どんな本?
戦国小町苦労譚は、夾竹桃氏によるライトノベル。
農業高校で学ぶ歴史好きな女子高生が戦国の時代へとタイムスリップし、織田信長の元で仕えるという展開が特徴。
元々は「小説家になろう」での連載がスタートし、後にアース・スターノベルから書籍としても登場。
その上、コミックアース・スターでも漫画の連載されている。
このシリーズは発行部数が200万部を突破している。
この作品は、主人公の静子が現代の知識や技術を用いて戦国時代の農業や内政を改革し、信長の天下統一を助けるという物語。
静子は信長の相談役として様々な問題に対処し、信長の家臣や他のタイムスリップ者と共に信長の無茶ブリに応える。
この物語には、歴史の事実や知識が散りばめられており、読者は戦国の時代の世界観を楽しむことができる。
2016年に小説家になろうで、パクリ騒動があったらしいが、、、
利用規約違反、引用の問題だったらしい。
前巻からのあらすじ
「女が軍勢にいると宜しくない、という験担ぎなどぶち壊す」と信長が言って静子が上洛する軍に従軍する事に。
女性が1人で危険だと思ったら、彼女の周りには護衛のオオカミ達がピッタリ寄り添う。
徳川、浅井と共に六角を攻め滅ぼして上洛を果たす織田家。
到着したら、信長から静子に5,000の兵を指揮して京の治安を良くしろと命令される。
京から岐阜に来た料理人の中に、静子と同じくタイムスリップして来た足満とミツオが合流して来た。
読んだ本のタイトル
#戦国小町苦労譚 4 第一次織田包囲網
著者:#夾竹桃 氏
イラスト:#平沢下戸 氏
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あらすじ・内容
戦の常識を覆す一品の開発にも成功し、いよいよ姉川の戦いに突入しようとするが――
静子の影響で歴史は変わるのか? 大人気戦国ファンタジーに目が離せない!
戦国小町苦労譚 四、第一次織田包囲網
感想
宣教師フロイスから信長に大鷲が贈られるが、あまりにも肉を食べるので信長の手にあまると判断して静子の元に贈られて来た。
それをなんの戸惑いもなく世話をする静子。
更にフロイスに壊血病の治療方法の情報を対価に色々な作物、家畜達を要求したら多種多様な動物達が来た。
孔雀、ゾウガメ、シェパード、ターキッシュアンゴラ、、
作物で静子が喜んだのは胡椒。
でも、育てるのにかなり苦労している。
ビニールハウスモドキを作って温度を調整しているが、、
なかなか上手く行かない。
そんな静子を横目に、信長はターキッシュアンゴラに夢中になり無類の猫好きになるのが・・・
明智光秀もターキッシュアンゴラの魅力にハマり猫好きに、、
信長と同好の士となる?
アレ?
コレで本能寺の変、消えたか?
戦では初陣の森可長がモーニングスターで敵兵を殺しまくる。
でも相手兵士たちが弱かった。
その原因は足満の農地破壊の計略だったとは、、
土を壊すか・・・
そのせいで相手の兵士達は飢えており健康体とは程遠い状態で戦っていた。
相手に容赦の無い足満、恐ろしいな。。
そして、朝倉討伐のために出陣した織田軍を包囲しようと各勢力が動き出す。
そんな中、浅井長政が、、
父親から叛乱を起こされて討ち取られる寸前に、動物達を京に受け取り帰る途中だった静子に出会う。
そこから、少数精鋭で信長の妹のお市の方も救出して織田領に連れ帰る。
この時、静子も初めての実戦を経験する。
遂に静子も戦に係るようになってしまった。
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備忘録
永禄十二年伊勢平定
千五百六十九年七月中旬
七月、フロイスとロレンソの岐阜訪問
フロイスはロレンソを伴い、宣教師追放の動きを止めるため信長に保護を求めた。日乗が宣教師排斥を進める中、和田惟政はフロイスらを擁護していたが、交渉は難航していた。フロイスは信長への嘆願を決意し、近江でロレンソと合流後、美濃へ向かう。和田惟政は信長の家臣と宿屋の主人宛に書状を用意し、ロレンソに託した。
岐阜の城下と楽市楽座
岐阜の城下は楽市楽座の施策により活気に満ちていた。信長は市場の自由化を徹底し、商人たちに恩恵を与える一方で、既得権益を織田家の支配下に置いた。関所の整理にも着手し、過剰な交通税を廃止することで経済の活性化を図った。
信長との会談と庇護の獲得
フロイスは柴田勝家や佐々成政と接触し、岐阜で信長との面会を待った。やがて秀吉が尾張から戻り、彼の仲介で会談が実現した。信長は宣教師庇護の書状を作成し、天下布武印を押したものをフロイスへ与えた。これによりフロイスらは一定の保護を得ることができた。
信長の試食会と料理の驚き
信長はフロイスを試食会に招き、新たな料理を披露した。炒め飯、鶏肉ジャガ、チキンカツと続き、フロイスはその味に驚嘆した。特にジャガイモの料理には戸惑いを見せたが、実際に食べるとその美味しさを認めた。さらに醤油の魅力にも気づき、これを高く評価した。
菓子の試食と大豆コーヒー
食後、金平糖やパンケーキ、羊羹などの菓子が供され、大豆コーヒーも振る舞われた。信長やフロイスはその味を堪能し、甘さと苦味の組み合わせを楽しんだ。信長は蜂蜜の量を増やしたがったが、静子に制止され、健康を考慮することとなった。
フロイスの贈り物と巨大な鷲
後日、フロイスは信長に贈り物を用意したが、信長はそれを静子へ託した。贈られたのは巨大な鷲であり、日本では珍しい存在だった。静子は鷲の扱いに苦慮しながらも、肉を与えて慣らしていった。やがて鷲は静子の元で新たな生活を始めた。
野生動物との共存と野犬の問題
静子の周囲には様々な野生動物が集まり、カラスやカワウソ、猫などと共存関係を築いた。しかし、野犬の侵入が問題となり、静子は群れのリーダーを討つことで制圧を試みた。これにより野犬たちは従順になり、新たな役割を与えられることとなった。
