どんな本?
『俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜』は、鍋敷氏による日本のライトノベル作品である。
本作は、2019年10月17日より小説投稿サイト「小説家になろう」にて連載が開始され、2020年9月15日からアース・スターノベル(アース・スター エンターテイメント)より書籍版が刊行されている。
イラストはカワグチ氏が担当している。 
本作は、全ての才能がないと判定された少年・ノールが、唯一習得した剣技「パリイ」を極めることで、知らぬ間に世界最強の力を手に入れ、冒険者としての夢を追い求める物語である。
その過程で、彼は数々の強敵を打ち倒し、周囲からは英雄視されるが、本人は自らの実力に気づかないまま物語が進行する。 
2024年7月から9月にかけて、テレビアニメ化もされ、TOKYO MXほかで放送された。
また、2020年9月30日より、KRSG氏によるコミカライズ版が『コミック アース・スター』にて連載されている。 
2024年11月15日現在、書籍版の第9巻(本書)が発売された。
読んだ本のタイトル
俺は全てを【パリイ】する ~逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい~ 9
著者:鍋敷氏
イラスト:カワグチ氏
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あらすじ・内容
サレンツァ王国の首都に入り、瀕死の状態だった双子の獣人を救い出したノール一行。
やがて彼らは、ここでは獣人や魔族が奴隷として売買されているという事実を知る。そして奴隷売買のオークション会場に行ったノールたちだったが、その実態を目撃したリーンはある行動を決意する…。
感想
サレンツァ王国の異様な社会構造
サレンツァの社会構造は極めて異様であった。
階級に応じて区画が細かく分けられ、貧民街や奴隷制の存在がそれを際立たせていた。
この街でノールが行動を起こしたのは、あくまで彼の目の前に助けを必要とする者がいたからであった。
それが双子の姉であり。
そこからサレンツアに大変革が訪れる。
その中心が自身だと気が付かないにもかかわらず、結果として奴隷商人たちは資産を無くし、街の秩序にも影響を与えていった。
ノール自身はこうした影響力を意識していないが、読者には彼の行動がいかに大きな波紋を広げているかが伝わり、笑いを誘う。
そんなノールを狙う者も現れ、1巻で対峙した死人のザドゥがノールに忍び寄る。
ノールの「素手でパリイ」の衝撃
ノールが「黒い剣」を追う最中、死人のザドゥの攻撃を素手で受け止めるシーンは圧巻であった。
彼の動作には一切の迷いがなく、怪我をしても即座に回復する姿が異常とも言える。
本人はこれを「普通」と認識しているようだが、周囲や敵対者にとってはまさに「化け物じみた行動」であった。
死人のザドゥもその異様さに呆然としており、このギャップが読者に笑いを誘った。
こうしたノールの無自覚さが物語のキモと言える。
リーンの暴走とアスティラの助長
一方、奴隷オークション会場では、リーンがノールの言葉を拡大解釈し、暴走状況になっている点も見逃せない。
ノール自身が自覚的に指示を出しているわけではなく、ただ優しさで行動しているだけであるにもかかわらず、周囲の人間は彼の言動を「大義」として動いていく。
この流れは、ノールという人物が持つ無意識の影響力を端的に示していた。
今回は隣国の教皇アスティラとその息子であり国王であるティレンスがリーンを助長する形で現れたことで、次巻でどのような展開が待っているか大変楽しみである。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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アニメ
PV
OP
ED
同シリーズ
俺は全てを【パリイ】する
その他フィクション
備忘録
165 商都サレンツァ 1
『首都サレンツァの到着』
街への到着と検問の様子
・ノールたちは首都サレンツァに到着したが、道中で怪しい男との一悶着があった。街の入り口での検問が厳重で、リーンが兵士と長いやり取りをしながら通行の手続きを進めた。
・検問後、街に入ったノールたちは、背の高い建物と商業の街らしい賑やかな雰囲気に圧倒され、サレンツァの規模の大きさと独自の風景に驚いた。
サレンツァの街の構造
・街は「忘却の迷宮」を中心に、「特別区」「高級街区」「商業区」「一般居住区」「免罪特区」「貧民街」といった区画に分けられており、中心部に近いほど裕福で治安も良い。ノールたちがいるのは外周の「貧民街」であった。
・ラシードは「貧民街」の役割について説明し、砂嵐や砂漠の盗賊から住民を守るための防波堤としても機能していることを語った。
大陸最大の都市と『忘却の迷宮』
・サレンツァは大陸最大の都市とされ、定住者に加えて商業関係者も多く出入りする。ノールたちは「忘却の迷宮」がこの国の発展に欠かせない資源であることを知り、その歴史と重要性に感心した。
・ラシードは迷宮の構造とその特権階級のみが深部に立ち入れることを説明し、首都サレンツァの独自性についても述べた。
再度の検問と街の見学
・街を進むと再び検問があり、「免罪特区」と「一般居住区」の間を通る際にも厳重な手続きを経た。その後、街並みがさらに美しく整えられ、より多くの商業施設や工房が立ち並んでいた。
・ノールは「人造ゴーレムの工房」を見つけ、興味を示した。リーンも着替えのために宿に一旦立ち寄ることを提案し、しばらく街を見学することに決定した。
揉め事の発見と介入
・街を散策する中で、シャウザが揉め事を避けるよう提案したが、ノールは倒れている獣人の少女に気づき、人混みの中に入り込んで状況を確認した。少女は男に所有される奴隷であり、殴られながら謝罪を繰り返していた。
・ノールは男の行為に憤りを覚え、奴隷として扱われる少女の状況に反発し、周囲の止める声を振り切って男に介入した。
166 商都サレンツァ 2
