どんな本?
ライトノベル『続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー(9)』は、魔法が科学技術として確立された世界を舞台に、四葉家を巡る陰謀と戦いを描く作品である。
サンフランシスコの暴動が収束し、主人公・司波達也は暴動の原因となった魔法「ギャラルホルン」に対抗する魔法の開発を進めている。一方、日本の政界では元老院四大老の一人、穂州美明日葉が四葉家への粛清計画を進行中である。彼女は、達也が無断で発掘した富士山麓の遺跡を自身の縄張りと見なしており、魔法を無力化する異能を持つ次期当主・富貴花を中心に四葉の隠れ里を襲撃しようと企てる。さらに、達也を憎む分家の当主・黒羽貢も不穏な動きを見せ、四葉家は危機に直面する。
主要キャラクター
• 司波達也:主人公。四葉家の一員であり、優れた魔法技術者。
• 穂州美明日葉:元老院四大老の一人。四葉家への粛清を計画する。
• 富貴花:次期当主。魔法を無力化する異能を持つ。
• 黒羽貢:四葉家の分家当主。達也に敵意を抱き、不穏な動きを見せる。
本作は、魔法と科学が融合した独自の世界観と、複雑な人間関係、政治的陰謀が絡み合うストーリーが特徴である。特に、四葉家を巡る内部抗争や外部からの圧力が緊張感を高め、読者を引き込む要素となっている。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• 発売日:2024年12月10日
• 判型:文庫判
• ページ数:280ページ
• ISBN:9784049159776
本シリーズはアニメ化もされており、多方面でメディア展開が行われている。
読んだ本のタイトル
続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー (9)
著者:佐島勤 氏
イラスト:石田可奈 氏
あらすじ・内容
元老院四大老の一人が四葉家粛清計画を! 四葉家内でも怪しい動きが……。
サンフランシスコ暴動は収まり、平静を取り戻した。達也は暴動を引き起こした魔法ギャラルホルンの対抗魔法の開発を急いでいた。
一方、日本の政界の黒幕でも動きが。元老院四大老の一人、穂州実明日葉が、四葉家への粛清計画を進めていた。彼女らが自分の縄張りだと見なしていた富士山麓の遺跡を達也が無断で発掘したためだ。魔法を絶対的に無力化する異能を持つ、次期当主の富貴花を中心に四葉の隠れ里襲撃を企てる。
絶体絶命の四葉家だが、達也のことを憎む分家の当主、黒羽貢がどうやら不穏な動きをしており……。
感想
四葉家を巡る陰謀と新たな脅威
本巻では、四葉家を中心に展開される複数の陰謀と戦いが描かれていた。
元老院四大老の穂州実明日葉による四葉家への襲撃計画と、それを迎え撃つ達也の冷徹な戦略が物語の軸となっている。
特に、穂州実富貴花の魔法無効化能力が四葉家にとって大きな脅威となり、結界の崩壊が避けられない状況が緊迫感を生み出していた。
さらに、黒羽貢の裏切りや独自の行動も物語に複雑さを加え、貢の独自の行動は達也を恐るあまりの行動とも取れるが、その後の行動が謎であった。
え?隠居するの?
ロクな事をしなさそう。
達也の新魔法とその効果
達也が開発した[ヒュプノス・チェイン]が、本巻で重要な役割を果たした。
この魔法は、群衆を混乱させるギャラルホルンに対抗するで、群衆を眠らせるという斬新な手法だった。
その魔法を達也と深雪は戦場で実験して、敵軍の侵攻を一瞬で無力化する威力を発揮した。
特に、新ソ連軍と大亜連合軍がこの魔法によって圧倒される様子は印象的であったが、、
達也が新ソ連の艦船を雲散霧消で消去し、過去のトラウマを刺激された兵士達がパニックを起こした処に深雪が[ヒュプノス・チェイン]を行使して混乱している兵士達を眠らせた。
素でエグい。
実験を兼ねた戦闘において、達也の知略と深雪の魔法が見事に調和し、圧倒的な成果を上げた。
また、この魔法の成功が、[ギャラルホルン]対策の新たな可能性を示した。やっぱり素でエグい。
四葉家の未来と孤島への移転
本巻では、元老院四大老の穂州実明日葉の襲撃をキッカケに、四葉家が政府の干渉から逃れるため、巳焼島への移転を決定するという重大な転機が描かれていた。
移転計画は達也の主導で進められ、最新技術を駆使した超大型輸送船「箱船」や、効率的な施設の再配置が印象的であった。
この孤島への引きこもりは、四葉家の新たなスタート地点であると同時に、さらなる戦略の布石とも感じさせる内容であった。
複雑に絡み合う陰謀と人間模様
穂州実家の襲撃、黒羽貢の暗躍、元老院の権力闘争といった多層的なストーリーが、物語の緊張感を高めていた。
特に黒羽貢の行動には、四葉家に対する複雑な感情と策略が込められており、彼の葛藤が物語に深みを与えていた。
一方、穂州実家の敗北と穂州実家当主の死による権力争いは、新たな火種として次巻以降への期待を膨らませる展開であった。
総評
新ソ連、大亜連合の侵略、四葉家を巡る陰謀や、達也の新たな魔法実験、孤島への移転という大きな転機が描かれた本作は、これまでのシリーズ以上にスケールの大きな物語であった。
達也を中心とした圧倒的な戦略と力が描かれる一方で、黒羽貢の暗躍も際立ち、物語全体に深みを与えていた。
次巻では、さらに大きな動きが予想される。
達也を含む、四葉家の運命がどのように展開していくのか、不安が募る展開であった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
アニメ
PV
OP
ASCA 『Howling』(TVアニメ「魔法科高校の劣等生 来訪者編」OPテーマ)八木海莉「Ripe Aster」(アニメ「魔法科高校の劣等生 追憶編」主題歌)ED
佐藤ミキ 「名もない花」「魔法科高校の劣等生」ED同シリーズ
続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー
新魔法科高校の劣等生 キグナスの乙女たち
魔法科高校の劣等生
漫画版
四葉継承編
師族会議編
