小説【おっさん剣聖】「片田舎のおっさん、剣聖になる 9」最新刊 感想・ネタバレ

小説【おっさん剣聖】「片田舎のおっさん、剣聖になる 9」最新刊 感想・ネタバレ

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どんな本?

本作は、ファンタジー小説の第9巻である。主人公ベリル・ガーデナントは、片田舎で剣術道場を営む中年の剣士。彼は自身の実力を過小評価しているが、実際には卓越した剣技を持つ。かつての弟子たちが王国騎士団長や最上位冒険者、魔法師団のエースとして大成し、彼のもとを訪れることで、彼の日常は一変する。第9巻では、最強の冒険者スレナ・リサンデラが消息不明となり、ベリルが彼女を救出するために奔走する物語が描かれる。  

主要キャラクター
• ベリル・ガーデナント:片田舎の剣術道場師範。自称「しがないおっさん」だが、実際には並外れた剣技を持つ。
• アリューシア・シトラス:ベリルの元弟子で、レベリス王国の騎士団長。異名は「神速のアリューシア」。
• スレナ・リサンデラ:ベリルの元弟子で、最高位ランクの冒険者。異名は「竜双剣のリサンデラ」。
• クルニ・クルーシエル:ベリルの元弟子で、レベリオ騎士団のムードメーカー的存在。
• フィッセル・ハーベラー:ベリルの元弟子で、剣術と魔術を操る魔法師団の若きエース。

物語の特徴

本作の魅力は、主人公ベリルの自己評価の低さと、彼を慕う弟子たちとの関係性にある。彼の無自覚な強さと、弟子たちの成長が織り成す物語は、読者に爽快感と共感を与える。また、各キャラクターの個性や背景が丁寧に描かれており、彼らの絆や成長が物語に深みを加えている。

出版情報
出版社:スクウェア・エニックス
発売日:2025年3月27日
ISBN:978-4-7575-9777-8  
• ページ数:356ページ
• 価格:1,430円(税込)

関連メディア展開

本作は、2025年4月よりテレビ朝日系全国24局ネット“IMAnimation”枠・BS朝日・AT-XにてTVアニメの放送される。

さらに、コミカライズ版も「どこでもヤングチャンピオン」にて連載中であり、関連書籍も複数刊行されている。  

読んだ本のタイトル

片田舎のおっさん、剣聖になる 9 ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~
著者:佐賀崎しげる 氏(インタビュー記事
イラスト:鍋島テツヒロ  氏

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あらすじ・内容

山脈を越え、因縁を断つ——。
“最強の冒険者スレナ・リサンデラが消息不明となった”


突然の一報を受けたベリルは彼女を救うため、アリューシアや冒険者ギルドの助力を受けながらスレナが最後に依頼で訪れたアフラタ山脈へ直行する。

慣れない獣道を進んだ先、どうにかスレナと再会できたのもつかの間。待ち受けていたのはスレナの仇にして、若き日のベリルを打ち負かした特別討伐指定個体(ネームド)の姿だった。

「ともに立ち向かいましょう、先生」
「今度こそ無様は晒さないよ」

深山幽谷にて最後に立つのは獣か、人か。
今こそ、かつての因縁に決着をつける時。

片田舎のおっさん、剣聖になる 9 ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~

主な出来事

学院での教導とミュイの成長

  • ベリルは魔術師学院の剣魔法科を訪れ、生徒たちの成長を見守った
     ┗ フィッセルが中心となり、剣術指導を安定させていた
     ┗ ミュイは魔力錬成や剣術において著しい進歩を示した
  • 初の手合わせで、ミュイは剣魔法を発動し、ベリルを驚かせた
     ┗ 技術的な未熟さは残るも、素質と意志は確かなものとして評価された

日常生活とスレナの訪問

  • ベリルは講義と騎士団業務を無理なく両立し、質素な生活を続けていた
  • スレナ・リサンデラが長期依頼の報告に訪れ、別れを告げた
     ┗ 内容は不明だが高危険度であり、彼女は単独で西方へ向かった

スレナ失踪の報とベリルの決意

  • スレナが帰還せず、冒険者ギルドから連絡が届いた
     ┗ ベリルはアリューシアの理解のもと、騎士団を一時離れ救出へ向かった
     ┗ ギルドマスター・ニダスと面会し、情報を引き出しつつ案内人を依頼した

アフラタ山脈での再会と籠城

  • 単独で山に入ったベリルは、スレナと合流
     ┗ 彼女は仲間とともに洞窟に籠り、不可視の怪物イド・インヴィシウスを警戒していた
     ┗ 一名死亡、重傷者ありの厳しい状況で、全員での帰還を目指す戦略が立案された

敵からの脱出とベリルの負傷

  • 怪物との戦闘の中、ベリルは左腕に重傷を負ったが全員での脱出に成功
  • 意識を失いながらも、仲間に背負われて都市ヴェスパタへ帰還を果たした

回復と討伐への再決起

  • ベリルはルーシー・ダイアモンドの治癒魔法で左腕の機能を取り戻した
     ┗ 彼女の行動は国家の立場を踏まえた上での私的な支援であった
  • スレナは両親を殺された仇としてイドへの復讐を誓い、ベリルも共に戦うことを決意した

討伐隊の結成と因縁の戦い

  • アリューシアも討伐に加わり、国家重鎮三名を含む隊が山へ向かった
     ┗ 敵の不可視能力はルーシーの魔術により封じられた
     ┗ スレナとベリルは誇りから武器の強化を解除し、己の剣で挑むことを選んだ
  • 元門下生ジョシュアとその相棒ミスティも合流し、戦力は拡充された

決戦と剣士の誇り

  • 強化なしの剣技でイドに深手を負わせ、剣士としての意地を貫いた
  • 魔術と剣技の連携により、敵は完全に劣勢へ追い込まれた
  • 最終的に勝利し、ベリルは因縁に終止符を打った

感想

この巻を読んで最も心に残ったのは、「因縁に向き合う強さ」と「それを支える日常」の対比である。主人公のベリルは、派手に力を誇示するのではなく、積み重ねと静かな覚悟で困難に立ち向かう。
その姿は決して華やかではないが、確かに強く、だが刹那的だと感じた。

この巻のメインヒロインとなったスレナとの関係も印象深い。
復讐に燃える彼女が、最後には過去を清算し、自分の未来を語れるようになったことに、深い感慨があった。
かつては塞ぎ込んでいた彼女が、心から笑えるようになるまでを描いた今巻。
彼女の目標は成就され、今後どうするのか興味深い。ミュイが想像したようになるのだろうか?

