どんな本?
異世界のんびり農家とは、内藤騎之介氏による日本のライトノベル。
小説家になろうにて連載されており、書籍版はKADOKAWAから刊行されている。
また、剣康之氏が作画をしている漫画版もあり。
月刊ドラゴンエイジにて連載されており、現在は11巻まで発売されている。
また、異世界のんびり農家の日常というスピンオフ作品もあり。
こちらの作画はユウズィ氏が担当している。
アニメ版もあり。
アニメ版は全12話。
2023年1月6日から3月24日まで放送された。
各話のタイトルやあらすじは[こちら]。
物語は、闘病の末に死んだ男性・火楽が、神によって異世界に転移し、農業生活を送るというもの。
彼は神から「万能農具」という特別な道具を授かり、死の森と呼ばれる危険な場所で農地を開拓していく。
そこで出会った吸血鬼や天使、エルフや竜などの様々な種族と交流し、やがて「大樹の村」というコミュニティを作り上げていく。
作品の特徴は、タイトル通りの「のんびり」とした作風であり、戦争や陰謀などのトラブルに巻き込まれるような展開は少なく、主人公が農業や料理を楽しんだり、仲間や家族と触れ合ったりする日常が描かれている。
また、主人公が前世で得た知識や技術を活かして異世界の文化や産業に革新をもたらす場面もある。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2020年08月07日
• 判型:B6判/424ページ
• 定価:1,430円(本体1,300円+税)
• ISBN:9784047362055
読んだ本のタイトル
#異世界のんびり農家 08
著者:#内藤騎之介 氏
イラスト:#やすも 氏
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あらすじ・内容
妖精女王の来訪や、フェニックスが新たに登場し、
異世界のんびり農家 08
“大樹の村”はあいかわらず大にぎわい。
そんな村育ちの獣人族の男の子、ゴール、シール、ブロンの三人が
魔王国の王都にある貴族学園に入学することになった。
不安を覚えつつ始まった三人組の学園生活は
上級生に絡まれたり、貴族の親が出てきたりと次々とトラブルが!
火楽(ヒラク)の農業生活もますます発展中!!
感想
新キャラはフェニックスの幼体と妖精女王。
フェニックスは巨人族かラミア族が献上した卵から孵化したようだが、、
何でも食べるから、先ずは部屋にいる蜘蛛を食べようとしたらしく糸で雁字搦めにされて説教され。
子猫に襲われて子猫達が積極され。
子供達に捕まって此方は存分に撫でくり回されてしまい子供を見ると逃げる始末。
結局は世話をする村長とメイド達にだけ上から目線でお世話させてやってる感じになる。
お世話してる側はそれが可愛くて仕方がない。
妖精女王は子蜘蛛の糸に捕まって、友達を紹介してやると言われて酒スライムと出会うが、、
酒スライムが世話をしてたら住民に見つかってしまい、吸血鬼の嫁さんが「薬の素材として良い」と言われガクブル。
((((;゚Д゚)))))))←妖精女王
でも、子供達の情操教育に良いという事で妖精は保護される。
そして、最初の時期に移住して来た幼かった獣人族の男の子達も魔族の学院に通う事になったのだが、、
常識が全く違って、泥縄的に覚えた貴族言葉(物凄く難解)は何とかなったが衣食住の常識は全く我慢出来なかった。
そのせいで寮を飛び出して野外にテントを設置して持っていた調味料で自身で料理をする始末。
さらに家も建てようとするが、木材ギルが談合しており資材が買えない状態。
さらに公爵家のボンボンに喧嘩を売られて、公爵が穏便に済ますために代理人しか認めないと決めたら、獣人族の代理人に魔王様が出て来て一件を収めてしまう。
でも、獣人族の子達は学校に居られなくなって卒業証書をもらってしまうが、、
その後すぐに教員として学院に就職することになる。
さすがは大樹の村の初期の住人。
マトモじゃないww
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
序章 クイーン・グースカピー
蜘蛛の縄張りへの侵入
見覚えのない場所に迷い込んだ者がいた。彼女は世界のほとんどを知っているはずだったが、この場所には心当たりがなかった。さらに、周囲の魔素が酷く澱んでおり、生命が育つ環境とは思えなかった。自身がここにいる理由を考えていると、ふと気づく。ここは蜘蛛の縄張りであった。すぐに逃げ出そうとしたが、すでに蜘蛛に見つかっていた。
蜘蛛との対話
蜘蛛に捕らえられた彼女は、軽く挨拶をしつつ、必死に見逃してもらおうと説得を試みた。しかし、蜘蛛は彼女の言葉に耳を貸さなかった。戦う意思はなかったが、消されるわけにもいかず、彼女はどうするべきか迷った。やがて、蜘蛛は彼女を「友達」のもとへ連れて行くと言い出す。同族ではない、意外な相手だった。
スライムとの出会い
蜘蛛の友人はスライムだった。最初、彼女は半信半疑であったが、蜘蛛が本気でスライムを友達と呼んでいることに驚く。最初は少し馬鹿にした態度をとったが、蜘蛛の怒りを買い、すぐに謝罪した。スライムは普通のものとは違う雰囲気を持ち、魔素の構成も独特だった。さらに、スライムだけでなく、多くの仲間が周囲にいた。彼女が友達だと思った存在は、実は家族だった。その関係性に彼女は羨望を覚える。
村での受け入れ
その後、一行は村に入った。人の住む場所であったが、蜘蛛もスライムも問題なく受け入れられていた。通りかかったハイエルフも蜘蛛に挨拶をし、彼女の存在には気づいているにもかかわらず無視を決め込んでいた。その態度に彼女は若干の屈辱を感じたが、すぐに考えを切り替えた。
食事と休息
空腹を覚えた彼女は甘いものを求め、スライムが取りに行ってくれることになった。その気遣いに感謝しつつ、彼女は蜘蛛とスライムの関係を改めて考えた。蜘蛛は良い友を持っていると感じつつ、自身の今後についても思案する。しかし、今すぐに決めるのではなく、まずはスライムが持ってくる甘いものを待つことにした。
妖精たちの記憶
その頃、妖精たちの思考が彼女に流れ込んできた。村に来たばかりの頃の記憶が蘇る。妖精たちはこの場所を悪くないと感じつつも、自らの使命を忘れていないかと考えた。最近は食事の話ばかりで、何か大事なことを見落としている気がした。しかし、今は眠気に勝てず、再び眠ることにした。ここは確かに悪くない場所だった。
一章 世話のかかる雛
畑の拡張と収穫準備
〝五ノ村〟の食料事情や酒の供給を考慮し、〝大樹の村〟の畑を拡張することになった。作業の開始が遅れたため、今年の収穫は一回のみとなる見込みであったが、やらないよりは良いと判断された。酒造用の畑の拡張についてドノバンに伝えたところ、彼は細かく品種を指定してきたが、特に問題はなかった。
作業を始める前に、見張りを担当するクロの子供たち、収穫を手伝うザブトンの子供たち、獣人族の少女たちの状況を確認した。作物が収穫できない事態は避けたかったが、皆に問題はなかった。ただ、獣人族の少女たちから倉の容量が不足していると指摘され、事前確認の重要性を再認識することとなった。
子供たちとの遊びと教育
作業の合間に子供たちと遊ぼうとしたが、最近、ウルザやグラル、ナート、ティゼルらの少女たちの振る舞いが少々荒々しくなっていると心配されていた。ナートの母親であるナーシィから、遠回しに女の子らしい遊びを取り入れてほしいと頼まれたため、おままごとを提案した。
しかし、ナートが選んだのは「籠城戦」だった。誰がこの言葉を教えたのかを問いただしたところ、過去に自分が木の上の家で話したことが原因と判明し、反省した。仕切り直しとして、おままごとを開始したが、内容は謀反者と人質、それを包囲する兵士たちという戦場のような構成になってしまった。
遠巻きに様子を見ていたアルフレートや獣人族の少年たちも巻き込まれ、新たな人質役として参加させられた。その翌日、ナーシィから正式に「困ります」と言われ、再び反省することになった。
工芸を取り入れた遊び
前日の反省を生かし、今日は工芸を取り入れることにした。木のビーズを紐に通し、暖簾を作るという作業である。これならば遊びとしても成り立ち、親たちにも良い印象を与えられると考えた。
ウルザは彫刻刀に興味を示さず、作業に集中。ナートは可愛らしい作品を作り、アルフレートはルーへの贈り物を製作。ティゼルも小さな作品ながら完成させることができた。ウルザの作品は攻撃的なデザインだったため、「罠や武器には使わないように」と念を押した。グラルはザブトンの子供の手伝いを受けつつ制作し、ギラルへの贈り物にすることとなった。
こうして、しばらくの間、木のビーズの暖簾が各家庭で流行することとなった。
エルフの「人質」受け入れ
リアが〝五ノ村〟へ出張することになった。理由は、友好関係を結んだエルフの集落から「人質」として若いエルフたちが送られてきたためであった。その数、二百人以上。
ヨウコは、彼らを受け入れ、丁重に扱うことで各集落との関係を強化すべきと判断した。結果、エルフたちは〝五ノ村〟で労働力として活用されることになった。彼らの指揮は、樹王と弓王が担当することとなり、エルフの特性を考慮し、まずは同族同士でまとまって行動することが決まった。
しかし、人質としてやって来たエルフたちは「上に立ちたいだけではないのか」と反発。これに対し、樹王と弓王は「すでに上に立っている」と言い返し、大きな口論へと発展した。
この騒動の収拾を図るため、リアが介入。強引ではあったが、全員を殴って沈黙させた。そして、彼らには統率力と協調性を養うための厳しい訓練が課されることになった。
プールと涼を求めて
暑さが増し、プールの人気が高まる中、主人公は屋敷で書類仕事に追われていた。冷風装置を使って涼んでいたが、何か物足りなさを感じ、机の下に水を張った木製タライを置き、足を浸した。
しかし、それを見た酒スライムが飛び込み、床を濡らしてしまった。さらに、タライの中で泳ぎ始め、書類に水をかけるという事態を引き起こした。結果として、アンに叱責され、素直にプールへ行くように言われた。
フェニックスの孵化
ある朝、創造神と農業神の像がある社で、フェニックスの雛が孵化しているのを発見した。バレーボールほどの大きさで、太った鳥のような姿をしており、羽の色はピンクであった。
この雛は農業神の像の上に陣取っており、降りる気配を見せなかったため、強引に地面へ降ろした。再び像に登ろうとしたため、専用の止まり木を作ることを約束し、屋敷へ連れて帰ることにした。
雛の命名と生活
雛は何でも食べたが、特に収穫直前の米を好んだ。さらに、ザブトンの子供たちを狙うそぶりを見せ、彼らとの戦いが勃発。結果として雛は糸で拘束され、敗北を喫した。この出来事を機に、雛にはザブトンの子供たちを襲わないよう厳重に言い聞かせた。
後日、雛に「アイギス」という名前が与えられた。アルフレートが提案したものであり、始祖に由来する神の名であった。雛が雄か雌かは成長しないと判断できなかったため、暫定的に雄として扱われることになった。
ルーからは「フェニックスの羽は高級素材であり、落ちた羽は確保するように」と言われた。これにより、アイギスは自身の存在価値を証明することとなった。
アイギスの鳥小屋と日課
フェニックスの雛であるアイギスは、庭に作られた鳥小屋で寝起きしていた。鳥小屋は四畳半の広さで、天井は二階分の高さがあり、広すぎるようにも思えたが、本人の希望であるため仕方がなかった。出入り口は二つあり、一つはアイギス用、もう一つは人間用であった。アイギス用の扉は内外どちらにも開くように設計され、風でバタつかない工夫も施されていた。