エスケープ編
その他フィクション
備忘録
【1】策動
サンフランシスコの暴動と魔法師の陰謀
西暦二一〇〇年九月末、サンフランシスコの暴動は一旦収束を見せたが、騒動の原因は魔法師ロッキー・ディーンが使用した先史文明の魔法「ギャラルホルン」であった。彼の処遇を巡り、洪門の幹部である朱元允は部下である李二郎に協力を求めた。朱は李に変装術と情報偽装の魔法を駆使して、ディーンの動向を追うよう命じた。
富士山麓の遺跡と新たな研究
一方、司波達也は富士山麓樹海の遺跡を攻略した後、魔法大学を訪れ、東山教授に暴動の鎮静化を目的とする新たな魔法開発を依頼した。達也と教授は精神干渉系の魔法を用いて群衆の興奮を鎮める術式の可能性について議論を重ねた。
穂州実明日葉の策略と黒羽貢の登場
元老院四大老の一人である穂州実明日葉は、達也が富士山麓遺跡を発掘したことに不満を抱き、四葉家への干渉を計画した。彼女は分家当主の黒羽貢を招き、四葉家本拠地への案内役として彼を雇用した。貢は四葉家に対する忠義を口実に協力を申し出たが、その真意には明日葉の策略が含まれていた。
隠れ家での思索と観察
黒羽貢は、穂州実明日葉の屋敷を辞去した後、紀伊半島南部の新宮市にある隠れ家に戻っていた。ここは黒羽家が全国各地に用意している工作拠点の一つである。貢は部下に当面この場所に近寄らないよう指示し、隠密行動を続けていた。ソファに腰を下ろし、彼は明日葉との対面を振り返った。
穂州実富貴花への警戒
明日葉には恐れるべき力を感じなかったものの、貢はその孫娘である穂州実富貴花の魔法無効化能力に驚かされた。これまで噂だと思われていたその力が、実際に存在していることを確認したのである。富貴花の能力は絶対的ではなく、無効化範囲は三メートル未満に限られるが、非常に強力な領域干渉の一種であることが明らかとなった。
四葉家への影響の推測
富貴花の能力は、四葉家の結界を破壊するには十分であると貢は考えた。これにより、四葉家の当主である真夜は困難な判断を迫られるだろうと推測した。魔法による暗殺が通用しない状況下で、次期当主の存在が四葉家の脅威となり得るからである。
行動を起こさない選択
貢は目の前の汎用端末に手を伸ばすことなく、ただ思案を続けた。彼は慎重な態度を崩さず、次の一手を見極めるように行動を保留したのである。
【2】追跡
ディーンの追跡作戦とスターズの動き
アラスカ州アレクサンダー諸島沖で、スターズは逃亡中のロッキー・ディーンを追跡していた。彼らの捜索は司波達也からのあやふやな助言を頼りに進められていたが、ディーンの潜水艇を発見する手がかりを掴んだ。スターズ第十一隊のシャウラ中尉と第四隊のスピカ少尉は、その能力と経験から指揮を任されていた。
潜水艇発見と対処の試み
スターズは非磁性船体を持つ潜水艇を海中で発見し、浮上を勧告した。しかし、潜水艇は命令を無視し続けたため、威嚇砲撃を準備した。この時、友軍である駆逐艦「メカトーフ・ザ・サード」から警告が入り、事態は予想外の展開を迎えた。
メカトーフ艦長とミラー大佐の介入
メカトーフの艦長パーマー大佐は、スターズに当該海域からの退去を要求した。その背後には、国家公認戦略級魔法師エリオット・ミラー大佐が控えており、彼の発言が事態を大きく左右した。ミラー大佐はディーンの身柄を自軍で確保し、司法当局に引き渡すと述べ、スターズの要求を退けた。
シャウラ中尉の対応と譲歩
シャウラ中尉は冷静に交渉し、ディーンが司法当局に引き渡された際にはスターズ司令宛てに報告するよう要請した。ミラー大佐はこれを承諾し、シャウラは作戦海域を退くことを決断した。スピカ少尉は悔しさを見せたが、シャウラの判断に従った。
参謀本部への非難と反論
シャウラからの報告を受けたスターズ総司令カノープスは、アラスカ基地の妨害行為を非難する文書を参謀本部に提出した。しかし、その直後にアラスカ基地司令官からスターズの越権行為を非難する文書が参謀本部に届けられた。この相互の非難は参謀本部を困惑させ、対応に苦慮させた。
参謀本部内での対立
参謀本部ではスターズとアラスカ基地のどちらに非があるかを巡り意見が分かれた。スターズ派のスタッフは、ディーン追跡作戦が参謀本部の承認を受けていた以上、それを妨害したアラスカ基地の行動は軍規違反だと主張した。一方で、「使徒」であるミラー大佐を重視する派閥は、スターズに対し不信感を抱き、特にアンジー・シリウスが日本に亡命した経緯を問題視していた。
ディーン捕縛への決定の停滞
この内部対立により、参謀本部はディーンの捕縛に関する具体的な方針を決定できない状態に陥った。スターズ派とミラー派の対立は深まり、両者の間での意見の一致は見られなかった。
【3】宇宙のパラサイト
衛星軌道居住施設での議論
九島光宣と桜井水波は、衛星軌道居住施設で二日間にわたり、パラサイトを人間に戻す魔法の取り扱いについて話し合った。光宣はパラサイトから人間に戻ることで精神や肉体に悪影響が及ぶ可能性を懸念しており、水波もまた人体実験への忌避感から慎重な姿勢を示していた。両者は、実験対象となるパラサイトの不足という現実にも直面していた。
テレパシーによる交信の試み
光宣は地球上のパラサイトが既に存在しない可能性を踏まえ、宇宙に追放されたパラサイトに向けてテレパシーで呼び掛けることを提案した。水波が懐疑的な反応を示す中、光宣は自身の戦友であるレイモンド・クラークとの交信に成功した。レイモンドは宇宙船内で無為な時間を過ごしており、地球への帰還を望む者がいる可能性を示唆した。
臨床試験の協力者選定
レイモンドとの交信の結果、パラサイトの中から四人が人間化魔法の臨床試験に協力する意思を示した。彼らは地球に戻るための選択肢を得ることに興味を抱いており、光宣が提供する軌道計算データを基に帰還を試みる準備を進めることとなった。
地球帰還計画の実施
光宣は、魔法を活用して宇宙船の軌道を調整し、地球周回軌道に乗せる提案を行った。レイモンドたちはその可能性を検討し、光宣が送ったデータを活用して地球への帰還を目指すことを決定した。半年後に再会する約束を交わし、光宣は友人たちの無事な帰還を祈りつつ準備を進めた。
