どんな本?
『ソードアート・オンライン プログレッシブ9』は、VRMMORPG「ソードアート・オンライン」を舞台にしたライトノベルシリーズの第9巻である。本作では、第七層フロアボス戦後、吸血鬼の眷属《夜の民》へと変貌したキリトが、アスナ、キズメルとともにエルフ戦争のキーアイテム《五つの秘鍵》を奪ったフォールン・エルフを追跡する。彼らが辿り着いたのは、かつて攻略した第四層であり、先代ビャクダン騎士団長ラーヴィクの依頼を受け、エルフたちの過去の因縁にまつわる予想外の事態に巻き込まれていく。
主要キャラクター
• キリト:主人公。第七層フロアボス戦を経て、《夜の民》――吸血鬼の眷属へと変貌し、強大な力と《日光》という致命的な弱点を持つ。
• アスナ:キリトの仲間であり、共にエルフ戦争のキーアイテム《五つの秘鍵》を奪ったフォールン・エルフの追跡に赴く。
• キズメル:エルフのNPCで、キリトとアスナの友人。共に冒険を続ける。
• ラーヴィク:先代ビャクダン騎士団長。キリトたちに依頼を持ちかけ、エルフたちの過去の因縁に関わる。
物語の特徴
本作の特徴は、キリトが吸血鬼の眷属となり、強大な力と《日光》という致命的な弱点を持つことにある。また、エルフたちの過去の因縁に迫るストーリー展開や、再訪する第四層での新たな冒険が、読者に新鮮な驚きと興味を提供する。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2025年3月7日
• 判型:文庫判/280ページ
• 定価:748円(本体680円+税)
• ISBN:978-4-04-916182-3
読んだ本のタイトル
ソードアート・オンライン プログレッシブ 9
著者:河原礫 氏
イラスト:abec 氏
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あらすじ・内容
吸血鬼と化したキリトの第八層攻略、開幕――!
第七層フロアボス戦を経て、《夜の民》――吸血鬼の眷属へと変貌してしまったキリト。強大な力とともに、《日光》という致命的な弱点を与えられたキリトは、アスナ、キズメルとともにエルフ戦争のキーアイテム、《五つの秘鍵》を奪ったフォールン・エルフの追跡へと赴く。
しかし、キリトたちが辿り着いた先は意外にも、かつて攻略した第四層だった。
「一つ、頼まれてくれないか」
先代ビャクダン騎士団長ラーヴィクの依頼をきっかけに、一行はエルフたちの過去の因縁にまつわる、予想だにしない事態へと巻き込まれていく。
もはや彼らはただのAIではない――!
牙の異変と吸血鬼化の影響
キリトは、自身の牙が伸びたことに気付き、違和感を抱いていた。仮想世界の肉体に感覚はないはずだったが、舌で確認せずにはいられなかった。アスナに指摘されるも、深く考えようとはしなかった。第七層カジノ都市ウォルプータでの滞在を終え、キズメルとともに出発したが、彼の体には確実に変化が生じていた。吸血鬼化したことで、日光に弱くなり、定期的に血を摂取しなければならなくなった。対策として竜の血を用いたポーションを入手したが、根本的な問題は解決していなかった。
迷宮区探索と新たな敵の出現
旅を続ける中で、キリトたちは第七層の迷宮区へと足を踏み入れた。内部は異様な冷気に包まれ、火竜アギエラ討伐の影響と推測された。そんな中、ヨロイトカゲとの戦闘が発生する。キリトは新たに手に入れた剣《ドールフル・ノクターン》の力を解放し、一撃で敵を撃破。アスナとキズメルも手際よく動き、瞬く間に戦闘を終えた。しかし、フォールン・エルフの脅威が迫っていることは明白であり、油断は許されなかった。
隠し部屋と転移装置の謎
探索を進める中、キリトたちは隠し扉を発見した。鍵として使用したのは、フォールン・エルフから奪ったレアアイテム《スパイン・オブ・シュマルゴア》。仕掛けを解除し、内部へ踏み込むと、そこには《古代の転移装置》が設置されていた。クエストログの更新により、秘鍵が持ち去られた証拠が確認されたが、転送先は不明。安全性が保証されない中、キズメルは単独での移動を提案したが、キリトとアスナはそれを拒否し、共に進むことを選んだ。
予想外の転送と四層迷宮区への移動
転移装置を作動させた結果、キリトたちは第七層ではなく第四層へと飛ばされた。状況を整理しながら、目的地をヨフェル城に定めた。黒エルフの拠点であるこの城を目指し、迷宮区を脱出することを決意した。移動を進める中、キリトは異変を察知し、慎重に行動した。湿った空気に混じる人工的な匂いから、何者かが近くにいると確信したのである。
ラーヴィクとの再会
安地部屋に近づくと、中から焚き火の光が漏れていた。焚き火の前にいたのは、かつて七層で出会った黒エルフの元騎士団長ラーヴィクであった。キズメルは彼の存在にすぐ気付き、再会を喜んだ。ラーヴィクはフリカテルを焼いていたが、それを食べ尽くしてしまい、キリトは落胆する。彼との会話の中で、過去の因縁が明らかになりつつあった。
