どんな本?
『盾の勇者の成り上がり』は、異世界ファンタジー小説である。主人公・岩谷尚文は、異世界に召喚され、盾の勇者として冒険を繰り広げる。第12巻では、新たな敵との戦いや仲間との絆が深まる物語が展開される。
主要キャラクター
• 岩谷尚文:盾の勇者として召喚された青年。仲間と共に数々の試練に立ち向かう。
• ラフタリア:尚文の最初の仲間であり、剣士として彼を支える存在。
• フィーロ:フィロリアルと呼ばれる鳥型の魔物で、尚文の仲間。
物語の特徴
本作は、異世界召喚ものの中でも、盾という攻撃手段を持たない武器を扱う主人公の成長と苦悩が描かれている点が特徴である。また、仲間との信頼関係や裏切り、陰謀など、深い人間ドラマが展開される点も魅力である。
出版情報
• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:MFブックス
• 発売日:2015年09月25日
• 判型:B6判
• ISBN:9784040677873
• メディア展開:本作はアニメ化もされており、2019年1月から6月まで第1期が放送された。さらに、2022年4月から6月に第2期、2023年10月から12月に第3期が放送された。第4期は2025年7月に放送予定である。
読んだ本のタイトル
盾の勇者の成り上がり 12
著者:アネコ ユサギ 氏
イラスト:弥南 せいら 氏
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あらすじ・内容
成り上がり異世界ファンタジー第十二弾開幕!!
異世界からの不死身の侵略者を撃破し、剣の勇者・天木錬をなんとか改心させた盾の勇者の尚文。
平和な日常を取り戻し、奴隷たちの修行のためコロシアムに行くと、信じられないものを目撃する。それは偽名を使い、己の正義を貫くため、一心不乱にファイトマネーを稼ぐ弓の勇者の姿だった!?
「正義とは力。正しい事の証明。弱きを助け、強きを挫く!」
悪女ヴィッチに翻弄され、カースに浸食された弓の勇者を尚文は更生させることはできるのか!?
ついに勇者更生編(?)完結!? 異世界リベンジファンタジー第十二弾ここに登場!!
感想
尚文は村の運営を進めながら、仲間たちと共に修行に励んでいた。剣の勇者・錬は過去の失敗を悔い、修行に打ち込んでおり、弓の勇者・樹は消息不明。槍の勇者・元康も行方が分からないままであった。尚文は、異世界からの侵入者や波への備えとして、村の戦力を向上させることを決意する。
そんな中、難病を患っていたハクコ(白虎)種の兄妹が登場する。尚文の薬で妹が完治し、元気を取り戻すが、その活発さに兄は振り回されていた。妹はラフタリアをライバル視し、無駄に火花を散らすことに。さらに、盾の勇者を信仰する国から献上された卵が孵化し、新たな使役魔獣としてドラゴンが仲間に加わる。しかし、フィロリアル種とは遺伝的に相性が悪く、フィーロと絶えず対立する状況となった。
村の戦力がある程度整ったことを確認した尚文は、仲間たちを連れて闘技場へ向かう。そこで、長らく行方不明だった弓の勇者・樹を発見する。しかし、彼はカースシリーズに侵され、自己中心的な正義に囚われていた。尚文の言葉は届かず、まともな会話が成立しないほどの偏りを見せていた。
そんな彼に立ち向かったのは、かつて樹に捨てられたリーシアであった。彼女は修行を積み、自らの力で樹を撃破することに成功する。この戦いにより、樹はようやく過ちを認め、救いの道へと進むこととなった。
総括
今回も多くの新展開があり、非常に楽しめる内容であった。特に、ハクコ種の兄妹のやりとりが印象的である。病弱だった妹が急に元気になり、兄が振り回される姿は微笑ましくもあり、ラフタリアとのライバル関係も面白い要素となっていた。
また、新たに仲間に加わったドラゴンとフィーロの関係も見どころである。遺伝的に相性が悪いためか、フィーロと常に対立し、些細なことで衝突していた。こうした細かい設定が物語をより深くしており、読んでいて飽きることがなかった。
一方で、弓の勇者・樹の登場は衝撃的であった。自己中心的な正義に取り憑かれ、カースシリーズの影響で尚文たちの言葉も届かない状態となっていた。しかし、そんな樹を撃破したのがリーシアというのがまた熱い展開である。彼女はこれまでずっと脇役の印象が強かったが、今回の戦いで完全に主役級の活躍を見せた。まさに主人公体質と言えるだろう。
総じて、戦闘・キャラクターの成長・コメディ要素のバランスが取れた巻であり、非常に満足できる内容であった。今後も尚文の成長や仲間たちの活躍に期待したい。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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備忘録
プロローグ 盾の勇者の朝
朝の始まりと日常の流れ
尚文は早朝に起床し、村の様子を確認していた。奴隷たちが目覚める前に動き出し、村の管理や魔物の世話を行うことが日課となっていた。窓の外では、すでに錬が剣の鍛錬に励んでいた。彼は尚文と異なる異世界から召喚された剣の勇者であり、過去の失敗を乗り越え、修行に打ち込んでいた。
勇者たちの過去と現在
かつて尚文は異世界召喚に夢を抱いていたが、陰謀によって濡れ衣を着せられ、人間不信に陥った。その後、事件を乗り越えながら波への対策を進め、霊亀関連の問題を解決したことで次の波までの猶予を得た。これを機に、彼は私兵の育成を決意し、ラフタリアの故郷である村を復興しながら、住民たちを戦士として鍛え始めた。
錬の過去と贖罪
錬はかつてヴィッチの策略に騙され、尚文と対立していたが、その後、真実を知り、保護された。だが、カーススキルの代償として、運の低下や装備の損壊といった制約を抱えていた。エクレールの指導のもと、彼は尚文の領地に留まり、鍛錬を積むこととなった。しかし、元康は未だ行方不明であり、尚文は彼の動向を警戒していた。
修行と新たな課題
尚文自身も修行の必要性を感じ、変幻無双流の顧問の指導を受けることを決意していた。錬とは異なる訓練を受けることになり、さらなる戦闘への備えを進めていた。
村の統治と奴隷制度
村の運営は順調に進み、奴隷制度を活用しながら秩序が保たれていた。新たな奴隷も増え、統率はラフタリアを中心とした幹部たちに委ねられていた。尚文は村の戦力強化を図り、波に備えようとしていた。
魔物たちとの交流
尚文は魔物舎で魔物たちの世話をし、村の住人と共に朝の運動を行った。キールは獣人の資質を開花させ、犬のような姿で尚文に懐いていた。村の子供たちも奴隷ながら活発に活動し、戦力となるべく成長していた。
ラフタリアと仲間たち
ラフタリアは尚文にとって信頼できる相棒であり、彼を支え続けていた。彼女と共にいるラフちゃんは、尚文が作った使い魔であり、村のマスコット的存在となっていた。また、亜人のアトラも尚文の治療によって回復し、戦力として期待される存在となっていた。
異世界からの侵入者との戦い
尚文たちは異世界からの侵入者と戦い、その中で翻訳機能を持つアクセサリーを手に入れた。セインはその道具を利用して意思疎通を図るようになったが、尚文はさらなる調査の必要性を感じていた。侵入者たちは世界を滅ぼすことで利益を得る存在であり、尚文たちは彼らの脅威に対抗するための準備を進める必要があった。