フクロウの雛の救出
野犬の騒ぎの中で、静子は衰弱したフクロウの雛を発見した。巣の中にももう一羽おり、親鳥の姿は見えなかった。彼女は二羽を保護し、自宅へ連れ帰ることを決意した。後に、この雛がただのフクロウではないことを知ることとなる。
千五百六十九年八月下旬
北畠家の分裂と信長の調略
永禄十二年五月、南伊勢の北畠家中では信長に対する対応を巡って意見が対立していた。その中で北畠具教の実弟・木造具政は、源浄院主玄(滝川雄利)や柘植三郎左衛門の働きかけにより織田家へ内通し、宗家への反乱を企てた。これを察知した北畠具教は直ちに軍を派遣し木造城を攻めたが、長野家や神戸家の救援により撤退を余儀なくされた。
信長はこれを機に、大軍による力攻めから調略を主軸とする戦略へ切り替えた。これにより伊勢の諸城を次々と自陣営へ取り込み、北畠具教の勢力を削いでいった。しかし具教は降伏する素振りすら見せず、信長との対決姿勢を崩さなかった。これを受け、信長は森可成、柴田勝家、佐久間信盛、木下藤吉郎らに伊勢侵攻を命じた。
静子への通達と戦支度
信長は伊勢侵攻の通達を静子にも伝えた。内容は、慶次と長可が伊勢侵攻軍に参加し、静子と才蔵は待機、彩は二人の補佐という指示であった。この知らせに慶次は期待を膨らませ、長可は名誉を感じて感動した。戦の準備として、静子は倉を開放し、必要な物資を彩へ報告するよう指示した。
長可は倉に保管されていた刀の譲渡を静子に求めた。静子はすでに彼が元服した際に譲るつもりだったことを思い出し、了承した。この刀はお市への贈り物の返礼として贈られたもので、名前がなかったため、長可は静子に命名を依頼した。静子は「明鏡止水」を提案し、その意味を聞いた長可と慶次は大いに笑った。
金銀の運搬と信長の資金管理
伊勢侵攻の直前、信長は静子に対し、ある荷物を居館へ運ぶよう命じた。その荷物とは信長の隠し資産である金銀の延べ棒であった。静子は特製のリヤカーを用いて金塊八十本、銀塊百二十本を運搬した。信長は静子の忠誠心を信じ、彼女に輸送を任せていた。静子もまた、信長の信用を裏切ることはあり得ないと認識していた。
静子が大量の金銀を手に入れた背景には、粗銅の精錬技術があった。彼女は粗銅に含まれる金銀を分離し、大量の金属資源を蓄積していた。これを知った信長は驚いたが、静子の忠誠心を疑わず、その資産を慎重に管理することを決めた。
濃姫の茶会と自由な社交場
信長が伊勢侵攻を開始した後、濃姫は静子に茶会の開催を提案した。彼女は格式張ったものではなく、気軽に楽しめる場を求めた。静子は「喫茶」という形で、茶と菓子を楽しむ会を提案した。濃姫は興味を示しつつ、茶の生産状況や新たな食文化についても関心を持った。
その場にはねねやまつ、森長可の母・えいも参加していた。彼女たちは静子の倉から自由に物資を持ち出しており、それに対する静子の苦労が伺えた。茶会の席では、彼女たちがざる蕎麦を初めて食し、その食感と味わいに驚いていた。
新規作物の栽培と農業技術の発展
九月に入り、静子は新たに導入した作物の生育状況を確認した。彼女は京や九州から取り寄せた種を試験的に栽培していた。酸茎蕪、唐辛子、日本薄荷などが含まれ、それぞれの用途や栽培意図について説明した。特に唐辛子については、伝来した品種の辛さが未知数であり、その特性を見極める必要があった。
また、日本薄荷の栽培にも取り組んでいた。この品種はメントール含有量が高く、薬用価値が大きかった。さらに、樟から樟脳を抽出し、防虫や芳香剤として活用する計画も進めていた。静子は農産物の加工と流通を見据え、新たな事業の基盤を築いていた。
果樹園の整備と品種改良への取り組み
静子は果樹園の整備にも力を入れていた。金柑、すもも、甲州ぶどう、スイカ、ビワ、杏、アケビ、桃、甘柿などが植えられ、将来的な生産力の向上を図っていた。特に蜂屋柿の栽培には力を入れ、より甘く大きな干し柿を生産するための技術指導を行っていた。
また、彼女は寧波金柑や唐金柑、インゲン豆、キャベツ、いちじく、ライチなど、後の時代に日本へ伝来する作物の早期導入を試みた。これにより、日本の農業発展を加速させようと考えていた。
自然薯の栽培と新技術の導入
静子は新たな栽培技術の一環として、竹を利用した自然薯の栽培に着手した。通常、自然薯は土中で不規則に成長するが、竹を加工して塩化ビニールパイプの代用品とし、直線的な成長を促す方法を考案した。この技術により、収穫時の負担を軽減し、効率的な生産を実現しようとしていた。
さらに、ボール盤やフライス盤の開発にも着手し、銅線の製造に必要な工具を生産できる環境を整えていた。銅線は今後の技術革新に欠かせない資源であり、静子はその生産基盤の確立を目指していた。
経済政策と信長への貢献
静子の活動は、織田家の経済を大きく支えていた。彼女が新たな産業を興し、商人がそれを商売にすることで、信長の軍資金は増加していた。信長の「錬金術」と評されるこの経済政策の裏には、静子の存在があった。
しかし、静子自身は自らの影響力を自覚しておらず、信長の下で動いていると考えていた。彩は彼女に対し、既に織田家の重鎮であることを認識するよう促した。静子は信長の信賞必罰の原則を理解しつつも、自身の立場には無頓着であり続けた。
経済循環と貨幣政策への意識
静子は経済の流れを活性化させるため、金子を市場へ循環させることの重要性を認識していた。しかし、才蔵や長可、彩は金を使う習慣がなく、それが静子の課題となっていた。彼女は彼らに貨幣経済への適応を促しつつ、新たな事業に投資し続けた。
彼女の活動が結果として信長の軍用金を増やし、織田家の繁栄に寄与することとなっていたが、それを本人が意識することはほとんどなかった。
