どんな本?
『片田舎のおっさん、剣聖になる』第3巻は、佐賀崎しげる氏の著作であり、2022年2月7日にスクウェア・エニックスより刊行された。
本作は、片田舎で剣術道場を営む中年男性ベリル・ガーデナントが、成長した元弟子たちとの再会や新たな任務を通じて、自身の実力を再認識し、剣聖としての道を歩む姿を描いている。
第3巻では、レベリス王国と隣国スフェンドヤードバニアの王族間の友好行事において、ベリルが王族護衛の任務に就くこととなる。
その際、スフェンドヤードバニアの副団長であり、かつての弟子であるロゼ・マーブルハートとの再会が描かれる。
物語は、王族を狙う陰謀や新たな敵との対峙を通じて、ベリルの活躍を中心に展開される。
また、シリーズ累計発行部数は650万部を突破し、2025年4月にはテレビアニメ化も予定されている。
読んだ本のタイトル
片田舎のおっさん、剣聖になる 3
著者:佐賀崎しげる 氏
イラスト:鍋島テツヒロ 氏
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あらすじ・内容
おっさんの次なる任務は――王族護衛!?
コミック1巻同月発売!!まもなく始まるレベリス王国と隣国スフェンドヤードバニアの王族の友好行事に向けて、両国の騎士団が警護に当たるらしい。そして当然騎士団長アリューシアからは、
「先生をご紹介する、良い機会かと」
そろそろ大役にも慣れ始めたおっさんだが、さすがに『王族』と聞いて悶々するなか、相手国の騎士団が到着したようで――
「うふふ。貴方の愛弟子、ロゼ・マーブルハートですよ~」
スフェンドヤードバニアの副団長もかつての弟子!?
再会に驚く間もなくアリューシア・ロゼと共に王族護衛の任に就くが、その背後では王族を狙う黒い影が徐々に動き始めていて――。
片田舎のおっさん、人生最大の超重要任務に挑む!!
感想
名を上げるおっさんの新たな試練
王族護衛と弟子との再会
今回、主人公ベリルは王族護衛という大役に挑んだ。隣国スフェンドヤードバニアの使節団と共に現れたのは、彼の元弟子ロゼ・マーブルハートだった。教会騎士団副団長に成長した彼女との再会は驚きと共に、物語に新たな展開をもたらした。弟子が大きく成長している姿に感動しつつも、師としての威厳を見せるベリルの姿が印象的であった。
物語のスケールの拡大
物語はこれまで以上に規模が大きくなり、内政問題や隣国との関係が描かれた。
王族護衛という任務中、刺客の襲撃が発生し、その裏にはロゼの関与も見られた。
彼女が抱える事情と信念に葛藤する様子が、物語に深みを与えていた。ベリルが弟子を導く姿勢は、ただの戦闘以上に心に響くものがあった。
新たな弟子と師匠としての奮闘
本巻ではロゼという新たな弟子が中心となった一方、これまで登場していた元弟子たちの出番が少なかった点が残念である。
しかし、ロゼとの一騎打ちや、彼女を諭す場面では、ベリルの成長した師匠としての一面が光った。
また、ミュイの少しずつ懐いていく様子や、スレナとの軽妙なやり取りなど、日常的なエピソードも物語のバランスを取っていた。
スフェン教を巡る騒動と謎
スフェン教の内紛が描かれた今巻では、今後も続くであろう複雑な政治や宗教的背景が提示された。
ロゼの行動の裏に隠された目的や、第一王子を巡る事件など、興味を引く要素が多く、次巻への期待が膨らむ展開であった。
キャラクターと展開のバランス
本巻は新キャラクターにスポットが当たる一方で、既存キャラクターの出番が控えめであった。
また、テンポの面で若干の停滞感があるものの、ベリルの人間味あふれる行動や成長した弟子たちの姿がしっかり描かれていたため、十分に楽しめた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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アニメ
同シリーズ
小説
漫画
類似作品
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その他フィクション
備忘録
一 片田舎のおっさん、服を買う
ミュイの新生活の始まり