一方、ベリルの選択にも惹かれた。ただ勝てばいいという考えを退け、魔術の助けを断ってまで自らの剣で戦うという決意は、まさに剣士の誇りを感じさせる。
合理性や安全を重んじる状況で、あえて遠回りを選ぶ姿には、逆に強い美学があった。

また、ミュイやルーシーといった女性たちとのやりとりからは、ベリルの人柄がにじみ出ていた。
特にミュイに対しては、父親のような視線とさりげない気配りがあり、戦闘とは異なる温もりが物語全体を優しく包んでいた。
登場人物たちが互いを思いやる描写に、読みながら何度も心が温まった。

全体を通じて、「戦い」と「暮らし」がどちらもおろそかにされていない点が素晴らしい。
片田舎の道場で静かに剣を振るいながらも、大切な人のために立ち上がる。
そんな生き方に、静かな憧れを抱いた。

地味であるが、骨太な物語。
これからも、彼の静かな戦いと日常を追いかけていきたいと強く思わせてくれた一冊であった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

一  片田舎のおっさん、危機を知る

日常の描写と剣術道場の背景

春を迎え、ベリルは久方ぶりに魔術師学院の剣魔法科に顔を出した。学院ではフィッセルが指導にあたり、生徒たちは数十人規模で安定していた。教える者としての経験や負担に限界があることも考慮され、現状の人数は適切と判断されていた。教えることの難しさと意義を再認識しつつ、フィッセルの努力を認め、その姿勢を誇るべきだと感じていた。

剣術の継承とフィッセルの成長

生徒たちの剣筋が向上し、それがベリルの教えに基づいていることに誇りを感じていた。しかし、実際に指導し、それを形にしたのはフィッセルであり、彼女の成果として認めていた。技術が受け継がれ広まっていく流れを見て、自身の剣術が未来へと繋がっていくことへの感慨を抱いていた。

生徒の自発性と魔力錬成の講義

素振りの際、音頭を取る生徒が自主的に行動していたことに、ベリルは高く評価した。続いて魔力錬成の講義が始まり、静止状態での魔力操作が指導された。ベリルには魔力が見えず、講義内容の難易度も把握できなかったため、彼は静かに観察する立場に徹した。

魔法の専門性とベリルの無力感

魔力錬成が本格化する中、ベリルは自分の知識では理解が追いつかず、講義に貢献できない現状を痛感した。今後の学院との関わり方を見直す必要性を感じつつも、生徒たち、とりわけ初期の五人、特にミュイへの関心を持ち続けていた。

ミュイの成長と剣術への適性

ミュイの所作には焦りがなく、魔力錬成にも一定の適応を見せていた。かつて不器用と評された彼女も、今では自身の特性と折り合いを付けつつあるように見受けられた。その変化に、ベリルは彼女の成長の一端を確信し、喜びを感じていた。

初めてのミュイとの手合わせ

ミュイの申し出により、ベリルと彼女の初の手合わせが実現した。打ち合いは単なる技術の確認にとどまらず、彼女の進歩を肌で感じる機会となった。反応や攻撃の構成に未熟さは残るが、彼女の中にあるひたむきな意志と信頼に満ちた全力の攻めは、ベリルにとっても感慨深いものであった。

剣魔法の発動と意外な才能

ミュイは突如として剣魔法を実戦で発動し、ベリルの予想を超えた行動で彼を驚かせた。しかもその発動には溜めもなく、流れるように実行された。炎を伴う斬撃は防御の難しい攻撃であり、その戦術的価値は高かった。ミュイの特異な才能が明らかとなり、ベリルはそれを誇るべき資質として評価した。

模擬戦の終結とアドバイス

最後はベリルが反撃でミュイの木剣を制し、模擬戦を締めくくった。彼女の動きに対して、ベリルは粗を指摘せず、素直に努力と結果を称賛した。その後、彼女の身体の使い方について助言を与え、さらなる成長への期待を込めた。

他の生徒たちの打ち合いと学院の展望

他の生徒たちも模擬戦に挑み、基本的な剣術の定着が見て取れた。フィッセルの教え方が功を奏し、基礎の徹底が功を奏している様子であった。今後は応用と発展の段階へと進むが、魔法に関してはベリルの関与は限られ、成長を見守る立場となっていた。

ルーマイトとの手合わせと師としての歓び

ミュイに続いて、ルーマイトとの手合わせが始まった。彼はバランスの取れた完成度を持ち、学院内でも中心的な存在であった。ベリルは彼らと向き合う時間を心から楽しみ、自身の役目を再確認した。後進の成長を間近で見届けるこの瞬間が、彼にとって何よりの報酬であった。

訓練後の帰路と風呂への憧れ

学院での講義後、ベリルはミュイやルーマイトらとの手合わせを終え、帰途についていた。春の陽気の中、彼は汗ばむ体で風呂を恋しく思い出し、過去に訪れたフルームヴェルク領の風呂とエールの味を回想した。バルトレーンでは個人が利用できるような風呂は存在せず、蒸し風呂屋が庶民の現実的な選択肢であった。贅沢への執着を控えつつ、今日一日はのんびり過ごすと心を決めていた。

現在の生活と仕事の配分

ベリルは現在、学院での講義と騎士団での仕事を無理のない範囲で両立していた。アリューシアの了承のもと、必要以上に職務を抱え込まない方針をとっていた。騎士団の活動も平常運転で、新人たちも環境に順応し始めていた。一方、スフェンドヤードバニアの内政不安により恒例の使節団の来訪は困難と予測されていた。

日常の買い出しと食材事情

季節の変化により魚の価格が高騰し、ベリルは食卓の中心を芋に据える選択をしていた。ミュイも魚が好物ではあるが、日常的に購入するには現実的ではなかった。庶民の味方である芋を軸に献立を組むことで、節約と満足の両立を図っていた。