千五百六十九年九月上旬
港湾都市計画と静子の訪問
静子は米の収穫と税の徴収を終えると、伊勢湾方面に頻繁に訪れるようになった。それは信長の進める港湾都市群計画に関与していたためである。信長は正確な日本地図を基に、知多半島にいくつかの港湾都市を建設し、伊勢と尾張を海運で結ぶ計画を立てていた。海運は大量輸送に適しており、物資の迅速な流通により莫大な利益を見込めるとされていた。伊勢湾周辺はもともと海運が盛んな地域であり、多くの交易が行われていたため、この計画は現実的であった。
信長直営の港街はすでに活発に機能しており、商取引が許可制で行われていた。治安維持のため、警ら隊が組織され、整理・整頓・清潔・清掃・作法・躾の六ヶ条を徹底して教育された。その結果、犯罪が抑えられ、商人たちの信頼を得ることに成功した。
静子はこの計画の一環として、完成すれば尾張最大級となる港街を訪れた。彼女は歓楽街の茶屋に立ち寄り、琴と呼ばれる女性と会話を交わした。琴は花街の有力者の一人であり、花街での治安維持や情報収集の役割を担っていた。静子は花街での最近の喧嘩騒ぎについて尋ね、琴は問題なく処理されたことを報告した。
花街の運営と情報収集
花街は三つの区に分かれ、それぞれ琴、咲、音が管理していた。信長が花街の独占を容認したのは、彼女たちが女郎の管理を担っていたためである。人が多く集まる都市では、どれほど厳しく取り締まっても女郎は消えない。そこで信長は花街を歓楽街に組み込み、女郎令を施行した。女郎は名簿登録が義務付けられ、花街以外での営業は禁止された。違反者には厳しい処罰が下されたが、その多くは警ら隊ではなく花街の有力者たちによって制裁された。
琴はまた、花街が他国の間者を調査する役割も果たしていることを明かした。伊勢の港湾都市が発展するにつれ、武田、上杉、北条、浅井、徳川、本願寺、延暦寺など、多くの勢力の間者が入り込んでいることが確認された。信長は大規模な港湾都市群の建設を進めているため、同盟国であっても警戒を怠らなかった。
静子は琴との情報交換を終えると、彼女に一礼し、才蔵と共にその場を去った。琴は静子の背中を見送りながら「相変わらず腹の底が読めない娘だ」と呟いた。
阿坂城攻めと長可の初陣
八月二十六日、織田軍は北畠家の重臣・大宮入道が籠城する阿坂城の攻撃を開始した。森可成も参戦し、その息子・長可と慶次も戦場に加わった。長可は父に「武将と認められるには才を示せ」と言われ、足軽の中に放り込まれたが、意気込みを新たに戦いに挑んだ。
長可は城内戦を想定し、長槍よりも狭い場所で使いやすい武器を選択した。その一つがモーニングスターである。彼はこれを使って敵兵を次々と撲殺し、血塗れの甲冑姿は味方をも戦慄させた。長可の猛攻により北畠軍の士気は崩壊し、敵兵は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
その後、長可は敵武将を探し城内を駆け回った。そして、ようやく一人の武将を見つけ、挑発して戦いを仕掛けた。敵武将が乗せられて刀を振りかざした瞬間、長可は槍で喉を貫き、一瞬で決着をつけた。こうして長可は初陣で武将の首級を上げた。
阿坂城は即日落城し、大宮入道をはじめとする北畠家の重臣たちは捕らえられた。秀吉は自らを負傷させた敵将・大宮大之丞景連の逃亡に憤慨したが、行方を捜すことは困難だった。
大河内城の包囲と戦略
八月二十八日、信長は北畠親子の籠る大河内城を包囲した。各方面に武将を配置し、黒色火薬と火縄銃による圧力をかけ、北畠軍を精神的に追い詰めようとした。しかし、十日経っても北畠父子は降伏せず、徹底抗戦の構えを崩さなかった。
信長は北畠軍の補給路が維持されていることに気づき、猟犬部隊を使って調査を命じた。数日間の調査の結果、複数の補給路が存在し、少量の物資が分散して運び込まれていることが判明した。信長はこれを利用し、補給路を断たず、逆に自軍の物資を運び込ませることで北畠軍を混乱させた。
その後、補給路の管理を強化し、周囲の田畑の作物を刈り取ることで、北畠軍の食料供給を完全に断った。これにより城内では住民の不満が高まり、ついに北畠軍は夜襲を決行したが、織田軍に防がれ失敗した。
その後、滝川一益の攻撃が失敗したが、信長は四方からの波状攻撃を決断し、北畠軍に絶え間ない圧力を加えた。十月三日、ついに北畠父子は降伏を決意し、講和の打診を信長に送った。信長は北畠家の実質的な乗っ取りを条件に降伏を受け入れ、戦は終結した。
戦後の静子と信長の宴
信長は伊勢平定を将軍義昭に報告した後、美濃の岐阜へ戻った。彼の帰還を知った静子は、迎え入れる準備を整えた。
十七日、信長は静子に食事を作るよう命じた。彼女は鶏肉とホンシメジの炊き込みご飯、松茸の吸い物、舞茸や椎茸の天ぷらなどを用意し、さらに梅酒やマロンプリンも振る舞った。信長は特に舞茸と椎茸の天ぷらを気に入り、三度おかわりを要求した。
食事中、信長は静子の用意した蒼色のカットグラスに目を留め、これを高く評価した。彼は静子に不満を抱く者たちに「この器を超える成果が出せるか」と問いかけたが、誰一人として反論する者はいなかった。
一方で秀長は静子の力量を再評価し、彼女の影響力を利用する機会を伺っていた。伊勢平定が終わり、織田家の支配は順調に進んでいたが、新たな試練が迫りつつあった。
千五百六十九年十二月中旬
信長の商業政策と税制の導入
信長は京に飲食店や呉服屋など多岐にわたる商店を開設し、尾張・美濃の特産品を販売した。しかし、消費者がいなければ市場は成立しないため、消費者を集める策として引き札を利用した。静子のガリ版印刷機で大量に印刷された引き札は京中に広まり、多くの人々を市場に引き寄せた。購買意欲の高まりと商人の取引が活発になったところで、信長は京の復興を名目に一定の税を課した。この税は禁裏の修理費や治安維持費に充てられ、信長は税の使用用途を公表することで民衆の理解を得ようとした。