村の日常と未来への展望
尚文は朝食を作り、村の住人に振る舞いながら、それぞれの成長を見守っていた。彼の領地では開拓が進み、戦力の増強が急務となっていた。今後も波への備えを進めつつ、村の発展と仲間の強化に尽力していくことが求められていた。
一話 即席開花
奴隷たちの仕事と尚文の修行
朝食を終えると、奴隷たちは各々の仕事に取り掛かった。鍛錬に励む者、魔法を学ぶ者、行商へ出る者、復興作業を手伝う者など、その役割は多岐に渡っていた。尚文はこの日はアトラとの稽古を行うこととなり、フォウルは狩りに出発した。アトラが担っていた見張りの役目はラフタリアが引き継いだ。
変幻無双流の修行と新たな訓練方法
尚文は変幻無双流の師範であるババアに修行を願い出た。ラフタリアやエクレールが着実に成果を上げていたため、自身も本格的に鍛錬を積む必要性を感じていた。しかし、ババアによれば尚文はまず「気を感じ取ること」を習得しなければならなかった。すぐに強くなる方法を探る尚文に対し、ババアは「適任な者」としてアトラを推薦した。彼女には気の扱いに優れた才能があり、組み手を重ねれば尚文も理解を深められるはずだと説明した。
フォウルの成長とアトラの決意
アトラの実力について尚文が言及すると、フォウルは強く反発した。しかし、アトラとの小競り合いの結果、彼が妹より劣っていることが明白となった。尚文はフォウルに修行を勧め、アトラは兄に感謝を述べた後、尚文との鍛錬に意欲を見せた。ラフタリアにはババアとの修行を命じようとしたが、彼女は珍しく拒否した。ババアはライバルの存在が向上心を生むとし、ラフタリアとアトラを競わせる形で修行を進めることにした。
命力水の発注と修行の準備
ババアは本格的な修行には山へ行く必要があると述べ、尚文に許可を求めた。だが、命力水を用いた修行なら村や町でも可能であり、エクレールやリーシアも効率的に鍛錬を積めると説明した。尚文は命力水の必要量を確認しながら、錬の修行についても考えを巡らせた。錬は楽に強くなりたいわけではなく、エクレールと共に切磋琢磨する道を選んでいた。
アトラとの組み手と気の感知訓練
尚文はアトラとの組み手を開始し、彼女の突きを受けながら気の流れを感じ取ろうとした。ババアからは正しい気の逃がし方を学ぶよう指摘されていたが、まだ完全には習得できていなかった。アトラとの実戦形式の訓練を通じて、尚文は徐々に感覚を掴み始めた。
ラフタリアとアトラの激闘
アトラとの組み手が終わると、今度はラフタリアがアトラと対峙した。両者の戦いはまるで実戦のように激しく、木刀を交えながら互いに鋭い攻撃を繰り出した。アトラは突きを主体に攻め、ラフタリアはそれを避けながら反撃を試みた。二人の間には明確な敵意こそなかったが、尚文から見ても真剣勝負にしか見えない激しい戦いが繰り広げられた。
昼食と町への移動
戦いが終わり、昼食の時間となった。尚文が作った食事をキールたちは喜んで食べ、村の雰囲気は和やかなものとなった。昼食を終えると、尚文はラフタリアやアトラと共に、武器屋の親父の元へ向かうため、ポータルを使用して城下町へ移動した。
二話 錬金術師
武器屋での再会と新たな鍛造計画
尚文が武器屋を訪れると、店番をしていたのはイミアの叔父であった。彼は武器の需要が高まり、作っても作っても売れていく状況にあると話し、売上の一部を尚文の装備代に充てることを提案した。尚文は金欠が続いていたため、この申し出に感謝した。イミアの叔父はルーモ種の獣人で、以前奴隷商から購入した際に手先の器用さが判明し、追加で購入した仲間の中に彼の血縁者がいたことで、尚文は彼を「イミアの叔父」と呼んでいた。彼と武器屋の親父は旧知の仲であり、鍛冶について意見を交わしながら日々議論を繰り広げていた。
隕鉄の刀の鍛造
尚文は武器屋の親父に、以前見せてもらった隕鉄の盾について質問した。親父は、素材が希少で売りたくないため倉庫に保管しているだけだと説明した。そこで尚文は、その隕鉄を溶かして刀に打ち直せないかと提案した。親父はそれを聞いて納得し、ラフタリアも興味を示した。彼女が所持する刀は異世界の眷属器であり、七星武器に相当すると考えられていたため、隕鉄の刀にすればさらなる力を引き出せる可能性があった。親父は刀の鍛造には特に思い入れがあり、かつての師匠が刀鍛冶の名工だったことを思い出しながら、尚文の依頼を快諾した。作業には二、三日かかる見込みであり、尚文はその間に村の装備の発注についても検討することにした。
錬金術師ラトティルとの遭遇
村へ戻ると、フィーロが帰還しており、魔物好きの奴隷たちと共に尚文を迎えた。しかし、エクレールと錬が現れ、外部からの来訪者が問題を引き起こしていると報告した。その訪問者はフォーブレイで異端とされ、追放された錬金術師であった。尚文が警戒する中、その錬金術師ラトティル=アンスレイアはすでにフィーロに接触し、勝手に彼女の体を調べ始めていた。フィーロは抵抗するも、ラトティルは薬を使って彼女の動きを封じようとした。尚文は彼女の独断専行を非難し、目的を問いただした。
ラトティルの研究と尚文の判断
ラトティルは、フォーブレイでは自身の研究が「神をも恐れぬ所業」として弾圧されたと説明した。彼女の目的は、魔物の能力を向上させ、人類の役に立つ存在を作り出すことであった。特にフィロリアルに興味を持ち、伝承にある神鳥を再現することを目指していた。尚文はその考えに一定の理解を示しつつも、彼女の信用性を確かめるために奴隷契約を提案した。ラトティルはこれを即座に受け入れ、尚文は彼女を試験的に受け入れることを決めた。
魔物の増殖問題
ラトティルとのやり取りが終わった直後、魔物好きの奴隷たちが隠していたキャタピランドが発覚した。尚文が数を確認すると、購入したはずの二匹よりも一匹多くなっていた。調査の結果、奴隷たちは魔物の巣から卵を持ち帰り、内緒で育てていたことが判明した。さらに、彼らは奴隷商を通じて魔物紋の登録を尚文の名前で行っており、そのため尚文の管理下にあるとされていた。尚文は奴隷たちを叱責し、今後は勝手な行動をしないよう念を押した。
卵の正体とラトティルの提案
奴隷たちの話を聞くと、発見された卵は一つではなく、村のあちこちに隠されていることが判明した。尚文が頭を抱える中、ラトティルは「タダで鑑定し、管理を手伝う」と提案した。奴隷たちは拒否したが、尚文はその申し出に一考の価値があると考えた。彼女の知識を活かせば、魔物の管理だけでなく、バイオプラントの改良にも活用できる可能性があった。
新たな問題の発生
ラトティルの提案を検討していた矢先、エクレールが「尚文の留守中に発見されたものがある」と報告した。さらに、奴隷たちも「他にも問題がある」と騒ぎ始めた。尚文は仕方なく、彼らに連れられて村の外へ向かうことになった。
三話 フィロリアルとドラゴン
謎の物資と飛竜の卵