光宣からのメッセージ
十月五日の夜、達也は調布の自宅で仕事をしている最中、巳焼島経由で光宣からの暗号メッセージを受け取った。「直接会いたい」という簡潔な内容ながら、その文面には切迫感が滲んでいた。達也は「明晩八時に仮想衛星エレベーターのプラットフォームで」と返信し、すぐに面会の準備を整えた。
東山研究室での新魔法開発
達也はこの週、魔法大学に三日連続で通い、新魔法の開発に取り組んでいた。研究の対象は、先史魔法文明の遺産である「ギャラルホルン」に対抗する精神干渉系魔法であった。この魔法は暴動を引き起こす破滅衝動を鎮めることを目的としており、その完成には精神干渉系魔法に適性を持つ津久葉夕歌と、東山教授の協力が不可欠であった。
夕方の研究室での別れ
午後五時、達也は研究室を出て、ゼミ室で待っていた深雪とリーナに声を掛けた。リーナはその後のコンパに誘われていたが、急な予定変更を理由に参加を断ることとなった。達也と深雪はゼミ仲間に礼を述べた後、巳焼島への準備のため部屋を後にした。
巳焼島への準備
深雪とリーナの会話を経て、リーナは懇親会に向かい、達也と深雪は巳焼島での活動に集中する姿勢を見せた。達也の取り組む新魔法開発は社会秩序の維持に直結する重要な任務であり、二人はそのための行動を急いでいた。
光宣との再会と相談内容
午後八時、光宣は巳焼島の仮想衛星エレベータープラットホームに現れ、達也と深雪と再会した。新設された管制施設で行われた話し合いで、光宣はパラサイトを人間に戻し地球に降ろす計画について相談した。達也はそれ自体には問題が無いとしつつ、レイモンドたちの宇宙船「ベローナ」に関する懸念を示した。
「ベローナ」と監視の問題
達也は、レイモンドたちが乗る「ベローナ」が北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)によって監視されている可能性を指摘した。宇宙船が地球に接近する際、高千穂の存在が露見するリスクがあるとし、その対応策を検討する必要があると述べた。これに対し光宣は、宇宙船のトレース信号を停止するなど、監視から逃れる手段を模索すると答えた。
高千穂の重要性と防衛策
高千穂は現代技術では実現不可能な宇宙施設であり、その存在が知られることで日本政府や達也への圧力が高まることが予測された。そのため、達也は「ベローナ」からの監視を引き剥がす方法を考えることが急務だと語った。一方、光宣も信号の停止に向けた指示をレイモンドに送ることで対策を進める意志を示した。
深雪からの提案
話し合いを終えた後、深雪は光宣に対し、水波への土産を渡すために居住棟へ来るよう提案した。光宣はその誘いを快諾し、再び地上での交流を深める場面が描かれた。
【4】襲撃
四葉家のヘリポートへの襲撃
小淵沢駅近くの四葉家所有のヘリポートに、大型輸送ヘリが無断で着陸した。管理員である二人の戦闘魔法師が抗議を行ったが、応答は嘲笑だった。四葉本家に報告が行われ、花菱執事の指揮のもと迎撃部隊が派遣された。侵入者との戦闘は地下道で発生し、迎撃部隊には犠牲者が出たが、本家の村への侵入は阻止された。
達也への報告と四葉本家の被害状況
巳焼島から戻った達也と深雪は東京の自宅でリーナ、亜夜子、文弥から本家襲撃について知らされた。文弥の報告によれば、地下道での戦闘で迎撃部隊に死者が出たものの、本家自体への被害は無かった。達也は敵の正体や目的について調査の必要性を認識した。
黒羽貢の不在と本家の不信感
文弥と亜夜子の話から、黒羽貢と連絡が取れないことが判明した。貢は新宮市にいると推測されるが、通信機能を切っており、家の者にも連絡を禁じていた。達也は、黒羽家が襲撃に関与した可能性を完全には否定しなかったが、現段階では断定を避ける態度を見せた。
襲撃者の推測と四葉家への挑戦
達也は今回の襲撃が外国勢力ではなく、国内の四葉家を恐れない勢力の手によるものだと分析した。深雪は政府や元老院の関与を示唆し、特に四大老やそれに準じる人物が関与している可能性を挙げた。襲撃の背景には四葉家に対する重大な挑戦が隠されていると考えられた。
八雲からの招待と達也の疑念
四葉家襲撃の翌朝、達也は八雲から「都合の良い時に来訪を」というメールを受け取った。これに過去の経験から不穏な予感を抱いた達也は、即座の対応は避けつつも、時間が取れ次第訪問する意向を返信した。
夕歌の緊急連絡と計画変更
朝食後、達也は夕歌からのメールで本日の共同研究のキャンセルを知らされた。彼女が本家に呼ばれた背景に昨夜の襲撃が関係していると考えた達也は、これを機に八雲の招待を受け、寺へ向かう準備を始めた。
八雲による襲撃の背景説明
寺に到着した達也は、八雲から昨夜の襲撃が穂州実家の私兵によるものであることを告げられた。八雲は、穂州実家が富士山麓の遺跡を自らの縄張りと主張しており、それが四葉家との衝突の原因であると説明した。
穂州実家の目的と脅威
八雲の話によれば、穂州実家の狙いは四葉本家の村を守る隠蔽結界の破壊であった。その中心には、魔法無効化の異能を持つ穂州実富貴花という人物の存在があった。この能力は、結界や呪陣を根本から破壊する力を持ち、四葉家にとって極めて危険であるとされた。
東道閣下の指示と達也の対応
八雲は東道閣下からの伝言として、穂州実家との全面対決も辞さないという方針を達也に伝えた。達也には穂州実富貴花への対応について「好きにして良い」と許可が下りたが、その背景には元老院内の権力構造を揺るがす可能性も含まれていた。達也は状況を受け入れ、今後の対策を練る決意を固めた。
【5】箱船
真夜からの呼び出し
八雲の寺から帰宅した達也は、花菱兵庫から本家の真夜から電話があったと伝えられた。達也は電話室で連絡を取ると、真夜から「今後の話し合いのため本家に来てほしい」と要請された。地下道の使用が可能であると確認した達也は、すぐに四葉本家へ向かった。
葉山の正体と本家の状況