足利義昭の失策と信長の介入
義昭は信長の支援で将軍となったが、幼少から仏門にいたため頼れる家臣が少なく、幕府の運営に苦慮していた。そこで信長に家臣の派遣を求め、村井貞勝らが幕府業務を肩代わりする形となった。しかし、義昭は政治的な失策を重ね、土地裁判の調停や朝廷への干渉などで不評を買い続けた。この状況に信長は憂慮し、義昭に反省を促す手紙を送った。義昭の度重なる問題に徒労感を覚えた信長は、気晴らしに静子のもとを訪れ、湯治で心を癒そうとした。
義昭の問題と織田家の対策
信長のもとに近衛前久と足満が訪れ、義昭の失策が幕府の崩壊を招く可能性について話し合った。義昭は軍を持たないため、各国に呼びかけて織田家を包囲する可能性が高いと推測された。特に浅井・朝倉・毛利・武田・上杉などの勢力が動く可能性があり、本願寺や延暦寺も利用される可能性が示唆された。信長は包囲網が形成されても各勢力がまとまらないことを見越し、経済基盤の発展や火器の工業生産を進めることを決定した。
木曽三川の貯水池計画
足満は木曽三川の貯水池工事の拡大を提案し、洪水被害の軽減策として治水対策を強化することになった。貯水池は水量を調節し、大雨時の洪水を防ぐ重要な役割を果たすものであった。信長は提案を受け入れ、工事の拡大を指示した。
本願寺勢力の動向
長島を支配する本願寺勢力は、信長の技術を取り込もうと画策していた。特に仁比売(静子)の存在に注目し、信長の収益の秘密を探ろうとした。しかし、静子の実態を正確に把握できず、情報収集に苦戦していた。本願寺は仁比売を自勢力に引き込めば信長の技術を手に入れられると考えていたが、静子にとって宗教的権威は価値がなく、その思惑は外れていた。
慰労会と商業発展
義昭の失策による影響を受けた家臣たちを慰労するため、織田軍は京で慰労会を開催した。料理人の五郎が腕を振るい、堺の豪商たちも絶賛する料理を提供した。慰労会後、静子は信長お抱えの料理屋に調理用の粉類の製造法を伝授し、後に京で新たな和菓子文化を生み出した。
織田家の戦略と情報戦
信長は浅井家の内情を探り、長政と久政の対立を把握した。長政は様子見の立場を取り、久政は義昭の密書に従い織田討伐を主張していた。信長は情報収集を強化し、敵味方を明確に区別した上で、内部からの分断工作を進めることを決めた。
静子の交渉と壊血病治療法
京で静子はフロイスと会談し、壊血病の治療法と引き換えに、胡椒の苗やアラブ種の馬、ホップの輸入を約束させた。しかし、植民地支配が早まることを危惧し、実際の特効薬であるパセリ糖衣錠ではなく、もやし栽培による治療法を伝えた。フロイスはこの情報を本国に報告し、日本の文化や技術の高さに警戒感を抱いた。
前久の美食戦略
前久は京で宴会を開催し、公家たちを美食の誘惑に引き込んだ。彼は特別な食材を用いるのではなく、見慣れた材料で最高の料理を提供することで、公家社会を掌握していった。宴会に招かれた公家たちは醤油や味噌に魅了され、前久の影響力は増していった。
このように、信長とその家臣たちは政治・経済・軍事の各面で周到な戦略を展開し、足利幕府の崩壊を見据えた布石を打っていた。
元亀元年第一次織田包囲網
千五百七十年一月上旬
新年の酒宴と静子の注目
信長主催の元日翌日の酒宴に静子は例年通り参加した。今年は倉に眠る軍需品を整理する意味も込め、信長をはじめ、森可成や丹羽長秀、佐久間信盛ら重臣に贈り物を用意した。彼女にとっては倉庫整理の一環であったが、周囲からは膨大な物資を動かせる実力者として映った。特に新参の家臣たちには信長に自然体で接し、重臣と親しい彼女の姿が印象的であり、畏敬の念を抱かせた。静子は注目を集める状況に辟易しながらも、表向きは笑顔で対応し続けた。
信長と「一期一会」
宴の最中、信長が茶の湯に使える言葉を求め、静子を呼び寄せた。彼女は茶道における精神を表す「一期一会」を記した。信長はこの言葉に興味を示し、茶室に飾ると決めた。静子は、自身の言葉が後世に残るとは思えなかったが、信長が文化人としての側面を強調するために利用する意図を察し、口を挟むことはしなかった。
恩賞としての火縄銃
宴の終わり際、信長の小姓から静子に恩賞として火縄銃が贈られた。翌日、彼女は火縄銃のメンテナンスを行い、椿油を塗布して錆止めを施した。彼女は火縄銃の構造に詳しく、分解・清掃を難なくこなした。さらに、椿油の用途が幅広く、歴史的に高級油として重宝されてきたことを再確認した。彼女は椿の栽培を拡大し、油の生産を増やす計画を立てたが、椿が神聖視されることから周囲の反対に遭った。
椿油と蜜蠟の生産拡大
静子は椿油だけでなく、蜜蠟の生産効率向上にも取り組んだ。新たな圧搾機を導入し、蜂蜜や蜜蠟の採取を効率化した。この技術は植物油の圧搾にも応用できたため、油脂生産の拡大にも貢献した。信長は彼女の工夫に関心を示し、木製ボルトとナットの利用価値を研究し始めた。
織田家の輸送改革と治安維持
信長の方針により、尾張・美濃の道路は急ピッチでマカダム舗装され、物流システムが整備された。輸送手段として馬車、人力車、河川輸送が組み合わされた。一方、治安維持のため、野盗に対する厳罰が導入され、商人の安全が確保された。この結果、商業活動が活発化し、戦乱で荒れた地域の復興が進んだ。しかし、織田家の台頭により、周囲の反発も強まっていった。
柑橘類の栽培と蕎麦ぼうろ
静子は柑橘類の栽培にも着手し、みかんやレモン、ゆずの樹を増やすための接ぎ木を進めた。また、茶請けとして用意された蕎麦ぼうろについても関心を示し、その由来を知ることとなった。彼女の周囲では食文化の多様化が進んでいた。
