小説「【推しの子】 ~二人のエチュード~ 」感想・ネタバレ

小説「【推しの子】 ~二人のエチュード~ 」感想・ネタバレ

どんな本?

『【推しの子】~二人のエチュード~』は、芸能界を舞台に、若手女優である有馬かなと黒川あかねの過去と未来を描く作品である。
二人はW主演舞台の稽古中、即興劇が口論に発展し、舞台の行方に不安を抱く。
そんな中、過去に共に挑んだ舞台オーディションを思い出し、現在の関係性に至るきっかけを振り返る。
本作は、二人の因縁の始まりを深く掘り下げ、感動と衝撃のエピソードである。

主要キャラクター
有馬かな:実力派若手女優として知られるが、黒川あかねとは過去に因縁があり、現在も関係は良好とは言えない。
黒川あかね:同じく実力派若手女優であり、有馬かなとの間に複雑な感情を抱えている。

物語の特徴

本作は、芸能界の厳しさや女優同士の競争、そして過去の因縁を乗り越える過程をリアルに描写している。
キャラクターの心理描写が深く、読者は二人の成長や葛藤に共感できるだろう。また、原作の赤坂アカ氏が完全監修しており、ファンにとっても新たな視点から作品を楽しめる点が魅力である。

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出版情報
•著者:
赤坂アカ ×横槍メンゴ ◉田中創
出版社:集英社
発売日:2024年12月18日
判型/ページ数:B6判/208ページ+口絵4ページ
定価:968円(税込)
ISBN:978-4-08-703554-4
関連メディア展開:原作漫画『【推しの子】』はアニメ化や映画化の企画が進行中

あらすじ・内容

有馬かなと黒川あかねは、来月出演するW主演舞台の稽古として即興劇を演じていた。

映画「15年の嘘」から時が経ち、お互い実力派若手女優と称されるまでになったが、相変わらず仲は悪い。結果、稽古のはずがただの罵り合いになってしまっていた。舞台の先行きを不安に思う二人だったが、ふと過去に共に挑んだ“ある舞台のオーディション”を思い出す。それは二人の関係が、今へと至るきっかけとなった出来事で…!?

有馬かなと黒川あかねの過去と未来を描いた小説版第2弾!!

【推しの子】 ~二人のエチュード~

感想

過去と現在が交錯する物語の深み

本作は、有馬かなと黒川あかねという対照的な女優二人の過去と現在を描いた小説であった。
プロローグでは、二人の即興劇が罵り合いに発展する場面が描かれ、後日談でも相変わらずだなと思ってしまった。
その後、かつて共に挑んだオーディションの記憶が浮かび上がり、二人の複雑な関係性が始まった物語に入る展開が秀逸であった。

特に印象的であったのは、オーディション終盤の黒川あかねが演じる「女神」と有馬かなが演じる「村娘」の演技の対比であった。
それぞれのキャラクターが持つ個性が明確に描かれ、観客を引き込む力があった。過去のオーディションでの苦い経験が二人の成長に繋がり、本編上での衝突に新たな解釈ができるかもしれない。

有馬かなの内面と葛藤

有馬かなの人物像は、彼女の母親との関係や、かつての天才子役としての栄光と苦悩を通じて深く掘り下げられていた。
母親の期待に応えるために生きてきた彼女が、自分の存在意義を見出そうとする姿は、なかなかに痛々しく。
有馬の涙や震える演技には、彼女自身の感情が重なり、ただの演技を超えたリアルな力を感じさせた。と言うかリアルなんだよな?