スレナの訪問と報せ

帰宅すると、家の前でスレナ・リサンデラが待っていた。彼女はベリルに伝えたいことがあり訪ねてきたと言う。突然の訪問に戸惑いつつも、ベリルはスレナを家へ迎え入れ、茶を用意して歓待した。家庭的なやり取りの中で、スレナは穏やかな表情を見せ、ベリルにとっては彼女の繊細な一面が垣間見える貴重な時間となった。

老いの自覚と弟子との距離

雑談の中でベリルは自身の年齢と将来の限界を意識し、剣を置く日がいずれ来ると語った。スレナはそれを受け入れたくない様子であり、その反応にベリルはかつての自分を重ねていた。自らの父を超えた瞬間を自覚しないまま過ごした過去と同様に、弟子たちもいずれ師を追い越していくことを受け入れていた。

押し花の話と穏やかな時間

部屋に飾られた押し花にスレナが興味を示し、フルームヴェルク家の令嬢シュステから贈られた品であると語られた。スレナの花への嗜好や感性が現れ、彼女の内面の柔らかさを再確認するひとときとなった。ベリルは彼女が剣士としてだけでなく、個としても穏やかな時間を持つことの大切さを感じていた。

長期依頼の通達と不安の共有

スレナは長期かつ高危険度の依頼へ赴くことを報告した。詳細は明かされなかったが、調査目的であり確実な危機とは限らぬ内容であった。それでも彼女の口調や行動から、容易でない任務であることは明白であった。ベリルは自分が危機を知らせるべき相手として選ばれたことを嬉しく思い、彼女の無事を祈ることしかできない無力さも感じていた。

単独行動の理由と冒険者の実情

スレナは基本的に単独での行動を望み、それが最も効率的であると説明した。彼女ほどの実力者であっても、誰かを庇うことで力を発揮できなくなることを理解していた。ベリルもその判断に頷きつつ、自身が戦闘には対応できても長期調査や冒険者としての適性が乏しいことを自覚していた。

任務の行先と可能性の考察

任務の場所はバルトレーンより西方の広域とだけ明かされ、具体的な地名は伏せられた。アフラタ山脈もしくは隣国サリューア・ザルク帝国の可能性が浮上したが、確定的な情報は得られなかった。依頼の性質上、危険であっても調査段階にとどまり、明確な敵が存在するとは限らなかった。

別れの時と生還への願い

スレナは使命を全うすべく去っていった。ベリルは彼女の無事を願い、いつかまたこの家に顔を見せてくれるよう願いを込めた。ミュイにとってもスレナは大切な存在であり、彼女が元気に戻ることは大きな意味を持つ。別れ際の会話から、冒険者としての覚悟と信頼の深さが伝わっていた。

日常への回帰と変わらぬ役目

スレナを見送った後、ベリルはミュイのための夕食作りへと意識を切り替えた。騎士団の指南役、学院講師、そして親代わりとしての日常は続いており、それが自分に課された大切な務めであると再認識していた。変わらぬ日常の中にこそ、自らの役目と誇りがあることを感じていた。

鍛錬の日常と若手騎士たちの成長

ベリルは日課としてレベリオ騎士団の修練場を訪れ、騎士たちの鍛錬に参加していた。日々顔を合わせる仲間たちとの交流も深まり、場の空気に馴染みつつあった。若手のエヴァンスの成長や、同期のクルニとの関係にも目を配りつつ、指導者としての役割を再認識していた。

アリューシアの訪問と外交の影響

普段執務に忙しいアリューシアが修練場に顔を見せ、スフェンドヤードバニア使節団の来訪が中止されたことが明かされた。内政の混乱が影響したとされるが、その裏には国家としての体面や外交的な判断も関わっていた。さらに、グレン王子が「王太子」として名を用いたことから、王位継承が確定したことが示唆された。

剣術指南とアリューシアの支え

ベリルは「特別剣術指南役」として、アリューシアの負担を分担する役割を担っていた。アリューシアはその支えに感謝を示し、彼が剣の頂に到達するための助力を惜しまぬと誓った。二人は同じ流派の剣を修めており、指導における無駄のなさが信頼関係を深めていた。

家庭でのミュイとの生活と成長

ミュイは家事能力を着実に伸ばしており、家庭生活にもすっかり馴染んでいた。彼女の言動には魔術師学院での教育の影響が見られ、行儀や気遣いに成長が見られた。ベリルは彼女の変化を喜びつつ、父親代わりとしての責任を自覚していた。

シュステからの手紙と複雑な想い

ベリルはフルームヴェルク家の長女・シュステから手紙を受け取った。手紙は丁寧な文体で綴られ、彼女の多忙な日常と、ベリルへの想いが滲んでいた。ベリルはその気持ちを受け止めつつ、返答に悩む複雑な心境を抱えていた。

ロゼからの手紙とその意味

続けて届いた手紙は、ロゼ・マーブルハートからのものであった。手紙には事件への謝罪と近況、そして再会への希望が記されていた。ロゼが名を明かして文を書いたことは、彼女がある程度自由に動ける立場になったことを示していた。

スレナの行方不明と騎士団の対応

翌朝、アリューシアからスレナが任務から帰還せず、連絡も途絶えているという一報を受けた。情報は冒険者ギルドからもたらされたものであり、信頼性は高かった。ベリルは動揺しつつも、冷静に対応しようと努めた。

組織としての制限と休暇の申請

騎士団は冒険者ギルドの案件に直接介入できず、国の許可なしには動けない立場にあった。ベリルは個人として動く決意を固め、アリューシアに休暇を申請した。アリューシアはすでに申請書類を準備しており、彼の行動を予測して支援していた。

ヴェスパタへの示唆と情報収集の方針

アリューシアはベリルに対し、西方都市ヴェスパタへの訪問を勧めた。それは婉曲的にスレナの行方に関わる手がかりがあることを示す提案であった。ベリルはその意図を理解し、冒険者ギルドで情報を収集することを決意した。

決意と出発の準備

ベリルは学院やミュイへの連絡など必要な根回しを考えつつ、スレナを救出する決意を固めた。命を懸ける覚悟を抱きつつも、無為な死を避ける冷静さも維持しようとしていた。アリューシアからの「リサンデラを、お願いします」という言葉に、彼は即座に応えた。