織田家を取り巻く情勢と静子の決意
1570年には浅井長政の同盟破棄、姉川の戦い、本願寺の蜂起が控えており、信長の右腕である森可成の戦死が予見されていた。静子は歴史の大きな流れを変えられない現実を痛感し、戦場で一定の武功を上げる必要性を感じ始めた。彼女は坂本の戦いが自身の決断を迫る日になると予測し、準備を進めることを決めた。
農地開拓と労働管理
信長の命を受け、静子は尾張各地で開墾を進めた。戦国時代においては人力と畜力に頼るしかなく、彼女は人夫や中間を雇い、奴隷も活用しながら効率的な労働環境を整えた。特に、労働意欲を高めるために恩賞を適切に配分し、瓦版を通じて正当な評価を知らせた。結果として、労働者の士気が向上し、農地改革が計画以上に進んだ。
算盤を学ぶ慶次
慶次は静子から算盤や数学を学び、前田利家をからかうためにその知識を活用した。彼は利家の決済業務を先回りして処理し、答えを別紙に添えるという悪戯を繰り返していた。静子は彼の行動に呆れながらも、深く追及することはなかった。
造船技術の研究とスクリュープロペラ
静子は農地改革が一段落したことを機に、造船技術の研究に着手した。スクリュープロペラの情報を信長に提出し、九鬼嘉隆に研究を命じさせた。一方で、FRP船の導入は廃棄処理の問題があるため、情報開示を見送った。
鷹狩りと猛禽類の訓練
信長と家康は鷹狩りを楽しみ、それに触発された静子も自身が保護した木菟の訓練を始めた。彼らは狩りの腕を磨き、小型の鹿を仕留める訓練にも成功した。彼女は猛禽類を飼うべきか悩みつつ、一ヶ月以内に決断すると自らに課した。しかし、結局その期限を忘れ、最終的には生涯飼育を決めることになった。
木菟とオウギワシの命名問題
静子は新たな問題に直面した。オウギワシと木菟の名前が決まらず、再び頭を悩ませることとなった。
千五百七十年三月上旬
二月の清酒熱燗の流行
織田家家臣の間で清酒の熱燗が流行した。濁酒でも熱燗は可能だが、特有の癖や酸味が強まるため、清酒のほうが適していた。温めることで香りが際立ち、満足感が得られ、適量で程よく酔える。また、身体を温める効果が強いため、寒い日に最適であった。一方で、濁酒は冷やすことで豊かな味わいとなり、熟成による変化を楽しめる酒として好まれた。清酒の熱燗には肴が必要であり、尾張の海産物や各種の保存食が適していた。特に人気を博したのはカラスミであり、高価なため、下級武士向けに味噌漬け干しの類似品が作られた。
信長のマントへのこだわり
信長は当初、静子に作らせたマントを着用していたが、宣教師から献上されたビロードのマントを見て不満を抱いた。彼は鮮やかな赤を求め、紅花染めの試作品を何度も作らせ、最終的に納得のいく色を完成させた。さらに、マントの端処理や金銀の刺繍、精巧な留め具を加え、自身の趣味を反映させた特注品とした。完成後、信長は大いに満足し、職人たちに恩賞を与えた。その出来を誇示したい彼は、苗の経過報告に訪れた静子を捕まえ、マントを見せつけた。静子は信長の機嫌を見極めながら賞賛し、場を収めた。
リヤカーの量産と軍事利用
信長は技術街で試験運用されている荷車、すなわちリヤカーの導入を急いでいた。静子は不具合を解消し、四月末までに百台を生産する見通しを立てていた。信長は兵站の効率化を図るため、第五軍に十台を納品するよう命じた。リヤカーのゴムタイヤ部分はファクチスで代用されており、ゴムと近い性能を持つが高温耐性に難があった。静子はゴム樹液の輸入を視野に入れ、より良い素材の確保を模索していた。
胡椒栽培の試み
静子は胡椒の栽培を試みていた。日本の気候では困難であるが、ビニールハウスを利用すれば可能性があった。胡椒は発芽率が悪く、種から育てるのは困難であるため、挿し木による増殖が主流であった。イエズス会を通じて挿し木と種を入手したが、輸送中に多くが枯れる可能性があった。彼女は温度管理にストロー温度計を使用し、胡椒の適切な栽培環境を整えることを目指した。
信長の朝倉征伐の準備
信長は二月末から朝倉征伐の準備を進めていた。表向きは幕命に背いた若狭武田氏と被官の武藤氏の征伐であったが、実際は朝倉攻めを意図していた。四月二十日、織田・徳川連合軍三万を率い、若狭へ向けて出陣した。朝倉義景は上洛命令を無視し、信長の敵と見なされた。森可成率いる織田軍三万は関ヶ原に布陣し、浅井家の裏切りを警戒した。浅井久政は朝倉と連携して織田軍を挟撃する計画であったが、関ヶ原の織田軍に阻まれ、軍を動かせなかった。
浅井・朝倉の出方と信長の策略
信長は国吉城に入り、朝倉の動向を注視した。朝倉軍は二万の兵を動員し、一万四千を率いて出陣したが、木ノ芽峠で動けなくなった。信長は官軍を解散し、徳川軍を伴い長政の居城へ向かった。信長の行動により、浅井・朝倉両軍は無駄な浪費を強いられ、軍事情報を把握するという目的が達成された。
長政との交渉
信長は小谷城で長政と対面し、朝倉を上洛させる役目を浅井家に委ねた。久政は信長の書状を隠蔽し、浅井家家臣の前で狼狽した。これに対し、長政は浅井家の当主として父を抑え、信長と協議を進めた。信長は朝倉家との関係を浅井に任せることで、より有利な立場を確保した。その後、お市と娘の茶々を訪れたが、茶々に泣かれてしまい、彼女を抱くことができなかった。
信長は朝倉征伐を表向きの大義としつつ、実際には浅井・朝倉の軍事情報を収集し、両者の無駄な出兵を誘発させた。さらに、長政との関係を強化し、朝倉家を孤立させる足がかりを築いた。
千五百七十年五月中旬
信長の挑発と朝倉家の没落
信長の挑発により朝倉家は撤退を余儀なくされた。この結果、朝倉家の権威は失墜し、家臣の一部が織田家へ寝返った。同様に浅井久政も長政の会談で醜態を晒し、家臣たちからの信頼を失った。これにより、久政と義景の勢力は徐々に衰退していった。