本家に到着した達也は、真夜と葉山に迎えられた。そこで葉山が元老院の支配人であり、東道閣下の派遣による四葉家の監視役であることが明かされた。真夜は今回の襲撃が元老院全体の総意ではなく、穂州実家の独断によるものと説明されたが、元老院の黙認がある状況を指摘し、葉山もこれを否定できなかった。
四葉本家の移転計画
真夜は達也に、四葉本家の隠蔽結界が破壊される可能性や、その後の曝露を考慮して本家の村を放棄し、巳焼島への全面移転を決定したことを伝えた。達也はこの計画に同意し、移転のための研究設備や必要機材の分解・再成を依頼された。達也は全設備の移動が可能と判断し、その準備に入ることを了承した。
輸送船「箱船」の視察
達也は四葉家の技術者紅林の案内で移転に使用する大型輸送船「箱船」を視察した。この船は全長320メートルの超大型エアリアルシップで、32基の飛行魔法ユニットを搭載し、最大時速400キロメートルの飛行が可能であった。飛行中は雲に偽装する光学系魔法を使用し、木造船体に刻印魔法を施すことで軽量化と強度を両立していた。達也はその技術に感嘆し、移転計画の具体化に向けた準備を進める決意を固めた。
【6】大国の共謀
黒河市返還と秘密会合
大亜連合と新ソ連は黒河市の返還式典を行った。この返還は秘密裏に結ばれた対日同盟の一環であった。式典会場近くでは、大亜連合軍の陳祥山と新ソ連の情報局高官ソコロフが秘密会談を実施し、日本への共同作戦の最終打ち合わせを行った。ドローン攻撃を偽装して日本沿岸部を攻撃し、両国の工作員を潜入させる計画が確認された。
瀋陽での作戦準備
会合を終えた陳祥山は瀋陽の司令官室に戻り、義理の娘である陳静娜上尉と、部下の呂偉辰中尉に作戦の指揮を命じた。陳静娜は日本への潜入後の作戦指揮を任され、呂偉辰が補佐役となった。
作戦内容の確認
作戦の目的は、日本軍の内部に潜入した亡命者に暗示を作動させ、基地を破壊することであった。陳静娜は亡命者に掛けられた暗示が日本軍に気付かれない理由を尋ねた。陳祥山は、日本軍の検査が暗示の発見には不十分であると説明し、陳静娜はこれを嘲笑しつつ計画を受け入れた。
ソコロフと元文正の密会
ソコロフは黒河市の密談を終え、ハバロフスクの個人拠点で元文正と会合を持った。元文正は香港三合会の大幹部であり、新ソ連と大亜連合の対日同盟を成立させる橋渡し役を務めた。元文正は朱元允の指示で動いていたが、その背景はソコロフに知られていなかった。
作戦の進行確認
元文正はソコロフに対し、共同作戦の決行日を尋ね、十五日であると確認した。さらに、サハリンへの同行を提案し、自身の勢力をサハリンに拡大する意図を示唆した。ソコロフは元文正の申し出を受け入れ、同時に補給物資の提供を要求した。
利害の一致と取引の成立
元文正は、サハリンでの勢力拡大を条件にソコロフに資金を提供することを約束した。両者は互いの目的を理解し合い、利害が一致する形で取引を成立させた。この密会により、香港三合会が背後で影響力を行使している構図が浮き彫りとなった。
【7】 EXODUS
移転作業の準備と本家への泊まり
達也はエアリアルシップ『箱船』の視察後、紅林の案内で移転予定の施設を巡った。移転作業は迅速かつ秘密裏に進める必要があり、達也は設備の詳細な「情報」を視て準備作業を行った。作業は日暮れまで続き、達也は本家に泊まることになった。
葉山への提案
達也は本家の屋敷で葉山と二人きりになる機会を得た。葉山の今後の立場について尋ねた後、四葉家に付くよう提案した。葉山は驚きつつも即答せず、考える時間を求めた。達也は急がないと伝え、その場で話題を終えた。
深雪と花菱兵庫の会話
大学から帰宅した深雪は達也の不在に気付き、花菱兵庫に状況を尋ねた。達也が本家に出向いたと知り、真夜が昨日の襲撃事件に関する指示を出したと推測した。深雪は不満を抱きつつも、それを表に出さず対応した。
達也からの連絡
夕刻、深雪は本家からの電話で達也と連絡を取った。達也は本家での「大仕事」について直接話すことを約束し、明日に戻ると伝えた。深雪はその言葉に従い、待つことにした。
夕食時のリーナとの会話
夕食時、リーナが深雪のもとを訪れた。達也が戻らない理由を聞いたリーナは、単なる敵の排除ではない複雑な事情を推測した。政治的な判断を現場に押し付けるべきではないというリーナの意見に、深雪は共感しつつも将来の自分への教訓として心に留めた。
仮眠中の襲撃と幻術の抵抗
達也は移転作業の準備を終えた後、仮眠を取る為に和洋室のカウチで横になった。眠りにつくことなく身体を休めていた彼の前に、桜並木の幻影が現れた。これは幻術による攻撃であると即座に見抜いた達也は、幻影を無効化し目を開けた。すると襖の向こうからガラスの針が投げ込まれたが、達也は掌で受け止め、瞬時に傷を消してみせた。
黒羽貢との対峙
襲撃者は黒羽貢であり、彼はさらに勾玉を繋いだ腕輪を使い、達也に幻術を仕掛けた。しかし達也は再び術式を解散し、貢の攻撃を無力化した。貢の目的は、達也に自分を攻撃させ、報復の呪法「黄泉道返」を発動させることにあった。しかしその目論見は失敗に終わった。
真夜の登場と状況の説明
その後、真夜が葉山と白川を伴い現れ、貢の背後関係と行動を説明した。貢の攻撃には、四葉家と穂州実家との対立が絡んでおり、幻術「夢道返」や「黄泉道返」の使用目的も語られた。さらに、貢の妻が東雲家出身であり、彼が東雲家の秘術を学んでいたことも明らかになった。
貢の裏切りと真夜の計画
貢は四葉家を危機に陥れる為に穂州実家に通じたと告白したが、その行動が四葉家の為になると信じていたとも述べた。真夜は貢に対し、穂州実家への「寝返り」を演じ、その情報を利用するよう命じた。貢はこの命令に従うことを誓い、その場を去った。
達也と真夜の会話
貢が去った後、達也は真夜に貢の行動がどこまで計画に含まれていたのかを問うた。真夜は貢の行動は自発的なものであり、自らのシナリオではないと答えた。達也は真夜の判断に異を唱えず、責任者としての決定を尊重した。最後に達也は、真夜が貢を裏切り者ではなく有用な存在として扱うことを受け入れ、事態を見守ることにした。
移転作業の開始と準備
