小説【shieldhero】「盾の勇者の成り上がり 13」感想・ネタバレ

小説【shieldhero】「盾の勇者の成り上がり 13」感想・ネタバレ

どんな本?

『盾の勇者の成り上がり』は、異世界に召喚された主人公が盾の勇者として成長し、仲間と共に数々の試練に立ち向かうダークファンタジー作品である。第13巻では、主人公・尚文が仲間たちと共に、ラフタリアの故郷であるクテンロウ国を訪れ、彼女の過去と向き合いながら新たな戦いに挑む。 

主要キャラクター
• 岩谷尚文:盾の勇者として召喚された青年。仲間を守る強い意志を持つ。
• ラフタリア:尚文に仕える亜人の少女。剣の腕前に優れ、心優しい性格。
• フィーロ:尚文が孵化させた鳥型魔物。人間の姿にも変身でき、戦闘力が高い。

物語の特徴

本作は、主人公が逆境から立ち上がり、仲間との絆を深めながら成長していく姿が描かれている。第13巻では、ラフタリアの過去や故郷に焦点を当て、キャラクターの深みが増している点が魅力である。 

出版情報

• 出版社:KADOKAWA
• レーベル:MFブックス
• 発売日:2015年11月25日
•     判型:B6判
•     ISBN:9784040679655
•     メディア展開:本作はアニメ化もされており、2019年1月から6月まで第1期が放送された。さらに、2022年4月から6月に第2期、2023年10月から12月に第3期が放送された。第4期は2025年7月に放送予定である。

読んだ本のタイトル

盾の勇者の成り上がり 13
著者:アネコ ユサギ 氏
イラスト:弥南 せいら  氏

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あらすじ・内容

目指す先はラフタリアの故郷!!
召喚されて以来ゲーム気分が抜けなかった勇者たちに現実を知らしめ、更生させた盾の勇者、岩谷尚文。その道のりは困難だったものの、ラフタリアの命を狙う国、クテンロウへと到着した。
悪政の報いを受けさせるため乗り込んだ一行だったが、クテンロウ政府は国内でも悪法をによって国民を苦しめていた。
「手始めに、シルトヴェルトからの協力者を町に招く……そこからの快進撃だ!」
政府転覆のために起こした反乱の最中、対勇者用の謎の武器によって能力を封じられた尚文たちは一体……!?
新天地に殴り込み!? 異世界リベンジファンタジー第十三弾開幕!!

盾の勇者の成り上がり 13

感想

異世界の因縁と盾の勇者の行方

尚文たちは新たな戦いへ向け、旅を続ける。
ラフタリアの故郷に関する謎が明かされ、彼女の出自が争いを引き起こす原因となった。
巫女服を着せたことをきっかけに、彼女の血筋が明るみに出る。
異世界における伝統や信仰の力が、政治的な問題へと発展するのが興味深い展開である。
尚文は彼女を守るため、獣人至上主義の国シルトヴェルトへと向かう。
しかし、そこで待っていたのは、盾の勇者を偶像化し、利用しようとする貴族層の思惑であった。

シルトヴェルトの貴族たちは、尚文を国の象徴とし、支配体制を強固にしようと企む。
彼らは信仰を利用し、尚文を従わせようとするが、尚文はこれを拒絶する。
彼を籠絡するために様々な手を使うが、尚文の意志は揺るがない。彼は信仰を盾にしながら、敵対勢力を牽制し、巧みに立ち回る。
国の中枢では、ジャラリスが陰謀を巡らせ、尚文を排除しようとするが、最終的に失敗する。
敵が正体を明かすと急に弱くなる展開は、ある種の定番でありながらも、読者の期待を裏切らない展開である。

クテンロウに向かう途中、尚文たちは水竜の導きによって道を切り開く。
ラフタリアの先祖にまつわる秘密や、彼女が担うべき役割が次第に明らかになっていく。
クテンロウの支配者が発布した「生類憐れみの令」に似た法律が、国を混乱させている様子は興味深い。
尚文たちはこの歪んだ支配体制を覆すため、革命の旗を掲げることになる。
ここでの展開は、単なる戦闘ではなく、政治的な駆け引きが絡む点が印象的である。

クテンロウ攻略の過程では、桜天命石を巡る戦いが繰り広げられる。
この石が尚文たちの力を制限する中、彼は新たな盾を獲得し、戦況を一変させる。
ラフタリアの戦闘スタイルの進化や、変幻無双流の技が物語に深みを加える。
尚文は策を駆使し、最終的にクマ獣人を撃破し、クテンロウの人々を解放へと導く。
戦闘の盛り上がりとともに、尚文が国家単位での戦いに関わるようになっていく流れが、物語のスケールを広げている。

盾の勇者としての立場と今後の展望

尚文は次第に「異世界の住人」としての立場を強めている。
最初は異世界に翻弄されていたが、今や国家レベルの争いを動かす存在となった。
彼の行動が、信仰や政治を変える影響を持ち始めた点が興味深い。
特にシルトヴェルトでの扱われ方や、クテンロウでの革命は、彼が単なる戦士ではなく、世界の秩序を揺るがす存在になっていることを示している。

敵対勢力の動きも含め、今後の展開が気になる要素が多い。
特に、尚文が関与する国家間の勢力争いは、単なる異世界バトルとは異なる面白さがある。
戦闘だけでなく、政治的な駆け引きや陰謀が絡むことで、より奥深い物語が展開される。
この先、尚文がどのように世界を変えていくのか、その選択が物語の鍵となるだろう。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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備忘録

プロローグ  人員分担

日常の準備と異世界の背景

尚文は、新たな旅の準備を進めていた。彼は異世界に召喚され、盾の勇者として戦う運命を背負っていた。この世界にはレベル制が存在し、魔物を倒すことで成長できる仕組みであった。尚文の召喚目的は「波」と呼ばれる世界を滅ぼす現象と戦うことであったが、召喚された国・メルロマルクの陰謀に巻き込まれ、性格が歪んでしまった。異世界における彼の戦いは、単なる冒険ではなく、生存を懸けたものとなっていた。

仲間との再会とこれまでの戦い

尚文の最初の仲間であるラフタリアは、彼の頼れる相棒であり、彼にとって娘のような存在となっていた。彼女はかつて奴隷として購入されたが、共に過ごすうちに強い絆を築いた。尚文たちはメルロマルクの陰謀を退けた後、異世界からの侵略者・グラスやラルクと戦い、和解に至った。その後、世界を守護する霊亀の力を奪った敵を倒し、一時的に「波」の発生を食い止めた。尚文はその間に、波によって滅ぼされたラフタリアの故郷を復興するため、奴隷として売られた村人たちを買い戻し、戦力の育成を進めていた。

勇者たちの変化と更生

尚文は、異世界に召喚された他の勇者たちとも関わりながら、彼らを更生させてきた。剣の勇者・天木錬は、かつてはクールを気取る性格だったが、裏切りに遭い絶望を経験したことで変わり、今では最もまともな勇者になった。弓の勇者・川澄樹もまた、かつて強い正義感を持っていたが、呪いの武器の影響で精神を病み、ヴィッチに騙されて借金を背負った。彼は尚文によって救われ、再び正義の道を模索している。

ラフタリアの出自と新たな脅威

尚文はラフタリアに巫女服を着せたことをきっかけに、彼女の出自に関わる問題に巻き込まれた。ラフタリアは、亜人の国「クテンロウ」の王族の血を引いており、その王族の女性が巫女服に似た衣装を着る伝統があった。そのため、盾の勇者のもとで巫女服を着たことで、クテンロウ側から王位を主張しているとみなされ、命を狙われることになった。さらに、クテンロウの監視者たちは、ラフタリアの過去の苦しみを知りながらも助けることなく、今になって彼女を排除しようとしていた。尚文はこの理不尽な状況に怒りを覚え、クテンロウへ向かう決意を固めた。

クテンロウへの道と障害

クテンロウへ行くには、亜人国家シルトヴェルトを経由しなければならなかった。だが、その国へ向かう道は海に囲まれており、さらに「水竜」と呼ばれる存在が強固な結界を張っていた。サディナによれば、海流も複雑で、通常の方法では侵入が困難であった。尚文はシルトヴェルトに協力を仰ぎ、船を手配する必要があった。しかし、シルトヴェルトは盾の勇者を信仰する国家であり、メルロマルクとは敵対関係にあった。勇者たちの中でも特に錬や樹はシルトヴェルトにとって敵視される可能性が高く、同行させるべきか否かを悩むことになった。