信長の油断と小谷城の変
信長は朝倉家の動きを封じたと考え、久政に対する警戒を怠った。しかし、元亀元年五月十四日、浅井久政と朝倉義景が結託し、浅井長政の暗殺を企てた「小谷城の変」が発生する。長政軍は混乱し、兵を失いながら小谷城を脱出。多数の家臣が久政側に寝返り、長政軍は壊滅状態となった。
朝倉軍の侵攻と信長の対応
元亀元年五月十一日、朝倉家の家臣が美濃へ侵攻。これに激怒した信長は柴田勝家を総大将に任じ、降伏を認めず殲滅するよう命じた。しかし、長政を援護しようとしたところ、久政軍が突然挙兵し、長政軍を襲撃。信長の予想外の事態となった。
静子軍の介入と久政軍との戦闘
静子軍は東南アジアからの胡椒の苗木を受け取りに行く途中、偶然にも久政軍と遭遇し、戦闘に巻き込まれる。静子軍は優れた戦術と装備で久政軍を撃退し、長政軍と合流。織田の援軍として共闘し、久政軍を返り討ちにすることを提案した。
長政軍と静子軍の共同戦線
長政は静子の提案を受け入れ、久政軍との戦闘に備えた。久政軍六千に対し、長政軍千と静子軍四千が対峙。静子軍は斜陣を展開し、弓兵の一斉射撃と側面攻撃で敵を追い詰めた。戦闘は混乱を極めたが、最終的に久政軍は多くの死傷者を出し、撤退を余儀なくされた。
秀吉軍との合流と戦後処理
戦闘後、静子軍と長政軍は秀吉軍と合流し、兵力は一万五千に増強された。信長の命を受け、近江国への侵攻を計画。戦後、久政の勢力は大きく衰退し、信長の戦略通りに進んでいた。
静子と胡椒の栽培
静子は胡椒の苗木と種を受け取り、本格的な栽培を開始。温度管理のためにビニールハウスを建設し、温度計と湿度計を製作。胡椒の発芽率の低さに苦戦しながらも、長期的な収穫を見据えて準備を進めた。
ターキッシュアンゴラと動物の世話
静子はターキッシュアンゴラ、象亀、真孔雀、ジャーマンシェパードを世話しながら、織田家や家臣たちに動物を譲渡。信長と前久もターキッシュアンゴラの魅力に惹かれ、譲渡を求めるほどであった。静子は信長から四千坪の土地を得て、動物の世話と胡椒の栽培に専念することとなった。
胡椒栽培の困難
静子は毎日温度と湿度を記録し、胡椒の苗木や種の状態を観察し続けた。しかし、栽培開始から十数日で十二本の苗木が枯れ、種の発芽は五十粒中わずか一粒という厳しい状況であった。途中、枯れかけた苗木が息を吹き返すも、新たに一本が枯れ、最終的に生き残ったのは十二本のみとなった。静子は困難な状況を受け止めつつ、栽培の改良を試みた。
果樹園の発展
胡椒栽培が難航する一方で、接ぎ木したみかんやレモンの苗は順調に成長していた。発送準備も進み、大半はみかんだが、わずかにレモンも含まれていた。さらに、中国原産の寧波金柑と支那実桜も果樹園に加わった。支那実桜は自家結実性を持ち、一本でも実をつける特徴があった。これらの新たな果樹の導入により、果樹園の充実が進んだ。
戦の準備と朱印状
彩が届けた朱印状には、朝倉・浅井征伐に備えた竹矢の増産命令が記されていた。静子は工業生産方式を導入し、矢の生産を効率化していたため、大幅な増産が可能であった。また、合戦の準備が本格化する中、技術街から対物レンズが届けられた。これは、静子が戦場の常識を覆すべく開発を進めていたものであった。
双眼鏡とフィールドスコープの完成
静子は対物レンズと直角プリズムを組み立て、双眼鏡とフィールドスコープを完成させた。六倍三十口径と八倍四十二口径の双眼鏡、三十倍と六十倍のフィールドスコープ、さらに自分用の七倍五十口径の双眼鏡を作成した。これにより、戦場での視察や監視の効率が飛躍的に向上することが期待された。
信長の視察と鬼丸国綱
信長は静子の発明に興味を示し、視察に訪れた。静子は五百メートル先の立て札をフィールドスコープで確認できることを実演し、信長を驚嘆させた。信長はその有用性を即座に理解し、さらなる改良を指示した。そして、静子が求めていた名刀「鬼丸国綱」を報酬として授けた。
信長の気まぐれと静子の奮闘
視察後、信長は静子邸に滞在し、美食を求めた。静子は旬の食材を用いて朝餉を準備し、卵かけご飯や納豆を信長に振る舞った。信長は初めて食す納豆に困惑しながらも、その味に魅了され、食事を楽しんだ。その後、静子は山菜を採りに行く準備を進めたが、そこへ濃姫が現れ、信長の食事に興味を示した。
濃姫の登場と静子の苦悩
濃姫は信長が美食を堪能していると聞き、静子のもとを訪れた。彼女は侍女を連れずに行動し、静子を驚かせた。信長と異なり、濃姫は静子の料理に対して特に期待を寄せていなかったが、興味本位で食事を共にすることを決めた。静子はその場を取り繕うため、急いで山へ向かう準備を整えた。
山菜採取と調理
静子は山に入り、山菜を次々と見つけていった。春ゴボウやウドなどを採取し、最後に畦道でノビルを収穫して山菜集めを終えた。採取した山菜を活かすため、天ぷらにして丼にすることを決め、調理を開始した。出来上がった天丼に味噌汁と漬物を添え、信長と濃姫に昼食を提供した。
信長と濃姫の食事
静子が部屋に入ると、信長は濃姫の膝枕で眠っていた。普段は気を許さない信長が、濃姫の前では穏やかな表情を見せていた。静子が昼食を告げると、信長は目を覚まし、天丼に手を伸ばした。天ぷらの衣に染み込んだ甘辛いタレが食欲をそそり、彼は次々と箸を進めた。味噌汁や煮物と交互に食べ、満足げな様子を見せた。
信長の警告
食事を終えた信長は、静子に「昼寝の件は忘れるように」と念を押した。静子は最初は何のことか分からなかったが、信長が寝顔を見られたことを恥じているのだと気付いた。彼は静子の頬をつかんで強調し、彼女は慌てて了承した。
夕食の準備