午前一時、四葉家の重要設備の移転作業が開始された。この作業は移転というよりも、村全体を巳焼島へ移動させる脱出作戦であった。達也は設備を粉塵化し、椎葉英俊の念動力でコンテナ詰めを行い、効率的に作業を進めた。英俊の能力は運搬に優れており、作業の中でその有用性を発揮した。
移転作業の進行
二人は電動カートを用いて村内を移動し、設備を迅速に粉塵化・収集した。地下設備の分解も順次進められ、廃棄予定の施設も安全上の理由から達也の判断で完全に破壊された。放棄施設の分解には飛行魔法を用い、効率的かつ安全に対応した。
エアリアルシップへの積載
エアリアルシップ『箱船』へのコンテナ積み込みは他の作業員によって進められた。午前四時、全てのコンテナが積み込まれた後、『箱船』は村を離れ、巳焼島に向けて飛び立った。
巳焼島での作業
巳焼島に到着したエアリアルシップは、指定された地点上空で静止した。達也と新発田勝成は、地下倉庫を掘り、移転した設備を収める準備を進めた。勝成の密度操作と達也の分解・再成によって、広大な地下倉庫が迅速に完成した。
設備の再成と配置
英俊がコンテナを操作し、達也が粉塵を元の設備へ再成する作業が繰り返された。設備は整然と配置され、最終的にエアリアルシップが地下倉庫に蓋をする形で着陸した。この作業により、四葉家移転の第一段階が無事に完了した。
【8】報復
穂州実家の進軍準備
穂州実家の私兵集団は、四葉家の旧第四研がある谷間を見下ろしていた。結界に覆われた村は外見上、空き地のように見えた。偵察隊は下り道を探していたが、発見されるリスクを避けるには少人数で進む以外に道が無いと報告した。指揮を執る富貴花は、日没を待つ決断を下した。
富貴花の背景と決断
富貴花は穂州実家の次期当主候補として厳しい訓練を受け、生存能力を重視する帝王学を学んでいた。彼女は報告を受け冷静に状況を判断し、配下に休憩を命じつつ、自らも短時間休息を取った。
黒羽貢の報告
黒羽貢が現れ、四葉真夜が村を離れており、防衛が手薄であるとの情報を提供した。富貴花はその報告を信じ、総攻撃を命令した。私兵たちは斜面を下りながら対魔法師用の火器で攻撃を開始した。
村の防衛と魔法師犯罪者の反撃
村からは魔法による反撃があったが、威力は限定的であった。反撃を行っていたのは、四葉家が洗脳して防衛に当たらせた重犯罪魔法師たちであった。一方、穂州実家の私兵団は古式魔法の防護術で守られ、攻撃を凌いでいた。
結界の崩壊
富貴花が斜面を下りきると、反撃は完全に途絶えた。彼女が村の結界に接触すると、魔法無効化フィールドの影響で結界が瞬時に崩壊した。村の隠れた姿が露わとなり、穂州実家の部隊は侵攻を続ける準備を整えた。
四葉家の結界崩壊と迎撃
四葉家の村を隠していた結界が崩壊した情報は、巳焼島にいる達也たちにも即座に伝わった。村に侵入した穂州実家の私兵が画面に映ると、達也は真夜の指示を受け、拳銃型CADトライデントを用いて建物ごと侵入者を破壊した。
村での掃討戦と建物崩壊
富貴花は村の掃討戦を命じたが、私兵が建物に入ると次々と構造物が崩壊した。この異常事態に私兵団の指揮官が撤退を決断し、富貴花もこれを追認した。彼らは仲間を救助することなく村を去った。
建物崩壊の仕組み
四葉家の建物は地下室を基礎に持ち、達也はその地下構造を分解して建物を崩壊させていた。敵が撤退した後、真夜の指示により村全体を廃墟と化した。
富貴花の撤退と黒羽貢の行動
富貴花は甲府の別荘に戻り、撤退後の対応に移った。一方、黒羽貢は単独で自走車を運転し、西へ向かった。目的地や同行者はなく、完全な孤立行動であった。
深雪による真夜の出迎え
その夜、深雪は東京本部ビルの屋上で巳焼島からのVTOLを待ち受けた。到着したのは達也ではなく真夜であった。深雪は真夜を丁重に迎え、用意した部屋についても案内したが、真夜は予定通りホテルに滞在する旨を伝えた。その後、深雪は真夜をホテルまで案内し、その役目を終えた。
元老員へのビデオメールと穂州実家の動揺
元老員に一本のビデオメールが送られた。それには、四葉家の村で撤退を余儀なくされた穂州実富貴花の姿が記録されていた。作戦自体は結界を破壊して四葉家を晒すという目的を達成したものの、多大な犠牲を払ったことが強調されていた。さらに、東道青波からの皮肉めいたメールが明日葉に送られ、これが彼女の怒りを一層煽った。
黒羽貢による暗殺
深夜、黒羽貢は穂州実家の屋敷に侵入し、明日葉の寝室に到達した。彼は黒羽家の暗殺魔法「毒蜂」を用いて、明日葉に致命的な激痛を与えた後、痕跡を残さず立ち去った。これにより、穂州実明日葉は死亡し、貢は任務を全うした。
巳焼島でのアリバイ工作
達也は巳焼島に滞在し、恒星炉プラントの復旧を指揮するという形でアリバイを作った。この行動は真夜の手配によるものであり、四葉家が穂州実明日葉の暗殺に直接関与していないことを示す狙いがあった。
調布への帰還と巳焼島の未来
達也は調布の自宅に戻り、深雪やリーナとともに巳焼島での出来事を共有した。彼は巳焼島を四葉家の新たな本拠地とする計画や、恒星炉プラントの将来的な移転の可能性について語った。さらに、土地不足の解決策として人工地盤の設置や、過去に行った噴火の誘導による島の拡張も議論に上がった。
恒星炉プラントの移転候補地
達也は恒星炉プラントの移転先として、小笠原諸島や北海道などを候補地として挙げた。また、海外の歓迎の可能性にも触れたが、この発言は政治的な配慮を要するものであり、深雪と達也は慎重な態度を見せた。
穂州実家の混乱と権力争い
穂州実家では、穂州実明日葉の死を隠蔽しようとしたが、その日の午後には政財界に暗殺の噂が広まった。富貴花の後継者指名に対する一族の不満がくすぶる中、この状況を利用しようとする勢力が現れた。不満分子たちは明日葉の死をリークし、富貴花の家督継承を遅らせようとした。これにより、小悪党たちが穂州実家の利権を狙い、動き出した。
四大老の動揺と調査命令
暗殺劇により、四大老の中でも安西勲夫と樫和主鷹は動揺を隠せなかった。元老院の権威が揺るがされる可能性を危惧した二人は、それぞれ信頼する者に調査を命じた。安西は桂木朱夏を召喚し、暗殺の手口解明の為に穂州実家への弔問団に参加させた。一方、樫和は十六夜家当主の十六夜諧を呼び、十師族の動向を探る任務を託した。