湖の移動とケルピーの登場
ヨフェル城への移動手段を考えていたキリトたちは、湖を渡る方法として《ケルピー》を利用する可能性を模索した。キズメルは幼少期に青い馬を目撃した話を語り、湖に棲む伝説の存在について触れた。キリトとアスナは湖へ向かい、ケルピーの召喚を試みた。現れたケルピーは、青みがかった巨大な馬であり、慎重に接触を試みると、使役が成功した。
ヨフィリス子爵との対話と決闘の約束
ケルピーを利用し、ヨフィリス子爵と対面したキリトたちは、過去の因縁について語られた。子爵の父が水霊を殺害したことで呪われ、悲劇的な最期を迎えたことが明かされた。そして、ラーヴィクとの因縁が浮き彫りとなり、決闘の約束が交わされた。
迷宮区での戦闘とカイサラとの再会
キリトは四層迷宮区を駆け上がり、隠し部屋へ向かう途中でフォールン・エルフの副将カイサラと遭遇した。彼女との戦闘が始まり、一撃を放つも防がれ、形勢は拮抗した。カイサラはキリトが吸血鬼であることに気付き、一度は見逃すと宣言したが、最後にイクチオイドの芋を置いていくよう要求した。
アスナへの警告とクラインとの再会
キリトはアスナへ警告を送ろうとしたが、フレンド登録をしていなかったため、直接メッセージを送ることができなかった。そのため、五層の主街区カルルインへ向かい、転移門を利用することを決断。転移門広場を抜け、八層へ移動し、アルゴとの待ち合わせ場所である「団栗屋」へ向かった。店内で待っていたのは、久しぶりに再会するクラインだった。
感想
キリト、ついに従魔を手に入れる。無愛想な性格だが、それがまた魅力的である。
プログレッシブでようやくクラインが登場し、懐かしさが込み上げた。
キリトが夜の民になったにもかかわらず、あまり深刻に考えていないのが不思議である。
カイサラとの戦闘は緊張感があり、次回の対決が楽しみであった。
ヨフィリス子爵の過去の話が印象的であり、NPCが単なるプログラムではないことを改めて感じた。
これは本当に茅場の仕業なんだろうか?
キリトの行動に時折抜けがあるが、それが彼の人間らしさを表しているとも言える。
迷宮区の探索要素が強く、冒険の醍醐味を存分に味わえる展開だった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
青来た水月のノークタン(上)
アインクラッド 第七層
1
牙の異変とアスナの指摘
キリトは、自らの犬歯が伸びたことを違和感として感じていた。仮想体の歯に感覚はないはずだったが、舌で押したり軽く噛んだりしないと落ち着かなかった。アスナに指摘されながらも、牙の存在を意識せざるを得なかった。
ウォルプータからの旅立ち
キリト、アスナ、キズメルは、第七層カジノ都市ウォルプータを出発した。滞在は四日にも満たなかったが、多くの思い出を刻んでいた。カジノを支配するニルーニルは、キリトたちを厚遇し、滞在を続けるよう勧めた。しかし、彼らは攻略を優先し、新たな旅に出ることを選んだ。
吸血鬼としての変化
キリトは、吸血鬼であるニルーニルに血を与えたことで《夜の民》となった。この変化はベータテスト時には存在せず、正式サービスから追加された要素であった。吸血鬼としての特性は《銀に弱い》《老化しない》《定期的に血を飲まないと衰弱する》《日光を浴びると即死する》などがあった。ニルーニルの協力で、竜の血を使用したポーションを手に入れたことで、しばらくは生存に問題はなかったが、日光への弱点は深刻であった。
新たな装備とその特性
キリトは、ウォルプータで手に入れた伝説級の長剣《ドールフル・ノクターン》を装備していた。この剣は、通常の人間が使用すると経験値を奪い続けるが、吸血鬼にはそのデメリットがなかった。さらに、強力な光刃を放つ能力を持っていたが、意図せず発動することがあり、扱いには慎重さが求められた。
迷宮区の探索と仲間たちの絆
ウォルプータを出発後、キリトたちは七層迷宮区を進み、安地部屋へ到達した。長時間の移動の疲れから、アスナはキリトの肩にもたれ眠っていた。キズメルは偵察を行い、敵の動きを確認した。彼女の報告によると、隠し部屋の扉は開閉しておらず、フォールン・エルフが秘鍵を奪った可能性が高かった。
ディアベルへの想い
キリトは、かつての仲間ディアベルのことをキズメルに語った。彼は第一層で戦い、命を落としたが、攻略集団をまとめ上げた重要な人物であった。キズメルは彼の魂が安らぐよう祈りを捧げた。
旅立ちの決意
キズメルは、仲間を危険に巻き込まぬよう単独行動を提案したが、アスナとキリトはこれを拒否し、共に進むことを誓った。彼らは終生の友として、互いを支えながら旅を続けることを決意した。そして、次なる目的地へと向かうため、再び歩みを進めた。
2
迷宮区の冷気と危険な敵
