蒸していた。しかし、それが夕食用であることを知らなかった子供たちはねだり、調理が終わっていないため断られた。落胆する子供たちを見た村長は、新たにカボチャを蒸すことを決め、食糧庫から材料を取りに行った。妖精女王には壺焼きを見張る役を任せたが、彼女は満面の笑みで頷き、その役目を果たした。焼き上がったサツマイモは甘く、美味であった。
リリウスたちの訓練と母親たちの反応
リリウス、リグル、ラテの訓練は続いていたが、武闘会では全敗し、母親たちの意見は変わらなかった。村長は敗因を「ドワーフたちの気迫」にあると考えた。炭酸水を手に入れるために戦ったドワーフたちは試合前から気迫が違い、リリウスたちは圧倒されていた。しかし、母親たちは結果を重視し、外出はまだ早いと判断した。そこで、村長は五ノ村での社会勉強を許可した。ヨウコの下で働き、警備隊の戦闘訓練にも参加することになった。ただし、護衛がつき、訓練にはハイエルフが監督として同行する条件付きであった。母親たちはこの決定に難色を示したが、「いきなり遠くへ行かれるよりは良い」とルーやティアが説得し、最終的には納得した。村長は「リリウスたちの試練であると同時に、母親たちの子離れの訓練でもある」と考え、最終的な判断はリリウスたち自身に委ねるべきだと思った。
ヨウコとミヨの人材獲得競争
リリウスたちの動きを見たヨウコは、将来的に五ノ村で働かせたいと考えた。それを聞いたミヨは「ずるい」と怒り、「次の世代の子供たちはシャシャートの街で働かせたい」と主張した。村長は「本人の意思を尊重する」としつつ、「次の世代はヒイチロウが該当する」と指摘した。さらに、グラルとライメイレンも同行する可能性が高いことを伝えた。それを聞いたミヨはしばらく沈黙し、何かを考え込む様子を見せた。村長は「彼らがどこで働くかは、まだまだ先の話」と考えつつも、子供たちの成長に期待を寄せた。
凍った水路の問題と対策
冬の日、村の水路が完全に凍結したとの報告が入った。例年表面が凍ることはあったが、今回は底まで凍っていたため、炎の魔法を使い溶かす作業が行われた。また、排水路の凍結により道が水浸しになり、移動が困難になった。リザードマンたちは「アイギスの援軍を頼めないか」と依頼し、村長は了承した。アイギスは報告を受けるとすぐに北の水路へ飛び立った。
氷の魔物の発見と対策
村の北側で氷系の魔物が出現したとの報告があった。コキュートスウルフやフェンリルたちが対応に当たり、一度は交戦して大きなダメージを与えたが、魔物は逃走した。村長は「魔物が村を離れたなら、魔王国の領域に入った可能性がある」と判断し、魔王への連絡を決定した。その後、天使族が各村へ警戒を伝えたが、問題は残されたままであった。
ウルザの帰還と氷の魔物
数日後、ウルザが突然村に戻った。驚く村長をよそに、ハクレンが彼女を抱え込み、しばらく解放されなかった。一方、ウルザが連れてきた氷の魔物は屋敷の玄関前で困惑していた。村長が確認すると、魔物は自らをウルザの従者と認識していると説明した。村長は「ウルザに迷惑をかけないこと」を条件に、魔物の滞在を許可した。
閑話 氷の魔物
氷の魔物アイスの目覚め
アイスはかつて主に仕えていた氷の魔物であった。主の命によって縛られていたが、その主はすでに死亡していた。百年以上待ち続けても命令が届かないため、自由になったと判断し、世界を氷で覆うことを決意した。しかし、目的を果たす前にある村を訪れ、そこで恐るべき存在と遭遇することとなった。
村の脅威に遭遇し、逃走