桂木朱夏の任務
安西に呼ばれた朱夏は、穂州実明日葉の暗殺に関する調査を命じられた。彼女は弔問団に加わり、現場で手掛かりを探すよう指示された。朱夏は安西の信頼を受け、慎重かつ徹底的に調査を進める決意を固めた。
十六夜諧の任務
樫和は十六夜諧に対し、十師族や二十八家の魔法師たちの中で四葉家に同調する動きが無いか探るよう依頼した。樫和は陸軍情報部の支援を約束し、諧に対する信頼を示した。諧はこの任務に全力を尽くす姿勢を見せた。
元老院内の不安定な情勢
穂州実明日葉の死とその影響は、元老院の権威を揺るがす可能性を示唆していた。四葉家の報復が元老院全体への挑戦と見なされる中、主要な権力者たちはそれぞれ対策を講じ、事態の沈静化を図っていた。
【9】眠らせる魔法
魔法大学での研究再開
達也は深雪とリーナを連れて魔法大学へ向かい、[ギャラルホルン]対策の研究を再開した。東山研究室にて先週の議論内容を確認している最中に、津久葉夕歌と東山教授が合流し、研究が本格的に始まった。
精神干渉系魔法の限界とアプローチ変更
夕歌は精神干渉系魔法による群衆の沈静化が難しいと指摘した。東山も同意し、生化学的アプローチや感覚入力アプローチに目を向けるべきとの結論に至った。生化学的アプローチでは神経伝達物質を操作する吸収系魔法が検討されたが、現実性に乏しいと判断された。
群衆誘眠魔法への転換
午後に合流した深雪の提案で、群衆を眠らせる魔法へと方向性が転換した。達也と東山はチェイン・キャスト技術を用いた広範囲誘眠魔法の可能性を検討し、精神干渉系魔法の効果と範囲を両立させる新たな設計を模索することとなった。
音波と電流の活用
リーナが指摘した音波と微弱電流の睡眠導入効果が研究対象に加わった。東山は効果的な周波数の調査を担当し、達也はチェイン・キャスト技術の設計に取り組むことになった。
具体的な設計と目標設定
夕歌は[ヒュプノス・ガーデン]の魔法式をアレンジし、ノンレム睡眠ステージ 4に誘導する設計を担当した。東山はこの状態が破滅衝動を抑える鍵になると考え、研究は具体的な実装段階へ進み始めた。
研究の前進
深雪とリーナのアイデアにより、研究は迷走から脱却した。新たな方針で[ギャラルホルン]対策に向けた実質的な進展が始まった。
チェイン・キャスト技術の概要と開発経緯
チェイン・キャストという名称は、ベゾブラゾフが名付けたものではなく、達也が[トゥマーン・ボンバ]を観察した際に仮称として付けたものであった。この技術はベゾブラゾフ以外には伝えられておらず、現在では達也と彼から技術を学んだ吉祥寺真紅郎の二人だけが再現可能であった。達也はチェイン・キャストを用いて[海爆]や[氷河期]といった大規模魔法を開発し、その応用として誘眠魔法の大規模化を担当した。
達也によるチェイン・キャストの調整
達也は自宅の研究室で深夜まで作業を行い、群衆誘眠魔法のためのチェイン・キャスト起動式をほぼ完成させた。ただし、発動タイミングの調整は残されており、それには夕歌が進めている[ヒュプノス・ガーデン]改良版の進捗が必要であった。達也は調整を翌日に持ち越した。
夕歌の[ヒュプノス・ガーデン]改良
夕歌は[ヒュプノス・ガーデン]を短時間で改良し、精神干渉系魔法の範囲を狭め効果を強化した。理論的には完成したが、実地テストを必要としていたため、彼女は四葉家の監獄施設にいる亜夜子に協力を依頼した。
伊豆での実地テスト
翌朝、夕歌は亜夜子と共に伊豆半島の四葉家が管理する監獄施設を訪れた。彼女は囚人を対象に改良版[ヒュプノス・ガーデン]を発動し、約十秒で対象者全員を眠らせることに成功した。ただし、発動までの時間が課題として残され、さらなる改善が求められた。
感覚入力魔法の試行と限界
一方、達也と東山は感覚入力を利用した誘眠魔法の可能性を検討した。特定の音波や微弱電流を用いた魔法を即興で構築し、ゼミ生を対象に実験を行ったが、興奮状態の対象には効果が不安定であった。達也はこの方法の実用性に見切りを付け、[ギャラルホルン]対策としては不適切であると判断した。
チェイン・キャスト版誘眠魔法の調整と課題
実験成果の共有と課題の浮上
夕歌は伊豆で行った実験の成果を研究室で共有した。実験データには高い実用性が示されており、東山と達也はその完成度に満足した。しかし、チェイン・キャストを組み込むことで、対象範囲を広げる際に必要な魔法力の増大という課題が明らかになった。この技術では百人規模が限界であり、汎用性を欠く結果となった。
チェイン・キャスト版のテストと命名
深雪とリーナもテストに参加したが、チェイン・キャストの操作には高い適性が求められ、深雪のような優れた魔法師にしか実用は難しいと判明した。その後、リーナの提案で新魔法の名称を「ヒュプノス・チェイン」と命名した。
群衆誘眠魔法のさらなるテストの必要性
深雪と達也は「ヒュプノス・チェイン」の大規模テストが必要であると結論づけたが、一般市民を対象にすることは安全性の観点から不可能であり、適切なテスト機会を見つけられずに行き詰まった。後遺症のリスクや魔法の副作用を考慮し、慎重な検討が続けられた。
風間からの連絡と新たな機会
達也のもとに風間から緊急連絡が届き、新ソ連が樺太で大規模な部隊を動員しているとの情報が示された。達也は新ソ連の動きを、誘眠魔法の実戦テストの機会と捉えた。彼は深雪に「新魔法のテストに協力してもらう」と語り、挑発的な笑みを浮かべながらその決意を固めた。
【10】二方面侵攻
侵攻の兆候と将輝の召喚
実家からの緊急連絡
木曜日の朝、一条将輝は父・剛毅からの電話を受けた。新ソ連と大亜連合が協力し、日本への侵攻を準備している可能性が浮上したという内容だった。将輝は事態の深刻さを理解し、急ぎ実家へ向かった。
巳焼島での達也の待機
一方、達也は深雪とリーナを連れて巳焼島で待機していた。新ソ連軍の動きを成層圏プラットフォーム監視カメラで監視し、必要に応じて素早く対応する準備を整えていた。専用ジェット機の配置により、宗谷岬への迅速な到達が可能となっていた。