キリトたちは安地部屋を出ると、冷たい空気を感じた。第七層は常夏のフロアであったが、迷宮区内は火竜アギエラ討伐の影響か、温度が下がっていた。ボスを倒しても雑魚モンスターは依然として出現し、特にフォールン・エルフとの遭遇は避けるべき脅威であった。キズメルの偵察により周囲に敵の気配がないことを確認すると、キリトを先頭に慎重に通路を進んだ。
ヨロイトカゲとの戦闘
途中、七層で最強クラスの雑魚モンスターであるヨロイトカゲと遭遇した。キリトが先制攻撃としてドールフル・ノクターンの光刃を放つと、一匹を即死させ、残りの二匹も動きを封じた。アスナとキズメルが手際よく弱点を攻め、迅速に撃破した。圧倒的な勝利ではあったが、欲張らず慎重に進むべきだと判断し、彼らは目的地へと向かった。
隠し扉の前での準備
袋小路の突端に到着すると、石壁に隠し扉があることを確認した。ニルーニルが待機させた黒蜘蛛がまだ動いておらず、扉の向こうに敵がいない可能性が高いことを示していた。キズメルは左に、キリトとアスナは右側に隠れ、慎重に扉を開ける準備を整えた。キリトはフォールン・エルフから奪ったレアアイテム《スパイン・オブ・シュマルゴア》を鍵として使用し、扉の仕掛けを解除した。
転移装置の発見と決断
隠し部屋の内部には《古代の転移装置》が設置されていた。装置の詳細は不明だったが、フォールン・エルフが秘鍵を奪った際に使用したことはクエストログの更新により確実であった。転送先の安全性が不明なため、キズメルは単独での移動を提案したが、キリトとアスナはそれを拒否し、三人で行動することを決めた。
予想外の転送先
転移装置を作動させた結果、キリトたちは第七層ではなく、思いもよらぬ第四層の迷宮区へと転送された。部屋の構造は転送前と酷似していたが、マップを確認すると、彼らは四層の迷宮区タワー内部にいることが判明した。予想外の移動に驚きつつも、状況を整理し、脱出の方法を考えた。
目的地の決定
キリトたちは夜明けまでの時間を考慮し、安全な避難先を探すことにした。当初、四層の主街区ロービアやウスコの村を目指す案も出たが、移動手段や時間の制約から適切ではなかった。そこでキズメルが黒エルフの城塞ヨフェル城への移動を提案し、最終的にそこを目指すこととなった。彼らは迷宮区の階段を下り、一時間以内に塔を脱出し、三十分でヨフェル城へ到達することを目標に掲げ、出発した。
3
隠し扉の解除と四層迷宮区への移動
キリトたちは、隠し扉の鍵穴をすぐに見つけ、《スパイン・オブ・シュマルゴア》を差し込んで開閉装置を作動させた。石壁の一部が床へ沈み込む仕組みは、七層迷宮区の隠し部屋と同じであった。扉が閉まる前に三人は迅速に外へ出て、周囲の様子を確認した。四層迷宮区の石壁は特徴的な質感を持ち、現在ここにプレイヤーがいる可能性は低かったが、フォールン・エルフが転移装置を利用しているかもしれないため、警戒を怠らず進んだ。
迷宮区の移動と異変の察知
彼らは迅速に移動し、予定どおり一つの階を三分程度で突破しながら十階に到達した。そこで安地部屋での短い休憩を取ることを決め、マップを確認しながら最短ルートを進んでいた。 しかし、角を曲がる直前、キリトは異変を察知し、二人に停止の合図を送った。四層の迷宮区には湿った空気が漂っていたが、それに混じる人工的な香りに気づいたのである。それはまるで肉を焼く香ばしい匂いであった。
安地部屋の調査と不審な人物の発見
彼らは慎重に安地部屋へ近づき、室内を遠くから確認することにした。部屋から淡いオレンジの光が漏れ、低い位置に火が灯っていることがわかった。迷宮区内の安地部屋には焚き火は存在しないため、誰かが中で火を熾しているのは確実であった。慎重に室内を覗こうとした瞬間、中から男の声が響き、彼らが隠れていることを指摘された。驚いたキリトたちは、警戒しながら安地部屋へ足を踏み入れた。
ラーヴィクとの再会
そこには、小さな焚き火の上でフライパンを使い、肉を焼いている黒エルフの男がいた。顔は陰に隠れていたが、キズメルは彼の正体を即座に見抜いた。彼は、かつて七層のハリン樹宮で出会った黒エルフの囚人であり、先代のビャクダン騎士団長ラーヴィク・フェン・コルタシオスであった。キズメルの声に反応し、男は悠然と視線を向けてきた。
謎めいた再会とフリカテル
キリトたちは焚き火の周囲に腰を下ろし、ラーヴィクと再会の挨拶を交わした。彼は以前と変わらぬ威厳を漂わせつつも、なぜかフライパンでフリカテル──すなわちハンバーグを焼いていた。キリトは、この料理が六層のガレ城で出会ったブーフルーム老人の得意料理であることに気づき、ラーヴィクに尋ねた。彼もまた、同じ試練を受けたことがあると認め、キリトが試練を合格したことを知ると、フリカテルを食べる資格があると告げた。しかし、彼はその直後に自らそれを食べ尽くし、キリトは落胆した。
急ぎの出発とラーヴィクの同行