仲間の選別と旅の準備

シルトヴェルトに行くにあたり、尚文は同行者を選ぶことになった。フィーロは現在、レベル上げのために旅に出ており、不在であった。そこで、ガエリオンという竜が移動手段として提供された。さらに、亜人の少女ウィンディアも同行することになった。加えて、元奴隷でありながら圧倒的な戦闘力を持つアトラが、兄・フォウルを説得して同行を希望した。アトラはハクコ種と呼ばれるシルトヴェルトの旧王族の血を引く種族であり、彼女の存在が交渉に役立つ可能性があった。

転移による旅の開始

尚文たちは、セインという異世界出身の眷属器の持ち主の力を借り、ゼルトブルの交易船の転送術を利用することになった。セインは転送針を用いて、特定の地点まで安全に送り届ける能力を持っていた。尚文はこの方法を利用し、シルトヴェルトへの移動を迅速に進めることを決めた。そして、ラフタリア、サディナ、ガエリオン、ウィンディア、アトラと共に転移を行い、クテンロウへと向かう旅が始まった。

一話  前払い

転移の成功とセインの限界

尚文たちは、転移の末に港の倉庫らしき場所に到着した。そこには大きな木箱があり、セインが転移用の針を付けたものであった。しかし、セインの武器の力は衰えており、複数人を転移させるのは危険な状態になっていた。転送事故のリスクを考え、尚文は今後の移動をポータルスキルに頼ることを決めた。セインは申し訳なさそうにしていたが、尚文は気にするなと彼女の頭を撫でた。セインは驚きながらも満面の笑顔を見せた。

新たな敵の予感と移動の開始

アトラは新たな敵の予感を口にしたが、特に敵の姿は見えなかった。そのまま移動を開始し、尚文たちはガエリオンに乗って飛行した。船や馬車よりも速かったものの、ガエリオンは重量の影響を受け、長時間の飛行が厳しくなっていた。尚文は同行者を減らす案を検討し、ラフタリアとフォウルが乗り物酔いしやすいことも考慮した。結局、ガエリオンの負担を減らすため、途中で休憩を取ることにした。

魔物狩りと補給

休憩中、ガエリオンの空腹が問題となった。七人を乗せたことで魔力消費が激しく、頻繁な食事が必要になっていた。尚文たちは周囲の魔物を狩り、ガエリオンの餌を確保することを決めた。アトラとフォウルは積極的に狩りに向かい、サディナも協力することになった。尚文は、魔力の回復には限りがあるため、慎重に行動する必要があると考えた。

魔物との遭遇と素材の確保

狩りの最中、尚文たちはメルロマルクでは見かけない魔物と遭遇した。ゼニスブルーニードルラットやインディゴリザードといった種が現れたが、尚文たちは十分に強化されており、苦戦することなく討伐できた。尚文は、魔物の素材を盾に取り込み、能力を高める重要性を再認識した。今後、錬や樹にも同様に世界中を回り、素材を集めてもらうことを考えた。

フィーロたちとの再会

移動を再開し、シルトヴェルトへの道程の三分の二まで進んだところで、尚文たちは突如として土煙を上げながら突進してくるフィーロとラフちゃんの姿を発見した。フィーロの後ろから魔法が飛んできたため、尚文は反射的に盾で打ち返した。攻撃の主はメルティであり、彼女は尚文に文句を言いながらも、フィーロと共にやってきた経緯を説明した。

フィトリアの依頼と報酬の前払い

メルティによると、フィーロたちはレベル上げの最中にフィトリアと遭遇し、彼女から依頼を受けたという。フィトリアは報酬としてフィーロとメルティに強化の付与を施し、フィーロの能力を大幅に向上させた。しかし、尚文はこの前払いの報酬の大きさに疑念を抱き、依頼の詳細を聞くことなく後回しにすると宣言した。フィトリアの頼みを後回しにすることに対して、メルティは不満げであったが、尚文は優先順位を理由に譲らなかった。

クテンロウへの旅と女王への報告

尚文はフィーロたちに、現在の目的がクテンロウへの旅であることを伝えた。ラフタリアの出自に関わる問題が発覚し、それを解決しなければならないためであった。メルティは女王に報告するよう求め、尚文は彼女を村に送ることに決めた。そして、キリの良いところで村に戻り、次の準備を進めることとなった。

二話  来訪伝達

村への帰還とフィーロの出迎え

尚文たちは村へ帰還し、フィーロが奴隷たちに歓迎された。彼女が予想以上に成長していたことを尚文はラフタリアに説明した。翌日にはシルトヴェルトへ向かう予定であり、サディナを呼び、入国時の問題について検討することにした。移動手段については、ガエリオンよりも馬車を引けるフィーロの方が適していると判断されたが、ガエリオンは不満を示した。しかし、尚文の説得により、馬車での移動が決定された。

メルティの決断と準備の調整

メルティはシルトヴェルトへの同行を希望したが、王族である彼女が行くのは危険であるため、最終的に女王に確認を取ることになった。フィーロと共に報告に向かうメルティを見送り、尚文は他の仲間たちとの準備を進めた。一方、フォウルはシルトヴェルトに知り合いがいる可能性があるが、詳細は不明であった。彼の生まれ故郷が近くにあることが判明し、アトラのために立ち寄るかどうかを検討することとなった。

言語の問題とフォウルの多言語能力

尚文はシルトヴェルトでの言語の問題を考え、フォウルが多言語を話せることを知った。アトラも病弱だった頃に兄から言葉を学んでおり、シルトヴェルトを含む複数の言語に対応できることが判明した。尚文はこの能力が商売や交渉の際に役立つと考え、二人の存在を重視した。シルトヴェルトとクテンロウの言語がほぼ同じであることも判明し、今後の交渉において重要な情報となった。

メルティとの会話と領地の管理

尚文はメルティと再会し、女王との話し合いの結果、メルティがシルトヴェルト行きを見送り、領地の管理を続けることが決まった。女王の指示で現地に馬車が用意されることになり、尚文は移動の負担が減ることを喜んだ。シルトヴェルト行きが外交的な問題を引き起こす可能性が高いことをメルティに指摘され、尚文も慎重な対応を求められた。メルティは領主代理のエクレールを監視する形で留まることになり、尚文は彼女に領地管理を任せることを決めた。

出発前の鍛錬とアトラの才能

尚文が出発の準備を進める中、ラフタリアとアトラは鍛錬を行っていた。アトラは見よう見まねで変幻無双流の奥義を習得しようとしており、その才能に周囲は驚愕していた。フォウルもアトラの成長に複雑な表情を見せていたが、尚文はフォウルにアトラの暴走を抑えるように指示した。サディナも鍛錬に加わり、尚文は仲間たちの成長を見守りながら、シルトヴェルトへの出発を決定した。

ラフの成長と今後の展開

フィーロの頭に乗っていたラフちゃんの変化にアトラが気付き、成長を指摘した。尚文が確認すると、ラフちゃんにレベルの概念が導入されており、今後さらに強化できる可能性が見えた。フィーロやガエリオンと並ぶ戦力になることが期待された。尚文は、これ以上村で話をしていても仕方がないと判断し、その日のうちにシルトヴェルトへ入る計画を進めた。ラフタリアを中心に、サディナ、フィーロ、フォウル、アトラを同行者として選び、外交問題に備えつつ、尚文たちは出発することとなった。

三話  シルトヴェルト来訪

獣人たちの迎えと馬車の提供

ポータルで移動すると、尚文たちは近くの村で獣人たちが待機しているのを目にした。彼らは幌馬車の前で辺りを見回しており、尚文に対して久しぶりの挨拶をした。尚文は当初彼らのことを覚えていなかったが、かつて異世界に召喚された直後に勧誘された者たちであると知った。彼らはメルロマルクからの情報を受け、迅速に馬車を用意したとのことだった。尚文はその素早い対応に驚きつつも、道中の護衛については許可しなかった。慎重に馬車を調査した後、罠がないことを確認し、移動を開始した。