村の外には大量の木箱が山積みされていた。尚文が中身を確認すると、武具や物資、魔物の卵が詰まっていた。木箱には拙い文字で「盾の勇者様へ、恵まれない奴隷達にプレゼントしてください」と書かれていた。エクレールによると、シルトヴェルトやシルドフリーデンの関係者による寄付の可能性が高いとのことだった。さらに、その中には一際大きな卵があり、ラトティルの鑑定により、それが飛竜の卵であることが判明した。貴重かつ強力な魔物であるため、処遇に困ったが、捨てるわけにもいかず、受け取ることにした。
ドラゴンの生態と問題点
ラトティルはドラゴンの生態について説明し、飛竜を飼うには高度な魔物紋が必要であると述べた。さらに、上位のドラゴンは発情期になると節操がなく、その地域一帯の生態系を乱す危険があるという。ウィンディアはドラゴンを擁護し、彼女とラトティルの間で意見が対立したが、尚文は飛竜を管理する方針を決定した。性別については孵化時の温度で決まるため、尚文は雄を選択し、余計な問題を避けることにした。
飛竜の孵化と成長
数日後、尚文が背負っていた飛竜の卵が孵化し、中からガエリオンと名付けられた雛が誕生した。彼は小柄ながらも健康で、尚文を懐いた様子を見せた。ラトティルによると、ウィル種という忠誠心の強い種類であり、成長すれば戦力としても期待できるとのことだった。フィーロはこの新たな存在に不満を示したが、尚文は戦力増強のため、早急に育成を開始することにした。
バイオプラントの改良と村の変化
尚文とラトティルは、バイオプラントの改良を進め、新たに「キャンピングプラント」を開発した。これは簡易的な住居として機能し、日光を吸収して魔力を蓄え、夜間に光を灯すという特性を持っていた。村の住人たちはこれをすぐに受け入れ、村全体が緑に覆われるようになった。一方、ラフタリアはこの急激な変化に困惑していたが、尚文の方針には従うことにした。
ラフちゃんの強化計画
尚文は、自身の使い魔であるラフちゃんをさらに強化し、新たな魔物として定着させる計画を立てた。ラトティルもこの考えに賛同し、研究を進めることを提案した。しかし、ラフタリアは尚文の異常な執着に不安を覚え、反対の姿勢を示した。それでも尚文は、ラフちゃんの可能性を広げるため、変異性を高めることを決意した。
武器屋への訪問
ラフちゃんの件で意見が分かれたものの、尚文たちは気を取り直し、武器屋の親父のもとへ向かうことにした。隕鉄の刀の完成を確認するため、ポータルを使い城下町へと出発したのだった。
四話 スターダストブレイド
武器屋での取引と新たな刀
尚文が武器屋を訪れると、親父が迎え入れた。店の品揃えがやや寂しくなっていたが、それは二日前に届いた物資によるものだった。尚文は、必要な鉱石があれば村の者たちに採掘させることを申し出た。特にルーモ種の者たちは細かい作業を得意としており、鉱山作業がストレス解消にもなるという。親父も了承し、後で必要な鉱石の一覧を渡すことにした。
その後、親父は奥から新しい刀を取り出した。刀身の根元は未加工の隕石のように見えたが、これは隕鉄の力を刀身に導くための部位だと説明された。尚文は品質を確認し、問題ないと判断した。ラフタリアは刀を手に取り、スキルを発動させたが、流星ではなく「スターダストブレイド」という名称になっていた。この違いに尚文は少し残念そうだったが、スキルの性能は流星剣とほぼ同等だった。親父は、新しい武器を試すよう勧め、尚文たちは村へと戻った。
平穏な日々とガエリオンの成長
その後の一週間は特に大きな問題もなく過ぎた。尚文は変幻無双流の修行を続け、アトラとの組み手を日課にした。ルーモ種の者たちは鉱山で生き生きと採掘し、武器屋へと鉱石を届ける仕事に励んでいた。
一方、飛竜のガエリオンはウィンディアとラトが定期的に成長記録を取り、奴隷たちとともにレベル上げを進めた。サディナの協力もあり、一週間でレベルは38に達し、外見もかなり大きく成長した。
アトラの執拗な接近
尚文は最近、アトラが毎晩ベッドに潜り込むようになったことに頭を悩ませていた。フォウルを呼んで阻止しようとしても毎回出し抜かれ、ついには睡眠薬を使われるほどだった。ある朝、ラフタリアが偶然その現場を目撃し、状況を誤解しかけたが、尚文は何もしていないと説明した。
アトラの行動が日に日に大胆になっていることから、尚文はイグドラシル薬剤の副作用を疑った。この薬を飲んだ者が尚文を聖人のように慕うようになる可能性があると推測し、ラフタリアもその説に同意した。フォウルは即座に賛同し、アトラを強引に連れ出した。
謎の悪戯
最近、尚文の家では夜や朝にノックされることが増えていた。しかし、扉を開けても誰もいない。ラフタリアが扉を開けた際も同様で、尚文は村の誰かがいたずらをしていると考えた。以前、キールが扉の前にいたこともあったが、彼が犯人ではなさそうだった。尚文は、朝食の際に村の者たちを問い詰めるつもりでいた。
魔物舎への訪問
その後、尚文は日課として魔物舎に向かうことにした。ラフタリアも同行し、朝食の準備をする前に日課をこなすこととなった。
五話 ピンポンダッシュ
いたずらの犯人を捜索
朝食時、尚文は村の奴隷たちに対し、最近続いていたピンポンダッシュの犯人を名乗り出るように命じた。しかし、誰も手を挙げず、奴隷紋も反応しなかった。そこで村に駐在する兵士や錬にも疑いの目を向けたが、全員が否定したため、犯人の特定には至らなかった。
尚文は、扉を叩いて逃げるには相当な足の速さが必要であると推測し、魔物の可能性も考え始めた。そこで、ラフタリアとアトラには昼間の間離れるよう指示し、自らが家の中で待ち伏せすることにした。昼前の稽古を終え、家の中で待機していると、ついに扉がノックされた。尚文はすかさず「シールドプリズン」を発動し、犯人を閉じ込めた。
犯人の正体とガエリオンのいたずら
プリズンの中から聞こえた鳴き声に、尚文とラトは呆れた表情を浮かべた。捕らえられていたのは、まさかのガエリオンだった。奴隷たちではなく、魔物がいたずらをしていたのだった。ガエリオンはプリズンが解除されるとすぐに空へと逃げようとしたが、尚文は魔物紋を使って罰を与えた。
ウィンディアが騒ぎを聞きつけて駆けつけ、ガエリオンが犯人だったことを知り驚いた。尚文は、いたずらをしたガエリオンを叱り、ウィンディアもそれに従った。しかし、そこへフィーロが現れ、ガエリオンをからかい始めたため、ガエリオンの怒りを買った。尚文は、フィーロの態度を見過ごさず、魔物紋を発動して罰を与えたが、すぐに自身が他人の失敗を笑う性格であることを指摘され、罰を解除した。
ガエリオンへの対処とスキンシップ
ウィンディアによると、ガエリオンは尚文に遊んでもらいたくていたずらをしていたという。尚文は渋々、フィーロとガエリオンに対し、一日交替で遊ぶ時間を作ると約束した。ただし、相手の邪魔をした場合はその権利を失うと警告した。
その日の遊び相手はガエリオンに決まり、尚文はフリスビーシールドを使って遊ぶことにした。ガエリオンは嬉しそうにフリスビーを追いかけ、キャッチして戻ってくる。その様子はまるで犬のようであり、尚文も少しの間だけ戯れた。
そこへラフタリアとアトラがやってきて、尚文に犯人が判明したかを尋ねた。尚文はガエリオンが犯人であることを伝え、ラフタリアも納得した様子だった。アトラはガエリオンの気持ちを理解し、握手を交わした。尚文は、遊びの時間が終わったことを告げると、ガエリオンは寂しそうな声をあげたが、ラフタリアは見学を許可する代わりに、レベル上げを頑張るよう提案した。ガエリオンはその条件を受け入れ、午後の稽古を見学することになった。