街中での一悶着と奴隷少女との遭遇
男との口論と少女の怪我
・ノールが腕を掴んだことで男が激昂し、自身が被害者であるかのように大声で騒ぎ立てたが、ノールは気にせず倒れている少女に治療を施した。彼女の体には多数の痣が残っており、ノールは【ローヒール】で傷を癒やした。
・男は彼女が「借金奴隷」であることを強調し、罪人の子としてその扱いが正当であると主張。男が鞭で躾けようとしたところ、ノールが鞭を掴んで防いだため、男はさらに憤怒し、慰謝料を請求し始めた。
男の要求と買い取り交渉
・男は少女の身請け金として高額な金額を要求。ノールはその場で大金貨を差し出し、男たちは驚愕しつつも、ノールの金を狙って態度を変え、彼を商会に誘い込もうとした。
ラシードの介入とガレン商会への皮肉
・場を見ていたラシードが愉快そうに笑いながら近づき、男たちがガレン商会の幹部であることを指摘しながらも、軽口を交えて彼らを挑発。男たちは威圧的な態度でラシードに絡み、ラシードの護衛であるシャウザにも挑発を試みた。
シャウザの反撃と男たちの撤退
・男たちがラシードを取り囲んだ際、シャウザが動き、瞬時に男たちの衣服を切り裂いて半裸の状態にした。周囲から笑い声が上がり、男たちは怯えながらもシャウザの短刀を恐れて退散した。
・シャウザは男たちに「今後も証人がいる前で事を起こさないように」と冷淡に警告し、最後には男たちが何も見なかったことにするよう脅した。
ラシードとシャウザの対話
・男たちが去った後、ラシードはシャウザに対し、彼が迂回を提案した理由について問いかけた。また、倒れていた少女がシャウザの同胞の子供であることを示唆し、シャウザが過去の因縁から逃げ続けているのではないかと指摘した。
・その指摘にシャウザは無言で俯き、周囲の人々が散っていく中で静かな緊張感が漂った。
167 商都サレンツァ 3
新しい主との出会いと心の交流
怪我の治療と少女の不安
・リーンが少女を街路の脇に連れて行き、優しく声をかけながら傷の治療を行った。応急処置は済んでいたが、少女はまだ怯えており、何かに身を硬くしていた。
・リーンが少女に「もう怖い人はいない」と安心させると、少女も徐々に態度が和らいでいき、新しい環境への戸惑いを見せながらも、少しずつ落ち着きを取り戻していた。
新しい「ご主人様」への誤解
・リーンの助言により、少女はノールを新しい「ご主人様」と誤解し、慌てて頭を下げて従順な姿勢を見せたが、ノールは戸惑った。
・ロロが少女の男性恐怖症についてノールに伝え、ノールはイネスの背後に隠れ、少女を驚かせないようにした。
シレーヌと少女の交流
・シレーヌが自身も獣人であり、奴隷ではなく雇用されている立場であると説明すると、少女は不安そうにしながらもシレーヌと同じ目線で理解を深めていった。
・少女は少し安堵し、シレーヌの存在に安心を覚え、自分と同じ立場の仲間がいることを感じ取った。
街の闇と「獣人奴隷」
獣人奴隷への社会的偏見
・ラシードが「この街の規範や良識が、弱い立場にある獣人奴隷を生み出している」と説明。彼らは庇護されないため、何をされても文句を言えない状況にあると語った。
・街の人々が暴力を見ても無関心で、楽しむかのように眺めていた様子を指摘し、この無関心が街の商業構造の根幹であると明かした。
獣人の少女と弟の存在
・ロロが少女の弟の存在を示唆。少女が弟について語り始め、弟が病弱であることと、自分が奴隷として売られた際に弟が「不要」とされた経緯を涙ながらに話した。
・リーンが辛い記憶を思い出させたことに謝罪しつつ、弟の居場所を探ることを決意。
奴隷商館への訪問と決意
ガレン商会の奴隷商館へ向かう計画
・ラシードが少女の首輪に刻まれた印を確認し、彼女がガレン商会の奴隷商館から来た可能性が高いと告げた。
・リーンとノールはゴーレム工房の訪問を後回しにし、まずは奴隷商館へ向かうことを決意。ラシードも同行することに同意した。
・イネスが少女を背負い、一行はラシードの案内で街の奥にある奴隷商館へと向かった。
168 奴隷商館にて 1 ラシードの知己
奴隷商館での交渉と計画の進展
奴隷商館への到着と説明
・ラシードの案内に従い、ノールたちは奴隷商館へ到着。建物の内部は広く、受付のカウンターには、パイプを燻らせる老婆が座っていた。老婆は奴隷の種類について説明し、ノールが探しているのがミィナの弟であると知った。
弟の状況と困難な交渉
・老婆は、ミィナの弟が疫病で衰弱し、隔離棟に移されたと語り、売り物として扱えないと断言した。ミィナは弟を助けるために必死で頼むが、老婆は冷たくあしらった。そこでラシードが交渉を試み、老婆が提示した「二億ガルド」という莫大な手数料にノールたちは驚いたが、ノールが白金貨で支払いを申し出ると態度が一変した。
商館の主人ガレンの登場と再会
・小太りの男、ガレンが登場し、ラシードと旧知の仲であることが明かされた。ラシードとガレンは軽妙な会話を交わしつつ、ガレンが自ら隔離棟まで案内することになった。
隔離棟への進行と罠の発動
隔離棟への案内と謎の扉
・ガレンに案内され、ノールたちは広い中庭を抜け、隔離棟へと続く薄暗い廊下に到達。ガレンは、リーンたちの同行者であるシャウザとシレーヌを途中で待機させると言い、獣人の立ち入りを規制するためと説明した。
ガレンの裏切りと戦闘の勃発
・暗い廊下の奥で、ガレンが鉄格子を降ろしてノールたちを閉じ込め、「サレンツァ家」からの命令で足止めするよう指示されていたと告白した。ガレンは商会の褒賞を狙い、ゴーレムと部下をけしかけ、ノールたちを拘束しようとした。
ノールたちの反撃
・リーンの炎の魔法【滅殺獄炎】により拘束されていた刃を焼き払い、イネスの【神盾】で鉄格子を破壊して反撃を開始した。ゴーレムもノールの一撃で撃破され、ガレンの計画は失敗に終わった。
最終的な結末と目的への道
ラシードの制裁とガレンの謝罪
・ラシードはガレンに協力を促し、彼らに刃を向けたことへの謝罪を要求した。ガレンはシャウザとシレーヌに震えるように謝罪し、ラシードは彼の資産を自由に使うことを示唆し、再会を終えた。
弟との再会に向けて