特に印象的だったのは、母親に対する複雑な感情が「村娘」の演技に反映される場面であつた。
舞台上での「村娘」としての彼女の姿が、自身の境遇と重なる瞬間には、役柄を超えた深い意味が込められていた。

黒川あかねの冷静さと情熱(演技限定)

黒川あかねの成長もまた、この物語の大きな魅力であった。
彼女は有馬かなへの憧れと挫折を経験しながらも、冷静に状況を分析し、舞台で自らの可能性を示すことに成功する。
特に、「空気」をテーマにしたオーディションで、夫婦の感情を補完する独創的な演技を披露した場面は圧巻であった。

彼女の分析力と柔軟性は、舞台での表現力に直結している。
稽古場でかなと向き合い、役柄や舞台の解釈を深める様子には、演技に対する彼女の真摯な姿勢がうかがえた。
演技に対する情熱と、誰よりも輝こうとする努力が印象的であった。

物語全体の感想

本作は、過去と現在の出来事が交錯しながら、二人の女優の成長と葛藤を描き出していた。
特に印象に残ったのは、二人のぶつかり合いと、その中で見出される新たな可能性であった。
プロローグとエピローグで描かれる漫画版後日談との繋がりも、物語に深みを与えている。

また、有馬かなの母親に対する依存と反発の描写や、黒川あかねの冷静さと情熱の対比が物語を引き締めていた。
二人の関係性は単なる友人やライバルではなく、即興劇のような流動的なものであり、だからこそ読み応えがあった。

舞台上での「村娘」と「女神」という役柄の関係性が、二人の私生活にまで影響を及ぼしている点が巧妙であり、演技という枠を超えた人間ドラマを感じさせてくれた。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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その他フィクション

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フィクション あいうえお順

備忘録

プロローグ

即興劇から罵り合いへの発展

有馬かなと黒川あかねは、共演する舞台「茨の姉妹」のために自主稽古を始めた。レッスン室に集まり、即興劇として姉妹の役柄を演じ始めたものの、途中から設定を忘れ、個人的な罵り合いに発展した。かなはあかねの振る舞いや高い好感度に苛立ちを感じ、あかねはかなの態度に反発を覚えていた。二人の言い合いは二時間にわたり続き、レッスンの目的を見失う結果となった。

過去の因縁と互いの性格

二人は昔から互いを気に食わないと感じており、その感情は今も変わらなかった。あかねはかなの態度を「歪んでいる」と評し、かなはあかねの振る舞いを「偽善的」と捉えていた。罵り合いの中、二人の間に潜む過去の因縁が垣間見えたが、時間が経つにつれ冷静さを取り戻し、練習を再開する方向へと向かった。

舞台共演と昔の記憶

今回の舞台共演は、映画「15年の噓」以来の再会であった。かなは自主稽古を通じて過去を乗り越えようとしたが、感情が高ぶる場面が多かった。一方、あかねはふとした会話の中で「昔のオーディション」のことを思い出した。それは二人にとって辛い記憶であり、同時に女優としての成長のきっかけでもあった。

未来への不安と共感

二人は罵り合いの中にわずかな共感を見出し、過去の苦い経験を共有する瞬間を迎えた。舞台の成功を不安視しつつも、それぞれが役者としての責任を胸に刻み、再び舞台に立つ決意を固めた。この共演が、二人の関係にどのような変化をもたらすのかが注目される。

第  一  章

有馬かなへの憧れと挫折

幼少期の黒川あかねは、有馬かなに強い憧れを抱いていた。人気子役として輝くかなの姿を真似し、外見や仕草まで徹底的に模倣した。両親の支えもあり、劇団での稽古を重ねて努力を続けた。しかし、念願叶ってオーディション会場でかなと初めて対面した際、彼女の冷淡な態度に衝撃を受けた。かなは業界の裏事情を語り、あかねの憧れを完全に否定した。この出来事は、幼いあかねにとって大きな挫折となり、その後の生活に影を落とした。

オーディションへの再挑戦

あかねは迷いながらも、劇団主宰の岡村の説得を受け、演劇界の鬼才・虹野修吾による舞台のオーディションに参加することを決意した。岡村の励ましにもかかわらず、かなとの過去のやり取りがトラウマとして心に残り、演技への情熱を見失いつつあった。それでも、劇団を代表する立場として参加を決めたあかねは、重い足取りで会場へ向かった。