朝早く、ベリルはミュイとともに新しい家を出発した。彼らは魔術師学院への転入手続きを済ませるため、学院へ向かう準備を整えていた。同居生活は始まったばかりだったが、思ったよりも互いの距離感を保ちながら、平穏に過ごしている様子であった。ベリルは後見人としての責務を果たしながらも、ミュイの新しい環境を見届けたいという想いで同行していた。
魔術師学院への道中
ベリルはルーシーから受け取った地図を頼りに北区にある魔術師学院を目指した。ミュイは少し控えめに「一人でも行ける」と主張していたが、ベリルは後見人としての責任を口実に、彼女を伴った。途中で乗合馬車を利用したが、混雑する車内にミュイは少し困惑していた。ベリルは過保護になりすぎる自覚を持ちながらも、彼女の不安を和らげるよう努めた。
壮大な魔術師学院との出会い
北区に到着した二人は、巨大な敷地を持つ魔術師学院の門前に立った。学院の広さに驚きつつも、ベリルは新たな環境に足を踏み入れるミュイを温かく見守っていた。学院の建物や中庭、運動場などを眺めながら、二人は職員室を目指して進んだ。
教師キネラとの出会い
道中で、学院の教師キネラと名乗る女性に声を掛けられた。彼女は柔和な雰囲気を持つ人物で、二人を温かく迎え入れた。ミュイは緊張しながらも挨拶を交わし、ベリルもまた彼女の案内を受け入れた。キネラの説明によると、魔術師学院では攻性、防性、回復、強化、生活といった魔法の体系を学ぶとのことだった。ミュイは炎の魔法を得意とすることから、攻性魔法への適性を示していると判断された。
フィッセルの話題と剣魔法の存在
案内の中で、キネラがフィッセルの名前を口にした。彼女は学院の卒業生であり、剣魔法の優秀な使い手として知られていた。ベリルが彼女の師であることを知ったキネラは驚き、敬意を表した。ベリルはフィッセルの評価の高さに少し照れつつも、剣魔法という分野の可能性について興味を示した。
職員室での手続き
職員室に到着すると、キネラは入学と入寮の説明を開始した。ベリルはルーシーを通じて手続きを進めていたため、必要書類はすでに学院側に渡っているとのことだった。ベリルはミュイの新生活が円滑に始まるよう、説明を丁寧に聞き入れる姿勢を見せていた。
新たな一歩への期待
学院の中で見た光景や教師たちの丁寧な対応に、ベリルはミュイがここで良い学生生活を送れることを確信しつつあった。緊張しながらも前を向こうとするミュイの姿に、ベリルは父親のような誇りと期待を抱いていた。学院での生活が彼女にとって明るい未来への第一歩になることを願いながら、ベリルはこれからの成長を静かに見守る決意を新たにした。
魔術師学院での説明と入寮拒否
ミュイは魔術師学院で基本的な説明を受けた後、入寮を拒否して自宅から通うことを選んでいた。学院寮は通学が難しい学生を主な対象としていたが、強制ではなかった。ミュイの選択に対し、ベリルは多少の疑問を抱きつつも、彼女が納得しているならそれで良いと考えていた。共同生活には課題もあるが、二人で工夫しながら日々を過ごしていこうという結論に至った。
昼食とスレナとの偶然の再会
昼食を取るために立ち寄った食事処で、二人は冒険者スレナ・リサンデラと偶然再会した。スレナはベリルとミュイに相席を提案し、ベリルはそれを受け入れた。スレナはミュイに興味を示し、後見人として彼女と一緒に暮らしていることを知ると驚きを隠せなかった。食事の間、スレナは魔術師学院での厳しい環境について助言を与えつつ、ミュイに対して少し厳しい態度を見せたが、最終的には和やかな雰囲気の中で食事を終えた。
スフェンドヤードバニア使節団の話題
スレナとの会話の中で、スフェンドヤードバニア使節団の来訪について話が及んだ。彼女は治安維持のため冒険者ギルドが動いていることを明かした。ベリルは、この話題をきっかけに使節団の訪問がもたらす影響について関心を抱いたが、自身が深く関わることには気が進まない様子を見せた。
騎士団庁舎での再会と特別指南役としての責務
昼食後、ベリルは騎士団庁舎に足を運び、剣を振ることで気分転換を図ろうとした。そこで副団長ヘンブリッツや団長アリューシアと再会し、使節団の来訪に関連する話題が持ち上がった。アリューシアからは特別指南役として使節団に挨拶をする場が設けられることを告げられた。ベリルは気乗りしないながらも、国王御璽付きの任命書を持つ身として、これを断ることが難しいと悟った。