・ラシードたちはガレンの制裁を終え、目的の少年であるミィナの弟に会うため、再び廊下の奥へと進んだ。
169 奴隷商館にて 2 兄と妹、弟と姉
再会と絆の再確認
待機中の会話とミィナの休息
・リンネブルグ王女たちが隔離棟の奥へ向かう間、シレーヌとシャウザは入口で待機していた。シレーヌは膝の上で眠るミィナを起こさぬよう気遣い、疲れ切った彼女の安らかな姿を見守った。
シレーヌとシャウザの会話
・シレーヌは、自身の愛用する弓をシャウザに預けた。シャウザはその弓の質の高さを称賛し、シレーヌの師が有名な【弓聖】ミアンヌであることを知ると驚きを示した。シャウザは、かつて弓を使っていた自分の過去に思いを馳せ、同胞たちの犠牲に対する悔恨の念を静かに述べた。
弟リゲルとの再会
・そのとき、シレーヌの膝で眠っていたミィナが目を覚まし、驚きながらも感謝の言葉を述べた。彼女の視線の先に、弟であるリゲルの姿が現れると、ミィナは彼に飛びつき、無事な再会を果たした。
涙の感謝と兄妹の絆
・リゲルの無事を確認したミィナは、彼が健康を取り戻したことに涙を浮かべ、周囲の人々へ感謝を述べた。しかし、溢れ出す涙で言葉が詰まり、最後まで感謝を伝えることができなかったが、彼女の感謝の思いは周囲の人々に伝わった。
170 奴隷商館にて 3 双子の弟、リゲル
弟との再会と救済の決意
リゲルの救助と姉弟の感謝
・ノールたちは隔離棟で重病のリゲルを発見し、リーンの治療のおかげで少年は回復し、自力で歩けるまでになった。リゲルとミィナは無事に再会を果たし、弟のリゲルは再度、ノールとリンネブルグへの感謝を述べた。リゲルは幼少から「知的使役用」の奴隷として教育を受けていたため、大人びた言葉遣いで礼を述べた。
商都の資産とリゲルの洞察
・ラシードは商都サレンツァの不動産が異常に安価で売りに出されている情報をノールたちに開示した。リゲルはこの機会に奴隷商館の資産を買い占めるべきだと進言し、その理由を冷静に説明した。奴隷商館や獣人奴隷がもたらす権益は計り知れず、将来的に買い戻される可能性が高いため、今が買い時であると述べた。
リゲルの商才とラシードの評価
・リゲルはラシードの問いに対しても的確な答えを返し、今後も商都の権益を狙う商人たちが反発する可能性を指摘した。彼の冷静な分析に、ラシードは感銘を受け、リゲルが優秀な人物であると認識した。
資産運用の提案
・ラシードはノールに対し、自身の資産を商取引に利用する許可を求め、取引を行うことでさらなる利益を生むことを提案した。ノールは全ての資産を任せることに同意し、ラシードはこの好機に高い利益を見込むと述べ、意欲的な姿勢を見せた。
ノールとリーンの奥への再出発
・リゲルをラシードに預けたノールは、残る負傷者たちの救出を優先するため、リーンと共に再び暗い廊下の奥へと戻った。
171 サレンツァ家の人々
ザイード家の陰謀と動揺
サレンツァの「森林地帯」での親族会議
・首都サレンツァ中央部の「森林地帯」にある豪華な宮殿群に、サレンツァ家の親族たちが集まり、豪華な広間で親族会議が行われていた。家長ザイードは「物見の鏡」を通して、「始原」のゴーレムが破壊される映像を見せ、親族たちに注意を促した。
偽情報の警告
・ザイードはこの映像は虚偽であり、クレイス王国が仕組んだ策略の一部だと説明した。これにより、親族たちを動揺させることなく安心させようと努めた。
資産の国外移転の報告
・黒服の初老の男ワイズが、親族の一部が資産を国外に移転していることを報告し、サレンツァ家の秩序が揺らぎ始めているとザイードに伝えた。ザイードはこの報告に苛立ちつつも、親族同士の策略や猜疑心が高まっている現状を受け入れた。
ザイードの息子たちへの失望
・ザイードの息子たち、アリとニードが父に対して失態の謝罪をしたが、ザイードは彼らを無能と見做し、冷淡に応じた。彼は内心で二人の愚かさに失望しつつも、表向きは穏やかな態度を保った。
闇の協力者との密談
・ザイードは闇の協力者ルードに「忘却の迷宮」における計画の進捗を確認し、事態の迅速な解決を求めた。ルードは悠長な態度で進めていることを告げ、ザイードはその不確かさに対する不満を抑えつつ、現状では頼るしかない状況にあることを認識した。
息子ラシードへの恐怖と憎悪
・ザイードはラシードを脅威と見なし、その優秀さが商都サレンツァにおける自分の支配力を脅かしていると強い不安を抱いた。幼少期から商才を発揮したラシードは、親族たちに敵視されつつも、己の才覚で富と力を増していたため、ザイードはラシードを遠ざけてきた。
クレイス王国への不信感と戦意
・ザイードは「黒い剣」を手にした謎の護衛者の映像により、クレイス王国への不信感を深め、ラシードとの関係を持つ相手を敵視した。彼はクレイス王国の王女や護衛者たちがサレンツァ家に潜む危険と捉え、彼らが自分の支配を脅かす存在とみなした。
抵抗への決意
・ザイードは最悪の状況を理解しつつも、屈することなくサレンツァ家の権力を守り抜くと決意した。彼はクレイス王とラシードに対する戦意を燃やし、どのような手段を講じてもこの危機に立ち向かうと誓った。
172 大規模輸送キャラバン
奴隷商館の救助と回収計画
ガレンの商館での帰還と報告
・ノールたちがガレンの商館に戻ると、ラシードが出迎えた。ノールたちはラシードの指示通りに奴隷商館を巡り、負傷者や病人の応急処置を行い、食料や衣料品などを届けて状況を改善させた。
ミィナとリゲルの活躍
・荷物の運搬ではミィナがその力を発揮し、周囲の期待以上に活躍した。また、ラシードの指導を受けたリゲルも重要な役割を果たし、ノールからも感謝の言葉を受けた。
商館の権利書の取得
・ラシードからノールに奴隷商館の権利書が十四件分渡され、ノールが商館の名義人となったことが伝えられた。ラシードは相場が高騰する中での買い集めによる利益の見通しを示し、効率的に運用していく意図を説明した。
現金の増加と管理
・ラシードは「王金貨」や「白金貨」などの現金を含む収益をノールに提供し、その管理をガレンが担うこととなった。ノールは手持ち資金の増加に困惑しつつも、リゲルとラシードの提案に耳を傾けた。
リゲルの提案と「時忘れの都」への移送計画