しかし、アイギスは器用にドアノブを回し、人間用の扉を使用。開けた後にきちんと閉める点は賢かったが、なぜわざわざそちらを使うのかは疑問であった。
朝のルーチンと食事
朝、目覚めたアイギスは、庭の北側にある鶏の飼育エリアへ向かった。最も高い鶏小屋の屋根に立ち、一鳴きして存在を主張。しかし、鶏たちは特に気にする様子もなく、普段通りの生活を送っていた。以前、アイギスがエサを狙った際は、集団で撃退されたこともあったが、その後は互いに干渉しない関係に落ち着いていた。
その後、アイギスは屋敷の食堂へ移動し、空いている椅子の背に止まって朝食を待った。専用の止まり木が用意されていたが、使われることはなかった。朝食を担当する鬼人族のメイドも慣れたもので、アイギスに挨拶し、専用の深皿でキャベツの葉とカットされたニンジンを提供。成長期のため、食べ残しは一切なかった。
散歩と縄張り主張
朝食後、アイギスは散歩へ出かけた。飛ぶより歩く方が速いと気づいたのか、上下移動以外は地面を歩くことが多かった。散歩コースは決まっており、まず屋敷の三階を経由して屋根へと上がり、一番高い場所で翼を広げ一鳴き。その後、畑へ向かい、自分専用の小さな畑を丹念に見回っていた。
ザブトンの子供たちとはすっかり親しくなり、害虫の情報を交換する様子も見られた。また、クロの子供たちとも友好的に挨拶し、なかなかの低姿勢を見せていた。
牧場エリアでは縄張りの主張を試みたが、馬には無視され、牛には尻尾ではたかれ、山羊には近づくことさえできなかった。群れをなす動物の強さに不満を漏らしたが、竜姿のハクレンとラスティを見た瞬間、目を閉じて瞑想し、見なかったことにする選択を取った。
食事と昼寝
昼食の時間になると、アイギスは屋敷へ戻り、肉を摑んで食べようとしたが、うまく引き千切ることができなかった。数回の挑戦の末、鬼人族メイドに泣きつき、小さくカットしてもらうことに。しかし、最初からカットされた状態で出されると不満を示すため、適度な挑戦が必要であった。
昼食後は日当たりの良い場所で昼寝をする習慣があり、最近はザブトンの背の上で眠ることが増えていた。安全な場所と判断したのだろうが、ザブトンが気にしていないため、問題はなかった。
ウルザとの遭遇と夕食
夕食前の時間は、屋敷内で子猫たちと遊ぶことが多かった。鳥と猫という関係性にもかかわらず、かなり親しい様子を見せていた。ただし、ウルザを見かけると全力で逃げ出していた。しかし、逃げ切れず、ウルザのタックルにより確保。助けを求めるアイギスであったが、無駄であった。
夜になると、アイギスは屋敷で夕食をとった。魚も問題なく食べることができ、少しずつ啄ばみながら器用に骨と内臓を取り除いていた。その技術は主人よりも優れており、少し嫉妬を覚えるほどであった。
夕食後、鳥小屋に戻り、床に敷いた藁束の上で仰向けに寝た。止まり木の存在は無視されていたが、寝方の自由は尊重された。
鳥小屋の設備と学習
鳥小屋には、水桶と専用のトイレが設置されており、決まった場所で排泄する習慣があったため、清潔に保たれていた。一度、トイレ用のスライムを導入したものの、アイギスが突っついて反撃されるという事件が発生。それ以降、スライムには手を出さないことを学習したようであった。
村の発展と牧場の拡張
村の発展に伴い、牧場エリアの拡張が決定された。牛や馬、山羊、羊の数が増加したため、東側の森を切り開き、新たに十二面 ×三十六面の広さに拡張。牧草を育て、丸太柵と堀を設置する工事が進められた。
作業中、山羊たちは主人に突撃を繰り返し、クロの子供たちが防御に当たったが、巧みに突破されることもあった。怒ったクロの子供が雷を纏って追いかけると、さすがの山羊たちも逃走。逃げ切る姿には感心させられた。
また、牧場エリアの動物たちが快適に過ごせるよう、アスレチックのような設備を設置する案も検討された。甘やかし過ぎない範囲で、適度な運動環境を提供する方針が決定された。
見張り小屋の設置とウルザの家出
村の拡張に伴い、クロの子供たちの警備範囲が広がったため、村の四隅に見張り小屋を建設。非常時には宿泊可能な設備と、水や保存食を備えた環境が整えられた。
しかし、その快適さが仇となり、ウルザが家出先として使用する事態が発生。原因はハクレンとの喧嘩であり、本人はふてくされていたが、主人が付き添って謝罪することで和解。
その後、アルフレートやティゼルも順番待ちをし、最終的には村の子供たち全員をおぶう羽目になった。父親としての体力の重要性を改めて実感する出来事であった。
クロの子供たちとアスレチック
牧場エリアに作った山羊用のアスレチックを、クロの子供たちが使用していた。隠れる必要はなく、誰が使っても構わなかったが、山羊たちはそれを見て調子に乗り始めた。しかし、すぐにクロの子供たちが反撃し、形勢は逆転。手加減されていたため、特に問題にはならなかった。
クロの子供たち専用のアスレチックも作ることになり、山羊用のアスレチックの隣に設置された。丸太を組んだジャングルジムのような構造で、牛がはまらないよう幅を広くし、怪我防止のため可動式の仕掛けは排除。高さは五メートルほどに設定され、他の動物が登ることを防ぐ形となった。完成と同時にクロの子供たちはすぐに遊び始めた。
大人用アスレチックの建設
ハイエルフや山エルフと相談し、村の南側に本格的なアスレチックを作ることになった。レース場の横に設置され、シーソーや吊り橋、ロープ登り、トンネル、杭渡りなど多種多様な仕掛けが組み込まれた。
スタート地点には「これより先、大地はマグマなり」と書かれた看板が立てられ、参加者の意欲を掻き立てた。しかし、子供たちには難易度が高すぎたため、新たに子供用アスレチックも作られることになった。完成後、ウルザやグラルは順調に進み、アルフレートは慎重に考えながら進行。ティゼルは飛ぼうとしたが制止された。
遊びには安全が第一であり、大人の付き添いが必須とされた。
牛の挑戦と〝五ノ村〟のエルフ
翌日、牧場エリアのアスレチックを確認すると、一番高い場所に牛が立っていた。どうやって登ったのかは不明だったが、立ち往生しているわけではなさそうで、誇らしげな表情をしていた。
その後、〝五ノ村〟のエルフたちと遭遇。彼らは整然と整列し、微動だにしなかった。これは、以前リアが十日間〝五ノ村〟に出張し、訓練を施した成果であった。
彼らは行進や戦闘演習を披露し、最後に樹王が「どうですか?」と尋ねた。主人公は「笑顔が足りない」と答えたが、樹王の指示でエルフたちは一斉に笑い出した。しかし、その笑顔はどこか不気味であり、意図とは異なっていた。
ハーピーの増加とアイギスの訪問
〝一ノ村〟のハーピーの数が想定以上に増えていた。毎年二十個ほどの卵が孵化し、現在では百人を超えていた。認識が遅れた原因は、ハーピーの子供を直接見ていなかったためであった。
ハーピーたちにとって、フェニックスは神聖な存在であり、〝大樹の村〟にアイギスの卵が飾られていた時も遠巻きに見守っていた。孵化後も隠れて観察していたが、アイギスをまだ飛べない雛たちに見せたいという要望が出たため、一緒に〝一ノ村〟を訪問した。
ハーピーの雛たちはアイギスに夢中になり、物理的に追い回した。アイギスは必死に逃げたが、幼鳥の脚力では限界があったため、最終的に主人公が抱えて撤退。これ以降、アイギスは〝一ノ村〟の名を聞くと怯えるようになった。
ポーラの妊娠と〝一ノ村〟の変化
〝シャシャートの街〟から里帰りしていたポーラが、体調不良を訴えた。診断の結果、妊娠が発覚。しかも、すでに出産が近づいていた。ポーラは〝一ノ村〟での出産を希望し、滞在が決定した。
代わりにマーキュリー種のミヨが〝シャシャートの街〟に向かうこととなったが、見た目が幼女であるため、マルコスは不安を感じていた。そこで、主人公は魔道具を渡し、通信手段を確保。しかし、後日、紙には「助けて」と書かれた文字が並び、仕事量が想定以上であることが判明した。
新型馬車の開発
ボールベアリングを馬車に活用しようと考えたが、技術的に不可能であることが判明した。車軸にかかる負担を分散させるため、新たなサスペンション機構を開発。しかし、試作品の車輪が片方に重量を集中させた結果、外れる事態が発生した。
試行錯誤の末、鉄製の車軸を導入したが、鉄は思ったより柔らかく、曲がってしまった。結果的に、新技術は〝大樹の村〟の限定仕様となり、普及には至らなかった。一方、ボールベアリングのサンプルは子供たちに人気となり、玩具としての価値が見出された。
水不足と新しい水路
畑の拡張に伴い、水の使用量が増加。ため池の水位が低下し、新たな水路を作ることが決定された。ハイエルフ、山エルフ、ドワーフ、獣人族、リザードマン、そしてザブトンの子供たちも協力し、川からため池へとつながる五キロの水路が十日ほどで完成した。
完成を祝し、ため池の近くでバーベキューが開催された。しかし、食事中に水位の上昇が異常に早いことに気づいた。水が流入する一方で、排水路がないことが判明し、緊急でため池から川へとつながる水路を掘る作業が開始された。タイムリミットは、ため池が溢れる前まで。
村を水浸しにしないため、主人公は急ピッチで作業を進めることとなった。
パスタの形状と細い麺の挑戦
この世界にはパスタが存在していた。しかし、それは一般的な細長いスパゲティではなく、四角い形状の板状や平麺に近いものが主流であった。これは、細く切る専用の機械が存在せず、包丁でカットするためであった。平麺も美味しかったが、時折スパゲティが食べたくなる。そこで、主人公は細いパスタ作りに挑戦することにした。
まず、手作業でパスタ生地を細長くしようと試みたが、すぐに切れてしまい失敗。干して自重で伸ばす方法も試したが、上手くいかなかった。次に、包丁で細くカットしようとしたが、これも技術が必要で簡単にはできなかった。鬼人族メイドに依頼し、少し太めながらも細い麺を作ることに成功した。
魔法による解決策
パスタを大量に作るには効率が問題となった。そこで、ルーに魔法でカットする方法を試してもらった。最初は威力の調整に苦戦し、生地を吹き飛ばしてしまったが、最終的には細くカットすることに成功した。しかし、この方法ではルーの負担が大きく、持続的な解決策にはならなかった。
ティアとフローラによると、魔法で包丁を操作する方が効率的だと判明。ルーはこの方法を試し、先ほどよりもスムーズに、かつ疲れることなくパスタを量産することができた。
既存の道具の発見と新たな開発
ガットにスパゲティの話をしたところ、彼は家からパスタカット用の道具を持ってきた。それは、小さな包丁を複数並べた簡単な道具であり、驚くほど簡単に細いパスタが作れた。さらに、この道具は〝ハウリン村〟では珍しくないものであった。
この事実を知ったルーは機嫌を損ねたため、主人公は山エルフに新たな道具の製作を依頼。結果として、ハンドルを回すだけで細いパスタが作れる「スパゲティメーカー」が完成した。これは子供たちの料理の手伝いにも適しており、大変好評であった。
スパゲティの普及とさらなる改良
スパゲティメーカーはビッグルーフ・シャシャートの『マルーラ』でも求められ、主人公と山エルフは追加製作に奔走した。一方で、ルーも新たな魔法の工夫により、以前より楽にパスタ生地を細く切ることができるようになった。さらに、ザブトンの子供たちは糸でパスタ生地を切る方法を開発。しかし、これはルーの目に触れないようにする必要があった。
妖精の発見と保護
ある日、主人公が畑を見回っていると、酒スライムがサトウキビを求めてきた。興味を持った主人公は、彼を尾行し、その先で発光するピンポン球ほどの生物を発見。これは妖精の幼生であり、ザブトンの子供たちと酒スライムによって世話されていた。