準備の開始と決意
アリューシアの提案により、使節団との会見に向けた服装の準備が進められることになった。ベリルはその状況を受け入れ、少しずつ心の準備を整えていこうと決意した。ヘンブリッツの励ましを受けながら剣を振るい、心身を整えることに集中することで、目の前の課題に向き合おうとしていた。
新しい生活への適応と夕食の支度
騎士団庁舎での運動を終え、ベリルは新しい家に帰宅した。家に入ると、ミュイが作ったポトフの香りが漂い、彼女が夕食を用意して待っていたことを知った。煮物初心者らしい粗削りな仕上がりながら、味はしっかりしており、ベリルは感謝の気持ちを込めて「美味しい」と伝えた。ミュイの表情はわずかにほころび、二人で穏やかな食卓を囲んだ。
届いた謎の荷物
食後、ミュイから「オッサン宛ての箱が届いていた」と告げられたベリルは、その箱を確認した。木箱を開けると、中にはミュイ用と思われる衣類とまとまった金額のダルクが入っていた。差出人がイブロイであることを察したベリルは、ミュイとの生活を応援してくれる意図を感じ取った。
使節団訪問と服装の準備
夕食中、ベリルはミュイに近々訪れるスフェンドヤードバニア使節団について伝え、自身がその対応に駆り出される可能性があることを説明した。また、その場にふさわしい服装を整える必要があるため、アリューシアの案内で服を買いに行く予定を話したが、ミュイは関心を示さず参加を拒否した。彼女の態度に困惑しつつも、ベリルは彼女の新しい環境での成長を見守る決意を新たにした。
生活を支える準備と感謝
ミュイの食事や生活態度にまだ粗さが見られるものの、ベリルは彼女の努力を認め、少しずつ家庭の中での協力関係を築こうとしていた。また、荷物の中の衣類や金銭を活用して、ミュイとの生活をより良いものにしようと考え、差出人への感謝を抱いた。
待ち合わせと出発
スフェンドヤードバニア使節団への準備のため、ベリルはアリューシアと早朝に待ち合わせをした。普段の鎧姿ではなく白地のカットソーと青のロングスカートを纏った彼女は、普段とは違う女性らしい姿で現れた。ベリルは彼女の服装を褒めたが、自身との不釣り合いにやや気後れを感じつつ、街へと向かった。
服選びの始まり
二人は中央区の服飾店へ足を運んだ。アリューシアの案内で入った店には、高級感溢れる服が並んでいた。アリューシアが選んだ派手なプールポワンはベリルの好みには合わず、彼は地味で動きやすい服を求めて別の選択を希望した。彼女の提案を断るたびに少し申し訳なさを感じつつも、落ち着いた黒のジャケットに目を留めた。
複数の店巡りと最終決定
最初の店でジャケットを候補として押さえた後、アリューシアの提案で他の店を巡ることになった。二人は昼食を挟みつつ六軒の店を訪れ、計十六種の服を試したが、結局最初の店で見た黒のジャケットを選んだ。アリューシアの協力に感謝しつつも、最終的には自分の直感に従った形となった。
充実した一日
最終的に決定したジャケットは、派手すぎず落ち着きがあり、ベリルの好みに合致したものであった。アリューシアも満足そうな表情を見せ、二人の買い物は和やかな雰囲気のまま終わりを迎えた。ベリルは彼女の助力に改めて感謝しつつ、街を後にした。
二 片田舎のおっさん、王族と会う
ミュイの入学と準備
ミュイの魔術師学院入学の日、ベリルは彼女とともに学院へ向かった。ミュイはイブロイから贈られた服を着用し、少し窮屈そうにしながらも整った姿を見せていた。道中、魔術師学院の情報や入学費用の話題が挙がり、学院の規模や費用の良心的な点にベリルは感心していた。入学時の案内役としてキネラが登場し、親しみやすい雰囲気の中でミュイの新たな一歩が始まった。
アリューシアとの模擬戦
魔術師学院から戻ったベリルは、騎士団庁舎でアリューシアと出会う。彼女はスフェンドヤードバニア使節団の来訪に備え、ベリルに模擬戦を申し込んだ。アリューシアの剣技は「神速」の名に違わぬもので、ベリルを圧倒した。しかし、ベリルは独自の戦法で一本を取り、模擬戦を制した。彼はアリューシアに、剣技以外の戦い方も学ぶべきだと助言し、彼女もこれを素直に受け入れた。
スフェンドヤードバニア教会騎士団の来訪