アイスが訪れた村には、神代竜族、フェニックス、そして蜘蛛の女王がいた。かつて敵対していた存在たちが共存する光景に、アイスは戦慄した。特に蜘蛛の女王とは相性が悪く、フェニックスとは属性的に最悪の関係であった。この場に留まることは危険と判断し、即座に逃走を図った。しかし、フェンリルたちに発見され、追跡されることとなった。
フェンリルとの戦闘と敗北
アイスは氷の精霊王の配下であり、本来はフェンリルたちと敵対する存在ではなかった。しかし、フェンリルたちは容赦なく攻撃を仕掛け、氷の鎧は砕かれ、氷の剣は折られた。長年の消耗によって力を失っていたアイスは、まともに戦うことができず、最終的に命を落としかけた。極限状態の中で心から助けを願ったが、意識を失い、その後の記憶は途切れていた。
迷宮での再生と襲撃
次に気がついたとき、アイスは石造りの建物の中にいた。迷宮の内部と思われる場所であり、周囲にはフェンリルたちの姿はなかった。体を再生しようとした矢先、突然強烈な衝撃を受け、再び砕かれた。その攻撃は「テッザッコー」と呼ばれる技であり、アイスにとって致命的な一撃であった。
主の再会と新たな命令
攻撃を仕掛けた人物を見たアイスは驚愕した。そこにいたのはかつての主、英雄女王ウルブラーザに酷似した女性であった。しかし、その女性は「ウルザ」と名乗った。彼女の魔力を感じ取り、アイスは新たな主として認識した。さらに、彼女と共にいたエカテリーゼという女性もアイスを襲撃していた。ウルザの命により、アイスは周囲の状況を確認することとなり、そこでかつての仲間たちと再会することになった。
かつての同僚たちとの再会
炎の魔物は自らの火で鍋を温め、石の魔物は砕けながらも鍋を支えていた。風の魔物は消えそうになりながら炎の魔物を応援していた。アイスは彼らがかつての同僚であることに気づき、驚愕した。そして、ウルザに対してなぜ攻撃したのかを問いただした。ウルザは「喋れると思わなかった」と弁明したが、アイスはその言い訳に呆れるばかりであった。
迷宮からの脱出計画
現状、炎の魔物は燃料不足で弱体化しており、石の魔物と風の魔物も満足に動けない。回復には土が必要であったが、迷宮内には存在しなかった。そのため、外へ出る必要があった。しかし、ウルザとエカテリーゼは迷宮の脱出方法を知らないようであり、顔を背けた。そんな二人を見ながら、アイスは壁の向こうに土がある可能性を指摘した。すると、ウルザとエカテリーゼは迷宮の壁を砕くことを考え始めた。アイスは迷宮の壁が魔力で補強されているため通常は砕けないと知っていたが、目の前の二人ならば可能ではないかと期待を抱き、静かに見守ることにした。
冒険者エカテリーぜ
公爵令嬢エカテリーゼの新たな道
緩衝国での任務と農業の準備
エカテリーゼは元公爵令嬢であり、元婚約者である王子との対立により母国を離れ、魔王国での生活を模索していた。しかし、新たな環境に適応するのは難しく、資金難にも直面していた。そんな中、人間の国と魔王国の間に新たな緩衝国を設立する計画が持ち上がり、その準備に関わることとなった。彼女に求められたのは農業の下準備であり、畑の配置や水路の設計、作物の選定などであったが、彼女自身は農業の専門家ではなかった。実際には、公爵領で領地経営を担っていた者や開墾経験者たちが期待されていた。それでも、エカテリーゼは何もしないつもりはなく、自らの力で役割を果たそうと決意した。
冒険者としての活動開始
エカテリーゼは、農業の準備が整うまでの間、冒険者として活動することを決めた。彼女の装備は実戦向けに準備され、鉄ハチマキや鉄の手甲、武器としてのこん棒を装備していた。部下たちは彼女の決定に困惑したが、彼女は魔王軍の指揮権を持たない以上、活動の場を広げる必要があると説明した。そして、一人での行動は許されず、五~六人のチームを組むことを勧められたため、ウルザのチームに加わることを決めた。