・リゲルは奴隷商館の人々を「時忘れの都」に移送する案を提案し、大規模商隊の編成と移送の見積もりを提示した。ノールはその計画を了承し、ラシードもその実行を後押しした。
専門家の雇用と人材育成
・リゲルの計画に基づき、ノールは「時忘れの都」に送り出す人々の生活環境向上を目的とした教育や医療、料理の専門家の雇用を提案された。ノールはその案も了承し、リゲルとラシードの助言に従った。
メリッサへの通知と準備
・リゲルの計画に従い、ノールとラシードは「時忘れの都」館長のメリッサに手紙を送り、急な移送についての説明を行った。
ラシードとシャウザの評価
・ラシードはリゲルの商才と優秀さを称賛し、シャウザもミィナの働きに同意する形で評価を下した。ノールはリゲルとミィナの将来性に安心感を覚えた。
「時忘れの都」への即時移送と商館の売却計画
・翌朝、奴隷商館から「時忘れの都」への移送が予定され、さらにラシードは商館自体の売却も提案した。ノールはその提案を了承し、スピードを重視した取引の進行が決定された。
宿泊の手配と休息
・ガレンがノールたちの宿泊を最上級のスイートで準備し、ノールたちはその夜、ガレンの商館でゆったりとした休息を取ることができた。
173 多重契約者
メリッサと「時忘れの都」の新たな使命
屋上での孤独な思索
・メリッサは「時忘れの都」の屋上で一人佇み、ラシードが自分を置き去りにした理由について考え込んでいた。ラシードが自分を必要としなくなり、見限られたのではないかという疑念が胸をよぎっていた。
過去とラシードとの関係
・メリッサは元々、ラシードを暗殺するために送り込まれた暗殺者であった。幼少期の彼女は一国の貴族として暮らしていたが、家族は債務に苦しみ奴隷へと転落。暗殺者としてラシードの屋敷に潜入しようとするも、ラシードに正体を見抜かれ、逆に笑顔で家に留められることとなった。
シャウザの登場と絶対的な抑止力
・ラシードが獣人のシャウザを連れ帰ったことで、メリッサの暗殺計画は更に困難となった。瀕死の状態ながらもシャウザの圧倒的な強さと殺気に、メリッサは恐怖を抱き、彼の存在により暗殺を試みることすら躊躇わざるを得なくなった。
ゴーレムバードからの手紙
・砂漠に見えたゴーレムバードがメリッサに届き、ラシードからの簡素な手紙が送られていた。内容は商都での「ちょっとした買い物」を「時忘れの都」に送るという依頼で、さらに簡潔すぎるノールからの手紙も同封されていた。
商隊の出現と新たな使命
・メリッサは手紙の内容から、それが巨大な商隊であることを理解した。ラシードとノールの軽い文面に対して実際には膨大な人数が含まれ、「時忘れの都」にとって人口の二割に相当する規模であった。
理不尽な上司への苦悩と覚悟
・ノールの無邪気な指示に対し、メリッサはその内容の理解に苦しむも、館長としての責任を感じて準備を開始した。ラシードに見限られていないと知り安心する一方で、その信頼を裏切らぬよう受け入れ態勢を整えることを決意した。
人員の受け入れ準備
・メリッサは、館内で浮き足立つであろう人々への対処と、受け入れのための準備が急務であると認識し、即座に対応するため駆け出した。
174 顔の見えない後援者
奇跡の治療と少女の救出
命の危機にある少女
・奴隷の少女は足の傷が悪化し、治療されないまま放置されていた。自力で立ち上がれない状態になり、他の病人たちと共に暗く澱んだ部屋に押し込まれていた。そこで、死を受け入れるしかないと痛みと恐怖に苦しみながらも諦めを感じていた。
突然の治療者の登場
・そこへ年上の男が現れ、少女の足に手をかざして【ローヒール】という治療魔法を施した。少女の足はみるみる回復し、痛みも腫れも消えた。男はその後も他の病人たちに同様の治療を施し、周囲に驚きと困惑の表情が広がった。
少女の救出
・治療が終わると、少女たちは新しい衣服に着替えさせられ、温かい食事と毛布を与えられた。しかし、彼女たちはこの優遇が単に売られるための準備に過ぎないと疑い、希望を抱くことなく、ただ暗い表情で横たわっていた。
髭面の男と運搬の準備
・その夜、突然建物に多くの男たちが駆け込み、髭面の大男が「お客様のお荷物」として彼らを運び出すよう指示をした。男たちは最初は乱雑に見えたが、大男の指示を受けて次第に丁寧に人々を運び出すようになり、少女はその優しさに驚いた。
商隊による丁寧な輸送
・大男の指示のもと、丁寧に扱われた少女たちは幌付きの荷車に乗せられ、幾重にも保護された上でゆっくりと出発した。少女は運ばれていく中、見かけ上の乱暴な男たちが慎重に動き、細心の注意を払っていることに気づき、少しずつ恐怖が和らいでいった。
不安と安心の狭間で
・荷馬車の幌から外を覗くと、商隊が砂漠の奥へと長く連なっていた。この異常な状況に少女は不安を抱きつつも、良い匂いと柔らかい敷物の上で安心感を覚え、次第に眠りに落ちていった。
少女の希望への目覚めと未来への第一歩
目覚めと新たな環境への導き
・少女は獣人の少年に起こされ、荷車から降りると、周囲に天国のように整えられた美しい自然の景色が広がっていた。彼女は何が起こっているのか理解できないまま、周りに集まっていた多くの奴隷たちの中に加わり、見知らぬ女性たちに導かれる。
荷物としての受け渡し
・奴隷たちを運んだ商会の髭面の男は、館長であるメリッサという黒服の女性に書類を渡し、丁寧に仕事を完了した。髭面の男は奴隷たちの引き渡しを済ませ、引き続き営業の話を持ちかけるも、メリッサに軽く断られた後、満足げに去っていった。
新たな館長の挨拶
・館長メリッサは集まった奴隷たちに向かい、ここでの受け入れ準備が整うまで待つよう告げ、これからは「時忘れの都」で新しい生活を始めると説明した。奴隷たちはその高貴な態度に戸惑いながらも、メリッサの指示に従って受け入れの準備を始めた。
徹底した待遇と清潔さへの配慮
・職員たちは奴隷たちに飲み物を提供し、健康チェックや清潔な衣類を用意し、必要であれば医務室に案内するなどの配慮を見せた。メリッサは医療衛生部門やボディケア部門の協力のもと、彼らが適切な居住環境に移るまでの手続きを指示し、館内での整った生活を提供することを約束した。