訓練の最中、スフェンドヤードバニア教会騎士団のガトガ団長と新副団長ロゼが突然訪れた。ガトガは快活な人物で、ロゼは柔和な雰囲気を纏いながらもかつてベリルの弟子だったと明かした。アリューシアはこの事実に驚きを隠せず、場の空気は微妙な緊張感に包まれた。訪問の目的は、使節団来訪時の地理確認のための下見であり、彼らは短期間滞在する予定だという。
ロゼとの再会と弟子への想い
ロゼがベリルを「愛弟子の師」と表現したことにより、アリューシアの表情には複雑な感情が浮かんだ。ベリルはロゼとの過去を簡単に説明し、彼女も他の弟子たちと同様、大切な存在であると伝えた。この言葉にアリューシアは笑顔を取り戻し、二人は訓練に戻るため修練場へ向かった。ベリルは、全ての弟子が等しく愛すべき存在であるという信念を再確認していた。
ロゼとの再会と街歩き
指南を終えたベリルは帰路につく途中、ロゼと再会した。彼女は私服姿で現れ、久しぶりの会話と街の案内を求めた。ベリルは渋々付き合い、バルトレーンの街をぶらつきながら互いの近況を語り合った。ロゼは教会騎士団に入る経緯を明かし、ベリルの道場での思い出に感謝を述べた。二人の会話は穏やかで、ロゼの天性の人懐っこさが場を和ませていた。
新調した服の試着
アリューシアと選んだ服が仕立て上がり、ベリルはそれを試着した。黒のジャケットに白い刺繍が映えるその服は、使節団来訪時のための正式な装いであった。しかし、普段の服装と異なる締め付け感に違和感を覚えつつも、鏡に映る姿を確認しつつ妥協するしかなかった。高価な出費に内心悩むベリルだったが、重要な場面に備えた準備として自分を納得させた。
ミュイとの食卓
家に戻ったベリルは新しい服を見たミュイから微妙な反応を受けた。彼女は「悪くない」と言いつつも、どこか不満げで、最終的にはいつもの服装が一番だと小声で呟いた。その後、ベリルは普段の服に着替え、ミュイと共に夕食をとった。ミュイの料理の腕前は少しずつ上達しており、二人の食卓には穏やかな時間が流れていた。
使節団来訪前の静かな一日
スフェンドヤードバニア使節団の来訪を控え、ベリルは準備を整えつつ日々を過ごしていた。騒がしい祭りの中での警備に備える気持ちと、重要な役割に対する重圧が混ざりつつも、彼の日常は静かで平穏であった。
任務前の隊列確認
レベリオ騎士団の面々が騎士団庁舎の中央広場に集まり、アリューシア団長が本日の配置を通達した。スフェンドヤードバニア使節団の来訪に伴い、第三王女殿下と第一王子殿下の護衛を行うことが決定された。アリューシア、ヘンブリッツ、そしてベリルは王女殿下の身辺警護に従事することとなり、他の分隊は街頭警備に割り振られた。騎士たちは任務の重要性を十分理解し、熱意を持って指令に従った。
王宮での挨拶と馬車での移動
王宮の正門前で、アリューシアたちはサラキア王女とグレン王子に挨拶を行った。王女は可憐ながらも落ち着いた雰囲気を持ち、王子も爽やかな気品を纏っていた。二人の邂逅は和やかで、周囲の護衛陣もその空気感に感銘を受けていた。王族は立派な馬車に乗り込み、街中を御遊覧する形で出発した。護衛陣は馬車の内外で警戒を続けた。
祭りの喧騒と突発的な立ち寄り
御遊覧の最中、王子が突如アクセサリー店に立ち寄ることを提案し、予定外の行動に護衛陣が対応を迫られた。店では王子が王女へ髪飾りを贈り、二人の親密な様子が伺えた。周囲の民衆が騒ぎ始める中、アリューシアを中心に護衛陣は適切に対処したが、不穏な視線を感じ取ったベリルは内心で警戒を強めた。
護衛任務の続行と無事な完了
昼食や西区での魔装具見学を経て、御遊覧は滞りなく進行した。不穏な気配は以後現れず、初日の予定は順調に消化された。王宮に戻る際、王子と王女は護衛陣へ礼を述べ、それぞれの宿泊地へ向かった。護衛陣も解散し、次の日の準備を整える時間を確保した。
不穏な気配の共有と翌日の計画
ベリルはアリューシアとヘンブリッツに、不穏な視線を感じたことを共有した。二人はその情報を重く受け止め、翌日の警戒をさらに強化することを決定した。次の日の予定では、王族が観劇を楽しむ時間が含まれており、その間も護衛が続くことになった。
一日の終わりと平穏な余韻
任務を終えたベリルは庁舎を後にし、祭りの雰囲気を味わいながら一杯のエールで気を引き締めることを考えた。疲労感を残さずに次の日へ備えつつ、王族の護衛という重責を改めて実感する一日であった。
護衛任務の開始と警戒強化