ガエリオンの執拗な付きまとい
夜になっても、ガエリオンは尚文から離れようとしなかった。尚文は戸惑ったが、ラフタリアは「アトラ対策」としてガエリオンを番犬代わりにすることを提案した。アトラが尚文のベッドに潜り込もうとするのを防ぐ役目を果たせると考えたのである。
そこへサディナが現れ、ラフタリアを迎えに来た。尚文がガエリオンの執拗な行動について説明すると、サディナもラフタリアの提案に同意した。さらに、アトラが尚文に対し「お嫁さんになりたい」と告白していたことが判明し、尚文は呆れ果てた。
ガエリオンの好奇心と新たな問題の予兆
話をしている最中、ガエリオンは部屋の中を物色し始めた。特に、新しい武器や防具の素材が入った袋に頭を突っ込んでいた。尚文はそれを注意し、フィーロと同じく好奇心旺盛な性格だと考えた。
しかし、この時尚文は気づいていなかった。この何気ない行動が、後に大きな事件へと繋がることを──。
六話 L vドレイン
ガエリオンの異変と竜帝の核石
ガエリオンが袋を漁り、中から魔物の骨や鉱石が転がり出た。その中に竜帝の核石が含まれており、ガエリオンはそれを見つけるとじゃれ始めた。しかし、サディナが異変に気付き、すぐに取り上げるよう警告した。尚文が止める間もなく、ガエリオンは核石を丸呑みしてしまった。
直後、ガエリオンの様子が急変し、体が痙攣し始めた。全身から禍々しい気が溢れ出し、黒紫の魔力が肉眼で確認できるほどだった。ラフタリアは、その気の異様な強さを警戒するよう促した。サディナが銛で動きを封じようとするが、ガエリオンは敏捷に回避し、咆哮と共に天井を吹き飛ばすブレスを放った。尚文はすぐに魔物紋を発動させようとするが、魔力の影響か機能しなかった。
ガエリオンの暴走と逃走
尚文は盾を構え、暴れるガエリオンを押さえ込もうとしたが、思いのほか強い力で弾き飛ばされた。ガエリオンの血走った目は、先ほどまでの無邪気なものとは一変し、野生の竜そのものの鋭い眼光へと変わっていた。
咆哮と共にガエリオンは空へと飛び去った。アトラは、何かがガエリオンに纏わりついていると感じたが、その正体は不明だった。村の奴隷たちやラト、ウィンディアも騒ぎを聞きつけ、事態を把握しようと集まってきた。尚文は、ガエリオンが竜帝の核石を飲み込んでしまったことを説明し、原因を探ろうとした。
竜帝の核石の影響と錬の罪
サディナは、竜帝の核石には宿っていたドラゴンの自我が残っていることがあり、ガエリオンがそれに侵食された可能性が高いと推測した。尚文は、かつて錬が倒したドラゴンの死骸がドラゴンゾンビとなったことを思い出し、ガエリオンがその記憶を継承してしまったのではないかと考えた。
この推測に錬は動揺し、竜の死骸を放置してしまったことを悔いていた。ウィンディアは、錬を詰問しようとしたが、彼の後悔する態度を見て、それ以上の追及は控えた。尚文は錬に対し、魔物にも家族がいたかもしれないと指摘し、その覚悟を持つよう促した。錬は納得しきれない様子だったが、自身の責任を自覚したようだった。
フィーロの異変とガエリオンとの関係
その時、エクレールが隣町から馬を走らせ、メルティが尚文を呼んでいることを伝えた。フィーロに異変が起こったというのだ。尚文は錬とラフタリアに準備を任せ、治療院へ急行した。
治療院では、フィーロが苦しみながら横たわっていた。彼女の体は禍々しい気に侵され、ステータスの数値が乱れ、経験値が減少し続けていた。ラトとサディナは、フィーロの症状がガエリオンの暴走と関係していると推測し、その原因が腐竜の核にある可能性を指摘した。かつてフィーロは腐竜の核を食べており、ガエリオンが竜帝の核を飲み込んだことで、二つの核が共鳴し、影響を及ぼしているのではないかと考えられた。
アトラがフィーロの体に手を当てると、漏れ出る力を少しだけ抑えることに成功した。しかし、フィーロのレベル低下は止まらず、残された時間はわずかだった。尚文は急ぎガエリオンを追うことを決断し、フィーロには安静にするよう指示したが、彼女は強く反発し、なおも同行を求めた。
ガエリオンの追跡とウィンディアの葛藤
フィーロの強い意志を尊重し、尚文は彼女を連れて村へ戻り、追跡の準備を整えた。追跡には、尚文、ラフタリア、フォウル、アトラ、サディナ、錬、エクレールが同行し、ウィンディアも加わることになった。ウィンディアは、もしガエリオンが手に負えなくなった場合、処分もやむを得ないと理解しつつ、いざその時が来れば抗議するつもりだと語った。尚文は、その覚悟を受け入れ、最悪の場合に備えると告げた。
東の村への到着とフィーロの限界
フィーロの消耗は激しく、尚文は彼女に休むよう命じた。メルティやアトラが説得し、ようやくフィーロはその場に留まることを決意した。尚文は彼女の頭を撫で、安心させた後、ラフタリアとアトラにフィーロの看護を託した。そして、ガエリオンを追うため、暗雲の立ち込める山へ向かった。
七話 汚染された大地
汚染された山と龍脈法
尚文たちは汚染された山を登りながら、フィーロを蹴散らして進んだ以前とは違い、魔物との戦闘を余儀なくされた。魔物の出現頻度が高く、進行は遅れていた。ウィンディアは龍脈法を使い、黒い炎で魔物を焼き払った。サディナも同じ技法を用い、聖水を利用した攻撃で魔物を仕留めた。龍脈法は周囲の力を借りる魔法であり、環境や所持品の影響を受けるという。
メルティも合唱魔法の使用を求められたが、彼女は拒否した。だが、髪の色が魔法の資質に関係するというサディナの説明を受け、最終的には練習しながら進むことになった。
腐竜の死骸と錬の覚悟
山を登ること三時間、腐竜の死骸が放置された場所へ到達した。草木一本生えておらず、依然として汚染は続いていた。錬はかつて自分がドラゴンを倒し、その亡骸を放置したことを悔いていた。尚文は彼に気を引き締めるよう促し、錬も自らの罪を背負って戦うと決意した。
ウィンディアは険しい表情を浮かべながら錬を見つめていた。彼女の怒りと悲しみが混ざったような態度から、ドラゴンに対して何らかの関わりがあると推測できた。
ガエリオンの発見と洞窟の探索
ウィンディアが山の奥を指差し、黒い霧が立ち込める方角を示した。道中、魔物との戦闘を繰り返しながら、さらに二時間ほど進むと、ガエリオンが洞窟の前で横たわっていた。
尚文たちは慎重に接近し、ガエリオンを捕縛する作戦を実行しようとした。しかし、彼が目を覚まして洞窟内へと逃げ込んだため、作戦は失敗した。洞窟の中でガエリオンは何かを探しているようだった。ウィンディアによると、それは村人たちに奪われた宝であり、彼を乗っ取った核が未練を感じているのだろうという。
ウィンディアは錬を強く責め立てたが、尚文は彼女を制し、戦いを続けるよう促した。
ガエリオンの咆哮とフィーロの異変
ガエリオンが突如咆哮し、黒いヘドロのような魔力を放出した。その瞬間、尚文の盾も脈動を始め、異常な感覚に襲われた。
そこへアトラとラフちゃんに引かれたフィーロが現れた。彼女は朦朧とした状態で、時折我に返りながらも何かに引き寄せられるように歩み続けていた。アトラによれば、フィーロは途中で何度か正気を取り戻そうとしたものの、体内の力が流れ続け、すぐに意識を失ってしまったという。