実家での状況説明
実家に戻った将輝を出迎えたのは妹の茜と、元大亜連合の「使徒」だった一条レイラであった。剛毅は新ソ連軍と大亜連合軍の動きや、ウラジオストク港に停泊する艦艇の状況を説明。工作員の日本潜入が予測され、レイラを狙った拉致や破壊工作の危険性が指摘された。
護衛と戦略級魔法への期待
茜は監視役としてレイラの傍に付けられており、将輝にも二人の護衛が求められた。さらに、将輝の戦略級魔法の使用が必要になる可能性も示唆された。将輝はその責任を引き受ける決意を示し、力強い態度で二人を守ることを誓った。レイラと茜の反応には、感謝と安堵の表情が浮かんでいた。
ドローン侵攻と迎撃の準備
ラジン港での潜入作戦開始
ウラジオストクの輸送艦と高速艇が日没後に出港し、囮として動き始めた。同時に、ラジン港では大亜連合軍特務部隊上尉の陳静娜が潜入作戦の開始を確認。漁船に偽装した工作船の準備が整い、彼女は部下の呂偉辰とともに作戦進行を見守っていた。
佐渡島沖での輸送艦の動き
十月十五日、輸送艦が佐渡島沖に現れた。沿岸警備隊の警告に応じて針路を変更したが、船陰から多数のドローンを放出していた。この動きに気付けなかった国防軍は臨検を見送った。
小松基地での将輝たちの対応
小松基地では、一条将輝と吉祥寺真紅郎が輸送艦の動向を追跡していた。輸送艦がドローンを放出した可能性が疑われたが、レーダーでは探知されなかった。二人は疑念を抱きつつも迎撃策を模索した。
ドローンの発見と警報
佐渡島を迂回して北陸地方へ向かうドローン群が、十六夜諧によって感知された。諧は直ちに小松基地へ通報し、高度な隠蔽魔法を施されたドローンの存在を知らせた。
迎撃の決断と準備
情報を受けた将輝と吉祥寺は、ドローン迎撃に向けた出撃を決断した。将輝は「[爆裂]以外の魔法を使えば対応可能」と自信を示し、吉祥寺も軌道予測で支援すると表明。さらにレイラが自らの魔法で加勢を申し出た。吉祥寺はその提案を受け入れ、迎撃作戦に同行するよう手配を進めた。
輸送機での出撃へ
軍曹の案内で輸送機への搭乗が決まり、将輝、吉祥寺、レイラ、茜の四人は迎撃準備を進めた。制限時間が迫る中、彼らは迅速に動き出し、ドローン侵攻への対応に臨んだ。
新ソ連・大亜連合の共同作戦と迎撃の展開
巳焼島での作戦状況の把握
巳焼島にいた達也は、樺太やウラジオストクの艦艇動向をハッキングで把握していた。藤林響子が佐渡島西方海上のノイズを報告し、達也は[エレメンタル・サイト]で調査。その結果、新型隠蔽魔法を使用したドローンの存在を確認した。達也は藤林に国防軍への警告を指示する一方、爆弾の処理は敵に察知される恐れから控えた。その後、深雪とリーナと共に指令室を離れ、新たな動きに備えた。
小松基地での緊急情報共有
将輝、吉祥寺、レイラ、茜を乗せた輸送機が飛び立った直後、小松基地にHAPSカメラのノイズ情報が伝えられた。これにより敵ドローンの位置が特定され、彼らは上越市への接近を阻止するため迎撃を急ぐこととなった。
迎撃戦術の協議と実行
輸送機内で吉祥寺が、レイラの[霹靂塔]を用いたドローン迎撃作戦を提案。雷を発生させず電気抵抗の低下のみで回路をショートさせる方法が議論され、レイラが照準用のARゴーグルを装着して作戦に臨んだ。レイラの魔法により多数のドローンが撃墜され、隠蔽魔法も解除された。
逃れたドローンへの対応
四機のドローンが迎撃範囲を脱して市街地に接近したが、将輝が次々と撃墜。最後の一機が市街地に到達しようとした瞬間、隠蔽が解かれ、搭載していた爆弾が空中で分解され海上へ散らばった。この現象を目撃した将輝は、過去に達也が披露した魔法を連想した。
ドローン迎撃の完了
分解されたドローンは防空システムにより撃墜され、残る脅威は排除された。隠蔽解除と爆弾分解の背後に誰の力が働いたのか、将輝は思案を巡らせた。
極超音速プライベートジェットと達也の対応
達也の超長距離射撃
達也はプライベートジェットの客室で、拳銃型のCAD「トライデント」を用い、一条将輝が撃ち漏らしたドローンを超長距離から撃破した。隣席の深雪がそれを尋ねると、達也は「最低限のフォロー」と説明した。リーナは達也の技術に驚嘆しつつも呆れを見せたが、深雪は穏やかに微笑んで応じた。
陳静娜の苦境と作戦続行
大亜連合の陳静娜は、ドローン攻撃の失敗を受けても潜入作戦を中止できない状況に直面していた。新ソ連との共同作戦で面子を保つ必要があり、第一段階の失敗にもかかわらずミサイル艇を動員して第二段階を開始する判断を下した。
督戦コードの実行
陳静娜はミサイル艇に攻撃命令を発し、将兵に洗脳プログラム「督戦コード」を埋め込み、戦闘継続を強制した。この決定により、ミサイル艇の将兵たちは現実感を失い、命を省みず戦闘を続行することになった。工作船も潜入地点へと動き出した。
陳静娜の内面と決意
陳静娜は任務の失敗と戦死を覚悟しつつ、無意味な帰還よりも戦死を選ぶ覚悟を固めていた。彼女は義父である陳祥山の冷酷さを熟知しており、自身の利用価値が失われた後の運命を想像していたためである。
新ソ連軍の動きと偶然の転機
この危機的な状況下で、サハリンの新ソ連軍がタイミング良く侵攻を開始した。この新たな動きが陳静娜たちに予想外の転機をもたらし、状況の展開に新たな可能性が生じた。
極超音速ジェットと達也の迎撃
離陸と戦闘の準備
達也が搭乗した専用機「雷閃」は、国防軍の要請を受けた体裁を整えつつ離陸した。このジェットは、慣性制御と気流操作魔法を活用した高性能な機体で、達也専属のパイロット四八徹による操縦で音速の七倍に達する速度で飛行した。
北海道沿岸での緊急着陸
新ソ連軍が北海道北東部に侵攻を試みる中、雷閃は敵艦の砲撃を受けながらも防御魔法で攻撃を防ぎ、垂直着陸を成功させた。達也は深雪とリーナの支援を受けつつ、即座に行動を開始した。
達也の分解魔法による迎撃
達也は拳銃型CAD「トライデント」を用い、揚陸艦を分解魔法[雲散霧消]で消滅させた。船体だけでなく内部の戦闘車両までも塵と化し、これにより新ソ連軍はパニックに陥った。続けて達也は中型艦や艦隊全体のスクリューを破壊し、逃走不能の状況を作り出した。この攻撃により、侵攻計画は崩壊した。