日常の鍛錬と決意の再確認

翌朝、修練場ではいつも通りの鍛錬が始まった。ベリルは変わらぬ日常を続けながらも、剣の頂を目指す道を再認識していた。弟子たちの成長に支えられた今、彼は自身の限界を再び乗り越える意志を固め、積み重ねの先にある未来を見据えていた。

二  片田舎のおっさん、西方都市へ征く

冒険者ギルドへの訪問と再会

ベリルはスレナの行方を追うため、久々にレベリス王国の冒険者ギルドを訪れた。目的はスレナが受けた依頼の詳細を把握するためであった。ギルドでの面会を取り付け、かつて縁を持ったギルドマスター・ニダスと再会した。過去の関わりが幸いし、アポなしでも会話の場を得ることができた。

探り合いと建前の交渉

ニダスとの会話は、互いに本心を隠しながらも情報の共有を試みる探り合いとなった。ベリルは「旅行」を建前にヴェスパタ行きを提案し、道中の案内人を依頼する形で協力を引き出した。ニダスもまた、暗にアフラタ山脈北東部の情報を示唆し、危険地域への注意を促した。形式を保ちつつ、本音を交えたやり取りで信頼と協力が成立した。

出発準備と案内人の選定

ニダスは案内役として冒険者を手配し、出発日は明後日と定まった。ベリルは急ぎの旅を装いながらも、体裁を崩さぬよう慎重に計画を進めた。費用も適正な範囲で提示され、円滑に準備が整った。以後、ベリルはミュイとルーシーに情報を伝え、翌日にはバルトレーンを発った。

急行旅程と再会した冒険者たち

案内役として選ばれたのは、かつてベリルが監督を務めた冒険者研修の生徒たち――ポルタ、ニドリー、サリカッツの三人であった。彼らはランクアップを果たしており、実力と旅慣れの両面で信頼を置ける存在となっていた。馬の乗り換えを繰り返す強行軍により、ベリルたちは一週間でヴェスパタに到着した。

西方都市ヴェスパタの印象と対応

ヴェスパタは城壁も堅牢で、規模や賑わいからして都会と呼ぶにふさわしい都市であった。通行も正式な依頼に基づくもので、問題なく通過できた。ポルタたちは依頼完了を割符で示し、ギルドへの報告に向かった。ベリルは礼を述べ、三人と別れた。

宿探しと今後の捜索準備

今後の拠点として宿を確保する必要性を感じたベリルは、大通りを進んで適当な宿を探すことにした。冒険者ギルドの支部がこの都市にも存在しており、アリューシアの言葉通り、捜索隊や連絡員が既に派遣されている可能性もあると考えた。

アフラタ山脈への決意と不安

今後は単独でアフラタ山脈を探索する予定であった。かつての経験を活かし、中腹までは対応可能と見積もっていたが、スレナの消息が途絶えている事実には不安を拭いきれなかった。それでもなお、ベリルは剣を頼りに出来る限りの行動を選ぶ決意を固めていた。自信と責務の狭間で揺れながらも、彼は自らを信じ、宿探しに歩を進めた。

アフラタ山脈への単独捜索行

ベリルはヴェスパタ到着の翌日、スレナの捜索のためアフラタ山脈の北東に向かって単独で登山を開始した。広大な山域に対し、個人の捜索範囲は極めて限定的であったが、可能性がある限り動く覚悟を固めていた。人の通行が稀な場所であったため、人跡を手がかりに捜索を進め、入山ルートを定めていた。

ミュイへの配慮と独行の決意

家を空けるにあたり、同居人のミュイには事前に事情を説明し、了承を得ていた。ミュイもスレナの身を案じたが、自身の無力を理解していたため同行は求めなかった。ベリルは、彼女の思慮深さに感謝しつつ、自らが果たすべき責任と役割に集中する決意を強めていた。

自然環境と異常な静寂の兆候

登山を進める中、ベリルは植生に違和感を覚えつつも、目立った変化は確認できなかった。やがて、周囲の気配が不自然に消失し、山域が「無の気配」に包まれていることに気づいた。この現象は強力な存在によるテリトリー支配を示唆しており、スレナの追っていた対象が関与している可能性が高まった。

奇襲の回避とスレナとの再会

森の静寂の中、洞穴らしき地形を発見したベリルは調査に向かった。洞穴に入ろうとした瞬間、不意打ちの剣閃を受けたが、即興の対応でそれを防いだ。剣を振るったのはスレナ本人であり、警戒心からの攻撃であった。彼女は負傷していたが致命傷ではなく、複数名と共に避難中であった。

チームの現状と避難の理由

スレナは三名の仲間と共に行動していたが、一名は死亡、一名は重傷、もう一名は軽傷であった。彼女自身も負傷しており、これらの事情から行動不能となり、洞穴内での籠城を余儀なくされていた。外敵の動向を警戒しながら、状況打開の機を伺っていた。

不可視の敵とその脅威

敵は姿を自在に消す能力を持ち、攻撃時の一瞬のみ姿を見せるという厄介な性質を有していた。スレナはその特性により攻撃を何とか回避してきたが、反撃が困難であることに悩まされていた。テリトリー内で潜んでいる敵は、巣への接近や脱出時にのみ襲いかかってくる慎重な性質を見せていた。

状況判断と生存戦略

現地のプラチナムランク冒険者ピスケス・クレイトンも健在であり、ベリルは彼と初めて言葉を交わした。ピスケスはスレナを救うことを最優先と考え、自己犠牲も辞さぬ構えであった。一方でスレナは仲間を見捨てる選択を拒み、全員の生還を望んでいた。

戦略の決定と覚悟の共有

ベリルは、ピスケスが重傷者を抱えて逃げる間、スレナと共に敵の注意を引き付けつつ脱出する作戦を提示した。討伐ではなく生還を目的とし、無理のない範囲で実行可能な戦略として認識された。スレナとピスケスはその案に同意し、それぞれの覚悟を新たにした。

チームの再結束と出発準備

重傷者の名はパウファードであり、ベリルは彼の名を記憶に刻んだ。医療品や食糧の補給を終え、スレナは戦闘準備を整えた。全員が生きて帰るという強い意志を持ち、ベリルはその信念のもとで仲間と共に行動を開始した。死を覚悟する状況下で、それでも生きる選択を貫くための戦いが始まった。