その直後、フィーロの体からも黒いヘドロが噴出し、ガエリオンの放ったヘドロと融合し始めた。尚文たちは急いで阻止しようとしたが、フィーロを巻き込む可能性があるため、躊躇を強いられた。サディナの雷撃や聖水を用いた魔法が多少の効果を発揮したものの、決定打にはならなかった。
巨大化するガエリオンと戦闘の準備
ガエリオンのヘドロとフィーロのヘドロが融合し、彼の体は急速に巨大化していった。黒い炎を吸収しながら、最終的に全長二十メートルにまで膨れ上がった。目は闇色に染まり、以前の面影はなくなっていた。
ガエリオンは尚文たちに向けて黒い炎のブレスを放った。尚文は流星盾で防ごうとしたが、一瞬で溶解してしまった。その威力は霊亀の電撃に匹敵するほどだった。エクレールやラフタリアが光属性の魔法で攻撃を仕掛けたが、ガエリオンの硬い鱗に弾かれ、ほとんどダメージを与えられなかった。
サディナが雷撃銛を放ち、ガエリオンを水中へ引きずり込む作戦を決行した。しかし、ガエリオンの抵抗は強く、圧倒的な力で水をかき分けて暴れ回った。
ウィンディアの呼びかけ
戦闘が激化する中、ウィンディアが必死にガエリオンに呼びかけた。尚文は彼女を止めようとしたが、彼女はその声を張り上げた。
「お父さん! もうやめて!」
その瞬間、ガエリオンの動きが止まった。
八話 魔竜
ウィンディアの過去とガエリオンの正体
ウィンディアはガエリオンに向かって、自身の過去を語り始めた。彼女はこの地に住んでいたドラゴンに育てられていたのだという。そのドラゴンこそが、かつて錬が討伐した竜であり、ウィンディアはその養女のような存在だったのだ。
ウィンディアは、かつて父であるドラゴンを失った怒りを抱えていたが、尚文や村の人々の優しさに触れることで、憎しみに囚われることの無意味さに気づいていた。そして、父の執着が残る今のガエリオンに向かい、「もうここにいるべきではない」と説得を試みた。
ガエリオンはウィンディアの言葉に苦しむような仕草を見せたものの、突如として彼女を襲おうとした。錬が身を挺してウィンディアを守ったが、彼女はすぐに異変を察知し、目の前の存在が「本物のガエリオンではない」と確信した。
魔竜の覚醒
ガエリオンの身体から黒いヘドロが消え、紫色の光を帯び始めた。次の瞬間、ガエリオンとは異なる声が響き渡り、巨竜は高らかに名乗りを上げた。
彼は「魔竜」と名乗り、異世界において竜帝であった存在であることを明かした。かつて狩猟具の勇者たちに敗れた彼は、核石の力を介して尚文の世界へと流れ着いたのだった。
尚文は、魔竜の存在が自身の装備に使用された核石を通じて覚醒したのではないかと推測した。魔竜はその推測を認め、ガエリオンの肉体を乗っ取ったのは意図的なものであると語った。そして、彼は「フィーロを返すつもりはない」と宣言し、彼女を力の供給源として利用していることを示した。
魔竜の提案と戦闘の開始
魔竜は尚文たちに交渉を持ちかけた。それは「尚文以外の全員が忠誠を誓うこと」、そして「狩猟具の勇者たちを討つこと」であった。彼の目的は、かつて自らを打ち倒した者たちへの復讐と、この世界の支配であった。
だが、魔竜の真の狙いは尚文そのものだった。彼はフィーロだけでなく、尚文の盾を通じて彼の怒りや力を吸収していた。そして、尚文を取り込み、さらなる力を得ようとしていたのである。
尚文は拒絶し、戦闘が開始された。錬やラフタリアが攻撃を仕掛けたが、魔竜の防御力は極めて高く、通常の攻撃ではダメージを与えることができなかった。しかし、ラフタリアの一撃が魔竜の纏う瘴気を切り裂いたことで、彼に隙が生じた。
魔竜は反撃として強力な魔法を放ち、黒い炎を撒き散らしながら尚文たちを攻撃した。尚文は盾を展開し、メルティやサディナも防御魔法を駆使して応戦したが、魔竜の攻撃は熾烈を極めた。
尚文の反撃と魔竜の妨害
尚文は、魔竜の力の源が自分の盾にあることを確信し、ラースシールドの強化を意図的に失敗させることで魔竜を弱体化させようと考えた。
その考えに錬も賛同し、作戦は成功の兆しを見せた。しかし、魔竜は尚文の意図を見抜いており、それを阻止しようと動いた。魔竜は尚文の力を完全に奪うべく、新たな攻撃を仕掛けようとしていた。
九話 強制強化
魔竜の強制強化と尚文の苦境
魔竜は尚文の盾に干渉し、強化を勝手に進めた。尚文の意思とは無関係にラースシールドの強化画面が現れ、魔竜が操作する形で次々と成功していく。強化値は急速に上昇し、魔竜の力はさらに増していった。
錬やラフタリアも応戦したが、魔竜の力が高まるにつれて攻撃が通じにくくなり、尚文は彼らを守るために前に出ざるを得なかった。魔竜の強化は止まることなく進み、ついには尚文自身を吹き飛ばすほどの力を手に入れるに至った。
尚文は、このままでは勝機がないと判断し、逆に強化を失敗させることで魔竜を弱体化させる作戦を立てた。しかし、魔竜は挑発に乗らず、意図的に強化を止め、圧倒的な力を誇示した。
回復の妨害と魔法の無効化
尚文たちは立て直しを図るために回復魔法を唱えたが、魔竜は即座にそれを無効化した。メルティの強力な水魔法すらも無効化され、魔竜が魔法に対して強い耐性を持つことが明らかとなった。
さらに、魔竜は聖武器の力を利用し、自身をさらなる高次元の存在へと進化させようとした。尚文の盾が関与している以上、これを止めるには何らかの突破口が必要だった。
錬やラフタリアが攻撃を試みたが、魔竜の防御力が極めて高く、ほとんど効果がなかった。尚文は、魔竜の障壁を突破する手段を模索し、アトラの力に目を向けた。
アトラの活躍と防御無視の攻撃
尚文はアトラに雷神降臨を発動させ、彼女の身体能力を極限まで強化した。アトラは変幻無双流の技を駆使し、魔竜の防御をかいくぐりながら猛攻を仕掛けた。
さらに、ウィンディアとメルティも合唱魔法を発動し、魔竜の傷口に回復効果を持つ聖なる雨を降らせた。魔竜はこの攻撃に大きく動揺し、痛みに悶え苦しんだ。
ラフタリアと錬も攻撃を仕掛け、魔竜の再生能力を上回る速度でダメージを与えていった。その結果、魔竜の体内から小さなガエリオンがフィーロを連れて脱出し、魔竜はさらなる弱体化を余儀なくされた。
魔竜の最終形態と決着
魔竜は黒いヘドロに包まれ、ラースドラゴンへと変貌した。尚文は、魔竜の力が自身の怒りと強く結びついていることを悟り、これを完全に断ち切る必要があると判断した。
ガエリオンは尚文に協力を申し出て、魔竜の核石を取り出す作戦を提案した。アトラやエクレールが連携し、ラースドラゴンの障壁を突破。ついに魔竜の核石が露出し、ラフタリアがトドメを刺す準備を整えた。
ラフタリアは逃亡を試みるラースドラゴンを追い、尚文の盾を足場にして一閃。その斬撃によって魔竜は真っ二つに切り裂かれ、ついに戦いは終結した。
ウィンディアは涙を流しながら父に別れを告げ、ガエリオンは静かに彼女を見守った。戦いは終わり、尚文たちは新たな一歩を踏み出したのである。
十話 浄化
アトラの活躍とフォウルの決意
ラフタリアは刀を振って血を払い、鞘に収めた。尚文は今回の戦いでの功労者としてアトラの名を挙げ、フォウルの方を見た。購入時の期待はアトラよりも高かったはずのフォウルは、悔しげにアトラへと誓いを立てた。アトラは特に気にする様子もなく、軽く応じた。