しかし、ルーが妖精の羽を薬の材料にできると発言したことで、緊張が走った。酒スライムは必死に妖精を庇い、ティアも薬の価値を説明したが、主人公は情操教育の観点から妖精を守ることを決定した。妖精は甘いものを好み、花畑に放せば問題ないと判断されたが、蜂たちに攻撃される可能性があるため、新たに妖精専用の住居が設置された。
『マルーラ』の食事と学園制度
ビッグルーフ・シャシャートにある『マルーラ』では、カレーをはじめ、ピザ、揚げ物、丼物、パスタなどが提供されていた。特にカレーは絶品であり、パンだけでなく、様々な具材と組み合わせることで新たな味わいが楽しめた。
また、『マルーラ』の料理を無料で食べる方法として、イフルス学園の生徒になるという手段があった。学園の授業料には昼食代が含まれており、一定の条件を満たせば、働きながら通うことも可能であった。
貴族の娘の奮闘
ある貴族の娘は、家を出てイフルス学園に入学していた。彼女は奨学制度を利用し、学業と並行して『マルーラ』でウェイトレスとして働いていた。
父親はこの事実を後から知り、娘の成長に驚愕。執事からスカート姿の娘を見たとの報告を受けた際には嫉妬の感情を隠せなかった。王都での会議が終わり次第、すぐに娘の元を訪れる手配を整えたが、その間、彼は執事と殴り合いを繰り広げることとなった。
貴族家の対応と今後
執事はメイド長と共に、娘の監視を続けることを確認。貴族の家出事件を考慮しつつ、彼女の意思を尊重する方針を取ることになった。また、メイド長自身も娘からの手紙を受け取っており、執事の計らいで直接様子を見に行くこととなった。
こうして、貴族の家族はそれぞれの立場から娘の成長を見守ることとなった。
鬼人族の喧嘩と仲裁
鬼人族のメイド二人が顔を近づけ、頭の角を擦り合わせていた。主人公がアンに尋ねたところ、これは喧嘩であり、先に目を逸らした方が負けになるという。時には三日間も続くことがあるらしい。今回は食堂で行われていたため、子供たちに見せるのも良くないと判断し、アンに仲裁を依頼した。
アンは二人の間に強引に割って入り、喧嘩を終了させた。さらに、一人ずつ相手をして角を擦り合わせると、二人ともすぐに降参。抗議の声を上げたが、すぐに仕事に戻った。主人公はモヤモヤしないのかとアンに尋ねたが、アンは「負けたことがないのでわからない」と答えた。これでは参考にならないと考え、後で二人のフォローをすることにした。
クロの上で寝る者たちと救出作戦
子猫たち、アイギス、ヒトエがクロの上で眠っていた。クロは助けを求めるような雰囲気を出していたが、無理に起き上がることはせず、彼らを起こさないように気を使っていた。主人公が悩んでいると、ザブトンの子供が糸を使ってアイギスを救出。アイギスは寝たままで移動された。
次にヒトエを救出しようとしたが、目を覚ましてしまったため、ザブトンの子供は撤収。主人公はミエルを移動させようとしたが、ユキが一吠えし、子猫たちとヒトエは驚いて逃げていった。その直後、ユキはクロの上に頭を乗せた。クロは依然として助けを求めていたが、ユキがいる限り動けそうになかった。
妖精たちの行動範囲
妖精たちは村の北側の花畑で寝泊まりしているが、昼間は屋敷や牧場エリアに現れることが多かった。特に牛の尻尾で遊ぶ姿が目立った。牛に叩かれながらも平然としており、かなりのタフさを持っていた。
しかし、妖精たちの行動には制限を設ける必要があった。プライベート空間、特に個室、トイレ、風呂場への立ち入りは禁止。さらに、食料庫への侵入も禁じた。ルーから聞いた話では、妖精は過去にイモを石に変えたり、小麦粉に砂を混ぜたりと、食べ物に関する悪戯をしていたという。主人公は畑と食糧を守るため、妖精たちに厳しく釘を刺した。
畑へのイタズラと妖精の女王の登場
翌日、主人公が畑を見回ると、麦が倒され、下手くそな絵が描かれていた。いわゆるミステリーサークルのようなものであった。クロの子供たちやザブトンの子供たちの目を盗んで行った者は限られていた。主人公は最有力候補である妖精たちのもとへ向かった。
そこには妖精が五十匹ほど、小さな人型の妖精が十匹、そしてその中心に光を纏う羽を持つ女性が立っていた。主人公は直感的に彼女が妖精の女王であり、犯人であると判断。しかし、念のため本人に確認を取ることにした。
妖精の女王の取り調べ
主人公が「畑にイタズラしたのはお前か?」と尋ねると、妖精の女王は「無礼ではないか?」と反論。しかし、主人公は彼女の頭を鷲掴みにし、同じ質問を繰り返した。女王は「痛い痛い!」と叫びながら観念し、取り調べは強引ながらも順調に進んだ。
その様子を見ていた村の妖精たちが近づき、「自分たちは止めた」と証言。彼らは犯行を行った女王に巻き込まれたわけではないと主張した。主人公は疑ったことを謝罪し、女王の単独犯行であることを確認した。女王は「頭が割れる!」と悲鳴を上げたが、主人公の怒りはまだ収まらなかった。
二章 女王の来訪
妖精女王の労働罰
妖精女王は畑にイタズラをした罪で捕まり、主人公の裁定により労働を命じられた。反省が足りない態度を見せる彼女に、主人公は労働と風呂のどちらかを選ばせた。すると、妖精女王は慌ててニンジンの収穫に取り組んだが、不慣れなため畑の畝を崩しながら拾う形となった。それでも、労働の罰を受け入れる姿勢を見せたことで、主人公は見守ることにした。
妖精女王の罪と判決
妖精女王の罪は証言によって明らかになった。彼女以外の妖精たちは進んで証言し、主人公が用意したプリンを楽しんでいた。妖精女王は「自分がここに来た証を残したかった」と言い訳をしたが、主人公はそれを許さなかった。ルーの提案で妖精女王を漬け込む案もあったが、逃げようとしたため強制的に捕えられた。
妖精女王の拘束と謝罪
妖精女王は神出鬼没の存在であったが、ザブトンの子供たちの糸に絡め取られ、逃げられなくなった。主人公はさらに逃亡を防ぐため、髪の中にも糸を仕込んでおいた。そして、妖精女王に風呂か労働かを選ばせた結果、彼女は観念して謝罪し、倒された麦を回復させた。怒りは半減したものの、主人公は彼女の行いを完全には許さず、さらなる労働を課した。
妖精女王の罰と労働
妖精女王は労働を続け、収穫作業に加わった。彼女は「プリンを要求する権利がある」と主張したが、主人公は「働いてから要求しろ」と返した。労働の規模を理解しない妖精女王だったが、主人公は数字で比較し、黙って作業を続けるよう諭した。こうして、今年の収穫は賑やかで疲れるものとなった。
武闘会の準備と妖精女王の交渉
収穫が終わると、武闘会の準備が始まった。妖精女王は再びプリンを要求したが、主人公は「毎日は作れない」と突っぱねた。代わりに、サトウキビを与えることで彼女は納得した。しかし、次に畑を荒らした場合は再び罰を受けると念押しし、妖精女王も渋々ながら約束した。
妖精の労働と伝説
妖精たちは、子供の労働環境を改善させるために畑を荒らすという伝説があった。始祖からその話を聞いた主人公は、「自分は子供を酷使していない」と反論したが、妖精の気まぐれであることを知る。妖精女王には「他の畑にも手を出さないように」と念押ししたが、彼女の性格を考慮し、言い方に注意する必要があると自覚した。
妖精女王の牧場騒動
妖精女王は牧場エリアで山羊たちを統率し、牛のエリアに突撃。しかし、山羊たちは途中で裏切り、妖精女王は牛たちに追い詰められた。逃げ場を求めてアスレチックの上に逃げたが、さらに牛を挑発したことで追い詰められた。主人公は遠くから見守りつつ、助けを求める彼女を無視することにした。
妖精女王の別の姿
妖精女王は普段の姿とは異なり、蔓を操ることで強力な女王の姿を見せた。ギラルによれば、この状態ではブレス攻撃にも耐えうる存在であり、戦うのは厄介だという。しかし、妖精女王の本質は変わらず、結局は甘味をねだるために元の姿に戻った。蔓は魔法薬の材料となり、ルーたちが喜んで持ち帰った。
武闘会の開催と妖精女王の影響
武闘会が始まり、甘味が多く用意されたのは妖精女王の影響が大きかった。彼女はすでに花畑に住みついており、自由気ままに村を出入りしていた。子供たちからも慕われており、パンケーキをねだる姿は微笑ましかった。
武闘会と戦士たちの活躍
騎士の部ではティアが圧勝し、キアービットとの戦いも一方的であった。決勝はルーとリアの戦いとなったが、リアの遠距離攻撃を避けたルーが接近戦に持ち込み、勝利を収めた。主人公は自分の予想が外れたことを痛感し、改めて戦闘の難しさを実感した。
妖精女王の悪戯と魔王の災難
フリーバトルが始まり、ドースとギラルが激戦を繰り広げていた。その最中、妖精女王が魔王を舞台の上に転移させ、彼は戦いに巻き込まれた。魔王はドースとギラルの攻撃を避けながら必死に逃げたが、妖精女王は大笑いしていた。主人公は彼女を捕まえ、二度と勝手に人を移動させないように厳しく注意した。
武闘会への準備と移動
ブルーノは〝一ノ村〟に住む男であり、妊娠中の妻を気遣いながらも武闘会のために〝大樹の村〟へ移動することになった。妊婦の移動には配慮が必要であり、馬車を避け、歩きでの移動を選択した。彼と同じように妊婦を抱える者たちが共に移動し、村長のもとへ挨拶に向かった。そこでは妊婦用のスペースが準備されており、清潔な環境と助産師の待機という万全の体制が整っていた。
妖精の女王との遭遇
村長の横には見慣れぬ女性がいた。妖精の女王と紹介されたその存在に、ブルーノは新たな驚きを覚えた。人間の国では妖精の女王は子供の守護者とされ、労働を強いられる子供を助けたり、安産の象徴とされる存在であった。ブルーノと妻は、この巡り合わせに感謝し、心の中で妖精の女王に祈りを捧げた。
猫たちの戦いと村の賑わい
村には多くの種族が共存しており、その光景にも慣れていた。しかし、舞台の上で猫たちが魔法を使いながら戦っているのを見て、改めてこの村の特異性を実感した。村長は妖精の女王を村に呼んだのかもしれないと考えたが、彼女は自由奔放な性格であり、甘い物や遊びがなければ長く留まることはないと悟った。
ポーラの急な出産
武闘会の夜、ブルーノは一般の部に出場し、勝利を収めた。しかし、突然〝一ノ村〟にいるポーラが産気づいたとの報せが入る。彼女の見張りをしていたインフェルノウルフのクリッキーが異変を察知し、緊急事態を知らせてくれた。急な出産で母子ともに危険な状況だったが、ハイエルフと助産師の尽力、そして妖精の女王の影響により無事に出産を終えた。ブルーノは心の中で深く感謝した。
妖精の女王の影響
ブルーノは振り返り、妖精の女王がもたらす恩恵について考えた。村長が彼女を叱る場面はあったが、ルーやティア、さらには竜や魔王ですら彼女に対して寛容であった。この不思議な寛容さは、妖精の女王がもたらす恩恵ゆえのものだったのだろう。そう理解したとき、村長の態度が少し違って見えた。
村長の立場と妖精の女王
妖精の女王にはもう一つの影響があった。それは妊娠の増加である。ルーの話によれば、妖精の女王が関与した村では妊娠率が高くなるという。その影響で、〝大樹の村〟ではルー、ティア、ハイエルフ二人、山エルフ三人の計七人が妊娠した。これを受け、妖精の女王の影響力は予想以上であると再認識した。
武闘会の終焉と宴会
武闘会が終わった翌日、村は宴会の余韻に包まれていた。ブルーノは眠れぬまま朝を迎えたが、ポーラの無事な出産に安堵した。彼の仲間であるマルコスも、無事に子供の誕生を迎えられたことに感謝していた。村の人々は祝いの宴を続け、魔王までもが舞台に立ち、ユーリとの戦いを繰り広げた。
収穫祭と祭りの盛況
〝五ノ村〟では収穫祭が開催され、出店が並び賑わいを見せた。特に酒の販売は人気が高く、人々はスムーズに注文し、祭りの空気を楽しんでいた。食べ物の出店も盛況であり、バーガーとサンドイッチの名称整理が行われた。甘味の販売も人気を博し、祭りの成功が確実なものとなった。
ユーリの赴任と文官娘衆の増員