キズメルが現状を説明し、彼らが秘鍵を追跡しており、夜明け前にヨフェル城へ到着しなければならないことを伝えた。ラーヴィクは、そんな重要なことを早く言わなかったことを咎め、すぐに出発するよう促した。そして、自らも同行することを申し出た。キリトたちは彼の申し出を受け入れ、四層迷宮区を脱出するべく移動を開始した。
ラーヴィクの戦闘技術と迷宮区の突破
迷宮区内の戦闘では、ラーヴィクの剣技が際立っていた。彼の戦闘スタイルはキズメルの流麗な剣さばきとは異なり、一撃の威力を重視した剛剣であった。敵が迫れば、蹴りや体当たりを駆使して間合いを調整し、巧みに戦い抜いた。その戦いぶりを見ながら、キリトは彼の剣筋に見覚えがあるような気がしたが、具体的な記憶を呼び起こすことはできなかった。戦闘を重ねながら、彼らは急ぎ足で迷宮区を突破し、一時間以内に塔の一階へと到達した。
船着き場とゴンドラの確保
塔を出ると、冷たい夜風が吹きつけた。川を泳ぐのは避けたい状況であったため、彼らは船着き場へ向かい、停泊しているゴンドラを探した。幸運にも、大型ゴンドラが二艘残っており、アンカーのロックが解除されていたため、使用することが可能であった。彼らは《リベレーター号》を選び、キリトが操船して川を遡り、ヨフェル城へ向かった。
ラーヴィクの突然の要請
湖に出た時点で、予定どおりの時間で移動できたと安堵したのも束の間、ラーヴィクが突如「自分は城には入らず、岸辺で降ろしてほしい」と言い出した。キズメルが理由を尋ねると、彼は「正面から訪れるのが難しい事情がある」と答えを濁した。アスナが、彼が七層で脱獄した囚人であることを指摘すると、ラーヴィクはハリン樹宮の神官たちが自分たちの失態を隠そうとする性質があるため、ヨフェル城に情報が伝わっている可能性は低いと説明した。しかし、それでも彼は城には入らないと決めていた。
謎めいた依頼
ラーヴィクは、キリトたちに一つの依頼をした。それは「今夜、城主ヨフィリス卿を護衛も従者もなしで、自分が降りる場所まで連れてくること」であった。彼は理由を明かさなかったが、その頼み方は極めて真剣なものであった。キリトたちは困惑しつつも、この依頼を受けるべきか、慎重に考え始めた。
4
ヨフェル城への到着
湖を南下すると、巨大な影が姿を現した。それが黒エルフの拠点であるヨフェル城である。四方に尖塔を備えた城館は優美かつ重厚な造りで、黒エルフの美意識が反映されていた。城の前面には桟橋が突き出し、数艘のゴンドラが係留されていた。リベレーター号を慎重に接岸させると、城の周囲に警戒する歩哨の姿が見えたが、特に警戒の角笛が鳴ることはなかった。接岸直前、アスナが桟橋の根元に停泊するティルネル号を発見し、歓声を上げた。
愛船との再会
リベレーター号を固定し、キリトたちはティルネル号へ向かった。船体は艶やかな塗装を保ち、長らく放置されていたとは思えないほどの美しさだった。キズメルは懐かしそうに船を見つめ、もし秘鍵を奪われていなければ再び乗る機会もなかったことに思いを馳せた。キリトはキズメルに、午後にアスナと二人で湖を楽しむよう促した。キズメルは微笑んだが、疲労の色も見えた。直後、城の通用門が開き、一人の少年が現れた。
ヨフェル城の後継者
少年は歩哨たちに敬礼され、単身でキリトたちのもとへ向かった。彼の名はセトラン・ジィ・ヨフィリス。ヨフェル城の城主ヨフィリス子爵の嫡子であった。彼はキズメルたちの名を呼び、歓迎の意を示した。キズメルが近衛騎士として正式に名乗ると、セトランも礼儀正しく挨拶を返し、キリトたちを城内へ案内した。
豪華な客室と休息の準備
キリトたちは、かつての滞在時と同じ最上級の客室に通された。アスナは日光を遮るために窓の鎧戸を閉め、万全の対策を整えた。キズメルもまた、日光からキリトを守るため、できる限りの策を講じるべきだと提案した。さらに、キズメルは幼少期に九層の王城で夜の主を昼間に目撃した可能性を語り、夜の民が日光に耐性を持つ手段があるのではないかという仮説を示した。しかし、その答えは今は得られず、秘鍵奪還が最優先であると結論づけた。
湖上の光と謎
休息の前、キリトたちは窓から湖を眺め、対岸に小さな焚き火を発見した。それがラーヴィクのものであると確信し、彼の頼みである「ヨフィリス子爵を単身で湖の向こうに連れてくる方法」について話し合った。キリトは水上歩行の可能性に思い至ったが、キズメルは《ヴィルリの雫》が貴重であることを理由に難色を示した。すると、キズメルは三年前に湖で青い馬──ケルピーらしき存在を目撃した話を語り出した。
ケルピーの伝説
キズメルは幼年学校卒業後、双子の妹ティルネルとともに四層へ旅行し、早朝に湖で青い馬を目撃したという。馬は水面を歩いており、その姿は神秘的だった。ティルネルは伝承を調べ、ヨフェル湖にケルピーの伝説があることを突き止めたが、真相は未だに不明であった。キリトは砂浜に行ってケルピーを探そうと提案したが、既に夜明けが迫っていたため断念した。
最後の休息と新たな課題