清潔と美しさを追求した手入れ
・奴隷たちは美しく清潔な水が張られた水浴び場に案内され、花のような香りの漂う環境で丁寧に手入れを受けた。髪や体を洗ってもらい、初めて自分を綺麗に整えられた状態で大きな鏡に映し出された姿に驚いたが、次第にその環境を心地よく感じ始めた。
高級な食事と驚き
・次に通された部屋では、長いテーブルに並べられた豪華な食事が提供された。普段の生活とはかけ離れた豊かな食事を目の当たりにし、最初は戸惑っていた奴隷たちも、やがて心身ともに満たされ、笑顔で談笑するようになった。
厳格な新生活の宣言
・彼らは広い部屋に案内され、クロンという長髪の男が壇上に立ち、新しい生活が厳格な教育の下で進むことを告げた。クロンは奴隷たちが「時忘れの都」の一員として誇りを持ち、終身雇用のもとで働くことを説明し、今後の待遇や役割についても説明した。
自由な職業選択と教育の提供
・クロンの説明に続き、奴隷たちには自由に希望する職業を選び、そのための教育も無償で提供されることが発表された。奴隷たちは最初信じられない思いで聞いていたが、それぞれに職業の希望を提出する機会が与えられ、少女も自身の希望を考えることになった。
少女の決断と医師への夢
・少女はクロンの説明を受け、これまで夢見もしなかった「医師になる」という選択肢を考え始めた。彼女は自分の命を救ってくれた「医師」になりたいという希望を強く持ち、それが初めての「希望」となった。少女は他に何も望まず、ただ一つの目標を胸に、未来へ歩み出すことを決意した。
175 商都の夜
ノールの夜とラシードの告白
豪華な部屋での時間
・ノールは宿のガレンの案内で、最上階の豪華な一室に通された。そこは広々とした部屋で、商都サレンツァの景色が見渡せる特別な設計であった。ノールはその豪華な造りに感心しつつ、やることがなく暇を持て余していた。
屋上での月夜
・部屋での過ごし方に飽きたノールは、建物の屋上にある展望フロアを訪れる。そこは開放的な空間で、幻想的な月夜の景色が広がっていた。ノールは静かにその風景を楽しみながら、しばらく一人で時を過ごした。
ラシードとの再会と会話
・ラシードがノールの元を訪れ、二人は月夜を見ながら会話を交わした。ラシードは故郷サレンツァへの思いを語り、幼少期にこの街を出た理由について触れたが、詳細は語らずに謎めいた態度を見せた。
リゲルとミィナの訪問と感謝の言葉
・後からリゲルとミィナがノールのもとに訪れ、食事と宿のもてなしに感謝を述べた。リゲルは自身の名前の由来についてラシードに問われ、両親から「【星穿ち】のリゲル」の伝説を聞かされて育ったこと、名前に込められた意味について語った。
シャウザとの会話
・物陰に立っていたシャウザにラシードが問いかけ、明日の計画について確認した。ラシードはシャウザに「千載一遇のチャンス」について暗に話を持ちかけたが、シャウザは自分の立場について迷っている様子を見せ、思い悩みながらその場を去った。
ラシードとの別れ
・ラシードはノールに翌朝の予定について軽く話した後、翌日に備えるために休むことを告げ、手を振って屋上から立ち去った。ノールもその後、静かな夜空を見上げながら、ゆっくりと眠りにつく準備をした。
176 宿の朝
ノールとラシードの朝の会話と出発準備
朝のロビーでの出会い
・ノールは早朝、宿のロビーに到着し、紙の束を持ち上機嫌でいるラシードと出会った。ラシードは、昨日買い取った奴隷商館が高額で売却され、利益が出たことを報告した。ノールは資金が増えすぎることに戸惑いながらも、ラシードから魔法の財布「山込めの財布」を受け取る。
「山込めの財布」の説明と扱い方
・ラシードはこの魔法の財布が、多くの荷物を収容できる特殊なアイテムであると説明し、ノールに取り扱いの注意を促した。誤って手を入れると取り出せなくなる可能性があるため、細心の注意が必要であると知り、ノールは財布の扱いに気を付けることを決意した。
リゲルの報告と出発準備
・リゲルからの報告により、奴隷商館の受領が無事に完了し、メリッサからの通知も届いたことが確認された。ノールは、リゲルとミィナが安全に『時忘れの都』に向かえるよう業者に依頼しており、準備が整ったことに安堵する。
仲間との集合と朝食の準備
・ノールはロビーでリーン、イネス、ロロ、シレーヌ、そして大きな荷物を背負ったミィナと合流する。ミィナは宿で多くの朝食をお弁当として包んでもらい、『時忘れの都』の知人にも分け与えたいという善意で荷物を持ってきた。彼女の元気な姿にノールは安心し、仲間たちと共に出発準備が整ったことを確認した。
リゲルとミィナへの別れの言葉
・ノールはリゲルとミィナに別れを告げ、彼らが『時忘れの都』への道中で安全に過ごせるよう見送った。リゲルは頼りになる存在で、さらにミィナも護身用の短刀を携帯しており、二人の安全が確保されたことに安堵する。
宿とガレンへの感謝
・ノールは宿のスタッフとガレンに感謝し、機会があればまた訪れることを誓いながら宿を後にし、商都サレンツァの中心地に向かって歩みを進めた。
177 ザイードの屋敷
首都の宮殿への訪問
巨大な宮殿への到着と内部の壮麗さ
・ノール一行は、豊かな緑と川に囲まれた広大な宮殿に到着した。目の前に広がる純白の巨大な建物に圧倒され、中に入ると白を基調とした広い廊下や天井の細密画がさらに驚きを与えた。ノールはまるで巨人の宮殿に迷い込んだような気分に浸り、宮殿の壮麗さに見惚れながら進んでいった。
案内人ワイズとの会話
・案内役の初老の男性ワイズが現れ、ラシードと旧知の間柄であることが判明した。彼はラシードの幼少期からの教育係であり、二人は互いに懐かしげに言葉を交わしたが、ラシードの母親が毒殺された過去に触れた際、場の空気に一瞬緊張が走った。
当主ザイードとの対面
・一行は金色の装飾が施された門を通り、サレンツァ家当主ザイードと対面した。ザイードは彼らを丁重に迎え、ラシードに対して親としての挨拶を交わした。彼とラシードの間には見えない火花が散り、穏やかに言葉を交わしつつも、緊張感のある親子関係が伺えた。
ザイードによるノールへの評価