馬車での移動とシルトヴェルトへの進行

フィーロが馬車を引き、仲間たちはそれに乗り込んだ。途中までは順調であったが、シルトヴェルトが近づくにつれ、馬車の周囲に人々が増え、まるで大名行列のようになった。尚文はこれを護衛と捉えたが、むしろ逃げ道を塞がれているように感じた。国境は問題なく越えたが、シルトヴェルト軍も加わり、異様なまでの厳重な歓迎態勢が整えられた。町には「熱烈歓迎」と書かれた旗が掲げられ、尚文はこの過剰な歓迎に困惑した。

シルトヴェルトの城への到着

馬車で移動を続け、尚文たちはシルトヴェルトの城に到着した。城の建築は中華風の要素を取り入れつつも西洋風の石造りを加えた独特な構造であった。城下町の様子はメルロマルクと似ているが、森やジャングルのような自然環境が多く、地面も石畳ではなく芝と土が入り交じっていた。武器や食料品の店は充実していたが、全体的に文明レベルは若干低く見えた。尚文は城の威圧的な雰囲気に警戒心を抱きつつ、迎えの獣人の案内で城へと向かった。

シュサク種の代表ヴァルナールとの対面

城の玉座の間では、赤い羽を持つシュサク種の代表ヴァルナールが尚文たちを迎えた。彼は礼儀正しく自己紹介をし、尚文も仲間を順に紹介した。ヴァルナールはアトラとフォウルに視線を向けたため、尚文は彼らがゼルトブルで奴隷となっていた過去を説明し、権力争いには関わらないことを強調した。ヴァルナールはそれを理解し、態度を改めた。

尚文の目的とシルトヴェルトの意向

尚文は、シルトヴェルトの支配を望んでいるわけではなく、ただの通過地点として滞在していることを明確に伝えた。そして、クテンロウへの交易船の手配を依頼し、できるだけ早く国を離れる意向を示した。しかし、ヴァルナールは尚文の誤解を指摘し、まずは長旅の疲れを癒やし、その後夜会に参加するよう促した。尚文はこの申し出に難色を示したが、ヴァルナールは盾の勇者への忠誠を示すための儀式であると説明し、譲らなかった。

滞在の決定と宿泊の手配

尚文は、シルトヴェルトの支配層に取り込まれることを懸念しつつも、交渉のために夜会への参加を受け入れた。しかし、宿泊に関しては尚文だけが特別扱いされることに不満を抱き、アトラが交渉した結果、彼女を隣の部屋にすることが認められた。尚文たちはヴァルナールの案内で客室へと向かい、一時的に休息を取ることとなった。

四話  獣王の盾

尚文の宿泊部屋と仲間たちの待遇

尚文は城の最上階にある見晴らしの良い広い部屋に案内された。一方、ラフタリアたちは王族の指示で使用人用の待機室に案内され、簡素な仮眠室で過ごすこととなった。尚文はこの待遇に不満を抱いたが、交渉を円滑に進めるために一時的に受け入れることにした。ただし、ラフちゃんだけはペットとして傍に置くことを許可させた。フィーロはベッドに飛び乗ろうとして侍女に制止され、尚文はシルトヴェルトの厳格な文化に面倒を感じた。

シルトヴェルトの城下町の観察と盾の発見

尚文はテラスから城下町を眺め、シルトヴェルトの街並みがメルロマルクよりも野性味に溢れ、統一感に欠けることを実感した。大小さまざまな亜人や獣人が行き交い、建物も中華風の要素と木造建築が入り混じる雑多な印象を受けた。そんな中、ラフちゃんが暖炉の上に飾られた盾をじっと見つめていた。それに気づいた尚文は、その盾を手に取ってウェポンコピーを試みた。

獣王の盾の能力

ウェポンコピーにより、「獣王の盾」が解放された。この盾には「獣人の能力上昇(大)」「亜人の能力上昇(大)」の装備ボーナスと、「獣化補助」「領地の改革」というスキルが備わっていた。ただし、「獣化補助」は使用不可となっており、条件が不明であった。さらに、「領地の改革」を試したところ、地図が浮かび上がったが、圏外表示のため村に戻らないと使用できないようだった。尚文はこの盾がシルトヴェルトの信仰と深い関係があることを悟り、後で武器屋を探索することを決めた。

国の重鎮との謁見

尚文は案内に従い、国の重鎮たちが集まる円卓の間へ向かった。そこには大型の獣人や亜人が集まり、彼の到着とともに全員が敬礼し、祈りを捧げた。尚文はこの異様な光景に違和感を覚えたが、まずは自己紹介が行われた。重鎮たちは尚文を「シルトヴェルトの勇者」と称し、他国にいた期間も「遠征」と解釈していた。尚文はその考えに面倒くささを感じながらも、まずは交渉を進めることを決めた。

七星勇者の不在とシルトヴェルトの軍拡計画

尚文はシルトヴェルトの七星勇者の所在を尋ねたが、重鎮たちは視線を逸らし、はっきりとした答えを返さなかった。どうやら霊亀の件の後、さらなる強さを求めて修行の旅に出たらしい。尚文は七星勇者の捜索を命じ、鳳凰が現れるまでには戻るよう指示した。しかし、会議の流れは次第に軍拡の話へと移り、ライオン獣人が「盾の勇者の加護を受け、無敵の軍団を作るべきだ」と宣言した。尚文が止める間もなく、重鎮たちは勝手に話を進め、次の会議へと移ってしまった。

夜会での演説とフィーロの歌

尚文は夜会に出席し、シルトヴェルトの民から過剰な敬意を受けた。そこで彼は、盾のメガホンを利用して演説を行い、「メルロマルクとの和平を乱す意図はない」「世界のために行動することが最優先」と訴えた。この発言は一定の賛同を得たが、ヴァルナールの表情から不満が見え隠れしていた。

その後、尚文はフィーロにステージで歌うよう命じた。フィーロは最初は戸惑ったものの、尚文の後押しを受けて歌い始めた。その歌声は会場に響き渡り、観衆は魅了されて次々とステージ前に集まった。演奏が終わると大きな喝采が巻き起こり、尚文はこの機会を利用して交渉の流れを自分に有利に持っていこうと考えた。

ラフタリアたちとの再会とシルトヴェルトの料理

夜会の後、尚文はラフタリアたちと合流し、状況を確認した。ラフタリアたちはシルトヴェルトの者たちに今までの冒険の経緯を話すよう求められていたようだった。さらに、アトラとサディナが「尚文と肉体関係がある」と冗談交じりに発言し、シルトヴェルトの者たちが警戒したらしい。尚文はその発言に呆れつつも、今後の計画について話し合った。

その後、尚文はシルトヴェルトの料理を試食し、その独特な風味を分析した。料理は野性味が強く、香草の調整が必要と判断したが、村に持ち帰って再現する価値はあると考えた。また、ラタトゥイユに似た料理を発見し、異世界の料理との共通点についてラフタリアと語り合った。ラフタリアは尚文の料理技術の高さに改めて感心し、彼の影響を受けた村の料理人についても話題に上がった。

翌日に向けた準備

尚文は今後の動きを整理し、翌日にはクテンロウへの交易船の斡旋を確実にすることを決意した。夜会を終えてもシルトヴェルトの者たちは彼に過剰な敬意を示し続け、尚文はこの状況が長引かないようにする必要があると感じていた。食事を終え、尚文は慎重に今後の動きを考えながら、その夜を過ごすことにした。

五話  ハーレム

夜会後の入浴と不穏な空気

尚文は夜会を終えた後、案内人に導かれ入浴することになった。ラフちゃんを連れて風呂場へ向かうと、そこは神殿のような造りで湯気が立ち込めていた。城の設備としては豪華で、異世界の文化にも入浴の習慣が根付いていることを再認識した。脱衣所で鎧を外し、浴場へ足を踏み入れると、そこには数人の女性たちが待ち構えていた。

計画された誘惑

湯気の中から現れたのは育ちの良さそうな女性たちで、尚文をもてなすと称して身体を洗うと言い寄ってきた。中にはゼルトブルの奴隷市場で見たような者まで混じっており、その目的が単なる入浴ではないことは明白だった。彼女たちは尚文を取り囲み、魅了しようと試みたが、尚文はこの企みを即座に察知し、距離を取ろうとした。しかし、彼女たちは執拗に迫り、尚文に「選ぶように」と迫ってきた。