朝早く、レベリオ騎士団が再び広場に集結し、アリューシア団長から本日の予定と注意点が伝えられた。昨日の不穏な気配を踏まえ、警戒を一層強化することが命じられた。王子と王女は再び護衛に守られながら馬車へと誘導され、二日目の御遊覧が始まった。
装飾品店での不穏な気配
馬車が最初の訪問先である装飾品店に到着すると、街は相変わらずの賑わいを見せていた。しかし、店内で王子と王女を見守る中、昨日以上に鋭い殺気を感じ取ったベリルは警戒を強めた。不穏な気配が複数存在することに気づいたが、特定するには至らなかった。護衛陣は注意深く行動を続けた。
観劇前の襲撃
昼食を済ませた後、劇場へ向かう途中で複数の黒ずくめの人物が突如襲撃を仕掛けてきた。騎士たちは迅速に迎撃態勢を取り、王子と王女を守り抜いた。アリューシアとベリルは刺客の一部を生け捕りに成功し、ロゼやヘンブリッツも暗殺者を撃退した。しかし、刺客の中には逃走した者もおり、状況は完全には収束しなかった。
護衛体制の再編と緊急撤退
襲撃を受けたことで、予定していた観劇は中止され、王子と王女は速やかに王宮へ戻ることとなった。アリューシアはヘンブリッツに現場の指揮を任せ、残る護衛陣とともに王族を護衛しながら北区へ向かった。道中、襲撃の動機や背景についての議論が行われたが、結論には至らなかった。
任務の終了と帰還
王宮に到着後、王族たちはそれぞれの護衛に付き添われて会議に向かった。アリューシアの指示でベリルやロゼは帰還を命じられ、護衛任務はひとまず終了となった。ベリルは思わぬ早い帰宅に安堵しつつも、今回の襲撃の余波を感じながら帰路に就いた。
幕間
街の散策と二人の出会い
バルトレーンの街を歩くアリューシアとロゼは、互いに親睦を深めつつ街並みを眺めていた。アリューシアは地元民としてロゼを案内し、ロゼは他国の副団長として新たな土地を知ることに意欲を見せていた。その中で、ロゼが「ベリルの愛弟子」と名乗ったことがアリューシアの心に複雑な感情を抱かせていた。
ベリルとの過去の回想
散策の途中、アリューシアはロゼからベリルに関する過去の話を聞いた。ロゼはかつてベリルの剣技に一目惚れし、短期間ではあったが彼の下で学んでいたと語った。その話を聞きながら、アリューシアは自分が師事していた頃の思い出を懐かしく振り返った。ベリルへの深い敬愛の念を共有することで、二人は次第に距離を縮めていった。
迷子の発見と救出
道中、ロゼが迷子の子供を見つけた。アリューシアが詰所に案内する案を出す一方、ロゼは近くに母親がいると判断し、その場で捜索を始めた。ロゼの穏やかな対応と柔らかな語り口により、子供は警戒を解き協力的になった。二人で声を上げて母親を探した結果、無事に再会を果たし、子供と母親を安心させることができた。
子供への思いと騎士の役割
迷子の救出を終えた後、ロゼは自身の子供への思いを語った。彼女は子供を「国の宝」と捉え、大人が守るべき存在だと力強く主張した。その言葉にアリューシアも共感し、互いに騎士としての使命感を再確認した。ロゼの背景には、孤児院に触れて育った経験があり、それが彼女の行動に大きな影響を与えていると明かされた。
師匠自慢の語らい
散策の終わりに向かい、アリューシアはロゼに再びベリルの話を求めた。ロゼは快く応じ、自身の経験やエピソードを楽しそうに語り始めた。師匠への思いを語り合う二人の時間は、街の景色とともに穏やかに過ぎていった。互いにベリルへの尊敬を共有しつつ、二人の関係はさらに深まっていった。
三 片田舎のおっさん、魔の手を穿つ
街の喧騒と事件の余波
バルトレーンの街は、祭りと王族暗殺未遂事件の余波で騒然としていた。歩く中で耳に入る噂話の中には、レベリオ騎士団の活躍を称える声も多く聞かれた。アリューシア団長への評価が高いことにベリルは納得しつつも、気が重くなる話題を抱えながら帰路についた。
予期せぬ訪問者と事件の話題
家に戻ると、魔法師団長ルーシー・ダイアモンドが訪問していた。彼女は昼間の事件に関連する情報を共有するために来ていた。ルーシーは、魔術師が護衛任務に不向きであることや、スフェンドヤードバニアとの複雑な宗教的関係を理由に、魔法師団が任務に参加しなかった事情を説明した。
襲撃事件の背景と政治的動向