洞穴からの脱出と警戒態勢

ベリルはスレナ、ピスケス、負傷者パウファードとともに、洞穴からの脱出を開始した。周囲には依然として気配がなく、唯一現れた存在が敵である可能性が高いと推定されていた。隊列はベリルを先頭に、中央に負傷者を担ぐピスケス、後方にスレナを配し、万全の布陣で進行した。

不可視の敵との接触と回避

突如として黒く巨大な怪物が出現し、ベリルは咄嗟に剣でその攻撃を受け止めた。攻撃の衝撃は想定を超えており、ベリルの身体は吹き飛ばされたが、即座に体勢を立て直した。敵は姿を現したのは一瞬で、直後に姿を消し、追撃は行われなかった。

敵の特性と戦術的考察

ベリルは敵の正体が「イド・インヴィシウス」と呼ばれる特別討伐指定個体であると知った。かつて彼自身が若き日に敗北し、逃げ帰ることとなった苦い記憶と結び付き、敵の特性を再確認するに至った。姿と気配を消す能力に加え、攻撃と同時に出現するという性質があり、攻撃後は即座に姿を消していた。

過去の邂逅と成長の実感

若きベリルは自信過剰のまま、父から譲られる前に剣の力を試そうとアフラタ山脈に入った過去を持つ。その際、イド・インヴィシウスとの邂逅により、力の限界を知ることとなった。現在ではその経験を活かし、仲間を救うための判断と行動が取れるようになっていた。

苦手意識と精神的障壁

ベリルはイド・インヴィシウスに対して潜在的な苦手意識を抱いていた。戦闘においてはその意識が思考や動作に影響を及ぼす可能性があることを自覚し、心を律しようとしていた。過去の父への劣等感と重なり、精神面での戦いが続いていた。

再襲撃と負傷の代償

再びイド・インヴィシウスが襲来し、ベリルは左腕に重傷を負った。反撃は成功したものの、致命傷には至らず、敵の強度と耐久性の高さを実感することとなった。左腕の損傷は深刻で、握力の喪失により機能は著しく低下していた。

応急処置と判断の分担

スレナとピスケスが迅速に応急処置に当たり、ベリルは負傷を抱えながらも行動を継続する意思を示した。スレナには周囲の警戒を任せ、ピスケスが止血を行うという分業体制が敷かれた。ベリルはこの状況を受け入れつつも、自身の責任を強く意識していた。

帰還への決意と責務の重さ

全員が負傷している状態のなか、ベリルは仲間を麓まで導く責務を再認識していた。特にスレナの責任感と苦悩に寄り添いつつ、命があることに感謝し、最終的な帰還を目指した。イド・インヴィシウスの戦術的な行動や襲撃タイミングの違和感についても注意を払いつつ、分析を続けていた。

緊張の持続と限界の兆し

ベリルは体力と集中力の限界を迎えながらも、再襲撃の可能性に備えて気を緩めることができなかった。高度な精神的緊張と身体的疲労が重なり、正確な判断力の維持に苦労していた。

気配の復活と脱出の兆し

山中で再び周囲の気配を感じ取ったことにより、イド・インヴィシウスのテリトリーから脱出した可能性が高まった。仲間たちは慎重に行動を続けつつ、脱出成功への希望を抱いて進行した。

麓の到達と限界の到来

やがて、ヴェスパタの外壁が視界に入り、麓への到達が確定した。しかし安堵の直後、ベリルは力尽きて膝をつき、そのまま意識を失った。仲間たちは彼を背負って都市へ向けて全力で走り出し、ついに命懸けの帰還行が終わりを迎えた。

幕間

出発の挨拶とルーシーの思考

ベリルは首都バルトレーンを離れる前に、ルーシー・ダイアモンドを訪ねた。ふたりの短い会談は円滑に進み、ルーシーは彼の異変を察しつつも、気負うことなく彼を送り出した。ベリルの人柄と実力を理解しているがゆえに、彼の背負う責任の重さと、それに見合わぬお人好しな性格に、彼女は少なからず呆れを覚えていた。

スレナの失踪と興味の発露

ルーシーは、冒険者スレナ・リサンデラが帰還していない件に関心を寄せていた。彼女にとっては心配というより純粋な興味の対象であり、スレナほどの実力者が戻れない事態そのものに思考が向けられていた。人情よりも自身の関心を優先する性格は、彼女自身が意図的に選んだ生き方であり、他者に理解されることを求めていなかった。

出動を巡る葛藤と合理的な判断

ルーシーはスレナの失踪を契機に現地へ向かうことを一時検討したが、魔法師団長という立場で無断出奔すれば国家的混乱を招くことを理解していた。自らが築き上げた組織や王国への影響を考慮し、軽々に動くべきではないと判断していた。個人としては関心を抱きつつも、それを行動に移すには理由と手続きが必要であった。

アリューシアの訪問と異例の展開

そこへ突如現れたのが、レベリオ騎士団団長アリューシア・シトラスであった。彼女の予告なき訪問は極めて稀であり、ルーシーはそれが重大な私事によるものであると即座に察知した。アリューシアはルーシーに対して根回しの協力を求め、その言葉からスレナに関する行動を起こそうとしていることが明白となった。

共謀の成立と迅速な連携

ルーシーは、アリューシアの頼みに条件付きで同意し、自らも関与することを申し出た。面倒であった根回し作業を分担できる点に利があると判断した結果であり、何よりアリューシアの行動力に信頼を置いていた。二人は国王グラディオへの話を通すことで合意し、正式な動きに向けて即座に行動を開始した。

国王への面会と出発の準備

応接室を後にし、ルーシーとアリューシアは王宮へと向かった。ルーシーはハルウィに短い言葉で外出を伝え、用件の詳細を語ることもなく家を出た。春の陽気を感じながら、久しぶりの外出に対する軽い感慨を抱いたが、それ以上に優先すべきは目前の行動であった。