魔王の娘であるユーリが〝五ノ村〟に赴任し、村の視察員としての役割を果たした。当初、王姫の立場が懸念されたが、彼女は村議員に直接挨拶を行い、その誤解を払拭した。その結果、彼女の付き人たちの中から十八人が文官娘衆に転職し、村の運営に貢献することとなった。
冬の訪れと新たな修行
冬が近づき、ザブトンやダンジョンの一部の住人たちは冬眠に入った。ガルフとダガは武闘会での敗北を受けて、〝五ノ村〟での修行を決意した。彼らとともにピリカやエルフたちも訓練に励むこととなり、新たな鍛錬の場が生まれた。
妖精の女王の影響と激動の夜
妖精の女王の訪問により、ブルーノの夜の生活は一変した。息子アルフレートが一人で寝るようになり、彼の静かな夜は終わった。そして、武闘会後の高揚感も相まって、激しい夜が復活した。結果、村では七人が妊娠し、さらに獣人族の女の子たちが積極的に動き始めた。
山エルフの代表と悩み
山エルフの代表であるヤーは、他の山エルフが妊娠したことに複雑な心境を抱いていた。しかし、妊娠は神の恵みであり、焦ることはないと主人公は諭した。さらに、彼女の選んだ衣装については、ザブトンが冬眠から目覚めた後に相談することとした。
幽閉された王の決断
幽閉されて三カ月が経過し、王であった男は怒りを次第に忘れつつあった。屋敷内での自由は確保され、恩義を感じる者たちからの差し入れもあったため、生活に不自由はなかった。しかし、情報が入らないことには苦痛を感じた。それでも王位の重圧から解放され、身体の調子も良くなったことで、王という職が自分には向いていなかったのではないかと考え始めた。そして、新たな生き方を模索するため、脱走を決意した。
脱走計画と仲間たち
計画に同行したのは、幼い頃から仕えてくれている老臣、護衛役の騎士、そして三人の侍女だった。彼らは主の意向を即座に受け入れ、準備を進めた。本来であれば妻も連れて行きたかったが、厳しい旅を考え、彼女を残す決断をした。しかし、王の計画を知った妻は激怒し、自ら同行することを宣言。結果として、妻を慕う者たちも加わり、逃亡の一行は五十人規模となった。王はその影響力に苦笑しながら、考えることを放棄した。
旅路と追っ手の襲撃
国内に留まるのは危険と判断し、遠く離れた国を目指すこととなった。道中、馬車の列が目立ちすぎることを危惧したが、避けることはできなかった。そして、懸念通り、追っ手が現れた。王は当初、手加減を求めたが、捕まれば処刑もあり得ると気づき、反撃を決断。追っ手を振り払いながら進み、最終的に魔王国へと逃げ込んだ。魔王国は現在フルハルト王国と戦争状態にあり、王の国にも同盟要請が来ていたが、彼はそれを無視していたため、魔王国と敵対関係にはなかった。
新たな生活の始まり
魔王国へ無事に逃れた一行は、まず宿の確保に動いた。資金は十分にあり、豪邸を建てることも可能だったが、目立ちすぎるのを避け、慎重に行動することにした。王は情報を得るために町を巡ることを決め、妻が既に現地の情報を収集していたことに驚かされた。
新王の苦境
王子は父を追放し、新王として即位した。しかし、クーデターが成功したはずの国は思い通りに動かず、困惑することとなった。反抗した貴族を処罰しようと考えたが、側近によれば誰も反抗しておらず、クーデターは単なる王家の内紛として扱われていた。さらに、父を罵倒した開戦の宣誓が逆効果となり、王子の評判は著しく低下していた。
国政の現実と苦悩
新王は財政改革を目論み、不正を働く貴族の財産を没収しようとした。しかし、提出されたリストには、彼を支援した貴族たちの名が並んでいた。つまり、彼に味方した者こそが不正を働いていたのである。さらに、国の財政状況は極めて厳しく、父が常に危機を訴えていたことが現実であると突きつけられた。山積する書類を前に、新王は追い詰められていった。
先王の行方
そんな中、幽閉していた先王が行方をくらませたとの報告が入る。母である先王妃を含め、五十二人が一斉に消えたのだ。新王は動揺し、すぐに追跡を命じたが、先王はすでに魔王国へ入国しており、軍による追跡は不可能だった。さらに密偵からの報告で、先王が〝シャシャートの街〟に滞在し、「猛虎魔王軍」という球技チームに所属していることが判明した。驚くべきことに、そのチームの監督は魔王だった。
先王妃の新たな生活
一方、先王妃は演劇に夢中になり、自ら舞台に立っていた。王子はもはや何が何だかわからなくなり、側近に密偵の監視を続けるよう指示した。そして、ついに屈し、父に謝罪し、王位復帰を願う手紙を送ることを決意する。しかし、側近から「普通は罠を疑う」と指摘され、王子はさらに絶望を深めた。
王子の悪あがき
王子は一つの希望を思いつく。それは、自分の十歳になる息子に王位を譲ることだった。しかし、側近は即座に反対し、衛兵に命じて王子を殴らせた。王子は痛みに呻きながらも、十年間は王として耐えねばならない現実を突きつけられた。そして、クーデターの計画を事前に相談しなかったことを側近が根に持っていたと気づき、改めて自分の未熟さを思い知るのだった。
冬の日常と村での暮らし
冬の朝、先王は大樹の社に祈りを捧げた後、屋敷へと戻った。屋敷には彼の専用座椅子があるこたつがあり、すでに多くの動物たちがそこに集まっていた。フェニックスの雛アイギスが座椅子を占領していたため、彼を移動させ、自らこたつに入る。動物たちに囲まれながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。
ザブトンの子供たちの演技
ザブトンの子供たちは天井の梁で準備をしていたらしく、彼に見せるための演技を披露した。糸を使った見事な演技に、彼は感心しながら酒を楽しんだ。そして、酒を持参したヨウコとともに、昼食として鍋を囲むこととなった。
ハウリン村への訪問
先王はハウリン村へ向かい、セナの子であるセッテを村長に見せることになった。文化的な問題を考慮し、視察の途中で偶然を装いながら訪問する形を取った。村長は深く頭を下げ、村民たちも感謝の意を示した。そして、村長の妻とも会話を交わし、彼女が発注関係を取り仕切っていたことを知る。
結婚許可の問題
ガルフの息子が幼馴染を連れて帰りたいと相談に来た。先王は許可自体に問題はないとしたが、ガルフとその妻の承諾が必要であると説明した。すると、息子は「他の男に奪われるかもしれない」と不安を吐露し、挙げ句の果てに「先王自身が彼女に手を出すのではないか」とまで疑い始めた。先王は笑いながら否定したが、その場の空気はやや微妙になった。
帰還と新たな未来
大樹の村に戻ると、ハクレンが二人目を希望していると告げた。先王は静かに覚悟を決めると、次はガットの妻ナーシィやナートも連れて行く計画を立てることを考えた。そして、村の住人たちが平和に暮らせるよう、これからも支えていくことを誓った。
ガルフの息子の結婚と母の決断
ガルフの息子の幼馴染は、ガルフの妻に温かく迎えられ、無事に結婚が決まった。ガルフ本人の了承がないことを懸念する声もあったが、妻は「大事な冬に家を空けた夫に文句を言う権利はない」と笑顔で一蹴した。ガルフは〝五ノ村〟近郊で修行中であり、今すぐ戻るべきではないかと周囲は思案した。息子夫婦は冬の間、宿で寝泊まりすることとなったが、それはガルフの妻の厚意によるものであり、孫の誕生を期待しての決定だった。
子供の話し合いと避けられぬ結果
屋敷では、先王が女性陣を前に「子供の数は十分ではないか」と宣言し、話し合いを試みた。しかし、その結果、新たに獣人族の娘二人が妊娠することとなった。先王は自らの意志の弱さを嘆きながらも、現実を受け入れるしかなかった。
冬の風呂と酒スライムの策略
雪が降り始め、先王は温かい風呂を楽しんでいた。しかし、酒スライムも同席し、湯船に浮かべたタライの中でくつろいでいた。その横には酒の入った竹コップが置かれ、先王はそれを少しもらうことにした。しかし、酒スライムが素直に渡したことで、それが勝手に持ち出された酒であることを察し、共に謝罪することを決めた。
長風呂をしていると、クロが心配して様子を見に来た。ついでに体を洗ってやることにし、抵抗するクロを説得した。外に出ていないからといって体が汚れないわけではなく、入浴は必要であると先王は熱弁を振るった。
こたつとプチトマトの新発見
風呂を出た先王は、こたつに入り、外で軽く凍らせたプチトマトを楽しんだ。プチトマトの発育が悪いと騒いでいたクロの子供たちに、これはそういう品種であると説明するのに苦労したことを思い出した。クロも気に入ったようで、口を開けて待っていたため、三つほど投げ入れた。
料理の彩りには適しているが、プチトマトが主役の料理が思い浮かばなかった。酒が入っていたせいか、それともそもそもそういう料理が存在しないのかは不明だった。
妖精女王の訪問とリバーシ対決
こたつに入ると、妖精女王が干し芋をかじりながら座っていた。彼女は勉強中の子供たちに追い出され、遊びに来たらしい。妖精女王のために温かい紅茶が用意されたが、先王の分はなかった。理由を尋ねると、酒を盗んだ疑いをかけられていた。
誤解を解いた後、妖精女王とリバーシで勝負することとなった。先王はクロや子猫たちと知恵を結集したが、妖精女王には敵わなかった。クロヨンの助けを呼ぶことを決め、勝利のためには手段を選ばないと開き直った。
チョコレートの発見とパンケーキ
妖精女王がパンケーキを所望したため、先王はチョコレートをトッピングして提供した。カカオを栽培していたものの、加工法がわからず放置していたが、獣人族の女の子がチョコレートを作る方法を発見した。まだ先王の知る甘く滑らかなものとは異なっていたが、村では好評を博していた。
雪の管理と水路のチェック
雪が積もり、各エリアの保全作業が本格化した。雪下ろしや水路の点検が必要であり、子供たちが木刀で氷を叩く作業を手伝いたがった。先王はハクレンを伴い、アルフレート、ティゼル、ウルザ、獣人族の少年たちとともに水路の見回りに出発した。
凍結しやすい場所は限られており、子供たちは木刀で氷を砕いて確認していた。完全に凍った場所はハクレンの魔法で溶かす予定だったが、彼女の提案で子供たちに練習させることとなった。炎の魔法を使いこなす子供たちを見て、先王は村の才能の豊かさを改めて実感した。
カマクラと酒宴
村の雪を利用し、カマクラを作ることになった。ライメイレンの作った雪山の近くに建設し、火鉢を持ち込んで暖を取った。先王はドノバンや酒スライムとともに酒を楽しみ、次々と異なる種類の酒を試した。
そこへ新たに村にやってきたエルダードワーフの女性三人が加わり、ドノバンは上機嫌だった。彼女たちは〝死の森〟を越えて訪れたが、村の転移門の存在を知り、大いに落胆していた。門番竜の恐ろしさに怯えて遠回りしてきたのだが、本来ならば話を通せば簡単に通行できたはずだった。
グラルの独立と挫折
ギラルの娘であるグラルは、一人暮らしを始めたが、四日で挫折し、屋敷に戻った。夜の寂しさに耐えられなかったらしい。現在は新居と屋敷を行き来する生活を続けている。
村の助産師たちが新居に滞在しているため、生活面のサポートは十分だった。しかし、アルフレートやティゼルがグラルの新居を羨み、同じような家を求める声が上がったが、先王はまだ認めるつもりはなかった。
雪遊びと妖精女王の妙技
子供たちは雪合戦やソリ遊びに夢中になった。ライメイレンはヒイチロウと穏やかに遊んでいたが、妖精女王はスノーボードのような板を使い、技を披露していた。華麗な一回転ジャンプを決め、子供たちを大いに刺激した。
それを見たウルザは二回転すれば一回転ではないと主張し、試みようとしたが、先王に止められた。安全を考慮し、ボードやソリでの回転は禁止としたが、子供たちの熱意は衰えなかった。
村の雪景色の中、冬の活気はますます高まっていた。