ルーシーは、スフェンドヤードバニア国内で教皇派と王権派が政権争いを繰り広げていることを語った。今回の襲撃は、教皇派による第一王子暗殺を狙ったものと推測され、その背景には教皇派の勢力拡大を目的とした策略があると考えられた。ベリルは、事件が続発する可能性を懸念し、使節団の今後に不安を抱いた。
情報共有と再びの日常
話が一段落した頃、外出していたミュイが串焼きを手に帰宅した。ミュイはベリルとルーシーの分も気を利かせて用意しており、彼女の成長をベリルは内心で評価していた。重い話題を終えた後、三人は静かに軽食を楽しむひとときを過ごした。
騎士団長の報告と動揺
翌日、騎士団庁舎にてアリューシア団長が騎士たちに対し、グレン王子の御遊覧が予定通り続行する旨を伝えた。襲撃事件を受けて中止が濃厚と見られていただけに、騎士たちはざわめいた。アリューシアの声には責任感が滲むものの、昨日とは異なる緊張感が感じられた。騎士たちの士気は高かったが、内心には疑念も浮かんでいた。
続行決定の背景
ベリルがアリューシアに理由を尋ねると、グレン王子自身の強い希望によるものだと知らされた。王子の命を狙う状況での続行に違和感を覚えつつも、国政や王位継承に関わる理由があるのではないかとベリルは推測した。遊覧中の安全確保が騎士団の責務であり、彼は任務を全うする覚悟を固めた。
ガトガからの情報と決意
警備の開始直前、ガトガから昨日の襲撃者が教会騎士団の元副団長ヒンニスである可能性を聞かされた。ガトガは、もしヒンニスが再び現れた場合、自らの手で責任を取ると宣言した。この情報は既にアリューシアにも共有されており、ベリルはその決意を尊重することにした。
出発と警戒
王子と王女が馬車に乗り込み、警備が再開された。ベリルはガトガの話に耳を傾けつつも、どのような事態が発生するか分からない状況に気を引き締めていた。警備の役割を果たすべく、彼は新たな一日を迎えた。
護衛任務の静けさと疑念
アリューシアとベリルは、御遊覧の護衛を終え、静かに一日を振り返った。この数日間、襲撃事件の再発がなく、不気味な静けさが続いていた。不審者の気配さえもなく、警戒していた騎士団にとって肩透かしの状況であった。一方、捕えた襲撃犯たちは全員自害し、事件の背景や目的を探る術が絶たれていた。この異常な事態に、ベリルは疑問を抱きつつ、警戒を解かないよう意識を引き締めた。
最終日への準備
翌日が最後の護衛任務となる中、アリューシアとベリルは次の行動を確認した。最終日は御遊覧の予定がないため、王宮への帰還が護衛任務の締めくくりとなる。襲撃が一度きりで終わるとは考えにくいことから、二人は特に警戒を強めていた。ベリルは、再び事件が起きれば即座に対応する準備を整えた。
襲撃者の出現と戦闘の開始
護衛最終日、バルトレーン南区での農業地域の視察中、静寂を破るように刺客たちが現れた。前回の襲撃者たちより練度が劣るものの、その数は圧倒的であった。さらに弓兵が加わり、遠距離からの攻撃が王子と王女の安全を脅かした。ベリルは素早く状況を把握し、アリューシアやヘンブリッツと連携して戦闘態勢に入った。
ガトガの突撃とベリルの決断
弓兵の存在が護衛の大きな脅威となる中、ガトガがその排除を引き受けた。一方、ベリルは王族を守るため、アリューシアとヘンブリッツに王子と王女を連れて安全な場所へ向かうよう指示を出した。自身は刺客の動きを食い止めるため、単身で敵を迎え撃つ覚悟を決めた。
戦場の混乱とベリルの奮闘
刺客たちの物量攻撃により戦場は混乱を極めたが、ベリルは剣技を駆使して次々と敵を斬り伏せた。敵の数が多い上に、遠距離攻撃の矢が飛び交う中での戦闘は困難を極めたが、彼の熟練した戦術により敵の侵攻を抑えた。農業地域の広大な景観は、血と肉片で荒廃し、戦場と化してしまった。
戦いの終焉とさらなる不安
ベリルの奮闘により敵の攻撃は次第に沈静化したものの、襲撃者の背景や目的は依然として謎のままだった。教会騎士団内に潜む反逆者の存在や、教皇派と王権派の対立がこの事件にどう関わっているのか、ベリルの胸中には多くの疑念が渦巻いていた。彼は、最後まで王族を守る決意を新たにしつつ、さらなる事態に備えて気を緩めることなく戦場を見つめていた。
刺客との死闘の後