控室での緊張感

オーディション会場で、あかねは同年代の実績ある女優たちに囲まれ、自身の未熟さを痛感した。彼女たちの冷ややかな視線や言葉が、あかねの自信をさらに揺るがした。その場に居心地の悪さを感じながらも、あかねは自分の役割を果たそうと努めた。その時、控室に現れたのは、幼い頃に憧れた有馬かなだった。突然の再会に、あかねは驚きと動揺を隠せなかった。

かなの葛藤と決意

一方、かなもまた厳しい状況に置かれていた。かつての天才子役としての栄光は過去のものとなり、事務所との契約解除に追い込まれていた。母親との関係にも悩み、失意の中で新たな道を模索していた。そんな中で彼女は、このオーディションに参加することを決意した。かなは再び輝きを取り戻すため、自分の力を証明しようとしていたのである。

再会から始まる新たな物語

控室での再会は、あかねとかなにとって過去の傷と向き合う機会となった。それぞれが抱える葛藤と再起への決意が交錯し、二人の物語は新たな局面を迎えようとしていた。この舞台での共演が、彼女たちにどのような影響を与えるのか、今後の展開が注目される。

穏やかな夜とかなの葛藤

かなは夜の静けさを愛し、母親の怒りに怯えながら過ごしていた。夜中、胸の痛みを抑え込むように暗示をかけながらも、眠れぬ夜を過ごした。翌朝、リビングには機嫌を直した母が、珍しく朝食を用意してかなを迎えていた。その笑顔の裏には、虹野修吾による新作舞台のオーディション情報が隠されていた。

オーディションへの母の期待

母は知り合いの舞台監督から得た情報を誇らしげに伝え、かなにこのオーディションに挑戦するよう促した。かなは母の期待に応えようと決意を固め、舞台に立つことで再び母を喜ばせたいと願った。しかし、自信を失いつつあったかなにとって、この挑戦は大きな負担でもあった。

オーディション会場での苦難

オーディション当日、かなは会場に到着するも、招待制であることを理由にスタッフに入場を拒まれた。かつての自身の横柄な態度が業界で悪評を生み、その影響を痛感することとなった。それでも、かなは土下座までして参加を懇願し、自分の決意と情熱を示した。

虹野修吾との対面

かなの行動に興味を持った演出家、虹野修吾が現れ、彼女にオーディション参加を許可した。虹野は、かつて才能に溺れていたかなの変化に注目し、そのハングリー精神を評価した。かなは虹野の期待に応えるべく、覚悟を新たにオーディションに臨む決意を固めた。

第  二  章

控室での再会

オーディションの控室に、有馬かなが現れた。彼女を見た黒川あかねは驚きと困惑を隠せなかった。過去の辛い記憶を思い出したあかねに対し、かなはまるで彼女を覚えていない様子で、そっけない態度を取った。周囲の参加者たちもかなの存在にざわめき、注目を集める中、かなは冷静にスマホを操作していた。

他の参加者とのやり取り

高藤エミリと鈴見リコがかなに声をかけたが、かなは丁重に断り、オーディションへの集中を優先した。この態度に二人は不満を抱き、陰口を叩いたが、かなは動じることなく自分のペースを貫いていた。この冷静さに、あかねはかなの精神力の強さを感じ取り、内心で感心した。

台本配布と「空気」役の指示

参加者たちは台本を渡され、30分間の準備時間が与えられた。台本には「夫」と「妻」という役だけが記載されていたが、スタッフから与えられた指示は「空気」役を演じるというものだった。この予想外の展開に参加者たちは困惑し、あかねもまた不安を抱えながら準備を進めた。

ベテラン俳優との共演

会場のステージには三沢淳一と中村菜々子という大物俳優が登場し、「夫」と「妻」の役を務めることが告げられた。参加者たちは、この豪華な共演者に緊張しつつも、課題に挑む覚悟を決めた。特にかなは冷静に台本を読み込み、集中力を高めていた。