私情に基づく行動と国家への配慮

スレナの危機と、それに伴う未知の脅威に対し、魔法師団長と騎士団長という国家の重鎮ふたりが、個人的な関係を背景に動き出した。国家機関の枠を超えた行動ではあったが、両者はそれぞれの責任と影響力を自覚したうえで、最小限の混乱に抑えるべく事前の根回しを徹底する構えであった。こうして、二人の強者による慎重かつ大胆な計画が、静かに幕を開けた。

三  片田舎のおっさん、克服する

意識の回復と身体の不調

ベリルはアフラタ山脈からの帰還後、意識を失っていたが、半日以上を経て目を覚ました。目にしたのは宿でも診療所でもない個室であり、自身がどこに運ばれたのかすら分からない状態であった。左腕には包帯が巻かれていたが、依然として動かすことは叶わなかった。剣士としての致命的な障害に直面し、苦悩を抱えることとなった。

スレナとの再会と状況報告

スレナの介抱により、ベリルは自身がヴェスパタのギルド出張所にいること、半日以上眠っていたことを知った。スレナとピスケス、そしてパウファードも無事であると確認でき、ようやく安心の念が押し寄せた。応急処置以外の治療はまだ施されていなかったが、生還を果たせたこと自体が大きな成果であった。

復讐の理由とスレナの覚悟

スレナはイド・インヴィシウスへの強い執着を見せ、その理由が両親を殺された仇討ちであることを明かした。彼女は恐怖を抱きながらも、過去と向き合い、自らの手で決着を付ける覚悟を固めていた。ベリルはその決意を尊重し、彼女の強さを称賛した。

ベリルの過去と悔恨

ベリル自身もかつてイド・インヴィシウスに敗北し、逃げ帰った経験を持っていた。その敗北が間接的にスレナの悲劇に繋がっていた可能性を思い、彼は強い悔恨の念を抱いた。武に生きる者として、過去の敗北を清算するためにも再戦の必要を痛感していたが、現状では戦える状態ではなかった。

ルーシーの登場と治療の開始

そこへ突如現れたのは魔法師団長ルーシー・ダイアモンドであった。観光を口実にヴェスパタに現れた彼女は、ベリルの怪我を即座に見抜き、回復魔法の施術を申し出た。国家の重鎮である彼女の行動は建前を整える必要があったが、今回はツケ払いを条件に施術を了承した。

回復魔法の施術と腕の再生

ルーシーは施術にあたり、外部に情報が漏れないよう扉の施錠と秘密保持を徹底した。回復魔法の感触は独特であったが、施術は成功し、ベリルの左腕は再び動くようになった。多少の痛みは残ったものの、回復は本物であり、彼は感謝とともに再起の意志を強めた。

スレナとの絆と再出発の決意

スレナはベリルの回復を喜び、彼の支えがあったからこそ自分も生還できたと感謝を述べた。ベリルもまた彼女の覚悟に応え、自らも再び戦いに加わる意志を示した。イド・インヴィシウスとの因縁に終止符を打つため、二人は共に戦うことを誓い合った。

明日への準備と静かな朝

ルーシーは眠気を堪えきれず部屋を後にし、ベリルとスレナは翌日の決戦に備えることとなった。左腕の再生により、ベリルもようやく剣士として再起を果たし、スレナと並び立つ覚悟を新たにした。朝日が昇るなか、彼は心身を整え、明日の戦いへ向けて静かに歩を進めた。

左腕の回復と出発前の不安

ベリルはルーシーの治療により左腕の機能を取り戻したが、急速な回復に心が追いつかず、実戦での動きに不安を感じていた。スレナと共に訓練を重ねたことで感覚は取り戻せたものの、頭では理解しても身体の変化に戸惑っていた。

スレナの献身と体力への驚嘆

スレナはベリルが意識を失った際、彼を背負って撤退し、介抱と訓練にも付き合っていた。彼女の疲労を感じさせない行動力と精神力にベリルは驚き、体力とタフさの違いについても改めて考えを巡らせていた。

イド討伐への気象と展望

討伐当日は快晴であり、山岳地帯における天候の重要性をベリルは再確認していた。イド・インヴィシウスの討伐には有効な戦術が見つかっておらず、その異常な力から長年放置されてきた事実が示すように、攻略の糸口は見えていなかった。

魔術による突破口の期待

イド・インヴィシウスの透過能力は魔法的な要素を含んでいると推察され、それに対抗できるのはルーシー以外にいないとベリルは判断していた。未知の魔法に対処できる魔術のエキスパートの存在が、今回の討伐の鍵を握っていた。

捜索隊の不在と懸念

スレナを捜索するためのギルド派遣隊が現れないことを、ベリルとスレナは懸念していた。情報の行き違いや誤配により、捜索隊が既に山に入っている可能性もあり、誤ってイドと接触する危険性を案じていた。

ルーシーの合流と即応体制

ルーシーが早朝から現れたことで、三人の出発態勢が整った。ルーシーは昨日とは異なり眠気のない表情で登場し、討伐に対する本気の姿勢を見せた。ベリルは彼女の参加を頼もしく感じつつ、討伐の難易度が高まることを改めて認識していた。

アリューシアの予想外の参戦

さらに、レベリオ騎士団長アリューシアが完全装備で合流した。慰安旅行を装った言い訳は明らかに不自然であり、スレナやベリルもその目的が討伐であることを理解していた。アリューシアの参戦にスレナは難色を示したが、実力を認めている以上、拒否はしなかった。

討伐部隊の結束と時間の制約

ベリルは魔法師団長と騎士団長という国家の重鎮を長く拘束できない現実を理解し、時間内に任務を果たす決意を新たにしていた。アリューシアとスレナの対立はあったものの、目的が一致する今、余計な衝突は避けるべきと判断した。

討伐計画と未知への対処

出発前、ベリルはルーシーに討伐の当てを尋ねたが、彼女は現地での接敵を前提にした対応を予定していた。イドの能力には魔法的な要素が絡んでいる可能性が高く、ルーシーがそれを看破できるかが勝敗を分けると考えられていた。

戦闘に備える信頼関係の構築

道中、ベリルはルーシーとかつての会話を思い出し、彼女が後衛に立つことの安心感を再認識していた。剣士ではない彼女に背中を預けることは初の経験であったが、その実力と信頼に疑いはなかった。