・ザイードはノールの武勇と経営者としての資質を称賛し、「時忘れの都」を託すにふさわしい人物であることを認めた。これにより、ノールは正式に「時忘れの都」の経営権を引き継ぐこととなり、特に試験や形式的な面接も不要であると告げられた。
リーンの「レピ族」に関する質問
・リーンは、父から託された「レピ族」の情報についてザイードに質問し、ザイードは大陸中から集められた珍品や魔族を出品するオークションが近々開催されると説明した。リーンはオークションに興味を示し、ロロの仲間がそこにいる可能性を考え、ノールと共に参加を決意した。
オークションの参加者証とザイードの外交的意図
・ワイズはリーンにオークションの参加者証を手渡し、ザイードはクレイス王国との友好関係を築きたいと表明した。リーンもこれに応じ、和解への意思を示した。ザイードはまた「忘却の迷宮」の見学を後日に提案し、リーンはその配慮に礼を述べた。
ラシードとザイードの別れ
・ラシードはザイードに別れを告げ、欲深い弟たちへの言伝を頼みつつ、その場を後にした。
178 オークション会場へ 1
広大な庭園からオークション会場への道
庭園を歩きながらの会話
・ザイードの屋敷を出て、ノール一行は初老の案内人ワイズに伴われて手入れの行き届いた広大な庭園を歩いた。ノールが見事な庭園に感心する中、ラシードとシャウザは物騒な冗談を交わし合った。ラシードは親父であるザイードに対する計画をほのめかし、シャウザに対し挑発するような言葉を投げかけたが、これはあくまで軽口であり、ワイズも冷静に応じていた。
巨大なオークション会場の出現
・広大な庭園を抜けると、オークションの会場となる巨大な建物が視界に入った。まるで神殿のようなその建造物はサレンツァ家の財力と技術力を誇示するものであった。ラシードは、建物の立派さに関して、サレンツァ家が無駄に金をかけていると皮肉を言ったが、ノールもまたその建築技術の高さに感心した。
怪しげな人物たちとの遭遇
入り口での騒動
・一行が会場のエントランスに差し掛かると、入口でローブ姿の二人組が門番と揉めている様子が見えた。門番は予約が必要だと伝え、二人組に対して入場を拒んでいた。女性がしつこく懇願するものの、門番は頑として入場を認めず、身分証や資産証明を求める対応を続けた。
二人組の正体
・ローブ姿の二人は、ティレンスという青年と、アスティラという女性であった。彼らはお忍びの立場であると話しており、門番に怪しまれる一方、ノールとリーンは彼らの声に聞き覚えがあることに気付いた。リーンが彼らをミスラ教徒のローブから識別し声をかけると、アスティラがノールに気づき、驚いて顔を見合わせた。
179 オークション会場へ 2
アスティラとティレンスの商都での情報収集
レピ族の情報探索
・神聖ミスラ教国の教皇アスティラとその息子ティレンスは、商都サレンツァで「レピ族」の情報を探し求めていた。二人は周囲に身分を隠しながら、人々の会話や状況に耳を傾け、情報収集に努めていた。しかし、特に有益な情報は得られず、徐々に焦燥感を抱き始めていた。
クレイス王国からの協力
・アスティラとティレンスは、隣国であるクレイス王国の協力によって情報を得たことに感謝していた。クレイス王から提供された情報により、レピ族が商都の近隣に存在する可能性が示唆されていた。このため、二人は引き続き聞き込みを続ける価値があると判断した。
サレンツァ家のオークションと魔族の出品
街中での盗み聞き
・二人が奴隷商館付近を通りかかった際、建物の地下で働く者たちの会話が彼らの耳に届いた。その会話から、サレンツァ家が主催するオークションで「魔族」が出品されるという情報がもたらされた。この情報を聞いたアスティラとティレンスは、これは探していた「レピ族」に関連する可能性があると考えた。
オークションへの参加方法についての議論
・オークション会場への正式な入場には厳重な審査と参加者証が必要であり、時間的にも手続きが間に合わないことが判明した。しかし、アスティラは即座に決断し、手段を選ばず【浮遊】の魔法で無断侵入を試みる意志を示した。
サレンツァ家への無断侵入
魔法による侵入
・アスティラとティレンスは浮遊魔法を用いてサレンツァ家の敷地内に無断で侵入する決意を固めた。警備に見つからないよう、さらに【隠蔽】の魔法も併用し、音と光を遮断して身を隠しながら空高く飛び上がった。ティレンスが過去の経験から会場の位置を知っていたため、彼が先導し、二人は慎重に会場に向かって移動した。
オークション会場への到着
・こうして二人は神殿のようなオークション会場に到達し、正規の来客を装いながら門番に近づき、目的の会場に入ろうと試みた。
180 オークション会場へ 3
アスティラとティレンスのサレンツァ家オークション会場訪問
門番との対峙
・アスティラとティレンスはサレンツァ家のオークション会場の門番に入場を拒まれていた。参加証も資産証明も提示できなかったためである。その際、サレンツァ家の家臣ワイズが現れ、状況を確認し、アスティラとティレンスの身分を門番に説明した。
アスティラとティレンスの身分確認
・ワイズはアスティラが神聖ミスラ教国の教皇であり、ティレンスがその皇子であることを明かし、二人が最上級の貴賓として扱われるべき存在であると門番に説明した。この情報により、門番は青ざめ、失礼を詫びた。
入国の意図についての問答
・ワイズはアスティラとティレンスがサレンツァ家に事前連絡なしで来訪した理由を尋ねた。ティレンスは、母子での休暇の一環であると説明し、偶然「レピ族」が出品される噂を耳にしたため、急遽オークションに参加することにしたと答えた。ワイズは驚きつつも二人の参加を認めた。
財産証明に関するやり取り
・ティレンスは資産の持参が少ないことに触れたが、ワイズは問題ないと応えた。アスティラの信用と地位が十分な担保となるため、後日支払えばよいと説明した。
ワイズとアスティラの微妙な会話
・ワイズはアスティラの以前の冷たい印象の教皇との違いを感じ取り、彼女が別人かのように感じるとほのめかした。ティレンスは、公務中と休暇中で雰囲気が異なるだけだと説明し、ワイズは納得した様子を見せたが、内心で疑念を残した。
ラシードとの再会