三人は大浴場で旅の疲れを癒したが、アスナはキリトの不用意な行動に対し小さな仕返しをした。浴場を出ると、キリトはセトランに渡すべきヨフェル城伝来の剣について考えたが、それを話す間もなく慌ただしく部屋へ戻ることになった。日が昇る直前、キズメルはキリトに日没まで決して寝室から出ないよう厳命した。アスナは万が一の事態に備え、キリトと同じ部屋で休むことを決めた。
やがて、キリトは安心感の中で眠りに落ちた。
5
目覚めと驚愕の時間経過
主人公は目を覚まし、目の前のデジタル時計を見て驚いた。寝る前と同じ時刻が表示されているかのように感じたが、実際には12時間が経過していた。日付を確認し、幸いにも丸一日経過していないことを知る。しかし、これほど長時間眠ることに違和感を覚えた。
隣に眠るアスナ
身体を起こそうとしたところ、すぐ隣に誰かが眠っていることに気付いた。毛布の下で顔は見えなかったが、正体は明白だった。慎重に毛布をめくり、暗視能力を使って確認した後、すぐに戻す。アスナは普段、深く眠ることができない様子であり、現実世界の喪失やゲーム内の死のリスクが影響しているのだと主人公は推測した。彼女の不安を和らげる存在になれているのなら嬉しいが、毎晩一緒に眠る提案をするわけにもいかないと考えた。
キズメルとの再会
アスナを起こさぬよう静かに部屋を抜け出した主人公は、リビングでキズメルと再会した。彼女も目覚めたばかりの様子であり、約束の時間より少し早く起きたことを指摘された。主人公は、アスナを起こしたくなかったため早めに出てきたと説明する。キズメルは、それを察しつつも特に詮索することなく、主人公を隣に座らせた。
NPCの睡眠と感情
キズメルとの会話の中で、NPCである彼女がどのように眠るのかという疑問が浮かぶ。彼女は騎士としてどんな状況でも眠れる資質が求められるが、怪物の徘徊や戦闘の前日、妹のことを思い出す夜などは眠れないこともあると語った。主人公は、NPCであっても感情を持ち、この世界で生きていることを改めて認識する。
アスナの提案とケルピーの可能性
その後、目を覚ましたアスナが寝室から現れ、会話に加わる。彼女はキズメルの話を聞きながら、湖を渡る方法としてケルピーの利用を提案した。キズメルはそれを肯定し、ケルピーを飼い慣らせば移動手段になる可能性を示唆する。主人公は驚愕し、ケルピーのテイムが本当に可能なのか疑問を抱いた。
食堂での夕食と新たな発見
一行は食堂へ向かい、ビュッフェ形式の食事を楽しむ。前回訪れた際にはメイドが給仕していたが、今回はセルフサービスになっていた。これは、ヨウルの祝祭の特別な日だったため、以前は特別なもてなしが行われていたからだとキズメルは説明した。さらに、ヨフィリス子爵の家族について話が及び、彼の夫人の姿を見たことがないことに気づく。
ヨフィリス子爵との対話
一行は子爵の元を訪れ、湖の対岸で待つ人物との面会を依頼する。子爵は最初こそ慎重だったが、相手がリュースラの騎士であることを確認し、最終的に承諾した。問題は、湖をどう渡るかであった。子爵は自らの持つ魔法の靴を使えば湖面を歩けるが、同行する主人公たちにはその手段がない。
ケルピーを使った湖の横断計画
湖の移動手段として、ケルピーを利用する可能性が再び浮上する。子爵によれば、ケルピーは年に数回、濃霧が発生する夜にのみ水面に現れる。そして、金属の匂いを嫌うため、武器を持たずに接触すれば遭遇の確率が高まるという。また、夜の住人である主人公の「使役」の力を用いれば、ケルピーを従わせることも可能かもしれないと示唆された。
新たな作戦の決定
濃霧が発生する場所を探すため、一行は船を出して湖を移動することを決めた。アスナは、ヨフェル湖には霧が発生する特定のポイントがあるはずだと考え、船を進めながらその地点を探すという案を提案した。こうして、一行は湖を渡るための新たな作戦に踏み出すこととなった。
6
ティルネル号での移動と境界の霧
キリトとアスナは、ティルネル号に乗り、ヨフェル湖を南下した。城の見張りには「夜景を眺める」と告げ、怪しまれぬように出発した。ヨフェル湖の境界はプレイヤー専用の領域であり、別のパーティーが訪れても異なるインスタンスの城へ到達する仕組みになっていた。境界に近づくと霧が発生し、その性質についてキリトは視覚的エフェクトに過ぎないと推測した。
金属装備の排除
ケルピーの探索に備え、金属装備を外すことになった。アスナの装備を確認すると、スカートに金属プレートが仕込まれており、さらにケープの留め金やブーツの鋲など、細かい金属部分が多く含まれていた。アスナはストレージから白いワンピースを取り出し、装備を解除。キリトも魔法の布「アルギロの薄布」を利用し、隠れながら装備を外した。
ケルピーの出現
濃霧が晴れ、静寂の中で水音が響いた。やがて青みがかった巨大な馬の影が現れ、それがケルピーであることが判明した。予想以上の大きさで、アスナの目の前まで接近。危険を察知しながらも攻撃せず、キリトは様子を見守った。