ガエリオンはウィンディアに飛びつき、顔を舐めた。ウィンディアはガエリオンの無事を喜んだが、フィーロは奪われた力を返すよう抗議した。メルティがフィーロをなだめる中、ガエリオンはフィーロと睨み合った後、ラースドラゴンの残骸を指し示した。フィーロはその死骸に抗議し、経験値の喪失を嘆いた。
魔竜の核石とラースシールドの影響
尚文はアトラが摘出した魔竜の核石を見つめた。これは魔竜の力の源であり、尚文の盾やラフタリアの刀にも使われていたものと推測された。盾に収めるのは危険なため、慎重に保管することを決めた。
その後、ラースドラゴンの残骸が黒い光となり、尚文の盾へと吸収され、一部はフィーロにまとわりついた後、消滅した。同時に、尚文の耳には不吉な声が響いた。魔竜の存在が完全に消滅したわけではないことを示唆するものであった。尚文は今後、ラースシールドに頼らないよう心に決めた。
ガエリオンとフィーロの小競り合い
ガエリオンは尚文の肩に飛び乗り、じゃれ始めた。これを見たフィーロは嫉妬し、尚文を巡ってガエリオンと口論を始めた。短い尻尾でフィーロを叩いたガエリオンに、フィーロは激怒し、小競り合いが始まった。
尚文は、ガエリオンをフィーロに食べさせようとする素振りを見せ、ウィンディアとメルティに阻止された。フィーロはドラゴンを食べることを拒否し、尚文は彼女の偏食を指摘したが、フィーロの意思は固かった。最終的に尚文はラフちゃんを抱き上げ、二匹に見せつけるように撫で回した。これに対し、フィーロとガエリオンは嫉妬の目を向けた。
フィーロの成長とメルティの巻き込まれ
尚文はフィーロの調子を確認し、彼女のレベルが大幅に低下していることに気付いた。一方で、ガエリオンのレベルは異常に高かった。フィーロは失った経験値を返せとガエリオンに迫ったが、ガエリオンは取り合わなかった。
尚文はフィーロのレベルを上げるため、メルティを巻き込むことを決定した。フィーロはメルティを無理やり連れて行こうとし、メルティは困惑したが、尚文の部下たちも彼女の成長のためには良い機会だと賛成した。
尚文はエクレールに町の管理を任せ、メルティの公務を肩代わりさせることを決定した。エクレールは戸惑ったが、錬が少し手伝うことで了承した。尚文はフィーロとメルティの旅を「次期女王陛下の鍛錬」として大々的に宣言し、フィーロはメルティを背負って飛び立った。
日常の再開と新たな課題
フィーロとメルティが旅立った後、尚文は村に戻った。しかし、そこにセインが現れた。彼女の存在をすっかり忘れていたことに気付いた尚文は、再び問題に直面することとなった。こうして、尚文たちの日常は戻ってきたのである。
十一話 パーフェクト =ハイド =ジャスティス
ゼルトブルでの修行とコロシアムへの参加
尚文は、村の奴隷の中でも特に鍛錬を積んでいた者たちを連れ、ゼルトブルへと転移した。変幻無双流のババアによると、そろそろ実戦形式の修行として、傭兵などと戦うのが良い段階に来ているとのことであった。コロシアムで戦える程度には成長したため、参加させることにした。
ゼルトブルのコロシアムは表と裏に分かれており、今回は安全な表のコロシアムで戦わせることとなった。キールは興奮しながら観戦を楽しみにしていた。サディナも同行し、尚文の奴隷たちは経験を積むために戦うことになった。一方でフォウルは己の無力さを痛感し、ババアの下でスパルタ修行を受けることを決意していた。
また、リーシアは修行から帰ってきたばかりだったが、相変わらず頼りなさを見せていた。尚文は、彼女がいれば魔竜との戦いも楽になっただろうと内心で愚痴をこぼしながら、奴隷たちを戦いに送り出した。
樹との再会
尚文たちは来賓席へ向かう途中、参加選手たちの様子を目にした。すると、そこに見覚えのある人物がいた。弓の勇者、樹であった。彼は「パーフェクト=ハイド=ジャスティス」という名で登録されており、尚文はその中二病的なネーミングに呆れつつ、驚きを隠せなかった。
樹は完全に上の空で、尚文たちが話しかけてもまるで聞いていなかった。彼の目は虚ろで、独り言のように「正義の味方」と呟いていた。リーシアが必死に声をかけても反応せず、突如として走り去ってしまった。
奴隷商によると、樹は連日ゼルトブルのコロシアムを転戦し、賞金稼ぎをしていたとのことであった。尚文は、彼がなぜ金を稼いでいるのかを調査する必要があると考えた。
樹の戦闘と異変
尚文たちはコロシアムで樹の戦いを観戦した。遠距離武器を使用する弓の勇者にとっては不利な狭い戦場であったが、樹は驚くほど簡単に勝ち進んでいった。ただし、彼の戦いぶりには異様な雰囲気があった。
観客の歓声に応じて両手を上げ、吠えるような仕草を見せるなど、以前の樹とはまるで別人であった。また、彼の持つ弓も異様で、不自然に白く禍々しいデザインをしていた。尚文は、その弓に嫌な気配を感じた。
樹を捕らえる計画
尚文たちは樹を保護するための策を練った。奴隷商の提案で、樹を裏のコロシアムにおびき寄せ、話をする機会を作ることになった。彼が賞金を求めていることを利用し、大会の賞金授与時に招待状を渡す手はずを整えた。
また、樹を昏倒させて捕らえるという案もあったが、まずは話し合いの機会を持つことを優先することとなった。ラフタリアとアトラは樹と直接戦って確かめることを提案したが、尚文はリーシアを最初の対戦相手にすることを決めた。リーシアの言葉で説得できなければ、次に錬が挑む流れとした。
偽りの大会と樹の異変
計画通り、裏のコロシアムでの戦いが準備された。奴隷商が手配した魔法使いによって、逃走を防ぐための儀式魔法「聖域」が施され、樹がポータルで逃げられないよう対策された。樹はまんまと招待状に引っかかり、選手登録を済ませた。
試合が始まり、リーシアが樹に声をかけると、彼はやっとリーシアの存在に気づいた。しかし、彼の反応は冷淡で、「相手がリーシアなら楽勝」と言わんばかりの態度であった。リーシアは懸命に、尚文や錬と話をするよう訴えたが、樹は無表情のままリーシアを見下していた。
その瞬間、尚文が手を振ると、樹の視線が鋭くなった。彼の目には、明らかな敵意が宿っていた。
十二話 正義 VS正義
樹の異変と尚文への敵意
樹は尚文に対し、強い殺気を放ち非難の言葉をぶつけた。彼の主張によれば、尚文は奴隷を酷使し、利益を独占しているという。しかし、尚文はそれを当然のこととして受け止めた。奴隷とは労働力であり、労働に対する報酬を支払うことはあっても、基本的に対価を必要としない存在であると考えていた。
奴隷たちも、樹の主張に対し疑問を抱いた。彼らは尚文によって適切に管理され、過度な労働を強いられることもなく、むしろ彼の支援に感謝していた。しかし、樹はその現実を認めず、尚文の行為を悪と断じた。
樹の正義とヴィッチの影
樹の主張には、マルティ王女の影響が色濃く見られた。彼はヴィッチ(マルティ)が助けようとした奴隷の話を持ち出し、尚文を糾弾した。しかし、尚文はヴィッチが人助けをするはずがないと即座に否定した。彼にとってヴィッチは信用に値しない存在であり、彼女の話を鵜呑みにする樹の態度には疑念を抱いた。