妊娠中のジュエルと父猫の奮闘
妊娠中の宝石猫ジュエルのため、先王は屋敷内に快適な部屋を用意した。火鉢を置き、湿度を調整することで、冬とは思えない環境が整えられた。ジュエルは触られるのを嫌がるため、少し離れて見守ることにしたが、そこへ父猫が警戒心を抱いて接近した。彼を撫でつつ、子育てにも力を入れるよう諭したが、父猫は情けない声を上げて逃げていった。
そこへ子猫たちが突入し、先王に抗議の攻撃を仕掛けた。彼らは母猫ではなく自分たちを構うべきだと言わんばかりの行動であった。ジュエルの機嫌を損ねないよう、部屋を移動し、子猫たちの相手をすることとなった。
牛たちの温泉への執着
冬の寒さの中、牛たちは温泉地へと移動することになった。転移門を活用し、温泉地へ向かった牛たちは、湯に浸かると非常に満足した様子を見せた。しかし、温泉からなかなか出ようとせず、先王は寒さに耐えかねて避難した。
後日、温泉を気に入った牛たちは自ら脱柵し、転移門を利用して温泉地へ移動するという前代未聞の行動をとった。彼らは牧場のドアを開閉し、クロの子供たちを護衛につけるという徹底ぶりを見せた。これを受け、牛専用の移動手段として鐘を設置し、鳴らせば扉が開く仕組みとした。しかし、牛たちは連日鐘を鳴らし続け、結局、鐘は撤去されることとなった。
山羊たちの嫉妬と露天風呂の建設
温泉地へ行けない山羊たちは、温泉を楽しむ牛や馬に嫉妬し、騒ぐようになった。彼らは転移門のあるダンジョンを怖がり、温泉地に行けなかったため、特別に牧場エリアに露天風呂を作ることが決まった。
雪を掘り、スロープを設けた広々とした風呂を用意したが、湯を用意する段階で問題が発生した。グランマリアが魔法で一気に雪を溶かそうとしたが、失敗し、雪が爆発した。その後、クロの子供たちが作業を引き継ぎ、無事に温泉が完成した。山羊たちは競うように入浴し、温泉地への憧れを露天風呂で解消することとなった。
子猫たちの寝床問題
ある夜、子猫たちはジュエルのそばではなく、先王のベッドに潜り込んできた。母猫に追い出されたため、寝床を求めてきたのだろうと察し、受け入れたが、彼らは先王の脇や足元に入り込み、完全に身動きが取れない状態となった。
そこへハイエルフが現れ、子猫たちを一匹ずつ部屋の外に放り出した。翌朝、子猫たちはフェニックスの雛アイギスの小屋で寝ており、アイギスよりも良い場所を占拠していた。
冬の終わりと行進の準備
村の住人たちは布を求め、試着を始めていた。ザブトンの子供たちは、先王やアルフレートたちの身長を測定していた。去年行われた行進の準備であることは明白だった。先王は見学席に回ることを望んだが、却下された。
さらに、山エルフたちが移動可能な櫓を建設しており、先王はその上で挨拶をすることになると告げられた。村の行進は今年も実施されることが確定し、冬の終わりが近づいていることを実感する先王であった。
三章 男の子たちの旅立ち
春の行進と櫓の上の先王
春の訪れと共に、先王は四メートルの櫓の上に設置された椅子に座っていた。最初は抵抗したが、ザブトンの子供たちやクロの子供たちの視線に耐えられず、最終的に受け入れた。また、山エルフたちが次々と高い櫓を建設し始めたため、早い段階で妥協することが被害を最小限に抑える手段だった。
行進はクロを先頭に進行し、白地に金の装飾を施した衣装を纏っていた。クロの後ろにはユキが続き、クロの子供たちを統率した。その後、ザブトンの子供たち、ハイエルフ、リザードマン、ドワーフたちがそれぞれの隊列を組み、楽器の演奏や槍の掲揚などを行った。
先王の乗る櫓はケンタウロス族が引き、ミノタウロス族が周囲を支えた。櫓の高さは四メートルとなり、多くの人々が同行した。アルフレート、ティゼル、ウルザらがそれぞれの櫓に乗り、華やかな衣装で飾られた。
山エルフたちは旗指物を掲げ、ハーピー族は空を舞った。悪魔族と夢魔族は派手な音楽と共に踊りながら進み、死霊騎士たちは剣を振るいながら行進した。天使族は編隊飛行を披露し、最後尾にはザブトンが陣取った。
この行進の順番は、種族代表者たちが決定し、先王が承認した形となっていた。行進は村を時計回りに一周し、南の舞台へと向かい宴会が開かれることとなった。
各村での追加行進の決定
行進に参加できなかった〝一ノ村〟のジャックたちのため、追加の行進が決定された。さらに、〝二ノ村〟、〝三ノ村〟、〝四ノ村〟でも実施することとなり、各村で一日ずつ行われることになった。
しかし、〝五ノ村〟では見物人が多くなることが予想されたため、先王は行進を断念した。ヨウコは笑って了承したが、「貢献が足りない」と冗談めかして言ったため、先王は将来的に行う可能性を考えざるを得なくなった。
ガルフの息子の結婚式
ガルフの息子の結婚式が決まり、結婚式の取り仕切り役としてフラウが選ばれた。式の規模について三つの案が提示され、最終的に新郎新婦は質素な結婚式を選んだ。式場は屋敷の中庭の社の前に設けられ、多くの参列者が集まった。
式では聖女セレスが進行を担当し、先王も祝福の言葉を求められたが、急な指名に困惑しながらも祝いの言葉を述べた。披露宴ではイノシシの丸焼きとウエディングケーキが用意され、宴が始まった。
新郎新婦の退席の際、ガルフが立ちはだかり、息子の覚悟を試すと宣言した。これに対し、新郎は拳で答え、さらに新婦も加勢し、ガルフを退けた。この演出により、二人は祝福の中で退場し、宴会は続いた。
春の農作業と新たな誕生
春の行進と結婚式が終わり、先王は農作業に従事した。各村の農地拡張に対応し、『万能農具』を用いて耕作地を広げた。竹林の整備も進め、農村としての基盤を強化した。
この間に、ユニコーンと宝石猫のジュエルがそれぞれ出産した。ジュエルの子猫たちには「アエル」「ハエル」「ゼエル」「サエル」と名付けられたが、発音の難しさが懸念された。子猫たちは魔王によって守られ、魔王自身もこの子猫たちを見守る番人として廊下に鎮座していた。
ガルフの息子夫婦の新居と新生活
ガルフの息子夫婦のための家が新築され、先王の結婚祝いとして提供された。村の住人たちの協力により、短期間で建設が完了した。新居完成後、小規模な祝賀会が開かれ、村の全員が参加するほどの賑わいを見せた。
その中でドワーフたちは新たな酒造りについて相談を持ちかけ、薬草を使った酒の生産が計画された。先王はこれを承認し、新たな薬草畑の開拓に着手することとなった。
また、ガルフの息子の妻は、春の行進以降、先王を「村長さま」と呼ぶようになり、一部のハイエルフたちも同様に敬称を復活させた。これを改めるため、先王はリアに調整を依頼し、無事に「村長」と呼ばれるようになった。
獣人族の少年たちの学園入学
獣人族の少年三人が魔王国の学園に入学することが決まり、準備が進められた。彼らは村内での結婚相手の選択肢が少ないことを理由に学園行きを決断し、広い世界を経験することを望んだ。
学園は貴族が通う場所であり、入学前にフラウや文官娘衆が礼儀作法を指導した。入学の際、彼らは〝五ノ村〟出身として登録され、転移門を使って移動した。ハクレンが彼らを竜に乗せて学園まで送りたがったが、途中までの同行となった。
こうして、春の行進、結婚式、新たな誕生、学園入学と、村には大きな変化が訪れた。
子供たちの変化と学園生活
獣人族の少年たちが魔王国の学園へ行ってから、村に残った子供たちにも変化があった。ウルザは年長者としての自覚が芽生え、他の子供たちの世話を積極的にするようになった。アルフレートもそれに影響を受け、学習に一層励むようになった。ナートはセナと密かに相談をしていたが、その内容は聞かないことにした。
学園へ行った獣人族の少年たちも、新たな環境で頑張っているようだった。ハクレンの心配性は相変わらずであり、その姿が母であるライメイレンに似ていると感じられた。
牧場エリアの露天風呂の改修
春には埋める予定だった牧場エリアの露天風呂だったが、動物たちの強い要望によって存続が決定された。そのため、取水と排水の設備を整えることとなった。
取水のため、新たな水路を川から引き、牧場エリア北側にため池を作成。転落防止のため、周囲には丸太を並べた。次に、風呂への水流を調整するために水路を設け、取水路が完成した。
排水路の設置には問題が生じた。村にある既存の排水路とつなげるには位置が悪く、農業用の水路に干渉してしまうため、新たに東へ十五キロの排水路を掘ることになった。クロの子供たちやグランマリアの護衛のもと、作業を進めたところ、途中で池を発見。その池に排水を導くことで川まで延長する必要がなくなった。
また、スライムによる水の浄化を目的に、排水の起点にスライム用プールを設置。こうして取水・排水設備が整ったが、新たに取水路に魚が流れ込んでくる問題が発生した。魚の侵入を防ぐため、より細かい柵を追加し、露天風呂への影響を防ぐことにした。
同時に、露天風呂には屋根も設置された。ハイエルフたちの手によって、半分が覆われ、半分が開放された形となった。これにより、動物たちが快適に利用できる環境が整えられた。
露天風呂での交流
完成した露天風呂に入りたそうな動物たちの視線を感じた先王は、ついに彼らと共に入浴することを決意した。クロの子供たちに火の魔法を頼み、水を温めたうえで風呂に入ったが、実際には牛や馬のブラッシングに終始することとなった。しかし、動物たちが喜んでいたため、結果的には満足のいく時間となった。
学園からの手紙
学園へ行った獣人族の少年たちから手紙が届いた。出されたのは学園生活一カ月目のものであり、到着には時間を要したようだった。
手紙の内容によると、彼らは無事に魔王国のガルガルド貴族学園に入学し、貴族特有の文化に戸惑いながらも適応しようとしていた。入学当初、貴族の少女と出会い、侮蔑的な言葉を受けたが、事前に学んだ貴族の言葉の婉曲表現を活用し、衝突を避けることに成功した。
学園では成績による序列が重要であり、それに加えて貴族社会の身分が影響を及ぼしていた。彼らは学園での生活を順調に進めていたが、文化の違いからくる誤解や礼儀作法の難しさに苦戦していた。特に衛士への対応において、チップを渡す際の金額を誤る失敗を犯し、反省していた。
しかし、彼らの目的は単なる学習だけではなく、村の後輩たちが入学した際に困らないよう、学園の環境を詳しく把握することでもあった。特にアルフレート、ティゼル、ヒイチロウの入学を見据え、学園生活の記録を残すことを誓っていた。
春の収穫と村の動向
村では春の収穫が行われた。今年も豊作であったが、畑を広げすぎたことを少し反省する場面もあった。しかし、新たに生まれた子供たちのことを考えれば、農業の拡大は必要なことであった。
また、お祭りの準備も始まり、文官娘衆たちが精力的に計画を進めていた。特に〝五ノ村〟で学んでいる新しい文官娘たちが良い刺激になり、彼女たちの活動が活発化していた。
魔王は定期的に屋敷を訪れ、今年生まれた子猫たちを愛でることを日課としていた。その影響か、子猫たちの一匹であるサマエルは特に魔王に懐いていた。また、フェニックスの雛アイギスも子猫たちの世話をし、鬼人族メイドや魔王を呼ぶ役割を果たしていた。
ゴロック族との会談準備
東のダンジョンに住むゴロック族との会談が進められていた。しかし、ダンジョンの調査中にゴロック族を負傷させてしまったことがあり、正式な会談までに時間を要していた。
会談の場を整えるためにゴロック族の使節団が村へ向かっていたが、途中で巨大なイノシシに遭遇し、多くの負傷者を出してしまった。そのため、予定されていた会談は延期となった。
本来ならば先王自ら出向くべきであったが、護衛や案内の提供が制限されていたため、周囲の意見に従い、ゴロック族の回復を待つこととなった。会談の調整を担当したハイエルフたちの努力を労いながら、状況の改善を見守ることとした。
新たな命と名付け