・ティレンスはラシードに再会し、丁寧に挨拶を交わした。二人は互いに礼儀正しい態度を保ちながらも、どこか腹の探り合いをしているような空気を漂わせていた。ティレンスがリーンにも軽く視線を送り、リーンは少し緊張した様子を見せた。
ワイズの退場
・ワイズはアスティラにザイードへの伝言を約束し、貴族らしい挨拶をして場を去った。残されたアスティラたちは、いよいよオークション会場の内部へ案内されることになった。
181 虚栄の鍵
ザイードの危機と「栄光の鍵」への執着
クレイス王国からの来客後の動揺
・ザイードは「物見の鏡」で男が「始原」のゴーレムを屠る映像を見つめ、恐怖に苛まれていた。彼はこの男が自分の支配権を脅かす存在であると感じ、その恐怖から平常心を失っていた。
ミスラ教国の教皇アスティラの訪問
・腹心の報告で、アスティラとティレンスが無断でサレンツァ家の敷地に入っていると知り、ザイードは苛立った。教皇の突然の心変わりに不信を抱き、彼らの意図に疑念を抱いていた。
サレンツァ家内部の動揺と準備
・ザイードは親族たちがオークションへの出席を避けていることに失望し、不在者リストを控えるよう命じた。また、邸宅の防衛のため、ゴーレム兵の配置を再確認した。
長耳族の協力と「栄光の鍵」の授与
・ザイードは長耳族の協力者であるローブの男ルードから「栄光の鍵」を受け取った。「栄光の鍵」は、「忘却の迷宮」の力を引き出し持ち主に大いなる力を与えるとされる遺物であった。
ルードの裏切りとザイードの制裁
・ルードはザイードに「栄光の鍵」を手渡しつつも、その本質は罠であることを心の中で嘲笑っていた。ルードは突然ザイードを顔面から掴み上げ、その頭を握り潰そうとする。ルードはザイードに苦痛を与えながらも、すぐには命を絶たせず、必要な役目を果たさせるため顔をゆっくりと再生させた。
「黒い剣」への執着と計画の進行
・ルードは「物見の鏡」に映る「黒い剣」を持つ男の映像を見つめ、この剣が自らの使命を果たすために必要なものであると決意を新たにした。「黒い剣」を得ることが、長耳族が二万年にわたる歴史を清算するための鍵であると述べた。
罠の「栄光の鍵」の象徴
・ルードは「栄光の鍵」をザイードの手に再び握らせ、サレンツァ家が虚偽の栄光と欲望に満ちた道を辿ることを嘲笑った。その後、自らの痕跡を抹消し、静かにザイードの屋敷を後にした。
182 貴重品の盗難 1
黒い剣の喪失とザドゥの策略
神殿の内部での移動と会話
・ノールたちは門番に案内され、広大な神殿内を進んでいた。門番はアスティラの思いがけない来訪を謝罪し、アスティラも快くそれを許していた。アスティラの振る舞いにより、門番は次第に緊張を解いて感激し、アスティラに記念のサインをお願いするなど和やかな雰囲気となった。
オークションに関する議論
・ノールはオークションの内容についてリーンから説明を受けた。オークション形式において一番高い金額を提示した者が落札する仕組みだが、リーンは特に奴隷の売買には抵抗を示していた。ラシードはそれを揶揄しつつも、どこか嬉しそうにリーンと会話を交わし、ノールが参加する意義について軽く皮肉を交えて話していた。
ラシードの弟たちとの再会
・途中でラシードの弟たちが現れ、彼を挑発しながらもノールを見た途端に恐れ、逃げ去ってしまった。ラシードはこれを他人事のように笑いながら、注目を集めたことを軽く流し、先を急ぐよう促した。
オークション会場での「黒い剣」預けの場面
・オークション会場の手前で、ノールは警備のため「黒い剣」を預けるよう求められる。ノールはためらいつつも、規則に従い男に剣を渡すことにした。しかし、その男が剣を持ち去ろうとする様子に異変を感じたロロがノールに警告を発し、リーンが【隠蔽除去】を唱えると、男の正体がザドゥであることが判明した。
ザドゥの逃走
・ザドゥは「黒い剣」を手にすると、依頼でこの行為をしていると告げ、風を巻き起こして人々を吹き飛ばし、姿を消した。ノールはオークションをリーンに任せ、ザドゥを追いかけて剣を取り返す決意を固めた。
183 貴重品の盗難 2
黒い剣の奪還とザドゥとの追走劇
逃走者を追跡するノール
・ノールは「黒い剣」を持ち去ったザドゥの気配を追い、広い敷地を駆け抜けた。痕跡を辿りながら走るうちに、ザドゥの背中が視界に入る。ノールは素早く【筋力強化】と【しのびあし】を使用し、追いついた。
戦闘の開始と応戦
・ノールはザドゥに剣の返還を要求するも拒否され、ザドゥは【錬金術】で生み出した銀色の刃を使ってノールに攻撃を仕掛けた。ノールは腕でその刃を弾き、続く【召雷】や【氷雪花】といった魔法攻撃も巧みに防御。ノールは過去の戦闘経験を活かし、冷静に対処した。
灼熱の壁を突き抜ける覚悟
・ザドゥが放った【灼熱華】で道を遮られるが、ノールは火傷を顧みず突き進み、再びザドゥに追いついた。ノールは「黒い剣」を人からもらった大切なものとし、その返還を強く望んでいたが、ザドゥは応じる気配を見せなかった。
街中での追走とザドゥの挑発
・ザドゥは街の屋根や狭い路地を使って逃走を続け、ノールもそれに必死で追従した。ザドゥは、ノールの持つ治癒魔術や戦い方を「イカれている」と嘲りながらも、次第にノールの執念深さに困惑を見せた。
逃走者の非道な行動と市民の救助
・ザドゥは戦いを優位に進めるため、塔を斬り落とし、瓦礫が市民に降り注ぐように仕向けた。ノールは【パリイ】で瓦礫を弾き、市民を守ることに専念したが、ザドゥは再び塔を崩壊させ、銀の刃を多数発生させて街の人々を襲撃した。
ザドゥの逃走と黒い剣の喪失
・ザドゥは銀の刃で市民を狙いながら姿を消し、ノールは市民を守るために全力で刃を弾き飛ばした。しかし、その間にザドゥは完全に姿を消し、ノールは「黒い剣」を取り戻すことができなかった。
184 リミテッド・オークション
オークションと不穏な空気
不在のノールと失われた資金
・リンネブルグ王女とその一行は、ノールの「黒い剣」がザドゥに盗まれた後、オークション会場に到着した。オークションの資金も同時に奪われてしまったが、アスティラが資金を貸すことを申し出た。リンネブルグはノールの行動に隠された意図があると信じ、納得して受け入れた。