恐怖の包囲と脱出

状況は悪化し、浴場内には増援が次々と現れ、尚文の退路を塞いだ。獣人形態の大柄な者まで加わり、尚文を包囲して結界を破壊しようと殴りかかってきた。その執着心に尚文は背筋が凍る思いをしながらも、「流星盾」を展開して対処した。しかし、状況は依然として厳しく、尚文は新たな脱出策を考えざるを得なかった。

ラフちゃんとの合唱魔法

尚文はラフちゃんの魔力を利用し、合唱魔法を試みた。ラフちゃんと共に詠唱を続けると、魔法が発動し、女たちを幻覚に包み込んだ。彼女たちは自らの妄想に囚われ、浴場内で勝手に暴れ始めた。この隙を突いて、尚文は急いで浴場を後にしようとした。

ラフタリアたちの救援と誤解

そこへラフタリアたちが駆けつけた。彼女たちはラフちゃんからの信号を受け取り、救援に来たが、目の前の光景に驚愕した。浴場で悶絶する女性たちを見て、アトラは「先を越された」と錯覚し、フォウルは尚文の行為を誤解した。しかし、尚文はすぐに状況を説明し、合唱魔法による幻覚で彼女たちを混乱させただけだと弁明した。

ヴァルナールの対応と新たな障害

そこへヴァルナールが現れ、騒ぎの収拾に乗り出した。彼は尚文に謝罪し、誘惑は「代々盾の勇者に対して行われる伝統」だったと弁明したが、尚文は激怒した。この状況を利用して交渉を進めることを決め、クテンロウへの船の手配を要求した。しかし、ヴァルナールは「手配には時間がかかる」と返答し、尚文は強い不信感を抱いた。

シルトヴェルトの政治体制と尚文の妥協

ヴァルナールは「盾の勇者がすぐに国を去ると国の権威が揺らぐ」と主張し、尚文の即時出発を阻もうとした。さらに、シルトヴェルトは複数の種族の代表による合議制を採用しており、重要な決定には時間を要するという事実も明かされた。尚文はこの面倒な政治体系に辟易したが、クテンロウに向かう手段を確保するために妥協し、しばらく滞在することを決めた。

寝室の企みと尚文の警戒

尚文は部屋へ戻る途中、ヴァルナールから「風呂の後、寝室にも女性を配置する予定だった」と聞かされた。彼がその企みを事前に防いだことで、未遂に終わったものの、廊下には失望した女性たちがぞろぞろと帰っていく姿があった。この状況に尚文はさらなる警戒を強める必要を感じながら、夜を迎えることとなった。

六話  陰謀

シルトヴェルトの朝と密談

シルトヴェルトの城下町は夜明けを迎えても賑わいが続いていた。尚文は早く目覚めたが、周囲に動きは少なく、監視の気配もなかった。影の護衛はすでにラフタリアやアトラが追い払っていたため、静けさが広がっていた。そこで尚文はこっそりと部屋を出て、隣室の様子を探ることにした。

隣室ではフォウルとアトラが、見知らぬハクコ種の人物と話をしていた。彼はフォウルの両親の配下だった者で、尚文に深々と頭を下げ、フォウルとアトラの保護に感謝の意を伝えた。だが、尚文は過剰な礼を拒み、本題に入ることにした。

シルトヴェルトの内部事情とジャラリスの疑惑

ハクコ種の使いは、シルトヴェルトの支配層が尚文を国外に出さない意向を持っていることを伝えた。彼らは尚文をこの国に留め、様々な手を尽くして利用しようとしていた。また、クテンロウへの船の手配については、まだ情報が掴めていないとのことだった。尚文はこの話が信用に値するかどうかを慎重に見極めたが、シルトヴェルト内の権力闘争が影響を及ぼしていることは明白だった。

さらに、使いは注意すべき人物としてジャラリスの名を挙げた。彼はフォウルの父の最期に立ち会った者であり、何らかの裏がある可能性が示唆された。しかし、会話の途中で使いは足音を聞きつけ、急いで部屋を後にした。

監視の強化と陰謀の予兆

すぐに雌ライオンの獣人が尚文の元へ現れた。彼女は尚文が部屋を出ていたことを咎め、刺客の危険を理由に部屋で待機するよう促した。尚文は表面上これに従ったが、シルトヴェルト内の状況が不穏であることを確信した。ジャラリスの動向を警戒しつつ、尚文は部屋に戻り、次の機会を待つことにした。

朝食の席と異変

尚文は朝食の席に案内された。会場は見晴らしの良いテラスで、多くの重鎮が集まっていた。ラフタリアたちも同席し、互いに状況を確認したが、大きな問題は起きていないようだった。しかし、食事に目を向けた瞬間、尚文とラフタリア、フィーロはすぐに異変を察知した。

食事には毒が仕込まれていた。尚文は表情を変えずに食べるふりをしながら、密かにナプキンへ吐き出し、周囲の反応を観察した。そして立ち上がり、自分と仲間たちに配られたシチューを、重鎮たちに食べるよう命じた。

一部の重鎮は言われるがままに口にしたが、食べなかった者もいた。その瞬間、尚文はアトラに指示を出し、食べなかった者を即座に攻撃させた。その場にいたヴァルナールは驚愕し、尚文が見破った重鎮を叱責した。しかし、尚文はただの処刑で終わらせるつもりはなく、関係者全員を洗い出す意向を示した。

玉座の間での対決とジャラリスの策略

尚文たちは食事を中断し、玉座の間へ移動した。尚文は玉座に座り、毒を盛った重鎮たちを跪かせた。そしてヴァルナールに向かい、クテンロウ行きの手配を求めたが、シルトヴェルトの内乱を理由に拒まれた。

そこへジャラリスが口を開き、尚文に対して「シルトヴェルト専属の勇者として活動すること」を要求した。さらに、各部族から一人ずつ妻を迎え、世継ぎを作ることで不満を解消するべきだと主張した。尚文はこれに激怒し、流星盾を展開しながら、国の上層部の腐敗を糾弾する姿勢を見せた。

ヴァルナールは必死に尚文を宥めようとしたが、ジャラリスは動じず、クテンロウへの船を用意すると申し出た。しかし、尚文は彼の言葉を信用せず、ジャラリスの様子を観察していた。

その時、フィーロがジャラリスの嘘を見抜き、彼が拳を握っていたことを指摘した。ジャラリスは即座に言い逃れようとしたが、尚文とフィーロの追及によって追い詰められていった。

アトラの宣言

その場の緊張が高まる中、アトラが一歩前に出て大々的に宣言した。彼女の発言が、この場の流れを大きく変えることになりそうであった。

七話  真なるシルトヴェルトの民

アトラの宣言とシルトヴェルトの本質

アトラはジャラリスの言葉を受け流しながら、一歩前に出て彼の視線を真っ向から受け止めた。彼女は、自らの血筋と本能がシルトヴェルトの人々が忘れてしまった大切なものを思い出させると断言し、力強い一歩で地面に亀裂を走らせた。その威圧感に、シルトヴェルトの重鎮たちは思わず息を飲んだ。

彼女は、シルトヴェルトが盾の勇者を信仰すると言いながら、その在り方を歪めてしまったことを糾弾した。尚文を招きながら無礼な振る舞いを重ね、村への脅迫まがいの行為を行うことは、シルトヴェルトの建国の理念を自ら踏みにじる行為に他ならないと指摘した。彼女の言葉は鋭く、聴衆の心を揺さぶった。

信仰と忠誠の再確認

アトラはシルトヴェルトの者たちに問いかけた。彼らが持つ爪や牙は、世界を支配するためのものではなく、盾の勇者のためにあるべきだと。ヴァルナールを始めとする重鎮たちはその言葉に強く頷き、次第に彼女の主張に同意する声が広がっていった。

やがてその場に拍手が巻き起こり、シルトヴェルトの者たちは改めて尚文への忠誠を誓った。しかし、その中でジャラリスとその一派だけは明らかに不満げな表情を浮かべ、敵意を隠そうともしなかった。

ジャラリスの反論と決闘の提案

ジャラリスは尚文が「真の盾の勇者ではない」と主張し、信仰の在り方に疑問を投げかけた。彼は尚文が敵国であるメルロマルクに召喚されたことを引き合いに出し、時期尚早である可能性を示唆した。これに対し、アトラは尚文が他の勇者と共に召喚された事実こそが、世界が危機に瀕している証拠であると反論し、彼の理論を否定した。