港町へ食材を買いに行った慶次たちだったが、花街へ消えた者もおり、戻ったのは才蔵のみだった。彼が届けた食材の中には、旬のサワラ、大粒のハマグリ、伊勢エビが含まれていた。静子は伊勢エビのマヨネーズ焼き、焼きハマグリ、サワラの塩焼きを調理し、夕食を整えた。
夕食と信長の満足
信長と濃姫の前に料理を運ぶと、彼らは興味深そうに料理を眺めた。信長はまず伊勢エビに手を伸ばし、マヨネーズ焼きの濃厚な味わいに驚いた。続いてサワラの塩焼きを食べ、焼きハマグリの旨味を堪能した。彼は特にハマグリを気に入り、おかわりを要求した。
濃姫との夜
食事後、信長は将棋を始めた。相手は濃姫であり、彼女は思い切りの良い手で信長と互角に戦った。結局、濃姫が二連勝し、勝者の権利として静子を「占有」すると宣言した。信長が勝っていれば狩りに連れ出されるところだったが、濃姫は静子を抱き枕代わりにするだけであった。静子は状況を受け入れ、夜を共にした。
奇妙丸の不満
数日後、静子が畑仕事をしていると、奇妙丸が信長から接待の話を聞かされ、不満を爆発させた。彼は「自分も静子に至れり尽くせりされたい」と言ったが、静子は疲れるから嫌だと即答した。奇妙丸は家督を継いだら必ず接待を受けると宣言したが、静子は呆れつつ適当に流した。二人のやり取りは、主従というよりも、姉弟のようであった。
千五百七十年六月下旬
動物たちとの穏やかな日常
静子が迎えた動物たちは、順調に新たな環境に馴染んでいた。ジャーマンシェパードたちは広い土地で元気に走り回り、病気の兆候もなかった。ターキッシュアンゴラのタマとハナもそれぞれの犬たちと親しくなり、川の字になって寝るほどの仲となった。特にハナはお腹を見せて眠るほど安心しきっていた。静子はそんな彼らを見守りながら、狼の顎の下を撫でると気持ち良さそうにすることに気付き、興味深く観察した。
政局の動きとお市の訪問
一方で、信長や徳川、久政、朝倉の周囲は緊張感に包まれていた。信長は内政に注力し、近江侵攻の準備を進めていた。その最中、お市が訪れ、信長に助けられたことへの感謝を述べた。お市は信長が変わったと指摘し、彼の肩に猫が乗っている姿を見て驚く。信長は堂々と「愛いであろう」と語り、彼女をさらに驚かせた。その後、濃姫が現れ、お市を気晴らしに誘い、彼女を引き連れて去っていった。
長政の落ち込みと信長の対応
浅井家から追放された長政は、信長に庇護されていたが、精神的に大きく落ち込んでいた。信長は彼を立派な武家屋敷に迎え、新品の衣装を用意したが、長政の沈んだ様子に濃姫も呆れた様子であった。彼がもう少し再起への意欲を見せていれば、家臣たちも離反せずに済んだかもしれないと濃姫は指摘した。
静子の工房と新技術の試み
静子は新しく建設した工房で、スクリュー漁船のモックアップを作成していた。彼女は将来的な動力源の変化に備え、スクリュープロペラの概念を浸透させようとしていた。作業中、足満はモデルガンを作り、それに夢中になっていた。静子は彼の熱中ぶりに呆れながらも、武器開発の重要性を改めて認識する。
近江侵攻に向けた準備
信長は近江商人に久政との取引を容認する姿勢を見せ、戦の準備を進めた。森可成が軍の編成を担当し、静子にも従軍命令が下された。彼女の部隊は 6000 名の兵力を持ち、彼女自身は信長の命令により居残りとなった。その間、彼女は兵器や物資の準備に奔走し、特に規格統一を徹底した火縄銃や矢の生産に注力した。
姉川の戦いの準備と静子の策
信長が近江侵攻を開始すると、久政は朝倉に援軍を求めた。信長は小谷城攻めから横山城へ方針を変更し、浅井・朝倉連合軍との決戦が迫っていた。その頃、静子は朝倉軍を壊滅させるための策を考えていた。彼女は足満と相談し、恐怖と混乱を引き起こす手法を用いることで軍を崩壊させる作戦を立案した。
動物園の建設と訓練
静子は動物たちのために動物園の建設を進め、象亀や真孔雀のための施設を整備した。同時に、信長の命により火縄銃の特別訓練を行い、輪番射撃の技術を習得させることで、射撃速度の向上を目指した。ミニエー弾を用いた火縄銃の開発も進行しており、軍備の近代化を推し進めていた。
戦の進行と静子の決意
久政の防衛網は信長の調略によって崩れ、織田軍は迅速に進軍した。静子は従軍できないながらも、自身の役割として兵器開発と物資調達に注力していた。彼女は姉川の戦いが不可避であることを理解し、歴史の流れを変えるために何ができるかを考え続けていた。
篝火の観測と信長の指示
信長は横山城攻めの最中、大依山に篝火が移動するのを発見した。フィールドスコープを用いて確認し、敵軍の動きを察知すると、全軍に布陣を命じた。翌日の夜明けに戦が始まると断じた信長の命により、織田軍の兵士たちは緊張しながら戦の準備を進めた。姉川畔は大軍が展開できる土地であり、戦国時代では珍しい大規模な会戦となった。
戦場の布陣と戦略
織田・徳川軍は南側、浅井・朝倉軍は北側に布陣した。織田軍は浅井軍と、徳川軍は朝倉軍とそれぞれ対峙する形となった。信長は姉川に兵を集中させつつも、横山城の包囲を解かず、城内からの追撃を防ぐための兵を残した。一方、家康は独自の戦略を採用し、主力級の武将を後方に控えさせた。
足満の作戦と戦闘の開始
徳川軍は足満率いる静子隊と弓騎兵隊を前線に配置し、戦闘の主導権を握らせた。足満は兵たちを煽りながら突撃命令を下したが、実際に飛び出したのは彼と弓騎兵隊のみであった。朝倉軍がこの動きを嘲笑する中、足満らは隠していたコンパウンドボウを用い、発煙弾やカプサイシン爆弾を放ち、敵軍を混乱させた。さらに、ロケット花火を用いて視界を奪い、恐怖を煽ったことで朝倉軍はパニックに陥った。
朝倉軍の崩壊と足満の策略
煙幕とカプサイシン爆弾により朝倉軍の混乱は深まり、隊列は崩壊した。足満は弓兵に雑菌やカビを付着させた矢を放たせ、長期的な損害を狙った。朝倉景紀と前波新八郎の隊は壊滅状態となり、朝倉景健は撤退を決断した。唯一、武名を守るために突撃を試みた真柄直隆も、足満の矢によって討たれた。