また、樹は尚文が貴族にのみ薬を売り、貧民には施さなかったことを非難した。これに対し尚文は、商売として当然の行為であり、資金がない者に薬を施す義理はないと反論した。しかし樹はそれを受け入れず、尚文が正義の力を持ちながら弱者を救わなかったことを責め続けた。
樹の暴走と洗脳の弓
樹の言葉には論理の破綻が見られた。彼は尚文が死者を蘇らせなかったことを非難し、盾の勇者にはその力があると断言した。しかし、尚文はそのような力を持っておらず、死者蘇生は不可能な行為であると説明した。樹はこの事実を受け入れず、尚文を悪と断定した。
さらに、樹の弓には奇妙な力が宿っていた。彼が放った矢を受けた審判は突如として洗脳され、樹に忠誠を誓うようになった。この異変を見た尚文たちは、樹の弓が洗脳の力を持つカースシリーズの武器である可能性を疑った。しかし、樹本人はそれを「正義の力」と信じ込み、ますます暴走を深めていった。
リーシアの説得と樹の正義の崩壊
リーシアは尚文の支配が悪であるという樹の主張に異議を唱えた。彼女は尚文の村で働く奴隷たちが健康であり、喜んで生活していることを挙げ、樹に事実を確かめたのか問いただした。しかし、樹は自分の目で確認することなく、マルティやマルドの言葉を信じていた。
リーシアはさらに、正義とは何かを問いかけた。彼女にとって、尚文は単なる支配者ではなく、村の人々のために尽力する存在であった。しかし樹は、それを受け入れず、尚文こそが悪であると決めつけた。
リーシアと樹の決戦
リーシアは樹を説得するために戦うことを決意した。彼女は変幻無双流の奥義を駆使し、樹と激しくぶつかり合った。樹は自らを正義の味方と信じ、カースの力を強化しながらリーシアを圧倒しようとした。しかし、リーシアは次々と技を繰り出し、樹の攻撃を凌ぎながら反撃を続けた。
その中で、リーシアの手に奇妙な武器が現れた。それは樹の弓から放たれた光が形を成したものであり、彼女の意志に応じて形状を変化させた。この武器の出現により、樹の弓は尚文ではなくリーシアに力を貸したことが明らかとなった。
樹の敗北と住処への案内
リーシアの猛攻により、樹の弓の外装が砕け散った。彼の弓は完全に制御を失い、樹自身も動揺を隠せなかった。尚文はこの機を逃さず、樹の住処を特定したことを告げた。樹はなおも抵抗を試みたが、錬の説得もあり、自らの住処へ案内することを決意した。
樹は自分の正義を信じながらも、その正義が崩れ始めていることに気づき始めていた。彼の信じるものが揺らぎ、これまでの行いを再評価せざるを得なくなっていたのである。
十三話 償い
樹の住処での発見
樹の案内で、尚文たちはすでに特定されていた彼の住処へと向かった。そこはゼルトブルの閑静な場所に位置し、内部には地下水路へと続く隠し通路まで備えられていた。しかし、住処に踏み込んだ時にはすでにもぬけの殻となっており、ヴィッチの姿はなかった。代わりに、酒盛りの痕跡が残され、ゴミと酒臭さが充満していた。
尚文は部屋の中を見回し、机の上にある書き置きを見つけた。その筆跡は錬の時と同じものであり、嫌な予感がした。さらに、書き置きの下には分厚い紙の束が置かれていた。それを確認すると、それは樹名義の借用書の束であった。
ヴィッチの手紙と借金の発覚
錬が書き置きを読み上げると、そこにはヴィッチが樹を利用し尽くした後に捨て去ったことが明確に記されていた。彼女は樹の稼いだ賞金を自分たちの贅沢に使い、最後には樹を嘲笑うような内容を書き残していた。樹はそれを聞き、衝撃を受ける。さらに、尚文が机の上の書類を指し示し、それが膨大な借金の証書であることを告げた。
樹は、マルドやマルティ王女が人々を助けるために必要だと言うからこそ資金を集めていたのだと弁明した。しかし、奴隷商が持ってきた情報によれば、彼らは近隣の酒場で派手に豪遊し、コロシアムの賭博にまで金を使い込んでいた。さらに、背後には金を貸した商人たちが集まり、樹の借金返済についての話し合いを始めた。
樹の絶望とリーシアの説得
借金の実態を突きつけられた樹は、絶望し膝をついた。尚文は冷淡に「だから言っただろう」と言い放ち、ヴィッチを信じた結果がこの有様であることを強調した。しかし、そのまま放置すれば樹が新たなカースに目覚める恐れがあったため、尚文は注意深く様子を見守った。
そんな中、リーシアが樹のもとへ歩み寄り、彼を励ました。彼女は、何度倒れても立ち上がることが正義であると語り、共に借金を返していくことを提案した。さらに、異世界で敵と和解し、共闘した経験を話し、樹も世界の希望である勇者として立ち上がるべきだと訴えた。
樹は動揺しながらも、リーシアの言葉を受け入れようとした。その瞬間、彼の弓に残っていた禍々しいパーツが砕け散り、彼自身も意識を失って倒れ込んだ。
借金の肩代わりと樹の保護
尚文は倒れた樹の脈を確認し、命に別状はないことを確認した。しかし、商人たちは樹の借金の処遇について話し合いを続けていた。尚文は深く溜息をつき、ヴィッチの置き土産の厄介さに呆れる。
そこへ、樹を庇おうとするリーシアが前に出て、彼の借金を自ら背負う覚悟を見せた。しかし、尚文はそれを制止し、樹の借金を自分の名義で立て替えることを決断した。行商の利益やイグドラシル薬剤の売却でどうにか対応できると判断したのである。
尚文はリーシアに、錬を教育するエクレールと同じように、樹を徹底的に指導するよう命じた。二度と暴走させないためにも、厳しく鍛える必要があった。こうして、樹の捕縛は成功したものの、ヴィッチやその仲間たちの行方は依然として不明のままだった。
樹の異変と意志の喪失
翌日、尚文がヴィッチの捜索に失敗し苛立っていた頃、樹が意識を取り戻した。彼はキャンピングプラントの家で寝かされていたが、目覚めた後も無表情で、どこか違和感のある様子だった。尚文が借金の件を持ち出しても、樹は沈黙し続け、まるで感情が抜け落ちたような状態であった。
さらに、尚文が樹に対して指示を出すと、彼は驚くほど素直に従った。試しに無理な命令を出してみたところ、樹はそれすらも実行しようとし、リーシアが慌てて制止する場面もあった。この異常な従順さに、尚文は樹が呪いの代償として意志の喪失に陥っている可能性を疑った。
樹自身も自分の状態を理解できておらず、尚文の問いかけに対して「わからない」と繰り返すのみであった。彼はゼルトブルの闇コロシアムで窮地に陥った際に、特殊なスキルを何度も使用していたと告白した。それによって呪いの影響が蓄積し、現在の状態に陥ったと考えられた。
樹の再起と今後の課題
尚文はリーシアに樹の世話を任せ、彼の強化方法を教えた後、カルミラ島にある呪いによく効く温泉で療養させることを決めた。こうして、四聖勇者全員に正しい強化方法が行き渡ることになったが、樹の精神的な回復にはまだ時間がかかるであろうことは明白であった。
ヴィッチの捜索は依然として難航しており、彼女の動向が新たな脅威となる可能性があった。尚文は溜息をつきながらも、次の行動を考え始めた。
十四話 秘密基地
龍脈法の修行と騒がしい夜
樹が村に来てから数日後の夜、尚文は龍脈法を習得するためにサディナの指導を受けることとなった。サディナは一人では教えきれないと判断し、ガエリオンも協力者として招いた。ガエリオンは剣の勇者に倒された最弱の竜帝であり、現在は子竜のガエリオンと同居していた。