この議論の末、ジャラリスは尚文の正統性を証明するため、決闘を提案した。決闘の条件として、ジャラリス派が勝利した場合、シルトヴェルトの四家の発言権を撤回し、尚文を国に留めることを要求した。一方で、尚文側が勝てば、シルトヴェルトは勇者の指示に従うことを約束した。

戦いの相手と覚悟

ジャラリスは決闘の相手として、アトラとフォウルを指名した。アトラはこれを受け入れたが、フォウルの実力には若干の不安を抱いていた。しかし、彼女は尚文の許可を得ると、強い意志を持って決闘に挑む決意を固めた。

決闘の場は、前夜に食事をした会場に設けられた。ジャラリス派の戦士として現れたのは、ミノタウロスのような巨大な獣人だった。彼は過去の戦争を生き抜いた英雄とされ、その圧倒的な体格と武器を構えていた。

決戦の幕開け

ジャラリスは尚文を挑発し、決闘の条件を揺さぶろうとした。しかし、尚文はそれを冷静に受け流し、アトラとフォウルに戦いを託した。彼らの勝利がシルトヴェルトの未来を左右することとなる。

決闘の開始を告げる銅鑼の音が、静寂を破って響き渡った。

八話  戦いの矜持

アトラの戦闘開始

アトラが構えを取ると、周囲の空気が張り詰め、風が流れ始めた。ジャラリスとミノタウロスもその異様な気配を感じ取り、一瞬動きを止めた。しかし、ジャラリスはそれを振り払うように、ナックルを手にしてフォウルに襲いかかる。同時にミノタウロスはアトラを狙い、巨大な斧を振り下ろした。ミノタウロスの巨体に似合わぬ素早さに、観衆は息をのんだ。

アトラは斧の一撃を紙一重で避け、衝撃を利用して跳躍した。その動きを見て、ミノタウロスは戦意を高め、さらに力を込める。一方で、フォウルはジャラリスの猛攻を受け、連撃に耐えながら反撃の機会を狙っていた。

フォウルの奮闘

ジャラリスはフォウルを見下し、徹底的に攻め立てた。拳の連打、蹴り、投げ技、さらには魔法を駆使した連撃を繰り出し、フォウルを圧倒しようとした。しかし、フォウルは地面に叩きつけられながらも、素早く反撃の姿勢を取り、次第にジャラリスの動きを見極めていった。

フォウルの肉体は、日々の修行とアトラとの戦いで鍛え抜かれていた。彼はジャラリスの攻撃に耐えながら、じわじわと間合いを詰めていく。やがて、ジャラリスが勝利を確信し、油断を見せた瞬間、フォウルは素早く距離を取ると冷静に構え直した。その姿にジャラリスは苛立ち、さらに攻撃の手を強めた。

アトラとミノタウロスの戦い

ミノタウロスは斧を駆使し、アトラに猛攻を仕掛けた。しかし、アトラはその攻撃をすべて流れるように受け流し、無駄な動きを一切せずに立ち回った。その様子を見たミノタウロスは驚きを隠せず、ついに本気を出すことを決意した。

彼の体に魔力の紋様が浮かび上がり、筋肉が膨れ上がる。まるでフィーロの「プチクイック」のように体に魔力を巡らせ、戦闘能力を向上させた。しかし、アトラもそれを観察し、即座に同様の技術を再現した。その結果、戦いはさらに激しさを増し、両者は超高速の動きで応酬を繰り広げた。

フォウルの逆襲

フォウルはジャラリスの攻撃を受けながらも、決して諦めなかった。ジャラリスは武器を隠し持ち、剣や暗器を駆使してフォウルを追い詰めようとしたが、フォウルはすべての攻撃を耐え抜いた。毒を仕込まれた攻撃を受けても動じず、ジャラリスの手段が尽きるまで耐え抜いた。

そして、ついにフォウルは拳に力を込め、「滅虎拳」を放った。その一撃はジャラリスを吹き飛ばし、壁に叩きつけるほどの威力を持っていた。ジャラリスは鼻血を流しながら立ち上がったが、動きは鈍り、余裕の表情は消えていた。

アトラの決着

ミノタウロスは最後の奥義「剛牛突」を繰り出し、斧を猛牛のような魔力の塊に変えて突撃した。しかし、アトラはその攻撃を冷静に迎え撃ち、猛牛の眉間に指を突き立てた。さらに、彼女は「変幻無双流」の技を応用し、凝縮した魔力を流し込んだ。

猛牛の魔力が暴走し、ミノタウロスの体に衝撃が走る。彼は最後の力を振り絞ろうとしたが、すでに戦意は尽きていた。「見事……」という言葉を残し、ミノタウロスは倒れた。観衆はアトラの勝利を称え、彼女の実力を認める空気が広がった。

決闘の結果とジャラリスの執念

ヴァルナールやゲンム種の翁は、アトラの力を認め、彼女の勝利を讃えた。シルトヴェルトの戦士の中でも彼女が最強の一角であることが証明され、彼女の立場は確固たるものとなった。

しかし、その場にジャラリスの声が響いた。彼はボロボロになりながらも立ち上がり、「まだ俺は負けていない……」と執念を見せた。

九話  獣化

ジャラリスのドーピング

フォウルが決着をつけようとした瞬間、ジャラリスは懐から薬品のアンプルを取り出し、一気に飲み干した。すると、彼の体に変化が現れ、脈動とともに傷が癒えていった。ヴァルナールとゲンム種の翁は、その行為が無意味であることを指摘したが、ジャラリスは聞く耳を持たなかった。彼は「勇者の時代は終わり、自らが神となる」と豪語し、体が膨れ上がり、四つん這いの巨大なライオンの姿へと変貌した。

ヴァルナールはこれを「シルトヴェルトに伝わる獣化の更なる先」と称したが、明らかに薬の影響による異常な変化であった。ジャラリスは己の力を誇示し、「盾の勇者など不要だ」と叫んだが、フォウルは冷静に「力を得て調子に乗っているだけだ」と一蹴した。

ジャラリスの猛攻とフォウルの窮地

ジャラリスはその巨体を活かし、超高速でフォウルへと襲いかかった。ヴァルナールたちはその速度についていけず、一般の戦士では到底対応できないレベルであった。ジャラリスの前足の一撃を受けたフォウルは吹き飛ばされ、立て続けに攻撃を浴びた。圧倒的な力の差により、防戦一方となり、次第に追い詰められていった。

ジャラリスはさらに追撃を仕掛け、フォウルの父が「味方を守るために無謀に戦った愚か者」であると嘲笑し、自らが彼を不意打ちで殺したことを暴露した。その発言にフォウルは激昂し、ジャラリスへの憎しみを露わにした。ジャラリスはフォウルを嘲るように勝利を確信し、トドメを刺そうとした。

獣化するフォウル

ジャラリスの攻撃が迫る中、フォウルの体にも異変が生じた。彼の全身が脈動し、白い光を帯びながら膨れ上がっていく。サディナはこれを「獣人としての本来の力の覚醒」と指摘し、フォウルはついに完全な獣人形態へと変化した。

白虎の姿となったフォウルは、ジャラリスの攻撃を受け止め、反撃の蹴りを繰り出した。その一撃はジャラリスの顔面を捉え、彼の巨体を大きく揺るがせた。ジャラリスも応戦しようとしたが、フォウルの動きは先ほどとは別次元の速さとなっており、戦況が逆転し始めた。

ジャラリスの暴走と共食い

劣勢に立たされたジャラリスは、さらなる力を求めて暴走を始めた。周囲に倒れた獣人たちの肉を貪り始め、体の一部が触手となって獣人たちを吸収し始めた。その異様な光景に、フォウルや仲間たちは戦慄し、シルトヴェルトの戦士たちも恐怖に駆られた。

ジャラリスは吸収した肉体を取り込みながら、さらなる異形へと変貌した。彼は「自分こそが至高の存在だ」と豪語し、触手を伸ばして襲い掛かってきた。しかし、ラフタリアたちは冷静に迎撃し、ジャラリスの動きを封じようとした。

フォウルの決着

フォウルはジャラリスを倒すべく、盾の勇者の力を借りる決意を固めた。尚文がスキルを発動し、フォウルに神聖な加護を与えると、彼の体はさらに強化され、白虎の姿がより神々しいものへと変化した。