演出家・虹野修吾の意図

「空気」役の意図は明かされないまま、参加者たちは舞台に立つことを求められた。この意図不明な課題は、参加者自身の創造性と適応力を試すものだった。虹野修吾は客席からその様子を見守りながら、今回のオーディションで新たな才能が現れることを期待していた。

激しい夫婦喧嘩の舞台

ステージ上では、三沢淳一と中村菜々子が「夫」と「妻」に扮し、激しい口論を繰り広げていた。観客席の姫川大輝は、その圧倒的な演技力に引き込まれていた。舞台上の喧嘩は臨場感に溢れ、観客を物語の中へと引き込む力があった。

高藤エミリの「空気」の演技 🌪️

高藤エミリは、「空気」という課題に対し、エアコンから流れる風を体で表現する独自のアプローチを見せた。その動きは軽やかで、美しいダンスのようだった。観察力と解釈力が求められるこの課題に、彼女は果敢に挑み、審査員から一定の評価を得た。しかし、舞台全体との調和には欠ける部分も見受けられた。

黒川あかねの独創的な解釈

黒川あかねは、「空気」を夫婦の内面を表現する存在と捉え、「夫」と「妻」の感情を補完する形で演技を展開した。アドリブで台詞を追加し、彼らの心情を忠実に表現することで、観客にその場の雰囲気を伝えた。彼女の演技は、虹野修吾が想定していた模範解答のひとつであり、その観察力と再現力は審査員たちを驚かせた。

観客と参加者に与えた衝撃

黒川あかねの演技は、参加者や観客に強い印象を残した。有馬かなはその演技を見て、自分にとって新たなライバルの出現を予感した。参加者たちがエミリの演技に刺激を受けていた中、かなは自分の演技であかねに勝たなければならないという決意を固めた。

あかねの思いと演技への集中

あかねは舞台上での演技に没頭し、共演者である「夫」と「妻」の感情を巧みに演じ分けた。その集中力は舞台全体を活気づけ、観客の心を掴んだ。彼女は幼少期から得意としていた「真似っこ」を最大限に活かし、自分の内面の弱さを克服しながら、演技の楽しさを再発見していた。

埋もれた才能への評価

姫川大輝は黒川あかねの演技に驚き、虹野修吾に彼女の過去を尋ねた。虹野によれば、黒川は小規模な劇団公演や端役程度の経験しかない役者であった。メディアは才能よりも目立つ存在を好むため、彼女のような隠れた才能が埋もれてしまうことも多いと虹野は語った。

黒川あかねの解釈と舞台のオチ

黒川あかねは「空気」を夫婦喧嘩の本質を代弁する存在として演じた。夫婦の互いを軽視する心理を一言で表現し、舞台に鮮やかな結末を与えた。その演技に感嘆した大輝は、彼女の才能を絶賛し、虹野も満足げな表情を浮かべた。

かなからの宣戦布告

黒川の演技を見た他の参加者たちが驚きの表情を浮かべる中、有馬かなは黒川に対し「負けられない」と宣言した。その言葉にあかねは動揺し、彼女の視線には強いプレッシャーが漂っていた。

凡庸な演技が続く時間

黒川あかねの演技以降、他の参加者たちの演技は凡庸であり、創意工夫のない模倣や不安から何もせず終わる演技が目立った。唯一、鈴見リコがユーモアを交えた自己紹介で観客の笑いを誘い、場を和ませた程度であった。

有馬かなの独自解釈

舞台に立った有馬かなは、「空気」を「存在しないも同然の存在」と解釈し、夫婦喧嘩に無視される子供を演じた。そのたどたどしい声色や弱々しい所作は観客の心を捉え、会場全体を独特な緊張感で包み込んだ。