家康の策略と戦果の横取り
家康は朝倉軍が崩壊した隙を突き、側面から奇襲を仕掛けた。足満の作戦が成功したにもかかわらず、最終的な戦果は徳川軍が奪う形となった。家康は飄々とした態度で足満を労い、彼を戦線から遠ざけることで更なる手柄を阻止した。足満はその策略に気づきながらも、表向きは家康の提案を受け入れた。
織田軍の苦戦と静子隊の介入
一方、織田軍は浅井軍の猛攻に押されていた。磯野隊が織田軍の陣を突破し、本陣に迫る勢いを見せたが、補給を終えた静子隊が戦線に割って入り、磯野隊を挟撃した。さらに、横山城の監視役であった氏家卜全・安藤守就の遊軍、徳川軍の増援、稲葉一鉄隊がそれぞれ浅井軍の側面を突いたことで、浅井軍は総崩れとなった。
戦の決着と信長の評価
戦闘は午前六時に開始され、朝倉軍が潰走したのが九時、浅井軍が敗走したのが十時であった。織田軍は横山城を攻略し、秀吉を城に入れて抑えとした。しかし、信長はこの戦を「失敗」と評した。敵軍を完全に屈服させることができなかったこと、久政の動きを監視できなかったことを悔やんだのである。
戦後処理と足満の行動
足満は戦後、戦場に残された軍馬を回収し、皮や肉を加工して活用した。また、大麻入りの煙草を雑賀衆に広めることで敵対勢力を内部から崩壊させる策を考えた。しかし、これが他の地域に広がるリスクもあるため、慎重に実行する必要があると判断した。
織田軍の再編と静子隊の強化
姉川の戦いの功績により、足満は正式に静子隊の武将として編入され、兵千名が与えられた。静子軍の総兵力は七千五百五十名となり、信長の直属部隊である「特殊作戦師団」に再編された。さらに、信長は静子に「老成持重」の黒印状を下賜し、一定の裁量権を与えた。
疫病対策と静子の決意
静子は兵士とその家族に天然痘と麻疹の免疫を持たせるための施策を進めた。牛痘の接触による天然痘の免疫獲得、麻疹の軽度感染による抗体形成を行い、疫病の流行を防いだ。姉川の戦いの余波が収まる中、彼女は次の戦いに備え、城の防衛強化と抗生物質の実用化に向けた準備を進めた。
書き下ろし番外編 金は天下の回り持ち
経済と金の流れ
「金は天下の回り持ち」という格言が示すように、金は常に人から人へと流れていた。この流れが止まると、経済も停滞する。例えば、銀行が貸し渋りを行い、企業への資金供給を止めた場合、企業は事業を縮小し、最悪の場合は倒産に至る。これは巡り巡って経済全体の停滞を招く。金の流れは人間の血液の流れと同じであり、滞れば組織は壊死するのである。
労働者の余裕と経済成長
経済の活性化には、単に市場に金を流すだけでなく、労働者に余裕を持たせることが重要である。明日の生活すら危うい者に消費を促しても意味はない。ヘンリー・フォードは、従業員に破格の給料を払い、消費を促すことでアメリカの繁栄を後押しした。日本では松下幸之助が同様に、経営難の際も社員解雇を拒み、従業員の奮起を促して業績を回復させた。経済成長の鍵は、金の流れと労働者の余裕にあった。
資本家の思惑と静子の経営
しかし、いつの時代も経営者や資本家は「労働者に業績を上げさせながら、給料はできるだけ抑える」ことに執心する。静子も経営者に近い立場にありながら、経済の活性化を図るため、当時としては破格の給料を支払っていた。最下層の人足でさえ一日40〜60文、職人は100〜200文と、市場の平均を大きく上回る賃金であった。職人は道具や材料に多くの金を使い、それが経済の循環を生むため、高い賃金を支払う価値があった。
利益の管理と労働意欲
静子は高い給料を払いながらも、余剰な人員を出さず、効率的な経営を維持していた。しかし、利益が出過ぎることに頭を悩ませていた。労働者への還元は決めていたものの、過剰な給料は労働意欲を下げる可能性があるため、適正な水準を見極める必要があった。こうした調整は慎重さを要し、静子にとっても負担となっていた。
人材の確保と事務仕事の難しさ
信長の経済政策により、商人たちは寺社勢力から離れ、尾張・美濃で商売を行うようになっていた。この影響で金の流れは活性化していたが、静子は財務管理や後方支援を担える人材の不足に悩まされていた。戦国時代では武功を重んじる風潮が強く、事務仕事を担う人材は少なかった。商人を採用する案もあったが、才覚で生きる彼らは雇用に応じるとは思えなかった。
消費の低迷と慶次の例外
高い給料を支払っても、多くの者は最低限の消費にとどまり、生活の質を向上させる余剰消費には至っていなかった。唯一、慶次だけは収入と支出がほぼ同じで、派手に金を使っていたが、他の者は慎重に金を管理していた。才蔵や長可は支出を半分程度に抑え、武具や礼装の購入など、必要経費にのみ使っていた。静子は消費を促したいと考えたが、一朝一夕で変わるものではなかった。
静子の経済観と信念
静子は自身が金を持ちすぎることを好まず、最悪の場合、地位を失っても元の生活に戻るだけだと考えていた。彼女は金に執着せず、人々が互いに助け合う環境を重視していた。こうした考えは周囲からも理解され、特に彩はその姿勢を内心好ましく思っていた。静子は、金がある限りは経済を回し、人々の生活を豊かにすることを最優先としていたのである。
同シリーズ
戦国小町苦労譚 シリーズ
小説版
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漫画
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その他フィクション
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