ジャラリスが突撃してくると、フォウルはアトラと共に「猛虎暴君撃」という伝説の技を発動し、ジャラリスを貫いた。ジャラリスの体は光に包まれ、内部から爆発するように弾け飛んだ。戦いの決着がつき、フォウルは父の仇を討ったのだった。

戦後の評価とシルトヴェルトの変化

フォウルとアトラの勝利が宣言され、シルトヴェルトの戦士たちは彼らを正式に認めることとなった。ヴァルナールは「汚れた血」と評したことを撤回し、彼らをシルトヴェルトの誇りある戦士として称えた。

フォウルは初めて自らの役割を見つめ直し、アトラも尚文の臣下としての立場を貫いた。戦いの後、ジャラリスが使用していた薬や反乱の背後関係を調査した結果、何者かが裏で糸を引いていたことが判明した。しかし、その首謀者はジャラリスの敗北とともに姿を消し、謎を残したまま事件は幕を閉じた。

十話  勇者の配置

シルトヴェルトの支援と帰還

シルトヴェルトの全面支援を受けた尚文たちは、クテンロウへ向かう船に乗り、途中で東の国の港に寄港した。その際、ポータルを設置し、一度村へ戻ることとなった。村ではイミアや住民たちが尚文の帰還を出迎えた。セインの使い魔が村へ情報を伝えていたため、村の者たちは大まかな状況を把握していた。

村ではクテンロウからの刺客による襲撃が数回あったが、シルトヴェルト側の警護により被害は抑えられていた。さらに、剣の勇者と弓の勇者の活躍により、敵の勢力は退けられていた。しかし、襲撃の頻度は次第に減少しており、敵側も慎重になっている様子であった。

勇者たちの再会と状況の整理

尚文の帰還を聞いた錬と樹、リーシアが村へ戻り、戦況について話し合いが行われた。錬は「自分たちがいたほうがよかったか」と問うたが、尚文は「むしろ余計にこじれていた可能性が高い」と断じた。シルトヴェルトの重鎮たちは他国の勇者に対して懐疑的であり、特に剣の勇者や弓の勇者との関係が悪化すれば、交渉どころではなかっただろう。

アトラは絶妙なタイミングで自らの活躍を主張し、否定できない事実に尚文は複雑な表情を見せた。フォウルも悔しがったが、結果として彼女の行動が問題を解決したことは明らかであった。

クテンロウへの入国は順調に進めば二日後となるが、尚文は「一波乱ありそうだ」と警戒していた。

武器屋の親父の同行要請

そこへ、武器屋の親父がトーリィとともに村を訪れた。彼は尚文たちの動向を知るために店を休み、直接様子を見に来たという。そして、自らの師匠がクテンロウの武器職人である可能性が高いと述べ、その真相を確かめるため同行を求めた。尚文は危険性を指摘したが、親父は「自分の腕に覚えがある」と主張した。

錬やラフタリアも、親父の剣の技術を評価しており、彼の戦闘能力には一定の信頼が置けると判断された。親父の冒険者としての経験と、現在のレベルを考慮した結果、尚文は同行を許可することにした。ただし、「無茶をせず、尚文から離れない」ことを条件とした。

戦力の配置と今後の方針

尚文は村の防衛を優先し、錬には村と町の守備を任せることにした。村にはクテンロウの刺客が潜んでいる可能性があり、強力な戦力を残しておく必要があった。錬は船上戦闘には向かないため、村に留まることが最適であった。

樹については、船上戦闘でも遠距離攻撃が可能なため、クテンロウへの同行が決まった。リーシアもその補佐として同行することとなった。

さらに、サディナの提案で、ガエリオンも同行させることになった。水竜の存在を感知できる可能性があるため、戦略的に有用であると判断された。尚文は「これで大人数の遠征になりそうだ」と考えながら、翌朝の出発に向けて準備を進めるよう指示を出した。

十一話  問題のある名工

クテンロウへの航海

尚文たちを乗せた船は、シルトヴェルトの船員を乗せて出港した。樹の乗船時に一部の船員が警戒を示したものの、尚文の一睨みで静かになった。夕方になると、フィーロとラフちゃんが船の先端でポーズを取るなど、落ち着きのない様子を見せていた。

船には、クテンロウへの進入を助けるとされるランタンが吊るされており、ヴァルナールやゲンム種の翁の説明によると、この光を辿れば荒れ狂う海域を突破できるとのことであった。フォウルは船酔いに苦しみ、戦闘時の勇姿とは程遠い状態であった。サディナは船の周囲に発生する渦潮を指し、この海域が外へ出るのは容易いが、内へ入るのは困難であることを説明した。

武器屋の親父の過去

武器屋の親父は、過去に各地を巡りながら鍛冶を学んでいたが、ある武器屋で目にした刀剣に惹かれ、その鍛冶師に弟子入りしたという。師匠は腕前こそ一流であったが、女癖が悪く、金遣いも荒かった。最終的には、置き手紙を残して姿を消し、親父はその後、師匠が残した借金返済に追われることになった。

今回の旅に同行した理由は、クテンロウで師匠の痕跡を探し、尚文たちの敵が使用する武器が彼の作品である可能性を確かめるためであった。尚文はこの話を聞き、親父の目的を理解し、協力することを決めた。

敵の襲撃

夜になると、霧に包まれた海域を航行する船が突如として揺れ、ヴァルナールが敵襲を知らせた。すでに樹たちが甲板で応戦しており、尚文たちも戦闘に加わることになった。

甲板では、シャチ獣人や河童のような敵が現れ、シルトヴェルトの戦士たちと激しい戦いを繰り広げていた。尚文は流星盾を展開し、サディナは雷の魔法を放ったが、敵も熟練の戦士らしく、巧みに攻撃をかわしていた。アトラとフォウルは連携して敵を圧倒し、ラフタリアの刀もその鋭さを増していた。

武器屋の親父は、敵が持つ刀を見て、それが自身の師匠の作品であると確信した。敵を問い詰めようとしたが、相手は自爆して情報を残さずに散った。戦闘の末、敵は撤退を始め、シルトヴェルトの戦士たちが追撃しようとしたが、サディナの警告によって断念した。

突如として起こる異変

戦闘が終息に向かう中、ガエリオンが警戒の鳴き声を上げた。直後、何かが船の甲板を正確に抉り取り、海へと引きずり込んだ。尚文とラフタリアは避けようとしたが、強風に巻き込まれ、渦潮へと落ちた。

サディナとガエリオンも後を追い、アトラも助けに向かおうとしたが、フォウルが彼女の手を掴んで引き止めた。リーシアやフィーロ、樹、武器屋の親父が必死に呼びかける中、尚文たちは竜巻に飲み込まれ、意識を失っていった。

十二話  水竜の斡旋

水竜の隠れ家

尚文は意識を取り戻し、ラフタリアと共に洞窟内にいることに気づいた。サディナとガエリオンがそばにおり、ここが水竜の隠れ家であると説明された。洞窟の奥には祭壇があり、水晶玉のようなものが安置されていた。ガエリオンはそれを「竜帝の欠片」と呼び、水竜が彼に向けた置き手紙のようなものだと推測した。

水晶玉から光が放たれ、ガエリオンに取り込まれたことで、水系統の耐性が強化された。さらに、水竜は国の監視者であり、クテンロウの結界を維持している存在であることが明らかになった。この結界は無垢の魂のみを通し、侵入を防ぐ役割を果たしていた。

クテンロウの秘密と精霊具の調停者

水竜はシルトヴェルトの船ではクテンロウに入ることができないよう結界を操作していた。そこで、水竜は尚文たちを強引に洞窟へ招き入れ、クテンロウへ潜入する手助けをする意図があった。加えて、水竜はクテンロウの国の在り方に疑問を抱き、尚文たちに国の本来の役割を果たさせようとしていた。

さらに、ガエリオンによると、ラフタリアの一族は「精霊具の調停者」と呼ばれる立場にあり、勇者の力を制御する役割を担っていた可能性が示唆された。しかし、長い年月の中でその歴史は失われ、クテンロウの鎖国によって知識も風化していた。

脱出と潜入

尚文たちは水竜の指示に従い、洞窟を脱出することになった。サディナが先行し、水中経由で外へ出られる道を発見した。ガエリオンは水中適応能力を得ており、尚文たちはサディナに掴まって水路を抜けた。