天才子役の再起

有馬かなの演技は、その場にいない存在を「空気」として表現しつつ、圧倒的な存在感を示した。過去の天才子役としてのキャリアや経験が、彼女の演技に厚みを与え、観客を物語に引き込んだ。大輝も再びその才能に興奮し、彼女の新たな可能性を認識した。

演技に魅せられる黒川あかね:(;゙゚’ω゚’):コワ

黒川あかねは、有馬かなの演技に釘付けになった。かなが舞台上で見せる「空気」の演技は、他の参加者を圧倒する迫力を持っていた。彼女の涙や震えに心を揺さぶられたあかねは、その演技があまりにもリアルで、まるでかな自身の心の傷が滲み出ているように感じた。

天才子役の葛藤

かなは舞台上で流した涙が、彼女自身の感情と重なることを誰にも知られたくなかった。舞台が唯一、彼女が本音を吐き出せる場所であり、家庭や仕事のストレスから解放される瞬間であった。家族との辛い過去が、彼女の演技にさらなる深みを与えていた。

審査結果の発表

オーディションでは高藤エミリ、有馬かな、鈴見リコ、そして黒川あかねが合格した。特にかなの演技は、審査員たちに強烈な印象を与えた。合格者が複数名選ばれるという予想外の展開に、参加者たちは動揺しつつも期待を抱いた。

二次審査への準備

虹野修吾は、二次審査ではペア演技を行うことを発表した。ペアは高藤エミリと鈴見リコ、黒川あかねと有馬かなに決定した。あかねは、かなとのペアで協力しながらもライバルとして競う関係に緊張を覚えた。

対立するペアの関係

かなはあかねに対して強い意志を示しながらも、互いに共通の目標に向かう必要があるという状況に戸惑いを見せた。あかねもまた、かなとの協力が困難であると感じながら、舞台での新たな挑戦に備える決意を固めていた。

第  三  章

一次審査の合格発表と二次審査への準備

有馬かなは、一次審査の合格者として名前を呼ばれたが、特に喜びを感じていなかった。二次審査があることを予期しており、黒川あかねの演技を見て難航する可能性を感じていたからである。一次審査の合格者には二次審査の説明資料が手渡され、各ペアで自由に配役を決め、演技プランを固めるよう指示があった。二次審査では衣装や小道具の準備も必要で、本格的な内容であることが強調されていた。

ペアの相手との初対面

控室でかなは黒川あかねと顔を合わせたが、彼女の反応はぎこちなく、目を合わせることすら難しい様子であった。かなは、パートナーとしてのコミュニケーションが必要だと考え声をかけたものの、あかねの問いかけは予想外の内容だった。あかねは審査中のかなの涙が本当に演技だったのかを尋ねた。その直感的な問いにかなは動揺しつつも、演技であると答え、話題を収めようとした。

あかねの自責と家族の支え

帰宅したあかねは、自室で自分の発言がかなを怒らせたことを後悔していた。自分の距離感のつかめなさを反省しつつも、父親に悩みを打ち明けた。父はプロファイリングの手法を使い、かなの情報を整理することを提案した。あかねは父の助言に心を動かされ、かなのことをもっと理解しようと決意した。

二次審査の台本と母親の助言

二次審査の台本『慈愛の女神』がかなの家に届いた。物語は勧善懲悪をテーマとした三幕構成で、母親は「女神」役をかなに勧めた。主役が目立つ役を取るべきだという母の主張に対し、かなは内心疑問を抱きつつも、母を説得するために従うふりをした。母の要求に応えることが、家庭内の平穏を保つための手段であったからである。

稽古場での初対面と配役決定

黒川あかねは、劇団あじさいの稽古場で有馬かなと初めて顔を合わせた。かなは稽古場に入るなり、「私が『女神』役で、アンタが『村娘』役。それでいくわよ」と一方的に配役を決定した。あかねは強引なその提案に戸惑いながらも、かなの真剣な眼差しに押され、提案を受け入れることにした。