使役の試み
キリトはケルピーと視線を合わせ、使役を試みた。赤い光とともにインジケータが表示され、徐々に進行。アスナが少し後退した瞬間、インジケータは一気に上昇し、成功を示す黄色に変化した。ケルピーは敵意を示さなくなり、使役が成立したと判断された。
ケルピーへの餌やり
友好度を確かめるため、キリトは大蟹の爪肉を与えた。ケルピーは疑いつつも食べ始め、瞬く間に完食。しかし、硬いハサミ部分は拒否。アスナはその様子に笑みを漏らした。
装備の再装着と移動準備
金属装備を再び装着し、寒さを凌いだ。キズメルとの合流に向け、ケルピーに乗る準備を整える。ケルピーの名前が読めなかったため、「モー」と命名。乗せるよう頼むと、モーは素直に背を低くし、移動の準備を整えた。
7
ケルピーへの騎乗と快適さ
ケルピーの背に乗る体験は、予想以上に快適であった。濡れたベンチのように水気が染み込むと覚悟していたが、毛並みはベルベットのようにさらさらで、温かみすらあった。見た目のウロコ模様も本物ではなく、短い毛のパターンであった。鞍や鐙がなくても骨が当たる痛みもなく、指示は声のみで伝えたが、ケルピーは的確に反応し、滑らかに湖上を進んだ。
湖上の進行と夜の潜行
湖の中央にそびえるヨフェル城を左に見つつ、インスタンス境界沿いに反時計回りに進行した。塔の見張り兵は湖を渡る船を警戒していたが、水上を歩く馬は想定外であった。城の裏手を目指し、影を利用して慎重に進むと、北側の断崖下に小さな砂浜が見えてきた。そこには二つの人影が立っており、キズメルとヨフィリス子爵であることを確認した。
ヨフィリス子爵との対面
砂浜に到着し、キズメルと子爵と合流した。子爵はケルピーを見上げ、幼少期に同じ生き物と遭遇し、喰われかけたことを語った。意外な過去を明かされ、驚きながらも、ケルピーは特に敵意を示さなかった。さらに、子爵はキリトの手腕を評価し、自国の家臣に迎えたかったと冗談めかして語った。
ケルピーの適応と移動準備
ケルピーは水上のみならず砂浜も歩行可能であった。三人が乗っても問題なく、夜の湖を進み始めた。ヨフィリス子爵は湖上を自らの魔法の靴で歩き、ケルピーがその後を追う形となった。子爵が走る姿は誇り高く、過去の経験と技術への信頼を示していた。
目的地への到着と再会
湖の西岸に到着し、任務を果たしたが、待ち合わせの人物が見当たらなかった。しばらくして、ラーヴィク元騎士団長が茂みから現れ、獲物を追いかけていたと気楽に説明した。だが、子爵とラーヴィクが対面すると空気が一変した。
過去の因縁と決闘の宣言
子爵はラーヴィクを見据え、三十年前に奪い損ねた命を狙うつもりかと問いかけた。ラーヴィクは苦笑し、長い独房生活の中で遺恨は消えたと答えたが、その上で決闘を申し込んだ。子爵は即座に受諾し、キズメルとキリト、アスナに立ち会いを依頼した。彼らは動揺しつつも、断ることはできなかった。
決闘への準備と帰還
ラーヴィクは決闘に備え、城には戻らず湖畔に留まると述べた。子爵は理解を示し、城へ帰還することになった。キリトたちはケルピーを活用し、再び湖を渡った。
城への帰還と新たな依頼
城に戻ると、キズメルから子爵が待っていると伝えられた。案内された場所で、子爵はキリトとアスナに過去の話を語り始めた。それは彼自身の人生に深く関わるものであり、決闘の背景にも繫がる内容であった。
ヨフィリス子爵の過去とヴィルリの少年
子爵はかつて、湖に棲む水霊ヴィルリの少年アルマルクと親しくなったことを語った。彼とは友情を超えた特別な絆で結ばれていたが、家の事情により許嫁を紹介されたことで悩むようになった。やがて、彼は自分がアルマルクを愛していることを自覚した。
悲劇の発端と父の行動
父親は子爵の結婚拒否の理由を突き止め、アルマルクを湖へ呼び出して殺害した。その結果、父はヴィルリの呪いを受け、水を飲めなくなり、衰弱して死亡した。さらに、母も後を追うように湖へ身を投げた。
フォールン・エルフと時の凝り
子爵はエルフの成長と老化の仕組みを説明し、役割を果たすことで老いるが、何もしない者は時を止めると語った。これはフォールン・エルフの存在とも関係し、彼らは聖大樹を冒涜した結果、老いることを拒絶された存在であった。
聖大樹の秘密と禁忌
フォールン・エルフは聖大樹を傷つけ、霊酒を作ろうとしたが、その試みは完全ではなかった。ノルツァー将軍はその一派であり、異常な長寿を持つことが判明した。カイサラの正体は不明だが、剝伐という名がその罪に由来している可能性があった。
ラーヴィクの若さと過去
キズメルはラーヴィクがなぜ年老いていないのか疑問を呈した。子爵は彼の過去を語るために、自らの物語をさらに掘り下げた。
愛と悲劇の結末
子爵は両親の反対に抗い、アルマルクとの関係を続けようとした。しかし、彼の愛は許されず、アルマルクは命を奪われた。父の呪い、母の自死という悲劇を経て、子爵は孤独な道を歩むこととなった。