海面に出ると、近くには和風の景色が広がる陸地が見えた。港町も確認でき、帆船ではなく弁才船が並ぶ様子が異世界的であった。町へ潜入するために、水竜が用意した衣服に着替え、尚文は頭巾で顔を隠した。ラフタリアは耳と尻尾を見せないよう注意を受け、サディナも身分を隠すために薄布を纏った。

港町での異変

尚文たちは港町へ向かい、途中でラフタリアの先祖が倒した魔物を祀る遺跡を通った。尚文は封印されている可能性を警戒したが、サディナは問題ないと断言した。町に到着すると、和風の建物が立ち並び、桜光樹という発光する樹木がエネルギー源として利用されていた。

町の雰囲気には緊張感が漂い、住民たちは何かを警戒している様子だった。尚文が掲示板を確認しようとした矢先、子供が魔物に襲われた。尚文は反射的に庇い、ガエリオンが魔物を倒したが、それを見た役人たちが即座に駆けつけ、魔物の殺害を咎めた。

サディナが水竜の眷属であることを示すしめ縄を見せると、役人たちは態度を変えて立ち去った。周囲の住民は尚文たちを称賛したが、サディナはこの場所に留まるのは危険と判断し、すぐに移動を提案した。

不審な男との遭遇

移動中、ラフタリアは野次馬の一人とぶつかった。男は三十代後半に見え、犬のような耳を持つ亜人だった。男は馴れ馴れしくラフタリアに声をかけ、茶や団子に誘った。尚文が間に入って拒絶したものの、男はさらにサディナに言い寄った。

サディナは男の手を握り、雷の魔法を流し込んで感電させた。男は黒焦げになって倒れたが、周囲の役人は特に咎める様子もなかった。尚文たちは不審に思いながらも、港町の灯台を目指して移動を続けた。

十三話  クテンロウ革命派

生類憐れみの令のような法律

尚文たちは、民間人を助けるために魔物を倒したにもかかわらず、役人から咎められそうになった。その原因は、クテンロウの統治者「天命」が発布した法律にあった。それは、生き物を大切にすることを義務づけ、魔物や動物を殺した者には重い罰を課すというものだった。尚文は、この法がかつて自身の世界で制定された「生類憐れみの令」と似たものであると気づく。

この法律のため、クテンロウの住民は魔物を倒せず、街の安全すら脅かされていた。しかし、尚文たちは水竜の眷属として認められたことで、法の適用外とされた。ガエリオンが魔物を討伐したことで、罰を免れることができたのである。

国の転覆の可能性

ラフタリアがこの国の正統な血を引いていることを考えると、天命の座に就く可能性もあり、それを危惧する国の重鎮たちが彼女を狙っているのは明白だった。尚文は、この法律が新しいものであり、国民の不満が高まっていることから、うまく立ち回ればクテンロウの転覆も可能であると考えた。

しかし、まずはフィーロや樹たちの乗る船を迎え入れるため、結界を解除する必要があった。灯台を目指し、尚文たちは慎重に行動を開始した。

鎧武者の接触

尚文たちが灯台へと近づくと、鎧武者が慌ただしく走ってくるのを目撃した。役人が通報した可能性を考え、尚文たちは撤退しつつ、ラフタリアの隠蔽魔法を使って姿を消した。しかし、鎧武者は尚文たちの姿を見失うと、突然その場で土下座をし、敵意がないことを示した。

その様子を観察した結果、鎧武者は明らかに悪意を持っていないと判断された。尚文たちは姿を現し、話を聞くことにした。

鎧武者の提案

鎧武者は、自らをラルヴァと名乗り、クテンロウの町長の息子であると述べた。彼は、水竜の密偵からラフタリアが国に入ったことを知らされ、迎えに来たのだった。ラルヴァによれば、天命の命令による悪法により国民の不満が高まり、クテンロウは混乱の中にあった。彼は、ラフタリアを旗頭に据えて革命を起こす計画を持ちかけてきた。

また、ラルヴァたちは、シルトヴェルトからの船を阻んでいる結界が、最近になって役人によって強引に設置されたものであることを伝えた。尚文は、この情報を利用し、国の体制を崩す計画を立てることを決意した。

ラフタリアの巫女服と決起

ラルヴァは、かつて水竜が天命に授けたとされる巫女服の模倣品をラフタリアに渡した。この衣装には、水耐性や魔力防御の効果があり、巫女としての象徴的な意味合いも持っていた。

尚文は、ラフタリアにこの服を着せることで、民衆の支持を得やすくなると考えた。着替えを終えたラフタリアが姿を現すと、屋敷に集まった者たちは彼女に対し、敬意を表して土下座した。

尚文は、これを好機と捉え、クテンロウの民を鼓舞し、天命の横暴を打倒する戦いへと導いた。ラフタリアのために戦うと決意した者たちは歓声を上げ、革命の機運が一気に高まった。

戦いの始まり

尚文は、まずシルトヴェルトの船が入港できるようにするため、灯台の桜光樹にアクセスし、結界を解除する計画を立てた。そのためには、役人たちを排除する必要があった。

決起した者たちの勢いに乗り、尚文はクテンロウの支配を覆すための作戦を開始した。今度は尚文自身が、国家を動かす側となる番だった。

十四話  桜天命石

灯台への突入

尚文たちは武家屋敷を出発し、ラルヴァたちと共に灯台へと向かった。正面突破を試みた彼らに、天命の名の下に政府が占有している神聖な地だと衛兵が叫ぶ。しかし、ラルヴァはラフタリアこそが真の天命であり、現天命は分家の偽物だと主張し、巫女服姿のラフタリアを示した。

亜人や獣人の兵士たちは動揺するが、上官のカエル獣人が冷静に命じ、精霊具所持者に対抗できる武器を使うよう指示を出した。敵兵たちは攻撃を開始し、尚文は流星盾で迎え撃つも、敵の武器によって盾が砕かれた。しかし、彼は事前にシルトヴェルトで用意していた錬金術を活かし、破片が閃光を放つ仕掛けを作っていた。

この閃光により敵が怯んだ隙を突き、ラフタリアが迅速に刀を振るって敵を斬り伏せ、前進した。

クテンロウの流派と戦技

戦闘の中で、ラルヴァとその息子も刀を抜き、敵兵を次々と討ち倒していく。彼らの動きにラフタリアは興味を抱き、サディナはラルヴァの技が「クテンオウカ流」であると説明した。ラフタリアが使用する「細雪」という技とも似ており、習得すればさらに強くなる可能性があった。

クマ獣人の指揮官が登場し、十字槍を構えて戦場に立つ。彼は天命の祝福を受けていると豪語し、桜色の檻のような結界を展開した。これにより、精霊具所持者の力は弱まり、天命の加護を受けた者の能力が極限まで引き上げられるという。

戦力低下と不利な状況

桜天命石の影響で、尚文たちの能力は著しく低下した。盾がスパークし、ラフタリアも身体の重さを感じ取った。サディナによると、尚文の加護が失われた影響が大きいという。

クマ獣人の力は圧倒的で、十字槍の一振りで辺りの地面を寸断し、爆発させるほどだった。尚文は勇者魔法を試すが、ツヴァイト・オーラは発動せず、ツヴァイト・ガードのみが機能した。勇者の専用魔法が封じられたことで、戦闘はさらに厳しくなった。

魔法の反射と突破口

ラフタリアと尚文は協力し、襲いかかる敵を迎え撃つ。敵兵が放った水と岩の魔法を、尚文は盾で弾き、クマ獣人の方向へと跳ね返した。さらに、サディナが雷撃を放ち、ガエリオンもブレスを撃つことでクマ獣人を追い詰める。

しかし、クマ獣人は「アストラルエンチャント」を発動し、仲間の能力を全て自身に付与することでさらなる力を得た。その結果、彼は圧倒的な速度と破壊力を持つ存在へと変貌した。

桜光樹へのアクセスと結界の解除

尚文は盾の防御を活かし、クマ獣人の猛攻を受け止める。その間にラフタリアは「天命剣」を発動し、桜光樹に向けて技を放った。これにより、桜光樹に刻まれた紋様が浮かび上がる。

サディナの指示でガエリオンが桜光樹に接触すると、しめ縄が光り、クマ獣人の強化が霧散していった。同時に、シルトヴェルトの船を妨害していた結界が解除され、外界との行き来が可能になった。