ウルザのチームへの加入と戦闘スタイルの変化
ウルザのチームには、イースリー、ドロシー、レオノラ、ロキナが所属しており、それぞれ斥候、重戦士、魔法使い、治癒役を担っていた。エカテリーゼの加入により、チームの戦術は変化した。彼女はウルザと共に敵陣へ突撃する役割を担い、二人の連携は驚くほど優れていた。イースリーはその戦闘を「演武のようなコンビネーション」と評し、称賛した。さらに、ウルザはエカテリーゼの武術を短期間で吸収し、彼女と同じ技を使いこなすようになった。
迷宮探索と吸血鬼の館
迷宮の探索中、エカテリーゼとウルザは魔法陣の罠にかかり、転移させられた。そこには黒いフードをまとった者たちが現れ、二人を取り囲んだ。館の主の従者らしき男は、二人に対し「招かれざる客」として対峙したが、ウルザは即座に砂を投げつけ、魔眼を封じた。その男は吸血鬼であり、瞬時に再生する能力を持っていたが、最終的には主に報告すると言い残し逃走した。
黒いフードの者たちとの共存と氷の魔物
迷宮内では黒いフードの者たち、通称「黒黒さんたち」が監視しつつも敵意を示さず、食事や寝床の用意をしてくれた。また、戦闘で倒した魔物の一部がウルザを慕うようになり、炎の魔物や風の魔物、石の魔物が彼女についてくるようになった。探索の途中で氷の魔物と遭遇し、戦闘の末に撃破したが、彼もまたウルザに従うようになった。さらに、彼は迷宮の構造を把握するには「土」が必要だと語った。そこで、黒黒さんたちに土の提供を求め、彼らは困惑しつつも協力した。
迷宮の主との対話と帰還の許可
その後、逃げた吸血鬼が再び現れ、館の主に会うよう求めた。ウルザとエカテリーゼは条件付きでこれを承諾し、案内された玉座の間には、ギィーネルと名乗る吸血鬼がいた。彼は威厳を見せつけようとしたが、直後に背中を攣らせ、従者に「トントンして」と頼んでいた。ウルザとエカテリーゼはその様子に困惑しつつも、彼の話を聞いた。
ギィーネルによれば、この迷宮は千年以上前の城を地下に沈めたものであり、転移魔法陣は防衛機構の一部だったという。彼は迷宮の存在を秘匿するため、訪問者を帰したくなかったが、二人が秘密を口外しないことを条件に帰還を許可した。ウルザは転移魔法の誤作動についても指摘し、再発防止を求めた。ギィーネルはこれを了承し、従者の吸血鬼ロベルトに調査を命じたが、彼は「英雄女王の遺品を利用した」と白状した。ウルザはそれを聞いて顔を曇らせ、エカテリーゼは謝罪を促した。
迷宮からの脱出と今後の展望
最終的にギィーネルは二人を出口まで案内し、黒黒さんたちも見送りを行った。また、炎の魔物や氷の魔物たちも同行することとなり、彼らは新たな仲間として認められた。ウルザとエカテリーゼは、迷宮での経験を胸に秘めながら無事に帰還を果たした。
白鳥レースのある”五ノ村”の生活
白鳥レースと警備隊の役割
レース当日の賑わいと警備の重要性
〝五ノ村〟では白鳥レースが大きな人気を博し、開催日には村全体が祭りのような雰囲気に包まれていた。レース会場へと続く道には屋台が並び、多くの来訪者が食事を楽しんでいた。この盛況に伴い、警備の重要性が増していた。村の治安は比較的良好であったが、外部からの来訪者によるトラブルが絶えなかった。そのため、警備隊員は常に警戒を怠らず、巡回を行っていた。
見回りとトラブル対応