屋敷では、クロのお腹の上でアイギスと子猫たちが眠っていた。魔王が不在であることから、サマエルも外へ出ていた。
今年生まれた子猫たちはすべて雌であり、父猫の肩身が狭くなっていた。そのため、父猫に「ライギエル」という名前が付けられた。古の魔法の神の名前を由来としたものであり、名付けの際にはクジが用いられた。
姉猫たちは新たに生まれた子猫を守るようになり、天井の梁から見守る様子が見られた。その変化に、先王は彼らの生態の違いを感じていた。
ユキの温もり
部屋を出て行ったサマエルに代わり、ユキが先王の膝の上に頭を乗せた。その温もりを感じながら、先王は穏やかな時間を過ごした。
学園生活の開始と寮の問題
獣人族の少年たちは、ガルガルド貴族学園に入学して三日が経過した。授業には問題なく対応でき、身分の違いによる苦労もフラウ先生やユーリ先生の助力で避けられた。しかし、寮生活には大きな問題があった。
彼らが借りた三人部屋は狭いながらも綺麗だったが、ベッドは極端に硬く、まともに寝られるものではなかった。食事はさらに深刻な問題であり、食堂で提供される料理はひどく不味く、量は多いが品数が少なかった。それでも食べ残しは許されず、食事の受け取りが出欠確認の手段として使われていたため、毎日食べる必要があった。
さらに、寮には風呂がなく、身体を洗う方法はタライとタオルによる拭き取りのみであった。トイレは清潔であったが、使用する葉が硬すぎて不快だった。これらの問題により、彼らはすぐにホームシックに陥り、ついに寮を出ることを決意した。
寮を出て新たな住居を確保
学園を辞めるわけではなく、あくまで寮を離れることが目的であった。しかし、学園外に家を借りることは規則で禁止されていたため、彼らは学内の借家エリアを利用することにした。借家はすべて予約済みで空きがなかったが、「自分で建てるなら可能」との許可を得た。
指定された土地は整然と区分けされており、彼らは四×四の十六ブロックを確保した。共同管理費はブロック数に比例して増える仕組みだったが、見栄を重視し、広めの敷地を選んだ。事務担当の女性職員に対しては、適切なチップを支払い、手続きをスムーズに進めた。
家の建設と最初の設備
建設を始めるにあたり、彼らはまずトイレを優先した。地面を掘り、学園が管理するスライムを配置することで、浄化機能を備えた簡易トイレを完成させた。次に水の確保のため、共用井戸を利用し、大型の樽を購入して飲料水と生活用水を分けて保管する仕組みを整えた。
風呂は大きな樽を使用し、周囲をカーテンで囲って簡易浴場を設置した。寝床については、ガルフおじさんから受け取ったテントを活用し、硬い寮のベッドに苦しんだ彼らは、毛布を用いた快適な寝床を確保した。こうして最低限の生活環境を整えたが、調理器具が不足していることに気付き、寮の食堂から借りることとなった。
初めての手作り食事とホームシックの解消
調理器具を借りたことで、ようやく自炊が可能になった。ガルフおじさんが準備してくれていた調味料も活用し、彼らは村の味を再現した料理を作ることができた。寮の食事に苦しんだ彼らにとって、それは格別な味であり、食べながら涙を流した。
食事を終えた後、シールは学園北側の森で狩りをしたいと提案し、ブロンは学園との正式な契約手続きを担当することとなった。翌日はそれぞれの役割を果たしながら、より快適な生活を目指すことにした。
授業と卒業の証
学園では、三つの《卒業の証》を得ることで、いつでも卒業が可能だった。《攻撃魔法総合》《防御魔法総合》《生活魔法総合》の三つの授業を受けた彼らは、すぐに卒業の証を獲得した。しかし、授業は極めて基礎的な内容であり、彼らはまともに授業を受けることなく、個別審査の段階で卒業の証を渡されるという状況であった。
これにより、彼らが学ぶべき内容が初級レベルに過ぎないことを理解し、さらなる高度な授業を受けるべく、戦闘関連の授業への参加を検討した。しかし、魔法の上級授業は学園内で開講されていないことが判明し、彼らは困惑した。
家作りの進展とクラブ活動の勧誘
彼らは学園内でのクラブ活動に興味を持ちつつも、まずは家作りを優先することに決めた。そのため、クラブの勧誘には応じず、家の完成を急ぐことにした。
北の森で魔物に襲われた生徒を助けたことをきっかけに、彼らは学園の上級生四人と親しくなった。彼らは家作りを手伝うようになり、結果として風呂場の完成が早まった。しかし、学園の規則により、水路の設置は許可されなかったため、共用井戸から水を運ぶ手間は残ることとなった。
また、建設を手伝う上級生だけでなく、新たに知り合った女生徒二人も興味を持ち、彼らの作業を見学しつつ、家作りに関与し始めた。
木材の購入と商人の策略
木材の購入を進める中で、商人が価格を不当に吊り上げる事態が発生した。しかし、彼らは王城を訪れていたビーゼルおじさんを伴い、商人の不正を指摘。適正価格で木材を購入することに成功した。学園内ではこうした取引が頻繁に行われており、貴族関係者が利用するため、商人の影響力も強かった。
さらに、彼らはマイケルおじさんの店を探す必要に迫られた。学園での生活において、安定した物資の供給源を確保するためであった。
お祭りと大かくれんぼ
村では、大規模なかくれんぼ大会が開催された。村全体を使い、鬼役は死神が務めたが、開始から二時間が経過しても一人も捕まえられず、急遽ルール変更が行われた。
鬼に捕まった者が新たな鬼となる方式を導入したことで、ついに捕獲が進み、祭りは大いに盛り上がった。参加者全員が真剣に取り組み、子供たちだけでなく、大人たちも熱中した様子であった。
村での交流と遊びの日
祭りが終わった後、子供たちと一緒に遊ぶ日が設けられた。村の南の広場で遊具を持ち込み、自由に遊ぶことを目的とした。目的地までの移動には、ウルザが先導し、アルフレートが後方支援を行い、組織的に行動した。
その翌日には、クロの子供たちやザブトンの子供たちとも遊ぶ機会が設けられ、彼らは体力の限界に挑むこととなった。
帆船の建造と沈没事件
ライメイレンはヒイチロウのために大型の帆船を発注した。発注先はシャシャートの街にある造船所で、すでに建造中の船を購入し、装飾を施すことで新造船として完成させた。帆船は一年で完成し、春の終わりに初航海のお披露目が行われることになった。
見物人たちは五ノ村南の海岸に集まり、バーベキューをしながら帆船の到着を待った。しかし、帆船が海上を進む中、突然、後ろにいた小型船が原因で爆発が発生。帆船は瞬く間に沈没した。ハクレンたちは救助に向かい、船員たちは無事だったが、小型船は逃亡した。事件の犯人はエルフ帝国の勢力であり、「五ノ村の船がエルフ帝国を脅かす」との理由で攻撃を行ったことが判明した。
エルフ帝国との戦争と降伏
ライメイレンは報復として、竜を率いてエルフ帝国の島を包囲した。竜の飛翔と攻撃によって、エルフ帝国は外部との連絡を絶たれ、内乱が発生。戦意を失ったエルフ帝国は、降伏の意思を示すため、自らの城を焼いた。ライメイレンは周囲の説得もあり、降伏を受諾。
その結果、エルフ帝国は魔王国に吸収され、沈められた帆船の代わりに、エルフ帝国が所有する最大の魔法動力船が引き渡された。ヒイチロウはその船を見て喜んだが、帆がないことを不思議がった。後日、その船には無駄な帆が取り付けられることとなった。
貴族社会の仕組みと学園の風習
ガルガルド貴族学園では、生徒の身分によって人間関係が大きく影響を受ける。爵位を持つ者の子供や、それに準ずる役職の者の子供が多く在籍し、学園内でも貴族としての振る舞いが求められた。しかし、毎年のように学園に来たことで調子に乗る生徒が現れるのが通例だった。
シールは傲慢な態度で絡んできた伯爵の息子を拳で制し、彼に敬意を示させた。学園では、爵位を持つ当主が最も高い地位とされ、爵位を持たない貴族の子供よりも優遇される。彼らは男爵家当主相当の身分を持っていたため、伯爵の息子よりも上位とされた。貴族社会では、身分の下の者から喧嘩を売られた場合、即座に対応しなければならないとされていた。
領民生活向上クラブの結成
彼らは学園のクラブ活動に消極的だったが、上級生や近隣の生徒と共に《領民生活向上クラブ》を結成した。クラブでは狩猟、野外宿泊、農業、建築、料理、裁縫などの技術を学び、貴族の実生活に役立つ知識を身につけることを目的としていた。クラブには次第に生徒が集まり、四十人を超える規模に成長した。
学園に畑を作ることを申し出たが、最初は拒否された。しかし、「食料研究のため」と説明すると認められ、百メートル四方の土地が貸与された。農業経験のある貴族の息子もクラブに参加し、小規模な菜園の設置を提案。活動中は貴族言葉の使用が禁止され、実践的な学びの場となった。
料理の技術向上と寮の食事問題
クラブでは共同で食事を作ることが習慣となり、四十人分の食事を用意することもあった。しかし、その食事を経験した生徒たちの間で、寮の食事への不満が高まり、ついには食事改善を求める嘆願書が提出された。
学園長は嘆願書を受け、彼らに料理の技術指導を依頼。寮の料理人十人が送り込まれ、彼らの指導を受けることとなった。寮の食事の質向上を条件に、学園長は彼らの要望を聞き入れ、王都で探していた「マイケルおじさんの店」の捜索を約束した。
料理人たちは包丁の扱いには問題なかったが、調理技術は未熟であり、焼くか煮るかの二択しかなかった。彼らは学園の食事を改善するため、料理指導に尽力することになった。
材木屋とギルドの圧力
ゴンザは代々続く王都の材木屋を経営していたが、材木ギルドの嫌がらせを受け、商売が立ち行かなくなっていた。彼は仕入れ先や客に誠実に対応してきたが、その方針がギルドに疎まれたのである。ギルドは直接ではなく、取引先に圧力をかけるという陰湿な手段を使い、彼の店を追い詰めていった。新しい土地で再出発することも考えたが、先代から受け継いだ店を捨てる決心がつかずにいた。
ある日、材木ギルドの幹部が店を訪れ、ギルドの方針に従うか、店を畳むかを迫った。ゴンザは激怒したが、店員に止められ、冷静さを保つしかなかった。結局、選択肢は一つしかなく、彼は店を閉める決断をした。しかし、最後に一日だけ店を開けることにした。
王城からの注文と状況の一変
翌日、王城から役人が訪れ、大量の材木を注文してきた。ゴンザは、材木ギルドに知られれば問題になるのではと心配したが、役人は「ギルドに睨まれているなら、まっとうな店であろう」と言い切った。注文内容は家数軒分の材木で、通常なら準備に時間がかかる量だったが、在庫があったため翌日には納品可能だった。
さらに、役人は材木ギルドにクローム伯の査察が入ることを伝えた。ゴンザは驚いたが、詳細は知らされなかった。店員を偵察に向かわせると、材木ギルドの本部は兵に包囲され、幹部たちは追及を受けていた。その背後には、かつてゴンザが支払いを待ってやった家の息子がいた。彼は今回の注文を通じて恩返しをしていたのだった。
こうして、ゴンザの店は存続し、王都で材木屋を続けることができた。彼の正直な商売のやり方が報われた瞬間だった。
大樹の村への派遣
悪魔族の女性は、ドースに仕える助産師であった。彼女は自らの大きな角を疎ましく思い、魔力量も少ないため、悪魔族としての能力に劣等感を抱いていた。しかし、ドースの命令を受け、出産の手伝いのために〝大樹の村〟へ派遣されることになった。
彼女は〝死の森〟の真ん中にある村と聞いて恐れたが、現地にはハクレンやラスティスムーンなどの強力な存在がいた。特にハクレンが結婚して穏やかに暮らしているという話には驚きを隠せなかった。
村での生活と助産師としての役割
村での暮らしは予想に反し快適であった。食事や酒は美味しく、空気も魔素が豊富で悪魔族には適していた。彼女は助産師としての仕事が適度にあり、自身の技術を活かすことができた。これまでの生活では出産の機会が少なく、技術を発揮できる場が限られていたため、この環境は理想的であった。