オークション会場に漂う異様な雰囲気
・オークション会場は劇場のような小さな空間で、観客席の周りには護衛用のゴーレムが潜伏していた。ティレンスと王女は、この状況が歓迎されていないことを察しつつも、挑発には動じなかった。
競売の開始と偽りの熱気
最初の出品物
・オークションが始まり、最初に「大聖女の泪」が出品される。参加者たちは熱心に入札を行うが、リンネブルグ王女は興味を示さず冷静に見守っていた。
魔族の子供たちの出品
・最も注目を集めた出品物は、魔族の子供たちであった。司会者の命令で虚ろな表情の子供たちが踊らされる様子を見たリンネブルグ一行は、怒りと悲しみに包まれた。
リーンの決断と反撃
炎の柱とリーンの宣言
・王女はオークション資金が不要だと判断し、【滅殺獄炎】で参加者証を燃やしてオークションを無効化した。ノールが資金を渡さなかったのは、この場を任せる意図があったのだと理解したリーンは、怒りを露わにして行動を起こした。
アスティラの支援とゴーレムの出現
・アスティラもリーンの決断に賛同し、会場中の参加者証を奪い去った。これに対抗するため、会場に潜伏していた多数のゴーレムが現れたが、アスティラは落ち着いて対応する準備を整えた。
脅迫と兄弟の対峙
ラシードの弟たちの登場
・司会の女性が消え、代わりにラシードの弟たちが登場し、魔族の子供たちを盾に取って脅迫を試みる。弟たちは自分たちの計画が成功していると確信し、ラシードとリンネブルグに勝利を宣言した。
リーンの冷静な対処と圧倒的な実力
・弟たちの脅迫に動じず、リーンは細身の剣でゴーレムを一掃した。リーンの指示で、ロロも魔族の子供たちに付けられていた魔導具を安全に取り外し、子供たちを救出することに成功した。
敵の完全な敗北と氷結の支配
リーンの冷酷な一手
・リーンは【氷地獄】で敵を氷結させ、彼らの動きを完全に封じた。弟たちは恐怖に震えながらも、リーンの穏やかな微笑みと冷徹な態度に屈服し、全ての行動を封じられた。
185 旧人類の遺産
黒い剣とエルフの依頼
不自然な空間と黒い剣の受け渡し
・黒いローブの男ルードは、漆黒の壁に囲まれた奇妙な空間に佇んでいた。そこへ、ザドゥが現れ、ルードの依頼で手に入れた黒い剣を無造作に放り投げた。剣が床に触れると異質な轟音が響き、石畳に亀裂が走った。
旧文明の遺産としての黒い剣
・ルードはザドゥに、この黒い剣が旧人類文明が生み出した「理念物質」であり、他者の影響を拒絶する異質な存在だと説明した。さらに、旧世界の人類が神々を討つために創り出した唯一無二の遺産であり、その意義を知る者だけが扱うべきだと語った。
街の破壊と新たな依頼
・ルードは、剣を持って街を離れる予定であり、間もなく街は周辺の国家ごと砂粒となって消える運命にあると告げた。そしてザドゥに、剣の前の持ち主を抹殺するよう依頼し、報酬として高額の金を提供することを約束した。
ザドゥの迷いと決意
・ザドゥは一度、街の裕福な者から小遣いを強請ることも考えたが、すぐに冷め、依頼以外には手を出さないと決意した。愉しげに笑いながら、ルードと同様に黒い壁の波紋の中へと消えていった。
【双子と老婆】
リゲルとミィナの別れと決意
出発前の寄り道
・リゲルとミィナは主人ノールと別れ、『時忘れの都』に向かう準備を整えていた。出発前に寄りたい場所があるとリゲルが提案し、二人はガレンの奴隷商館を訪れた。
商館前での小競り合い
・商館前で、ミィナはかつて自分を虐待していた男たちと再会した。彼らはミィナを侮り、攫って売ろうと目論んでいたが、ミィナは教えられた通りに短刀を構え、彼らの服を斬り裂いて威圧した。
老婆からの助言
・ガレンの商館の受付の老婆は、怯えるミィナを叱咤し、男たちに怯まず反撃するように促した。老婆の言葉を受け、ミィナは男たちに「おとといきやがれ」と告げ、彼らを退散させた。
感謝の別れ
・リゲルは、ミィナと共に今まで世話になった老婆に感謝の意を伝えた。リゲルは、自分たちを庇い続けてくれたことへの感謝を述べ、最後に礼を言って商館を去った。
老婆の決意
・リゲルとミィナの姿が見えなくなった後、老婆は売り物に情が移ったことを自嘲しつつ、商売から足を洗う決意を固めた。
『時忘れの都』の休憩室
クロンと幹部たちの休憩時間のひととき
クロンの仕事への没頭
・『時忘れの都』の幹部クロンは、応接室を改装した休憩室で、大量の書類と向き合いながら険しい表情で作業を続けていた。本来ならば彼には休憩時間が与えられていたが、仕事に没頭するあまり、休むことなく作業を続けていた。
ザザとリーアの助言
・同僚のザザとリーアが休憩室に入ってきたが、休憩も取らずに作業を続けるクロンの姿を見て、彼に休憩を促した。ザザはお茶を淹れ、リーアはお茶の香りや茶器の質の高さを称賛しながら、クロンに砂糖入りの紅茶を差し出した。
ノールへの感謝とクロンの反省
・ザザとリーアはノールへの感謝を語りつつも、クロンがかつてノールに対して持っていた偏見についてからかい、クロンは自分の見る目のなさを反省していると告白した。
クロンと同僚たちの過去
・クロンが過去に地下賭博場で荒事を行っていたことを明かし、ザザやリーアも自身の過去について少し触れた。彼らはそれぞれ暗い過去を持っているが、『時忘れの都』で働くことへの感謝を共有し、職場への忠誠心を強めていた。
メリッサ館長への言及
・ザザとリーアは、前オーナーのラシードが『時忘れの都』をノールに譲った際に、メリッサ館長が引き続き管理役を担うことに驚きを示したが、クロンには理解されなかった。二人は冗談めかしてクロンの鈍感さを指摘しながらも、真意を明かすことは避けた。
メリッサ館長の登場と指示
・その時、話題に上がっていたメリッサ館長が休憩室に現れ、ザザとリーアに急ぎの用事を頼み、クロンには体調管理の重要性を強調して休憩を取るよう促した。
クロンの疑念と再びの仕事
・同僚たちのからかいと館長の登場で混乱したクロンは、休憩時間の終わりを時計で確認し、作業を再開するために部屋を後にした。
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