刺客たちとの戦闘を終えたベリルは、無数の敵を斬り倒した疲労とともに息を吐いた。彼が信頼するアリューシアとヘンブリッツは、無事にグレン王子とサラキア王女を逃したはずであった。周囲には多くの刺客の屍が散乱していたが、その中でただ一人、重騎士の姿を見つけた。それは教会騎士団の副団長であり、かつての弟子ロゼであった。
ロゼへの疑念と対話
ベリルはロゼに対し、刺客を通した理由を尋ねたが、彼女は笑顔を浮かべながら否定した。彼女の鎧には傷や血の跡がなく、それが戦いに積極的に関与していない証拠であった。しかしロゼは、「戦っていた」と主張し、明確な答えを避け続けた。ベリルは彼女の言動に矛盾を感じつつも、真意を探ろうとした。
教皇派の意図とロゼの苦悩
ベリルがグレン王子の暗殺が教皇派の計画である可能性に言及すると、ロゼはついにその笑顔を消した。彼女は国の現状を憂い、教皇派の理念に基づいて行動していることを示唆した。さらに、ロゼは子供たちが飢えと寒さで亡くなっていく現状を憂い、彼らを救うためにこの道を選んだと語った。その背後には、スフェンドヤードバニアの国政の混乱があった。
戦いの火蓋が切られる
ロゼの覚悟を感じたベリルは、説得が無駄であると悟った。彼女の構えは堅牢で、攻撃にも隙がなかった。弟子としての成長を感じながらも、ベリルは自ら剣を振るう決意を固めた。ロゼの剣技は確かで、防御からの反撃を得意とするそのスタイルは、かつてベリルが教えたものであった。
ロゼの告白と最終決断
戦いの中、ロゼは自身が教皇派に従う理由を明かした。それは、彼女の信念だけでなく、教皇派に囚われた子供たちの命が掛かっているという脅迫に基づくものだった。ロゼは、ベリルに「私を止めてください」と訴え、彼に自分を斬る覚悟を求めた。
弟子を斬る覚悟
ロゼの悲壮な訴えを受け、ベリルは彼女を止めるための剣を構えた。これ以上の言葉は無駄だと悟り、彼は全力で戦う決意を固めた。彼の剣先には、悲しみと覚悟が宿っていた。ロゼは最後まで微笑みを崩さなかったが、その裏には深い苦悩が見え隠れしていた。戦いは、ベリルの弟子としての誇りと悲しみを背負いながら始まった。
ロゼとの再会と決意
ベリルは、かつての弟子ロゼとの戦いの中で、彼女が教会騎士団副団長として歩んできた道に疑問を抱いていた。自身の成長が限界に達したと感じながらも、特別な剣「ゼノ・グレイブル」の切れ味に頼り、ロゼの防御を突破した。盾を貫き鎧を砕いた一撃は、ロゼに深手を負わせ、戦いの幕を下ろした。
戦いの余韻とロゼの告白
傷ついたロゼは、自身の行動について語り始めた。彼女が教皇派に従った理由は、囚われた子供たちを救うためであった。教皇派の計画に巻き込まれたロゼは、己の信念と他者への強制の狭間で苦しんでいた。ベリルは、彼女の覚悟とその重みを受け止めながらも、罪の償いを生きて果たすべきだと諭した。
教会騎士団団長ガトガの登場
戦いの後、教会騎士団団長ガトガが現れ、ロゼの傷を癒した。ガトガはロゼを庇おうとし、その背景にロゼが義妹であるという事実が明らかになった。彼はロゼの行為を厳しく責めつつも、その根底にある愛国心と迷いを理解していた。
過去の罪と教皇派の策略
ロゼの口から、王権派と教皇派の対立の影響が語られた。ベリルが捕らえたレビオス司教にまつわる情報は、教皇派の操作によって歪められていたことが示唆された。ロゼはその歪められた情報を信じたが、真実を知った彼女は深い動揺を見せた。
ロゼの未来と新たな旅立ち
ガトガはロゼを守るために彼女を亡命させる決断を下した。ロゼは国内での居場所を失いながらも、「本当の正義」を見つけるために新たな道を歩む決意をした。ベリルは、師匠として最後に彼女へ言葉を送り、再び剣の意義を説いた。ロゼは感謝を述べつつ、二人はそれぞれの道を進むこととなった。
バルトレーンの復興と街の様子
バルトレーンの街は祭りと事件が終わり、普段の落ち着きを取り戻しつつあった。騎士団や魔法師団の尽力により、南区の戦場跡も徐々に復興が進んでいたが、完全な復旧にはまだ時間を要していた。街では魔術師たちが死体処理や防疫対策に奔走しており、魔術師学院からも人員が派遣されている様子が見られた。
スフェンドヤードバニアとの問題
今回の事件の主犯がスフェンドヤードバニアの教皇派とされる中、隣国との外交問題が浮上していた。責任は教皇派にあるものの、形式上の実権を持つ王権派が矢面に立たされる可能性が高かった。レベリス王国側はサラキア王女を危険に晒された責任を問う姿勢を見せるが、その追及の落としどころは未定であった。