また、村長である男性は妻を多く持ち、そのほとんどがハクレンの旦那であった。彼の立場を気遣い、妻たちにもう少し優しくするよう助言したところ、村長から深く感謝された。
ある日、助産の依頼が入り、彼女は〝一ノ村〟へ急行した。村では「角の助産師」と呼ばれるようになり、大きな角が役立つことを実感していた。彼女は、ここでの生活を受け入れ、自らの存在意義を見出したのである。
終章 学園の変化
魔王と子猫たちの遊び
魔王は変わった体勢で静止し、子猫のサマエルが体を登ってポーズを決めた。サマエルが下りると、今度は四匹の子猫が登って同じようにポーズをとった。それを見た村長も同じように試みたが、子猫たちは来ず、代わりにザブトンの子供たちとクロの子供たちが押し寄せた。結果として、村長は重みに耐えきれず、現実逃避に走った。
エルフ帝国の降伏と処遇
エルフ帝国が降伏し、魔王国の管理下に入ることとなった。しかし、その降伏はライメイレンが関与したものであり、村長に直接関係はなかった。それにもかかわらず、ビーゼルが書類を持参し、エルフ帝国の元支配者層の娘二十人が〝五ノ村〟に送られることを告げた。
エルフ帝国側は〝五ノ村〟での生活を望んでいたが、村長は待遇が良いとは言えないことを指摘した。しかし、エルフ帝国側は竜の庇護を得ることを目的としており、その考えを変えるつもりはなかった。結果として、魔王国はエルフ帝国の降伏を受け入れ、村長もこの状況に巻き込まれることとなった。
人間の国の反応とビーゼルの交渉
エルフ帝国の降伏に対し、いくつかの人間の国が異議を唱えた。しかし、ビーゼルは「では貴国で受け入れるか?」と提案したところ、彼らは沈黙し、何も言わなくなった。エルフ帝国の処理は厄介であり、人間の国々も関与を避けたかったのである。
その結果、エルフ帝国の住民のほとんどが島を離れ、魔王国の各都市に分散された。一方、島に残った数百人のエルフは、港の管理や漁業に従事することとなった。
エルフ帝国の元支配者層の娘たちの処遇
エルフ帝国の支配層は、竜への恐怖から自らの娘を捧げることで許しを得ようとした。しかし、ライメイレンはこの提案を無視し、ドースも同様に拒否した。エルフたちは諦めず、最終的に〝五ノ村〟へ送ることで決着がついた。
村長はこの決定に納得しなかったが、状況的に拒否はできなかった。二十人の娘たちは受け入れられ、ピリカのもとで訓練を受けることになった。翌日、彼女たちは脱走を試みたが、捕まり、さらに厳しい訓練を受けることとなった。
エルフ帝国の象徴たる船
エルフ帝国が降伏時に差し出した船は、エルフ帝国の技術の粋を集めたシンボル的な存在だった。しかし、その船に無駄な帆が取り付けられたことについて、エルフたちが質問してきた。村長は理由を知っていたが、ビーゼルは「傲慢さに対する戒め」として説明することにした。
新たな女王蜂の誕生
ある女王蜂の娘は、巣立ちの時期が来るまで悠々自適に過ごしていた。しかし、母親の命により、飛行能力を試すことになり、失敗した結果、強制的に巣を追い出された。護衛もなく、一人きりで生きることを余儀なくされた彼女は、新たな巣を作るしかなかった。
途方に暮れていた彼女は、偶然出会った蜘蛛に助けられた。その蜘蛛は彼女を村長のもとへ連れて行き、巣箱を与えられた。さらに、村の蜘蛛たちからハチミツの提供を受け、生活の基盤を確立。結果として、彼女は立派な女王蜂となり、巣を繁栄させることに成功した。
学園での料理教室と決闘への発展
村長の指示で料理の技術を惜しみなく教えることとなり、料理教室が始まった。しかし、その影響で学園内の派閥との対立が発生した。侯爵家の息子が二十人の手勢を率いて村長の家へ乗り込んだが、夕食時に集まっていた八十人に返り討ちにされた。
翌日、侯爵家は学園に弾劾状を提出し、決闘を要求。村長たちはこれを受け、五対五の勝ち抜き戦が決定された。しかし、決闘は代理戦となり、村長たちは直接参加できなかった。さらに、見届け人としてクローム伯(ビーゼル)が指名され、支援を受けることもできなくなった。
決闘は翌日に迫り、村長たちは戦士を五人集めることに奔走した。そして、決闘当日、侯爵側は重武装のミノタウロス族を先鋒に立てた。一方、村長たちは声を揃え、初戦の戦士に向かって声援を送った。「頑張れ、魔王のおじさん!」
魔王の圧倒的な戦闘力
決闘に敗れたミノタウロス族の戦士は、「ずるい、勝てるわけがない」と漏らした。それに対し、魔王は共感を示しつつも「逃げるわけにはいかない」と諭した。その様子を見た侯爵は、「あれは反則ではないのか」と叫び、見届け人であるビーゼルに詰め寄った。しかし、ビーゼルは冷静に「当事者が戦士になれないだけで、他の参加者は自由という取り決め」と返し、侯爵の抗議を退けた。
さらに、ビーゼルは侯爵の意図を見抜いていた。侯爵はこの決闘で勝利し、謝罪を通じて自身の立場とメンツを保ちつつ、息子の問題をうやむやにしようとしていた。だが、魔王が参加した以上、その計画は崩れた。侯爵は事態を察し、「私が勝ってはいけないのか?」と問い、ビーゼルは「その理解で十分だ」とだけ答えた。侯爵は観念し、決闘を続行した。
魔王の圧勝と決闘の結末
魔王は四連勝を収め、対戦相手にアドバイスを送る余裕まで見せた。観戦していた村の者たちは、その圧倒的な強さに見惚れ、普段の姿との違いに驚いた。そして、最後の対戦相手を一撃で倒し、決闘は魔王側の勝利で終わった。
しかし、決着がつく前に魔王が場を仕切り、「この場を提供してくれたことに感謝するが、演技が過ぎるのではないか?」と問いかけた。侯爵は観念し、「魔王様の力を拝見するための私の我がまま」と白状した。それに対し、魔王は「学生をいじめぬようにな」と釘を刺し、侯爵は深々と頭を下げた。そして、魔王が村の者たちに視線を向けると、彼らはすぐに感謝を述べ、この場は正式に解散となった。
突然の卒業と新たな役割
決闘が終わると、村の者たちは学園長室へと連れて行かれ、二日前の日付の卒業証書を手渡された。学園長は「貴方たちは二日前に卒業していたことになります」と説明した。
これは、決闘に勝利した事実を公にすることが問題だったからである。学生が侯爵に勝つことは、魔王国の秩序を乱しかねない。通常、このような決闘は成立せず、決着がつく前に和解案が提示されるはずだった。しかし、今回の決闘は侯爵の意図を超えて進行し、後戻りできない状況となったため、学園側は彼らを卒業させることで事態を収めようとしたのである。
学園長は「学園の教師として雇われる話に乗る気はないか?」と持ちかけた。これは、彼らを学園に留めるための措置であり、学園長自身も不本意ながらこの決定を受け入れるしかなかった。最終的に、彼らは学園の教師として新たな役割を担うこととなった。
教師としての新たな生活
村の者たちは、教師という立場に慣れないながらも、新しい生活をスタートさせた。しかし、困った問題が一つあった。彼らの目的の一つは、学園での奥さん探しだったが、教師となったことで生徒が対象外となってしまったのである。
「求婚するなら卒業してからか」とシールが呟くと、ブロンはすでに気になる相手がいることを匂わせた。村の者たちは、それぞれの思いを胸に秘めながら、新たな環境に順応していった。
また、彼らは「マイケルおじさんの店」に手紙を送る必要があったが、その店が見つかっていなかった。商隊経由で手紙を送ることも考えたが、確実性を求めるならばもう少し時間をかける必要があった。そこで、学園の卒業生に探してもらうことになったが、後に衝撃の事実が判明する。
学園での生活と新たな挑戦
教師としての役割が決まり、彼らの活動はクラブから授業へと移行した。しかし、クラブ活動も継続し、家作りや施設の拡充は続けられた。彼らは大きなお風呂場や野外調理場の建設を進めつつ、学園の生徒たちとも交流を深めていった。
一方で、彼らの影響力は学園内でも広がりを見せ、学園の食事改革にも関与することとなった。寮の食事改善を求める声が高まり、最終的に彼らが食事を担当することになったのである。
ゴロウン商会の正体
ある日、卒業生が「マイケルおじさんの店」を探しても見つからなかったことが報告された。しかし、村の者たちは「あ、ゴロウン商会だ」と呟き、真相が明らかになった。実は、マイケルおじさんの店とは、正式には《ゴロウン商会》だったのである。
この事実を知った学園長は、「その名前で見つかるわけがないでしょう!」と憤慨した。しかし、冷静に考えれば、三人がその名を知らなかったわけではなく、ただ単に店の名称を間違えていたというだけだった。結果として、卒業生たちに謝罪することとなった。
魔王と学園長の関係
学園長であるアネ =ロシュールは、実は魔王の妻であり、娘も一人いた。魔王は仕事で忙しく、家族と過ごす時間が少なかったが、学園には時折顔を出していた。
しかし、ここ数年、魔王の学園訪問の頻度が減っており、学園長は「浮気か?」と疑った。しかし、調査の結果、魔王はクローム伯と何かを進めていたことが判明し、人間の国との戦争に関与している可能性が高いと推測された。
学園での生活の変化
ある日、魔王が学園に訪れた際、彼の服に猫の毛がついていた。それを見た学園長は「浮気?」と疑ったが、魔王は「違う、ただ猫を可愛がっただけだ」と必死に釈明した。しかし、学園長は納得せず、「その泥棒猫を連れてきなさい! 私もモフモフする!」と詰め寄った。
こうして、学園に新たな風が吹き込まれ、村の者たちは教師として新たな生活を歩み始めた。
フェニックスの訓練と子供たちの成長
兎の肉を地面に置き、アイギスを腕に乗せて訓練を始めた。掛け声とともにアイギスは飛び立ち、地面に着地すると兎の肉へ向かい、格闘しながら食事を済ませた。満腹になるとその場で寝そうになったが、思い出したように戻ってきた。しかし、腕には戻らず、ただキメ顔を決めるだけだった。どうやら、アイギスを使った鷹匠ごっこは無理なようである。
一方、対抗すると予想されていたクロは、屋敷の中で仰向けに寝ていた。完全に気を抜いていたが、特に問題視することもなかった。
ヒイチロウの帆船への興味
ハクレンがヒイチロウと過ごしていた。母と子の関係として自然ではあるが、久しぶりにその光景を見た気がする。ライメイレンは、エルフの島を攻撃した件で父親に叱責され、自粛中だった。怒られて自粛することがあるのかと驚いたが、冷静な時なら可能とのことだった。
ヒイチロウは、事件後も帆船に興味を持ち続けており、ため池で遊べる帆船を欲しがっていた。その要望に応え、山エルフと共に一人乗りの帆船を製作中であった。帆を操作するための紐を取り付け、転覆時に元に戻るよう重りも調整していた。さらに、ライメイレン提供の高級な竜の絵が描かれた帆も準備されていた。完成は翌日か翌々日になる見込みである。
しかし、最近、子供たちが自分に直接願い事を言わなくなっていた。以前は普通に頼まれていたが、今では母親や鬼人族メイドたちに伝えているようだった。その変化に疑問を抱き、ヒイチロウを見つめると、彼は視線に気づきハクレンの背に隠れた。照れているのか、単に避けているのかは定かではない。
甘い物と野球の試み
甘い物を作っていると、ウルザとグラルが遠慮なく突撃してきた。妖精女王もこっそり忍び込んでいたが、ちゃんと手を洗うよう注意した。
夜には野球のバットを量産した。村の皆で楽しめるかと思ったが、試合は予想以上に荒れた。ピッチャーの球は危険で、バッターの打球も強すぎる。結果として、ホームランか三振、あるいはデッドボールの三択しかなくなり、〝大樹の村〟では野球は流行らなかった。