警備隊の巡回ルートは固定されておらず、状況に応じて危険度の高い場所を優先的に見回る方式を採っていた。これは、特定のルートを固定すると悪意のある者がそのルートを避けるだけで済んでしまうためである。見回りの最中、発券場でトラブルが発生した。賭けの配当が変動する仕組みを理解していなかった者が詐欺だと騒ぎ、周囲に迷惑をかけていた。説明を試みたが納得せず、最終的に一人が拘束され留置場へ送られることとなった。こうした問題への対応も警備隊の役割であった。
警備隊の情報交換
昼食時、警備隊員たちは休憩室で情報交換を行った。話題に上ったのは、ヨウコによって連れてこられたハイエルフの子供たちであった。彼らは隊長の指導を受けており、並の冒険者を凌ぐ実力を持つことが判明した。このまま成長すれば、いずれ警備隊の上司となる可能性もあると冗談交じりに語られた。その後、本題となる警備対象の確認が行われた。不審な男がポンドタートルを狙っているとの情報、白鳥に異常な執着を持つ女性の動向など、警戒すべき人物の報告が共有された。また、神社関係者が武装して警備を行っているとの情報もあり、高位の訪問者を守る目的と推測されたが、警備隊との連携不足が懸念された。この対応は上層部に委ねられることとなった。
高額配当と換金所の警備強化
食事を終えた頃、新人隊員が慌てて報告に駆け込んできた。第七レースで三十倍以上の高額配当が発生し、運営から換金所周辺の警備強化を求められたのである。高額配当を得た者は興奮しやすく、トラブルに発展することが多い。冷静に対応すれば問題はないが、実際には多くの者が感情を抑えきれずに騒ぎを起こすことがあった。そのため、警備隊は即座に行動を開始し、換金所周辺へと向かった。今日もまた、警備隊の奮闘が村の平和を支えていた。
食事会?
〝五ノ村〟の食事会と祭りへの発展
食事会の計画と招待者の調整
ゴロウン商会のマイケルが、一部の従業員に〝大樹の村〟を見学させたいと提案した。しかし、文官娘衆の判断により、いきなりの訪問は避け、まずは〝五ノ村〟で顔合わせを行うことが決定された。これを受け、マイケルは顔合わせの場として食事会を提案し、主催側の準備は文官娘衆が担当することとなった。村長の負担を抑えるため、イフルス学園の関係者と〝五ノ村〟の警備隊の招待が提案され、それぞれルーとピリカに相談することになった。また、文官娘衆は〝五ノ村〟の薬草院関係者の招待を、ゴロウン商会はダルフォン商会のリドリーを招くことを提案し、双方の合意のもと進められた。
食事会の開催と予想外の展開
冬のある日、食事会が〝五ノ村〟の麓で開催された。会場には屋台が立ち並び、焚き火やバーベキュー設備も用意されていた。さらに、薬草院の研究発表の場まで設けられ、もはや単なる食事会というよりも祭りの様相を呈していた。文官娘衆によれば、食事会の情報が外部に広まり、多くの者が参加を希望したため、この形になったという。村長は当初驚いたが、大きな問題はないと判断した。さらに、この祭りの背景には、以前ゴロウン商会が提供した酒の品質問題が関係していた。祭りを通じてその失態を払拭し、商会の名誉を回復する意図があったのである。
村長の役割と焼きそば屋台
食事会では村長の手伝いを希望する者が多くいたが、鬼人族メイドたちが譲らず、最終的に村長は屋台で焼きそばを担当することになった。ゴロウン商会の従業員が列整理と会計を担当し、運営は円滑に進められた。村長はラーメンのほうが売れるのではないかと提案したが、文官娘衆はこれを却下した。ラーメンは忙しくなりすぎて顔合わせの時間が取れなくなる可能性があったためである。そのため、適度に客をさばける焼きそばが選ばれた。しかし、村長の作る焼きそばは予想以上に人気を集め、行列ができるほどの盛況となった。結果として、文官娘衆の計画は狂い、後半には泣いて謝る事態となったが、並ぶ客を放置するわけにもいかず、村長はただ謝罪を返すしかなかった。