台本読み合わせと演技の息の合い方

二人は『慈愛の女神』の台本を読み合わせ、演技を進めた。あかねは「村娘」としてかな演じる「女神」を敬虔に崇拝する演技をこなし、かなの慈愛に満ちた「女神」の表現には卓越した演技力を感じた。稽古は初回にも関わらずスムーズに進行し、あかねはかなの間の取り方や視線の使い方が非常に合わせやすいと感じていた。

突如現れた姫川大輝の助言

稽古の最中、見慣れぬ男性――若手俳優の姫川大輝が稽古場に現れた。姫川は二人の稽古を見ており、「女神様が優しいだけの存在ではない」という含みを持たせた感想を述べた。この意見はかなを苛立たせつつも、あかねにとっては自分の疑念を再確認させるものとなった。

演技の方向性についての対話

姫川の助言に触発され、あかねは台本に対する自身の意見をかなに伝える覚悟を決めた。彼女は「女神」のキャラクターが単に優しいだけではない深みを持つ可能性について話し合いたいと提案した。かなも真剣にその意見を聞き、二人は演技の方向性を日が暮れるまで議論し続けた。

特別な一日の記憶

この日の出来事は、あかねにとって初めてかなと本音で向き合った特別な記憶となった。この稽古場での対話と衝突が、後の二人の演技にも大きな影響を与えることとなった。人生のターニングポイントは、どこに潜んでいるかわからないものである。

第  四  章

雨の日の二次審査会場

三月の冷たい雨が降りしきる中、姫川大輝は虹野修吾のオーディション二次審査を観覧するため劇場ホールを訪れた。舞台上では高藤エミリと鈴見リコのペアが『慈愛の女神』の《第二幕》を演じていた。高藤は神々しい白い衣装に身を包み威厳ある「女神」を表現し、鈴見は煤に汚れた「村娘」として迫真の演技を見せていた。二人の演技は完成度が高く、場数を踏んだ安定感が感じられた。

虹野修吾の評価と期待

大輝の隣で審査を見守る虹野は、二人の演技を「台本に忠実」と評しつつも、「優秀」の域に留まると冷静な評価を下していた。彼の目には、役者としてさらなる創造性と挑戦を求める欲があり、それを黒川あかねと有馬かなのペアに期待している様子であった。

控室での準備と二人の変化

控室ではかなが自らのメイクを整え、慣れた手つきであかねのメイクを手伝っていた。あかねは以前より自信を持ち、かなとの関係も対等に近づいていた。二人のやり取りの中で、あかねは成長した姿を見せ、かなもまた、自分とは異なるあかねの純粋さに時折感心する場面があった。

高藤エミリとの応酬

前の出番を終えた高藤と鈴見が控室に戻り、挑発的な言葉を投げかけた。それに対してあかねは冷静に「自分たちの方が良い演技をする」と言い切り、かなを驚かせた。彼女の堂々とした態度は、以前のおどおどした姿とは一変しており、役者としての成長を示していた。

本番の幕開け

いよいよ二人の出番となり、緞帳が上がるとそこには黒いドレスをまとった「女神」を演じるあかねの姿があった。黒を基調とした衣装と禍々しい雰囲気は、高藤が演じた「白い女神」とは正反対で、観客に強烈な印象を与えた。一方、「村娘」を演じるかなは、女神を盲信する純朴な少女を丁寧に表現していた。

舞台の異様な空気

あかね演じる「女神」の邪悪な笑みと、かな演じる「村娘」の無垢な崇拝心が奇妙な対比を生み出し、観客を引き込んだ。その表現は、虹野が期待していた通り、これまでの二次審査とは一線を画す独創的なものとなっていた。

『慈愛の女神』の真意

過去の稽古場での対話を思い出しながら、あかねは『慈愛の女神』の表面的な勧善懲悪ではなく、「女神」の自己愛や支配欲が込められた裏のテーマを掘り下げていた。これにより、彼女たちの演技は台本の表層を超えた深みを持つものとなり、観客を圧倒する結果となった。