決闘の意味と未来
子爵とラーヴィクの因縁はまだ明らかになっていないが、決闘は単なる恨みではなく、名誉を懸けたものであることが示唆された。キリトたちはその場に立ち会い、彼らの運命を見届けることになるだろう。
8
ヨフィリス子爵と高度AIの存在
アスナはヨフィリス子爵について問い、キリトは彼が高度AIである可能性を示唆した。SAOには対話型AIとAGIレベルのNPCが存在し、キズメルやヨフィリス子爵は後者に該当すると説明された。AGIは人間に近い思考能力を持つが、現実では未完成の技術である。キリトは、茅場晶彦がSAO開発時に密かにAGIを完成させた可能性を指摘し、アスナはその事実に怒りを覚えた。彼女は、NPCたちが受ける苦しみに対して強い憤りを抱き、キリトもそれを否定できなかった。
秘鍵の奪還と大食堂での会話
二人はまず秘鍵を取り戻すことを決意し、ヨフェル城の大食堂で紅茶を飲みながら次の行動を考えた。食事時間を過ぎ、薄暗い食堂の隅でアスナが持参した茶葉を使い、静かに時間を過ごした。キリトはヨフィリス子爵の語った過去を思い返す。彼の父は水霊を殺したことで呪われ、母は息子を守るために湖へ身を投じた。親の行動が子を思うがゆえのものであったことに、キリトはやるせなさを感じた。子爵自身も体調を崩し、休むよう説得されたため、ラーヴィク元騎士団長との因縁については聞けずじまいだった。
エルフの文化と行動指針
キズメルの言葉を思い返し、エルフの価値観について改めて考えた。水霊や樹霊はエルフにとって神聖な存在であり、それを冒すことは許されない。若く見えるエルフに軽々しく敬意を示すことの危険性も再認識した。特に「時の凝り」に囚われたエルフに対する不用意な発言は、想像以上に重大な影響を及ぼす可能性があった。
キズメルの合流と夜の出発
そこへキズメルが完全武装で現れ、ヨフィリス子爵の体調について報告した。彼は単なる疲労ではなく、精神的な消耗も影響していた可能性があるとキリトは推測する。紅茶を飲みながら話すうちに、三人は夜の探索へ向かう準備を整えた。キズメルの立場上、歩哨たちは敬礼をし、彼女の言葉に従った。目的地はフォールン・エルフの隠しアジト。秘鍵が奪還可能か確認することが主な任務であった。
船の選択と航行の決断
リベレーター号とティルネル号のどちらを使うか悩んだ末、機動性を優先してティルネル号を選んだ。夜の湖を滑るように進む船上で、キリトはフォールン・エルフの拠点に秘鍵が残されている可能性を考察した。時間が経てば移動される危険もあるため、迅速な行動が求められた。目的地へ向かう途中、アルゴから緊急のフレンド・メッセージが届いた。
森エルフとの衝突と選択
アルゴの報告によると、DKBとALSのメンバーが森エルフと対立し、危機的状況に陥っていた。彼らは森エルフの聖域で木を伐採し、逃走して洞窟に身を潜めていた。森エルフの価値観を知らなかった可能性もあるが、その行為は重大な禁忌だった。捕まれば指揮官は処刑、他の者も牢獄行きとなる危険があった。
キリトは、今すぐ救助に向かうのは現実的でないと判断し、アスナやキズメルと協議した。結論として、アスナとキズメルはフォールンの拠点を偵察し、キリトはアルゴと接触して詳しい情報を得ることになった。
別行動の準備とケルピーの召喚
キリトはアスナとキズメルに別行動の方針を伝えた。アスナは心配したが、キリトは夜明け前に戻ると断言した。しかし、移動手段の問題が残っていた。そこでキリトは湖の主であるケルピーを召喚し、彼の背に乗って迷宮区へ向かうことにした。ティルネル号はアスナたちが使用し、双方が効率的に動けるようにした。
キリト、アスナ、キズメルの三者は、それぞれの役割を果たすため、夜の湖を舞台に行動を開始した。
9
迷宮区タワーへの到着とモーとの別れ
キリトは四層迷宮区タワーの船着き場に到着し、ケルピーのモーの背から飛び降りた。ヨフェル城の大食堂から持ち出した川ガニのフリットを与えた後、三時間以内に戻ると約束し、モーは水中へと消えた。アスナに迷宮区到着を報告し、彼女がカルデラ湖へ向かっていることを確認した後、塔の入り口へと向かった。
迷宮区タワーの駆け上がり
塔の構造を把握していたキリトは、最短ルートを突き進んだ。吸血鬼化による身体能力の向上もあり、全力疾走しても疲れを感じなかった。途中で希少種の半魚人型モンスター《イクチオイド・カルティベーター》と遭遇し、戦闘を最小限に抑えながら進んだ。十八階に到達後、七層経由と五層経由のどちらで八層へ向かうかを考えた末、フォールン・エルフの転移装置を利用する七層経由を選んだ。
フォールン・エルフの遭遇
隠し部屋へ向かう途中、キリトは通路の奥から現れる人影に気付き、柱の陰に隠れた。しかし、単独で行動するフォールン・エルフを見たことがなかったことから、罠の可能性を考えた。戦闘を避けるために距離を詰めることを決意し、《ソニック・リープ》を発動。しかし、相手のカタナによる防御に阻まれ、一撃を通せなかった。