祭りの成功とその影響
こうして、食事会という名の祭りは無事に終了した。村長が本気を出して作ったイカ多めの海鮮焼きそばは絶品で、多くの者がその香りに引き寄せられた。結果として、村の交流は深まり、商会との関係も良好なものとなった。文官娘衆の計画には誤算もあったが、全体としては成功であり、今後の食事会の在り方にも影響を与えることとなった。
閑話 頑張ったジャッキー
〝五ノ村〟での食事会と驚愕の事実
食事会への参加と記録作業
ジャッキーとフレディは〝大樹の村〟訪問の予定を変更し、〝五ノ村〟での食事会に参加した。その後、転移門を利用して王都へ戻ったのは深夜であったが、休息を取る前に情報の整理を開始した。二人は記録の重要性を理解し、食事会での出来事や発言を紙に残すことにした。関係者の動向、会話の内容、誰と誰が接触していたかを正確に記録することが、商会の戦略を立てる上で不可欠であった。
〝五ノ村〟の料理と〝大樹の村〟の影響力
食事会の料理はどれも絶品であり、〝五ノ村〟が「食の村」と呼ばれる理由が理解できた。食材の供給元は〝シャシャートの街〟であり、さらにその多くは〝大樹の村〟から流れてきたものであった。この構造を考えると、〝大樹の村〟の影響力の大きさは明白であった。また、マイケル会頭が〝大樹の村〟と直接取引をしている点を考慮すると、その手腕の高さが際立った。ジャッキーは当初、〝大樹の村〟訪問の機会を失ったことを残念に思っていたが、フレディから「本当に危険な場所なら、マイケル会頭は生きていない」という指摘を受けた。
屋台の配置と衝撃的な事実
フレディは、食事会の屋台の配置に意味があることを指摘した。例えば、祖母と孫が営む飴屋は、実はエルフ帝国を滅ぼした竜族の店であった。そして、その隣にあったケーキ屋の店主は、滅亡したエルフ帝国の元皇女であった。この配置が示すものは、〝五ノ村〟が強大な存在を従える統制力を持っているという事実であった。竜族とエルフ帝国の遺族が並んで店を構えるほどの影響力を持つ村は、尋常ではなかった。
エリグンジャーと天使族の警備
食事会では、エリグンジャーの鉢植えが無数に並べられ、薬の調合実演が行われていた。この希少な花が大量に揃えられていることは、ゴロウン商会の限界をはるかに超えていた。さらに、エリグンジャーの警備を担当していたのは天使族であり、その全員が通り名を持つ実力者であった。フレディは「これが〝五ノ村〟の規模なら、〝大樹の村〟ではどうなるのか」と疑問を投げかけた。ジャッキーは、その影響力の大きさを改めて認識せざるを得なかった。
食事会の料理と意外な事実
食事会では多くの料理が振る舞われたが、特にラーメンと焼きそばが印象に残った。フレディはラーメンを王都でも提供してほしいと考え、ジャッキーは焼きそばの香ばしさに惹かれた。しかし、焼きそばの屋台にはさらなる驚きがあった。フレディの話によると、その屋台で焼きそばを作っていた人物こそ、マイケル会頭が身だしなみを整え、気合を入れて接していた相手であった。つまり、マイケル会頭が敬意を払うほどの重要人物が、屋台で料理を作っていたのである。
未熟な幹部候補としての自覚
フレディは、ジャッキーを幹部にするためすでに動いており、本部も〝大樹の村〟に積極的に関わる人材を求めていると告げた。ジャッキーは自身の未熟さを痛感しながらも、さらなる成長を誓った。
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