《第二幕》の火災シーン

村が炎に包まれる中、「村娘」を演じた有馬かなは、必死な表情で女神像に向かって走り出した。信仰心の強い「村娘」として、彼女は女神像の前で頭を垂れ、救いを求める台詞を叫んだ。黒衣をまとった黒川あかね演じる「女神」は、村の運命を静かに告げつつ、独占的な暗い欲望を含んだ微笑みを浮かべていた。

演技に対する評価

あかねの「女神」は、威厳と邪悪さを併せ持つ独自の解釈で、観客に強烈な印象を与えていた。舞台に立つ彼女の演技は堂々としており、かなにも本当に悪しき「女神」として映った。かなは、あかねが純粋に演技を愛している姿に羨望を抱いた。

「村娘」と「女神」の対比

かなは女神から「命だけは救う」と告げられ、言葉通り舞台を駆け出した。しかし、「村娘」が「女神」の自己愛を満たすための存在でしかないことに気づかない姿は、哀れに映った。かなは、「村娘」が自分自身の姿に重なると感じていた。

稽古場での対話

三週間前、稽古場でのやり取りで、あかねは「村娘」をかなが演じるべきだと主張した。その理由として、かなの境遇が「村娘」と重なる点を挙げ、彼女を「操り人形」と評した。あかねはかなの家庭環境や母親との関係を詳しく調べ上げ、その事実をもとに話を進めた。

母親の影響と「女神」の支配

あかねは、かなの母親が彼女を支配し、芸能活動に過剰に介入している事実を指摘した。さらに、それが「村娘」が「女神」に縋る構図と一致していると分析した。これにより、かなは自分が母親に心の底から支配されている現実を認めざるを得なくなった。

「村娘」としての可能性

あかねは、かなが「村娘」を演じることで、その境遇を活かした役作りができると助言した。彼女は役作りに必要な要素がすべて揃っているとして、かなに「村娘」を演じる意義を説いた。かなはその言葉に呆れつつも、あかねの発想の斬新さに感心せざるを得なかった。

母親への恐怖と逆らえない理由

かなは「女神」役を選んだ理由として、母親に逆らえないことを認めた。あかねはかなの恐怖心を鋭く指摘し、母親に捨てられることへの不安を明らかにした。これにより、かなは自分が抱える問題を真正面から突きつけられる形となった。

笑いと怒りのぶつかり合い

黒川あかねが有馬かなを覗き込もうとしたその瞬間、かなが甲高い笑い声を上げた。笑顔を浮かべてはいたが、瞳の奥には強い憤りが宿っていた。「アンタ、なにもわかっていない」とかなは断言し、あかねのプロファイリングを鼻で笑った。彼女の分析に対し、「浅薄だ」と言い放ち、自分の本心を語り始めた。

かなの反論と激情

かなは、自身の母親の問題や、自分が抱える苦悩を一気に吐露した。母親の行動を否定しつつも、彼女への愛情と認められたい願望が根底にあると告げた。かなの言葉は激しい感情と共に、あかねを圧倒し、彼女の持つ分析の限界を鋭く指摘した。

あかねの葛藤と自己認識

かなの言葉を受けたあかねは、自分が「人の心をわからない人間」であることを痛感した。彼女の分析や行動は、他者を真似することで自身の不安を隠すためのものであり、弱さから逃げる手段だったと自覚する。自分の非力さと未熟さを認めざるを得なかった。

芝居への情熱の再確認

あかねは、かなとの衝突を経て「芝居しかない」と改めて決意を固めた。彼女はかなに「村娘」役を演じるべき理由を伝え、舞台プランを説明した。その計画は「村娘」に焦点を当て、かなの実力を最大限に発揮できる内容だった。