カイサラとの対峙
人影の正体は、フォールン・エルフの副将カイサラだった。彼女は冷静な態度を崩さず、キリトの目的を探るような問いを投げかけた。キリトは即座に戦闘を仕掛けず、会話を通じて情報を引き出そうとしたが、結局は戦闘状態へ突入した。カイサラは竜巻を纏う特殊な脚力を駆使し、キリトの攻撃を封じながら反撃を試みた。
戦闘の決着と一時的な和解
キリトはドールフル・ノクターンを両手で振り下ろし、カイサラの装備を一部破損させることに成功した。しかし、彼女の竜巻ブーツによる動きは予測不能であり、キリトは完全な勝利には至らなかった。戦闘が膠着状態に陥ると、カイサラはキリトが吸血鬼化していることに気付き、ファルハリへの借りを理由に今回は見逃すと宣言した。キリトはこの機を逃さず、後ろを向いて撤退しようとしたが、最後にカイサラからイクチオイドの芋を置いていくよう要求され、それに従った。
アスナへの警告の必要性
キリトはカイサラがフォールン・エルフのアジトへ向かう可能性を考え、アスナとキズメルに警告しようとした。しかし、フレンド登録をしていなかったため、階層をまたいでメッセージを送れないことに気付いた。最善策を模索し、五層の主街区カルルインの転移門を利用すれば、四層を経由してアスナに連絡を取れると判断した。
カルルインへの移動と次の行動
キリトは迷宮区タワーを駆け上がり、五層の主街区へと急いだ。カイサラとの戦闘の影響で判断力が鈍っていたことを自覚しつつ、カルルインへ向かい、アスナへの警告とアルゴとの接触を両立させるべく行動を開始した。
10
アスナとキズメルの無事な脱出
キリトがアスナに送ったメッセージが届いた時、アスナとキズメルはすでにフォールン・エルフのアジトを脱出し、ウル川を航行していた。彼女たちはアジト内部で重要な情報を盗み聞きし、即座に撤退を決断したという。内容は複雑なものであり、長文のメッセージを打つのは危険と判断し、ヨフェル城で直接報告を受けることになった。キリトがカイサラとの遭遇を伝えると、アスナは即座に逃げるよう警告したが、すでに安全な場所にいることを伝え、ようやく彼女を安心させることができた。
ロービアの転移門から八層へ
キリトはロービアの転移門広場を見渡した。深夜のため、周囲の店はほぼ閉まっており、プレイヤーの姿も少なかった。転移門へ向かい、正式サービスでは初めてとなる八層の主街区へと向かった。八層は森のフロアであり、自然に満ちた三層とは異なり、管理された森が広がっていた。ここでは木々だけでなく、キノコや苔までもが丁寧に手入れされており、その美しさとは裏腹にプレイヤーにとっては危険な場所でもあった。誤って森の一部を傷つければ、罰金や投獄の可能性があるためである。
八層の地理は、人工湖によって外苑と内苑に分かれており、人族の主街区と迷宮区タワーは外苑に位置し、森とエルフの都市スルーヴァは内苑にあった。キリトは転移門を抜け、フリーベンの夜気を深く吸い込んだ。
八層主街区フリーベンの構造
フリーベンは、外苑の最南端に位置する岩山の上に築かれた街だった。転移門広場は岩山の頂上にあり、店舗はほぼ存在しないが、岩山内部には百以上の店が詰め込まれ、その多くが飲食店だった。フリーベンの通路は複雑に入り組み、ベータテスト時代には案内屋が商売になるほどの迷宮構造をしていた。
キリトはアルゴにメッセージを送り、待ち合わせ場所が十二階の「団栗屋」であることを確認した。少し迷いながらも東側の階段を選び、道を探りながら進んだ。通路には観光目的のプレイヤーも見られ、店の扉からは温かな光が漏れていた。
団栗屋での待ち合わせ
ようやく見覚えのある茶色の扉を見つけ、キリトは店内へ入った。そこは狭いながらも落ち着いた雰囲気の小店で、カウンターの奥にはアナグマのような獣人の店主がいた。店主は無愛想に応対したが、アルゴのいる奥の席へと案内した。
半円テーブルの前に座るフードを被ったプレイヤーが、にやりと笑いながらキリトを迎えた。その独特な鼻にかかった声から、彼がアルゴであることは明白だった。キリトは、なぜこんな分かりづらい場所を選んだのかと苦言を呈したが、アルゴはキリトが気に入りそうな店だからと軽く流した。
その瞬間、店内から咳き込む声が聞こえ、キリトは奥の席にもう一人の人物がいることに気付いた。
クラインとの再会
奥に座っていたのは、短髪を赤いバンダナで逆立て、顎に短い髭を生やした男性プレイヤーだった。革鎧に曲刀を携えたその姿を見た瞬間、キリトは衝撃を受けた。
その男がカップを持ち上げ、軽く挨拶をすると、キリトは混乱したまま、かすれた声でその名を呼んだ。
「クライン……」
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