感謝の言葉と覚悟の共有

歩みの途中、ベリルはルーシーとアリューシアに頭を下げ、討伐への協力に感謝を述べた。二人はそれぞれの言葉で応え、騎士と魔術師としてベリルの意志に応じた。討伐という重大な任務を前に、三人の心は一つに結ばれていた。

討伐開始への出発

最高戦力が揃ったこの瞬間、ベリルたちはイド・インヴィシウスの首を狙ってアフラタ山脈へと歩みを進めた。風は静かに吹き、陽光は彼らの背を押していた。いよいよ、すべての因縁に決着をつける戦いが始まろうとしていた。

山道を進む仲間たちの行軍

ベリルはスレナ、ルーシー、アリューシアと共にアフラタ山脈へ向かい、整備の行き届かない山道を黙々と進軍していた。仲間たちは無駄口を挟むことなく、ただ淡々と歩き続け、魔物に出くわしてもすぐさま撃破していた。ルーシーは魔力の温存を理由に戦闘には加わらず、全体の後方で様子を見守っていた。

気配の変化とイド・インヴィシウスの縄張り

中腹へ差し掛かった際、周囲の気配が途絶えたことで、ベリルたちはイド・インヴィシウスの縄張りへ入ったことを察知した。ルーシーのみがこの変化に気づけなかったが、それは彼女の感覚の鈍さではなく、強力な防性魔法と回復魔法を常時展開していたことに起因していた。

戦闘体制の整備と敵への備え

イド・インヴィシウスとの戦闘が避けられぬものと判断し、ベリルたちは布陣を維持したまま、敵の襲来に備えた。前衛をベリルが務め、ルーシーは後方で分析と支援を担当した。ルーシーには観察役としての重要な役割が課されていたため、彼女の安全確保が最優先とされた。

初戦闘と敵の能力

敵は突如として姿を現し、スレナに襲いかかったが、彼女は攻撃を受け流し、即座にベリルとアリューシアが挟撃を仕掛けた。剣の一撃は敵の硬質な外殻に阻まれ、ダメージを与えるには至らなかった。イド・インヴィシウスは再び姿を消し、撤退した。

ルーシーの分析と武器強化の提案

ルーシーは敵の魔力の痕跡から、隠蔽の術理を見抜いたと判断し、次の接敵では対応できると宣言した。しかし攻撃が通じない現実に対し、彼女は武器の魔力強化を提案し、三人の剣を預かった。強化された剣は外観やバランスに変化なく、一時間の効果持続が見込まれた。

敵の魔力と攻撃への警戒

イド・インヴィシウスの四肢には強力な魔力が付与されており、その攻撃は金属鎧すら貫通する威力を持っていた。ベリルたちは注意を促され、長期戦になることを警戒しつつも、強化された武器を手に再戦への意志を固めた。

魔力の痕跡追跡と戦術の変化

ルーシーは敵の魔力残滓を辿ることで進路を指示したが、彼女の指示は地形を考慮していなかったため、移動にはたびたび迂回が必要となった。ベリルは魔術師との共闘経験が少なく、ルーシーの存在の大きさを実感しつつも、その距離感に戸惑っていた。

新たな気配と出会いの予兆

イド・インヴィシウスのテリトリー内で異質な気配を察知したベリルたちは、別の人間がこの場にいることを確認した。接近してきた人物は明らかに戦闘経験があり、警戒しつつも交渉の構えを取った。

かつての門下生との再会

姿を現した青年はジョシュア・エーベンラインと名乗り、スレナとは顔見知りであり、さらにベリルのかつての門下生でもあった。彼はベリルの道場で剣を学んだものの、修行を途中で離れていた存在であり、今回の再会は偶然であった。

同行の決断と仲間の紹介

ジョシュアはイド・インヴィシウスの捜索と討伐に加わることを申し出た。彼は冒険者ギルドのブラックランクに属する実力者であり、その同行は戦力として十分と判断された。また、彼の相棒であるミスティも紹介され、彼女は支援に特化した装備と役割を担っていた。

戦力の増加と出発の再開

新たな仲間を加えたベリルたちは、ルーシーの魔力追跡に従って再び進軍を開始した。イド・インヴィシウスの討伐という目的の下、すべての戦力が結集し、戦いの火蓋が再び切られようとしていた。

縄張りの特定と再戦への備え

ベリル一行はイド・インヴィシウスの縄張りの範囲を推定し、警戒を強めながら接近していた。ジョシュアとミスティを含めた六人編成で再編された隊列は、前衛をベリルとスレナ、中衛をアリューシアとルーシー、後衛をジョシュアとミスティが担当する形で整備された。ジョシュアの実力と性格に対する信頼はあったが、イドに攻撃を通せる保証はなく、後衛に回す判断がなされた。

索敵と奇襲への対応

ルーシーは優れた魔術師として、視認できない敵の接近を察知し、全員に警戒を促した。彼女のような術者の存在が戦術の幅を広げ、剣士としての役割に将来的な危機感を抱かせるほどであった。やがてイド・インヴィシウスが虚空から襲撃を仕掛けてきたが、アリューシアの一撃が初めてその外殻を貫き、敵の硬さに対する戦術的展望が開けた。

魔術による索敵封じと攻勢展開

ルーシーの魔術によりイドの隠蔽能力が封じられたことで、姿と気配を消せなくなった敵は一気に不利な立場へと追い込まれた。彼女が近距離で支援するためには距離を詰める必要があったが、周囲の理解と連携が速やかにそれに応じた。ベリルとスレナが連携して攻撃を仕掛け、イドの前脚に確かな損傷を与えることに成功した。

戦闘中の違和感と強化の副作用

剣撃は有効であったが、その感触に違和感を覚える者も多く、魔術による強化が本来の剣技と異なる性質を持っていたことが明らかとなった。バターを切ったような感触に、剣士としての本能が違和感を訴えていた。これにより、戦闘の効率と技量の意地との間で葛藤が生まれた。

ミスティとジョシュアの連携と試練

ミスティは鞭でイドの動きを封じ、その隙にジョシュアが一撃を加えたが、強化を施していない剣ではイドの防御を破れなかった。彼の技量は十分であったが、敵の異常な硬さがそれを上回っていた。この現実が、ルーシーの存在によってイドの無敵性が崩れた事実を強調した。