元弟子ロゼへの想い
事件の主犯格であるロゼは、ガトガの計らいにより負傷を理由に帰国していた。アリューシアはロゼの安否を気に掛けていたが、ベリルは真相を語ることなく、彼女の無事を願うにとどめていた。ロゼの犯した罪の重さを考えると、状況は予断を許さなかったが、彼女が再び正道を歩むことを願っていた。
王宮からの書簡
街を巡回した後、ベリルとアリューシアは騎士団庁舎に戻った。そこで、若手騎士エヴァンスが王宮からの封書を届けた。内容は、先の事件における功績への感謝と晩餐会への招待であった。手紙にはアリューシアだけでなく、ベリルの名前も記されており、突然の招待に彼は驚きを隠せなかった。
王宮への到着と緊張感
アリューシアとベリルは、レベリス王宮に招かれ案内人に迎えられた。王宮内の美しい装飾や広々とした空間に、ベリルは場違いな感覚と緊張を隠せなかった。服装にも気を遣ったものの、豪奢な建物に圧倒されていた。二人は案内に従い、広々とした会食室に通され、それぞれ指定された席に腰を下ろした。
王族との対面と感謝の言葉
やがてグラディオ国王、ファスマティオ王子、サラキア王女が入場した。王族たちは今回の事件での活躍に対して深い感謝の意を示し、とりわけベリルの貢献について高く評価した。特にサラキア王女は護衛中のベリルの勇姿を具体的に述べ、その功績を称賛した。これにはベリルも恐縮しきりで、終始緊張した様子であった。
晩餐会と新たな提案
会食が始まり、グラディオ国王はサラキア王女のスフェンドヤードバニアへの嫁入り計画を明かした。その不安を払拭するため、サラキア専属のロイヤルガードの編成を進めていると述べ、ベリルにその一員として加わるよう提案した。これに対し、アリューシアがレベリス王国の繁栄にはベリルの助力が不可欠であるとし、丁重に辞退した。国王はその言葉を納得しつつ、今後もベリルの活躍に期待を寄せた。
サラキア王女の関心とベリルの困惑
晩餐会の間、サラキア王女はベリルに多くの質問を投げかけ、親しげな態度を見せた。その様子を見た国王も満足げであったが、ベリル自身は過剰な注目に戸惑いを隠せなかった。緊張と気まずさの中、彼は王族たちとの交流を無事に終え、晩餐会をやり過ごした。
末 片田舎のおっさん、飲みなおす
馴染みの酒場への訪問
ベリルは久しぶりにバルトレーンの中央区にある馴染みの酒場を訪れた。この店は家族経営で、居心地の良い雰囲気と美味しい料理が魅力的である。彼は常連時代にお気に入りだった左端のカウンター席に腰を下ろし、エールを注文した。王宮での緊張感を引きずりつつも、この酒場でリラックスする時間を楽しんでいた。
エールと新メニューの楽しみ
エールを楽しみながら、ベリルは食事を何にするか迷っていたところ、店主の娘アイダが声を掛けてきた。彼女は新メニューを勧め、ベリルはその提案を快く受け入れた。運ばれてきたのは香り高いチーズリゾットで、濃厚な味わいと絶妙な煮込み加減にベリルは満足した。この料理はエールとの相性も抜群で、久しぶりに訪れた店で新しい発見ができたことに喜びを感じていた。
店主との会話と思い出
食事を終えたベリルは、店主から懐かしい声を掛けられた。以前は頻繁に通っていたが、引っ越し後は足が遠のいていたことを改めて実感した。店主やアイダとの軽い会話を楽しみながら、再訪を誓った。そして、今後ミュイをこの店に連れてくるのも良いかもしれないと考えた。
跡継ぎと未来への思索
店主の家族経営を見ているうちに、ベリルは自身の道場の跡継ぎについて思いを巡らせた。ランドリドに継がせるべきか、自身の子供を考えるべきか悩みつつも、具体的な答えは出せなかった。最近の出会いや将来の伴侶についても考えるようになったが、焦りは感じておらず、自然の流れに身を任せようとしていた。
帰路と小さな幸せ
酒場を後にし、ベリルは家へ向かった。宿ではなく、帰りを待つミュイがいる家があることに一抹の温かさを感じていた。一方で、いずれミュイが独り立ちする未来を思うと、少しの寂しさも抱えていた。それでも、今を大切にしながら足取り軽く家路についた。
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