一方、村の外ではアトラと尚文の兄が激しく争い、それを奴隷たちが楽しげに見守っていた。尚文は落ち着いて修行できる環境を求め、サディナの提案により、村近くの離れ小島にある彼女の秘密基地へと向かうことになった。ガエリオンの背に乗り、尚文たちは島へと移動した。
秘密基地での修行
島に到着すると、サディナは尚文たちを洞穴へ案内した。そこはまるで海賊のアジトのような造りであり、最低限の設備が整っていた。ここでようやく龍脈法の練習が始まることとなった。
ガエリオンの指導のもと、尚文は水の力を引き出す練習を始めた。龍脈法とは、他者の力を借りて魔法を発動させる技術であり、通常の魔法とは異なる仕組みを持っていた。尚文は最初こそ苦戦したが、ガエリオンやサディナの指導を受けることで次第に感覚を掴んでいった。
一方で、ラフタリアも学ぼうとしたが、何らかの加護が影響し、龍脈法の習得が難しい状態であった。ガエリオンは、彼女にかかっている加護が強力であり、自身の力では解除できないと説明した。尚文は、この問題を解決する方法を模索する必要があると考えた。
修行の成果と宴の始まり
数時間の修行の末、尚文はようやく龍脈法の基礎を習得した。水の力を借りることで魔法を発動させる感覚を掴み、実際に魔法を成功させることができた。ガエリオンやサディナもその成長を評価し、尚文の努力を認めた。
修行を終えると、サディナは酒を持ち出し、宴を開くことを提案した。彼女は難破船から引き揚げた酒を取り出し、皆で飲もうと誘った。ガエリオンも興味を示し、酒を飲み始めた。ラフタリアも誘われて酒を口にしたが、やがて酔い潰れてしまい、テーブルに突っ伏した。ガエリオンも次第に意識を失い、尚文とサディナだけが平然としていた。
サディナの問いとラフタリアの過去
静かになった洞穴の中で、サディナは尚文に真剣な問いを投げかけた。彼女は、尚文がラフタリアをどうするつもりなのかを問うた。冗談めかした口調ではあったが、その目は真剣であった。
尚文は、ラフタリアを信頼し、大切に思っているが、異性としての感情については自分でもよく分かっていないと考えていた。ラフタリアは仲間であり、家族のような存在であり、恋愛とは別の感情で繋がっていると感じていた。
サディナは、自身がラフタリアの父に仕えていた巫女であり、彼と共に国を出た過去を明かした。ラフタリアの家系は由緒正しく、彼女の血筋は特別な意味を持っていた。サディナは、その血筋を理由にラフタリアが危険に晒されることを懸念していた。そして、尚文が中途半端な覚悟でラフタリアと関係を持つことを警戒し、もし手を出すつもりがないなら、自分で代わりを務めるとまで言った。
尚文はその提案を拒否しつつ、サディナの真意を探った。彼女はラフタリアの未来を案じ、彼女が余計な争いに巻き込まれないようにと考えていたのだった。尚文は、この問題が単なる個人的な感情だけでなく、ラフタリアの血筋に関わる重大な問題であることを理解した。
宴の終焉と翌朝
その後、ラフタリアが意識を取り戻し、宴は自然と終わりを迎えた。彼女は酔いが抜けてすっきりした様子だったが、昨夜の出来事については知らされることはなかった。尚文は、サディナとの会話の内容を伏せつつ、軽く話を誤魔化した。
ガエリオンは二日酔いとなり、朝から体調を崩していた。サディナは彼に更なる酒を勧め、二人は飲み友のような関係になりつつあった。尚文は、龍脈法の修行を継続しながら、今後の課題について考え始めた。ラフタリアの血筋、龍脈法のさらなる習得、そして波に備えた準備――尚文の戦いはまだ続いていた。
十五話 色即是空
武器屋の親父の来訪と巫女服
尚文が朝食を終え、鍛錬をしていると、武器屋の親父が馬車に乗って村へやって来た。鉱石採取のついでに立ち寄ったというが、彼には別の目的もあった。彼は袋から一着の巫女服を取り出し、ラフタリアに手渡した。これは尚文が以前に依頼していた装備であり、特別な加工が施されていた。
尚文はその巫女服を大いに気に入り、ラフタリアに着用を命じた。ラフタリアは渋々応じ、巫女服を身に纏って村人たちの前に姿を現した。彼女の姿を見た村人たちは感嘆の声を上げ、巫女服が驚くほど似合っていることを認めた。尚文も巫女服こそがラフタリアに最もふさわしい装いであると確信し、今後はこれを常に着るよう求めた。
サディナの警戒と不審な動き
その晩、武器屋の親父は村に泊まり、奴隷たちの装備を整備することになった。夕食時、サディナが漁から戻り、獲った魚を運び込んできた。しかし、ラフタリアの姿を見るや否や、彼女は驚愕し、巫女服を脱がせようとした。尚文や村人たちは騒ぎを止めようとしたが、サディナは必死に「服を脱がせなければならない」と主張した。
尚文はサディナの焦りに不審を抱き、事情を聞き出そうとしたが、直後に異変が起きた。ラフタリアが着替えに入った家が突然爆発し、炎が上がった。同時に、正体不明の集団が襲撃を仕掛け、ラフタリアに襲いかかった。
ラフタリアへの襲撃
敵は高度な戦闘技術を持ち、ラフタリアを包囲して攻撃を仕掛けた。彼らの動きは洗練されており、連携が取れていた。ラフタリアは二刀流の技術を駆使し、敵の攻撃を捌いていたが、相手も熟練の剣士であり、一進一退の攻防が続いた。
尚文は急ぎ防御魔法を展開し、仲間たちも応戦した。しかし、敵の武器は異常なほど強力であり、尚文の盾や魔法防御を容易に突破した。錬や樹の攻撃も効果が薄く、敵の鎧は異様に頑丈であった。
サディナは魔法で敵の姿を暴き、彼らが獣人系の戦士であることを明らかにした。ラフタリアの戦闘能力は敵を上回っていたが、油断できる相手ではなかった。そこで尚文とラフタリアは合唱魔法を発動し、敵の視覚を惑わすことで一時的に戦闘を優位に進めた。
この隙を突き、ラフタリアは必殺の剣技を繰り出し、敵を撃退した。最後にサディナが雷を放ち、戦闘はようやく終息した。
クテンロウの陰謀と宣戦布告
倒れた敵の中の一人が、尚文たちに向かって「天命の継承を放棄した者の娘よ、その宣告、我が国は確かに見届けた」と宣言し、自爆した。敵はラフタリアを「天命の血を継ぐ者」として認識し、彼女を排除するために送り込まれた者たちだったのだ。
サディナは、ラフタリアがクテンロウという国の王族の血を引いていることを明かした。この国では、女性の王である「天命様」の象徴として特別な衣装があり、尚文がラフタリアに着せた巫女服こそが、それに該当するものであった。クテンロウの者たちは、ラフタリアが王位を継承しようとしていると判断し、彼女を排除するための刺客を送り込んできたのである。
尚文は、ラフタリアを狙う敵が次々と現れることを知り、怒りを露わにした。彼は、自らの村に攻撃を仕掛けたクテンロウを決して許さないと誓い、「国を一つ潰す覚悟があるか?」とサディナに問いかけた。サディナはそれに対し、静かに頷いた。
こうして尚文は、クテンロウという国に乗り込み、ラフタリアを守るための戦いに身を投じる決意を固めた。
同シリーズ
盾の勇者の成り上がり
小説版















漫画版


























その他フィクション

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