しかし、道具一式を魔王とビーゼルが引き取り、魔王国では緩やかに流行しているらしい。〝大樹の村〟製のバットは飛距離が優れていると評判で、注文も入るようになったが、生産量には限りがあった。王都の学園に行った獣人族の少年たちも野球チームを作り、村での失敗とは異なり楽しめているようだった。
エルフ帝国の皇女の受難
エルフ帝国が突如滅び、皇女であるキネスタは困惑していた。誰が責任を取るべきか問い詰めたが、侍女たちは慎重に対応し、適当な答えを避けた。
その後、彼女は魔王国へ人質として送られることになった。最初は貴族の家に嫁ぐつもりでいたが、侍女は「竜に狙われたエルフの姫を望む者はいない」と冷静に否定した。そして、金目の物を持ち歩くよう忠告を受けた。
キネスタは、魔王国で華やかな物語のような運命が待っていると期待していたが、〝五ノ村〟では農作業と厳しい訓練が課された。畑を耕し、長時間走らされる生活に耐えかね、彼女は脱走を決意した。しかし、その企ては予測されており、すぐに捕まってしまった。
屋敷の整理と新しい発見
屋敷の空き部屋が倉庫と化しており、整理を決意した。最初の部屋は自身の衣装部屋で、ザブトンが作った服が溢れていた。着ない服を処分しようとしたが、ザブトンの子供たちの懇願により、そのままにすることにした。
次の部屋にはルーが収集した魔道具が並んでいた。無造作に置かれているようで、ルーにとっては使いやすい配置らしく、勝手に整理すると怒られるため手をつけなかった。
別の部屋では、山エルフたちが仕掛けを施した遊び場となっており、これも徹底して片付けることにした。さらに、自身の昔の荷物が詰まった部屋も発見し、懐かしさを感じながら整理を進めた。
倉庫からは熟成させていた酒の樽も見つかり、そのうち一樽は酒スライムが飲み干していた。しかし、残りの二樽は無事で、これは嬉しい発見だった。
村の食事会と新たな命の誕生
整理中に発見された食料を消費するため、大規模な食事会が開かれた。自身は厨房で料理を作り、参加はせず裏方に徹した。
しかし、その間にルーが出産していた。予想より早い出産だったため、そばにいられなかったことを悔やみ、自ら罰として厨房に立ち続けた。
完成した料理をルーに届けようとしたが、鬼人族メイドに「直接持っていくべき」と促された。そうして彼は、ルーと娘のもとへ向かい、新たな命の名を相談することになった。
ルプミリナとオーロラの誕生
ルーが女の子を出産し、ルプミリナと名付けた。命名はルーが担当したが、相談の上で決めたため問題はなかった。アルフレートは、出産前は少し複雑な様子だったが、妹の誕生により態度が一変し、溺愛するようになった。ただし、過度な可愛がり方をすればティゼルが怒るため、注意が必要であった。
次に喜んだのは始祖である。嬉しさのあまり嫁入りの話を持ち出したが、生まれたばかりの子にその話は時期尚早であった。さらに、村の外に出すつもりはなかったため、その件は即座に却下された。
ルプミリナ誕生から数日後、ティアも産気づき、無事に女の子を出産した。名はオーロラ。ティゼルは妹の誕生を喜び、グランマリアたちも順番に様子を見に訪れた。抱っこはもう少し落ち着いてからとなった。
キアービットの視線と新たな出産予定
キアービットが妙な視線を送ってきた。あの視線は、明らかに雌が雄を狙うものだった。赤ちゃんを見て刺激されたのかもしれない。アルフレートの防波堤にはウルザが既に入っていたが、自分にはザブトンの子供たちしか防波堤がなかった。身長が足りないながらも、守ろうとする気持ちはありがたかった。
現在、ハイエルフ二人、山エルフ三人、獣人族の女の子二人が妊娠中であり、出産はもう少し先の予定であった。子供が増えること自体は喜ばしいが、ほとんどが自分の子であることに複雑な心境もあった。流されない意志を持とうと決意したが、女性たちの視線を受け、すぐにその決意は揺らいだ。
祝賀ムードと神頼み
村はルプミリナとオーロラの誕生で祝賀ムードに包まれた。多くの者が祝福に訪れたが、気を引き締める必要があった。赤ちゃんが病気や怪我をしないよう対策を考えた結果、神頼みに行き着いた。
神社の掃除を行い、創造神像と農業神像を綺麗にした。像はフーシュの祈りによって光り続けており、掃除をするとさらに輝きを増したため、直視が困難になった。ザブトンが作った薄いカーテンで光を和らげることに成功し、結果的に高貴な雰囲気を持つ神像となった。
出産や子育ての守護神を思案し、大地母神が適していると考えた。しかし、どのような姿か想像できず、『万能農具』に任せて彫刻を始めた。
妖精女王の像の誕生とその扱い
無心で彫刻を進めた結果、妖精女王の像が完成した。しかも、美人度と大人っぽさが五割増しの仕上がりとなっていた。これは、作業中に妖精女王が近くで子供たちと果物を食べていた影響だと思われた。
子供たちに感想を聞くと「そっくり」とのこと。妖精女王自身は「もう少し胸を大きく」と要望したが、木彫りである以上、削ることしかできなかった。
この像をどこに置くか悩んだが、一時的に屋敷のホールに飾ることにした。すると、村人たちが子宝祈願の像として崇め始め、拝み、供物を捧げるようになった。その状況を見て、衣装小屋と共に妖精女王の像を納めるための社を作ることに決めた。
衣装小屋の建設とザブトンの暴走
屋敷の近くに二階建ての衣装小屋を建設した。一階はマネキンを配置し衣装を展示する空間とし、二階は収納を中心にした。見た目はちょっとした店舗のようになった。
ザブトンはこれを大変気に入り、勢いよく衣装を作り始めた。作られた服はほとんど自分用のものだったが、子供たちの衣装もすでに季節ごとに八十着用意していた。あまりの量に、一日ザブトンがプロデュースするファッションショーを開くことを決意した。
村の収穫と増える子供たち
今年の秋の収穫は人手が不足していた。原因は畑の拡大と、出産と育児に追われる者が増えたことにあった。
ハイエルフ二人と山エルフ三人が次々と出産し、女の子三人と男の子二人が生まれた。その後、獣人族の女の子二人も出産し、男の子が二人増えた。結果として、ルプミリナとオーロラを含め、村に九人の新生児が加わった。
人手不足を解消するため、ユーリが連れてきた文官娘十八人を頼ったが、彼女たちは厳しい訓練を受けた直後で、村の光景に恐怖し戦力にならなかった。
ライメイレンが即座に手伝いに来てくれたほか、ドライムが二十人の悪魔族を連れて収穫作業を支援してくれた。最終的にドースがさらに二十人の悪魔族を派遣し、収穫は無事に完了した。
武闘会と成長する獣人族の少年たち
武闘会の開催に合わせ、学園に通っている獣人族のゴール、シール、ブロンが帰省した。彼らは以前より大人びていたが、シールは学園で多くの女性から求婚を受け、物理的な勝負を挑まれていたという。すべての勝負に勝った結果、彼の周囲には三人の女性が常にいる状態になっていた。
武闘会では、騎士の部でウノが優勝した。ダガはピリカの剣術を習得し、対人戦に強くなっていたが、ウノには及ばなかった。
魔王も例年通りギラルと戦い、恒例の悲鳴が響いた。
ヒイチロウの竜化
武闘会が終わった後、ヒイチロウが竜の姿に変化する時が来たとライメイレンが告げた。
竜の姿をイメージしやすいよう、ドース、ライメイレン、ドライム、ハクレンが竜の姿で待機し、ヒイチロウは尻尾に登ろうとしていた。そして、突然小型竜へと変化した。
ヒイチロウはパニックを起こすこともなく、自分の体を確かめるように翼を広げていた。問題はなかったが、すぐに飛ぼうとしたため、ハクレンとライメイレンが取り押さえた。
人間の姿に戻ったヒイチロウの額には小さな竜の角が生え、尻尾も残っていた。その姿に、出会った頃のラスティを思い出した。
ラナノーンにも同様の変化が訪れる可能性があり、ラスティがそばを離れなくなった。ヒイチロウの成長は嬉しいが、少し寂しさも感じた。
ガルガルド貴族学園の職務と報酬
ガルガルド貴族学園で働く者は、金を求める者と知識を求める者の二種類に分かれていた。教師は生徒が授業を受けるごとに収入が増えるため、人気の授業を展開できれば高収入が期待できたが、逆に生徒が集まらなければ収入は不安定であった。一方、事務員は給料が安定しており、五年も勤めれば王都に家を借りる程度の貯蓄は可能であった。ただし、貴族関係者を相手にする以上、立ち回りを誤れば解雇だけでなく命の危険もあった。
知識を求める者にとって、学園の図書室は魅力的な場所であった。学園の知識が集まるこの図書室には、学園の職員か学園長の許可を得た者しか入室できなかった。許可を得るには優秀な生徒である必要があり、その条件を満たせない者は学園で働くほかなかった。
自由を求めて教師に
学園の教師となったのは、自由になる時間が多かったためである。授業内容は教師が決めることができ、場合によっては授業中に研究を進めることも可能であった。ただし、授業内容には学園のチェックが入るため、完全な自由というわけではなかった。それでも事務員よりは圧倒的に自由な時間が確保できた。
授業では生徒に無難な講義を行い、気持ちよく《卒業の証》を渡していた。課題を出すと確認が面倒なので出していなかった。こうした環境に満足し、教師となったことを喜んでいた――あの三人が現れるまでは。
突如現れた獣人族の教師たち
入学したばかりの獣人族の男子生徒三人がクラブ活動を立ち上げ、いつの間にか教師になっていた。彼らは魔王や大貴族と知り合いであり、そのコネを利用していたように見えた。そうでなければ、学園内に畑を作ることも、さらには学園外にまで畑や牧場を広げることもできるはずがなかった。
学園長はこれを黙認していたが、本来学び舎であるはずの場所が農場化している現状に疑問を抱かざるを得なかった。さらに、彼らは教師の会議にも参加せず、自由に活動していた。これは許せないことであり、学園長が動かないならば自らの人脈を使って排除しようと考えた。
上層部の圧力と方針転換
学園長に抗議した結果、対応に出てきたのは王城の高位の人物たちだった。その中には将軍もおり、背後に立たれただけで斬られるのではないかという恐怖を覚えた。彼らは獣人族教師三人の持つ包丁や衣服の質に言及し、彼らが単なる学園の教師ではないことを示唆した。
その結果、彼らに文句を言うこと自体は許されたが、裏で動くことは許されなかった。そこで、彼らには関わらず、存在しないものとして扱う方針を固めた。しかし、彼らが作る料理の香りが周囲に漂い、無視するのは困難であった。
妖精女王の怠惰な日常と労働指導
妖精女王は部屋を占領し、食っちゃ寝の生活を続けていた。このままでは子供たちの教育に悪影響を及ぼすと考え、労働の素晴らしさを教えることにした。畑は大事だったため、牧場エリアで山羊たちの世話をするよう指示した。
しかし、妖精女王は山羊たちを従わせようとしたものの、逆に泣かされてしまった。慰めるために生クリームをのせたパンケーキを与えると機嫌を直し、美味しそうに食べた。妖精たちにもパンケーキは人気があり、妖精女王が食べることでその魅力が広まるのだという。
妖精たちの情報共有と善性
妖精たちは情報を共有する性質を持っていたが、全てを共有するわけではなく、必要なものだけを伝達していた。各妖精が個々の判断で共有の範囲を決めており、それぞれの個性が反映されていた。基本的に妖精たちは善性の存在であり、悪を嫌い、善を好む性質を持っていた。
妖精女王もまたその特性を持っていたが、山羊たちへの復讐を企てる姿は明らかに悪の表情であった。しかし、翌日には逆に山羊たちに追いかけ回され、もみくちゃにされていた。潔く逃げずに立ち向かう姿勢は、妖精女王の善性の証でもあった。
彼女を助けたことで、少しは善行を積めたと信じたい気持ちになった。
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