連携の深化と戦況の優位化

ベリルたちの連携は高水準で維持されており、アリューシアも再び戦線に復帰し、全員が無言のうちに役割を果たしていた。剣士たちの即応力と判断力が集結し、イド・インヴィシウスは完全に劣勢に陥った。隠し玉も見せない敵に対し、ルーシーは逆に物足りなさを感じるほどであった。

意地と誇りによる強化解除の申し出

ベリルはルーシーに対し、自分とスレナの武器に施された強化の解除を申し出た。これは剣士としての意地に基づくものであり、魔術の助力なしでの勝利を望む強い感情に由来していた。スレナもこれに即座に同意し、二人の剣士は自らの技量だけで勝負に臨む覚悟を固めた。

剣士の誇りと世界との乖離

ベリルは、自らの行動が理屈や合理性を無視した愚かで無意味なものであることを理解していた。それでもなお、過去に受けた屈辱を自らの手で払拭するには、己の剣で決着を付ける必要があった。剣士という道を選んだ者としての誇りが、命のやり取りの場でさえ意地を通す選択をさせたのである。

ギルド訪問と対話の疲労

イド・インヴィシウス討伐後、主人公は報告のためバルトレーンへ戻り、冒険者ギルドのギルドマスター・ニダスと面会した。形式的な会話の中で、主人公は政治的な体面やしがらみに戸惑いつつも、それに付き合う姿勢を見せた。彼自身はスレナという個人を救ったつもりであったが、組織的な恩義として扱われることに違和感を覚えていた。

帰路の孤独と心情の変化

ヴェスパタからの帰り道はのんびりした一人旅であったが、その道中で主人公は孤独感とともに、自分の性格が誰かと一緒にいることを好むと再認識した。また、教え子たちや騎士団の成長に関心を持ちつつ、地元ビデン村に戻る理由が薄れてきた現状を冷静に受け止めていた。

スレナの訪問と過去の整理

自宅に戻った主人公を訪れたのはスレナであった。彼女の私服姿や晴れやかな表情は、イド討伐によって長年の重荷を下ろせた証でもあった。二人の会話は穏やかで、冒険者としての過去、そして復讐という目的を成し遂げたことに伴う心理的な変化が語られた。

ジョシュアの過去と危惧

スレナの問いかけから、かつての教え子ジョシュア・エーベンラインについて語られる。天賦の才を持ちながらも、強者を求めて戦いを望む彼の危うい精神性ゆえ、主人公は破門を決断した。現在も噂が絶えず、危険人物としての側面が拭えないが、実害が明るみに出ていないため確証は得られなかった。

ミュイとの関係と家族的つながり

ミュイが帰宅し、三人は自然と共に過ごす時間を持つ。ミュイは成長の兆しを見せ、スレナも彼女を家族のように感じている様子であった。スレナの変化や成長が会話から滲み出ており、過去を背負っていた者同士の絆が深まっていた。

スレナの未来への選択

スレナが仇討ちという目的を果たした今、冒険者を続けるか否かという問いが浮かび上がった。明確な返答は避けたものの、彼女の心は新たな人生へと向かいつつあり、「家庭を持ちたい」という想いも語られた。主人公はそれに理解を示しつつ、スレナの幸福を願っていた。

平穏の中の確かな変化

最後に、主人公はスレナの笑顔を見ながら、彼女が二十年の時を経てようやく真の意味で解放されたことを実感する。その笑顔は優しさと強さを併せ持つものであり、主人公はその変化を静かに喜んでいた。

末  片田舎のおっさん、未来を考える

日常の再開とミュイの所在

イド・インヴィシウス討伐後の静かな日々、主人公は騎士団での鍛錬を終えて自宅へ戻り、ミュイの出迎えを受けた。休日のミュイは家で過ごしており、家事を手早くこなした後は時間を持て余していた。主人公はそんな彼女の様子に気づき、気分転換として素振りを提案した。

剣術指導とミュイの反応

主人公の提案に対し、ミュイは一瞬驚いたものの快諾し、自宅裏の庭で素振りを始めた。主人公は彼女が剣魔法科で学ぶことや、講義の進捗を尋ねつつ、彼女の身体能力や反応速度から、剣士としての資質を評価した。過去にあまり修練をしてこなかったことを踏まえても、その成長速度は上々であり、努力次第で一流の剣士にもなれると感じていた。

剣筋の観察と技術的助言

素振りを見守る中で、主人公はミュイの剣筋が安定していることに驚き、素直に称賛の言葉を送った。彼女は体幹がしっかりしており、剣の動きも滑らかで、連動性に優れていた。ある部分の動きに苦戦する様子を見て、主人公は腰と尻の使い方をアドバイスし、基礎的な身体操作の重要性を説いた。ミュイはその助言を受けて即座に動きを修正しようと努力した。

剣術における非天才型の可能性

ミュイは一言で動きが改善するような天才ではなかったが、主人公はそれを否定的には捉えていなかった。むしろ継続的な鍛錬を重ねて上達するタイプと認識し、彼女にとっても、主人公にとってもこのマンツーマンの時間が有意義であると確信していた。

スレナとの関係についての問い

素振りの合間に、ミュイは突如としてスレナとの結婚の可能性を尋ねた。主人公はその唐突な質問に困惑しつつも、スレナを恋愛対象とは見ていないこと、むしろ年の離れた妹のように感じていることを自覚していた。ミュイはこの返答に納得した様子を見せたが、真意は計り知れなかった。

家族の概念と母親像への考察

主人公は「母親とは何か」というミュイの疑問に答えようと試み、自身の体験や家族観を基に「家族を支える存在」と定義した。しかし、実際に母親の存在を知らずに育ったミュイにとって、その概念を理解することは難しく、主人公自身もまた明確に言語化することはできなかった。

切り替えの早さと生活力の成長

会話の後、ミュイは突如として夕食の準備を始め、見事な思考の切り替えを見せた。主人公はそんな彼女の成長を感じ取り、包丁の扱いが上達したことや、将来的に良き母となる可能性に思いを馳せた。そして、自らの中にある送り出す側としての複雑な感情に気付きつつ、遠くない未来への期待と寂しさを抱えながら昼下がりを過ごしていた。

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片田舎のおっさん、剣聖になる
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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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