演技のクライマックス

オーディション本番の《第三幕》。舞台上で「村娘」を演じるかなは、あかねのプランから外れ、「女神」に完全に従属する姿を見せた。その演技は、あかねの想定を超え、観客の視線を釘付けにした。あかね自身も「女神」としての役に引き込まれ、舞台上での衝突が新たな表現を生み出した。

感情の共鳴と未来への期待

舞台は観客を圧倒し、かなとあかねは互いの役を通じて限界を越える演技を引き出した。大輝や虹野もその才能に驚嘆し、二人の今後の成長に期待を寄せていた。芝居に対する情熱が交錯し、二人の舞台は忘れられないものとなった。

幕引きと観客の反応

ステージの幕が下り、観客たちの間に静かな熱狂が広がっていた。黒川あかねの「女神」の演技が絶賛される一方で、有馬かなの「村娘」には不満の声も聞かれた。特に姫川大輝は、「不気味だが不完全燃焼だ」と感想を漏らした。虹野修吾も、かなの演技が黒川に食われていたと指摘した。

かなの「空気」の芝居

一次審査では圧倒的な存在感を見せたかなであったが、二次審査では黒川あかねを引き立てる「受け」の演技に徹していた。大輝は、これが計算されたものか、あるいは友情からの行動かと推測したが、いずれにせよその高度な演技力には感嘆せざるを得なかった。

虹野の評価と結論

虹野は、「板の上で前に出ない子はいらない」と述べ、黒川あかねをオーディションの勝者として評価した。一方、有馬かなについては、彼女の控えめな態度が舞台上での敗因だと結論付けた。

黒川とかなの関係性

舞台終了後、黒川あかねはかなに対し、「なぜ最後に泣かなかったのか」と問い詰めた。かなは「その方がいい作品になると思った」と答えたが、あかねはこれを受け入れられず、かなの選択に反発した。一方、かなは自分の哲学に基づき、黒川を照らす演技を選んだことを揺るぎない事実として受け入れていた。

母親との衝突と覚悟

その夜、かなは母親に失望をぶつけられた。母親の叱責にも冷静さを保ちつつ、かなは自分が「村娘」として母親を支える立場にあることを悟った。彼女は母親への期待を捨て、自分自身を守るために仮面をかぶり続ける覚悟を決めた。

未来への希望

かなは、自分がまだ子供であり、未来があることを自覚していた。傷つきながらも、自分を大切にしようと決意し、いつの日か自由を得るために耐える道を選んだ。その笑顔は、彼女の内面の葛藤と成長を物語っていた。

エピローグ

主演女優賞の受賞と会見

都内のホテルで行われた記者会見で、黒川あかねと有馬かなは「主演女優賞」を揃って受賞した。舞台『茨の姉妹』の成功が評価され、二人の功績が讃えられた。会場では、司会者から互いの印象を問われた二人は、冗談混じりに互いを評し、時折場内を笑いに包んだ。

二人の複雑な関係性

会見中、かなとあかねは自身の関係性について「仲が悪い」としつつも、お互いが人生における重要な存在であることを認めていた。友人ともライバルとも形容できない流動的な関係は、即興劇のようであり、二人にとって特別なものであった。

母との距離感と独立

かなは会見で母への感謝を述べたが、内心では冷めた距離感を抱いていた。かつて熱心に彼女を支えた母は、かなの子役引退を機に関心を失い、田舎に引き下がった。かなはこの距離を受け入れ、互いに自立することの重要性を理解していた。

過去への執着と覚悟

翌日、あかねは歩道橋で亡き彼への想いを巡らせていた。過去の記憶を蘇らせる手段に固執しつつも、その行動が自己救済に繋がると信じていた。一方で、かなは墓前で亡き彼に語りかけつつ、自らの役者としての覚悟を新たにしていた。

未来への決意

かなは涙を浮かべながらも、役者として成長し続けることを誓った。彼との記憶と痛みを糧に、さらに大きな目標を掲げて進む意志を強くした。その強い決意は、彼女の役者人生をさらなる高みに押し上げる原動力となるものであった。

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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