佐渡島と能登半島の迎撃態勢
ミサイル迎撃の成功
新ソ連ミサイル艇が発射したミサイルは、佐渡島と能登半島に設置された最新鋭のパルスレーザー砲により迎撃された。これらの施設は徹底したスパイ対策の下で建設され、大亜連合や新ソ連の予測を上回る性能を発揮した。
逃走と疑念
迎撃後、ミサイル艇の半数は撃沈されたが、残る半数はウラジオストクへの逃走を許された。この動きに対し、指揮を執る陳静娜は日本軍の対応の鈍さを訝しんだ。
陳静娜の潜入作戦
罠への決意
日本軍の対応の背後に罠を感じつつも、陳静娜は潜入作戦を中止せず、能登半島西岸への上陸を強行した。彼女は、状況が不利でも逆境を打破する強気の姿勢を示し、潜入部隊を率いて行動を続けた。
新ソ連軍残存部隊への対応
達也の指示と深雪の準備
新ソ連の侵攻部隊残存艦艇は推進力を失い、行動不能に陥っていた。達也は極超音速ジェット機「雷閃」に合図を送り、搭乗していた深雪に魔法の発動を指示した。深雪は新型大型CADを操作し、索敵データを受け取りながら魔法準備に取り掛かった。
ヒュプノス・チェインの発動
深雪は群衆誘眠魔法[ヒュプノス・チェイン]を発動した。この魔法は情報次元上の人間の意識に作用し、肉体と精神の通信を強制的に停止させるものである。魔法の効果により、新ソ連の兵士たちは一斉に意識を失い、その多くが行動不能に陥った。海上に漂っていた者たちの中には、強制睡眠によって溺れる者もいた。
実験の完了と撤退
侵攻部隊の無力化と実験成功
新ソ連侵攻軍が完全に無力化されたことにより、達也の実験目的であった[ギャラルホルン]対策の効果が確認された。達也はさらなる攻撃や捕虜の確保を行わず、その場を去る決断を下した。捕虜を取る権限は持たず、戦闘集団の掃討も彼の役目ではなかったためである。
撤退と国防軍への引き渡し
達也は深雪の待つ雷閃へ戻り、国防軍の接近を確認したが特に通信を行うことなく現場を離脱した。リーナが飛行魔法を補助し、雷閃は成層圏へ向けて急上昇しながら撤退を完了した。
【11】陽動
ロッキー・ディーンの脱出
客船との合流と朱元允の意図
カムチャッカ半島東沖で、アラスカ州フォックス諸島を母港とする遠洋漁船とオークランド港発の客船が接舷し、漁船乗員が客船に移動した。これはエンジントラブルによる救助という表向きの理由でありながら、実際にはロッキー・ディーンを支援する計画的な合流であった。客船で彼を迎えた初老のジロー・リーは朱元允からの指示で動いており、朱の直筆の手紙を示してディーンを安心させた。
千里眼の懸念とジローの施術
ジローはディーンが千里眼の魔法で追跡されている可能性を指摘し、その対策として「メイクアップ」を施すと伝えた。ディーンは最初は懐疑的だったが、ジローが父親から受け継いだ魔法研究の技術を聞き、施術を依頼した。その結果、ディーンは翌朝新たな顔を手に入れ、追跡から逃れる準備が整えられた。
達也たちの帰還と成果の評価
帰還後の実験成果の議論
達也たちは「雷閃」で巳焼島に戻った後、すぐに調布へ移動し、夕食を兼ねた会話の中で実験成果を確認した。深雪は[ヒュプノス・チェイン]の効果と負担感についてリーナに説明し、予想以上の成果が得られたと語った。達也は実験前提条件の整備や新ソ連軍の混乱を観察しつつも、その醜態に対しては呆れを見せた。
深雪とリーナの応酬
リーナは達也の「悪名」を冗談交じりに語ったが、深雪はこれを「威名」と訂正し、達也の評価を高めようとした。達也はこのやり取りに深入りせず、会話を見守るに留めた。
実験データの検証と盲点
実験データの処理と結論
夕食後、達也は地下の研究室で「雷閃」が記録した映像やデータの整理に取り掛かった。翌日、東山研究室で[ヒュプノス・チェイン]の検証が行われ、[ギャラルホルン]対策として十分な効果があると結論付けられた。
ディーン追跡の失敗
しかし、達也が実験データの処理に集中するあまり、ロッキー・ディーンの追跡を中断してしまっていたことに気付くまで、一週間を要した。このミスが今後の展開にどのような影響を与えるのか、波乱を予感させる結果となった。
登場キャラクター(所属別)
四葉家
• 司波達也(四葉家当主の息子、次期当主の婚約者)
• 司波深雪(四葉家次期当主)
• 四葉真夜(四葉家当主)
• 黒羽貢(黒羽家当主)
• 黒羽文弥(黒羽家次期当主)
• 黒羽亜夜子
• 花菱兵庫
• 椎葉英俊
• 紅林(四葉家の技術者)
穂州実家
• 穂州実明日葉(元老院四大老の一人)
• 穂州実富貴花(次期当主候補)
元老院
• 東道青波(元老院の重鎮、四葉のスポンサー)
• 安西勲夫(四大老の一人)
• 樫和主鷹(四大老の一人)
魔法大学
• 東山教授(研究室の主任)
• 津久葉夕歌(精神干渉系魔法の適性者)
スターズ(USNA軍)
• リーナ(アンジェリーナ=クドウ=シールズ、USNA軍スターズ第1部隊元隊長。
現:司波深雪の護衛)
• シャウラ中尉(スターズ第11隊)
• スピカ少尉(スターズ第4隊)
• カノープス(スターズ総司令)
USNA軍
• エリオット・ミラー大佐(国家公認戦略級魔法師)
一条家(十師族)
• 一条将輝(当主候補)
• 一条剛毅(現当主)
• 一条茜(将輝の妹)
• 一条レイラ(元大亜連合「使徒」)
新ソ連
• ソコロフ(情報局高官)
• パーマー大佐(駆逐艦「メカトーフ・ザ・サード」艦長)
大亜連合
• 陳祥山(大亜連合軍幹部)
• 陳静娜上尉(潜入部隊指揮官)
• 呂偉辰中尉(陳静娜の補佐)
その他
• ロッキー・ディーン(元USNA軍魔法師、「ギャラルホルン」の使用者)
• 朱元允(洪門の幹部)
• ジロー・リー(朱元允の部下、変装魔法の専門家)
• 九島光宣(九島家の元当主候補、現:パラサイト)
• 桜井水波(光宣の伴侶、パラサイト)
• レイモンド・クラーク(宇宙に追放されたパラサイト)
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