戦局の変化

敵の強化が解除されたことで、尚文たちは反撃の機をうかがう。そこへ、背後から何者かが投げた物が飛んできた。尚文がそれを受け止めた瞬間、盾が再びスパークした。

十五話  桜陣結界

桜天命石の盾の獲得

尚文は桜天命石の盾をウェポンコピーによって解放した。この盾は陰陽の形をした球体に桜の装飾が施され、中央には彼の盾と同じような宝石が埋め込まれていた。桜の花弁が浮かび上がるその宝石には魔法的な力が秘められているようだった。

装備ボーナスの「精霊拘束限定解除」により、勇者の武器の封印が一部解除され、スキルや魔法、成長補正などを選択できるようになった。盾がスパークし、力が湧き上がるのを感じたが、能力が未解放のため、他の盾への切り替えは不可能だった。

戦況の変化と支援者の登場

その時、尚文たちに武器を投げ渡す者が現れた。それは以前ラフタリアに声をかけていた男であり、クマ獣人も驚きを隠せなかった。彼は尚文たちに武器を渡し、桜天命石の結界内でも能力を強化できると説明した。尚文は受け取った盾を手近な仲間に渡し、戦力を回復させた。

クマ獣人は男の行動を「裏切り」と断じ、怒りを露わにしたが、男は飄々とした態度を崩さず、「どちらの天命を信仰するかと問われたら、美少女に決まっている」と堂々と宣言した。周囲はその発言に沈黙し、尚文は呆れつつも、提供された武器によって戦局が好転したことを確認した。

クマ獣人との決戦

クマ獣人は激昂し、ラフタリアと男に突進しようとしたが、尚文が盾を構えて迎え撃った。試しにエアストシールドを発動すると、今まで封じられていたスキルが機能することを確認できた。スキルの効果は依然として弱かったが、徐々に戦闘の主導権を取り戻しつつあった。

尚文はさらに複数の盾を展開し、クマ獣人の動きを封じた。これに呼応するようにラルヴァたちが一斉に攻撃を仕掛け、能力低下や氷の魔法で拘束を試みた。敵は仲間の力を自身に集約していたため、援護を受けることができず、明らかに動きが鈍くなっていた。

尚文はラフタリアに、能力が上昇した相手に有効な技が使えるかを確認した。彼女はアトラとの訓練の成果を活かし、攻撃の準備に入った。尚文もサディナと共に合唱魔法の詠唱を開始し、ガエリオンも支援に加わった。

雷神降臨とラフタリアの一撃

クマ獣人はラフタリアと男を槍で狙い、猛然と突撃してきた。尚文は流星盾を展開して迎撃し、敵を弾き飛ばして僅かな隙を作った。そして、詠唱を終えた合唱魔法「雷神降臨」をラフタリアに付与した。彼女は刀を構え、変幻無双流の技でクマ獣人の防御を突破した。

しかし、クマ獣人は依然として立ち上がり、雷撃を浴びながらも戦意を失わなかった。サディナはナンパ男から受け取った槍に雷を纏わせ、「雷撃銛」で追撃した。これによりクマ獣人は大きなダメージを受け、身体を痺れさせながらもラフタリアに槍を向けた。

尚文は新たに獲得したスキル「桜陣結界」を発動し、足元に桜の魔法陣を展開した。最初は変化が見られなかったが、アタックサポートを使用すると桜の花びらが敵に絡みつき、拘束効果を発揮した。ラフタリアはこの機を逃さず、桜神楽一ノ型・開花を発動し、クマ獣人を斬り裂いた。

決着と勝利宣言

クマ獣人は致命傷を負いながらもなお抵抗し、最後の力で槍を振り下ろそうとした。しかし、尚文がそれを受け止めた瞬間、盾の「桜力光」が発動し、彼の力をさらに引き上げた。ラフタリアは即座に次の一撃の準備に入り、居合斬りの構えを取った。

サディナとガエリオンは合唱魔法「水竜桜光滅波」を発動し、クマ獣人を水の竜巻で包み込んだ。その隙にラフタリアは太極陣・天命斬を放ち、クマ獣人の力の源を断ち切った。彼は一瞬安堵したが、陰陽の紋様が身体に浮かび上がり、自らの力が暴走するのを感じた。

ラフタリアは彼に対し、与えられた力が自らの力と相反し、自壊することを告げた。数秒後、クマ獣人の体から桜の光が散り、彼の力は完全に消失した。もはや立ち上がることすらできず、彼は槍を杖のようにして倒れ込んだ。

それでもなお尚文たちを罵り続けたが、尚文は政府を転覆させると宣言し、戦いに勝利したことを確信した。直後、仲間たちが歓声を上げ、政府への反撃が成功したことを祝った。戦いは終わったが、尚文はこの先に待ち受ける更なる強敵に思いを巡らせた。

エピローグ  武器屋の親父の師匠

戦勝会とナンパ男の介入

ラフタリアの勝利を祝うべく、ナンパ男が近づいたが、尚文は流星盾を展開してこれを遮った。彼の軽薄な態度に苛立ちを覚えた尚文は、サディナを紹介し、好きにするよう促した。サディナは軽く流しつつ、戦勝会の開始を宣言し、酒を求めた。周囲の者たちは彼女の奔放さに笑いながら、宴の準備を進めた。

一方で、ナンパ男はしつこくラフタリアとサディナに絡んでいたため、尚文はシールドプリズンで彼を封じ込めた。サディナは冗談めかして尚文の嫉妬を煽ったが、彼は適当に返して受け流した。最終的に、戦勝会のために皆を迎えに行くことが決まり、宴の準備が進められた。

クテンロウの港町の掌握

尚文たちはクテンロウの港町へ向かい、政府の看板が撤去されたことを確認した。巫女服姿のラフタリアを先頭に進むと、クテンロウの民衆は彼女の姿に敬意を払い、深く頭を下げた。政府に従っていた者たちは身を潜め、逆に反旗を翻す者たちが港町へ集結しつつあった。

港ではシルトヴェルトの交易船が入港し、フィーロやラフちゃんが尚文たちと再会した。フィーロは尚文の無事を喜び、アトラやフォウルもそれに続いた。リーシアと樹も船から降り、クテンロウでの状況を確認した。尚文は、ポータルが使えないことを伝え、今後の戦略について話し合った。

ナンパ男の正体と武器屋の師匠

その時、ナンパ男が憤慨しながら尚文に詰め寄った。しかし、武器屋の親父が彼の姿を見て驚き、彼が自分の師匠であることを明かした。ナンパ男はエルハルトの師匠であり、かつて女好きで遊び回った挙句、借金を残して姿を消した鍛冶師だった。

彼は元々クテンロウの出身で、親の死後、政府に従いながら武器を作っていたが、現在の政権には不満を持っていた。尚文たちに協力したのも、個人的な考えがあったためだった。

尚文の怒りと鍛冶師の拘束

ナンパ男は尚文たちの女性陣にも次々と声をかけ、アトラやフィーロにも興味を示した。しかし、尚文はこれを強く拒絶し、アトラが彼を突き飛ばした。フォウルも攻撃を仕掛けたが、ナンパ男は巧みに避けた。

エルハルトは、尚文の機嫌を取るためにナンパ男を鍛冶師として働かせるよう提案した。ナンパ男は渋ったが、エルハルトが巧みに話を誘導し、最終的に彼を味方に引き込んだ。しかし、エルハルトはすぐに彼を縄で縛り、未払いの借金を清算させるために連行した。

クテンロウ攻略の第一歩

尚文は、この鍛冶師がクテンロウの政府を打倒するための鍵になると考えつつも、その扱いに頭を悩ませた。戦力としては頼もしいが、問題を起こしかねない存在でもあった。

ラフタリアは、尚文の家族や日本での話を聞きたがったが、彼は異世界の者たちには理解しがたいと考えた。アトラは尚文の過去に興味津々だったが、その執着ぶりはストーカーのようにも見えた。

クテンロウの街には桜光樹の花びらが舞い、尚文はその美しさに、日本の春を思い出していた。彼はこの戦いが終われば日本に帰れると信じ、残る厄介な問題を乗り越える決意を固めた。

同シリーズ

盾の勇者の成り上がり

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こも

いつクビになるかビクビクと怯えている会社員(営業)。 自身が無能だと自覚しおり、最近の不安定な情勢でウツ状態になりました。

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